特集 新たな段階に突入したレーザー核融合研究 レーザー核融合の 産業波及効果 大阪大学 レーザー技術総合研究所 (独)日本原子力研究開発機構 中井貞雄 井澤靖和,藤田雅之 近藤公伯,大道博行 光産業創成大学院大学 名古屋大学 三間圀興 佐宗章弘 重要でかつ挑戦的な課題は炉用レーザードライバーの開 1 発である。 総論 レーザー加工等に用いられる産業用ハイパワーレーザ レーザー核融合研究はいま新しい段階を迎えようとし ーは近年急速な進歩をみせている。パワー半導体レーザ ている。核融合点火・燃焼・エネルギー利得の実証を目 ー,光ファイバー技術,セラミック等の新レーザー媒質, 前にし,研究開発の中心が物理実証から動力炉の構築を 波長変換等の光制御技術などの進歩によるものである。 目指した技術開発へと移行しようとしている。その最も CW 出力で 100 kW 級のレーザーが産業用として使用さ NIF, LMJ Implosion 1 MJ IFE driver FIREX-II (ILE) Pulse energy(J) 100 kJ GXII (ILE) LFEX (ILE) 10 kJ Heating Space debris 10 kW 100 W 1 kW Laser induced lightning Laser propulsion 100 kW 1 MW 1 kJ PW laser (ILE, RAL) 10 MW Neutron source 100 J 10 J Mer ● A(LLNL) HALNA(ILE) Ion ●● LUCIA Nonthernal (Yb:YAGI) Process of CFRP Commercial MPQ (FL) EUVL (Yb:YAGI) MBI Commercial (LD) (Yb:YAGI) 10 10–1 1 102 103 104 105 Ploaris(Jena) (Yb:Glass) 1-10 ns 1J 10-100 ps 0.1 J 10-100 ts –4 10 10–3 10–2 Repetition rete[Hz] 図 1 Progress of short pulse, high average power laser and new applications OPTRONICS(2012)No.9 1 特集 新たな段階に突入したレーザー核融合研究 れる状況となってきた。集中熱源としての CW レーザー から,化学反応・核反応制御や非熱加工等光子・光波と ターゲット供給 集光鏡 してのレーザー本来のいろんな特性を利用しようとする パルスレーザーの産業応用も上記要素技術の開発に支え レーザー られ急速に進展しつつある。21 世紀は光の時代といわれ るゆえんである。 短パルス,高繰返しで高平均出力レーザーの最近の進 展をまとめて図 1 に示す。繰返し 100 Hz 〜 1 kHz で平均 EUV 光源プラズマ 出力 1 kW クラスのレーザーが材料加工等の産業応用を 中間集光(IF)点 目的として開発研究から具体的な製作へと進んでいる。 次の段階として,中性子源,誘雷,宇宙デブリの除去等 図 2 レーザープラズマ EUV 光源 全く新しいレーザーの産業応用を目指して,平均出力 10 〜 100 kW クラスのレーザーが考えられている。平均出 必要とされている。 力 100 kW クラスのレーザー(10 kJ × 10 Hz)はトラッ レーザープラズマから放出される EUV 光のうち集光 ク 1 台に乗る程度の大きさの 1 モジュールであり,レー 鏡で IF 点に集められるのは 30 〜 40 %であり,IF 点で ザー核融合炉ドライバーとしてのパルス出力 MJ,平均 >200W を得るにはプラズマから >500W の EUV 出力が必 出力 MW のシステムを構成する基本要素モジュールとな 要となる。このような高出力 EUV 光を効率よく発生でき るものである。したがって 10 kJ モジュールは核融合ド るプラズマの実現をめざして,理論・シミュレーション ライバー開発の到達目標でもある。 と実験の両面から詳細な研究が行われてきた。スズ多価 このような短パルス高平均出力レーザーの開発過程に イオンからの発光スペクトルを実測 4)し,それを用いて おける,その波及効果としての新しい応用例を以下に, 原子モデルの精緻化 5)を図り,プラズマのダイナミクス それぞれの第一線で研究開発を行っている方々にその概 や放射輸送を解析する 2 次元放射流体シミュレーション 要を紹介して頂く。 コード 6)と組み合わせて変換効率などの理論解析が行わ れた。また実験では,レーザーの波長,パルス幅,照射 2 極端紫外(EUV)光源 強度,ならびにターゲットの形状,密度などを変化させ, 広いパラメータ領域で EUV 発光スペクトルや変換効率 線幅 22 nm 以下の次世代半導体デバイス製造に必須と などを測定して実験データベースが構築された 7 〜 9)。こ される極端紫外(Extreme Ultra Violet,EUV)リソグラ のような研究を通して,高い変換効率(入射したレーザ フィを実現するための最重要課題の一つは波長 13.5 nm ーエネルギーに対する,波長 13.5 nm を中心とした 2 % の EUV 光源の開発 1 〜 3)である。10 価程度のスズ多価イ バンド幅内のスペクトル領域で立体角 2 π に放射される オンからの発光を利用するレーザープラズマが EUV 光 EUV 光エネルギーの比)が得られるプラズマのイオン 源候補の一つであり,実用化に向けた開発の最終段階に 密度(1018 〜 1019 cm–3)と電子温度(〜 30 eV)の領域が 入っている。 明らかになった。 レーザープラズマ EUV 光源の概念を図 2 に示す。直 このような条件を満足するプラズマの生成法として 2 径 10 〜 20 μ m 程度のスズ液滴を連続供給してレーザー 波長レーザー・ダブルパルス照射法が提案された。まず を照射し,生成されたプラズマから放射される EUV 光 Nd:YAG レーザー(プリパルス)を照射してスズ液滴を を集光鏡で中間集光(Intermediate Focus, IF)点に集める。 先行膨張させ,最適な大きさおよび密度まで膨張したと 光源側と露光装置側の接続点である IF 点で,繰り返し ころで CO2 レーザー(メインパルス)を照射して加熱す 10 〜 100 kHz,出力 200W あるいはそれ以上の EUV 光が るという手法である。その結果 2008 年に変換効率 4.2 % 2 OPTRONICS(2012)No.9 (当時世界最高値)が達成された 10)。その後もレーザー とピコ秒オーダーで移行する。超短パルスレーザーを用 パラメータを最適化する努力が続けられ,本年 7 月には いるとその熱緩和が生じる前に電子にエネルギーが注入 5.2 %という変換効率が報告されている 11) 。 レーザーパラメータの詳細は公表されていないが, され,アブレーションが生じる。そのためアブレーショ ン部分において熱影響層を制御できる。パルス幅による EUV 光源プラズマの生成には,パルス幅〜 10 ns,出力 加工の違いを図 3 に示す。ナノ秒パルスを固体ターゲッ 〜 1 kW の Nd:YAG レーザー(プリパルス用)と,パル トに照射した場合(図 3(c))は,発生したプラズマを ス幅 10 〜 50ns,出力〜 10 kW の CO2 レーザー(メイン レーザーが加熱し続けるため,周囲に融解層が形成され パルス用)が用いられているものと予測される。繰り返 る。これに対してフェムト秒照射の場合(図 3(a))は, し周波数はいずれも 100 kHz 程度であろう。 レーザーは固体とのみ相互作用し不要な加熱がなくなる より線幅の狭い半導体デバイスの製造には 13.5 nm よ ためエネルギー利用効率も高い。さらに多光子過程を利 り短波長の光源が必要とされている。6 nm 付近の光源を 用すると回折限界以下の加工が可能になるので,微細加 めざして,スズに代わる発光体材料の探索と最適なプラ 工の innovative tool として注目されている。 ズマ条件の研究が継続されている。 超短パルスレーザーを加工しきい値近傍の集光強度で 物質に照射すると,表面にサブミクロンの微細周期構造 3 非熱加工 が自発的に形成される。レーザーの干渉パターンを用い ずに,試料上でレーザースポット内に回折格子のような 3.1 はじめに 溝構造を作り出すことができ,LIPSS(Laser-Induced Periodic Surface Structure)と呼ばれている 14)。溝の方向 レーザー核融合研究においては,パルスエネルギーが はレーザーの偏光に対して垂直方向に形成され,溝間隔 kJ 〜 MJ 級の大出力レーザーはもちろんのこと,超短パル は照射フルーエンスに依存してレーザー波長程度あるい スを用いたピークパワー PW 〜 EW 級のレーザー開発が進 は波長の 1 / 2 〜 1 / 3 程度となることが報告されている。 められている。この超短パルスレーザー技術は産業応用 このようなサブミクロンの表面微細構造には,摺動面の においても重要な役割を果たすものと期待されている。 摩擦係数を低減させる効果やコーティングの密着性を向 超短パルスレーザーはエネルギーが小さくてもピーク 上させる効果がある。 強度が高いために,照射フルーエンスに応じて様々な加 超短パルスレーザーは小さいエネルギーでもピークパ 工現象が発現することが知られている。近年では加工対 ワーが高いために各種材料の表面改質で興味深い現象を 象となる試料も金属,半導体,誘電体,生体と多岐にわ 誘起することができる 14)。材料そのものの外形を変える たるようになっている。ガラスや石英,ワイドバンドギ ことなく変化させることが可能となる。Si ウェハの様に ャップ半導体等の透明材料においては,多光子吸収を用 結晶構造を有する試料に超短パルスレーザー(パルス いた内部加工が盛んに研究されているが,ここでは,主 幅< 8 ps)を照射すると,アブレーション加工しきい値 に金属,半導体を対象にした表面加工現象について記述 以下のフルーエンスで数 10 nm のアモルファス化を誘起 する 12, 13) 。 3.2 超短パルスレーザーを用いた非熱加工 14, 15) (a) (b) (c) 産業面での超短パルスレーザーの応用として最も注目 されてきたのはアブレーション加工である。物質にレー 22 μ m 25 μm 40 μ m ザーが照射されるとまず,はじめに電子と相互作用を起 こしエネルギーが注入される。そのエネルギーはアブレ ーションに要するエネルギーとしての格子エネルギーへ OPTRONICS(2012)No.9 図 3 パルス幅が(a)100 fs,(b)200 ps,(c)10 ns の場合の加工痕 SEM 像の比較。ターゲットは Si。 3 特集 新たな段階に突入したレーザー核融合研究 Surface 4 粒子加速とその応用 0.5μm レーザー核融合の実用化には駆動レーザーの開発が極 めて重要であり,適切な年次計画の下に国を巻き込んだ a-Si 着実な研究開発を行っていく必要があると思われるが, 50 nm c-Si 5 nm ここで記すレーザー加速と呼ばれる現象は,特にレーザ ー駆動イオン加速を応用した小型粒子線がん治療の実現 図 4 フェムト秒レーザー照射によりアモルファス化した Si ウェハの断 面 TEM 像。 は,十年程度での実用化が期待でき,レーザー核融合用 駆動レーザー技術の派生技術としても極めて魅力的な研 究開発テーマと考えられる。 することができる。図 4 に超短パルスレーザー照射によ レーザー加速と言えば,1979 年に田島・ Dawson が発 りアモルファス化した Si の断面 TEM(透過型電子顕微 明した理論によるレーザー電子加速器に始まる。パルス 鏡)像を示す。形成されたアモルファス層はきわめて均 幅がピコ秒でピーク出力がテラワットになるようなレー 一な深さ分布を持ち,単結晶層との界面もシャープであ ザーがあれば,コヒーレントな電子プラズマ波を誘起す る。アモルファス層の厚みは一定の範囲内で照射フルー ることができ,このプラズマ波中に形成される強力な縦 エンスや照射回数に依存せず,照射レーザーの波長に依 電界(GV/m を越す)が,ほぼ光速に近いプラズマ波の 存することが明らかになっている。 位相速度で伝播するので,荷電粒子の加速電界に使える 一方,アモルファス化に要するよりも低い照射フルー というアイデアであった。当時は,ピコ秒パルス発生は エンスでアモルファス Si を単結晶化できることも確認さ できるものの,それをテラワットまで増幅する方法がな れている。フェムト秒パルスの低フルーエンス照射での く,1985 年のチャープパルス増幅法(CPA)の発見以降 表面改質が新たな動向として注目されている。 になってようやく実験が進み始める。2004 年に準単色な 3.3 おわりに レーザー電子加速の報告がなされ,2006 年には 40 TW レーザーパルスを用い,わずか 1 センチ程度の加速長で 超短パルスレーザーを用いた加工においては照射レー 1 GeV 準単色電子加速が起こったことが報告された。こ ザーフルーエンスに応じて様々な現象が誘起され,産業 のような加速技術に加え,従来型加速器で行われている 的にも有益な加工方法として注目されている。熱影響層 ような多段化に成功すれば,新たなエネルギー領域を睨 の少ない加工は太陽電池パネルの高効率化や CFRP の微 んだ電子加速器技術になることが期待される。また,こ 16) に,摩擦低減効果がある LIPSS 形成加工は自 の手法で発生できる電子バンチのバンチ幅がフェムト秒 動車等の燃費向上に,結晶構造の変化は半導体のアニー やそれ以下にできることも魅力であり,パルスラジオリ リング等に応用が期待されている。より少ないエネルギ シスなどへの応用も期待できよう。 細加工 ーでより効率的な加工をする,あるいは材料に有益な変 次にイオン加速について記す。レーザー駆動イオン加 化をもたらす超短パルスレーザーは低炭素社会の実現に 速に関しては上記電子加速とは異なり,実験による発見 不可欠なツールであると言える。 が先行したと考えられる。米国ローレンスリバモア国立 レーザー核融合ドライバー開発の波及効果として,安 研究所にて,世界初のペタワットレーザーが高速点火核 価で高出力,高安定な産業用超短パルスレーザー開発が 融合研研究用にガラスレーザーベースで開発され,その 促進され,我が国の産業競争力の向上に大きく貢献する レーザーパルスを金属薄膜に照射したところ,薄膜裏面 ことが期待される。 に高エネルギーの陽子線が発生することが 2000 年に報 告された。報告された最大エネルギーは 60 MeV に達し 4 OPTRONICS(2012)No.9 ており,昨年までは論文発表されているデータとしては 現もさることながら,実用化へはレーザー技術開発が不 世界最高の値であった。この結果が伝えるメッセージは 可避であり,そこでは 10 Hz,100 Hz 程度の繰り返しの ペタワット級のレーザー装置があれば 100 MeV 級の陽子 100 J クラスのコンパクトなレーザー装置の開発が最重 線を加速することが可能ということであり,その後卓上 要課題となる。総論に記されるように,それはレーザー 型のペタワット級レーザーの稼働に現在の原子力機構関 核融合研究で必要とされるレーザー技術の通り道にある 西研が世界に先駆けて成功し,レーザー駆動のコンパク ものである。 トイオン加速器による粒子線がん治療の汎用化を謳い文 句にした研究開発が,我国を皮切りに世界各地で行われ ることになった。粒子線がん治療は,体の奥にあるがん 5 中性子源とその応用 病巣に適度なエネルギーの粒子線を当てれば,粒子線の 中性子は,透過性の大きさ,磁気特性,原子核散乱・ 持つブラッグピーク特性により,がん病巣手前に存在す 反応特性などから,半導体加工や原子炉燃料の再処理, る健全な細胞に影響をそれほど与えずにがん病巣をピン 癌治療等の医療応用(BNCT 17)等),生体高分子や燃料電 ポイントに攻撃できるという大きなメリットを持つ。X 池に置ける水素等の軽元素の挙動の計測手段として,利 線や電子線を使っても体にメスを入れずにがん病巣の攻 用が急速に広がっている。 撃は可能なのだが,手前にある健全な細胞に,がん病巣 中性子ビームには,よく言われるように「見る,極め に与えるよりはるかに多くのエネルギーを付与せざるを る,創る」という機能があり,「見る」とは,中性子の えないため,やけどを誘発するなど,粒子線を用いた場 高い透過能力を利用して物質の内部構造を詳細に観測す 合に比べれば患者に対する負担は格段に大きい。粒子線 るものである。直接画像計測する場合は,中性子が水素 がん治療はこの意味でがん治療の分野にイノベーション などの軽元素で強く散乱されるため,X 線ビームとは全 を起こしたのであるが,深部のがん病巣まで照射しよう く異なる特徴をとらえる画像計測が可能である。さらに と思うと,陽子ならば 200 MeV のエネルギーが必要で, 中性子の波としての特徴を透過計測に使うと,物質の結 それを発生させるための加速器の規模が大きく,費用や 晶構造で散乱された中性子のパターンからその物質構造 装置規模の面で汎用性に問題があるのが現状である。す を解析することが出来る。「極める」とは,中性子の分 なわち 100 MeV 級のレーザー駆動イオン加速が実現すれ 析能力を用いて,微量の元素などを即発ガンマー線や, ば,この問題を一気に解決できる可能性があるというこ 放射化分布を用いて非破壊で計測するものです。「創る」 とである。原子力機構関西研では,つい最近になって 40 とは,パワー半導体素子のための大型シリコン結晶に中 MeV の陽子線加速に成功し,まだ誰も実現できなかっ 性子を入射し,核変換によりリンドープし,半導体を生 た,動物実験可能なレベルの小型化可能なレーザーによ 成したりするものである 18)。ガソリンエンジンの動作状 る陽子線発生に目処を付けることに成功した。レーザー 態の検査・診断・分析や燃料電池の水素の挙動診断と合 駆動イオン源が実用化されれば,がん治療だけではなく, わせて,自動車産業への応用が期待される。我が国に置 従来の加速器で展開していた利用が汎用化されるわけで ける強力中性子源には,J-PARC や原子炉施設が有るが, ある。一方で,もう 1 つのレーザー駆動の特徴としては これらの大規模中性子源の装置の利用は限定的(例えば, 短パルス化が可能である点であり,電子加速同様に従来 リンドープのための中性子照射の国内比率はわずか 型加速器では実現できないバンチ幅のイオン源の応用が 3 %)であり,利用者の要望に十分答えられず海外の施 期待できる。 設利用に頼っているのが現状である 19)。 現在,レーザー加速研究は基礎研究から実用化研究へ 最近,高強度レーザー生成高温高密度プラズマ中で起 の移り変わりの時期にある。特にイオン加速については, きる各種の核融合反応生成の高密度の中性子源が注目さ 小型粒子線がん治療器へ応用の応用が最も期待される。 れている。高強度レーザー科学技術の進展は目覚ましく, その実現には,核子当たり 100 MeV 級のイオン加速の実 レーザー核融合実証が数年内に見込まれると共に,レー OPTRONICS(2012)No.9 5 特集 新たな段階に突入したレーザー核融合研究 ザー加速,レーザー生成量子ビーム科学,等を含む高強 1020 度場科学が急速に展開しており,レーザー中性子源は, では大阪大学,日本原子力研究開発機構関西光科学研究 所,理化学研究所,浜松ホトニクスー光産業創成大学院 大学-トヨタ連携研究,等で活発である。これらの研究 FIREX 16 10 Neutron yield/pulse される。高出力レーザー生成量子ビームの研究は,国内 Fast ignition 1018 長期的には強力かつコンパクトな照射装置になると期待 1014 Exploding pusher 1012 LHART 7 Li (p, n) 7Be 1010 108 6 10 稼働しており,高速点火核融合実証実験(FIREX-I)20), 104 連続中性子発生 21),レーザー加速,等の研究がすすんで 100 0.1 Pb (p, xn) Bi 究所,イギリスのラザフォード研究所,米国の LLNL, 上海光機所や北京の物理学研究所等においてレーザー核 融合,相対論レーザープラズマやレーザー粒子加速の研 Implosion Cluster CD shell Nuclear reaction Expected by laser fusion g-D2 2.2 E 100 fs JanUSP 1 10 100 1000 104 105 106 107 Laser pulse energy(J) いる。海外においては,フランスの CNRS や CEA の支 テキサス大学オースチン校,ミシガン大学並びに中国の VULCAN 11 B (p, n) 11C nat 35 fs Falcon 所では,テラワットからペタワットに達するレーザーが 援によるエコールポリテクニーク,LOA やボルドー研 T) NIF (D Q=1 Central ignition 図 5 レーザー核融合中性子発生数とパルスレーザーのパルスエネルギ ーの増加の様子を示す。NIF では核融合点火後は 1018 以上の中性 子発生が期待されるが,現在は点火直前であり,中性子発生数は 星印で示すように 1015 以下である。黒丸は 10 ヘルツで動作したと きの毎秒当たりの中性子発生数を示す。その他のデータ点は世界 の主なレーザー核融合装置等の実験値を示している。参考文献 24)S. Nakai et al.,より 究が進められている。 このような高出力レーザー関連科学技術の発展で,多 様なレーザー駆動中性子発生手法を実用可能にしつつあ る。具体的には,(a)加速された陽子を原子核に衝突さ 6 宇宙応用 せるビーム核融合による中性子発生:すなわち,極短パ 宇宙は現在の人類の生活圏から離れ,無重力かつ真空 ルス超高強度レーザーの効率的イオン加速と指向性高輝 の環境にある。現在我々が持っている宇宙への輸送手段 度中性子発生 22),(b)レーザーによるクーロン爆発によ は,ロケットのみである。ロケットでは,推進剤(燃料 23) ,(c)爆縮による高強度のパルス中性子 および酸化剤)の熱エネルギーを運動エネルギーに変換 の発生:すなわち,中空の核融合ペレットに高強度レー して推力を得ている。宇宙空間にどれだけ有効な物資 ザーを周辺から照射し爆発的に圧縮することによる核融 (ペーロード,人類,生物を含む)を輸送できるかは, る中性子発生 合中性子発生等が考えられる 24) 。図 5 に示すように,シ ングルショットのレーザー核融合実験ではあるが,1 パ ルス当たり 1013–1015 個の中性子発生が日米で実証されて ツオルコフスキー(Tsiolkowsky)の式で与えられる。 mf = exp⎛ − ΔV ⎞ mi ⎝ υex ⎠ (1) いる。近い将来,数十ヘルツで繰り返すことにより, 1016/sec の 14 MeV 高強度中性子源が実現可能で,その応 用研究の展開が待たれる。 ここで,m f,m i, υ ex,ΔV はそれぞれ宇宙到達時の質量 (ロケットの構造およびペイロードの質量),打ち上げ時 一方,比較的短期間で実用化が期待できるコンパクト の全質量,ロケットエンジンの排気速度,必要な速度増 なレーザー中性子源として,原子核反応の閾値エネルギ 分である。ΔV は,目的の軌道を決めればほぼ一義に決 ー近傍のレーザー生成イオンビームによる核反応中性子 まる量で,地上から宇宙ステーションなどがある低軌道 源(例えば,Li7(P, n)反応)がある 19) 。この方法では, (高度約 400 km)および気象衛星などがある静止軌道 数百 keV の指向性のある中性子を発生させることが出来 (高度約 36,000 km)までで,それぞれ 10 km / s,13 km / s るのが魅力である。レーザー核融合研究の新展開と合わ 程度である(損失を含む)。(1)式をみればわかるよう せて,レーザー生成中性源の早期実用化を期待したい。 に,必要な ΔV が大きくなればなるほど,すなわち地上 6 OPTRONICS(2012)No.9 から離れれば離れるほど,ペイロード質量は指数関数的 に少なくなっていく。これを克服するためにロケットを 多段化するのだが,能力向上の限界がある。宇宙ゴミ (スペースデブリ)を除去するために,そこまで近づく だけでも多くの推進剤を要し,回収することは現実的で はない。現在注目されている太陽光発電衛星(SPSS) に必要な物資を打ち上げるためには,1 日当たり 10 回以 上ロケットを打ち上げる必要があるとの試算もある。こ れらに技術のブレイクスルーを成し遂げるには,発想の 転換が必要である。 高出力の地上レーザーによって,スペースデブリを軌 道変換し大気圏突入軌道への投入時間を短縮する技術 図 6 Demonstration of laser ablation launch, sequential photographs, framing rate; 30 Hz. The vehicle is set in a clear acrylic tube of 25 mm in inner diameter. TEA CO2 laser pulses with 3.5 J/pulse were irradiated at a repetition frequency of 50 Hz. In this operation, the ablator is on board the intube rocket. は,1990 年代に Phipps らを中心に検討がなされた 25)。現 在国際的にスペースデブリ発生を防ぐ基準作りが進めら れており,人工衛星を廃棄する場合所定の期間内に大気 だと,エネルギー供給装置だけでなく推進剤自体も搭載 圏に突入させる方策が施されていることが必要になって する必要がなくなるので,ペイロードを大幅に増加させ くる。ここで問題にしているのは「ゴミ」であり何らか ることができる。 の不具合で期せず発生するものも少なくない。いわゆる 将来,核融合技術が確立し,宇宙空間でも十分な電力 非協力物体の運動を遠隔から制御するのは,レーザー技 が使用可能になると考えられる。そのとき,太陽系を超 術の他にはないのではないかと考えられる。基本的には, え,恒星間飛行するため核融合ロケットが役立つ日が来 遠隔からレーザーパルスを照射しアブレーションによる るであろう。Bussard28)は,巨大な磁気ディフューザー 推進力積により脱軌道を達成するわけである。レーザー により恒星間物質を吸い込んで推進剤として使用し,核 アブレーションによる力積特性,ターゲッティング技術 融合エネルギーを用いて推進剤を加熱,磁気ノズルで膨 などが研究対象となっている。 張させて推力を得る核融合ロケットを提案し,光速の 地上や宇宙空間でレーザーパワーによって推力を発 99 %以上の速度を達成できることを試算した。現在,九 生,推進する技術をレーザー推進と呼ぶ(図 6) 。Myrabo 州大学の中島の研究グループも磁気ノズルによる加速な らは,アメリカ空軍の高出力・高繰返し炭酸ガスレーザ どの研究を進めている。 ーを用いて Lightcraft と呼ばれる物体を最高 211 m の高さ まで打ち上げることに成功した 26) 太陽光発電衛星には,宇宙まで超大型構造物を輸送す 。Lightcraft は,レーザ る技術,宇宙空間から地上に太陽光パワーを伝送する技 ー照射面が環状に集光する放物面をなしており,さらに 術の 2 つの大きな開発課題を抱えている。これらどちら 絶縁破壊により投入されたレーザーエネルギーによって に対しても高出力レーザー技術が鍵となるであろう。 加熱された空気の圧力を受けるノズルの役割も果たして いる。Sasoh らは,加速管内で物体プロジェクタイルを 加速する装置 LITA(Laser-driven In-Tube Accelerator)を 7 原子力施設の除染・解体 考案し,作動原理実証を行った 27)。加速管壁面にアブレ 近年,レーザー装置の高出力化,小型化,ビームの高 ーターを配し,レーザーパルスをプロジェクタイルの下 品質化,高繰り返し化,ビーム制御の高度化が進み,原 面で反射して壁面に集光することによって,推進剤とな 子力プラント建設・運転等への適用範囲が広がりつつあ る駆動気体ジェットを発生させ,プロジェクタイル下面 り,今後大きな課題となる原子炉の廃止措置への適用可 に高圧を発生させることによって推力を得る。この方式 能性も高まりつつある。さらに福島第一原子力発電所の OPTRONICS(2012)No.9 7 特集 新たな段階に突入したレーザー核融合研究 事故処理にあたって,遠隔モニターと遠隔制御性を利用 ンテナンスフリーである。厚板切断のため放射光を用い した除染,解体等,一連の廃止措置を通じた環境修復へ た金属溶融現象のリアルタイム観測手法の開発,レーザ の貢献も期待されている。 ー溶融・凝固過程やアシストガスによる溶融物が排除さ 原子炉廃止措置 29) においては,低コスト,省力,工 れる現象を扱う計算機シミュレーションコードの開発な 期短縮,2 次廃棄物の少ない解体技術開発が必要である。 どにより切断要素技術及び厚板切断のブレイクスルーを 例えば切断技術では対象物である厚さ 20 cm 以上に亘る 目指す研究開発が進められている 31)。それとともに原子 ステンレス鋼や炭素鋼,発火の危険性があるジルコニウ 炉廃止措置へレーザー切断技術を導入するためには,多 ム合金などの構造物が対象となり,切断幅(カーフ幅) 様な状況に対応できる幅広い条件での切断試験,遠隔制 の狭い高速・精密切断技術が望まれている。図 7 に水中 御技術,耐放射線性を有するファイバー等の光学部品の での炉心解体を想定した CW(連続)ファイバーレーザ 開発とそれらを統合した試験が必要とされている。 ー光照射による水中厚板切断の写真を示す。レーザー光 レーザー法の他の熱切断法には無い顕著な特徴は,材 は左から右に向かって射出され,材料が紙面垂直方向に 料照射にあたって極めて精密な時間・空間制御が可能な 移動し一連の切断試験が行われる。レーザー切断技術は, ことである。例えば CW 光に時間的に強度変調を加えた 金属をレーザーの熱エネルギーで溶融し,同時にアシス レーザーや繰り返しパルス照射方式が自在に適用できる。 トガスの噴射で溶融物(ドロス)を除去し,溶融を続け この特徴を利用したパルス照射とアシストガス噴射によ 切断する工法である 30) 。水中切断ではレーザー光の通り る穴あけ加工のメカニズムが詳細に報告されている 32)。 道を確保するためのガスやこれを安定させるカーテンの ガス噴射に最適制御されたレーザー照射が様々な切断場 役割を果たす水の噴射等が新たに必要になる。近年進歩 面に適用されることが期待される。 の著しい高出力(5 kW 〜 30 kW)CW ファイバーレーザ さて 2011 年 3 月に発生した福島第一原子力発電所の事 ーを用いた切断技術の特徴は高速切断速度(10 cm 〜数 故処理にあたって,原子力委員会のワーキンググループ 100 cm / 分),狭い切断幅(〜 1 mm),少ないドロスや粉 の中では,最初の炉心部等の詳細な調査後,そこを水で 塵発生量,小型,高い電気・光変換効率(〜 30 %),高 満たし溶融燃料等のサンプル採取を行うこと,その分析 ビーム品質,高遠隔操作性,高いフレキシビリティ,メ 等を踏まえ本格的な水中での解体処理に進むことが議論 されている 33)。レーザー・光技術は,炉心部の精密観測, 炉内デブリの分析技術,水封後の溶融燃料サンプリング 技術,その後の溶融燃料取り出し技術,炉心解体技術な どへの貢献が期待される。遠隔制御により,小型加工ヘ 30 mm ッドが水中の望みの場所に自在に入り込み,対象物体を 反力の無い状態で望みの照射条件で切断,破砕する技術 の高性能化が望まれている。また,放射能に汚染された 物体の表面汚染を,目的に応じて最適化されたレーザー 照射による剥離,吸引により効果的に取り除く小型レー ザー除染装置の活躍も期待される 34)。これらを通じ,レ ーザー技術が長期にわたる未曾有の国難との戦いに貢献 図 7 出力 6 kW のファイバーレーザーによる水深 2.5 m における水中切 断試験の写真。白の矢印の部分にレーザー光とアシストガスの出 射装置を組み合わせたヘッドがあり,矢印の示す方向にレーザー 光,及びガス(空気 500 リットル/分)が出射し矢印の示す部分に 置かれた厚さ 30 mm のステンレス鋼(SUS304)に照射される。 これと同時に画面手前方向に材料を移動することにより切断が進 行する(原子力機構レーザー共同研提供)。 8 することが期待される。 近年発展の著しい半導体レーザー励起ファイバーレー ザー等,小型高平均出力レーザー技術が原子力関連分野 の中で益々発展することが強く望まれる。 OPTRONICS(2012)No.9 参考文献 1)豊田浩一,岡崎信次監修,「EUV 光源の開発と応用」シーエム シー出版(2005). 2)K. 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