人形と作り手はどこが似ている?

人形と作り手はどこが似ている?
○木村美佐子・植月美希
(函館短期大学保育学科)
キーワード:人形
類似性
目
Which region do dolls resemble their makers?
Misako KIMURA and Miki UETSUKI
(Department of Early Childhood Care and Education, Hakodate Junior College)
Key Words: doll, resemblance, eye
目 的
ペット(犬)と飼い主には類似性が存在し,
(Nakajima,
Yamamoto & Yoshimoto, 2009; Roy & Christenfeld, 2004)
,人形
と作り手の間にも類似性が認められることが確認されている
(木村・植月, 2012)
。これは,人間が自分に似たものを選好
する傾向があるためだと考えられる(Coren, 1999)
。しかし,
これらの研究では,類似性が何に基づいて判断されているの
かについては明らかにされていなかった。
そこで Nakajima(2013)は,何を手がかりに飼い主とペッ
トの類似性が判断されているのかを明らかにするため,飼い
主と犬の顔の一部の領域を隠した刺激を用いて検討した。そ
の結果,飼い主と犬の顔全体の(何も隠していない)条件,
飼い主の口の領域を隠した条件,飼い主と犬の目の領域のみ
の条件では,飼い主-ペットの正しいペア群の類似性が高い
と判断した人が有意に多かった。一方,飼い主と犬の目の領
域を隠した条件では,正しいペア群の類似性が高いと判断し
た人はチャンスレベル程度にとどまり,飼い主と犬の間に類
似性が認められなかった。このことから,飼い主と犬は目の
領域が似ており,これを手がかりに類似性の判断が行われて
いることが示唆された。
そこで本研究では,Nakajima(2013)と同様の手続きを用い
て,人形と作り手の顔の領域の一部を隠すことで,どのよう
な情報に基づいて人形と作り手の類似性が判断されるのかを
明らかにすることを目的とする。
方 法
実験参加者は北海道内の短大生 138 名(女性 116 名,男性
22 名;平均年齢 19.8 ± 2.9 歳)であった。刺激は短大・専門学
校の講義内で,人形劇用の人形を制作した学生 40 名と,彼ら
が制作した人形 20 体,他の学生が制作した人形 20 体の写真
を使用した。これらを作り手-人形の正しいペアの写真群(20
ペア)と,作り手-人形の誤ったペアの写真群(20 ペア)に
分けた。それらをもとに,顔を隠さないそのままの写真条件,
作り手の目を隠した条件,作り手の口を隠した条件,人形の
目を隠した条件,作り手と人形の目の領域のみの条件の 5 種
類の刺激を作成した。写真は約 25 × 25 mm であり,隠す部分
がある条件では白いバー(平均 2.0 × 6.3 mm)を用いた。目の
領域のみの条件では,目の周辺を切り抜いた写真(平均 8.9 ×
25.1 mm)を使用した(Figure 1)
。
作り手
目隠し条件
作り手
口隠し条件
人形
目隠し条件
Figure 1 実験刺激例
目の領域
のみ条件
実験参加者には,類似性が高いと思う写真群を二肢強制選
択法で回答させた。実験の所要時間はおよそ 2 分であった。
結 果
類似性が高い写真群に作り手-人形の正しいペアを選択し
た人数を Table 1 に示した。すべての条件においてその選択率
が 70 %を超え,作り手-人形の正しいペアの類似性が高いと
判断した人が有意に多かった(そのままの写真条件:χ2 (1) =
10.13, p < .01, 作り手目隠し条件:χ2 (1) = 8.17, p < .01, 作り手
口隠し条件:χ2 (1) = 7.54, p < .01, 人形目隠し条件:χ2 (1) = 10.8,
p < .01, 目の領域のみ条件:χ2 (1) =5.54, p < .05)。
Table 1
5 つの条件における正ペア選択者数と選択率
そのままの
作り手
作り手
人形
写真条件 目隠し条件 口隠し条件 目隠し条件
実験参加者数
正ペア選択者数
正ペア選択率(%)
32
25
78
24
19
79
26
20
77
30
24
80
目の領域
のみ条件
26
19
73
考 察
人形と作り手の類似性を判断する際に何を手がかりにして
いるのかを明らかにするため,顔の領域の一部を隠した刺激
を用いて実験を行った結果,すべての条件において,作り手
と人形の正しいペアの類似性が高いと判断する人が有意に多
いことが明らかになった。Nakajima(2013)同様に目の領域の
類似性が認められたが,目の領域を隠した条件でも類似性が
認められるという異なる結果も得られた。このことから,目
の領域以外の手がかりに基づいても,類似性を判断すること
が可能であることが示された。本研究では,人形の体全体を
刺激として用いていたため,Nakajima(2013)で用いられた犬
の刺激と比較し,多様な情報があったことが判断に影響して
いる可能性がある。今後は,目以外のどのような手がかりに
基づいて類似性を判断しているのかを明らかにすることが求
められる。
引用文献
Coren, S. (1999). Do people look like their dogs? Anthorozoös, 12,
111−114
木村美佐子・植月美希 (2012). 人形は作り手に似ている?
日本心理学会第 76 回大会
Nakajima, S., Yamamoto, M. & Yoshimoto, N. (2009). Dogs look
like their owners: Replications with racially homogenous owner
portraits. Anthorozoös, 22, 173−181
Nakajima, S. (2013). Dogs and owners resemble each other in the
eye region. Anthorozoös, 26(4), 551−556
Roy, M.M. & Christenfeld, N.J.S. (2004). Do dogs resemble their
owners? Psychological Science, 15, 361−3