研究計画書 慶應義塾大学 環境情報学部 学籍番号 79659746 [email protected] 平成 11 年 5 月 11 日 現在,広域分散ネットワークの普及により,ネットワークを介して取得できる情報が爆発的に増加し, ネットワークに接続可能な端末も多様化している.しかし,全ての端末から全ての情報を閲覧することは, 端末の性能の違い,サービスの性質の違いなどにより非常に困難である.本研究計画書では, 『端末および サービス透過的な情報共有支援システムの構築』について述べる.本研究では,端末およびサービスの特 性を考慮したインターフェース構築,データ変換を実現する環境を提供する.これにより,各端末の性能や サービスの性質に最適な環境で多様な情報の閲覧が可能となる. 1 研究テーマ 『端末およびサービス透過的な情報共有支援シス テムの構築』 2 研究の動機と目的 2.1 研究の背景 近年,インターネットをはじめとするコンピュー タネットワークが発達し,様々な媒体を利用した情報 を提供するサービスが存在している.例えば,文字 情報や音声,画像,動画などを閲覧できる WWW, 株価や企業情報を公開しているデータベースシス テム,協調作業支援 (CSCW:Computer Supported Cooperative Work) を実現するグループウェア,セ ンサによって実世界の情報をリアルタイムに送信す るサーバなどが挙げられる. さらに,コンピュータネットワークに接続可能 な端末も多様化している.プロセッサや記憶媒体 の小型化,省電力化により,ワークステーションや パーソナルコンピュータだけでなく携帯情報端末 (PDA:Personal Digital Assistants) や携帯電話,家 庭用ゲーム機などもコンピュータネットワークに接 続可能になろうとしている. 2.2 研究の動機 コンピュータネットワークに接続された端末が 様々なサービスを受けるためにはいくつかの問題が ある. 第 1 の問題としては,サービスに性質の差があ ることが挙げられる.端末からサービスを閲覧する には,その性質に応じたソフトウェアを導入する必 要がある.例えば,WWW を閲覧する場合とデー タベースシステムからデータを取得する場合では 異なったアプリケーションを導入しなければならな 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 研究計画書 い.サービスの性質の差としては,以下のようなも のが考えられる. 通信プロトコル WWW の情報を取得する HTTP (Hyper Text Transfer Protocol),メールを送信する SMTP (Simple Mail Transfer Protocol) など,サービ スごとに通信プロトコルが異なっており,通常 は通信プロトコルごとに端末側のソフトウェア を用意する必要がある. データ種類や形式 サービスごとに扱うデータの種類や形式が異な る.データの種類としては,画像データや文字 データ,音声データなどが挙げられる.また, データの形式は画像を例にすると,GIF 形式 や JPEG 形式,PNG 形式などがある. 第 2 の問題として,端末間に性能差があることが 挙げられる.例えば,カラーの動画を表示する場合 は,ワークステーションやパーソナルコンピュータ では表示できるが,性能の低い PDA などでは表示 できない可能性がある.端末間の性能差としては, 以下のようなものが考えられる. 入力,出力デバイス 入力はキーボード やマウス,ペン入力,音声入 力など,出力は表示画面の解像度や色数,音声 出力の有無などの違いが存在する. 演算装置 中央演算装置や画像処理装置の性能差がある. 演算装置の性能が低いと,画像の縮小や減色な どの複雑な処理が行えず,実用的な処理速度で はサービスを受けられない. 記憶装置 記憶装置には容量の差があり,容量が小さい端 1/5 末は,サイズが大きいマルチメディアデータの 保存,再生には適さない. 通信環境 低速な電話回線,信頼性が低い無線など,さま ざまな通信環境が存在する. このように,端末間の性能の差は端末に適した データを得られない,サービス間の性質の差はサー ビスを閲覧できないなどの問題を引き起こす.この ため,端末やサービスの違いを吸収し,情報共有 を支援するような基盤ソフトウェアが必要となって くる. 2.3 研究課題 B 端末透過性を実現するシステムの設計,実装,評 価 端末間の性能の差を考慮し,端末およびサービス に変更を加えずに異なる端末でサービスを閲覧可能 なシステムを実現する.図 2にその概念を示す. 研究の目的 本研究の目的は,端末間の性能の差およびサービ ス間の性質の差を吸収し,多種多様な情報を共有で きるシステムの構築を実現することである. 研究課題は以下のものが挙げられる. 研究課題 A サービス透過性を実現するシステムの設計,実 装,評価 サービス間の性質の差を吸収し,端末およびサー ビスに変更を加えずに異なるサービスの閲覧可能な システムを実現する.図 1にその概念を示す. 図 2: 端末透過性 PDA でコンピュータネットワークを介して動画 を再生する場合,データ形式の未対応,再生能力の 不足,表示能力の制限などの問題が起こりうる.本 研究では,端末の入出力デバイスの制限に合うよう にユーザインタフェースを構築し,取得したデータ が端末の性能に適した種類や形式,品質に変換して 送ることで,それらの問題を解消する. 本研究では,以下のような応用例が考えられる. 応用例 1 図 1: サービス透過性 WWW を閲覧する環境がない端末で WWW を 閲覧する場合,新たに WWW クライアントを用意 する必要がある.また,WWW クライアントに動 画表示機能が無い場合,動画を表示することができ ない.本研究では,サービスに適したユーザインタ フェースを選択し,動画を静止画,テキストを音声 にするなどデータの種類を変換することで,それら の問題を解消する. 新しいサービスが出現した時にもサーバ側にモ ジュールを追加するだけで,クライアントの変更を 行わずに,サービスを利用できる.また,既存のク ライアントを利用する場合でも,機能が限定される がサービスを利用することが可能である. 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 研究計画書 スケジュール管理情報を提供しているグループ ウェアがあり,通常はワークステーションを利用 して情報共有を行っていたとする.外出先でスケ ジュールの確認が必要になった場合,ワークステー ションが手元にないため,確認できない.本システ ムを利用することで,外出先の電話から本システム を仲介して任意の情報を音声に変換して聞ける. 応用例 2 テレビやビデオ,システムステレオなどがネット ワークで接続され,各機器を操作できるシステムが 提供されている.PDA で操作する場合には専用の クライアントが必要となる.本システムを利用する と,PDA にインストールされた WWW ブラウザ から操作できるようになる. 3 現在までの活動実績 3.1 Macintosh コンサルタント への参加,CNS ガイド の執筆および編集 学部 2 年次の春から慶應義塾大学湘南藤沢メディ アセンターにて Macintosh コンサルタントの活動 2/5 を行ってきた.学生との応対を通してユーザとコ ンピュータの接点の重要さについて学んだ.学部 3 年次では,Macintosh コンサルタントの学生代表 を努め,コンサルタントの学生の統括を行った.ま た,学部 2 年次と 3 年次の秋学期には 1998 年度版, 1999 年度版 CNS ガイド [4] [5] の執筆,編集委員と なり,CNS に関する原稿を執筆,編集した.1999 年度版 CNS ガイド については WWW 化作業も行 い,現在公開されている. 3.2 徳田研究会 KMSF プ ロジェクト への参加 同じく学部 2 年次の春から慶應義塾大学環境情報 学部 徳田英幸教授の研究プロジェクトである,Keio Media Space Family (KMSF) プ ロジェクト [2] に 参加している.同プロジェクトでは,知的協調作業 支援環境の構築を目標にモバイルアプリケーション の開発や異機種混在ネットワーク環境においてのア プ リケーション開発などを行っている. KMSF プ ロジェクト に おい て ,私 は KMSFMCAP システムの設計とクライアントプログラム の実装を行ってきた.KMSF-MCAP システムは, 携帯情報端末に適したメディアデータ変換支援を行 うシステムである.WWW の情報を制約条件の多 い携帯情報端末に適するように変換し,携帯情報端 末に送信する [1].図 3に KMSF-MCAP システム の概念図を示す. R3 プロジェクトは,情報処理分野だけでなく,家 電製品,計測機器を始めとする幅広い組み込みシス テムへも適用する,信頼性 (Reliable),リアルタイ ム性 (Real-Time),動的再構成 (Recongurable) を サポートするソフトウェアの構築を目的とするプロ ジェクトである. R3 プロジェクトでは,KMSF-MCAP システムの 本実装として,携帯情報端末に適した WWW サー バから取得されるメディアデータ変換支援システム のクライアント部分の実装を担当した. 研究成果はソフトウェアおよびド キュメントが, IPA に納品され,ソフトウェアは CD-ROM によっ て配布されている. 4 研究の概要と設計方針 4.1 本研究の研究課題は,端末およびサービスの特性 を考慮したインタフェース構築,データ変換を実現 するシステムの設計,実装,評価である. KMSF-MCAP システムでは,サービス,端末と も固定しており,サービスや端末を変えようとして も対応できない問題があった.そこで,本研究では さらに汎用的な情報共有支援環境の構築を目標とす る.図 4に本システムの概念図を示す. 図 4: システム概念図 図 3: KMSF-MCAP システム なお,KMSF-MCAP システムに関する成果を, 情報処理学会コンピュータシステムシンポジウムに 研究論文として発表した. 牧野,由良,原嶋,金平,大越,中澤,徳田, \Keio Media Space Family - MCAP システム",情報処理学会コンピュータシ ステムシンポジウム論文集,pp.83-88, 1997 3.3 通産省情報処理振興事業協会 ト への参加 R3 プロジェク 学部 3 年次の夏から通産省情報処理振興事業協会 (以下 IPA と呼ぶ) R3 プロジェクト [3] に参加した. 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 研究計画書 概要 4.2 関連研究 本研究は以下のような研究テーマを含んでいる. ユーザインタフェースの自動構築に関する研究 QoS(Quality of Service:サービス品質) 制御に 関する研究 Proxy サーバを利用したデータ変換技術に関 する研究 研究を行うに当たって,以上の研究テーマに関連 する議論に参加し,各研究成果の優れている点を取 り入れていく. 4.3 設計方針 本システムは,インタフェース構築とデータ変換 を行うサーバ (以下 Proxy サーバと呼ぶ) およびク 3/5 ライアントから構成されており,各端末のクライア ントは Proxy サーバを仲介して,コンピュータネッ トワーク上にあるサービスを閲覧する.システムの 構成図を図 5に示す. るデータをサービスに適したものに変換する.デー タ変換モジュールは,画像の減色,音声から文字へ の変換などの変換の種類ごとに用意され,適したモ ジュールが選択される. データ変換モジュールの機能を以下に挙げる. 画像の色数を変える,サイズを変えるなど,デ ータの品質を変換できる. GIF 画像を JPEG 画像に,HTML データをテ キストデータにするなど,データの形式を変換 できる. テキストデータを音声データに,動画データを 静止画データにするなど,データの種類を変換 できる. 図 5: システム構成図 4.3.1 モジュール Proxy サーバ内では,端末モジュール,データ変 換モジュール,サービスモジュールの 3 つのモジュー ルが協調して動作する.クライアントから受けた情 報 (取得要求など) はインターフェースモジュール, データ変換モジュール,サービスモジュールを経 由してサービスを提供しているサーバ (以下データ サーバと呼ぶ) に送られる.データサーバから返っ てきた情報は逆の手順でクライアントに返される. 端末モジュール 端末モジュールは,クライアントとの通信を担 当し,端末透過性を実現する.端末モジュールは, Ethernet やシリアルケーブル,赤外線などの端末と の通信媒体ごとに用意され,端末に適したモジュー ルが選択される. 端末モジュールの機能を以下に挙げる. 現在利用可能なサービスをクライアントに提 示し,選択を促す. サービスと端末に適したユーザインタフェース をクライアントに送信する. クライアントから要求された内容を解析し,デ ータ変換モジュールに送る. データ変換モジュールから渡されたデータをク ライアントに送信する. 端末モジュールは,端末に応じた通信方法を利用 することで,端末非依存のシステムを実現する.ま た,動的に端末モジュールを Proxy サーバに追加, 削除できる. データ変換モジュール データ変換モジュールは,端末モジュールとサー ビスモジュール間の仲介を行い,サービスから送ら れるデータを端末に適したものに,端末から送られ 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 研究計画書 データ変換は,連続して行える.例えば,カラー画 像をグレースケール画像に変換し,さらにサイズを 小さくするなどの,複合変換が可能となる.データ 変換モジュールは,動的に端末モジュールを Proxy サーバに追加,削除できる. サービスモジュール サービスモジュールは,データサーバとの通信 を担当し,サービス透過性を実現する.サービス モジュールはサービスごとに用意され,適したモ ジュールが選択される. サービスモジュールの機能を以下に挙げる. データ変換モジュールから渡された要求をデー タサーバへ送信する. データサーバから渡されたデータをデータ変 換モジュールに送る. サービスモジュールは,サービスに応じた通信プ ロトコルを利用することで,サービス非依存のシス テムを実現する.また,動的にサービスモジュール を Proxy サーバに追加,削除できる. 4.3.2 通信手順 クライアント,Proxy サーバ,データサーバ間の 通信手順を表 1に示す. 次に通信手順の概要を説明する.なお,括弧内の 数字は表 1の数字に対応する. クライアントから利用できるサービスの一覧を要 求されると (1),端末モジュールは登録されている サービスモジュールを検索して全てのリストをクラ イアントに送信する (2). クライアントからサービスの選択要求が出され ると (3),端末モジュールは端末に適したユーザイ ンタフェースの構造情報の送信を行い (4),端末に サービスを閲覧するためのグラフィカルユーザイン タフェースが表示される. 次に,クライアントからデータ取得を要求される と (5),端末モジュールがその要求を解析し,デー タ変換モジュールを介してサービスモジュールに 4/5 表 1: 本システムの通信手順 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 通信方向 C ) PS C ( PS C ) PS C ( PS C ) PS PS PS ) DS PS ( DS PS C ( PS 通信内容 サービスの問い合わせ サービス一覧の返信 サービスの選択 ユーザインタフェースの送信 アクションの送信 アクションの解析 データの要求 データの返信 データの変換 データの送信 (C:クライアント,PS:Proxy サーバ,DS:データサーバ) データ取得の要求を出す (6).サービスモジュール は,サービスに応じたプロトコルを利用してデータ サーバにデータ取得の要求を送信する (7). データサーバからデータが返信されると (8),サー ビスモジュールはデータ変換モジュールにデータを 渡し,データ変換モジュールがデータを端末に適し た形式に変換する (9).その後,端末モジュールが クライアントにデータを返信すると (10),端末に データが表示される. 5 評価方針 本研究については,以下のように定性的,定量的 の 2 つの側面からの評価を行う. 5.1 定性的評価 現在他の研究機関等で開発されている類 似 の シ ス テ ム (\ProxiWeb"[6],\TranSend Proxy"[7],\SIMS"[8]) との機能面での比較を 行う. 本システムを利用した場合と利用しない場合 での機能面での比較を行う. 5.2 定量的評価 他の研究機関等で開発されている類似のシス テムと処理時間の比較を行う. 本システムを利用せずにサービスの閲覧を行っ た場合との処理時間の比較を行う. 6 期待される成果物 期待される成果物は以下の通りである. 本システムのツールキット { サーバアプリケーションとライブラリ群 { クライアントソフトウェア 学会での発表論文 修士論文 7 長期展望 これまでは,サービスに対して専用のクライア ントを開発し,そのクライアントを利用してサー ビスを閲覧するのが常識であった.しかし,本研究 によって実現されるシステムを利用すると,Proxy サーバに対応するモジュールが存在すれば,クライ アントは何も変更せずに既存のサービスを再利用で きるようになる. また,さまざまな種類のモジュールが開発される と,サービスの新しい利用法が見つかると思われ る.ネットワークに接続されたテープレコーダに自 分宛のメールを音声に変換して録音するなど,今ま ででは考えられなかった利用法が出現する可能性も ある. 本研究成果によって実現されるシステムは,将来 的には計算機上で提供されるサービスという枠組み を超えて社会的なサービスの利用形態に大きな変化 をもたらすものであると考える. 8 終わりに 本研究計画書では,私の学部時代の研究活動,大 学院で研究予定の『端末およびサービス透過的な情 報共有支援システムの構築』に関する研究計画につ いて述べた. 多くの企業と共同で研究が行われている IPA HDI プロジェクトにおいて,私は PDA から機器制御を 行うためのフレームワークについて研究を進めてい る.HDI プロジェクトでは,QoS 制御やサービス の自動構築に関する最先端の研究が行われており, 本研究を進める場として最適である. 政策・メディア研究科では政策系,情報系双方の 領域において広範な研究が行われており,その結果 として産み出される様々な種類の情報を利用できる 点においても最適である. 参考文献 [1] 牧野,由良,原嶋,金平,大越,中澤,徳田,\Keio Media Space Family - MCAP システム",情報処理学会コンピ ュータシステムシンポジウム論文集,pp.83-88,1997 [2] \KMSF Project",http://www.sfc.wide.ad.jp/kmsf/ [3] \R3 Project", http://www.mkg.sfc.keio.ac.jp/R3/ [4] 慶應義塾大学湘南藤沢メディアセンター,\SFC CNS ガイ ド 1998" [5] 慶應義塾大学湘南藤沢メディアセンター,\SFC CNS ガイド 1999",http://www.sfc.keio.ac.jp/mchtml/cns-guide/ [6] \ProxiWeb",http://www.proxinet.com/ [7] \TranSend Proxy",http://transend.cs.berkeley.edu/ [8] \SIMS Project", http://www.isi.edu/SIMS/ これらの成果物は随時インターネット上に公開 し,広く評価やフィード バックを募る. 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 研究計画書 5/5
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