#130 こんにちは、塾長の大井です。 「忘れがたき戦友たち」チーム M 教室第6回です。 それからほぼ毎日、ご両親との対応に追われました。常々開成中以外 考えていません。とおっしゃっていたご家庭です。とても結果を受け 止められないという雰囲気でした。お母さんは毎日のよう教室に TEL され、「なぜうちの子は落ちたんですか、受からせなければならない生 徒だったんじゃないですか。」と言われました。お父さんが TEL してこ られたこともありました。 この時の教室長と理系の先生の対応はプロフェッショナルなものでし た。 「機械でも故障したら修理するでしょう。それに気づき、万全にし て送り出すのが先生じゃないですか。 」と言われた時は、 「F くんは機械 ですか。生身の人間ですよ!!彼が受かるための全てを担当はやりま した。F くんは立派に受験を戦いぬきました。」と一歩も引かずにおっ しゃってくださいました。その答えが正解なのかはよく分かりません。 でも、それは自己弁護でも責任回避でもありませんでした。開成に憧 れ、その中で成長する F くんを讃え、肯定してやらずに何の受験だと いう、義憤にも似た愛情がにじみ出ていました。 理系の先生も、指導の熱心さに文系と差があったのではないですかと 言われていました。この言葉には私も胸が痛みました。ルーキーの私 がやりやすいように、彼はいつも心を砕いてくれました。そしていつ も生徒たちと真摯に向き合っていたのを私はずっと隣で見ていました。 それでも先生は冷静に、一切言い訳はせずに受け、対応していました。 合格発表からの 1 週間、私はありとあらゆる願掛けをしました。中に は愚にもつかないものもありました。けれど、神にすがるしかなかっ たわけではありません。F くんには「祈る資格がある」と確信していた からです。(そして F くんは、他の学校に入学手続きをしました。) それぞれの想いが交錯する中、ついに繰り上げ発表の日がやって来ま した。理系の先生は身内にご不幸があって、前日「明日くれぐれも頼 みますね。」と私の手を握りました。その力強さを今でもよく覚えてい ます。 そして、朗報が届きました。F くんは報わたのです。教室長は一緒に泣 いてくれました。私もみんなの祝福を受けたあと、ベランダに出て理 系の先生の留守番電話に合格の報告をしました。 「F、受かりました。 先生・・・、やりましたね。 」後半は想いがこみ上げ、言葉に詰まりま した。 (今でも先生に会うと、あの留守電、何言ってるか訳分かりませんでし たよ(笑)と、からかわれます。) 教室に戻り、私の前の席の先生がやってきました。彼は大変陽気な酒 豪の先生で、 「F くんは大井さんたちに習えて幸せだったと思うよ。 」と いつも励ましてくれました。その先生は、歓喜が爆発した後の教室に やって来たので、合否を計りかねて困惑していました。 「えーっと・・・。 (どっちだ、この空気?)」という先生の顔を見た とたん、私は吹き出し、そしてなぜかまた涙が突き上げて来ました。 これが、F くんの一途な想いと、心ある仲間たちとで手にした、忘れら れない合格の物語です。 追記:その年の開成中の正規合格者は 395 人でした。 F くんの入学手続きの封筒に記されていた番号は 396 でした。 (つまり F くんは、補欠 1 位で文字通り天国と地獄をまたいだのです。) 2016年12月5日 大井雄之
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