脳梗塞の診断 - 高松赤十字病院

脳梗塞の診断
(当院における脳卒中の診療体制)
✔当院の脳卒中の現状と診療体制
✔脳梗塞の基本3型と
+αの脳梗塞
脳神経外科
✔当院の脳卒中の現状と診療体制
2012年
脳神経外科入院患者の疾患内訳(346人)
その他(13%)
全入院患者:346人
頭部外傷
脳卒中
(14%)
(52%)
脊椎・脊髄
(4%)
脳卒中患者の疾患内訳
181 Pts
慢性硬膜下
その他
血腫(10%)
TIA 4%
脳腫瘍
(7%) 未破裂脳動脈瘤 2%
6%
くも膜下出血 5%
脳梗塞:脳出血:くも膜下出血
= 7:2:1
脳出血
21%
39 Pts
脳梗塞
62%
112 Pts
脳卒中診療体制
急性期~慢性期(退院);
各部署のスタッフとのチーム医療
検査~診断~治療・看護・全身管理~リハビリ~退院
リハビリ
テーション部
看護部
地域
連携室
脳卒中
患者
脳神経
外科
麻酔科
手術部
薬剤部
検査部
放射線科、内科、耳
鼻科、泌尿器科他
2014年2月 脳卒中センター設立
現在は、未熟でささやかなセンター
今後、発展させる最初の一歩
脳卒中センター
(Stroke Care Unit)
脳卒中センター
•脳卒中に関連する診療科、部署との連携を強化し、
高度なチーム医療を目指す。
•当院において、急性期~亜急性期(入院~退院)の
脳卒中診療の均一化を図る。
脳卒中センターに所属するスタッフ
センター長:
脳神経外科 香川昌弘 (部長)
副センター長: 脳神経外科
井 陽輝 (副部長)
スタッフ:
脳神経外科
香月教寿
神経内科
峯 秀樹
(部長)
循環器科
石原靖大(副部長)、鵜川聡子
腎臓内科
高橋則尋 (部長)
泌尿器科、腎不全外科 山中正人 (部長)
看護部
大須賀 宏美(看護師長)、
林 美紀(看護師長)
リハビリ部
PT;谷本 海渡、OT;瀧川 陽子、
ST;西村 幸代
薬剤部
野村 容子、中條 里咲
医・社・事業部 藤原 正美(係長)、大浦 真奈美
脳卒中センターに所属するスタッフ
センター長:
脳神経外科 香川昌弘 (部長)
当院の総合力を十分に発揮したチーム医療を
副センター長: 脳神経外科
井 陽輝 (副部長)
提供できるスタッフ構成
スタッフ:
脳神経外科
香月教寿
神経内科
峯 秀樹リハビリ
(部長)
看護部 石原靖大(副部長)、鵜川聡子
循環器科
テーション部
腎臓内科
高橋則尋
(部長)
地域
泌尿器科、腎不全外科 山中正人 (部長)
連携室 看護部 脳卒中
大須賀 宏美(看護師長)、
薬剤部
林 美紀(看護師長)
患者
脳神経 リハビリ部
PT;谷本 海渡、OT;瀧川
陽子、
検査部
外科
ST;西村 幸代
麻酔科
薬剤部
野村
容子、中條 里咲
放射線科、内科、
医・社・事業部
藤原
正美(係長)、大浦 真奈美
手術部
眼科、耳鼻科、他
当院の脳卒中診療体制(1)
・救急外来受診患者は、原則、脳神経外科が対応
・入院中患者、他診療科に通院・入院歴のある患者は、
主治医科入院で、脳卒中の治療を当科が副科として
対応することもある
当院の脳卒中診療体制(2)
脳卒中疑い患者 診療フローチャート
救急外来
の看護師
さんと
作成
(脳卒中初期診療の標準化・効率化を目的)
救急隊からの
患者情報の確認事項
診察の内容・確認項目
入院時検査
CT依頼
MRI依頼
院外画像診断システムを
利用して脳外科にCall!
当院の脳卒中診療体制(2)
救急外来
の看護師
さんと
作成
脳卒中疑い患者 診療フローチャート
#脳卒中を疑ったときに、
CT、MRI検査を躊躇しない
(脳卒中初期診療の標準化・効率化を目的)
#気楽に、何も考えずに、一連の対応として脳外科に
救急隊からの
連絡を入れる
患者情報の確認事項
#脳卒中の研修
診察の内容・確認項目
入院時検査
CT依頼
MRI依頼
院外画像診断システムを
利用して脳外科にCall!
オーダー ➱ 放射線 ➱ MRI ➱ 頭部系 ➱
脳梗塞セット、脳出血セットを選択
頭部疾患緊急MRIセット
① 脳梗塞MRIセット:脳梗塞を疑った時のMRIセット
・頭部+頚部MRA
・T2,FLAIR,DWI: axial
② 脳出血MRIセット:くも膜下出血、脳内出血、脳挫傷
解離性脳動脈瘤などを疑った時のMRIセット
・頭部MRA
・T1、T2,FLAIR,DWI: axial
✔脳梗塞の基本3型と
+αの脳梗塞
脳梗塞の基本3型(臨床病型)
ひっかかった
血栓
ラクナ梗塞
穿通枝の脂肪硝子変性などに
よる脳深部の小梗塞
粥状硬化によ
る狭窄・閉塞
はがれた
血栓
壁にできた
血栓
左心房の
血栓
アテローム血栓性脳梗塞
脳主幹動脈のアテローム硬化に
よる狭窄などが原因の脳梗塞
心原性脳塞栓症
心室壁の
血栓
心臓内の血栓による脳血管の
閉塞が原因の脳梗塞
脳梗塞の内訳:高松赤十字病院
脳梗塞(その他)
7.2%
アテローム
心原性
血栓性脳梗塞
脳塞栓症
33.9%
27.0 %
ラクナ梗塞
31.9%
(n=33,953)
脳卒中データバンク
2009, pp22-23
当科における脳梗塞の内訳
(2010.11.1~2011.10.31)
心原性脳塞栓症
21.2 %
アテローム
血栓性脳梗塞
ラクナ梗塞
42.3 %
36.5 %
(n=104)
アテローム血栓性脳梗塞
ラクナ梗塞
心原性脳塞栓症
脳梗塞の内科的急性期治療
アテローム
血栓性脳梗塞
超急性期
急性期
急性期
~
慢性期
ラクナ梗塞
心原性脳塞栓症
発症4.5間以内かつrt-PAの適応あり
rt-PA静脈内投与による
血栓溶解療法
アルガトロバン点滴
1週間
エダラボン点滴
2週間
オザグレナトリウム点滴
2週間
エダラボン点滴
2週間
アスピリン
クロピドグレル
シロスタゾール
アスピリン
クロピドグレル
シロスタゾール
ヘパリン持続点滴
数日~1週間
エダラボン点滴
2週間
ワーファリン
ダビガトラン他
ラクナ梗塞
穿通枝の脂肪硝子変性などによる脳深部の小梗塞
53歳 女性
左下肢の軽度麻痺を主訴に来院
既往歴:高血圧症、高脂血症
アテローム血栓性脳梗塞
脳主幹動脈のアテローム硬化による狭窄が原因の脳梗塞
55歳 男性
視野障害を主訴に来院
既往歴:高血圧症
高脂血症
喫煙
Rt
Lt
心原性脳塞栓症(1)
心臓内の血栓による脳血管の閉塞が原因の脳梗塞
69歳 男性
意識障害(JCS 100)、右片麻痺を
主訴に来院
既往歴:大動脈弁閉鎖不全症
一過性心房細動
心原性脳塞栓症(2)
81歳 男性:
AM8は、著変なし。AM9に家族が声をかけると
返事が無く、救急来院。
来院時は、JCS 3、左完全片麻痺、発語なし。
既往歴:心房細動、心筋梗塞、他。
ワーファリン1.5mg、
プラビックス75mg 1T等内服
発症2時間後のCT
Early CT sign
3日後のCT
発症3時間後のMRI、MRA
心原性脳塞栓症(3)
73歳 男性:
受診の前日から、周囲の認識ができない、
話をしても単語が出てこないことを主訴に、
独歩にて外来受診。
初診時、JCS1、軽度の失語症あり。四肢の
麻痺は明らかでない。
既往歴:発作性心房細動、腎不全(透析中)、
高血圧症。
ワーファリン1.75mg 内服
発症翌日(初診日)のCT
発症翌日(初診日)のMRI、MRA
心原性脳塞栓症の臨床的特徴(1)
✓内頚動脈など太い動脈の閉塞が多い
…脳梗塞の領域が大きい
・発症時、意識障害を伴いやすく、神経学的に重症例が多い
・予後不良例が多い
1次予防が大切
心原性脳塞栓症
アテローム血栓性脳梗塞
各集団別に脳梗塞の病型による5年生存率を比較:久山町研究
1
ラクナ梗塞
0.8
**
0.6
生
存 0.4
率
0.2
00
*P<0.01
12 24 36 48
追跡期間(月)
1
1
0.8
0.8
0.6
生
存 0.4
率
0.2
0.6
生
存 0.4
率
0.2
60
第1集団(1961-1973年)
00
12 24 36 48
追跡期間(月)
60
第2集団(1974-1986年)
00
12 24 36 48
追跡期間(月)
60
第3集団(1988-2000年)
Kubo M, et al: Neurology 66: 1539-1544, 2006より
心原性脳塞栓症の臨床的特徴(2)
・出血合併が多い
✓全脳梗塞における出血性脳梗塞の頻度:
9.1%(2,508/27,509症例)
✓病型別の発生頻度
心原性:24%、アテローム血栓性:8.1%、ラクナ:0.8%
✓病型別の中等度出血~脳内血腫の発生頻度
心原性:8.1%、アテローム血栓性:1.3%、ラクナ:0.06%
出血合併に対する配慮が必要
坂田修治ら: 脳卒中データバンク2009, pp70-71より引用
心原性脳塞栓症の臨床的特徴(3)
病型別t-PA治療後の転帰(退院時評価)
2012年おさか脳外科 林
Dr.
・t-PAによる血栓溶解療法の治療成績が不良
香川県(当院を含む7施設)
全症例
心原性
アテローム
ラクナ
n:273
n:144
n:87
n:23
mRS 0-1(%)
mRS 0-2(%)
mRS 5-6(%)
19.2
31.4
31.0
13.2
22.9
38.9
23.0
40.2
27.6
34.8
43.5
13.0
mRS 6(死亡)(%)
11.4
16.7
8.0
0
5.1
7.3
4.1
0
症候性
頭蓋内出血(%)
mRS:0~6、 0~2;ADLが自立、5;寝たきり、6;死亡
心房細動患者の脳卒中発症リスク評価としての
CHADS2スコア
非弁膜症性心房細動での脳卒中発症リスク
(%/年)
20
脳
卒
中
発
症
率
CHADS2スコア
18
Congestive
16
Hypertension
1点
14
Age≧75
1点
12
DM
1点
Stroke or TIA
2点
10
8
18.2
Heart Failure 1点
12.5
8.5
合計6点
5.9
6
4.0
4
2
0
1.9
0
2.8
1
2
3
4
5
6
CHADS2 スコア
Gage BF, et al: JAMA 285: 2864-2870, 2001より作図
監修:北川一夫先生
+αの脳梗塞
Branch
atheromatous disease: BAD
#最初は、ラクナ梗塞と同様のMRI所見を示し、
神経症状も軽い。
・・・発症時には、ラクナ梗塞と鑑別できない。
#好発部位は、橋、基底核部
#特徴は、発症後数日にわたって、梗塞巣が
拡大し、片麻痺などの神経症状が悪化する。
#点滴などの保存的治療に抵抗性である。
#糖尿病、高脂血症、肥満などのアテローム硬化の
危険因子をもつ患者に多く見られる。
Branch atheromatous disease: BAD
56歳 男性
右片麻痺を主訴に来院
既往歴:なし
入院時所見:右手の軽度麻痺
箸は使用可
入院後経過:2日目に右手の
麻痺が悪化し、箸が使用不可。
2日後
入院時
来院時
2日後
分水嶺梗塞(分水界梗塞):Watershed inf.
・脳の血流低下に伴って、前・中・後大脳動脈などの主要な
動脈系の灌流領域の境界部に生じた脳梗塞
・原因は、心筋梗塞、不整脈、出血などの一時的な
急激な血圧低下(ショック状態)
大脳半球と小脳半球における境界領域
分水嶺梗塞(分水界梗塞):Watershed inf.
69歳 男性
大腸憩室からの出血後、
意識障害で発症
既往歴:糖尿病
高脂血症
頭部MRI(来院約1時間後)
拡散強調
画像(DWI)
脳梗塞の診断
(原因)は?
アテローム?
心原性?
分水嶺?
左前頭葉皮質に脳梗塞を認める(
)
上記以外に、両側前頭葉、頭頂葉の皮質に多発性小梗塞を認める(
)
血液検査所見
【止血・凝固】
【腫瘍マーカー】
PT
80
%
PT-INR
1.10
APTT
28.7
秒
D-dimer
17.0
μg/ml
FDP
30.0
μg/ml
CEA
221.5
ng/ml
CA19-9
50463
U/ml
トルーソー(Trousseau)症候群
傍腫瘍症候群の1つで、悪性腫瘍に
伴う血液凝固の亢進により脳卒中を
生じる病態である。
症例
患者
主訴
基礎疾患
現病歴
70代 女性
一過性の左片麻痺
大腸癌;多発肝転移 StageⅣb
大腸癌の化学療法目的に当院消化器内科に
入院。入院直前に一時的に歩行困難感あり
(Day0)。頭部CTを施行したが異常所見認めず、
症状が軽快していたため経過観察となっていた。
Day9のポート留置前日の入浴後に、再度、
一過性の左上下肢麻痺、服を着る順番を間違う
(着衣失行)などの症状を認め、 Day11に
TIA疑いにて当科紹介。
神経学的所見(Day11)
意識清明、失見当識なし
HG rt:12.8kg lt:12.0kg
瞳孔不同なし、対光反射(+)、
構音障害(-)、失語症(-)
顔面麻痺(-)
四肢麻痺なし、両側上肢バレーサイン(-)
ECG:Af(-)
血液検査所見
【止血・凝固】
PT
105
PT-INR 1.05
%
APTT
31.4
D-dimer 27.8
FDP
42.6
秒
μg/ml
μg/ml
【腫瘍マーカー】
CEA
4195
CA19-9 459.4
ng/ml
U/ml
CA125
U/ml
1296
頭部MRI(Day 11)
拡散強調画像
右前頭葉、および、頭頂葉、左後頭葉の皮質、皮質下に
多発性の小梗塞を認める( )
結語・雑感(1)
#一過性脳虚血発作、脳卒中を疑えば、まず、頭部
CT。CTで異常がなくても、MRIを追加。
特に、症状が片麻痺(稀に単下肢麻痺)、失語、
構音障害の時は、CT、MRIを躊躇しない。
#脳卒中疑い患者 診療フローチャートを参照、利用。
#専門外のため、画像診断できない、または、自信が
ない。 ⇒放射線科、脳外科にコンサルト
時間外、休日は、院外画像診断システムを利用!
結語・雑感(2)
#心原性脳塞栓症は、発症予防が最も大切
#FDP、DDを意識して検査する。
これから、癌や感染症が見つかる可能性もある。
#脳卒中を疑う・診断には、発症様式、(神経)症状の
内容、発症前の状況、経過、既往歴をしっかり聴取
することが大切。
(経験が増えれば、脳疾患、循環器疾患、耳疾患、
脊椎・末梢疾患の鑑別ができるようになる。)