デジタル写真の自動ホコリ除去

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日本写真学会誌 2005 年 68 巻 2 号:160–162
デジタル写真の自動ホコリ除去
Automatic Dust Removal for Digital Photography
中 村 博 明 *
Hiroaki NAKAMURA*
ホコリ
dust
キズ
scratch
ネガフィルム color negative film
digital still camera
デジタルカメラ
カラーネガフィルムに付いたホコリやキズは,赤外画像として検出した後,画像処理で目立たなくする方法が実用化され
ている.デジタルカメラの撮像素子についたホコリは,機械的な振動を与えることで除去する方法が実用化されている.
The recent photographic system uses the following method. Dust and scratches on a color negative are detected in an infrared
image and eliminated to be inconspicuous by the image processing. Dust adhering to an image sensor of DSC (digital still
camera) is removed by mechanical oscillation.
1. デジタル写真とホコリ
ンサーが固定になっているため,撮像面に付着したホコリは
なんらかの方法で取り除かない限り,撮影する全てのフレー
写真にとってホコリは大敵である.読者の中には,引き伸
ムに影響を与えることになる.通常のコンパクトタイプのデ
ばし機でプリントを焼き付けるときや,フィルムスキャナー
ジタルカメラは,カメラが密閉構造になっているため,機構
で画像を取り込むときに,ホコリが写り込まないように苦労
部分のこすれ等によりカメラ内部で発生するものを除き,外
された方も多いのではないだろうか.ホコリ落しのツールと
部のほこりが撮像素子面に入り込む確率は低い.一方で,一
してエアブロアーや静電気を利用したものもあるが,空調や
眼レフタイプのデジタルカメラや,カメラのバック面に撮像
防塵設備の整った特別な施設で作業をしない限り,ホコリの
素子のユニットを装着したデジタル中版カメラでは,レンズ
影響を完全になくすことは困難である.このため,写真プリ
交換時に撮像素子部が大気に晒されるため,ホコリに十分注
ントの専門店では,後工程でプリントのレタッチを行うこと
意を払う必要がある.本 One Point Lecture では,フィルムス
もある.このように,細心の注意を払っても防ぎきれなかっ
キャナーにおいてカラーネガフィルムに付いたほこりやキズ
たホコリ問題も,写真のデジタル処理化によって自動で除去
による画像劣化を自動的に除去する技術,およびデジタルカ
する技術が開発,実用的化されている.
メラにおけるホコリ対策技術として,撮像面に付着したホコ
カメラにおいても,ホコリは大敵である.フィルムを使わ
リを自動的に除去する技術について解説する.
ないデジタルカメラは,ホコリとは一見無縁のように思える
が,そんなことはないのである.デジタルカメラの撮像素子
2. フィルムスキャナーの自動ホコリ・キズ除去技術
(CCD イメージセンサー,CMOS イメージセンサー)の保護
ガラス面などに付着したホコリは,写真フィルムの表面に付
カラーネガフィルムにホコリやキズが付いていると,プリ
着したほこりと同様に,画像を劣化させる原因となる.アナ
ント上ではその部分が白く抜けて見える.これは,フィルム
ログカメラでは,画像を取り込む役目にあたる写真フィルム
画像を読み取るときに,ホコリやキズの部分に当たった光が
がフレーム毎にロールから引き出される.
このため,写真フィ
散乱され,その部分の透過光量が小さくなるためである.カ
ルムの表面がホコリにさらされる時間も短く,結果としてホ
ラーネガフィルムの場合は,プリントする時にガンマが拡大
コリの侵入に対して強いシステムとなっている.
されるので,ちょっとした光量の低下でも,プリント上では
これに対して,デジタルカメラの場合は画像を取り込むセ
非常に目立つ欠陥となってしまう.
平成 17 年 3 月 7 日受付・受理 Received and accepted 7th, March 2005
* 富士写真フイルム株式会社 宮台技術開発センター 〒 258-8538 神奈川県足柄上郡開成町宮台 798
FUJI PHOTO FILM CO., LTD., 798 Miyanodai, Kaisei-machi, Ashigarakami-gun, Kanagwa 258-8538, Japan
中村博明 デジタル写真の自動ホコリ除去
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Fig. 1 IR 光によるホコリ,キズ検出の原理
(a)可視光による照明光量と透過光量の関係,(b)IR 光による証明光量と透過光量の関係
Fig. 2 IR 光で読み取ったカラーネガフィルムの画像
(a)可視光によるカラーネガ画像,(b)IR 光によるカラーネガ画像
2.1 ホコリやキズの検出
ホコリやキズの検出は,IR 光を用いた検出方式が一般的で
ある.
Fig. 1 にカラーネガフィルムでホコリやキズを検出するた
めの原理を示す.カラーネガフィルムの画像は C,M,Y 三
色の色素で形成されている.一般的に,これらの色素は可視
域の波長(380 nm ~ 780 nm)の間では光を吸収するが,そ
れより長い波長の光(以後 IR 光と呼ぶ)では除々に吸収がな
くなり,波長 900 nm あたりからほとんど吸収しないという
特性がある.光の吸収が無いということは,そこに色素像が
有ろうが無かろうが光学的に透明ということである.一方で,
フィルムの表面にホコリやキズがある場合は,IR 光でも可視
Fig. 3
ホコリ,キズを自動除去した画像
(a)カラーネガのキズによるプリントの白すじ,
(b)自動ホ
コリ,キズ除去後のプリント画像
光と同様に散乱によって透過光量が減衰する.つまりある波
長以上の IR 光でカラーネガフィルムを読み取れば,色素画像
キズを目立たなくする.2 つ目は,補間法と呼ばれる方法で,
の濃度に左右されずホコリやキズだけを検出することができ
検出したホコリやキズの領域を,その周囲の画像情報を使っ
るのである.Fig. 2 にホコリとキズのあるカラーネガフィル
て修正する.Fig. 3 はカラーネガフィルムの表面キズをによ
ムを可視光とIR光それぞれの光で読み取った場合の画像を示
るプリントの劣化と,その部分を補間法によって自動修正し
す.IR 光で読み取った画像は,ホコリやキズの部分のみが
た例である.図のように拡大して見ても,ほとんど違和感無
くっきりと検出されているのがわかる.
く綺麗に修正できていることがわかる.
2.2 ホコリやキズの除去
ゲイン法の場合は,ホコリやキズだけでなく指紋など面積
検出されたホコリやキズを自動で除去する方法として,大
の大きい欠陥も比較的良好に除去できるという特長があり,
きく 2 つに分けられる.1 つは,ゲイン法と呼ばれる方法で,
補間法の場合は乳剤面についたキズも修正できる等の特長が
可視光で読み取った画像にはホコリやキズの部分にも画像情
ある.どちらの方式のもそれぞれ良いところがある為,スキャ
報が残っていることを利用して,ホコリやキズの画像成分を
ナーメーカー毎に方式が異なっている.
可視光で読み取った画像からキャンセルすることでホコリ,
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日本写真学会誌 68 巻 2 号(2005 年,平 17)
3. デジタルカメラの自動ホコリ除去技術
ホコリ対策として,レンズマウント部に防塵フィルターを
設けてホコリそのものの侵入を防ぐカメラも存在するが,撮
像部に付着したホコリを直接除去するユニークな機能を持つ
上級者向けデジタルカメラが,オリンパスイメージング(株)
によって開発されている.これは,防塵用に配置された光学
フィルターを超音波振動させることによって,ホコリを除去
するというものである.
Fig. 4 に撮像部の構造を示す.光学ローパスフィルターの
シャッター側にゴミ除去用の光学フィルターが配置されてい
る.この光学フィルターには圧電素子が取り付けられている.
Fig. 4 オリンパス E-300 のダストリダクションシステムの構造
圧電素子はカメラの電源投入時に,秒あたり数万回の振動を
フィルターに与え,表面に付着したホコリを振るい落す.振
ることができない.また,大きなホコリや深いキズがある場
るい落としたホコリは,フィルターの下方に配置されたホコ
合にも完全に元に戻すことができない.デジタルカメラの自
リ取りに吸着させ,再発生源とならないようにしている.
動ホコリ除去についても,ホコリが超微細である場合やホコ
リ自身の粘着性が高い場合には,完全に振るい落とすことは
4. 課題
困難である.
自動除去の恩恵は大きいとしても,結局のところ,良い写
写真をデジタルデータとして処理できるようになったこと
真を追い求めるには,ホコリに対して十分注意するという姿
で,プリント時や撮影時におけるホコリの問題はだいぶ軽減
勢が大切である.言うまでもないが,問題を解決するには原
された.しかし,今回紹介したホコリの自動除去法も決して
因そのものを絶つのが一番効果的なのである.
万能ではない.例えば,今回紹介したフィルムスキャナーの
ホコリ除去法は,IR に吸収を持つ白黒ネガに対しては適用す