国家ビジョン研究会 第4回 ガスエネルギー小委員会(GEC) メタンハイドレート 試掘から商業生産に伴う リスクマネジメントの課題と解決策 2012年9月13日 目次 1.従来型ガス田開発に関する保険手配 <1>アップストリームエナジーとダウンストリームエナジー <2>天然ガス開発における保険手配の有無 <3>各種保険手配の主体 <4>天然ガス開発における保険種類 <5>開発フェーズごとの保険種類と概要 <6>財物保険の目的 2.メタンハイドレート商業生産にむけて <1>生産施設を取り巻く主なリスク <2>メタンハイドレートから産出されたガスの陸上への輸送方法 <3>メタンハイドレート生産におけるリスク評価 <4>一般的な保険の手配方法 <5>保険者の視点 <6>プロジェクトオペレーターとしてのリスクの洗い出し <7>リスクの評価例 3.アップストリームエナジーマーケットの概況と損害発生の状況 <1>アップストリームエナジー保険の引受能力(マーケットキャパシティ) <2>アップストリームエナジー保険のマーケットキャパシティと保険料水準の推移 <3>最近の事故情報 <4>浮体式生産施設の損害発生傾向 <5>パイプラインの損害発生傾向 4.まとめ 1 1.従来型ガス田開発に関する保険手配 2 <1>アップストリームエナジーと ダウンストリームエナジー ダウンストリーム・エナジー アップストリーム・エナジー マリン (オフショア・エナジー) (貨物・船舶など) ダウンストリーム・エナジー 3 <2>天然ガス開発における保険手配の有無 鉱区の取得 書類上の権利移転であり、掘削などの作業は伴わないため、 資源開発に関連する保険手配は行われない 探鉱・試掘 地震探鉱や実際の掘削による探鉱の場合は、保険手配あり 評価・FID 探鉱の結果にもとづいた経済的評価のため、保険手配は行われない 開発 生産設備の建設に関連する保険手配あり 生産 天然ガス生産に関連する保険手配あり 輸送・販売 天然ガスの輸送・貯蔵に関連する保険手配あり 4 <3>各種保険手配の主体 探鉱 試錐による 石油・ガス 確認段階 開発 石油・ガス生産 設備の 建設段階 生産 石油・ガス生産 設備の 稼働段階 プロジェクトオーナーが 手配する保険 コントラクターが 手配する保険 暴噴 Drilling Rigの損害 第三者賠償 Drilling Rigの船主責任 建設資材・建設中の施設の損害 建設作業専用船舶の損害 暴噴 建設作業専用船舶の船主責任 第三者賠償 生産設備の損害 FPSOなどMOPUの損害 暴噴 FPSOなどMOPUの船主責任 第三者賠償 休業損失 MOPU所有者が プロジェクトオーナー以外の場合 5 <4>天然ガス開発における保険種類 探鉱 試錐による 石油・ガス 確認段階 開発 石油・ガス生産 設備の 建設段階 暴噴制御費用保険(Operator’s Extra Expense) 第三者賠償責任保険(Third Party Liability Insurance) 建設工事保険(Construction All Risks) 暴噴制御費用保険(Operator’s Extra Expense) 第三者賠償責任保険(Third Party Liability Insurance) 財物保険(Property Damage) 生産 石油・ガス生産 設備の 稼働段階 暴噴制御費用保険(Operator’s Extra Expense) 第三者賠償責任保険(Third Party Liability Insurance) 利益保険(Loss of Profit Insurance/Business Interruption Insurance) 6 <5>開発フェーズごとの保険種類と概要 【探鉱段階】 暴噴制御費用保険(Operator’s Extra Expense) 暴噴した坑井の制御費用および付随する汚染損害・防止費用 A.CONTROL OF WELL(暴噴制御) B.REDRILLING(再掘削) C.SEEPAGE, & POLLUTION, CLEAN-UP & CONTAMINATION(油濁損害)等 第三者賠償責任保険(Third Party Liability Insurance) 探鉱活動にともなって生じる第三者賠償責任 掘削作業の直接的な結果については、賠償責任保険ではなく、暴噴制御費用保険によりてん補 7 <5>開発フェーズごとの保険種類と概要 【開発段階】 建設工事保険(Construction All Risks) 天然ガス・石油などの生産設備の建設にともなって生じる財物損害をてん補 ・損傷の復旧費用 ・事故発生にあたり損害を防ぐための費用 ・損害を被った後の残骸の撤去費用 暴噴制御費用保険(Operator’s Extra Expense) 暴噴した坑井の制御費用および付随する汚染損害・防止費用をてん補 A.CONTROL OF WELL(暴噴制御) B.REDRILLING(再掘削) C.SEEPAGE, & POLLUTION, CLEAN-UP & CONTAMINATION(油濁損害)等 第三者賠償責任保険(Third Party Liability Insurance) 天然ガス・石油などの生産設備の建設工事にともなって生じる第三者賠償責任 掘削作業の直接的な結果については、賠償責任保険ではなく、暴噴制御費用保険によりてん補 建設作業域に既に所在する財物に対する損害も特約によりてん補可能 8 <5>開発フェーズごとの保険種類と概要 【生産段階】 財物保険(Property Damage) 天然ガス・石油などの稼働中の生産設備に生じた財物損害をてん補 ・損傷の復旧費用 ・事故発生にあたり損害を防ぐための費用 ・損害を被った後の残骸の撤去費用 暴噴制御費用保険(Operator’s Extra Expense) 暴噴した坑井の制御費用および付随する汚染損害・防止費用をてん補 A.CONTROL OF WELL(暴噴制御) B.REDRILLING(再掘削) C.SEEPAGE, & POLLUTION, CLEAN-UP & CONTAMINATION(油濁損害)等 第三者賠償責任保険(Third Party Liability Insurance) 天然ガス・石油などの生産活動にともなって生じる第三者賠償責任 掘削作業の直接的な結果については、賠償責任保険ではなく、暴噴制御費用保険によりてん補 利益保険(Loss of Profit Insurance/Business Interruption Insurance) 天然ガス・石油などの生産設備の事故により得ることのできなくなった利益をてん補 9 <6>財物保険の目的(1) Semi Submersible Rig Drill Ship Jack Up Rig FPSO Offshore Platform Pipeline Floating Production Storage Offloading Vessel 10 <6>財物保険の目的(2) Subsea Machineriesも財物保険の目的となります。 11 2.メタンハイドレート商業生産にむけて 12 <1>生産施設を取り巻く主なリスク 財物損害 暴噴 損害賠償責任 利益の喪失 ポリティカルリスク 火災・爆発 暴噴制御費用 第三者賠償 生産設備の損傷に よる休業損失 戦争行為 落雷 再掘削費用 労働災害 テロ行為 衝突(船舶・航空機) 汚染除去費用 汚染損害 騒じょう 沈没・転覆 海賊 座礁・座洲 機械的事故 パイプライン損傷 台風・荒天 地震・津波 13 <2>メタンハイドレートから産出されたガスの 陸上への輸送方法 Platform Platform/Pipelineを経由し て陸上にガスを移送 減圧法による メタンガスの産出 WELL 海底で産出されたガスを 陸上へ輸送する方法は 大きく2通りと想定される メタンハイドレート FPSO(FLNG) FPSO シャトルタンカーを経由して 陸上にガスを移送 LNG WELL メタンハイドレート 14 <3>メタンハイドレート生産におけるリスク評価 導入される技術の種類 による設備の分類 ・洋上プラットフォーム ・ガス精製設備 ・パイプライン ・FLNG(LNG用FPSO) ・坑井 ・サブシーシステムズ ・フローライン等 ・ライザー 保険マーケットの 見方 作業の対象となるものはガスのた め、従来型の生産設備またはその 応用技術にて対応可能と期待 現在世界初のFLNGが建造中であ り、2017年の商業生産開始予定 MH商業生産に先立ち、稼働実績 が確立されるか? 従来型ガス田からのガス産出とは 異なる生産方法(減圧生産法)が 用いられるため、独自の技術開発 が必要と考えられる 既存の技術分野 としての取扱い MH商業生産開 始までに技術が 確立されるか? 新たな技術分野 としての取扱い 15 <4>一般的な保険の手配方法 1. プロジェクト内容・スケジュール確認 a. b. 2. プロジェクトの当事者、全般的な契約・義務関連の確認 予定される保険開始・終了時期の確認 リスクの特定・分析 a. b. c. 3. プロジェクト概要と総工事額などの確認 自然環境・政治環境などの確認 使用される技術内容やコントラクターの確認 プロジェクトに応じた保険設計 a. b. 4. 保険の種類・被保険者・保険期間・保険金額・免責金額・現地付保契約の有無 必要に応じて再保険を手配 保険条件・保険料の決定と正式付保 a. b. 5. 保険条件・保険料を決定 正式に保険を受注 保険開始 a. b. 保険料支払い・保険契約開始 金融機関への保険金請求権の譲渡 16 <5>保険者の視点(1) 保険契約のお引受けに際して、以下の観点からお引受条件などの決定を行います。 • 技術的な側面 – 建設される生産施設の種類 • 浮体式プラント・液化ガス貯蔵設備の有無・パイプライン – 使用される技術の種類(プロトタイプ/応用の技術/既存の技術) • 代替設備入手の可能性と必要な時間 • 商業運転における経験 • 海洋上という特殊環境下での機器の運転に対する信頼性 – 修繕地の対応力 • 浮体施設の修繕造船所の対応が容易か • 修繕に関連する専用船舶や設備の対応が容易か • 最寄の修繕地までの距離 – 救助業者の対応力 • 非常事態時の救助業者の対応力 17 <5>保険者の視点(2) 保険契約のお引受けに際して、以下の観点からお引受条件などの決定を行います。 • リスクの種類 – 海上危険・作業中の事故 • • • • 生産設備のコンディション 付近を航行する船舶との衝突 機器操作に関連する事故 作業員の熟練度 – 自然環境への対応 • 水深(浅海域/深海域) • 台風・ハリケーン・サイクロン・爆弾低気圧 • 地震・津波 – 戦争・テロ • • • • 紛争地域 テロ危険地域 政情不安 海賊 18 <6>プロジェクトオペレーターとしての リスクの洗い出し • 活用される技術についてのリスクを、「大」・「中」・「小」に分類 – 大: 陸上・海洋上の双方で、今までに操業実績がない技術 – 中: 洋上設備のため各種条件や制限が付されるなど、既存の技術に対す る応用の範囲が著しく大きく、甚大な事故に繋がる可能性のある技術 – 小: 海洋上での稼働実績が多数ある既存の技術 • プロジェクト遂行にかかわる検討事項 – – – – – プロジェクト全般 安全管理体制・環境保全体制 プラントシステム・居住区配置 係留・ユーティリティ 建設工事・曳航・設置 など 上記2つの観点からのリスクの洗い出しが必要 19 <7>リスクの評価例 例: FLNG(浮体式天然ガス生産施設)を用いた天然ガス生産プロジェクトで 想定される超低温液体の漏洩のケース • 「大」・「中」に分類されたリスクに対する損害の評価を「最悪」・「重大」・「軽 微」で評価 – コストへの影響: – スケジュールへの影響: • 現状復旧に要する金額で評価 現状復旧に要する修繕期間で評価 事故発生シナリオごとに「コスト」・「スケジュール」への影響を評価 – コストへの影響 • 最悪: 設備の全損(FPSOの沈没・全損など)~損傷率50% • 重大: 損傷率30%程度 • 軽微: 損傷率10%程度 – スケジュールへの影響 • 最悪: 施設の喪失~完全操業停止 • 重大: 2年~1年程度の修繕期間・・・ドックでの修繕 • 軽微: 数ヶ月~1ヶ月の修繕期間・・・現地での修繕 20 3.アップストリームエナジーマーケットの 概況と損害発生の状況 21 <1>アップストリームエナジー保険の 引受能力(マーケットキャパシティ) USD million 出典:Willis Energy Market Review 2012 22 <2>アップストリームエナジー保険の マーケットキャパシティと保険料水準の推移 出典:Willis Energy Market Review 2012 23 <3>最近の事故情報 船名/プロジェクト名etc C Fpso 船種/損害種類 Oil Sand 2011年1月 Property Damage Business Interruption FPSO 2011年2月 Property Damage Business Interruption FPSO 2011年3月 Property Damage J Floatel Floatel 2011年4月 Property Damage(T/L) メキシコ湾 H Oil (Oil Sand) G Fpso 発生年月 発生場所 事故概要 見込み損害額 北米 オイルサンド掘削施設から火災発生 損害額は最大で、PD: USD710m、BI: USD600m USD1.31bn 北海 メキシコ湾 荒天により走錨 USD1.3bn 損害額は最大でPD: USD500m、BI: USD800m PDの大部分は水面下のRiserなどの修復費用 FPSO設置のためRiserをブイに連結し、海中(中層) で位置を保持するように設置したが、ブイの空気圧 USD150m が失われRiserが海底に沈下 プラットフォームに隣接して設置されていたSemi-sub タイプの作業員居住設備が何かと接触(衝突)し沈 USD200m 没・全損 B Fpso FPSO 2011年12月 Property Damage 北海 荒天により走錨 損害額はUSD365mの見込み USD365m K Drilling Rig Drilling Rig 2011年12月 Property Damage ロシア(極東) サハリン沖にて被曳航による移動中にJack-up Rig が荒天により転覆・全損 USD125m E Drilling Rig Drilling Rig 2012年1月 Property Damage ナイジェリア ガス田掘削中に本船上の機材の不備により火災が USD200m 発生し、暴噴を誘引 S Drillign Rig Drilling Rig Property Damage イタリア 造船所にて建造中に火災により損傷 USD100m ナイジェリア PD: USD170m BI: USD277m USD447m ナイジェリア PD: USD230m USD230m イスラエル OEE: USD130m USD130m Subsea System MOPU 2011年2月 Property Damage Business Interruption Subsea Machinery 2011年4月 Property Damage Oil/Gas Well Well/Blowout 2011年5月 OEE MOPU 24 <4>浮体式生産施設の損害発生傾向 件数 2 35 損害額(百万ドル) 10 4 11 Anchor/jacking/trawl 12 Collision Contamination 2 321 7 10132 142 548 979 Corrosion Design/workmanship 66 8 Fire/lightning/explosion 46 Grounding Heavyweather/Windstorm Ice/snow/freeze 106 12 Impact Mechanicalfailure 687 Pipelaying/trenching Unknown/Others 2 17 2 1,865 3 13 浮体式生産設備:FPSO・FSO・FPU 1973年~2012年発生の損害を集計 出典:Willis Energy Loss Data Base 2012年8月13日時点 25 <5>パイプラインの損害発生傾向 件数 損害額(百万ドル) Anchor/jacking/trawl 207 215 1,326 1,470 Collision Corrosion Design/workmanship Fire/lightning/explosion 13 14 9 52 260 Heavyweather/Windstorm 3 4 16 Ice/snow/freeze Impact Mechanicalfailure 1,201 Pipelaying/trenching Stuck pig 171 155 Subsidence/landslide Unknow/Others 26 22 2 78 3 1,629 204 105 10 22 1,188 Pipelineの損害発生傾向 1973年~2012年発生の損害を集計 出典:Willis Energy Loss Data Base 2012年8月13日時点 26 4.まとめ 27 ・損害保険はお客さまの事業の安定性・継続性に不可欠です。 ・「初めて」実用化される技術だからといって保険引受ができないことはあり ません。どのようなリスクがあるかをお客さまと共有することがお引受の際 に重要となります。 ・適切な保険契約を手配するためには、プロジェクト施工者と保険会社が 早期から情報を共有することが大切です。 エネルギー資源の確保は日本にとって最も重要な政策の一つであり、その政策を 支えるべく、長期的かつ安定的な保険カバーの提供が、損害保険会社の使命 です。 28 ご清聴ありがとうございました。 29
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