レーザーダイレクトイメージング レジストの新バージョン New Version of Laser Direct Imaging Resist 1. はじめに 新事業本部 技術部 新事業本部 技術部 新事業本部 技術部 竹添浩司 市川昭人 山中一男 Kouji Takezoe Akito Ichikawa Kazuo Yamanaka しかし、最近になって、405nmの固体レーザーが汎用化し、レ ーザー露光光源として利用され始めてきた。405nm固体レーザー 近年レーザーダイレクトイメージング(LDI)法が脚光を浴びて は、アルゴンイオンレーザーのようなガスレーザーに比べて、レー いる。 ザーが小さく省スペース化が可能な上、冷却装置も不要であると その背景には、プリント基板やパーケージ基板の高精細化と、量 いったメリットがある。また、可視光である488nmで感光するレジ 産品の東南アジア、中国への海外流出に伴う国内生産の多品種少 ストは、赤色光下で取り扱う必要があるが、感光波長が405nmの 量化があるものと考えられる。 レジストは、イエロー光下で取り扱うことができ、作業環境が改善 LDI法とは、 図1に示す通り、フォトマスクを必要としない省工程 される。 プロセスであり、多品種少量生産を、全自動且つ短納期で、しか 以上の利点から、今後のLDI法の拡大のためには、405nm対応 も、低コストで実現できる有効なプロセスである。 レジストの開発が必須と考え、その開発に着手し、完成に至った また、基板1枚毎にアライメントがとれるため、ビルドアップ基板 ので報告する。 など位置精度が要求されるパターニングに対しても適したプロセ 一方、 マスク露光法に用いるマスクには、大きく分けて、エマルジ スであると言える。 ョン(銀塩)マスクとクロムマスクの2種類がある。パターンの高精 細化の流れに伴い、パターン幅20μm以下の微細パターンの露光 に使用されるクロムマスクの数が年々増加している。 このクロムマスクは、高価なヘリウム‐カドミウムやクリプトンレ フォトマスク作製 ーザーを用いて、低感度の紫外線感光レジストを長時間露光する レジスト塗布 ことによってパターニングした後、クロムをエッチングすることによ フォトマスク検査 直描装置 UV光 CADデータ作成 って製造されている。そのため、レーザーのランニングコストが高 レーザー光 く、クロムマスク製作(描画)時間も長い。 このことが、クロムマスクを安価に製造できない一要因となってい 現像 る。 そこで、ランニングコストの安いYAG‐SHG(532nm)固体レー ザーを搭載したエマルジョンマスク(銀塩)用描画機と、描画速度 エッチング/剥離 の高速化を可能とする高感度可視光(532nm)対応レジストを組 フォトマスク保管 み合わせることにより、クロムマスクの低コスト化を図るべく、大日 本スクリーン製造㈱がレーザー描画装置を、当社がレジスト「ゾ 図1 レーザーダイレクトイメージング (LDI)法と 従来(マスク露光)法の比較 1) ンネLDY」 を開発した。 このレジストについても、合わせて報告する。 上記の特長を活かして、1995年、世界で初めてプリント基板の 量産工場に、LDI法が本格導入され、当社の 「ゾンネLDI」 が採用 2. 機能とコンセプト された。続いて、製作期間が長く、高価な大型マスクが不要、大型 ガラス基板の変形にも対応可能という理由から、プラズマディスプ 2.1 405nmレーザー対応レジスト レイの量産工場にも 「ゾンネLDI」 が採用され、現在も順調に稼動 現在上市されている波長405nmのレーザー装置は、30mW程度 している。 と出力が小さく、又、高速で描画するため、レーザー照射時間が短 前述の 「ゾンネLDI」 シリーズは、波長488nmのアルゴンイオン い、つまり、レーザー照射光量が小さいという特性を持っている。 レーザーによって感光、硬化するネガ型のエッチングレジストであ 従って、従来の紫外線硬化型レジストでは、405nmレーザー装置 る。 で、十分に感光することができないため、405nmの波長における 49 塗料の研究 No.141 Dec. 2003 新 技 術 レーザーダイレクトイメージングレジストの新バージョン 感光性を飛躍的に向上させたレジストを開発することが必須であ る。さらに、レジストの機能としては、後工程のエッチングや銅メッ 基板前処理 キに対する高い耐性も必要である。 レジスト塗布 スピンコーター/ロールコーター/スロットコーター レジストの硬化機構を図2に示す。 プリベーク65℃ レーザー光 増感剤 *(励起状態) 2 露光 70 J/m(ペン タックス社製DI−2080) 電荷移動 又は エネルギー移動 増感剤 現像 0.25 % −Na2CO3 at 25 ℃ エッチング 光開始剤 レジスト剥離 3〜5 % −NaOH 50 ℃ ラジカル 図4 新 技 術 樹脂 405nm対応レジストの標準プロセス (不飽和基)架橋 する。次に、レジストの塗布されたブランクスをマスクメーカーが購 入、ストックし、順次オーダーに応じて、パターニング、エッチングす 図2 レーザーダイレクトイメージング (LDI)法における硬化機構 ることによってマスクを製造、販売する。 そのため、 「ゾンネLDY」 は、405nmレーザー対応レジストと同 様に、高い感光性と後工程のエッチングに対する耐性が必要で まず、光増感剤が405nmのレーザー光を吸収し、吸収したエネル ギーをエネルギー移動または電荷移動によって光開始剤に与え あり、更に、クロム上のレジスト膜が、パターニングされるまでの間 る。このエネルギーで光開始剤が分解し、生成したラジカルによ (1ヶ月以上)、性能を維持しなければならないという機能が付加 って、不飽和基が重合し硬化する。レーザー光の照射されていな される。 レジストの硬化機構としては、405nmレーザー対応レジストと同 い未露光部は、現像液によって洗い流され、パターニングが完了 様 (図2) であるが、波長532nmのレーザー光を効率よく吸収し、且 する。 つ、感光性と安定性の両立可能なものを選定した。 ここで用いられる樹脂は、高反応性と高い耐薬品性を有するよ 図5の紫外‐可視吸収曲線から、532nmに強い吸収ピークを持 う設計した。 ったレジストであることがわかる。 また、ポイントとなる増感剤は、405nmのレーザー光の吸収と光 また、樹脂については、ブランクスの酸化クロム層との相互作用 開始剤へのエネルギーまたは電荷移動を効率よく行えるものを選 や密着性のコントロールについて検討、選定し、 図6に示す通り、1 定した。 ヶ月以上のレジスト膜性能の維持を達成することができた。 このレジストの分光感度曲線を図3に示す。405nm付近に、高 532nmレーザー対応レジストの標準プロセスは、 図7の通りであ い感光性を有することがわかる。 る。 また、レジストパターニングの標準プロセスを図4に示す。 分光感度 紫外−可視吸収曲線 吸光度 相対感度 高 405nm 低 320 340 360 380 400 420 532nm 440 460 480 300 500 波長/nm 図3 350 400 450 nm 500 550 600 波長/nm 405nm対応レジストの分光感度曲線 図5 「ゾンネLDY」の紫外−可視吸収曲線 3. 性 能 2.2 532nmレーザー対応レジスト「ゾンネLDY」 前章でも述べた通り、このレジストは、クロムマスク製造用に使 3.1 405nmレーザー対応レジスト 用する。 まず、感光性について述べる。 クロムマスクは、ブランクスメーカーが、ガラスにクロムをスパッ 評価は、ペンタックス社製Data Direct Imager DI‐20802)を用い タリングし、その上にスピンコーターなどを用いて、レジストを塗布 塗料の研究 No.141 Dec. 2003 50 レーザーダイレクトイメージングレジストの新バージョン て行った。 塗布基板 23℃貯蔵試験 1.4 7 6 1.2 5 1.0 4 0.8 3 0.6 DI‐2080は、軸方向最小線幅は15μmである。描画時間は、35 秒(340mm×510mmの場合)、最大描画面積は、510mm×610mm エッチング後線幅 現像後膜厚 2 0.4 評価結果を図8に示す。露光量50J/㎡では、設計パターン幅と 現像後膜厚(μm) エッチング後線幅(μm) である。 実測パターン幅の直線関係が悪く、15μmパターンが細くなってい る。最適露光量は70J/㎡で、Line/Space=15/15μmの良好な パターンが形成できた。 (写真1) 0.2 1 0.0 0 0 10 20 30 40 貯蔵日数/日 図6 「ゾンネLDY」のレジスト膜貯蔵性評価 新 技 術 写真1 基板前処理 レジスト塗布 スピンコーター/スロットコーター 405nm対応レジスト Line/Space=15/15μm 描画機:ペンタックス社製DI−2080 耐現像液性については、 図9に示す。30秒〜120秒まで、パターン 幅に変化がなく、良好な耐現像液性を有することがわかる。 耐エッチング性については、ITOエッチング液(Fecl 3/HCl)に プリベーク65℃ 対する耐性を評価することによって行った。レジスト膜厚5μmで、 2 露光 70 J/m(大日本ス クリーン製造社製FR−7200) エッチングを10分間行っても、レジスト膜は剥離することなく、良 好なエッチング耐性が確認できた。 (写真2) 現像 0.25 % −Na2CO3 at 25 ℃ 図10に、レジスト剥離性を評価した結果を示す。 エッチング レジスト剥離 3〜5 % −NaOH 50 ℃ 図7 「ゾンネLDY」の標準プロセス 露光量とパターン幅の関係 60 40 写真2 405nm対応レジストのエッチングパターン 基材:ITO Line=40μm 30 現像時間とパターン幅の関係 20 60 10 55 パターン幅(μm) パターン幅/μm 50 0 0 50J/m 10 2 図8 20 30 40 設計パターン幅/μm 70J/m2 90J/m2 50 60 設計パターン幅 50 45 40 35 0.25%炭酸ソーダ at 25℃ 30 25 20 405nm対応レジストの感光性評価 描画機:ペンタックス社製D I−2080 0 20 40 60 80 100 120 140 現像時間/秒 図9 51 405nm対応レジストの耐現像液性評価 塗料の研究 No.141 Dec. 2003 レーザーダイレクトイメージングレジストの新バージョン 感光性評価結果を図11に示す。50〜70J/㎡でレジスト膜の硬 剥離時間(分) 剥離液温度、濃度と剥離時間の関係 5 化が十分となり、現像後膜厚が飽和値となった。このことより、50 4 〜70J/㎡という低光量で安定にLine/Space=5/5μmパターン 3 を形成できることがわかった。 (写真3) 405nmレーザー対応レジストと同様、耐現像液性を図12に、耐 2 エッチング液(硝酸セリウムアンモニウム系)性を図13に、レジスト 1 剥離性を図14に示す。 0 現像時間とパターン幅の関係 1 0% 1 0% 1 0% 8% 5% 温度 6 0℃ 5 5℃ 5 0℃ 6 0℃ 6 0℃ 図10 7 405nm対応レジストのレジスト剥離性評価 1.5 6 線幅/μm 濃度と温度による影響を受けるが、十分に許容時間(5min)内 での剥離が可能であることがわかった。 以上より、本レジストは、各工程における管理幅の広いレジスト である。 5 1.0 4 3 現像後線幅 エッチング後線幅 現像後膜厚 2 0.5 3.2 532nmレーザー対応レジスト「ゾンネLDY」 1 レジスト性能評価は、大日本スクリーン製造社製平面型レーザ プロッタFR‐72003)を用いて行った。FR‐7200は、最小描画ピッ 0.0 0 0 チ0.125μmであり、描画時間は、約150分(600mm×500mmの場 15 30 45 60 75 現像時間 /秒 合)である。最大描画面積は、800mm×700mmである。 図12 「ゾンネLDY」の耐現像液性評価 描画機:大日本スクリーン製造社製FR−7200 露光量とパターン幅の関係 エッチング時間とパターン幅の関係 2.0 8 8 7 7 1.5 1.0 4 3 現像後線幅 エッチング後線幅 現像後膜厚 2 線幅/μm 5 6 現像後膜厚/μm 6 パターン幅/μm 新 技 術 2.0 8 現像後膜厚/μm 濃度 0.5 5 4 3 エッチング温度21℃ エッチング温度23℃ エッチング温度25℃ 2 1 1 0 40 50 60 70 80 90 0.0 100 0 0 2 露光量/J/m 10 20 30 40 50 ブランクスB.P.後の静置時間 /秒 図13 「ゾンネLDY」の耐エッチング液性評価 描画機:大日本スクリーン製造社製FR−7200 図11 「ゾンネLDY」のレジスト感光性評価 描画機:大日本スクリーン製造社製FR−7200 エッチング時間を延ばすと、クロムがエッチングされクロムパター ンは細くなるが、レジスト膜が剥離することはなかった。 以上より、 「ゾンネLDY」 は、各工程における管理幅の広いレジスト である。 4. 特長・機能 4.1 405nmレーザー対応レジスト 405nmレーザー対応レジストは、低エネルギーのレーザー描 画装置に対応可能な、高感度且つ高性能エッチングレジストであ 写真3 「ゾンネLDY」Line/Space=5/5μm 描画機:大日本スクリーン製造社製FR−7200 塗料の研究 No.141 Dec. 2003 る。 本レジストとペンタックス社製レーザー描画装置を組み合わせる 52 レーザーダイレクトイメージングレジストの新バージョン て、LDI法は、益々普及、拡大していくものと考えられる。 剥離液温度、濃度と剥離時間の関係 これからも、レーザー装置メーカーと協力し合いながら、LDI用 温度 濃度 4 0℃ 3% 4 0℃ 5% 710 4 0℃ 7% 725 5 0℃ 3% 5 0℃ 5% 370 5 0℃ 7% 380 6 0℃ 3% レジストのさらなる高機能化を図っていきたい。 790 当社のレーザーダイレクトイメージング用レジストのラインナップ 440 可視光 UV 405nm 350 442nm ネガ型 ゾンネLDI-405 GaNレーザー 6 0℃ 5% 6 0℃ 7% 488nm 532nm ゾンネLDI ゾンネLDY Ar+レーザー YAG-SHGレーザー 320 0 200 400 ゾンネLDI-442 ポジ型 340 600 800 (開発品) He-Cdレーザー 1000 剥離時間(秒) 図15 図14 「ゾンネLDY」のレジスト剥離性評価 描画機:大日本スクリーン製造社製FR−7200 6. 謝 当社LD I用レジストのラインナップ 辞 本研究を遂行するにあたって、描画テストにご協力頂きました、 大日本スクリーン製造株式会社殿、ペンタックス株式会社殿に厚 く御礼申し上げます。 参考文献 1)小嶋大輔他:75th JSCM ANNIVERSARY CONFERENCE p.246〜p.249(2002) 写真4 405nm対応レジスト (膜厚25μm) Line/Space=8/12μm 2)ペンタックス株式会社 DI‐2080カタログ 3)大日本スクリーン製造株式会社 FR‐7200カタログ 4)竹添浩司:第78回ラドテック研究会講演会要旨集 ことにより、赤色光下ではなく、イエロールームで、高精度LDIプロ p.11〜16(2002) セスを実現することが可能である。 また、解像度の面では、露光(描画)方法によって、さらなる高 性能化が可能であり、写真4に示す通り、レジスト膜厚25μmで、8 μmのパターンを形成することも可能である。 4.2 532nmレーザー対応レジスト「ゾンネLDY」 「ゾンネLDY」 は、ランニングコストが安価な、YAG‐SHG (532nm)レーザーを搭載したマスク描画装置で、5μmという微 細パターンを形成することが可能である。 「ゾンネLDY」 と大日本スクリーン社製マスク描画装置を組み 合わせることにより、クロムマスクの短時間且つ安価な製造が可 能である。 5. ま と め レーザー描画装置は、レーザー光源が、ガスから固体へと移り、 低ランニングコストとメンテナンスの簡素化を実現してきている。 それに合わせ、当社では、 図15に示す通り、レーザー波長別に対応 するレジストを開発してきた4)。 今後も、レーザー描画装置のさらなる高精細化、高速化によっ 53 塗料の研究 No.141 Dec. 2003 新 技 術
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