4P071 プロトンドナー性配位子を用いた鉄(II)錯体の構造と物性 (神戸大院理 1,神戸大研究基盤セ 2,神戸大分子フォト 3) ○加藤 佑 1, 高橋 一志 1, 櫻井 敬博 2, 太田 仁 3 Structures and Properties of Ferrous Complexes from a Proton Donor Ligand (Graduate School of Science Kobe Univ1, CSREA. Kobe Univ.2, MPRC. Kobe Univ.3) ○Yu Kato1, Kazuyuki Takahashi1, Takahiro Sakurai2, Hitoshi Ohta3 【序論】近年プロトン移動や変位に基づく伝導性、誘電性やプ ロトン-電子結合系についての研究が盛んにおこなわれている。 その中でもイミダゾール誘導体は比較的高い酸性度と架橋水素 結合能を持ち、多孔性配位高分子中で高いプロトン伝導性を担 うこと[1]や単一分子での強誘電性の発現[2]が報告されている。 イミダゾール環を導入した配位子からなる金属錯体では、金属 錯体の機能性にプロトン関連の機能性を付加することで新たな 機能性が創出されることが期待される。本研究では、金属錯体 の機能性として外場により高スピンと低スピン状態を可逆的に 変化するスピンクロスオーバー現象に着目した。これまでイミ Figure 1. L1, L2 の構造式 ダゾール含有配位子 L2 誘導体からなる鉄(II)錯体は室温固体状 態では低スピンであり、配位子場が強いことが想定された。そこで、配位子場を弱くするため、 中心のピリジンに対してイミダゾールの 5 位を結合し、さらに立体障害として 2 位にメチル基を 導入した新規イミダゾール配位子 L1(Figure 1)を設計した。今回、新規配位子 L1 の合成、さら に配位子 L1 を用いた鉄(II)錯体[Fe(L1)2]X2·solv (1: X = BF4, solv = EtOH, 2: X =ClO4, , solv = EtOH, 3: X = PF6, , solv = acetone, 4; X = PF6, solv = none)の構造と性質について報告する。 【実験】配位子 L1 の合成は Scheme 1 に従った。錯体 1 - 4 の合成は配位子 L1 とそれぞれ対応す る鉄(II)塩もしくは複分解反応で合成した。単結晶 X 線構造解析は Bruker APEX II Ultra を用いて 行い、磁化率は Quantum Design MPMS-XL を用い 2 – 300 K の温度範囲で測定した。 【結果と考察】新規 配位子 L1 は Scheme 1 に従い 4 ステップで 合成した。配位子 L1 からなる鉄(II)錯体を 合成したところ、錯 体 1, 2 は赤色針状晶、 錯体 3 は橙色プレー ト状晶、錯体 4 は黄 色ブロック状晶とし Scheme 1. 配位子 L1 の合成 て単離した。関連する鉄(II)錯体の色は低スピンで赤色、 高スピンで黄色であるため、新規配位子 L1 が低スピン 錯体と高スピン錯体を与えることが示唆された。 錯体 1 - 4 の磁化率の温度変化を測定した結果を Fig 2.に示す。 錯体 1, 2 のχMT の値は 300 K でそれぞれ 0.705, 0.603 cm3 mol–1 K であり、250 K 以下ではχMT の値が 0 であることから、ほぼ低スピン状態である。一方、錯 体 4 は 300 K でχMT の値が 3.62 cm3 mol–1 K であり、ほ Fig. 2. 磁化率の温度依存性 ぼ高スピン状態と考えられる。それぞれの錯体のスピ ン状態は錯体の色から予想されるスピン状態と一致している。 錯体 3 は 300 K でχMT の値が 1.97 cm3 mol–1 K から 90 K ではほ N1 ぼ 0 になっており、スピンクロスオーバーしているものと考え られる。 N2 単結晶 X 線構造解析の結果、錯体 1, 2, 3 はいずれも Hexagonal P3221 でありいずれも同形であることが明らかにな N3 った。一方、錯体 4 は Hexagonal P3121 であるが、格子定数が 大きく異なっていた。いずれの錯体も単位格子中に独立な配位 子 L1 は一分子であり、L1 はほぼ直交する形で中心鉄(II)イオン Fig. 3. [Fe(L1)2]の構造 に配位していた。Fe–N 間の配位結合長を Table 1 に示す。錯体 1, 2 の配位結合長は 1.923–2.021 Å であり、低スピンであることが示唆された。一方、錯体 4 の配 位結合長は 2.145–2.223 Å であり高スピン状態であることが示唆された。 錯体 3 では 273 K の 2.018– 2.072 Å から 90 K の 1.926–2.003 Å へ温度変化により短くなっていた。このように錯体 3 では室温 以下で部分的な SCO が起きていることが明らかとなった。 錯体 1 – 4 の結晶中での分子配列や他の対アニオンを用いた鉄(II)錯体の構造と物性についても 合わせて報告する予定である。 1 2 3 4 温度 (K) 100 273 90 90 273 90 273 Fe-N1 (Å) 1.995(2) 2.017(4) 1.993(3) 1.989(5) 2.072(5) 2.227(2) 2.223(4) Fe-N2 (Å) 1.923(2) 1.938(4) 1.926(3) 1.926(5) 2.018(5) 2.145(2) 2.147(3) Fe-N3 (Å) 1.998(2) 2.021(4) 2.003(3) 2.004(5) 2.072(5) 2.189(2) 2.197(4) Table 1. [Fe(L1)2]の配位結合長 [1] D. Umeyama et al., J. Am. Chem.Soc., 2013, 135, 11345-11350. [2] S. Horiuchi et al., Nature Commun., 2012, 3,1308 (6 pages). [3] W. Linert et al., J. Chem. Soc., Dalton Trans., 1994, 1523-1531. [4] R. Boca et al., Inorg. Chem. 2001, 40, 3025-3033. 4P072 Pt(111)上の氷薄膜のアモルファス-結晶相転移における同位体効果 (京大院・理)○原田国明、奥村直、杉本敏樹、渡邊一也、松本吉泰 Isotope effects on amorphous-crystalline phase transition in ice films on Pt(111) (Kyoto Univ.) ○K. Harada, N. Okumura, T. Sugimoto, K. Watanabe and Y. Matsumoto 【序】Pt(111)上の氷薄膜において、130 K 以下まで冷やした基板に水蒸気を曝すことでアモルファス 氷(Amorphous Ice, AI)薄膜を作製できることが知られている[1]。基板を加熱し、AI の流動性が増す と、準安定状態の AI からエネルギー的に最安定な結晶氷(Crystalline Ice, CI)へと相転移する。これ まで、振動分光、もしくは脱離測定を用いて、この AI-CI 相転移現象は調べられてきたが、いまだ氷 薄膜の結晶化メカニズムの統一的な理解は得られていない[1,2]。本研究では、10~50 ML の膜厚の氷 薄膜に対して測定を行い、氷薄膜表面と氷薄膜全体の結晶性を同時にプローブすることで、基板側か ら薄膜表面に向かって結晶化が進行することを明らかにした。また、同位体置換した氷薄膜において も同様な測定を行い、結晶化が始まる温度が約 10 K 高温にシフトすることがわかった。 【実験】実験は超高真空下(ベース圧力 5×10-8 Pa)で行った。130 K に温度を保った Pt(111)を 1.3× 10-6 Pa の水蒸気(H2O、または D2O)雰囲気に曝し、Pt 表面上に AI 薄膜を成長させた。氷薄膜作成 後、0.1 K/s の昇温速度で Pt(111)を加熱し、氷の昇温脱離(TPD)と反射型赤外吸収分光(IRAS)の 同時測定を行った。IRAS 測定は 12 秒積算で行い、約 1 K 間隔で昇温過程の氷の IRAS スペクトルを し、結晶化に伴う脱離フラックスと IRAS スペクトル の変化を調べた。 【結果と考察】Fig. 1(a) に 15 ML のアモルファス H2O 薄膜の TPD の結果を示す。薄膜表面の氷が AI から CI ずかに凹む。TPD で観測されるこの凹み(bump)は、 Fig. 1(a) では 157 K 付近に見えており、薄膜表面の氷 の結晶化が 157 K 付近で起こっていることがわかる。 同時に IRAS スペクトルの形状変化を追うことで、薄 膜全体の結晶化の進度を知ることができる。Fig. 1 (b) -2 違いから脱離フラックスは減り、TPD の脱離曲線がわ -ΔR/R0 (×10 ) へと相転移すると、両者の脱離の活性化エネルギーの (a) 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 158 K TPD x 153 K 137 K 140 x Mass 18 signal [arb. units] 測定した。10~47 ML の被覆率の範囲で氷薄膜を作製 150 160 170 Temperature [K] 6 (b) 137 K 153 K 158 K 4 2 0 3000 3200 3400 3600 -1 Wavenumber [cm ] に 137, 153, 158 K における IRAS スペクトルを示す。ス Fig. 1 15 ML の H2O 薄膜の測定結果。 (a)TPD ペクトルは昇温に伴う脱離により強度は減少するもの の結果(bump の観測された温度領域を点線で示 の、結晶化に伴い形状が変化している。IRAS スペクト した)、及び IRAS スペクトルの成分分解から求め ルを完全な CI、及び完全な AI の2つのスペクトルを用 た結晶成分比xの温度変化。(b)137, 153, 158 K に いて成分分解し、薄膜全体の CI 成分比 x を求めた。15 おける OH 伸縮振動領域の IRAS スペクトル。 ML の H2O 薄膜の昇温過程における IRAS スペクトルの成分分解から得られた x の温度変化を Fig. 1(a) に示す。薄膜全体の結晶化は 140 K から既に始まっており、158 K で完全な CI となることがわか った。結晶化が 140 K 付近から始まり、bump が観測される温度領域において結晶化がほとんど終わ っている(x > 0.8)という測定結果は、他の吸着量(10, 20, 25, 29 ML)の H2O 薄膜においても得られ Fig. 2(a) に各吸着量ごとの H2O 薄膜の CI 成分の被 覆率の温度変化をを示す。吸着量 20 ML 以下では、結 晶化速度は吸着量に依存せず、ほぼ同一である。結晶 化速度を決めるのは、結晶転移の基点となる核の存在 であり、その数に比例して速度は増加する[3]。したが って、結晶化速度が吸着量に依らずほぼ同一であると Coverage of Crystalline [ML] ている。 25 (a) 20 H2O 薄膜 10 ML 15 ML 20 ML 25 ML 29 ML 15 10 5 0 135 140 り、そこから氷薄膜表面に向かって結晶化が進行して いることを示唆する。これは、前述の薄膜表面の結晶 化をもって薄膜全体の結晶化が完了する描像とも矛盾 しない。 同位体置換した氷薄膜において同様な測定を行い、 CI 成分の被覆率の温度変化の吸着量依存性を調べた。 その結果を Fig. 2(b)に示す。D2O 薄膜では、吸着量 31 ML 以下の薄膜において結晶化速度は吸着量に依存しな いことがわかった。ただし、結晶化開始温度は、H2O 薄膜に比べ 10 K 程度高温にシフトする。これは、同位 体置換したことによって、氷-Pt(111) 界面での核生成が 起こりにくくなったことを示唆する。H2O、及び D2O 薄膜において、結晶化開始温度に約 10 K の違いはある Coverage of Crystalline [ML] はなく、氷-Pt(111) 界面に常に一定数の核が生じてお Coverage of Crystalline [ML] いう結果は、氷薄膜のバルク内で核が生じているので 30 20 10 0 135 145 150 155 Temperature [K] 160 165 (b) D2O 薄膜 11 ML 20 ML 31 ML 47 ML 140 145 150 155 Temperature [K] 160 165 160 165 16 12 8 (c) D2O 薄膜 11 ML 20 ML H2O 薄膜 10 ML 15 ML 20 ML 4 0 135 140 145 150 155 Temperature [K] が、共に、比較的小さい吸着量の薄膜では基板側から 薄膜表面に向かって結晶化が進行していることがわか った。そして、ある吸着量以上の薄膜になると、結晶 化速度は大きくなり、その傾向は H2O 薄膜においてよ Fig. 2 (a) H2O 薄膜、及び (b) D2O 薄膜の CI 成 分の被覆率の温度変化と (c) 吸着量 20 ML 以下の 氷薄膜における両者の比較。 り顕著であることが明らかになった。 【参考文献】 [1] R. Scott Smith, Jesper Matthiesen, Jake Knox, and Bruce D. Kay, J. Phys. Chem. A 115, 5908(2011) [2] Ellen H. G. Backus, Mihail L. Grecea, Aart W. Kleyn, and Mischa Bonn, Phys. Rev. Lett. 92, 236101(2004) [3] Peter Ahlström, Patrik Löfgren, Jukka Lausma, Bengt Kasemo, and Dinko Chakarov, Phys. Chem. Chem. Phys. 6, 1890(2004) 4P073 ラマンスペクトル電位応答の探針増強のための探針表面保護 (千葉大院工・共生応用化学)○野本知理・藤浪真紀 Tip surface protection for tip enhancement observing potential dependence of Raman spectra (Chiba University) ○Tomonori Nomoto and Masanori Fujinami 【序】 探針増強ラマン分光法(TERS)は,光の回折限界を超えた高い空間分解能にて振動 スペクトルを得られる手法として近年応用が進められてきた。この手法では金属ナノ 粒子を担持した探針を試料に近接させることで,探針先端近傍のみのラマンスペクト ルを増強させることができることから,微細な表面構造に依存した吸着分子の振動ス ペクトルを得られるだけでなく,界面領域の分子の測定における感度向上も期待でき る。これまで,我々は水中において TERS を行うための探針の開発と脂質膜における 増強の確認,増強信号の時間依存性について研究を行ってきた[1]。さらに水中の TERS 測定の応用として界面の化学反応や電子授受への適用を考えたとき,試料電位 が制御された条件で測定を行うことは重要である。そこで,本研究では水中測定系に 電極を追加して試料電位を制御可能な実験系の構築を行い,探針接近によるラマンス ペクトルの増強と電位によるスペクトル変化の観測を行うことを目的とした。また, 探針表面の保護方法について検討した。 【実験】 本研究で構築した TERS の装置系を図 1に示す。装置は倒立顕微鏡上に構築 し,水晶振動子に接着された探針はシ アフォース制御で試料に接近させた。 試料は電解液に浸して作用極とし,対 極には Pt 線を使用した。Ag/AgCl 参照 電極は塩橋を介して接続した。 試料は,ラマンスペクトルの電位依 存 性 に 関 す る 報 告 が 多 い p-aminothiophenol (PATP) [2]を吸着分子とし 図1:本研究で構築した TERS 測定系の概要 て使用することとし,カバーガラス上 に金をスパッタ(12 nm)した後 PATP 溶液に浸漬,洗浄した。電解液は NaClO4 水溶液 を使用した。探針は銀ワイヤ(ø 50 µm)の電解研磨により作製し,そのままの状態,エ タンチオール・エタノール溶液に浸漬した場合,アルミニウムを蒸着した場合で比較 した。 【結果と考察】 探針を試料に接近させたとき,離した ときのスペクトル変化を図 2(a)に示 す。探針接近に伴い 1080, 1590 cm-1 な どのピーク強度の増強が確認された。 ここで,PATP は探針の銀表面への吸 着の可能性がある。そこで,銀への直 接吸着を避けるため,予め探針表面を エタンチオールで被覆した場合[3],探 針表面にアルミニウムを蒸着し,自然 酸化により形成されるアルミナ膜によ り探針表面を保護する場合[4]につい て検討した。アルミニウム蒸着探針に ついて試料に近接させた場合,離した 場合のスペクトルを図 2(b),(c)に示 す。アルミニウムの膜厚が厚い(膜厚計 にて 12 nm)場合,増強はみられなかっ たが,薄い場合(膜厚計にて 6 nm)はス ペクトル強度の増大が観測された。ア ルミニウム表面の酸化膜の厚さは数ナ ノメートルであることから,膜厚が厚 いと光吸収による効果が大きくなった ものと考えられる。 試料電位を変化させることにより 1144 cm-1 他のピークの強度変化も起き た。本研究の条件では,PATP だけで な く 表 面 上 で 形 成 さ れ た p,p'dimercapto-azobenzene の影響も考えら えることから更なる測定結果と共に考 察を行う予定である。 図2:(a) 電解研磨銀探針を用いて探針を試 料に接近させた場合(赤)と離した場合(青)のラ マンスペクトル。(試料電位:−0.3 V vs Ag/AgCl) (b)銀探針上のアルミニウム膜厚が 厚い場合(膜厚計にて 12 nm)と(c)薄い場合(膜 厚計にて 6 nm)の探針接近時(赤)と離した場合 (青)のラマンスペクトル。(試料電位:0 V vs Ag/AgCl) いずれのスペクトルも 500cm-1 付近 にてベースラインが重なるように表示した。 【参照文献】 [1] A.Nakata et al., Anal. Sci. 29, 865 (2013). [2] M.Osawa et al., J. Phys. Chem., 98 (1994) 12702; K. Ikeda et al., Nano Lett., 11 (2011) 1716; Y.F. Huang et al., PCCP, 14 (2012) 8485. [3] T. Schmid, et al., J. Raman Spectrosc., 40 (2009) 1392. [4] R. L. Agapov, et al., J. Raman Spectrosc., 44 (2013) 710. 4P074 π共役長に依存したフェナセン系配向制御膜のイオン化エネルギー (1 千葉大学院 融合科学研究科、2 産総研、3 分子科学研究所) ○牧野凜太朗 1, 米澤恵一 朗 1, 細貝拓也 2, 加藤賢悟 1, 山口拓真 1, 松下智昭 1, 奥平幸司 1, 上野信雄 1, 解良聡 3 Large impact of molecular orientation on ionization energy depending on π conjugation length: phenacene systems (1Graduate School of Advanced Integration Science, Chiba University. 2National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST). 3Institute for Molecular Science.) ○Rintaro Makino1, Keiichirou Yonezawa1, Takuya Hosokai2, Kengo Kato1, Takuma Yamaguchi1, Tomoaki Matsushita1, Koji Okudaira1, Nobuo Ueno1, Satoshi Kera3 [序] 膜構造と電子構造の相関の解明は、諸有機薄膜 を用いたデバイスの電荷輸送の特徴を理解するため の主要な議題である。特に界面での電荷移動は、有 機分子膜のフロンティア軌道を介して行なわれてい るため、それらの軌道エネルギーと膜構造の相関を 明らかにすることは非常に重要である。最高占有準 位(HOMO)のイオン化エネルギー閾値(IE)は、膜構造 に大きく影響されることが最近になりわかってきた 1,2。分子膜の IE がいかに決定されるかを明らかにす ることで、諸有機デバイスの性能をより詳細に見積 もることができるようになる。 フェナセン系化合物は、炭化水素で初の超伝導を 示すことが報告されただけでなく、有機トランジ スタの高移動度材料としても近年大きな注目を 図1、フェナセン系分子の分子構造 集めている 3。本研究ではπ共役長の長さが異なるフェナセン分子群である(図 1 参照)ピセ ン([5]フェナセン)、[6]フェナセン、[7]フェナセン薄膜の分子配向に依存した IE を紫外光電 子分光法(UPS)、準安定励起原子電子分光法(MAES)を用いて評価した。 [実験条件] フェナセン薄膜の成膜および He I UPS と He*MAES 測定は超高真空下 in-situ で行った。 成膜の基板として SiO2 および高配向性熱分解グラファイト(HOPG)を用いた。 SiO2 はアセトン、イソプロパノール、 超純水中でそれぞれ超音波洗浄した後に超高真空中で 673K で加熱することにより清浄表面を得た。HOPG は大気中で劈開し、超高真空中で 673K で加 熱することにより清浄表面を得た。清浄性は UPS と MAES によって確かめた。全てのフェ ナセン系分子は 1.1×10-7Pa 以下の超高真空中で、蒸着速度=0.1~0.2nm/min で蒸着した。UPS スペクトルは PHOIBOS-HSA100 アナライザー(エネルギー分解能:60meV、光電子取り込み 受容角:±9°)を用いて測定した。He I UPS は、光入射角=45°、光電子放出角=0°で行った。 He*(23S) MAES は、He*ビーム入射角=0°、電子放出角=60°で行った。真空準位はサンプル に-5.0V の電圧を印加することによって、UPS の二次電子の立ち上がりから得た。実験は全 て室温(297K)で行った。 [結果・考察] MAES 測定結果より、い ずれの分子も、SiO2 上では概略分子長 軸が膜表面に垂直になるように配向し、 HOPG 上では分子平面を平行にして配 向していることが示唆された。 図2に UPS スペクトルの結果を示す。 SiO2 と HOPG は物理吸着基板として知 られており、分子基板間相互作用は十 分弱いと考えられる。垂直膜と平行膜 で UPS スペクトルの構造が顕著に異な るのは、状態密度分布の結晶性、構造 依存性と光電子角度分布の分子配向依 存性に由来するものである。 UPS スペクトルの HOMO ピークの オンセットおよび真空準位の立ち上が 図2、フェナセン系薄膜の UPS スペクトル (赤色が HOPG 上、青色が SiO2 上) り位置からそれぞれ IE を見積もった結果、ピセン、[6]フェナセン、[7]フェナセンの垂直膜 について、それぞれ 5.67eV、5.49eV、5.44eV、また平行膜について 6.43eV、6.42eV、6.41eV となった。垂直膜と平行膜の IE の差(ΔIE)はピセンが 0.76eV、[6]フェナセンが 0.93eV、[7] フェナセンが 0.97eV となった。分子配向に依存して IE が異なる主な理由は分子内分極によ る表面静電ポテンシャル効果が知られている 2。これに加え、本研究ではベンゼン環数が増 えるにつれて ΔIE が増加する様子が観測された。平行膜では各分子の IE は 20meV 以内での 変化しか観測されなかったが、垂直膜では IE は 230meV 程度の変化が観測された。つまり 主として垂直配向膜の IE 変化に伴い、ΔIE が増加していることが分かる。異なる ΔIE の起 源について本講演では、エネルギーバンド分散のバンド幅に対する分子間相互作用の寄与 について、理論計算との比較結果についても議論する。 [参考文献] [1] H. Fukagawa, et al, Phys. Rev. B 73, 245310 (2006). [2] S. Duhm, et al, Nature Mater. 7, 326 (2008). [3] X. He et al, Org Elec. 14 1673 (2013). 4P075 Effect of the optical properties of poly-TPD on the performance of organic LED (Graduate School of Science1, Natural Science Center for Basic Research and Development2, Hiroshima Univ.) ○Yunzi Xin1, Daisuke Kajiya2, Ken-ichi Saitow1,2 【Introduction】 Conductive polymer plays an important role in the thin film transistor, organic light-emitting diode (LED), hybrid organic/quantum dot LED and solar cells for natures of high conductivity, good solubility, and homogenous morphology. Poly(N,N’-bis(4-butylphenyl)-N,Nbis(phenyl)benzidine) (poly-TPD) (Figure 1) thin film has been widely used as a hole transport layer in LEDs, based on high hole mobility and LUMO-energy level as an effective electron blocking material. The carrier transfer in poly-TPD is considered as the hopping through πelectron among conjugated structure, whose model would be affected by molecular conformations in the thin film. Here, we prepared poly-TPD thin films on which different treatments were conducted, i.e. UV exposure, annealing. The spin-coating condition was also altered, such as the solution concentration. From measurements of photoluminescence (PL) spectra and PL decay, we investigated the molecular conformations of poly-TPD and electronic structures. In addition, organic LEDs composing of Figure.1 The molecular formation poly-TPDs as an emissive layer were fabricated and the diode of poly-TPD. property was examined by changing the parameters. Thus, it was found that the change of poly-TPD molecular conformation, induced by film conditions, are responsible for the electronic performance of organic LEDs. 【Experiment】Poly-TPD thin films and organic LEDs were deposited on pre-cleaned indiumtin-oxide (ITO) coated glass substrates. The ITO substrates were cleaned in flat panel display detergent solution with a sonicator and treated with a UV ozone cleaner. Poly-TPD thin films were deposited onto the substrate by spin-coating from o-dichlorobenzene solutions with different concentrations in an argon-filled glove box. After spin-coating, several procedures, i.e. UV irradiation in air, or thermal annealing in argon were conducted. Organic LEDs consisted of ITO/poly(3,4-ethylenedioxythiophene): poly (styrenesulfonate) (PEDOT:PSS)/poly-TPD/Al, of which PEDOT:PSS layer was also deposited by spin-coating, and Al layer was prepared by vapor deposition under vacuum. PL spectra and PL decay of poly-TPD films as well as currentvoltage (I-V) curves of LEDs were measured in air ambient. 【Result & discussion】Figure 2(a) shows UV-exposed time-dependent PL spectra of poly-TPD thin films. The spectrum of poly-TPD without UV irradiation composes of two luminescence bands at 416 and 457 nm, corresponding to the monomer and excimer, respectively. On the contrary, a PL band ascribed to monomer at around 421 nm is observed in all UV irradiated poly-TPD films. [1] The PL decay curves of poly-TPDs monitored at 421, 416 and 457 nm are displayed in Figure 2(b). The time profile is characterized by double exponential functions. Fast and slow components have been attributed to monomer and excimer of poly-TPD, respectively. [2] The data measured at 421 nm is obtained from the poly-TPD film after UV irradiation and does not show slower component. As a result, it was revealed the UV irradiation promotes monomer formation in polyTPD films, based on both spectra and time profile measurements. Figure 2(c) presents the I-V curves of organic LEDs prepared using poly-TPD. Note that the significant increase of current density after UV irradiation. Namely, current density of the LED consisted of UV-irradiated poly-TPD thin films is 350 times greater than that before UV irradiation. Based on the results of PL spectra, lifetime, and I-V curves, it can be concluded that the UV irradiation of poly-TPD film inhibits excimer formation, which Figure.2 (a) PL spectra and (b) PL decay of results in high current density of organic LED poly-TPD films, and (c) I-V curves of device. The reason why the UV irradiation enhances corresponding ITO/PEDOT:PSS/poly-TPD/Al current density of organic LED is the decease of organic LEDs. Inset: Current density at 6V as a function of UV exposure time. excimer site as a hole-trapping and the increase of π-electron delocalization among polymer molecules. [2] In addition, the current density enhancements were commonly obtained from organic LEDs fabricated by poly-TPD thin films spin-coated with different concentrations. Consequently, it is found that the reducing of excimer formation in poly-TPD layer improves the electronic performance of organic LEDs. References: 1. Nayak, Patankar, Narasimhan, Periasamy. Journal of Luminescence, 2010, 130, 1174. 2. Joshi, Mohan, Dhami, Jain, Singh, Ghosh, Shripathi, Deshpande. Applied Physics A, 2008, 90, 351. 4P076 P3HT/PCBM 界面の分子構造 (東大院・工,JST CREST)○城野亮太,山下晃一 Molecular structure of P3HT/PCBM interface (The University of Tokyo, JST CREST) Ryota Jono, Koichi Yamashita 【序】 全固体型有機系太陽電池は,強みである製造コストの低さやデザイン性・設置箇所の自由度等 から,その普及が期待されている.現在研究室レベルでの光電変換効率は 12 %であるが,有機 系太陽電池の普及には電荷分離・電荷再結合といった素過程の理解の上での分子設計が必要であ る. P3HT/PCBM を材料に用いたものは有機薄膜太陽電池の標準として様々な研究がなされてき た.近年,P3HT/PCBM 界面に第三の分子を加える事によって電荷分離後の電子・正孔拡散効率 を改善する試みがなされている.例えば P3HT の側鎖アルキル基をペンタフルオロフェニル基で 修飾した高分子を 0.25 wt%添加した太陽電池では,修飾部位は光子の吸収に寄与しないのにもか かわらず,短絡電流 JSC について 30 %効率が向上することが報告されている.[1]そこで本発表で は,古典分子動力学法に基づく P3HT/PCBM 界面の分子構造探索と,量子化学計算による界面分 子構造の電子状態に関する考察から,P3HT/PCBM の界面分子構造を変化させた時のエネルギー 準位の変化について報告する. 【方法】 GROMACS を用いて P3HT/PCBM およびペンタフルオロフェニル基で側鎖を修飾した添加物を 加えた系の構造探索を 300 K,1 bar 下で 1 ns 行った.PCBM の力場は OPLS,P3HT の古典力場は Moreno らによる OPLS の改良版[2]を用いた.電子状態計算は CP2K を用いて,平面波・局在基底 の混合基底 DZVP-MOLOPT+GTH potential/カットオフエネルギー280 Ry のもと PBE+D2 レベルで 計算した. 【結果】 古典力場による 1 ns 平衡化後のスナップショットを図1に示す.P3HT のチオフェン環および ペンタフルオロフェニル基を CPK モデルで示した. face-on で P3HT が PCBM に接する界面では, 隣接する P3HT 間で分子間π共役が形成されていた.一方,ペンタフルオロフェニル基で修飾され た P3HT は,face-on 界面から始めた構造から edge-on 構造へ遷移し,結果として bulk に見立てた P3HT とのπ共役が失われた.これらの構造をモデル化し,bulk に見立てた face-on 構造をとった ポリチオフェンと PCBM で face-on 型と edge-on 型のポリチオフェンを挟んだ時の電子状態計算 を行った(図2) .Bulk の face-on 構造に対して界面が edge-on 構造をとっているものはπ共役が失 われた結果 HOMO-LUMO gap が開いた.発表当日は Bulk の P3HT について edge-on 構造をとっ たものについても報告する. 図1:GROMACS を用いて 1 ns の平衡化後に得られたスナップショット界面構造 (左)P3HT / PCBM,(右)P3HT / ペンタフルオロフェニル基で修飾された P3HT / PCBM 図2:face-on(左)および edge-on(右)のポリチオフェンに見立てたポリチオフェン/PCBM 界面 の最高被占軌道 [1] Lobez, J.M.; Andrew, T.L.; Bulović, V.; Swager, T.M. ACS NANO 6, 3044-3056 (2012) [2] Moreno, M.; Casalegno, M.; Raos, G.; Meille, S. V.; Po, R. J.Phys.Chem.B 114, 1591-1602 (2010) 4P077 立体規則性の異なる PNiPAm 薄膜のヘテロダイン検出振動和周波発生分光 (1 筑波大院・数理物質,2 福岡大・理,3 広島大院・理) ○深谷和玄 1,奥野将成 1, 勝本之晶 2, 力山和晃 3, 石橋孝章 1 Heterodyne-detected vibrational sum-frequency generation study of thin films of stereocontrolled PNiPAm (1Graduate School of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba, 2 3 Graduate School of Science, Fukuoka University, Graduate School of Science, Hiroshima University) ○Kazuharu Fukaya1, Masanari Okuno1, Yukiteru Katsumoto2, Kazuaki Rikiyama3, and Taka-aki Ishibashi1 【序】 poly(N-isopropylacrylamide)(以下 PNiPAm、図 1) は下限臨界溶解温度(LCST)を有する温度応答性分子で n あり、水溶液中において LCST 以上の温度に加熱すると親 水性から疎水性へと変わる性質を持つ。PNiPAm の LCST HN は生体の温度に近いため、薬物送達の制御への応用や生体 O センサーとしての応用などが広く研究されている。また、 PNiPAm は立体規則性を操作することによってその水溶液 の LCST が変化することが報告されている[1]。 ヘテロダイン検出-振動和周波発生(HD-VSFG)分光法 図 1. poly(N-isopropylacrylamide)の 構造式 は表面・界面分子の二次非線形感受率の位相を決定することができる有用な手法である[2]。 従来のホモダイン検出-VSFG 測定では試料の SFG 信号光強度、つまり光電場の絶対値二乗を 測定するため、得られる情報は二次非線形感受率の絶対値二乗のみであった。HD-VSFG 測定 では位相が規定されている局部発振器(LO)光を isotactic 用い、試料表面からの SFG 光と干渉させて得られ る信号を解析することで試料の二次非線形感受率 R R 非線形感受率を HD-VSFG によって測定した。 【実験】 測定には当研究室で構築した HD-VSFG R R R R R meso diad の位相を決定することができる[3]。本研究では CaF2 基板にスピンコートした PNiPAm 薄膜の二次 R atactic R R R R racemo diad 装置を用いた。広帯域赤外光と狭帯域可視光を使 図 2. 立体規則性の例と隣接する不斉炭素の 用したマルチプレックス方式で発生させた SFG 信 立体配置(meso diad, racemo diad) 号を、プリズム分光器と回折格子を組み合わせた非対称ダブル分光器によって分散させ、マ ルチチャンネル検出器を用いて一度に検出した。LO 光には y-cut 水晶の透過 SFG 光を用いた。 得られたスペクトルは同一条件下で得た z-cut 水晶のスペクトルで規格化した。可視光は 630 nm とし、偏光条件は SSP(左から SFG 光、可視光、赤外光の偏光)、PPP、SPS の 3 つの条 件に設定して,CH および NH 伸縮振動領域について測定を行った。 PNiPAm の立体規則性は,主鎖中において隣接した 2 つのモノマーの不斉炭素が、等しい 立体配置を持つ meso diad である確率 m によって表される(図 2)。m = 46 %と 90%の 2 種類 の PNiPAm を,それぞれ CaF2 基板へスピンコ 0.10 い atactic な PNiPAm であり、m = 90 %のものは 規則性が高い isotactic に近い PNiPAm であると m-46 m-90 0.05 (2) 用の試料とした。m = 46 %のものは規則性が低 Im[χ ] ートすることによって薄膜を作製し,SFG 測定 0.00 -0.05 -0.10 みなすことができる。この 2 種類の基板につい 2800 て HD- VSFG 測定を行った。 【 結 果 と 考 察 】 SSP 偏 光 条 件 下 に お け る 2900 3000 3100 -1 wavenumber / cm PNiPAm 薄膜の二次非線形感受率の測定結果 図 3. SSP 偏光条件下の CH 伸縮領域における を示す。CH 伸縮領域(図 3)と NH 伸縮領域 m = 46 %と m = 90 %の PNiPAm 薄膜の二次非 (図 4)において m = 46 %と m = 90 %の複素二 線形感受率の虚部スペクトル 40 の二次非線形感受率の虚部スペクトルに、m = 20 90 %で検出されない 2970 cm 付近の正のバン ドが検出された。また NH 伸縮領域において、 m = 46 %では弱く正のバンドが見られるのに対 して、m = 90 %においては負の符号を持つバン ドが観測された。この測定結果から、異なる立 体規則性を持つ PNiPAm 薄膜が異なる二次非線 形感受率を有することが測定によって明らかに なった。 (2) -1 Im[χ ] 次非線形感受率に有意に差が現れた。m = 46 % m-46 m-90 0 -20 -40x10 -3 3000 3100 3200 3300 3400 -1 wavenumber / cm 図 4. SSP 偏光条件下の NH 伸縮領域における m = 46 %と m = 90 %の PNiPAm 薄膜の二次非 線形感受率の虚部スペクトル 参考文献 [1] Y. Katsumoto, and N. Kubosaki, Micromolecules. 41, 5955-5956 (2008). [2] R. Superfine, J. Y. Huang, and Y. R. Shen, Opt. Lett. 15, 1276-1278 (1990). [3] S. Yamaguchi, and T. Tahara, J. Chem. Phys. 129, 101102 (2008). 4P078 電気化学的手法による単分子膜ナノドット形成とその導電性 AFM 観察 (北大院理 1、JST さきがけ 2) ○竹内悠真 1・村越敬 1・池田勝佳 1・2 Conductive AFM observation of electrochemical molecular nanodot formation (Hokkaido Univ.1, JST-PRESTO2) ○Yuma Takeuchi1, Kei Murakoshi1, Katsuyoshi Ikeda1, 2 【序論】 金電極表面にチオールなどの自己組織化単分子膜(SAM)を構築することで、様々な機能 性を導入可能である。このような修飾電極において、ナノレベルでの分子集積技術を実現す れば、より高機能な修飾電極の設計が可能になると考えられる。しかし、代表的な分子パタ ーニング法として知られるマイクロコンタクトプリント法ではナノレベルの分子集積は困難 である。本研究ではチオール分子の SAM が電気化学的に還元脱離する現象を利用した新しい 単分子膜ナノドット形成法について検討した。Au 電極表面に構築したチオール SAM は、特 定の電極電位で表面から 1 次相転移的に脱離する。そこで、SAM 上に Au ナノ粒子(AuNP) を吸着させると、脱離電位が局所的に変化する。この現象を利用して、単分子膜ナノドット 構造の電気化学的な形成を試み、導電性 AFM による電気伝導性の局所計測からナノドット形 成の確認を行った。 【実験】 火炎溶融法により Au 単結晶ビーズを作製し、(111)ファセットに対し平行に研磨して、 Au(111)カット面を作製した。この Au(111)カット面を 1 mM の 4-Methylbenzenethiol(MBT)/ エタノール溶液に 10 分間浸漬することで MBT-SAM を構築した。さらに Au コロイド溶液に 2 時間浸漬することで MBT-SAM 上に AuNP を吸着させ、 図 1 に示す Au(111)/MBT-SAM/AuNP 構造をもつ電極①を作製した。この電極①を 0.1 M KOH 水溶液中で電位掃引すると、MBT 分子の還元脱離に伴う電流ピークが 2 本生じる。そこで-0.75 V まで電位掃引した電極②の導 電性 AFM 観察を行った。さらに、電極②を 1 mM のヘキサンチオール(HT)/ エタノール溶 液に 1 分間浸漬し複合単分子膜の形成を試みた。 ② ① ←AuNP(20 nm) ←MBT-SAM 図 1 0.1 M KOH 水溶液中における Au/MBT-SAM/AuNP 構造の還元脱離ボルタモグラム. (Scan rate: 20 mV/s) 【結果・考察】 電極①と②につい ① て AFM 観察の結果を ② 100 nm 図 2 に示す。形状像で 100 nm B B A は ① と ② と も に AuNP の存在が確認 A された。それぞれにつ A:AuNP 上 いて AuNP 上の A 点 B:基板上 B:基板上 と基板上の B 点にて A:AuNP 上 局所電気伝導性を測 定すると、A 点では同 程度の電気伝導性を 示したが、B 点では大 きく異なっていた。② 図 2 還元脱離前①と脱離後②の導電性 AFM による電流電位曲線. の B 点上では電気伝導性が非常に大きく、Au(111)が露出していると考えられる。一方で A 点 の電気伝導性に変化がないことは AuNP 直下の分子層が残存していることを示している。し たがって、SAM ナノドットが電気化学的に形成されたことが確認された。 次に、電極②をヘキサンチオールの溶液に浸漬した電極③で同様の AFM 測定をした結果を 図 3 に示す。A 点、B 点ともに図 2 よりも電気伝導性が低くなったことから、Au(111)と AuNP の表面にヘキサンチオール単分子層が形成されたことがわかる。したがって、MBT-SAM と HT-SAM の複合単分子膜が Au(111)表面に形成したと考えられる。 (a) ② ③ 1 mM HT/EtOH 溶液に 1 分間浸漬 (b) B:基板上 A B 図3 A:AuNP 上 複合単分子膜の作製法(a)と導電性 AFM による電流電位曲線(b). 4P079 2光子光電子顕微分光による C60 フラーレン分子薄膜の 非占有状態計測 (慶大理工 1, JST-ERATO2) ○山元 一生 1,渋田 昌弘 1,2,江口 豊明 1,2,中嶋 敦 1,2 Measurement of Unoccupied States of C60 Fullerene Molecular Film by Two-Photon photoelectron Microspectroscopy (Keio Univ. 1 JST-ERATO2) ○Kazuo Yamamoto1, Masahiro Shibuta1,2, Toyoaki Eguchi1,2, Atsushi Nakajima1,2 【序論】固体表面上に作成した有機分子薄膜を対象とし た非占有準位の分光計測は、近年盛んに研究が行われて いる有機エレクトロニクスを始めとし、表面に特有な機 能性の理解に不可欠である。占有準位の電子を 1 つ目の 光で一旦非占有準位に励起し、その励起電子をもう 1 つ の光で光電子として検出する 2 光子光電子分光(2PPE) は、有力な非占有準位分光計測手法である。本研究では、 代表的な有機分子材料である C60 フラーレンをグラファ イト(HOPG)上に吸着させた分子薄膜に注目し、励起 電子の生成メカニズムやその緩和ダイナミクスを 2PPE 測定から追跡した。 【実験】2PPE 測定では,フェムト秒チタンサファイア レーザーの第 3 高調波(76 MHz, h = 4.04~4.77 eV) を光源として用い、2 光子過程により放出された光電子 を半球型エネルギー分析器で検出した。また、試料から の光電子放出角依存性を評価する角度分解 2PPE、マッハツェ ンダー干渉計を用いた時間分解 2PPE の計測もおこなった。 HOPG 基板は、大気中でへき開し、超高真空へ導入後、400°C で 50 時間以上加熱することで清浄化した。C60 分子は石英セ ルを加熱し、真空中で蒸着した。膜厚は、少量の蒸着ごとに 2PPE を測定し、HOPG 表面由来の鏡像準位の消失や、仕事関 数の変化から見積もった。 【結果と考察】Fig. 1 は、C60 分子を 1 層相当蒸着した試料を、 光のエネルギーを変化させて測定した 2PPE スペクトルであ る。表面垂直方向に放出された光電子を検出しており、横軸は、 フェルミ準位(EF)を基準とした中間状態のエネルギーで示し ている。HOPG 清浄表面との比較から、Fig. 1 で観測されている特徴的な構造は、全て C60 膜 由来の状態であると判断した。それぞれの状態 は、エネルギー位置の光子エネルギー依存性か ら、Fig.2 のエネルギーダイアグラムに示すよ うに、占有準位、真空準位と EF の間の非占有 準位、真空準位より高いエネルギーにある非占 有準位に帰属することができた。占有準位は、 EF に近い方から C60 の最高被占有分子軌道 (HOMO)、HOMO-1、真空準位下の非占有準 位は、最低非占有分子軌道(LUMO)、LUMO+1、 LUMO+2、と帰属した。真空準位より上にある 非占有準位は、顕著なバンド分散を示すことが 角度分解 2PPE で観測されたことから、全て C60 超原子軌道群(SAMOs)であると帰属した。次に、時 間分解 2PPE 測定により、それぞれの非占有状態の時間変化を追跡したところ、LUMO 由来の準位に 興味深い変化が観測された。Fig. 3 に、LUMO 由来のピーク強度の遅延時間Δt に対する変化を示す。 LUMO の強度はΔt = 0 付近で最大となり、速やかに減少するものの、Δt = 250 fs 付近で一旦強度が増 加した後、再び緩やかに減少した。こうした時間変化は、LUMO 中の電子が、光励起に加え、より高 いエネルギーの励起準位からの緩和によって供給される過程を考えることで再現可能である。光励起 準位から LUMO への電子供給、および LUMO からの電子緩和が、いずれも一次指数関数的な時間変化 を取るとし、レーザーパルスの自己相関関数と共にフィッティングした結果を Fig.3 に示す。LUMO へ の電子供給、および LUMO からの電子緩和の時定数は、それぞれτrise= 89 fs、τdecay = 770 fs と見積 もられた。本要旨では示していないが、40 ML 程度の厚膜でも LUMO ならびに LUMO+1 のスペクト ル形状、エネルギー位置に大きな変化はなかったことから、これらの励起電子は、HOPG 基板から供 給されるのではなく、C60 膜内で生じていると考えられる。Fig.2 のエネルギーダイアグラムから見て 取れるように、今回の測定における HOMO-LUMO 間のエネルギー差は 2.9 eV であり、光学遷移に よる値(1.7 eV)[1]よりも 1 eV 以上大きく、むしろ紫外光電子分光と逆光電子分光で得られた値(2.5 eV)[2]に近い。これは、本研究で観測されている LUMO が、分子内での光励起によって正孔を伴って形 成されているのではなく、電荷的に中性の分子に一電子付与された状態からのものであることを示唆 している。したがって、光励起準位から LUMO への電子供給は、同一分子内ではなく、光吸収によっ て生じた高励起状態の C60 分子から、周囲の中性 C60 分子に電荷が移動することによって生じていると 考えられる。Fig. 1 を見ると、光子エネルギー 4.33 eV 付近で LUMO の強度増加が見られる。このエ ネルギーは、C60 薄膜における紫外吸収スペクトルのピーク波長に近く、光吸収に伴う高励起状態の形 成が LUMO の観測に関与していることを示唆している。本研究の結果は、2PPE で観測される有機薄 膜の非占有準位の解釈について新たな知見を与えるものである。 参考文献 [1] Y. Wang et al., Phys. Rev. B 46, 14396 (1992). [2] T. Takahashi et al., Phys. Rev. Lett. 68, 8 (1992). [3] S. Kazaoui et al., Sold State Commun. 90, 623 (1994). 4P080 分子-基板相互作用による有機分子単層膜のイオン化エネルギー変化 (千葉大院融合 1, 千葉大工 2, 分子科学研究所 3) ○井岡雄以 1, 米澤恵一朗 1, 牧野凛太朗 1, 田子達寛 2, 解良聡 3, 上野信雄 1, 奥平幸司 1,2 Ionization energy change in organic monolayer by molecule-substrate interaction (Chiba University1,2 , Institute for Molecular Science3,) ○Y. Ioka1, K. Yonezawa1, R. Makino1, T. Tago 2, S. Kera3, N. Ueno1, K.K. Okudaira1,2 [序 ] 有機エレクトロニクスにおいて、イオン化エネルギー(IE) はデバイスの電荷注入機構を理解するために重要な値であ る。有機分子の IE は分子配向や集合状態に支配されるとい うことが報告されているが[1][2]、その詳細な理解はまだ得 られていない。本研究では、有機分子の IE がどのような要 素によって決定されているのかを調べるために、 Fig.1 (1)Perylene(2)DIP (3)SnCl2Pc の分子構造 diindenoperylene(DIP)と Perylene、および二塩化スズフタロシアニン(SnCl2Pc)(Fig.1)の 3 種類の分 子の単層膜を、高配向性グラファイト(HOPG)と Au(111)の2種類の基板上に作製し、分子−基板相互 作用による有機分子単層膜の IE 変化に注目した。それぞれの分子の特徴として、DIP は Perylene と 同じ炭素原子からなるπ共役平面分子であるが、そのπ軌道の空間的な広がりは Perylene に比べ大き い構造である。SnCl2Pc は、電気陰性度の大きい塩素原子が分子面(Pc 環)から突き出したコマ型骨格 構造をもつため、Perylene や DIP と、基板との相互作用や分子配向が異なること期待される。それぞ れ試料の IE を紫外光電子分光法(UPS)、表面被服率を準安定励起原子分光法(MAES)にて評価した。 [実験] HOPG 基板は大気中で劈開し、超高真空中にて 873K で加熱クリーニングすることで清浄表面を得 た。Au(111)基板は、超高真空中で Ar イオンスパッタならびに 873K で加熱クリーニングを繰り返し 行うことで清浄面を得た。各基板の清浄性は UPS(HeⅠ:21.22eV)により確認した。各基板上に Perylene、DIP および SnCl2Pc を真空蒸着(〜1.0×10-7Pa)することで単層膜を作製した。各分子の蒸 着レートはそれぞれ、〜0.5Å/min(SnCl2Pc)〜、0.5Å/min(DIP)、〜1Å/min(Perylene)で行った。単層膜 の形成は UPS と MAES(He*23S:19.82eV)により確認した。UPS の光入射角は 45°、光電子放出角は 二次電子領域測定時 0±9°、HOMO 領域は 30±3°で観測した。各試料の仕事関数(WF)は、試料に −5.00V の電圧を印加することによって、UPS の二次電子の立ち上がりから得た。それぞれの試料にお いて UPS スペクトルより、IE を決定した。すべての測定および蒸着は室温で行った。 [結果と考察] Fig.2 に、(a)HOPG 上、(b)Au(111)上における Perylene、DIP および SnCl2Pc 単層膜の UPS スペ クトルの HOMO 領域と二次電子領域を示す。HOMO の束縛エネルギー(Eb)は Voigt 関数を用いたフ ィッティングによりピークトップから見積もった。Table.1 に、それぞれの系の IE をまとめたものを 示す。異なる基板上に作製した単層膜の IE を比較すると、HOPG 上よりも Au(111)上での IE の方が 小さく、分子に依存して約 0.2〜0.3eV 程度変化するという結果が得られた。HOPG より Au は高い誘 電率を有し、これによる界面での鏡像効果の違いが、IE の値に変化を及ぼしていると考えられる。各 分子の HOPG 上での IE と Au(111)上での IE の差(ΔIE)を見てみると、Perylen と DIP のΔIE に僅 かではあるが 0.07eV の差が出ている。また SnCl2Pc では、ΔIE が Perylene と DIP に比べて顕著に 小さい。Perylene、DIP は、HOPG 上において分子平面を基板に対して平行に配向し、一方 SnCl2Pc では、分子面を基板に対して傾けた配向をしている。このことから、分子配向の違いによる分子−基板 間相互作用の変化について検討する必要がある。つまり HOMO に分布するπ軌道と基板電子雲の重 なりによる軌道安定化に起因する効果や、鏡像効果の違いによる IE への影響が考えられる。前者につ いては、Perylene と DIP のΔIE の僅かな違いとしても検出されていると考えられ、分子構造(主とし てπ軌道の空間的広がり)の違いにより、分子−基板間相互作用に影響していることが示唆される。こ のように、分子配向に加えてπ軌道の空間的な広がりに起因する分子−基板間相互作用が IE の値に影 響することが見いだされた。講演では、分子構造と集合状態および分子-基板間相互作用による IE 変 化のメカニズムを詳細に議論する。 Fig.2 Perylene、DIP、SnCl2Pc 単層膜の(a)HOPG 上(b)Au(111)上の UPS スペクトル(左:HOMO 領域、右:二次電子領域) Table.1 イオン化エネルギー(IE) IE on Au(111)[eV] IE on HOPG[eV] ΔIE(Au-HOPG)[eV] Perylene 5.77 6.13 -0.36 DIP 5.81 6.10 -0.29 SnCl2Pc 5.64 5.81 -0.17 [参考文献] [1]S. Duhm et. al., Nature Mater. 7, 326 (2008). [2]N. Koch et. al., J. Phys. :Condens. Matter. 20. 184008 (2008).
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