「1型糖尿病」患者由来iPS細胞を用いた病態解析研究

2012年度の研究助成テーマ
研究課題
「1型糖尿病」患者由来iPS細胞を用いた病態解析研究
研究代表者
長船 健二 京都大学iPS細胞研究所増殖分化機構研究部門 准教授
目 的
1型糖尿病の病因は依然として完全には解明されておりません。抗GAD抗体などの自己抗体が検出されるため免疫系の異常の関
与が考えられていますが、
β細胞側にも傷害される素因があるか否かなどは不明です。
本研究においては、
種々の1型糖尿病の患者体細胞からiPS細胞を樹立し、
1型糖尿病の病態形成に関わる膵β細胞、免疫細胞など
に分化させ、
病因に関与する遺伝子の探索を行います。
本研究の目的は、1型糖尿病に対する特異的治療法開発に向けて、iPS細胞技術を用いて新規の治療標的となる遺伝子を同定す
ることです。
研究内容
(1)「1型糖尿病」患者からのiPS細胞樹立
「劇症1型糖尿病」、
「急性発症1型糖尿病」、
「緩徐進行1型糖尿病」
などの患者より同意の元に皮膚組織や末梢血を採取し、
皮膚線維芽細胞やTリンパ球からリプログラミング因子の遺伝子導入にてiPS細胞を樹立します。
(2) iPS細胞から膵β細胞と免疫細胞の作製
研究代表者らが開発したヒトiPS細胞から膵β細胞への分化誘導法や過去の報告にあるヒトiPS細胞からTリンパ球などの
免疫細胞への分化誘導法を用いて、
「1型糖尿病」
患者由来iPS細胞から膵β細胞や免疫細胞を作製します。
(3) iPS細胞から作製した疾患細胞を用いた治療標的分子の探索
患者iPS細胞および健常人iPS細胞由来の膵β細胞、免疫細胞のマイクロアレイによる遺伝子発現の比較解析、質量分析法に
よるタンパク質発現の比較解析を行います。
そして、患者iPS細胞由来の膵β細胞および免疫細胞にて発現が変化している新規
の治療標的分子の同定を行います。
免疫細胞へ分化 共培養
β細胞へ分化
ヒトiPS細胞
iPS細胞から分化誘導された
膵インスリン産生細胞
(赤:インスリン 青:核)
「1型糖尿病」
患者
疾患特異的
iPS細胞
「1型糖尿病」
モデル
治療標的候補
分子の探索
・マイクロアレイ
・質量分析
iPS細胞技術を用いた1型糖尿病の病態解析研究
将来ビジョンと期待される成果
iPS細胞の誕生により、
患者自身の幹細胞から作製した移植用細胞を用いる拒絶反応のない移植療法が可能となりました。
本研究
にて1型糖尿病患者よりiPS細胞が樹立可能であること、
さらに、膵β細胞に分化誘導可能であることが明らかとなれば、1型糖尿病に
対する細胞療法の開発および臨床応用へ向けての重要な第一歩となります。
1型糖尿病の発症機序は完全には解明されておりません。
これは、
患者の体内から傷害を受ける膵島組織の入手が困難であることが
一因であります。iPS細胞技術を用いて患者由来のiPS細胞から膵β細胞や免疫細胞が作製可能となれば、iPS細胞は無限に増殖
可能であるので、
それらの疾患細胞が必要な数だけ入手可能となり、1型糖尿病の病態解明が進むことが期待されます。
1型糖尿病患者の体細胞からiPS細胞を樹立し、治療標的となる遺伝子を同定して、1型糖尿病根治治療法の開発を目指します。
■ 最近の研究結果および成果
1型糖尿病患者さんの皮膚細胞から作製したiPS細胞を膵β細胞に変化させ、遺伝子発現を調べています。
その結果1型糖尿病患
者と糖尿病ではない日本人のiPS細胞から変化させた膵β細胞をそれぞれ比べることで遺伝子発現の違いを見つけました。
この発見
は1型糖尿病の発病メカニズムの解明に向けて、
その糸口となる可能性があります。新しい薬や診断法の開発につなげて行きたいと
思っています。
■ 今後の進め方またはこの研究による波及効果
本研究の成果をもとに1型糖尿病患者さんに対するiPS細胞から作製した膵細胞を移植する再生医療の研究も実現に向けて前進し
ました。今後はさらに、糖尿病の合併症として重要な腎臓病に対する再生医療開発の研究も併せて進めて行きます。
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