平成23年度研究開発実施報告書(PDF:4378KB)

戦略的創造研究推進事業
(社会技術研究開発)
平成23年度研究開発実施報告書
研究開発プログラム
「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
研究開発プロジェクト
「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合
的活用政策及びその事業化研究 」
飯田哲也
(NPO法人環境エネルギー政策研究所、所長)
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
1.研究開発プロジェクト名
地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化
研究
2.研究開発実施の要約
① 研究開発目標
本研究は、「エネルギー消費地」としての都市と「再生可能エネルギー生産地」とし
ての地域の特徴を相補的に生かし、大都市の再生可能エネルギー需要の拡大に連動させ
て、地域マネーを活用した再生可能エネルギー供給の拡大により、都市における大幅な
CO2削減と地域経済の活性化・雇用拡大を同時に達成する新たな政策とその事業化モデ
ルを開発することを目標とする。また、実際に風力発電のモデルケースを実現し、東京
都内の特定地域のCO2を80%削減しうる社会モデルの構築を目指す。
②実施項目および実施内容
【プロジェクト全体統括】…p4
・地域間連携制度構築支援
・統合事業化モデル構築
・統合研究会、ワークショップおよびフォーラムの開催
【再生可能エネルギー供給ポテンシャル調査】…p5
・再生可能エネルギー供給ポテンシャル調査
・他地域への政策展開サポート
・再生可能エネルギー供給ポテンシャルデータベースの活用法検討
【金融ポテンシャル調査】…p6
・金融ポテンシャル調査
・地域再生可能エネルギー生産事業金融スキームの調査と体系化
・事業及び金融を支える広義の社会的ネットワークの掘り起こし
【再生可能エネルギー開発アクター調査】…p6
・地域密着型再生可能エネルギー事業の課題抽出
・再生可能エネルギー事業ガイドライン
・ステークホルダミーティング調査
③主な結果
平成23年度は、各研究グループの成果を統合し、地域における再生可能エネルギー
事業の確立に向けた具体的な検討に入った。各研究グループが受け持つそれぞれの研
究項目についてより詳細かつ実践的な項目において調査及び検討を行い、以下の結果
を得た。
【プロジェクト全体統括】…p7
統合事業化モデルおける新規性のあるインセンティブの構築のため、再生可能エネ
ルギーの環境付加価値を取引可能とするスキームを中心に事業化検討の状況を引き
続き調査した。ただし、2011年3月11に発生した東日本大震災などの影響により、東
1
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
京都内の企業の節電や省エネが急速に進み、排出量取引制度を前提とした地域間連携
のモデルについては見直しを迫られている。一方、原子力発電の事故に伴うエネルギ
ー政策の大幅な見直しや2011月8月に成立した再生可能エネルギーの全量・全種の固
定価格買取制度を踏まえ、各地域で新たに始まった地域主体の再生可能エネルギー事
業について新たなモデルづくりについても調査対象とした。
2010年に引き続き、2011年秋に秋田市にて開催したフォーラムでは地域での主体
形成や金融機関の参画についてより具体的な議論が行われた。その後、秋田県での風
の王国プロジェクトについては、事業主体の形成が行われ、大潟村などでの計画が進
められている。そのほか、秋田県内では関東地方の生活協同組合や民間企業との事業
が現行制度で可能な地域間連携のモデルとして具体的に進められている。さらに、環
境省の平成23年度の再生可能エネルギーに関する「地域推進体制構築支援事業」では、
全国7地域で協議会が組織され、地域主体の事業化検討が行われ、全国的な支援組織
として「一般社団法人 日本再生可能エネルギー協会」(ISEP事務局)による支援が行
われ、人材育成や支援組織の重要性が再認識されたが、多くの課題も抽出された。
さらに、東日本大震災の被災地支援の取り組みとして、個人や企業の寄付に基づく
自然エネルギー導入による支援「つながり・ぬくもりプロジェクト」が2011年5月か
ら実施され、多くの環境NGOや現地の団体・個人が参加する被災地支援モデルを構
築している。
【再生可能エネルギー供給ポテンシャル調査】…p11
東京都と北日本地域の市町村ごとに、再生可能エネルギー(風力、太陽光、中・小
水力、地熱、バイオマス)のポテンシャルを把握した。さらに、秋田県に関して、算
出条件を変化させて風力エネルギーポテンシャルの分析を行った。さらに事業評価ツ
ール(RETScreen)等を用いた事業性評価に基づく地域での事業化の可能性評価に取
り組んだ。
CO2削減量は、すでに把握している北東北の再生可能エネルギーポテンシャルのう
ち、実際に実現可能な地域エネルギー事業の規模と、地域間連携を行う大都市(東京
都)側の再生可能エネルギー需要により決まってくる。再生可能エネルギーのポテン
シャルの推計結果としては、北東北での再生可能エネルギー電力により北東北全域の
電力需要を賄った上で、さらに東京都の電力需要を全て賄うだけのポテンシャルがあ
る。東北地方の豊富な再生可能エネルギーポテンシャルを生かした「東北復興エネル
ギー戦略」を策定し、政策・制度面を含めた提言を行った。
【地域金融ポテンシャル調査】…p14
地域ファイナンスの与信力を補完するために必要な信用保証制度の現状の問題と
して、(1)リスク評価のカベ、(2)融資金額のカベ、(3)融資期間のカベがあることが明
確になった。このようなカベを乗り越えるための方策として、FITの施行にあわせて
政府あるいは日本政策金融公庫レベルでの対応が必要であり、また自治体と日本政策
金融公庫との連携による制度構築が不可欠であるとの洞察が得られた。また、発電事
業の事業性と地域性のジレンマを克服するための検討材料として、自治体風車への調
査を行い、計量データを得た。また震災後、従来の市民風車からソーシャルビジネス
へと展開する動きが出てきている状況を把握した。さらに、北海道、青森県、秋田県、
福島県において再エネ事業の地元の萌芽的な取り組みの場に参与し、事業化支援への
足がかりを得た。
2
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
【再生可能エネルギーアクターネットワーク調査】…p18
東日本大震災後のエネルギー技術への選好について調査し、メディアでの報道など
社会全体としては自然エネルギーへの期待が高まっていることを確認した。その一方
で風力発電を中心として、環境影響などに対する懸念も存在し、地域レベルでの受容
性は積極的推進と抵抗という二極に分化している可能性があることが明らかになっ
た。懸念の多くは環境影響を理由としているが、利害構造が単なるリスク受容となっ
ていることが問題である。この構造を解消するためには地域主体型の事業モデルが必
要であり①地域社会の主体を中心とする事業体制の構築を通じて②地域独自の利害
に配慮した意思決定③事業利益の地域への分配、が必要であるとした。これを具体的
に実現する方法の一つは地域社会への利益分配などを実現する再生可能エネルギー
事業ガイドラインであり、事業者ならびに自治体が配慮すべき項目を明らかにした。
またその導入方法についても検討した。もう一つの方法は、地域の主体が中心的とな
って意思決定しながら事業を進めていくための体制作りであるが、この点については
青森県を中心に現状の分析を行い、専門的知見を地域が蓄積するか、地域の主体が能
動的に専門家の支援を得る方法があるとした。これを具体化するために、再生可能エ
ネルギー地域推進体制構築事業など現在進行中の地域拠点作りにコミットし、主体形
成、事業モデル、ガイドラインの導入などを実現するための支援を行いつつ、研究者
と地域の主体との相互作用についての基本的データを取得した。
3.研究開発実施の具体的内容
(1)研究開発目標
本研究は、「エネルギー消費地」としての都市と「再生可能エネルギー生産地」と
しての地域の特徴を相補的に生かし、大都市の再生可能エネルギー需要の拡大に連動
させて、地域マネーを活用した再生可能エネルギー供給の拡大により、都市における
大幅なCO2削減と地域経済の活性化・雇用拡大を同時に達成する新たな政策とその事
業化モデルを開発することを目標とする。また、実際に風力発電のモデルケースを実
現し、東京都のオフィスビル地区のCO2を80%削減しうる社会モデルの構築を行なう
ことを目指す。そのための具体的な目標は以下のとおり。
目標1:社会的/制度的/政治的な制約を考慮した北東北における生産可能な再生
可能エネルギー供給ポテンシャルと、東京におけるエネルギー需要の評価を
踏まえ、80%削減の可能性を見極める
目標2:地域の再生可能エネルギーファイナンス(定量および定性的・リスク)の
可能性調査を踏まえ、地域間連携の枠組みのもとで継続的に再生可能エネル
ギーを利用促進できる社会モデルを構築する
目標3:実際に東京都の制度および需要を前提に、北東北地域との連携による風力
発電などのモデルケースで実用化検討を行う
(2)実施方法・実施内容
「地域と大都市における再生可能エネルギーの相補的関係を地域の資金と主体を中心と
した事業としてどのように実現するか」という課題を設定し、この課題に対して、仮説的
に地域=北東北地域、大都市=東京都として想定し、地域の資源・資金・主体の発掘と集
3
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
約を促す事業支援ツールの開発と同時に、必要とされる支援的な政策を提示する。また、
事業化に向けて経験的に得られる知識生産の技法そのものを他の地域間でも応用可能な手
法として提示する。さらに、可能な範囲で具体的な再生可能エネルギーの事業化(モデル
事業)の支援への取り組みを行った。
研究開発は、4つの研究グループの連携によって構成され、それぞれ「資源」「資金」「担
い手」に重点を置く3つのグループと、総括グループを設ける。総括グループは、各グルー
プの成果を内発的発展として集約するための相互的なフィードバックを促し、そのプロセ
ス全体を地域に根ざした再生可能エネルギー事業を実現するためのノウハウとして普遍化
する。
「資源」については地域の再生可能エネルギー資源の地理的分布状況を調査する「再生可
能エネルギー供給ポテンシャル調査グループ(九州大学)」が担当し、各種再生可能エネ
ルギー資源のGISデータを集約し、系統や資源利用の権利状況などの社会的制約条件も考慮
した再生可能エネルギー供給ポテンシャルマップの作成を目指す。
「資金」については「地域金融ポテンシャル調査グループ(法政大学)」が担当し、再生
可能エネルギーが実質的に「地域に根差す」ための地域金融ポテンシャル調査を行い、地
域で生み出されるエネルギー事業の経済的価値が地域内で循環する方法を明らかにする。
とくに本年度は信用保証制度、事業タイプごとの事業性と地域性の両立の可能性に着目し、
関連する諸組織への社会調査を行った。また実践的な観点から、各地域の事業化へ向けた
動きに参与し、地域ファイナンスと結びついた事業化の可能性を探った。
「担い手」については「地域再生可能エネルギー開発アクター調査グループ(名古屋大学)」
が担当し、再生可能エネルギーが実質的に「地域に根差す」条件を明らかにする。具体的
には、潜在的に再生可能エネルギー事業の事業主体となり得る地域の関係諸主体へのアン
ケート調査およびヒアリングを行い、彼らの再生可能エネルギー事業への関心、事業参加
の可能性の実態を明らかにする。その上で、事業主体形成という側面からモデル事業が実
質的に「地域に根差す」ための具体的な条件を考察する。また、再生可能エネルギー事業
の社会的受容性を高める条件を明らかにする。
そして、「プロジェクト全体統括グループ」は、地方自治体等の政策主体との調整を図
りつつ、上記の3グループの研究開発の成果を集約・統合し、これらを実現に向けて以下の
通り具体化・統合化する。
 2011年3月11日に発生した東日本大震災による甚大な被害に鑑み、東北の復興に寄与す
る政策・制度づくりの提案を行うと共に、復興支援における再生可能エネルギー事業
の果たす役割やその効果を調査し、検証する。
 地域主体の再生可能エネルギー事業において、地域の担い手による事業主体の形成や
地域金融(直接・間接)を活用しうる金融の役割と仕組み、これをサポートするため
の機能を明らかにし、実現可能性のある統合事業化モデルを検討・提示する。
 各グループの研究開発の成果と上記2つの検討結果をもとに、各地域での再生可能エ
ネルギーの事業化を支援することを想定して、事業とファイナンスの基本的なスキー
ムやその具体的な手順、地域主体の立ち上げ・支援・コミュニケーション方法などを
含む経験的知見を「地域間連携による再生可能エネルギー事業実施ガイドライン」と
してまとめることを目指す。
 さらに、各省庁が実施もしくは検討中の地域再生可能エネルギー関連政策を活用した
展開可能性を検討し、本研究成果が社会技術として活用されうる可能性を追求する。
4
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
また、研究の進行にあたっては、各研究開発グループが調査結果を共有し、意見交換を
行うための統合研究会、拠点地域などでのワークショップ、地域主体の巻き込みや研究開
発成果の社会的共有を目的とする公開フォーラムをそれぞれ実施した。
以上の研究開発体制のもと、実質的に「地域に根差した」内発的発展としての再生可能
エネルギーの普及促進方法を「社会技術」として確立することを目指した。図1には、平成
23年度の研究開発への取り組みをベースとする本プロジェクトの推進体制を示す。
図1:研究開発プロジェクトの実施体制(平成23年度)
以下に、各グループの実施方法および内容を示す。
【再生可能エネルギー供給ポテンシャル調査グループ(九州大学)】
① 再生可能エネルギーの供給特性、エネルギーの需要調査
本プロジェクトにおいて「エネルギー消費地」としての都市と「再生可能エネルギー生
産地」としての地域の特徴を相補的に活かすため、まず各地域の特徴(需要と供給の可能
性)を現状の統計・気象データとGISを活用し、面的に計算を行い、需要・供給マップとし
て明らかにする。地域における再生可能エネルギーの事業化検討のため有望地域に対して、
さらに詳細なモデルを用いて供給可能性を調査した。
② 再生可能エネルギー導入にかかる制約条件の感度分析
再生可能エネルギー導入の有望地域として抽出された地域に対して、事業化を推進する
ための障壁となっている条件(社会的/制度的な制約)を明らかにするため、現状の発電
施設の分布から制約条件に対する導入傾向を明らかにするとともに、制約条件の感度分析
を行う。文献・現地調査から再生可能エネルギーの導入の制約条件の地域的な背景を調査
した。
③ 不確実性を考慮した供給ポテンシャルのシミュレーション
制約条件の変化により地域の再生可能エネルギーのポテンシャル(つまりは開発の可能
性)がどのように変化するか、シミュレーションを行う。事業化を検討する上では、導入
5
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
に関する制約条件と共に、気象に由来する発電電力量の不確実性を把握する必要がある。
そこで、気象の不確実性を内包したモンテカルロシミュレーションモデルを作成し、供給
ポテンシャルを評価した。
④ 日本の再生可能エネルギーポテンシャルデータベースを活用した政策展開
今後、分散型の再生可能エネルギーの利用は地域の特徴に応じてより多様化すると考え
られる。しかし現状では未だ各市町村における供給ポテンシャルの特徴は明らかになって
いない。本研究では、日本の再生可能エネルギーポテンシャルのデータベースを分析し、
各市町村の再生可能エネルギーの供給ポテンシャルをその量や分布の特徴と関連付けて分
類することで、各市町村の特徴を明らかにする。そしてこれを基に、本プロジェクトで提
案されたモデルケースに対して他地域への展開の検討をサポートした。
⑤ WEBGISを活用した再生可能エネルギーデータベースの公開検討
現在、再生可能エネルギーの導入をサポートするため、日射量や風速などポテンシャル
に関する各要素がデータベース化されている。しかしこれらは、市民レベルではあまり一
般的ではない。本研究では、次の2点を目的にWEBGISとしての公開を検討した。1つ目は、
供給ポテンシャルとして定量的な情報を公開することでより具体的に再生可能エネルギー
発電施設の導入や、地域のエネルギー利用の在り方の検討を可能にする。2つ目は市民が、
データベースをただの情報源として利用するのではなく、主体的に活用できる公開・共有
方法(マニュアル化/しくみの提供)を検討する。
【地域金融ポテンシャル調査グループ(法政大学)】
平成22年度に明確化された課題のなかで、信用保証制度に関する検討と、事業性と地域
性の両立可能性を探るためのデータの収集、そして事業化支援に関する調査研究を中心に
行った。信用保証協会への調査に加え、茨城県、静岡県、滋賀県といった先進的あるいは
萌芽的な取り組みが見られる地域の諸組織へのヒヤリング調査を実施し、さらに事業実績
のある自治体への質問紙調査を行った。そして、従来の北東北での調査を継続しながら、
各地域での事業化の取り組みへの実践的支援を行った。このように調査内容が多岐にわた
るため、本報告書では全体の概要を説明し、詳細については「付録2」の各資料を参照。な
お、本年度の調査は、実施事項である金融ポテンシャル調査と金融スキーム調査がほぼ重
なり合う形となっている。
信用保証制度については、静岡県(県庁、信用保証協会等)、大阪府、横浜市の信用保
証協会、滋賀銀行等へのヒヤリングおよび資料収集を行った。事業性の問題に関する調査
としては、風車運営自治体への質問紙調査およびヒヤリング調査、いわき市における風力
発電設備の運営状況についての視察とヒヤリング、さらに企業系の風力発電施設に関して、
静岡県東伊豆町、茨城県神栖町等でのヒヤリングおよび資料収集を行った(詳細は付録2「資
料4」参照)。ネットワーク掘り起しについては、より実践的に事業化支援の観点から、青
森県下北地域、北海道ニセコ町、秋田県秋田市等で会議への参加、勉強会の運営を行った。
また、復興事業計画に再エネを置いたいわき市でヒヤリングを行い、今後の事業化支援の
可能性を探った。
【地域再生可能エネルギー開発アクター調査グループ(名古屋大学)】
本グループでは文献調査、事例調査、社会実験を組み合わせた研究開発を実施した。
文献調査については、東日本大震災後の再生可能エネルギーへの選好を明らかにするた
6
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
め、記事データベースの分析をおこなった。また反対運動や懸念についての基本情報の収
集も実施した。これを補完するため風力発電への苦情情報についてのデータ分析を行った。
さらに、再生可能エネルギー事業ガイドライン作成のための参考情報とするため、英国、
アメリカ合衆国、カナダで出版されている各種ガイドラインの情報収集と分析を行った。
事例の分析については主として青森県と秋田県を対象とした。青森県は導入量が多いもの
の、その大半が外来型の開発となっているが、その背景について明らかにすることを目的
とした定性調査を行った。事業開発から運転開始後のO&Mに至るまでのライフサイクルに
関与する主要なステークホルダへの聞き取りを行い、各主体から見た現状の課題を明らか
にした。
社会実験としては、これらの調査結果を踏まえた再生可能エネルギー事業ガイドライン
(案)の策定を行い、地域社会と事業主体との利益相反を解消するための方策とした。ま
た、これを具体化するための取り組みとして主体形成を目的としたワークショップに関与
し、アウトリーチ活動と並行してプログラム策定などにおいても専門的知見を提供し、同
時にその効果についての基本的データを収集した。
(3)研究開発結果・成果
平成23年度の研究開発の結果、以下の様な成果を得た。
【プロジェクト全体統括】
■地域間連携制度構築支援
本研究開発プロジェクトでは、「エネルギー消費地」としての都市と「再生可能エネル
ギー生産地」としての各地域の特徴を相補的に生かすための制度・支援策を提言し、統合
事業化モデルを開発・適用することにより、両者の相乗効果によって脱温暖化に向けた主
体的な取り組みが各地域で進むことを目的としている。しかしながら、2011年3月11日の東
日本大震災とそれ以降の日本のエネルギー政策の根本的な見直しが行われる中、地域のポ
テンシャルを最大限生かした再生可能エネルギーの重要性と共に、大都市における膨大な
需要をコントロールする新たなエネルギーマネジメントの仕組みが求められている。さら
に、東日本大震災で被災した東北の復興に対しては再生可能エネルギーの重要性が以前に
も増して認識され、地域が主体となった再生可能エネルギーへの取組みが加速している。
さらにそれを後押しする再生可能エネルギー電力の全量全種の固定価格買取制度が平成24
年度から開始されることなり、そのための制度の詳細や規制・制度改革が国レベルで進め
られているほか、各地域の地方自治体も再生可能エネルギー推進の新しい制度や体制づく
りを始めている。その一方で東京都が進めて来た地域間連携の仕組み自体が、原発停止に
伴う企業の節電・省エネの動きの中で、排出量取引制度における再エネクレジット市場の
低迷など、大幅な見直しを迫られている。
こうした状況の中で、「地域間連携」において、各地域が主体になった再生可能エネル
ギー事業の推進を、これまで大都市に集中していた資産やノウハウなども活用することに
より、着実に後押しすることが重要になってきている。各地域での再生可能エネルギー事
業では、現在の様な様々な制約条件がある中では大手資本による事業の検討がまず進めら
れる傾向にある一方で、これまでの市民出資事業や地域エネルギー事業の流れから、地域
で主体になって再生可能エネルギー事業を進めようという自治体あるいは市民団体の動き
も活発になって来ている。平成23年度より始まった環境省の「再生可能エネルギー地域体
7
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
制構築支援事業」はその流れの一つであり、7拠点における事業化検討がスタートしている。
この地域体制の構築支援として、ISEPが事務局を務める「一般社団法人 日本再生可能エ
ネルギー協会」では、これまで本プロジェクトで検討を進めて来た統合事業化モデルの知
見を深めながら研修会、現地視察、各地域での事業化検討の支援等を行った。
地域が主体となる再生可能エネルギー事業のための人材育成の重要性も明らかになって
おり、平成24年3月に開催されたコミュニティ・パワー会議では、国際的な視点での「コミ
ュニティ・パワー」の議論が活発に行われた。固定価格買取制の施行を控え、国内各地で
自然エネルギーに取り組む動きが加速しつつあるなか、小規模分散型の自然エネルギーは
地域のさまざまな人々が協力し、ボトムアップで取り組みを進めていくことが重要となっ
てきている。また、地域の資源を利用したエネルギーの利益が地域の人々に還元されるよ
うな仕組みを導入していくことも重要となる。このような地域エネルギーの考え方や取り
組み方は、「コミュニティ・パワー」として世界的にも新たな潮流を創り出している。コ
ミュニティ・パワー会議では、国内外のコミュニティ・パワーの実践者や専門家とこれか
らコミュニティ・パワーに取り組む人々の対話を通じて今後の手がかりを探った。さらに、
欧州など国際的なネットワークを生かした教育・人材育成の機関の設立を検討することと
なった(ISEPアカデミー(仮称))。
■統合事業化モデル構築
東北地方などの各拠点地域の地方自治体等の政策主体や各地域のステークホルダーとの
調整を図りつつ、下記の3グループの研究開発の成果を集約・統合し、これらを実現に向け
て統合事業化モデルの具体化を以下のとおり図った。
本プロジェクトの「再生可能エネルギー供給ポテンシャル調査グループ(九州大学)」
で明らかにしてきた東北地方の豊富な再生可能エネルギーのポテンシャルをベースに平成
23年5月に「東北復興エネルギー戦略」を提言した(図2)。詳細はISEPの付録3「資料1」を
参照。これに対して秋田県などのエネルギー供給側の拠点地域を定め、有望地域を明らか
にすると共に、地域レベルで事業化のプロセスを明確にする。そのため、拠点地域として
秋田県を対象とした「秋田タスクフォース」を編成し、平成22年度から連携を深めている
「風の王国プロジェクト」や大潟村などでの再生可能エネルギー事業化の為の検討を進め
た(平成23年度までのプロジェクトメンバーが大潟村へ就職)。この統合事業化モデルの成
果を拠点フィールドに対して普及・展開するためのフォーラムを前年度に引き続き2011年
10月に秋田市で開催し、その成果をホームページや各種レポートなどで公開した。自治体、
地元NPO、金融機関、大学など様々な地域のステークホルダーが一堂に会し、秋田県内での
再生可能エネルギー事業への取り組みについて具体的な議論が行われた。さらに、その中
で平成23年度に検討してきた統合事業化モデル(図3)およびその統合事業化モデルの実施
フロー(図4)をこの拠点フィールドで実践するため、関係するステークホルダーの調整をし
つつ連続ワークショップを2012年2月に開始した。また、東京都内の需要側との「地域間連
携」モデルとして都内の生活協同組合や民間企業の取り組みも取り上げ、大都市での再生
可能エネルギー利用の実践モデルの構築を検討した。その中で、東京都内の需要側の仕組
みとして区レベルでの地域主体の電力供給システムの可能性について検討するとともに、
「グリーンPPS」の仕組みづくりについても引き続き調査した。
また、被災地での自然エネルギーを活用した復興支援プロジェクトとしてISEPが事務局
を務める「つながり・ぬくもりプロジェクト」では、平成23年5月頃から個人や企業の寄付
8
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
をベースに広域の数多くの団体がネットワークとして活動しているが、多くのアクターが
関わる被災地の復興支援の在り方をモデル化し、より多くの団体での取り組みについて調
査した(図5)。詳細はISEPの付録3「資料2」を参照。
再生可能エネルギー事業の事業評価の仕組みとしてカナダ資源省により開発された事業
評価ツールRETScreenの日本での適用について検討した。2011年6月にカナダで開催された
RETScreenの国際ワークショップに参加し、その利用事例や利用方法を知ると共に、日本国
内での適用の可能性を検討するために、国内での研修会やワークショップでの紹介や活用
の検討を行った。RETScreenの概要を図6に示す。
図2: 東北復興エネルギー戦略
図3:統合事業化モデルのイメージ
9
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
図4:統合事業化モデルの実施フロー
図5:つながりぬくもりプロジェクトのネットワーク
10
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
図6:事業評価ツールRETScreenの概要
【再生可能エネルギー供給ポテンシャル調査】
再生可能エネルギーポテンシャルのポテンシャル評価は、「きっかけづくり」、「地域
全体の最適化議論」、「ゾーニングなど地域政策検討」など様々な場面で必要とされる可
能性があることがわかった。しかし、現状では、再生可能エネルギーポテンシャル評価の
恣意性と、それについての議論が不十分であること、さらに評価コストが高額であること
が相まって、単一の評価結果への依存という状況が発生している。
本プロジェクトの統合事業化モデルにおいて、これらの状況を打開する機能を付加する
以下の様な解決策を検討した。本研究では、再生可能エネルギーポテンシャル評価データ
提供機能の事業化により、適切なコストでポテンシャルデータを一般的に提供する方法も
検討している。詳細は、九州大学グループの付録1を参照。
① 再生可能エネルギーポテンシャル評価データ提供機能の事業化
再生可能エネルギーの導入が多様な主体によって検討されるためには、上述したデー
タの提供が、現状の国の事業や補助金に依存したものではなく、一般的に、さらに安価
に利用可能である必要があると考える。そこで、上述したデータ提供機能を事業化し継
続させることが必要である。
② 再生可能エネルギーポテンシャル評価の提供形態
データの提供事業は、継続可能なビジネスモデルとなり得ると考える。現状では再生
可能エネルギーのポテンシャルデータが補助金の調査の一つとして実施されるため、高価
になってしまう。また、評価の恣意性・そして一つの評価結果への依存性から、再生可能
エネルギーの導入検討の初期段階においても高価な実測データに基づく評価結果を要求
してしまうと、さらにデータが高価になってしまう。これに対して、提案するデータ提供
事業では、再生可能エネルギーポテンシャルデータの利用区分(利用段階;導入初期段階、
11
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
事業計画の立案など)に応じて、適切なデータの精度と価格を設定することによって、導
入初期の安価なきっかけポテンシャルデータと、オーダーメードに近い高価なポテンシャ
ルデータの両方を提供する継続可能なビジネスモデルを構築することが可能になると考
える。そこで、多様な需要に応えながら、適切なコストで提供するために、本研究では下
記のように再生可能エネルギーポテンシャル評価結果データの利用段階を4ケースに区
分し、それぞれの段階に必要なデータを提供することを提案した。
 ケース1.シンプルで常に誰もが利用できる再生可能エネルギーポテンシャルデ
ータを、インターネットを通して無料で提供する(図7)。
 ケース2.再生可能エネルギーの導入検討の初期段階に用いる定型のポテンシャ
ルデータを安価に、素早く提供する(図8)。
 ケース3.再生可能エネルギーの導入調査の初期段階に用いる受注生産型のポテ
ンシャルデータを安価に、素早く提供する(図9)。
 ケース4.政策検討に用いるカスタマイズ可能な高付加価値のポテンシャルデー
タを、じっくり検討して、提供する(図10)。
図7 再生可能エネルギーポテンシャルの無料データ
12
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
図8 再生可能エネルギーの導入検討の初期段階に用いる定型データ
図9 再生可能エネルギーの導入調査の初期段階に用いる受注生産型データ
13
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
図10 政策検討に用いるカスタマイズ可能な高付加価値のポテンシャルデータ
【地域金融ポテンシャル調査】
① 金融ポテンシャル・金融スキーム
(a) 信用保証制度
平成22度、金融ポテンシャル調査グループは、日本社会の金融機関をめぐる制度的・組
織的状況を踏まえた上で、「地域金融機関の与信力を補完するための制度構築こそが、地
域間連携による再エネ普及のために優先すべき課題である」との仮説的な認識を得た。こ
れを再確認するために、本年度は2011年11月に先進的な環境金融を行っている滋賀銀行に
ヒヤリング調査を行った。その結果、北東北の地銀同様に、再エネについては融資のノウ
ハウが不足していること、FITが導入されても売電価格や制度自体について政策変動リスク
があること、とくに風力については融資規模が地域金融機関にあわないといった認識が示
された。つまり先進的かそうでないかにかかわらず、地方銀行にとって再エネの地域ファ
イナンスは難しいと考えられている。このことは、単に各金融機関の「努力」の問題では
なく、まずは与信力を補完するような信用保証制度を構築する必要があることを示してい
る。
また本年度は、再エネ事業に関する信用保証制度を確立する際、クリアすべき問題につ
いて検討した。とくに信用保証協会による保証制度に焦点を当てた。具体的には、青森県
信用保証協会、静岡県信用保証協会、大阪府信用保証協会、横浜市信用保証協会にヒヤリ
ングを行った。また静岡県では関連する県庁組織にもヒヤリングを行った。これらの調査
から、まず、現状としてほぼ実績はないものの、制度的にも組織的にも信用保証協会によ
る保証の対象として再エネ事業が含まれうることが明らかになった。とくに静岡県では、
2011年10月18日より「エネルギー需給安定対策保証」を開始している。その一方で、調査
14
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
を通じて風力発電など一定の融資規模が必要とされる再エネのための信用保証制度を構築
する際の以下の3つ障壁(カベ)が浮かび上がった。



融資金額のカベ
信用保証の上限額は 2億5000 万円であるが、じっさいに融資を受けている金額は数
百万円から 2~3 千万円である。これに対し、再生可能エネルギーの主力として期待
されている風力発電事業では、事業規模は数億円から数十億円規模になり、借入を受
ける額も億単位になる。これは地域の金融機関と事業者とのあいだでの融資のやり取
りの金額や、地域の金融機関の事業規模や利益額から考えると、非常に大きな金額で
あり、容易に融資できるものではない。
期間のカベ
一般的な融資期間は10年であり、期間が長くなればそれだけでリスクが上昇する。
これに対し、太陽光パネルや風車の耐用年数ないし減価償却期間は 20年である。風況
調査などの準備段階から融資した場合には 25年程度の期間になる。この期間の長さも
融資の障害である。
リスク評価のカベ
プロジェクトファイナンスの実施、デューデリジェンスを行う機関の設置や経験の
蓄積などによって克服することができる。しかし金額のカベ、期間のカベはこれらの
手法では克服できない。プロジェクトファイナンスなどにより、金融機関が積極的に
リスクをとることも必要ではある。しかし預金保護などの点から、金融機関が、何ら
の保証のないままリスクをとることは非常に困難であると思われる。
再エネ事業への融資にあたっては、こうした3つのカベを意識した形で、信用保証制度を
設ける必要がある。そのためには、信用保証協会の行動を強く左右する政府あるいは日本
政策金融公庫などによる制度的対応が必要となってくるといえる。とりわけ日本政策金融
公庫と自治体とが連携して制度構築の検討を行う必要がある。以上の信用保証制度研究の
具体的な内容は、地域金融ポテンシャル調査グループの付録2「資料2」に掲載している。
なお、このような信用保証制度の設置により、デューデリジェンス手法の洗練によるリ
スク評価方法の改善の必要性や、銀行そのものの与信力の向上の必要性が低下するわけで
はない。例えば本研究グループで調査を行ったドイツでは、リスクを取る銀行業の在り方
やそれを支える審査機関の存在など、債務保証に頼らない仕組みが出来上がっている様子
がわかる(詳細は、法政大学グループの付録2「資料3」を参照)。このうち、デューデリ
ジェンスについては、RETScreenの検討や、世界最大規模の審査・検査機関であるSGSが
日本に設立した法人であるSGSジャパンのスタッフとの面会を行うなどして、情報の収集
を進めている。
(b) 事業性に関する検討:事業タイプの違いにもとづいて
地域に根ざした再エネ事業の普及を実現するための課題のひとつに、「事業性と地域性
とのジレンマ」という問題が挙げられる(この点の歴史的理論的な意味については、法政
大学グループの付録2「資料1」の議論を参照)。つまり、事業採算性や収益性、持続性を
確保するためには事業の大規模化や資金調達範囲の広範化が必要となるが、そうすると事
業の地域貢献性が削がれることになる。逆に地域のオーナシップや地域社会が獲得できる
15
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
収益性や雇用を重視すると、事業性への不安が高まる。昨年度、本研究グループでは想定
される事業者のタイプとして、自治体(三セク)、民間企業、NPOの3つを類型化したが、
事業性の問題がより強く表れるのが自治体(三セク)タイプであり、地域性の問題がより
強く表れるのが民間企業タイプであると考えられる。
i. 自治体風車に関する量的調査
そこで平成23年度調査では、自治体(+三セク)風車に対する量的調査を行い(対象者
41件中、回答者は29件)、事業性問題を克服するために着目すべき変数を探った。本報告
書執筆時点でデータを分析中であり、詳細な分析結果は次年度以降になるが、現時点では
次のような結果が出てきている。
まず事業規模のばらつきである。自治体によって風力発電事業への出資額と出資比率の
差が大きく、前者は510万円から4000万円まで、後者は9.1%から86%まで幅広い。総事業
費(三セクを除く)の差も、1億1137万円から62億8800万円まである。ただし多くの事業
者が10億未満に集中している。また、総事業費とkwあたりの総事業費の関係を見たところ、
大規模事業の方が低コストで建設しているという傾向が若干見受けられるが、必ずしも規
模の経済が働いているわけではない様子が窺える(図11)。
図11 総事業費とkWあたりの事業費の関係
補助金支出主体は、ほとんどの事業体がNEDOであったが、過疎対策事業債によって事
業費の全額を調達している自治体があった。また、風力発電事業目的についての質問対し
て(複数選択式)、地域の雇用拡大や産業活性化への貢献を選んだ回答者は2件のみだった。
これに関連して、事業体のうち専任職員を雇っているのは29事業者中、8事業者のみであっ
た。また調査では、過去3年間の稼働率および設備利用率について訊ねており、これにより
高稼働率ならびに候設備利用率の事業者として、北海道寿都町など着目すべき自治体が浮
かび上がってきた。その他、詳細については法政大学グループの付録2「資料4」を参照。
ii. 地域性とのジレンマを乗り越える:茨城県神栖市の事例
民間企業はどのような形で地域性との相克を乗り越えているのであろうか。この点につ
いて、神栖市と伊豆町との違いは示唆的である。神栖市では、2012年3月現在で34基の風力
発電施設が立地しているが、「神栖市風力発電施設建設に関する取り扱い要項」に沿って
16
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
建設されており、現時点で反対運動が起きていない。これは、健康被害の訴えと反対運動
を引き起こしている東伊豆町の場合と対照的である。自治体による適切な規制が必要であ
ることを示している。
また神栖市では、地元外企業、地元企業、自治体所有の風車、NPO と様ざまな事業タイ
プが混在していることも特徴である。とくに、地元企業による事業は、地域ネットワーク
に根ざした地域金融機関による与信が行われていると考えられるため、さらに調査分析を
進める必要がある。以上についての詳細は、法政大学グループの付録2「資料5」を参照。
iii. あらたな事業モデルの出現:営利と非営利の間で
秋田県での調査からは、震災後、あらたなタイプの事業組織が生み出されつつある様子
が見えた。まず「風の王国プロジェクト」は、合計1000基の大型風車を建設し、秋田の活
性化を目指す構想である。2012年1月8日に事業会社である「株式会社風の王国」が設立さ
れ、東北電力が募集する電力買取制度に応募し、2012年2月の抽選で、大潟村に2000kW級
風車2基分の売電権利を得ている。その大潟村では、2015年度までに村や「株式会社風の王
国」、村民などが出資した新会社を設立し、風力発電事業に参入する計画を、2012年3月定
例村議会で発表した。またにかほ市では、市民風力発電と生活クラブ、ワタミの共同事業
が立ち上がっており、従来の市民風車のような全面的な市民出資による事業スキームでは
なく、市民風車の事業パートナーを見つけ、出資・融資を受ける新しい事業スキームとな
っている。事業性と地域性を地域間連携の形で両立させる試みとして興味深い。以上につ
いて、より具体的には付録2「資料6」を参照。
iv. 既存の事業主体への注目:事業継続支援の可能性
復興事業計画の軸に再生可能エネルギーをおいた福島県いわき市では、最大の発電設備
容量(年間313,000kWh)のいわきニュータウン太陽光発電集中連携システムが設備更新の
時期にきており、現在、事業継続を検討する時期に来ていることがわかった。同システム
は国からの助成金を得て設置されたものであり、同種の設備としては最大規模のものであ
る。現在までの運営費等については、売電による収入で賄っている。しかし稼働開始から
10年が経過し、大幅な設備更新が必要となっているものの、現時点での売電収入では、こ
の費用をねん出することができない。固定価格買取制度のもとでの買取価格が同システム
に適用されたばあいには、この費用をねん出できる可能性がある。同様の課題を抱える設
備は他にもあると思われる。これらの既存の事業主体をサポートし、事業の展開を支援し
ていくことも重要である。
② ネットワーク掘り起し・事業化支援
地域を挙げた再エネ普及を促すために、再エネ事業の立ち上げ支援を地域の社会的ネッ
トワークの掘り起しとともに行った。青森県では、本研究グループの母体である舩橋晴俊
研究室の継続調査に重ねる形で、事業候補者への説明や、地元企業、行政を交えた具体的
な検討会を実施した。また本年度は、北海道ニセコ町で2回にわたって行われた小水力およ
び風力発電の導入のための戦略会議に参加した。
また秋田市では、1.3でふれた動きに合わせて、アキタ朝大学や秋田マチナカ大学(付録2
「資料6」を参照)といった、担い手育成の取り組みなどにも参加し、地元からの事業化を
支えるネットワークの把握を行った。
17
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
③ 今後の課題
以上の検討から、今後の研究開発の課題が以下の様に浮上してきた。
第一に、信用保証制度の構築可能性を探るために、全国都道府県の信用保証協会の現状
や考えをより網羅的に明らかにする必要がある。そのためには質問紙調査が有効である。
また日本政策金融公庫へのヒヤリング調査も必要である。
第二に、自治体風車調査のデータをより詳細に分析し、行政による発電事業において事
業性を左右する要因を明らかにしていく必要がある。また、着目すべき自治体にはあらた
めてヒヤリング調査を行う。神栖市のような地域での地域ファイナンスの現状と地域信用
構造を明らかにする。さらに、秋田県で見られたような営利組織と非営利組織の相互浸透
の状況を追い、地域間連携思想からみたその可能性と課題を明確にする必要がある。その
際、アクターとして浮上してきた生活協同組合への調査も行う。
第三に、これまで本研究グループとして行ってきたネットワークの掘り起しと事業化支
援をより加速させ、実際の事業化への道筋をつける。
なお、調査研究の成果として、これまでに得られた知見を集約し、再エネ事業のファイ
ナンスに関する入門書を出版するなど、金融機関などへの知識共有および啓蒙をはかって
いく。
【地域再生可能エネルギー開発アクター調査】
① 地域密着型再生可能エネルギー事業の課題抽出
(a) 東日本大震災後の状況
東日本大震災ならびに福島原発の事故を受け、再生可能エネルギーへの期待は全般的に
高まった。新聞報道における扱いは2010年以前と2011年以降では大きく変化している。図
12は朝日新聞の新聞記事データベースから、風力発電に関連するキーワードの組み合わせ
で抽出した記事数である。グラフの縦棒はバードストライクなど風力発電に対して批判的
な記事を予測させるキーワードが含まれている記事数であり、それぞれのキーワードに応
じた記事数を示している。個々のキーワードで抽出しているため、重複があった場合は二
重に数えられている。折れ線(右軸)は風力発電に言及した記事の総数を示している。
18
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
図12: 風力発電報道におけるキーワードの推移(朝日新聞記事)
2005年頃から、風力発電について否定的な報道が増加傾向にあった。取りあげられる問
題そのものは景観に始まり、その後バードストライクなど自然環境への影響、さらには低
周波音を含む騒音問題へと移行してきた。景観については国立公園地域内での規制緩和に
関連したものであり、具体的な景観問題について扱ったものは少ない。また、バードスト
ライクや騒音についても実際に問題が顕在化した事業の割合は低い。こうしたことから、
このような報道傾向には話題の新規性による情報消費の側面もあると考えられるが、否定
的な報道の増加傾向は2010年まで継続していた。また風力発電に関する記事件数そのもの
も漸減傾向にあった。
3.11以降、この傾向の変化が認められる。まず記事数が220件から387件へと増加してお
り、売電自由化時の記事数を超えている。また全体的に否定的なキーワードの件数が減少
している。唯一増加しているのは安全性というキーワードであるが、これは専ら原子力と
の関係で出現しており、風力発電そのものの安全性について述べられている記事は存在し
なかった。
こうしたことから、社会全体としては風力発電をはじめとする自然エネルギーへの期待
は高まっているといえる。ただし、このことは立地点となる可能性がある地域社会にその
まま当てはまるわけではない。以前から存在していた風力発電に対する反対運動には顕著
な変化は認められない。新規のプロジェクトに対する反対や懸念が提示される例も少なく
なく、報道されている例に限ったとしても10案件を超えている。その一方で地域の主体が
中心となって自然エネルギー事業を進めようという取り組みもある。また東北電力の系統
連系の応募(2012年1月締切)に対して過去最高の165件の応募があったように、具体的に
動き始めた地域も存在する。つまり、風力発電の推進と懸念の両方が存在している状況で
ある。これが地域社会の分断を招くような事態は避けるべきである。
19
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
(b) 地域密着型の必要性
風力発電に対する懸念が提示される具体的な問題は多岐にわたるが、日本においては自
然環境への影響と騒音が主たる関心事項である。今後、導入が進むにつれて景観の問題が
顕在化する事例が増えてくる可能性もある。これらの問題を争点とする軋轢を回避するた
めに必要とされるのは、必ずしも物理的影響の最小化だけではない。このことを明らかに
するため、近隣住民全般の関心事項となりやすいのは騒音問題をとりあげ、音そのもの以
外の要因の影響力を推定した。
具体的方法としては日本風力発電協会が実施した全事業者を対象とした苦情調査のデー
タを用い、これを二次分析した。その結果、距離と苦情との間の関連性は薄いということ
が明らかになった。一方、規模については一定程度の影響が存在することが明らかになっ
た。ただし、その影響力は限定的であり、調査項目以外に主要な要因が存在すると推定さ
れる。
分析は、苦情の有無を目的変数とし、これが設備の規模や距離など騒音に寄与すると考
えられる変数との関連を分析した。実際には苦情の大半は解決済みであり、未解決のもの
についても、それが最終的な状態ではないが、その両方を苦情有りとした。説明変数には、
距離・一機あたりの定格出力・基数・総出力を用い、距離と総出力についてはデータのカ
テゴリー化も行った。
全般的な関係を見るための相関を見たところ、すべての項目において誤差1%水準で有意
な関連性が確認された。その中で一機あたりの定格出力と総出力の大きさと苦情数の間に
は相対的に強い相関が存在する。ただし、その程度を示す相関係数(-1~1をとる)の値は
それぞれ0.357及び0.324となっている。距離については、誤差5%水準での有意差があり、
設備に最も近い施設の距離の近さと苦情数との間の関連が認められた。その相関係数は
-0.115であった。いずれの項目も関連の強さを示す値は低く、直接的な影響力は限定的であ
るという解釈が成立する。カテゴリー化した場合には、距離については有意差が存在しな
かった。
これらの要因が苦情の有無に直接影響を与えているかを探るために、回帰分析による検
証も行った。その結果、苦情の有無に対して規模と距離両方で2割程度の影響力が存在する
ことが確認された。残りの8割については別の要因が影響していることになり、距離や規模
そのものが苦情の有無に与える影響力は限定的である。感受性の個人差の他に地形やレイ
アウトの効果の影響などが織り込まれていないことも考えられるが、むしろ調査対象とな
っていない変数の存在を推定すべきである。
このように苦情の原因として音そのものの影響力は限定的であるため、環境アセスメン
トなどの規制強化による物理的影響の制御に対して過剰な期待を抱くことは妥当ではない。
問題は物理的影響の当事者にとっての意味づけにもある。その意味で注目に値するのは
現在世界的に進められようとしている地域密着型の事業モデルである。世界風力発電協会
ではこのような事業をコミュニティパワーとし、その要件として以下の3点を定義している。


地域のステークホルダーが事業の全体あるいは大部分を担っている
地域の個人、あるいは地域のステークホルダーから成る団体(農場経営者、協同組
合、独立系発電事業者、金融機関、自治体、学校等)が、事業全体、あるいは大部分
を直接的、あるいは結果的に担っている。
地域社会に基づく団体が事業の議決権を持っている
20
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書

地域のステークホルダーから成る団体が、事業の意思決定に関わる議決権の大部分
を所有している。
社会的、経済的利益の大部分が地域に分配される
社会的、経済的利益の全て、あるいは大部分が、その地域社会に分配される。
このうち二つを満たすものがコミュニティー・パワーとなるが、その趣旨は地域の人が
担う地域のための事業である。三つの要件は相互に関係がある。例えば、風力事業の実質
的な運営ができることによって、現実を踏まえた意思決定も可能になる。あるいは、運営
を地域の事業主体が担うことによって事業に伴う経済活動も地域内で循環することになる。
物理的影響の低減と共にその意味を変化させる取り組みとして、コミュニティー・パワー
の理念は重要な意味を持つ。ただしその意義は狭義の社会的受容性問題にとどまらない。
日本で見られるような事業モデルにおいては、事業によって利益を受ける事業者などの主
体とリスクや被害を受ける地域住民などの主体が分離している。このため、仮にリスクが
ゼロになったとしても地域住民にとっては積極的に受容する理由が無い。これに対して、
地域密着型の事業モデルが実現することによって地域住民が能動的に取り組む可能性を拓
く可能性があると考えられる。
(c) 地域密着型事業モデルの課題
ただし、そのための課題は少なくない。再生可能エネルギーは、小規模分散型のエネル
ギー源であり、施設・設備への投資額が少額ですむことから、地域経済への貢献や地域の
「内発的発展」につながるものとして期待されてきた。しかし、再生可能エネルギーの代
表的存在と言える風力発電では、施設の大規模化・集中化が進む一方で、地域外の事業主
体による開発が進められてきた。
本研究の調査対象である青森県は、導入された風力発電設備の容量が292,540kW (2010
年3月末現在) と、全国一の風力発電の集積地帯である。しかし計200基の風車の立地を見
ると、うち186基 (設備容量273,500kW) がむつ下北地域に集中しており、風況にほとんど
違いのない日本海側とのアンバランスが目立つ。これは系統連系の問題であり、大容量の
送電線が太平洋側に集中していることによる。
設置者別では、風車のほとんどは大手の風力発電事業者及びその子会社が導入したもの
(上位3社で184基・272,100kW) であり、青森県内の事業者・自治体による風車は6基・
4,500kWに過ぎない。本研究チームが2009年に青森県内の経済団体・農業団体・まちづく
りNPOなどを対象に行った質問紙調査でも、再生可能エネルギー事業への参与を検討・計
画した団体はごくわずかで、県内の団体・組織に風力発電事業を担おうとする意欲は低い
と言わざるを得ない。
さらに、地元事業者による風力発電には採算のとれていないものもある。例えば深浦町
は1999年に観光施設の電源として定格出力750kWの風車1基を導入し、観光と再生可能エ
ネルギーを組み合わせたまちづくりの先進事例として注目を浴びた。しかしその後は落雷
などによる故障が頻発して十分な発電実績を上げられず、かえって町の財政負担を増して
いる。
このような現状の背景には、風力発電技術の特性やこれに伴う事業課題の特徴が影響し
ている。風力発電は典型的な装置産業である。事業費用の中心は機械購入費用と設置工事
費で、これらの初期投資費用を金融機関等から借り入れし、発電による売電収入で返済す
21
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
る。売電収入は、運転および保守管理費用、借入金の返済、租税、営業者利益に分配され
る。
すなわち、風力発電事業に関与する経済的なアクターとしては、機械製造業・設置工事
業者、運用保守業者、出資・融資者・金融機関、立地自治体、発電事業者が考えられる。
それぞれのアクターが地域内在的に担われていくには以下のような課題がある。
・運転開始までの不確定要素の多さ (系統連系、用地買収、許認可など)
・事業性判断・契約内容の不十分さ
・運転・保守管理業務の相対的な軽視
・風力発電設備メーカーへの依存。営業者および運用保守業者の相対的な弱さ
・地元金融機関の事業審査に対するノウハウ・経験の不足
・建設費用への補助金交付を中心とした支援政策
青森県の風力発電が外来の大手事業者によって担われているのには、風力発電事業の技術
的な特性だけではなく、これらの社会制度的な要因が関与していると考えられる。
(d) 「地域に貢献する風車」を目指す動き
その一方で、一般市民の参加による再生可能エネルギー普及を目指す環境NPOによって
始められた「市民風車」運動などの取り組みも存在してきた。「市民風車」は、小口の出
資者への配当を通じて、風車事業の利益を地域に還元する側面を持っている。また、風車
事業と並行して行われた地域活性化事業を通じ、地域内の人材発掘やネットワーク化、新
しいまちづくり活動の立ち上げに貢献してきた。
これに加えて、市民風車の運用保守業務において設備メーカーへの依存度を減らそうと
いう新しい動きがある。運用保守を発電事業者主導で行い収益性を向上させることを主眼
とした試みだが、日常業務をなるべく地元企業に担当させ、コスト削減とともに地域での
雇用や人材育成も意図されている。
これと呼応するかたちで、青森県内でも自動車リース・メンテナンス業を営んできた企
業が新たにエネルギー部を新設し、風力発電施設の運用保守業務に参入してきた。単に業
務を請け負うだけではなく、自動車整備の経験を生かした作業手順の合理化・効率化にも
着手している。こうした動きは、風力発電に地域内の担い手が関わり、その利益を地域内
に循環させてゆく新たな回路として注目される。
② 社会的受容性ガイドライン
(a) ガイドライン案の策定
現在の風力発電事業が内発的発展というよりは外来型開発で行われていること、および
その社会制度上の要因について指摘してきた。売電価格の上昇・安定化を意図して導入さ
れる固定価格買い取り制度も、地域社会への貢献や内発的発展を導く十分条件ではないと
いえる。
これを補完する上で重要なのは、風力発電事業に関与する多様な主体が、利益相反を起
こすことなく協調・協働してゆくことのできる社会的条件のように思われる。事業者主導
の運用保守業者育成の他にも、地域社会の関与を盛り込んだ開発ガイドラインや、発電事
業に参与したい組織に事業ノウハウを提供するサポート組織の設立などが構想されうるだ
ろう。
このうち、開発ガイドラインは海外には事例がある。例えば、
22
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
Wind Energy Development Best Practices for Community Engaement and Public
Consultation(カナダ)
 Community Wind Toolobox(イングランド)
 Delivering Community Benefits from Wind Energy Development(イングランド)
 Guide to Developing a Community Renewable Energy Project(カナダ)
 Wind Energy Guide for County Commissioners(アメリカ合衆国)
などが存在し、狭義の事業開発だけではなく立地地域との摩擦を回避するための具体的方
策がマニュアル化されている。
昨年度より、その分析を進めてきたが、本年度はこれらの趣旨を生かして日本版のガイ
ドラインの素案を作成した。基本的な理念は
・ 利害の不均衡の是正
・ 意思決定の透明性
の二点である。具体的には以下のような項目で構成されているものを作成した。

①
事業者の配慮事項
a 問題の軽減化への努力
法的義務を超えるガイドラインの遵守
・ JWPAガイドライン
・ 風力発電適性立地のための手引き(環境省)
・ 順応的管理の導入
・ 設定された優先地域内への立地
b 地域経済への配慮
・
・
・
・
・
・
事業会社の所在地
事業会社への地元資本参加
地元住民からの資金調達と利益分配
地元で製造した部材の利用
建設業務発注の際の地元配慮
維持運営への住民の雇用
c 地域振興への協力
コミュニティファンド(後述)への協力
地域環境と野生動物の生息環境の整備
ビジターセンターと観光施設
学校の現地訪問その他の教育支援業務
地元団体/チームへの資金提供
②
自治体の配慮事項
a 開かれた議論に基づく優先地域の設定
・ 資源量ポテンシャル・法令上の制限
・ 生態系に関する既存の情報
・ 地域住民が重視する場所
 聞き取りや写真撮影による簡易調査
 地域住民などが主体的に行う地域調査
b コミュニティファンドの設置(固定資産税などからの拠出)
23
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
c 地域振興などとの連携
(b) ガイドライン案の導入方法
さらに、この種のガイドラインをどのような形で応用するのが合理的かつ妥当であるか
について検討した。全体的に事業者への配慮を求める内容になっているため、条例のよう
な形も一つの方法ではある。だが、地域振興への配慮についての項目など、正当化の根拠
づけが難しいものもある。このため、規制的な義務よりも誘導的な選択肢としてのソフト・
ローとしての応用と並行して地方自治体レベルで検討する方法が妥当である。
具体的にはイギリスにおける洋上風力プロジェクト(Round3)へのライセンス供与のよ
うな方法が考えられる。これは王室が所有するエリアが対象となっており、生態系情報な
どの各種データやリスク分析結果等も提供されるが、影響回避のための義務などを事業者
に課している。注目すべき点はその根拠であり、地権者として使用権を与える条件となっ
ている。日本においても公有地であればこのような形でガイドラインを課すことも可能で
あり、これは公有地の有効活用という点から見ても正当な根拠があると考えられる。さら
に日本の現状を踏まえると、系統連系にあたって電力会社が設けている地域枠の条件とす
る方法も考えられる。いくつかの電力会社は風力発電の受け入れにあたって上限枠を設け
ているが、その中に地域枠というカテゴリーが設定されている場合がある。現在は資本構
成や自治体の同意などが条件となっているだけであるが、その条件としてガイドラインの
遵守を求めるという方法には可能性がある。
具体的な運用方法も柔軟な方法が可能であり、コミュニティー・パワーの定義のように
一定数を実現すれば良いとする方法や、必須項目と努力項目のようなランクを設定すると
いう方法もある。
(4)会議等の活動
年月日
名称
場所
2011年
4月22日
第1回統合研究会
法政大学サス
テイナビリテ
ィ研究教育機
構会議室
平成22年度の研究報告について
平成23年度の研究計画について
2011年
6月3日
第2回統合研究会
ISEP会議室
震災後の対応について
研究内容の共有と情報交換
公開フォーラム開催について
2011年
6月30日
7月14日
研究計画検討会
JST 社 会 技 術
研究開発セン
ター会議室
東北復興を睨んだ今年度計画の再
検討
2011年
7月20日
第3回統合研究会
RELFF
法政大学サス
テイナビリテ
ィ研究教育機
構会議室
研究進捗の報告・共有
東北復興支援への取り組み
拠点地域タスクフォースについて
秋田フォーラムについて
事業評価の手法について
24
概要
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
2011年
9月15日
再 エ ネ 事 業 評 価 東京都庁会議
ワークショップ
室
2011年
9月28日
第4回統合研究会
ISEP会議室
秋田フォーラムについて
研究進捗の報告・共有
2011年
10月26日
情報交換会
カレッジプラ
ザ秋田
秋田でのワークショップ等の開催
について
2011年
12月2日
第5回統合研究会
法政大学サス
テイナビリテ
ィ研究教育機
構会議室
秋田フォーラムの総括
研究進捗の報告・共有
出版について
2012年
2月15日
第6回統合研究会
ISEP会議室
研究進捗の報告・共有
今年度の研究のまとめについて
来年度の計画について
2012年
3月27日
第7回統合研究会
ISEP会議室
今年度の研究のまとめについて
来年度の計画について
事業評価ツールRETScreen紹介
再生可能エネルギーの事業評価に
ついて
4.研究開発成果の活用・展開に向けた状況
(1) 秋田県での再生可能エネルギー事業への取り組み
統合事業化モデル構築に向けたケーススタディとして再生可能エネルギーの導入に対し
て意欲的な動きを見せる秋田県の動向を重点的に調査した。
本研究プロジェクトでは、研究ワークショップの開催を通じて、青森や秋田などの東北地
域との繋がりを作ってきた。中でも、2011年8月に秋田県秋田市において開催した「地域の
お金とエネルギーを地域と地球に活かす」フォーラムやその前後に秋田県内の各地域で開
催したワークショップを通じて、「大潟村」「湯沢市」「風の王国プロジェクト」などの
再生可能エネルギーの普及に向けた秋田県内における取り組みと本研究プロジェクトの間
において連携関係を構築するという成果を昨年度に得ていた。この成果を受けて今年度は、
統合事業化モデル構築に向けたケーススタディとして秋田県内での動向について重点的な
調査を実施した。詳細はISEPの付録3「資料3」を参照。
(2)再生可能エネルギー地域推進体制構築事業
環境省の平成23年度地域主導型再生可能エネルギー事業化検討事業では、全国7か所の地
域の協議会が主体的となり再生可能エネルギー事業の事業化検討が行われた。また、ISEP
が事務局を務める一般社団法人 日本再生可能エネルギー協会が全国的な支援組織として、
この各地域の支援および地域コーディネーターの人材育成を実施した。その際、本研究開
発プロジェクトの知見を活かし、以下の様に地域主体の再生可能エネルギー事業の実施体
制の構築支援や人材育成のための研修を行った。
25
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
(3)ポテンシャル調査データ提供の他地域への政策展開サポート
活動の拠点地域を日本全国に展開していく際に、再生可能エネルギーのポテンシャルデ
ータを提供することで、各地域での議論をサポートした。その結果をもとに、再生可能エ
ネルギーのポテンシャルデータ提供事業の可能性について以下の検討をした。詳細は九州
大学グループの付録1を参照。
① シンプルで常に誰もが利用できる再生可能エネルギーポテンシャルデータを、インター
ネットを通して無料で提供する。
② 再生可能エネルギーの導入検討の初期段階に用いる定型データの提供
③ 統合事業化モデルにおける再生可能エネルギーポテンシャル評価事業
5.研究開発実施体制
(1)プロジェクト全体統括グループ
① 飯田哲也(環境エネルギー政策研究所、所長)
② 実施項目
・ 地域間連携制度構築支援
・ 統合事業化モデル構築
・ 統合研究会、ワークショップやフォーラムの開催
(2)再生可能エネルギー供給ポテンシャル調査グループ
① 江原幸雄(九州大学、教授)
② 実施項目
26
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
・ 再生可能エネルギー供給ポテンシャル調査
・ 他地域への政策展開サポート
・ 再生可能エネルギー供給ポテンシャルデータベースの活用法検討
(3)地域金融ポテンシャル調査グループ
① 舩橋晴俊(法政大学、教授)
② 実施項目
・ 金融ポテンシャル調査
・ 地域再生可能エネルギー生産事業金融スキームの調査と体系化
・ 事業及び金融を支える広義の社会的ネットワークの掘り起こし
(4)地域再生可能エネルギー開発アクター調査グループ
① 丸山康司(名古屋大学、特任准教授)
② 実施項目
・ 地域密着型再生可能エネルギー事業の課題抽出
・ 再生可能エネルギー事業ガイドライン
・ ステークホルダミーティング調査
6.研究開発実施者
研究グループ名:プロジェクト全体統括グループ(環境エネルギー政策研究所)
研究参加期間
氏名
○
飯田哲也
フリガナ
役職
(身分)
所属
イイダテツ
環境エネルギー政策
ナリ
研究所
所長
担当する実施項目
地域間連携制度構築、統
開始
終了
年
月
年
月
21
10
24
9
21
10
24
9
合事業モデル構築、研究
ワークショップ企画・主
催
松原弘直
山下紀明
古屋翔太
氏家芙由子
菊池卓郎
マツバラ
環境エネルギー政策
主席研究
統合事業化モデル構築お
ヒロナオ
研究所
員
よび事務局
ヤマシタ
環境エネルギー政策
主任研究
地域間連携制度構築
21
10
24
9
ノリアキ
研究所
員
フルヤ
環境エネルギー政策
主任研究
統合事業モデル構築
21
10
24
9
ショウタ
研究所
員
ウジイエ
環境エネルギー政策
研究員
統合事業化モデル構築お
22
4
24
9
フユコ
研究所
キクチ
環境エネルギー政策
研究補助
事務局(研究ワークショ
23
10
24
9
タクロウ
研究所
員
ップ支援、研究会合コー
よび事務局
27
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
ディネーション、他)
吉岡剛
田中信一郎
仁平裕之
統合事業化モデル構築
23
4
24
3
地域間連携制度構築
22
8
23
9
インター
事務局(研究ワークショ
21
10
24
3
ン
ップ支援、研究会合コー
ヨシオカ
環境エネルギー政策
研究補助
ツヨシ
研究所
員
タナカシ
環境エネルギー政策
客員研究
ンイチロウ
研究所
員
ニヒラ
環境エネルギー政策
ヒロユキ
研究所
ディネーション、他)
研究グループ名:再生可能エネルギー供給ポテンシャル調査グループ
研究参加期間
氏名
○
江原幸雄
分山達也
フリガナ
役職
(身分)
所属
エハラ
九州大学大学院
サチオ
工学研究院
ワケヤマ
九州大学大学院
タツヤ
工学府
教授
担当する実施項目
再生可能エネルギー供給
開始
終了
年
月
年
月
21
10
24
3
21
10
24
3
ポテンシャル調査
博士課程
再生可能エネルギー供給
ポテンシャル調査
研究グループ名:地域金融ポテンシャル調査グループ
研究参加期間
氏名
○
舩橋晴俊
フリガナ
役職
(身分)
所属
機構長
担当する実施項目
金融ポテンシャル調査、
フナバシ
法政大学サステイナ
ハルトシ
ビリティ研究教育機
地域再生可能エネルギー
構
生産事業金融スキームの
開始
終了
年
月
年
月
21
10
24
9
21
10
24
9
21
10
24
9
構築、事業及び金融を支
える広義の社会的ネット
ワークの掘り起こし
大門信也
ダイモン
助教
関西大学社会学部
金融ポテンシャル調査、
地域再生可能エネルギー
シンヤ
生産事業金融スキームの
構築、事業及び金融を支
える広義の社会的ネット
ワークの掘り起こし
茅野恒秀
チノ
専任講師
岩手県立大学
金融ポテンシャル調査、
地域再生可能エネルギー
ツネヒデ
生産事業金融スキームの
構築、事業及び金融を支
える広義の社会的ネット
ワークの掘り起こし
28
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
湯浅陽一
ユアサヨウ
関東学院大学文学部
准教授
イチ
金融ポテンシャル調査、
21
10
24
9
地域再生可能エネルギー
生産事業金融スキームの
構築、事業及び金融を支
える広義の社会的ネット
ワークの掘り起こし
研究グループ名:地域再生可能エネルギー開発アクター調査グループ
研究参加期間
氏名
○
丸山康司
フリガナ
役職
(身分)
所属
マルヤマ
名古屋大学大学院環
ヤスシ
境学研究科
准教授
担当する実施項目
地域アクターネットワー
開始
終了
年
月
年
月
21
10
24
9
21
10
24
9
21
10
24
9
23
4
24
9
21
10
24
9
ク調査、地域自然エネル
ギー事業開発手法
柏谷至
カシワヤ
NPO法人グリーン
イタル
エネルギー青森
副理事長
地域アクターネットワー
ク調査、地域自然エネル
ギー事業開発手法
西城戸誠
法政大学人間環境部
ニシキド
准教授
地域アクターネットワー
ク調査、地域自然エネル
マコト
ギー事業開発手法
工藤弘毅
クドウ
NPO法人グリーン
ヒロキ
エネルギー青森
理事
地域アクターネットワー
ク調査、地域自然エネル
ギー事業開発手法
籐公晴
トウ
青森大学大学院環境
キミハル
科学研究科
講師
地域アクターネットワー
ク調査、地域自然エネル
ギー事業開発手法
7.研究開発成果の発表・発信状況、アウトリーチ活動など
7-1.ワークショップ等
年月日
名称
2011年
10月26日
「地域のエネルギーと
お金を地域と地球に活
かす」フォーラム
場所
大学コンソ
ーシアムあ
きた カレ
ッジプラザ
29
参加人数
100名
概要
2010年8月のフォーラムでの
討論を引き継ぎ、地域の発展
に資する再生可能エネルギー
利用の構築に向けた制度・制
度の在り方、地域に根ざした
事業モデルの確立に向けた、
地元主体のエネルギー事業の
立ち上げ方やお金の活用につ
いて討論し、その方向性を秋
田から探った。
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
2012年
2月4日
「ますます自然エネル
ギー×秋田のポテンシ
ャルに気付いちゃう授
業」
第20回
アキタ朝大
学(レストラ
ンプラッツ)
30名
2012年
3月8日
コミュニティパワー会
議
日本科学未
来館
150名
http://www.isep.or.jp/event/
111026JST.html
若者を中心に秋田県内での自
然エネルギーの可能性に気付
くためのワークショップ。副
題「オカネもコネもなくても、
アキタの”人”から始まる!
新しい地域とエネルギーの関
係」
http://taroloves2eat.blog70.f
c2.com/blog-entry-153.html
国内外のコミュニティ・パワ
ーの実践者や専門家とこれか
らコミュニティ・パワーに取
り組む人々の対話を通じて今
後の手がかりを対話を通じて
探った。
http://www.isep.or.jp/library
/2425
7-2.社会に向けた情報発信状況、アウトリーチ活動など
【Webサイト】 http://www.isep.or.jp/jst-project.html
【書籍】自然エネルギー白書2012 http://www.isep.or.jp/jsr2012
・飯田哲也、講演多数「3.11後のエネルギー戦略、地域主体の再生可能エネルギー事業
の重要性」など
・松原弘直、講演「地域間連携による再生可能エネルギー事業への取り組み」など
・山下紀明、講演「自治体の再生可能エネルギー政策」など
・古屋翔太、講演「地域主体の再生可能エネルギー事業への取り組み」など
・松原弘直「東北復興エネルギー戦略(パネリスト)」地域に根ざした脱温暖化・環境共
生社会」研究開発領域2011年度領域シンポジウム 2011年5月16日
・丸山康司「震災後のエネルギー問題を考える」第18回 おはなし・こみしょう(お
いしさ科学館) 2011年5月20日.
・丸山康司「やわらかい環境保全」みなと環境にやさしい事業者会議(港区立エコプラ
ザ) 2011年6月7日.
・丸山康司「地域と共存する風力発電を考える」第1回新エネルギーセミナー(秋田県
産業技術センター)、あきた新エネルギー研究会 2011年7月22日.
・丸山康司Innovative Business and Social Models, 自然エネルギー専門家会議2011(日
30
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
本科学未来館)、自然エネルギー財団 2011年9月13日.
・丸山康司「事業スキームデザイン」環境省再エネ地域推進体制構築支援事業研修会(オ
ランダヒルズ会議室) 2011年12月3日.
7-3.論文発表(国内誌
4件、国際誌
件)
茅野恒秀、2012、「多様な生業戦略のひとつとしての再生可能エネルギーの可能性」(赤
坂憲雄・小熊英二編『東京/東北論』明石書店 2012年4月下旬発行予定、第6章
に収録)
大門信也、2011、「震災復興のための再生可能エネルギー事業のあり方を考える―ロー
カルなマネーの活用可能性と諸課題―」(『政經研究』97号17-28頁)
舩橋晴俊、2011、「エネルギー政策と地域社会」(『地方自治職員研修』2011年8月号
34-36頁)
丸山康司・本巣芽美 (2011) 風力発電の社会受容性--科学コミュニケーションの限界を踏
まえた方策, 年報科学・技術・社会, 20,37-55.
7-4.口頭発表(国際学会発表及び主要な国内学会発表)
① 招待講演
(国内会議
1件、国際会議
件)
② 口頭講演
(国内会議
6件、国際会議
1件)
③ ポスター発表(国内会議
件、国際会議
件)
招待講演
・丸山康司, 2011,「社会受容性の課題と解決策 ―IEA Wind Task28 を踏まえて―」第3
3回風力エネルギー利用シンポジウム(科学技術館) 日本風力エネルギー学会、2011 年
11 月 29 日.
口頭講演
・仁平ほか、環境経済・政策学会、2011、長崎
・分山達也、江原幸雄、再生可能エネルギーポテンシャル評価に基づく導入支援―北日本
地域と東京都の例―、日本地熱学会平成 23 年学術講演会、鹿児 島県、2011 年 11 月
・分山達也、江原幸雄、GIS による再生可能エネルギーポテンシャル評価 -北日本地域と
東京都の例-、第 20 回日本エネルギー学会大会,大阪府、2011 年 8 月
・Wakeyama, T. and Ehara, S., Proceedings of World Renewable Energy Congress 2011,
SCR0788 (2011)
・丸山康司 西城戸誠 柏谷至 藤公晴 , 2011, 「再生可能エネルギーと内発型発展」
環境社会学会第 43 回大会(関東学院大学)2011 年 6 月 5 日.
・西城戸誠(法政大学) 「市民風車(研究)の 10 年と今後の課題-環境社会学の「当事
者性」を巡って-」環境社会学会第 43 回、関東学院大学、2011 年 6 月 5 日
・柏谷至 丸山康司 西城戸誠 藤公晴 , 2011, 「再生可能エネルギーと内発的発展論
―青森県の風力発電事業の「担い手」をめぐって―」環境社会学会第44回大会(関西学
院大学)2011年12月11日
31
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
7-5.新聞報道・投稿、受賞等
① 新聞報道・投稿
② 受賞
③ その他
・「日経エコロジー」5月号 コメント掲載(丸山康司)
・週刊朝日 5/20号 コメント掲載(丸山康司)
・柏谷至「地域に貢献する風力発電を目指して―市民風車をめぐる現状と課題」, 『環境
と文明』 19(7):9-10, NPO法人環境文明21, 2011年7月
32
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
別添
研究開発成果に基づく政策提言
東北復興エネルギー戦略
~2020年東北・自然エネルギー100%プラン~
2011年3月11日に発生した東日本大地震とそれに続く巨大津波によって未曾有の被害を受けた
東北を復興するため、この地域に豊富に賦存する自然エネルギーを最大限活用したエネルギー戦
略を示し、公共政策として行うべき短期・中長期的な施策として、「東北復興エネルギー戦略」
と「2020年東北・自然エネルギー100%プラン」(付録1)をここに提言する。ただし、これらの戦
略とプランは、今後の国を挙げての東北復興を行うための政策策定のたたき台と位置づけられる
ものであり、今後、多くの議論の中で具体的な検討を進めて行くことになる。
【東北復興エネルギー戦略】

エネルギー戦略面での復興の必要条件
東北を復興するため、この地域に豊富に賦存する自然エネルギーを最大限活用したエネルギー
戦略として、以下の3つが必要条件と考えられる。



地域経済・産業構造の再構築のための自然エネルギー関連産業の発展促進
域内の資金循環の拡大と資金流出の低減のための域内の資源活用と輸入資源の減少
海外からの投資リスク低減ための域内の原発関連施設の最小化
 エネルギー戦略面での復興目標:2020 年自然エネルギー100%
東北地方を世界でもっとも持続可能性の高いエネルギーエリアとするために、2020年までの自然
エネルギーの域内導入目標を100%とする。そのための「東北・自然エネルギー100%プラン」(別紙
参照)を提言するが、域内の電力需要量に対する自然エネルギーによる電力供給量を100%以上と
することを数値目標とし、熱利用や輸送用燃料については、個別の政策目標をここでは定める。
 エネルギー戦略面での復興の方針と政策
(1) 東北復興・福島原発管理庁の創設
地域に根ざした復興を行うため、中央官庁からの独立性を確保した東北復興庁を創設し、エ
ネルギー戦略を含めた復興のための行政を担う。また、史上最悪レベルとなった福島第一原
発の事故処理から廃炉処理までを一貫して監督する福島原発管理庁を創設し、この地域の復
興を妨げないことを担保する。
(2) 自然エネルギーの急速な普及政策
① 自然エネルギー電力政策
 適切な固定価格買取制度の実施と、地域特別ルール(東北ローカルコンテンツ)の創設
 閣議決定した固定価格買取制度に、東北地方限定のルールを組み合わせる。
33
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書


投資回収を考慮した電源種別(コストベース)の買取価格を上乗せする。
被害の多かった特定区域では、生活再建支援の観点からさらに買取価格を上乗せ
する。
 一定比率額以上の域内投資(設置事業者もしくは部品)の利用を担保する。
② 自然エネルギー熱政策
 電力だけでなく、熱利用に関しても、グリーン熱オブリゲーション(導入義務化)を中心に
以下の措置を取ることで、自然エネルギー100%を目指す。
 一定規模以上の建築物を新築する際、地中熱及び太陽熱利用機器の設置を義務
付ける。木質バイオマスストーブの設置検討を義務付ける。
 一定規模以上の建築物を増改築する際、太陽熱利用機器の設置を義務付ける。木
質バイオマスストーブの設置検討を義務付ける。
 新たに造成する再建街区の新築建築物において、太陽熱利用機器の設置を義務
付ける。
 上記に該当しない域内の新築建築物において、販売事業者に太陽熱利用機器及
び木質バイオマスストーブについての説明を義務付ける。
③ 社会的合意形成のための政策
 小規模分散型である自然エネルギーが地域社会と対立・紛争を起こすことを避けるため
に、予防的なゾーニング(地区計画)を優先的に構築する。
 生物多様性、生活環境などに関する社会的合意形成を前提として、自然エネルギ
ー事業の立地に対してきめ細かいゾーニング設定を行う。
 ゾーニングに必要な予算を集中投入し、既存データを最大限に活用して、短期間
(1年程度)で作業を完了させる。
(3) 全分野でのエネルギー効率最大化
以下の三つの領域で、エネルギー効率の最大化を図ることとする。
① 建築物エネルギー評価の義務化
 EU レベルの建築物エネルギー評価制度を構築する。
 域内建築物の新築・増改築にあたっては、評価を義務付ける。
 一定規模以上の建築物は、評価の公表を義務付ける。
 販売する場合は、すべての建築物で評価の提示を義務付ける。
 公的資金が投入される再建建築物については、一定基準以上の評価取得を条件とする。
② 産業・業務への高効率機器の導入
 業務再建の機器購入への公的融資にあたっては、高効率機器の導入を条件とする。
 トップランナー対象機器の場合は、対象機種の導入を義務付ける。
③ コンパクト型の都市・交通システムの形成
 域内の都市計画マスタープラン、都市計画の新規策定にあたり、コンパクトシティを基本と
する。
 街区を再建する際はコンパクトシティ型とし、LRT など公共交通の導入を積極的に検討す
る。
(4) エネルギー需給体制の抜本改革
34
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究」
研究開発プロジェクト年次報告書
以上のような自然エネルギー100%の東北復興プランを実現するためには、次の四つの領域にわ
たって、エネルギー需給体制を抜本的に見直すことが必要である。
① 原子力安全規制と環境エネルギーの体制刷新(関連する中央官庁の刷新)
 原子力安全保安院と原子力安全委員会を統合し、独立性が高く強い権限を持ったプロ
集団とする
 原子力偏重のエネルギー政策を改めるため、資源エネルギー庁を改組して、新体制のも
とで環境エネルギー庁を新設する
② 域内送電網の公有化
 東北電力及び東京電力管内の送電網を国直轄機関の下での一元管理(公有化)に移
行する。
 東北電力及び東京電力は、地域ごとの発電会社と電力販売会社に分割する。
 送電網を管理する国直轄機関は、自然エネルギーの優先接続義務を負う。
③ 電力系統強化・共通化の集中的な推進
 電力系統強化・共通化計画を策定する。
 送電網を管理する国直轄機関を通じて、公的資金を集中投入し、送電網の近代化及び
北本連系の強化を短期間で進める。
 送電網を管理する国直轄機関を通じて、公的資金を投入し、周波数転換を 10 年間で完
了させる(例えば、東日本の周波数を段階的に西日本へと合わせる)。
④ 高リスクエネルギー施設の閉鎖・縮小
 海外投資の障壁となる高リスクエネルギー施設の閉鎖・縮小計画を策定する。
 福島第一原子力発電所は、第一から第六の全炉を廃炉とする。
 域内の核燃料再処理施設は、閉鎖する。
 建設中及び計画中の原子力発電所、核燃料再処理施設は、すべて白紙撤回とする。
 運転中の原子力発電所は、いったん運転停止し、東北関東大震災を受けて策定し直す
安全基準に適合改修させた後、運転再開を認める。運転期限(40 年間)は延長しない。
既存の石炭火力発電所は、段階的に天然ガス発電所へ転換する。
以上
35
付録 1
23 年度JSTポテンシャル評価グループ報告書
平成 23 年度テーマ
統合事業化モデルの他地域への政策展開サポート
統合事業化モデルにおける再生可能エネルギーポテンシャル評価の在り方検討
分山達也・江原幸雄
1. 諸言
1.1.
統合事業化モデル
本研究は、「エネルギー消費地」としての都市と「再生可能エネルギー生産地」としての
地域の特徴を相補的に生かし、大都市の再生可能エネルギー需要の拡大に連動させて、地
域マネーを活用した再生可能エネルギー供給の拡大により、都市における大幅な CO2 削減
と地域経済の活性化・雇用拡大を同時に達成する新たな政策とその事業化モデル(統合事
業化モデル)を開発することを目標とする。この中で九州大学の研究グループでは、統合
事業化モデルにおける再生可能エネルギーポテンシャル(利用可能性)評価技術の役割や
効果について研究を実施した。
この報告書に記載した内容は、すべてが JST の本プロジェクトによって実施されたもの
ではなく、九州大学グループのこれまでの再生可能エネルギーポテンシャル研究成果に基
づく社会的提言を JST プロジェクトの研究の一つとして実施したものである。JST の研究
プロジェクトとして「統合事業化モデルの他地域への政策展開サポート」という研究テー
マのもと、研究チームが活動の地域を日本全国に展開していく際に、九州大学チームでは、
再生可能エネルギーのポテンシャルデータを提供することで、研究チームと地域の間の議
論をサポートした。そしてさらに、研究プロジェクトにおいて統合事業化モデルの検討が
進む中で、九州大学チームとしては再生可能エネルギーのポテンシャルのデータ提供機能
を今後も継続させるための方策を検討した結果、事業化に思い至り、その内容を本報告書
に報告した。
再生可能エネルギーのポテンシャルのデータ提供機能の事業化の実施自体は、本来、本
研究プロジェクトの計画に含まれておらず、プロジェクト関係者の合意のもとではなく九
州大学チームの研究メンバー(分山達也)の責任のもと実施したものであるが、JST のプ
ロジェクトにおいて、今後、統合事業化モデルを検討する上で議論の助けになると考え、
本報告書で併せて報告した。
1.2.
再生可能エネルギーの利用可能性評価
世界的な再生可能エネルギーへの関心の高まりとともに、様々な観点から再生可能エネ
1-1
ルギーの導入可能性(利用可能性、ポテンシャルとも呼ばれる)を分析する研究が実施さ
れている。まず、観測やシミュレーションによって、そのエネルギー源となる気象要素の
分布傾向を明らかにすることで、再生可能エネルギーの利用可能性の分布傾向が明らかに
されている。例えばアメリカの NREL(National Renewable Energy Laboratory)では、
地理情報システム(GIS:Geographic Information System)によって、各再生可能エネル
ギーに関するデータが公開されている(National Renewable Energy Laboratory, 2011)
。
また、各地域の再生可能エネルギーの利用可能性を定量的に評価することで、利用可能な
再生可能エネルギーの分布や規模が定量的に明らかにされている。例えば、日本では各再
生可能エネルギー関連団体が再生可能エネルギーのポテンシャルを広域に評価し、日本の
再生可能エネルギーの分布を明らかにしている(JWPA,2008)
。また、NEDO 地域新エネ
ルギービジョン策定事業では、各地域がそれぞれの視点から再生可能エネルギーのポテン
シャルを定量的に評価した結果から、有望な地点や地域内で有望なエネルギーを抽出して
いる(NEDO,2011)
。そして、さらにプロジェクトごとに発電量の予測を含めた経済性評
価が実施されている。例えば、Natural Resources Canada では、再生可能エネルギーの経
済性を評価できるソフトウェアとして「RETScreen」を開発している(Natural Resources
Canada,2011)
。
上述した再生可能エネルギーの利用可能性評価の一つである「定量的な再生可能エネルギーの
利用可能性評価」は、利用可能な再生可能エネルギーの規模や分布を把握する目的から、再生可
能エネルギーの利用方策・政策を検討する際に広く実施されている。本研究では、本プロジェ
クトが目指す統合事業化モデルにおいて、この定量的な再生可能エネルギーの利用可能性
評価を効果的に位置づける必要があると考え、再生可能エネルギー利用可能性評価の在り
方について研究、考察した。なお、本研究では定量的に評価された再生可能エネルギーの
利用可能性を「再生可能エネルギーポテンシャル」と呼んだ。
2. 社会的な背景・課題
本節では再生可能エネルギーポテンシャル評価の社会的な背景や課題について述べた。
2.1.
再生可能エネルギーの大規模導入
2011 年 8 月 26 日の第 177 回通常国会において、
「電気事業者による再生可能エネルギー
電気の調達に関する特別措置法」が成立し、これによって再生可能エネルギーの導入にお
ける経済的な障壁がこれまでより緩和され、再生可能エネルギーの大規模導入が実現され
ることが期待されている。そこで、再生可能エネルギーの大規模導入の実現を想定して議
論を進める必要があると考える。
さらに、2011 年 3 月 11 日の東日本大震災以降、再生可能エネルギーへの関心と期待が
高まっており、我々のグループへも再生可能エネルギーの利用可能性を知りたいという問
い合わせを多く頂いた。そして、このような実際に再生可能エネルギーの導入を検討した
1-2
いという考えは行政だけでなく、市民、事業者など様々な人々の中で高まっており、今後
のエネルギーの導入主体が多様化する可能性が考えられる。
2.2.
課題
今後の再生可能エネルギーの大規模導入を想定した場合、新たな課題も多く発生すると
予測される。具体的には、下記の課題が想定される。
社会的課題1.再生可能エネルギーの導入初期調査プロセス(きっかけづくり)における
サポートの欠如
今後、多くの潜在的な再生可能エネルギー導入主体が存在すると考えられるが、
これらの潜在的な主体が再生可能エネルギー導入の検討を具体化するためのプロ
セスのサポートが十分でないと考える。従来、多くの場合、NEDO 地域新エネル
ギービジョン策定事業や、総務省緑の分権改革事業によって、この初期調査が支
援されていた。これらの支援は、事業が採択された一部の主体に初期調査に十分
な補助金を与える一方で、補助金事業が採択されない限り再生可能エネルギーの
導入検討さえ困難な状況を作っている側面がある。今後の再生可能エネルギーの
大規模導入を想定した場合、補助金によって一部の主体の初期調査を支援するの
ではなく、再生可能エネルギーの導入に関心のあるすべての主体が低コストで、
事業の初期調査を実施できるような社会システムづくりが必要であると考える。
社会的課題2.プロジェクトごとの最適化議論から、地域全体の最適化議論の必要性
再生可能エネルギーの大規模導入を想定した場合、従来の導入に関する社会的
問題のほかに、これまでと異なる広範な視点からの計画の検討が想定される。例
えば、都道府県レベルの地域間連携を想定した大規模な再生可能エネルギーの導
入を検討する場合、これまでの各プロジェクトの計画検討においてプロジェクト
ごとの計画の合理性が検討されていたことに対して、これからは各プロジェクト、
各市町村などの枠組みを超えて大規模な導入を想定することで各プロジェクトが
統合された地域全体としての合理性が求められる。具体的には、下記の事項を考
慮し、無秩序な開発ではなく、発電施設の導入推奨地域の設定や導入目標量・ロ
ードマップの設定などによる計画的な導入の推進が望ましいと考える。
(1)
地域に賦存する再生可能エネルギーポテンシャルの効果的な活用
(2)
環境への悪影響の減少(戦略的環境アセスメント)
(3)
発電設備に係るインフラ整備の効率化
(4)
多様なエネルギー利用の可能性の検討
1-3
社会的課題 3.再生可能エネルギーの導入における開発可能地域・条件の設定「環境影響評
価条例・ガイドライン」等の制度づくりの必要性
近年再生可能エネルギーの導入プロジェクトの実施実績が多くなるとともに、
再生可能エネルギーの適切な導入方法が議論となっている。そこで、様々な再生
可能エネルギーの利用促進方策が検討される一方で、環境保護の観点から適切な
再生可能エネルギーの導入を促進するための方策の検討も実施されている。
自治体の中には「環境影響評価条例」を策定し、風力発電の開発における環境
影響評価の実施方法を指示するものや、「風力発電の導入に関するガイドライン」
を策定して開発できない地域や開発可能な地域のゾーニングを行っている自治体
が存在する(環境省,2011)
。例えば、山形県飽海郡の遊佐町風力発電施設建設ガ
イドラインでは、ガイドラインを遵守して、調整手順を踏んで建設が可能な区域
として、海岸線から内陸部に概ね 500m までの区域を定め、それ以外の区域を建
設が望ましくない地域としている(遊佐町,2009)
。このような動きは、各自治体
がより具体的に再生可能エネルギー開発の方向性に影響を与える可能性を示して
いる。これらの「環境影響評価条例」と「風力発電の導入に関するガイドライン」
が定める内容は各自治体によって異なる。また、条例として定めるか、ガイドラ
インとして定めるかについては、その目的とするところに大きな違いはないが、
策定プロセスやその拘束力が異なる。しかし、拘束力の弱いガイドラインであっ
てもそれを無視したプロセスで導入を推し進めることは、実際には地域に理解さ
れず困難であると予想される。
これまでの「NEDO 地域新エネルギービジョン策定事業」が再生可能エネルギ
ーの利用可能性調査を行い、有望なプロジェクトの実現を目標としていたことに
対して、上述した取り組みは個別のプロジェクトの導入だけでなく、地域内に大
規模に再生可能エネルギーが導入される可能性を想定し、その適切な開発を促す
取り組みとなっていることが特徴的な点である。
統合事業化モデルにおける再生可能エネルギーポテンシャル評価の在り方を議論する上
では、以上の課題に対応することが求められると考えられる。さらに、社会的課題で指摘
した地域全体のポテンシャル、インフラといった最適化を考える上では、同時に社会的課
題3で指摘した適切な開発を促すルール作りが重要になる。それぞれの課題の解決におい
ては、このような目標とルール(規制)のバランスを考慮したビジョンが必要と考えられ
る。
3. 技術的な背景・課題
次に本節では、再生可能エネルギーの利用可能性評価における技術的な側面について述
べた。
1-4
3.1.
従来の再生可能エネルギーポテンシャル評価
これまで、NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)地域新エネル
ギー・省エネルギービジョン策定事業によって、約 15 年間、約 1900 件の地域新エネルギ
ー・省エネルギービジョンが地方自治体で策定された(NEDO,2011)
。この事業では、地
域の再生可能エネルギーポテンシャルを調査し、開発が有望なエネルギーやプロジェクト
を調査していた。再生可能エネルギーの導入が有望であると評価された地域では、発電設
備導入のための重点ビジョン調査が実施され、導入実現に結び付けられてきた。なお、
「NEDO 地域新エネルギービジョン策定事業」はこれまでに、日本全国の約 45%の市区町
村で実施された。
これらのポテンシャル調査は大まかなものであり、事業性を詳細に分析するものではな
かった。多くの市区町村ですでに、再生可能エネルギーの利用可能性が調査されたにもか
かわらず、十分に再生可能エネルギー利用が普及していない現状を受けて、プロジェクト
の初期において、再生可能エネルギーの利用可能性(ポテンシャル)を大まかに評価する
ことの意義自体を疑問視する声も上がっている。
3.2.
課題
再生可能エネルギーの利用可能性評価が、効果的に再生可能エネルギーの利用を促進す
るツールとならなかった原因の一つとして下記の課題の存在が考えられる。
技術的課題1.再生可能エネルギーの利用可能性評価に関する恣意性
再生可能エネルギーによる発電施設の導入においては、経済性や社会的な条件、
地形的な条件、自然環境への影響、景観への配慮など様々な条件によって利用可
能性が限定される。そのため、利用可能性を定量的に評価する際、それらの影響
を考慮した評価が重要である。例えば、NEDO の地域新エネルギービジョン策定
事業では、賦存するすべてのエネルギーを物理的に算出する潜在賦存量と、再生
可能エネルギーを実際に利用する際の経済的、社会的な制約を踏まえて利用可能
な量(期待可採量、利用可能量、導入ポテンシャルなどと呼ばれる。以下期待可
採量とする)を算出し、様々な条件を考慮した利用可能性を議論していた。この
期待可採量は潜在賦存量よりも現実的な値として認識され利用されている。期待
可採量が評価条件の設定によって変化しうる量であるという性質から、再生可能
エネルギーのポテンシャル評価は、評価条件が評価者によって恣意的に決定され
てしまうこと、期待可採量の前提条件から離れて評価結果が独り歩きして認識さ
れてしまうこと、などの危険性を含んでいる。再生可能エネルギーのポテンシャ
ルを評価する上では、この評価の恣意性を考慮したうえで、適切に評価結果を理
解する必要がある。
1-5
技術的課題2.再生可能エネルギーの利用可能性評価に関する方法論の議論の欠如
まず NEDO の地域新エネルギービジョン策定事業では、全国で統一的な評価基
準は設けられておらず、各市区町村の視点(評価基準)で利用可能性が評価され
ている。地域の視点や評価基準で利用可能性を評価することは、導入可能な量を
推定する上で有効な方法の一つである。しかし、市区町村ごとの独自の基準で評
価が実施された結果、周辺地域と比較した場合それぞれの市区町村がどのような
特徴を有しているのか明らかにされていない。
再生可能エネルギーのポテンシャルを評価する上で、何らかの基準においてそ
の評価条件を設定しなければならないが、そのため上述した通り評価結果は恣意
的になることが予測される。明確な基準を設定することは困難なことであるが、
この恣意性への対応について十分な議論がなされないまま、利用可能性を評価し
さえすればよいといった状況が生まれたことによって、蓄積された調査の意義が
低くなってしまったとも考えられる。
技術的課題3.単一の評価結果への依存
再生可能エネルギーのポテンシャルの評価結果がその評価前提の設定によって、
恣意的に変化してしまうという特徴から、再生可能エネルギーのポテンシャルは
様々な前提、視点から評価を実施し、それらを比較することが、適切な可能性の
理解のために必要であると考えられる。しかし、現状では、すでに過去に再生可
能エネルギーの利用可能性評価が実施された地域では、
「うちの地域は既に再生可
能エネルギーの利用可能評価、調査は実施済みなので、これ以上の調査は必要な
い」と考えている場合がある。
また、再生可能エネルギーのポテンシャルの評価結果がその評価前提の設定に
よって、恣意的に変化してしまうという特徴が軽視され、評価前提から離れて評
価結果が独り歩きしてしまっている現状がある。評価者は、再生可能エネルギー
のポテンシャル評価の恣意性から、評価者は前提条件や、但し書きを明示する等
配慮しているが、データ利用者はその本来限定的な条件下の評価結果を拡大解釈
して、さらには論理展開の根拠としてしまう恐れがある。
本来は、ポテンシャル評価の恣意性のため、ポテンシャル評価はその結果の利
用目的に応じて、適切に評価前提・条件を設計することが求められる。
技術的課題4.評価コスト
前述した単一の再生可能エネルギーのポテンシャル評価結果への依存が発生す
る要因の一つは、現状の再生可能エネルギー評価コストの高さであると考えられ
る。例えば、NEDO 地域新エネルギービジョン策定事業は、1 年間でポテンシャ
1-6
ル評価の他に様々な調査、会議を実施するが、その事業費は 300 万円程度である。
そのため、ポテンシャル評価結果が前提によって変化するとわかっていながらも、
再生可能エネルギーのポテンシャル評価を再度実施(発注)するには、経済的な
ハードルが大きくなっている現状があると考えられる。この 300 万円という評価
コストは初期検討のためのデータとしては非常に高額であり、かといってプロジ
ェクトの事業性検討のためのデータとしては不十分という、「帯に短し襷に長し」
なデータとなってしまっている。
4. 課題の整理と解決策
上述した課題から、再生可能エネルギーポテンシャルのポテンシャル評価は、今後「き
っかけづくり」、「地域全体の最適化議論」、「ゾーニングなど地域政策検討」など様々な場
面で必要とされる可能性がある。しかし、現状では、再生可能エネルギーポテンシャル評
価の恣意性と、それについての議論が不十分であること、さらに評価コストが高額である
ことが相まって、単一の評価結果への依存という状況が発生している。
本プロジェクトが検討する統合事業化モデルにおいて、これらの状況を打開する機能を
付加する解決策として、本研究では、①再生可能エネルギーポテンシャル評価データ提供
機能の事業化による、適切な価格のデータを、一般的に提供すること、を検討した。
解決策1.再生可能エネルギーポテンシャル評価データ提供機能の事業化
再生可能エネルギーの導入が多様な主体によって検討されるためには、上述し
たデータの提供が、現状の国の事業や補助金に依存したものではなく、一般的に、
さらに安価に利用可能である必要があると考える。そこで、上述したデータ提供
機能を事業化し継続させることが必要である。
解決策2.再生可能エネルギーポテンシャル評価のマーケティング
データの提供事業は、継続可能なビジネスモデルとなり得ると考える。
現状では再生可能エネルギーのポテンシャルデータが補助金の調査の一つとし
て実施されるため、高価になってしまう。また、評価の恣意性・そして一つの評
価結果への依存性から、再生可能エネルギーの導入検討の初期段階においても高
価な実測データに基づく評価結果を要求してしまうと、さらにデータが高価にな
ってしまう。
これに対して、提案するデータ提供事業では、再生可能エネルギーポテンシャ
ルデータの利用区分(利用段階;導入初期段階、事業計画の立案など)に応じて、
適切なデータの精度と価格を設定することによって、導入初期の安価なきっかけ
ポテンシャルデータと、オーダーメードに近い高価なポテンシャルデータの両方
1-7
を提供する継続可能なビジネスモデルを構築することが可能になると考える。
そこで、多様な需要に応えながら、適切なコストで提供するために、本研究で
は下記のように再生可能エネルギーポテンシャル評価結果データの利用段階を区
分し、それぞれの段階に必要なデータを提供することを提案した。
データ1.シンプルで常に誰もが利用できる再生可能エネルギーポテンシャルデ
ータを、インターネットを通して無料で提供する(図 1)。
データ2.再生可能エネルギーの導入検討の初期段階に用いる定型のポテンシャ
ルデータを安価に、素早く提供する(図 2)
。
データ3.再生可能エネルギーの導入調査の初期段階に用いる受注生産型のポテ
ンシャルデータを安価に、素早く提供する(図 3)
。
データ4.政策検討に用いるカスタマイズ可能な高付加価値のポテンシャルデー
タを、じっくり検討して、提供する(図 4)
。
図 1 再生可能エネルギーポテンシャルの無料データ
1-8
図 2 再生可能エネルギーの導入検討の初期段階に用いる定型データ
図 3 再生可能エネルギーの導入調査の初期段階に用いる受注生産型データ
1-9
図 4 政策検討に用いるカスタマイズ可能な高付加価値のポテンシャルデータ
5. ポテンシャルデータの提供と考察(実践からの考察)
24 年度の研究では、
「統合事業化モデルの他地域への政策展開サポート」という研究テー
マのもと、研究チームが活動の地域を日本全国に展開していく際に、再生可能エネルギー
のポテンシャルデータを提供することで、研究チームと地域の間の議論をサポートした。
本節では、その結果をもとに、上述した再生可能エネルギーのポテンシャルデータ提供事
業の可能性について考察した。
5.1.
データ1.シンプルで常に誰もが利用できる再生可能エネルギーポテンシャルデータ
を、インターネットを通して無料で提供する。
九州大学がこれまでに研究開発を行ってきた再生可能エネルギーポテンシャルの評価デ
ータを用いて、日本の各市区町村のポテンシャルの分布傾向を明らかにした。日本全国に
おいて再生可能エネルギーのポテンシャルを一定条件で評価することで、各市区町村の特
徴を客観的に分析することが可能になる。市区町村ごとの評価であるため、直観的にポテ
ンシャルの分布傾向を把握できる印象的なデータである一方で、大まかな評価であること
に注意する必要がある。評価法の詳細は、「資料 Q-1」に示した。
本研究プロジェクトでは、この一定条件下で評価した各市区町村のポテンシャルデータ
をシンポジウムや講演会での発表に利用した。その結果、シンポジウムでは、多くの質問
1-10
やコメントを頂き、詳細なデータを見たいというコメントも多く頂いた。この結果を受け
て、このような直観的にポテンシャルの分布傾向を把握できるデータが、地域の再生可能
エネルギーへの関心を高める上で効果的であると考えた。
本研究プロジェクトでは、さらに MapServer(WebGIS システム)を用いた全国ポテン
シャルデータの公開システムの試作を行った。このシステムを用いて、シンポジウムに限
らず、インターネット上で、全国データを公開することで多くの市民の再生可能エネルギ
ーへの関心を高める効果が対される。
このような全国的な再生可能エネルギーのポテンシャルデータは、データの精度として
は粗い大まかなものであり、具体的な再生可能エネルギーの発電設備の導入を検討する上
ではその精度は不十分である。しかし、地域の再生可能エネルギーへの関心を高める上で
効果的であると考えられる。そこで、再生可能エネルギーのポテンシャルデータの提供事
業を計画する場合、このような大まかなデータをこれまでのプロジェクトで検討した
WebGIS システムを用いて無料で公開することができれば、大きな広報効果が期待できる
と考える。
5.2.
データ2.再生可能エネルギーの導入検討の初期段階に用いる定型データの提供
本年度では、上述した再生可能エネルギーのポテンシャルデータ区分において、
「データ
2.再生可能エネルギーの導入検討の初期段階に用いる定型データ」について、実験的に
データの提供を行った(図 5)
。データの詳細は、
「資料 Q-2」に示した。
データ提供について、一般的な広報は行わず、既存の研究ネットワークからの問い合わ
せに応じる形でデータの提供を行った。提供は無料で行ったこともあり、多くの問い合わ
せを頂き、データの需要があることを実感した。
この定型データの提供は、各地域において具体的な検討を始める上での、きっかけのデ
ータとして利用していただいた。例えば、この定型データをもとに、
「経済産業省スマート
コミュニティ構想普及支援事業」への補助金申請の検討が実施された事例も存在した。定
型データの存在が、地域に賦存する再生可能エネルギーの理解を深める役割を担うととも
に、地域のネットワーク構築のきっかけとしても有効であると考えられる。
本プロジェクトでは、この定型データをオープンソースの GIS ソフトウェア(GRASS
GIS)と無償で提供されている国土数値情報を用いることで、低コストでの提供を可能にし
た。また、この導入検討の初期段階に用いる定型データを、今後、再生可能エネルギーに
関心のある潜在的な主体に素早く提供することが、再生可能エネルギーの大規模導入を考
える上で非常に重要であると考える。このような初期データの利用者を、再生可能エネル
ギーの導入検討の窓口・助言者として適切にサポートすることも、再生可能エネルギーポ
テンシャルデータ提供事業者の役割の一つとして期待される。そのサポートの中では、
「デ
ータ3.再生可能エネルギーの導入調査の初期段階に用いる受注生産型のポテンシャルデ
ータを安価に、素早く提供する」
、「データ4.政策検討に用いるカスタマイズ可能な高付
1-11
加価値のポテンシャルデータを、じっくり検討して、提供する」といったさらなる需要も
存在すると考える。
図 5.ポテンシャル定型データの提供状況
6. 統合事業化モデルにおける再生可能エネルギーポテンシャル評価事業の提
案
6.1.
コンセプト
本年度の研究プロジェクトにおけるポテンシャルデータの提供の実践を受けて、改めて
①再生可能エネルギーポテンシャルデータの需要が存在すること、②無料の大まかなデー
タ提供、安価で素早いデータ提供など、それぞれのプロジェクトの検討段階に応じたデー
タ提供が必要であることなどが確認できた。さらに、③これらのデータ提供を事業として
成立させることで初めて、大規模な再生可能エネルギーの導入を後押しできると考えられ
る。また、このデータ提供事業は、事業として成立することができた場合、再生可能エネ
ルギーの導入に関心のある主体が初めにアクセスする窓口となりうる可能性を含んでおり、
その結果、再生可能エネルギーの導入に関心のある主体に対して、適切な情報提供(地域
に利するエネルギー事業のアイデア)などのインプットへつなげることが可能になると考
えられる。そのため、本プロジェクトが掲げる統合事業化モデルにおいて、再生可能エネ
ルギーポテンシャルのデータ提供事業を位置づけることは、非常に重要な意味を持つと考
1-12
察された。
6.2.
ポテンシャルデータ提供事業の事業化
九州大学再生可能エネルギーポテンシャル評価グループでは、以上の考察の元、将来的
な再生可能エネルギーのポテンシャルデータ提供事業を持続可能な事業として成立させる
ため、試験的に再生可能エネルギーのポテンシャルデータ提供事業をスタートさせた。九
州大学再生可能エネルギーポテンシャル評価グループでは、
「株式会社自然エネルギー・ロ
ーカル・エンジニアリング」を平成 24 年 4 月 5 日に設立し、平成24年度中に再生可能エ
ネルギーポテンシャル評価データの提供事業をスタートさせるため、ビジネスモデルの検
討を実施中である。
※注意:この起業プロジェクトは特定の研究予算の結果として実施されたものでなければ、
JST プロジェクトの成果として位置づけるものでもない。しかし、このビジネスモデルは
JST プロジェクトにおける議論で得られた知見が活用されている。また、起業プロジェク
トの実証を通して、今後の JST プロジェクトへのフィードバックが期待されることから、
九州大学の再生可能エネルギーポテンシャル評価研究に基づく社会的提言のために、記載
した。
7. 結言
ポテンシャルデータのマーケティング、データ提供の実践を通して、再生可能エネルギ
ーポテンシャルデータへの需要が大きく存在し、将来の再生可能エネルギーの統合事業化
モデルにおいて、ポテンシャルデータの提供事業を継続的な事業として成立させる必要が
あると考察した。また、ポテンシャルデータの提供事業を継続的な事業として成立させる
ための重要なポイントは、そのデータ提供のマーケティング(再生可能エネルギー導入検
討のそれぞれの段階に応じて適切な価格でデータを提供すること)であると考えた。
しかし、本プロジェクトでは、統合事業化モデルの検討において、ポテンシャルデータ
の提供事業の事業化は本来の目的と必ずしも一致しないこと(本来の目的は地域関連携の
再生可能エネルギーのポテンシャルを明らかにすることである。)、ポテンシャルデータの
提供事業の事業化が本研究プロジェクトのアジェンダとして合意されているわけではない
こともあり、このポテンシャルデータの提供事業の事業化の部分は JST のプロジェクトと
して実施しなかった。しかし、九大グループの個人的な研究的関心から JST プロジェクト
の終了とともに、JST プロジェクトにおける研究の次のステップとして、起業プロジェク
トを実施するに至り、JST プロジェクトへのフィードバックが期待されることから、本報
告書に該当部分を記載した。
1-13
参考文献
JWPA(日本風力発電協会) (2008):風力発電長期導入目標値と風力発電導入拡大への要望,
( http://jwpa.jp/pdf/50-04teigen2008.pdf ).
環境省(2011):風力発電施設にかかる環境影響評価の基本的考え方に関する検討会報告書,
(http://www.env.go.jp/policy/assess/2-5windpower/index.html)
National Renewable Energy Laboratory (2011):The Dynamic Maps, Geographic
Information System (GIS) Data and Analysis Tools Web site,
( http://www.nrel.gov/gis/ ).
Natural Resources Canada (2011):RETScreen International, ( http://www.retscreen.net/ ).
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)(2011):地域新エネルギー・省エネルギービジ
ョン策定等事業,( http://www.nedo.go.jp/activities/DA_00320.html ).
遊佐町(2009):遊佐町風力発電施設建設ガイドライン,
(http://www.town.yuza.yamagata.jp/Files/1/6549/html/6549.html)
1-14
資料 Q-1 日本の再生可能エネルギーポテンシャルの定量的評価
1
緒言
世界的な再生可能エネルギーへの関心の高まりとともに、様々な観点から再生可能エネ
ルギーの導入可能性(利用可能性)を分析する研究が実施されている。例えばアメリカの
NREL(National Renewable Energy Laboratory)では、地理情報システム(GIS:
Geographic Information System)によって、各再生可能エネルギーに関するデータが公開
されている(National Renewable Energy Laboratory, 2011)
。NREL では、観測やシミュ
レーションによって、そのエネルギー源となる気象要素の分布傾向を明らかにしている。
また、日本では近年、環境省が各再生可能エネルギー関連団体の協力のもと再生可能エネ
ルギーの利用可能性評価を実施している(環境省,2011)。この評価では、各地域の再生
可能エネルギーの利用可能性を定量的に評価することで、利用可能な再生可能エネルギー
の分布や規模が定量的に明らかにされている。この他には、NEDO 地域新エネルギービジ
ョン策定事業や、総務省緑の分権改革事業では、各地域がそれぞれの視点から再生可能エ
ネルギーのポテンシャルを定量的に評価した結果から、有望な地点や地域内で有望なエネ
ルギーを抽出している(NEDO,2011;環境省,2012)。さらに Natural Resources Canada
では、再生可能エネルギーの経済性を評価できるソフトウェアとして「RETScreen」を開
発し、上述した利用可能性の分析の次の段階として、プロジェクトごとに発電量の予測を
含めた経済性評価を可能にしている(Natural Resources Canada,2011)。
この中で環境省の評価のような「定量的な再生可能エネルギーの利用可能性評価」は、
利用可能な再生可能エネルギーの規模や分布を把握する目的から、再生可能エネルギーの
利用方策・政策を検討する際に広く実施されている。本論ではこの「定量的な再生可能エ
ネルギーの利用可能性評価」を日本で実施した結果から、日本の再生可能エネルギーの利
用可能性について議論したい。
「定量的な再生可能エネルギーの利用可能性評価」では、対象地域に対して、どのよう
な地域に、どのようにして再生可能エネルギーを導入するか条件を設定し、そこから得ら
れるエネルギーを概算することで、再生可能エネルギーの利用可能性を定量的に評価する。
本論では定量的に評価された利用可能性をポテンシャルと呼ぶ。ここで注意が必要なのは、
評価結果が算出方法の条件によって変化し得ることである。そこで本論では特に、その再
生可能エネルギー発電設備をどのように利用して(発電設備の利用)、どのような地域に
導入するのか(対象地域の選定)についてのシナリオの変化による評価結果の変化につい
て、分析を加えることで、評価されたポテンシャル量の位置づけを把握しようと試みた。
本論では、風力、中小水力、家庭向け太陽光、土地に設置する大規模な太陽光のポテンシ
ャルを評価した。
1-15
2
風力ポテンシャル評価
2.1
風力ポテンシャルの算出方法
まず、風力発電の年間発電電力量は、式(1)に示すように、風車の出力曲線とワイブル分
布で仮定された風速の出現率を用いて算出することができる。式(1)は、年間発電量の算出
式(牛山泉,2005)を基に、著者がカットイン風速からカットアウト風速間の風速による
年間発電電力量の算出式として変換したものである。
E pwg =
V2
∑ ( P(V ) × f (V )) × 8760
(1)
V =V1
E pwg :
風力年間発電電力量 (kWh/year)
V
風速 (m/s)
:
V1 :
カットイン風速 (m/s)
V2 :
カットアウト風速 (m/s)
P(V):
出力曲線 (kW)
f(V) :
風速出現率(ワイブル分布)(-)
8760:
時間 (hours/year)
ここで、風車の出力曲線 P(V)と、風速の出現率(ワイブル分布)f(V)は、以下のように表
現される。
P(V ) =
1
ρAV 3C p
2
k V 
f (V ) =  
cc
k −1
 V  
exp −   
  c 
(2)
k
(3)
ただし、
ρ
:
空気密度(kg/m3)
A
:
風車の受風面積 (m2)
c
:
尺度係数(-)
k
:
形状係数(-)
Cp :
パワー係数(出力係数)
(-)
1-16
日本の陸上において、定格出力 2000kW の風車を 10D×10D(D;ロータ直径)の間隔
(対象地域に卓越風向がない場合の風車の設置密度の推奨値)で風車を設定した場合、風
力発電によって発電される年間発電電力量の合計量(ポテンシャル)は、式(1)を用いて、
約 1,770,000 GWh/year と評価された。本論では、式(1)から風力エネルギーの年間発電電
力量を算出するために、風況データを NEDO の局所風況モデルから引用した(NEDO,
2006)
。
2.2
風力ポテンシャル評価結果と分析
ここで、上述したシナリオ(定格出力 2000kW の風車を 10D×10D(D;ロータ直径)
の間隔で設置)における日本の陸上の風力ポテンシャル(約 1,770,000 GWh/year)に対し
て、評価前提の変化による評価結果の変動について分析する。風力ポテンシャルの算出で
は、まず風力発電設備の利用に関して、風車の定格出力や風車の設置間隔の前提(シナリ
オ)によって評価結果が大きく変化する。例えば、定格出力については 2000kW(ロータ
直径 D=90m)と 1000kW(ロータ直径 D=60m)の 2 つ、風車の設置間隔については、
対象地域に卓越風向がない場合の風車の設置密度の推奨値である 10D×10D(D;ロータ直
径)と、対象地域に卓越風向がない場合の風車の設置密度の推奨値である 10D×10D の 2
つを想定し風力ポテンシャルを評価した場合、4 つのシナリオにおけるポテンシャルの評価
結果は、定格出力 2000kW の風車を 10D×10D(D;ロータ直径)の間隔で設置のシナリ
オを基準として、約 0.83 倍~2.39 倍程度に変化する。次に、風力発電の導入対象地域の選
定条件を設定した場合、評価結果は大きく変化する。
Fig. 1 に、対象地域の標高、傾斜、年間平均風速、居住地域からの距離、道路からの距離
についてそれぞれの条件を設定した場合の日本の風力ポテンシャルの変化を示した。Fig. 1
では、上述したシナリオ(定格出力 2000kW の風車を 10D×10D(D;ロータ直径)の間
隔で設置)における日本の風力ポテンシャル(約 1,770,000 GWh/year)に対して、すべて
の条件を満たし有望と考えられる風力ポテンシャルは約 158,000 GWh/year となった。こ
れらの結果から、日本の陸上風力のポテンシャルは、導入の有望性が高い地域の風力ポテ
ンシャルとして約 158,000 GWh/year、そしてこの量は、設備容量や設置間隔に関するシナ
リオによって約 0.83 倍~2.39 倍程度に変化し得る量であると考えられる。なお、この風力
ポテンシャル約 158,000 GWh/year は日本全国の 2010 年度発電端電力量 976,300GWh(経
済産業省資源エネルギー庁,2011)の 16.2%に相当する。
この導入の有望性が高い地域の風力ポテンシャル約 158,000 GWh/year の各市町村にお
ける分布を Fig. 2 に示した。Fig. 2 では日本の有望な陸上の風力ポテンシャルが、北海道
や東北など北日本地域の市区町村に多く賦存している傾向を示している。また、北日本地
域以外にも北陸、近畿、中国、四国、九州と広く風力ポテンシャルは賦存しているが、同
じ地域内であっても評価された有望な風力ポテンシャルの量は市区町村によって大きく変
1-17
化する傾向を示している。Fig. 2 に示した有望な地域であっても、実際に風力発電の導入を
検討する際には、地域内でより詳細な調査が必要である。
Fig. 1 風力発電の土地属性に関するシナリオ分析結果
Fig. 2 風力ポテンシャルの市区町村分布
1-18
3
中小水力ポテンシャル評価
3.1
中小水力ポテンシャルの算出方法
中小水力発電の年間発電電力量は、式(4)に示すように、河川流量の位置エネルギーから
算出することができる。式(4)は Natural Resources Canada(2009)による水力発電出力
の算出式を基に年間発電電力量の算出式として変換したものである。
[
]
E phg = r × g × Q × H g − (hhydr + htail ) × et × e g × 8760 × 1000
E phg :
(4)
中小水力年間発電電力量 (kWh/year)
ρ
:
水の密度 (kg/m3)= 1000kg/m3
g
:
重力加速度(m/s2)
Q
:
流量 (m3/s)
Hg :
総落差 (m)
h hydr :
流動摩擦による水頭損失 (m)
h tail :
放水路の水頭損失 (m)
et
:
水車効率 (-)
eg
:
発電効率 (-)
8760:
時間 (hours/year)
1000:
単位換算 (W → kW)
日本において、各河川の低水流量の 20%を中小水力発電に利用すると想定した場合、中
小水力発電によって発電される年間発電電力量の合計量(ポテンシャル)は、式(4)を用い
て、約 245,000 GWh/year と評価された。なお、低水位とは 1 年間のうち 275 日以上その
水位を下回らない水位であり、低水流量はその水位において流れる流量をさす。本論では、
各河川の低水流量を算出するため、日本全国で河川流量のシミュレーションを行った。シ
ミュレーションにはGRASS GISのr.watershedモジュール(Neteler and Mitasova,2007)
を使用した。r.watershedモジュールを用いて 50mメッシュの標高データ(株式会社オーク
ニー、2004)と国土数値情報気候値データ(国土交通省国土政策局国土情報課,2011)の
降水量のデータから、年間降水量の 80%が河川に流出すると想定した場合の年間の累積流
量を推定した。さらに低水流量を年間の累積流量の 40%とした。また、式(4)において総落
差H g から流動摩擦による水頭損失h hydr 、放水路の水頭損失h tail を差し引いたものを有効落
差として、総落差H g の 85%とした。
1-19
3.2
中小水力ポテンシャル評価結果と分析
ここで、上述したシナリオ(取水率 20%、低水流量率 40%を想定)における日本の中小
水力ポテンシャル(約 245,000 GWh/year)に対して、評価前提の変化による評価結果の変
動について分析する。中小水力ポテンシャルの算出では、まず中小水力発電設備の利用に
関して、年間の累積流量に対する低水流量率、低水流量に対する発電への取水率の前提(シ
ナリオ)によって評価結果が大きく変化する。例えば、年間の累積流量に対する低水流量
率については、日本では低水量率はそれぞれの河川が 20%~60%(平均 40%)の値をとる(小
水力利用推進協議会,2006)ことから低水流量率を①30%、②40%、③50%の 3 つ、また
取水率については①20%、②40%の 2 つを想定した場合、これらを組み合わせた 6 つのシ
ナリオにおける中小水力ポテンシャルの評価結果は、取水率 20%、低水流量率 40%を想定
のシナリオを基準に 0.74 倍~2.51 倍程度変化する。次に、中小水力発電の導入対象地域の
選定条件を設定した場合、評価結果は大きく変化する。Fig. 3 では、中小水力発電の導入対
象地域の標高、有効落差、発電出力、道路からの距離について、それぞれの条件を設定し
た場合の日本の中小水力ポテンシャルの変化を示した。Fig. 3 では、上述したシナリオ(取
水率 20%、低水流量率 40%を想定)における日本の中小水力ポテンシャル(約 245,000
GWh/year)に対して、上述したすべての条件を満たし、有望と考えられる中小水力ポテン
シャルは約 130,000 GWh/year となった。これらの結果から、日本の中小水力ポテンシャ
ルは、導入の有望性が高い地域の中小水力ポテンシャルとして約 130,000 GWh/year が賦
存し、そしてこの量は、河川の低水流量率、発電への取水率に関するシナリオによって約
0.74 倍~2.51 倍程度に変化し得る量であると考えられる。なお、この中小水力ポテンシャ
ル約 130,000 GWh/year は日本全国の発電端電力量 976,300GWh の 13.3%に相当する。
この導入の有望性が高い地域の中小水力ポテンシャル約 158,000GWh の各市町村におけ
る分布を Fig. 4 に示した。Fig. 4 では日本の有望な中小水力ポテンシャルが、東北、中部、
中国、四国、九州などの市区町村に多く賦存する傾向を示している。風力ポテンシャルの
分布傾向と比較すると、それぞれの地域において大きな中小水力ポテンシャルを有する市
区町村がより局地的に賦存している傾向を示している。なお、本論の評価では、既に水力
発電が存在する地点のポテンシャルを控除していない。
1-20
Fig. 3 中小水力ポテンシャルの土地属性に関するシナリオ分析結果
Fig. 4 中小水力ポテンシャル市区町村分布
1-21
4
太陽光ポテンシャル評価
4.1
太陽光ポテンシャルの算出方法
まず太陽光発電の年間発電電力量は、式(5)に示すように太陽光発電アレイ面積、平均ア
レイ効率と傾斜面日射量の日積算値から算出することができる。
式(5)は Natural Resources
Canada(2009)に示された 1 日の発電電力量の算出式を基に年間の発電電力量の算出式に
変換したものである。
( 5 )
E ppg = S × η p × H t × 365
E ppg
: 太陽光年間発電電力量 (kWh/year)
S
: アレイ面積 (m2)
ηp
: 平均アレイ効率 (-)
Ht
: 日積算傾斜面日射量 (kWh/m2/day)
365
: 1 年間の日数(day/year)
ここで、平均アレイ効率はモジュール温度の関数となる。
η p = η r [1 − β p (Tc − Tr )]
(6 )
ただし、
ηr
: モジュール効率 (-)
βp
: 温度係数(-)
Tc
: 平均モジュール温度 (K)
Tr
: 基準温度 (K)(=25℃)
さらに、モジュール温度(最適傾斜角における)は、下記によって求めることができる。
また、モジュール効率、公称動作セル温度NOCTや温度係数β p はPVモジュールのタイプに
よって決まる値である。
Tc − Ta = (219 + 832 K t )
Ta
: 周囲温度 (K)
Kt
: 晴天指数 (-)
NOCT − 20
800
(7)
1-22
NOCT : 公称動作セル温度 (K)
日本において、各家庭が 10m2(約 1kW)の太陽光発電設備を導入した場合、太陽光発
電によって発電される年間発電電力量の合計量(ポテンシャル)は、
式(5)を用いて、
約 71,800
GWh/year と評価された。また、日本の土地の 0.1%に大規模な太陽光発電設備を設置した
場合、太陽光発電によって発電される年間発電電力量の合計量(ポテンシャル)は、式(5)
を用いて、約 55,300 GWh/year と評価された。本論では、日本の各地点の傾斜面日射量を
算出するために、GRASS GISのr.sunモジュール(Neteler and Mitasova,2007)を使用
してシミュレーションを行った。r.sunモジュールでは、周辺地形の影の影響を考慮した上
で、標高データから任意の日時・方位・傾斜角における直達日射量、散乱日射量、反射日
射量、全天日射量を算出できる。なお、平均アレイ効率の算出では、Natural Resources
Canada(2009)に示された多結晶シリコン(Poly-Si)太陽光パネルの利用を想定し、η r =0.11、
NOCT=45℃、β p =0.40 として算出した。また、世帯数の分布は、1kmメッシュ世帯数デ
ータ(株式会社オークニー、2004)を利用した。シミュレーションにあたって、日本の気
象官署における大気混濁係数を理科年表(国立天文台,2010)から引用し、日本全国で逆
距離加重法によって補完して用いた。
4.2
家庭向け太陽光ポテンシャル評価結果と分析
ここで、上述した家庭向け太陽光発電のポテンシャル(約 71,800 GWh/year)に対して
評価前提の変化による評価結果の変動について分析する。家庭向け太陽光ポテンシャルの
算出では、家庭向け太陽光発電設備の利用に関して、1 世帯当たりの太陽光発電の導入容量
の想定によって算出結果は大きく変化する。例えば、1 世帯当たりの太陽光発電の導入容量
、②15m2(約 1.5kW)
、③20m2(約 2kW)
、④25m2(約 2.5kW)
について、①10m2(約 1kW)
の 4 つのシナリオを想定し家庭向け太陽光発電のポテンシャルを算出した場合、それぞれ
のシナリオにおける評価結果は、1 世帯当たりの太陽光発電の導入容量 10m2(約 1kW)の
シナリオを基準に約 1~2.5 倍に変化する。なお、本論では、戸建住居数ではなく世帯数の
データをもとに家庭向け太陽光ポテンシャルを算出していること、近年、集合住宅におい
ても各世帯に戸別に 1kW程度の太陽光発電を設置する導入方法がとられていることから、1
世帯当たりの導入容量は控えめな値を設定した。次に、家庭向け太陽光発電の導入対象地
域の選定条件を設定した場合、評価結果は大きく変化する。Fig. 5 に、対象地域の標高、水
平面全天日射量の日積算量年平均値(シミュレーション値)
、傾斜面方位、道路からの距離
についてそれぞれの条件を設定した場合の家庭向け太陽光ポテンシャルの変化を示した。
)
Fig. 5 では、上述したシナリオ(1 世帯当たりの太陽光発電の導入容量 10m2(約 1kW)
における日本の家庭向け太陽光ポテンシャル(約 71,800 GWh/year)に対して、すべての
条件を満たし有望と考えられる家庭向け太陽光ポテンシャルは約 51,600 GWh/yearとなっ
た。これらの結果から、日本の家庭向け太陽光ポテンシャルは、導入の有望性が高い地域
1-23
のポテンシャルとして約 51,600 GWh/year賦存し、そしてこの量は、1 世帯当たりの導入
容量に関するシナリオによって約 1 倍~2.5 倍程度に変化し得る量であると考えられる。な
お、この家庭向け太陽光ポテンシャル約 51,600 GWh/yearは日本全国の発電端電力量
976,300GWhの 5.29%に相当する。
この導入の有望性が高い地域の家庭向け太陽光ポテンシャル約 51,600 GWh/year の各
市町村における分布を Fig. 6 に示した。Fig. 6 では日本の有望な家庭向け太陽光ポテンシ
ャルが、東日本の太平洋側や瀬戸内海の周辺と九州地域の市区町村に多く賦存している傾
向を示している。特に、世帯数の分布を反映して都市部に大きなポテンシャルが評価され
た。すべての世帯が持ち家を所有しているとは限らないが、近年集合住宅においても各世
帯に戸別に 1kW 程度の太陽光発電を設置する導入方法がとられており、都市部での太陽光
発電の利用が期待される。なお、本論では有望な家庭向け太陽光ポテンシャルとして日射
量の大きい地域を選択して表示したため、日本海側の市区町村においてポテンシャルが小
さく評価される結果となっているが、これはこれら日射量が小さい地域に家庭向け太陽光
の利用可能性が存在しないことを示すものではない。
Fig. 5 家庭向け太陽光ポテンシャルの土地属性に関するシナリオ分析結果
1-24
Fig. 6 家庭向け太陽光ポテンシャルの市区町村区分
4.3
大規模太陽光ポテンシャル評価結果と分析
こ こ で 上 述 し た 土 地 に 設 置 す る 大 規 模 な 太 陽 光 発 電 の ポ テ ン シ ャ ル ( 約 55,300
GWh/year)に対して評価前提の変化による評価結果の変動について分析する。大規模太陽
光ポテンシャルの算出では、太陽光発電設備の利用に関して、土地利用率の想定によって
算出結果は大きく変化する。例えば、日本の土地の利用率について、①0.1 %、②1 %、③5 %、
④10 %を想定し大規模太陽光ポテンシャルを算出した場合、それぞれのシナリオにおける
評価結果は、シナリオ①(土地利用率 0.1 %)を基準に約 1~100 倍に変化する。大規模な
太陽光のポテンシャルは土地利用率の設定によって大きく見積もることも可能だが、その
実現可能性に注意する必要がある。次に、大規模太陽光発電の導入対象地域の選定条件を
設定した場合、評価結果は大きく変化する。Fig. 7 に、対象地域の標高、水平面全天日射量
の日積算量年平均値(シミュレーション値)
、傾斜面方位、道路からの距離、人口密度につ
いてそれぞれの条件を設定した場合の大規模太陽光ポテンシャルの変化を示した。Fig. 7 で
は、上述したシナリオ①(土地利用率 0.1 %)における日本の大規模太陽光ポテンシャル(約
55,300 GWh/year)に対して、すべての条件を満たし有望と考えられる大規模太陽光ポテ
ンシャルは約 18,300 GWh/year となった。これらの結果から、日本の大規模太陽光ポテン
シャルは、導入の有望性が高い地域のポテンシャルとして約 18,300 GWh/year 賦存し、そ
してこの量は、土地利用率に関するシナリオによって約 1 倍~100 倍程度に変化し得る量で
1-25
あると考えられる。なお、この大規模太陽光ポテンシャル約 18,300 GWh/year は日本全国
の発電端電力量 976,300GWh の 1.88%に相当する。
Fig. 7 大規模太陽光ポテンシャルの土地属性に関するシナリオ分析結果
この導入の有望性が高い地域の大規模太陽光ポテンシャル約 18,300 GWh/year の各市
町村における分布を Fig. 8 に示した。Fig. 8 では日本の有望な大規模太陽光ポテンシャル
が、東日本の太平洋側や瀬戸内海の周辺と九州地域の市区町村に多く賦存する傾向を示し
ている。特に、東北、中部、中国、四国、九州の広い面積を有する市区町村にポテンシャ
ルが多く評価され、太陽光発電への土地の活用が期待される。なお、本論では大規模太陽
光ポテンシャルとして日射量の大きい地域を選択し、人口集中地域を除いて表示したため、
日本海側の市区町村や都市部においてポテンシャルが小さく評価される結果となっている
が、これはこれらの地域に太陽光の利用可能性が存在しないことを示すものではない。
1-26
Fig. 8 大規模太陽光ポテンシャルの市区町村分布
5
考察:日本の再生可能エネルギーの活用方策
第 2 節~4 節の結果から、日本では風力、中小水力、太陽光といったポテンシャルが、そ
れぞれ異なる傾向で分布していることが明らかになった。この結果をもとに、再生可能エ
ネルギーの活用方策を考察すると、まず、日本では将来、スマートグリッドをはじめとす
る新しいエネルギー需給の姿を検討していく中で、それぞれの地域の利用可能性の特徴を
活用して、地域間で弱点を補うような再生可能エネルギーの利用方策が必要となると考え
られる。そして、地域の弱点の補完を考える上では、地産地消というより、より広い地域
で連携することが必要になると考えられる。
例えば、ポテンシャルの分布傾向から、市区町村ごとの利用可能性を考えた場合、大き
な風力、中小水力、太陽光ポテンシャルを持つ市区町村もあれば、小さいポテンシャルし
かもたない市区町村も存在する。また多様なポテンシャルを持つ市区町村もあれば、風力
だけの大きなポテンシャルを持つ市区用村の存在も考えられる。さらに、変動性のある風
力、昼間の供給が期待される太陽光、安定的に供給が期待される中小水力など、それぞれ
のエネルギーの供給の特徴や期待される役割も異なる。これらを考慮すると、もし市区町
村など狭い範囲で再生可能エネルギーの組み合わせた利用を考えた場合、利用可能な再生
可能エネルギーが限定的になる市区町村が多く存在するが、より広い範囲で再生可能エネ
ルギーの利用を考えることで、より多くのより多様なエネルギーの利用が可能になると考
1-27
えられる。本論のポテンシャルの評価結果はそういった連携の必要性を示唆していると考
えられる。
一例として、Fig. 9 に北日本地域と東京都において今回評価した再生可能エネルギーポテ
ンシャルを示した。Fig. 9 では、大きな風力ポテンシャルが北海道をはじめ青森、岩手、
秋田県に、大きな中小水力ポテンシャルが北海道、岩手、山形県に、大きな大規模太陽光
ポテンシャルが北海道に、大きな家庭向け太陽光ポテンシャルが東京都に賦存しているこ
とを示している。東京都と北海道、青森県、岩手県、秋田県、山形県は 2009 年に再生可能
エネルギー利用の地域間連携を目的とした協定を結んでいる。この協定は、地方の再生可
能エネルギーの供給ポテンシャルと都市の需要とを結び付けることで、地方経済の活性化
と都市のCO 2 削減を同時に達成しようというものである。再生可能エネルギーポテンシャル
の分布傾向からみても、需要の大きい東京都のエネルギーを、東京都に賦存する太陽光エ
ネルギーだけで賄うのではなく、より広く北日本地域の再生可能エネルギーポテンシャル
を都市の需要に結びつけるための方策を検討することが有効であると考えられる。
Fig. 9 再生可能エネルギーポテンシャルの地域間比較
6
結言
本論では「定量的な再生可能エネルギーの利用可能性評価」の日本の結果にもとづいて、
日本の再生可能エネルギーの利用可能性について議論した。評価結果は、日本には、風力、
中小水力、太陽光の大きな利用可能性(ポテンシャル)が存在し、それらはそれぞれ異な
1-28
る空間的な分布傾向を持つことを示した。今後、スマートグリッドをはじめとする新しい
エネルギー需給のあり方を検討する中では、地産地消というより、広く多くの地域が連携
し各地域がそれぞれの再生可能エネルギーの利用可能性の弱点を補完し合うことが求めら
れると考えられる。
参考文献
小水力利用推進協議会 (2006):小水力エネルギー読本,オーム社,p.49.
国立天文台 (2010):理科年表平成 22 年,丸善,p.249.
Neteler, M. and Mitasova, H. (2007):Open Source GIS: A GRASS GIS Approach,
Springer, p.140-153.
株式会社オークニー (2004):GRASS GIS データパック CD-ROM.
牛山泉 (2005):風力エネルギー読本,オーム社,p.32.
参考ホームページ
経済産業省資源エネルギー庁 (2011):エネルギー白書 2011,
( http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/index.htm ).
環境省(2011)
:平成 22 年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書,
(http://www.env.go.jp/earth/report/h23-03/).
国土交通省国土政策局国土情報課(2011)
:GIS ホームページ,
( http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/gis/index.html ).
総務省(2012)
:緑の分権改革ホームページ,
( http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/bunken_kaikaku.html)
National Renewable Energy Laboratory (2011):The Dynamic Maps, Geographic
Information System (GIS) Data and Analysis Tools Web site,
( http://www.nrel.gov/gis/ ).
Natural Resources Canada (2009):RETScreen ENGINEERING E-TEXTBOOK,
( http://www.retscreen.net/ang/12.php ).
Natural Resources Canada (2011):RETScreen International,
( http://www.retscreen.net/ ).
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)(2006):局所風況予測モデル,
( http://app2.infoc.nedo.go.jp/nedo/top/top.html ).
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)(2011):地域新エネルギー・省エネルギー
ビジョン策定等事業,( http://www.nedo.go.jp/activities/DA_00320.html ).
1-29
資料 Q-2
再生可能エネルギーポテンシャル評価によるプロジェクト支援
背景
1
2011 年 3 月 11 日の東日本大震災以降、日本全国の自治体において再生可能エネルギー
への関心が高まっている。そこで著者らが開発した GIS を用いた定量的再生可能エネルギ
ーポテンシャル評価法を用いて、様々な自治体において再生可能エネルギーポテンシャル
評価を実施し、情報提供を行った。本稿ではその成果から、ポテンシャル評価法の有効性
について考察した。
2
福島県南相馬市の再生可能エネルギーポテンシャル評価
2.1
対象地域
南相馬市は、東は太平洋に面し、西は阿武隈高地に接する市であり、西側(海岸側)に
比較的傾斜の小さい地形、東側(山間部)に比較的傾斜の大きな地形を有する。Fig.1 に南
相馬市の標高を示した。また、Fig.2 に南相馬市の最大傾斜量を算出して示した。Fig. 2 で
は南相馬市の東部と西部で傾斜が大きく異なっている傾向が分かる。
Fig. 1 南相馬市の標高
1-30
Fig. 2 南相馬市の傾斜
Fig.3 に南相馬市の指定地域図を示した。西側の比較的傾斜の小さい地域は農業用地とし
て、東側の傾斜の大きな地域は森林として指定されていることが分かる。
Fig. 3 南相馬市の指定地域図
さらに Fig.4 に南相馬市の高度 30m における年間平均風速の分布図を示した。この Fig.4
において年間平均風速が 5.0m/s 以上の地域で風力発電の導入が有望と考えられる。南相馬
市では、西側の風況が良好であるが、東側も年間平均風速 5.0 m/s を超えており、風力発電
が有望な地域と考えられる。
1-31
Fig. 4 南相馬市の高度 30m における年間平均風速の分布図
2.2
風力エネルギーポテンシャルの評価結果
Fig.5 に風力エネルギーの有望地域の抽出結果を示した。Fig. 5 中赤で示した地域が風力
発電の有望地域である。Fig.5 では、風況が良好な海岸沿いと山間部に有望地域が抽出され
ている。ここで、山間部では傾斜が大きいため、海岸と比較してまばらに有望地域が抽出
されていることが特徴的である。
Fig. 5 風力エネルギー有望地域
1-32
2.3
中・小水力エネルギーポテンシャルの評価結果
Fig.6 に中・小水力エネルギーの有望地域の抽出結果を示した。Fig.6 中に赤やオレンジ
で示した地点が中・小水力エネルギーの有望地域である。南相馬市では、1 か所あたり、
0.1GWh 前後の中・小水力ポテンシャルが存在し、これは1か所あたりの設備容量にする
と 1kW~20kW の小規模の中小水力発電に相当する。
Fig. 6 中・小水力エネルギーの有望地域の抽出結果
2.4
太陽光エネルギーポテンシャルの評価結果
Fig.7 に太陽光エネルギーポテンシャルの有望地域を示した。Fig.7 中では、赤で示した
地域に特に世帯が集中し、家庭向け太陽光の導入が期待される。
2.5
再生可能エネルギーポテンシャル評価結果のまとめ
Table 1 に南相馬市における再生可能エネルギーポテンシャルの評価結果をまとめた。南
相馬市では、風力ポテンシャルが 735GWh と大きく評価される結果となった。これは全国
的にも大きな量である。風力ポテンシャルは海岸沿いと山間部で広く評価された。山間部
では傾斜が大きく年間平均風速が良好であり、海岸沿いでは傾斜が小さいが、年間平均風
速は山間部と比較すると小さい。そのため海岸沿いと山間部で異なる導入方策を想定する
必要がある。海岸と山間部の中間地域では風速は小さいが、農業用地が広く分布しており、
大規模な太陽光発電の利用の可能性が考えられる。
1-33
Fig. 7 太陽光エネルギーポテンシャルの有望地域
Table 1 南相馬市における再生可能エネルギーポテンシャルの評価結果
3
徳島県上勝町の再生可能エネルギーポテンシャル評価
3.1
対象地域
徳島県上勝町では町内において標高約 100m から約 1,400m と急峻な地形に、森林地域
が広く分布している。町内には河川が流れ、河川の周辺に農地が広がる。Fig.8 に徳島県内
における上勝町の位置を示した。Fig.8 中赤で示した地域が上勝町である。
1-34
Fig.8 に徳島県上勝町
Fig.9 に上勝町の指定地域状況を示した。上勝町の大部分が森林地域であり、北東部、南
部に農地が広がっている。西部に自然公園・国定公園が分布している。
Fig. 9 徳島県上勝町の指定地域状況
Fig.10 に高度 30m における年間平均風速の分布図を示した。Fig.10 では、町の北側で風
1-35
況がより良好であることを示している。
Fig. 10 高度 30m における年間平均風速の分布図(徳島県上勝町)
3.2
風力エネルギーポテンシャルの評価結果
Fig.11 に風力エネルギーの有望地域の抽出結果を示した。Fig.11 中赤で示した地域が風
力発電の有望地域である。Fig.11 では良好な風況のため、風力の有望地域は上勝町内に広
く分布している(特に北部尾根線沿いや河川沿い)
。しかし、急峻な地形から一つ一つの有
望地域はあまり広大ではない。西部は、自然公園・国定公園の指定のため有望地域から除
外した。
Fig.11 風力エネルギーの有望地域の抽出結果(徳島県上勝町)
1-36
3.3
中・小水力エネルギーポテンシャルの評価結果
Fig.12 に中・小水力エネルギーの有望地域の抽出結果を示した。Fig.12 中に赤やオレン
ジで示した地点が中・小水力エネルギーの有望地域である。上勝町では小規模だが有望な
ポテンシャルを持つ地点(Fig.12 中オレンジ)が存在する。1か所あたりの設備容量にす
ると 20kW 程度であり。少ない流量を大きな落差で利用するタイプである。
Fig.12 中・小水力エネルギーの有望地域の抽出結果(徳島県上勝町)
3.4
太陽光エネルギーポテンシャルの評価結果
Fig.13 に太陽光エネルギーポテンシャルの有望地域を示した。Fig.13 中では、赤で示し
た地域に特に世帯が集中し、家庭向け太陽光の導入が期待される。上勝町では北東部、南
部で世帯数が多く。太陽光の利用が期待される。
1-37
Fig.13 太陽光エネルギーポテンシャルの有望地域(徳島県上勝町)
3.5
再生可能エネルギーポテンシャル評価結果のまとめ
Table 2 に徳島県上勝町における再生可能エネルギーポテンシャルの評価結果をまとめた。
上勝町では、風力ポテンシャルが 122GWh と大きく評価される結果となった。上勝町では
良好な風況のため、風力の有望地域は町内に広く分布し、特に尾根線沿いや河川沿いに分
布している。しかし、急峻な地形から一つ一つの有望地域はあまり広大ではない。また、
24GWh と小規模だが中小水力ポテンシャルが評価された。この中小水力ポテンシャルは、
1か所あたりの設備容量にすると 20kW 程度と小規模だが、少ない流量を大きな落差で利
用するタイプであり有望なポテンシャルと考えられる。
Table 2 徳島県上勝町における再生可能エネルギーポテンシャルの評価結果
1-38
4
福島県飯館村の再生可能エネルギーポテンシャル評価
4.1
対象地域
福島県飯舘村は、阿武隈山系北部の高原に開けた豊かな自然に恵まれた美しい村である。
総面積 230.13 キロ平方メートルの約 75%を山林が占めた地形は比較的なだらかで、北に真
野川、中央に新田川と飯樋川、南部に比曽川が流れその流域に耕地が開かれ集落を形成し
ている。 Fig.14 に福島県飯館村の位置を示した。Fig.14 中に赤で示した地域が飯館村であ
る。
Fig.14 福島県飯館村位置図
Fig. 15 福島県飯館村指定地域状況
1-39
Fig.15 に飯館村の指定地域状況を示した。飯館村の総面積 230.13 キロ平方メートルの約
75%を山林が占める。河川沿いには広く農業地域が分布する。
Fig.16 に飯館村の高度 30m における年間平均風速の分布図を示した。飯館村には、年間
平均風速が 5.0m/s 以上の風力の有望な地域が広く分布している。
Fig. 16 高度 30m における年間平均風速の分布図(福島県飯館村)
4.2
風力エネルギーポテンシャルの評価結果
Fig.17 に風力エネルギーの有望地域の抽出結果を示した。Fig.17 中赤で示した地域が風
力発電の有望地域である。Fig.17 では地域内全体の風況が良好であるとともに、傾斜が小
さいため、有望地域が広く抽出されている。Fig.17 では、道路から離れた地域が有望地域
から除外されている。全体的に広く有望地域が抽出されているため、開発可能地域・不可
能地域のゾーニングを行うことで、開発地域をコントロールすることが必要であると考え
る。
1-40
Fig.17 風力エネルギーの有望地域(福島県飯館村)
4.3
中・小水力エネルギーポテンシャルの評価結果
Fig.18 に中・小水力エネルギーの有望地域の抽出結果を示した。Fig.18 中に赤やオレン
ジで示した地点が中・小水力エネルギーの有望地域である。飯館村では、小規模だが有望
なポテンシャルを持つ地点(Fig.18 中オレンジ)が多く存在する。1か所あたりの設備容
量にすると 20kW 程度であり、少ない流量を大きな落差で利用するタイプである。傾斜の
大きい西側の地域では、大きなポテンシャルを持つ地点(紫)も評価されている。飯館村
の北部には、真野ダムが建設されており、ダムの下に建設された真野発電所で 1100kW の
発電が実施されている。
Fig.18 中・小水力エネルギーの有望地域の抽出結果(福島県飯館村)
1-41
4.4
太陽光エネルギーポテンシャルの評価結果
Fig.19 に太陽光エネルギーポテンシャルの有望地域を示した。Fig.19 中では、赤で示し
た地域に特に世帯が集中し、家庭向け太陽光の導入が期待される。飯館村では、中心部で
世帯数が多く。太陽光の利用が期待される。
Fig.19 太陽光エネルギーポテンシャルの有望地域(福島県飯館村)
4.5
再生可能エネルギーポテンシャル評価結果のまとめ
Table 3 に福島県飯館村における再生可能エネルギーポテンシャルの評価結果をまとめた。
飯館村では、風力ポテンシャルが 873GWh と大きく評価される結果となった。飯館村では
良好な風況となだらかな地形のため、村内に風力の有望地域が広く分布している。全国的
にみても大きな風力ポテンシャルが評価された。また、小規模であるが中小水力ポテンシ
ャルが 33GW と評価された。1か所あたりの設備容量にすると 20kW 程度。少ない流量を
大きな落差で利用するタイプであり、傾斜の大きい西側地域では、大きなポテンシャルを
持つ地点も評価された。
1-42
Table 3 福島県飯館村における再生可能エネルギーポテンシャルの評価結果
5
宮城県大崎市の再生可能エネルギーポテンシャル評価
5.1
対象地域
宮城県大崎市では、標高約 0m から約 1,000m と急峻な地形に森林地域が広く分布して
いる。市内を流れる江合川の源流が荒雄岳東部にあり、江合川は鳴子ダムを経て平野部へ
流入する。江合川周辺には農地が広がっている。Fig. 20 に宮城県大崎市の位置を赤で示し
た。
1-43
Fig. 20 宮城県大崎市の位置
Fig. 21 では、大崎市の指定地域状況を示した。大崎市では、西部に自然公園・国定公園が
分布し、中部に森林地域、鳥獣保護区が分布している。農業地域が中部の河川周辺と南部
の都市地域周辺に分布している。
。
Fig. 21 宮城県大崎市指定地域状況
1-44
Fig.22 に大崎市の高度 30m における年間平均風速を示した。大崎市では北西部に特に風
況が良好な地域が分布している
Fig. 22 高度 30m における年間平均風速(宮城県大崎市)
5.2
風力エネルギーポテンシャルの評価結果
Fig.23 に風力エネルギーの有望地域の抽出結果を示した。Fig.23 中赤で示した地域が風
力発電の有望地域である。Fig.23 では大崎市の風況が良好であることから有望地域が広く
抽出されている。北西部は特に風況が良好であったが、同時に自然公園、国定公園に指定
されているため有望地域から除外した。
Fig.23 風力エネルギーの有望地域の抽出結果(宮城県大崎市)
1-45
5.3
中・小水力エネルギーポテンシャルの評価結果
Fig.24 に中・小水力エネルギーの有望地域の抽出結果を示した。Fig.24 中に赤やオレン
ジやピンク、パープルで示した地点が中・小水力エネルギーの有望地域である。大崎市で
は、有望なポテンシャルを持つ地点(Fig.24 中オレンジ、ピンク、パープル)が多く存在
する。1か所あたりの設備容量にすると 150kW 程度である。
Fig.24 中・小水力エネルギーの有望地域の抽出結果(宮城県大崎市)
5.4
太陽光エネルギーポテンシャルの評価結果
Fig.25 に太陽光エネルギーポテンシャルの有望地域を示した。Fig.25 中では、赤で示し
た地域に特に世帯が集中し、家庭向け太陽光の導入が期待される。大崎市では、中心部で
世帯数が多く。太陽光の利用が期待される。
Fig.25 太陽光エネルギーポテンシャルの有望地域(宮城県大崎市)
1-46
5.5
再生可能エネルギーポテンシャル評価結果のまとめ
Table 4 に宮城県大崎市における再生可能エネルギーポテンシャルの評価結果をまとめた。
大崎市では、風力ポテンシャルが 1775GWh と非常に大きく評価される結果となった。大
崎市では、良好な風況のため、風力の有望地域は広く分布している。その結果北西部の自
然公園を除いて考えても、ポテンシャルは大きく存在する結果となった。また、中小水力
ポテンシャルが 165GW と評価された。1か所あたりの設備容量にすると 150kW 程度であ
り、大崎市内では江合川周辺有望なポテンシャルを持つ地点が存在する。鳴子発電所
(18,700kW)ですでに利用さているポテンシャルも含むためポテンシャル評価の結果の解
釈には注意が必要である。大崎市鬼首地熱発電所を持つため、非常に多様な再生可能エネ
ルギーの利用が期待される地域である。
Table 4 宮城県大崎市における再生可能エネルギーポテンシャルの評価結果
6
定量的ポテンシャル評価によるプロジェクト支援の考察
以上のように様々な市町村で再生可能エネルギーのポテンシャル評価結果から、ポテン
シャル評価法を用いたプロジェクト支援について考察した。近年環境省が日本全国の再生
可能エネルギーのポテンシャル調査結果を公表するなど、再生可能エネルギーのポテンシ
ャル調査が盛んに実施されているが、未だ市町村規模の再生可能エネルギーポテンシャル
は十分に明らかにされていない。その一方で市町村規模のポテンシャルの評価結果の関心
は高く、上述した以外にも複数の市町村から依頼があり、調査を実施した。上述した複数
の市町村で調査を実施した結果は、それぞれの調査結果においてどの再生可能エネルギー
が有望であるか、さらに地域内のどこに再生可能エネルギーポテンシャルが分布している
かといった特徴を明らかにしており、本評価法が各市町村の特徴を把握する方法として有
1-47
効であることを示していると考えられる。
さらに本評価法において有効なのは、統一条件によって客観的な分析が可能なことであ
る。従来の再生可能エネルギーポテンシャル調査では、それぞれの地域においてデータを
集めるというより、主観的な分析だけがなされていることもあり、それぞれの市町村にお
いて客観的なデータを求める声が聞かれた。本研究の市町村の再生可能エネルギーポテン
シャル評価法は、このようなニーズにこたえるものとして有効であると考える。
1-48
付録 2(法政大学グループ)
社会技術研究開発事業
平成 23 年度研究開発実施報告書
研 究 開 発プ ロ グラ ム 「地域 に 根 ざし た 脱温 暖 化・環 境 共 生社 会 」
研 究 開 発プ ロ ジェ ク ト「地 域 間 連携 に よる 地 域エネ ル ギ ーと 地 域フ ァ イナン ス の 統合 的 活
用 政 策 及び そ の事 業 化研究 」
資料集
地域金融ポテンシャル調査グループ
(法政大学)
資料 1
資料 2
資料 3
資料 4
資料 5
資料 6
再生可能エネルギー普及のための現在の重要課題 ................. 1
FIT の導入と連動した信用保証制度の設置について ................ 4
ドイツの風力発電事業におけるファイナンスとデューデリジェンス........6
自治体風力発電調査の概要 ..................................... 9
風力発電設備の立地と地域の対応 .............................. 18
秋田県における風車建設の動向 ................................ 19
付録 2
資料 1
再生可能エネルギー普及のための現在の重要課題
法政大学 舩橋晴俊
2012 年 3 月 8 日の「コミュニティ・パワー会議」
(付記を参照)の最後に、まとめの発言
をする機会を得た。その論点を中心に、再生可能エネルギー普及という課題が現代社会にとっ
て有する意義と、普及のための現在の重要課題について、ごく簡単に記しておきたい。
1. 大震災後の今は大きな転換点にある
2011 年 3 月の東日本大震災後、日本は新たな歴史的段階に入りつつあるように思われる。
それは、今後の展開によっては、防災対策やエネルギー政策の見直しという領域に留まらない
広がりを持つであろう。
過去を振り返ってみれば、日本社会が、実際に質的な転換を成し遂げたと感じられた一つの
時代は、1970 年前後の公害問題の対処を鍵にした社会変革である。1960 年代を通して、日本
社会の公害は激化を続ける一方であった。1967 年に「公害対策基本法」が制定されたにもか
かわらず、そこには、
「経済との調和」条項が挿入され、基本法が出来てから、ますます公害
が激化するありさまであった。そして、ついに、1970 年の夏、都心における光化学スモッグ
被害を契機として、公害に憤激する世論はピークに達し、時の佐藤政権は、
「中央公害対策本
部」の設置に踏み切った。1970 年 12 月の公害国会における 14 の法律の成立と、1971 年 7
月の環境庁の設置を境目として、ようやく、日本社会は実効性のある公害対策の確立にみ出し
た。1971 年から 1973 年にかけでの四大公害訴訟における被害者原告の勝訴は、時代の転換
を画するものであった。
そのような 1971-73 年にかけての政策転換に比肩すべき制度・政策転換が、東日本大震災
を契機にして、エネルギー政策を焦点にして生起する可能性が開けつつある。1970 年代初頭
においては、1960 年代半ばまでの公害無視の産業界の態度が数年で大転換し、公害防止投資
と公害防止技術が急伸したように、今後、数年の日本は、脱原発と再生可能エネルギの拡大と
いう方向での政策転換の機会に際会している。変革の可能性をめぐって、
「主体と構造の両義
性」という社会学の原点にたちかえった視点からの考察が必要になっている。
2. 変革主体形成
変革の可能性を「主体形成」という側面で、三つの水準で考えてみよう。
第1に、ネットワークの形成という水準での主体形成がある。ネットワークは、さまざまな
個人や集団や組織というかたちでの変革を志向する主体の存在を前提にして、それらの連携か
ら成る主体形成である。ネットワーク形成において大切なのは、「異業種交流」である。言い
換えれば、同質の主体が「タコツボ」に収まっているような形のネットワーク形成を乗り越え
る必要がある。自治体とNPOと大学とが連携するのは、そのような「異業種交流」の一つで
ある。そして、各自が、自分の専門性、得意分野を生かすことが大切になってくる。
第2に、集団の水準での主体形成がある。日本における住民運動の歴史の教訓を振り替える
のであれば、集団的主体形成において決定的なのは、
「学習会」であり、それとリンクした「住
民調査」
、
「住民メディア」である。1964 年の静岡県東部におけるコンビナート建設阻止運動
について、当時の三島市の住民運動リーダーは、
「学習会がすべてだった」と語っている(2003
2-1
付録 2
年の聞き取り)
。日本におけるエネルギー政策を主題にした学習会が、今後、各地でどの程度、
継続的に組織化されていくかどうかが、集団的主体形成の鍵であろう。
第3に、個人レベルでの主体形成という課題がある。この場合、エネルギー問題、とりわけ、
再生可能エネルギーについの技術的・実務的知識を備えた個人が増えることが必要となるが、
単なる技術的・実務的知識だけではなく、発展力のある再生可能エネルギー事業を担う「エー
トス」を備えることが必要である。そのエートスとは、「事業性プラス社会性」とも、表現で
きよう。すなわち、経営の健全性を守りつつ、私利私欲に走らない主体形成が必要となる。言
い換えると、社会的な理想を堅持しつつ、しかも、経営の健全性について、メリハリを有する
個人主体の形成が必要である。
3. 制度形成
社会変革にあたって、客観的な制度形成の意義は決定的である。2011 年制定の「再エネ特
措法」は制度形成の画期となるものであるが、その内容の充実のために、考慮するべきことが
いくつかある。
第1に、ナショナルレベルでの制度的枠組をきちんと維持した上で、自治体レベルでの、上
乗せ的な制度形成を工夫する必要がある。その焦点は、都道府県レベルと市町村レベルでの「地
域ルール」づくりである。具体的には、地元の人々が、事業展開に主導権を発揮でき、受益を
管理できることが必要である。そのためには、「出資と融資の過半数は地元からとする」とい
うような、ルール作りが必要であり、この点を焦点にした検討が早急に必要である。地元が主
導権をもち、半分以上の利益の還元を地元にもたらす工夫が必要である。
第2に、FITの価格の適切な水準での設定が必要である。FITの価格は、ドイツの事例
でも見られるように、なんらかのテンポで、段階的に低下させていくのが、政策の基本的論理
である。ただし、FIT の価格が急激に下がるのだと、いわば、「よちよち歩きの事業体」がつ
ぶれてしまう。各地域の地元の組織や地元の資金に立脚したような事業体がつぶれないような
配慮と運用が必要である。
第3に、FIT以外の制度形成への視点が必要である。FITの制度が永遠に効果的かどう
かはわからない。FITによる買い取り価格が下落したとき、グリーン電力の価値を正当に評
価して、他の電力とは差別化して、売買できるような回路の設定が必要となる。グリーン電力
の売りたい側全体と買いたい側全体を媒介するような組織を設定し、しかも、その組織が調整
電源を備えることによって、個別の主体では困難な「安定化」という課題を果たすことができ
るような体制作りが必要である。
4. 再生可能エネルギー技術の導入の意味
現在、浮上している再生可能エネルギーのウエイトをエネルギー供給全体に増やして行くと
いう変革課題は、
「技術的選択」についても積極的な意義があると同時に、単なる「技術的選
択」についての変革を超える意義を有するものである。
技術的選択という点で見れば、原子力や化石燃料は「逆連動型」の技術である。すなわち、
プラスの受益を求めれば求めるほど、それに連動して汚染物質や廃棄物や事故の危険が増大を
続けざるをえない。そのようなマイナスの効果は、火力発電の場合には、排煙脱硫装置による
汚染物質の削減という形で、それを抑制することができる(それゆえ、そのような技術を「相
対的逆連動型技術」とも言うことができよう)。しかし、原子力は「絶対的逆連動型技術」で
2-2
付録 2
あり、被曝労働、放射性廃棄物、事故の危険という負の効果を消去することができない。
これに対して、再生可能エネルギーの長所は、
「正連動型技術」たりうることである。すな
わち、その導入と拡大は、適切な配慮のもとに推進されるのであれば、受益格差の縮小と受苦
の削減に貢献しうるのである。このように、エネルギー戦略シフトは、逆連動型技術から正連
動型技術への転換という積極的な意義があるが、それに留まらず、さらに、技術の選択をこえ
た社会変革の可能性という側面を有する。
再生可能エネルギーを各地域の人々が主体になって、各地域の資金を生かしながら事業化し
ていくことが、もし成功するのであれば、それは、地域社会における自己決定性の確立を意味
するし、生活のあり方をめぐる民主主義の強化が各地域で推進されることを意味する。この点
で、飯田哲也氏の『北欧のエネルギーデモクラシー』は先見性に満ちている。
視点を変えれば、各地域における異業種交流による再生可能エネルギーの普及は、日本社会
におけるタコツボの克服という課題に対する一つの答えを意味するとも言えよう。さらに、大
都市圏と再生可能エネルギーの豊かなポテンシャルを有する各地域を結ぶ形で「再生可能エネ
ルギー地域間連携」ができるのであれば、それは、地域間の新しい関係性を日本社会に導入す
ることになるであろう。
付記:本レポートは、2012 年 3 月 8 日(於:日本科学未来館 みらい CAN ホール)、環境エ
ネルギー政策研究所(ISEP)の主催、また世界風力エネルギー協会、日本再生可能エネルギ
ー協会、自然エネルギー財団、JST 地域エネルギーファイナンス研究会の共催によって行わ
れた「コミュニティ・パワー会議」における閉会直前の「まとめ」の話しの骨子を文章化した
ものである。
2-3
付録 2
資料 2
FIT の導入と連動した信用保証制度の設置について
関東学院大学 湯浅陽一
1. 信用保証制度および信用保証協会について
信用保証協会:昭和 28 年に制定された信用保証協会法に基づき、中小企業者の金融円滑化
のために設立された公的機関。各都道府県を単位とした 47 法人のほか、横浜、川崎、名古屋、
岐阜、大阪では市単位で設置されており、合計 52 法人が設けられている。
信用保証制度の概要:信用保証制度は、信用保証協会と金融機関、中小企業を中心に政府と
自治体を加えて構成されている。これとは別に日本政策金融公庫と政府、信用保証協会とのあ
いだで信用保険制度が構成されており、信用保証制度と信用保険制度を合わせて信用補完制度
と呼ぶ(図 2-1 を参照のこと)
。
図 2-1 信用保証制度の概要(日本政策金融公庫ウェブサイトより)
信用保証制度の現況:国ないし地方自治体による制度融資に対する保証が大半を占める。保
証される融資額の上限は、
全国一律で 2 億 8000 万円である。保証制度を利用できる事業者は、
資本金規模、従業員数、業種などによって定められる。
発電事業者については現行では明確に定められていないため、インタビューを実施した範囲
(青森県、静岡県、大阪府、横浜市の各協会)では、協会によって判断が分かれるが、基本的
には対象に含まれると判断される。
2. 静岡県信用保証協会の事例
平成 23 年 10 月 18 日より「エネルギー需給安定対策保証」を開始した。エネルギー対策設
備または電力危機対応設備と合わせて、他の一般設備を複合的に導入する者、もしくは、電力
危機対応設備を導入する者を対象とした制度で、保証限度額は 1 億円、保証期間は 15 年とな
2-4
付録 2
っている。事業用の温泉施設の上に太陽光パネルを設置することが想定されている制度である。
この制度は、全国で初の取り組みであり、福島第一原発事故を受けた浜岡原発の停止を考慮
したものである。また、太陽光パネル設置などによる地域への経済効果の発生も期待している。
こうした取り組みは、セーフティネットを担う保証協会としては異例の取り組みであり、静岡
県信用保証協会の場合は理事が導入を率先した。この事例のような取り組みは全国的には稀で
あり、各保証協会のエネルギー問題や FIT などへの対応は、基本的には受動的である。
3. 調査による発見事項と考察
FIT の導入を背景に、新規参入した発電事業者の対する金融機関による融資を促進するため
には、信用保証制度における対応が必要である。金融機関による融資を妨げているものとして、
①リスク評価のカベ、②融資金額のカベ、③融資期間のカベという、3 つのカベが考えられる。
信用保証制度における対応は、②と③のカベを乗り越えることを可能にする。
融資金額のカベ:信用保証の上限額は 2 億 5000 万円であるが、じっさいに融資を受けてい
る金額は数百万円から 2~3 千万円である。これに対し、再生可能エネルギーの主力として期
待されている風力発電事業では、事業規模は数億円から数十億円規模になり、借入を受ける額
も億単位になる。これは地域の金融機関と事業者とのあいだでの融資のやり取りの金額や、地
域の金融機関の事業規模や利益額から考えると、非常に大きな金額であり、容易に融資できる
ものではない。
期間のカベ:一般的な融資期間は 10 年であり、期間が長くなればそれだけでリスクが上昇
する。これに対し、太陽光パネルや風車の耐用年数ないし減価償却期間は 20 年である。風況
調査などの準備段階から融資した場合には 25 年程度の期間になる。この期間の長さも融資の
障害である。
リスク評価のカベは、プロジェクトファイナンスの実施、デューデリジェンスを行う機関の
設置や経験の蓄積などによって克服することができる。しかし金額のカベ、期間のカベはこれ
らの手法では克服できない。プロジェクトファイナンスなどにより、金融機関が積極的にリス
クをとることも必要ではある。しかし預金保護などの点から、金融機関が、何らの保証のない
ままリスクをとることは非常に困難であると思われる。
そのため、FIT の導入を受けた発電事業者への融資にあたり、上記の「カベ」の解決を意識
した信用保証制度を設けることが必要になる。これは、金融機関が取るべきリスクを回避する
ということではなく、リスクの形に応じた、最低限度の保証制度を設けるということである。
信用保証制度については、政府あるいは日本政策金融公庫レベルでの対応がとられれば、保
証協会はその方針に下で行動する。したがって、FIT の本格的稼働と連動させる形で、再生可
能エネルギー事業者向けの信用保証制度を導入すれば、事業者の参入とかれらの対する融資を
促進する効果が得られる。
また、自治体による制度融資に対する保証が多数を占めている現状から、自治体と日本政策
金融公庫が連携しながら、制度の設計をすることが効果的である。
2-5
付録 2
資料 3
ドイツの風力発電事業におけるファイナンスとデューデリジェンス
法政大学大学院 小野田真二
1. はじめに
2012 年 1 月 9 日~13 日、ドイツにて再生可能エネルギーに関する調査を行った。今回はそ
の中から、金融チームと関連の深い GLS 銀行と SGS Germany へのヒアリングから得られた
知見をもとに、ドイツの風力発電事業におけるファイナンスとデューデリジェンスついて記述
する。
2. GLS 銀行の概要と風力発電プロジェクトのファイナンス
GLS 銀行は、持続的な社会の発展に貢献することを理念にもつ銀行として 1974 年に設立さ
れた。
“人々のためにお金を(Money for the people)”という使命の下、これまで社会問題対
応や環境保全等にお金が活用されてきた。GLS 銀行では、口座開設の際に預けたお金がどの
分野に配分されるかを予め選択することができる。このような資金使途の明確化は、決済性預
金、定期性預金に加え、各種証券、ファンド、年金、保険商品においても可能となっている。
2011 年実績で、バランスシート(総資産)は約 23 億ユーロ、エクイティキャピタル(株主資
本)は 1 億 1600 万ユーロ、メンバーは約 21600 人、顧客は約 116000 人、前年比約 23%の
成長であった。
再生可能エネルギー分野への貸付シェアは 2009 年に 17.0%であったのが、
2011
年には 23.0%まで伸びている。GLS 銀行は、“Genossenschaftsbanken(ゲノセンシャフト
バンク)
”の一つで、ゲノセンシャフトとは組合形式を指す。
GLS銀行へのヒアリングによると、同行による再生可能エネルギーへのファイナンスは、
ほとんどがプロジェクトファイナンスであるという 1。融資の決定要因は、会社の信頼性でな
く、安定したキャッシュフローが見込めるかどうかであるが、「これ程安全なプロジェクトは
他に見られない」と仰っていた。彼らの認識では、固定価格買取制度(FIT)のお蔭で 20 年
間固定価格での売電収入が見込めるうえ、発電コストや技術的要因などは出資前に全て把握で
きるため、再生可能エネルギーによる発電の経済的成功は天候次第であるとのことであった。
ここで重要になるのが、発電コストや技術的要因の事前把握であるが、通常はコンサルタン
ト会社等の独立の機関が銀行に代わって当該プロジェクトの評価を行う((3)を参照のこと)。
ドイツでは、風力エネルギー協会などの再エネ関連協会が技術評価機関のリストを保有・公開
しており、銀行はプロジェクトのサイズによってリスト上の 1-3 の機関に対し発電予測等を依
頼する。各銀行は提出された予測の中で一番保守的な数値を用い、収益計算のためのシミュレ
ーションソフトを使って収益予測を行う。尚、シミュレーションソフトは各銀行が独自のもの
を持っており、それらは毎年改善されるという。
プロジェクトファイナンスにおける貸し付け条件は、不動産と類似している。ドイツでは、
10 年固定金利(約 4.0%)の 15 年ローンが典型で、発電機の設置価格、技術構成、システム
出力係数、エクイティとの関係などにより契約期間が決まる。その際、DSCR(Debt Service
Cover Ratio)が常に 1.0 を超えること、契約期間が FIT による買取保証期間の 20 年以内に
納まりかつ発電機の稼働期間内に納まることが条件となる。ただし、4.0%という数字自体に
は FIT と関連性はない。
1
Participation rights(享受権)と呼ばれるメザニン調達等も行っているが、ここでは融資について記述する。
2-6
付録 2
また、融資セキュリティ確保のために、様々な手法が取り入れられている。一番重要なのは、
オペレーターに何か問題が起きても、別の誰かを探し発電機の運転を継続可能にすることであ
る。そのため、銀行が所有者(owner)となり、オペレーター/債務者は保有者(holder)と
して発電機の運転を行う譲渡担保が採られる。また、融資を受ける銀行に引当金のための口座
と、FIT による売電収入を入れるための口座を別々に開設させることで、銀行が常に発電事業
の財務状況をチェックできる体制が整備されている。その他、土地に関わる全ての事(オーナ
ーについての情報、過去にその土地に起こったこと等)を記録する登記簿が付けられる。
最後に、FIT に対する認識であるが、公的資金や助成金ではなく、支援なしでは市場に入り
込めないより優れた技術を後押しするための刺激策であり、従来型の発電とコストが同等レベ
ルになるのをサポートすることがその目的であるという。そのため、買取価格は技術発展に応
じて変化させ、貸付利子に見合うように設定すべきとのことである。
3. SGS Germany の概要と風力発電プロジェクトの事業性評価
SGS はスイスに本部をおく世界最大級の検査及び審査登録機関で、1878 年にフランスで設
立された。世界 140 カ国で 74,000 の従業員と 1,250 のオフィスがある。SGS グループのコア・
バリューは完全な独立性(complete independence)、透明性(transparency)と清廉性
(integrity)である。その歴史は、農業分野から始まり、現在は鉱物、石油・ガス・化学製品、
自動車、産業、環境などの分野でサービスを提供している。このうち、デューデリジェンスを
含む風力発電に関する技術的サービスは産業部門が、風力発電事業の環境アセスメントは環境
部門が担当している。
デューデリジェンスとは、
「投資家が投資
をおこなう際や金融機関が引受業務をおこ
なう際、投資対象の実体やリスクを適正に
把握するために事前におこなう多面的な調
査、適正評価手続き」をいう 2。多面的調査
には、法務、財務、ビジネス、人事、環境
など様々な観点が含まれる。風力発電プロ
ジェクトのデューデリ主体は、コンサルテ
ィング会社や大学からのスピンオフ機関な
どがなり得るが、その際、専門性・柔軟性
に加え、何者とも特別な関係を持たない独
立性や、デューデリは通常 6-7 週間という
短い期間で行われるため素早い対応力が求
められる。
図 3-1 は、SGS による風力発電プロジェ
クトで行われるデューデリの順序である。
Step1 では、当該プロジェクトがどの段階
にあるかを確認するため、土地利用契約、
図 3-1 SGS によるデューデリジェンスの手順
Kotobank.jp より
http://kotobank.jp/word/%E3%83%87%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%87%E3%83%A
A%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%82%B9
2
2-7
付録 2
立地場所のアセスメント、風速の測定結果など、どのような書類があるのかを確認する。Step2
では、顧客と共同で作業パッケージを確定する。この際、一側面についてのみの場合もあれば、
フルパッケージで全て審査対象にすることもある。顧客には、銀行やプロジェクト出資者、バ
イヤー等が含まれる。Step3 の左側は、開発段階のプロジェクトを対象としている。この段階
での審査項目には、立地場所の環境条件(風況、土地状況、気候等)、建設許可(高さ・距離・
景色・騒音規制、シャドウフリッカー等)
、土木工事およびインフラ評価(輸送ルートの適切
さ等)
、送電網の評価(容量、低電圧ライドスルー能力等)
、プロジェクトのスケジュール、プ
ロジェクト費用、風力発電機(環境条件との適合性、当該機器の実績、製造工場の状況など)、
電力購入協定、契約と仕様、建設機器(重機など)
、運用管理計画がある。Step3 の右側は、
運用段階のプロジェクトが対象で、立ち入りの検査が行われる。ドイツなど市場が成熟した地
域では、発電機の運転専門会社も存在し、保有権が他者に移る(即ちリファイナンスが行われ
る)場合などがこの段階に該当する。運用段階での審査項目には、資産保全評価(ローターと
ブレードの状態、安全装置テスト、機械・電子機器の状態等)、モニタリングデータ、運用管
理契約、収益と発電量(発電能力、稼働率、風況、収益など、理論値と実績値の比較)がある。
尚、この図では、開発段階と運用段階の 2 つが描かれているが、デューデリは建設直前、建設
後、稼働中などプロジェクトのいかなる段階でも実施可能である。Step4 は、Step3 での審査
結果から報告書を作成し、もし問題がある個所(例えば、レイアウトなど)が見つかったら、
報告書の中で指摘をする。Step5 で、報告書に基づく最終プレゼンテーションが行われる。以
上より、デューデリは主に書類の審査であることが分かる。
デューデリにかかる費用は時間ベースで算出される。審査の結果、問題が発見されたり、詳
細な調査が必要になる場合、追加の作業時間に応じて費用が増えることもある。風力発電機が
立地場所の環境条件に不適合の場合でも、そのこと自体は顧客に伝えるが、審査機関としての
独立性を保つため、特定のメーカーを推薦するようなことはせず発電機の選択基準を示したり
する。デューデリは小規模ファームについても行われるが、その場合は審査の対象が限定的に
なることがある。例えば、設置する発電機や設置場所が既に実績がある場合なら審査対象から
外したりと、項目を簡易化することも可能である。デューデリにおける審査結果よりも稼働率
が想定以下となる場合でも補償されることはない。ただし明らかな計算ミスやデータエラーが
生じ、その責任が証明される場合は、法律の範囲内で補償を行うこともあるという。
デューデリの担当者から見て、プロジェクトファイナンスは再生可能エネルギープロジェク
トに非常に良いツールである。FIT はその成功条件とまでは言えないが、変動があり予測が難
しい市場価格とは違い、安定した価格を 20 年間に渡り提供するため、ファイナンスを手助け
する有効な政策と言える。銀行はリスクをとるもので、リスクや不確実性を低減し資金を有効
活用するのが使命であり、融資を促進するための債務保証制度はないとのことである。
4. おわりに
ドイツの 2010 年の電力供給に占める再生可能エネルギーの割合は 17%(104.3TWh)で、
2020 年には 35%まで引き上げることが目標とされている。ドイツで再生可能エネルギーの導
入が 1990 年代から着実に増加している背景には、FIT のみならず、再生可能エネルギープロ
ジェクトへのファイナンスを支える制度・文化が備わっていることがわかる。
2-8
付録 2
資料 4
自治体風力発電調査の概要
法政大学大学院 北風亮
再生可能エネルギーに対する融資等において、金融機関の懸案事項となっている事業採算性
がどのような要因によって左右されているのかを知ることは、資金の需要側(借り手)と供給
側(貸し手)を効率的に結びつけるための金融スキームを探る上で重要なポイントになると当
研究室では考えている。そこで自治体風力発電事業を事例として取り上げ、事業採算性を左右
する要因を探るべく、調査を行った。2011 年度は、各自治体に対するヒアリング調査、並び
にアンケート調査を行った。以下のその概要を示す。
1. 自治体ヒアリング調査
ウェブによる事前調査や専門家によるアドバイスなどを基にヒアリングの対象となる自治
体及び第三セクター事業者を抽出し、各担当職員に対するヒアリング調査を行った。調査を行
った自治体及び事業者は、京都府、北海道江差町、北海道寿都町、青森県外ヶ浜町(株式会社
津軽エコエネ)
、岩手県葛巻町、静岡県東伊豆町、静岡県御前崎港管理事業部、愛媛県伊方町
である。2012 年 3 月現在、ヒアリングによって得られた知見の整理を行っているところであ
る。
2. 2011 年度風力発電事業の運営状況に係るアンケート調査
(1) アンケート調査の概要及び質問内容について
本アンケート調査においては、自治体直営の風力発電事業者及び自治体が出資する第三セク
ター方式風力発電事業者に対象を限定しているが、事業の採算性をより厳密に把握するために、
施設電源目的や研究目的といった売電以外の事業目的に供されている対象先を調査に含めな
いこととした。その結果、抽出された対象自治体・事業者数は 41 となり、その分布も北海道
から九州まで比較的偏りなく分散した。調査方法は回答選択・自由記述を両方用いた調査票を
各自治体の風力事業担当部署に対して、郵送または電子メールにて配布し、同封した返信封筒
か FAX、電子メールで適宜回収するという形をとった。ご回答頂いた自治体・事業者数は 29
となり、調査票回収率は 70.7%となった。
表 4-1 に本アンケート調査の概要を記す。
表 4-1 調査概要
アンケート名
アンケート対象
調査実施時期
調査方法
対象抽出された自治
体・事業者数
回答自治体・事業者数
回収率
2011 年度 風力発電事業の運営状況に係るアンケート調査
事業目的を「売電事業」に限定している自治体及び第三セクター風力発電事業者
平成 23 年 12 月 15 日~12 月 26 日
自治体の風力発電担当部署に対する調査票の郵送または電子メールによる配布、及
び返信封筒、FAX、電子メールによる回収
41
29
(※高知県企業局からは発電所ごとに調査票によるご回答を頂いたため、回収され
た調査票の数は 31 となる)
70.7%
2-9
付録 2
(2) 得られた情報・知見
以下に本調査によって得られた知見の一部を示す。本調査は A から F までの各項目別にご回
答いただいており、2012 年 3 月現在、調査結果の整理分析作業を行っているところである。
本調査の分析を通して、これまでに得られた情報・知見を設問の項目毎に示す。
○項目別分析:A 【御自治体における風力発電事業の基本的な特徴について】
A-1 発電所名、営業運転開始日、設備能力、基数についてお知らせください。
営業運転開始日については、1995 年から 2009 年までの幅があったが、40 ヶ所のうち 31 ヶ
所が 90 年代後半~2000 年代前半に集中していた。
また設備能力について見てみると、自治体直営の総設備能力平均が 3430kWなのに対し、
第三セクターでは 11940kWと約 3.5 倍の開きがあった。一基あたりの設備容量では自治体直
営のほうが若干上回っていることから、基数の平均値の差(自治体直営 2.37 基:第三セクタ
ー16.00 基)が大きく影響しているといえる。
A-2 風力発電事業の事業形態についてお知らせください。
自治体直営が 24 事業者だったのに対し、第三セクターは 5 事業者にとどまった。
A-3 A-2 において(a)を選択された自治体にお尋ねします。風力発電事業は一般会計・特別
会計・公営企業会計のどちらで管理しているかについてお知らせください。
24 事業者のうち、一般会計が 4 事業者、特別会計が 13 事業者、公営企業会計が 6 事業者、
一般会計と特別会計の併用が 1 事業者となった。
A-4 A-2 において(b)を選択された自治体もしくは事業者にお尋ねします。第三セクター方
式の事業会社における自治体の出資金額・比率、事業運営の中心的主体についてお知らせくだ
さい。また比率・運営主体がそのようになった理由についてお知らせください。
自治体による出資金額は 510 万円から 4000 万円まで幅があり、
平均値は 1376 万円であった。
出資割合は 9.1%から 86%までの幅で、平均値は 44.42%となった。
事業の運営主体と出資割合との間には相関が見られない。自治体が過半数を超える割合の出資
をしても専門知識やノウハウの蓄積がある民間事業者に運営を任せるという自治体があるこ
とが分かる。
A-5 自治体が風力発電事業を行うに至った背景に関連して、導入当初の事業目的をお知らせ
ください。
(複数回答可)
回答結果は図 4-1 のようになった。
「その他」が 21 と最も多かったが、次に多かったのが「地
域の観光資源にするため」で 9 の回答があった。「地域の雇用拡大や産業活性化に貢献するた
め」は 2 と少なく、いずれも第三セクターからの回答であったことから、これまでの自治体直
営での風力発電事業においては地域産業活性化という観点がそれほど重視されていないこと
が伺える。
2-10
付録 2
図 4-1 導入当初の事業目的
A-6 過去 3 年(事業年度)の年間平均風速(m/s)についてお知らせください。
自治体直営における年間平均風速は、以下のようになった。
2008 年:最小値 3.85m/s / 最高値 7.76m/s /
平均値 5.76m/s
2009 年:最小値 3.71m/s / 最高値 8.00m/s /
平均値 6.00m/s
2010 年:最小値 4.10m/s / 最高値 8.02m/s /
平均値 5.81m/s
第三セクターは 3 事業者のみの回答ではあるが以下のようになった。
2008 年:最小値 4.44m/s / 最高値 7.69m/s /
平均値 5.74m/s
2009 年:最小値 4.51m/s / 最高値 7.68m/s /
平均値 5.80m/s
2010 年:最小値 4.66m/s / 最高値 7.68m/s /
平均値 5.82m/s
観測点の高さが違うことから単純な比較は出来ないが、各年度の平均値を見る限り、採算ラ
インといわれる風速 6 メートルに近い数値となっている。またいずれの数値を比較しても自治
体直営と第三セクターとの間で大きな差異は見られない。ただし、最小値と最高値の差が 2
倍近く開いており、同じ地点での年平均風速が大きく変動することは考えにくいため、風況精
査の時点で採算性の確保が困難な事業者がいくつか存在していた可能性がある。
A-7 風力発電担当の職員数について、専任・兼任別にてお知らせください。
回答のあった 29 事業者のうち、専任職員を置いているところは8事業者(8 名)であった。
それに対して兼任職員は 26 事業者(89 名)となっており、ほとんどの事業者が風力発電専任
職員を置かず、兼任職員で対応していることが分かる。
A-8 発電所建設にかかる総事業費についてお知らせください。
自治体直営に関する総事業費については、1 億 1137 万円から 62 億 8800 万円まで、かなり
の幅があった。平均値は 9 億 7401 万 5400 円となったが、実際には回答のあった 27 事業者の
うち、
22 事業者が総事業費 10 億未満となっており、一部事業者の値が平均を引き上げている。
第三セクターに関する総事業費については、3億 4000 万円から 45 億 4200 万円までの幅が
2-11
付録 2
あり、
平均値は 24 億 851 万 2500 円であったが、
回答を見ると規模の違いが鮮明となっている。
参考指標として併記した kW 当たり総事業費の平均値を見ると、自治体直営では 31.65 万円
/kW、第三セクターでは 24.62 万円/kW であった。
図 4-2
kW あたり総事業費分布
図 4-2 は総事業費と kW あたり総事業費の関係を示したものである(自治体直営、第三セク
ター双方を含む)
。全体的に見ると数十億円を要するような大規模事業の方が、比較的低いコ
ストで建設している傾向が見受けられる。一方で、総事業費が 10 億円以下、基数にして1~
数基クラスの事業では単位コストにかなりの幅がみられる。このことから風力発電事業におい
ては規模の経済が働くとは限らない、もしくは比較的小規模事業でも総事業費を抑えることは
可能である、ということが言える。
A-9 総事業費に占める補助金額及びその補助金支出主体についてお知らせください。
補助金額の平均値はそれぞれ 3 億 6814 万 4000 円(自治体直営)、10 億 3879 万円(第三セ
クター)であった。補助金支出主体はほとんどが NEDO であった。その中で過疎対策事業債に
よって事業費の全額を調達している自治体があった。地方交付税によりその 7 割が補てんされ
るため、過疎地域を抱える自治体にとっての財源オプションの一つとしてもっと活用されても
いいのではないか。
○項目別分析:B 【開発段階におけるご質問】
B-1
風力発電事業への参入はどのような主体が提案し、主導的役割を果たしたのでしょうか。
自治体直営においては、
「自治体が提案し、主導的役割を果たした」という回答が、9 割以
上を占め、
「地域内民間事業者が提案し、主導的役割を果たした」、
「東京電力(株)が提案し、
自治体が主導的役割を果たした」と回答した自治体がそれぞれ 1 つずつあった。
第三セクターにおいては、すべての事業者が「地域外民間事業者が提案し、主導的役割を果
たした」との回答だった。
2-12
付録 2
B-2 最も中心的なパートナーとなった民間事業者についてお知らせください。
※企業名について、回答が困難な場合は空欄でも構いません。選択肢のみご回答ください。
図 4-3 パートナー民間事業者別割合
一つの事業者で複数の回答もあったが、割合としては図 4-3 のようになった。
コンサルティング会社、風力発電機メーカーとの回答が 3 分の 2 を占めた。一方で風力発電
事業者との回答は 3 にとどまった(※卸電気事業者との回答があったが電源開発(株)は風力
発電事業を手掛けており、本調査では風力発電事業者として再分類した)
。
B-3 風況調査を行った中心的な主体および方法についてお知らせください。
32 の回答数のうち、
「自治体が調査」、
「NEDO のフィールドテスト事業として、自治体が調査
した」という回答がそれぞれ約 3 分の 1 を占めた。
「中心的なパートナー企業が調査した」は
4 にとどまった。そのほかの回答としては、民間事業者や大学と自治体が共同で実施するケー
スやその他事業者(回答では東京電力(株))
、大学(回答では鳥取大学)があった(図 4-4)
。
図 4-4 風況調査を行った主体の割合
2-13
付録 2
B-4 使用風車のメーカーおよび機種の選定についてお知らせください。
※複数の発電所サイト及び風車において選定主体が異なる場合は、その他の欄にご記入くださ
い。
図 4-5 風車のメーカーおよび機種選定の主体
使用風車のメーカーおよび機種の選定については、図 4-5 のグラフのような回答割合となっ
た。
「自治体が独自に選定」という回答が約 3 分の 2 を占め、
「中心的なパートナー企業の提案
に基づき選定した」との回答数は6であった。
○項目別分析:C 【運転状況についてのご質問】
C-1 過去 3 年(事業年度)の稼働率(利用可能率)についてお知らせください。
稼働率は施設が年間でどの程度「発電可能な体制(スタンバイ状態)」にあるかを示す非常
に重要な指標である。いくら風況に恵まれていても風車が発電出来なければ、当然、売電収入
を得ることはできない。そのため稼働率の多寡は、事業採算性に直接的に影響してくる。
本調査の稼働率に関する設問では、以下のような結果になった。
2008 年:最小値 14.2% / 最高値 99.5% / 平均値 73.40%
2009 年:最小値 21.6% / 最高値 99.4% / 平均値 74.98%
2010 年:最小値 43.9% / 最高値 99.4% / 平均値 79.15%
年間平均風速に続き、ここでも実績値に大きな差があらわれた。平均値はどの年も 7 割台だ
が、最小値と最高値の差は 2~7 倍近くとなっており、低稼働率の事業者はかなり厳しい事業
運営を強いられていると予想される。
一方、3ヵ年平均で 90%を超える稼働率を示した事業者は表 4-2 の通りである。
2-14
付録 2
表 4-2 高稼働率事業者一覧
2008 年
2009 年
2010 年
3 ヵ年平均値
北海道寿都町
96.56
97.16
96.16
96.63
愛知県豊田市
98.11
98.57
98.26
98.31
高知県公営企業局(野市風力)
99.5
99.4
99.4
99.43
高知県公営企業局(甫喜ヶ峰)
88.8
90
96.8
91.87
鳥取県北栄町
93.3
94.4
92.9
93.53
幌延風力発電株式会社
92.55
94.47
97.47
94.83
南淡風力エネルギ-開発株式会社
93.9
89.05
99.4
94.12
単位:
(%)
C-2 過去 3 年(事業年度)の設備利用率についてお知らせください。
設備利用率は実際に発電した電力量を基に算出されるため、施設がどれだけ売電収入を稼い
だかを示す重要指標である。本調査における設備利用率については以下のような結果となった。
2008 年:最小値 6.2% / 最高値 35.7% / 平均値 17.85%
2009 年:最小値 2.99% / 最高値 32.0% / 平均値 18.03%
2010 年:最小値 7.1% / 最高値 32.6% / 平均値 18.48%
平均値だけを見ると 18%前後となっており、日本風力発電協会が示す全国平均の数字とさ
ほど変わらないと言えるが、全体的にはやはり二極化の傾向が見られる。
設備利用率が 3 ヵ年平均で 25%を超える事業者を表 4-3 に示す。
稼働率が発電の前提(スタンバイ状態)をいかに満たしているかを示すのに対し、設備利用
率は発電の結果(発電量)がどれだけあったかを示していると言える。稼働率、設備利用率と
もに高い数値を示している北海道の2事業者(寿都町、幌延風力発電)は高採算性を確保する
条件を満たしていると言え、その取り組みからは多くの知見が得られると思われる。
表 4-3 高設備利用率事業者一覧
2008 年
2009 年
2010 年
3 ヵ年平均値
北海道寿都町
29.1
27.02
23.31
26.48
北海道せたな町
35.7
32
32.6
33.43
三重県津市
24
29
26
26.33
幌延風力発電株式会社
29.01
30.45
29.75
29.74
単位:
(%)
C-3 過去 3 年(事業年度)の年間発電電力量(実績値)についてお知らせください。
年間発電量については、各事業者によって規模が違うため、単純な比較はできない。各年度
の全体の平均値は、約 664 万 kWh(2008 年度)から約 757 万 kWh(2009 年度)、約 771 万 kWh
(2010 年度)と増加傾向にある。各事業者の年間発電量については回答一覧の表を参照され
たい。
2-15
付録 2
また 2010 年度の発電量で 2000 万 kWh 以上を記録している事業者は表 4-4 の通りである。
注目すべきは設備能力をいかに有効に使い発電しているかを表す単位当たり発電量の違い
である。表中の第三セクター2 社は同じ設備容量で、メーカーや機種も同じであるが。2.5 倍
近い差が見られる。
表 4-4 2010 年度年間発電量上位事業者一覧
事業者
設備容量
2010 年度発電量
kW 当たり発電量
(kW)
(kWh)
(kWh/kW)
北海道寿都町
11980
24500000
2045.08
鳥取県北栄町
13500
23291520
1725.30
島根県企業局
20700
31009970
1498.07
(株)江差ウィンドパワ-
21000
23272920
1108.23
幌延風力発電株式会社
21000
54615000
2600.71
C-4 売電契約の内容についてお知らせください。
売電先としてはほとんどの事業者が電力会社と回答したが、「商社」という回答もあった。
売電価格については図 4-6 のようになった。26 の回答のうち、22 が「11 円台」
、2 が「10 円
台」
、
「その他」が2となった。売電価格の平均値は 11.42 円/kWh(単価の変動する契約、詳
細の分からない回答は計算上除外した)となった。
図 4-6 契約売電単価の割合
その他に属する契約で興味深いのは、ステップ単価方式である。最初の 5 年 5 か月は 14.7
円/kWh だが、その後 4 年おきに単価が大きく下がっていくという契約である。最後の 4 年は
2.93 円/kWh であり、万が一、借入の返済等が終わっていない状況でこの売電価格となると、
ランニングコストをかなり抑えたとしても採算性を確保するのは極めて難しいと言えるだろ
う。
契約期間については「17 年」との回答が 9、
「15 年」との回答が 12 と大半を占めた。
3. 今後の分析方針
今後は適宜、各項目別に回答結果を分析していくが、出来る限り平均値や参考指標を用いる
2-16
付録 2
ことで全体的な傾向や各事業者の位置づけを分かりやすく示せるようにしていきたいと考え
ている。
また設問 D【停止・メンテナンス等について】や設問 E【風力発電事業の採算性に関するご
質問】においては、設問文の厳密性が欠けていたこと、または各事業者によって故障・事故の
定義や停止時間の考え方、会計の違いなどから、回答結果の一部において、データの利用可能
性、比較可能性に疑義が生じている。分析の際はその点を十分考慮しつつ、どのような形で調
査成果に反映させるのかを明確にしていきたい。
本アンケート調査及びヒアリング調査の目的は風力発電事業をあらゆる角度から分析し、採
算性を左右する諸要因を特定していくことである。故障や事故の原因究明や赤字経営に対する
追求などではない。そして諸要因の特定が可能となれば、風力発電事業のリスクが何であるか
が判断しやすくなると考えられる。地域金融の融資可能性向上のための一助となれるよう分析
を進めていく。
2-17
付録 2
資料 5
風力発電設備の立地と地域の対応
法政大学 廣瀬勝之
1.事例:茨城県神栖市
神栖市は茨城県における鹿行地区において鹿嶋市と並ぶ中心都市である。同市は、2005 年 8
月に旧波崎町と旧神栖町の合併によって誕生した。同市の人口は、9 万 2315 人を数える。同
市が他の都市と大きく異なる点は、同市の北に位置している鹿嶋市との両市にまたがって鹿島
臨海工業地帯が立地している点である。この工業地帯開発の際に、神栖市は工業地域と住居地
域とに分けられることになった。
この地域には、34 基(2012 年 3 月現在)の風力発電施設が立地している。この地域におけ
る特徴として、地元外企業、地元企業、自治体所有の風車、NPO とさまざまな主体による再
生可能エネルギー事業が行われている。この地域に風力発電施設を導入する際には自治体が定
めた「神栖市風力発電施設建設に関する取り扱い要項」に沿ったかたちで行われることが要請
される。この要項により建設場所が限定され、風車建設に対する反対運動は起きていない。
今後、地元企業による鹿島沖に 100 基の洋上風力発電設置事業が計画されている。
2.事例:静岡県東伊豆町
静岡県東伊豆町は、伊豆半島の東海岸の中央に位置している。人口は、2010年の段階で、
14,064人である。東伊豆町の風況は、東伊豆町風力発電所において年平均風速は、6.6m/sと
なっているように、風力発電が有望な地域であるといえる。
東伊豆町には稼働中の風力発電施設群が 2 か所ある。
ひとつは、三菱重工業製の 600kw3 基の町営の風力発電施設がある。
もうひとつは、CEF(クリーンエナジーファクトリー)伊豆熱川ウィンドファーム(株)で
ある。それは、1,500kw10 基で、2007 年 12 月 22 日に稼働した。稼働前から稼働反対の運動
がおこり、稼働後に近隣住民への健康被害を訴える苦情が多数寄せられている。この苦情から
夜間の操業を一定時間停止するなどの処置を事業者側は行っている。
その他に、三筋山に建設予定の風力発電群がある。建設主体は、東京電力(株)とユーラス
エナジージャパン(株)である。設置予定風車は、1,670kw21 基である。建設予定地が自然
環境への影響が起きる恐れがあるために、多数の団体から建設中止を求める運動が起きている。
3.調査による発見事項と考察
神栖市の事例と東伊豆町の事例を比較すると、「神栖市風力発電施設建設に関する取り扱い
要項」のような風力発電施設の設置場所の限定が地域社会に再生可能エネルギーを導入する際
に必要である。特に、自治体行政によって積極的にゾーニングを行い、住民に対する健康被害
を生み出さないこと、住民に再生可能エネルギーに対する不安感を与えさせないようにするこ
とこそが地域社会に円滑に再生可能エネルギーを導入することが可能になる。
また、このような規制は一見すると設置主体に大きな制約と思われるが、決してそうではな
い。東伊豆町の事例でみたように、健康被害を引き起こすことにより、夜間の操業停止を実施
することになるなど再生可能エネルギー事業においては致命的な状況を生み出し、風力発電事
業自体が立ち行かなくなる可能性をもたらしてしまう。
2-18
付録 2
資料 6
秋田県における風車建設の動向
岩手県立大学 茅野恒秀
1. はじめに
秋田県にはすでに 105 基の風車が立地しているが、そのうち、県内の企業または団体・市
民によって建設されたのは、自治体設置のものを含めても 5 基にとどまっている。2011 年は
市民出資の風力発電から派生した風車建設が相次いだので、その動向を報告する。
2. 風の王国プロジェクトと大潟村の取り組み
「風の王国プロジェクト」は、秋田県の海岸線と大潟村に約 5000 億円を投資して合計 1000
基の大型風車を建設し、自然エネルギーの供給基地として秋田の活性化を目指す構想である。
専門機関や大学、民間企業の有志をメンバーに 2007 年に準備委員会が発足、2008 年に「環
境あきた県民フォーラム」が事務局となり、新組織「風の王国推進会議」として構想を発表し
た。2012 年 1 月 8 日には、事業会社である「株式会社風の王国」が設立され、東北電力が募
集する電力買取制度に応募した。同社は東北電力が実施した 2012 年 2 月の抽選で、大潟村に
おいて、2000kW 級風車 2 基分の売電権利を得た。
その大潟村では、2015 年度までに村や「株式会社風の王国」、村民などが出資した新会社を
設立し、風力発電事業に参入する計画を、2012 年 3 月定例村議会で発表した。
3. にかほ市における市民風力発電と生活クラブ、ワタミの共同事業
にかほ市では、東京・神奈川・千葉・埼玉の生活クラブ出資と組合員の寄付による風車が建
設されている。事業は、一般社団法人グリーンファンド秋田が担当し、上記した4つの生活ク
ラブ協同組合(単協)が出資して参画する。発電した電力は PPS(サミットエナジー株式会
社)を介して、グリーン電力証書による環境価値とセットで、生活クラブの配送センター等の
施設に供給される。風車の出力は 2000kW で、年間 467.5 万 kWh の発電量を予定している(図
6-1)
。
図 6-1 生活クラブ風車の電力供給イメージ 1
風車の愛称は、にかほ市の小学生から募集し「夢風(ゆめかぜ)
」と名づけられ、2012 年 4
月から電力供給を開始する。あわせて、出資者である首都圏生活クラブ4単協は、この風車建
設をきっかけに、にかほ市の産品を共同購入する動きがあり、再生可能エネルギーの生産と消
2-19
付録 2
費にとどまらない地域間連携につながる可能性がある。
居酒屋チェーンや介護事業を手がけるワタミ株式会社は、同社が融資する一般社団法人この
うら市民風力発電を通じて、市民風車事業に参画した。このうら市民風力発電は、にかほ市内
に出力 2000kW の風車を建設し、2012 年 3 月から稼働を開始した。発電された電力は、PPS
とワタミの環境事業会社を介して、ワタミが実施する介護施設に供給される。愛称は「ワタミ
の夢風車 風民(ふーみん)
」と名づけられた(図 6-2)。
市民風力発電
出資
ワタミ
昭和リース
融資
融資
風車 2000kW
一般社団法人このうら市民風力発電
売電
PPS(株式会社エネット)
電力・環境価値
グリーン電力証書
ワタミエコロジー
電力
ワタミの介護
図 6-2 ワタミの夢風車
風民
事業スキーム 2
にかほ市における 2 基の風力発電は、いずれも市民風力発電を母体として、2007 年に東北
電力の系統連携抽選に当選していたもので、グリーンファンド秋田とこのうら市民風力発電は
当初は有限責任中間法人として設立され、生活クラブとワタミからの資金調達により一般社団
法人の SPC へ移行した。
このように従来の市民風車のような全面的な市民出資による事業スキームではなく、市民風
車の事業パートナーを見つけ、出資・融資を受ける事業スキームとして、にかほ市における 2
基の風力発電は市民風車の可能性を広げるものとして期待される。
4. 再生可能エネルギー事業体の担い手育成の取り組み
2012 年 2 月 4 日に秋田市内で、アキタ朝大学と秋田マチナカ大学の共催により、講座「ま
すます自然エネルギー×秋田のポテンシャルに気付いちゃう授業」が開催された。再生可能エ
ネルギー事業の担い手育成を意図して行われた講演会に、県内各地から 50 名の参加者があっ
た。参加者の男女比は概ね 7:3 で、年齢層は 20~30 歳代が半数弱を占めた。環境エネルギー
政策研究所の古屋将太研究員の講演の後、参加者の意見交換が行われた。今後、秋田では再生
可能エネルギー事業をめぐるコミュニティの巻き込み、政策の学習・分析、ビジネス化の方策、
資金調達の方法等、個別テーマで、事業体の担い手育成の取り組みを発展させることになって
いる。
1
2
出所:生活クラブ東京ホームページ http://tokyo.seikatsuclub.coop/eco/protect/fusya.html
(閲覧日:2012 年 3 月 22 日)
2012 年 3 月 19 日、ワタミ株式会社のプレスリリースより作成した。
2-20
付録 3
付録 3【資料 1】
東北・2020 年自然エネルギー100%プラン
環境エネルギー政策研究所(ISEP)
松原弘直
1. はじめに
東北地方を世界でもっとも持続可能性の高いエネルギーエリアとするために、2020 年までの自然エネルギーの
域内導入目標を 100%とする。ただし、まずは域内の電力需要量に対する自然エネルギーによる電力供給量を
100%以上とすることを数値目標とし、熱利用や輸送用燃料については、個別の政策目標を定める。
そのために、「自然エネルギー急速な普及政策」、「全分野でのエネルギー効率最大化」および「エネルギー需
給体制の抜本改革」 を強力に推進する。合わせて、自然エネルギー及び省エネルギー技術を活用した生活基
盤の総合的な再生を推進し、自然エネルギー関連産業を新しい基幹産業として位置づけると共に、地域の再生
可能資源の活用や各地域における住民の参加を支援する仕組みづくりを行う。
2. エネルギー需要(電力)と自然エネルギーの現状
東北地方で消費される年間の電力需要は 956 億 kWh であり、その内訳は家庭部門 26%、業務部門 27%、農林
水産および建設業 3%、製造業 45%となっている。現状の県別の電力需要の内訳を図 1 に示す。
一方、現状の自然エネルギー(大規模水力を除く)の導入状況は、東北地方全体で全電力需要の 6%程度であり、
その供給割合は全国平均の 3.4%の 2 倍近くとなっている(2010 年版永続地帯研究報告書より 2008 年度推計)。県
別では、図 2 に示すように秋田県と青森県が自然エネルギーの供給割合がすでに 10%を超えており、岩手県、福
島県、新潟県も 5%を超えていることがわかる。
図 1: 東北地方の県別の電力需要(2008 年度)
図 2:自然エネルギーの供給割合(2008 年度推計)
3. 自然エネルギー導入ポテンシャル
東北地方の自然エネルギーの導入ポテンシャルは、日本全体の中でも特に有望な地域となっている。表 1 の算
定条件に基づき県別の自然エネルギー導入ポテンシャルを推計したものを、現在の電力需要と比較して図 3 に示
す。青森県、岩手県、秋田県、山形県、福島県については、現状の電力需要を大きく上回る自然エネルギーの導
入ポテンシャルがあることがわかる。この中で、風力発電の導入ポテンシャルのマップを図 4 に示す。
3-1
付録 3
表 1:自然エネルギー導入ポテンシャルの算定条件
算定条件
気象データ
有望地域の抽出方法
太陽光
風力
小水力
標高のデータから直達日射量
NEDO 風況モデル LAWEPS
年間降水量と標高のデータから
をシミュレーション
から風況データを引用
河川流量を算出
直達日射量のシミュレーション
道路からの距離が 200m 以内
河川流量が 0.01 m3/s 以上の
結果が、0.1kWh/m2 以上であ
最大傾斜量が 20 度以下
河川を抽出
ること(ほぼすべての居住地域
標高が 1000m 以下
が対象となっている)
土地利用図面において建物
用地でない
高さ 30m の年間平均風速が
5.0m/s 以上
自然公園や国定公園でない
ポテンシャルの算出方法
1 家庭当たりの導入容量を 1
抽出された有望地域に対し
抽出された河川に対して、50m
kW として各メッシュの世帯数
て、風力発電設備を最大限に
間隔で、傾斜から有効落差を推
から導入容量を計算すること
導入した場合に得られる年間
定し、河川流量の位置エネルギ
で、ポテンシャルを算出。
発電電力量を地域内で合計
ーを算出することで、中・小水力
ポテンシャルを推定した。
加えて、公共系建築物、工場、
未利用地、耕作放棄地につい
て環境省の導入ポテンシャル
調査結果※のレベル 3 につい
て、その 50%とした。
※環境省:平成 22 年度自然エネルギー導入ポテンシャル調査
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=13696
3-2
付録 3
図 3;東北地方の県別の自然エネルギー導入ポテンシャル
図 4:風力発電の導入ポテンシャル分布
3-3
付録 3
4. 2020 年自然エネルギー100%プラン
東北地方を世界でもっとも持続可能性の高いエネルギーエリアとするために、2020 年までに自然エネルギーの
域内導入割合を 100%とするプランを以下に示す。
2020 年の全電力需要は現状の 2 割程度を削減できると想定し、2020 年に自然エネルギーの導入割合を 100%
とするシナリオを表 2 のとおり検討した。現状では大規模水力を含む自然エネルギーの割合は 15%であるが、自然
エネルギーとして太陽光発電、風力発電、地熱発電、小水力発電、バイオマス発電の地域内での普及を進め、図
5 に示すように域内(東北 7 県)での自然エネルギーによる発電量の割合を域内の電力需要に対して 100%とするシ
ナリオとなっている。この 2020 年シナリオにおける県別の自然エネルギーによる発電量の内訳を図 6 に示す。また、
図 7 には県別に自然エネルギー発電設備の設備容量の内訳を示す。
域内で発電された自然エネルギーに電力は、発電出力によっては域内ではなく、電力需要の大きい関東地方
で消費されることも想定される。逆に東北の域内で不足する場合には、別地域の電力で不足分を賄う必要もある。
まずは域内で電力の供給と需要をバランスさせるいわゆるスマートグリッドとして整備すると共に、少なくとも東京
電力管内と東北電力管内の送電部門を統合し、系統インフラを強化してより広域での電力需給の調整を可能に
する必要がある。
自然エネルギーによる発電設備を 2020 年までに急速に普及させるためには、あらゆる政策を動員する必要が
ある。その中でも自然エネルギー事業の経済性を高める政策としては全量全種の固定価格買取制度が有効であ
る。この東北での自然エネルギーについて 2020 年までの導入量に対する投資額は約 14 兆円に達するが、年平
均では 1.7 兆円となる(2012 年度からの 8 年間)。これを固定価格買取制度により全国の需要家への電気料金にサ
ーチャージとして一律に反映した場合は、2020 年時点で kWh あたり最大約 1.7 円となる。これは、平成 24 年度か
らの施行を目指している新たな全量の固定価格買取制度において、東北復興の為の上乗せ買取価格を設定す
ることにより実現可能なレベルと考えられる。海外からの燃料費(石炭、LNG など)の調達費用は 2008 年の高騰時
には年間 6000 億円程度(10 円/kWh)に達しており、今後の化石燃料の価格上昇を考慮すると回避可能原価によ
りこれらの投資の 3 割程度の部分を回収できると想定している。
表 2:東北 2020 年自然エネルギー100%プラン
エネルギー種別
化石燃料
現在(2008 年)
2020 年
現在(2008 年)
2020 年
電力量
電力量
設備容量
設備容量
63%
1025 万 kW
0%
(LNG 22%
(LNG587 万 kW
石油 1.4%
石油 155 万 kW
石炭 27%)
石炭 283 万 kW)
22%
0%
327 万 kW
大規模水力
9%
10%
326 万 kW
326 万 kW
自然エネルギー
6%
90%
162 万 kW
約 3000 万 kW
(太陽光 0.1%
(太陽光 14%
(太陽光 11 万 kW
(太陽光 1,000 万 kW
風力 1.5%
風力 50%
風力 58 万 kW
風力 2200 万 kW
地熱 1.0%
地熱 9%
地熱 27 万 kW
地熱 120 万 kW
小水力 3.2%
小水力 25%
小水力 59 万 W
小水力 310 万 kW
バイオマス 0.3%
バイオマス 2%
バイオマス 7 万 kW)
バイオマス 20 万 kW)
952 億 kWh
851 億 kWh
1840 万 kW
約 3700 万 kW
原子力
年間電力量/設備容量
3-4
付録 3
図 5:東北での電力の供給構造(現状[2010 年]と 2020 年再エネ 100%プラン)
図 6:2020 年シナリオでの県別の自然エネルギー発電量
3-5
付録 3
図 7:2020 年シナリオでの県別の自然エネルギー発電設備容量
5. おわりに
2011 年 3 月 11 日は、日本にとって、明治維新、太平洋戦争敗戦に次ぐ、歴史的な「第3のリセット」の日となる。
もはや過去の体制には戻れないし、戻ってはならない。震災による数多くの犠牲はもとより、福島原発事故という
「人災」が私たちに与えたとてつもない恐怖や今後長い年月にわたって向き合わなければならない放射能汚染と
いう厄災を捨て石にしてはならない。
3.11 後のエネルギー政策・原子力政策は、人心を一新した上で、日本国民が未来に希望を持つことができるも
のを築きあげてゆかなければならない。このペーパーは、その第3弾として東北復興に関係する全ての方に問い
かけるものである。
以上
3-6
【資料 2】
付録 3
東日本大震災復興支援「つながり・ぬくもりプロジェクト」
環境エネルギー政策研究所(ISEP)
氏家芙由子
3月11日の東日本大震災を受け、津波・地震・原発の被害を受けた被災地を自然エネルギーで支援することを目
的としてプロジェクトは発足した。プロジェクトを構成するのは、自然エネルギーを基盤とする持続可能な社会づくり
を目指す団体や企業である。幹事団体は環境エネルギー政策研究所(ISEP)、ぐるっ都地球温暖化対策地域協議
会、自然エネルギー事業協同組合レクスタ、WWFジャパン、バイオマス産業社会ネットワーク(BIN)の5団体で、協
力団体として26の団体が参加している(2012年1月25日現在)。
活動は、それぞれの団体のメンバーが被災地を歩く中で、さまざまなつながりや草の根ネットワークを活かし、被
災された方や地域の人々の要望を伺いながら進めている。また、被災地のNPO/NGO、企業や自治体等とも連携・
協力し、地域に根付いた支援活動をめざしている。協力団体のうち、被災地県にある、岩手木質バイオマス研究会、
三陸・宮城の海を放射能から守る仙台の会(わかめの会)、水環境ネット東北、日本の森バイオマスネットワーク、ま
た、宮城県石巻市を中心に支援活動を行っているアースデイ東京タワーボランティアセンター等からは、情報提供
や支援先との相談等で多大な協力を得ている。
支援の柱は「太陽光」「太陽熱」「バイオマス」の自然エネルギーである。太陽光プロジェクトは、ソーラーフロンテ
ィア(株)から太陽光パネルを寄贈され、400wから20kwの規模で設置をすすめている。工事施工等の実施および支
援の取りまとめは、自然エネルギー事業協同組合レクスタが担っている。太陽熱プロジェクトは、ぐるっ都地球温暖
化対策地域協議会が取りまとめを行い、(社)ソーラーシステム振興協会加盟の温水器メーカーから低価格で提供
された太陽熱温水器を、同振興協会の指導のもと陸前高田市や石巻市で被災された方が設置している。バイオマ
スプロジェクトは、震災直後は、選別した被災材を薪かまどや薪ボイラーで燃やし、お湯やお風呂の提供が行われ
た。その後は、コミュニティスペースなどへの薪・ペレットストーブの設置支援も始まり、バイオマス産業社会ネットワ
ークが取りまとめ、活動を進めている。
支援活動は、2011年4月18日に名取市役所(宮城県名取市)、および高舘小学校(宮城県名取市)に太陽熱温
水器1台ずつを設置したことを皮切りに始まった。4月20日には避難所となっている個人宅(岩手県陸前高田市)に
400wの太陽光パネルを設置し、明かりや携帯・電化製品等の電源として使用された。4月初めには吉里吉里小学校
(岩手県大槌町)に移動式薪ボイラー車を設置し、お風呂やシャワーとして使用された。その後も、岩手県、宮城県、
福島県の主に沿岸部の被災地を中心に設置活動を行い、これまでに太陽光約160ヶ所、太陽熱約40ヶ所、バイオ
マス約7ヶ所で設置支援を行っている(2012年1月25日現在)
プロジェクトでは、2011年4月から6月までを「緊急支援」、2011年7月から12月までを「復旧支援」、2012年1月から
9月までを「復興支援」とフェーズを区切り支援活動をすすめている。緊急支援フェーズでは、ライフラインが断たれ
た被災地で避難所や避難所となっている個人宅等に太陽光パネルや太陽熱温水器、薪かまど・ボイラー車を設置
し、電源や炊き出しのお湯、お風呂等に役立てられた。復旧支援フェーズでは、学校や福祉施設等の公的施設に
設置を行い、緊急時のエネルギー源としての活用のほか、電気やガス代等の光熱費を軽減する生活支援という意
味でも役立てられている。復興支援フェーズでは、被災地の復興計画の中に「自然エネルギーの活用」や「地域の
自然エネルギーによる自立」を織り込んでいくことを目指している。また、支援活動および寄付活動は2012年9月に
3-7
付録 3
いったん区切りを付ける予定だが、プロジェクトを通して構築された協力関係や地域に住む人々や自治体等と協力
して、本プロジェクトで設置された設備・機器の維持・管理について、責任ある体制に委ねることも目指している。
ただし、これはあくまでプロジェクト側の仕分けであり、地域によって様々である被災地の状況に併せて対応して
いる。例えば、宮城県の北上川河口付近に位置する石巻市尾崎地区は、津波の被害が甚大で電気の復旧が大変
に遅れている。プロジェクトでは、数カ所に太陽光パネルを設置しており、避難先の仮設住宅から地域に戻り家の片
付けや生業の漁を行う人たちに、電源や街灯として使用されている。また、被災地では街灯の支援ニーズが多い。
これは、例えばもとから街灯がほとんどない山間に仮設住宅が建てられ、街灯の設置が間に合わないといった状況
に因る。このような、行政等の手の届かない地域へきめ細かな支援を行って行くことも、このプロジェクトの役割であ
る。
プロジェクトの活動資金は寄付や助成金によってまかなわれている。寄付総額は61,310,033円(2012年1月25日
現在、助成金含む)で、国内外の多くの方より被災地へのメッセージとともに寄せられている。また、支援活動の中で
も大型案件である「岩手県気仙郡住田町の木造仮設住宅への太陽熱温水器設置プロジェクト」は、三井物産環境
基金の助成を受けて活動を行っている。
今後の課題としては、大きくは、被災地に住む方とこれからの被災地でのエネルギー利用についてともに考える
場をつくっていくことが挙げられる。また、自然エネルギー機器・設備の設置や維持・管理技術の伝授を行ってい
くことも課題である。このプロジェクトで設置した機器は基本的には設置先への提供になるが、必要に応じて維持・
管理などのフォローを行う予定である。それらはなるべく被災地の方に仕事として担当してもらうことが望ましい。
現在プロジェクトには、東日本大震災で被災されたおよそ 7 名の方が太陽光パネルや太陽熱温水器の設置担当
者として参加しているが、今後、自然エネルギー設備の技術講習会を行い、さらに技術者を育成していくことも目
指される。
以上
3-8
付録 3
【資料 3】
秋田県の再生可能エネルギーの動向
環境エネルギー政策研究所(ISEP)
仁平裕之
統合事業化モデル構築に向けたケーススタディとして再生可能エネルギーの導入に対して意欲的な動きを見
せる秋田県の動向を重点的に調査した。
本研究プロジェクトでは、研究ワークショップの開催を通じて、青森や秋田などの東北地域との繋がりを作ってき
た。中でも、2011 年 8 月に秋田県秋田市において開催した「地域のお金とエネルギーを地域と地球に活かす」フ
ォーラムやその前後に秋田県内の各地域で開催したワークショップを通じて、「大潟村」「湯沢市」「風の王国プロ
ジェクト」などの再生可能エネルギーの普及に向けた秋田県内における取り組みと本研究プロジェクトの間におい
て連携関係を構築するという成果を昨年度に得ていた。この成果を受けて今年度は、統合事業化モデル構築に
向けたケーススタディとして秋田県内での動向について重点的な調査を実施した。
これまで秋田県では、県民や県内の企業が主体となり大規模な風力発電の設置することを目指す「風の大国プロ
ジェクト」が活動を行ってきた。また、自治体においては、大潟村でのソーラーカーラリーを実施や湯沢市での地
熱発電の先進的な取り組みなどがあり、再生可能エネルギーに関する知見や実績が蓄積されてきた。こうした蓄
積の上に、2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災と原子力発電所事故及び、それに伴う電力不足がきっか
けとなり、秋田県全体において再生可能エネルギーに関する動きが見られた。
県レベルでの動きでは、2010 年度に県新エネルギー産業戦略会議の場で、再生可能エネルギーを軸とした県
の産業育成や雇用創出について議論が行われ、2020 年までに再生可能エネルギーの導入量を大幅に高めるこ
とが目指している。そして、2011 年 5 月に、東日本大震災と原子力発電所事事故の影響を受けた県は、「秋田クリ
ーンエネルギー総合特区」の構想を打ち出す。これは県全体を特区に指定し、風力、太陽光、小水力、地熱など
の再生可能エネルギーや省エネルギー機器の導入、EV バス、直流グリットなど技術開発を行うもので、国からの
特区指定を受けることで、規制緩和等の適用を受けることが出来、これまで規制により参入が困難であった地域に
おいての取り組みが可能となることを目指したものであった。
また、風の王国プロジェクトでは、県内における 3 カ所の地点において風力発電のフィージビリティ調査を実施
し 2011 年7 月に報告書をまとめている。調査地点は、大潟村北部、秋田市から潟上市にかけての海岸線、南由利
原地区で、いずれの地域も十分な事業可能性が見込まれ、大潟村に 122 本、残りの 2 地域にそれぞれ 28 本づつ
2400kW の風力発電が建設可能であるとの結果を出している。
さらに大潟村においては、昨年度に実施した緑の分権改革の委員を母体として、大潟村長再生可能エネルギー
推進委員会を設置し、引き続き再生可能エネルギーの導入を検討すると共に、稲わらを活用した地域熱供給事
業を行うための試験事業を実施している。一方で、湯沢市においては、翌年に控えた市長選挙の影響から再生
可能エネルギー事業に対する取り組みが鈍化した。
こうした動きを見せる中で、2012 年 10 月には JST フォーラム「地域のエネルギーとお金を地域と地球に活かす
フォーラム」を開催した。秋田県、大潟村、県や県内で営業を展開する金融機関、風の王国プロジェクト、JST 研究
チーム金融を軸に秋田県内に店舗を置く秋田銀行・北都銀行および JST 研究チームが地域のマネーを活かした
エネルギー事業の立ち上げについて討論を行い、昨年度よりもより具体的な地域における再生可能エネルギー
事業の立ち上げに向けた方向性を示すことができた。
フォーラム以後の動きとしては、風の王国プロジェクトが「風の王国三原則」を策定し、この原則のうち少なくとも 2
つ以上を満たす事業が風の王国グループ事業として定義すると決め、地域が主体となったエネルギー事業の普
3-9
付録 3
及を呼びかけようとしている。
風の王国三原則
1,
地域の企業・組織・個人がプロジェクトの 1/2 以上を所有している事。
2, プロジェクトの意思決定は地域に基礎をおく組織によって行われる事。
3, 社会的・経済的便益の 1/2 以上は地域に分配される事。
また、2012 年 7 月の固定価格買取制度の成立と、秋田県内での風力発電の導入が飛躍的に進むことを見越し
て、これまで任意団体として活動を行ってきた「風の王国プロジェクト」が県内の風力発電事業に参入すべく、県内
企業等から出資を集め「株式会社風の王国」を設立した。また会社設立後には、東北電力が実施している風力発
電の系統連系の抽選に能代市内、秋田市から潟上市にかけての海岸線、大潟村内の 3 カ所で応募し、大潟村内
における事業計画が東北電力との系統連係協議が行える権利を得ることになった。系統連携協議の権利を得た
ことで、風力発電事業の実施の具体的な検討に入る必要が出てきたため事業実施地の大潟村との連携が始まっ
ている。
大潟村においては、稲わらボイラーの事業可能性調査を実施し、この調査結果に対しての議論がフォーラム以
後に再生可能エネルギー推進委員会の場にて行われてきた。事業可能性調査の結果としては、当初、稲わらに
よる事業が想定されていたが、収集や含水率等の問題から、籾殻によるバイオマス熱供給事業の方がより有利で
あるとの結論がでている。来年度には、もみ殻での熱供給事業の事業化検討が行われる予定であったが、暗渠設
置への国の補助が急遽決定したため、平成 24 年度のもみ殻の確保が困難であることから見送られた。こうした背
景もあり、大潟村では風の王国と連携して、風力発電の導入に向けた取り組みを行うこととなっている。
また、秋田県内での新たな取り組みとして、にかほ市でのワタミと生活クラブ生協の出資による風力発電事業が始
まった。この事業では、飲食チェーンの企業や生協組合が風力発電事業に参入するという点だけでなく、風力発
電によって発電した電気と環境価値をPPSを介して全量買い取ることで、ワタミは使用する全電力の 3%、生活クラ
ブ生協は事業所などで使用する電力の 3 分の 1 をまかなう点で先駆的な取り組みとなっている。この取り組みを生
協では、お米の共同購入と同じ発想で、電気を共同購入するとりくみとして位置付けていきたいとしており、都市
部の市民が地域のエネルギー事業に参画する方法として今後の可能性を探れる事例である。
以上のように、秋田県における再生可能エネルギーの取り組みの 1 年間の動向を見てきた。今後、予想される
展開としては、大潟村での風力発電事業の事業化である。大潟村では、風の王国と連携しつつ、村民主体の風
力発電事業の事業化検討を行うことを現在検討しており、協議会等を立ち上げる準備を進めている。風の王国と
大潟村での取り組みが本格化しつつある状況下において、この動きにこれまでの研究で得られた知見を活かす
形で JST プロジェクトチームが参画していくことで、統合事業化モデルの具体的な構築を行える可能性がある。ま
た、にかほ市での先行事例をさらに検討していくことで、主たる産業が稲作農業であり、これまで米や農産物を都
市部にむけて販売してき大潟村において、電力の都市部への販売などの取り組みが生まれる可能性もある。
以上
3-10