第6章 力積と運動量 ボールを蹴るとボールが飛んでいく どのように蹴ると,良く飛ぶんだろう? 蹴る場所によって飛び方は変わるか? 蹴ったときに,脚からボールに与えたのは何? 2 力積 2つの物体の衝突や打撃を考えるときは,ど れくらいの力をどれくらいの時間与えたかが 重要になる。例えば,図のように高いところか ら飛び降りたときは,直立して着地するより, 膝を曲げて着地する方が脚に力がかかる時 間を長くすることができる分,相対的に力を弱 くすることができる。このような力の大きさと力 の働く時間の積を力積という。 図のように時刻 ti から tf までの間に力 F が 変化する場合,力積 I は, tf I Fd t 時間 力 長い 小さい 短い 大きい ti のように表すことができる。 面積 = 力積 3 力積と運動量 質量 m の物体に力 F を加えると,速度 v が変化する。 物体の運動は F = ma で表わすことができ,加速度 a は dv/dtと書くことができるので,両辺にdt をかけると, dv → Fdt m dv F ma m dt vi 力F となる。例えば,時刻が ti から tf の間に,速度が vi から vf まで変化したとすると,上の式は, tf t i Fdt vf vi m dv mv f mv i と表すことができ,物体に与えた力積は mv の差で表す ことができることがわかる。この p = mv を運動量といい, 物体の動かしにくさ,止めにくさの指標として用いられる。 つまり,重くて速い物体ほど止めるのに大きな力積を必 要とする。実際には,力も速度もベクトルなので, tf vf Fdt m d v m v f m v i ti vi vf 4 力積・運動量とロケット 宇宙空間でロケットを制御するには力 積と運動量の関係がとても重要である。 vi mvi m mvf m x Ft vf y 例えば,図のように質量 m = 7[kg]のロ ケットが,vi = 5[m/s]で慣性飛行している と き , 90 度 角 度 の 異 な る 方 向 に vf = 5[m/s]で飛ぶためには,図の赤い矢印の 方向に噴射すれば良いことになる。力積 と運動量の関係から, x軸方向: Fx t mv f mv i 0 7 5 35 y軸方向: F y t mv f mv i 7 5 0 35 噴射によって得られる力 F が 50[N]だとすると,x軸,y軸,そ れぞれの方向の分力は35[N] なので,噴射に必要な時間 t は,1[s]となる。 5 例題 1[kg]の物体に図のように力を加えた。2秒後の速度を求めなさい。 2 秒後までの力積は三角形の面積であるので, 10[N]×2[s]÷2=10[N・s] これが運動量 mv と等しいので, 1[kg]×v[m/s]=10[kg・m/s] よって, v = 10[m/s] 6 運動量の保存 運動靴を履いて摩擦を保ちながら,手押し車を 押すと,人が車に外部から力を与えたことになる。 ところが,よく滑る氷上でローラースケートを履い て手押し車を突き放すと,双方がはじかれてそ れぞれ反対向きに異なった速度で離れる。つま り,外界から他に影響を受けない状態であれば, 作用・反作用は向きが逆で大きさが同じなので, 力積は符号が逆で大きさが同じということになる。 F21dt m1dv1 F12dt m2dv2 F21dt F12dt したがって, m1dv1 m2dv2 となる。 7 運動量の保存 ここで力を加える前後の速度をそれぞれ v1i,v1f,v2i,v2f とすると, m1dv1 m2dv2 は,m1(v1f v1i) = m2(v2f v2i) となり, m1v1i m 2v 2 i m1v1 f m 2v 2 f となる。すなわち,力を加える前後の運動量の総和は等しいことになる。こ れを運動量保存の法則という。 もし,力を加える前に静止してた場合は, v1i = v2i = 0 となり, m1v1 f m 2v 2 f となる。すなわち「互いの速度はその物体 の質量に反比例する。」ことがわかる。大 きなボートから飛び込むときボートはほと んど動かないが,小さなボートの場合は 反対方向に強く動かされる。 8 例題 図のようになめらかな床の上に,自由に動ける質量Mの斜面がある。この 斜面を質量mの箱が高さhのところからなめらかに滑り落ちた。滑り降りたと きの箱の速度を求めなさい。 9 例題 図のようになめらかな床の上に,自由に動ける質量Mの斜面がある。この 斜面を質量mの箱が高さhのところからなめらかに滑り落ちた。滑り降りたと きの箱の速度を求めなさい。 滑る前でのお互いの速度はゼロである。滑り降 りたときの箱の速度をvとし,斜面の速度をVとす ると,運動量保存の法則より, mv MV 0 m v M となる。また,エネルギー保存の法則より, 1 1 mv 2 MV 2 mgh 2 2 V となる。これらより, v 2 gh 1 m M となることがわかる。 10 運動量の保存 11 衝突 運動量保存の法則やエネルギー保存の法 則は理想的に熱や物体の変形による消失分 を無視している。いま,2個の物体 m1 と m2 が衝突するとき,衝突前後の速さをそれぞれ v1i ,v2i と,v1f ,v2f とすると,速度の比 e は, e v1 f v 2 f v1i v 2 i 0 e 1 と表すことができる。この e をはね返り係数と デッドボールは,遠くに跳ねるほど いう。e = 1の状態を「完全弾性衝突」といい, 一般に傷が軽い。 e < 1の場合を「非弾性衝突」という。運動量 保存の法則から,衝突前後のエネルギー変 化 Ei Ef は, m1m 2 (v1i v 2 i )2 (1 e 2 ) 0 Ei E f 2( m1 m 2 ) となり,非弾性衝突のときは運動エネルギー板が割れて球の運動量を吸収すると, が減少することがわかる。 12 球は遠くに跳ね返らない はね返り係数 13 完全非弾性衝突 非弾性衝突の中でも,e = 0 のときを特 に完全非弾性衝突という。このとき, v 2 f v1 f e 0 v 2 i v1i なので,v2f v1f = 0,すなわち2つの物 体の最終速度は同じ vf となる。このとき, 運動量の保存より, m1v1 m 2v 2 ( m1 m 2 )v f v1 v2 m1 m2 vf m1 m2 となり,最終速度は, m1v1 m 2v 2 vf m1 m 2 となる。 14 完全弾性衝突 完全弾性衝突(e = 1)では,エ ネルギーの保存と運動量の保 存が成り立つので, 1 1 2 m1v1i m 2v 22i 2 2 1 1 m1v12 f m 2v 22 f 2 2 m1v1i m 2v 2 i v1i v2i m1 m2 v1f v2f m1 m2 v1i v2i 速度差 v1f v2f 速度差 m1v1 f m 2v 2 f となり,これを解くと, v1i v1 f v 2 i v 2 f v1i v 2 i v1 f v 2 f 15 斜方衝突 16 重心 外から力を受けないと, 中心の位置は,等速直 線運動する?! この中心を重心という。 17 天秤の重心 天秤では,重さのない棒の支点をはさんで 両側に重りが下がっているときのバランスを 考えた。 (a)のような長い棒を1本の指で支えるときは, ほぼ中心を持って左右のバランスをみながら 指の位置をさがす。 左右に等しい重りをつ けるときには,中心点が支点となって左右の バランスがとれ(b),棒は平行を保つ。 複雑な右図のモビールも(c),左右のテコの つり合いを考えると(d)となる。 (c) (a) (b) (d) 18 重心の求め方 質量 m1,m2,位置 r1 , r2 にある2つ の物体の重心の位置 RCM は, m1r1 m 2 r2 RCM m1 m 2 重心 G 形の複雑な物体の重心は,1 点からヒモで物体をつるし,ヒモ の線上を見極めてから,別な1 点からつるして同じ操作をし,そ れぞれの交点を求める。この交 点が物体の重心となる。 で求められる。この式は,質点の数が 増えてもそのまま拡張することができる。 m r ii RCM mi 19 箱形物体の重心位置と安定限界 G G G G Q W P P 不安定 W Q P W 準安定 QP 安定 Q W 安定 色々な物体の重心位置と安定限界 重心 G P W QP Q W P W Q 20 非常に安定 不安定 安定 例題 図のように全長4[m]のボートの後方にのって船に岸につけた。乗っている 人の体重は60[kg]であり,船の質量は60[kg]である。船を岸につなぐために 乗っている人が船の先頭に向かって移動していくと,船は岸から離れた。船 の先頭にきたときに船は岸からどのくらい離れるか?船の重心は船の中心 の位置にあるとする。 船と人の重心は岸から測って, 60[kg] 2[m] 60[kg] 4[m] 3[m] 60[kg] 60[kg] である。先頭に来たときの人の位置を岸から測っ てxとすると,船の中心はx+2である。よって,重心 の位置は, 60[kg] x[m] 60[kg] ( x 2)[m] x 1[m] 60[kg] 60[kg] である。外から力は働かないので,人と船を合わせた重心の位置3[m]は変 わらない。よって, x 2[m] 21 となり,2[m]岸から離れてしまう。 重心 xcg mx m i i i 22 例題 図のように均質な金属でできた直角三角形の 板がある。重心の位置を求めなさい。 x方向の重心の位置を求めてみる。図のxから x + x の区間の面積は,(b / a) xx である。単位面 積あたりの質量を とすると,この区間にある質 量 m は m = (b / a) xx である。よって, a b 2 1 2 b 2 xm a x x 0 a x dx 3 a b a b 1 b m a xx 0 a xdx 2 ab より, x m 2 a m 3 a:b=x:? b x ? a b x a x 23
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