消費増税後の日本経済のゆくえ

ESP フォーキャスト調査
日本経済研究センター
2013 年 10 月 17 日
2012 年 度 優 秀 フォーキャスターに聞 く
消費増税後の日本経済のゆくえ
ESP フ ォ ー キ ャ ス ト 調 査 で 、 2012 年 度 を 対 象 に 年 度 パ フ ォ ー マ ン ス 評 価 を 行 っ た 。
年度パフォーマンス評価は今回で9回目。
フ ォ ー キ ャ ス タ ー 計 40 人 ( 2012 年 4 月 調 査 時 点 ) の 予 測 が 実 績 と 対 比 し て ど の よ
うに評価できるか、また、毎月公表している予測総平均や高位・低位 8 機関平均が同
じくどのように評価できるかを調査委員会(委員長:小峰隆夫法政大学教授)に検討
してもらった。
05 年 度 よ り 、年 度 の 予 測 成 績 の 良 か っ た フ ォ ー キ ャ ス タ ー を「 総 合 成 績 優 秀 フ ォ ー
キ ャ ス タ ー 」と し て 発 表 し て い る 。12 年 度 の 結 果 は 13 年 9 月 30 日 に 公 表 し た 。そ こ
で 、 小 峰 委 員 長 と 、 12 年 度 予 測 成 績 が 優 秀 で あ っ た フ ォ ー キ ャ ス タ ー の う ち 4 人 に 、
今後の日本経済の見通しや成長戦略についてコメントをいただいた。
ESP フ ォ ー キ ャ ス ト 調 査 予 測 に お け る 総 合 成 績 優 秀 フ ォ ー キ ャ ス タ ー ( 敬 称 略 )
2012 年 度 ( 機 関 名 50 音 順 )
JP モ ル ガ ン 証 券 (株 )
㈱第一生命経済研究所
日本経済研究センター
BNP パ リ バ 証 券 (株 )
富国生命保険相互会社
菅野
新家
田原
河野
森実
( 参 考 ) 2011 年 度 ( 機 関 名 50 音 順 )
(株 )第 一 生 命 経 済 研 究 所
大 和 証 券 投 資 信 託 委 託 (株 )
大 和 住 銀 投 信 投 資 顧 問 (株 )
三 井 住 友 アセットマネジメント(株 )
三井住友信託銀行(株)
雅明
義貴
健吾
龍太郎
潤也
新家
松田
柿沼
宅森
花田
義貴
寿隆
点
昭吉
普
※機関名、個人名は発表時点。
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2012 年 度 優 秀 フォーキャスターに聞 く
ESP フ ォ ー キ ャ ス ト 調 査 委 員 長
小峰隆夫・法政大学教授
ESP フ ォ ー キ ャ ス ト 調 査 に つ い て は 、 調 査 開 始 以 来 、 予 測 対 象 年 度 の 実 績 が 出 る た
び に 、参 加 フ ォ ー キ ャ ス タ ー の パ フ ォ ー マ ン ス を 評 価 し て き て い る 。今 回 、2012 年 度
の実績が判明したのを受けて 9 回目の評価を行った。
今回評価を行って、改めて感じたのは次のような点である。
第 1 に、今回の評価においても「コンセンサス予想は良い予想である」ということ
が示された。すなわち、毎月公表している予測総平均(コンセンサス)を一人のフォ
ーキャスターだとすると、このコンセンサスは総合成績で第 6 位となった。
この点についてはもはや全く驚かなくなった。第 1 回以来、全ての評価においてコ
ンセンサスはベストテンに入る成績を収めているからだ。詳しい説明は省略するが、
なぜそうなるのかも解明されている。
第 2 に 、成 績 優 秀 5 氏 に つ い て は 、か な り お 馴 染 み の メ ン バ ー が 増 え つ つ あ る 。今
回の優秀フォーキャスタの中では、第一生命経済研究所の新家義貴氏が、5 回目の優
秀フォーキャスター入りで、しかも 5 年連続という快挙を実現している。一度、経済
予測の秘訣を聞いてみたいものだ。
第 3 に 、 ESP フ ォ ー キ ャ ス ト 調 査 で は 、 常 に 「 強 気 8 機 関 と 弱 気 8 機 関 」 の 平 均 も
合わせて公表しているのだが、私はかねてから「景気後退期には弱気派の見通しが、
景気上昇期には強気派の見通しが当たる」という仮説を持っているのだが、今回はこ
の 仮 説 が 見 事 に 当 て は ま っ た 。2012 年 度 は 景 気 後 退 期 に 当 た っ て い た の で 、総 合 成 績
に お い て 、 強 気 8 機 関 が 37 人 中 37 位 ( ビ リ )、 弱 気 8 機 関 が 堂 々 の 第 1 位 と な っ た
からだ。
2013 年 度 か ら 14 年 度 に か け て の 日 本 経 済 は 、「 ア ベ ノ ミ ク ス の 影 響 が 経 済 に ど う
現われるのか」
「 消 費 税 率 引 き 上 げ の 影 響 が 経 済 に ど う 現 わ れ る の か 」な ど 注 目 点 が 多
く、フォーキャスターの腕前が問われる局面が続きそうである。来年の評価をするの
が今から楽しみである。
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2012 年 度 優 秀 フォーキャスターに聞 く
JP モ ル ガ ン 証 券 株 式 会 社
菅野
経済調査部長・チーフエコノミスト
雅明(かんの・まさあき)
【プロフィール】
1974 年 東 京 大 学 経 済 学 部 卒 。1979 年 シ カ ゴ 大 学 大 学 院 経 済 学 修
士 。 1999 年 4 月 JP モ ル ガ ン 証 券 入 社 、 現 職 。
(問1)消費増税でもデフレ脱却は大丈夫でしょうか。
消 費 増 税 に よ る 2014 年 度 GDP 押 し 下 げ 効 果 は 1.2% 。 こ の う ち 0.6% 分 は 経 済 対 策
で カ バ ー さ れ る 見 込 み だ が 、 2013 年 度 の 景 気 対 策 等 に よ る 財 政 要 因 が 剥 落 す る た め 、
2014 年 度 成 長 率 は 潜 在 成 長 率 並 み の 0.7% と な ろ う 。景 気 後 退 は 回 避 さ れ る 見 込 み だ 。
デフレ脱却については需給ギャップ効果と期待インフレ効果に分けて考える必要があ
る 。前 者 は 、今 後 の 平 均 成 長 率 を 1.5% と み な す と 、需 給 ギ ャ ッ プ は 2016 年 度 に 解 消 、
2018 年 度 末 に +1.3% に 拡 大 す る と 予 測 す る 。 た だ し 、 こ れ だ け で は 2% イ ン フ レ 到 達
は困難だ。期待インフレ率の上昇が必要だが、フィリップス曲線の上方シフトは緩や
かであろう。鍵は賃金の行方。今後は労働需給がタイト化し賃金が上がり易い環境に
な る が 、時 間 給 の 低 い 医 療 ・福 祉( と く に パ ー ト )な ど へ の 雇 用 シ フ ト が 続 く の で 、賃
金 上 昇 は 緩 や か に 止 ま ろ う 。デ フ レ 脱 却 は 可 能 だ が 2% イ ン フ レ 到 達 は 5 年 後 と み る 。
(問2)中長期の日本経済を展望したとき、どんな政策が必要だとお考えですか。
イノベーションを促す規制緩和と税制改革で潜在成長率を押し上げる一方、財政健
全化も追求する「二兎を追う」政策が必要だ。前者は農業、医療、雇用の岩盤規制を
大 幅 に 緩 和 す る 一 方 、法 人 税 も 25% 以 下 に 引 き 下 げ 、海 外 企 業 の 対 日 進 出 を 促 す こ と
で国内にグローバルな競争環境を生み出すことが求められる。財政健全化も急務だ。
イ ン フ レ 目 標 2% が 実 現 す る と 、 日 銀 は 量 的 緩 和 を 縮 小 せ ざ る を 得 な い 。 そ れ ま で の
間に財政赤字の大幅削減が視野に入らないと、国債利回りが急上昇するリスクが発生
する。米国の量的緩和縮小観測で米国長期金利が急上昇したのを忘れてはならない。
2018 年 10 月 に 消 費 税 率 を 15% へ 引 き 上 げ る こ と が 最 低 条 件 だ 。 同 時 に 社 会 保 障 費 の
削 減 も 必 要 。2% イ ン フ レ 達 成 時 ま で に は 規 制 緩 和 、法 人 税 率 引 下 げ 、消 費 税 率 引 上 げ 、
社会保障費削減を実現する必要があり、強い政治的リーダーシップが求められる。
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2012 年 度 優 秀 フォーキャスターに聞 く
株式会社第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト
新家 義貴(しんけ・よしき)
【 プ ロ フ ィ ー ル 】 1998 年 に 東 京 大 学 法 学 部 卒 業 後 、 第 一 生 命 保
険 入 社 。 同 年 、 第 一 生 命 経 済 研 究 所 へ 出 向 。 2002 年 に 内 閣 府 出
向 。 2004 年 に 第 一 生 命 経 済 研 究 所 に 復 帰 後 、 2011 年 よ り 現 職 。
(問1)消費増税でもデフレ脱却は大丈夫でしょうか。
消 費 増 税 が 先 行 き の 景 気 下 押 し 要 因 で あ る こ と は 間 違 い な く 、 14 年 度 の 景 気 が 13
年度に比べて減速することは避けられない。だが、増税決定と同時に経済対策の実施
も 表 明 さ れ 、悪 影 響 緩 和 策 は 打 た れ て い る 。加 え て 、13 年 度 の 企 業 業 績 大 幅 改 善 が 波
及 す る こ と で 、14 年 度 に は 設 備 投 資 や 雇 用 ・ 賃 金 の 改 善 が 見 込 ま れ る 。海 外 景 気 の 失
速 等 が 生 じ な い の で あ れ ば 、14 年 度 も 緩 や か な 景 気 回 復 が 実 現 可 能 と 見 る 。デ フ レ 脱
却への動きは途切れないだろう。
景気回復に伴う需給バランスの改善に加え、企業や家計の期待インフレ率も上昇す
る 可 能 性 が 高 く 、 物 価 を 取 り 巻 く 環 境 は 改 善 し て い く 。 14 年 度 は 、 食 料 ・ エ ネ ル ギ ー
を 除 い た 、い わ ゆ る コ ア コ ア C P I の 上 昇 が 明 確 化 す る こ と に 加 え 、
(消費税要因を除
いた)GDPデフレーターもプラスに転じ、デフレ脱却と言って良い状況になるだろ
う。
(問2)中長期の日本経済を展望したとき、どんな政策が必要だとお考えですか。
平凡な回答になるが、規制緩和を進めることが重要だ。高齢化・人口減が続く日本
では、規制緩和で労働生産性を高めていくしかない。
過剰な規制が民間の経済活動を阻害し、成長分野の出現を妨げていることが、日本
経 済 が 抱 え て い る 大 き な 問 題 で あ る 。政 府 は 、
「 民 間 に で き る こ と は 民 間 に ま か せ る 」、
「企業の競争環境を整える」ことに注力すべきだろう。政府は特定の産業を後押しす
る必要はない。成長分野は、民間部門の競争の結果、自然に生まれる。その際、成長
分野へのスムーズな労働移動が可能になるよう、労働規制の緩和も必要だ。
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2012 年 度 優 秀 フォーキャスターに聞 く
BNP パ リ バ 証 券 株 式 会 社
経済調査本部長チーフエコノミスト
河野龍太郎(こうの・りゅうたろう)
【プロフィール】
1987 年 横 浜 国 立 大 学 経 済 学 部 卒 、 住 友 銀 行 入 行 。 大 和 投 資 顧 、 第
一 生 命 経 済 研 究 所 を 経 て 、 2000 年 か ら 現 職 。
(問1) 消費増税でもデフレ脱却は大丈夫でしょうか。
追加財政が続けられ、需給ギャップ改善が続くため、デフレ脱却は大丈夫と考える
が、財政破綻確率の上昇が心配。今回、増税の悪影響を相殺するために 5 兆円もの追
加 経 済 対 策 が 決 定 さ れ た が 、2013 年 2 月 に 2012 年 度 補 正 予 算 と し て 10.3 兆 円 の 大 盤
振 舞 も 決 定 さ れ て い た 。結 局 、増 税 の 前 後 で 、計 15 兆 円 の 財 政 資 金 が 投 入 さ れ る 。公
的債務の膨張を止めるために増税を行っているのだから、バラマキを続けていては本
末 転 倒 。こ の 調 子 で 行 く と 、2015 年 10 月 の 消 費 増 税 へ の 対 応 策 と し て 、来 年 末 に 2014
年 度 補 正 予 算 が 準 備 さ れ 、増 税 後 の 景 気 の 落 ち 込 み 回 避 を 目 的 に 、2015 年 度 も 補 正 予
算 が 編 成 さ れ る 。2016 年 に は 衆 参 両 院 で 選 挙 が 予 定 さ れ て い る た め 、景 気 を 落 ち 込 ま
せるわけにはいかないと政府・与党は考えるだろう。大規模な追加財政が繰り返され
る の か 、 さ も な く ば 2015 年 10 月 の 消 費 増 税 が 先 送 り さ れ る か 、 い ず れ に せ よ 心 配 。
(問2)中長期の日本経済を展望したとき、どんな政策が必要だとお考えですか。
喫緊の課題は、社会保障制度改革を伴った信頼に足る財政健全化。日本の社会保障
制度は、経常収入で経常費用を賄えない状況にある。人口ボーナス時代に作った大盤
振舞の制度を放置し、改革を先送りしてきたため、人口ボーナス時代が終焉した途端
に、財政面で大きな綻びが生じた。社会保険という建前になっているが、巨額の国庫
資金の投入なしでは、運営が不可能となっている。一方、税収も全く増えていないた
め、日本の社会保障制度は、文字通り、公的債務の拡大(=将来世代へのツケ回し)
を前提に運営されている。こうしたバケツに空いた穴を塞ぐために消費増税は不可欠
だ っ た 。た だ し 、今 回 の 増 税 で 全 て の 穴 が 塞 が れ る わ け で は な い 。消 費 税 率 を 20% に
引上げても、社会保障関係費の膨張を止めなければ、半永久的に増税を続けなければ
ならず、限界が訪れたところで、日本の社会保障制度、財政制度は破綻を来す。
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ESP フォーキャスト調査
日本経済研究センター
2012 年 度 優 秀 フォーキャスターに聞 く
富国生命保険相互会社
森実
財務企画部 チーフエコノミスト
潤也(もりざね・じゅんや)
【プロフィール】
1995 年 3 月 早 稲 田 大 学 商 学 部 卒 。 1995 年 4 月 富 国 生 命 保 険 相 互 会
社 に 入 社 。 本 社 ・ 支 社 業 務 な ど を 経 て 、 2001 年 6 月 か ら 現 職 。
(問1)消費増税でもデフレ脱却は大丈夫でしょうか。
デフレ脱却後の消費増税の方が本来であれば好ましいが、現状の日本の財政状況や
人 口 動 態 を 鑑 み る と 喫 緊 の 課 題 で あ り 、先 行 し て 消 費 税 を 引 上 げ る の は や む を 得 な い 。
今回、恒久的な消費増税と5兆円規模の経済対策を組み合わせたことに加え、海外経
済の持ち直しや企業の前向きな姿勢等を背景に、景気の腰折れを回避し、デフレ脱却
は出来ると見込んでいる。増税前の家計の前倒しの行動によって、企業の収益は上振
れるとみられ、それを家計に循環できるかが重要なポイントとなる。その点、政府の
政策対応が見込まれる中、大企業を中心とした賃上げ(一時金含む)や就業者の増加
により、全体の実質所得の減少を和らげると見込んでいる。ただし、中国をはじめ海
外経済は、様々な歪みを抱えており、それが顕在化した時のリスクが大きいことには
注意が必要である。
(問2)中長期の日本経済を展望したとき、どんな政策が必要だとお考えですか。
社 会 保 障 と 税 の 一 体 改 革 を 早 急 か つ 抜 本 的 に 実 施 し 、社 会 保 障 費 の 増 大 ペ ー ス に 歯
止めをかける一方で、将来的な財源を明確にすべきである。財政再建への道筋を描く
ことで、国民の将来不安を払拭し、日本国債の信認を保つしかない。その一方で、民
間の活力を伸ばす成長戦略が欠かせない。東京オリンピックを飛躍のきっかけにイン
バウンド施策を充実させるとともに、アジア等の海外需要を取り込むべく通商等の政
策 を 進 展 さ せ る 必 要 が あ る 。ま ず は 国 家 戦 略 特 区 を 足 が か り と し て 規 制 緩 和 を す す め 、
それを徐々に全国規模で展開し、また、特措法の一部廃止と併せ先進国並みに法人税
を引き下げること等で、国内への投資を活発化させる。人口動態面では、女性の活躍
推進や少子化対策に向けた政策を充実させる必要があるし、将来的な外国人の受け入
れ増に関する国民的な議論を始めるべきと考えている。
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