日本放射線安全管理学会 第10回学術大会 2011年12月01日、横浜 内部被ばくにおける防護量と その評価方法 名古屋大学・医・保健 石榑信人 防護量 防護量は、 障害を防止 防止するための方策を、計画 計画、実行 防止 計画 実行、評価 実行 評価するために 評価 認知された科学的基盤 科学的基盤に立ち 科学的基盤 確率的影響 確率的影響の発生確率と関連付けて 確率的影響 実用主義的 実用主義的な手法により確立された 実用主義的 放射線に関わる量 内部被ばくと外部被ばくとで共通の防護量 ところが内部被ばくでは; 感受性部位が臓器内で偏在している場合が問題 対処:呼吸器、骨、消化管は感受性部位の吸収線量を計算 短飛程(組織中で数10ミクロン)のα線も問題 対処:線質効果は放射線加重係数により補正 (光子と電子は1、陽子は2、α粒子は20) 臓器間で吸収線量が不均等となる場合が問題 対処:不均等照射は組織加重係数で補正 (骨髄、肺は0.12、生殖腺は0.08、肝臓、甲状腺は0.04) 体内に長く残り、被ばくし続ける場合が問題 対処:乳幼児、児童は70歳までの総線量を計算 成人は一律に50年間の総線量を計算 ルーティンとしての内部被ばく線量評価 ICRP 空気中濃度 × 呼吸量 × 線量係数 = 実効線量 Bq/cm3 cm3 mSv/Bq mSv ICRP 食品中濃度 × 摂取量 × 線量係数 = 実効線量 Bq/kg kg mSv/Bq mSv ICRP ICRP 体内放射能 ÷ 残留率 × 線量係数 = 実効線量 Bq mSv/Bq mSv 本講演の たる話題 話題 本講演の主たる 放射性物質の体内摂取、移行、排泄の経路 呼気 皮 膚 吸入 Publ.66 呼吸気道 リンパ節 NCRP 156 肝臓 創傷 汗 経口 皮下組織 消化管 血液 皮 膚 種々の 臓器 腎臓 糞 膀胱 Publ.30, 56, 67, 69, 71 尿 Publ.30, 100 呼吸気道の区分 解剖学的 呼吸気道 リンパ節 部位 領域 胸郭外 ET1 前鼻道 胸 後鼻腔 領域 LNET 郭 ET2 咽頭 外 喉頭 0 気管 胸郭内 BB 1 主気管支 2~8 領域 気管支 胸 9~14 細気管支 郭 bb LNTH 内 終末 15 領 細気管支 域 呼吸 16~18 細気管支 AI 肺胞管 19 +肺胞 分枝次数 各領域への 各領域への沈着率 への沈着率は 沈着率は エアロゾルパラメータ 粒子径 粒子密度 粒子形状 呼吸気道寸法パラメータ 機能的残気量 死腔容積 気管等直径 呼吸生理パラメータ 一回換気量 呼吸流量率 に依存して変化 して変化する 変化する。 する。 粒子径による沈着率の変化 睡眠中の成人の場合 0.5 胸郭外2 気管支 細気管支 肺胞 沈着率 0.4 0.3 0.2 0.1 0 0.001 0.01 0.1 1 粒子径(ミクロン) 10 100 身体活動による沈着率の変化 成人が1ミクロン粒子を吸入した場合 0.35 胸郭外2 気管支 細気管支 肺胞 0.30 沈着率 0.25 0.20 0.15 0.10 0.05 0.00 0.5 1 睡眠 1.5 2 休憩 2.5 3 軽運動 3.5 4 強運動 4.5 年齢による沈着率の変化 睡眠中に1ミクロン粒子を吸入した場合 0.25 胸郭外2 気管支 細気管支 肺胞 沈着率 0.20 0.15 0.10 0.05 0.00 0 3ヶ月 1歳 5歳 10歳 15歳 成人 7 粘液繊毛運動による消化管へのクリアランス →消化管 気管および気管支の上皮組織 Epithelium of trachea and bronchi 粘液に溶解し血中へのクリアランス ↓ 血中へ 気管および気管支の上皮組織 Epithelium of trachea and bronchi ET1 消化管 環境 LN ET ET seq ET2 BBseq BB 2 LNETT BB 1 LN TH Spt bb seq bb 2 bb1 ETseqT ET 2T BB seqT BB 2T BB 1T bb seqT bb 1T LN THT AI 3 AI 2 AI 1 bb2T AI3T AI2T AI 1T 初期状態 変換状態 Sp St 血液 クリアランスに関するコンパートメントモデル 化学形による血中や消化管移行率の変化 0.5 1 S M F 0.4 M 0.01 消化管移行(積算) 血中移行(積算) 0.1 0.3 0.2 F S 0.001 0.1 0.0001 0.01 0.1 1 10 100 吸入後時間(日) 1000 10000 0 0.01 0.1 1 10 100 1000 10000 吸入後時間(日) 血中吸収が、F (Fast):速い、M (Moderate):中程度、S (Slow):遅い 分泌細胞 分泌細胞 基底 細胞 気管および気管支の標的細胞 Epithelium of trachea and bronchi 繊毛+ゾル層 (6 µm) ゲル層 (5 µm) 10 µm 分泌細胞の核 (標的) 30 µm 35 µm 15 µm マクロファージ層 基底細胞の核 (標的) 10 µm 500 µm 肺胞・間質領域 気管および気管支の上皮組織の幾何学モデル 1h 胃 4h 小腸 血液 13 h 大腸上部 24 h 大腸下部 現在使われているICRPの胃腸管モデル 歯 分 泌 器 官 口腔 口腔粘膜 内容物 唾液腺 食道 食道 早い過程 遅い過程 血 漿 胃内容物 壁 小腸内容物 壁 右結腸内容物 壁 左結腸内容物 壁 直腸S状結腸内容物 糞 肝 壁 現在使われているCsの組織系動態モデル 血液 10% (5歳→45%) 90% (55%←5歳) A B 2日 (5歳→9.1日) 110日 (30日←5歳) 80% 尿 20% 糞 経口摂取されたCs-137の全身残留率 1才 5才 10才 15才 成人 1.E+00 全身残留割合 1.E-01 1.E-02 1.E-03 1.E-04 1.E-05 1.E-06 1 10 100 摂取後時間(日) 1000 組織系動態モデルの高度化 脳 12% 4% Csの生理学的 薬物動態モデル by Leggett(ORNL) 赤血球 0.002% 2.5% 心臓 肺 4.998% その他臓器2 その他臓器1 15% 脂肪組織 5% 骨格筋 17% その他骨格 2% 赤色骨髄 3% 皮膚 5% 汗(2%) 6.5% (19%) 肝臓 膵臓 脾臓 1% 消化管壁 3% 胃 内容物 小腸 内容物 腎 尿(85%) 19% 大腸 内容物 糞(13%) 薬物動態モデルによる残留率の計算 Cs-137、Type F、5ミクロン粒子の吸入 1.E+00 脳 心臓 各組織の残留率 1.E-01 肺 他臓器 1.E-02 肝臓 1.E-03 膵臓 脾臓 1.E-04 消化管壁 1.E-05 腎臓 1.E-06 脂肪組織 1.E-07 他骨格 骨格筋 赤色骨髄 1.E-08 1 10 100 吸入後時間(日) 1000 10000 全身残留率のモデルによる変化 Cs-137、Type F、5ミクロン粒子の吸入 1.E+00 現行 男性(新) 女性(新) 1.E-01 全身残留率 1.E-02 1.E-03 1.E-04 1.E-05 1.E-06 1.E-07 1.E-08 1 10 100 吸入後時間(日) 1000 10000 ヨウ素の組織系動態モデル 0.3 体内の 無機ヨウ素 0.25 d 0.7 甲状腺の 有機ヨウ素 80 d 未確定 0.8 尿 体内の 有機ヨウ素 12 d 0.2 糞 現在使われているモデル 検討中のモデル 検討中の動態モデルによるヨウ素の残留率の計算 0.5 I-131、蒸気状ヨウ素元素の吸入 甲状腺 肝臓 他臓器 腎臓 消化管 各組織の残留率 0.4 0.3 0.2 0.1 0 0.01 0.1 1 吸入後時間(日) 10 100 呼吸気道、消化管、組織系動態モデル 甲状腺内での50年間の総壊変数 唾液腺内での50年間の総壊変数 肺内での50年間の総壊変数 肝臓内での50年間の総壊変数 腎臓内での50年間の総壊変数 ・・・・・・・・・・・ 甲状腺に吸収された全エネルギー 甲状腺内からの放射線が甲状腺に吸収される割合 唾液腺内からの放射線が甲状腺に吸収される割合 肺内からの放射線が甲状腺に吸収される割合 肝臓内からの放射線が甲状腺に吸収される割合 腎臓内からの放射線が甲状腺に吸収される割合 ・・・・・・・・・・・ 人体数学ファントム 放射 線加 重係 数 現在使われている人体数学ファントム W S Snyder, et al. J. Nucl. Nucl. Med. Vol. 10, Suppl. No.3, 1969より 1969より 計算例(Cs-137) 線源組織での1壊変が各標的組織へ与える等価線量(Sv):抜粋 線源組織→ → ↓標的組織 Adrenals Brain Breasts Gall bl wall LLI wall SI wall ST wall ULI wall Heart wall Kidneys Liver Lung Muscle Ovaries Pancreas Bone marrow Bone surface Adrenals Brain 3.0E-12 7.8E-18 2.6E-16 1.2E-15 1.2E-16 3.2E-16 9.9E-16 3.9E-16 1.1E-15 2.9E-15 1.7E-15 9.5E-16 4.8E-16 1.5E-16 3.9E-15 1.1E-15 5.9E-16 Breasts Gall bl cont 7.8E-18 2.6E-16 1.1E-15 3.9E-14 2.5E-17 4.2E-18 2.5E-17 1.3E-13 1.7E-16 3.5E-18 1.8E-16 4.0E-12 6.3E-19 2.6E-17 2.4E-16 1.3E-18 5.8E-17 1.6E-15 6.4E-18 3.0E-16 1.1E-15 1.6E-18 5.7E-17 2.9E-15 2.9E-17 1.2E-15 4.1E-16 3.5E-18 1.3E-16 1.4E-15 1.1E-17 3.3E-16 3.1E-15 5.8E-17 9.7E-16 2.8E-16 1.1E-16 2.1E-16 4.7E-16 7.5E-19 2.8E-17 4.3E-16 9.1E-18 3.0E-16 2.5E-15 3.9E-16 2.8E-16 4.4E-16 6.8E-16 2.0E-16 2.2E-16 LLI cont SI cont 1.2E-16 7.4E-19 2.7E-17 2.6E-16 1.6E-13 2.6E-15 5.3E-16 1.2E-15 4.6E-17 3.2E-16 1.0E-16 3.8E-17 5.0E-16 5.1E-15 2.1E-16 8.7E-16 3.8E-16 ST cont ULI cont Heart cont 3.2E-16 1.1E-15 3.6E-16 9.6E-16 1.3E-18 6.8E-18 1.6E-18 3.1E-17 5.8E-17 2.9E-16 6.7E-17 1.1E-15 1.6E-15 1.1E-15 2.7E-15 4.0E-16 2.3E-15 3.7E-16 9.7E-16 3.4E-17 5.5E-14 7.5E-16 4.8E-15 9.3E-17 8.4E-16 9.5E-14 1.1E-15 6.5E-16 5.4E-15 9.9E-16 1.0E-13 1.2E-16 1.2E-16 9.6E-16 1.4E-16 1.3E-13 8.5E-16 9.9E-16 8.2E-16 3.1E-16 4.7E-16 5.9E-16 7.7E-16 8.1E-16 8.6E-17 4.5E-16 9.9E-17 1.8E-15 4.6E-16 4.1E-16 4.3E-16 3.6E-16 3.4E-15 2.7E-16 2.9E-15 4.8E-17 5.6E-16 4.6E-15 6.3E-16 9.6E-16 7.3E-16 3.5E-16 6.1E-16 4.9E-16 2.9E-16 2.1E-16 2.5E-16 3.2E-16 ICRPによるボクセルファントムの定義 男性 女性 176 cm 163 cm 76 kg 60 kg H Schlattl, Schlattl, et al. Phys. Med. Biol., 55 (2010) 6243より 6243より 現在使われているCs-137の線量係数 12 Cs-137、Type F 粒子の吸入 1歳 5歳 10歳 成人 線量係数(nSv/Bq) 10 8 6 4 2 0 0.01 0.1 1 10 粒子径(ミクロン) ICRP CD-ROMに基づく 現在使われているCs-137の線量係数 12 Cs-137、Type F 粒子の吸入 1歳 5歳 10歳 成人 線量係数(相対値) 10 8 6 4 呼吸量で補正 2 0 0.01 0.1 1 10 粒子径(ミクロン) ICRP CD-ROMに基づく 線源情報の推定の重要性 Cs-137空気中濃度(Bq/cm3) 1.E-03 3月下旬 25 km~45 km 1.E-04 空気中 濃度限度 365日間 で1 mSv 1.E-05 1.E-06 1.E-07 0.1 1 10 100 空間線量率(µSv/h) http://www.nsc.go.jp/anzen/shidai/genan2011/genan024/index.htmlよりプロット 体内放射能の測定値からの線量の評価 I-131甲状腺残留割合 1.E+00 1.E-01 M(t):摂取 t 日後の体内放射能測定値 1才 5才 10才 15才 成人 1.E-02 1.E-03 1.E-04 m(t):摂取 t 日後の体内残留率計算値 C:線量係数(Sv/Bq) 1.E-05 1.E-06 0.1 1 10 100 吸入後時間(日) 摂取放射能 M (t ) I= m(t ) (Bq) 実効線量 E =C×I (Sv) Cs-137全身残留割合 1.E+00 1.E-01 1.E-02 1才 5才 10才 15才 成人 1.E-03 1.E-04 1.E-05 1.E-06 1 10 100 摂取後時間(日) 1000 摂取シナリオ推定の重要性 0.25 例題(1) 4月1日~6日に断続的にI-131の放出 4月8日に7才の子供の甲状腺計測で 1500Bqが検出 実効線量係数=9.4×10-5 mSv/Bq (5才児の蒸気状ヨウ素元素の吸入) 0.2 I-131甲状腺残留割合 4/6 0.15 1才 5才 10才 15才 成人 0.1 摂取シナリオ1: 4月1日に吸入摂取 残留率(7日)=0.124 摂取量=1500/0.124=12100 Bq 預託実効線量=1.1 mSv 4/1 0.05 摂取シナリオ2: 4月6日に吸入摂取 0 0 2 4 6 吸入後時間(日) 8 10 残留率(2日)=0.215 摂取量=1500/0.215=6980 Bq 預託実効線量=0.66 mSv 摂取シナリオ推定の重要性 1 0.8 Cs-137全身残留割合 例題(2) 1才 5才 10才 15才 成人 4月1日にCs-137の放出があり、一帯 が汚染。 6月30日にその地域の7才の子供の全 身計測で10000Bqが検出 実効線量係数=9.6×10-6 mSv/Bq (5才児の経口摂取) 0.6 摂取シナリオ1: 4月1日に摂取 0.4 残留率(90日)=0.0695 摂取量=10000/0.0695=144000 Bq 預託実効線量=1.4 mSv 0.2 4/1 0 0 20 40 60 摂取後時間(日) 80 摂取シナリオ2: 4月1日~6月29日に 100 一様に慢性摂取 預託実効線量=0.32 mSv 適用モデルの重要性 1 0.8 Cs-137全身残留割合 例題(2)と同じ 1才 5才 10才 15才 成人 4月1日にCs-137の放出があり、一帯 が汚染。 6月30日にその地域の7才の子供の全 身計測で10000Bqが検出 0.6 5才児(3,4,5,6,7才)のモデルを適用 残留率(90日)=0.0695 摂取量=10000/0.0695=144000 Bq 実効線量係数=9.6×10-6 mSv/Bq 預託実効線量=1.4 mSv 0.4 0.2 0 0 20 40 60 摂取後時間(日) 80 100 10才児(8,9,10,11,12才)のモデルを適用 残留率(90日)=0.200 摂取量=10000/0.200=50000 Bq 実効線量係数=1.0×10-5 mSv/Bq 預託実効線量=0.5 mSv サマリー 1.内部被ばくと外部被ばくとで共通の防護量 感受性部位の吸収線量、放射線加重係数、組織加重係数 70歳まで、あるいは50年間の総線量 2.線量係数の開発 ← 研究の進展により改定 呼吸気道、消化管、組織系動態、人体数学ファントム 3.内部被ばく線量評価の信頼性を左右するポイント 線源情報の推定 専門的で注意深い調査・考察が必要。 摂取シナリオの推定 モデルの適用 時間が経つにつれ困難となり、不確か さが増大。
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