第6章 力積と運動量(6/1)

第6章 力積と運動量
ボールを蹴るとボールが飛んでいく
どのように蹴ると,良く飛ぶんだろう?
蹴る場所によって飛び方は変わるか?
蹴ったときに,脚からボールに与えたのは何?
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力積
2つの物体の衝突や打撃を考えるときは,ど
れくらいの力をどれくらいの時間与えたかが
重要になる。例えば,図のように高いところか
ら飛び降りたときは,直立して着地するより,
膝を曲げて着地する方が脚に力がかかる時
間を長くすることができる分,相対的に力を弱
くすることができる。このような力の大きさと力
の働く時間の積を力積という。
図のように時刻 ti から tf までの間に力 F が
変化する場合,力積 I は,
tf 
I   Fd t
時間
力
長い
小さい
短い
大きい
ti
のように表すことができる。
面積 = 力積
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力積と運動量
質量 m の物体に力 F を加えると,速度 v が変化する。
物体の運動は F = ma で表わすことができ,加速度 a
は dv/dtと書くことができるので,両辺にdt をかけると,
dv
→ Fdt  m dv
F  ma  m
dt
vi
力F
となる。例えば,時刻が ti から tf の間に,速度が vi から
vf まで変化したとすると,上の式は,
tf
t
i
Fdt  
vf
vi
m dv  mv f  mv i
と表すことができ,物体に与えた力積は mv の差で表す
ことができることがわかる。この p = mv を運動量といい,
物体の動かしにくさ,止めにくさの指標として用いられる。
つまり,重くて速い物体ほど止めるのに大きな力積を必
要とする。実際には,力も速度もベクトルなので,
tf 
vf



 Fdt   m d v  m v f  m v i
ti
vi
vf
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力積・運動量とロケット
宇宙空間でロケットを制御するには力
積と運動量の関係がとても重要である。
vi
mvi
m
mvf
m
x
Ft
vf
y
例えば,図のように質量 m = 7[kg]のロ
ケットが,vi = 5[m/s]で慣性飛行している
と き , 90 度 角 度 の 異 な る 方 向 に vf =
5[m/s]で飛ぶためには,図の赤い矢印の
方向に噴射すれば良いことになる。力積
と運動量の関係から,
x軸方向:
Fx t  mv f  mv i  0  7  5  35
y軸方向:
F y t  mv f  mv i  7  5  0  35
噴射によって得られる力 F が
50[N]だとすると,x軸,y軸,そ
れぞれの方向の分力は35[N]
なので,噴射に必要な時間 t
は,1[s]となる。
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例題
1[kg]の物体に図のように力を加えた。2秒後の速度を求めなさい。
2 秒後までの力積は三角形の面積であるので,
10[N]×2[s]÷2=10[N・s]
これが運動量 mv と等しいので,
1[kg]×v[m/s]=10[kg・m/s]
よって,
v = 10[m/s]
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運動量の保存
運動靴を履いて摩擦を保ちながら,手押し車を
押すと,人が車に外部から力を与えたことになる。
ところが,よく滑る氷上でローラースケートを履い
て手押し車を突き放すと,双方がはじかれてそ
れぞれ反対向きに異なった速度で離れる。つま
り,外界から他に影響を受けない状態であれば,
作用・反作用は向きが逆で大きさが同じなので,
力積は符号が逆で大きさが同じということになる。
 F21dt   m1dv1
 F12dt   m2dv2
 F21dt    F12dt
したがって,
 m1dv1    m2dv2
となる。
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運動量の保存
ここで力を加える前後の速度をそれぞれ v1i,v1f,v2i,v2f とすると,
 m1dv1    m2dv2
は,m1(v1f  v1i) = m2(v2f  v2i) となり,
m1v1i  m 2v 2 i  m1v1 f  m 2v 2 f
となる。すなわち,力を加える前後の運動量の総和は等しいことになる。こ
れを運動量保存の法則という。
もし,力を加える前に静止してた場合は,
v1i = v2i = 0 となり,
m1v1 f   m 2v 2 f
となる。すなわち「互いの速度はその物体
の質量に反比例する。」ことがわかる。大
きなボートから飛び込むときボートはほと
んど動かないが,小さなボートの場合は
反対方向に強く動かされる。
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例題
図のようになめらかな床の上に,自由に動ける質量Mの斜面がある。この
斜面を質量mの箱が高さhのところからなめらかに滑り落ちた。滑り降りたと
きの箱の速度を求めなさい。
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例題
図のようになめらかな床の上に,自由に動ける質量Mの斜面がある。この
斜面を質量mの箱が高さhのところからなめらかに滑り落ちた。滑り降りたと
きの箱の速度を求めなさい。
滑る前でのお互いの速度はゼロである。滑り降
りたときの箱の速度をvとし,斜面の速度をVとす
ると,運動量保存の法則より,
mv  MV  0
m
v
M
となる。また,エネルギー保存の法則より,
1
1
mv 2  MV 2  mgh
2
2
V 
となる。これらより,
v
2 gh
1 m M
となることがわかる。
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運動量の保存
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衝突
運動量保存の法則やエネルギー保存の法
則は理想的に熱や物体の変形による消失分
を無視している。いま,2個の物体 m1 と m2
が衝突するとき,衝突前後の速さをそれぞれ
v1i ,v2i と,v1f ,v2f とすると,速度の比 e は,
e
v1 f  v 2 f
v1i  v 2 i
0  e  1
と表すことができる。この e をはね返り係数と デッドボールは,遠くに跳ねるほど
いう。e = 1の状態を「完全弾性衝突」といい, 一般に傷が軽い。
e < 1の場合を「非弾性衝突」という。運動量
保存の法則から,衝突前後のエネルギー変
化 Ei  Ef は,
m1m 2
(v1i  v 2 i )2 (1  e 2 )  0
Ei  E f 
2( m1  m 2 )
となり,非弾性衝突のときは運動エネルギー板が割れて球の運動量を吸収すると,
が減少することがわかる。
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球は遠くに跳ね返らない
はね返り係数
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完全非弾性衝突
非弾性衝突の中でも,e = 0 のときを特
に完全非弾性衝突という。このとき,
v 2 f  v1 f
e
0
v 2 i  v1i
なので,v2f  v1f = 0,すなわち2つの物
体の最終速度は同じ vf となる。このとき,
運動量の保存より,



m1v1  m 2v 2  ( m1  m 2 )v f
v1
v2
m1
m2
vf
m1
m2
となり,最終速度は,



m1v1  m 2v 2
vf 
m1  m 2
となる。
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完全弾性衝突
完全弾性衝突(e = 1)では,エ
ネルギーの保存と運動量の保
存が成り立つので,
1
1
2
m1v1i  m 2v 22i
2
2
1
1
 m1v12 f  m 2v 22 f
2
2
m1v1i  m 2v 2 i
v1i
v2i
m1
m2
v1f
v2f
m1
m2
v1i
v2i
速度差
v1f
v2f
速度差
 m1v1 f  m 2v 2 f
となり,これを解くと,
v1i  v1 f  v 2 i  v 2 f

v1i  v 2 i   v1 f  v 2 f

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斜方衝突
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重心
外から力を受けないと,
中心の位置は,等速直
線運動する?!
この中心を重心という。
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天秤の重心
天秤では,重さのない棒の支点をはさんで
両側に重りが下がっているときのバランスを
考えた。
(a)のような長い棒を1本の指で支えるときは,
ほぼ中心を持って左右のバランスをみながら
指の位置をさがす。 左右に等しい重りをつ
けるときには,中心点が支点となって左右の
バランスがとれ(b),棒は平行を保つ。
複雑な右図のモビールも(c),左右のテコの
つり合いを考えると(d)となる。
(c)
(a)
(b)
(d)
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重心の求め方
 
質量 m1,m2,位置 r1 , r2 にある2つ
の物体の重心の位置 RCM は,



m1r1  m 2 r2
RCM 
m1  m 2
重心
G
形の複雑な物体の重心は,1
点からヒモで物体をつるし,ヒモ
の線上を見極めてから,別な1
点からつるして同じ操作をし,そ
れぞれの交点を求める。この交
点が物体の重心となる。
で求められる。この式は,質点の数が
増えてもそのまま拡張することができる。


m
r
 ii
RCM 
 mi
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箱形物体の重心位置と安定限界
G
G
G
G
Q
W
P
P
不安定
W
Q
P W
準安定
QP
安定
Q
W
安定
色々な物体の重心位置と安定限界
重心
G
P
W
QP
Q
W
P
W Q
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非常に安定
不安定
安定
例題
図のように全長4[m]のボートの後方にのって船に岸につけた。乗っている
人の体重は60[kg]であり,船の質量は60[kg]である。船を岸につなぐために
乗っている人が船の先頭に向かって移動していくと,船は岸から離れた。船
の先頭にきたときに船は岸からどのくらい離れるか?船の重心は船の中心
の位置にあるとする。
船と人の重心は岸から測って,
60[kg] 2[m]  60[kg] 4[m]
 3[m]
60[kg]  60[kg]
である。先頭に来たときの人の位置を岸から測っ
てxとすると,船の中心はx+2である。よって,重心
の位置は,
60[kg] x[m]  60[kg] ( x  2)[m]
 x  1[m]
60[kg]  60[kg]
である。外から力は働かないので,人と船を合わせた重心の位置3[m]は変
わらない。よって,
x  2[m]
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となり,2[m]岸から離れてしまう。
重心
xcg
mx


m
i i
i
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例題
図のように均質な金属でできた直角三角形の
板がある。重心の位置を求めなさい。
x方向の重心の位置を求めてみる。図のxから x +
x の区間の面積は,(b / a) xx である。単位面
積あたりの質量を  とすると,この区間にある質
量 m は m =  (b / a) xx である。よって,
a b 2
1 2
b 2
 xm    a x x  0  a x dx  3 a b
a b
1
b
 m    a xx  0  a xdx  2 ab
より,
 x m  2 a
 m 3
a:b=x:?
b
x
?
a
b
x
a
x
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