ガソリン価格変化によるガソリン需要変化の地域比較

平成 20 年度
日本大学理工学部社会交通工学科
卒業論文概要集
ガソリン価格変化によるガソリン需要変化の地域比較
D-6
Regional Comparisons of Gasoline Demand Changes by Gasoline Price Change
指導教授
1.はじめに
轟
朝 幸
5050 笠
原 伸 仁
3.価格弾力性の推定結果
わが国におけるガソリン消費を左右する乗用車の保
推定精度に関して、自由度補正済み決定係数は東京、
有台数は 1996 年まで全国的に伸び続け、1997 年以降も
神奈川、大阪を除き 0.7 を上回っていた。次に、推定式
首都圏を除き伸び続けている。乗用車は人々が生活す
の精度を確認するために、回帰式の有意性を検証した。
るうえで必要不可欠なものであり、特に公共交通が十
ガソリン価格の係数はスチューデントの t 検定を用い
分に整備されていない地域ではより重要なものとなっ
て、まず5%有意水準においては 30 県、1%有意水準
ている。一方、ガソリン価格は様々な世界情勢によっ
では 21 県が有意という結果になった。よって今回作成
て大きく変化している。
した推定式は概ね推定精度が確保された。
一般的に、財の価格が上昇すると需要は減少する。
ガソリン需要の価格弾力性の推定結果を表-1に示
ガソリンの場合、価格上昇に対して自動車利用から公
す。ガソリン需要の価格弾力性は千葉県が-1.075 と最
共交通利用へ転換することでガソリン需要を減らすこ
も高く、北海道の-0.963、埼玉県の-0.925 と続いていた。
とができると考えられる。しかし、前述のように公共
逆に島根県は-0.062、京都府は-0.064、高知県は-0.116
交通が十分に整備されている地域とされていない地域
とガソリン需要の価格弾力性は低い値となっていた。
では自動車利用者のガソリン価格弾力性に差が出ると
また、石川県のみ価格弾力性の値が 0.072 と正の値とな
考えられる。
り、ガソリン価格が上昇するにつれてガソリン需要量
そこで本研究では、都道府県別にガソリンの販売量
も上昇するという矛盾する結果となった。
をガソリン価格などで説明する回帰式を作成し、需要
表-1 ガソリン需要の価格弾力性推定結果
県名
価格弾力性
千葉県
-1.075
北海道
-0.963
埼玉県
-0.925
沖縄県
-0.722
岩手県
-0.705
広島県
-0.691
熊本県
-0.661
香川県
-0.660
富山県
-0.629
滋賀県
-0.607
福岡県
-0.602
神奈川県
-0.584
栃木県
-0.562
福島県
-0.548
青森県
-0.546
兵庫県
-0.545
価格弾力性を求め、ガソリン価格変化によるガソリン
需要変化の地域比較を行う。また、地域差が生じる要
因について、交通インフラの観点から分析する。
2.ガソリン需要の価格弾力性推定
都道府県別のガソリン価格需要弾力性を推定するた
め、ガソリン需要量を被説明変数とする回帰式を作成
する。説明変数にはガソリン価格のほか、企業活動に
よるガソリン消費を考慮して、経済活動規模を表す県
内総生産を用いることとする。推定期間は 1987 年度か
ら 2001 年度までの 15 年間で、年度ごとの数値を利用
する。ガソリン価格需要弾力性を求める式を式(1)
価格弾力性
県名
価格弾力性
-0.532
佐賀県
-0.286
-0.477
福井県
-0.240
-0.463
愛知県
-0.211
-0.448
長野県
-0.182
-0.437
大分県
-0.173
-0.426
新潟県
-0.172
-0.412
愛媛県
-0.163
-0.396
和歌山県
-0.148
-0.396
奈良県
-0.125
-0.378
山形県
-0.120
-0.377
鹿児島県
-0.119
-0.359
高知県
-0.116
-0.347
京都府
-0.064
-0.324
島根県
-0.062
-0.323
石川県
0.072
-0.289
全国平均
-0.415
4.推定結果の考察
に示す。
ln GAS= α+β1 × ln GP +β2 × ln GPP
県名
長崎県
大阪府
鳥取県
三重県
岐阜県
岡山県
山梨県
秋田県
宮崎県
群馬県
山口県
静岡県
茨城県
徳島県
宮城県
東京都
ガソリン需要の価格弾力性に関係していると想定し
(1)
ていた公共交通の整備度との比較を行った。ここで、
ここで、
公共交通の整備の度合いを示す指標として、2005 年度
GAS:一人あたりのガソリン販売量
における主要道路長を鉄道路線長で割った、鉄道対道
GP:物価変動を考慮したガソリン価格
路の指標を用いた。鉄道対道路の指標は、数値が高い
GPP:一人あたりの実質基準県内総生産
ほど鉄道より道路が整備されていることを示している。
α:定数
鉄道対道路の指標とガソリン需要の価格弾力性の関係
β1:ガソリン価格の係数(価格弾力性)
を図-1に示す。なお、沖縄県は鉄道路線長が極端に
β2 :県内総生産の係数
短いため除外している。
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平成 20 年度
卒業論文概要集
が低いにも関らず、ガソリン需要の価格弾力性は低い
14,000
石川県
値となっていた。ここで図-3に3大都市と全国平均
愛媛県
鹿児島県
12,000
鉄道対道路の指標
日本大学理工学部社会交通工学科
のガソリン販売量を示す。東京都のガソリン販売量は
徳島県
茨城県
図-3のように高い数値となっている。一方、2005 年
高知県
熊本県
大分県
香川県 長崎県 山梨県
和歌山県
宮崎県
富山県 鳥取県
佐賀県 奈良県
島根県
福井県 山形県
広島県
岐阜県
福島県
岡山県
新潟県
青森県秋田県
栃木県
北海道
滋賀県
静岡県長野県
群馬県
愛知県
福岡県 兵庫県三重県
京都府
宮城県
山口県
埼玉県
岩手県
千葉県
10,000
8,000
6,000
4,000
大阪府
神奈川県
度における東京都の1世帯あたり自動車保有台数は
0.538 台で全国平均の 1.112 を大きく下回っている。こ
のことから、東京都におけるガソリン販売量は他県か
ら流入した自動車によるガソリン販売量が多いため、
ガソリン需要の価格弾力性の値が低くなってしまった
東京都
2,000
-1.1
-0.9
-0.7
-0.5
-0.3
-0.1
0.1
と考えられる。
0.3
ガソリン需要の価格弾力性
6,000,000
東京都
図-1 鉄道対道路の指標と価格弾力性
愛知県
5,000,000
結果をみると、鉄道対道路の指標とガソリン需要の
大阪府
全国平均
価格弾力性の相関係数は 0.432 と低いながらも、正の相
販売量(kℓ)
4,000,000
関の傾向がみられた。特に東京都、大阪府、愛知県な
ど大都市を除くと、その傾向は強くなる。鉄道を利用
3,000,000
2,000,000
するより自動車を利用する方が有利な地域はガソリン
需要の価格弾力性が低いという結果が得られた。
1,000,000
また、公共交通の整備度の別の指標として、都道府
自動車利用の割合とガソリン需要の価格弾力性の関係
自動車利用割合(%)
70
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
5.おわりに
都道府県別にガソリン需要の価格弾力性を推定した。
島根県
滋賀県 宮崎県 佐賀県和歌山県
茨城県
栃木県鳥取県
愛媛県
群馬県
鹿児島県
山梨県 福井県
高知県
福岡県
徳島県 大分県
埼玉県
三重県
岩手県
山口県
石川県
奈良県
長崎県
秋田県
富山県
北海道
山形県
香川県
福島県
千葉県
青森県
長野県
岡山県
広島県
京都府
静岡県
宮城県 新潟県
岐阜県
熊本県
60
その結果、公共交通の不便な県は価格弾力性が低い傾
向があることを示すことができた。自動車から鉄道な
どの公共交通への転換が困難であるため、ガソリン価
格の変化によるガソリン需要の変化が起こりにくい結
神奈川県
沖縄県
50
果となったと考えられる。ガソリン需要の価格弾力性
兵庫県
大阪府
愛知県
が低い県はガソリン価格の変化による支出への影響が
40
30
-1.2
1994
図-3 ガソリン販売量の推移
100
80
1993
年度
を図-2に示す。
90
1991
1990
1989
1987
1988
0
県別の旅客輸送における自動車利用の割合を用いた。
大きいと考えられる。
東京都
-1
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
0
本研究で作成したガソリン需要の価格弾力性推定式
0.2
ガソリン需要の価格弾力性
はガソリン需要をガソリン価格と県内総生産の2つの
図-2 自動車利用割合と価格弾力性
変数で説明する単純なものとなっている。しかし、一
自動車利用の割合とガソリン需要の価格弾力性の相
部の地域で推定結果の精度が低くなることや、石川県
関係数は 0.099 と低い。しかし、やはり3大都市を除く
のガソリン需要の価格弾力性が正の値になるなどの課
と正の相関の傾向が見られた。このことから、大都市
題が残る。ガソリン需要の変化には価格のほかにも天
を除き、鉄道、バスに比べ自動車の利用割合が高い県
候など様々な要因が関っていると考えられる。また、
はガソリン需要の価格弾力性が低いという結果が得ら
地域の特性によってもガソリン需要の変化に差がある
れた。これより、公共交通が不便な県ではガソリン需
ことも考えられ、より正確な都道府県別ガソリン需要
要の価格弾力性は低いといえる。
の価格弾力性を推定するには都道府県ごとに独自の推
東京都は鉄道対道路の指標、自動車利用の割合の値
定式を作成する必要があると考えられる。
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