IVRC2011 参加企画案 チカンはアカン ~痴漢被害を減らすために~ 企画書 チーム:花梨ケバブ 1.目的「痴漢を減らす VR 作品を作る」 自分が触った感覚が自分に返ってくる、という擬似的な痴漢行為の体験が可能なデバイス VICTIM(Virtual Interface Character for Touching Interaction with Motivation)と PAM-T (Phantom Air Matrix for Touching)提案します。 何十年も前からある種の社会問題として存在している痴漢とは、人に対して卑わいな言動、 性的嫌がらせをおこなうことを意味しています。多くは公共の場であり、密室に酷似した空間で、 男性が女性に対してわいせつな行為を行うことを意味します。実際に痴漢被害に遭ってしまった 被害者は、心に大きな傷を負い、被害に遭った場所や男性に対しての拒絶反応が現れてしまうな ど、深刻な問題に発展しています。痴漢犯罪者の中には、常習犯や集団が計画して行うなど、非 常に悪質なものまで確認されています。しかし、実際に痴漢被害に遭う人は少数派であって、多 くの人が痴漢問題を認知していても、あくまで「自分には関係ない」「面倒事にはできるだけ関 わりたくない」という我関せずの姿勢のままでいるように感じます。痴漢に遭った被害者の苦痛 や拒絶反応は、実際に経験した被害者にしか分からない。そこで、痴漢行為を被験することがで きれば、痴漢によって与えられる羞恥感や嫌悪感から、「チカンはアカン!」と感じることがで きるはずです。これにより、痴漢被害者を減らすことにつながる、と考えました。 本企画は、擬似的な痴漢行為の体験を通じて、痴漢の悪質性や被害者の嫌悪感を感じ取るこ とで、痴漢認識を高め、被害を減少させることを目的とします。 2.背景 痴漢行為は、それ自体を指す罪名や条例はなく、迷惑防止条例や強制・公然わいせつ罪に含 まれます。警視庁の統計(平成 21 年)[1]では、認知・検挙されたわいせつ罪が約 1500 件、迷 惑防止条例違反のうち、卑わい行為では約 2000 件も存在していました。また、痴漢は、ストー カーのように、特定の人に繰り返された場合を除いて、現行犯でなければ逮捕しにくいことや、 物的証拠などを得られにくいことから、検挙率がとても低いのです。これにより、泣き寝入りの 状態に陥る被害者を思ってのことなのか、現在は痴漢被害に遭ったとその場で訴えることができ れば、相手を検挙することができるような警察や裁判所の対応が多くなっています。けれど、あ くまで自主的に、もしくは発見した人が、現行犯で訴えることができた場合でなければ、取り締 まることは困難です。ですが、実際に痴漢に遭ってしまった被害者全員が、その場で助けを訴え ることができる人であるとは限らないのではないでしょうか。そんなとき、被害者の側に居合わ せた人が痴漢を発見し、その場で取り押さえることができたなら、独りで怯えていた被害者を救 うことができるのではないか、と考え本企画を立案しました。 1 3.企画概要 服の上から PAM-T を装着。スカートも着用します。このスカートは体験者に羞恥心を感じ させるための演出用です。 私には チカンなんて 関係ないわ みんな 大袈裟すぎだよ PAM-T 図 1.PAM-T の装着 VICTIM をさわった感触が装着した PAM-T にフィードバックされることで、嫌悪感を提示 することができます。 VICTIM さわってみよう キャッ!! キモチワルイ!! 体 験 図 2.フィードバック 2 これにより体験者は痴漢行為を体感し、「チカンはアカン!」と強く思うようになります。 今度 チカンに 自分には 関係ないっ て思ってた けど… あってる人を 見たら たすけて あげなくちゃ! 図 3.チカンはアカン! 3 4.システム概要 この企画装置は体験者がさわる対象とする「VICTIM」と、体験者が装着する「PAM-T」に 分かれています。VICTIM が体験者からさわられた感覚を、PAM-T が再現し体験者にフィード バックする仕組です。 図 4.デバイス概要図 4 4-1.VICTIM (Virtual Interface Character for Touching Interaction with Motivation ) VICTIM(Virtual Interface Character for Touching Interaction with Motivation)とは、 被害者という意味を持っています。痴漢の対象となる被害者は、かわいらしく、かよわい、無抵 抗の人が対象になりやすいことから、可愛らしい物として連想される「くまのぬいぐるみ」を用 いています。ぬいぐるみであることで、かよわく、無抵抗であることも表現できると考えていま す。 お尻の部分にタッチセンサーを 18 個取りつけています。個数は体験者にフィードバックす る刺激箇所と同数で、ひとつずつ連動しています。このセンサーにさわることによって、さわっ た位置や強さの情報を取得します。 タッチセンサー 内 部 図 5.VICTIM 概要 4-2.PAM-T(Phantom Air Matrix for Touching) PAM-T(Phantom Air Matrix for Touching)とは、紙オムツを模した形状のデバイスです。 装着時に、服の上から装着するこ とを想定して紙オムツ型にしまし た。まだ歩きはじめていない赤ち 体験者でん部 マジック テープ ゃんに履かせるタイプの紙オムツ 型にすることで、ズボンやスカー トの上からでも装着することが可 風 船 能になると考えています。また、 PAM-T は紙オムツ型デバイスで、 概観も女性用下着とはかけ離れて います。そのため、女の子用パン 図 6.PAM-T 概要 ツ・スカートをイメージしたもの 構 5 をオプションとして用意し、PAM-T の上から履くことによって、体験者が、さらに羞恥心を感 じることができます。また、パンツのサイズを数種類用意することで、PAM-T を体験者に密着 させることが可能になり、でん部に対しての刺激も感じやすくすることでできます。 お尻をさわられるという感覚を表現するため、事前に、バイブレータやノギスを使った二点 弁別の予備実験を行いました。振動ではうまく「なでる、さわる」という感覚を表現できません でした。また、2 点弁別閾について、『感覚・知覚心理学ハンドブック』[3]などでは、でん部の データがなく、企画メンバーの 6 人(女 2:男 4)のでん部で実験しました。でん部全体のうち、 内側約 4cm、外側約 5cm という結果から、でん部は 2 点弁別能が低いという特性を発見しまし た。そこで私たちは、空気圧で風船を膨らませることによって、「強弱と面積のある圧迫感」を 表現することができると考えています。 風船を電磁弁で空気圧を制御して膨らませる機構は、 第 17 回総合優勝した 「MommyTummy」 で成功しています。この作品は、腹部に対して風船の圧を加え、圧迫感を与える装置ですが、本 企画の装置は、でん部に対し、空気圧で、撫でる、握るなどの動作ができるようにします。 人間の皮膚の構造上、男女差、年齢差によって刺激の感じ方が異なることが分かっています。 今回の予備実験では、男女共に実験ができましたが、全員が同年代の学生です。年齢差による間 隔の違いや、さらに正確な実験結果を得るため、実機を製作する前に、多くの実験が必要と考え ています。また、服の上から装着する装置であるため、服の厚さによる感じ方の違いも想定し、 実機には様々な改良や調節機能が必要と考えています。 図 7.2 点分別閾の比較図 図 8.空気圧による刺激予定箇所 6 5.作品の未来 この企画作品を製作することで、前例の少ないでん部を対象とした、感覚デバイス が完成します。また、でん部の 2 点弁別能、2 点弁別閾を測定する調査に貢献できるデ バイスになると考えています。2 点弁別能に限らず、この企画装置を用いることで、通 常実験しづらいでん部に対して、大勢の人から、刺激感覚の実験結果を得ることができ ることにつながっていきます。 空気圧が、人体に与える刺激感覚についての調査にも用いることができます。本企 画の装置は、でん部に与える刺激、すべてを空気圧で表現するものです。空気圧を調整 することで、どの様な刺激を与えることができるのか、という空気圧の表現力の豊かさ にも挑戦していける企画になる、と考えています。 6.スケジュール [全体] 6月 プレゼンテーション準備 7月2日 プレゼンテーション審査 7 月 2 日以降 各自製作 [外観アナログ班] 6月 お尻 2 点分別閾の調査解析・材料調査 7月1週 材料調達・設計 8月 VICTIM 概観製作、PAM-T 動作部製作 9月 PAM-T 動作確認、調整、VICTIM 連結 [内部構成デジタル班] 7月1週 材料調達・確認・調査 7月3週 VICTIM、PAM-T フローチャート設計 7 月中 調整、確認 8月 PAM-T と連動させ調整 7 7.参考文献 [1]警視庁の統計(平成 21 年) http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/toukei/bunsyo/toukei21/k_tokei21.htm [2]性犯罪から身を守る 警視庁 http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kouhoushi/no1/koramu/koramu3.htm ※上記参考文献はインターネットの特性上変更削除されていることがあります。 最終アクセス:2011 年 5 月 22 日 [3]大山正,今井省吾,和気典二,”新編 感覚・知覚心理学ハンドブック”,誠信書房 参照p1232.項 5・3 空間分解,1994 年 1 月 20 日 第 1 刷発行 この作品を、すべての痴漢被害者、現場を目の前に勇気を出せなかった皆様に捧げます。 8
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