<政治・経済> <自動車>

<自動車>
ページ
【 政 策 】
◆「自動車ブランド販売管理弁法」-改訂作業が大詰めに ·························2
【市場】
◆過去最高を記録する 3 月-引き続く自動車市場喚起 ·····························3
【 メーカー 】
◆「完成車合弁メーカーのあり方」に関する議論-外国側の警戒と中国側の懸念 ·····5
◆中国自動車産業の欧米進出-渉外能力の向上が成功の鍵 ·························6
<政治・経済>
【 国 内 】
◆リコール制度の整備に向けて前進 ·············································7
【 国 際 】
◆ボアオフォーラム-中国が見せたリーダーシップとは ···························9
◆反ダンピング措置を巡る中国と欧米の攻防 ·····································10
※本レポートは、中国現地情報をベースとして、中国の政治・経済から自動車関連動向までを
迅速かつ正確にお伝えするものです(本編は隔週発行、統計集〔別紙〕は四半期発行)。
発行:社団法人
作成:株式会社
日本自動車部品工業会(国際部)
〔住所〕〒108-0074 東京都港区高輪1-16-15 〔電話〕03-3445-4213
現代文化研究所
〔住所〕〒102-0074 東京都千代田区九段南2-3-18 〔電話〕03-3264-6021
1
< 自動車 >
【政 策】
◆「自動車ブランド販売管理弁法」-改訂作業が大詰めに
中国政府は自動車の販売政策を見直そうとしている。これが実現すると、従来の外国メーカーが主導で
現地生産車及び輸入車を販売できる方式に一定の制約条件が付与されることとなり、外国メーカーにと
っては厳しい状況となる。
中国では従来、自動車の販売は国有の貿易会社が行って
■直近の動向
いる。
商務部は 3 月下旬、「自動車ブランド販売管理実施弁法
01 年の WTO 加盟後、流通分野の開放も合意内容通りに
補足規定」の意見募集稿を業界関係者に配布した。事情に
進められており、自動車販売の規制緩和に当たる政策であ
詳しい関係者の話によると、これまで何度も意見募集と修
る「自動車ブランド販売管理弁法」は 2005 年 2 月 21 日に
正を繰り返してきたが、今回が正式公布前の最後の意見募
公布され、06 年 12 月 31 日に施行された。
集になる予定だという。
但し、この政策は「授権経営」、即ち「自動車供給業者
上記関係者を通じて意見募集稿の内容を確認したとこ
(メーカーまたは輸入総代理店)からの販売認定(=授権)
ろ、
「自動車供給業者(メーカーまたは輸入総代理店)は、
を取得しなければ、自動車の販売に従事することはできな
認定販売店の経営モデルを強制的に規定してはならない」、
い」ことを規定しているため、現地生産車及び輸入車を含
「初回の認定期間は 5 年以上でなければならない」、「認
む自動車販売の全般を主導したい外国メーカーに有利に
定期間内においては、販売成績が悪いことを理由に認定を
なるが、逆にこれまで自動車の販売を独占してきた国有の
取り消してはならない」など、販売店の利益を保護する趣
貿易会社にとっては、メーカーの認定を取得しなければ、
旨の規定が多く追加されていることが分かった。
販売を終業してしまう可能性が大きくなる。
今回の意見募集稿では、「いかにして輸入総代理店の独
そのため、当初は 05 年 4 月 1 日に施行される予定だっ
占的地位を崩すか」が最大の争点となる。その中で、「輸
たが、前記の国有の貿易会社等からの反発もあり施行時期
入総代理店の複数設置を義務付けるべき」や「認定販売店
が 1 年以上遅れた。施行後も、販売店からは「授権経営の
による完成車の直接輸入を認めるべき」といった意見が出
やり方が自動車メーカーや輸入総代理店に支配的地位を
されている。
与えた」との不満が高まったため、このような状況を踏ま
前者に関しては、「輸入総代理店の複数設置を義務付け
え、同政策の担当部署である商務部は 08 年 1 月から同弁
ても、それらがすべて外国メーカーの独資子会社であれば
法の改訂に向けた取り組みを本格的に開始した。
現状と何ら変わらない」との懸念がある。また後者に関し
ては、
「直接輸入権を認める基準を明確にする必要がある」
【自動車メーカー・輸入総代理店による問題行為】
と指摘されている。それに対し、中国汽車流通協会(CADA)
販売店の利益率低下を招く行為
・ 無理な販売ノルマと在庫の押し付け(カー用品を含む)。
・ 高額な保証金の徴収。
・ 店舗で使用する設備や建材の発注先の指定。
・ 広告投入量に対するノルマの設定。
・ バックマージンの未払い。
自由競争を妨害する行為
・ 販売エリアの制限。
・ スペアパーツ、カー用品購入ルートの一本化。
・ 値引き幅の制限。
・ ローン提供金融機関の限定。
資源の浪費と環境汚染を招く行為
・ 統一基準に基づく豪華な店舗建設の義務付け。
*1
の瀋進軍・常務副会長兼秘書長は、「専門家チームを組
織し、直接輸入権を認める基準の草案を作成した。近日中
に関係者の意見をヒアリングする予定である」と語ってい
る。
*1:自動車販売業者(中古車、カー用品等を含む)の団体。商
務部の委託を受け、「自動車ブランド販売管理実施弁法」の
改訂作業を推進する中心的役割を担っている。
-2-
【市 場】
◆過去最高を記録する 3 月-引き続く自動車市場喚起
3 月の自動車市場は過去最高を記録。しかし、伸び率は鈍化傾向にあることなどを背景に、業界アナリス
トの賈新光は中国政府の掲げる「年率 10%の成長ペース」を維持するための提言を発表した。「老朽化
の代替促進」、「農村部の旅客輸送」、「ローン普及」といった課題に取り組む必要があると指摘して
いる。
中国汽車工業協会*1(CAAM)統計によると、3 月の国産
懸念される。また、商用車の販売台数の伸び悩み*4、輸出
台数の激減*5 があった」と指摘している。
車販売台数は前月比 34.10%増、前年同月比 5.01%増の
*2:中国では、「春節(旧正月)」休暇と重なることが多い2
月は、一般的に販売台数が大きく落ち込む時期。このため、
3 月の対前月比伸び率は大幅なプラスとなることが多い。
*3:日本の軽ワンボックスに類似するカテゴリー。3 月 10 日
に公布された政策「農村部への自動車・オートバイ普及実施
方案」では「人員を輸送するための車両で排気量 1.3L 以下、
かつ車輪が 4 軸以上装備されているもの(但し、轎車を除
く)」との定義が与えられた。
*4:1~3 月の商用車販売台数は前年同期比 6.13%減の 68 万
3100 台。
*5:1~3 月の自動車輸出台数は前年同期比 62.06%減の 6 万
1000 台。
110 万 9800 台(うち乗用車 77 万 2400 台)、1~3 月の国
産車販売台数は前年同期比 3.88%増の 267 万 8800 台(同
199 万 5700 台)で、いずれも過去最高を記録した。
欧米諸国の販売台数が軒並み大幅減となるなか、依然と
してプラス成長を維持している。しかし、08 年 3 月の国
産車販売台数が前月比 59.23%増、前年同月比 24.72%増
の 105 万 6600 台、同 1~3 月の国産車販売台数が前年同期
比 21.42%増の 257 万 8700 台であったことを考えれば、
伸び率が大きく減速している感は否めない。
さらに、3 月 20 日に公布された「汽車産業調整・振興
*1:自動車および部品製造業者の団体。国際自動車工業連合会
(OICA)のメンバー。日本の自動車工業会に相当。
乗用 計
轎車*3
MPV
SUV
微型バス
規劃(自動車産業調整・振興計画)」に掲げられている「年
率 10%の成長ペースを維持」という目標をも大幅に下回
【乗用車販売台数(09 年3 月)】
販売台数
対前月比
対前年同月比
(台)
伸び率
伸び
772,400
27.18%
10.26%
546,000
27.84%
5.86%
20,200
37.86%
▲11.28%
40,600
28.22%
▲6.58%
165,600
23.67%
39.65%
っている。
CAAM の董揚・常務副会長兼秘書長は、4 月 8 日に雲南省
昆明市で行われた
「第6期第3 回会員代表大会」
において、
09 年の市場見通しを以下のように語った。
「09 年の中国自動車市場を見通す際に用いる言葉とし
ては、『Cautious Optimism(用心深い楽観論)』が最も
【乗用車販売台数(09 年1~3 月)】
販売台数
対前年同期比
(台)
伸び率
乗用 計
1,995,700
7.81%
轎車
1,415,500
3.01%
MPV
46,700
▲15.47%
SUV
102,400
0.54%
微型バス
431,100
34.78%
ふさわしいのではないか。中央政府が『(上記)振興計画』
を打ち出したことで消費者の購買意欲が刺激され、国産乗
用車の販売台数は徐々に回復する傾向を示している。一方、
世界の自動車産業を取り巻く環境は依然として厳しい状
況が続くものと思われる。それらの要素を踏まえた上で、
CAAM としては 09 年の国産車販売台数は前年比 8.7%増の
CAAM 統計を収集・作成する CAAM 行業信息部の朱一平・
1020 万台程度(うち、乗用車が同 10.2%増の 745 万台、
主任は、「3 月の国産車販売台数が伸びた理由として、季
*2
商用車が同 5.0%増の 275 万台)になると予測している。
*3
節要因 と微型バス をはじめとする小排気量車の販売が
そのなかで、微型バスは同 23%増という大きな伸びをみ
好調だったことが挙げられる。特に小排気量車のシェア向
せるだろう」。
上に伴って、台当たり利益率は低下する傾向にあることが
-3-
<オートローン普及率の拡大>
胡錦涛・国家主席も『新華社』とのインタビューにおい
て、「世界経済の低迷は、輸出入額の減少、工業生産高の
新車購入者に占めるオートローン利用者の割合はまだ
伸び悩み、企業の業績悪化、失業者の増加といった形で中
10%にも満たない。この比率を米国並み(80%以上)にま
国経済に大きな影響を与えている」と語っていた。確かに、
で引き上げる必要はないが、30~40%程度とするだけでも
中国社会科学院が 08 年 12 月に発表した「09 年経済白書」
かなりの潜在需要を掘り起こすことができる。
には、「就職先が見つからない大学卒業生の数は、08 年
【「黄標車」の通行制限】
末時点で 100 万人に達するだろう」との厳しい見通しが書
かれている。
このような状況下、中国・自動車業界アナリストの賈新
光は、市場を活性化させる方法として以下 3 つを掲げてい
る。賈新光によれば、「さらなる需要刺激策を打ち出さな
ければ、年率 10%という成長率を実現することは不可能
である」という。その 3 つの取り組みは以下の通りである。
<老朽化した自動車の買い替え促進>
北京市政府は、500~2 万 5000 元の補助金を給付するこ
とで、「黄標車*6」の淘汰を促進している。一方、全国に
は車齢9~10 年の自動車が約400 万台あるといわれている。
従って、各地方政府が北京市に追随する動きをみせれば、
(参考文献)
『新華網』(09 年 4 月 8 日付)、『新浪汽車』(4 月 10 日付)
『北京商報』(4 月 14 日付)、『中国汽車新網』(関連記事)
かなりの新車需要を作り出すことができる。
*6:ユーロⅠ排ガス規制に適合していない車両。車検時に黄色
い環境ラベルが張り付けられることから「黄標車」と呼ばれ
るようになった。
<農村部における旅客輸送業の発展>
農村部の住民は、微型バスを「農機具を運搬するための
手段」としてだけではなく、
「人員を輸送するための手段」
としても使用している。従って、農村部における旅客輸送
業を発展させることで、バス需要を大幅に増やすことがで
きる。
中国自動車産業フリーアナリスト・賈新光
プロフィール:
1951 年生まれ。北京にて中学 1 年時に山西省へ下放。
復学し、1974 年に山西大学を卒業。北京汽車に入社後、
自動車政策を研究。中国汽車工業銷售総公司、機械工
業部(省)汽車工業発展研究所に勤務。中国汽車工業
諮詢発展公司を経て、現在フリーのアナリスト。
4
【 メーカー 】
◆「完成車合弁メーカーのあり方」に関する議論-外国側の警戒と中国側の懸念
現在、中国では外国メーカーが中国側に対する警戒心を高めて技術を隠すようになってきたと指摘され、業
界関係者は「合弁プロジェクトの今後のあり方」に関する議論を活発化させている。『経済参考報』は合弁
会社活用の 3 つの方法を提示した。
外国メーカーの対中進出に際し、中国政府は「出資比率
一方、第一汽車のある幹部は「外国メーカーとの合弁プ
最高 50%」や「1 グループ 2 社合弁まで」などの各種規制
ロジェクトには、メリットとデメリットの両方がある」と
を採用している。
した上で、「海外の技術を自主事業の発展に活かすことが
できる」と、合弁プロジェクトのメリットを強調している。
しかし、完成車合弁プロジェクトにおける外国と中国側
の関係について、「目の不自由な(=中国市場を理解して
『経済参考報』(4 月 15 日付)は、業界関係者の代表
いない)外国メーカーが、足の不自由な(=技術力がない)
的意見として、外国メーカーとの合弁プロジェクトの今後
中国メーカーを支配している」と例えられた。
のあり方で以下 3 つの方向性があると提言している。
① 合弁会社の自主開発力を高め、合弁会社独自のブラン
実際、双方の出資比率こそ対等であるが、導入モデルや
サプライヤーの決定権はすべて外国メーカー側に握られ
ドを育成すること。その結果生まれたブランドについ
ているのが実情である。そのなかで、中国メーカーは、外
て、北京現代技術センターの苑文学・主任は「雑交種」
国メーカーから技術を吸収することを最優先し、生産工場
と表現した。
② 合弁会社で中国メーカーのモデルを生産し、外国メー
としての役割に徹してきた。
ところが、最近では外国メーカーが自主開発力を身に付
カーの販売ルートを活用して海外進出を図ること。例
けてきた中国メーカーに対する警戒心を高め、技術を隠す
えば、一汽 VW の工場でアウディ・ブランド車と「紅
ようになってきたと指摘されるケースが増えている。ある
旗」ブランド車を生産するケースなど。
③ 合弁会社をプラットフォームとして共同開発を実施
中国メーカーの幹部からは、「日本メーカーが中国人の技
し、その結果生まれたモデルを双方のブランドで販売
術スタッフに渡す図面はすべて偽物」という声まで出てい
*1
る。これに対し、科学技術部政策法規・体制改革司 の梅
する。例えば、一汽 VW で開発した新型車にアウディ・
永紅・司長は「外国メーカーは、あらゆる手段を用いて中
ブランドと「紅旗」ブランドで異なる車名を付け、別
*2
チャネルで販売する。
国自主ブランド の発展を妨害しようとしている」とも指
*1:中央政府の「司」は日本の省庁の「局」に相当。
*2:「奇瑞」や「吉利」など中国メーカー独自のブランドを「中
国自主ブランド」と称して「トヨタ」などの外資系ブランド
と区別する。従来、合弁会社では外資系ブランドを使用する
のが一般的だったが、広州ホンダの「理念」(10 年に生産
開始予定)のように合弁会社が「中国自主ブランド」を持つ
という動きも出てきている。
摘した。
また、かつて一汽トヨタ販売(FTMS)の副総経理を務め
た現・北汽福田汽車の董海洋・副総経理は、「開発と調達
の権限を手に入れた外国メーカーは、次に合弁会社の販売
網に対する支配を強めようとしている。中国メーカーがそ
れをそのまま放置することは、
『暴君を助けて悪事を働く』
ことと同じである。中国自動車産業の振興を図るためには、
このまま合弁プロジェクトを続けることが得策とは思え
ない」と、「トヨタ」で経験した重みのある発言をしてい
る。
5
◆中国自動車産業の欧米進出-渉外能力の向上が成功の鍵
華晨汽車の「駿捷」が、全ドイツ自動車連盟(ADAC)が実施した衝突安全試験で「星 0」という最低評価を受けたこと
に対し、中国メディアの多くが「ADAC の陰謀ではないか」との論調の報道を展開している。業界著名アナリストの鐘
師氏は、事件の背景と今後の対応策についての見解を述べた。
■中国自動車の欧米進出の条件は渉外能力の向上
華晨汽車の「駿捷」
(欧州での車名は「Brilliance BS4」)
が、全ドイツ自動車連盟(ADAC)が実施した衝突安全試験
海外メディアの中には、欧州自動車メーカーの利益を代
で「星 0」という最低評価を受けたことに対し、業界著名
表する ADAC が実施する衝突安全試験の公正性に疑問を投
アナリストの鐘師氏が『中国汽車要聞』に以下のような見
げかける声もある。しかし、ブランド力のない中国車が、
解を述べた。
ADAC の評価を覆すことが難しいのも事実である。
発展途上国が先進国(特に強大な自動車産業を持つ国)
に自動車を輸出する際には、遅かれ早かれ多くの妨害に見
■低評価の影には陰謀あり
全ドイツ自動車連盟(以下、ADAC)は、2005 年 9 月に
舞われることになる。実際、日本や韓国の自動車メーカー
江鈴汽車の「陸風」(欧州名 Landwind)を「史上最悪の
が欧米市場への進出を果たす過程においては、さまざまな
衝突安全性能を持つモデル」と酷評したのに続き、2007
通商摩擦が発生した。
今回の ADAC の反応は、自己防衛意識が極端な形で現れ
年 6 月には華晨汽車の「尊馳」(欧州名 BS6)に「1 ツ星」
たものといえる。ただし、欧米市場においては、似たよう
という屈辱的な低評価を与えた。
な現象が政府、各種試験機関、メディアなどの手によって
そして ADAC は今回、華晨汽車の「駿捷」に対して「星
引き起こされることがよくある。その中で成功を収めるた
0」という前代未聞の評価を下した。
ADAC の試験結果によると、「駿捷」は前面衝突テスト
めには、敵対勢力の攻撃をうまく回避しなければならない。
で 9 点(16 点満点)、側面衝突テストで 13 点(18 点満点)
トヨタをはじめとする日本の自動車メーカーは、有力な
の成績を上げており、本来であれば「3 ツ星」評価を得る
コンサルティング会社に高額の報酬を支払い、現地政府へ
ことができるはずであった。しかし、シートベルト非着用
のロビー活動を積極的に展開することで通商摩擦の解決
警報装置とエレクトロニック・スタビリティ・プログラム
を図った。中国民族系メーカーにこのような渉外能力がな
(ESP)が搭載されていなかったため、最終的な評価は「星
い現状においては、中国自動車産業は軽率に欧米進出に踏
0」となった。
み切るべきではない。
中央政府は、輸出秩序の整備や資金援助といった形で中
この減点ルールが 2009 年 2 月から新たに適用となった
ことに対し、中国メディアの多くが「ADAC の陰謀ではな
国からの自動車輸出を活性化させようとしている。しかし、
いか」との論調の報道を展開している。
欧米進出を成功に導くためには、さらに高い視点から戦略
的に取り組む必要があるのではなかろうか。
ADAC が中国車の衝突安全試験結果を発表したタイミン
グをみると、いずれもジュネーブモーターショーとフラン
【華晨汽車「駿捷」】
クフルトモーターショーの前後に集中していることが分
かる。つまり ADAC の狙いは、欧州自動車メーカーの利益
を守るために、消費者の注目が集まるモーターショーの機
会をとらえ、中国車を「屈辱の柱」に釘付けにすることに
あるのではないかと推測される。
6
< 政治・経済 >
【国 内】
◆リコール制度の整備に向けて前進
4 月 7 日、「欠陥製品リコール管理条例(草案)」が公開され、意見募集が開始された。同条例は、年内には制定の
見込みだ。同条例では、「欠陥製品」の定義、行政による強制リコール権限の保有、罰金による強制、などの特徴
がある。条例の公布により自動車のリコールに対する強制力が大幅に拡大する可能性が高い。
■リコール条例(草案)の具体的内容
■「欠陥製品リコール管理条例(草案)」が公開
<特徴 1:欠陥製品の定義の明確化>
4 月 7 日、国務院法制弁公室はホームページ上で、
*1
「欠陥製品リコール管理条例(送審稿 )」を掲載
現行法では、どのような欠陥製品がリコールの対
し、国民に向けて意見募集を開始した。現在中国の
象となるのかが曖昧となっている。例えば、食品に
リコール制度は自動車、食品など分野別のものしか
含まれる健康に有害な添加物、自動車部品における
ないため、中国国家品質監督検査検疫総局は一般的
製品の危険性の隠蔽は、リコールの対象となるのか
な欠陥製品に対する法律制定を目指していた。同条
が不明だ。今回の条例(草案)では、「人体の健康
例(草案)は、集まった意見を元に再度修正された
と声明の安全を損なう危険をすでに有する、ないし
後、国務院常務委員会により審議され、正式公布と
その可能性がある製品」と定義されている。
なる。同条例(草案)は、09 年の国務院による立法
<特徴 2:行政による強制リコール権限の付与>
計画に組み込まれているため、少なくとも今年中に
同条例(草案)では、リコールの対象となる欠陥
は制定される見込みだ。
*1:08 年 9 月に公開された「欠陥製品リコール管理条例
(意見募集稿)」を修正した草案。
製品が発覚したメーカーが製品の回収を自発的に
行わない場合、国務院の品質検査部門が通達ないし
広告により、メーカーにリコールを命ずると規定さ
【リコール制度公布の流れ】
04 年 10 月
07 年 8 月
08 年 9 月
れている。また、同部門は①メーカーが故意に欠陥
「欠陥自動車製品リコール管理規定」公布
「食品リコール管理規定」公布
「欠陥製品リコール管理条例(意見募集稿)」
公布
を隠蔽していた製品、②欠陥がもたらす危害が拡大
ないし再度発生する恐れのある製品、を強制的にリ
コールする権利を有する。
【中国における法律公布までの流れ】
<特徴 3:罰金による強制>
意見募集稿を作成
同条例(草案)は、欠陥製品のリコールおよび関
パブリック・コメントを募集
連部署へのリコール計画の提出を行わない場合、製
送審稿を作成
品の 3 倍の罰金を課す。また、関連部署による製品
関連部門による審査、および再
度のパブリック・コメント募集
の改善命令が出ているにも関わらず、期限を過ぎて
報批稿を作成
も改善されない場合、20~50 万元の罰金が課される。
関連部門による最終審査
正式公布・施行
■条例制定による現行制度への影響
同条例の公布により、現行のリコール制度、特に
自動車のリコール*2 に対する強制力が大幅に拡大す
ると考えられる。
7
その理由の 1 つは、行政による強制リコールを可
能としたことにある。従来自動車のリコールはメー
カーによる自主回収に任されており、規定に従わな
い企業に対する強制措置についての規定がなかっ
たため、メーカーに対する抑止力が弱かった。同条
例の実施は、現行制度の欠落部分を補完するものと
なろう。
もう 1 つは、今回の制度は「規定」から「条例」
へと法体系の階層を 1 段階押し上げられたことによ
り、規定がもつ拘束力が格段に上昇していることで
ある。中国の法体系では、「規定」は各省庁が出す
規則であり、それほど拘束力はない。ところが「条
例」は国務院、つまり中央政府が制定したものであ
るため、違反した場合の責任が重大となる。
国家品質監督検査検疫総局の鄭衛華・主任は、
「現
在メーカーの中には技術上の機密保持から欠陥製
品の調査を拒否する、規定したリコールの手続きに
従わないなどのケースが見られるが、条例の公布に
より、自動車リコールへの強制力が強化され、必要
に応じて『強制リコール』が発動されるだろう」と
述べている。
*2: 国家品質監督検査検疫総局によると、2008 年のリ
コール回数は 47 回で、その内国産車が 19 回、輸入
車が 28 回と輸入車の回数が上回っているものの、台
数を見ると国産車が 48 万 6592 台、輸入車が 5 万 2028
台と、国産車のリコール台数がはるかに上回ってい
る。
【中国の法体系】
憲法
全人代、常務委員会で
規定
法律(▲▲法)
法規(▲▲条例)
国務院で規定
各省庁で規定
国務院部門規則(▲▲規定)
8
【 国
際 】
◆ボアオフォーラム-中国が見せたリーダーシップとは
金融危機後初のアジア経済会合となったボアオ・フォーラムでは、中国は改めて国際金融システム改革
におけるリーダーシップ発揮への強い意欲を明確にした。中国は通貨基軸システムの改革案を提示して
いるが、専門家は実現困難だとみている。
IMF(国際通貨基金)の SDR(特別引出権)*2 をドル
■金融危機後初めてのアジア地域会合が開催
4 月 17~19 日、中国海南島のボアオにて、「ボア
に代わる国際通貨基軸とする案を支持し、「アジア
オ・アジアフォーラム 2009 年年次総会」が開催さ
諸国はチェンマイ・イニシアチブ*3 を基礎とし、SDR
れた。今回のフォーラムは、金融危機以降、アジア
をアジアの備蓄通貨とする。(SDR 構想を)アジア
各国が対応や協力体制について話し合う初めての
で先行導入し、全世界導入の参考とする」と、具体
場であり、
参加人数は 2700 人と過去最高となった。
的な構想について述べている。
G20 に引き続き、中国は温家宝首相がフォーラム
この発言から、中国は SDR 構想を打ち出すことで、
開幕式の基調講演にて、金融危機後のアジア各国の
国際金融システム改革においてリーダーシップを
協力強化に向けて 5 つの提案を行った。その内容は
発揮したいという思惑が明確になったといえるが、
以下の通りである。
実際に実現は可能なのだろうか。野村資本市場研究
所の関志雄・シニアフェローは、同構想の実現は困
【温家宝首相による 5 つの提案】
①
難だと見ている。その理由として、IMF が各国の意
経済・貿易面での協力を強化し、保護貿易主義に
見を調整し、世界の中央銀行の役割を果たせるだけ
断固として反対を表明。
②
③
財政・金融面での協力を強化し、地域の金融安定
の能力があるかどうか疑問であること、米国は最大
化に尽力。
出資負担国として事実上 IMF の重要案件の裁量権を
投資協力強化を通じ、投資の地域の経済成長にお
握っていること、などを挙げている。
ける牽引的役割を発揮。
④
*1:中国共産党が発表する文書や草案、理論などの起草
を請け負う、中国共産党直属の政策ブレーン機関。
*2:詳細は中国自動車産業レポート No.106「G20 金融
サミット-強まる中国の存在感」を御覧ください。
*3:05 年 3 月にタイのチェンマイで開催された ASEAN+3
(日中韓)財務大臣会議で合意された取り組み。97
~98 年のアジア通貨危機のような困難な事態を防止
する目的で、必要に応じて相互に短期流動性を供給
するための「二国間通貨スワップ取り決めのネット
ワーク」構築などを内容とする。
環境・省エネ面での協力を推進し、アジア経済の
持続的な発展を促進。
⑤ 国際事業における協調を強化し、アジア太平洋経
済協力(APEC)、アジア欧州会合(ASEM),東アジ
ア・ラテンアメリカ協力フォーラム(FEALAC)な
どを通じて他の地域とも協力強化。
■今回フォーラムの注目点
【解説】
ボアオ(博鰲)・アジア・フォーラムとは、中国に本拠
地をおく、アジア地域の経済フォーラム。2002 年から毎
年 4 月に中国・海南島で開かれる。各国首脳や大企業の
経営者、学者、NGO 代表など政府・民間ハイレベルの人材
が集い、アジアや世界の経済動向、金融政策、国際協力、
社会問題、環境問題など多岐にわたって討議が行われる。
設立時にはアジアの 25 カ国とオーストラリアの計 26 カ
国が参加。今回のフォーラムには 13 カ国が参加している。
温家宝首相は 5 提案に加え、「多元化された国際
通貨システム作り」の必要性を訴えた。これは G20
金融サミットでも胡錦濤国家主席により言及され
たが、今回のフォーラムでは、他の政府要人によっ
てもさらに踏み込んだ発言がなされた。
中央政策研究室*1 の鄭新立・副主任は、周小川・
人民銀行総裁が G20 金融サミット直前に発表した、
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◆反ダンピング措置を巡る中国と欧米の攻防
欧米では、中国製品に対する反ダンピング措置を求める動きが活発になってきている。現在標的にされ
ているのは鉄鋼製品で、その背景には欧米の鉄鋼業界の深刻な不振と、欧米鉄鋼市場における中国シ
ェアの拡大傾向への対応策を講じたいという思惑がある。一方中国鉄鋼業界は、余剰国内在庫緩和の
ため、輸出拡大を目論んでいる。
て話し合うため、代表団を派遣する見込みであるこ
■相次ぐ中国製品への反ダンピング措置
とを明らかにしている。
最近、欧米による中国製品に対する反ダンピング
措置を求める動きが活発になってきている。
■背景には欧米の鉄鋼業界の深刻な不振あり
4 月 8 日、EU は自己の製品に損害の恐れがあると
いう理由で、EU に輸入される中国のシームレス・パ
世界的な金融危機による自動車や造船業などが
イプ*1 に対して反ダンピング税*2 を課すことを発表
落ち込み、その影響を直接受ける鉄鋼業界も同様に
した。税率は湖北新冶鋼有限公司、山東魯星鋼管有
不振となることは当然といえる。世界最大の鉄鋼
限公司に対しては 15%前後、その他の中国の鉄鋼会
メーカー・アルセロールミタルは 4 月 7 日、ヨーロ
社に対しては 24.2%だという。発表の翌日、中国商
ッパの従業員に対して 50%減産を無期限で続行す
務部は、EU に対して早急に反ダンピング調査の停止
ると告げており、ヨーロッパ鉄鋼業の大部分が閉鎖
の要求を表明すると同時に、「EU の措置は『中国か
に直面する懸念が高まっている。一方欧米の鉄鋼市
らの輸入品は、自国製品への損害や脅威となる』と
場における中国のシェアは拡大し続けている。米大
いう単なる言いがかりであり、世界中の鉄鋼業界に
手雑誌『TIME』(09 年 4 月 25 日付)によると、今
対して間違ったシグナルを送ることになる」と反論
日の欧米の鉄鋼市場における中国のシェアは、欧州
した。
で 30%、米国で 19%を占めているという。2003 年
*1:継ぎ目のないパイプで、主に石油掘削に利用される。
*2:貿易相手国の商慣行が不公正だと判断した場合、国
内産業を保護するため、譲許税率を超えて関税を引
き上げることを合法的に許容する制度。
にはそれぞれ 2%、4%であったことから考えると、
拡大の規模とスピードがいかに驚異的か分かろう。
このような状況下では、外国企業の自国市場参入に
対する調整手段として、使い勝手のよい反ダンピン
一方米国鉄鋼業界では、US スチールなど鉄鋼メー
グ措置に手をつけるのは無理からぬことであろう。
カー7社が、「中国は総額 27 億ドル相当分の原油・
中国でも 2009 年 2 月の中国の鋼材輸出量が前年
ガス輸送用の鋼管をダンピングしている」として、
同月比 62%減の 156 万トンと落ち込みを見せてい
米商務省と米国際貿易委員会(ITC)に反ダンピン
る(『中国証券報』3 月 11 日付)が、内需喚起策な
グ措置を求めて提訴した。提訴には、全米鉄鋼労働
どの影響で、鉄鋼価格が上昇に転じたことを受け、
組合(USW)も加わっている。発表文によると、7
中国鉄鋼メーカーは 09 年に入って生産量を増やし
社は「政府による補助金を受けた、中国産の安価な
た。その結果、現在国内在庫が余剰となり、業界全
石油関連の鉄鋼製品の対米輸出が近年増加したこ
般に経営状況は悪化している。このような事態の緩
とで、米国での市場価格が急落した」と主張してい
和に、鉄鋼業界は輸出の増加を画策している*3 が、
る。
この状況下では道のりは非常に険しいものとなろ
一連の動きに対して、中国政府は「米国政府は慎
う。
重に対応すべき」と警告を促した上で、しばらく推
*3:鉄鋼業界団体の中国鋼鉄工業協会は、財政部に対し
て製品輸出にかかる増値税の還付率引き上げを提案
している。
移を見守る姿勢を表明した。また、この問題につい
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