日本的なCEOの特徴とは? - Strategy

この文書は旧ブーズ・アンド・カンパニーが PwCネットワークのメンバー、Strategy& になった
2014 年 3 月 31 日以前に発行されたものです。詳細は www.strategyand.pwc.com. で
ご確認ください。
日本的なCEOの
特徴とは?
世界2,500社調査からの示唆
著者:福島 毅
ブーズ・アンド・カンパニーでは、10 年以上にわたり「世界の
の 経 済成長を牽引する勢力は先 進国から新興国 へとシフト
トップ企業の CEO 調査」を行っている。CEO の在任期間と業
しており(図表1参照)、業種を問わずグローバルな視点から
績推移、選定方法、就任以前の実務経験の内容などに関する
経営戦略を検討することはもはや当たり前の時代である。戦
データをもとに、CEO の特徴と業績との相関性、地域ごとの
略を考えるうえでの前提も、2000 年代前半まで主 流であっ
特徴、事業環境の変化による影響などについて、世界のトップ
た日本・米国・欧州などの先進国市場での事業拡大を実現す
企業約 2,500 社(うち日本企業は 230 社∼ 250 社)を対象にし
るためのグローバル・スタンダードを巡る覇権争いという視
た分析に毎年取り組んでいる。
点から、各社 がそれぞ れ軸 足とする母国市場での 事 業 再 構
産 業 のグロー バ ル 化 がますます進 展 するなかで 、企 業 が
築と成長著しい新興国市場での事 業 機 会の獲 得という二つ
直面する競争の構図は、グローバル・スタンダードを追求して
の目標の同時実現という視点へと変わってきている。
勝 ち 組か負け組かを競うという画 一 的 なものから、各 国・地
実際に弊社がコンサルティング・プロジェクトを通じて支
域ごとの特性を捉えてタイムリーに事業展開ができるかどう
援するクライアント企業の経営戦略の策定においても、大胆
かが問われるという局 面に変わりつつある。このような現 状
な M& A もいとわずに素早く業 界一 位・二位の座を勝ち取る
認識をもとに、日本企業の CEO が置かれた状況を客観的に
ための戦略作りというよりは、金融危機に伴う原点回帰の流
捉え、他 地 域との 比 較 分 析を行うことで、これから日本 企 業
れの中で自らの軸足を再定義し、将来の競争状況に対する仮
がグローバルな競 争を展 開していくための 要 件が浮かび上
説 的な見 解やシナリオをもとに事 業モデルを作り直 すため
がってくる。
の議論により重きを置くケースが圧倒的に増えている。将来
の市場成長率を 予 測して緻密に事 業 計画を固めるというよ
CEO を取り巻く環境の変化
りは、将来の変化に対してより柔軟に対応できることが重要
であり、客観的な視点からの分析に基づいて成長シナリオを
2008 年秋のリーマンショックをきっかけとして、世界の金
想定し、自らの特徴に対する深い理解に基づいて経営資源を
融市場の動向や事業環境や規制・制度が大きく変貌し始めて
機動的に配分していくことが成功要件となっている。
いることもあり、CEO を取り巻く環境も変化している。世界
世界のトップ企業における CEO 選定では、合併・統廃合に
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M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 2 4 2 0 1 3 S u m m e r
特集 ◎ CEO とリーダーシップ
福島 毅(ふくしま・たけし)
([email protected])
ブーズ・アンド・カンパニー 東京オフィスの
プリンシパル。金融サービス業、ITサービ
ス産業を中心に、15 年以上にわたり国内
外の大手企業とのプロジェクトを手がけ
ている。日本のみならず、アジア、欧米の
主要各国での事業戦略の立案、ならびに
組織・制度・業務プロセスの設計に顧客企
業とともに実践的に取り組んでいる。
図表1 : 世界各国の名目 GDP の推移
(10億USドル、1990・2000実績、2010・2020予測)
CAGR
(1990-2020)
123,238
36%
3%
4%
4%
5%
19%
中国
14.4%
19%
アメリカ合衆国
4.7%
9%
5%
日本
2.6%
2010
2020
61,114
39%
39%
8%
26%
14%
1990
0%
1%
3%
5%
2%
1%
2%
35%
6%
30%
15%
0%
2%
1%
5%
2%
1%
4%
2000
5.6%
13.5%
7.1%
6.1%
4.9%
3.6%
8.4%
10.1%
3%
22,262
その他
5.9%
ベトナム
韓国
ロシア
イギリス
ドイツ
ブラジル
インド
0%
32,089
世界計
5%
9%
24%
0%
2%
2%
4%
3%
3%
2%
注:1990-2000年データは統計局;以降GlobalInsightより。2010、2020年の世界の総GDPは、統計局の2005年データおよびGlobal Insightの係数化された予測データを元に算出
出所:統計局、Global Insight
伴う交代や取締役会による解任の割合は年々減少しており、
のニーズへの対応は不十分であり、生産・調達・購買の現地化、
計画されたプロセスに沿って経営のリーダーシップが継承さ
現 地発での商品設 計・規格や研究開発などが必要 不可欠に
れている割 合が 2009 年以 降に激増している(図表 2 参照)。
なっている。本 調査が 対 象としている世界 のトップ企業の国
マクロ的に見れば、企業トップの選定プロセスが整備される
別分布は、日米欧の先進国を中心とした構成から新興諸国の
につれて客観性がより重視されるようになっていること、自
躍進を反映した形に変わってきている
(図表 3 参照)。実際に、
らの 組 織 体質を踏まえて地に足 のついたマネジメントの 実
弊社が手掛けているクライアント企業の成長戦略の実行支援
践が必要になっていることなどが、このような世界的なトレ
プロジェクトにおいても、先進国企業と新興国企業の組み方
ンドの背景に存在していると考えられる。
や現地の事業パートナーとの協業方法など、新興国に関する
また、新興国の経済成長が続き、各国市場における需要が
より具体的な内容の検討テーマが増えている。
多様化していくにつれて、新興国市場での事業戦略に求めら
日本企業の場合、日本市場に対する見方や日本 国 内での
れる要件はより高度になってきている。単に新興国向けに共
経営資源の持ち方を変えていかざるを得ない状況にある。こ
通な商品・サービスを企画して提供するだけではその国固有
れまでのように市場が成長することを無意識のうちに前提に
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図表 2 : 世界のトップ企業の CEO 選定
25%
26%
49%
2000
22%
22%
56%
2001
13%
41%
46%
2002
14%
32%
17%
31%
54%
53%
2003
2004
17%
22%
21%
23%
32%
60%
2005
31%
15%
10% ■ 合併による交代
13%
15%
15%
23%
19%
15%
64%
66%
69%
72% ■ 計画した交代
2009
2010
2011
2012
18% ■ 解任による交代
35%
46%
49%
50%
2006
2007
2008
出 所:ブーズ・アンド・カンパ ニー「2012年CEO 調査」分析
した戦略論ではなく、市場が横ばいで推移または縮小する状
は何であろうか。
況にお いて 売 上や 利 益 をどのように確 保していくのかとい
世界 のトップ企 業 の CEO 調査を通じて、
「年齢」「社内経
う視 点へと発想を切り替えていかなければならない。また、
験」
「海 外経 験 」の三項目が日本企業 の CEO に共 通するユ
今後の成長機会を日本以外の国や地域、とくに中国、アセア
ニー クな 特 徴 であ ることが 明らかに なってい る。これらは
ン、インドなどのアジア各国に求めるケースも激増している。
いず れも 詳 細 な分析を 行わなくとも直 感 的 に「 や はりそう
2011年 3 月の東日本 大 震 災とそれに続く原 発・エネルギー
か」とうなづくことができ、かつ簡単には変わらないことか
問 題という不 幸な 事 態 を契 機に、この 傾 向 はよりいっそう
もしれないが、今後の日本企業におけるマネジメントのあり
強まっている。
方を考えるうえでは安易に見 過ごすわけにはいかない。
このような事 業環 境の構造的な変化の渦中において企業
これまで弊 社では数々の日本企業 のグローバ ル展 開を支
経営の 舵 取りを行う CEO は、これまで以 上に多くの不確 実
援するためのコンサルティング・プロジェクトに取り組 んで
性や複雑さの中で意 思決 定を行わなければならない状 況に
きたが、その過程では必ず各企業に固有な「見えない壁 」に
直面している。また、CEO を支える経営陣の働き方、本社の
直 面することになる。事 業環 境の 構 造 的な 変 化に対応 する
企画スタッフに求められるスキルや資質、各部門・地域の現場
ためには、少なからずこれまでとは異なるやり方や新しい領
と本 社のコミュニケーションなども、このような変化に則し
域 でビジネスに挑 戦していかなけ れば ならない。そ のこと
て相応しいものに進化させていく必要がある。
の 重 要 性 や必 要 性 は 誰 もが 認 識して い るにもかかわらず、
いざそのための意 思 決 定を行う段 階になると、最 終決 定 が
日本企業の CEO の特徴に起因する
「内なる障壁」
先延ばしになったり、すでに十 分な分析がなされているにも
かかわらず 担 当 チ ームに差し戻しに なったりするケース が
では、日本企 業 の CEO にはどのような特 徴 が あるのか。
多発するのである。また、現場が強いことが自らの強みであ
また、業 種を問 わず 海 外企 業との 競 争が増えてい ることを
ることを 認 識してい るのに、最 終 決 定を下す 議 論 では 本 社
念 頭において、彼我の差や違いとして捉えておくべき特性と
の 論 理 が 過 度に強 調されてしまい、現 場を支 援 するため の
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特集 ◎ CEO とリーダーシップ
図表 3 : 世界のトップ企業 2,500 社の地域分布
5%
7%
14%
29%
42%
2000
2%
4%
7%
2%
14%
30%
44%
2001
3% 2%
1%
8%
13%
28%
46%
2002
5%
10%
14%
3%
5%
9%
13%
3%
2%
5%
9%
14%
3%
1%
6%
10%
4%
1%
15%
7%
7%
5%
12%
10%
29%
26%
41%
43%
2003
2004
26%
26%
42%
39%
2005
2006
9%
9%
9%
10%
10% ■ その他新興国2)
7%
6%
6%
8%
8%
7%
■ ブラジル・ロシア・インド
9%
9%
8%
■ 中国
13%
15%
7%
14%
13%
14%
その他先進国3)
9%
12%
25%
23%
22%
20%
20% ■ 西欧
33%
30%
31%
29%
30%
32% ■ 北米
2007
2008
2009
2010
2011
2012
27%
9%
9%
9%
■ 日本
1)
2012年1月1日時点の時価総額ベースで抽出
2)
その他新興国:エジプト、カザフスタン、モーリシャス、メキシコ、モンゴル、ナイジェリア、サウジアラビア、南アフリカ、
トルコを含む
3)
その他先進国:アルゼンチン、オーストラリア、バーレーン、チリ、キプロス、チェコ、香港、ハンガリー、ニュージーランド、ポーランド、韓国を含む
注) 上記区分けは国連開発計画(UNDP)の人間開発指数(HDI: Human Development Index)
( 2012)において、高い指標(>0.788)を3)とし、それ以外を2)とした
出所:ブーズ・アンド・カンパニー「2012年CEO調査」分析
施策が換骨奪胎されてしまうのである。これでは、海外の事
は 必 然 だ が 、本 格 的 に 取り 組 む の は 自 分 の 後 任 からで も
業パートナーには「意 思 決 定が遅い」「誰が責任者なのかわ
大 丈 夫 」「若い世代を中心に進めるほうがよい」「あと数年
からない」という不満や不信が生じ、現地拠 点の社員の士気
間 は現状維持でも……」という声が上がることが多い。まさ
も上がらなくなる。
にこの 世代 の 本 音であり、一つひとつ の主 張には一 理 あ る
このように適切な意 思 決 定がなされない原因を突き詰め
の も 事 実 だ が、このような 認 識 が 組 織 内に積み重 なってし
ていくと、企 業 文化や 組 織 体質、さらには CEO 以下の 経営
まうと、いかに経営トップがグローバ ル 化の旗を振ったとし
陣の 持つ思考回路に内 包される特 質が 要因となっている事
ても組 織 全体の行動にはつながらない。30 歳代の中堅クラ
実 が浮か び上 がってくる。産 業 のグ ロ ーバ ル 化 が 進 展す れ
スからは「うちの本部 長は海 外 をまともに見ていない」「本
ば するほど、このような「内なる障壁 」をいかに乗り越 える
音ではグ ローバ ル 案件 を 避けたい のでは ないか」といった
かが、多くの日本企業にとって現実的かつ切実な問題になっ
諦めの声が出てくるケースもあり、組 織内のエネルギーレベ
ているのではないだろうか。
ルを高めるうえでは大きな障壁となっている。
環 境 変 化 のサイクルが 早くなり「走りながら考える」こと
年齢
が 重 要な 局 面にお いては、往々にして 新しい 視 点 からの 発
日本企業の CEO の年齢は、明らかに世界各国に比べて高い
想転 換 が 求められる。本来であれば世代間の 視 点の 違いを
(図表 4 参照)。海外企業と比べると、日本企業では比較的長
活 かして新しいアイディアを出すべきところが、年 齢 層が 手
い 実 務 経 験を活かした経 営 判 断やより厚 い 人 材 の 層を持つ
厚いほど組 織は保 守 的になり、新しい発 想や 若い世代 の声
ことができるという特 徴が ある一 方で、過 去 の 成 功・失 敗 体
が潰れてしまいが ちである。日本企 業としては、このような
験へのこだわりや組織内の世代間ギャップの影響が大きくな
組 織体質があることを直 視したうえで、これをプラスに作用
りやすくなるというマイナスの側面が生じることにもなる。
させるための 仕掛け、マイナス面を補完するための 仕組み作
日本の大 企業でグローバ ル戦 略に関する議 論を深めてい
りを行うことが、組 織 内の「内なる障壁 」を打破していくた
くと、50 歳 以 上の 経営 幹部層からは「確 かにグローバ ル 化
めの第一歩となる。
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図表 4 : CEO 就任時の年齢
59
59
58
57
56
55
54
54
53
53
52
52
平均 53
52
51
51
50
50
49
48
47
46
45
44
43
42
41
40
日本
北米
その他先進国
西欧
ブラジル・
ロシア・インド
中国
その他新興国
出所:ブーズ・アンド・カンパニー「2012年CEO調査」分析
社内経験
にならない限り、本来は手段であるはずの競合分析が目的と
日本では C E O へ の 内 部 昇 格 が圧 倒 的に多 いことも特 徴
なってしまい、
「できない根拠」や「先送りする理由」を追い求
で あり( 図 表 5 参 照 )、C E O 以 外 の 中 枢ポストにつ いても同
めることになってしまう。
じ傾 向 が あると考 えられる。海 外 企 業にお い ても 内 部 昇 格
どのような組織にも必ず存在する「内なる障壁」には、最終
が 増 える傾 向にあるが 、依 然として日 本 企 業 の 比 率 の 高 さ
的な意思決定の土台となっている当事者の実務経験が社内
が 目 立って いる。内 部 昇 格 が 多く外 部 招 聘 が 少 な いという
に偏重していることに起因するものが多い。これを意識的に
経 営 陣 の 構 成では、
「自社 の 論 理 」を前 提にした意 思 決 定に
矯正するための仕組みをマネジメントのプロセスに組み込む
なりがち なことは 否 定 できな い 。もちろん 、これが 強 みとし
ことは、適切な経営判断を行ううえで極めて重要である。
て 活 きる場 面 は あり、とくに 方 向 性 が 定 まった 段 階 で 抜 群
の 推 進 力が発 揮される事 例も多 いが、変 化 の 局 面を捉えて
海外経験
これまでとは異 なるやり方にチャレンジしていくことには拒
海 外 で の 実 務 経 験を持った 人 が 少 な いことも 、日 本 の 企
否 反応が生じやすい。
業 CEO に共 通する特 徴である( 図 表 6 参 照 )。これは諸 外 国
たとえば、競合他社の動向を分析し経営指標をベンチマー
に比 べて日本 の 市 場 規 模が十 分に大きかったことを考えれ
クすることは、多くの企業が自社の置かれた状況を客観的に
ば 、当 然 の 帰 結 で ある。高 度 成 長 期 以 降 、国 内 で 培 わ れた
捉えるための手段として取り組んでいる。しかし、こうした分
強 みを活かして海 外 展 開することが、多くの日本 企 業にとっ
析から新たな施策の必要性が判明したとしても、自社流の経
て の 勝 ち パターンで あった 。また 金 融 や I T サ ービスなど日
験や 発 想が経 営 陣に染 み ついている場 合は、なかなか方 針
本に固有な制度や日本語に基づいた仕組みでビジネスを行
転 換につながる意 思 決 定ができな い 。際 限 なく他 社 事 例 の
う業 種 では 、国 内ビジネスこそ が 主 軸 で あった 。1 9 9 0 年 代
分 析を繰り返 すばかりで、結 論 はつねに先 送りとなり、企 画
後 半からは、産 業 のグローバル化 の 流 れがより鮮 明になり、
スタッフが疲弊してしまうのである。CEO を始めとする経営
海 外 経 験 の 豊 富 な 人 材を経 営トップに据えるケースも増え
陣が社 内 常 識や他 社 事 例から離れて意 思 決 定ができるよう
ているが、いまだに「 国 際 派 」というレッテルが貼られること
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特集 ◎ CEO とリーダーシップ
も 多く、な かには「 国 内 派 」との 無 用 な 争 い を 生 ん でしまう
役員は、見た目の印象だけが強く増幅された状態で「あの国
例もある。
のことは知っている」
「現場を見てきたらよくわかった」と声
今後はことさら、海外経験を重要視したり国内派・国際派
高に発言してしまうため、本社内には現地拠点の駐在社員の
と区分したりすることは、あまり意味がなくなるのかもしれな
現 場 感とは大きく異 なる共 通 認 識 が形成されてしまうので
い。自らのビジネスの軸足を再定義し、事業モデルを再構築
ある。これが現場と本社の間の「内なる壁」となり、本社は適
していくためには、全体を俯瞰しながら自社の特徴を客観的
切に現場を支援することができず、駐在社員は「( O)お前が
に捉 える能 力が 鍵になる。企 業 経営において海 外経 験 が活
( K )来て
( Y )やってみろ!」と悲嘆に暮れてしまうのである。
きるということは、国内と海外での経 験を比較することで物
事を相対的に捉 える感 覚が 研ぎ澄まされるという点に本質
「日本企業らしさ」を活かす
的な意味がある。ビジネスを進めるうえで海外とのやり取り
が頻繁かつ容易になっている以上、これから先はそのような
このような日本 企 業 の CEO や経 営 陣に共 通する特 徴は、
資質はどのような仕事にも必要であり、日本にいながらにし
産 業 のグロ ー バ ル 化 の 流 れを 捉 えて 自らの 事 業 モ デ ル の
ても努力次第で身につけることができるはずである。
再 構 築に取り組 んでいくうえでは、放っておけばマイナスに
ただし、経営陣の 特 殊な海 外経 験 が組 織内で強調されて
作 用 するも の が 多 い 。とは いえ、C E O や 役 員を急に若 返ら
裏目に出てしまうことには注意しなければならない。新興国
せ たり、外 部 招 聘 や 海 外 経 験にこだわることは 非 現 実 的 で
の日本企業の駐在社員に広く浸透している
「 OKY:オー・ケー・
ある。経 営トップである CEO 個 人 の 特 徴が意 思 決 定スタイ
ワイ」という造語がある。新興国での事業拡大という使命を
ルによくも悪くも影 響することは、日本に限らずどこの 組 織
帯び て現 地に赴 任したもの の、仕事に対 する価 値観が 根本
にも 共 通 で ある。生 え 抜 き の 役 員 や 社 員 が 多く、組 織 内 で
的に異なる事業パートナーとの意思疎通に日々苦労し、日本
のワイガヤ文化(一体感の醸成)を重視するという組織体質
にある本 社の意 思 決 定の 遅さに悩まされるのが、日本企 業
が強 いことの 意 味を十 分に理 解したうえで、
「日本 企 業らし
の 駐 在 社 員の常である。日本 からは新興 国ビジネスの 理 解
さ」を活かす形で取り組みを進めていくことが重要になる。
を深めるべく次々と経営陣が現 地に出張してくるが、往々に
ある日本企業と米国企業との事業統合の支援に取り組ん
して一週間弱の現地滞在であり、取引先とのやり取りも表敬
だ際に、両社のマネジメントの違いが鮮明に浮かび上がった
訪問の域を出ないまま帰国の途に就くことになる。帰国した
ことがある。たとえば、企画・財務といった本社機能が両社に
図表 5 : CEO 就任前の実務経験
3%
22%
38%
37%
44%
36%
32%
■ 外部招聘
25%
内部昇格:
平均71%
68%
86%
88%
93%
97%
78%
62%
63%
56%
64%
68% ■ 内部昇格
71% ■ 他企業経験あり1)
81%
75%
他企業経験なし:
平均25%
32%
14%
日本
北米
その他
先進国
西欧
ブラジル・ 中国
ロシア・インド
その他
新興国
日本
北米
12%
その他
先進国
西欧
29% ■ 他企業経験なし
19%
7%
ブラジル・ 中国
ロシア・インド
その他
新興国
注) 本社所在地域別、2012年データ。合併による退任と、暫定的に就任したCEOを除く
1)
他企業経験とは、CEO就任以前にCEOとして任命された企業以外での業務経験の有無を指す
出所:ブーズ・アンド・カンパニー「2012年CEO調査」分析
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図表 6 : CEO 就任前の海外経験
44%
40%
55%
83%
■ 本社と異なる地域
での職務経験なし
85%
56%
経験あり:
平均45%
60%
45%
47%
38%
17%
日本
53%
62%
■ 本社と異なる地域
での職務経験あり
15%
北米
その他先進国
西欧
ブラジル・
ロシア・インド
中国
その他新興国
注) 本社所在地域別、2012年データ。合併による退任と、暫定的に就任したCEOを除く
出所:ブーズ・アンド・カンパニー「2012年CEO調査」分析
おいてそれぞれどのような考え方で設計・運営されているの
最適な方法を作り上げていくことになる。いわゆる経営戦略
かを詳 細に明らかにするために徹 底 的 なヒアリング分 析を
論に基づいた検討というよりは、現在の意思決定プロセスに
行った際に、米国企業のほうは、あくまで役員クラスと話をし
潜む罠を見出し、具体的な対策を講じていくことが出発点と
なければ業 務 の 全 貌は掴 めず 、課 長クラスでは個 々 の 担 当
なる(囲み参照)。
実務に関する理解しか得られなかった。ところが日本企業の
ほうは、役 員から部 長・課 長に至るまでほぼ 共 通 な 全 体 観が
*「世界のトップ企業の CEO 調査」経年データはブーズ・アン
組 織 内に浸 透しており、誰に話を聞 いても( 場 合によっては
ド・カンパニー ホームページ( www.booz.co.jp )
>メディアで
主任クラスであっても)業務の全体像を掴むことができるの
の紹介>プレスリリースに掲載しております。
で あ る 。これ は 日 本 企 業 が 日 々 の 業 務 に お い て 組 織 的 な
一 体 感を土 台にした仕 事 の 進め方をしていることの 証 左で
あり、一つの 象 徴 的な「日本 企 業らしさ」でもある。ビジネス
の 継 続 性やリスク耐 性という観 点では優 れた組 織 体 質を有
している一方で、参加者が多すぎる会議の常態化、組織内で
のリソース配 置や役 割 分 担が曖 昧かつ 重 複が多 いというよ
うなマイナスの側面が背景にある。
日本 企 業 の CEO が、組 織 内 の「 内なる壁 」を打 破し、海 外
企業と相対するグローバル競争に打ち克つためには、
「日本
企業らしさ」を踏まえたうえで適切な意思決定を行うための
仕 掛 けをマネジメント・プロセスに組 み 込 ん で いくことが極
めて重要になる。具 体的な取り組 み 方は、企 業ごとに特 有な
制約要件を踏まえた検討が必要であり、まさに実践を通じて
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特集 ◎ CEO とリーダーシップ
意思決定プロセスに潜む罠を
見出すための着眼点の例
「母国市場」の再定義
• 自らが軸足とする事業領域を捉え直すことで、無意識の
うちに議論の前提としている枠組みを取り払う
「ホームとアウェイ」を明確にしたうえで検
•「既存と新規」
討を行い、成長戦略の土台となる共通認識を醸成する
「前例主義」からの脱却
• 過去事例に依拠した事業計画ではなく、将来を起点にし
てそこに至るシナリオを想定して「走りながら修正し続
ける」やり方に切り替える
• 新しい取り組みに前例はない。むやみに参考事例を求め
る情報収集は行わない
「費用対効果」という視点の使い分け
• 新規ビジネスの「費用」は推定できるが「効果」の想定は
振れ幅が大きく、かつ確証を持つに至るまでの情報収集
は困難なことが多い
• あらかじめ「費用対効果」を評価基準にできる案件かどう
かを選別したうえで検討を行う
「会議体」の見直し
• 部門や地域を越えた観点からの議論を誘発するための
メンバー構成にする
• 組織内に世代間ギャップがあることを前提に、会議体の
目的や期限や各参加者の役割を明らかにする
• 事業パートナーとの連携では、定量・定性目標の「握り
方」と定期的にレビューする会議体の枠組みを初期の段
階で確立する
「決定事項の意味合い」の明確化
「止め
• 個々の決定事項が、これまでのやり方を「続ける」
る」
「変える」
「新たに始める」のどれに相当するのかを
つねに明らかにする
「変える」ことについては、惰性で続けて
• とくに「止める」
しまわないための仕掛けを作る
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