LIVING IN BELOW-GROUND DWELLINGS OF THE WORLD -CHINA,AUSTRALIA,TUNISIA AND SPAINKazuya INABA ( Aichi Konan College) Historical and traditional below-ground dwellings, accommodating today a large number of people are situated in many places of the world. This paper describes the examples of vernacular cave dwellings in four locations -China, Australia, Tunisia and Spain- in order to illustrate how history, geology and climate may have instigated the environment of vernacular cave dwellings. There are cave dwelling for isolation from severe cold, cave dwelling for isolation from intense heat, cave dwelling as protection shelter against the direct sunlight and the cave dwelling for isolation from brightness, noise and etc.. The vernacular cave dwelling is valued as concrete evidence of the psychological acceptability of living, sleeping, even working beneath ground level. The vernacular cave dwelling is constructionally and functionally integrated into its surroundings. 世界の地下住居のすまい方-事例報告- -中国、チュニジア、スペイン、オーストラリア- 稲 葉 一 八(愛知江南短期大学) 1.はじめに 歴史的、伝統的な地下式住居(洞窟式住居)は世界の各地にあるが、現在、多くの人々が伝統的な地 下(洞窟)式住居で生活している地域としては、中国黄河流域の黄土高原一帯、スペインのアンダルシ ャ地方のグアディ、バーザ、セテニール、チュニジア南部のマトマタ、シェニーニ、トルコのカッパド キア地方のユルギュップ、イタリアのマテーラ等がよく知られている。また、南オーストラリアのクー バーペディでも比較的新しい地下式住居で多くの人々が生活をしている。 地下(洞窟)式住居は比較的乾燥して寒暖の差が激しく、建築材料に恵まれない地域の人々が自然の 脅威から身を守るため、地質地形を考慮して考え出した形態である。そして人々は安定した地中温度を 利用した熱環境下で生活を続けている。 ここでは、地下(洞窟)式住居を特異な住環境としてではなく、風土に密着した当たり前の住環境と してとらえ、中国、チュニジア、スペイン、オーストラリアの4つの地域の構造的にも機能的にも周囲 の環境に融合している土着地下(洞窟)式住居を主に熱環境の面からみた事例について報告する。 2.中国黄河流域の窰洞式住居(YAODONG)1) 2.1 地理的概況 伝統的な窰洞式住居村落が広く分布する中国黄河流域の黄土平原一帯は、中国の植生区分図によると、 温帯落葉広葉樹林区と温帯草原区に位置し、ケッペンの気候区分では温帯夏雨気候、草原気候に属する。 また、BOWEN の暑熱気候の分類でみると季間乾暑地域に属している。調査対象とした窰洞式住居村落 の所在地域の1月の平均気温は洛陽、三門峡地域で約-2℃、大原地域で約-8℃、蘭州地域で約-6℃、 7月の平均気温は洛陽、三門峡地域で約 28℃、太原地域で約 26℃、蘭州地域で約 22℃となり、年較差 は約 28~34℃である。また年間の降水量は約 300~500mm と少なく7、8月に集中している。 黄土高原の黄土は砂漠地帯から吹き寄せる微砂や泥土が堆積して出来た原生黄土と、河川により運ば れ河谷平野に堆積した二次黄土とに分けられる。調査対象とした地域の黄土層は層理をなさず約 15~ 40m 堆積している。 2.2 窰洞式住居の形態 黄土層に横穴を掘って住居としたものが窰洞式住居である。窰洞式住居には大きく分けて、靠山式と 下沈式の二種類の形態がある。靠山式窰洞住居は山懸式とも呼ばれ、台地の崖面や山の斜面に横穴を掘 った形式であり、下沈式窰洞住居は平坦な台地に一辺 10m 前後の矩計で、深さ約 6m の竪穴を掘るこ とによって出来る四壁面に横穴を掘る形式である。両形式とも数穴で一住居を構成し一つの窰洞の規模 は調査対象とした窰洞の場合、幅が約 2.5~3.5m、奥行き約 6~9m、高さ約 2.5~3.5m である。この種 の窰洞式住居は冬暖かく夏涼しい省エネルギー住居であると言われているが、採光、換気、除湿等の環 境面で多くの問題を抱えている。 調査対象とした窰洞式住居の内、河南省洛陽市郊外の塚頭村にある下沈式窰洞住居の平面・断面図を Fig.1に示す。 この下沈式窰洞住居は南面に開口部をもつ二つの南向き窰洞(東側と西側)を寝室、西向きの二つの 窰洞を台所、食事室(家事室)としており、東向きの窰洞は予備室として利用している。窰洞寝室の床 面は地盤面より約 6m 下の中庭(院)面より更に 45cm 下がっており、大きさは幅約 2.5m、奥行き約 6m でアーチ型をした天井頂部までの高さは約 2.7m と内部はやや小さい。南面の中央に一箇所半アー チを持つ小さな入口(幅約 100cm、高さ約 180cm、上部に約 70cm の欄間)が開けられているだけで 他に窓はない。内壁面は黄土仕上げで、床はたたき土間であり奥壁に接してベットが置かれている。 2.3 窰洞式住居の内部環境 実態調査により明らかになった内部環境の概況を列挙すると次のようである。 1) 窰洞内の気温は外気温日変動の影響を受けることは少なく日較差は小さい。春季には 14~17℃、 夏季には窰洞によって差があるが 23~29℃、冬季には条件の悪い北向き窰洞で約 3℃、他では 6~9℃ となっており年変動はみられる。 黄土層が夏季には冷熱源として、冬季には放熱源として窰洞内気温を大きく左右している。また下沈 式窰洞住居の四周囲を黄土壁で囲まれた中庭(院)が冬の寒さを防ぐ役目をしていることもうかがえる。 2) 窰洞内の湿度は春季夜間の就寝時に長時間にわたって 90%近くの高湿となる窰洞もみられる。夏 季の従来型の窰洞では終日かなりの高湿となり、特に窰洞内奥隅部分においては壁面が低温となるため 結露が発生し、夏季の熱環境の悪さが確認された。 春季、冬季、夏季における温湿度の日変動に関する測定結果を日気候図として示したものが Fig.2で あるが、これからも窰洞内奥隅部はほぼ一日中湿性カビ発育範囲にあり、熱環境条件が悪いことがわか る。 3) 換気量は 35~56m3/h(換気回数 0.4~0.7 回/h)であり、大人2~3名までの就寝は良いが、窰洞 内での軽作業及び炊事などによる水蒸気の発生を考えると換気経路の検討と共に換気量の増加を計る 必要がある。 4) 採光面積が床面積の約 1/10 以下の窰洞が多く、それらの窰洞の昼光照度は窓、入口から約 2~3m 奥で晴天日でも約 100lx以下となるため、それより奥を生活スペースとして使うことは不都合である。 5) 残響時間については、約 803m までの容積の窰洞は会話の最適残響時間に近い値を示しているの で問題はないが、窰洞容積が約 150m3 以上となる場合は残響時間が長くなることが考えられる。 3.チュニジア南部マトマタの下沈式地下住居 3.1 地理、歴史的概況 地中海の南岸に位置する小さな国チュニジアの首都チュニスから南へ 380Km 行くと、オアシスの町 ガベスがある。ガベスから更に南西 20Km のところに、月の表面を思わせるクレーターの中に隠れるよ うにしてマトマタの村はある。 マトマタ山地の地下住居村落は7世紀に侵略してきたイスラム集団に苦しんだベルベル人の砦とし て造られ、その後種々形を変えながら発展してきたのである。地下住居村落は大きく三つのタイプに分 けることができる。一つは、渓谷に連なる高さ 300~500m の石灰岩の峰の回りに段々状に横穴を掘っ た家に住み、現在でもベルベル語が話されている山頂の村、もう一つは、侵入して来たアラビア人との 関係改善を求め山を下りアラビア人と混血し、中腹の水場近くの高台での生活を始めたアラビア語を話 す山腹の村、そして残る一つは、谷間の平坦地に洞窟住居を構えて住みついた下沈の村である。 この地方は日射が非常に強く、蒸発量が降水量を上回るため土中の塩分が多くなり農業には適さない 土地であるが、マトマタのベルベル人はこの地にすみつき、長い歴史のなかで構築するのに建築材料や 水を必要としないこの種の地下住居を考えだしたのであろう。 3.2 下沈式地下住居の概要 調査したマトマタの下沈式地下住居の平面・断面図を Fig.3に示す。 マトマタの下沈式地下住居は平坦地に直径約 10m、深さ約 6~7m の縦穴を掘り、この中庭に面した 周囲の壁に横穴を掘って部屋としたものである。この地方の土は均質な砂混じりの石灰石で、しかも非 常に乾燥しているため穴は比較的掘りやすいと思われる。この地下住居はゆるやかに傾斜した平坦地に 掘られているため主道路から見ることは出来ないが、トンネル状の入口を通って入って行くと開放され た縦穴状の中庭に出る、その中庭に面して寝室、炊事場、食事室、家族室そして倉庫等が横穴状に造ら れている。二層になった横穴の上層部は穀物貯蔵庫として利用される。家畜小屋や生活用具置場などは 入口からのトンネルに沿って造られている場合が多い。 一室の大きさは、種々な形によって違いはあるがおよそ幅 3.2m、奥行 7m、ボールト状の天井頂部ま での高さは 2.5m であり、中庭に面した壁には縦約 160cm、幅約 80cm の木製扉がついているだけで窓 は全くない。室内壁を白く塗ることによって少しでも反射光を利用しようとしている家もある。 3.3 下沈式地下住居の熱環境 冬の夜間は 2~3℃であるが、夏期の月平均気温は 35℃にもなり年間降水量は冬期だけの約 100mm しかないという猛暑と乾燥の苛酷な気候条件のこの地方では地下住居は夏涼しく、冬暖かい快適な空間 と考えられている。 太陽の輻射熱が土中の温度変動に及ぼす影響をみてみると、深さ 5~10cm 位までは輻射熱の影響を まともに受けて日変動するが、土中深くなるに従ってその熱波は減幅、時間遅れを増し、地表から 10m 以上になると土中温度は一年間ほぼ安定してくる。つまり、ある深さ以上になると地表面に降り注いだ 太陽エネルギーは非常にゆっくりと確実に土中に伝わり、冬期にはその熱を地下空間に供給し、夏期に は逆に冷熱を供給し、年間を通して快適な熱空間を造り出す役目をしているのである。地下居室の温湿 度の日変動の状況を知るため、Fig.4に測定結果を示す。また、チュニジアでは 10m の深さの中庭は、 その穴口の広さから底に太陽光線が届く限度となる。従って、 深さ 4~10m の間に住居を造るのである。 このことを人々は自の体験から知ったのであろう。 地下居室の換気は不足気味であるが、夏期の厳しく乾燥した暑さの気候条件下では、通風の促進はむ しろ居住空間の気温を上昇させるのではないだろうか。 4.スペイン-アンダルシア地方の地下住居(CUEVAS) 4.1 地理的概況 スペイン南部のアンダルシア地方は、地形上グアダルキビル河谷平野のある低アンダルシアとスブベ ティカ山脈とベニベティカ山脈がある高アンダルシアの二つの部分に分けられる。 調査の対象としたのは高アンダルシアのベニベティカ地溝に位置するセテニール、グラナダのサクラ モンテ、グアディックス、バ-ザ地域の地下住居である。アンダルシアは地中海性気候に属するが、ベ ニベティカ地溝は北と南を高い山脈群に挟まれており、雨がほとんど降らない圧倒的な乾燥地帯である。 この地方に最も近いアルメニアの気象データによると、年間の降水量は 236mm と少なく、そのうえ地 下住居のある山脈内の盆地では夏季に4、5日小雨がぱらつく程度という地域もある。冬季は最低気温 -1℃前後とさほど厳しくはないが夏季は日中最高気温が 40℃~45℃となる日が続きかなり厳しい気 象状況である。 4.2 バーザ地域のスペイン式地下住居(クエバス) バーザはグラナダ市の北東方 107Km のバーザ山中の標高 870m 付近に位置し、南のバーザ山脈と北 のセグラ山脈にはさまった陥没低地(ベニベティカ地溝)にある小さな町である。町の中心から少し丘 を上った、緩やかな丘の斜面に比較的昔の姿に近い形をしたクエバスが多くある。この丘にはジプシー が生活しており、よそ者を寄せ付けない、何となく違和感のある緊張した雰囲気に包まれいるようであ る。丘の中腹から上のほうには、崩れ落ち廃墟となったクエバスが多く見られる。丘の斜面の表面には 小さな岩があちこちに出ているが土質は小石まじりの砂岩で、比較的均質で微粒な砂が締め固まってい るという感じである。道具さえあれば手でも掘れそうであるが、絶えず補強や補修をしないと崩れ易い 土質である。 Fig.5に調査したクエバスの平面・断面図を示す。このクエバスは比較的昔の原型を止めていると思 われる。 南に前庭があり、片開きの板戸(昼は目隠し程度のカーテン)を開けて中に入ると、奥行き約 2.7m×幅 約 2.7m、天井高は約 2.5m の部屋がある。床は地土のままであり、壁や天井には石灰が塗ってある。部 屋の隅には椅子や小さな箱(机として使用か)が置いてあり、居間として使用していると思われる。そ の奥の部屋は少し床が高くなっており、入り口のカーテンをめくると大きなベットのある主寝室である。 寝室の右手にも部屋がある。居間の左側に暖炉のある台所・食事室があり、椅子、棚、食卓机らしきも のが置いてある。その奥の部屋には飲物類のビン、穀物袋、かめ等が置いてあり部屋に張ったロープに 様々な衣服類がかかっており、納戸として使っているようである。 寝室も台所・食事室も納戸もほぼ同じ大きさと形をしており奥行き約 2.7m×幅約 2.7m の正方形に近 い部屋である。外側の窓の位置から考えると入り口の部屋(居間)の右側にも奥の寝室から出入りでき る部屋があると考えられるので、部屋は全部で6部屋である。クエバスの屋根に相当する部分は一般の 道になっており、その道脇にクエバス特有の形をした煙突の上部が突き出ている。特に、内部の換気に 工夫はないようであるが、暖炉にある大きな煙突と入り口と窓が常に開放されていることと、この地方 の空気が乾燥していることを考えると室内の空気状態はよいと思われる。 4.3 グアディにある改良クエバスの温湿度記録 グアディはグラナダ市の北西約 50Km に位置し、ネバダ山脈北側の山麓でグアディ川左岸の、潅漑に よる豊かな耕作地に囲まれた町である。 調査したクエバスはグアディ駅の裏手にあたる地区の小高い禿山に五十~六十年前に掘られたもの を、スペインの技術学校教員である主人が改修したものである。入り口の床にはレンガが敷いてあり、 窓は大きく、明かりを十分に取り入れている。生け垣のある広い前庭とうす茶色の砂岩(凝灰岩)と真 っ白い外壁を見ていると洒落た別荘のようで、ここまで改良できれば、快適な生活を楽しむことができ ると思う。 ここの主人の協力で一年間にわたり気温と湿度の測定ができた。その記録を Fig.6に示す。 5.南オーストラリア-クーバーペディ-の地中住居(DUGOUT) 5.1 ク-バーペディーの厳しい気象 2) ク-バーペディーは南オーストラリアの州都アデレードの北約 940Km、オーストラリア大陸の中央 部に広がるビクトリア砂漠の東南端に位置し、厳しい砂漠性気候下にある町である。Fig.7にクーバ- ペディ-と名古屋の日最高・最低気温と降水量の比較を示す。クーバ-ペディ-地方の年間降水量はわ ずか 139mm で、名古屋の降水量 1575mm の10分の1以下である。また、降水日数も年間 26 日しか なく、雨なしの日が何日も続く。 世界で最も乾燥していると言われるオーストラリア大陸全体の平均降水量が一年間に約 470mm であ ることを考えるとクーバーペディーは最乾燥地域の一つであることがわかる。夏期の日最高気温の平均 も 36~37℃と名古屋の8月より 4~5℃高く、日較差も 16℃前後と名古屋の 9℃より大きく、寒暖の差 が激しいことがわかる。さらに、太陽光線は強烈で、地面からわずかな水分も見逃さずに蒸発させてし まう。 5.2 ダッグアウト地下住居 クーバーペディーは 1915 年に金鉱脈探しの父親とやってきた少年が最初にオパールを発見したのが きっかけで、この不毛の地に人々が集まりつくられた町である。1916 年にオパール採掘者達が移住し 始め、第一次世界大戦後には戦場から多くの軍人がクーバーペディーにやってきた。その軍人のなかに フランス戦線で何ヵ月も塹壕生活をしたことのある者が、この地方の暑さを避けるために『ダックアウ トDUGーOUTS』という斬新な地下住居を考えだし、それが広まったと言われている 3)。典型的な ダッグアウト地下住居の平面・断面図を Fig.8 に示す 4)。 ダッグアウト地下住居はこんもりと盛り上がった丘の横腹を掘って、堀だし方式で地中に家をつくる もので、入口(玄関)に大きなひさしがせりだしているのが特徴でもある。 冬は夜間でも 4℃位であ るが、夏の昼中は 45℃以上になることがあり、ときに猛烈な砂嵐が襲うという厳しい自然から身を守る ために考え出された生活空間である。そして現在では、いろいろと工夫を凝らして室内の内装も良くな り、年間を通して 21~26℃と夏涼しく、冬暖かい快適な地下空間をつくりだしている。 我々の冬の測定では、外気温度は朝7時頃に 6.2℃、昼の12時頃に最高の 20℃を示したが、室内は 我々が寝ている部屋で 20~22℃であった。外気の湿度は夜間 75%になるが、昼間は 28%と乾燥気味で あった。しかし、部屋の中は 40~46%を保っていた。各部屋の天井部分に直径約 20~30cmの換気の ための筒が地上まであいているため閉じ込められた空気という感じはまったくない。しかし、外の光は とどかないため昼間でも蛍光灯か電灯を点灯する必要があった。 5.3 外部環境が居住者に及ぼす影響-Sydney A.Baggs の報告 5)- 地下空間での生活が心理的に、肉体的に居住者に与える影響を知るためにクーバーペディーでアンケ ート調査が行われた。クーバーペディーでは約半数の人が地上住宅で生活し、約半数の人が地下住居で 生活しており、したがって人々は地下での生活様式の長所と短所を体験しているか、少なくともそれに 関する知識はもっている。 調査は各家庭を訪問し、種々の項目についてインタビューするという形で行われたが、この時、イン タビューに訪れた人に対する態度が地上住宅の回答者と地下住居の回答者とでは非常に異なることが 明らかになった。つまり地下居住者が紳士的で協力的であったのに対し地上居住者は粗暴的で拒否的な 態度を示したのであった。周囲の種々の環境要素が関係していると思われるが、この両者の態度の違い の要因を次のように分析している。 熱、眩しさ、乾燥した風、埃、地理的な孤立、高温が続く夏等を全ての回答者は体験しているが、地 上居住者は多くの外部環境に長期間さらされてきたのに対し、地下のダッグアウト住宅の人はこれらの 環境要素からむしろ保護されてきた。 地上住宅での生活者は居住環境が常に次のような状態であるために環境から受ける刺激が増大しス トレスが溜まって行く。 (1)低湿度:クーバーペディーの空気は常に非常に乾燥している。 (2)高温:夏の暑さは相当なもので、クーラーを付けても効き目はほとんどない。 (3)風にさらされる:常に風が吹いており、夏の砂塵混じりの暑い風や冬の冷風にさらされ、また風 の音にも悩まされる。 (4)眩しさと高照度:強烈な太陽の光が常に降り注ぎ、窓から差し込む光りの影響が強い。 (5)空気の陽イオン化:異論があるかもしれないが、空気の陽イオン化によって高い緊張と不安が生 じ、時には憂欝感さえ生じることがある。 地下住居での生活者は次の状態のために環境から受ける刺激が減少する。 (1)窓が無い、窓が少ない:外の熱や眩しさから守るためにも窓は小さい方が良い。ダッグアウトで 生活している人々は低照度を好むように思われる。 (2)騒音の減少:周囲の騒音によって不安感も高まることは確かであるから、騒音が減少するという 地下住宅の特長は大きな利点である。 (3)熱や光が弱い:低照度であることや気温が快適であることは人をリラックスさせる。 温度は一日中そして年中ほとんど一定で、風からは完全に保護され、湿度は高めで、明りもやわらか くすばらしい状態である地下の環境においては、人々は「完全な休息」や「完全な睡眠」を取ることが 出来るという。 6.おわりに 歴史的、伝統的な地下(洞窟)式住居は厳しい暑さや寒さ、強烈な太陽の直射光線と明るさ、眩しさ、 強風と騒音などその地域の自然環境から身を守るために、建築材料に恵まれない人々が独自に考え出し た住形態である。地下住居を特異な住環境ではなく、当たり前の住環境として調査した中国の YAODONG、チュニジアの沈下式地下住居、スペインの CUEVAS、オーストラリアの DUGOUT はそ の風土に密着し、溶け込んでおり、この種の地下空間において人々は生活や睡眠そして労働さえも心理 的に満足しているのではないかと思われる。 降水量が極端に少ない乾燥地域での地下住居調査を通して、自然環境の中でも特にその土地に降り注ぐ 強烈な太陽光線が地下住居の形態に大きな影響を及ぼしているのではないかと感じた。太陽光線は大気 中の空気分子、塵、水蒸気、炭酸ガスなどの散乱作用、選択吸収によって弱められて地表に届くが、こ れらの地域では大気中の水蒸気が極端に少ないため太陽光線がより強烈になるのである。一連の調査を 通して大気中の水分の大切さを実感した。 参考文献 1)稲葉一八・宮野秋彦・水谷章夫:中国黄河流域窰洞式住居の内部環境に関する調査(第 1 報)~(第 5 報)、 日本建築学会東海支部研究報告集、第 23 号~第 25 号、1985~1987 2) David W.Baggs:The Lithotecture of Australia-With Specific Reference to Thermal Factors-,GEOTECTURE JOURNAL,Vol 1(No.4),21/25,1984 3) Kerry E.Medway:Coober Pedy Opal Capital of the World,COOBER PEDY Opal Wonderland of Australia,Bushwacker Publishing Co., 4) Sydney A.Baggs et al.:Design and Construction Principles,Austrarian Earth-coverd Building,New South Wales University Press,19,1985 5) Sydney A.Baggs:Environmental Factors Influencing Attitude in Australians Living in Above- and Below-Graund Dwellings in an Arid Region Mining Town,Proceeding of The Intenational Symposium on Earth Architecture,1,1985 *この研究論文は、第17回人間―生活環境系シンポジウム(大阪 平成5年12月)で発表したもの を再構成したものです。
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