121 日本写真学会誌 2011 年 74 巻 3 号:121–150 特 集 2010 年の写真の進歩 技術委員会 進歩レビュー分科会主査 吉田 英明(オリンパスイメージング) 「写真の進歩」は,毎年一度時期を決めて前年一年間の写真技術の動きを振り返ることにより,日々進歩を続け る写真技術の全体像を時系列的に俯瞰することを狙いとして,継続的に取り組んでいる企画です. 執筆陣は,技術委員会傘下の各研究会の代表者を中心に,それ以外の識者も加えた各分野の専門家により構成 されています.各執筆者は担当の分野に応じた観点から,主として前年一年間に発表された技術(文献),製品, 作品,統計等について,可能な限りその特徴・傾向・分析などのコメントを加えつつ紹介します.なお具体的な 内容については各執筆者の意向を尊重しています. 今年は新項目として 5 画像出力に 5.3 ディスプレイが加わりました.遅きに失したという声もあるかと思いま すが,今後の当学会の重要なアイテムの一つとして注視して行きます. 例年の「写真の進歩」は,写真学会ホームページ(http://www.spstj.org/)の「学会誌からのトピックス」 (http:// www.spstj.org/book/pickups.html)にも掲載されていますのでご利用下さい. なお執筆者の方々には例年ご苦労を頂いておりますが,特に今年は執筆の時期に東日本大震災が発生し少なか らず影響を受けられた方もありました.そんな中で執筆の責を果たして頂けたことには,この場を借りて改めて 謝意を表したいと思います. 1.写真産業界の展望 ・・・・・・・・・ 市川泰憲(日本カメラ博物館) 122 7.画像評価・解析 ・・・・・・・・・・・ 画像評価研究会(藤野 真) 140 2.銀塩感光材料 ・・・・・・・・・・・・・ 光機能性材料研究会(久下謙一)129 8.分光画像 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 分光画像研究会(中口俊哉) 141 3.光機能性材料 ・・・・・・・・・・・・・ 光機能性材料研究会 9.医用画像 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 医用画像研究会(松本政雄) 142 130 4.画像入力(撮影機器)・・・・・・ カメラ技術研究会(豊田堅二) 131 10.科学写真 10.1 文化財・・・・・・・・・・・・・・ 城野誠治(東京文化財研究所) 143 5.画像出力 5.1 プリンタ ・・・・・・・・・・・・・ 藤田 徹(セイコーエプソン) 133 10.2 天体写真・・・・・・・・・・・・ 山野泰照(天体写真家) 143 5.2 印刷 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 小関健一(千葉大学) 135 11.写真芸術 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 西垣仁美(日本大学芸術学部) 144 5.3 ディスプレイ ・・・・・・・・・ 山口省一(ナナオ) 136 12.映画 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 表現と技術研究会(永井 悟) 149 13.工業規格 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 酒井伸夫(写真感光材料工業会)150 6.画像保存 6.1 画像保存関連技術 ・・・・・ 画像保存研究会(大関勝久) 136 6.2 展示・修復・保存関係 ・・・ 画像保存研究会(山口孝子) 138 *表 1 の学術雑誌と表 2 の学会等の催しについては,それぞれ表中に示したような略称を,また組織名,所属等について一般的 な略称があるものについてはその略称を用いています.年号が記載されていないものは 2010 年のものです. 表 1 「2010 年写真の進歩」で引用した主な学術雑誌およびその 略号 表 2 「2010 年写真の進歩」で引用した主な学会等の催しおよびその 略号 ●雑誌 ●講演会,シンポジウムなど(写真学会主催のもの) 日写誌 : 日本写真学会誌 日写年 JIST : Journal of Imaging Science and Technology 光機能 : 日本写真学会年次大会研究発表講演会(5/27–28) : 光機能性材料セミナー(6/23) ISJ : Imaging Science Journal 画像保存 : 画像保存セミナー(11/5) 日画誌 : 日本画像学会誌 カメラ技術 : カメラ技術セミナー(11/19) 日印誌 : 日本印刷学会誌 日写秋 : 日本写真学会秋季研究発表会(11/30) 4 学研 : 画像 4 学会合同研究会(12/15) 日本写真学会誌 74 巻 3 号(2011 年,平 23) 122 1. 写真産業界の展望 市川泰憲(日本カメラ博物館) 1.1 概況 2010 年は,かつては日本のナショナルフラッグキャリアで あった日本航空が,1 月 19 日に東京地裁へ会社更生法の適用 を申請し,負債総額が子会社を含め 2 兆 3221 億円に上り,ま たトヨタ自動車は 1 月 21 日,米国でカローラなど約 230 万 台のリコールを行うとの発表に加えて,2 月には新型プリウ スなど 4 車種でも世界中で 43 万台のリコールを発表するな ど,経済界では日本を代表するトップ企業において,過去に ない事件が年明け早々から相次いだ年であった. 写真業界においては,いかがなものであっただろうか.詳 細は各項に譲るが,生産数,金額ともわずかでも増加傾向へ と復調したデジタルカメラ,銀塩感材のさらなる生産減少, フィルムカメラ新発売のなかった年,ユーザー向けの写真関 連 のシ ョ ー が業 界 団 体 が 一 体 と な っ た PIE か ら CP+ と PHOTO NEXT へと 2 分化した年などだが,長年続いた米国 の PMA ショーが,QliQ と名称が変わり毎年 2 月開催から 9 月開催へと変更と発表されるなど,国の内外を問わず写真関 連ショー見直しの時期となった年でもあった. 1.2 工業生産 1.2.1 統計 ①銀塩感光材料 表 3 ~ 5 には,2010(平成 22)年の銀塩写真感光材料に関 する総出荷,輸出,輸入の状況を示してある.いずれも写真 表 3 総出荷の状況(経済産業省化学工業統計及びフォトマーケット 社推計による) 品 目 (百万円) 99,917 105 56,792 印刷・業務用フィルム 53,463 77 19,567 76,359 白黒フィルム計 153,380 93 映画用フィルム 44,441 144 14,144 ロールフィルム 8,175 75 15,707 その他フィルム 2,677 100 9,238 カラーフィルム計 55,293 125 39,089 208,673 100 115,448 1,288 108 754 85,869 58 15,025 87,157 58 15,779 295,830 82 131,227 フィルム計 白黒印画紙計 カラー印画紙計 印画紙計 写真感光材料計 (注)ロールフィルムにはレンズ付フィルムを含む. 表 4 輸出の状況(財務省貿易統計に基づく推計) 品 目 平成 22 年数量 2 (千 m ) 前年比(%) X 線用フィルム 30,608 100 印刷・業務用フィルム 47,882 78 78,490 85 映画用フィルム 41,992 148 ロールフィルム 5,808 77 1 100 680 159 白黒フィルム計 レンズ付フィルム その他フィルム え,本年は 2000 年から 2010 年までの日本における写真感光 カラーフィルム計 材料総出荷の推移状況を図 1 に示してみた. フィルム計 表 3 の元となる経済産業省の化学工業統計は,感材メー 平成 22 年金額 X 線用フィルム 感光材料工業会の提供によるものであるが,例年の統計に加 カーの減少により,2007 年 4 月発表分からの写真フィルム合 平成 22 年数量 (千 m2) 前年比(%) 白黒印画紙計 カラー印画紙計 計,白黒印刷・業務用フィルム,印画紙合計以外の品目デー 印画紙計 タの非開示に加え,2009 年 6 月からは印画紙も非開示となっ 写真感光材料計 48,481 133 126,971 99 607 246 49,414 47 50,021 47 176,992 76 ている.したがって,写真感光材料工業会ではフォトマーケッ ト社の推計資料を元に,財務省貿易統計や市場情報を加味し て独自分析している. 表 3 の総出荷の状況を見ると,フィルム計では前年比 100 %と変わらずであるが,印画紙計では前年比 58%であり,大 きく減少している.このうち X 線専用フィルムは前年比 105 %と堅調であるが,同じ白黒フィルムでも印刷・業務用フィル 表 5 輸入の状況(財務省貿易統計に基づく推計) 品 目 X 線用フィルム 印刷・業務用フィルム 白黒フィルム計 平成 22 年数量 2 (千 m ) 9,297 前年比(%) 133 8,231 95 17,528 112 ムは前年比 77%と大きく減少している.医療の現場での画像 映画用カラーフィルム 2,906 75 診断は,まだまだフィルムを直接見るという目視による部分 ロールフィルム 191 88 が多い結果だと考えられるが,印刷・業務用では,DTP(Desk レンズ付フィルム 280 92 その他フィルム 513 107 Top Publishing)による組版データを,フィルムに出力して刷 版を作る在来技法だけでなく,フィルムを介せず直接刷版を 制作するコンピュータダイレクト製版 (CTP: Computer to Plate) の進展,さらには刷版を必要としない簡易な On Demand 印刷 の普及なども影響していると考えられる. このようななかで,映画用カラーフィルムは,プリント需 要の増加などもあってか,前年比 144%という伸びを示して カラーフィルム計 フィルム計 白黒印画紙計 3,890 80 21,418 104 274 95 13,677 100 印画紙計 13,951 100 写真感光材料計 35,369 102 カラー印画紙計 2010 年の写真の進歩 123 いる.一方で,カラー印画紙計は前年度比 58%と大きく落ち 144%と準じた伸びであって,国内需要より海外へ増加分が 込んでいる.白黒印画紙は平成 20 年から平成 21 年にかけて 振り向けられたということなのだろう. 前年比 18%という極端な落ち込みを示した.そして平成 21 表 5 は,輸入の状況を示している.輸入された写真感光材 年から平成 22 年には前年比 108%という微増を示している 料計としての数値は前年比 102%であるために,総出荷の前 が,絶対量が少ないために印画紙計の数値にはまったく影響 年比 82%に比べると前年比で 102%と微増ではあるが,前年 を及ぼしていない. を輸入全体で割っていないことは注目される.これは比較的 なお表には示していないが,国内供給量は,リバーサルフィ 構成比の高い X 線用フィルムの前年比 133%という数値が大 ルムを含む一般用カラーロールフィルムは前年比 69%と減 きく寄与し,前年比 107%のその他フィルムと構成比の高い 少し,国民 1 人あたり年間 0.26 本相当の消費量となる.同様 カラー印画紙計が前年並み 100%であったことが,結果とし にしてカラー印画紙は国内供給量は前年比 90%であり,国民 て輸入感光材料計 102%をたたき出していることがわかる. このうち映画用フィルムの増加に関しては,国内の需要は 1 人あたり L 判換算で年間 38 枚相当の消費量になるようだ. いずれにしてもデジタルカメラの伸びとショット数の増大 かんばしくなく,公開本数が 2009 年 762 本から,2010 年 716 が,プリント需要に直接つながらない状況になっていること 本,とりわけ邦画の本数が,2009 年 448 本から 2010 年 408 は明白だ. 本と減少しており,シネマコンプレックスを中心とした上演 表 4 は,輸出の状況を示している.このうち白黒印画紙の スクリーン数の伸びが鈍化したこと,さらにはデジタル対応 み前年比 246%という伸びを示しているが,カラー印画紙の スクリーンの増加なども影響しているようだが,生産の伸び 数量と比べるとその増加はまったく寄与しなく,結果として はそのまま輸出に振り向けられたことを裏付けている. 前年比 47%であって,大幅な減ということになる.その他品 図 1 には,2000 年から 2010 年の総出荷量を品目別に積算 目においては,映画用フィルムの前年比 148%は,総出荷の してグラフ化してみた.これをご覧になっておわかりのよう 図 1 2000 年から 2010 年における写真感光材料総出荷量の推移 表 6 デジタルスチルカメラ生産出荷実績表 出 荷 生 産 区 分 デジタルスチルカメラ合計 レンズ一体型 タイプ区分 レンズ交換式 一眼レフタイプ 累 計 1 ~ 12 月 上段:数量(台) ,下段:金額(千円) 総出荷 前年同期比 (%) 累 計 1 ~ 12 月 日本向け 日本向け以外の出荷合計 前年同期比 (%) 累 計 1 ~ 12 月 前年同期比 (%) 累 計 1 ~ 12 月 前年同期比 (%) 121,766,943 118.2 121,463,234 114.7 10,572,942 108.5 110,890,292 115.4 1,372,441,386 101.8 1,643,253,101 101.4 198,136,152 95.4 1,445,116,949 102.3 108,793,083 116.6 108,576,298 113.2 9,071,554 104.5 99,504,744 114.0 977,401,007 97.9 1,139,862,966 98.1 133,744,241 87.4 1,006,118,725 99.7 12,973,860 132.8 12,886,936 130.0 1,501,388 140.2 11,385,548 128.8 395,040,379 113.1 503,390,135 109.7 64,391,911 117.9 438,998,224 108.6 (カメラ映像機器工業会統計より) 日本写真学会誌 74 巻 3 号(2011 年,平 23) 124 図 2 カメラ総出荷数量の推移 表 7 カメラ用交換レンズ生産出荷実績表 出荷 生産 区 分 一眼レフ用交換レンズ合計 35 mm 用レンズ デジタル専用レンズ 上段:数量(個) ,下段:金額(千円) 総出荷 累計 1 ~ 12 月 前年同期比 (%) 日本向け 累計 1 ~ 12 月 前年同期比 (%) 累計 1 ~ 12 月 日本向け以外の出荷合計 前年同期比 (%) 累計 1 ~ 12 月 前年同期比 (%) 21,803,821 137.0 21,694,870 134.8 2,633,870 144.5 19,061,000 133.6 259,554,256 124.1 389,398,354 128.1 51,460,727 132.2 337,937,627 127.5 5,131,187 132.0 5,105,293 128.4 322,999 108.6 4,782,294 130.0 116,412,551 133.8 177,941,303 136.5 14,902,344 119.5 163,038,959 138.3 16,672,634 138.5 16,589,577 136.9 2,310,871 151.5 14,278,706 134.8 143,141,705 117.2 211,457,051 121.7 36,558,383 138.1 174,898,668 118.8 カメラ用交換レンズには交換式の標準レンズを含む. に,銀塩感光材料総出荷のピークは 2002 年であって,ピー (カメラ映像機器工業会統計より) 年を割った年でもあった.しかし 2010 年においての伸びは, ク時に対し 2010 年における総出荷は約 45%となる.その低 2008 年の総出荷 119,757 千台に対しても 121,463 千台とわず 下率が低いと見るか,高いと見るかは大きく意見の分かれる かではあるが増加しているので,明るい兆しとなった.これ ところかもしれないが,フィルムカメラの生産統計が 2008 年 をさらに細かくタイプ区分で見ると,レンズ一体型の数量伸 に見えなくなり,デジタルカメラが全盛の時に,これだけの び率 114%より,レンズ交換式一眼レフタイプのほうが 128.8 生産を維持しているのは,いわゆる一般写真撮影用の感光材 %と高い値を示していることから,CIPA では今後も高級なレ 料だけでなく,映画・医療・産業用分野では写真感光材料が ンズ交換式が伸長することが予想され,2011 年の見通しとし まだまだ多くの場面で使われていることを意味するのではな ては 130,000 千台近い伸びを示すだろうとしている. いかと考える. ②カメラ / 交換レンズ / フォトプリンター生産実績 毎年のことであるが,いずれもカメラ映像機器工業会の統 なお表 6 では,過去にはさまざまな画素の区分が示されて きたが,本年 2010 年分から省略されている.ちなみに 2005 年の画素区分は 600 万画素を境としていて,2008 年は 800 万 計実績からの引用抜粋であることをまず最初にお断りしてお 画素,2009 年では 1000 万画素を境としていた.現状ではコ こう. ンパクトおよび一眼レフタイプでもほとんどが 1,000 万画素 表 6 に示したデジタルスチルカメラ生産出荷実績表を見る と,1 月から 12 月までの累計は前年度比数量で見ると前年度 比 115.5%,金額で 102.3%と増加している.しかし図 2 の を超えているのが日常であり,画素区分が無意味となったこ と,さらには今後画素数の向上が実用上これ以上見込めない (不必要)との判断などが働いたのではないかと考える. 2000 年から 2010 年におけるカメラ総出荷量の推移をご覧に 表 7 には,カメラ用交換レンズ生産出荷実績表を示してい なっておわかりのように,前年の 2009 年は,毎年右肩上が る.この表からわかることは,一眼レフ用,35 mm 用,デジ りに伸ばしてきた生産出荷実績が,105,863 千台と初めて前 タル専用レンズのいずれの分類においても,生産,総出荷と 2010 年の写真の進歩 125 図 3 交換レンズ総出荷数量推移 表 8 民生用 A4 未満フォトプリンター出荷実績表 上段:数量(台) ,下段:金額(千円) 出 荷 区 分 A4 未満フォトプリンター計 総出荷 日本向け 累 計 1 ~ 12 月 日本向け以外の出荷合計 累 計 1 ~ 12 月 前年同期比 (%) 前年同期比 (%) 累 計 1 ~ 12 月 前年同期比 (%) 1,025,297 105.6 313,985 90.1 711,312 114.4 10,647,910 125.9 5,738,335 159.9 4,909,575 100.8 ※2010 年 4 月より PictBridge 非搭載機種の統計も開始. 「A4 未満フォトプリンター計」累計の内訳は 3 月までは PictBridge 搭載機種のみ,4 月 以降は PictBridge 非搭載機種も含めた実績値とする. ※2010 年 4 月より翌 11 年 3 月までの「A4 未満フォトプリンター計」の前年同月比は前年の PictBridge 搭載機種の出荷数量との対比とする. (カメラ映像機器工業会統計より) もに 130%以上の伸びを示していることである.なお交換レ ンズにおいては,カメラのように 2008 年から 2009 年におい て数量・金額ともに低下はなく,今後予測されるレンズ交換 式タイプそのものの伸びと,アジア地域でのレンズ交換式が 伸びていることなどが相乗的に効いてくる結果だと考えら れ,今後も伸長は確実に続くであろう.図 3 には,2004 年か ら 2010 年までの一眼レフ用交換レンズ出荷の推移を示した. 表 8 には 2010 年の民生用 A4 未満フォトプリンター出荷実 績を,図 4 には 2004 年から 2010 年までの A4 未満フォトプ リンターの総出荷台数と金額の推移を示した.この表 8 で注 目できるのは,日本向けの総出荷数量を除くと,総出荷,金 額ともすべての分類において前年同期比を上回っていること である.ただし,これは 2010 年 4 月より PictBridge 非搭載機 も統計に加えるようになった結果が加味されるであろうか 図 4 フォトプリンター総出荷量と金額 ら,次年度からの推移をさらに見ていかないとわからない部 分でもある.いずれにしても,カラー印画紙のここ数年の落 プリントをするための機械は統計には入っていないので,非 ち込みなどを加味して考えると,図 4 からもわかるようにイ 銀塩プリンター総量としての推移は不明である. ンクジェットプリンターによる家庭プリントが着実に伸びて いるとは考えにくく,デジタルカメラ総体や携帯電話カメラ 1.2.2 新製品 ①銀塩写真関連 のショット数増加と家庭でのプリントは結びついていないよ 昨年までこの項は, 〈銀塩フィルム・印画紙〉, 〈銀塩フィル うで,プリントを必要としないデジタルフォトフレームの普 ムカメラ〉と細分類され,それぞれを分類執筆したが,2010 及などと比例して,撮影後のプリント達成率はきわめて低下 年は過去に例がなく,フィルム・印画紙,フィルムカメラと しているのではないかと見ることができる. もまったく新製品の発売のない年であった.カメラに関して ただし,これらはあくまでも A4 未満のフォトプリンター いうならばその前年 2009 年は,富士フイルムから本来は 2008 を対象とした結果であり,A3 を含めた大判の業務用サイズの 年に発売予定であったブローニーフィルム使用の「GF670 プ 126 日本写真学会誌 74 巻 3 号(2011 年,平 23) ロフェッショナル」が 4 月に発売され,さらに 2010 年の 9 月 当の画角となるわけだが,APS-C なら 1.5 倍相当の焦点距離 にドイツで開かれたフォトキナでは広角レンズを搭載した 相当の画角となる.ソニー NEX は 6 月の発売だが,9 月の 「GF670W プロフェッショナル」が参考発表されたが,発売は フォトキナ直前にはソニーが認知しないマウントアダプター 2011 年に持ち越されたためフィルムカメラ発売ゼロの年と が世界中で 75 種類以上あったというから,この分野の伸長 なった.いずれにせよ,新製品としての感光材料とフィルム がめざましいことがわかる. カメラの登場がなくなるのは早晩やってくるだろうと想像す もっとも,このメカニカルバックが短いシステムは,マイ るのは難しくないわけだが,2011 年の「GF670W」以降のフィ クロフォーサーズとソニーE マウントという新しいマウント ルムカメラの市場動向は大いに気になるところだ. ②デジタルイメージング関連 を生み出しているが,その延長線上には業務用 HD カメラ用 〈デジタルカメラ〉 として E マウントのソニー NEX-VG10(9 月発売),マイクロ フォーサーズマウントのパナソニック AG-AF105 (12 月発売) 1 年間に国内でどのくらいのカメラが発売されるのだろう があるなど,いままでとは異なる新しいスチルと動画カメラ か.筆者自身はそのすべてを把握しているわけではないが, の関係が開けている.また,HD 動画の世界もこの時期は,コ 日本カメラ財団の歴史的審査委員会が,2010 年 1 月から 12 ンパクトカメラ,一眼レフともフル HD が標準仕様といえる 月末までの 1 年間に発売された日本のカメラすべてを抽出し ところまできているが,この分野ではキヤノンの EOS シリー 一覧としているが,それによると 130 機種となっている.ま ズが業務用動画撮影機としての地位を先行して築いている. た,カメラ雑誌の記者が集うカメラグランプリ実行委員会が いずれにしても,今までより大型撮像素子を使う動画兼用の やはり同様に 2010 年 4 月から 2011 年の 3 月末までに発売さ スチルカメラの登場で,被写界深度の浅さを利用したボケ描 れたカメラを新製品をリストアップしているが,それによる 写の新しい表現が可能となり,交換マウント業界,一眼レフ と 172 機種である.歴史的カメラが国産のと限定しているの カメラの HD 動画撮影のためにフォーカスや絞り調整のさま に対し,カメラグランプリでは国内外産を問わないために数 ざまなアクセサリー機器業界,さらにはマニュアルフォーカ が多くなっているが,いずれにしても毎年 150 機種以上のカ スレンズ,動画専用プライムレンズの複数社からの登場など, メラが日本国内で発売されていることは間違いない. 新しい市場が開けてきたことは確かだ. 本項では,別項(画像入力―撮影機器,カメラ技術研究会) との重複を避けるために,カメラ技術の大まかな流れを紹介 するだけにとどめておくことを最初にお断りしておく. ○画素数と高感度化 デジタルカメラの進歩は,つい数年前までは画素数のアッ プと感度の向上であった.この点においては昨年の時点で, ○ミラーレス機分野の拡大と HD 動画機への展開 画素数は,キヤノン EOS1DsMarkIII(2007 年)は 21.1 Mp, まず,カメラの生産実績でも明らかであったようにレンズ ニコン D3x(2008 年)で 24.5 Mp,ソニー α900(2008 年)が 交換式カメラの伸びが目につく部分であるが,この点に関し 24.6 Mp という数値をだし,感度では,ニコン D3s(2009 年 ては従来からの一眼レフに加え,マイクロフォーサーズ機の 11 月)とキヤノン EOS-1D MarkIV(2009 年 12 月)が常用で オリンパス PEN Lite E-PL1 やパナソニック Lumix G2 などの ISO 12800,増感で ISO 102400 というフィルム時代にはあり 発売が大きく影響していると考えられる.これらの機種はミ 得なかった高感度化を達成しており,その後はいま現在まで ラーレス一眼とか俗称でくくられているわけだが,2010 年は それを超える機種は登場していないので,感度も画素数もす ソニーが新たにこの分野に NEX-3 と NEX-5 を 6 月に, α33 と でに完成の域に達していると見るのが妥当だろう.ちなみに α55 を 9 月に投入している.どちらも従来からの一眼レフ用 2010 年 2 月に発売されたキヤノンのエントリーモデルである APS-C 撮像素子を使いながら,NEX ではメカニカルバックを EOS kissX4 は 18 Mp,常用感度で ISO 6400 で,フル HD 動 短くした新マウントのミラーレス機として成立させている 画機能搭載である. が,α33 と α55 では従来からの α マウントを採用して,カメ ところが,キヤノンは 8 月 24 日に APS-H サイズで世界最 ラ の 外 観 と し て は 一 眼 レ フ ス タ イ ル を 踏 襲 し て い る が, 高画素数「約 1 億 2,000 万画素の CMOS センサー」を開発し, Translucent Mirror Technologyと呼ばれる従来からの一眼レフ 読み出し回路の工夫により最高 9.5 コマ / 秒,フル HD 動画 のメインミラー部分に固定式の部分透過ミラーを採用して, 出力機能をもつという技術発表を行い,さらに 8 月 31 日に 従来のペンタ部に位相差検出の AF センサーを配置し,ライ はチップサイズが 202×205 mm と直径 300 mm の 12 インチ ブビュー EVF ファインダーとの併用で常時 AF が可能で,毎 センサーから得られる「世界最大の CMOS センサー」の開発 秒 10 コマという高級機並みの高速連写を可能としている. を発表した.この大きさは,現状の 24×36 mm の 35 mm 判 このうちマイクロフォーサーズと NEX の E マウントでは フルサイズに比べると 40 倍の大きさになるそうで,プロ用 マウントアダプターを用意すれば従来市場にあった各種交換 デジタルカメラの約 1/100 の光量で撮影ができるというもの レンズが使えることになるわけで,ミラーレス機の基本的な だ.キヤノンでは製造ルームの徹底したクリーン化と回路設 魅力である小型・軽量に加え,マウントアダプターにより他 計の工夫により出力の高速化を図り,0.3 lx の照度で約 60 コ 社レンズを付けて,遊びができるという特長がでてくる.こ マ / 秒の動画撮影ができるというものだ.キヤノンでは 11 月 こで従来からのオリンパス,パナソニックのマイクロフォー 10 日から開催された「Canon EXPO Tokyo 2010」にてプロト サーズ機で,35 mm 判のレンズを使うと約 2 倍の焦点距離相 タイプを展示したが,超大型 CMOS センサーは,超高感度セ 2010 年の写真の進歩 127 ンサーとして星空や夜間の動物の動画撮影などに向くとして ソニー α55 などがそうだが,GPS データの読み取りはグーグ いる. ルの地図データと併用したり,カメラ本体で緯度・経度情報 また高画素といえば,6 月に発売された中判一眼レフの を表示できたり,カシオではカメラ本体に地図情報を組み込 「ペンタックス 645D」は 44×33 mm のコダック社の約 4,000 んでおり,カメラの地図上で撮影位置を表示することができ 万画素 CCD を使用していて,この年に発売された最も高画 るようになった.カメラが記録の手段であるならば,今後 素のカメラとなる.いずれにしても,実用性,コスト,価格 GPS 機能搭載のカメラはますます増加していくのだろう. などからして一眼レフカメラ,コンパクトカメラは画素数感 このほか,サミットグローバルジャパンは,ポラロイドブ 度とも落ち着いているわけで,やればできることを示したキ ランドのプリンター内蔵デジタルカメラ「ポラロイド TWO」 ヤノンの技術は興味深い. を 2 月 26 日に発売した.5 Mp の撮像素子を採用し,撮影画 ○光学ファインダーと EVF 像をその場で 5×7.5 cm の ZINK フォトペーパーにカラー出力 ミラーレス機のファインダーは,背面液晶パネルとは別に できる.価格は店頭で 19,800 円前後.かつてのポラロイドシ 設けられた EVF によるものが多い.9 月のフォトキナで発表 ステムをほうふつとさせるカメラだが,基本的にはデジタル された富士フイルムの「ファインピックス X100」のファイン カメラと熱現像方式プリンターが組み合わさった複合製品で ダーは従来からの光学ファインダーと 144 万ドットの EVF に ある. 〈IJ 用紙 / プリンター / スキャナー〉 よるものを切り替え式のハイブリッド式としたところが注目 される.カメラとしては非交換式の単焦点レンズ搭載で, 富士フイルムは,店頭サービス用昇華型プリンターの新モ APS-C の CMOS 撮像板を使用しているが,EVF により視野 デルとして「サーマルフォトプリンター ASK-2500」を 2 月 率 100%のファインダー像,マクロ時の正確なフレーミング 25 日に発売.L 判約 8.6 秒 / 枚のスピードを誇り,大量プリ が得られるなどのメリットを持つ.すでに紹介したソニーの ントに対応.L・2L 機と KG・6×8 / 6×9 サイズの 2 機種.税 α55 の EVF の画素数は 115 万ドット相当,パナソニックのル 別需要家価格 247,600 円. ミックス G2 は約 144 万ドット相当であるが,今後画素数が ノーリツ鋼機は,フォトブックに最適化させ両面プリント さらにアップしていくことと,表示の処理速度が早くなると, に対応させた染料 4 色インクジェット方式のオールインワン もともとライブビュー画像であるために,ライカのようにマ ドライミニラボ「D1005」を 3 月に発売した.プリント解像 ニュアルフォーカス機では光学的な距離計を省略して,EVF 度は 1440×1440 dpi で,127×89 mm サイズを 1,180 枚 / 時の によるライブビューによるピント合わせなども可能となる. 能力を持ち,ロールペーパー交換なしで最高 4,300 枚のプリ ○高速連写で画像処理 ント可能.両面プリントは最大 305×914 mm までの大判に対 かつて,画像処理というとレンズの歪曲収差補正,周辺光 応.設置面積は 0.69 m2. 量補正など 1 枚の画像データを処理することが多かったが, DNP フォトルシオは,セルフでフォトブックができる「プ ここ数年は複数のカットを自動的に撮影して,画像処理に リントラッシュ フォトブック」を 2 月中旬から本格導入を よって所望の画像を得るのが各社ではやっている.異なった 開始した.プリント方式は昇華型熱転写方式で,撮影日時を 露出で 2 ~ 3 カット撮影し画像合成して,ダイナミックレンジ 基にバランスよく割り付ける自動レイアウト機能により A5 の広い写真を撮影できるようにした処理(リコー,カシオ), 判 10 頁タイプで,プリント・製本が 5 分でできる.ページ 6 コマ連写でマルチショット・ノイズリダクション(ソニー), は 10 ~ 30 まで,写真は最高 98 枚までレイアウト可能.設 複数回連写で手持ち夜景モード(リコー,ソニー),カメラを 置面積は幅 62× 奥行き 104 cm. 移動させながら撮影することにより,複数枚の画像からパノ 浅沼商会はキヤビンブランドの 1 ショットタイプのフィル ラマ画像や 3D 画像を生成する(ソニー,パナソニック,カ ムスキャナー「コンパクトフィルムスキャン II CFS-02」を 4 シオ)などと各社各様だが,ここにピックアップしたのはご 月上旬に発売した.2.4 型液晶モニターと SD カードスロット く一例であって,さらに多くの社がさまざまな試みをされて を搭載し,パソコンを介さずにフィルム画像をデジタルデー いる.いずれにしても各社のアイディアしだいであり,製品 タに取り込むことができる.撮像素子は 510 万画素 CMOS で, の開発ピッチも早く,特徴として公開されている部分と隠さ 35 mm フィルムを 1800 dpi で取り込むことができる.MP3 の れていることなどもあり,全体の把握は難しい. 音楽再生,カレンダー,温湿度機能,PC とつなぐとカード ○ GPS 機能の内蔵 リーダーとなる多機能さをもつ.価格は店頭で 19,800 円前後. フィルムカメラの時代からGPS機能を付加できるカメラは 中外写真薬品は,スイス・イルフォードイメージング社の 存在した.撮影した日時や撮影日時が exif データとして記録 両面写真プリントが可能なインクジェット用半光沢紙 できるデジタルカメラならなおさらのことであって,どこで 「ILFORD GALERIE SMOOTH LUSTRE DUO」を 5 月 17 日か 撮影したか,さらにはどの方向に向かって撮影したかなど記 ら発売.ベースは RC タイプで,A4 判(25 枚 /100 枚入り) 録し再生できれば,便利この上ない.GPS センサーは携帯電 と A3+(25 枚入り)が用意されている.価格は実勢で 3,980 話への内蔵などが進んだことにより,より小型な形でこの時 円~ 10,980 円. 期カメラ本体に組み込まれるようになってきた.ニコンクー ルピクス P6000,カシオ EX-H20G,ルミックス DMC-TZ10, 富士フイルムは,通常のプリントに加え文字入れや分割プ リント,ディズニーやサンリオのキャラクタープリントがで 128 日本写真学会誌 74 巻 3 号(2011 年,平 23) きる新機能を加えた店頭サービス向けの昇華型熱転写方式デ インダストリアルデザイナーやエンジニアが手がけたカメラ ジタルセルフプリントシステム「プリントチャオ EX3」を や,ファッションブランドとのコラボレーションモデルなど 5 月 31 日に発売した.プリント出力サイズは,L,KG,2L に 対応.本体サイズは 590×1443×660 mm.価格は税別 95 万円. 「デザイン」の視点でカメラの魅力を紹介した. 米国の写真関連団体 Photo Marketing Association が主催す キヤノンは 9,600 dpi の高解像度 CCD センサーを搭載した る写真関連のトレードショー「PMA2010」が 2 月 21 日~ 23 フラットベッドスキャナー「キヤノスキャン 9000F」を 7 月 日までカリフォルニアのアナハイム・コンベンションセン 8 日に発売.新 CCD センサーに加え,新読み取り光学系, ターで開催された.注目は,例年参加だったキヤノンが不参 フィルム読み取りユニットの改良などにより,フィルムス 加となったことである.例年 2 月に開かれていた PMA は, キャン時の速度が向上し,35 mm ネガフィルムを 2,400 dpi ス 2011 年から日程と名称を「CliQ2011」と変更して,ラスベガ キャンを約 51 秒で達成している.光源は白色 LED を採用し, スコンベンションセンターで 9 月 6 日から 11 日まで開催さ ウォームアップレスで使用可能.フィルム最大読み取りサイ れることが,終了後発表されたが,その後 2011 年 5 月に再 ズはブローニーの 6×22 cm.店頭予想価格は 26,000 円前後. 度変更となり,2012 年 1 月 10 日~ 13 日,ラスベガスにて キヤノンは,インクジェットプリンター PIXUS ブランド発 売 10 周年を記念した新モデル 6 機種(MG8130,MG6130, MG5230,MG5130,MP280,iP4830)を 9 月 9 日(MP280 は 2012 International CES(Consumer Electronics Show)と共同 開催となった.時代を感じさせる動きである. 株式会社さくらやは,2010 年 2 月 28 日に全店舗を閉店し, 10 月下旬)から発売した.6 機種はいずれも本体のデザイン 6 月 30 日に解散した.1946 年新宿に創業し「カメラのさく を一新し,iP4830 以外はフラットベッドスキャナーを搭載, らや」として展開していたが,業績悪化により 2006 年から 無線 LAN 機能に加え,任意のショットを切り出せる「フル ベスト電器の子会社となっていた.一部店舗は,ベスト電器 HD 動画プリント」機能を採用.店頭予想価格は 17,000 円前 と業務資本提携関係にあるビックカメラが引き継いだ. 後から 4 万円. 富士フイルムは,3D デジタルカメラに対応した出力サービ 日本写真用品映像工業会は, 「写真・映像用品年鑑」を発刊 して発行開始から 40 周年を迎えた.2010 年度版は参加企業 ス機「FUJIFILM 3D プリントシステム」を開発し,9 月 21 日 数 54 社で,A4 判オールカラーで 536 頁.CD-ROM 判も発行 から発売した.専用のレンチキュラーシートに熱昇華型方式 され,3月11日から開催されたCP+2010にて配布を開始した. で直接 3D 画像をダイレクトにプリントできる方式を採用し キヤノンは 5 月 13 日,同社の一眼レフカメラ「EOS シリー た 3D 専用プリンターで,1 枚 90 秒のプリント速度で,4×6 ズ」の累計生産台数がフィルム,デジタル合わせて 4,000 万 インチから 6×9 インチまでの 3 サイズ 4 種類に対応.税別 台に達成したと発表.EOS シリーズは 1987 年に福島工場で 165 万円. 生産開始以来,台湾キヤノンや大分キヤノンで生産を行ない, 富士フイルムは,9 月 21 日からのフォトキナにおいて 5 色 染料インクタイプのドライミニラボ「フロンティア DL600」 2010 年 3 月には長崎キヤノンでも生産を開始している. 写真感光材料工業会は,5 月 26 日の第 63 回定時総会で, を新ラインナップとして展示した.中小規模写真店でのドラ 任期満了に伴う改選で富士フイルムの古森重隆社長の会長を イ化の要求に応えたもので,ペーパー幅は最大 305 mm まで 再選,会計幹事には三菱製紙の有馬登氏が選任された. 対応. 6 月 1 日写真の日を記念して日本写真協会(宗雪雅幸会長) DNP フォトルシオは,フォトキナ 2010 にて昇華型で両面 は,2010 年(第 59 回)日本写真協会賞表彰式を開いた.受 プリントとホログラムプリントの可能なプリンター「DS- 賞者は,功労賞:多田亜生,故平木収,森山眞弓,作家賞: DX1」を発表した.プリントサイズは 8×10 インチと,8×12 大山行男,北島敬三,立木義浩,学芸賞:石黒敬章,金子隆 インチサイズ.両面のプリント速度は 8×10 インチサイズで, 一,新人賞:笹岡啓子,藤岡亜弥の各氏.また,東京写真月 ホログラムプリントなしで 70 秒 / 1 枚. 間を通して「アジアの写真家たちタイ」の写真展をニコンサ DNP フォトルシオは,日本ヒューレット・パッカード社の ロン,リコーリングキューブ,PLACE-M で,タイの写真家 インクジェットミニラボ「HP Photosmart ML2000D Minilab たちを招聘して開催.さらに,期間中は「1000 人の写真展」 Printer」を 11 月中旬に発売.専用アプリケーションソフト や都内 60 カ所の協賛したギャラリーで写真展が開かれた. との組合せで,216×279 mm,305×305 mm の両面フォトブッ カメラ記者クラブは,1 年間に発売されたカメラの中から クやカレンダーをはじめ通常の片面プリントも L サイズから 技術,話題性などに優れたカメラから選ぶ“カメラグランプ 最大 305×457 mm まで 20 種類のプリントサイズに対応.最 リ 2010 大賞”に「オリンパス PEN EP-1」を選定した.また 大プリント速度は L および KG サイズで 1,500 枚 / 時.5 つの 同時に行われた一般ユーザーの投票で行われるあなたが選ぶ ペーパートレイを備え,6 色のインクを各 2 個標準装備.プ “ベストカメラ大賞”も「オリンパス PEN EP-1」が選ばれ, リントは 200 年以上色あせしないという.消費電力は銀塩ミ “カメラ記者クラブ賞”として技術の先進性,話題性などから ニラボの 1/3 とされる. 「キヤノン EF100mmF2.8 マクロ IS USM」とソニーの裏面照 1.3 企業 / 団体 / 人の動き 射型 CMOS イメージセンサー「ExmoR」が選定され,贈呈式 日本カメラ博物館は特別展として「カメラとデザイン」を が 6 月 1 日に催された. 2 月 16 日~ 6 月 20 日まで開催した.展示は,国内外の著名 富士フイルムは,東京ミッドタウンのフジフイルムスクエ 2010 年の写真の進歩 129 ア内にある「写真歴史博物館」を 2 階から 1 階に移転,6 月 (財)日本カメラ財団が主催する「歴史的カメラ審査委員 1 日にリニューアルオープンし,気軽に立ち寄れるスペース 会」は,技術史的に意義のある日本最初の試みがなされてい となった.移転に伴い,同社のコレクションである 1963 年 る,もしくは市場において特に人気を博するなど,歴史的に 制作のアンセル・アダムスオリジナルプリント作品集「Port みて意義のあるとみなせる国産カメラを「2010 年の歴史的カ folioIV」を特別企画として展示した. メラ」として,パナソニックルミックス DMC-TZ10(GPS 機 写真映像経営者協会(JPEA)は,6 月 8 日に開かれた第 37 能),ソニー NEX-5(APS-C レンズ交換式小型・軽量機),ペ 回定時総会にて,任期満了に伴う役員改選でベルボンの中谷 ンタックス 645D(中判普及価格デジタル一眼レフ),フジフ 幸一郎社長を新会長に選任した. イルムファインピックスZ800EXR (像面位相差検出方式AF), DNP フォトルシオと日本ヒューレット・パッカードの両社 ソニー α55(透過ミラーによる位相差検出より,高速 AF や は,6 月 24 日 HP の開発製造するインクジェットミニラボ 高速連写を可能とした,EVF 固定式 APS-C サイズのレンズ システムの国内における販売パートナーとして提携するこ 交換式デジタルカメラ)の 5 機種を選定した. とを発表した.これにより HP がすでに,海外各地で稼働さ 以上,本稿をまとめるにあたっては各社ニュースレリーズ せている両面プリント可能な主力 IJ ミニラボシステム機 ならびに,業界紙である『カメラタイムズ』を参考にさせて 「ML1000D」の国内における販売を行う. いただいた.いずれも基本的には,内容はあくまでもオフィッ ニコンは,6 月 29 日開催の取締役会にて代表取締役兼執行 シャルな部分であるので,詳細はそれぞれのキーワードに従 役員に木村眞琴氏が昇任した.苅谷道郎代表取締役社長兼社 い,各社・各団体の HP などにある公式な資料にさかのぼっ 長執行役員兼 CEO 兼 COO は代表取締役会長に就任. てお調べいただきたい. プロメディア主催による「PHOTO NEXT 2010」が 6 月 29 日から 30 日の 2 日間にわたって,東京・有明のビックサイ 2. 銀塩感光材料 トにて開催された.過去 6 年間にわたり開催されてきた「ス 久下謙一(千葉大学) タジオ写真フェア」に,主催団体として写真感光材料工業会, 日本カラーラボ協会,日本写真映像用品工業会,協賛日本営 ここ数年この欄で述べてきたように,銀塩感光材料の研究 業写真機材協会などが加わり,フォトビジネスを対象とした 報告はごく限られたものとなっている.中国,ロシア東欧な フォトフェアとして開催された.参加企業は 121 社. どの旧共産圏ではまだいくらか続いているが,西欧,米国か 富士フイルムは 100%子会社であるフジノンを 7 月 1 日付 らの報告はほぼ皆無に近くなっている.中国では,多くが中 で統合した.フジノンは,昭和 19 年に富士写真光機として 国語での報告であるので詳細が不明なものもあるが,まだ乳 発足して以来,各種レンズを手がけてきたが,平成 18 年に 剤調製,増感,熱現像,放射線像などの応用分野など,広い 富士フイルム 100%子会社となっていた.今回の統合は,フ 範囲での報告がある. ジノンのもつ光学技術と富士フイルムがもつ撮像技術などの 技術を融合させ光学ディバイス部門を拡充するというもの. 日本写真家協会(田沼武能会長)は,創立 60 周年を迎え 現在の銀塩感光材料の研究の中心は,一般用分野ではなく, 高解像度,高保存性といった,銀塩感光材料の高い性能を発 揮できる特殊用途の分野が中心となっている.ホログラム, て東京・目黒のウェスティン東京で,7 月 2 日,関係者を招 放射線飛跡検出,画像保存などの分野での応用研究が続いて いて記念式典を開催した.JPS 設立は 1950 年,5 月 12 日.初 いる. 代会長は木村伊兵衛氏で,設立会員は約 70 名だった. 写真業界最大の見本市である「フォトキナ 2010」が,9 月 2.1 乳剤調製 高解像度での記録のためには超微粒子乳剤が不可欠であ 21 日から 26 日まで,ドイツ・ケルンメッセにて開かれた. り,超微粒子乳剤の研究はこれまであまり調べられていな 入場者数は前回 2008 年に比べて 7%増で,160 カ国から 18 万 かったこともあって,超微粒子乳剤の研究が引き続き行われ 人を超え,出展企業は 45 カ国から 1,251 社が参加した. ている.これらはホログラム記録,放射線飛跡検出などの目 パナソニックフォト・ライティングは,汎用ストロボであ る「パナソニックオートストロボ」シリーズをデジタル化で 的に最適化する形で進められている. 久下ら(千葉大学)は,ホログラム記録に用いられる緑色 年々 20%前後の販売減少を受けて,50 年以上にわたり歴史 光長時間露光での超微粒子乳剤の増感法を探り,ハロゲンア があった汎用ストロボの生産販売を 9 月で終了した. クセプターの有効性を再確認した(日写年,90) キヤノンは,11 月 10 日から 12 日までの 3 日間にわたって 日笠ら(林原生物化学研究所)は,新たにホログラム用の 東京・高輪のグランドプリンスホテル新高輪で“仕事・くら 超微粒子乳剤を調製し,それを用いた感光材料のホログラム し・社会”のテーマに沿ってキヤノングループが取り組む入 特性などを調べた(日写年,26). 出力技術やサービス,将来に向けた最先端イメージング技術 中ら(名古屋大学他)は,サブミクロンオーダーの飛程の を展示する「Canon EXPO Tokyo 2010」を開催した.会期初 短い放射線飛跡を検出するための超微粒子乳剤からなる原子 日には,東京国際フォーラムにて御手洗冨士雄会長は, “もの 核乾板の開発を進め,あわせてそれを用いたときの微小飛跡 づくり日本”復活を目指すこと,日米欧の 3 カ所に開発拠点 の検出法の開発も進めた(日写年,34:日写秋,12). を整備し新製品開発に取り組むなどの基調講演をした. 他にも新たな原子核乳剤の開発が進められている.長縄ら 130 日本写真学会誌 74 巻 3 号(2011 年,平 23) (名古屋大学)は,OPERA フィルムに続く次世代原子核乾板 のための乳剤の調製を試みた(日写秋,10). (千葉大学)は,金沈着現像における現像液調製時のチオシ アン酸イオンと金イオンの比率の影響を調べ,比率の違いに 平板状粒子の調製についても報告がある. より金沈着現像速度が異なることを見いだした.3:1 ~ 4:1 で Dyonizy ら(Wroclaw 大,Poland)は,dimethyl sulphoxide 最速となった(JIST,54,10507).また,金膜写真での金膜 (DMSO)の存在下で超微粒子乳剤のオストワルド熟成により 形成への焼成条件の影響を調べた.焼成条件により金膜写真 平板状臭化銀結晶を得た.DMSO 濃度と臭化物イオン濃度, の強度が変化することを見いだし(日写誌,73,319:日本化 イオン強度をコントロールして調製し,平均粒径 50 μm,ア 学会春,2PC149),現像液にアスコルビン酸を添加すること スペクト比100の平板状結晶が得られた(Cryst. Res. Technol., で,金沈着現像速度が飛躍的に増大することを見いだした 45,226).さらに DMSO 存在下でのダブルジェット法によ (日写秋,24).さらにこの系をマイクロ写真記録システムへ る臭化銀結晶の調製を試みた.DMSO 濃度等の条件による形 応用し,縮小して記録した金膜マイクロ写真では文書の超長期 状の変化が大きく,オストワルド熟成のように安定的には平 保存が可能であるとした(2010 Inter. Joint. Semi. Conservation 板状結晶は得られなかった(Cryst. Res. Technol.,45,1171). of Archives,11:日写秋,48),一方,金沈着現像法で印画紙 2.2 ホログラム に作成した金微粒子からなる印画を耐熱性基盤に貼り付けて 高解像度の超微粒子乳剤を用いるホログラムについての研 焼成すると,印画紙の像が転写されて金膜写真が作製できる 究開発はまだ盛んである. ことを報告した(日写秋,46). 平尾ら(林原生物化学研究所)は,新規に調製したホログ ラム用乾板で作製したホログラムの耐光性とその改善方法を 3. 光機能性材料 調べた(日写年,28). 光機能性材料研究会 Pauliat ら(南パリ大学)は,Lippmann ホログラムへの高 密度データ記録の可能性について論じた(Proc. SPIE,7730, 3.1 新しい光励起系の科学 773004). 日本写真学会光機能性材料研究会が主催した「第 7 回光機 2.3 放射線検出 能性材料セミナー:新しい光励起系の科学」(6 月 23 日)で 久下ら(千葉大学他)は,放射線を照射した感光材料に低 は,三重項励起色素,プラズモン共鳴,半導体ナノ粒子,近 温で赤色光後露光補力を行うことにより,放射線感度の向上 接場等を利用した「新しい光励起系」に関わる科学について が得られることを引き続き報告した(日写秋,58). 伊藤ら(千葉大学他)は,感度などの検出特性の異なる乳 5 つの講演が行われ,基礎的な視点あるいは様々な応用分野 からの視点を交えた活発な討論が行われた.徳丸(筑波大) 剤を多層に塗布した感光材料に記録された放射線飛跡をカ は, 「有機材料の新しい光励起系の挙動」と題し,三重項状態 ラー写真現像の手法で層ごとに色分けして分別検出する方法 からの燐光発光について,金属錯体の励起状態とエネルギー を検討した(日写秋,16). 移動に基づいた発光挙動の解釈を行った.さらに,有機物質 原子核乾板を用いた応用研究が様々な分野で進められてお の励起状態と金属ナノ粒子や半導体量子ドットとの相互作用 り,秋季研究発表会では放射線検出に関する多くの報告が が表面プラズモンに及ぼす効果を説明した.川崎(京都大) あった.渋谷ら(東邦大学他)は,ニュートリノ振動の検出 は, 「金属ナノ粒子・ナノ構造薄膜の表面プラズモン共鳴がも について(日写秋,12),田中(東京大学)は,宇宙線ミュー たらす新現象」と題し,銀ナノ粒子上に担持した色素 J-会合 オンラジオグラフィについて(日写秋,14) ,森島ら(名古屋 体が銀ナノ粒子の表面プラズモンと強く相互作用すること 大学)は,粒子線ラジオグラフィについて(日写秋,62)報 で,色素 J-会合体の吸収・発光が増強される現象を報告した. 告した. 増強現象の機構を明らかにすると同時に増強効果の原理的な Braccini ら(Bern 大学)は,陽子線がん治療のための,原 上限を明確にすることで,さらなる増強効果の可能性を示し 子核乾板を用いたプロトンラジオグラフィについて報告した た.立間(東京大)は,「プラズモン誘起電荷分離とその機 (J. Instrumentation,5,9001). 構」と題し,金・銀ナノ粒子と酸化チタンとの界面において 2.4 画像保存およびその他の応用 生じる局在表面プラズモン共鳴に基づく光誘起電荷分離に関 銀塩感光材料の高い保存性を画像保存に適用する研究が進 する機構を論じた.プラズモン共鳴により励起された金属粒 んでいる. 白井ら(富士フイルム)は,映画フィルムの超長期保存の 子から酸化チタンへの電子移動が生じ,その際,ナノ粒子近 傍の局在電場が重要な役割を果たしている可能性を論じた. ために開発された白黒フィルムの特性について報告した.こ 鳥本(名大)は, 「低毒性元素からなる新規半導体ナノ粒子の のフィルムではカラー画像は三色分解されて,三色の濃度が 作製と光機能材料への応用」と題し,低毒性元素からなる 3 コマのフィルムにそれぞれ記録される(日写年,14).さら ZnS-AgInS(ZAIS)ナノ粒子の液相合成法による作製とその 2 にそのときの現像銀の安定性について調べ,数百年を超える 発光挙動を報告した.この ZAIS 粒子は ZnS で被覆すること 長期保存が可能と考察した(日写年,16). で発光量子収率が約 80%にまで向上した.また,固体基板上 銀塩感光材料の感光性と金沈着現像を利用した金微粒子調 に担持することで,発光デバイスや太陽電池の作製が可能で 製と,それを用いた金膜写真の研究が続いている.久下ら あることを示した.八井(東大)は, 「近接場光を利用した新 2010 年の写真の進歩 131 しい光励起系によるナノ材料加工技術」と題し,近接場光を Morishima ら(富士フイルム)は,ディジタル・ヴァーサ 利用した従来の光では原理的に不可能である超微細加工の結 タイル・ディスク・レコーダブル(DVD-R)にレーザー光を 果を報告した.非断熱光化学反応の利用により Ra 値が 2 オ 照射して記録する際に生じる,隣接する記録マーク間の熱的 ングストローム以下の平坦化が可能であること,ならびに非 干渉を抑制するため,DVD-R 用オキソノール色素の熱化学的 断熱光化学反応を多元系物質の堆積に利用すると組成制御が 挙動を調べた.メルドラム酸骨格を有する色素が,熱的干渉 可能となることを示した.これらの講演内容は,特集として の根本原因である過度の熱発生を伴わずに,速やかにに熱分 日写誌,73 巻 6 号,285–309 ページに掲載された. 解することを見出し,このオキソノール色素を用いることに 3.2 光電変換材料 より,DVD-R の記録マークの形状が不規則になるのを防ぎ, 世の中の環境・エネルギー分野への関心の高まりを受けて, 高速記録適性を付与した(日写誌,73,252). 引き続き高効率な色素増感太陽電池ならびに有機薄膜太陽電 池の研究が活発になされた. Brainard ら(ニューヨーク州立大)は,2,5-ジメチルヘキ サン-2,5-ジオールや 3-ヘキセン-2,5-ジオールと多価カルボ Hayase ら(九工大)は,色素増感太陽電池の効率向上を目 ン酸とのエステルからなる主鎖を有し,酸触媒の作用で低分 的とした近赤外域に吸収を有するスクアリリウム系色素を開 子量の断片に分断される新しいポリマーを合成した.このポ 発した.酸化チタンへの吸着基である COOH 基の導入ならび リマーに,紫外線の照射により酸を発生するヨードニウムノ に色素会合を抑制するためのコール酸誘導体の添加が効率向 ナフレート系光酸発生剤,乳酸エチル,プロピレングリコー 上に有効であった(J. Photochem. Photobiol. A, 213, 23). ルメチルエステルアセテート,水酸化テトラブチルアンモニ Imahori ら(京大)は,C70 フラーレンとカーボンナノチューブ ウムを添加してレジストを調整し,極端紫外光(EVU)露光 (CNT)複合体の作製条件を工夫することにより C70 が CNT におけるリソグラフィー性能を評価した.露光部でポリマー の側面に配列し,C70 から CNT への効率的な電子移動が進行 の分解が起こり,線幅 36 nm 程度のパターンの形成に成功し することを示した.有機薄膜太陽電池における pn 界面の制 た(J. Photopolymer Sci. Tech.,23,665). 御の重要性を示した点から,本手法の今後の展開が期待される (Adv. Mater.,22,1767). 3.4 J-会合体 日本化学会第 90 春季年会(2010)において,色素 J 会合体 Ito ら(京大)は,ポリ 3-ヘキシルチオフェン(P3HT)と に関する以下の報告がなされた.松本ら(横国大)は, 「新規 フラーレン誘導体(PCBM)の複合膜から構成される有機薄 なビスアゾメチン色素の光学特性」を報告した(日化春,3G7- 膜太陽電池において,過渡吸収スペクトル法を用いた解析に 39).平塚ら(群馬大)は, 「シアニン色素の会合と分子配列」 より電荷発生の過程よりも電荷分離の過程が変換効率の向上 を報告した(日化春,1PB-063).尾崎ら(関学大)は, 「レー に重要であり,さらに複合膜のモルフォロジーが電荷分離効 ザートラッピングによるチアシアニン色素分子の表面増強ラ 率に大きな影響を及ぼすことを明らかにした.変換効率の向 マン散乱」を報告した(日化春,2E1-29).小林ら(電通大) 上 の点か ら 本報 告 の 知 見 は 重 要 で あ る と 考 え る(J. Am. は,「超短パルスレーザーによる PIC-J 会合体の実時間分光」 Chem. Soc.,132,6154). を報告した(日化春,2E2-12).飯村ら(宇都宮大)は, 「2 光 3.3 光機能性化合物 子励起蛍光の増大を目指した有機色素会合体 / 金属微粒子複 新しいコンセプトに基づいた光機能性化合物の中から,蛍 合体の作製とその構造評価」を報告した(日化春,2PC-016). 光性と微細形状制御に関するものを紹介する. Ando ら(東工大)は,励起状態における分子内プロトン移 川俣ら(山口大)は, 「共役ケトン誘導体からなる固相膜の二 光子吸収挙動」を報告した(日化春,2C6-31). 動に基づいた高い蛍光を有するポリイミドを開発した.末端 Sato ら(筑波大)は,ディスク状の銀ナノ粒子にシアニン にヒドロキシ基を有するフタルイミドを導入することでヒド 色素 J 会合体を吸着させると,励起子-表面プラズモン相互 ロキシ基とイミドのカルボニル基との間に分子内プロトン移 作用による分光学的特性が球状の銀ナノ粒子を用いた場合よ 動が進行し高い蛍光を発すると解釈された.蛍光色素骨格が り顕著に現れることを明らかにした(Bull. Chem. Soc. Jpn, 存在しない材料から高い蛍光が発する現象は大変興味深く, 83,1052). 新しい光機能性材料として今後の発展が期待される (Macromolecules,43,3594). 4. 画像入力―撮影機器 Ooyama ら(広大)は,カルバゾオキサゾール系ドナー・ 豊田堅二(カメラ技術研究会) アクセプター型色素の結晶に摩擦を与えることで蛍光強度が 増大し,熱もしくは有機溶剤の暴露により蛍光強度が減少す 4.1 技術報告 るという可逆的な蛍光強度の変化(メカノフルオロクロミズ 第 18 回日本写真学会カメラ技術セミナーにおいて,手ぶ ム)を発見した.単結晶 X 線構造解析からドナー・アクセプ れ補正技術についての発表が 3 件あった.能登(キヤノン) ター部位が双極子モーメントを打ち消しあうように配列した は,従来のピッチとヨーに加えて並進方向の補正も加え,マ 結晶状態とアモルファス状態とが外部刺激により可逆的に変 クロ撮影での補正機能を向上させたシステムについて報告し 化することを明らかにした.新しい機能性蛍光材料としての た(カメラ技術,9).能登は更にデジタルカメラの手ぶれ補 展開が期待される(Tetrahedron,66,7268). 正技術についての解説を行っている(レンズ設計・製造展 132 日本写真学会誌 74 巻 3 号(2011 年,平 23) 2010 技術セミナー) .また,上中(HOYA)はデジタル一眼レ フのボディ内手ぶれ補正に使われる撮像素子の駆動機構につ いて報告した(カメラ技術,12) .西(電通大)はデジタルカ 表 9 2010 年発売のデジタル一眼レフ メーカー キヤノン メラの手ぶれ補正機構の評価方法について報告した(カメラ 技術,17). オートフォーカス関連では遠藤(富士フイルム)はデジタ ルカメラの撮像素子に位相差検出方式の AF センサーを組み 込み,別途 AF センサーやそのための光学系を設けることを ニコン EOS 60D 2010 年 9 月 D3100 2010 年 9 月 D7000 2010 年 10 月 E-5 2010 年 10 月 HOYA PENTAX K-7 Limited Silver 2010 年 3 月 PENTAX 645D 2010 年 6 月 PENTAX K-r 2010 年 10 月 PENTAX K-5 2010 年 10 月 SD15 2010 年 6 月 で山根(パナソニック)はコントラスト検出方式のオート フォーカスについて,高速化のための種々の手法について解 撮影レンズの分野では,微細構造を用いた反射防止コー 発売月 2010 年 2 月 オリンパス 不要とした技術について報告した(カメラ技術,23).一方 説した(CP+ 技術セミナー,9). 機種名 EOS Kiss X4 シグマ ティングの報告がいくつかあった.奥野(キヤノン)は,サ ブ波長構造による反射防止コーティングについて 2 つの場で 4.2 デジタル一眼レフ 解説した(JOEM 光学系設計技術セミナー,OSA/SPIE Inter- デジタル一眼レフの分野では高感度化,ライブビュー,動 national Optical Design Conference),中井(キヤノン)も同じ 画記録などの高機能化が一段落し,キヤノンやニコンなどの 技術について紹介している(CP+ 技術セミナー,25).また, 新製品はそれまでの機種のブラッシュアップ的な性格のもの 村田(ニコン)はナノ粒子を用いた高性能反射防止膜につい となっている.エントリー機,中級機ではそれまで一クラス て日本写真学会技術賞受賞講演の形で報告している(日写 上の機能を取りこむような傾向にあり,どうかすると旧機種 年,52).穐田ら(オリンパス)はマイクロフォーサーズ用 の上級機よりもスペックが上となるような逆転現象も起きて の沈胴式小型レンズについて報告した(カメラ技術,3). いる. 個々のカメラの技術については,岡本ら(パナソニック) オリンパスは最上級機の E-3 の後継として E-5 を発売した が LUMIX DMC-GH1 および DMC-GF1 について(日写誌,73, が,これも大幅なスペックアップというよりは使いやすさ, 70),小川(オリンパス)がオリンパス E-P1 について(日写 使い心地をリファインしたものというような印象がある. 誌,73,75) ,堀井ら(富士フイルム)が 3D デジタルカメラ 中でも注目すべきはペンタックス 645D であろう.44× FinePix REAL 3D W1 について(日写誌,73,81),戸倉(キ 33 mm という大型の CCD 撮像素子を採用し,有効約 4000 万 ヤノン)がキヤノン EOS 7D について(日写誌,73,85),川 画素を実現しながら,価格を 80 万円台に抑え,高画質指向 内(HOYA)がペンタックス K-7 について(日写誌,73,90), のアマチュアにも手の届く価格とした.解像度優先のために 古山ら(ニコン)がニコン D3S について(日写誌,73,94) 光学的ローパスフィルターを省略したことも話題となってい それぞれ解説した.この内 3D デジタルカメラ FinePix REAL る. 3D W1 については,佐藤(富士フイルム)による報告もあっ た(CP+ 技術セミナー,1).米山(ライカカメラジャパン) 表 9 に 2010 年に発売されたデジタル一眼レフの一覧を示 す. は,レンジファインダーカメラ「ライカ」のデジタルに至る 4.3 新カテゴリーのカメラ 変遷を解説した(日写年,1).北郷(リコー)はリコー GXR レンズ交換可能でありながら光学的なファインダーを持た のユニット交換システムについて解説を行った CP+ 技術セ ず,背面液晶モニターによるライブビューあるいは EVF で ミナー,47). ファインダー機能を果たす形式のカメラは,それまでのオリ また,後藤(ニコン)は宇宙空間で用いられた,いわゆる ンパス,パナソニックのマイクロフォーサーズ陣営に加えて スペースカメラについて解説を行った(日写誌,73,65,日 ソニーが参入し,デジタルカメラのカテゴリーの一つとして 写年,48) .宝珠山(ニコン)はデジタル一眼レフの高感度化 地位を固めつつある.この分野のカメラを表すしっくりした 技術について(CP+ 技術セミナー,17),寺田(オリンパス) 呼称はないが,ここでは仮に「ミラーレスカメラ」という呼 はカメラに組み込まれた画像処理技術アートフィルターにつ 称を用いることにする. いて(CP+ 技術セミナー,33),関根(ソニー)はデジタル ソニー NEX-5,NEX-3 はマイクロフォーサーズよりも一回 カメラとテレビとの連携について(CP+ 技術セミナー,55), り大型のAPS-Cサイズの撮像素子を採用しておりながら小型 岩佐(Cerevo)は無線 LAN によるカメラとネットワークの 軽量というところが大きな特徴で,新たなユーザー層を開拓 連携について(カメラ技術,27)それぞれ解説した. した. なお,カメラではないが一ノ瀬(アイメジャー)らは正射 ミラーレスカメラではオートフォーカスがコンパクトデジ 投影画像の入力を行うスキャナーとその用途について報告し タルカメラと同様のコントラスト検出方式となり,合焦速度 た(日写年,54). の面でハンディがあるが,パナソニックではこのコントラス ト検出方式 AF の改良に注力し,LUMIX DMC-GH2 ではデジ 2010 年の写真の進歩 表 10 2010 年発売の新カテゴリーのデジタルカメラ パナソニック ソニー 検出方式の AF センサーを分散させて組み込むことにより, 発売月 別途 AF センサーや分割の光学系を設けることなしに位相差 PEN Lite E-PL1 2010 年 3 月 検出方式のオートフォーカスを実現した.前述のソニー α55/ PEN Lite E-PL1s 2010 年 12 月 α33 と共に,一眼レフ以外のカメラで位相差検出方式を実現 DMC-G2 2010 年 4 月 した例として,今後の発展が期待される. DMC-G10 2010 年 6 月 メーカー オリンパス 133 機種名 DMC-GH2 2010 年 10 月 DMC-GF2 2010 年 12 月 NEX-5 2010 年 6 月 NEX-3 2010 年 6 月 α55 2010 年 9 月 α33 2010 年 9 月 動画撮影機能では,フル HD に対応したものが多くなって きた. 外観面ではカラーバリエーションの多様化が挙げられるだ ろう.外観の色違いをいくつかそろえるのは当たり前のこと になり,ソニーのサイバーショット DSC-T99D では装飾的な 模様を施したものを用意している.更にペンタックス Optio RS1000 では透明カバーの下に任意のプリントを施した紙を 挟み込むことにより外観のバリエーションを楽しむことがで きるようになっており,また Optio NB1000 ではカメラ表面に タル一眼レフの位相差検出方式と同等あるいはそれ以上の合 無数の突起を設け,そこに市販の組み立てブロックを装着し 焦速度を実現している. てさまざまな形を作ることができる. それと対照的に,ソニー α55,α33 では撮影レンズと撮像 3D 画像の撮影のためには 従来富士 フイルムの FinePix 素子の間に大型のハーフミラーを置き,被写体光を分割して REAL 3D W1 があったが,その後継機として FinePix REAL 位相差検出方式の AF センサーに導くことによってミラーレ 3D W3 が発売された.背面の液晶モニターが照明を左右の画 スカメラでも一眼レフと同様の位相差検出 AF を実現してい 像で切り換える方式からレンチキュラーのものに変わり,ま る.これらのカメラではミラーを動かすことの不要な点を生 た 3D の HD 動画の撮影が可能になった.この 3D 分野ではソ かして 10 コマ / 秒,7 コマ / 秒という高速の連続撮影を実現 ニーがスイングパノラマの応用で,カメラを左右に振ること した. により 3D 画像を撮影する 3D スイングパノラマ機能をいくつ 間にハーフミラーが介在するため,ミラーレスカメラの短 かのモデルに組み込み,またパナソニックはコンパクトデジ いフランジバックという長所は生かされなくなるが,一つの タルカメラではないが,デュアルレンズ形式の 3D 撮影用交 方向を示したものとして注目される. 換レンズをマイクロフォーサーズ機用に用意することで対応 今後しばらくはこのカテゴリーは大きく動いていくと思わ れる. この分野に属する 2010 年発売のカメラを表 10 に示す. 4.4 コンパクトデジタルカメラ している.いずれにしても 3D 画像は観賞手段としての 3D テ レビなどの普及がカギとなるだろう. 表 11 に 2010 年に発売されたコンパクトデジタルカメラの 一覧を示す. コンパクトデジタルカメラの分野では画素数競争もズーム 比競争も一段落したかの感がある.撮影レンズのワイド側は, 5. 画像出力 35 mm 判換算でこれまでの 28 ~ 35 mm 程度から 24 mm 前後 のものに短焦点化する傾向にある.また,撮像素子は画素数, 5.1 プリンタ 藤田 徹(セイコーエプソン) 感度,連続撮影の速度などのスペックに応じて機種ごとに CCD と CMOS が使い分けられている.裏面照射型の CMOS 撮像素子を用いる機種も増えてきた. 本項では,写真画質出力を主な目的とするハードコピーテ クノロジーに関し 2010 年の動向を述べる. カシオでは HDR を更に発展させて合成時の処理により絵 ハードコピーテクノロジー全体としては,多用途化・環境 画的なタッチを実現する処理を「HDR アート」として EXILIM 負荷軽減というトレンドが,従来の高速高画質化に加えられ EX-ZR10 に組み込んだ.オリンパスの「アートフィルター」 てきているという傾向に変化はない.写真画質出力という用 などとは違った独特の処理となっている. 途に絞って見てゆくと,画質の中でも特に写真質感について GPS を内蔵した機種は以前からあるが,カシオの EXILIM の取り組みや,紙以外のメディアへの写真画質出力,インク Hi-ZOOM EX-H20G ではモーションセンサーと併用すること ジェット(IJ)の高速化につながるシングルパス(ラインヘッ により屋内でも移動をトレースできるようにし,更に地図情 ド)化にともなう諸問題の解決法の提案などがなされてい 報をカメラ内に記憶して連携表示するなど,一歩進んだ機能 る. を備えている.今後の GPS 組み込みの一つの方向を示すもの として注目される. 丸門(日本製紙)らは,IJ におけるブロンジングという不 自然な光沢感の問題に対して,表面コート層のシリカとカチ 従来コンパクトデジタルカメラのオートフォーカスはコン オンポリマーの配合率を調整した用紙を用い,用紙の白色度・ トラスト検出方式と決まっていたが,富士フイルムの FinePix 光沢特性,インク浸透深さ・乾燥性・接触角などを測定し, Z800EXR 及び FinePix F300EXR では CCD 撮像素子に位相差 さらに使用したシアンインクに含まれる Cu についての表面 日本写真学会誌 74 巻 3 号(2011 年,平 23) 134 表 11 2010 年発売のコンパクトデジタルカメラ メーカー キヤノン ニコン オリンパス HOYA 発売月 メーカー PowerShot A495 機種名 2010 年 2 月 パナソニック PowerShot A3100 IS IXY 400F 機種名 発売月 DMC-FP1 2010 年 2 月 2010 年 2 月 DMC-FS10 2010 年 2 月 2010 年 2 月 DMC-FX66 2010 年 2 月 IXY 200F 2010 年 2 月 DMC-ZX3 2010 年 2 月 IXY 10S 2010 年 2 月 DMC-FT2 2010 年 3 月 PowerShot SX210 IS 2010 年 3 月 DMC-TZ10 2010 年 3 月 IXY 30S 2010 年 5 月 DMC-FX70 2010 年 6 月 PowerShot SX130 IS 2010 年 8 月 DMC-FP3 2010 年 8 月 PowerShot S95 2010 年 8 月 DMC-FX700 2010 年 8 月 IXY 50S 2010 年 9 月 DMC-FZ100 2010 年 8 月 PowerShot SX30 IS 2010 年 10 月 DMC-LX5 2010 年 8 月 PowerShot G12 2010 年 10 月 FinePix Z700EXR 2010 年 2 月 COOLPIX S8000 2010 年 2 月 FinePix S2500HD 2010 年 2 月 COOLPIX L21 2010 年 2 月 FinePix JX200 2010 年 2 月 COOLPIX L22 2010 年 2 月 FinePix AX200 2010 年 2 月 COOLPIX L110 2010 年 2 月 FinePix Z70 2010 年 3 月 COOLPIX P100 2010 年 3 月 FinePix XP10 2010 年 3 月 COOLPIX S6000 2010 年 3 月 FinePix JZ300 2010 年 4 月 COOLPIX S3000 2010 年 3 月 FinePix HS10 2010 年 4 月 COOLPIX S4000 2010 年 3 月 FinePix F80EXR 2010 年 4 月 COOLPIX S5100 2010 年 9 月 A170 2010 年 5 月 COOLPIX S1100pj 2010 年 9 月 FinePix Z800EXR 2010 年 8 月 COOLPIX P7000 2010 年 9 月 FinePix Z80 2010 年 8 月 COOLPIX S8100 2010 年 10 月 FinePix S2800HD 2010 年 8 月 COOLPIX S80 2010 年 10 月 FinePix JX280 2010 年 8 月 μ-7040 2010 年 1 月 FinePix F300EXR 2010 年 9 月 FE-47 2010 年 1 月 FinePix REAL 3D W3 2010 年 9 月 μ-9010 2010 年 2 月 FinePix AX250 2010 年 10 月 μ-5010 2010 年 2 月 M530 2010 年 6 月 μTOUGH-8010 2010 年 2 月 M580 2010 年 7 月 μTOUGH-6020 2010 年 2 月 CybershotDSC-HX5V 2010 年 3 月 μTOUGH-3000 2010 年 2 月 CybershotDSC-TX7 2010 年 2 月 SP-600UZ 2010 年 2 月 CybershotDSC-W380 2010 年 2 月 FE-4020 2010 年 2 月 CybershotDSC-W350 2010 年 2 月 SP-800UZ 2010 年 3 月 CybershotDSC-W320 2010 年 2 月 μ-7050 2010 年 8 月 CybershotDSC-TX5 2010 年 3 月 FE-5050 2010 年 8 月 CybershotDSC-H55 2010 年 6 月 FE-4050 2010 年 8 月 CybershotDSC-TX9 2010 年 8 月 PENTAX Optio H90 2010 年 2 月 CybershotDSC-WX5 2010 年 8 月 PENTAX Optio I-10 2010 年 2 月 CybershotDSC-T99 2010 年 8 月 PENTAX Optio E90 2010 年 2 月 CybershotDSC-T99D 2010 年 8 月 PENTAX Optio W90 2010 年 3 月 DP2s 2010 年 3 月 PENTAX X90 2010 年 3 月 DP1x 2010 年 9 月 PENTAX Optio RZ10 2010 年 10 月 EXILIM G EX-G1 2010 年 1 月 PENTAX Optio RS1000 2010 年 10 月 EXILIM EX-Z330 2010 年 1 月 PENTAX Optio NB1000 2010 年 11 月 富士フイルム コダック ソニー シグマ カシオ リコー EXILIM ZOOM EX-Z2000 2010 年 2 月 EXILIM ZOOM EX-Z550 2010 年 2 月 EXILIM Hi-ZOOM EX-H15 2010 年 3 月 リラックマデジタルカメラ 2010 年 4 月 ウルトラマン× EXILIM 2010 年 6 月 HIGH SPEED EXILIM EX-FC160S 2010 年 8 月 EXILIM EX-ZR10 2010 年 11 月 EXILIM Hi-ZOOM EX-H20G 2010 年 11 月 CX3 2010 年 2 月 CX4 2010 年 9 月 G700 2010 年 9 月 2010 年の写真の進歩 分析を行うことで,ブロンジングが生ずるのはインクが表面 135 5.2 印刷 小関健一(千葉大学) 近くに偏って存在したときであることを確認した(ICJ2010, 143–146).荒井(富士フイルム)らは,昇華型プリンタ向け 伊藤(凸版印刷)らは,ディフュージョンシートと網ポジ の用紙を,銀塩写真向けのシートを基材として,その上にクッ を用いて焼き付けられた TH グラビアの豊富な諧調再現性に ション性のある下引き層,中空ポリマー粒子を使った断熱層, ついて,セル形状の解析から明らかにした(日印誌,47,41). 塩化ビニル系の水系塗工液による受像層を積層し,裏面には 内藤(東京インキ)は,グラビアインキにおける顔料の分散 帯電防止の導電層を設けるなどして構成し,白色度,光沢, について紹介している(色材,83,215).山登(首都大)ら 取り扱い性を向上した(ICJ2010,207–208).安田(アルプス は,塗膜中のパール顔料の変角分光反射特性を評価し,試料 電気)らは,昇華型プリンタの出力について,感熱プリント 調製法として磁場による配向制御が有効な手法であることを ヘッドの条件を変化させた際の表面形状と光沢度・写像性の 報告している(色材,83,330). 関係を,真実接触面積率の測定できる接触面顕微鏡を使い画 日本印刷学会誌 47 巻 5 号の総説で,色校正の特集を組ん 像を観察することで,表面形状の変化は発熱体の導線部の形 でいる.新聞,オフセットやグラビア印刷分野における色校 状が転写されることにより起こり,結果として光沢度・写像 正の進歩や課題,また測色計から見た課題に対する取り組み 性の低下を引き起こすこと,また表面形状の変化は熱による などが纏められている(日印誌,47,294).また,47 巻 4 号 影響が大きいことを確認した(ICJ2010,209–212). の総説では,新聞印刷の特集を組んでいる.印刷機,用紙, Eleanor S. Betton(Univ. of Cambridge)らは,印刷の分野な どで広く行われているコロナ処理による用紙とインクの接触 インキ,版材やブランケットなどの最近の技術動向について 述べられている(日印誌,47,224). 性改善手法の IJ への応用を,接触角計による準静的な特性と 日本印刷学会誌 47 巻 1 号の総説で,環境と印刷の特集を 高速度カメラによる動的な特性の測定結果を比較しながら検 組んでいる.印刷業界を取り巻く環境問題に関し,法規制, 討した.インク滴の着弾直後はコロナ処理による違いはない インキや版さらに副資材の環境対応,機械メーカーが考える が,その後の広がり過程の継続時間がコロナ処理の強度によ 温室効果ガス,さらには印刷物のカーボンフットプリントま り異なり,最終的なドットサイズに影響する.この結果は接 で,良く纏められている(日印誌,47,2).清水(清水印刷 触角から予想されるものと一致し,コロナ強度には適切な範 紙工)は,引き続き印刷分野におけるライフサイクルアセス 囲があることが分かった(NIP26,301–304).加賀田(セイ メント(LCA)や,CO2 排出量に特化した LCCO2 について検 コーエプソン)は,環境負荷の少ない水系の白色インクとし 討を進めている(日印誌,47,177;日印春,26). て,従来白色顔料として広く使われている酸化チタンでは沈 大塚(千葉大)らは,カチオン重合型ジェットインク中の 降の問題があるため,光拡散粒子を使った白インクを開発し, 水分が光硬化性に及ぼす影響について検討し,モノマー構造 透明フィルムへの画像出力に用いていることを報告している によりその挙動が異なることを報告している(日印春,55). (日画誌,49(5),404–411). Ishikura Shin(Kyocera)らは,従来より低粘度で表面張力 松本(和歌山県工業技術センター)らは,光堅牢性などに優 れるクロム錯塩染料を含む産業用ジェットインク中のクロム の小さいインクを用いて塗りつぶしに必要なインク滴サイズ を,簡便かつ迅速に定量する手法を確立した(色材,83,9). を小さくすることにより,インクの盛り上がりによる不自然 印刷技術のエレクトロニクス分野への展開は,引き続き活 さを解消し,そのトレードオフとして発生した粒状感を,ノ 発にすすめられている.日本印刷学会誌 47 巻 6 号の総説で, ズル径を小さくするなどのヘッドの改良を加えることで軽減 エレクトロニクスと印刷に関する特集が組まれ,その現状か し,シングルパス UV 硬化型 IJ の画質を向上させることが ら,各種印刷技術や印刷機械について紹介され,またフォト で き た こ と を 報 告 し て い る(NIP26,349–352).Saurabh マスクやタッチパネルについても纏められている.田中(パ Halwawala(Fujifilm Dimatix)は,シングルパス方式の設計の ナソニックファクトリーソリューションズ)は,密閉式加圧 ポイントとして,ドットのサイズの選択,主走査方向,副走 印刷方式と傾斜式版離れ速度制御方式を組み合わせ,高アス 査方向のピッチむらをあげ,それらの検出方法や,シミュレー ペクト比の微細回路パターンのスクリーン印刷工法を提案し タを使っての開発について紹介した(NIP26,344–348) .Lluis ている(日印誌,47,364).赤尾(日本電子精機)は,グラ Abello(HP)は,シングルパスのプリンタシステムをスケー ビアオフセット方式などのプリンタブルエレクトロニクス微 ラブルに構成した事例を紹介した.印刷幅 4.25 インチの IJ 細印刷装置の現状について紹介している(日印誌,47,370). ヘッドを 7 つつなぎ合わせて 30 インチの印刷幅としたヘッ 牛房(日立製作所)らは,スクリーン印刷の印刷精度向上 ドのスケーラビリティ,印刷ジョブを複数の PDF の塊に分割 のため,メッシュの変形挙動を検討し,高精度化の方向性を して処理するデジタルフロントエンドのスケーラビリティ, 見いだしている(日印春,9).八幡(東京工芸大)らは,簡 生成されたラスターデータを一部オーバーラップするヘッド 易的にかつ低コストで大面積の発光デバイスを構築する目的 幅のデータの帯に分割するパイプライン処理のスケーラビリ で,スクリーン印刷法を利用してプリント配線基板上に,分 ティ,さらにインク色別のカラープレーンプロセッサによる 散型無機 EL 素子を作製し検討を行っている(日印誌,47, 色数へのスケーラビリティを持ち,毎秒 35G ビットの印刷 100).岡田(富山大学)らは,インクジェット技術により有 データを処理するシステムを実現している(NIP26,336–339) . 機 EL 素子を作製している(日印誌,47,374).堂込(東大) 136 日本写真学会誌 74 巻 3 号(2011 年,平 23) らは,インクジェットにより紙の上への回路形成を目指した ナナオは 23 型 フル HD(1920×1080)VA パネ ル搭載の 検討を進めている(日印春,137).義原(DIC)らは,ロー FORIS FS2331 を 11 月に発売した.エンターテインメント液 ル・ツー・ロール方式に対応可能な,グラビアオフセット方 晶モニターの位置付けで,パソコン接続端子に加え HDMI 端 式向けの銀系導電インキの開発を行っている(日印春,141). 子を搭載し,デジタルカメラの HDMI ミニ出力を直接接続可 このようなプリンテッドエレクトロニクスに関連する技術 能.デジタル画像処理用途に無償ダウンロードできるソフト が,周辺技術の開発と相まって今後さらに発展することを期 ウェア“EasyPIX”で簡易的な画面調整が可能.別売りの “EasyPIX”に含まれるセンサーを使用すれば更に高度なキャ 待したい. 5.3 ディスプレイ リブレーションが可能となる. 山口省一(ナナオ) 上記,三菱電機の製品と同様,液晶パネルには色再現域が デジタル一眼レフカメラがプロ写真家やハイ・アマチュア sRGB の物を搭載しており,デジタルカメラで撮影したムー を中心に採用が広がったため,デジタル画像処理を正確に行 ビーの再生やWeb で公開されている動画の閲覧には特別気を える液晶ディスプレイは比較的大型で高性能な製品が主流で 配る必要が無く,初心者に適した商品と言える. あるが,これらの製品群に新しい機能を搭載した製品が登場 Apple は 4 月米国で携帯端末 iPad を発売,日本国内でも 5 した.一方で 2010 年は女性を含む比較的初心者に近いユー 月に発売された.iPad は 9.7 型,1024×768 の液晶画面を採用 ザー層に小型のミラーレス一眼カメラが普及したこともあ しており,携帯性を損なわない大きさでデジタル写真画像を り,これらのユーザーに向けた基本性能は必用レベルを保ち 表示できる十分な画素を備えている.IPS 方式のパネルなの 機能を絞って低価格化した製品やシステムも発売された.こ で複数人が別々の方向から覗き込むという使い方でもある程 れらの中から注目される製品を数点紹介する.これらのディ 度の画質を確保できる.従来のプリントを持ち歩くアルバム スプレイはデジタル画像を表示・調整することを目的として に替わって,大量のデジタル画像を保存し持ち歩くことが可 使用されるが,撮影・調整済み画像を手軽に持ち歩き第三者 能なうえ,インターネット上の画像保存・閲覧サービスを使っ に見せるという従来のアルバム替わりの用途に 5 月発売され て公開された画像を閲覧・表示可能で,今後も新しいアプリ た Apple 社の iPad が注目されている. ケーションの登場で使い方の幅が広がると期待される. NEC は 2 月 3 日,PAGE2010 で 24 型液晶ディスプレイ, MultiSync LCD-PA241W を発表した.従来のカラーマネジメ 6. 画像保存 ント対応高機能ディスプレイに新しく任意の ICC プロファイ ルをシミュレーションする機能を搭載しており,特定の表示 6.1 画像保存関連技術 デバイスやプリントのシミュレーションが可能だ.同様のシ 大関勝久(富士フイルム) ミュレーションは Adobe の画像処理ソフト「Photoshop」を 画像保存分野の近年の大きな課題は,①デジタル技術を用 使って実現するのが一般的だが,高価なソフトを購入しなく いた画像 / 映像の復元とデジタル画像(データ)の保存手段 てもカメラに添付されている画像処理ソフトを使ってプリン の確立,②従来からの銀塩プリントに加えて,急速に普及し トのシミュレーションが出来る可能性が生まれた. てきたインクジェット(IJ),電子写真(EP)に代表されるデ ナナオ は同 じ く PAGE2010 で 24 型 液 晶デ ィ ス プレイ, ジタルプリントメディアの保存性の評価と改良があげられ ColorEdge CG245W を発表した.グラフィックアーツ業界向 る.特に IJ や EP では,その評価法の確立についても重要な け商品では初めてキャリブレーション用センサー(測色器) 課題となっている. を内蔵し,ディスプレイ本体のメモリーに調整数値情報とス デジタル画像の保存については,磁気材料や光ディスク等 ケジュール情報を保存することで,定期的なキャリブレー のメディアやサーバーを用いた保存が,種々検討されている ション作業を完全自動化することが可能となった.センサー が,今 後 の 課 題 で あ る.映 像 分 野 で は,JTS2010(FIAF: は画面上側ベゼル内に格納されており,キャリブレーション International Federation of Film Archiv, AMIA: Association of 実行時にスイングアウトする機構である.ディスプレイは定 Motion Image Archivists 等が中心になって 3 年に 1 回開かれ 期的にキャリブレーションする必要があることは業界の共通 る Joint Technical Symposium)が,「Digital Challenges and 認識ではあるが,面倒なため実行されないケースが多い.特 Digital Opportunities in Audiovisual Archiving」をテーマとし に多数のディスプレイが導入されている事業所ではこれらの て,5 月にオスロで開催された.近年,画像のデジタルデー メンテナンスを確実に実行する手段として注目される. タ そのものを 銀塩フィルムに 保存 する動き(Bitson Film 三菱電機は 23 型フル HD(1920×1080)IPS パネル搭載の Project)が見られるが,JTS ではその代表的なプロジェクト Diamondcrysta WIDE RDT232WX を 5 月に発売した.マルチ である“Monolith”プ ロジ ェ ク ト の 進 捗 が 報 告 さ れ た(P. メディアモデルの位置付けでパソコン接続端子に加え HDMI Fornaro/R. Gschwind:スイス Basel 大).彼らは各種フィルム 端子を搭載し,デジタルカメラで主流となった HDMI ミニ のデジタルデータの記録量を比較,アナログ記録と同じ容量 出力から直接接続し画像や動画の視聴が可能である.又, があると結論した.ただし JPEG2K 等を使用しているので実 デジタル画像処理で使用する場合は無償ソフトウェア 際の記録容量はアナログのほうが高いと思われる.また,コ “EASYCOLOR!3”を使って簡易的な画面調整が可能. スト試算ではデジタルメディアでの記録では 27,600 ユーロ / 2010 年の写真の進歩 137 TB・年と試算し,フィルムでの保存のほうがはるかに安価と 間条件との差)不軌が観察された(NIP26,390).Comstock 主張したが,これには反論が会場からあった.今後の更なる (Lexmark)等は,試料の乾燥時間(dry time)に焦点を当て, 進展が期待される.また,デジタル化した画像を 3 色分解し 像のオゾン劣化は乾燥時間が増加すると低減することを示 て白黒フィルムに記録する日本で初めての試みが報告され し,相反則では乾燥時間を考慮することが重要であるとした. (板 倉:東 京 国 立 近 代 美 術 館 フ ィ ル ム セ ン タ ー,清 野: 乾燥時間を 6 週間として実験したシアン顔料で,通常条件と IMAGICA,大関:富士フイルム) ,アーカイブ用白黒フィルム 強制短期条件(オゾン濃度 0.5 ~ 5 PPM)でほぼ等しい劣化 を用いた場合,デジタル化と復元の過程で劣化が無く再現で 挙動が観察されたが,それ以外では強制条件で通常条件の劣 きること,カラーフィルムを用いた場合に比較して,画質に 化をシミュレートできていない(NIP26,408) .また,Comstock 優れることが報告された.ここで使用された白黒フィルムは (Lexmark)等は 2 種類のキセノンチャンバーについて光強度 2010 年 4 月に発売されたものであり,アーカイブ用途にフィ の位置依存性を詳細に調べた結果,光強度のバラツキに加え ルムの開発が行われていることがわかる.また,サウンドの て,エアフロウによる,温度と湿度の分布が影響することを 復元についても多くの講演があり,デジタルスキャン技術を 示唆する結果を報告した(NIP26,430).さらに,Comstock 用いたサウンドの復元技術が紹介された(B. Besserer:仏 (Lexmark)等は,IJ 試料の中には光照射から濃度測定するま LaRochelle 大,R. Heiber:米 Chase Audio,H. Lausen:デンマー での時間によって,結果が異なることを見出した.この原因 ク Laser Interface Photonics,他) . はインクからの発光によるものと推定され,光照射から測定 NIP26/Digital Fabrication 2010(September 19–23, 2010 までの時間には注意を払うことが必要であるとした(NIP26, Austin, Texas)では,デジタルプリントメディアの画像保存 415). に関する報告が 12 件あった.その内容は IJ と EP が中心であ り,通常のハードコピーに加えて,印刷分野での検討が見ら 2010 年には ICIS2010 The 31st International Congress on Imaging Science, “Imaging Science and Technology in the Digital れる.E.Salesin(IPI)等は,IJ プリントを高 RH(75–85%, Era” が北京で開催された.ここで画像保存関係の 2 件の報告 30° C)で経時した場合にはインク / 紙の組み合わせで劣化は があった.C. Gang 等(South China Univ. of Tech. 中国)は, 大きく異なり,一般には予想が難しいので,高湿での保管は バ イン ダー(PVA, VAE emulsion, Styrene-butadiene latex, 避ける こ と を推 奨し た(NIP26 and Digital Fabrication 2010 Styrene-acrylate emulsion),添加 粒子(pigment: Silica sol, Technical Program and Proceedings (以下 NIP26 と略す),386). Alumina sol, Kaolin, TiO2, Ludox)および pH を変えた IJ ペー B. Lindstorm(EK)等は,印刷材料を想定した試験(汚れ, パーを作成し,UV 光照射によるペーパーの光度の変化と色 擦り傷,水,蛍光ペン,オゾン,光)を幅広く行って,一律 度の変化(色差)を調べた結果,光度の減少と色差の増加が には言えないとしながらも,IJ,EP は従来のオフセット材料 観測されたが,UV 光照射により,ペーパーのクラッキング に近づき,一部は凌駕していると報告した(NIP26,400).ま が観測されたことから,このことが光の吸収を増加させ,上 た,C. Xiao-meng(曲阜師範大,中国)等は,印刷材料とし 記結果を生じたと考察した(バインダーとして PVA 使用).ま ての IJ および EP について,太陽光に対する色堅牢性を紙と た,ATR 測定結果から,UV 光照射中に PVA 中の 2 重結合が インクの両方について検討し,IJ が EP に対して優れると報 切断されることを報告した.さらに,種々の素材を比較した 告している(NIP26,404). 結果,バインダーおよび pigment として,それぞれ,PVA お Y. Wu(Eastern Illinois 大)等はディスプレイメディアへの よび TiO2 が光度および色度の変化が小さく好ましい結果を PVCフィルムによるラミネーションの色画像に及ぼす影響と 示した(Proceeding of The 31st International Congress on 光 耐 性 向 上 効 果 と を 調 べ た(NIP26,395).M.Comstock Imaging Science(以下 ICIS2010 と記載),86).また,Y. Li (Lexmark)等は昨年報告の,対象サンプルを同じサンプルに (Shanxi Normal Univ. 中国)等は,①カビ,②すり傷,③ビネ 挿んで経時,その後挿んだサンプルを測定する画像経時劣化 ガーシンドロームにより劣化した白黒フィルムに関して,① 測定法(サンドイッチ法)を発展させ,ポリエステルフィル についてはアクリルポリマ-,シリカナノ粒子を用いたかび ムで対象サンプルをサンドウィッチすることで,暗所経時試 除去とフィルム補強技術,②については水溶液を用いた処 験においてコンタミの影響を受けない安定な測定結果が得ら 理,③については可塑剤補充やポリマー溶液処理による修復 れることを報告した(NIP26,420) .彼らの方法では,外気と 例を報告した(ICIS2010,383).ただし,使用した化合物が サンプルが遮断されることによる自己被毒の影響が見られる 具体的に示されていないのが残念である. が,現実の保存環境には近いかもしれない.また,暗所保存 K. Mozina(Ljubljina 大,Slovenia)等は,IJ ドキュメント 時におけるメディアの黄変のアレニウス測定においても,サ の光耐性について活字形状および色度の観点から研究を行っ ンドウィッチ法(同じサンプルで挟む)により,常温での測 た(J. Imag. Sci. Tech.,54,060403-1).M. Debeljak(Ljubljina 定結果との対応が改良されると報告した(NIP26,426). 大,Slovenia)等は 3 種類の特殊紙(Neobond / Catenelle / Small 測定方法の詳細な検討についても報告された.D. Miller (EK)等は特製チャンバーを用いてオゾンガスの影響を調べ た.オゾンガスは UV 光を用いて作成し,供給速度と供給方 法が制御されたが,相反則(強制短時間条件とマイルド長時 Money)の紫外線硬化インクジェットプリントについて,湿 熱,乾熱およびキセノン露光経時後の保存性を評価した(J. Imag. Sci. Tech.,54,060402-1). 138 日本写真学会誌 74 巻 3 号(2011 年,平 23) 6.2 展示・修復・保存関係 イコーエプソン)は,新日本製鐵株式會社八幡製鉄所が保有 山口孝子(東京都写真美術館) 2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災は,津波と火災 する銀塩ガラス乾板のデジタルアーカイブと復元事例を紹介 し,撮影方法の工夫により,非接触による劣化画像の復元が によって多くの被災者を出し,福島原発事故の影響は,国内 可能とした(日写年,20).山口(東京都写真美術館)らは, 外に大きな課題を提示しています.犠牲になられた方々とご 手彩色された鶏卵紙に着目し,非破壊・非接触による色材同 遺族の皆様,ならびに被害にあわれた皆様にお見舞い申し上 定の確立のため,分光計測を用いて簡易モデルの有効性を確 げます. 認し,下地の銀画像のスペクトルを推定する手法を提案した 震災後早々,被災地の方々や被災地域のボランティア団体, (日写年,24).白岩(紙本・写真修復家)らは,作品に負担 写真館,東北福祉大・工学院大・神戸学院大でつくる「社 をかけない最小限の処置方法を考案し,アンブロタイプの福 会貢献学会」によって行われた被災写真の救済ボランティ 澤諭吉写真の 2 点の修復を行った.修復作業の過程で,この アについて報道された.2007 年の日本写真学会誌には「福 2 点の制作方法の違いが判明し,そこから推測される歴史的 井豪雨」による水害被災写真原板の状況と救済について解説 事実に対する見解を述べている(日写年,44) .日本大学芸術 がなされていたが,この教訓を基に,鈴木(Silvergrain LLC) 学部写真学科には,昭和 20 年代末からの卒業制作が保存さ は,水害を受けた写真の救済として,殺菌によるゼラチンの れているという.竹内ら(日本大学)は,これらの作品の調 保全と銀像を保護する化学処理法の提案をした.処理液の成 査から,印画材料による劣化の傾向や,糊や台紙などの包材 分は,銀塩写真乳剤の製造や処理液に使用された実績のある に起因する画像への影響をまとめ,考察した(日写年,46). 物質から選定し,銀像への酸化劣化の防止効果,ゼラチンへ 中性紙の定義は曖昧で,また紙の含有成分が明記されること の防腐効果,また処理後の長期保存性についても検証した(日 は少なく,酸性紙の劣化原因とされる硫酸アルミニウムを添 写誌,73(3),180). 加された中性紙が,文化財分野における保存用紙として使用 以下,文化財保存修復,画像保存に関するセミナーなども 取り上げ,ここに紹介する. されることもある.この中性紙の性質を明らかにするために, まず,坪倉(東京芸術大学)らは,硫酸アルミニウムを添加 徳永(三菱製紙)は,インクジェット用紙における,高精 した紙を挿入法と懸垂法で強制劣化させ,物理強度にもたら 細化とマットコート紙,広がる用途と紙ベース光沢紙,写真 す影響は少ないが,変色は大きく,硫酸アルミニウムの存在 品質とマイクロポーラメディア,画質から保存性への用紙対 自体が紙の劣化を引き起こすことを明らかにした(文化財保 応の技術変遷を解説した(ゼラチンシンポジウム,3).久下 存修復学会誌,55,25). (千葉大学)らは,金膜写真法が持つ高耐久性・高解像力を, 山内(九州保健福祉大学)らは,昭和初期の児童福祉施設 既存のマイクロ写真記録システムに用いることが可能である の記録を有する武田塾資料の劣化状況の調査から見えてき ことを検証し,公文書・歴史資料などの重要文書・画像の, た,保存を目的としない機関における歴史的資料の取り扱い 究極の文書保存法として提案した(日写秋,48).画像保存 に関する諸問題を取り上げ,オリジナルの重要性を説き,一 性評価のための基礎講座において,松井(林原生物化学研究 括管理できる仕組みが急務とした(九州保健福祉大学研究紀 所)は,寿命推定の一般的方法である,アレニウスが提示し 要,11,29). た理論を適用した推定法を解説した(日写誌,73(5),257). 古写真の利用として,諫見(九州産業大学)らは,明治・ また,瀬岡(YSPS 研究所)は,寿命予測の中で寿命・終着 大正・昭和各時代の建築を被写体とした古写真と当時の古地 点のみが重要ではなく,その過程であるマスターカーブ,す 図を連動させて提示する建築史教育用ソフトウェアの開発を なわち劣化曲線の重要性を解説した(日写誌,73(5),259). 紹介し(九州産業大学総合情報基盤センター COMMON,30, デジタルデータを長期保存するための国際規格・ISO11506 29) ,竹中(岐阜県立大垣工業高校)らは,iPhone セカイカメ が,2009 年 6 月に出版され,企業や官公庁で,紙文書の電子 ラへの大垣市古写真の配信と iPhone アプリを用いた教育実 化が急速に進められている.月刊 IM では,デジタルイメージ 践,および今後の活用について報告した(日本教育情報学会, (CAD),電子データ(電子文書,電子帳票)さらに電子化文 書(ドキュメントスキャンデータ)からデジタル-マイクロ・ アーカイブ技術の技術によるマイクロ写真の作成に関する特 26,162). 生物学的劣化や環境改善に関する報告は,例年多く寄せら れる. 集(月刊 IM,49(5) ~ (7))やヘルマンアンドクレーマー社に アデノシン三リン酸(ATP)は,細胞の死滅とともに速や よるデータの安全な永久保管の方法の事例を紹介している かに ATP アーゼによって加水分解されるため,細胞の生死判 (月刊 IM,49(4),9).また,デジタル-マイクロ・アーカイ 定が可能であるという.間渕ら(東京文化財研究所)は,微 ブによる保存ガイドラインについても詳述している(月刊 生物測定を行う目的や環境・状況が大きく異なる文化財公開 IM,49(12),28). 施設が,ATP 拭き取り検査による微生物測定が可能であるか 山野(アマチュア写真家)は,家庭における画像の特有な の検討をし,微生物判定と微生物汚染度評価は適用するが, 性質に着目し,物理的に残す手段,ルール,残したい意志の 殺菌効果判については可能な殺菌消毒剤と,そうでない殺菌 継続と継承,また,デジタルの画像データにおいては,選択, 消毒剤があることを見いだした(保存科学,49,1).紙に発 編集,価値の可視化が重要とした(日写年,18).中村(セ 生する褐色斑はフォクシング(foxing)と総称され,紙製文 2010 年の写真の進歩 139 化財の代表的な劣化現象のひとつであるが,鉄,樹脂,真菌 除去シートとファンフィルタユニットを導入した効果を報告 等に由来する foxing が報告されているようにその起因は様々 した(24) .和田ら(東京国立博物館)は,文化財の長距離輸 である.吉川(東京文化財研究所,日本学術振興会 特別研究 送における安全性確保のための,特殊梱包箱の防振効果につ 員 PD)らは,真菌に起因する foxing を取り上げ,真菌の構 いて報告した(26) .小椋(京都大学)らは,古墳石室内の温 成成分による蛍光色の違いが foxing 要因菌の判別の一助とな 湿度変動の要因として,吸放熱パネルへの送水温度および作 りうるかを検証し,450 nm の蛍光スペクトル測定により,紙に 業員の石室への入退室を解析し,これらがカビの繁殖や石室 接種した A. penicilloides の場合は代謝物由来,E. herbariorum の高温化の一因になりうるとした(28).テラヘルツ波は,非 の場合は菌体由来と考えられる(子嚢果,胞子等)由来の蛍 破壊非接触での観測が可能なことから,文化財調査への応用 光波長を検出することができたとした(保存科学,49,151). が進められている.福永(情報通信研究機構)らは,文化財 吉田(東京文化財研究所)らは,高松塚古墳壁画の表面状態 建造物の彩色部分の剥離等を検出する手段として,テラヘル の調査の一環として,デジタルカメラによる近接斜光撮影を ツ波イメージングの可能性を調査し,用いた材料と支持体の 行った結果,図像の不鮮明化には微生物による汚れの他に, 屈折率の差によっては可能とした(38). 漆喰表面からの色材消失,または剥落,乳白色物質の発生に 平成 21 年度画像保存セミナーの講演内容を基に,日本写 起因する不鮮明化の 2 つの要因があることが判明したとして 真学会誌第 73 巻 1 号に画像保存の特集が組まれた.昨年の いる(保存科学,49,197). 内容と重複するため,ここでは題名と執筆者の記述のみに留 6 月に開催された文化財修復学会第 32 回大会研究発表は, めたい.安江(資料保存管理者)は,画像技術と図書館・アー セッション 25 件,ポスターは 117 件と,例年,非常に活発 カイブスの資料保存(日写誌,73(1),3)について,樫村(慶 な情報交換の場となっている.三次元蛍光スペクトルによる 應義塾大学)は,高品質な貴重書デジタルファクシミリの制 ワニスの劣化調査,デジタル透過 X 線撮影を用いた錦絵の色 作(同,6)について,磯前(日揮ユニバーサル)は,文化財 材調査,異種色材におけるカビ繁殖比較,温泉ガスの影響, 保存のアプローチ『気相中で殺菌・静菌効果を有する酵素濾 保存箱内の環境評価方法の検討,展示ケース内の汚染物質の 紙』(同,12)について,金子(東京都写真美術館)は,写 排除と調湿,書物から発生する VOC ガスの影響,VOC ガス 真原板とは何か(同,22)について,吉田(オリンパスイメー の除去剤,収蔵庫内の温湿度とスチール棚の表面温度との関 ジング(文化財写真ガイドライン検討グループ) )は,文化財 係,空調機用無線温湿度センサーの運用,ATP 発光を利用し 写真の保存に関するガイドライン策定活動について(同,33) た微生物測定法,歴史的近代建造物を利用した展示室・収蔵 を解説している. 庫の環境改善,総合的有害虫管理(IPM),カビ胞子が発芽す 11 月には画像保存セミナーが開催された.写真画像へのカ るまでの期間,害虫管理と捕虫システム,生物生息調査分析 ビや生物被害を防ぐために,乾燥・低温での保存ということ システム,窒素殺虫と空気清浄・調湿機能付棚の活用,木酢 は,一般的に知られている.Tom Strang (Canadian Conservation 液の抗虫活性測定,劣化したシアノタイプの修復,コロタイ Institute)は,文化財を襲う菌類や害虫などの有害生物によ プ印刷の耐オゾン性,経年劣化紙資料の加速劣化試験,脆弱 る被害を防ぐための生物学的知見の有用性や環境的な制限に 化した資料のリーフキャスティングによる修復,火災被害古 ついて,データを基に解説した(画像保存,1).ヒュースト 文書の保存修復事例,紙資料の保全と機能を両立した展示用 ン美術館写真保存修復ラボは 2005 年より写真保存修復デー 装丁,手彫切手に使用された印刷インキ中の色素成分分析, タベースの開発と改良を行っている.小関(ヒューストン美 可視域外にも適用できる撮影用カラーチャートの提案,近赤 術館)は,保存修復業務に従事する職員にとって,重要なツー 外線 LED 光源とした資料撮影から得られる情報,文化財保 ルとなったこのデータベースの内容,および同美術館におけ 存修復に用いる和膠の生産研究,古文書・古典籍の修復と装 る修復プロジェクトの事例を紹介した(同,9).現在の社会 幀形態に関する用語データベース,書見台の新案,梱包技術, では,デジタル情報が爆発的に増大し,その作成や再生環境 博物館における包括的保存システムの構築,文化財保存修復 の進歩も著しく,情報を長期的に保存し,利用可能としてい 学会災害対策調査部会活動報告など,各方面からの発表が くことの困難さが課題として認識され始めている.村上(国 あった.ここではセッション報告のみを取り上げる.大会要 立国会図書館)は,この課題へのアプローチの 1 つとして, 旨のページを括弧内に記した. コスト試算に関する研究の動向を紹介した(同,14) .デジタ 神庭ら(東京国立博物館)は,収蔵庫内における空気汚染 ルデータの長期保存が危惧される中,銀塩フィルムへの保存 物質の成分と濃度に関する調査を 5 年間行い,改善策の検討 が提案され,ハリウッドでは,映画を B,G,R の 3 色にデ および濃度の指針を報告した(20) .文化財収蔵庫には,国産 ジタル分解し,銀画像として保存しているという.大関(富 針葉樹林が多用されている.瓦田(東京都立産業技術研究セ 士フイルム)は,デジタルレコーディング用銀塩フィルムの ンター)らは,木材から放散されるギ酸・酢酸の定量方法と 設計と開発,および銀画像の期待寿命を解説するとともに, して,デシケーターを用いた簡便法と小型チャンバーを用い 欧州で進められているバイナリデータのフィルム保存の動き た動的手法を検討した(22) .松井(筑波大学)らは,空気質 についても詳述した(同,22).松本俊夫監督の『銀輪』 (1955 環境のモニタリングから,来館者の急増が展示ケース内にも 年)のデジタル復元にあたり,長期保存性に優れた白黒イン 影響を及ぼすことを明らかにし,環境改善のためにケミカル ターミディエイトフィルムへの三色分解を実施したという. 140 日本写真学会誌 74 巻 3 号(2011 年,平 23) 板倉(東京国立近代美術館)と三浦(IMAGICA)は,その復元 した(日写年,36).さらに,CIE2000 色差式を基にエッジ部 事例を紹介し,映画および写真フィルムに共通する保存や復 での色差を過小評価する方法を検討し,同方法により主観評 元の方法論や倫理的な諸問題について検討した(同,36) . 価との対応が増すことを確認した(日写年,68) .鈴木(千葉 大)らは,カラーハーフトーンプリント色票の再現予測のた 7. 画像評価・解析 めに Neugebauer 修正反射モデルを提案した.分光情報,空 藤野 真(セイコーエプソン) 間情報とも実測結果と対応の良い予測が行われることを示し た(日写年,72).上三垣(千葉大)らは,一般照明下での 2010 年も画像評価に関する多くの研究が行われている.評 プロジェクタ投影像の見えを暗室下の見えに近づける画質改 価の根幹となる人間の知覚・視覚特性をより丁寧に扱うもの, 善を試みた.同改善方法は,プロジェクタ投影面での三刺激 これを受けて各デバイスにおける色・階調,像構造の課題を 値から得られる反対色応答と明るさをCIECAM02に基づいて 扱うもの,付加価値を与える要素である光沢・質感を扱うも の等多様である. 補正するもので,その効果を主観評価においても確認した (日写誌,73(2),104).一ノ瀬(アイメジャー)らは,埋蔵 7.1 像構造 文化財の記録保存用途に開発をした正射投影画像(オルソ画 羽石(千葉大)は,カラー動画像の H264/AVC 圧縮に起因 像)の画像入力装置に関して,その機構・機能の説明を行っ する劣化を評価する客観評価方法と,カラー画像におけるバ た.テレセントリックレンズを利用し,また画像取り込みユ イラテラルフィルタ(BLF)に視覚の感度特性を組み込む方 ニットを奥行き方向に移動させ,前記目的に好適な画像入力 法を紹介し,それぞれの効果を確認した(日写年,66) .和崎 装置となっている(日写年,54).西浦(京セラミタ)は, (千葉大)らは,画像のノイズを除去する方法として,BLF 「系統的配置方法」を応用して確立した同社独自の好ましい色 フィルタを基本とする新手法を提案した.画像平坦領域の平 の評価方法について解説を行った.全世界共通となる記憶色 均色に対するノイズ知覚感度を用いて,BLF のパラメータを 対象物の選定,シーン特定に配慮した質問方法とともに,日 適応的に定めることで試行錯誤なく良好なフィルタリングが 本を含む 6ヶ国での調査結果を紹介した(日画誌,49(3),384: 行えることを確認した(日写誌,73(2),113:日写年,74). 画像年,179).山本(コニカミノルタ)は,色彩計に関する 山本(コニカミノルタ)は.画像圧縮などの画像処理後の画 課題について説明し,それを克服するための新しい試みとそ 質劣化計測を目的として,マスク効果の計測を行った.マス の効果について説明した.目視と計測値との間に差が出る要 クされる側の像構造に応じて,視覚の感度特性が変化するこ 因として,ジオメトリ,メタメリズム,蛍光を挙げ,特に蛍 とを見出した(画像年,183).青野(ニコン)は,デジタル 光起因課題については照明光源に紫外 LED を用いることで カメラの光学系の基本特徴と設計技術について概説した.デ ISO13655 の D50 照明の要請に応えたことを紹介した(日印 ジタルカメラの基本仕様を撮像センタの特徴との視点から論 誌,47(5),319). じ,さらにサンプリング画像系の伝達特性について解説した (日写誌,73(3),175).北野(富士ゼロックス)らは,オフ 7.3 質感 安達(千葉大)らは,印象派の 4 名の画家の筆触(タッチ) セット印刷と電子写真での画像構造,特にグロスに関与する の定量化を周波数解析の手法を用いて行った.抽出した周波 表面形状についてそれらの違いについて概説した.両者の特 数特性から,画家の筆触の細かさ,筆触の方向性を抽出し, 徴的な差異点として,着色剤により形成される用紙表面形状 各画家の特徴を示した(日写年,38).谷口(千葉大)らは, が用紙本来の起伏を変化させる程度を挙げている(日画誌, 画像への粒状付加が,対象絵柄への記憶質感に与える影響を 49(1),26). 調べた.粒状付加を行った場合の方が,そうでない場合に比 Hansuebasi(Chulalongkorn Univ)は水系,溶剤系,UV 硬 較して,それらしい(記憶質感に近い)と判断される傾向に 化系の 3 種のインキと非コート,マットコート,グロスコー あることを確認した(日写年,42) .范(千葉大)らは,日本・ ト,ポリエチレンコートの 3 種の媒体の組み合わせで得られ 中国での好ましい肌色について,その決定因子を含めて調査 るインキトッド構造を解析した.媒体の平滑度が高いほど を行った.日本に比較して中国では,色みについてやや赤み ドット形状が理想的になる様子を示した(日印誌,47(1),34) . が強く,明度についてはほぼ同等という結果が得られた(日 成(日本工業大)らは,画素サイズと輝度の分布が輪郭強調 写誌,73(1),31). の最適条件に与える影響について,主観評価を行いつつ検討 した.画素サイズが大きくなるほど小さな強調で効果的であ ること等を視覚特性の観点から説明した(日画誌,49(2),78). 7.2 階調・色再現 7.4 総合評価・画像処理 犬井らは,デジタル画像における改善履歴の有無を,画像 の下位ビットの構造観察によって把握することを試み,その 可能性を示した(日写年,70).井出(富士ゼロックス)ら 犬井(東京工芸大)らは,ディスプレイに表示した圧縮画 は,画像学会が頒布開始したデジタルチャート No7 の概要と 像を評価するための指標として CIE2000 色差式を用い,同式 して,その仕様に加えて,開発コンセプト,作成方法,そし の用いられる各種の重み係数を変化させ主観との対応を調べ てハードコピーの画質検証結果を解説した.同チャートは, た.色相の重みが最も影響を与えるものの,その絶対的影響 モニタ観察を想定した 4 種のデジタル画像と銀塩プリントの は少なく係数を変えない場合と実質的な差はないことを確認 セットで構成されている(日画誌,49(6),486).三宅(千葉 2010 年の写真の進歩 141 大)は,イメージング技術に関わる色彩工学につて丁寧な解 算に対して GPU は 17.5 倍,CPU で最適化された演算に対し 説をおこなった.視覚特性と色彩画像の画質,色再現とカラー て GPU は 6.9 倍の高速化を実現した(MCS). マネジメント,分光画像,色彩情報処理と応用に関する研究 Liu らは RGB カメラとカラーフィルタを用いた 6 バンド撮 影画像からの分光画像再現手法を提案した.まず,Wyszecki 結果がまとめられている(日画誌,49(1),48). のメタメリズム理論に触れ,パラメータ分解による新しい手 8. 分光画像 法を紹介している.提案手法の特徴は色度上の精度を保証で 中口俊哉(千葉大学) きることである.PCA や一般化逆行列,Wiener 推定など様々 な手法と比較して提案手法が優れていることを確認した 2010 年も分光画像に関する研究発表が活発に行われた.発 表の傾向はこれまで同様,国内より海外の国際集会に集中し (CIC). Lasarte らは分光推定システムのトレーニングに必要なサ ていた.まず 2010 年 6 月には第 12 回分光色彩科学に関する ンプル数について基礎的検討を行った.3 チャネル CCD を 国 際 シ ンポ ジウム 12th International Symposium on Multi- 使ったシステムと,7 バンド撮影ができるシステムを用いて spectral Colour Science(以下,MCS と略記)がフィンランド 検討したところ,3 チャネル撮影では 110 個,7 バンド撮影 th の東フィンランド大学で 5 European Conference on Colour in に対しては 120 個の学習サンプルが必要であることが得られ Graphics, Imaging and Vision(CGIV 2010)と同時開催され, た(JIST). th MCS に関し て 8 件の演題が 発表された.ま た,18 Color 8.2 分光撮影における光源の検討 Imaging Conference(以下,CIC と略記)では“Spectral Color, Horiuchi らは高速分光記録のための,アクティブな分光光 Color Rendering, and Color Management”のセッションが設け 源制御手法を提案した.狭帯域で高速にスイッチング制御可 られ,13 件の発表の中で分光画像に関する発表が 4 件あっ 能な分光光源を被写体に照射し,被写体からの反射光を測定 た.さらに米国画像科学会 IS&T の論文誌である Journal of 器で取得する.取得した反射光を制御 PC 上で解析し,即時 Imaging Science and Technology 54 巻では 2010 年に出版され 分光光源にフィードバックすることで,最終的に目的の光源 た中で分光画像に関する論文が 5 件含まれていた. の分光分布を自動で得ることができる.白色キセノン光源を 以下に 2010 年度の分光画像に関する研究動向をトピック 別にまとめる. グレーティングし DMD(digital mirror device)チップを使っ て波長毎の放射輝度を離散的に制御することで,高速に光源 8.1 分光画像の記録と再現 の分光分布を制御している.被写体の反射率は 200 fps モノク Klein らは分光画像に対する色収差の解析と補正のための ロカメラと分光放射輝度計を使って取得し,それぞれの有効 モデル化手法を提案した.色収差はあらゆるイメージングシ 性を比較検討した.提案手法の応用例として,任意の分光分 ステムに発生する問題であるが,5 ~ 13 の多バンド撮影を要 布光源を正確に生成するシステムと,カメラの分光感度特性 する分光画像撮影では色収差の解決が特に重要となる.Klein を未知のままに被写体の分光反射率分布を推定するシステム らは白黒チェッカーボードに狭帯域光源を照射し波長毎のひ を実装し有効性を示した(MCS). ずみを計測した.光源の狭帯域化には 400 nm ~ 700 nm まで Martines らは近年分光処理システムの光源としても活用の 50 nm 間隔で 7 種類のカラーフィルタを用いた.アフィンモ 幅を広げている LED の特性について詳細に検討した.特に デル,放射状モデル,放射接線モデル,波長依存放射接線モ レンズ付き LED は指向性が高いため角度依存性が大きいが デルの 4 種類でモデル化した.モデル毎にひずみの予測精度 これまで詳細に検討されていなかった.本論文では視線角度 を検討した結果,放射接線モデルと波長依存放射接線モデル を変えたときの分光放射輝度分布の変化を白色 LED とその はほぼ同程度の精度を有しており,500 nm 以上のフィルタバ 他多数の単色 LED について詳細に実験し,結果をまとめて ンドでは放射状モデルがわずかに優れた予測精度を示すこと いる(MCS). がわかった.モデルを元にひずみの補正を行い,その有効性 を確認した(MCS). Antikainen らは GPU(Graphics Processing Unit)を使った Tominaga らは全方位分光撮影システムを構築し,自然界の 光源分布の分光特性(日光による直接光と様々な反射光を全 て含む)の解析を行った.分光再現は 6 バンド撮影を用いて 分光推定手法の高速化を実現した.以前は 3D グラフィクス 行い,5ヶ月の期間にわたって一日の同じ時間に計測を実施 の演算に特化していた GPU であるが,近年汎用計算の並列 して分光データを収集した.この計測データに対して主成分 化に応用できるようになっており,様々な高コスト演算の高 分析を用いて解析した結果,自然界の光源分布はおよそ 3 主 速化手段として注目されている.本論文では分光推定に PCA 成分で記述できることを確認した(JIST). を使っている.繰り返し演算を使わない高速 PCA 演算を用い 8.3 分光画像処理の応用研究 て GPU に最適化したことで処理の高速化を実現した.ソフ Kohonenは分光画像に対するパンシャープニング技法である トウェア開発には CUDA2.0 ライブラリを利用し,240 個の並 MRAIM(multi-resolution analysis-based intensity modulation) 列プロセッサを搭載した NVidia 社 GeForceGTX280 プロセッ を応用した画像融合手法を提案した.論文では 2 種類の実験 サと,3GHz Xeon CPU との速度比較を行った.その結果画像 を実施しており,まず高解像度グレー画像と低解像度分光画 サイズ 800×800 の場合において,CPU で Matlab を使った計 像を融合して,高解像度分光画像を推定する方法を検証した. 日本写真学会誌 74 巻 3 号(2011 年,平 23) 142 つぎに高解像度 RGB 画像と低解像度分光画像を融合して,高 の範囲で測定可能になったが,銅(Z=29)は被写体からの散 解像度分光画像を推定する方法を検証した.2 種類のチャー 乱線や管電流の不安定性からうまく測定できなかったと報告 ト画像を使用して詳細にパラメータを検討した結果,提案手 している(日写秋,2). 法の有効性が確認された(MCS). 分光画像処理分野では赤外波長域の活用も進んでいる. 紫藤(GE 横河メディカルシステム)は,「Fast kV スイッ チング法デュアルエナジー撮影」について技術紹介し,CT 装 Salamati らは RGB に赤外を加えた 4 チャネル画像から高精度 置中の 1 つの X 線管球で View ごとに管電圧を 80 kV と 140 kV なオブジェクト分離・抽出手法を提案している.赤外画像を で高速に切替える手法(同時間位相,同管球角)を用いて, 加えることで,従来誤抽出の原因となっていた物体の陰影に それぞれの Raw データを高密度に収集することで,位置ずれ 対しても適切な抽出結果を得ることができた(CIC). や時間軸のずれのないデュアルエナジースキャンが実施可能 Delcourt らは非等方三次元ウェーブレット解析に基づく分 な機能(Gemstone Spectral Imaging)を開発し,ビームハー 光画像の圧縮手法を提案した.次元圧縮には PCA を用いてい ドニングの影響を除去するためのビームハードニング補正を る.有効性評価の指標として,ビットレート,空間・分光的 行って,取得画像の CT 値に対する線形性を保つことが可能 次元数,PSNR,処理時間,メモリ使用量など多面的に調査 になるため,これらの画像データを加重加算することにより, し,比較対象として二次元ウェーブレットや SPIHT 符号化ア 各 X 線実効エネルギーで撮影された単色 X 線等価画像(モノ ルゴリズムなどを組み合わせた従来手法を取り上げている. クロマティックイメージ)を算出することが可能になった. 解析の結果,提案手法の圧縮性能が優れていることを確認し すなわち,正常組織と変質性病変それぞれのピクセルの密度 た(JIST). 情報をほぼ正確に解析できる可能性があり,さらに高濃度造 影剤による CT 値のシフトを防いだり,最もコントラスト差 9. 医用画像 がつく keV での画像化,または特定物質を想定した keV での 松本政雄(大阪大学大学院医学系研究科) イメージングなど,今までの CT 検査では提供出来なかった データも提供可能であると報告している(画像通信,33(1), 9.1 医用画像の基礎 i)X 線イメージング技術 43). 年次大会の医用画像セッションで,入澤(富士フイルム) 討」と題して,救急医療でのショック症状など血流の乱れを 羽石ら(千葉大)は, 「舌下微小循環イメージングの基礎検 は, 「デジタルマンモグラフィ用高精細ディテクタの技術開発 モニタリングし,治療に反映するために開発された 100 μm と製品展開」と題した技術賞受賞講演を行い,X 線画像診断 以下の血管径をもつ舌下微小循環を非侵襲的撮影する SDF において最も高精細画像が要求されるマンモグラフィ用に光 (Sidestream Dark Field)撮影法をもとに,独自に装置を試作 誘起放電効果を利用して電気信号を読み出す「光スイッチン し,舌下微小循環の血管,血流を確認できる形態画像の取得 グ読出」方式の a-Se を使用した直接変換型の X 線平面検出器 を可能にし,波長の違いによる撮影画像の特徴を調べるため FPD(Flat-Panel Detector)を開発した経緯を説明し,この に,3 種類の異なる波長特性をもつフィルタによる画像取得 FPD を搭載したデジタルマンモグラフィシステムは,低ノイ を行い,得られた画像特性に関して考察したが,現状では画 ズで高精細な画像が取得でき,特に,乳がんの重要な診断指 像のぶれや,ピント調整が安定しないため,血管の画像解析 標である微小石灰化等を描出するのに優れていると報告して には至らず,今後,画像のぶれの改善と精度の高いピント調 いる(日写年,96). 整が必要であると報告している(日写年,100). サを用いた X 線像による被写体の材質の識別(3)」と題して, 9.2 医用画像の応用 i)画像の医療応用 異なるエネルギーで弁別した X 線の 2 次元画像から被写体 石川ら(千葉大院)は,年次大会の医用画像セッションで (炭素,アクリル(メタアクリル樹脂)PMMA,アルミニウ 「舌診支援を目的とした時間経過に伴う舌画像解析」と題し ム)の線減弱係数と実効原子番号を識別する精度を向上させ て,漢方の診察に利用される舌診で,医師の主観評価を支援 るために,放射線ラインセンサのレスポンスのエネルギー補 するコンピュータ支援診断のために,舌を一定時間撮影し, 正を行い,画像の 10 回取得による平均化で再現性を良くし, 舌の特徴である色・形状を取得して,時間経過に伴った舌の 各被写体の実効原子番号を炭素(Z=6.0)で 6.0±0.04,PMMA 特徴を定量的に計測・解析する手法を提案している.この手 (Z=6.48)で 6.48±0.22,アルミニウム(Z=13.0)で 13.0±0.10 法は,舌色の計測法として,積分球を用いた拡散光による撮 松本ら(阪大院)は, 「エネルギー弁別型放射線ラインセン の差異の範囲で測定可能になったと報告している(日写年, 影システムと,舌の診断指標の一つである舌表面の水分量に 98).さらに,秋季研究発表会の一般セッションで,「エネル 対応する光沢量の計測法として,集光性の強い LED を 3 つ ギー弁別型放射線ラインセンサを用いた X 線像の被写体の材 設置し,同時に点灯する舌表面の撮影システムを用いるもの 質の識別(4)」と題して,チタン(Z=22),鉄(Z=26),銅 で,日内・日差変動が少なく,閉眼撮影により安定した舌画 (Z=29)のような比較的原子番号の大きい被写体を再現性よ 像が得られ,積分球を用いた拡散光による舌色と LED 照明 く識別できるかどうかを検討し,各被写体の実効原子番号を による舌の光沢量の計測が可能になり,さらに時間経過に伴 チタン(Z=22)で 22.0±4.6,鉄(Z=26)で 26±1.9 の差異 う舌の特徴量に変化傾向があることがわかったので,今後は 2010 年の写真の進歩 143 臨床データを収集して,病状と画像から得られた特徴量との した.高画素であればスキャンタイプのデジタル機器が存在 相関を解析していくと報告している(日写年,102). するが,記録時間が長く撮影時にも様々な問題があり,日常 秋元ら(阪大院)は,秋季研究発表会の一般セッションで, 業務に取り入れることが困難であった.しかし,デジタル技 「前立腺がんの放射線治療におけるマージンの評価」と題し 術の発展と銀塩フィルムの減少が要因となり,2010 年,国の て,前立腺がんの放射線治療で,がんの腫瘍のみに放射線を 主要な博物館に新たなデジタルバックが導入され,アナログ 照射し,正常組織の障害を最小限に抑えるために,腫瘍とそ からデジタルへと記録媒体の変化が起こった. の周辺の臓器の動きや患者のセットアップ時の誤差を考慮し 文化財の調査で得られた科学写真の成果は,近年,論文や て,腫瘍の周囲に X 線照射のマージンが設けられているが, 報告書という学術利用の範囲を超え,文化財の理解を深める このマージンの評価を治療計画時の CT(Planning CT)像と 情報として美術館の展示で公開される機会が増加している. 照射時の 2D-X 線画像による患者の位置補正後の Cone-beam 2010 年 12 月 7 日- 2011 年 2 月 20 日まで日比谷公園ダ・ヴィ CT(CBCT)像を用いて行い,左右(RL)方向で 3 mm,腹 ンチミュージアムで開催された展覧会では,レオナルド・ダ・ 脊(AP)方向で 8 mm,頭尾(SI)方向で 6 mm が必要であ ヴィンチが描いたモナリザを LUMIERE TECHNOLOGY 社の ることがわかったので,各放射線治療施設でマージンの評価 Pascal Cotte 氏が開発したマルチスペクトルイメージングシ を行うことが重要であると報告している(日写秋,6). ステムで調査を行い,分析画像の展示とともに新知見が公表 伊藤 広(ナナオ)は, 「液晶モニターにおける立体表示技 された.このシステムは,受像部にラインセンサを使用した 術の現状」について技術紹介し,医用分野に最適な立体表示 装置で 2 億画素を超える画像が得られる.照明には細分化さ 方式として,ハーフミラー方式に 2 ~ 5 メガピクセルの医用 れたミラーを回転させながら光路を変化させ,センサの読み 画像表示モニターを組合せたソリューションの開発を行って 取り位置に同期させて照射位置を変化させる,特殊な光源装 おり,ハーフミラー方式は形状がやや特殊となるものの,表 置を伴わせている. 示パネルについては,ほぼすべてのものが使用可能で,ハー 現在,市販されているマルチスペクトルイメージングカメ フミラーと偏光メガネが介在することによる輝度低下や画質 ラは,複数のフィルターで色分解する方法が一般的で,天体 影響は皆無ではないが,単に高精度化が可能というだけでな 撮影や顕微鏡撮影用として使用されている.文化財の分野に く,ベースとなるモニターが持つ 10 bit 以上の階調表現や品 おけるマルチスペクトルイメージングシステムの利用は,国 質管理への対応も含め,他方式と比較して 2D モニターに対 内では未だ研究目的での利用に留まっているが,国外では数 する差異を最も少なくできる方式である.また,逆視が生じ 年前よりマルチスペクトルイメージングシステムの導入事例 ず,アクティブメガネを使わないため電池切れや同期切れに が公表されているので,その一例を示すことにする.Eureka よる誤動作の心配がない点もクリティカルな現場作業に適し Vision(Mega Vision 社製)のマルチイメージングシステムは, ており,また,静止画中心の用途では左右画像が常時安定し UVNIR の範囲で収差補正された専用のレンズ,LED 光源 て表示され,液晶パネルの過渡応答性能の影響が生じない点 (UV ~ NIR を含む多波長),モノクロセンサーで構成されて は時分割方式に対して有利と考えられると報告している(画 おり,専用のソフトウェアで多チャンネル画像からカラーイ 像通信,33(2),44). メージの自動生成を行う.蛍光画像,NIR 画像も同時に取得 できる.このシステムは 2010 年後半より,5000 万画素のモ 10. 科学写真 ノクロセンサーを組み合わせることが可能となった.米国, 欧州圏では美術館,博物館,公的機関に導入されており,アー 10.1 文化財 カイブの画像記録としての利用をはじめ,スペクトル分解し 城野誠治(東京文化財研究所) 2010 年は文化財の科学写真として,特記すべき大きな展開 た画像から新知見が多く得られている. マルチスペクトルイメージングによる情報化は,色彩の正 は見られなかった.しかし,デジタル機器の利用や取得画像 確な記録と分光イメージによる多くの情報が得られるため, の公開利用に関して新たな動きが見られたため,それらに関 文化財の分野では有用な情報化の技術といえよう.今後の機 連する事柄について記述することとした. 器の発展と普及を大いに期待したい. 美術館や博物館での写真記録は,記録媒体としてラージ フォーマットの銀塩フィルムを使用してきた.しかし,デジ タルカメラの急速な普及に伴い,銀塩フィルムの生産が年々 10.2 天体写真 山野泰照(天体写真家) 2010 年,天文の世界では宇宙航空研究開発機構(JAXA)が 減少する傾向が見られるようになった.美術館や博物館では, 打ち上げた小惑星探査機「はやぶさ」(MUSES-C)が,小惑 文化財の記録や印刷原稿の作製用として恒常的に多くの数量 星イトカワ表面の微粒子を持ち帰ったことが大きな話題と を消費するため,安定した記録媒体を使用することが望まれ なった.2003 年 5 月 9 日に打ち上げられ,2005 年 9 月 12 日 るがその要求を満たすことも困難な状況になってきた.一方 に小惑星イトカワに到着,表面の微粒子を採取した後,予定 でデジタル機器の高画素化は加速し,バックタイプのデジタ より大幅に遅れたものの,予期せぬさまざまな障害をのりこ ル機器は 8000 万画素の製品が販売されるようになり,情報 えて 2010 年 6 月 13 日に地球へ帰還したニュースは記憶に新 密度は4×5インチ相当の銀塩フィルムを凌駕するレベルに達 しい.写真や画像の技術という面で特に新しいものはないが, 144 日本写真学会誌 74 巻 3 号(2011 年,平 23) はやぶさがイトカワのそばで撮影した画像だけでなく,特に 展に合わせて,レンズの特に解像力や色収差の補正に関して 最後に撮影した地球の画像には「大気圏突入で燃え尽きる前 より良い性能のレンズ群を充実させてきている.そういう動 に地球の姿をはやぶさに見せてやりたい」という JAXA プロ きはカメラメーカー,レンズメーカーに限らず天体望遠鏡 ジェクトチームの気持ちが込められた画像として話題になっ メーカーにも及んでおり,高橋製作所では,これまでのアス た.1 枚の画像ではあるが,背景情報が後押しして大変意味 トログラフをデジタル時代向けに改良し,ペッツバール和が 深いものになったことは,写真や画像の持つ性質を示す良い 0,フラットな像面のリッチー・クレチアンから進化させた 事例であろう. オリジナルの光学系のコレクテッド・カセグレン・アストロ さて一般の天体写真の世界では,デジタルの領域で,画像 カメラ,CCA-250 を発売した.像高 50 mm までの星像の大き 処理を前提にした撮影法がますます発展してきていることが さが 6 ミクロン以下,像高 88 mm でも 10 ミクロン以下とい 注目される. う仕様であるため,比較的広い視野で星雲や星団の拡大撮影 ひとつは,夜景と同じような手順で撮影する星景写真を連 をする人には極めて強力な光学系である. 続して複数枚撮影(たとえば,10 秒露出の撮影を 180 回連続 総じて言えば,天体写真の世界でも,デジタル技術の進化 して繰り返し)しておけば,それらの画像を重ね合わせ「比 によって目的と使用者のレベルによっていろいろな楽しみ方 較明」という条件で合成処理をすることにより,あたかも長 ができる時代になってきたと言えよう.カメラ本体の高感度 時間露出で撮影したかのような日周運動の画像になることは 化が支えるところが大きいが,専用機として高い評価を受け 以前にも紹介したことがあるが,それらの画像を動画編集ソ ている冷却 CCD カメラだけでなく,一般的なコンパクトデ フトのフレームに貼り込めば 30 分間の星の動きを 6 秒で再 ジタルカメラ,ミラーレス一眼カメラ,デジタル一眼レフカ 生できるなど,いわゆる「微速度撮影」した動画が出来上が メラ,またデジタルビデオカメラや WEB カメラも目的によっ るのである.デジタル画像ならではの,シングルソース,マ ては強力な撮影機材となるなど,撮影機材のバリエーション ルチユースの新しい楽しみ方が広がっている. が充実してきた.さらに撮影後に画像処理をするアプリケー また,アドビ社のフォトショップ エレメンツなどの画像 ションソフトが支えている部分も大きい.最終的に,高精細 処理ソフトのパノラマ作成機能が進化し,つなぎ目の違和感 な惑星や月の静止画を得るために動画で撮影するというのは がない広い視野の画像,高画素の画像を得ることが容易に 15 年以上前から行われていたことであるが,それが簡単に実 なった.その結果,星の写真でより広い画角の画像が得られ 現できるようになったのは,そういう画像処理を担うソフト るようになっただけでなく,丹念に部分部分を撮影した月の ウェアの進化によるところが大きい.経験を積み,機材に大 画像から,月の全体画像を得ることが出来るようになった. きな投資をした人だけでなく,一般的な機材だけで,たとえ 特に月の画像では 1280×960 程度の画素数のカメラで撮影し ば旅先で手軽に天体撮影が楽しめるようになったということ た画像を数枚から数十枚を繋ぎ合わせることにより,数千万 である. 画素のカメラで撮影したかのような素晴らしい画像が得られ ている. ただ,多機能かつ高性能のソフトウェアの機能を使えば, 同じ原画からさまざまな画像が出来てしまうがゆえに,最終 以上のようなことから,撮影後のデジタル画像処理を含め 画質のイメージがあいまいだと科学的評価視点,あるいは経 て,さまざまな撮影法と画像処理の組み合わせが楽しめる時 験者の目から見て不自然な画像を作ってしまうのも事実であ 代になったと言える.特に画像処理アプリケーションソフト る.天体写真を科学写真として仕上げるか,芸術作品として の進化によって,静止画と動画の垣根がますます低くなって 撮影者の思想や主張を盛り込むかというあたりは永遠のテー きたこともあり,この傾向は今後も続くものと思われる. マであろうが,より注目しておかなければならない時代に カメラ本体の進化については,一般にミラーレス一眼カメ なったと認識しておくべきだろう. ラと称される,一眼レフレックス方式の光学ファインダーを 有しない,小型軽量でレンズ交換できるシステムカメラが台 11. 写真芸術 頭しており,天体写真の世界でも活用され始めている.デジ 西垣仁美(日本大学芸術学部) タル一眼レフカメラでも一般化したライブビュー機能(撮影 前に,撮像素子の画像を背面液晶や電子ビューファインダー 11.1 概況 で見ることができる機能)によるマニュアルでのピント合わ 21 世紀も最初の 10 年が過ぎ去った.デジタル,銀塩とい せがしやすいことだけでなく,カメラ本体が軽量であり小型 う写真の過渡期も落ち着きをみせ一般的にはもはやデジタル 望遠鏡に接続しても望遠鏡の架台に大きな負荷をかけないこ が通常となったようだ.そのような中で見直され,再注目さ となどから,現時点では月や惑星の撮影に向いていると言わ れてきたのがプラチナプリントなどの古典技法による作品制 れている.レンズシステムの充実やカメラ本体の高感度化が 作であった.そして過去を振り返り現在に技法を呼び返すだ 進めば,さらに活用範囲が広がると期待されている. けでなく,ここ数年は古写真の研究が大きく進んでいる.日 撮影光学系に目を向ければ,カメラ本体の高画素化という 本における写真黎明時代の作品に光があたり,古写真や近代 背景もあり,レンズの性能の改善が求められている.カメラ 写真による写真展が増加しているように感じた.高知県立歴 メーカーやレンズメーカーは,デジタルカメラのそういう進 史民族資料館が所蔵する坂本龍馬の実物のガラス板写真が, 2010 年の写真の進歩 江戸東京博物館で「龍馬伝」(4 月 24 日~ 6 月 6 日)開催中 ・「ローマ追想―19 世紀写真と旅」 の 3 日間実物が限定公開されたのを皮切りに,京都文化博物 (京都国立近代美術館,5 月 20 日~ 6 月 27 日) 145 館(6 月 19 日~ 7 月 19 日),高知県立歴史民族資料館(7 月 イタリア・モデナの写真美術館に寄託された 19 世紀の写 31 日~ 8 月 31 日),長崎歴史文化博物館(10 月 2 日~ 11 月 真から厳選されたもので,イギリス,フランス,イタリア出 3 日)の各会場とも 3 日間のみではあるが実物が公開され多 身の写真家によるローマの風景,コロッセオ,凱旋門,教会 くの観客を集めた.東京都写真美術館でも「侍と私―ポート 建築など約 130 点のオリジナルプリントと日本人画家の渡欧 レイトが語る初期写真―」 (5 月 15 日~ 7 月 25 日)が開催さ 手記が展示された.様々な古典技法によるプリントの比較や, れ,216 点の写真が展示された.以前から古写真を展示して 数年の違いで変化してゆく都市の風景などを見る事ができ, いる JCII フォトサロンでも「―古写真に見る西南戦争の記録 大変興味深い写真展であった. ―彦馬が見た西南戦争」 (8 月 3 日~ 8 月 29 日)を約 80 点の 作品により開催した.日本大学芸術学部でもコレクションす る幕末期から明治初期の約 50 点の写真で「写真の開国」展 (10 月 26 日~ 11 月 18 日)を行うなど,各地で多くの古写 真,初期の写真による写真展が行われた. ・「フェリックス・ティオリエ写真展 いま蘇る 19 世紀末ピクトリアリズムの写真家」 (世田谷美術館,5 月 22 日~ 7 月 25 日) ピクトリアリズムの写真家であるフェリックス・ティオリ エは 1842 年にフランスのサン=テティエンヌに生まれ,1914 古写真以外の写真展に関しては日本各地の地方美術館など 年に逝去している.彼のパリの町を記録した作品は 1980 年 が独自に企画する展覧会に印象深い良い写真展が多く感じら 代に子孫により紹介され,評価が高まっている.今回は初期 れた.それらは巡回することも少なく,大都市で開催される のカラー写真を含む約 170 点の作品が紹介された.アジェと 写真展のように人を集めることも難しいであろうし,見る側 ラルティーグの間をいくような写真家で興味深かった. も足を運ぶのも大変だが写真が広く深く芸術作品として浸透 ・「暗がりのあかり チェコ写真の現在展」 してきたように思え印象深い 1 年であった. (SHISEIDO GALLERY,6 月 19 日~ 8 月 8 日) 一方 2 回目となるアートフォトフェア「東京フォト 2010 / 現在チェコ共和国で注目を集める 10 名の写真家の約 50 点 TOKYO PHOTO 2010」(9 月 17 日~ 9 月 20 日,六本木ヒル の作品を一堂に会し紹介する,日本で初の写真展であった. ズ森タワー 40 階 academyhills40)が開催され,写真作品の展 10 名の作品は黒白写真の方が多いがカラーもあり,銀塩もデ 示,販売,写真展などを行なった.そして新たにジャパン・ ジタルもあった.作風は,ポートレート,風景,フォトモン フォトグラフィー・アート・ディーラース・ソサエティー タージュ,ドキュメンタリーなど様々であり,連綿と続く伝 (Japan Photography Art Dealers Society / JPADS)が主催する 統と歴史を継承しつつ新たな表現を広げ,内容も濃く,技術 “広尾アート・フォト・マーケット”が立ち上がり,広尾の も高いと感じた. インスタイル・フォトグラフィー・センターで 12 月 10 日~ ・「マン・レイ展 知られざる創作の秘密」 12 月 19 日に行われた.これには国内 6 ギャラリーのディー (国立新美術館,7 月 14 日~ 9 月 13 日) ラが参加し,約 70 点が展示,販売された.総て 10 万円以下 遺族が設立したマン・レイ財団所蔵の写真,絵画,彫刻, という設定で写真を買いたい初心者向けの企画であった. デッサンおよびマン・レイ自身の所持品などを一堂に会し アート作品としての写真を積極的に販売していこうという動 2007 年から欧州を巡回している展覧会に,日本展だけに出品 きがさらに明快になってきており,新しい動きを感じた. される約 70 点の作品を加えた約 400 点が紹介された.展覧 書籍に関しては,復刻された写真関係書が目についた. 「光 会はマン・レイの生涯をニューヨーク,パリ,ロサンゼルス, 画」 「寫眞に歸れ」や中平卓馬「来るべき言葉のために」鈴木 再びパリと 4 区分し完成作品とその発想となったモノや多く 清「流れの歌」など続々と復刻,再刊される写真関係書が増 の資料なども展示された.今まで目にする事のなかった多く えた印象であった.写真展の動向と併せて,現在,写真の過 の作品資料があり興味深かった. 去の時代を振り返る時期に来ているように感じられた年で ・「オノデラユキ 写真の迷宮へ」 あった. (東京都写真美術館,7 月 27 日~ 9 月 26 日) 11.2 写真展 フランスに拠点をおき,世界的に活躍するオノデラの初期 ・「時の宙づり―生と死のあわいで」 の代表作「古着のポートレイト」から 2010 年までに制作し (IZU PHOTO MUSEUM,4 月 3 日~ 8 月 20 日) た「真珠のつくり方」「Transvest」「12 Speed」など 9 シリー 写真史家ジェフリー・バッチェン氏によって企画された. ズ約 60 点で構成された写真展であった.オノデラは写真と 欧米のダゲレオタイプや写真付きアクセサリー,メキシコの いう概念にとらわれない自由な発想で次々と作品を発表し続 写真彫刻,日本の湿板写真,アルバムのスナップ写真など日 けており,日常の風景でありながら固定観念を覆すような仕 本初公開のものも含み合計約 300 点の作品や品物で構成され 掛けがほどこされており,それらの多くを同時に見る事がで た展覧会であった.特に歴史の中で見過ごされてきた日常の きたのは印象深かった. スナップに注目し,そのような“忘れられた写真”の意義を ・「手のなかの空 奈良原一高 1954–2004」 考察するものであった.人間の死と写真の関係を考えさせら (島根県立美術館,7 月 30 日~ 9 月 13 日) れ意義深かった. デビュー作「人間の土地」 (1956)から「王国」 (1958) 「ヨー 146 日本写真学会誌 74 巻 3 号(2011 年,平 23) ロッパ・静止した時間」(1967)「スペイン・偉大なる午後」 (1969) 「ジャパネスク」 (1970) 「消滅した時間」 (1975) 「ヴェ ネツィア」(1980’s)そして最近の「空 / 天 / 円」まで初期か 劣も,生も死もなく総ての調和が宇宙の真理であり,それこ そが命の起源だという考えを,森で起こる現象を通して表現 した作品展であった. ら現在に至る見応えのある作品約 500 点が一堂に会し年代順 今森光彦「ニッポンの里山」(キヤノンギャラリー銀座,5 に 50 年に渡る仕事の全貌を解説とともに分かりやすく展示 月 27 日~ 6 月 2 日,他に大阪,名古屋でも開催)は,35 年 し,その作品の魅力をあます事なく伝えられた素晴らしい写 にわたって琵琶湖周辺の里山を撮影し続けた今森氏が日本列 真展であった. 島の北から南までの里山を撮影することで“比較里山学”と ・「陰影礼賛」 して美しい風景,そしてその土地の中に生きる人間や動物の (国立新美術館,9 月 8 日~ 10 月 18 日) 姿を捉えたものであった. 5 つの国立美術館所蔵の中から厳選した 100 作家 170 点の 伊沢正名「キノコの世界~森の循環~」(ペンタックス 国内外の作品で構成された展覧会である.作品は写真のみで フォーラム,5 月 26 日~ 6 月 7 日)は,キノコやコケなど森 はなく絵画,版画,映像なども含み,制作年代も西洋近世か の中の微小な被写体を中心に捉えたものであり,作者は死骸 ら現代までと幅広かった.テーマを「影あるいは陰」 「具象描 や糞も生物社会では新たな命の誕生と永遠の命の循環に欠か 写の影と陰」「カメラがとらえた影と陰」「影と陰を再考する せないものであり森の生態系は動植物と菌類(キノコ)が密 現代」に分けられ,視覚芸術の中で「影」と「陰」がどのよ 接な関係により作り上げた生物社会の姿であると伝えてい うに扱われ,いかなる表現を生み出したかを探っていた.全 た. 体を見る事によって,写真における「影」と「陰」を熟考で きる展覧会であった. ・「女神たちの肖像 ファッション写真展 モードと女性美の軌跡」 (神戸ファッション美術館,10 月 21 日~ 1 月 10 日) 約 40 名の写真家による約 80 点の写真作品により約 100 年 大山行男「樹海」(富士フイルムフォトサロン,5 月 28 日 ~ 6 月 3 日)は,1976 年から富士山を,さらに 1993 年から は樹海を撮り続ける作者が見せてくれる通常では目にするこ とのできない樹海という別の富士の美しい姿であり,それは 青木ヶ原樹海という恐ろしいイメージとは異なるものであっ た. にわたるファッション写真と 19 世紀から現代までの時代を 今森光彦「里山」~人と自然がともに生きる~(コニカ・ 象徴する衣装により構成した展覧会であった.第 1 章 黎明 ミノルタプラザ・ギャラリー B & C,6 月 1 日~ 6 月 22 日) 期,第 2 章 黄金期 I,第 3 章 黄金期 II と時代順に分け展 は,高山では暮らせない雑木林や田んぼにしか住む事もでき 示することで,それぞれの時代に描き出された女性美の変遷 ない生物は人間と共存することでしか生きていけず,その土 を見ることができた.実物の衣装と写真の中の衣装を比較し, 地に人間も暮らし共存している美しさを伝えるものであっ 写真のもつ力を改めて感じることができる写真展であった. た.それが作者の考える里山の姿であった. 11.3 東京写真月間 2010 「森の呼ぶ声」(オリンパスギャラリー東京,6 月 3 日~ 6 第 15 回を迎えた「東京写真月間 2010」が「東京写真月間 月 9 日,他に大阪,京都でも開催)は, 〈風景写真〉編集長・ 2010」実行委員会と社団法人日本写真協会,東京都写真美術 石川薫のプロデュースによる 4 人展で,窪田諭人,辰野清, 館の主催,さらに外務省,環境省,文化庁,東京都,タイ王 深澤武,福田健太郎が選出された.石川氏の意図は“多様性” 国文化省の後援,その他写真関係を中心とした企業等 24 社 であり,視点,地域,表現方法の全く異なる作品が提示され の協賛,タイ国政府観光庁をはじめとして他に 2 社の特別協 た.窪田諭人「紀伊山地・聖なる森へ」は吉野熊野の水と木々 賛,カメラ記者クラブ他 2 社の特別協力を得て,6 月 1 日の の美しい森を捉えていた.辰野清「生きつぐ森」は一見動き 「写真の日」を中心に開催された. のない森が実は長い時間をかけて命を継承し生き継いでいる 今回の国内展の企画は「森はふるさと―生物多様性の恵み ことを森から感じ取り表現していた.深澤武「亜熱帯~西表 ―」 (“Forest in Japanese” —Blessings of Biodiversity—)であっ 島~」は那覇から南西に 430 km の八重山諸島で,本土の森 た.ここ数年は人間を中心とした企画で歴史的視点,空間的 とは全く異なる亜熱帯林の美しい森の姿を見せてくれた.福 視点,大都市圏での文化や暮らし,そして昨年は旅を通して 田健太郎「いのちの森」は優しさや厳しい自然界の現実を水, 人間を考える試みであったが,2010 年は一転して自然に目を 木々,命の循環を通して捉え,生きることの素晴らしさを教 向けたテーマとなっていた.2010 年が国連の定めた「国際生 えてくれる森を表現していた. 物多様性年」であり,10 月には名古屋で「国際生物多様性年 今回で 7 回目を迎える「アジアの写真かたち」はタイの写 第 10 回締約国会議」が開かれることが影響したようである. 真家による作品が取り上げられた.タイはインドシナ半島と このテーマは,人類の「ふるさと」としての森を考えること 一部マレー半島の北に位置し,国王を象徴として敬う立憲君 であり,国土の約 70%が森林に覆われた日本の各地の森で命 主制の王国で,国民の大半がタイ人で殆どが敬虔な仏教徒の を育む姿,その恵みを捉えるものであった. 国である.長い歴史をもつ王朝時代の伝統を受け継ぐ古典舞 前田博史「命の起源」 (エプソンイメージングギャラリーエ 踊,工芸品,寺院など多くの文化が受け継がれている一方, プサイト,5 月 21 日~ 6 月 3 日)は,1992 年から四国山地 アジアを代表とする経済大国でもある.今回は 2007 年東川 の原生林をフィールドとして撮影を続けてきた前田氏の優も 町フォトフェスティバルで国際作家賞を受賞した写真家であ 2010 年の写真の進歩 りキュレーターでもあるマニット・シーワニトップ氏が選出 した13名の写真家及びアーティストによる「Thai Photography 147 価された. ・功労賞:故・平木収 NOW―多様性と挑戦―」が開催された.シーワニトップ氏の 2009 年 2 月 24 日に 59 歳で急逝した平木氏は 1980 年頃か コンセプトは 1960 年頃から現代までの工業化,インターネッ ら写真評論活動を展開し,写真雑誌で執筆を行うと同時に日 トの浸透などで政治,社会,文化,宗教,生活などの面でタ 本初の写真部門をもつ公立美術館である川崎市民ミュージア イ社会に起きている総てを伝え,日本と相互に深く理解しあ ムの学芸員として準備段階から関わり,多くの先駆的な写真 おうというものであった. 展を企画制作し写真界に刺激を与えた.また 1981 年に東京 「Thai Photography NOW Part-I」(銀座ニコンサロン,5 月 綜合写真専門学校の非常勤講師を皮切りに 2005 年に九州産 26 日~ 6 月 8 日)はこの 40 年で工業化に成功し近代化した 業大学の教授に就任するまで幅広く多くの専門学校,大学で タイに起こった問題を写真家・アーティストにより歪みと偏 写真教育に尽力された.これらの活動が高く評価された. りなく捉えた写真展であった.内容は裏町で生活する貧しい ・功労賞:森山眞弓 人々,外国人労働者,不穏な政治状況,性転換者のアイデン 1955 年,ニューヨークの日本カメラ・センターの設立に参 ティティの問題,廃墟化していく繁栄の後などである.出展 画した一人であり,国産カメラの海外進出にあたり大きな役 者はキュレーターのシーワニトップ,スラット・オーサターヌ 割を果たした.また国内では夫君・森山欽司氏の亡き後 1987 クロ,チャムニ・ティップマニー,オーム・パンパイロート, 年より日本写真機検査協会(後に日本写真機光学機器検査協 マイケル・シャオワナーサイ,アヌソーン・ジャルーンスック, 会,現・日本カメラ財団)理事長に就任し,粗悪品の輸出を イットサレート・スッティシリ,タティヤ・ウドームサワット, 事前に防止する事に務め,国産カメラの評価を高めた.検査 ピヤタット・ヘームマタットの 9 名. 業務終了後は,写真・映像文化の普及という文化事業に務め 「Thai Photography NOW Part-II」 (リコーフォトギャラリー, 5 月 26 日~ 6 月 6 日)は国内や欧米で活躍する斬新なモチー フやアート感覚で作品制作をする写真家 4 名が紹介された. られている.日本のカメラ産業と写真文化振興の両面に渡る 発展に寄与された功績を高く評価された. ・学芸賞:石黒敬章 今回のキュレーターでもあるシーワニットプームは消費主義 石黒氏の古写真研究の成果は,学術的なものから親しみや や社会情勢を風刺する作品を提示した.マイトリー・シリブー すいものまで幅広い数多くの出版物で知る事ができる.氏の ンは人間本来の平等主義の実現を目的とした作品活動を示し 研究は父君・敬七氏から受け継いだ数万点にのぼる古写真 た.ダーオ・ワーシックシリは「タイらしさ」を捉えた微笑 と,その周辺資料をベースにしたものである.2009 年に出版 ましい作品を出品していた.ウォラナン・チャチャワンティ された「幕末明治の肖像写真」にはこの時代に活躍した著名 パーコーンは会が主義的技法を施し,タイの美しい景観を伝 人 146 名が登場し,明治の人々の輪郭がまた明確となった. えるものであった. 二代にわたる古写真研究が高く評価された. 「Thai Photography NOW Part-III」(PLACE M,5 月 31 日~ ・学芸賞:金子隆一 6 月 11 日)では 2 人の写真家が紹介された.スラット・オー 直接の契機となったのは,2009 年に出版された「日本写真 サターヌクロは社会の急激な変化で消えゆく一般庶民の暮ら 集史 1956–1986」である.これは氏の 2 万冊を越える写真集 しを記録した.特にその典型として「水辺」を中心とした生 コレクションから選出された 41 冊が紹介されている.また 活様式を捉えていた.ガムトーン・パオワッタナースックは 金子氏は 1990 年に東京都写真美術館専門調査員に就任以降 バンコク周辺の仏教寺院に見られる派手な装飾の独特な寺院 手がけた多くの写真展や「日本近代写真の成立」(1987 年) 建築様式を捉え,信仰の中心となる寺院なのか遊園地化して いないかという問題を提起していた. 「日本写真協会賞」は写真文化の国際交流や写真界への貢 から現在に至る多くの出版物も評価された.「写真とは何か」 「写真の歴史とは何か」という根源的な問題に対する氏の歴史 に対する誠実で精緻な検証と啓蒙の姿勢が高く評価された. 献,功労のあった個人や団体,写真作家活動や写真研究活動 ・作家賞:大山行男 において顕著な業績を残した写真家や研究者,将来を嘱望さ 1972 年から日本各地を放浪しながら蒸気機関車の撮影を れる新人写真家に対して贈り表彰するものである.その「日 主とした写真活動を開始した大山氏であるが,1990 年以降, 本写真協会賞受賞作品展」 (富士フイルムフォトサロン,5 月 被写体を富士山のみにしぼり富士と対峙して写真活動を続け 28 日~ 6 月 3 日)が開催され,表彰式が 6 月 1 日に笹川記念 ている.富士山は日本人を魅了し,多くの写真家が挑む被写 会館で行われた. 体であるが,大山氏は独自の富士を表現してきた.また富士 ・功労賞:多田亜生 山麓に分け入り青木ヶ原樹海という未知の領域までも魅力的 岩波書店で長年にわたり美術書の編集を行い,中でも多く な作品に仕上げている.妥協を許さず制作に打ち込む生き様 の素晴らしい写真集を世に送り出した.写真集には濱谷浩「地 の貌・生の貌」,石元泰博「伊勢神宮」をはじめ海外の写真家 は作家賞にふさわしいと評価された. ・作家賞:北島敬三 も含め多くの写真家の写真集を手がけた.また昨年,世田谷 2009 年は氏の長年の活動を明確に見る事のできた年で 美術館を皮切りに各地美術館で開催された写真展「日本の自 あった.スナップショットを集大成した「北島敬三 1975– 画像」の企画もあわせて写真界に貢献してきた業績が高く評 1991」(東京都写真美術館)や大型カメラによる作品「THE 148 日本写真学会誌 74 巻 3 号(2011 年,平 23) JOY OF PORTRAITS」(ラットホールギャラリー),都市風景 11.4 出版 シリーズ「PLACES」展(フォトグラファーズギャラリー) ・写真集「Storm Last Night」津田直,赤々舍 により氏の 35 年の軌跡が浮かび上がった.スナップショッ 約 1:3 のパノラマサイズで横位置のカラー写真による作 トから大型カメラへ,人物から均質な都市風景シリーズへと 品である.撮影地はアイルランドであり,荒涼とした海や土 作風を変えてきたが,それらは突き詰めた末の考え抜いた転 地,古代のものであろうか石の建造物などの写真である. 「古 換であり,その総ての活動が評価された. 代人は何を思想したか」という問いを胸に旅をして捉えられ ・作家賞:立木義浩 た作品である.風と波の音だけが聞こえるような静かな風景 広告や出版の仕事をしながら,1970 年代から“女”写真, に悠久の時間が感じられる写真集である.津田氏の古代を巡 その後“家族写真”,震災後の神戸の人々を撮影した作品と幅 広いジャンルの写真集を出し,また雑誌や写真展でも多くの 作品を発表してきた.また北海道東川町が主催する「写真甲 る旅は終わりを迎えていないということだ. ・写真集「コロナ」石川直樹,青土社 10 年以上の歳月をかけて,同種の言語と共通の文化を有し 子園」の審査委員長を 15 年間務め,若い世代に写真を見せ, ており「見えない大陸」と呼ばれているポリネシア・トライ 語り続けてきた.これら活動に加え,プロとしての仕事の合 アングルを旅して制作されている. 「コロナ」は皆既日食の時 間に写真愛好家として日常のスナップショットによる最近の に見える太陽の淡い光であるが,コロナが見える瞬間を「見 作品群も併せて氏の活動すべてが評価された. つめ見つめ返される瞬間」と捉え,その瞬間にこそその先の ・新人賞:笹岡啓子 本当の世界を発見できるという考えを象徴的に表したタイト 写真集「PARK CITY」に対して与えられた.2004 年から継 ルであり,島を発ち海へ乗り出した者だけに見える「見えな 続的に制作,発表されてきたのが「PARK CITY」であり,氏 い大陸」を可視化した作品である. の出身地である広島を撮った 100 点の黒白写真で構成されて ・写真集「ニライ」染谷学,冬青社 いる.見るものは作品を熟考することを求められ,広島の 琉球の島々では海の彼方にニライカナイという人間界とは 「今」を凝視するために制作されている.地道に対象と向き合 別の世界があり,そこには幸福や豊穣をもたらす神がおり同 う制作姿勢と今後に期待され,評価された. 時に悪しきものや災いをもたらすものもおり,死者の魂が向 ・新人賞:藤岡亜弥 かう所でもあるという.しかし作者は,生と死は解け合って 写真集「私は眠らない」に対して与えられた.この写真集 今の時間を作っており,今生きる人間界そのものにニライカ は既存の写真集とは異なる.身近な人々や見慣れた風景のス ナイを見ようとしている.撮影地は沖縄,鹿児島,台湾,フィ ナップとして対象を冷静に記録したのち,それらを再構成し リピン,インドネシアであるが,それらが渾然一体となり一 て,自分との関わりを見直し,新たな世界を構築している. つのニライカナイという世界を表現している. 見て伝わるというより見て感情を揺さぶられるという文学性 ・写真集「神様 OH MY GOD!」小林伸一郎,日本カメラ社 に感じる新しい写真芸術の方向性を評価された. 北海道から沖縄まで日本全国津々浦々にある,様々な宗教 〈「写真の日」記念写真展・2010〉(新宿パークタワー ギャ の少々摩訶不思議,ユニークな 199 の神様や神社仏閣をまと ラリー 3,5 月 26 日~ 5 月 30 日)は全国から 868 名,2180 めたものである.この写真集を見ると意外な所にある独創的 点の応募があった.作品は自由作品部門とネイチャーフォト な神仏像に,日本人がそれぞれ独自の宗教観,信仰をもって 部門に分けられ,その両方から外務大臣賞 1 名(「至福の時」 いるのを感じる.改めて日本は多神教であり,日本人の宗教 有田勉)が選ばれた.その他は両部門から最優秀賞が各 1 名 観というものを考えさせられた. (自由作品部門「真昼」近藤洋,ネイチャーフォト部門「氷 ・写真集「KAWA」梶井照陰,フォイル 花」海老原より) ,優秀賞(各 5 名),準優秀賞(自由作品部 2004 年から 2010 年まで 7 年間をかけて,世界と日本の各 門 4 名,ネイチャーフォト部門 5 名),レディース賞(各 5 地の川,滝などを巡り制作された作品でまとめられた.しか 名),協賛会社賞(各 63 名),入選(各 80 名)が選ばれ,合 しこれは通常概念の川を写し出したものではない.地球自体 計 318 点の作品が展示された.これらの作品は 9 月まで全国 の表層にカメラで触れているかのようだ.水,風,光,大地, 4 カ所で巡回展示された. 生物などを撮影することで作者が自然界と一体化していくよ 恒例の〈1000 人の写真展「わたしのこの 1 枚」〉 (新宿パー クタワー ギャラリー 3,5 月 22 日~ 5 月 25 日)は 15 回目を 迎え,写真の愛好家からプロまで多くの参加者があった.個 人出品に加え,グループによる展示も増えている. さらに昨年に続き「見つけた!撮った!ワンダーランド」 うな感覚が私には受け取られ,印象に残った. ・写真集「over the silence」JUN IMAJO,タイフーン・ブッ クス・ジャパン スウェーデン,ドイツ,エストニアの 3 カ国をそれぞれ 1 冊にまとめ,その 3 冊併せて一つの写真集となっている.淡 と題して,みどりの I プラザで“こどもの視線,おとなの視 い色合いのカラー写真による日常の冬景色の中に,広がるや 線”を楽しむ企画も行われた. 「こどもの目線」写真展(5 月 わらかい光,澄んだ空気,暖かい人間関係を通して,しっか 29 日~ 6 月 12 日),「こどもと読書」フォトコンテスト入賞 りと重厚な空気感,存在感を表現した印象深い写真集である. 作品展(5 月 29 日~ 6 月 12 日),「緑と水と人の日本-ここ ・写真集「Made in Japan」社団法人日本広告写真家協会,マ ろの風景写真」(6 月 15 日~ 6 月 26 日)であった. ガジンハウス 2010 年の写真の進歩 この写真集は,日本広告写真家協会の創立 50 周年,社団 化 20 周年を記念したものである.Made in Japan というテー マで 2008 年から準備が始まっていた.作品は 373 点集まり 149 前年 30 作品から減少した. 12.2 フィルム 富 士 フ イ ル ム は,映 画 用 カラーポジティブフィルム の 205 点を選出,それとは別に各専門分野で活躍する諸氏に作 「ETERNA-CP DI Type3514」及び「ETERNA-CP XD Type3523」 品を依頼して制作された.現在活躍する写真家による作品で と感度 E.I.250 で高彩度・高コントラストを実現したデーラ Made in Japan とは何かを問いかけている. イトタイプの映画撮影用カラーネガフィルム「ETERNA Vivid ・写真集「通学路」プランクトン 250D(タイプ 8546,8646)」,そして,フィルムアーカイブ 47 の各都道府県出身あるいは幼少期にそこで過ごした写 の機運が高まる中,デジタルセパレーション用黒白レコー 真家にその土地の通学路の撮影を依頼し,都道府県に 1 冊の ディングフィルムである「ETERNA-RDS(タイプ 4791)」を 「通学路」の写真集を 4 回に分けて出版する企画をプランク 発売し,ETERNA シリーズラインアップを拡充した. トンが企画し,刊行した.第 1 回は浅田政志氏 (三重県),鈴 コダックは,VISION3 シリーズとして,タングステンタイ 木理策氏 (和歌山県) ,横浪修氏 (京都府)など 13 名の写真 プの映画撮影用カラーネガフィルム「VISION3 200T(タイプ 家による作品が発売された.日本全国を網羅し,すべて異な 5213,7213)」とフィルムレコーディング専用インターメディ る写真家による同テーマで別々の写真集にするというのは興 エイトフィルムの「VISION3 カラーデジタルインターメディ 味深い. エイトフィルム(タイプ 5254,2254) 」を発売した. デジタル全盛の中,両メーカーとも映像表現領域の拡大を 12. 映画 目的に,最新の技術を導入した新製品を発売し,銀塩フィル 永井 悟(富士フイルム) ムの高品質化,デジタル技術との融合を図り,存在感を示し た. 12.1 概況 〈国内概況〉 12.3 撮影機材 デジタルシネマカメラでは,ナックイメージテクノロジー 2010 年の日本国内における映画興行収入は,洋画・邦画合 からスーパー 35 mm サイズの単板 CMOS センサー,PL マウ わせて 2207 億円(前年比 107.1%)と,過去最高を記録した. ント採用の「ALEXA(アレクサ)」(ARRI 社)が発売・レン 入場者数 1 億 7435.8 万人(前年比 103.0%)で興行収入に比 タルを開始し,同時に ARRI 社とフジノン社が提携し開発し べ増加率は微増だが,入場料金が通常より 300 ~ 400 円高い た PL マウントズームレンズ(45–250 mm/T2.6,18–80 mm/ 3D 映画のヒットにより,平均入場料金が前年比 104%の 1266 T2.6)の「Alura(アルーラ)」も発表・発売された. 円に上がり,全体の興行収入を押し上げた. ソニーからは,スーパー 35 mm サイズ相当の単板 CMOS 公開作品数 716 本(前年より 46 本減)となり,5 年連続で センサー,PL マウント採用の「PMW-F3L」,F35 と HDCAM 減少している.邦画・洋画の割合は,邦画 408 本・洋画 308 SR をドッキングしたカムコーダー「SRW-9000PL」,パナソ 本,興行収入は邦画 1182 億円・洋画 1025 億円で,昨年に続 ニックからは,4/3 型 MOS センサー搭載の AG-AF105,アス き,邦画の割合が高い状況にあるが,洋画の構成比が増加し, トロデザインからは撮影から収録まで 4K 非圧縮で揃えた 4K 100 億超の大作(3 作品)もあったことで興行収入の差は縮 カメラシステムが発表・発売された.2007 年に登場し,多く まった. の作品で実績のある RED Digital Cinema 社の「RED ONE」を 洋画 TOP3 は,2009 年 12 月から公開され大ヒット作品と なった「アバター」と「アリス・イン・ワンダーランド」, 各メーカーが追従する形となった. HD カメラは,パナソニックからフル HD1/3 型 220 万画素 「トイ・ストーリー 3」の 3 作品で各作品興収 100 億円を突 イメージセンサーを搭載した「AG-HPX375」,ソニーからは 破した.邦画 TOP3 は, 「借りぐらしのアリエッティ」, 「THE フル HD の XDCAM 放送メモリーレコーダー「PMW-500」が LAST MESSAGE 海猿」, 「 踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤ 発表・発売された. ツらを解放せよ」の 3 作品で各作品興収 50 億円超となった. フィルム撮影機材としては,アメリカ・ヨーロッパで普及 スクリーン数は,微増に止まり,昨年から 16 増えて 3412 している 3 パーフォレーション(通常,フィルム 1 コマは 4 となった.そのうちシネコンのスクリーンシェアは 81%(前 パーフォレーションで撮影)仕様の 35 mm フィルムカメラ 年比 102%)であった. 文化庁は,日本映画・映像水準の向上,日本映画の顕彰, 人材育成,映画フィルムの収集・保存の推進を目的とした平 成 22 年度の事業予算を約 3.8 億円とした. 〈米国概況〉 (アリカム ST,アリカム LT,435)が三和映材社,ナックイ メージテクノロジー社でレンタル開始した. シネレンズは,昨年に続き,キヤノン EOS 5D MarkII・EOS 7D をはじめとした,写真用デジタル一眼レフカメラでの撮影 が増加し,PL マウントだけではなくキャノン EF マウントに 米国の映画興行収入は,2009 年同様に 100 億ドルを突破 も対応するレンズ(駒村商会 Schneider Cine-Xenar,ノビテッ し,106 億ドル(前年比同等)であった.TOP3 作品は「ア ク uni optics Kenji Suematsu,ナックイメージテクノロジー バター」,「トイ・ストーリー 3」,「アリス・イン・ワンダー Zeiss Compact Prime,富士フイルム(FUJINON)Zoom Lens) ランド」で,興収 1 億ドル以上の作品は,合計 25 作品あり, が充実した(映テレ,701,14–23). 日本写真学会誌 74 巻 3 号(2011 年,平 23) 150 12.4 デジタルシネマ 新規 9 案件について審議を行い,保存性評価方法の 4 案件が 2010 年は,全世界でデジタル上映対応が更に急進し(前年 FDIS(国際規格最終原案)に進むことが決定した.WG18/ 比 122%増加),世界で約 15 万と言われている映画スクリー JWG20/22/23 会議が,4 月(クパチーノ / 米国)と 9 月(ケル ンのうち,36,000 スクリーン(北米:16,522,北米以外:19,686) ン / ドイツ)に開催され,改正 7 案件,新規 3 案件について 以上がデジタル上映に対応し,近く,全世界の 1/4 を占める 審議を行った. 13.3 規格発行,改訂等の動き と思われる. デジタル上映対応スクリーンの比率は,国内で約 29%(約 写真機器分野の ISO 1222,ISO1754 が,誤記修正等の改訂 3,400 スクリーンの内,約 1,000 スクリーンがデジタル上映対 が 実 施 さ れ て 発 行 さ れ た.イ メ ー ジ ン グ 材 料 分 野 の 応),北米では約 40%(約 40,000 スクリーンのうち,約 16,000 ISO18901,ISO18911 が,技術内容及び参考文献の更新等の スクリーンがデジタル上映対応)となっている.国内では, 改訂が実施されて発行された. TOHO シネマズが 2011 年に全てのスクリーン(545 スクリー ン)をデジタル化すると発表した. また,3D 上映に対応した全世界のデジタルスクリーン数 は,2009 年の 8,979 スクリーンに対し,2010 年は 21,936 ス クリーン(前年比 144%増加)へ大きく増加し,全デジタル スクリーンの 60%を占める. 今後もフィルムからデジタルへの移行は,急速なペースを 保って進んで行くと考えられる. 国家規格の JIS では,使用や生産が無くなったこと,及び 関連JISが既に廃止されていることにより3件(K7616,K7643, K7651)が廃止された. 2010年に発行, 廃止及び確認されたISO (TC42: Photography) 規格及び技術仕様書(TS: Technical Specification)並びに JIS (B:光学機械,K:写真材料・測定方法,Z:放射線関係)を 以下に示す. 13.3.1 ISO 規格 1)発行された ISO 規格及び技術仕様書(4 件) 13. 工業規格 ・ ISO 1222:2010 Photography—Tripod connections 酒井伸夫(写真感光材料工業会) 13.1 概要 規格制定・改正の活動が活発に行われているのは,前年同 様,ISO (国際標準化機構)/ TC42 (Photography)のWG (Working Group)5(イメージング材料の物理性と保存性),WG18(デ ジタルスチル画像),JWG(Joint Working Group)20(デジタ ルスチルカメラの色特性)/ 22(色管理)/ 23(デジタル画像の 拡張色空間)等の分野である. 発行されている写真関係の国際規格の ISO[TS(技術仕様 ・ ISO 1754:2010 Photography—Cameras using 35 mm film and roll film—Dimensions of picture sizes ・ ISO 18901:2010 Imaging materials—Processed silver-gelatintype black-and-white films—Specifications for stability ・ ISO 18911:2010 Imaging materials—Processed safety photographic films—Storage practices 2)廃止された ISO 規格(6 件) ・ ISO 1222:2003, ISO 1222:2003/Cor 1:2003, ISO 1754:1998, ISO 1754:1998/Cor 1:2002, ISO 18901:2002, ISO 18911:2000 3)確認された ISO 規格(14 件) で,173 件,国家規格の JIS(日本工業規格)では,B 分野 ・ ISO 732:2000, ISO 1007:2000, ISO 1012:1998, ISO 1230:2007, ISO 2721:1982, ISO 3943:1993, ISO 5989:1995, ISO 6846:1992, (光学機械)9 件,K 分野(写真材料・測定方法)4 件,Z 分 ISO 12234-2:2001, ISO 17321-1:2006, ISO 18909:2006, ISO 書)及び TR(技術報告書)を含む]は,ISO/TC42(写真) 野(放射線関係)1 件である.国際規格(ISO)は,ISO の 18916:2007, ISO/TS 22028-2:2006, ISO/TS 22028-3:2006 Website(http://www.iso.org/iso/home.htm)の,Standards 13.3.2 JIS 規格 development > List of ISO technical committees > TC42 から 1)発行された JIS 規格,確認された JIS 規格 規格番号及び規格名称の検索が可能である.また,国家規格 (JIS)は,日本工業標準調査会の Website (http://www.jisc.go.jp/) で検索・閲覧が可能である. 13.2 ISO 全体会議・専門委員会会議 ISO/TC42(写真)全体会議は,今年度の開催はなかった ・ 該当なし. 2)廃止された JIS 規格 ・ K7616:現像処理済み写真感光材料中の残留チオ硫酸塩の 試験方法―よう素・アミロース法,メチレンブルー法及び 硫化銀法 (次回第22回は,2011年6月にロチェスター/米国で開催予定). ・ K7643:写真―未処理写真フィルム及び印画紙―保存方法 専門委員会会議は,WG5 会議が 5 月(ロチェスター / 米国) ・ K7651:写真―濃度測定―第 1 部 用語,記号及び表記方法 と 9 月(バルセロナ / スペイン)に開催され,改正 2 案件,
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