特 許 公 報 特許第5774657号

〔実 24 頁〕
特 許 公 報(B2)
(19)日本国特許庁(JP)
(12)
(11)特許番号
特許第5774657号
(45)発行日
(P5774657)
(24)登録日 平成27年7月10日(2015.7.10)
平成27年9月9日(2015.9.9)
(51)Int.Cl.
FI
C12N 15/877
(2010.01)
C12N
15/00
L
A01K 67/027
(2006.01)
A01K
67/027
ZNA 請求項の数9
(全38頁)
(21)出願番号
特願2013-209184(P2013-209184)
(22)出願日
平成25年10月4日(2013.10.4)
国立大学法人京都大学
(65)公開番号
特開2015-070825(P2015-70825A)
京都府京都市左京区吉田本町36番地1
(43)公開日
平成27年4月16日(2015.4.16)
審査請求日
(73)特許権者 504132272
(73)特許権者 302015926
平成26年12月16日(2014.12.16)
ネッパジーン株式会社
千葉県市川市塩焼三丁目1番6号
早期審査対象出願
(74)代理人 100086221
弁理士
(72)発明者 金子
矢野 裕也
武人
京都府京都市左京区吉田本町36番地1
国立大学法人京都大学内
(72)発明者 真下
知士
京都府京都市左京区吉田本町36番地1
国立大学法人京都大学内
最終頁に続く
(54)【発明の名称】エレクトロポレーションを利用した哺乳類の遺伝子改変方法
1
2
(57)【特許請求の範囲】
り且つ1パルスの電力量が0.01∼3.6J/100μLである矩形
【請求項1】
波電気パルス。
下記(A)に記載の受精卵を、下記(B)に記載の核酸分子を
【請求項2】
含む溶液に浸漬し、;前記溶液に1回又は2回以上の下記
前記(B)に記載の核酸分子が、下記(b1)に記載の核酸分
(C)に記載の矩形波電気パルスを、電力量の合計が0.2∼
子及び下記(b2)に記載の核酸分子である、請求項1に記
7.5J/100μLになるように与え、;次いで下記(D)に記載
載の方法。
の矩形波電気パルスを2回以上与え、;次いで下記(E)に
(b1): 配列特異的DNA結合ドメイン, 及び, 下記(b2)に
記載の矩形波電気パルスを2回以上与えること、;を特
記載の制限酵素活性ドメインと二量体を形成した場合に
徴とする、哺乳類の遺伝子改変方法。
制限酵素活性を発揮するドメイン, を有するタンパク質
(A): 前核期にある透明帯を有した状態の哺乳類(ヒト
10
をコードしたmRNA。
を除く)の受精卵。
(b2): 上記(b1)に記載のタンパク質が結合するゲノムDN
(B): ゲノムDNAの任意の領域に対して、配列特異的にエ
A領域端の近傍領域であり且つその相補鎖に結合する配
ンドヌクレアーゼ活性を発揮するように機能するRNA。
列特異的DNA結合ドメイン, 及び, 上記(b1)に記載の制
(C): 1パルスの電圧が375V/cm以上である矩形波電気パ
限酵素活性ドメインと二量体を形成した場合に制限酵素
ルス。
活性を発揮するドメイン, を有するタンパク質をコード
(D): 1パルスの電圧が250V/cm以下であり且つ1パルスの
したmRNA。
電力量が0.01∼3.6J/100μLである矩形波電気パルス。
【請求項3】
(E): 上記(D)に記載の電気パルスとは逆の極性の矩形波
前記(B)に記載の核酸分子が、下記(b3)に記載の核酸分
電気パルスであって、1パルスの電圧が250V/cm以下であ
子及び下記(b4)に記載の核酸分子である、請求項1に記
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載の方法。
作のみにより哺乳類動物のゲノム編集を容易に行うこと
(b3): ゲノムDNAの任意の塩基配列の相補配列, 及び,
が可能となってきた(例えば非特許文献1∼4等 参照)
下記(b4)に記載のタンパク質と特異的に結合する配列,
。
を有するGuide RNA。
当該ZFN等を利用した技術は、ゲノム上の特定配列を標
(b4): 上記(b3)に記載のGuide RNAと特異的に結合した
的として、ヌクレアーゼの作用によって、特定遺伝子の
場合にエンドヌクレアーゼ活性を発揮するタンパク質を
破壊や相同組換えを可能とする画期的な技術である。ま
コードしたmRNA。
た、当該技術により、ES細胞の系が確立されていないあ
【請求項4】
らゆる動物に対しても、標的配列の遺伝子改変(ゲノム
前記電気穿孔を行った後、得られた受精卵を2∼16細胞
編集)を容易に行うことが可能となる。
期胚まで培地中で培養し、その後、前記哺乳類と同種又 10
【0003】
は近縁種(ヒトを除く)の雌の卵管又は子宮に移植して
しかしながら、ZFN等のゲノム編集技術を利用するため
産子を得ることを特徴とする、請求項1∼3のいずれかに
には、受精卵への核酸導入操作が必要となる。当該核酸
記載の方法。
導入操作としては、通常は顕微注入法(マイクロインジ
【請求項5】
ェクション)によって行われ、特別な装置(マイクロマ
前記溶液が、エキソヌクレアーゼ1(Exo1)をコードし
ニュピュレーター)が必要となる。即ち、従来法により
たmRNAをさらに含むものである、請求項1∼4のいずれか
ZFN等のゲノム編集技術を行うには、費用の点での課題
に記載の方法。
が指摘されている。
【請求項6】
また、顕微注入法を行うには、熟練した技術を有する人
前記哺乳類が齧歯目に属する種類であることを特徴とす
員が必要となり、実験者によっては再現性が低いという
る、請求項1∼5のいずれかに記載の方法。
20
問題が指摘されている。
【請求項7】
【0004】
上記(D)に記載の矩形波電気パルスを与える回数が5回以
このように、ZFN等のゲノム編集技術を哺乳類に利用す
上であり、且つ、上記(E)に記載の矩形波電気パルスを
るためには、費用及び技術的な課題が存在するため、誰
与える回数が5回以上である、請求項1∼6のいずれかに
もが即座に施用可能であり且つ高効率で哺乳類のゲノム
記載の方法。
編集を実現可能な技術が求められている。
【請求項8】
【先行技術文献】
前記遺伝子改変が、遺伝子の破壊による機能の欠失又は
【非特許文献】
抑制を伴うものである、請求項1∼7のいずれかに記載の
【0005】
方法。
【非特許文献1】真下知士 : 新しい遺伝子改変技術「
【請求項9】
30
ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)」. : 生物と化
請求項1∼8のいずれかに記載の方法を用いることを特徴
学、日本農芸化学会編、p220-222 (2011)
とする、遺伝子改変された哺乳類個体の作出方法。
【非特許文献2】真下知士、芹川忠夫 : ジンクフィン
【発明の詳細な説明】
ガーヌクレアーゼ(ZFN) : 細胞工学 vol.31 (3) p296
【技術分野】
-301 (2012)
【0001】
【非特許文献3】ゲノム編集革命(監修:山本卓、野地
本発明は、前核期にある透明帯を有した状態の哺乳類の
澄晴) : 細胞工学 vol.32 (5) (2013)
受精卵を、特定のRNA分子を含む溶液に浸漬し、第1電気
【非特許文献4】Ryan M. Walsh and Konrad Hochedlin
パルスの総電力量を所定範囲にして3段階方式の矩形波
ger, PNAS, vol.110, no.39, 15514-15515 (2013)
多重パルスを与えて電気穿孔処理を行うことにより、哺
【発明の概要】
乳類の任意の標的遺伝子を効率良く改変する技術に関す 40
【発明が解決しようとする課題】
る。
【0006】
【背景技術】
本発明は、ES細胞を利用する必要なく哺乳類に広く適用
【0002】
可能な技術であって、ゲノム上の特定配列を標的として
従来、哺乳類に遺伝子改変を行うためには、ES細胞を用
特定遺伝子を改変する技術(ZFN等のゲノム編集技術)
いることが必要であったため、ES細胞株が利用可能なマ
を、極めて簡便な手法のみで利用可能とする技術を、開
ウス等の一部の動物を除いては、遺伝子改変個体を作出
発することを課題とする。
することが極めて困難な状況にあった。しかし、近年、
また、本発明は、特定の哺乳類の種類に限定されること
ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、ターレン(TAL
なく、高効率且つ再現性良く、哺乳類の遺伝子改変個体
EN)、クリスパー(CRISPR)等を利用した新しい遺伝子
を作出可能とすることを課題とする。
改変技術の登場により、ES細胞を用いることなく、胚操 50
【課題を解決するための手段】
( 3 )
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【0007】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ね
また、哺乳類細胞(培養細胞等)に対するエレクトロポ
たところ、前核期にある透明帯を有した状態の哺乳類の
レーション技術としては、2種類の電気パルスを与える
受精卵を、特定のRNA分子を含む溶液に浸漬した後、;
ことにより哺乳類細胞に効率良く遺伝子導入する方法が
高電圧で短時間の矩形波電気パルス(第1電気パルス)
開示されている(Sukharev S.I. et al., Biophys. J.
の総電力量を所定範囲条件になるようにして与え、次い
63 p1320-1327 (1992) 参照)。しかし、当該方法にお
で低電圧で長時間の矩形波電気パルス(第2電気パルス
いても、受精卵に対して十分な導入効率を実現するため
)を2回以上与え、次いで、前記第2電気パルスとは逆の
には、透明帯の除去又は菲薄化が必要となる課題は改善
極性の低電圧で長時間の矩形波電気パルス(第3電気パ
されていない。
ルス)を2回以上与える電気穿孔処理(3段階方式矩形波 10
【0011】
多重パルス:図1,2 参照)を行うことによって、;標的
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである
とする所望の哺乳類遺伝子を効率良く改変できることを
。
見出した。
即ち、[請求項1]に係る発明は、下記(A)に記載の受精
【0008】
卵を、下記(B)に記載の核酸分子を含む溶液に浸漬し、
特に本発明者らは、これらの条件において、「受精卵と
;前記溶液に1回又は2回以上の下記(C)に記載の矩形波
して前核期にある哺乳類のものを用いること」、「受精
電気パルスを、電力量の合計が0.2∼7.5J/100μLになる
卵として透明帯を有した状態のものを用いること」、「
ように与え、;次いで下記(D)に記載の矩形波電気パル
核酸分子種として特定配列を有するRNA分子を用いるこ
スを2回以上与え、;次いで下記(E)に記載の矩形波電気
と」、「エレクトロポレーションの電気条件として、電
パルスを2回以上与えること、;を特徴とする、哺乳類
気パルス条件が所定条件にある3段階方式矩形波多重パ
20
の遺伝子改変方法に関するものである。
ルスを与えること」が、特に重要な技術的特徴であるこ
(A): 前核期にある透明帯を有した状態の哺乳類(ヒト
とを見出した。
を除く)の受精卵。
また、本発明者らは、当該技術は、特定の哺乳類種類に
(B): ゲノムDNAの任意の領域に対して、配列特異的にエ
限定されることなく、哺乳類全般に対して幅広く適用可
ンドヌクレアーゼ活性を発揮するように機能するRNA。
能な技術であることを見出した。
(C): 1パルスの電圧が375V/cm以上である矩形波電気パ
【0009】
ルス。
なお、従来技術においては、‘受精卵’に‘エレクトロ
(D): 1パルスの電圧が250V/cm以下であり且つ1パルスの
ポレーション’を行うことによって哺乳類の遺伝子改変
電力量が0.01∼3.6J/100μLである矩形波電気パルス。
個体(遺伝子導入によりゲノム編集された個体)を作出
(E): 上記(D)に記載の電気パルスとは逆の極性の矩形波
する例は報告されていない。例えば、Joanna B.Grabare 30
電気パルスであって、1パルスの電圧が250V/cm以下であ
k et al., Genesis 32 p269-276 (2002)、及び、Hui Pe
り且つ1パルスの電力量が0.01∼3.6J/100μLである矩形
ng et al., PLOS ONE vol.7 (8) e43748 p1-13 (2012)
波電気パルス。
には、受精卵にDNAやdsRNAを導入する例が報告されてい
また、[請求項2]に係る発明は、前記(B)に記載の核酸
るが、これらの文献は導入した核酸の‘一時的な’遺伝
分子が、下記(b1)に記載の核酸分子及び下記(b2)に記載
子発現を報告する文献に過ぎない。
の核酸分子である、請求項1に記載の方法に関するもの
その理由としては、従来のエレクトロポレーションでは
である。
、「減衰波方式(エクスポネンシャル方式)」を採用す
(b1): 配列特異的DNA結合ドメイン, 及び, 下記(b2)に
る出力装置からの電気パルスを1回与える方法が良く用
記載の制限酵素活性ドメインと二量体を形成した場合に
いられているため(例えば、Shimogawara, K. et al.,
Genetics 148 p1821-1828 (1998) 参照)、遺伝子導入
制限酵素活性を発揮するドメイン, を有するタンパク質
40
をコードしたmRNA。
効率が低すぎる問題が考えられる。
(b2): 上記(b1)に記載のタンパク質が結合するゲノムDN
また、上記Joanna B.Grabarek et al.、及び、Hui Peng
A領域端の近傍領域であり且つその相補鎖に結合する配
et al.では、電気パルス処理によるDNA等の導入効率を
列特異的DNA結合ドメイン, 及び, 上記(b1)に記載の制
向上させる目的で、遺伝子導入の障壁となっている受精
限酵素活性ドメインと二量体を形成した場合に制限酵素
卵の透明帯を酸性タイロード液で除去する処理を行って
活性を発揮するドメイン, を有するタンパク質をコード
いる。しかし、透明帯の除去又は菲薄化した受精卵を偽
したmRNA。
妊娠した雌の卵管に移植した場合、当該受精卵が産子ま
また、[請求項3]に係る発明は、前記(B)に記載の核酸
で正常発育する効率が著しく低下する問題が存在する。
分子が、下記(b3)に記載の核酸分子及び下記(b4)に記載
即ち、遺伝子導入効率を向上させる処理を行うことによ
の核酸分子である、請求項1に記載の方法に関するもの
り、逆に正常発育が阻害されるという問題が存在する。 50
である。
( 4 )
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(b3): ゲノムDNAの任意の塩基配列の相補配列, 及び,
Tp」はTransfer Pulseを示す。左図: Poring Pulseによ
下記(b4)に記載のタンパク質と特異的に結合する配列,
り透明帯及び細胞膜に微小孔が形成されることを示す概
を有するGuide RNA。
念図。中図: Transfer Pulse 1により、mRNAが受精卵の
(b4): 上記(b3)に記載のGuide RNAと特異的に結合した
細胞質内に移行することを示す概念図。右図: Transfer
場合にエンドヌクレアーゼ活性を発揮するタンパク質を
Pulse 2(極性を変えたパルス)により、さらにmRNAが
コードしたmRNA。
受精卵の細胞質内に移行することを示す概念図。
また、[請求項4]に係る発明は、前記電気穿孔を行っ
【図3】実施例で用いた電気パルス発生装置を撮影した
た後、得られた受精卵を2∼16細胞期胚まで培地中で培
写真像である。(A): シャーレ白金プレート電極を装着
養し、その後、前記哺乳類と同種又は近縁種(ヒトを除
したガラスチャンバー。(B): 電気パルス発生装置であ
く)の雌の卵管又は子宮に移植して産子を得ることを特 10
るNEPA21(登録商標)本体。
徴とする、請求項1∼3のいずれかに記載の方法に関する
【図4】試験例1において、テトラメチルローダミンラ
ものである。
ベルデキストリンを導入した受精卵を撮影した写真像図
また、[請求項5]に係る発明は、前記溶液が、エキソ
である。上段: 顕微鏡を用いて明視野にて撮影した写真
ヌクレアーゼ1(Exo1)をコードしたmRNAをさらに含む
像図である。下段: 蛍光顕微鏡を用いて撮影した写真像
ものである、請求項1∼4のいずれかに記載の方法に関す
図である。
るものである。
【図5】試験例5において、Il2rg遺伝子を標的とするZF
また、[請求項6]に係る発明は、前記哺乳類が齧歯目
N mRNAを導入して作出されたノックアウトラットを撮影
に属する種類であることを特徴とする、請求項1∼5のい
した写真像図である。左:Il2rg遺伝子ノックアウトラ
ずれかに記載の方法に関するものである。
ット。右:野生型ラット(F344/Stm系統)。
また、[請求項7]に係る発明は、上記(D)に記載の矩形 20
【図6】試験例5において、Il2rg遺伝子の第2エクソン
波電気パルスを与える回数が5回以上であり、且つ、上
付近の特定領域を標的とするように設計されたZFNの概
記(E)に記載の矩形波電気パルスを与える回数が5回以上
念図。
である、請求項1∼6のいずれかに記載の方法に関するも
【図7】試験例6において、Il2rg遺伝子の第2エクソン
のである。
の特定領域を標的とするように設計されたTALENの概念
また、[請求項8]に係る発明は、前記遺伝子改変が、
図。
遺伝子の破壊による機能の欠失又は抑制を伴うものであ
【図8】試験例7において、Thy遺伝子の特定領域を標的
る、請求項1∼7のいずれかに記載の方法に関するもので
とするように設計されたCRISPR-Cas9システムの概念図
ある。
。
また、[請求項9]に係る発明は、請求項1∼8のいずれ
【発明を実施するための形態】
かに記載の方法を用いることを特徴とする、遺伝子改変 30
【0014】
された哺乳類個体の作出方法に関するものである。
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
【発明の効果】
本発明は、前核期にある透明帯を有した状態の哺乳類の
【0012】
受精卵を、特定のRNA分子を含む溶液に浸漬し、第1電気
本発明は、ES細胞を利用する必要なく哺乳類に広く適用
パルスの総電力量を所定範囲にして3段階方式の矩形波
可能な技術であって、ゲノム上の特定配列を標的として
多重パルスを与えて電気穿孔処理を行うことにより、哺
特定遺伝子を改変する技術(ZFN等のゲノム編集技術)
乳類の任意の標的遺伝子を効率良く改変する技術に関す
を、極めて簡便な手法のみで利用することを可能とする
る。
。
【0015】
また、本発明は、特定の哺乳類の種類に限定されること
[遺伝子導入対象の受精卵]
なく、高効率且つ再現性良く、哺乳類の遺伝子改変個体 40
本発明の遺伝子改変技術は、「前核期にある透明帯を有
を作出することを可能とする。
した状態の哺乳類の受精卵」を用いることを必須とする
【図面の簡単な説明】
技術である。
【0013】
【0016】
【図1】3段階方式矩形波多重パルスを与える電気穿孔
・前核期
処理の概念を示した図である。縦軸は電圧(V)、横軸は
当該遺伝子導入対象である受精卵は、「前核期(前核期
時間(m秒)を示す。図中の「Pp」はPoring Pulse、「Tp
胚の状態)」にあることが必要である。ここで‘前核期
」はTransferPulseを示す。
’とは、精子の核が卵子の細胞質内に取り込まれてはい
【図2】3段階方式矩形波多重パルスを与える電気穿孔
るが、卵の核と精子の核の融合がまだ起こっていない受
処理により、受精卵内にmRNAが導入されるメカニズムを
精卵の状態を指す。受精卵が前核期にあるかどうかの判
示した概念図である。図中の「Pp」はPoring Pulse、「 50
断は、顕微観察により行うことが可能である。
( 5 )
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10
前核期受精卵の採取法としては、例えば、過排卵処理し
を除去又は菲薄化した受精卵’は、当該受精卵を雌の卵
た雌個体とその同種の雄個体とを交配させた場合、交配
管に移植しても、当該受精卵が産子まで正常に発育させ
の翌日に採取することができる。また、交配を行わずに
ることが著しく困難となる。そのため、‘透明帯を除去
採取した未受精卵に対して、精子を顕微授精することに
又は菲薄化した受精卵’を用いる態様については、本発
よって、人工的に前核期受精卵を得ることも可能である
明の範囲から除外される。
。
なお、従来のエレクトロポレーション法では、透明帯を
【0017】
除去又は菲薄化する処理(遺伝子導入の障壁を取り除く
本発明では、前核期の受精卵に対して、遺伝子導入を行
処理)が必須であるため、正常生育した産子を得ること
うことによって、個体全体の細胞が均一に遺伝子改変さ
れた動物を得ることが可能となる。
が著しく困難となる課題を内在している。本発明は、当
10
該課題に対して、有効な解決手段を提供する発明である
それに対して、前核期を過ぎた受精卵に対して遺伝子導
と認められる。
入を行った場合、遺伝子導入された細胞と遺伝子導入さ
【0021】
れない細胞が混ざったキメラ個体になる確率が、著しく
・哺乳類
高まるため好ましくない。また、未受精卵に遺伝子導入
哺乳類の初期発生(特に桑実胚までの初期発生)は、哺
を行った場合、正常発生が起こりにくくなり好ましくな
乳類の全ての種類において、共通した構造及び制御機構
い。
により発生が進行する。そのため、本発明に係る遺伝子
【0018】
改変技術は、原理的には、哺乳類の全ての種類に対して
・透明帯
施用可能な技術と認められる。但し、倫理上の観点から
当該遺伝子導入対象である受精卵は、「透明帯を有した
、本発明の技術をヒト(Homo sapiens)の受精卵に対し
状態」であることが必要である。ここで‘透明帯’(Zon 20
ては適用すべきではない。
a Pellucida)とは、糖タンパク質のマトリックス構造で
【0022】
あって、哺乳類の卵母細胞や受精卵を被覆して保護する
ここで、‘哺乳類’(Mammalia:哺乳綱)とは、爬虫類
外層を指すものである。
の一群から分岐した単系統の動物群であって、乳房にあ
有胎盤性哺乳類の初期発生では、受精後の初期胚は、当
る乳腺から分泌する体液(乳)により授乳で仔を育てる
該構造に物理的に保護されて胚盤胞まで生育することが
行動様式を示す一群を指す。多くの種類では、体表が角
必要である。この点、透明帯は、哺乳類の初期胚が正常
質層に由来する体毛で覆われている。現生種としては、
に生育するために、重要な働きを担っている組織である
単孔類、有袋類、及び有胎盤類が存在するが、大多数の
と認められる。
現生種は有胎盤類に属する。
なお、胚盤胞に成長した後の胚は、透明帯を飛び出して
【0023】
子宮壁に着床するハッチング過程を経て、胎盤が形成さ 30
ここで、‘単孔類’(原獣類)とは、卵生の生殖様式を
れる。
示す哺乳類の一群を指す。三畳紀後期に出現した単系統
【0019】
の分類群と考えられている。当該分類群としては、現生
本発明の遺伝子改変技術では、透明帯(遺伝子導入の障
のものとしては単孔目(カモノハシなど)のみが存在す
壁となる組織)を有した状態の受精卵に対して、直接エ
る。
レクトロポレーションを行うことを必須とする技術であ
また、‘有袋類’(後獣類)とは、胎盤が不完全で、育
る。また、当該技術では、透明帯の保護機能によって、
児嚢によって仔を育てる行動様式を示す一群を指す。白
遺伝子導入後の受精卵を雌の卵管に移植し、産子まで正
亜紀後期に出現した単系統の分類群と考えられている。
常に発育させることが可能となる。
当該分類群としては、オポッサム目、ミクロビオテリウ
ここで、「透明帯を有する受精卵」とは、透明帯で被覆
ム目、フクロネコ目、バンティクート目、フクロモグラ
された状態の受精卵を指すものである。透明帯の状態と 40
目、カンガルー目(カンガルー, ワラビー, コアラなど
しては、採取した受精卵(又は未受精卵)をそのまま液
)、などを挙げることができる。
体培地等で保管したものであることが望ましい。
また、‘有胎盤類’(真獣類)とは、母体の子宮に胎盤
また、採取した受精卵に対して卵丘細胞の除去処理(ヒ
を形成して出産により仔を産む繁殖様式を示す一群を指
アルロニダーゼ処理など)を行った場合であっても、透
す。白亜紀後期に出現した単系統の動物群と考えられて
明帯の除去又は菲薄化は起こらず、初期胚の保護機能に
いる。当該分類群としては、長脚目(ハネジネズミなど
は影響がない。そのため、本発明では、卵丘細胞の除去
)、テンレック目(テンレック, キンモグラなど)、管
処理を行った受精卵についても、好適に用いることがで
歯目(ツチブタなど)、岩狸目(ハイラックスなど)、
きる。
長鼻目(ゾウなど)、海牛目(ジュゴンなど)、被甲目
【0020】
(アルマジロなど)、有毛目(ナマケモノ, アリクイな
それに対して、酸性タイロード処理等を行って‘透明帯 50
ど)、登木目(ツパイなど)、皮翼目(ヒヨケザルなど
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)、霊長目(キツネザル, サル, ガラゴ, ゴリラ, チン
、(2)「上記(1)に記載のタンパク質が結合するゲノムDN
パンジーなど)、兎形目(ウサギ, ナキウサギなど)、
A領域端の近傍領域であり且つその相補鎖に結合する配
齧歯目(ネズミ, ラット, リス, ヤマアラシ, ヌートリ
列特異的DNA結合ドメイン, 及び, 上記(1)に記載の制限
アなど)、ハリネズミ目(ハリネズミなど)、トガリネ
酵素活性ドメインと二量体を形成した場合に制限酵素活
ズミ目(モグラなど)、鯨目(クジラ, イルカなど)、
性を発揮するドメイン, を有するタンパク質をコードし
偶蹄目(ラクダ, イノシシ, キリン, シカ, ウシ, ヤギ
たmRNA」を指すものである。
, カバなど)、有鱗目(センザンコウなど)、食肉目(
【0028】
ネコ, トラ, ライオン, イヌ, オオカミ, イタチ, タヌ
当該mRNAがコードするタンパク質は、標的とする任意の
キ, キツネ, クマ, アザラシなど)、奇蹄目(ウマ, サ
DNA領域を切断する人工タンパク質である。当該人工タ
イ, バクなど)、翼手目(コウモリなど)などを挙げる 10
ンパク質は、「配列特異的DNA結合ドメイン」と「制限
ことができる。
酵素活性ドメイン」を有するタンパク質であって、当該
【0024】
両ドメイン間が‘直接’又は‘アダプターとなる領域を
本発明の技術は、上記哺乳類のうち、前核期受精卵を得
介して’結合されてなるタンパク質である。
ることが可能な種類であって、且つ、雌の胎内への移植
【0029】
により生育が可能な種類であれば、如何なる種類につい
ここで、‘配列特異的DNA結合ドメイン’とは、標的と
ても適用可能な技術である。
する任意のDNA配列と特異的に結合するタンパク質の領
例えば、初期胚を雌の卵管又は子宮に移植して着床させ
域を指すものである。
、妊娠により産子を得ることが可能な技術が確立されて
当該配列特異的DNA結合ドメインとしては、具体的には
いる種類であれば、如何なる種類についても適用可能な
、Zinc Finger Proteins(ZFPs)、Transcription Acti
技術である。また、胚操作によって産子を得ることがで 20
vator-Like Effectors(TALEs)、などを挙げることが
きない種類についても、近縁種の雌への移植によって妊
できる。
娠が可能であれば、本発明の技術が適用可能である。
ZFPsは、特異的な3塩基配列を認識するZinc Finger ユ
【0025】
ニットを、複数重合した構造を有し、3の倍数のDNA配列
当該技術は、特にマウス、ラット、サル等の実験動物、
を認識し結合するドメインである。ZFPsを含む当該人工
;ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ等の家畜、;ゾウ、ト
タンパク質は、Zinc Finger Nuclease (ZFN)と呼ばれて
ラ、クジラなど絶滅の恐れがある野生動物に対して、有
いる(図6 参照)。
用な技術となることが期待される。特に、ヒトの疾患解
また、TALEsは、4種類の塩基(A,T,G,C)のいずれかを
明という点では、齧歯目、霊長目の動物に対して有用な
認識して結合する4種類のユニットを重合させてなるド
技術となることが期待される。
メインである。TALEsを含む当該人工タンパク質は、Tra
【0026】
30
nscriptionActivator-Like Effector Nuclease (TALEN)
[導入対象の核酸分子]
と呼ばれている(図7 参照)。
本発明では、上記受精卵に対して所定の核酸分子を導入
【0030】
することを必須とする技術である。ここで、‘所定の核
これらのDNA結合ドメインでは、ペプチドユニットの組
酸分子’とは、「任意のゲノムDNA領域に対して、配列
み合わせによって、任意の塩基配列と配列特異的に結合
特異的にエンドヌクレアーゼ活性を発揮するように機能
可能なDNA結合ドメインをデザインすることが可能とな
するRNA分子」を指すものである。また、‘任意のゲノ
る。特に、TALEsは、mRNA調製用の発現プラスミドの設
ムDNA領域’とは、遺伝子内のエクソンやイントロンだ
計が容易であり好適に用いることができる。
けでなく、転写因子のターゲットとなる調節領域(広義
【0031】
には遺伝子に含まれる領域)、スペーサー領域などを含
むゲノム全体の領域を指す。
当該DNA結合ドメインが認識結合する塩基配列長として
40
は、8∼50bp程度、好ましくは10∼45bp、より好ましく
【0027】
は13∼40bp、さらに好ましくは14∼30bp、特に好ましく
・ZFN等をコードしたmRNAペア
は15∼25bp、一層好ましくは15∼21bp、を挙げることが
当該RNA分子として具体的には、下記(1)及び(2)に記載
できる。認識配列長が短すぎる場合、配列特異性が低下
の2種類のペアとなるmRNAを挙げることができる。
しミスマッチ結合が増加してしまい望ましくない。認識
ここで、2種類のmRNAのうちの1つとしては、具体的には
配列長が長すぎる場合、ペプチドをコードするmRNAが高
、(1)「配列特異的DNA結合ドメイン, 及び, 下記(2)に
分子化して導入効率が低下してしまい好ましくない。
記載の制限酵素活性ドメインと二量体を形成した場合に
【0032】
制限酵素活性を発揮するドメイン, を有するタンパク質
なお、当該技術においては、上記(1)と(2)のDNA結合ド
をコードしたmRNA」を指すものである。
メインは、制限酵素活性ユニットの認識配列を挟む位置
また、ペアとなるもう1つのmRNAとしては、具体的には
50
に結合し、且つ、上記(1)と(2)の制限酵素活性ドメイン
( 7 )
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が二量体を形成できる位置に結合するようにデザインす
の理由は、受精卵の転写系が十分に機能しにくく、翻訳
る必要がある。
産物である人工タンパク質が十分に産生されにくいため
【0033】
と考えられる。
また、当該技術においては、「上記(2)に記載の配列特
【0037】
異的DNA結合ドメイン」は、上記(1)に記載のタンパク質
・CRISPR-Cas9システム用のRNA
が結合するDNA領域端の近傍領域であり且つその相補鎖
また、本発明の技術において導入対象となるRNAとして
に結合するものであることが必要となる。
は、CRISPR-Cas9システムを構成する下記(3)に記載のGu
ここで、‘近傍’とは、上記(1)と(2)のタンパク質がDN
ide RNA, および, 下記(4)に記載のmRNA, を挙げること
Aに結合した場合に、両者の制限酵素活性を有するドメ
ができる。
インが二量体を形成できる一定間隔離れた位置を意味す 10
なお、ここで‘CRISPR’とは、Clusterd Regularly Int
る。このような位置としては、例えば、上記(1)と(2)の
erspaced Short Palindromic Repeatsのアクロニムを指
タンパク質が結合するDNA領域の端どうしが、4∼50bp程
す用語であり、原核生物においてファージやプラスミド
度の一定間隔離れた位置であることが望ましい。
に対する獲得免疫機構として機能するDNA領域を指す。
【0034】
【0038】
当該技術における「制限酵素活性ドメイン」とは、上記
CRISPR-Cas9システムを構成する当該Guide RNAとして具
(1)及び(2)に記載の制限酵素活性ドメインどうしが二量
体的には、(3)「ゲノムDNAの任意の塩基配列の相補配列
体を形成した場合にのみ、制限酵素活性を発揮する領域
, 及び, 下記(4)に記載のタンパク質と特異的に結合す
を指すものである。即ち、当該制限酵素活性ドメインは
る配列, を有するGuide RNA」を指すものである。
、単独では活性を発揮しないが、二量体を形成した場合
当該Guide RNAは、任意のゲノムDNA領域内に設計された
にのみ配列特異的なエンドヌクレアーゼ活性を発揮する 20
任意の塩基配列に対する‘相補配列’を有するRNA分子
。
である。当該Guide RNAは、当該相補配列により5'側(
当該ドメインとして、二型制限酵素活性を発揮するもの
好ましくは5'端)を構成されてなることが好適である。
であることが好ましい。具体的には、FokIやFokI変異
当該相補配列が標的のゲノム配列とハイブリダイズする
体などを用いることが好適である。なお、FokI変異体
ことによって、当該Guide RNAは、ゲノムDNAに対して配
とは、FokIのアミノ酸配列に置換、欠失、挿入、及び
列特異的に結合することが可能となる。
/又は付加(末端への付加)を有するアミノ酸配列から
【0039】
なるタンパク質を指すものである。具体的には、FokI
ここで、当該相補配列がハイブリダイズする‘任意の塩
のアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より
基配列’としては、PAM配列(Cas9の認識配列)の直上
好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の相同
の塩基配列であることが好適である。特には、‘任意の
性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であって、Fo 30
塩基配列’の3'端とPAM配列の5'端とが隣接しているこ
kIと同等又はそれ以上の機能を有するタンパク質を指
とが好適である。また、ミスマッチ結合を避けるために
すものである。
、ゲノムDNA中に類似配列がないことを考慮して、配列
【0035】
をデザインすることが重要となる。
当該mRNAの長さとしては、0.3kb以上、好ましくは0.5kb
また、当該任意の塩基配列としては、15∼40bp、好まし
以上、より好ましくは0.8kb以上、さらに好ましくは1kb
くは15∼30bp、より好ましくは15∼25bp、さらに好まし
以上となることが通常である。また、mRNAが長すぎて高
くは18∼22bp、特に好ましくは20bp付近であることが望
分子化する場合、受精卵への導入効率が低下し好適でな
ましい。
い。例えば5kb以下、好ましくは4kb以下、より好ましく
配列が短すぎる場合、ミスマッチ結合が起こりやすくな
は3kb以下であることが望ましい。
【0036】
り好適でない。
40
【0040】
受精卵に導入された上記各mRNAは、細胞のタンパク質合
また、当該Guide RNAは、上記相補配列の3'側に、上記(
成系で翻訳されて人工タンパク質が合成される。受精卵
3)に記載のタンパク質と特異的に結合する配列を含むも
内で産生された(1)に記載の人工タンパク質と(2)に記載
のとなる。当該特異的結合は、特定のRNA配列及び特定
の人工タンパク質は、標的領域にある切断部位を挟む位
のRNA立体構造によって、実現されるものと推測される
置でゲノムDNAに結合し、当該DNAを切断する。
。
なお、本発明の技術においては、核酸分子としてDNA(
当該Guide RNAの3'側の特定RNA配列としては、例えば、
具体的にはプラスミドDNA)を用いた場合には、所望の
CRISPRのcrRNA:tracrRNAにおいて上記相補配列の3'側を
遺伝子改変個体を得ることができない。例えば、後述す
構成するRNA配列(配列番号8 参照)、又は、その類似
る試験例でプラスミドDNAの導入例を示したが、正常に
配列を挙げることができる。
生育した遺伝子改変個体を作出することはできない。そ 50
ここで、crRNA:tracrRNAの類似配列としては、配列番号
( 8 )
JP
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8の塩基配列に置換、欠失、挿入、及び/又は付加(末
RNAと結合し、PAM配列の上流にある標的配列内のDNAを
端への付加)を有する塩基配列からなるRNA配列を指す
切断する活性を発揮する(図8 参照)。
ものである。具体的には、配列番号8の塩基配列に対し
なお、本発明の技術においては、核酸分子としてDNA(
て、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90
具体的にはプラスミドDNA)を用いた場合には、所望の
%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98
遺伝子改変個体を得ることができない。その理由は、受
%以上、一層好ましくは99%以上の同一性を有する塩基
精卵の転写系が十分に機能しにくく、翻訳産物であるタ
配列を含むRNA配列であって、配列番号8のcrRNA:tracrR
ンパク質が十分に産生されにくいためと考えられる。
NAと同等又はそれ以上の機能を有するRNA配列を指すも
【0044】
のである。
【0041】
・エキソヌクレアーゼ1(Exo1)
10
当該技術においては、上記RNA分子とは別途に、「エキ
CRISPR-Cas9システムを構成する当該mRNAとして具体的
ソヌクレアーゼ1(Exo1)をコードしたmRNA」を共導入
には、(4)「上記(3)に記載のGuide RNAと特異的に結合
することが望ましい。当該Exo1 mRNAを共導入させるこ
した場合にエンドヌクレアーゼ活性を発揮するタンパク
とによって、上記標的遺伝子の組換え効率を大幅に向上
質をコードしたmRNA」を指すものである。
させることが可能となるためである。
当該mRNAがコードするタンパク質は、Guide RNAに特異
【0045】
的に結合することによって、任意の標的DNA配列を切断
[電気穿孔処理]
するタンパク質である。当該タンパク質としては具体的
本発明では、上記受精卵を、核酸分子を含む溶液に浸漬
には、Cas9 nuclease又はその類似タンパク質を挙げる
し、所定の電気パルス条件を充足するような3段階方式
ことができる。
矩形波多重パルスを与える処理(電気穿孔処理)を行う
Cas9 nucleaseは、Proto-spacer Adjacent Motif(PAM
20
ことを必須とする技術である。
)とよばれる特定の塩基配列を認識し、その上流である
【0046】
標的配列内のDNAを切断する活性(エンドヌクレアーゼ
・装置
活性)を発揮するタンパク質である(図8 参照)。なお
当該電気穿孔処理を行うためには、後述する所定の電気
、PAM配列は、Cas9 nucleaseが由来するバクテリアの種
パルス条件を充足する3段階方式矩形波多重パルスを出
類によって異なる配列となる場合がある。例えば、Stre
力可能な装置であれば、如何なる装置をも用いることが
ptococcus pygenesに由来するCas9 nuclease (SpCas9)
できる。
の場合、「NGG」というPAM配列が認識される。また、S.
例えば、ネッパジーン社の電気パルス出力装置「NEPA21
thermophilesに由来するCas9 nuclease (StCas9)の場合
(登録商標)」を好適に用いることができる。当該装置は
、「NNAGAAW」というPAM配列が認識される。また、「NN
、一回の処理ごとに電気抵抗値や電流値を計測する機能
NNGATT」というPAM配列を認識するCas9の一種も報告さ
30
を有するため、電気条件の設定を詳細に行うことが可能
れている。
となる。また、多重電気パルスを与える際において、電
【0042】
気パルスごとに電気極性を切り替える機能が備わってい
また、Cas9 nucleaseの類似タンパク質としては、SpCas
る。
9 (S.pygenesに由来するCas9 nuclease) 又は StCas9 (
なお、従来のスクエアーパルス式電気パルス出力装置の
S.thermophilesに由来するCas9 nuclease) のアミノ酸
使用方法を工夫して電気穿孔を行うことも可能ではある
配列に対して、置換、欠失、挿入、及び/又は付加(末
が、装置の機能の制約がある点で、電気穿孔時の電力量
端への付加)を有するアミノ酸配列からなるタンパク質
を求めることができないため好適ではない。
を指すものである。具体的には、SpCas9又はStCas9のア
【0047】
ミノ酸配列に対して、80%以上、好ましくは85%以上、
・エレクトロポレーションバッファー
より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、 40
当該電気穿孔処理は、前記核酸分子を溶解した溶液を調
特に好ましくは98%以上、一層好ましくは99%以上の相
製し、当該溶液に電気パルスを与えて通電するようにし
同性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であって、
て行う。
SpCas9又はStCas9と同等又はそれ以上の機能を有するタ
ここで、溶液(エレクトロポレーションバッファー)と
ンパク質を指すものである。人工的に作成したCas9変異
しては、リン酸バッファー(PBS)等の緩衝液や、通常
タンパク質もここに含まれる。
の受精卵用の培地を用いることができる。即ち、特殊な
【0043】
エレクトロポレーションバッファーを購入したり調製し
受精卵に導入された(4)に記載のmRNAは、細胞のタンパ
たりする必要がない。
ク質合成系で翻訳されて、当該mRNAにコードされたタン
【0048】
パク質が合成される。当該(4)に記載のタンパク質は、
溶液に含有させる核酸分子の濃度としては、各RNAが0.5
標的とするゲノムDNA配列に結合した(3)に記載のGuide
50
ng/μL以上、好ましくは1ng/μL以上、より好ましくは2
( 9 )
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ng/μL以上、さらに好ましくは5ng/μL以上、特に好ま
て、複数個が重なり合わないようにして、平行に並べて
しくは10ng/μL以上、一層好ましくは20ng/μL以上、よ
静置することが望ましい。
り一層好ましくは30ng/μL以上、さらに一層好ましくは
【0053】
40ng/μL以上が好適である。核酸濃度が低すぎる場合、
・電気パルス処理
遺伝子導入効率が低くなり好ましくない。
前記電気パルス出力装置から出力された電気パルスは、
上限としては、各mRNAが2000ng/μL以下、好ましくは15
電極間に静置した受精卵に通電される。
00ng/μL以下、より好ましくは1000ng/μL以下、さらに
なお、当該電気穿孔処理を行う際には、室温(例えば、
好ましくは750ng/μL以下、特に好ましくは500ng/μL以
10∼35℃程度)で行うことが好適である。また、電極の
下、一層好ましくは400ng/μL以下であることが好適で
金属部分への水滴付着を防止するために、氷冷は行わな
ある。核酸濃度が高すぎる場合、受精卵の生存率が下が 10
い方がよい。
り、結果として得られる産子数が低下してしまい好まし
【0054】
くない。
[電気パルス条件]
【0049】
本発明は、前記受精卵を静置した核酸分子を含む溶液に
なお、2種類のRNAを添加する際のRNAの濃度比としては
対して、所定条件での高電圧で短時間の矩形波電気パル
、mol比に換算して1:0.1∼1:10、好ましくは1:0.2∼
ス(第1電気パルス)を与え、次いで低電圧で長時間の
1:8、より好ましくは1:0.4∼1:6、さらに好ましくは
矩形波電気パルス(第2電気パルス)を2回以上与え、次
1:0.6∼1:1.4、特に好ましくは1:0.8∼1:1.2、一層
いで、前記第2電気パルスとは逆の極性の低電圧で長時
好ましくは1:1付近、となるように調整することが好適
間の矩形波電気パルス(第3電気パルス)を2回以上与え
である。
て、3段階方式矩形波多重パルスによる電気穿孔(エレ
【0050】
20
クトロポレーション)を行う方法である(例えば、図1,
なお、当該溶液は、抗生物質が含まれないものであるこ
2 参照)。
とが望ましい。抗生物質が溶液中に存在する場合、電気
【0055】
穿孔処理により抗生物質が細胞に取り込まれてしまい、
本発明における第1∼3電気パルスは、‘電圧’と‘電力
細胞の生存率が低下するためである。
量’の両方が、後述する特定の範囲にあることを要する
さらに、当該溶液は、血清も含まれないものであること
。
が望ましい。血清が溶液中に存在する場合、電気穿孔処
ここでの電圧は、前記電極間の幅の単位cmあたりにかか
理時に血清が前記核酸分子の細胞への取り込みを阻害し
る電圧Vを表す値である。例えば、5mm gapの電極を用い
、導入効率が低下するためである。なお、低濃度(例え
て300V/cmの電圧をかけるためにはでは、150Vの電圧を
ば1%以下、好ましくは0.5%以下)であれば血清の含有
かければよい。また、ここでの電力量(W)とは、前記溶
は許容される範囲である。
30
液100μLあたりにかかる電力量(エネルギー量)を表す
【0051】
値である。例えば、抵抗50Ωの溶液100μLに、パルス幅
・電極
5m秒の時間(T)で150Vの電圧(V)をかけた場合、3Aの電流
当該電気穿孔処理は、電気パルス出力装置に接続されて
(I)が発生する。この場合、当該溶液100μLあたりにか
いる電極を用いて行う。電極の種類としては、原理的に
かる電力量(W=VIT)は2.25Jとなる。
は如何なるものを用いることもできるが、具体的にはシ
【0056】
ャーレプレート電極、チャンバー電極、針電極、ピンセ
また、本発明の電気パルスは、‘矩形波’での電気パル
ット電極、キュベット電極などを用いることができる。
スを与えることを要する。‘減衰波’の電気パルスでは
これらの電極のうち、具体的にはシャーレプレート電極
、本発明で達成される高い遺伝子導入効率を実現するこ
、チャンバー電極等を用いることが好適である。電極と
とができない。
しては、通常の規格のものを用いることができるが、例 40
【0057】
えば、電極間の距離(gap)が、2∼50mm、好ましくは5
・第1電気パルス:Poring Pulse (Pp)
∼25mmのものを用いることが可能である。
本発明における電気穿孔処理では、所定条件での高電圧
【0052】
で短時間の矩形波電気パルス(第1電気パルス:Poring
当該電気穿孔処理は、当該電極を‘前記核酸分子を溶解
Pulse)を与えることを必須とする技術である。当該第1
した溶液’に浸漬した状態にし、上記受精卵を当該溶液
電気パルスを与えることによって、透明帯に損傷程度の
に浸漬して静置状態にし、電気パルスを与えることによ
少ない小孔が空けられる。
り行う。
なお、通常の動物細胞に対するエレクトロポレーション
具体的には、上記受精卵を当該電極の+極と−極の間に
法(従来法)では、第1電気パルスの電圧を高くするこ
浸漬して静置状態にし、電気パルスを与えることにより
とで、核酸分子(DNA等)が細胞内に導入されるという
行うことが望ましい。受精卵は、電極間を結ぶ線に対し 50
知見があるが、受精卵では、単に電圧を上げただけでは
( 10 )
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20
実用的なレベルでの遺伝子導入を達成することができな
小孔を空けつつ、透明帯や細胞膜の損傷を抑える条件に
い。その原因としては、透明帯の損傷がひどい場合には
相当する。
、電気穿孔処理した受精卵の生存率が著しく低下したり
【0060】
、初期胚の正常生育が著しく阻害されてしまうためと考
なお、第1電気パルスを与える回数としては、総電力量
えられる。
が上記範囲であれば特に回数の制限なく与えることがで
【0058】
きる。例えば、前記電力量の範囲の電気パルスを1回で
当該第1電気パルスでは、少なくとも375V/cm以上(5mm
与えてもよいし、2回以上に分けて与えてもよい。具体
gap 電極の場合で187.5V以上)の電圧をかけることが必
的には2∼20回を挙げることができる。回数を分けるこ
要である。好ましくは400V/cm以上、より好ましくは450
V/cm以上、さらに好ましくは500V/cm以上の電圧をかけ
とで、透明帯損傷のダメージが若干低減される効果が期
10
待される。好ましくは3回以上、より好ましくは4回以上
ることが望ましい。電圧が低すぎる場合、透明帯に小孔
を挙げることができる。回数の上限としては特に制約は
を空けることができないため好ましくない。
ないが、好ましくは15回以下、より好ましくは10回以下
なお、当該第1電気パルスの電圧値の上限としては、後
、さらに好ましくは5回以下を挙げることができる。
述する総電力量の条件が充足される限り特に制限なく与
なお、当該複数回パルスを与える場合のパルス間の間隔
えることができる。透明帯の損傷程度は、主に‘総電力
としては、例えば200m秒以下、好ましくは100m秒以下、
量(エネルギー量)’の値に依存するためである。なお
より好ましくは75m秒以下、さらに好ましくは50m秒以下
、敢えて上限値を挙げるとすると、例えば、4500V/cm以
を挙げることができる。
下、好ましくは3750V/cm以下、より好ましくは2500V/cm
【0061】
以下、さらに好ましくは1500V/cm以下を挙げることがで
また、本発明においては、第1電気パルスのパルス幅及
きる。
20
び減衰率は、電力量を決定する要因ではあるが、遺伝子
当該総電力量条件は、透明帯に核酸の取り込みに好適な
導入効率や生存率と直接相関する関係を示さない。
小孔を空けつつ、透明帯や細胞膜の損傷を抑える条件に
【0062】
相当する。
・第2電気パルス:Transfer Pulse 1 (Tp1)
【0059】
本発明における電気穿孔処理では、前記第1電気パルス
当該第1電気パルスは、‘総電力量’が所定の範囲にあ
を与えた後(最後の第1電気パルス出力後)、所定条件
ることが必須となる。ここで総電力量とは、上記電圧値
での低電圧で長時間の矩形波電気パルス(第2電気パル
以上の電気パルスの電力量の合計値を示す値である。例
ス:Transfer Pulse 1)を与えることを必須とする技術
えば、750V/cm以上の電気パルスを2回与えた場合には、
である。当該第2電気パルスにより、核酸分子が前記小
当該2回の電気パルスの電力量の合計値が、総電力量の
孔(第1電気パルスにより形成された透明帯の孔)から
値となる。
30
細胞内に効率的に取り込まれるからである。なお、当該
当該総電力量としては、0.2J/100μL以上であることが
第2電気パルスは、エネルギー量の低い低電力量のパル
必須となる。総電力量が低すぎる場合、十分な遺伝子導
スであるため、受精卵に損傷を与える懸念がない。
入効率を達成することができない。総電力量の下限とし
【0063】
ては、好ましくは0.286J/100μL以上、より好ましくは0
なお、第2電気パルスの電気極性は、第1電気パルスと同
.3J/100μL以上、さらに好ましくは0.4J/100μL以上、
じ電気極性(電極の向きが同じ)であっても逆の極性(
特に好ましくは0.5J/100μL以上、一層好ましくは0.535
電極の向きが逆)であっても良いが、好ましくは同じ極
J/100μL以上、より一層好ましくは0.558J/100μL以上
性の電気パルスであることが望ましい。
、を挙げることができる。
【0064】
また、当該総電力量の上限としては、7.5J/100μL以下
当該第2電気パルスでは、250V/cm以下(5mm gap電極の
であることが必須となる。総電力量が高すぎる場合、透 40
場合で125V以下)の条件にて電圧をかけることが必要で
明帯や細胞膜の損傷が大きくなり生存率が低下するため
ある。好ましくは、240V/cm以下、より好ましくは、225
好ましくない。総電力量の上限としては、好ましくは7.
V/cm以下、さらに好ましくは、200V/cm以下、特に好ま
317J/100μL以下、より好ましくは7.3J/100μL以下、さ
しくは、175V/cm以下、もっと好ましくは、150V/cm以下
らに好ましくは7J/100μL以下、特に好ましくは6.5J/10
、一層好ましくは、125V/cm以下、で電圧をかけること
0μL以下、一層好ましくは6J/100μL以下、より一層好
が望ましい。電圧が高すぎる場合、透明帯の損傷が増大
ましくは5.5J/100μL以下、さらに一層好ましくは5J/10
し生存率が低下してしまい好適でない。
0μL以下、特に一層好ましくは4.5J/100μL以下、もっ
なお、当該第2電気パルスの電圧値の下限としては、後
と一層好ましくは4.3J/100μL以下、もっとより一層好
述する1パルスあたりの電力量の条件が充足される限り
ましくは4.255J/100μL以下、を挙げることができる。
特に制限なく与えることができるが、敢えて下限値を挙
当該総電力量条件は、透明帯に核酸の取り込みに好適な 50
げるとすると、例えば、15V/cm以上、好ましくは20V/cm
( 11 )
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以上、より好ましくは25V/cm以上、さらに好ましくは30
を挙げることができる。
V/cm以上、特に好ましくは35V/cm以上、を挙げることが
【0067】
できる。
また、本発明においては、第2電気パルスのパルス幅及
【0065】
び減衰率は、電力量を決定する要因ではあるが、遺伝子
当該第2電気パルスは、‘1パルスあたりの電力量’が所
導入効率や生存率と直接相関する関係を示さない。
定の範囲にあることが必須となる。当該電力量としては
【0068】
、0.01J/100μL以上であることが必須となる。当該電力
・第3電気パルス:Transfer Pulse 2 (Tp2)
量が低すぎる場合、十分な遺伝子導入効率を達成するこ
本発明における電気穿孔処理では、前記第2電気パルス
とができない。当該電力量の下限としては、好ましくは
0.012J/100μL以上、より好ましくは0.02J/100μL以上
を与えた後(最後の第2電気パルス出力後)、前記第2電
10
気パルスとは逆の電気極性(電極の向きが逆)である所
、さらに好ましくは0.03J/100μL以上、特に好ましくは
定条件での低電圧で長時間の矩形波電気パルス(第2電
0.034J/100μL以上、一層好ましくは0.04J/100μL以上
気パルス:Transfer Pulse 2)を与えることを必須とす
、より一層好ましくは0.05J/100μL以上、さらに一層好
る技術である。
ましくは0.06J/100μL以上、特に一層好ましくは0.07J/
当該第3電気パルスにより、第2電気パルスにより核酸分
100μL以上、もっと一層好ましくは0.08J/100μL以上、
子の細胞への取り込み終わった後においても、さらに核
よりもっと一層好ましくは0.1J/100μL以上、を挙げる
酸分子を取り込ませることが可能となる。即ち、導入効
ことができる。
率を大幅に向上させることが可能となる。なお、当該第
また、当該電力量の上限としては、3.6J/100μL以下で
3電気パルスも、第2電気パルスと同様に、エネルギー量
あることが必須となる。当該電力量が高すぎる場合、透
の低い低電力量のパルスであるため、受精卵に損傷を与
明帯の損傷が増大し生存率が低下するため好ましくない 20
える懸念がない電気パルスである。
。当該電力量の上限としては、好ましくは3.571J/100μ
【0069】
L以下、より好ましくは3J/100μL以下、さらに好ましく
当該第3電気パルスは、電気極性が逆である点を除けば
は2.5J/100μL以下、特に好ましくは2.286J/100μL以下
、前記第2電気パルスと同条件の電気パルスである。即
、一層好ましくは2J/100μL以下、より一層好ましくは1
ち、第3電気パルスの各種電気条件としては、上記第2電
.75J/100μL以下、さらに一層好ましくは1.5J/100μL以
気パルスに記載の条件と同条件を採用することができる
下、特に一層好ましくは1.25J/100μL以下、もっと一層
。
好ましくは1J/100μL以下、よりもっと一層好ましくは0
【0070】
.8J/100μL以下、さらにもっと一層好ましくは0.7J/100
・性質の異なる電気パルス間のパルス間隔
μL以下、特にもっと一層好ましくは0.679J/100μL以下
上記Pp, Tp1, 及びTp2は、それぞれ電気パルスの性質が
、よりさらにもっと一層好ましくは0.6J/100μL以下、
30
異なる電気パルスであるが、パルス間の間隔としては、
特にさらにもっと一層好ましくは0.556J/100μL以下、
通常のパルス間隔を採用することができる。特に制限は
を挙げることができる。
ないが、例えば200m秒以下、好ましくは100m秒以下、よ
【0066】
り好ましくは75m秒以下、さらに好ましくは50m秒以下を
本発明においては、当該第2電気パルスを2回以上の回数
挙げることができる。
にて与えることを要する技術である。当該回数としては
【0071】
、好ましくは3回以上、より好ましくは4回以上、さらに
[受精卵の移植]
好ましくは5回以上、特に好ましくは6回以上、一層好ま
上記電気穿孔処理を行った受精卵は、初期胚まで人工的
しくは7回以上、より一層好ましくは8回以上、さらに一
に培養し、その後、雌の胎内(卵管又は子宮)に移植す
層好ましくは9回以上、特に一層好ましくは10回以上が
好適である。当該第2電気パルスの回数を多くすること
ることによって、当該雌の子宮内で生育させることが可
40
能となる。ここで、初期胚の培養は、2∼16細胞期胚、
によって、前記小孔からの核酸分子の取り込みを何度も
好ましくは2∼8細胞期胚、より好ましくは2∼4細胞期胚
行わせることができるため、導入効率を向上させること
、さらに好ましくは2細胞期胚まで行うことが好ましい
が可能となる。
。当該培養での発生が進み過ぎた場合、正常の産子まで
回数の上限としては、特に制限はないが、例えば30回以
生育する個体が減少してしまい好ましくない。
下、好ましくは25回以下、より好ましくは20回以下を挙
【0072】
げることができる。これ以上に回数を増やしたとしても
移植先の親となる雌としては、受精卵を採取した個体(
、効率向上があまり期待できない。
ドナー)そのものを用いることもできるが、ドナーと同
なお、当該複数回パルスを与える場合のパルス間の間隔
種の別個体の雌を用いることが好適である。なお、齧歯
としては、例えば200m秒以下、好ましくは100m秒以下、
類の場合、偽妊娠処理(去勢した雄との交配処理)を行
より好ましくは75m秒以下、さらに好ましくは50m秒以下 50
うことが必要となる場合がある。
( 12 )
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また、胚移植による妊娠技術が確立していない種類であ
また、以下の表中において、Transfer Pulseの極性を表
っても、近縁種の雌により妊娠が可能であれば、これに
す「+」の記号は、Poring Pulseと同じ極性の電気パル
より産子を得ることも可能である。
スを示す記号として用いた。また、「−」の記号は、Po
なお、移植前に受精卵の透明帯を除去した場合、産子の
ring Pulseと逆の極性の電気パルスを与えたことを示す
出生率が著しく低下してしまい好ましくない。
記号として用いた。
【0073】
また、以下の表中において、電気パルスの電圧値(V)
妊娠後、当該雌を自然分娩(単孔類の場合は産卵)させ
は、1cmあたりの値(V/cm)に換算して示した。また、
ることによって、正常に生育した産子を得ることができ
エネルギー値(J)は、100μLあたりの値(J/100μL)
る。ここで得られる産子には、上記所望のゲノムDNA上
に換算して示した。
の遺伝子が改変された個体が高い確率で含まれる。即ち 10
【0078】
、哺乳類の遺伝子改変個体を効率良く得ることができる
[試験例1(検討例)]『透明帯を有したままの前核期
。
受精卵に対する化合物導入試験』
【0074】
透明帯を有したままの前核期受精卵に対して、矩形波3
[遺伝子改変個体]
ステップ法によるエレクトロポレーションを行うことに
当該技術によって得られた産子は、ゲノムDNAにおける
よって、外来性の化合物導入が可能かを検討した。
任意の領域のみが改変された個体となる。即ち、任意の
【0079】
標的遺伝子(又は任意のスペーサー領域)を改変した個
(1)「受精卵の採取」
体を得ることが可能となる。
ラットF344/Stm系統(NBRP-Rat, Kyoto, Japan)の成熟
産子が遺伝子改変された個体(又はスペーサー領域の改
した雌(8∼16週齢)に対して、妊馬血清性性腺刺激ホ
変がされた個体)であるかどうかの判定は、血液からゲ 20
ルモン(PMSG, あすか製薬)を150 IU/体重kgにて注射
ノムDNAを抽出して、標的配列を挟んだプライマーを用
し、その48時間後にヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG,
いたPCRを行い、(i)電気泳動によって増幅断片長さを調
あすか製薬)を75 IU/体重にて注射し、過排卵を誘起
べる又は(ii)シークエンスによって配列を読むことによ
した。
って、簡便に判定することができる。
当該雌を同系統の雄(11週齢)と同居交配させ、翌日に
【0075】
前核期受精卵を採取し、ヒアルロニダーゼ処理により卵
本発明の技術では、受精卵への上記RNA分子の導入によ
丘細胞を剥離した。回収後の当該受精卵は、修正クレブ
り、上記RNA分子の機能によってゲノムDNAの標的領域内
ス-リンガー溶液中に保管した。
の配列が特異的に切断された後、内在性酵素によって切
なお、ラットの飼育管理は、温度条件:24±2℃、湿度
断箇所が修復される。この際に欠失変異や挿入変異が起
条件:50±10%、光条件:明期7時∼19時にて行った。
こり、当該得られた産子は、標的遺伝子がノックアウト 30
【0080】
された個体となる。
(2)「電気パルス処理」
本発明では、当該原理によって、標的とするゲノムDNA
ガラスチャンバー上のシャーレ白金プレート電極(CUY5
領域の機能を破壊し、遺伝子の機能が欠失した個体, 又
20P5, 5mm gap, L10×W5×H5mmm, ネッパジーン社製)
は, 抑制された個体を得ることが可能となる。
の間に、2mg/mLテトラメチルローダミンラベルデキスト
【0076】
リンを含むリン酸緩衝液(PBS)100μLを注入し、当該
また、本発明では、当該技術と相同組換えを利用して、
リン酸緩衝液で充填された金属プレート電極の間に、上
人為的に相同組換えを誘起して、標的遺伝子に機能改変
記回収した前核期受精卵を一列に静置した(図3(A) 参
を行うことが可能となる。即ち、ノックイン個体を得る
照)。ここで、当該前核期受精卵は、透明帯除去及び菲
ことが可能となる。
この場合、上記電子穿孔処理を行う際に、上記RNAとは
薄化処理を行わず、採取した状態のまま用いた。
40
なお、テトラローダミンラベルデキストリンは、分子量
別途に、「切断部位を含む標的領域の相同配列であって
3kDaの蛍光物質であり、Life Technoloties Co.製のも
所望の塩基置換等の変異を伴うDNA配列」を有するDNA断
のを用いた。
片、を共導入することが必要となる。
【0081】
当該処理によって得られる産子では、人工的な相同組換
当該金属プレートに、矩形波電気パルスの発生が可能な
えにより、標的遺伝子が機能改変された個体が含まれる
電気パルス発生装置(NEPA21(登録商標), ネッパジーン
ものとなる。
社製)を接続し(図3(B) 参照)、Poring Pulse (Pp)、
【実施例】
Transfer Pulse 1 (Tp1)、Transfer Pulse (Tp2)の3種
【0077】
類の矩形波電気パルスを順に与える3ステップ式多重パ
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範
ルス電気穿孔法(図1 参照)による電気パルス処理を行
囲はこれらにより限定されるものではない。
50
った。電気パルスの各条件は、表1に示す条件にて行っ
( 13 )
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た。なお、一連の操作は、水滴付着を防止するため、室
製)を加え、遠心して上清の除くことでトリプシンを除
温条件にて行った。
去した後、細胞を再度ES液体培地に懸濁させた。
【0082】
当該細胞液50μLを採取してヘモサイトメーターにて細
一方、対照として、シャーレ白金プレート電極の間に、
胞数を計測した後、再度遠心(1,000rpm, 5min)して残
テトラメチルローダミンラベルデキストリンを含まない
りの上清を除いた。回収した細胞に再度ES液体培地を加
通常のリン酸緩衝液(PBS)100μLを注入して、同様に
えて懸濁して、細胞溶液を調製した。
して電気パルス処理を行った。
【0088】
【0083】
(2)「DNA溶液の調製」
(3)「蛍光顕微鏡での観察」
大腸菌を用いてpCMV-EGFPプラスミドを増幅し、プラス
電気処理後の受精卵について蛍光顕微鏡(Olympus Co., 10
ミド抽出キットを用いてプラスミドDNAを調製した。
Tokyo, Japan)を用いて520∼550nmフィルターを用い
【0089】
て励起光541 nmを与え、580nmの透過フィルターを用い
(3)「電気パルス処理」
て蛍光572 nmを検出しその写真像図を撮影した。結果を
2mL容エッペンチューブに、細胞溶液とDNA溶液とを常温
図4に示した。
にて泡立てることなく良く混合して、最終細胞濃度1×1
【0084】
0 細胞/mL、最終DNA濃度100μg/mLの懸濁液を調製した
(4)「結果」
。当該溶液100μLを2mm gapキュベット(EC-002S NEPA
その結果、透明帯を有する受精卵に対して、表1に記載
キュベット電極 40∼400μL容, ネッパジーン(株))に
の電気条件にて高電圧短時間の電気パルスを与えた後、
充填した。
低電圧長時間の電気パルスの極性を切り替えて与えるこ
【0090】
とによって、受精卵の細胞質全体からテトラメチルロー 20
当該キュベットを、矩形波電気パルスの発生が可能な電
ダミン蛍光が検出されることが示された(試験1-1∼1-3
気パルス発生装置(NEPA21(登録商標), ネッパジーン(
)。
株)のキュベット電極用チャンバー(CU500, ネッパジー
この結果から、3段階での矩形波多重パルス法によるエ
ン(株))に装着し、Poring Pulse (Pp)、Transfer Puls
レクトロポレーションを行うことによって、透明帯を有
e (Tp)の2種類の矩形波電気パルスを順に与える多重パ
したままの前核期受精卵に対して、外来性の化合物を効
ルス電気穿孔法による電気パルス処理を行った。電気パ
率良く導入できることが示された。
ルスの各条件は、表2に示す条件にて行った。なお、一
【0085】
連の操作は、水滴付着を防止するため、室温条件にて行
【表1】
った。
7
【0091】
30
(4)「形質転換効率の評価」
電気パルス処理後1分以内に、当該細胞液を、血清およ
び抗生物質入りのMEM培地をキュベットに注入し、液全
量をスポイトで回収し、血清及び抗生物質入りのMEM培
地を充填した培養プレート中に加えて、37℃, 炭酸ガス
濃度5%条件にて培養した。
また、対照として、電気パルス処理を行わない細胞につ
いて、同様に培養した。
【0086】
【0092】
[試験例2(検討例)]『Poring Pulseの条件検討』
電気パルス処理から24時間後(GFPの発現ピーク前であ
矩形波電気パルスを与えるにあたり、Poring Pulseの電 40
るが、細胞増殖が起こる前)に、トリパンブルー染色し
気条件の検討を行った。なお、当該電気条件の検討には
て光学顕微鏡で明視野にて細胞数をカウントして、対照
、試料として貴重な受精卵でなく培養細胞を用いて行っ
と比較することで生存率を算出した。
た。
また、蛍光顕微鏡(励起光490nm, 検出蛍光510nm)を用
【0087】
いてGFPが発現している細胞数をカウントし、明視野で
(1)「細胞溶液の調製」
のカウント数と比較することで導入率を算出した。
Hela細胞(ヒト子宮頸癌細胞の株化細胞の付着細胞)を
当該算出した生存率及び導入率の数値から、各電気パル
培養し、液体培地を除去した後、0.02%EDTA-PBS溶液で
ス条件における形質転換効率を評価した。
2回以上洗浄し、トリプシン処理を行って付着状態の細
【0093】
胞を剥離させた。細胞が剥がれることを確認した後、ES
(5)「結果」
液体培地(血清及び抗生物質を含まないもの, 日水製薬 50
表2-Aの結果が示すように、Poring Pulseのパルス幅を
( 14 )
JP
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調整して総エネルギー量をほぼ一定に調整した条件にお
いて、Poring Pulseの電圧を250∼750V/cmの範囲で与え
た場合、375V/cm以上の電圧を与えたサンプルで導入率
が高い値を示すことが示された(試験2A-1∼2A-5)。ま
た、当該電気条件範囲では、生存率も高い値となること
が示された。
【0094】
また、表2-Bの結果が示すように、Poring Pulseのパル
ス幅を調整して総エネルギー量をほぼ一定に調整した条
件において、Poring Pulseの電圧を500∼4500V/cmとい
10
う幅広い範囲で与えた場合、いずれのサンプルにおいて
も、電気処理後の細胞の生存率が劇的に高い値となるこ
とが示された(試験2B-1∼2B-9)。当該電気条件範囲で
は、導入率も著しく高い値となることが示された。なお
、特に、4500V/cmという極めて高電圧条件においても、
生存率は良好であることが示された。
【0095】
【0098】
これらの知見から、矩形波電気パルスによる遺伝子導入
[試験例3(検討例)]『Poring Pulseの条件検討』
により生存率及び導入効率の両方が高い結果を得るため
矩形波電気パルスを与えるにあたり、Poring Pulseの電
には、Poring Pulseの電圧値の下限を375V/cm以上にす
20
気条件の検討を行った。なお、当該電気条件の検討には
ることが好適であると示唆された。また、Poring Pulse
、試料として貴重な受精卵でなく培養細胞を用いて行っ
のエネルギー量が所定範囲にさえあれば、Poring Pulse
た。
の電圧値の上限は、生存率及び導入効率に特に影響を与
【0099】
えないことが示唆された。
(1)「細胞溶液及びDNA溶液の調製」
【0096】
試験例2(1)に記載の方法と同様にしてHela細胞の懸濁溶
【表2−A】
液を調製し、細胞溶液とした。
また、試験例2(2)に記載の方法と同様にしてpCMV-EGFP
プラスミド溶液を調製し、DNA溶液とした。
【0100】
30
(2)「電気パルス処理」
試験例2(3)に記載の方法と同様にして、細胞/DNA懸濁液
7
(Hela細胞:1×10 細胞/mL、pCMV-EGFP:100μg/mL)
を調製し当該溶液100μLを2mm gapキュベットに充填し
た。
調製した試料ごとに、表3に示す電気条件にて電気パル
ス処理を行った。当該処理に用いた機器や基本的操作は
、試験例2(3)に記載の方法と同様にして行った。
【0101】
(3)「形質転換効率の評価」
40
試験例2(4)に記載の方法と同様にして、生存率と導入効
率を算出し形質転換効率を評価した。
【0102】
【0097】
(4)「結果」
【表2−B】
表3-Aの結果が示すように、Poring Pulseの電圧を一定
に調整した条件において、Poring Pulseの総エネルギー
量が0.080∼2.298 J/100μLになるように電気パルスを
与えた場合、当該総エネルギー量が0.286 J/100μL以上
になるように電気パルスを与えたサンプルでは、導入率
が劇的に高い値となることが示された(試験3A-3∼3A-1
50
1)。当該電気条件範囲では、生存率も高い値となるこ
( 15 )
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30
とが示された。また、特に0.535 J/100μL以上のサンプ
ルでは、導入率が70%以上の高い値となることが示され
た(試験3A-4∼3A-11)。
なお、Poring Pulseの‘1パルス’あたりのエネルギー
量及びパルス幅の値は、導入率及び生存率のいずれとも
相関関係を示さなかった。
【0103】
また、表3-Bの結果が示すように、Poring Pulseの電圧
を一定に調整した条件において、Poring Pulseの総エネ
ルギー量を2.5∼7.317 J/100μLになるように電気パル
10
スを与えた場合、生存率が高い値となることが示された
(試験3B-1∼3B-3)。当該電気条件範囲では、導入率も
著しく高い値となることが示された。なお、7.317 J/10
0μLという高い総エネルギー量のパルスを与えた場合で
も、生存率は良好であった。
【0104】
これらの知見から、矩形波電気パルスによる遺伝子導入
により生存率及び導入効率の両方が高い結果を得るため
には、Poring Pulseの‘合計’のエネルギー量(総エネ
ルギー量)の下限を0.286 J/100μL以上、好ましくは0. 20
535 J/100μL以上、にすることが好適であることが示唆
された。また、当該値の上限としては、7.317 J/100μL
以下とすることで、生存率及び導入率が良好となること
が示唆された。
【0105】
【0107】
【表3−A】
[試験例4(検討例)]『Transfer Pulseの条件検討』
矩形波電気パルスを与えるにあたり、Transfer Pulseの
電気条件の検討を行った。なお、当該電気条件の検討に
は、試料として貴重な受精卵でなく培養細胞を用いて行
30
った。
【0108】
(1)「細胞溶液及びDNA溶液の調製」
試験例2(1)に記載の方法と同様にしてHela細胞の懸濁溶
液を調製し、細胞溶液とした。
また、試験例2(2)に記載の方法と同様にしてpCMV-EGFP
プラスミド溶液を調製し、DNA溶液とした。
【0109】
(2)「電気パルス処理」
試験例2(3)に記載の方法と同様にして、細胞/DNA懸濁液
40
7
(Hela細胞:1×10 細胞/mL、pCMV-EGFP:100μg/mL)
を調製し当該溶液100μLを2mm gapキュベットに充填し
た。
【0106】
調製した試料ごとに、表4に示す電気条件にて電気パル
【表3−B】
ス処理を行った。当該処理に用いた機器や基本的操作は
、試験例2(3)に記載の方法と同様にして行った。
【0110】
(3)「形質転換効率の評価」
試験例2(4)に記載の方法と同様にして、生存率と導入効
率を算出し形質転換効率を評価した。
50
【0111】
( 16 )
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(4)「結果」
表4-Aの結果が示すように、1パルスあたりのTransfer P
ulseエネルギー量を0.012∼0.588 J/100μLになるよう
に電気パルスを与えたサンプルでは、生存率が高い値と
なることが示された(試験4A-1∼4A-4)。当該電気条件
範囲では、導入率も高い値となることが示された。また
、特に0.07 J/100μL以上のサンプルでは、生存率が80
%以上の高い値となることが示された(試験4A-3∼4A-4
)。
【0112】
10
また、表4-Bの結果が示すように、1パルスあたりのTran
sfer Pulseエネルギー量を0.135∼3.571 J/100μLにな
るように電気パルスを与えたサンプルにおいても、生存
率が高い値となることが示された(試験4B-1∼4B-7)。
当該電気条件範囲では、導入率も著しく高い値となるこ
とが示された。また、特に0.679 J/100μL以下のサンプ
ルでは、生存率が80%以上の高い値となることが示され
【0115】
た(試験4B-1∼4A-4)。
【表4−B】
なお、Transfer Pulseに関しては、合計エネルギー量を
35.714 J/100μLという極めて高い値で与えた場合にお
20
いても、生存率が良好であったことから、Transfer Pul
seの‘合計’のエネルギーの上限値は、生存率と相関を
示さないことが示唆された。
【0113】
これらの知見から、矩形波電気パルスによる遺伝子導入
により生存率及び導入効率の両方が高い結果を得るため
には、Transfer Pulseの‘1パルス’あたりのエネルギ
ー量の下限を0.012 J/100μL以上にすることが好適であ
ることが示唆された。また、当該‘1パルス’あたりの
エネルギー量の上限としては、3.571 J/100μL以下、特 30
に1.250 J/100μL以下、さらには0.679 J/100μL以下と
することで、生存率及び導入率が良好となることが示唆
された。
【0114】
【表4−A】
【0116】
[試験例5(実施例)]『ZFN mRNA導入による組換え体
作出試験』
透明帯を有したままの前核期受精卵に対して、矩形波3
ステップ法によるエレクトロポレーションを行うことに
40
よって、ZFNをコードするmRNA導入により組換え体の作
出が可能かを検討した。なお、標的遺伝子としては、X
染色体上にあるIl2rg遺伝子を採用した。
【0117】
(1)「mRNAの調製」
ラットインターロイキン2受容体γ鎖遺伝子(Il2rg:免
疫不全症の原因遺伝子)を標的とするZFNプラスミドの
ペア(ZFN Left及びZFN Right)を合成した(Sigma Ald
rich, St.Louis, Mo, USA)。当該ZFNのペアは、Il2rg
遺伝子の第2エクソン付近の特定配列(ZFN Left:配列
50
番号2、ZFN Right:配列番号3)と結合するように設計
( 17 )
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33
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34
されたものである(図6参照)。なお、ZFN Leftの結合
むPBSを約2pL導入した。
配列は、Il2rg遺伝子の配列に対する相補鎖配列である
【0123】
。
(4)「受精卵の移植」
当該コンストラクトを有する各プラスミドDNAをラット
上記導入処理後の受精卵は、修正クレブス-リンガー溶
繊維芽細胞に導入し、Surveyor assay(Sigma Aldrich,
液中で37℃, 5%CO2 及び95%空気の条件下において2細
St. Louis, Mo, USA)を行って、ZENの配列特異的ヌク
胞期胚まで培養した。2細胞期胚の数をカウントし、供
レアーゼ活性によりIl2rg遺伝子に変異が入ることを確
試卵数に対する2細胞期胚の数の割合(%)を算出した
認した。
。
【0118】
得られた2細胞期胚を、ラットJcl:Wistar系統(CLEA Ja
次いで、当該プラスミドに対して、MessageMax (TM) T7 10
pan Inc.)の偽妊娠雌(前日に去勢した雄と交配した個
mRNA transcription kit(Cambio, Cambridge, UK)を
体)の卵管内に移植した。移植後21日後に自然分娩にて
用いてin vitro転写を行い、次いでA-Plus (TM) Poly(A
産子を得た。供試卵数に対する産子数の割合(%)を算
) polymerase tailing kit (Epicentre Biotechnologie
出した。
s, Madison, WI, USA)を用いて3'端のポリアデニル化処
【0124】
理を行った。
(5)「産子の遺伝子変異の解析」
得られた各mRNA(約1kb)をMEGAClear (TM) kit (Life
生育した産子から血液を採取してFTAカードに付着させ
Technologies Co., Carlsbad, CA, USA)を用いて精製し
て保存した。当該FTAカード(ワットマン社製)からゲ
た。各40ng/μL(計80ng/μL)の濃度になるようにPBS
ノムDNAを抽出し、前記Il2rg遺伝子上に設計した変異箇
中に溶解し、Il2rg遺伝子を標的とするZFN mRNA溶液を
所を挟む領域をPCR反応にて増幅した。得られたPCR産物
調製した。
20
のシークエンス解析を行って、産子のゲノムDNAにおけ
【0119】
るIl2rg遺伝子変異の有無を解析した。産子全個体に対
(2)「受精卵の採取」
する変異産子個体の割合を算出した。
試験例1(1)に記載の方法と同様にして、ラットF344/Stm
【0125】
系統の前核期受精卵を採取し、修正クレブス-リンガー
(6)「結果」
溶液中に保管した。
表5-Bの結果が示すように、透明帯を有したままの前核
【0120】
期受精卵に対して、Poring Pulseの総エネルギー量を0.
(3)「電気パルス処理」
298∼1.062 J/100μLに調整して矩形波3ステップ法での
ガラスチャンバー上のシャーレ白金プレート電極(CUY5
電気パルス処理を行うことによって、ZFNをコードするm
20P5, 5mm gap, L10×W5×H5mmm, ネッパジーン社製)
RNAを効率良く導入して、ZFNの配列特異的ヌクレアーゼ
の間に、上記mRNAを各40ng/μLで含むリン酸緩衝液(PB 30
活性を利用した遺伝子組み換えマウス(Il2rg遺伝子の
S)100μLを注入し、当該リン酸緩衝液で充填された金
ノックアウトラット)を効率良く作成できることが示さ
属プレート電極の間に、上記回収した前核期受精卵を一
れた(図5 参照)。
列に静置した(図3(A) 参照)。ここで、当該前核期受
【0126】
精卵は、透明帯除去及び菲薄化処理を行わず、採取した
具体的には、当該電気パルス処理後の受精卵の生存率(
状態のまま用いた。
2細胞期胚産出率、産子産出率)は、顕微注入法と同程
【0121】
度又はそれ以上の効率となることが示された(試験5-1
当該金属プレートに、矩形波電気パルスの発生が可能な
∼5-3)。
電気パルス発生装置(NEPA21(登録商標), ネッパジーン
特に、Poring Pulseの総エネルギー量を0.298∼0.629 J
社製)を接続し(図3(B) 参照)、Poring Pulse (Pp)、
Transfer Pulse 1 (Tp1)、Transfer Pulse (Tp2)の3種
/100μLに調整した場合、産子の産出率(生存率)は顕
40
微注入法の2.4∼3.1倍という高い値となった(試験5-1
類の矩形波電気パルスを順に与える3ステップ式多重パ
∼5-2)。
ルス電気穿孔法(図1,2 参照)による電気パルス処理を
当該生存率が高い理由は、透明帯除去及び菲薄化処理を
行った。電気パルスの各条件は、表5-Aに示す条件にて
行っていないことに加えて、Poring Pulseの総エネルギ
行った。なお、一連の操作は、水滴付着を防止するため
ー量が好適範囲であることによって、受精卵のダメージ
、室温条件にて行った。
が少ないためと推測された。
【0122】
【0127】
一方、対照として、マイクロマニュピュレーターを用い
また、得られた産子の遺伝子変異率は、顕微注入法と同
た顕微注入(マイクロインジェクション法)により上記
程度又はそれ以上の効率であった。特に、Poring Pulse
各mRNAを受精卵へ導入した。なお、インジェクション操
の総エネルギー量を0.629∼1.062 J/100μLに調整した
作は、常法に従って行い、上記mRNAを各10 ng/μLで含
50
場合、変異率は顕微注入法の約2.2倍という高い値とな
( 18 )
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36
った。
次いで、当該プラスミドに対して、MessageMax (TM) T7
【0128】
mRNA transcription kit(Cambio, Cambridge, UK)を
【表5−A】
用いてin vitro転写を行い、次いでA-Plus (TM) Poly(A
) polymerase tailing kit (Epicentre Biotechnologie
s, Madison, WI, USA)を用いて3'端のポリアデニル化処
理を行った。
得られた各mRNA(約3kb)を、MEGAClear (TM) kit (Lif
e Technologies Co., Carlsbad, CA, USA)を用いて精製
した。各40ng/μL(計80ng/μL)の濃度になるようにPB
10
S中に溶解し、Il2rg遺伝子を標的とするZFN mRNA溶液を
調製した。
【0133】
(2)「受精卵の採取」
試験例1(1)に記載の方法と同様にして、ラットF344/Stm
系統の前核期受精卵を採取し、修正クレブス-リンガー
溶液中に保管した。
【0134】
(3)「電気パルス処理」
【0129】
【表5−B】
試験例5(3)に記載の方法と同様にして、ガラスチャンバ
20
ー上のシャーレ白金プレート電極の間に、上記mRNAを各
40ng/μLで含むリン酸緩衝液(PBS)100μLを注入し、
当該リン酸緩衝液で充填された金属プレート電極の間に
、上記回収した前核期受精卵を一列に静置した。ここで
、当該前核期受精卵は、透明帯除去及び菲薄化処理を行
わず、採取した状態のまま用いた。
当該金属プレートに、矩形波電気パルスの発生が可能な
【0130】
電気パルス発生装置を接続し表6に示すPoring Pulseの
[試験例6(実施例)]『TALEN mRNA導入による組換え
総エネルギー量での電気パルス処理を行った。また、当
体作出試験』
該処理に用いた機器、基本的操作、及びその他の電気条
透明帯を有したままの前核期受精卵に対して、矩形波3
30
件は、試験例5(3)に記載の方法と同様にして行った。
ステップ法によるエレクトロポレーションを行うことに
【0135】
よって、TALENをコードするmRNA導入により組換え体の
(4)「受精卵の移植」
作出が可能かを検討した。なお、標的遺伝子としては、
試験例5(4)に記載の方法と同様にして、供試卵数に対す
X染色体上にあるIl2rg遺伝子を採用した。
る2細胞期胚の数の割合(%)および供試卵数に対する
【0131】
産子数の割合(%)を算出した。その後、得られた2細
(1)「mRNAの調製」
胞期胚を、偽妊娠雌の卵管内に移植して自然分娩にて産
ラットインターロイキン2受容体γ鎖遺伝子(Il2rg:免
子を得た。供試卵数に対する産子数の割合(%)を算出
疫不全症の原因遺伝子)をコードしたTALENプラスミド
した。なお、当該処理の基本的操作は、試験例5(4)に記
のペア(TALEN Left及びTALEN Right)を合成した。当
該TANENのペアは、Il2rg遺伝子の第2エクソンの特定配
載の方法と同様にして行った。
40
【0136】
列(TALEN Left:配列番号5、TALEN Right:配列番号6
(5)「産子の遺伝子変異の解析」
)と結合するように設計されたものである(図7 参照)
試験例5(5)に記載の方法と同様にして、産子全個体に対
。なお、TALEN Rightの結合配列は、Il2rg遺伝子の配列
するIl2rg遺伝子変異個体の割合を算出した。なお、当
に対する相補鎖配列である。
該解析の基本的操作は、試験例5(5)に記載の方法と同様
当該コンストラクトを有する各プラスミドDNAをラット
にして行った。
繊維芽細胞に導入し、Surveyor assay(Sigma Aldrich,
【0137】
St. Louis, Mo, USA)を行って、TALENの配列特異的ヌ
(6)「結果」
クレアーゼ活性によりIl2rg遺伝子に変異が入ることを
表6の結果が示すように、透明帯を有したままの前核期
確認した。
受精卵に対して、Poring Pulseの総エネルギー量を0.62
【0132】
50
9∼1.062 J/100μLに調整して矩形波3ステップ法での電
( 19 )
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気パルス処理を行うことによって、TALENをコードするm
)。また、当該Guide RNAの3'側は、立体構造を形成し
RNAを効率良く導入して、TALENによる配列特異的ヌクレ
てCas9ヌクレアーゼと特異的に結合する配列(配列番号
アーゼ活性を利用した遺伝子組み換えラットを効率良く
8: crRNA:tracrRNA)である。
作成できることが示された。
【0143】
【0138】
Guide RNAを組み込んだ発現ベクターに対して、MEGAsho
具体的には、当該電気パルス処理後の受精卵の生存率(
rtscript (TM) T7 kit (Life Technologies Co., Carls
2細胞期胚産出率、産子産出率)が高い値となることが
bad, CA, USA) を用いて転写を行った。また、Cas9ヌク
示された(試験6-1∼6-2)。特に、Poring Pulseの総エ
レアーゼ(SpCas9)を組み込んだ発現ベクターに対して
ネルギー量を0.629 J/100μLに調整した時に、約半数(
、MessageMax (TM) T7 mRNA transcription kit(Cambi
44%)という非常に多くの受精卵が産子にまで生育した 10
o, Cambridge, UK)を用いてin vitro転写を行い、次い
(試験6-1)。
でA-Plus (TM) Poly(A) polymerase tailing kit (Epic
【0139】
entre Biotechnologies, Madison, WI, USA)を用いて3'
また、当該得られた産子からは、標的配列に遺伝子変異
端のポリアデニル化処理を行った。
を有する個体が得られることが示された(試験6-1∼6-2
得られたGuide RNA およびCas9 mRNAをMEGAClear (TM)
)。特に、Poring Pulseの総エネルギー量を1.062 J/10
kit (Life Technologies Co., Carlsbad, CA, USA)を用
0μLに調整した場合に、高い変異率となることが示され
いて精製した。
た(試験6-2)。
【0144】
なお、当該TALEN mRNAを導入して得られた産子の遺伝子
得られたGuide RNA 192ng/μLおよびCas9 mRNA 312ng/
変異率は、実施例5におけるZFNs mRNAの導入例よりも低
μLになるようにPBS中に溶解し、Thy遺伝子を標的とす
い値であった。これは、TALENの導入mRNAが長鎖(ZFN m 20
るCRISPR-Cas9システム用のRNA溶液を調製した。
RNAの約3倍)であるため、細胞質内に移行し難いためと
【0145】
推測された。
(2)「受精卵の採取」
【0140】
ラットDA/Slc系統の前核期受精卵を採取し、修正クレブ
【表6】
ス-リンガー溶液中に保管した。当該処理の基本的操作
は、試験例1(1)に記載の方法と同様にして行った。
【0146】
(3)「電気パルス処理」
試験例5(3)に記載の方法と同様にして、ガラスチャンバ
ー上のシャーレ白金プレート電極の間に、上記各RNA(G
30
uide RNA 192ng/μLおよびCas9 mRNA 312ng/μL)を含
むリン酸緩衝液(PBS)100μLを注入し、当該リン酸緩
衝液で充填された金属プレート電極の間に、上記回収し
た前核期受精卵を一列に静置した。ここで、当該前核期
受精卵は、透明帯除去及び菲薄化処理を行わず、採取し
【0141】
た状態のまま用いた。
[試験例7(実施例)]『CRISPR-Cas9システムを利用し
当該金属プレートに、矩形波電気パルスの発生が可能な
た組換え体作出試験』
電気パルス発生装置を接続し表7に示すPoring Pulseの
透明帯を有したままの前核期受精卵に対して、矩形波3
総エネルギー量での電気パルス処理を行った。また、当
ステップ法によるエレクトロポレーションを行うことに
該処理に用いた機器、基本的操作、及びその他の電気条
よって、Cas9 mRNA及びGuide RNAを導入したCRISPRシス 40
件は、試験例5(3)に記載の方法と同様にして行った。
テムにより、組換え体の作出が可能かを検討した。なお
【0147】
、標的遺伝子としては、チロシナーゼ遺伝子を採用した
(4)「受精卵の移植」
。
試験例5(4)に記載の方法と同様にして、供試卵数に対す
【0142】
る2細胞期胚の数の割合(%)および供試卵数に対する
(1)「RNAの調製」
産子数の割合(%)を算出した。
ラットチロシナーゼ遺伝子(Thy:メラニン合成に関与
【0148】
し欠損するとアルビノとなる)を標的とするGuide RNA
(5)「胚の遺伝子変異の解析」
をオリゴ合成により調製した。当該Guide RNAの5'側20b
2細胞期胚の全個体に対するThy遺伝子変異個体の割合を
pは、Thy遺伝子上の標的配列(配列番号7)の相補鎖に
算出した。なお、当該解析の基本的操作は、試験例5(5)
対して結合するように設計されたものである(図8 参照 50
に記載の方法と同様にして行った。
( 20 )
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40
【0149】
世代に継代されることが示された。
(6)「結果」
【0155】
表7の結果が示すように、透明帯を有したままの前核期
【表8】
受精卵に対して、Poring Pulseの総エネルギー量を1.06
2 J/100μLに調整して矩形波3ステップ法での電気パル
ス処理を行うことによって、Guide RNAおよびCas9 mRNA
を導入して、標的配列に遺伝子変異を有する初期胚が得
られることが示された(試験7-1)。
この結果から、当該エレクトロポレーション法及びCRIS
PR-Cas9システムを利用して、遺伝子組み換えラットを
【0156】
10
[試験例9(比較例)]『受精卵に対するDNA導入試験』
作成できることが示唆された。
透明帯を有したままの前核期受精卵に対して、矩形波3
【0150】
ステップ法によるエレクトロポレーションを行うにあた
【表7】
り、プラスミドDNAを導入しての組換え体の作出が可能
かを検証した。
【0157】
(1)「プラスミドDNAの調製」
EmGFP(Pc DNA6.2)plasmid(Invitrogen社)のプラスミ
ド溶液を調製し、DNA溶液とした。プラスミド調製の基
本操作は、試験例2(2)に記載の方法と同様にして行った
【0151】
20
。
[試験例8(実施例)]『遺伝形質の継代試験』
【0158】
上記作出したIl2rg遺伝子変異体について、導入した遺
(2)「電気パルス処理」
伝形質が継代して次世代に伝わるかを確認した。
試験例5(3)に記載の方法と同様にして、ガラスチャンバ
【0152】
ー上のシャーレ白金プレート電極の間に、上記プラスミ
(1)「ジャームライントランスミッション解析」
ドDNAを表9に示す濃度で含むリン酸緩衝液(PBS)100μ
表8に示した遺伝子型のIl2rg遺伝子変異ラット(試験例
Lを注入し、当該リン酸緩衝液で充填された金属プレー
5(4)でZFN mRNAを導入して作出したIl2rg遺伝子変異個
ト電極の間に、上記回収した前核期受精卵を一列に静置
体)を選抜した。ここで、表において、‘G0Δ’又は‘
した。ここで、当該前核期受精卵は、透明帯除去及び菲
F1Δ’は、X染色体上のIl2rg遺伝子に変異があることを
薄化処理を行わず、採取した状態のまま用いた。
示す。また、Δの右の数値は、欠失塩基数を示す。また 30
当該金属プレートに、矩形波電気パルスの発生が可能な
、‘+’は正常なX染色体を、‘Y’はY染色体を示す
電気パルス発生装置を接続し表9に示すPoring Pulseの
。
総エネルギー量での電気パルス処理を行った。また、当
【0153】
該処理に用いた機器、基本的操作、及びその他の電気条
当該変異個体それぞれについて、F344/Stm系統の野生型
件は、試験例5(3)に記載の方法と同様にして行った。
と自然交配させて産子を得、遺伝子変異個体の割合を算
【0159】
出した。遺伝子変異の有無の確認は、試験例5(5)に記載
(3)「受精卵の移植」
の方法と同様にして行った。
試験例5(4)に記載の方法と同様にして、供試卵数に対す
【0154】
る2細胞期胚の数の割合(%)および供試卵数に対する
(2)「結果」
産子数の割合(%)を算出した。なお、当該処理の基本
表8の結果が示すように、雄のIl2rg遺伝子変異個体であ 40
的操作は、試験例5(4)に記載の方法と同様にして行った
る変異体8-1(G0Δ13/Y), 又は, 変異体8-2(G0Δ7/Y
。
)を、雌の野生型(+/+)と交配して得た子世代につい
【0160】
ては、雌の全てがIl2rg遺伝子変異体になった。また、
(4)「産子の遺伝子変異の解析」
これらの子世代の雄は、全て野生型となった。
産子を毛刈りし、励起光490nmを照射して表皮の細胞が
また、雌のIl2rg遺伝子変異個体である変異体8-3(F1Δ
蛍光を発するかどうかを調べることで、産子全個体に対
13/+)を、雄の野生型(Y/+)と交配して得た子世代に
するGFP蛍光陽性個体の割合を算出した。
ついては、雄と雌の両方ともその約半数がIl2rg遺伝子
【0161】
変異体になった。
(5)「結果」
これらの結果から、ZFN mRNAを導入して作出したIl2rg
表9の結果が示すように、導入核酸の分子種としてプラ
遺伝子変異個体の遺伝子形質(ゲノム上の変異)は、子 50
スミドDNAを用いた場合、上記試験例で決定した至適電
( 21 )
JP
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42
気条件で電気パルス処理を行っても、遺伝子組み換え個
【0165】
体を全く作成することができなかった。
11:
当該結果及び試験例5∼7の結果から、透明帯を有した状
ャンバー
態の‘受精卵’に対して、矩形波3ステップ法でのエレ
12:
シャーレ白金プレート電極
クトロポレーションによる遺伝子組み換えを行うために
13:
実体顕微鏡
は、核酸分子種として‘RNA’を用いることが好適であ
14:
電気パルス発生装置
ると考えられた。
【0166】
【0162】
21:
Il2rg遺伝子ノックアウトラット
22:
野生型ラット(F344/Stm系統)
【表9】
10
シャーレ白金プレート電極を装着したガラスチ
【0167】
31:
Il2rg遺伝子に設計したZFN leftの結合配列(
相補鎖配列)
32:
Zinc Finger Proteins(配列特異的DNA結合ド
メイン)
33:
FokI(制限酵素活性ドメイン)
34:
Il2rg遺伝子に設計したZFN rightの結合配列(
【産業上の利用可能性】
遺伝子配列)
【0163】
35:
本発明の遺伝子改変技術により、ゲノム上の標的配列の
メイン)
遺伝子を改変する技術(ZFN等のゲノム編集技術)を利
20
36:
Zinc Finger Proteins(配列特異的DNA結合ド
FokI(制限酵素活性ドメイン)
用する上で特定の哺乳類の種類に限定されることなくな
【0168】
り、高効率且つ再現性良く、哺乳類の遺伝子改変個体を
41:
作出することが可能となる。
(遺伝子配列)
これにより、本発明に係る技術は、遺伝子機能の解析や
42:
疾患のメカニズム解明に大きく貢献する技術となること
列特異的DNA結合ドメイン)
が期待される。
43:
FokI(制限酵素活性ドメイン)
なお、本願発明者らは、本発明の技術を「TAKE法」(th
44:
Il2rg遺伝子に設計したTALEN rightの結合配列
e Technique for Animal Knockout system by Electrop
(相補鎖配列)
oration 法)と命名した。」
45:
【符号の説明】
30
Il2rg遺伝子に設計したTALEN leftの結合配列
Transcription Activator-Like Effectors(配
Transcription Activator-Like Effectors(配
列特異的DNA結合ドメイン)
【0164】
46:
1:
電極
【0169】
FokI(制限酵素活性ドメイン)
2:
前核期受精卵
51:
Thy遺伝子のゲノムDNA
3:
卵由来の核
52:
Thy遺伝子に設計したCRISPR-Cas9システムのGu
4:
精子由来の核
ide RNA認識配列。
5:
透明帯
53:
Protospacer Adaptor Motif (PAM)
6:
Poring Pulseにより形成された微小孔
54:
Guide RNA (crRNA:tracrRNA)
7:
mRNA
55:
Cas9 nuclease
( 22 )
【図1】
JP
【図3】
【図4】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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( 23 )
【配列表】
0005774657000001.app
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( 24 )
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5774657
B2
2015.9.9
────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(72)発明者
早川
靖彦
千葉県市川市塩焼3−1−6
(72)発明者
早川
清
千葉県市川市塩焼3−1−6
審査官
(56)参考文献
濱田
ネッパジーン株式会社内
ネッパジーン株式会社内
光浩
特開2011−147399(JP,A)
特開2002−238561(JP,A)
国際公開第2011/158845(WO,A1)
Tomoji Mashimo et al.,Efficient gene targeting by TAL effector nucleases coinjected w
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久保貴博他,パルスパワーを用いたメダカ受精卵への物質導入実験におけるパラメータの検討,
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C12N
15/00
A01K
67/027
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
WPIDS(STN)