1 - 学生向け情報

【博士論文 公開事前審査】
消費者行動の異質性とダイナミクス
東京大学大学院経済学研究科
山口 景子
2014年7月23日(水)
1
第1章 はじめに
1.1 本博士論文の問題意識
• 購買行動モデルにおける消費者間の異質性は,マーケティング・
サイエンスにおける多くの消費者行動分析で議論・考慮されてき
た
• では,消費者個人内における行動や反応の時間的異質性は?
従来の「マーケティング戦術」×「消費者」という二つの分析軸に,「時間」軸
を追加することにより,自社のマーケティングの見直しと効率化を図る
消費者行動の異質性とダイナミクス,
そしてこれらの要因を組み込んだ分析モデルの提案に焦点を当てる
2
第1章 はじめに
1.2 実務上の問題に対する本博士論文の貢献
本博士論文の提案モデルによって企業が得られる新たなマーケティング戦
術が,企業の売上最大化問題のどのような側面に貢献できるのか
売上の要因分解
•
顧客𝑖の店舗訪問回数を𝑇𝑖 ,顧客数を𝑁と表記すると,企業の売上の要因分解は
𝑁
𝑇𝑖
売上 =
𝑁
顧客𝑖の𝑡回目の全購入量
𝑖=1
𝑡=1
𝑇𝑖
=
顧客𝑖の𝑡回目の購入量 + 顧客𝑖の𝑡回目の∆購入量
𝑖=1
𝑡=1
 日常的・計画的購入
 非日常的・非計画的購入
顧客一人あたりの売上を構成する三要素
×
消費者の異質性とダイナミクスを考慮した分析
個人𝑖(ひいては企業)の売上の改善
3
第1章 はじめに
1.3 本論文の構成図
第1章 はじめに
第2章 先行研究
【山口ら, 2006; オペレーションズ・リサーチ】
顧客𝑖による売上
第3章 訪問回数モデル
【山口, 2014; マーケティング・サイエンス】
×
第4章 購入量モデル
【山口, forthcoming;
マーケティング・サイエンス】
+
第5章 ⊿購入モデル
第6章 おわりに
4
第2章 先行研究
【事例部分】
山口,中島,岡 (2006),“支払い方法選択行動分析による"高価値"顧客の発掘”,
オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学,51(2), 81-88
5
第2章 先行研究
2.1 先行研究と手法の整理:消費者間の異質性
• マーケティング戦術の最適化のためには,消費者間の好みや感
度の異質性を考慮することが重要
• 先行研究ではどのように異質性が考慮されてきたのかを整理
1.
ブランド・ロイヤルティ
– 消費者の好みの異質性
2.
顧客のセグメンテーション
– 消費者セグメントの感度の異質性
3.
変量効果モデルによる消費者間異質性の推定
– 消費者の感度のばらつきを把握
4.
階層ベイズモデルによる消費者間異質性と共通性の推定
– 消費者それぞれの感度を推定
6
第2章 先行研究
2.1 先行研究と手法の整理:消費者行動のダイナミクス
• Chintagunta et al. (2006)は,消費者の行動がダイナミクスを示す三
つの要因を指摘
• この三つの観点から先行研究で用いられてきた定式化やモデル
を整理
1.
State dependence
第3章
– 消費者の効用あるいは意思決定の時点間依存
2.
Consumers’ forward-looking behavior
第5章
– 内的参照価格の形成,学習効果など
3.
Dynamic response to exogenous variables
第4章
– 消費者の意思決定に影響を与える要因の感度の時間的変化
7
第2章 先行研究
2.2 事例: はじめに
• クレジットカード会社の収益源
– 加盟店からの手数料
– ユーザからの年会費(固定収益)や利子の支払い(変動収益)
• “高価値”顧客=利子収益をもたらしてくれる顧客
• クレジットカード会社にとっての“高価値”顧客を発掘し,ターゲット
としたい
+
• 新規・未利用顧客についても,“高価値”なのかどうかを判別する
ことで,プロモーションの効率化を図りたい
8
第2章 先行研究
2.2 事例:既存顧客の分析
• 平成16年度データ解析コンペティションにて提供いただい
た,クレジットカード利用履歴データ(ショッピング利用)を
使用
• データ期間:2002年1月~2003年12月
– 分析期間:2002年3月(他,比較として6月,12月)
– 検証期間:2003年3月(他,比較として6月,12月)
• 分析サンプル:下記条件を満たす300サンプル抽出
– 分析・検証期間の各月ともにショッピング利用履歴あり
– 分析期間の各月において10回以上ショッピング利用している
9
第2章 先行研究
2.2 事例:既存顧客の分析
• 支払い金額が支払い方法の選択に及ぼす影響をユーザ別に推定
• 推定されたパラメータの解釈
– αi :利子に対する固有の許容度
– βi :支払い金額が支払い方法に関する意思決定に及ぼす影響度
βi
1: 利子つき
0: 利子なし
Choiceit
Zit
×
支払い金額it
αi
:ユーザ別に推定
10
第2章 先行研究
2.2 事例:既存顧客の分析
• ユーザごとに推定されたパラメータをプロットすることにより,以下
のような顧客を抽出し,ターゲットを識別することができる
– (a) 顕在的“低価値”顧客:常に利子付きの支払い方法を嫌う
– (b) 顕在的“高価値”顧客:常に利子付きの支払いを許容
– (c) 潜在的“高価値”顧客:支払い金額次第で利子を許容
アプローチ方法
•
•
•
時期
プロモーション内容
通知方法
11
第2章 先行研究
2.2 事例:新規・未利用顧客の分析
• 影響度βiをユーザの属性情報で階層化
– 限度額比率:キャッシング利用の限度額/総限度額
• ユーザの属性情報から,支払い方法選択への支払い金額の影響
度を推定することが可能
– 新規・未利用顧客についても,早い段階から“高価値”顧客か否かの
目星をつけることが可能に
+
βi
1: 利子つき
0: 利子なし
Choiceit
Zit
×
γ
限度額比率i
支払い金額it
αi
:ユーザ別に推定
12
第2章 先行研究
2.2 事例:おわりに
サマリー
• クレジットカード利用時に利子付の支払い方法を選択する(可能性
のある)顧客を”高価値”顧客と定義し,以下の分析を実施
– 【既存顧客】 支払い選択行動の分析と顧客の類型化
– 【新規・未利用顧客】 支払い金額の影響度と顧客属性の関連付け
今後の課題
• 𝛼𝑖 および𝛽𝑖 の従う分布の仮定を緩和
• 購入した商品やクレジットカードを利用した店舗(環境)の違いと
いった要因を投入し,モデルの精緻化を図る
• 収益のみの”高価値”顧客評価に,顧客の破綻リスクを組み込むこ
とで,真に高価値な顧客の判別
13
第3章 訪問回数モデル
山口 (2014),“頻度の時間変化を考慮した階層ベイズモデルによるウェブサイト訪問行動の分析”,
マーケティング・サイエンス,22(1),13-29
14
第3章 訪問回数モデル
3.1 はじめに
• インターネット広告費が増加の一途をたどっている昨今,インターネット広
告媒体主の一つであるeコマースサイトにとって,広告収入はひとつの良
い収入源である
• eコマースサイトに広告出稿してもらう際,このウェブサイトの広告価値が
高いほど広告収入も増加する
• ウェブサイトの広告価値の評価基準の一つは,閲覧されたページ数(以
下PV数)の多寡である
• PV数=「訪問頻度」×「訪問一回あたりのPV数」として考えると,ビジター
の訪問頻度を管理することが,ウェブサイトの広告価値管理にむけた最
初の課題
• 時間とともに変化するウェブサイト訪問頻度を説明するモデルの構築が
本研究の目的
15
第3章 訪問回数モデル
3.2 既存研究の整理と本研究の位置付け
• オフライン:購買間隔
– 日用消費財の購買間隔にセールスプロモーションが与える影響のモ
デル化 (Gupta, 1988)
– 指数分布やErlang-2分布など複数の分布を仮定した比例ハザードモ
デルの比較 (Jain and Vilcassim, 1991)
– 複数のベースラインハザード関数を設定したモデルと,線形回帰やロ
ジット・プロビットモデルとの比較 (Helsen and Schmittlein, 1993)
→ 購買間隔について“Memoryless”な仮定の否定
• オンライン:購買間隔+訪問間隔・ページ閲覧
– ウェブサイトへの訪問間隔 (Moe and Fader, 2004)
– 複数のウェブサイト間でのページ閲覧行動のモデル化 (Park and
Fader, 2004)
→ 訪問間隔に”Memoryless”な行動を仮定
+ 異質性の考慮
+ 訪問間隔に影響を与える時間要因の明示化
16
第3章 訪問回数モデル
3.3 分析モデル
• パラメトリックなハザードモデルを適用
• 「一時的」「経時」効果を示す説明変数の影響を検証
経時効果
T=1
0
T=3
1
T=4
0
T=5
0
T=6
1
T=7
0
T=8
0
T=9
0
T = 10
1
T = 11
0
1 = Visit / 0 = otherwise
History
Past
behavior
T=2
一時的効果
ACTIONS at Tj-1
INTERVAL: Tj – Tj-1
𝑓 𝑇𝑗 − 𝑇𝑗−1 𝜆 = 𝜆exp{−𝜆 𝑇𝑗 − 𝑇𝑗−1 }
17
第3章 訪問回数モデル
3.3 分析モデル
経時効果
前回PV数
トレンド
前回と前々回の訪問間隔
データ開始時点からのトレンド
(線形)
前回PV数
前回購入数
前回訪問時に閲覧したPV数
前回訪問時に購入した商品数
History
Past
behavior
一時的効果
ACTIONS at Tj-1
INTERVAL: Tj – Tj-1
𝑓 𝑇𝑗 − 𝑇𝑗−1 𝜆 = 𝜆exp{−𝜆 𝑇𝑗 − 𝑇𝑗−1 }
𝜆𝑖𝑗 = exp{𝛼0𝑖 + 一時𝑖𝑗 𝛃′𝑖 + 経時𝑖𝑗 𝛄′𝑖 }
1 = Visit / 0 = otherwise
:ユーザ別に推定
18
第3章 訪問回数モデル
3.4 データ
• 平成23年度データ解析コンペティションにて提供いただいた,ある
eコマースサイトのアクセスログおよび購買履歴データ
• データ期間:
– 分析期間:2010年7月1日~2011年6月20日
– 検証期間:2011年6月21日~2011年6月30日
• 分析サンプル:下記条件を満たす500サンプルを抽出
– 分析期間および検証期間ともに,このウェブサイトを訪問している
– 訪問日数が分析期間において10日以上
• 目的変数:訪問間隔(単位:日)
19
第3章 訪問回数モデル
3.5 分析結果 – 異質性を考慮しない事前分析
ビジター間の異質性を考慮しない比例ハザードモデルの推定結果は
以下の通り
• Positive 前回PV数:
– (t-1)回目の訪問でより多くのページを閲覧しているビジターは, より短
い間隔で再訪する
• Negative 前回購入数:
– (t-1)回目の訪問で何かを購入したビジターは, 再訪までに少し時間が
かかる
»
• Negative 前回訪問間隔:
– 前回訪問間隔が長くなればなるほど, ビジターは再訪しにくくなる
• Negative トレンド:
– 時間が経つにつれて, ビジターは再訪しにくくなる
20
第3章 訪問回数モデル
3.5 分析結果 – 分析期間
• 分析期間においては,提案モデルの当てはまりが最も良い
• 推定された係数の符号も,異質性を考慮しない事前分析のものと一致
提案モデル
共変量
ベースモデル
平均
標準偏差
※切片のみ
共変量
平均
切片
前回PV数
前回購入数
前回訪問間隔
トレンド
-1.6629
0.9484
切片
-2.1512
0.0068
0.0842
周辺尤度
-176,094
-0.0641
0.2785
DIC
348,014
-0.0106
0.0873
-0.0040
0.0764
対数周辺尤度
DIC
-171,883
340,861
経時効果非考慮モデル
共変量
標準偏差
0.8359
※一時的効果のみ
平均
標準偏差
切片
-2.2200
0.8597
前回PV数
0.0084
0.0747
前回購入数
-0.0830
0.2934
周辺尤度
-175,386
DIC
350,939
21
第3章 訪問回数モデル
3.5 分析結果 – 検証期間
• 単純正答率( )については,提案モデルと経時効果非考慮モデルは同率
• One-to-Oneマーケティング上重要な「実訪問者数/予測された訪問者数」と
いう指標では( ),経時効果非考慮モデル>提案モデル
ナイーブモデル
ベースモデル
予測
訪問
計
非訪問
非訪問 557 ( 40.2 ) 163 ( 11.8 )
720
( 51.9 )
訪問
289 ( 20.9 ) 377 ( 27.2 )
666
( 48.1 )
計
846 ( 61.0 ) 540 ( 39.0 ) 1,386 ( 100.0 )
経時効果非考慮モデル
実データ
実データ
非訪問
予測
720
( 51.9 )
訪問
276 ( 19.9 ) 390 ( 28.1 )
666
( 48.1 )
計
821 ( 59.2 ) 565 ( 40.8 ) 1,386 ( 100.0 )
提案モデル
予測
訪問
非訪問 617 ( 44.5 ) 103
計
非訪問
( 7.4 )
720
( 51.9 )
訪問
331 ( 23.9 ) 335 ( 24.2 )
666
( 48.1 )
計
948 ( 68.4 ) 438 ( 31.6 ) 1,386 ( 100.0 )
実データ
実データ
計
非訪問 545 ( 39.3 ) 175 ( 12.6 )
予測
非訪問
訪問
訪問
計
非訪問 572 ( 41.3 ) 148 ( 10.7 )
720
( 51.9 )
訪問
286 ( 20.6 ) 380 ( 27.4 )
666
( 48.1 )
計
858 ( 61.9 ) 528 ( 38.1 ) 1,386 ( 100.0 )
( )内は分析サンプルにおける割合
22
第3章 訪問回数モデル
3.6 マネジリアル・インプリケーション
低頻度
切片項
高頻度
Valuable
プロモーションの再検討
頻度低下
トレンド
頻度上昇
23
第3章 訪問回数モデル
3.6 マネジリアル・インプリケーション
低頻度
切片項
高頻度
Valuable
非定期的
前回訪問間隔
定期的
24
第3章 訪問回数モデル
3.7 結論と今後の課題
サマリー
• ビジターの訪問間隔に影響を与える4つの要因(一時的要因
×2,経時要因×2)を確認
• ビジター間の異質性をモデルに組み込むことで,訪問間隔を推
定するモデルの精度を改善できただけでなく,個別のビジター
の特性も把握
• 現時点において”Valuable”なビジター,そして刺激を与えること
により将来”Valuable”になる可能性のあるビジターを, 元来の
訪問頻度傾向×経時要因の組み合わせから抽出・可視化
25
第3章 訪問回数モデル
3.7 結論と今後の課題
今後の課題
• モデル制約の緩和
– Exponential distributionを仮定することで発生する”memoryless”
制約の緩和
– Integrated hazard rateの導入による季節性の組み込み
Λ(t)
• 訪問間隔に影響を与える要因と顧客情報や顧客の嗜好との関
連性を調べ, その関連性をモデル内で階層化
26
第4章 購入量モデル
山口 (forthcoming),“消費者の心理状態の変化を考慮した動的モデルによる購買量分析”,
マーケティング・サイエンス,forthcoming
27
第4章 購入量モデル
4.1 はじめに
• 消費者の心理状態と購買行動の関係性
– Milliman (1982):
店舗内BGMと消費者の店舗内行動および売上の関係
– Sherman and Smith (1987):
消費者の気分,店舗イメージ・属性,およびそれらの相互作用が購買
行動に及ぼす影響
– Murray et al. (2008):
気温,湿度などの天候条件が,消費者の気分を仲介する形で購買行
動に与える影響
• これらの先行研究の多くは,ある時点における消費者間比較に
よって行われている
• 消費者の行動を時系列で把握すれば,同様の心理状態と消費行
動の関係性が個人内でも観測できないだろうか?
28
第4章 購入量モデル
4.2 先行研究
• Eコマースサイトでの閲覧ページによって変化するページ間遷移行
動と購買行動 (Montgomery et al., 2004)
• 同窓会イベントにかかわることによって変化する,母校への寄付
行為 (Netzer et al., 2008)
• 消費者のカテゴリ需要によって変化する,ヨーグルトとその代替カ
テゴリ間の循環購買(Cyclical buying)とブランド選択 (Park and
Gupta, 2011)
先行研究と提案モデルの比較
先行研究
潜在変数数
マルコフ性
分析行動
主分析モデル
Montgomery et al. (2004)
検証
0次 vs. 1次
選択
Netzer et al. (2008)
検証
1次(所与)
Park and Gupta (2011)
所与
本研究(提案モデル)
検証
主分析モデル
遷移確率行列
共変量
異質性
共変量
異質性
多項プロビット
あり
考慮
なし
考慮
選択
二項ロジット
あり
非考慮
あり
考慮1
1次(所与)
選択
多項ロジット
あり
考慮
あり
非考慮
0次 vs. 1次
数量
ポワソン回帰
あり
非考慮
あり
考慮1
1 : 定数項のみ
29
第4章 購入量モデル
4.3 モデル
• 以下の二つの要因を組み込んだ,購入量意思決定モデルの構
築(隠れマルコフモデル)
1.
時点tにおける購入を後押しする要因:ポワソン回帰
2.
時点tに至るまでの心理的背景の変動:遷移確率行列の拡張
心理状態
C(t) = NS
Pr(Qt|C(t)=NS)
𝑁
購買機会tにおける
マーケティングアクション
心理状態
C(t) = s
又は
𝑖1
心理状態
C(t) = 1
1
購買機会tにおける
要因Xt
・・・
購買機会tに至るまでの
消費者iの行動
𝛽𝑁
・・・
𝑖𝑁 −1
購買機会tにおける
消費者iの購入量Qt
𝛽1
Pr(Qt|S t=1)
:ユーザ別に推定
30
第4章 購入量モデル
4.4 本研究に適用するデータ
• 平成24年度データ解析コンペティションにて提供いただいた,ある
クーポン共同購入サイトのアクセスログおよび購買履歴データ
• データ期間
– 分析用: 2011年7月1日~2012年5月31日
– 検証用: 2012年6月1日~2012年6月30日
• 分析クーポンジャンル:グルメ
• 分析サンプル:下記条件を満たす500サンプルを抽出
– データ期間中に1回以上クーポンを購入したことがあるユーザ
– データ期間中のセッション数が50セッション以上のユーザ
• 目的変数:1セッションあたりのクーポン購入種類数
31
第4章 購入量モデル
4.4 本研究に適用するデータ – 投入する共変量
心理状態
C(t) = NS
Pr(Qt|C(t)=NS)
クーポン種類数
𝑁
購買機会tにおける
マーケティングアクション
心理状態
C(t) = s
又は
𝑖1
購買機会tにおける
要因Xt
・・・
購買機会tに至るまでの
消費者iの行動
𝛽𝑁
・・・
𝑖𝑁 −1
心理状態
C(t) = 1
t回目のセッション内で閲
覧したクーポンの種類数
購買機会tにおける
消費者iの購入量Qt
𝛽1
Pr(Qt|S t=1)
1
平均残存販売日数
t回目のセッション内で閲覧したクー
ポンの平均残り販売日数(MRDit)
の逆数を二乗したもの
c.f. Inman and McAlister (1994)
クーポンサーフィン率
総購入クーポン種類数
t回目のセッションにおける閲覧クー
ポン種類数を,のべ閲覧クーポン
数で除したもの
分析期間を通じての総クーポン購
入種類数(全ジャンルが対象)
32
第4章 購入量モデル
4.5 分析結果 – 基本モデル
• 提案モデルである隠れマルコフモデルと,対照モデルである混合
分布モデルのあてはまりを比較
– 隠れマルコフモデル:心理状態の時点間依存を仮定
– 混合分布モデル:時点tにおいてどの心理状態であるかは独立
• ユーザがt時点にどの心理状態で意思決定をするかはランダムに
は決定しない
Mixture model
Hidden Markov model
# segment
λ
Segment size (%)
DIC
Log BF
λ
DIC
Log BF
1
0.073
100.0
26039.987
---
---
---
---
# segment
λ
Segment size (%)
-2*ML
Log BF
λ
-2*ML
Log BF
2
0.065
96.0
26,022.30
10.89
0.011
25,005.59
577.43
0.471
4.0
# segment
λ
Segment size (%)
-2*ML
Log BF
λ
-2*ML
Log BF
3
0.061
37.2
26,024.08
-0.45
0.012
25,020.25
-14.13
0.062
53.7
0.016
0.448
9.1
0.198
0.150
33
第4章 購入量モデル
4.5 分析結果 – 提案モデル
• 本研究の提案モデルの当てはまりが最も良い
– 心理状態の仮定やその時点間依存だけではなく,その特徴を説明す
る要因をモデルに組み込むことが重要
• 今回の分析データにおいては,心理状態間の時間依存および遷
移確率行列への共変量の組み込みが,ユーザの行動をより良く
説明する主要素であるといえる
基本モデル: 説明変数を使用しないモデル
比較モデル1: ポワソン回帰部分にのみ説明変数を投入
比較モデル2: 遷移確率行列にのみ説明変数を投入
基本モデル
比較モデル1
比較モデル2
提案モデル
-2*対数周辺尤度
24,884.14
24,506.22
14,867.96
14,698.04
DIC
25,005.59
24,620.98
15,029.31
14,849.30
対数尤度 (Holdout)
-1,188.38
-1,163.79
-785.65
-781.44
34
第4章 購入量モデル
4.5 分析結果 – 提案モデル
• ポワソン回帰
– 購入枚数期待値 心理状態1:0枚/心理状態2:0.5枚
 心理状態1: 低購入意欲/心理状態2: 高購入意欲
• 遷移確率行列
– 平均残存販売日数が少ない,総購入クーポン種類数が多い
 高購入意欲状態に変化
– クーポンサーフィン率が高い  低購入意欲状態に留まる傾向
心理状態1
心理状態1→心理状態1
ポワソン回帰
遷移確率行列
心理状態2
心理状態2→心理状態1
切片
-6.462
( 0.149 ) *
-0.729
( 0.022 ) *
クーポン種類数
0.397
( 0.046 ) *
0.163
( 0.014 ) *
平均残存販売日数
-0.352
( 0.078 ) *
-0.123
クーポンサーフィン率
4.411
( 0.201 ) *
3.828
( 0.354 ) *
総購入クーポン種類数
-0.985
( 0.162 ) *
-0.617
( 0.169 ) *
閾値(固定効果)
5.772
( 0.257 ) *
3.692
( 0.353 ) *
変量効果
6.746
( 0.97 ) *
1.144
( 0.816 ) *
( 0.133 )
* : 95%信用区間に0を含まない
( ) : 事後標準偏差
35
第4章 購入量モデル
4.6 マネジリアル・インプリケーション
できるだけ多くの種類のクーポンを買ってもらうためには?
• ユーザ別に推定した,遷移確率行列内の閾値(=心理状態の変化のし
やすさ)をプロットし,意欲の変化が起こりやすいユーザを抽出
• 下記プロットの太線枠内に含まれるユーザが,ターゲットにすべき意欲の
変化の起こりやすいユーザと考えられる
• これら意欲の変化が起こりやすいユーザの,意欲の時間変化を見てみる
36
第4章 購入量モデル
4.6 マネジリアル・インプリケーション
• あるセッションにおいてユーザがどちらの心理状態である(あった)
か,その確率を求める
• 将来のある時点で,ユーザがどちらの心理状態になるかという確
率が予測できれば,マーケティング施策の効率化も可能
– 但し,そのためにはモデルに企業がコントロール可能な変数を導入
する必要あり
購入枚数(予測)
所属確率 (購入意欲:高)
予測所属確率 (購入意欲:高)
購入枚数
4.5
4
1.4
3.5
1.2
3
1
2.5
0.8
2
0.6
1.5
1
0.4
0.5
0.2
0
0
1
3
5
7
9
11
13
15
17
19
21
23
25
27
29
31
33
35
37
39
41
43
45
47
49
51
53
セッション
37
所属確率
購入枚数
第4章 購入量モデル
4.7 結論と今後の課題
サマリー
• 消費者の心理状態の時間的異質性を組み込んだ購入量に関する
意思決定モデルを提案し,その有用性を確認
– 二段階の「購入意欲」なる心理状態と心理状態間の依存を確認
今後の課題
• ユーザの心理状態に影響を与えるECサイトの環境要因やマーケ
ティング施策をモデルに組み込む
• クロスチャネル,クロスカテゴリーでの提案モデルの検証
• 分析モデルの拡張
– セッション内で生じるユーザの心理状態の変化を考慮
– 消費者間異質性をより詳細に把握
– 消費者行動研究の分野で蓄積された学習や態度変容などの心理状
態の変化に関する知見を組み込む
38
第5章 ⊿購入モデル
39
第5章 ⊿購入モデル
5.1 はじめに
• 国内のBtoC-EC市場規模は9兆5130億円(2012年度),前年比12.5%増と
伸長し,今後もEC化率は進むと予想される
• 日本におけるここ数年の国内外EC利用率は,インターネット利用経験者
のうち90%を超えた高い水準で推移
• EC化率が高い業界においては,新規顧客の獲得や既存顧客の囲い込み
のみならず,顧客のロイヤル化を促し,顧客単価の向上を目指す必要が
ある
出典:平成24年度我が国情報経済社会における基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書
40
第5章 ⊿購入モデル
5.1 はじめに
衝動買い
認知的不協和
不満足
(Montgomery and Barnes, 1993)
高額商品の購入
購入商品の返品
(Powers and Jack, 2013)
ネガティブな口コミ
(Hunt, 1991)
41
第5章 ⊿購入モデル
5.1 はじめに
認知的不協和
•
認知的不協和が発生した場合,人はその状態の解消
に努める(Festinger, 1957)
•
解消方法の一つは,「自身の意思決定が正しかったの
だ」と考えられる情報の探索(Rosenfeld et al, 1967)で
ある
•
小売側から積極的な説得材料の提供ができれば・・・
ショッピング行動と認知的不協和の発生の関連性がわかれば,事前の対策が可能
認知的不協和理論の先行研究をもとに,ショッピング行動との関連性をモデル化
42
第5章 ⊿購入モデル
5.2 先行研究
• 認知的不協和とは
– Festingerが1957年に提唱した理論
– 意思決定の場面において,自身の中に矛盾する認知,感情,経験な
どを抱える状態に陥った場合,人は不快感を抱く
– 時としてその不快感は辛く耐え難いものであり,不快感が大きければ
大きいほど人はその不快感を払拭する行動に駆り立てられる
• 消費者行動と認知的不協和
– 商品の購入やブランド選択など,数多くの意思決定が発生
– 意思決定をするということは,選ばない選択肢を決めることであり,消
費者は選ばない選択肢の持つ魅力を諦めるという事態に耐える必要
が出てくる
43
第5章 ⊿購入モデル
5.2 先行研究
• 認知的不協和の発生とその後の消費者行動の関係
– 認知的不協和と商品の満足/不満足度
– 情報探索行動
– その後の消費者の態度変容
To the businessman, the knowledge of the psychological factors which lead to the
purchase decision is more important (Oshikawa, 1970)
• 認知的不協和状態の先行要因/認知的不協和の程度の
測定
–
–
–
–
選択の難しさ
意思決定の正しさに関するや不安
商品に関する知識や商品の必要性
上述の先行要因を用いた認知的不協和の測定方法の提案
44
第5章 ⊿購入モデル
5.2 先行研究 – 本研究の位置付け
新規性
• ユーザの実際のショッピング行動データをもとに分析
– 従来の研究は実験データやサーベイデータを用いた分析がほとんど
– Cummings and Venkatesan (1976)の条件を最も自然な形で満たした
実証研究例
• Festinger (1957)はじめ先行研究が指摘する,人や購買機会によっ
て認知的不協和の程度が異なるという理論を分析フレームに組み
込み,その理論を検証
実務への貢献
• 消費者の認知や感情といった先行要因を,消費者のショッピング
行動や商品特性へと翻訳を行うことで,より売り手側に判断しやす
い指標を提供
45
第5章 ⊿購入モデル
5.3 分析 – 分析モデル
ベースモデル
• 二項プロビットモデル
– 目的変数:商品購入後に認知的不協和が起こった(可能性が高い)か否か
– 説明変数:商品購入意思決定に関するショッピング行動や商品属性
個別モデル
• 消費者間の異質性を考慮
– 認知的不協和の程度は個々人によって異なる上に,全ての購買で発生する
ものではない(e.g. Bell, 1967; Kaish, 1967; Sweeney et al, 2000)
階層モデル
• ショッピング行動や商品属性を介して関連があると思われるECサイト利
用行動を階層的に組み込み,認知的不協和の発生との関連性を検証
46
第5章 ⊿購入モデル
5.3 分析 – 分析で取り扱うデータ
• 経営科学系研究部会連合協議会主催の平成25年度データ解析コンペ
ティションにて提供いただいた,あるアパレルECサイトのアクセスログ
データおよび購入履歴データを使用
• 何故このデータが本分析に適しているのか
– アパレル商品は,消費者のECサイトでの購入経験率が最も高い商品の一つ
– アパレル商品は「衝動買い」が起きやすい傾向があるという先行研究が存在
– 同じ商品カテゴリー(例:Tシャツ)に分類される商品でも,素材や色,ブランド
などの違いによって選択肢が多く,価格にも幅があり,時として商品選択に
困難が伴う。結果,認知的不協和が発生しやすい商品カテゴリーである
このアパレルECサイトを取り巻く状況は,
本研究で想定するビジネス環境および問題意識と合致
47
第5章 ⊿購入モデル
5.3 分析 – 分析で取り扱うデータ
• データ期間:2011年9月~2013年4月(20か月)
• サンプルのスクリーニング:下記条件を満たす255サンプルが分析対象
1.
上記データ期間において商品を購入したセッションが10回以上存在する,
会員年数10年未満のアクティブユーザ(全ユーザの上位10%に相当)
2.
認知的不協和の発生した可能性の高い商品購買と,そうでない購買,両
種類の購買行動を経験しているユーザ
• 最初の90%のデータを分析用,最後の10%を検証用データとして使用
サンプルユーザ属性
性別
年齢
会員登録年数
男性
112
20代以下
55
2年未満
71
女性
143
30代
136
2年以上 3年未満
59
40代
53
3年以上 4年未満
46
50代以上
11
4年以上 5年未満
24
5年以上
55
48
第5章 ⊿購入モデル
5.3 分析 – 分析で取り扱うデータ:目的変数
•
認知的不協和は,意思決定直後に認識されるものであり,購入した商品やサービス
がもたらすであろう未知の結末への懸念
•
過去の先行研究に習い,「商品購入直後から実際に商品を入手または利用する前段
階」を認知的不協和が発生した可能性が高いか否かの識別に利用
•
ある商品のオーダー後,同一セッション内にて再びこの商品のページ閲覧があった場
合,この商品を「認知的不協和の起こった可能性のある商品」と見なす
顧客ID
00001
00001
00001
00001
00001
端末ID PCMO
D00001
1
D00001
1
D00001
1
D00001
1
D00001
1
00001 D00001
00001 D00001
1
1
商品ID
P3018
P5342
P1132
P3018
P1039
P5342
P3018
P1132
P3018
閲覧日 閲覧時間
2013/3/8 21:35:18
2013/3/8 21:36:44
2013/3/8 21:37:28
2013/3/8 21:38:19
2013/3/8 21:38:26
受注日
Non-Cognitive Dissonance
2013/3/8
2013/3/8
2013/3/8
2013/3/8
セッション終了
受注時間 受注ID 商品詳細ID 予約FLG セールFLG 商品単価 数量
21:39:53
21:39:53
O10001
O10001
PD10012
PD30015
0
0
0
1
1,500
2,700
21:40:19
21:41:19
Cognitive Dissonance
49
1
1
第5章 ⊿購入モデル
5.3 分析 – 分析で取り扱うデータ:目的変数
•
認知的不協和は,意思決定直後に認識されるものであり,購入した商品やサービス
がもたらすであろう未知の結末への懸念
•
過去の先行研究に習い,「商品購入直後から実際に商品を入手または利用する前段
階」を認知的不協和が発生した可能性が高いか否かの識別に利用
•
ある商品のオーダー後,同一セッション内にて再びこの商品のページ閲覧があった場
合,この商品を「認知的不協和の起こった可能性のある商品」と見なす
目的変数の基本集計
推定用
(%)
認知的不協和を伴わない
5,174
( 78.8 )
514
( 78.7 )
認知的不協和を伴う
1,391
( 21.2 )
139
( 21.3 )
購買の種類
検証用
(%)
50
第5章 ⊿購入モデル
5.3 分析 – 分析で取り扱うデータ:説明変数
商品購入意思決定に関するショッピング行動/商品属性
• 商品購入時に近い時間帯で起こる一時的なユーザ行動
• 購入時点における商品のもつ属性
説明変数の定義と推定されるパラメータの符号の仮説
符号
変数の定義
セール品
+
購入した商品がセール品か否か
相対価格
+
商品の属するカテゴリ平均価格を基準とした相対価格
トレンドカラー
+
購入した商品の色が「トレンドカラー」か否か
購入前商品閲覧時間
+
商品を購入したセッション内において,商品購入前にそ
の商品を閲覧した時間
購入前商品閲覧セッション数
+
商品購入前に,その商品を閲覧したセッション数
取扱いブランド数
+
商品を購入した店舗で取り扱うブランド数
モバイル
+/-
モバイル端末を使って商品を購入したか否か
51
第5章 ⊿購入モデル
5.3 分析 – 分析で取り扱うデータ:説明変数
商品購入に限定されない日頃のECサイト利用行動
• 習慣的なユーザ行動
• 変化を伴うこともあるが,その変化はゆっくり起こる
変数の定義
変数の定義
ECサイト会員日数
セール期訪問率
ECサイト会員になってから経過した日数
ECサイトへの全訪問中,セール時期に訪問した割合
新商品発売時期訪問率
ECサイトへの全訪問中,新商品発売時期に訪問した割合
カラーバリエーション率
購入履歴における商品の色のばらつき度合
ECサイト訪問間隔
平均訪問間隔日数
52
第5章 ⊿購入モデル
5.4 分析結果 – ベースモデルと仮説の検証
• 認知的不協和の発生との関連性については,概ね仮説の通り
• 取扱いブランド数は有意とはならなかったが,推定値の符号は仮説通り
認知的不協和
定数項
-0.834
セール品
0.090
相対価格
0.104
トレンドカラー
0.269
購入前閲覧時間
0.302
が発生した可能性の高い購買
+
-
※凡例
購入前商品閲覧セッション数
変数名
推定値
モバイル
0.271
-0.198
53
第5章 ⊿購入モデル
5.4 分析結果 – 三つのモデルの適合度比較
• 認知的不協和の発生や程度,そして認知的不協和の発生とショッピング
行動との関連性には個人差がある
• 階層的に組み込まれた習慣的な行動は,モデルの精度を大きく損ねるこ
となくこの個人差を説明できている
分析用データ
-2*対数周辺尤度
DIC
Bayes Factor
U2統計量
ベースモデル
6,163.35
6,170.00
個別モデル
4,555.56
4,697.49
803.89
0.499
階層モデル
4,545.69
4,719.10
4.94
0.500
-
0.323
検証用データ
-2*対数尤度
U2統計量
ベースモデル
613.52
0.322
個別モデル
596.72
0.341
階層モデル
603.55
0.333
54
第5章 ⊿購入モデル
5.4 分析結果 – 個別モデル
• ユーザ別パラメータの平均値の符号はベースモデルと同じ
• ばらつき具合は変数によって異なり,認知的不協和発生との関連性の一
般化可能性も示唆される変数も存在
認知的不協和
定数項
-0.999
(0.771)
セール品
0.011
(0.765)
相対価格
0.190
(0.489)
トレンドカラー
0.046
(1.086)
購入前閲覧時間
0.450
(0.510)
が発生した可能性の高い購買
+
-
※凡例
購入前商品閲覧セッション数
変数名
平均
(標準偏差)
モバイル
0.166
(0.491)
-0.301
(0.796)
55
第5章 ⊿購入モデル
5.4 分析結果 – 階層モデル
定数項
セール期訪問率
カラーバリエーション率
ECサイト訪問間隔
セール品
ECサイト会員日数
認知的不協和
が発生した可能性の高い購買
新商品発売時期訪問率
相対価格
+
トレンドカラー
新商品発売時期訪問率
購入前閲覧時間
-
XXX
認知的不協和の発生と間接的に
正の関係性(95%有意)
認知的不協和の発生と間接的に
正の関係性(90%有意)
XXX
認知的不協和の発生と間接的に
負の関係性(95%有意)
XXX
認知的不協和の発生と間接的に
負の関係性(90%有意)
XXX
購入前商品閲覧セッション数
ECサイト会員日数
モバイル
56
第5章 ⊿購入モデル
5.5 マネジリアル・インプリケーション
ショッピング中
• 商品購入に必要かつ適切な情報をユーザに提供
 適切な期待の形成と自身の意思決定に対する自信
ショッピング中 ~オーダー
• 認知的不協和が発生する確率を下げつつ顧客単価を上
げる効率的なレコメンデーション
オーダー直後
• ユーザの意思決定を肯定するメッセージの提示
 自らの意思決定の「正しさ」を納得させる「言い訳」
57
第5章 ⊿購入モデル
5.6 結論と今後の課題
サマリー
• 認知的不協和理論の枠組みを利用し,認知的不協和の発生と顧客の
ショッピング行動の関連性を数理モデル化
• ECサイトにおけるユーザの実際のショッピング行動データを用いて分析を
実施
 先行研究で得られた知見と同様の結果が得られ,一定程度の妥当性を確認
• 人や購買機会によって認知的不協和の程度が異なるという,先行研究で
指摘されていたが実証されてこなかった理論を分析モデルに取り込む
 ユーザ行動のモデル化における当該理論の有用性を実証
• 認知や感情など売り手側にとって観察が難しい要因を,ショッピング行動
に置き換えることにより,実務の現場でより応用がしやすい分析フレーム
の提案
 +その結果に基づくマネジリアル・インプリケーションを提示
58
第5章 ⊿購入モデル
5.6 結論と今後の課題
今後の課題
• 被説明変数の改善
– 本研究ではあくまで認知的不協和の発生した「可能性のある」
購買が対象
– 識別条件の工夫:他の情報源へのアクセス,識別期間
– アンケート調査との併用などにより,行動データからの識別定
義の改善を目指す必要
• 商品ページ以外の閲覧情報の考慮
– 商品の写真,口コミといった商品ページの詳細内容や,返品方
法に関するページなど商品ページ以外の閲覧行動のデータ
– いつ/誰に/どのようにアプローチすることで,将来の不利益
を最小限に留められるか,というよりダイナミックな分析フレー
ムの構築
59
第6章 おわりに
60
第6章 おわりに
6.1 本博士論文の総括
• ある一人の顧客のもたらす売上を構成する三つの要素(訪問回
数,購入量,⊿購入)について,消費者行動の異質性とダイナミク
スを考慮した分析モデルを提案
• 異質性とダイナミクスの両方を考慮したモデルの有用性を実際の
ビジネスデータへの適用を通じて示した
顧客iの売上を改善するために
1.
顧客iが店舗を訪問してくれるか否か
将来のある時期𝑡にどの程度の顧客が来店してくれそうかを予測
2.
予測された訪問時のプロモーション計画の策定
ある時期𝑡に実施を計画しているプロモーションが商品の購入量に
どのような影響を与えるかを予測
3.
⊿購入に伴うネガティブなフィードバックへの対策
61
第6章 おわりに
6.2 本博士論文の課題と今後の展望
売上を構成する三要素の関連性
• 訪問回数(間隔)と購入量
– 双方向に何らかの関係があると予想されるが,本研究では購入量が
訪問回数(間隔)に与える影響のみ把握できた
– 購入量に対して訪問回数(間隔)が与える影響の把握が今後の課題
の一つ
• 訪問回数(間隔)と⊿購入
– ユーザのECサイト平均訪問間隔は,認知的不協和を伴っている可能
性のある⊿購入に間接的に関連がある
– 季節性やforward-looking行動を加味した訪問回数(間隔)や,時間と
ともに変化する店舗やECサイトへの理解や信頼,好意度といった潜
在的要因との関連性を考慮
62
第6章 おわりに
6.2 本博士論文の課題と今後の展望
売上を構成する三要素の関連性(つづき)
• 購入量と⊿購入
– 意思決定時における心理状態は,顧客𝑖の購入量と⊿購入を識別す
る要因の一つ
(購入意欲:高 ≅ 顧客𝑖の購入量,購入意欲:低 ≅顧客𝑖の⊿購入)
– 価格やプロモーション有無などのマーケティング施策が,心理状態の
変化に与える影響の把握
63
第6章 おわりに
6.2 本博士論文の課題と今後の展望
他の商材・チャネルでの応用に向けた検討課題
• 商材の違い
– 非耐久財や一部の半耐久財
• 売上を構成する三つの要因を全て管理していく必要
• 使用期限・消費(味)期限といった非耐久財特有の属性や,買い
だめ買い控えといった購買行動が各要因に及ぼす影響を考慮
– 耐久財
• ⊿購入が売上の大部分  満足度の高い購入経験
• 店舗内での学習プロセスや店舗の雰囲気,店員の対応といった
商品以外のリソースが各要因に及ぼす影響を考慮
64
第6章 おわりに
6.2 本博士論文の課題と今後の展望
他の商材・チャネルでの応用に向けた検討課題
• オフライン & オンライン
– オフラインにおいて,オンラインの店舗と同程度の行動データを取得
するのは困難
– オンライン上の情報接触行動+オフラインの購買行動のデータを分
析,あるいは,オンライン上の行動分析から得た知見をオフラインの
店舗に応用
65