88 - 日本放射線技術学会 東北部会

超音波診断装置におけるファントムの作成
中条中央病院 放射線室
○皆川 靖子
弦巻 正樹
(Minagawa Yasuko)
(Tsurumaki Masaki)
関川 高志
臼井 顕之
(Sekikawa Takashi)
(Usui Akiyuki)
風間 清子
(Kazama Kiyoko)
新潟大学医学部保健学科
関谷 勝
(Sekiya Masaru)
【はじめに】
デジタル化や画像処理技術の進歩は、比較的容易に、多くの画像情報を提供することを可能にした。超
音波診断装置においても、THI(Tissue Harmonic Imaging)、組織の硬さを画像化する組織弾性イメージング
など多様な技術が付加されるようになった。しかし、日常行われる検査の基本画像は、B モードによる断層
像がほとんどで、超音波の基本的な特性は変わらない。精度の高い超音波検査のためには、表示される
画像の基本的な特性や信頼度を理解し、検査や計測を行うことは重要である。超音波診断装置の性能評
価 QA ファントムは経年変化を伴い、絶対的なものは存在しない。
今回、身近にある素材を用いて超音波診断装置の QA ファントムの作成を行い、超音波の基本特性の理
解を深め、装置の特徴を確認するために性能評価のひとつであるスライス幅の測定を試みた。
【使用機器】
・LOGIC 500 GE 横河メディカル
・リニアプローブ
・自作ファントム
・画像解析ソフト Image J
【方法】
ファントムは、アクリル板の水槽(25cm×25cm×25cm)、天然ゴム(2mm 厚)、ナイロン糸(0.1mm)等の材
料を用いた。超音波ビームに対してナイロン糸が縦、横それぞれ 45 度に交わる断層像を得られるファント
ムを考え、縦方向の断層像用ファントム 1(Fig.1)、横方向の断層像用ファントム 2(Fig.2)を作成した。ファン
トム 1 はアクリル水槽の底と、側面にそれぞれ天然ゴムを張った。プローブが側面に近づくことによって起こ
るアーチファクトを軽減するために、ファントム 1 のみ側面にゴムをはりつけ,ナイロン糸を底から上方に張
って固定した。水槽が立方体であることから糸の角度は縦に 45 度となる。ファントム 2 は、水槽の底に天然
ゴムを敷きナイロン糸を底の面と平行に張った。糸は、水面からの深さを矢印のように変化させて測定を行
った。
スライス幅の測定は、水面のプローブからナイロン糸までの深さを 5mm から 30mm に変化させて糸の断
層像を撮影し、そのプロファイルからスライス幅を求めた(Fig.3)。水槽は 40 度の脱気水で満たした。
Fig.1 縦方向用ファントム 1
Fig.2 横方向用ファントム2
45°
(a)
(b)
(c)
Fig.3 (a)ビームと 45 度に交わるナイロン糸 (b)ナイロン糸の断層像 (c)プロファイル
【結果】
測定結果を Table 1 に示した。装置の理論値は GE 社によれば、深さ 20mm でスライス幅 0.8mm である。
今回の測定では縦方向用ファントム 1 において深さ 20mm でスライス幅 1.2mm、横方向用ファントム 2 にお
いて深さ 20mm でスライス幅 2.0mm だった。ファントム 1 では深さ 5mm と 10mm で信号が弱く測定できなか
った。スライス幅の理論値と測定値には若干の差がみられ、プローブの近位と遠位では、スライス幅に差が
あった。
Table 1
深さ
ファントム1
ファントム 2
5
測定不能
1.6
10
測定不能
1.2
15
1.8
1.6
20
1.2
2.0
25
1.6
3.5
30
1.8
4.2
単位:mm
【まとめ】
スライス幅の理論値と測定値の差は、試作ファントムの作成法および測定法がその一因と推察される。測
定結果から、スライス幅はプローブからの距離によって差があり、分解能に影響することが考えられる。プロ
ーブのスライス幅を考慮して検査や測定を行うことが、よりよい画像を得るために必要であることが確認でき
た。今後は、ファントムの作成と測定法に検討を重ね、測定精度の向上を図りたい。
【参考文献・図書】
1) 稲田哲雄監修,佐藤伸雄編集:放射線診療における品質管理,医療科学社,東京,1997
2) 東泉隆夫:超音波ファントム,超音波検査技術,Vol.18No.2,1993
3) 島野俊彰:超音波断層像の高画質化と最新技術,vol.29.No.7,2004
4) 中村 實監修:X線CT検査の実践,医療科学社,東京,2000
5) 田村 清,田中一史:超音波の原理と限界―正しい超音波検査を行うために―,超音波検査技術
vol.29.No.4,2004
6) 社団法人 日本放射線技師会編集:放射線安全管理の手引き,医療科学社,東京,2003
7) 安本浩二:超音波の基礎,日本放射線技術学会雑誌,60巻,第1号,2004