Res. Reports Asahi Glass Co., Ltd., 60(2010) UDC:621.3.035.4:547.321 リチウムイオン二次電池用 含フッ素アルキルスルホニルイミドリチウム塩 『CTFSI-Li』 Novel Fluorinated Alkylsulfonylimide Lithium Salt 'CTFSI-Li' for Lithium Ion Battery 岩谷真男* Masao Iwaya リチウムイオン二次電池(LiB)はその本質的な高エネルギー密度から既に携帯機器に広く用い られており、今後は自動車用や電力貯蔵用等の大型化も進行し、その高性能化への要請は高まる一 方である。その中で主電解質として用いられているLiPF6はバランスの取れた好材料であるが、化 学的、熱的安定性等には改善の余地がある。そこで我々は化学的熱的安定性に優れた含フッ素アル キルイミドリチウム塩、特に従来合成が困難であった為、系統的にその電気化学特性が検討された ことの無い五員環状化合物(1, CTFSI-Li)に着目し、合成、評価を実施した。CTFSI-Liは高い耐 熱性、耐水性、実用十分な耐酸化性、リチウムイオン伝導性を有し、さらには類塩体である鎖状の イミド塩(2, TFSI-Li)の大きな欠点として知られているアルミニウムに対する腐食性がなく、電 池材料として好適な特性を両立している。さらに電解質として用いた際に、充電正極表面を保護し、 電解液分解を抑制する効果が見出されており、その効果と共に機構面も合わせて報告する。また、 末尾には優れた特長の一つである有機溶媒への高い溶解性を活かしたヒドロフルオロアルキルエー テルとの組合せについても紹介する。 Bis (perfluoroalkylsulfonyl) imide lithium salts generally have a good Li ion conductivity, an excellent thermo stability and a chemical stability. Therefore they might have a great potential to be alternatives to LiPF6 with insufficient thermo and chemical stabilities. Perfluoroalicyclic imide salt, called CTFSI-Li, has a unique five membered skeleton and the electrochemical characters and properties as an electrolyte for lithium ion battery have not been demonstrated clearly because of its availability derived from synthetic difficulty. In this report, besides its basic properties, the distinguished ability to protect carbonate solvent against decomposition on the surface of highly charged cathode and the combination effect with hydrofluoroalkyl ether are introduced. *化学品カンパニー技術開発センター 主席(E-mail:[email protected]) AGC Chemicals Technology General Division. Senior R&D Chemist −13− 旭硝子研究報告 60(2010) 1. 緒言 リチウムイオン二次電池は現在、ノートパソコン、 携帯電話、デジタルカメラ、携帯音楽プレーヤー、携 帯ゲーム機、電動工具等、小型携帯機器用の蓄電池と して極めて広い範囲で用いられている蓄電デバイスで ある。 近年、急速な地球温暖化の進行及び化石燃料資源の 枯渇懸念等の問題から、再生可能エネルギーの重要性 が急速に高まっている。再生可能エネルギーには太陽 光、太陽熱、風力、地熱等種々の形式があるが、全て 自然から得られるエネルギーの形態を変えて活用して いる点で共通しており、よってその変動は人間によっ て制御する事が出来ない。その為、それらによる発電 量と電力需要のギャップを埋めるための蓄電デバイス の必要性が高まっており、各種ある蓄電デバイス形式 の中でもリチウムイオン二次電池がその充放電効率と エネルギー密度の高さから現在本命視されている。 また、わが国における二酸化炭素排出の内、約2割 を占める運輸部門(国土交通省HPより。2009年度)に おいては、特に自家用車部門において、ハイブリッド 自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車 等、車両の電動化が急速に進行しつつある。現在はニ ッケル水素電池を搭載したハイブリッド自動車が主で はあるものの、最近になって各社から大容量リチウム イオン二次電池を搭載した電気自動車が発売され始め、 ハイブリッド自動車も徐々にリチウムイオン二次電池 搭載車が広まりつつあり、この分野におけるリチウム イオン二次電池市場の拡大は確実視されている。 こういった新しい市場においてはリチウムイオン二 次電池がより大型化、高性能化することとなり、従来 の小型機器と比較してさらに高度な安全性とエネルギ ー密度の両立を求められている。 フッ素含有化合物はその多くが本質的に耐酸化性が 高くリチウムイオン二次電池の高電圧化に対応しうる 材料として好適である。また、液体状の化合物におい てはフッ素含有量を多くする事で難燃性を付与しやす いという性質が電池の安全性向上に寄与しうるため、 安全性と高性能化が両立する素材として本質的に優れ た性質を具備していると言える。 本報告では、その含フッ素化合物の好適な一例とし て、従来の合成法では合成する事の難しかった環状含 フッ素イミドリチウム塩の新規合成法と、そのリチウ ムイオン二次電池電解質材料としての性質および活用 方法について紹介する事とする。 化還元特性等の電池特性バランスが良いという性能面 と、安価で広く入手しやすいというコスト面の両面に (2) 。 起因する(1) しかしながらLiPF6は化学的、熱的安定性に乏しく、 微量の水分で加水分解してHFを発生する事で電池の 劣化を招いたり、高温環境下で使用する事が難しい等 の難点を抱えており、必ずしも全ての面で満足されて いるわけではない(3)。 その為、化学的、熱的安定性を向上させた代替化合 物が提案されてきた。Fig.1に代表的な化合物を例示し た。PF6アニオンのフッ素をC2F5で置換したFAPアニ オン5(4)や、BF4アニオンのフッ素をC2F5で置換した FABアニオン6(5)、およびビス(ペルフルオロアルキ (代表的な例ではT ルスルホニル)イミドアニオン(6) (7) (8) やBETI, 4 等のリチウム塩各種が提案さ FSI, 2 れている。それらの中でもビスペルフルオロアルキル スルホニルイミドのリチウム塩は、中心の窒素に結合 する二つのペルフルオロアルキルスルホニル基が極め て強い電子吸引性を有しているため、窒素上の負電荷 が大きく非局在化され(9)リチウムイオン解離度が非常 に高く、また熱的化学的にも極めて安定である(7)。 特にその代表的化合物であるTFSI-Liはこれらの化合 物群の中でも性能バランスに優れ、また分子量も小さ い為に代替化合物として有望であったが、リチウムイ オン二次電池正極集電体のアルミニウムに対する腐食 性が高く主電解質として用いる事が出来ない(8)。分子 量が小さいと有利な理由は、リチウム塩濃度がモル濃 度で管理される為、分子量が大きいとより多くの重量 を溶解する必要があり、粘度増大による性能悪化とコ スト上昇の原因となる為である。 そこで本稿では、従来ほとんどリチウムイオン二次 電池材料として評価された事の無い、五員環骨格を有 するビス(ペルフルオロアルキルスルホニル)イミド リチウム塩、4,4,5,5−テトラフルオロ−1,3, 2−ジチアゾリジン−1,1,3,3−テトラオキシド リチウム塩(以下、CTFSI-Li, 1)を合成し、二次電 池材料としての特性を評価した結果について報告す る。本化合物は上述のTFSI-Li, 2のトリフルオロメチ ル基を連結して環状であるところに特徴がある。 2. リチウムイオン二次電池電解質 現在市販されているリチウムイオン二次電池では、 ほぼ全て六フッ化リン酸リチウム(以降LiPF6)が主 電解質としても用いられている。これは、電位窓が広 く、かつリチウムイオン二次電池用電解液の主溶媒で あるカーボネートへの溶解度とリチウムイオン解離度 が高い為に、溶解して電解液とした際の伝導度や耐酸 −14− Fig.1 Various alternatives to LiPF6 Res. Reports Asahi Glass Co., Ltd., 60(2010) Scheme 1 Conventional synthesis of CTFSI-Li 3. CTFSI-Liの合成 4. CTFSI-Liの基礎物性評価 CTFSI-Liの従来の代表的合成法をScheme 1に示し た。即ち、ジブロモエタンを出発原料として多段反応 でビスフルオロスルホニルエタンを得た後(10)、これ を電解フッ素化することでビスフルオロスルホニルテ トラフルオロエタンを得る(11)。これをアンモニアと 反応させると速やかに環化してCTFSIのアンモニウム 塩(以降CTFSI-NH4)に変換され、次いでリチウム塩 化することで目的物を得る事が出来る(12)。反応式か らも見て取れるように非常に多くの工程を要する上に、 特にビスフルオロスルホニルエタンの合成とその電解 フッ素化が、より長鎖を有する類似化合物よりも特異 的に収率が低い為、総合収率も極めて低いものであっ た(11)。その為、本化合物は経済合理性の観点から実 現性のある二次電池材料には成り得てこなかった。 そこで本検討では、中間体であるビスフルオロスル ホニルテトラフルオロエタンの合成法として、テトラ フルオロエタンサルトンの加水分解物であるフルオロ スルホニルジフルオロ酢酸のKolbe電解による脱炭酸 的電解カップリング法にて合成することに着想し、合 成を行った。結果、サルトンの加水分解はほぼ定量的 に進行し、Kolbe電解工程でも目的物収率は7割程度 と良好であり、従来法に比べて短工程かつ高効率に目 的化合物を得られる事が判った(13)。 上記の合成法にて得られたCTFSI-Liの熱的・化学 的安定性の評価を実施した。 4.1 TG-DTA測定を用いた分解温度評価 CTFSI-Liの分解温度をTG-DTAを用いて評価した。 結果をFig.2に示す。開始温度を30℃として、毎分10 ℃の昇温速度で500℃まで昇温させたところ、同化合 物の5%重量減温度は390℃であり、極めて耐熱性の高 い化合物である事が明らかとなった。 4.2 CTFSI-Liの耐水性の評価 同化合物が水に安定である事を示す為にCTFSI-Li を用いて0.5Mの濃度の水溶液を調製し、10日間に渡り 。ま 毎日フッ素イオン濃度分析を実施した(Fig.3a) た、検討の前後において19 F-NMR測定を実施する事 で分子骨格の変化を観察した(Fig.3b) 。 図から明らかな通りフッ素イオン濃度は10日後でも 増加することなく、また19 F-NMR分析でも骨格は全 く不変であり、同化合物が水溶液中でも全く加水分解 してフッ素水素を発生させる事が無い高い耐水性を有 する化合物である事が判った。 これは、LiPF6を主電解質として用いたリチウムイ オン二次電池中の微量水分が性能劣化を招く課題を解 決しうる特性であるといえる。 Fig.3a Fluoride anion concentration in aquaous solution of CTFSI-Li Fig.2 TG-DTA curve of CTFSI-Li. −15− 旭硝子研究報告 60(2010) 試験はアルミニウムを作用極としたLSV測定を実施 し腐食電流が観測される電圧の大小による比較として 実施した。具体的には作用極に直径1㎜のアルミニウ ム線を用いた以外は5.2で実施した試験と同様の構成 で3.5Vを始点として5.0Vまで電圧掃引をかけた。結果 をFig.6に示した。 図から明らかな通り、TFSI-Liを用いた電解液にお いては4Vを越えたあたりからアルミニウム腐食によ る電流が明確に観測されているのに対して、CTFSILiを用いた電解液は5Vに至るまでほとんど電流が観 測されなかった。 ここまで述べてきたCTFSI-Liの熱的、化学的、電気 的基礎物性は、CTFSI-LiがLiPF6の各種欠点を補いな がらバランスの取れた特性を両立し、なおかつTFSILiに見られるアルミニウム腐食性という欠点を有しな い優れた電池材料足り得る可能性を示すものである。 Fig.3b Stablity investingasion of CTFSI anion structure in water by 19F-NMR analysis 5. CTFSI-Liの電気化学特性評価 4.の評価結果から、CTFSI-LiがLiPF6の抱える課題 を解決しうる化合物であることが確認された事を受け、 電池材料として用いる為に必要とされる基礎的電気化 学特性評価を実施した。 5.1 CTFSI-Liを電解質とした電解液伝導度評価 LiPF6、CTFSI-Li、TFSI-Li、およびCTFSI-Liの六 員環類縁体化合物(3)を、それぞれ1Mの濃度になる ようにエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネ ートを同容量混合した混合溶媒 (以降、 EC/EMC(1/1) と表記する)に溶解した電解液について、電気伝導度 を評価した。伝導度測定法は文献(14)記載の方法によ り実施し、結果をFig.4に示した。また、298Kにおけ る伝導度の値をTable 1に示した。 結果、CTFSI-Liは化合物(3)を全ての温度領域で 上回り、TFSI-Liと同程度の実用上十分な電気伝導性 を発現しうる化合物である事が確認された。 Fig.4 Conductivity of imide lithium salts and LiPF6 Table 1 Conductivity of non aqueous electrolyte with various lithium salts 5.2 CTFSI-Liの耐酸化性評価 5.1で用いた4種類の電解液のLSV(Linear Sweep Voltammetory)測定による耐酸化性評価を実施した。 作用電極には1cm角の白金板を用い、参照電極にはリ チウムリボン、対極には1.5㎝×2.0㎝のリチウム箔を それぞれ使用した。掃引速度を5 mVs-1とし、4.0Vを 始点として5.0Vまで電圧掃引を行った(電圧は全て対 ) 。結果をFig.5に示した。 Li/Li+。以下同じ。 結果から、CTFSI-LiはLiPF6を若干上回る良好な耐 酸化性を有する事が確認され、リチウムイオン二次電 池内における高い電圧条件下でも十分実用性を有する 事が明らかとなった。 5.3 CTFSI-Liのアルミニウム腐食性評価 CTFSI-Liは環状である以外はTFSI-Liとほぼ同様の 構造を有しており、TFSI-Li同様にアルミニウムに対 する腐食性を有する懸念がある。そこで検討5.1で使 用したCTFSI-LiとTFSI-Liを用いた電解液双方を用い てアルミニウムに対する腐食性の評価を実施した。 Fig.5 LSV measurements of electrolyte with imide lithium −16− Res. Reports Asahi Glass Co., Ltd., 60(2010) カーボネートを用いて洗浄した後、1時間真空乾燥さ せた。乾燥された充電正極をφ3㎜の大きさに打抜き、 15μL容量のSUS製DSC用耐圧容器の底部に乗せた。 この据付けられた正極の上から5μLの試験電解液を垂 らして容器を密閉した。この容器を密閉する操作まで は全てアルゴングローブボックス内で行った。密閉さ れた容器をグローブボックス外に出し、DSC装置を用 いて150℃を始点として2℃ min-1の昇温速度で350℃ まで昇温させ、熱分析を行った。試験電解液は下記の 二通りを検討した。 ①1MのLiPF6をEC/EMC(1/1)に溶解した電解液。 ②0.5MのLiPF6と0.5MのCTFSI-LiをEC/EMC(1/1) に溶解した電解液。 Fig.6 Corrosive evaluation of CTFSI-Li to aluminum woking electrode 6.1.3 DSC測定結果と考察 得られたDSCによる熱分析結果をFig.7に示した。図 から明らかな通り、CTFSI-Liを含まない電解液①で は、200℃近辺の加熱により正極崩壊が起こり、それ に伴った電解液分解による明確な発熱ピークが観測さ れるのに対して、半量CTFSI-Liを用いた電解液では それらの発熱挙動が著しく平準化され抑えられている ことが判った。この結果はCTFSI-Liが何らかの機構 によって正極表面を保護する機能を有し、正極表面で の電解液分解を抑制する効果を有する事を示唆してい る。 6. CTFSI-Li電解液の電池特性評価 4.および5.の評価結果からCTFSI-Liが良好なリチ ウムイオン二次電池電解質となりうる可能性がある事 が確認された事を受け、CTFSI-Liを電解質として用 いた電解液をリチウムイオン二次電池用電解質として 用いた場合の特性について評価を実施した。 6.1 CTFSI-Li含有電解液の安全性評価 6.1.1 評価の目的 リチウムイオン二次電池はエネルギー密度が極めて 高い蓄電デバイスであり、何らかの異常によりそのエ ネルギーが一気に放出されると電池の温度が急激に上 昇し、最終的には発火、破裂に至る危険性がある。特 にリチウムイオン二次電池における代表的な正極活物 質であるコバルト酸リチウムの様な層状遷移金属複合 酸化物は、充電状態で200℃程度に温度が上昇すると、 酸素放出を伴いながら結晶構造の崩壊を起こす。この 放出された酸素が高温下で有機電解液と激しく反応し、 さらなる発熱と場合によっては着火を引き起こす。こ の、酸素放出を伴う正極崩壊と、それにより引き起こ される電解液分解による発熱がリチウムイオン二次電 池の熱暴走の最後のトリガーとなっており、この発熱 を抑えることが出来れば電池の異常を安全に収束させ る事ができ、発火、破裂のトラブルを回避する事が可 能となる。そこでCTFSI-Liを用いた電解液の正極表 面上での熱分解挙動を熱分析を用いて検討した。 6.1.2 実験 正極活物質にはコバルト酸リチウム、導電助剤には アセチレンブラック、バインダとしてPVdF(ポリビ ニリデンフルオライド)を用い、ボールミルによって NMP溶媒に分散させスラリーとしたものをアルミニ ウム箔状に塗工、乾燥、プレスする事で正極を作成し た。検討5.1で調製したLiPF6を電解質とした電解液を 用いて、負極にリチウムを用いた単極セルにて、得ら れた正極を4.5Vまで充電した。充電された単極セルを アルゴングローブボックス内で分解し、4.5Vに充電さ れた正極を取り出し、取り出した正極をエチルメチル Fig.7 DSC curve of electrolytes of ①1M LiPF6- EC/EMC(1/1), ②0.5M LiPF6 and 0.5M CTFSI-Li-EC/ EMC(1/1), on 4.5V charged LiCoO2 electrode. 6.2 4.5V電圧印加試験 6.2.1 評価の目的 6.1の試験において、CTFSI-Li含有電解液が何らか の機構によって4.5Vという高電圧条件で充電された正 極の表面を保護し、電解液分解を抑制しているという 結果が示された。そこでさらにそれを確認する為に 4.5Vで満充電した電池にその後も電圧を印加し続け、 電池容量の維持率を測定する事により正極保護機能の 有無を確認した。 6.2.2 実験 人造黒鉛を負極活物質とし、アセチレンブラックを −17− 旭硝子研究報告 60(2010) 導電助剤に、スチレンブタジエンゴムをバインダとし カルボキシメチルセルロースで増粘させた水溶媒に分 散させたスラリーを銅箔上に塗工、乾燥、プレスして 負極を作成した。得られた負極と、6.1.2で作成された 正極とを組み合わせ、電解液には6.1.2で調製した電解 液①と電解液②にそれぞれ2重量%のビニレンカーボ ネートを添加したものを用いて、評価用電池を作成し た。 得られた評価用電池を4.2Vまで充電し、3.0Vまで放 電するサイクルを5回行い電池を安定させた。6サイ クル目は4.5Vまで充電を行い3.0Vまで放電させ、この 6サイクル目の放電容量を基準容量として用いた。7 サイクル目は4.5Vまで満充電した後、1週間4.5Vの電 圧を印加し続け3.0Vまで放電させた。この7サイクル 目の放電容量の6サイクル目に対する放電容量の維持 率をCTFSI-Liの使用の有無によって比較を行った。 ウム箔を用いた参照極も含浸させる。これらの作業は Ar雰囲気のグローブボックス内で行い、セルを密閉し た後、グローブボックスから搬出する。このセル用に 反射鏡を最適に調整したIR測定装置上にこのセルを据 付、赤外光路室内を入念に窒素置換し水分等の影響を 排除する。セルは定電圧発生装置に連結され、所望の 起点電圧に正極電圧を調整する。今回は3.6∼3.8Vに設 定した。 電圧設定後はその設定電圧に応じた充電 (また は放電) 電流が観測されるので、 その電流が収束し系の 状態が平衡状態に達した段階でIR測定を実施する。引 き続いて電圧を0.1V上昇させ、再び平衡状態に達する のを待ち、IR測定を実施する。得られたスペクトルの 差スペクトルを取ることで当該電圧間での正極表面上 での電解液組成の変化が読み取れるようになる (Fig.9) 。 即ち差スペクトルが上向きのピーク(吸収の減少)と して観測されれば当該吸収スペクトルを有する化合物 が分解または正極表面からの脱離をしたと解釈される し、下向きのピーク(吸収の増加)として観測されれ ば、何らかの化合物が分解して新たに生成した化合物 または電圧遷移の間に正極表面に新たに吸着された化 合物による吸収であると解釈される。この様に0.1V電 圧を上げながらIRを測定していく事により、電圧の変 化でどの様な化学種がどの様に正極表面で振舞うかに ついての情報を得る事が出来る。今回の測定には下記 二つの電解液を用いて、3.6∼3.8Vを起点として0.1V おきに4.4Vまで上げながら測定を実施した。 6.2.3 4.5V電圧印加試験結果と考察 得られた結果をTable 2に示した。結果から明らか な通り、LiPF6のみを用いた電解液を用いた評価用電 池では容量維持率が63%まで劣化していたのに対して CTFSI-Liを半量溶解させた電解液を用いた評価用電 池は84%の容量維持率を示した。6.1に示したDSCの 結果と、電圧印加試験の結果は、CTFSI-Liを用いた電 解液が、理由は明らかではないが高電圧充電正極表面 での電解液分解を抑制し、電池容量劣化を改善する効 果を有する事を示している。 A.CTFSI-Liを、1Mの濃度になるようにEC/DEC (1/1)に溶解した電解液(電解液A) B.LiPF6を、1Mの濃度になるようにエチレンカーボネ ートとジエチルカーボネートを同容量混合した混合 溶媒(以降、EC/DEC(1/1) と表記する)に溶解し た電解液(電解液B) Table 2 Results of voltage application test 7. CTFSI-Liの 正極保護機構に関する考察 7.1 in situ IR測定法 ここまで得られた二つの試験結果はCTFSI-Liが正 極表面を保護する機能を強く示唆している。そこで、 同化合物が正極を保護する過程を、正極界面上での電 解液の赤外吸収スペクトルをin situ で測定する事によ り、解明を試みた。本手法をFig.8を用いながら説明 する。金の円板にコバルト酸リチウムをスパッタリン グ処理により成膜し、蛍石製のIR窓に押し当てる。 この金の円板からは正極のリードを取っている。金の 円板が浸るようにIR窓の上に電解液を満たし、IR窓と スパッタリング正極の空隙に薄膜上に電解液層を形成 させる。電解液にはニッケル線を用いた対極と、リチ −18− Fig.8 Instrumental illustrasion of in situ FT-IR cell Res. Reports Asahi Glass Co., Ltd., 60(2010) Fig.9 Procedure illustration of in situ internal FT-IR cell. IR spectra is obtained at each potential step and subtractively normalized with the previous one. 7.2 in-situ IR測定結果と考察 得られた結果をFig.10に示した。Aには電解液Aの 結果を、Bには電解液Bの結果を示している。電解液 Bでは、電圧を上昇させていくのに伴って、カーボネ ートに帰属される吸収が大きく減少していくのと同時 に、その近傍に新たな吸収が大きく発生している事が 判る。これは電圧を上昇させる事で元から正極界面に 存在していたカーボネート溶媒が分解する事で別の化 学種に変化している様子を表していると考えられる。 また、この分解・生成の挙動は低電圧側よりも高電圧 側になるにつれて激しくなっている事も図から明らか であり、より過酷な高電圧環境下でカーボネートが激 しく分解している様子を克明に表した結果であると言 える。一方で電解液Aを用いた結果を見ると、一見し てそのカーボネートの分解・生成の吸収変化が電解液 Bの場合と比べて小さくなっている事がわかる。この ことはCTFSI-Liを電解質として用いるとカーボネー トの分解が抑制されるという6.2での電圧印加試験の結 果をサポートするものである。また、1200及び1400 cm-1近辺に観測されるスルホニルイミドに由来する吸 収が電圧の上昇に従い増加している様子がわかる。近 傍に分解による吸収減少が観測されていない事から、 カーボネートの様な分解生成によるものではなく、電 圧の上昇につれてCTFSIアニオンが正極表面に新たに 吸着された事を示していると考えられる。即ちCTFSI アニオンは負電荷を有する為に正極電圧が高まるほど 親和性が高くなり吸着され易くなる為、電圧の上昇に 連れて正極表面を被覆するようになりカーボネートが 正極表面で分解するのを抑制する機能を発現したもの −19− と思われる(Fig.11) 。この様な機能を発現する為に 分子に求められる構造要件は、 ①充電正極に対して親和力を有し、吸着する事。 ②それ自体が高い耐酸化性を有し、正極界面に吸着し ても分解しない事。 ③吸着した後も電解液とのリチウムイオンのやり取り を阻害しない事。リチウムイオン伝導性を有しない化 合物が表面に吸着すると単なる抵抗となり、電池と しての充放電機能を阻害する結果となるが、CTFSI アニオンは高いリチウムイオン解離度を有する化合 物であり吸着状態でもリチウムイオンの正極界面で の移動を阻害しないと考えられる。 CTFSI-Liは上記①∼③の必要要件を両立していた為、 通常は電解液バルク中に存在するが、正極が高電圧状 態、即ちカーボネートが分解されてしまわないように 表面を保護する必要が発生した時になると正極表面に 吸い寄せられて正極表面を被覆し、この特異な吸着脱 離機構により電解液の分解を抑制していたものと考え られる。さらにCTFSIアニオンの環状構造に由来する 双極子モーメントが一層吸着しやすい結果となってい るとも考えられるが、これについては同様の試験を非 環状のTFSIアニオンを用いて比較する必要があり、 今 後の課題としている。 旭硝子研究報告 60(2010) Fig.10 in-situ FTIR spectra of electrolyte with(A)or without(B)CTFSI-Li salt Fig.11 Supposed protection mechanism of CTFSI-Li on charged LCO cathode 付与する検討がなされている。しかしながらLiPF6を 主電解質として用いた場合、例えばEC/EMC (1/1) 混合溶媒にAE3000を40容量%添加した組成(即ちEC /EMC/AE3000(3/3/4)では1Mの濃度で溶解させる 事が出来なくなる。30容量%の添加では1M溶解させる 事が出来るものの、混合溶媒の極性とともによるリチ ウム解離度も低下する事により伝導度が著しく低くな る問題がある上に、30容量%程度の添加では、難燃性 や高耐電圧化といった望む付加価値も不十分であり、 実用性を見出す事が難しかった。 しかしながらCTFSI-Liを主電解質として用いた場 合、実に70容量% AE3000を添加(即ちEC/EMC/AE 3000(1.5/1.5/7) )でもCTFSI-Liは依然として十分な 溶解度を保つ事が判った(Fig.12) 。伝導度自体は低下 してしまうものの、この電解液を用いた系でも電池と して動作可能であることも確認されている(Fig.13) 。 8. CTFSI-Liのその他の応用例 ここまで述べてきたように、CTFSI-Liは正極表面 を被覆し、電解液分解を抑制する機能を有する事が判 った。本章では、CTFSI-Liのもう一つの優れた特質 として、有機溶媒への高い溶解度について報告する。 8.1 ヒドロフルオロアルキルエーテルとの併用 旭硝子化学品カンパニーは多様なフッ素化学品をラ インナップしており、その中でAE3000に代表される ヒドロフルオロエーテルは優れた不燃性と高い耐酸化 性有する、低融点低粘度な液体であり、電解液溶媒と して望まれる特性を具備しているが、残念ながらリチ ウム塩を全く溶解しない。そこで一般的に環状/非環 状カーボネートの混合溶媒にヒドロフルオロエーテル を添加するというアプローチにより電解液に難燃性を −20− Res. Reports Asahi Glass Co., Ltd., 60(2010) この様にCTFSI-Liを主電解質として用いると、従来 LiPF6の有機溶媒への低溶解度により実質的に環状/鎖 状カーボネートの混合溶媒のみに規制されてきた溶媒 系に新たな選択肢を持たせうる可能性があり、新たな 展開が期待できる。 ̶ 参考文献 ̶ ⑴ J. Barthel and H. J. Gres : in Handbook of Battery Materials , J. O. Besenhard, Edi., Willey-VCH, Weinheim(1999) , Ch. 7. ⑵ a)S. H. Strauss, Chem. Rev ., 93, 927(1993) , b)A. J. Lupinetti and S. H. Strauss, Chmetracts-Inorg. Chem ., 11, 565(1998) . ⑶ A. V. Plakhotnyk, L. Ernst and R. Schmutzler, J. Fluorine Chem ., 126, 27(2005). ⑷ a)N. Ignat'ev and P. Sartori, J. Fluorine Chem ., 101, 203, 2000. b)M. Schmidt, U. Heider, A. Kuehner, R. Oesten, M. Jungnitz, N. Ignat'ev and P. Sartori, i, b, 557(2001) . c)R. Oesten, U. Heider and M. Schmidt, Solid State Ionics , 147, 391,(2002) . ⑸ a)J. Kvicala, J. Mouyrin and O. Paleta, J. Fluorine Chem ., 113, 195(2002) . b)Z. Zhou, M. Takeda and M. Ue, J. Fluorine Chem ., 123, 127(2003). c)Z. Zhou, M. Takeda, T. Fujii and M. Ue, J. Electrochem. Soc ., 152(2) , A351(2005) . ⑹ 芳尾真幸、小沢昭弥、リチウムイオン二次電池 材料と応用、第 二版、日刊工業新聞社、第17章(2000) . Fig.12 Saturation solubility in HFE containing solvent ⑺ a)J. Foropoulos, Jr. And D. D. DesMarteau, Inorg. Chem ., 23, 3270,(1984) . b)L. A. Dominey V. R. Koch and T. J. Blakley, Electrochimica Acta , .7(9) , 1551,(1992) . ⑻ L. J. Krause, W. Lamanna, J. Summerfield, M. Engle, G. Korba, R. Loch and R. Atanasoski, J. Power Sources , 68, 320,(1997) . ⑼ I. A. Koppel, R. W. Taft, F. Anvia, S. Zhu, L. Sung, D. D. Des Marteau, L. M. Yagupolskii, Y. L. Yagupolskii, N. V. Ignat'ev, N. V. Kondratenko, A. Y. Volkonskii, V. M. Vlasov, R. Notario and P. C. Maria, J. Am. Chem. Soc ., 116, 3047(1994) . ⑽ a)G. C. H. Stone, J. Am. Chem. Soc ., 58, 488(1936) . b)M. Pantlitschko and F. Salvenmoser, Monatsh. Chem ., 89, 285 (1958) . c)E. Hollitzer and P. Sartori, J. Fluorine Chem ., 35, 329(1987) . ⑾ R. Juscke, D. Velayutham and P. Sartori, J. Fluorine Chem ., 83, 145(1997) . Fig.13 Charge-Discharge cycle test of LCO-Li half cell. (1M CTFSI-Li solution in EC/EMC/AE3000 (2/2/6) ) ⑿ 特許公報 平3-198623 ⒀ WO2006-106960A1 ⒁ 百田邦堯, 溶融塩および高温化学, 45, 42(2002) . ⒂ Z. Zhang, D. Fouichard and J. R. Rea, J. Power Sources , 70, 9. 結言 16(1998) . ⒃ M. Matsui, K. Dokko and K. Kanamura, J. Power Sources , ここまで述べてきたとおり、CTFSI-Liは従来極め て合成が困難であったが、今回開発された合成法を用 いると極めて簡便に合成をする事が出来る。また、そ の電気化学的特性は非常にバランスよくリチウム二次 電池電解質材料として好適な特性を具備している。ま た、実際に電解質として評価した結果では、高電圧充 電正極への吸着脱離機構により正極表面上での電解液 分解を抑制する機能があり、電池の高性能化、高安全 性の両立に寄与しうる材料として有望である事を見出 した。また、CTFSI-Liは現在用いられているLiPF6と 比較して有機溶媒に対して高い溶解度を有する為に、 従来限られていた溶媒の選択肢を増やし、電解液に新 たな可能性を付与しうる事が見出された。 10. 謝辞 本検討内のin situ IR測定に多大なる御助言とご支 援を賜りました、首都大学東京の金村聖志教授、峰善 幸氏、瀬川翠氏に深く感謝いたします。 −21− 177, 184(2008) .
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