Ⅲ 投稿原稿/青少年国際交流プログラム「ユース オブ ワールド」の実践報告 155 【実践報告】 青少年国際交流プログラム「ユース オブ ワールド」の実践報告 A Practice Study of International Youth Exchange Program “Youth of World” 松浦 賢一 MATSUURA Kenichi 国立大雪青少年交流の家 キーワード 国際理解度、国際国流事業、青少年教育施設、グローバル人材 要旨 社会や経済のグローバル化が急速に進展し、異なる文化の共存や持続可能な発展に向け て国際協力が求められている。また人材育成面での国際競争も加速していることから、未 来への飛躍を担うための創造性やチャレンジ精神、リーダーシップ、国境を越えて人々と 協働するためのコミュニケーション能力や異文化理解等を身に付けた人材が求められてい る。 そこで、本報告では、平成 25 年度国立大雪青少年交流の家教育事業「ユース オブ ワー ルド」を事例に、青少年国際交流プログラムの企画・運営・評価について実践報告を行う ものとする。 国立大雪青少年交流の家の「ユース オブ ワールド」の参加者を対象に、 「国際理解測定 尺度(IUS2000)」を参考に作成した 27 項目の事業評価用アンケートを用いて、事業の事前、 事後に調査を行った。 その結果、日本人と外国人の青少年が一緒に体験活動をするプログラムを取り入れた国 際交流事業において、参加者の「国際理解度」が高まるという可能性が示唆された。 Ⅰ.はじめに グローバル社会の進展に伴い、未来への飛躍を担うための創造性やチャレンジ精神、リ ーダーシップ、国境を越えて人々と協働するためのコミュニケーション能力や異文化理解 の精神等を身に付けて様々な分野で活躍できるグローバル人材が求められている。このグ ローバル人材の育成は、政府全体で取り組むべき重要課題の一つとしてあげられており、 ひとり政府・行政関係者のみならず大学関係者・団体や企業関係者・経済団体等を主動的 な起点とする一つの社会的な運動として、継続的な取り組みが求められている (1) 。 中央教育審議会スポーツ・青少年分科会は、国際社会で活躍できる能力・感覚を育成す るためには、異なる文化や習慣を持つ人々と寝食を共にしたり、実際に意見交換を行った り、様々な活動を協力して実施するなどの国際交流体験を積むことが必要不可欠であると している。また、海外の青少年は日本の文化を体験したいというニーズが高く、日本文化 の発信という面でも意義があるとしている (2) 。日本と海外の青少年が寝食を共にしながら 様々な活動を体験するには、青少年教育施設を活用することが効果的である。その理由は 156 Ⅲ 投稿原稿/青少年国際交流プログラム「ユース オブ ワールド」の実践報告 3つある。1つ目は、体験活動を通した国際交流事業について、職員のスキルや事業のノ ウハウ、さらに体験活動に適した環境が整っていること。2つ目は、青少年の宿泊に適し た施設であり、学生にとってリーズナブルな金額、多国籍の人を対象にした食事の提供、 ベッドやシャワーなど外国人の生活習慣にも対応していること。3つ目は、青少年教育施 設は、日頃から地域や各教育機関と連携を図った取組をしており、ネットワークを生かし ながら事業を展開することができることである。 北海道には、世界があこがれる豊かな自然と食文化がある。四季がはっきりしており、 それぞれの季節に合った体験活動をすることができ、冬には雪の特性を生かした雪祭りや スキーなどの体験を目的に海外から多くの観光客が訪れる。とりわけ国立大雪青少年交流 の家が位置する美瑛町には、近年、アジアからの外国人観光客が増えている。北海道教育 委員会は、2年前から小学生、中学生、高校生を対象にしたイングリッシュキャンプを道 立の青少年教育施設全7会場で実施しているが、青年層を対象にした国際交流事業には未 着手である。また道外の青少年教育施設においても、国際交流事業に関する調査研究はほ とんど報告されていない。そこで、本報告では、平成 25 年度国立大雪青少年交流の家教育 事業「ユース オブ ワールド」を事例に、青少年国際交流プログラムの企画・運営・評価 について実践報告を行うものとする。 Ⅱ.事業概要 1.事業のねらい 日本の青少年と諸外国の青少年が地域の特性を生かした自然体験・文化体験・生活体験 をとおして交流することで、自国や他国の文化、伝統等について理解を深め、異なる文化 や生活習慣を持つ人々と協調して生きていく態度を培い、グローバルな視点を備えた人材 の育成を図る。 2.実施日 秋と冬の2回、それぞれ1泊2日で実施した。 第1回:平成 25 年9月 28 日(土)~29 日(日)1泊2日 第2回:平成 26 年2月1日(土)~2日(日)1泊2日 3.参加実績と募集方法 本事業の参加者は、第1回が日本人 10 名、外国人 10 名の合計 20 名であり、第2回が日 本人8名、外国人 24 名の合計 32 名であった。内訳は以下のとおりである。参加者の募集 は、国立大雪青少年交流の家のホームページで案内するとともに、上川管内の教育委員会、 高校、大学へ開催要項とチラシを郵送した。開催要項は日本語と英語の2カ国語を作成し た。 第1回: 参加者 20 名(男2名、女 18 名):高校生4名、大学生 10 名、一般(ALT 等)6名。 参加者国籍:日本 10 名、英国3名、アメリカ2名、フィリピン1名、マレーシア1名、 中国1名、モンゴル1名、韓国1名。 運営協力者:一般5名(茶道講師)、公立施設職員1名 Ⅲ 投稿原稿/青少年国際交流プログラム「ユース オブ ワールド」の実践報告 157 運営者:国立大雪青少年交流の家職員5名 第2回: 参加者 32 名(男 12 名、女 20 名):高校生2名、大学生 25 名、一般(ALT 等)5名。 参加者国籍:日本8名、中国 11 名、中国香港1名、台湾2名、韓国3名、カナダ3名、 アメリカ1名、英国1名、アフガニスタン1名、スリランカ1名。 運営協力者:一般6名(書道講師) 運営者:国立大雪青少年交流の家職員4名 4.活動場所 実施した2回の国際交流事業は、青少年教育施設である国立大雪青少年交流の家を会場 とした。 5.協力団体及び指導者 日本文化体験タイムにおける茶道や書道等の指導と運営は、地域で活躍する茶道と書道 のサークル団体に依頼し、地域との連携・協力を図った。協力を得た団体は以下のとおり である。日本文化体験を除くプログラムの指導は、国立大雪青少年交流の家の職員が行い、 全日程を通して、生活指導および安全管理面に配慮した管理・運営を行った。 第1回:北海道「体験の風をおこそう」運動推進協議会、美瑛町お茶を楽しむ会 第2回:北海道「体験の風をおこそう」運動推進協議会、書創社、美瑛町すずらん大学 6.プログラムデザイン 実施した季節に応じてプログラムをデザインするとともに、外国人参加者が日本の伝統 文化について理解できるように茶道や書道、和食作り等の体験活動を取り入れた。特に2 月は、北海道の冬の特性を生かした雪を使った体験活動を多く取り入れた。また、日本人 と外国人参加者の交流を促進できるように、コミュニケーションゲームや一緒にクッキン グをするプログラムを取り入れた。実施したプログラムの詳細は、表1と表2のとおりで ある。 表1 7 9 11 17 憩 ①国際交流タ イム「コミュ ニケーション ゲーム」 19 21 22 休 オープニング 閉 会 式 食 自然散策 朝 ③さわやか タイム ④日本文化体 験タイム「茶 道」 付 受付 13:00 (土) (日) 15 受 9/28 9/29 第1回プログラム 13 ②クッキング & パーティータイム 入浴 シャワー 休憩 12:00 終了 ①国際交流タイム:アイスブレイクで緊張を和らげ、ニュースポーツのキンボール等で 言語の壁を越えた交流を図り、参加者間の距離を縮めた。共通言語として英語を使用 するが、比較的言語を使用せずに交流が図られるように配慮した。 158 Ⅲ 投稿原稿/青少年国際交流プログラム「ユース オブ ワールド」の実践報告 ②クッキング&パーティータイム:協働でクッキングを行い、世界各国には多様な食文 化があることを学んだ(図1)。メニューは、サンドイッチ、ミネストローネ、パン プキンパイの3種。3グループに分かれ、英語のレシピを用いてクッキングを行い、 作った料理を食べながら参加者の母国の食文化について紹介し合うことで多様な食 文化を学んだ。 ③さわやかタイム:日本のラジオ体操体験及び交流の家の朝のつどいを体験し、各国の 取組の違いに気づいた。交流の家に宿泊して研修を行っている全ての参加者が体育館 に集い、国旗と所旗の掲揚、ラジオ体操を実施することは他国に例がほとんどなく、 日本の青少年教育施設の特色であることから外国の参加者にとっては自国の文化と の相違点に気づくことができたと考える。 ④日本文化体験タイム:日本の伝統文化である「茶道」を体験し、日本の文化が世界に どのように受け止められているか感じ取るとともに、諸外国の伝統文化を認識した (図2)。外国の参加者に日本の伝統文化を体験してもらった後、外国の参加者から 母国の伝統文化を紹介してもらった。 図1 英語のレシピを見ながら 図2 日本文化「茶道」を体験 協働でクッキング 表2 7 9 11 閉 会 式 食 バス移動 朝 ⑤さわやか タイム (日) ⑥スノーアクテ ィビティ at か みふらの「スノー ラフティング」 「そりすべり」 ①スノー フェステ ィバル at びえ い雪遊び 広場 15 オープニング 集合 13:00 (土) 2/2 13 バス移動 2/1 第2回プログラム 17 19 ②スノーアクティ ビティ at 大雪 「ス ノーキャンドル」 ③日本文化体験タ イム「書道」 21 ④クッキング & パーティータイム 22 入浴 シャワー 休憩 12:00 終了 ①スノーフェスティバル:美瑛町のイベント「雪遊び広場」に参加し、北海道の冬の文 化を体験した。雪が降らない地域からの参加者もいることから、雪像や雪で制作した 滑り台等を体験しながら、冬の文化の特徴の理解を深めた。 ②スノーアクティビティ:スノーキャンドルづくりをとおして参加者相互のコミュニケ ーションを図った。制作したスノーキャンドルは、日没後に火を灯して各々が制作し Ⅲ 投稿原稿/青少年国際交流プログラム「ユース オブ ワールド」の実践報告 159 たキャンドルを見て歩きながら互いに感想を述べ合い、参加者で交流を図った。 ③日本文化体験タイム:日本の伝統文化である「書道」を体験し、日本の文化が世界に どのように受け止められているか感じ取るとともに、諸外国の伝統文化を認識した (図3)。特に漢字文化の国々の文字の歴史や違いに気づくとともに、漢字を用いな い国々の文字や言語についても知る機会になった。 ④クッキング&パーティータイム:「和食」をテーマに協働でクッキングを行うととも に、異なる文化や習慣を持つ人々と意見交換することにより、コミュニケーション能 力を育成し協調性を養った。メニューは手巻き寿司、豚汁、おしるこの3種。各グル ープに分かれてクッキングを行い(図4)、作った料理を食べながら参加者の母国の 食文化について紹介し合うことで、多様な食文化を学んだ。また、日本の節分を紹介 し、豆まきも体験してもらった。 ⑤さわやかタイム:交流の家の朝のつどいやラジオ体操をとおして、異なる文化や生活 習慣を体験した。 ⑥スノーアクティビティ:上富良野町のイベント「かみふらの雪祭り」に参加し、そり すべりやスノーラフティングなどのウィンタースポーツをとおして参加者相互のコ ミュニケーションを図った(図5)。雪の特性を生かした雪祭りやウィンタースポー ツ等の北海道の冬の文化について、体験的に学んだ(図6)。 図3 日本文化「書道」を体験 図4 和食をテーマに 手巻き寿司づくりに挑戦 図5 雪の特性を生かした スノーラフティングを体験 図6 北海道の冬の文化 「雪祭り」を体験 160 Ⅲ 投稿原稿/青少年国際交流プログラム「ユース オブ ワールド」の実践報告 7.実施の準備・運営と指導 プログラムを運営・指導するにあたって、活動場所を事前に踏査するとともにクッキン グのメニューについては事前に調理をするなど、安全確認やグループの編成、スタッフの 指導体制や指導上の留意点等について確認した。 参加者への事前の案内文については、日本語と英語で作成し、語学力や言葉の違いによ る誤解を防ぐために、電子メールを活用しながら、参加者の質問に対して文字を使って意 思疎通を図るように努めた。当日配布するしおりについても日本語と英語の二重表記をす るとともに指導や説明の際には、日本語と英語の2カ国語で行った。また、食べ物のアレ ルギーや宗教上の理由で食べられない物を事前に調査するとともに、レストランをはじめ 館内の表示物を日本語と英語の二重表記にした。さらに、日本の青少年教育施設の使用方 法を理解してもらうために、英語によるオリエンテーション DVD を作成し、当日の開会式 での説明に使った。 Ⅲ.事業評価 1.調査方法 (1) 調査内容 各プログラムの教育効果については、参加者に質問紙調査を実施し、国際理解度の変容 等について検証を行った。国際理解度を測定する尺度として、鈴木ら 理解測定尺度(IUS2000)」 (4) (3) が作成した「国際 を参考に作成した 27 項目の事業評価用アンケートを用いた。 鈴木らが作成した国際理解測定尺度は、国際理解教育の内容を網羅的に捉えており、尺 度の全体得点によって個々人の総合的な国際理解の程度について判断することが可能であ り、観点ごとの国際理解の程度について判断することも可能である (5) 。人権の尊重(16 項 目)、他国文化の理解(24 項目)、世界連帯意識の育成(16 項目)、外国語の理解(16 項目)の 4つの観点をさらに細分化し、9因子、合計 72 項目で構成されている。 事業評価用アンケートでは、この国際理解測定尺度の構成概念をそのまま用いた。しか し、この尺度は網羅的であるうえ、日本人向けの質問項目となっているため、特定の国籍 を対象にした質問項目については、外国人が回答することを想定して項目の表現を一部修 正し、日本語と英語のアンケートを作成した。さらに、本事業のねらいに沿って各因子の 質問項目を3つに絞り、合計 27 項目で実施した(表3)。 (2) 調査時期 各プログラムの開始時(プレ調査)と終了時(ポスト調査)に調査を実施した。日程は 以下のとおりである。 第1回:平成 25 年9月 28 日~9月 29 日 第2回:平成 26 年2月1日~2月2日 (3) 調査対象 「ユース オブ ワールド」に参加した日本人、外国人全ての参加者である。各プログラム に参加した人数等は以下のとおりである。 第1回:配布数 20 名 回収数 19 名(回収率 95.0%) 有効回答数 19 名(有効回答率 95.0%) 第2回:配布数 32 名 回収数 32 名(回収率 100%) 有効回答数 31 名(有効回答率 96.9%) Ⅲ 投稿原稿/青少年国際交流プログラム「ユース オブ ワールド」の実践報告 161 表3 国際理解度のアンケート項目 構成因子 他国民・他民族に 対する感情 項 目 (*は逆転項目) 多くの外国人と友達になりたいと思う。 いろいろな国の人たちと知り合いになるのは楽しい。 *外国人とはあまり話をしたくない。 *貧しい国の人ならば、意見が軽視されることがあってもやむをえない。 平等意識 *出身国によって待遇に差があってもやむをえないと思う。 ある民族が他の民族より劣っていると絶対に考えてはいけないと思う。 各国の代表的な料理をいくつか挙げることができる。 他国文化の理解 外国で信仰されている宗教をいくつか挙げることができる。 外国で起きたいくつかの歴史的事件について詳しく説明できる。 海外に行ったら、地元の人の習慣に触れたいと思う。 他国文化への関心 *外国の伝統文化を紹介するような番組は見ないほうである。 世界にどのような宗教があるか知りたい。 各国に見られる独自の習慣を尊重したい。 共感性 *他国の文化を理解したいとは思わない。 異なる文化に触れることは、興味深い体験だと思う。 人類の共通課題へ の関心、認識 国際的協力機構へ の協力的な態度 *世界平和の維持に関心がない。 廃棄物による土壌・水・大気の汚染状況について知りたい。 地球温暖化を防止するために、二酸化炭素などの排出を抑える努力をしていきたい。 世界平和の維持に努めている機関を支援したい。 *国際的なボランティア団体の活動内容に興味はない。 世界の自然を守るために活動している国際機関を支援したい。 自分の言いたいことを英語などの外国語で表現できる。 外国語の理解 *外国人から英語で話しかけられたとき、答えることができない。 英語などの外国語で書かれた新聞や雑誌が読める。 *今後、様々な国の言語を学ぶ気はない。 外国語への関心 英語などの外国語で、いろいろなことを話してみたい。 *外国語で書かれた新聞や雑誌には関心がない。 (4) 調査方法 研修室に参加者を集合させ、施設職員が調査票(質問紙)の配布・回収を行った。 (5) 集計・分析 アンケートの回答については、下記の手順に従って集計・分析を行った。 ①質問項目の得点化 各質問項目の回答に対して「とてもよくあてはまる」を5点、 「まったくあてはまらな い」を1点として1点刻みで得点化し、各調査時期における平均値、標準偏差を算出し た。 ②国際理解度・9つの構成因子の得点の算出 分析対象者ごとに、国際理解度の得点として 27 項目の合計値を算出した。また、「他 162 Ⅲ 投稿原稿/青少年国際交流プログラム「ユース オブ ワールド」の実践報告 国民・他民族に対する感情」(3項目)、「平等意識」(3項目)、「他国文化の理解」(3 項目)、 「他国文化への関心」 (3項目)、 「共感性」 (3項目)、 「人類の共通課題への関心、 認識」(3項目)、「国際的協力機構への協力的な態度」(3項目)、「外国語の理解」(3 項目)、「外国語への関心」(3項目)の9つの構成因子の得点についても能力ごとに合 計値を算出し、各調査時期における平均値、標準偏差を算出した。 ③教育効果の検証 国際交流事業における「国際理解度」や9つの構成因子の教育効果を検証するため、 調査時期である「事前」、「事後」の平均値を比較した。平均値の比較には、対応のある t 検定を用いた。 2.分析結果 (1) 分析対象者の概要 分析対象者の内訳を性別でみると第1回目は、男性が2人、女性が 18 人と女性の人数 が多くなっており、校種別でみると大学生が 10 人と最も多く、全体の5割を占めていた(表 4)。また、第2回目は、男性が 12 人、女性が 20 人と女性の人数が多くなっており、校種 別でみると大学生が 25 人と最も多く、約8割を占めていた(表5)。なお、1回目と2回 目の参加者のうちリピーターは日本人参加者が2名、外国人参加者が2名であった。 表4 性別 第1回プログラムの分析対象数の内訳(人) 日本人 外国人 計 高校生 大学生 一般 高校生 大学生 一般 男 0 2 0 0 0 0 2 女 4 4 0 0 4 6 18 計 4 6 0 0 4 6 20 表5 性別 第2回プログラムの分析対象数の内訳(人) 日本人 外国人 計 高校生 大学生 一般 高校生 大学生 一般 男 0 0 0 0 11 1 12 女 2 6 0 0 8 4 20 計 2 6 0 0 19 5 32 (2)「国際理解度」の変容 本事業の体験が「国際理解度」に及ぼす教育効果を検証するため対応のある t 検定を行 った(表6・7)。第1回では、事業後に行ったポスト調査での「国際理解度」の平均値が 上昇しており、有意差が認められた( p <.001)。国際理解度の構成因子では、「他国文化の 理解」と「国際的協力機構への協力的な態度」の2因子において平均値に有意差があるこ とが認められた( p <.001)。 Ⅲ 表6 投稿原稿/青少年国際交流プログラム「ユース オブ ワールド」の実践報告 163 第1回プログラムにおける国際理解度得点の変化(n=19) プレ調査 ポスト調査 M (SD) M (SD) t 国際理解度 4.52 (0.92) 4.61 (0.80) 4.52 他国民・他民族に対する感情 4.91 (0.28) 4.93 (0.26) 1.00 平等意識 4.46 (1.08) 4.35 (1.16) -1.00 他国文化の理解 3.26 (1.07) 3.84 (0.99) 4.86 他国文化への関心 4.51 (0.65) 4.54 (0.70) 0.36 共感性 4.93 (0.26) 4.93 (0.26) 0.00 人類の共通課題への関心、認識 4.53 (0.73) 4.61 (0.67) 0.92 国際的協力機構への協力的な態度 4.63 (0.70) 4.82 (0.42) 2.93 外国語の理解 4.51 (0.92) 4.54 (0.81) 1.17 外国語への関心 4.93 (0.72) 4.93 (0.47) 1.96 構成因子 * p <.05 ** p <.01 *** *** ** *** p <.001 第2回目においても、事業後に行ったポスト調査での「国際理解度」の平均値が上昇し ており、有意差が認められた( p <.001)。構成因子では、「他国民・他民族に対する感情」、 「共感性」「他国文化の理解」、「国際的協力機構への協力的な態度」、「外国語の理解」、「外 国語への関心」の3因子において平均値に有意差があることが認められた( p <.001)。また、 「他国文化の理解」、と「国際的協力機構への協力的な態度」の2因子において平均値に有 意差があることが認められた( p <.01)。 表7 第2回プログラムにおける国際理解度得点の変化(n=31) プレ調査 ポスト調査 M (SD) M (SD) t 4.19 (0.93) 4.41 (0.82) 5.85 *** 他国民・他民族に対する感情 4.17 (0.85) 4.54 (0.71) 5.00 *** 平等意識 4.46 (0.74) 4.63 (0.72) 2.00 他国文化の理解 4.13 (0.96) 4.33 (0.82) 2.78 他国文化への関心 4.24 (0.82) 4.27 (0.93) 0.37 共感性 3.87 (1.06) 4.22 (0.87) 4.03 人類の共通課題への関心、認識 4.42 (0.79) 4.53 (0.65) 1.58 国際的協力機構への協力的な態度 4.20 (0.82) 4.44 (0.77) 2.83 ** 外国語の理解 3.95 (1.10) 4.25 (0.99) 2.80 ** 外国語への関心 4.25 (1.02) 4.52 (0.76) 4.29 *** 構成因子 国際理解度 * p <.05 ** p <.01 ** *** *** p <.001 実施した2回のプログラムにおいて、平均値に有意差がみられなかった因子は、「平等 意識」、「他国文化への関心」、「人類の共通課題への関心、認識」である。 164 Ⅲ 投稿原稿/青少年国際交流プログラム「ユース オブ ワールド」の実践報告 (3) 考察 本研究の結果から、本事業において、参加者の「国際理解度」の向上が明らかとなった。 特に、実施した2回のプログラムにおいて、「他国文化の理解」が大きく向上したのは、 各国の参加者と一緒に体験活動したり、対話したり、一緒に生活する中で、他国の文化に 触れる機会が多かったことによるものと推察する。また、第1回のプログラムでは多国籍 料理、第2回の事業では「和食」をテーマにしたクッキングを実施し、各国の食文化につ いての参加者交流が図られたことも大きな要因と考えられる。外国人参加者と日本人参加 者の「他国文化の理解」の平均値の推移を比較してみると、外国人参加者は、第1回が 3.26 から 3.85 と 0.59 向上しているのに対し、日本人の平均値は、3.27 から 3.83 と 0.56 向上 している。第2回は、外国人参加者が 3.29 から 3.93 と 0.64 向上しているのに対し、日本 人参加者は 3.5 から 3.83 とわずか 0.33 の向上にとどまっており、外国人参加者の方が日 本人参加者よりも数値が向上していることがわかる。これは、日本文化体験タイムとして 「茶道」と「書道」の体験を取り入れたことが、外国人参加者への日本の伝統文化への理解 を深めたと推察される。 参加者全体として「国際的協力機構への協力的な態度」についても大きな変化が見られ た。参加者の多くが留学生や ALT であるため、グローバルな活動に興味を持っており、他 国の参加者と対話する中で互いに触発し合い、国際的協力機構への協力的な態度がより向 上し、日本語や英語を使って会話することにより、外国語への関心も高まったものと考え られる。また、日本文化体験タイムとして実施した「茶道」と「書道」では、いずれも地 域のボランティアによる講師が担当したことから、その影響を受けたことも一要因として 推察される。ALT を取り入れることによって、英語で会話する場面も多く見られた。 第1回で平均値に有意差がみられたのは2因子のみだったのに対し、第2回では、9つ の構成因子のうち6因子において平均値が向上し、有意差が認められた。これは、回を重 ねることにより、運営スタッフの運営面のスキルがアップしたことが要因の一つとして考 えられる。地域ボランティア等の運営協力者を増やして小グループに分けて活動したり、 プログラムにゆとりをもたせたりするなど、第1回の経験を踏まえた上で、第2回をより 充実したプログラムデザインにすることが可能となり、参加者にとって効果的なプログラ ムになったと考察される。 さらに第2回では、 「他国民・他民族に対する感情」、 「共感性」、 「外国語の理解」、 「外国 語への関心」など第1回ではみられなかった変容が確認された。 「他国民・他民族に対する 感情」と「共感性」の向上は、参加者同士の積極的な交流が図られた結果であると考えら れる。体験活動をとおした国際交流ができるよう、日本人と外国人の混合グループによる アイスキャンドル作りや和食クッキング等の恊働作業を取り入れ、コミュニケーションを 促すようなプログラムをデザインしたことが数値を上昇させたものと考えられる。 事業前後の国際理解度測定尺度得点の変化において、プレ調査とポスト調査での平均値 に有意な差が認められなかった因子は、 「平等意識」、 「他国文化への関心」、 「人類の共通課 題への関心、認識」の3因子である。これは、プレ調査で平均値が 4.46、4.24、4.42 と、 すでに参加者が高い理解度を持っていたため、本事業によりさらに高い理解度を持たせる にはいたらなかったと考えられる。これらの因子の数値を上げるためには、他国の文化に 関心が持てるようなプログラムや環境問題等の人類共通課題への関心が持てるような企画 Ⅲ 投稿原稿/青少年国際交流プログラム「ユース オブ ワールド」の実践報告 165 を考える必要がある。また、第1回においても、プレ調査での平均値が高い因子が多く、「他 国民・他民族に対する感情」が 4.91、 「共感性」と「外国語への関心」がいずれも 4.93 と なっている。国際理解度全体をみても 4.52 と高い。このことから、国際交流事業への参加 者は、事業へ参加する前から高い国際理解度を持っている傾向にあることが明らかになっ た。 Ⅳ.まとめ 本報告では、平成 25 年度国立大雪青少年交流の家教育事業「ユース オブ ワールド」を 事例に、青少年国際交流プログラムの企画・運営・評価について実践報告を行った。 今後の課題は、実施期間を延長し、より充実したプログラムを検討することである。今 回のプログラムでは、ねらいに沿った事業を展開することはできたが、1泊2日の短いプ ログラムだったため、忙しいスケジュールとなってしまった。日本人の青年と外国人留学 生との交流時間を十分に確保しながら互いの意見を交換し、グローバルな視野を広げるこ とが必要である。 また、1回目と2回目の参加者のうちリピーターは日本人と外国人参加者それぞれ2名 いるが、4人全員、1回目よりも2回目の方がわずかであるが、国際理解度が向上した。 回を重ねることによって国際理解の向上効果にどのような差があるのか、調査の対象者を 増やして検証したい。 青少年教育施設を活用した国際交流事業は、様々な体験活動をとおして日本人と外国人 が自然に交流を図ることができる。とりわけキャンプやアウトドアクッキングなど、アウ トドアでの自然体験活動を多く取り入れることが可能であり、開放的な環境の中で無理な く外国語に慣れ親しむことができる (6) 。今回は、北海道の自然や特色を生かし、秋と冬の 2回実施したが、夏の開催、そしてキャンプ場や野外炊飯場等の設備が整った青少年教育 施設における国際交流プログラムの検証や国際理解を促進する上でどのような体験活動を 取り入れることが効果的であるかを検証することも価値があるものと考える。 引用文献、参考文献、注 (1) グローバル人材 育成 推進会議、「グローバル人 材育成戦略(グローバル人 材育成推進会議 審議ま とめ)」2012 年6月4日、http://www.kantei.go.jp/jp/singi/global/1206011matome.pdf、2013 年 9 月 12 日参照 (2) 中央教育審議会 スポ ーツ・青少年分科会 青少 年の体験活動の推進の在り 方に関する部会、「今後 の青少年の体験活動の推進について(中間報告)」、2013 年8月 31 日、http://www.mext.go.jp/b_me nu/houdou/24/08_icsFiles/afieldfile/2012/09/04/1325258_01.pdf、2013 年 9 月 12 日参照 (3) 鈴木佳苗・坂元章・森津太子・坂元桂・高比良美詠子・足立にれか・勝谷紀子・小林久美子・橿淵 めぐみ・木村文香、「2000 国際理解測定尺度(IUS2000) の作成および信頼性 ・妥 当性の検討」、日本 教育工学会論文誌、23、pp.213-226 (4) 1982 年日本ユネスコ 国内委員会が「国際理解教 育における基本目標」とし て示した、①人権の尊 重、②他国文化の理解、③世界連帯意識の育成の3項目に基づいて、御茶ノ水女子大大学院人間文化 研究科と日本学術振興会の研究グループが作成した国際理解教育の内容を網羅的に含む尺度で、質問 紙は 72 項目に及ぶ。人権の尊重(16 項目)、他国文化の理解(24 項目)、世界連帯意識の育成(16 166 Ⅲ 投稿原稿/青少年国際交流プログラム「ユース オブ ワールド」の実践報告 項目)、外国語の理解(16 項目)で構成されている。 (5) 堀洋道監修・櫻井茂男・松井豊、 「心理測定尺度集Ⅳ 子どもの発達を考える<対人関係・適応>」、 6版、サイエンス社、2011、p.101 (6) 松浦賢一、「野外体験 活動をとおした外国語によ るコミュニケーション教育 プログラムの開発―青 少年社会教育施設における国際キャンプの実践から―」、平成 23 年度北海道教育委員会社会教育主事 会研究紀要、2012、pp.78-80
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