エタノール選択的浸透気化性分離膜を用いた浸透気化分離法によって、有

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(57)【 要 約 】
【課題】エタノール選択的浸透気化性分離膜を用いた浸透気化分離法によって、有機酸な
どの発酵の副産物が共存している希薄なエタノール発酵液から、直接的かつ連続的に高濃
度エタノール溶液を製造するシステムを提供する。
【解決手段】エタノール発酵液中を活性炭で吸着処理し、かつ、発酵液に共存している発
酵の副産物である有機酸を当該発酵液のpHを中性付近に調整、維持すると共に活性炭を
共存させることによって解離型のイオンとして存在させ、吸着操作を進めることによりエ
タノール選択的浸透気化性分離膜への吸着を著しく低減もしくは回避した、濃縮エタノー
ル液の安定生産システムである。
【選択図】 なし
10
(2)
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノール発酵液からエタノールを分離精製するシステムにおいて、エタノール発酵液を
取り出す工程、前記工程から取り出されたエタノール発酵液をエタノール選択的疎水性浸
透気化膜分離工程に送る工程に活性炭吸着工程が結合されており、又前記工程から取り出
されたエタノール発酵液をエタノール選択的疎水性浸透気化膜分離工程に送る工程が、ア
ルカリ性溶液からなるpH調整液供給工程に結合されており、pHが調整維持されており
、エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる工程及びこの工程に接続してエタノー
ル回収工程が接続されていることを特徴とするエタノール発酵液からエタノールを分離精
製するシステム。
10
【請求項2】
前記取り出されたエタノール発酵液をエタノール選択的疎水性浸透気化膜分離工程に送る
工程がアルカリ性溶液からなるpH調整液供給工程に結合されており、pHが5以上中性
までの間に保持されていることを特徴とする請求項1記載のエタノール発酵液からエタノ
ールを分離精製するシステム。
【請求項3】
前記取り出されたエタノール発酵液をエタノール選択的疎水性浸透気化膜分離工程に送る
工程がアルカリ性溶液からなるpH調整液供給工程に結合されており、pHが6以上中性
までの間に保持されていることを特徴とする請求項1記載のエタノール発酵液からエタノ
ールを分離精製するシステム。
20
【請求項4】
前記エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる工程及びこの工程に接続してエタノ
ール回収工程が接続されており、エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる工程が
大気圧下で、かつ、エタノール回収工程が減圧に保った状態で、エタノール及び水を気体
状の混合物として取り出すことを特徴とする請求項1から請求項3いずれか記載のエタノ
ール発酵液からエタノールを分離精製するシステム。
【請求項5】
前記エタノール発酵液を取り出す工程の前に微生物菌体ろ過工程が設けられていることを
特 徴 と す る 請 求 項 1か ら 4 記 載 の い ず れ か で あ る エ タ ノ ー ル 発 酵 液 か ら エ タ ノ ー ル を 分 離
精製するシステム。
30
【請求項6】
前記エタノール発酵液を取り出す工程の前にエタノール発酵工程が設けられていることを
特 徴 と す る 請 求 項 1か ら 5 記 載 の い ず れ か で あ る エ タ ノ ー ル 発 酵 液 か ら エ タ ノ ー ル を 分 離
精製するシステム。
【請求項7】
前記エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる工程のエタノール選択的疎水性浸透
気 化 膜 が シ リ カ ラ イ ト 膜 で あ る こ と を 特 徴 と る 請 求 項 1か ら 請 求 項 6 記 載 の い ず れ か で あ
るエタノール発酵液からエタノールを分離精製するシステム。
【請求項8】
エタノール発酵液からエタノールを分離精製するシステムにおいて、エタノール発酵液を
40
取り出す工程に、アルカリ性溶液からなるpH調整液供給工程が結合されており、pHが
調整維持されていると同時に、活性炭吸着手段が取り付けられており、この工程に引き続
いてエタノール選択的疎水性浸透気化膜分離工程が、エタノール選択的疎水性浸透気化膜
と接触させる工程及びこの工程に接続してエタノール回収工程が接続されていることを特
徴とするエタノール発酵液からエタノールを分離精製するシステム。
【請求項9】
前記アルカリ性溶液からなるpH調整液供給工程に結合されており、pHが5以上中性ま
での間に調整維持されていることを特徴とする請求項8記載のエタノール発酵液からエタ
ノールを分離精製するシステム。
【請求項10】
50
(3)
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前記アルカリ性溶液からなるpH調整液供給工程に結合されており、pHが6以上中性ま
での間に調整維持されていることを特徴とする請求項8記載のエタノール発酵液からエタ
ノールを分離精製するシステム。
【請求項11】
前記エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる工程及びこの工程に接続してエタノ
ール回収工程が接続されており、エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる工程が
大気圧下で、かつ、エタノール回収工程が減圧に保った状態で、エタノール及び水を気体
状の混合物として取り出すことを特徴とする請求項8から10いずれか記載のエタノール
発酵液からエタノールを分離精製するシステム。
【請求項12】
10
前記エタノール発酵により得られるエタノールを含有する発酵生成物を取り出す工程の前
に微生物菌体ろ過工程が設けられていることを特徴とする請求項8から11記載のいずれ
かであるエタノール発酵液からエタノールを分離精製するシステム。
【請求項13】
前記エタノール発酵液を取り出す工程の前にエタノール発酵工程が設けられていることを
特徴とする請求項8から12記載のいずれかであるエタノール発酵液からエタノールを分
離精製するシステム。
【請求項14】
前記エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる工程のエタノール選択的疎水性浸透
気化膜がシリカライト膜であることを特徴とる請求項8から13記載のいずれかであるエ
20
タノール発酵液からエタノールを分離精製するシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノール発酵液からエタノールを分離精製するシステムに関するものである
。
【背景技術】
【0002】
食品、化学工業などの分野において、複数の化合物が混在する多成分系から目的物質を
回収分離精製する方法は、最終製品を取り出すための重要な分離精製技術であり、種々な
30
手段が採用されてきた。
目的物質の回収分離精製方法の一つとして蒸留法は、一般的に広範囲に用いられている
方法の一つである。蒸留法は、物質の溶液をその沸点とし、その沸点差により成分を分離
する方法であり、沸点差により各成分の確実な分離精製を行うことができるという利点が
認められ、有効な分離手段とされてきた。しかしながら、蒸留法を適用することは、処理
しようとする対象溶液を加熱して沸点の状態にすることが必要であり、対象溶液を沸点に
まで加熱することが必要となり、必然的にエネルギー多消費型のプロセスとなる。
一方、発酵法で得られるエタノール水溶液は、エタノール濃度が低濃度のものが得られ
るにすぎず、この場合にも、蒸留法が採用されてきたために、発酵法によるエタノール製
造プロセスは、エネルギー多消費型のプロセスとされてきた。
40
また、通常の蒸留法によるエタノール−水系の溶液を濃縮する場合には、エタノール濃
度が、95.6重量%で、所謂共沸点となり、気相と液相の濃度が一致する結果、蒸留法
によりそれ以上に濃縮することは、実質的に不可能であり、濃縮操作に限界が現れる。こ
のような場合には、これ以上に濃縮して、無水化するためには、エタノール−水系にベン
ゼンあるいはシクロヘキサン等の物質を添加して蒸留する共沸蒸留法が用いることが行な
われる。しかしながら、ベンゼン等を存在させて、その共存下で蒸留を行うことは、大気
環境汚染や人体への影響が懸念されるため、その使用に際しては厳しい環境基準の遵守が
義務付けられており、ベンゼンの使用は極力回避すべきである。
【0003】
エタノール水溶液の濃縮を蒸留で行うことを検討すると、生産されるエタノールの約半
50
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分のエネルギーがエタノールの濃縮のために消費すると言われるほどのエネルギー多消費
型のプロセスであるから、必要とされるエネルギー量を少なくしようという観点から、蒸
留法を回避する連続プロセスを開発することが検討されてきた。
【0004】
液体混合物から特定成分を取り出して分離・濃縮する方法として、蒸留法以外では、分
離膜を用いる方法が注目されており、実際に多方面にわたり工業的に用いられている。
エタノール発酵液からエタノールの選択的な分離・濃縮に関しても分離膜による方法が
検討されている。具体的には、酵母等の微生物によって生産される特定の処理対象物質(
エタノール)を含む水溶液(エタノール発酵液)を、エタノールに対して選択性を有する
分離膜の一方に供給し、反対(透過)側から濃縮されたエタノールを取り出す膜分離法で
10
あり、この場合に分離膜としてはエタノール選択的疎水性浸透気化膜を利用することが行
なわれてきた。エタノール選択的疎水性浸透気化膜の利用に際しては、取り出し側を減圧
に保つ浸透気化法が採用され、そのための分離膜としては、ポリエチレン、ポリプロピレ
ン、シリコンゴム膜を用いる方法(特許文献1)があり、また、浸透気化分離法に用いら
れるエタノール分離膜の素材としては、ポリジメチルシロキサンやシリコンゴム(非特許
文献1)を用いることも、よく知られている。
この分離膜を用いる場合には、発酵により得られたるエタノール水溶液は、その濃度が
20%∼30%程度までの濃度にまで濃縮することができるものの、燃料用エタノールな
どの目的ではまだ十分な結果ということができず、効果的なものとなっていない。この場
合のエタノール選択的疎水性浸透気化膜としては、シロキサンを含む共重合体(特許文献
20
2)、アルコール透過性が良好な膜としては、シリル化合物の重合体(特許文献3)、置
換ポリアセチレンとポリトリメチルビニルシランの膜を用い、分離膜の性能を回復させる
方法(特許文献4)なども知られている。エタノール選択的疎水性浸透気化膜により得ら
れるエタノール水溶液の濃縮には、膜分離法によっても、その濃度が20∼30%程度ま
での濃度にまで濃縮されるにとどまり、効果的なものとなっていない。
【0005】
エタノール選択的疎水性浸透気化膜として、ゼオライトをシリコンゴムマトリックス中
に入れた膜を用いたベーパーレーション法(浸透気化分離法によるもの)(特許文献5)
も提案されている。しかしながら、この方法においてもシリコンゴムマトリックスが分離
性能に影響を及ぼすために満足する結果を得ることができない。
30
ゼオライトの一種である結晶構造にアルミナを含まないシリカライトは、非常に高い疎
水性を有すると共に、多孔性物質である。この点に着目して、本発明者等は、シリカライ
トとして、特許文献6の発明を行った。さらに、これらのシリカライトの膜支持体として
、金属、セラミックスなどを用いることも検討した。また、多孔質セラミックス、多孔質
ガラス、多孔質焼結体など支持体の上に高珪素含有のゼオライト又はシリカライトなどの
疎水性無機質からなる分離膜(特許文献7)も知られている。
これらの膜は、その分離性能という点からは有効な膜であるということは期待されてい
る通りである。このゼオライト膜は、緻密な多孔質構造であり、水とエタノールでは、後
者の方が、疎水性が高いことから、シリカライトはエタノールに対して親和性が高いこと
によるものと考えられる。
40
このようなことから、エタノール選択的疎水性浸透気化膜を用いること、これらの中で
もシリカライト膜を用いることにより、希薄なエタノール液を高濃度に濃縮して、高濃度
のエタノールとして回収することが可能であると、本発明者らは考えた。
研究を進めるうちに、このシリカライト膜を用いて実際に浸透気化分離法により発酵エ
タノールの濃縮を継続した場合、回収される濃縮エタノール濃度が経時的に低下してしま
うという問題点があることが判った(非特許文献2)。この原因を検討してみると、発酵
過程において反応条件が変化することなどの影響により、副生成物等の発酵系に存在する
物質が徐々に蓄積されることにより、前記のような好ましくない結果となるとも考えられ
る。
【0006】
50
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この経時的な変化を起こすことを防止することを検討してみた。
その一つの方法として、発酵液と直接に接するシリカライト分離膜表面を疎水性のシリ
コンゴムでコーティングすることにより、濃縮(分離膜透過)エタノールを高濃度とする
ことができ、分離膜の性能の劣化を大幅に軽減できる効果が認められる(非特許文献3)
ものの、完全に低下を回避することは困難であった。
また、アルミナ構造を含む結晶構造のゼオライトの場合にはシラン及びシリケートで膜
を処理することも知られているが(特許文献8)、これによっても十分な効果は期待でき
ない。
【0007】
以上のことから、希薄エタノール含有発酵溶液から濃縮エタノール液を取り出す方法に
10
おいて、膜の性能が低下しない濃縮エタノールを取り出す方法の新規な方法の開発が望ま
れていた。
【0008】
【特許文献1】特開昭57−136905号
【特許文献2】特開昭61−242603号
【特許文献3】特開昭61−174905号
【特許文献4】特開昭62−250907号
【特許文献5】特開昭63−116705号
【特許文献6】特開平6−99044号
【特許文献7】特開昭63−287504号
20
【特許文献8】特表2000−508231
【 非 特 許 文 献 1 】 野 村 ら 、 化 学 工 学 協 会 第 1 6 秋 季 大 会 研 究 発 表 講 演 要 旨 集 、 p.540, 198
2
【 非 特 許 文 献 2 】 Biotechnology Techniques, Vol. 11,p. 921-924, 1997; Biotechnolog
y Letters, Vol. 21, p. 1037-1041, 1999
【 非 特 許 文 献 3 】 J. Chem. Technol. Biotechnol., Vol. 78, p. 1006-1010, 2003
【 非 特 許 文 献 4 】 J. Membrane Sci., Vol. 30, p.273-287, 1987
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
30
本発明の課題は、エタノール発酵液からエタノールを分離精製するシステムにおいて、
従来行われてきたエネルギーを多く必要とする蒸留法を用いることなく、エタノール選択
性分離膜を用いた浸透気化分離法による連続的に高濃度エタノール溶液を製造する新規な
システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、分離膜を用いることを前提とした場合には、エタノール/水系からエタ
ノールの選択的な回収(濃縮)では、エタノールの方が水よりも疎水性が高いことから、
分離膜として疎水性のものを用いること、また、疎水性の条件を維持することには誤りは
ないことを前提にして、実験を繰り返し、反応系及び膜分離系を細かに観察した結果、以
40
下の仮説を見出し、その仮説に基づいて解決策を見出して、このことを実験により確認し
たところ、前記の仮説が誤りでないことを確認して、本発明を完成させた。
【0011】
前記したように、希薄エタノール含有発酵溶液をエタノール選択的疎水性浸透気化膜と
接触させて浸透気化膜分離方法により濃縮エタノール液を得る際には、エタノール選択的
疎水性浸透気化膜は、経時的に性能が低下する。これはエタノールが変化することは考え
にくいことから、副生成物が蓄積されて、蓄積された副生成物が影響して、エタノール選
択的疎水性浸透気化膜は、経時的にその性能が低下すると予想される。次に、このエタノ
ール発酵反応において副生成される物質は何かについて検討した。副生成される代表的な
物質としては、コハク酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸、クエン酸等が検出される。副生成物の
50
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一つであるコハク酸は、シリカライト結晶粒子に吸着される報告がある(非特許文献3)
。したがって、蓄積される副生成物であるコハク酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸、クエン酸等
が疎水性であるシリカライト結晶に吸着されないようにすれば、エタノール選択的疎水性
浸透気化膜による経時的な性能低下を防止できるということが仮説を導き出すことができ
る。一方、コハク酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸、クエン酸は、有機系の弱酸であり、これに
ついて調査すると、これらの有機系の弱酸についてはイオン性の解離した状態と非解離の
状態が存在すること、このように解離及び非解離状態を支配する因子はpHであることが
わかった。そして、これら有機酸を解離の状態に保つことにより非解離型の有機酸分子と
して発酵系内に存在させないことにより、結果として、エタノール選択的疎水性浸透気化
膜への吸着を軽減・防止し、経時的な性能低下を防止できるということが仮説を導き出す
10
ことができる。
コハク酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸、クエン酸からなる有機酸を解離した状態(イオンと
して存在させる)に保つためには、pHを調節することが有効であるということを仮説と
して演繹することができる。そして、反応及び精製系のpHを制御する際の数値としては
、5から7にわたって、制御することができるという仮説を演繹することができる。
以上の検討結果に基づいて、実験結果を行なった結果、本発明者らの前記仮説は誤りでは
なく、その結果、前記の手段は解決策となり得ることを確信した。
【0012】
発酵により副生成されるこれら弱酸性である、コハク酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸、クエ
ン酸について有機酸分子の解離の状態を、データをもとに調査した結果を表示する。その
20
結果は、図5に示す通りである。
この結果から明らかなように、有機酸の解離状態はpHに依存する。pHを5から中性
までの範囲に維持すれば、有機酸はほぼ解離した状態で存在していることとなる。
【0013】
また、実際のエタノール発酵液には、上述したような有機酸類以外にも種々の化合物が
副生或いは共存している。例えば、発酵用培地の調製時に添加されるグルコースやシュク
ロース等の発酵原料、微生物の栄養源として必要となるペプトン、酵母エキスや無機塩類
、ならびに微生物代謝によって生成する物質である。このような成分も、分離膜性能に影
響を及ぼすであろうことは容易に推測できる。
実際に、反応生成物中に含まれるグルコースや無機塩類がシリカライト膜のエタノール
30
分 離 性 能 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て は 既 に 検 討 さ れ 、 報 告 が あ る ( Biotechnology Letters, V
ol. 21, p. 1037-1041,1999; Separation and Purification Technology,Vol. 27, p.
59-66, 2002) 。
【0014】
本発明者らは、分離対象となる発酵が終了したエタノール含有水溶液には、特定の有機
酸を含有しており、これらの有機酸の解離の状態は、pHを制御することで変化させるこ
とができることを見出し、このpHを弱酸性∼中性域に制御することにより、疎水性分離
膜に対して処理液中の有機酸の吸着を防止することができること、さらにエタノール発酵
液に蓄積される有機酸以外の因子によって引き起こされる分離膜の性能の低下を、発酵液
に活性炭を添加することによって阻止することができることを見出した。
40
【0015】
なお、従来からの発酵エタノールの膜分離では、このような、供給液のpHを調節する
こと、及びpHを特定の条件に維持することは行なわれていなかったことは、以下のこと
を考えると明らかである。
エタノール発酵では、発酵条件として、pHを4.0程度に維持することが行なわれて
き て い る ( Separation and Purification Technology, Vol. 27, p. 59-66, 2002) 。
一般的に、pHが低い環境ほど微生物の増殖は抑制されることはよく知られており、エ
タノール発酵過程における雑菌汚染を防止する観点から、発酵工程のpHは酸性条件下で
実施される。
これらの事柄を考慮して、前記の条件が採用される。そしてこの発酵反応工程に引き続
50
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いて膜分離工程が設置されており、この工程に処理液を導く際に格別の操作を施しておら
ず、結局、膜分離工程のpHもこれに近い4程度と考えられる。この場合に有機酸は非解
離型の有機酸分子としてかなりの割合で存在するであろうということは、前述の考察から
明らかであり、この場合には分離膜に吸着される結果、いずれも分離膜の性能の低下を防
止することはできない結果となる。
【0016】
また、簡便なエタノール発酵の例として、乾燥パン酵母とグルコース水溶液のみを培地
として使用した場合、グルコース消費速度として捉えた発酵速度は、発酵の進行(時間経
過)に伴って低下するが、この発酵を行う場合に活性炭を共存させておくことによって発
酵 速 度 の 低 下 が 軽 減 さ れ る 報 告 が 既 に あ る ( Biotechnology Letters, Vol. 22, p. 1661
10
-1665, 2000) 。 培 地 へ の エ タ ノ ー ル や 有 機 酸 の 蓄 積 に よ っ て 発 酵 速 度 が 低 下 す る こ と は
従来からよく知られている。この報告の方法は、発酵速度の低下を軽減することを目的と
したものであり、活性炭を添加することにより、疎水性浸透気化膜の有害物質となる物質
が 吸 着 、 除 去 さ れ る こ と を 目 的 と す る も の で は な い 。 前 記 の 方 法 で は 、 2 6 0 nm付 近 に 極
大吸収波長を有する物質が蓄積される結果、発酵速度が低下することを述べているもので
あり、活性炭の添加することによって、発酵速度を低下させる物質が吸着される結果とし
て、発酵速度の低下が軽減されることを述べているにすぎず、浸透気化膜に対して影響及
び浸透気化膜分離工程の継続的使用することは全く意識されていない。
【0017】
本発明者らは、希薄エタノール含有発酵溶液をエタノール選択的疎水性浸透気化膜と接
20
触させて浸透気化膜分離方法により濃縮エタノール液を継続的に行なうためには、希薄エ
タノール含有発酵液のpHを制御しつつ、かつ、活性炭と接触させつつ、エタノール選択
的疎水性浸透気化膜と接触させることが重要な解決策となることを見出した。
【0018】
この解決手段を、エタノール発酵液からエタノールを分離精製するシステムに取り込む
ためには、以下の工程とすることが有効である。
エタノール発酵液を取り出す工程、取り出されたエタノール発酵液をエタノール選択的
疎水性浸透気化膜分離工程に送る工程、エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる
工程及びこの工程に接続してエタノール回収工程を接続する。そして、取り出されたエタ
ノール発酵液をエタノール選択的疎水性浸透気化膜分離工程に送る工程がアルカリ性溶液
30
からなるpH調整液供給工程に結合されており、pHが調整維持されているシステムを形
成し、同じく、前記取り出されたエタノール発酵液をエタノール選択的疎水性浸透気化膜
分離工程に送る工程が活性炭吸着工程に結合されたシステムを形成する。
同じく、エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる工程が大気圧下で、かつ、エ
タノール回収工程が減圧に保った状態で、エタノール及び水を気体状の混合物として取り
出すことができるシステムを形成する。
同じく、エタノール発酵液を取り出す工程の前又は後に微生物菌体ろ過工程が設けられ
ているシステムを形成する。
同じく、エタノール発酵液を取り出す工程の前にエタノール発酵工程が設けられシステ
ムを形成する。
40
同じく前記エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる工程のエタノール選択的疎
水性浸透気化膜がシリカライト膜を用いるシステムを形成する。
また、前記解決手段を取り込んで、以下のようにすることが考えられる。
エタノール発酵液からエタノールを分離精製するシステムにおいて、エタノール発酵液
を取り出す工程に、アルカリ性溶液からなるpH調整液供給工程が結合されており、pH
が調整維持されていると同時に、活性炭吸着手段が取り付けられており、この工程に引き
続いてエタノール選択的疎水性浸透気化膜分離工程が、エタノール選択的疎水性浸透気化
膜と接触させる工程及びこの工程に接続してエタノール回収工程が接続されているエタノ
ール発酵液からエタノールを分離精製するシステムを形成する。
【0019】
50
(8)
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本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)エタノール発酵液からエタノールを分離精製するシステムにおいて、エタノール発
酵液を取り出す工程、前記工程から取り出されたエタノール発酵液をエタノール選択的疎
水性浸透気化膜分離工程に送る工程が活性炭吸着工程に結合されており、前記取り出され
たエタノール発酵液をエタノール選択的疎水性浸透気化膜分離工程に送る工程が、アルカ
リ性溶液からなるpH調整液供給工程に結合されており、pHが調整維持されており、エ
タノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる工程及びこの工程に接続してエタノール回
収工程が接続されていることを特徴とするエタノール発酵液からエタノールを分離精製す
るシステム。
(2)前記取り出されたエタノール発酵液をエタノール選択的疎水性浸透気化膜分離工程
10
に送る工程がアルカリ性溶液からなるpH調整液供給工程に結合されており、pHが5以
上中性までの間に保持されていることを特徴とする(1)記載のエタノール発酵液からエ
タノールを分離精製するシステム。
(3)前記取り出されたエタノール発酵液をエタノール選択的疎水性浸透気化膜分離工程
に送る工程がアルカリ性溶液からなるpH調整液供給工程に結合されており、pHが6以
上中性までの間に保持されていることを特徴とする請求項1記載のエタノール発酵液から
エタノールを分離精製するシステム。
(4)前記エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる工程及びこの工程に接続して
エタノール回収工程が接続されており、エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる
工程が大気圧下で、かつ、エタノール回収工程が減圧に保った状態で、エタノール及び水
20
を気体状の混合物として取り出すことを特徴とする(1)から(3)いずれか記載のエタ
ノール発酵液からエタノールを分離精製するシステム。
(5)前記エタノール発酵により得られるエタノールを含有する発酵生成物を取り出す工
程 の 前 に 微 生 物 菌 体 ろ 過 工 程 が 設 け ら れ て い る こ と を 特 徴 と す る ( 1) か ら ( 4 ) 記 載 の
いずれかであるエタノール発酵液からエタノールを分離精製するシステム。
(6)前記エタノール発酵液を取り出す工程の前にエタノール発酵工程が設けられている
こ と を 特 徴 と す る ( 1) か ら ( 5 ) 記 載 の い ず れ か で あ る エ タ ノ ー ル 発 酵 液 か ら エ タ ノ ー
ルを分離精製するシステム。
(7)前記エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる工程のエタノール選択的疎水
性 浸 透 気 化 膜 が シ リ カ ラ イ ト 膜 で あ る こ と を 特 徴 と る ( 1) か ら ( 5 ) 記 載 の い ず れ か で
30
あるエタノール発酵液からエタノールを分離精製するシステム。
(8)エタノール発酵液からエタノールを分離精製するシステムにおいて、エタノール発
酵液を取り出す工程に、アルカリ性溶液からなるpH調整液供給工程が結合されており、
pHが調整維持されていると同時に、活性炭吸着手段が取り付けられており、この工程に
引き続いてエタノール選択的疎水性浸透気化膜分離工程が、エタノール選択的疎水性浸透
気化膜と接触させる工程及びこの工程に接続してエタノール回収工程が接続されているこ
とを特徴とするエタノール発酵液からエタノールを分離精製するシステム。
(9)前記アルカリ性溶液からなるpH調整液供給工程に結合されており、pHが5以上
中性までの間に調整維持されていることを特徴とする(8)記載のエタノール発酵液から
エタノールを分離精製するシステム。
40
(10)前記アルカリ性溶液からなるpH調整液供給工程に結合されており、pHが6以
上中性までの間に調整維持されていることを特徴とする(8)記載のエタノール発酵液か
らエタノールを分離精製するシステム。
(11)前記エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる工程及びこの工程に接続し
てエタノール回収工程が接続されており、エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させ
る工程が大気圧下で、かつ、エタノール回収工程が減圧に保った状態で、エタノール及び
水を気体状の混合物として取り出すことを特徴とする(8)から(10)いずれか記載の
エタノール発酵液からエタノールを分離精製するシステム。
(12)前記エタノール発酵により得られるエタノールを含有する発酵生成物を取り出す
工程の前に微生物菌体ろ過工程が設けられていることを特徴とする(8)から(11)記
50
(9)
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載のいずれかであるエタノール発酵液からエタノールを分離精製するシステム。
(13)前記エタノール発酵液を取り出す工程の前にエタノール発酵工程が設けられてい
ることを特徴とする(8)から(12)記載のいずれかであるエタノール発酵液からエタ
ノールを分離精製するシステム。
(14)前記エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる工程のエタノール選択的疎
水性浸透気化膜がシリカライト膜であることを特徴とる(8)から(13)記載のいずれ
かであるエタノール発酵液からエタノールを分離精製するシステム。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、希薄エタノール含有発酵溶液をエタノール選択的疎水性浸透気化膜と
10
接触させる疎水性浸透気化膜分離方法によるエタノール分離精製システムにおいて、疎水
性浸透気化膜を通過するエタノール発酵済み処理液中の有機酸を解離した状態にあるよう
にpHの値により制御するので、有機酸が分離膜への吸着を起こさないので、安定してエ
タノール濃縮を操業することができ、同時に活性炭により疎水性浸透気化膜のエタノール
選択的疎水性浸透気化膜の経時的な性能低下を防止できる。
その結果、発酵工程で得られる希薄エタノール発酵液から高濃度に濃縮されたエタノー
ル水溶液を安定して連続的に回収することができる。
また、何らかの理由で付着した有機酸分子は、pHを調整すると解離型の有機酸イオン
に導かれるため、膜から脱着する結果、エタノール選択的疎水性浸透気化膜は再生される
。このようにして、エタノール選択的疎水性浸透気化膜に供給されるエタノールを含有す
20
る発酵液のpHを調整することにより、安定して濃縮エタノール液を生産することができ
る。
発酵法により得られたエタノール溶液の濃縮に膜分離を採用することができるので、蒸
留工程を排除でき、不必要に多くのエネルギーを必要としない分離操作を可能とする。そ
の工業的価値は極めて高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1を用いて本発明の内容を説明する。
本発明で分離・精製の対象として用いられる分離膜と直に接する供給液は、微生物によ
る発酵反応によって得られる希薄エタノール含有混合物である。
30
このエタノール発酵工程は、以下の通りである。
[1]エタノール発酵工程
発酵工程は、反応器となるエタノール発酵槽(1)に、発酵原料供給槽(2)から供給
手段である送液ポンプ(3)を介して原料物質が供給される。
原料物質としては、グルコースなどの糖成分及び微生物の栄養源として必要となるペプ
トン、酵母エキスや無機塩類が供給される。反応槽中では、10%から20%程度の濃度
が維持される。
また、発酵を行なうための酵母は、発酵槽(1)において増殖させる。エタノール発酵
では、微生物菌体の増殖維持のために空気が必要とされることがあることから、空気供給
装置(4)から無菌空気を発酵槽内へ供給する。
反応温度は25∼35℃に保つのが一般的であるが、この温度域外であってもよい。
反応生成物中には、目的とするエタノールのほか有機酸、微生物菌体などが含まれる。
エタノール発酵で得られるエタノール濃度は、一般的には、10∼15%程度、多くて
も20%以下である。一般的に含まれる有機酸の含有量に関しては、実施例1に示す通り
の以下の濃度の有機酸が含まれる。
【0022】
40
(10)
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【表1】
残余の多くは水であり、これに微生物細胞、水及び各種の副生成物等が含有される。
10
【0023】
[2]エタノール発酵液を取り出す工程
発酵槽からエタノール発酵液を取り出す際には、連続的に一定量を取り出す方法と、回
分式に一定時間ごとに取り出す方法がある。また、エタノール発酵工程が他の場所で行な
われ、そこからタンクローリや船などで運ばれてきたものを取り出す工程であっても差し
支えない。この工程ではポンプにより液体に圧力を加えて管内輸送を行なう輸送手段によ
り形成されている。
この工程の前後に、微生物菌体ろ過工程が設けることが好ましい。このようにすると、
エタノール選択的疎水性浸透気化膜分離の目詰まりを防止し、分離のトラブルを防止でき
る。ろ過器は、精密ろ過膜、または限外ろ過膜などを適宜選択して使用できる。これらの
20
膜を透過した発酵液のみが取り出される。一方、微生物菌体ろ過装置(5)内の精密ろ過
膜、または限外ろ過膜を透過し得なかった微生物菌体を含む発酵液は、発酵槽(1)へ返
送、再利用される。
【0024】
[3]取り出されたエタノール発酵液をエタノール選択的疎水性浸透気化膜分離工程に送
る工程
取り出されたエタノール発酵液をエタノール選択的疎水性浸透気化膜分離工程に供給す
る工程である。
この工程(取り出されたエタノール発酵液をエタノール選択的疎水性浸透気化膜分離工
程に送る工程)には、アルカリ性溶液からなるpH調整液供給工程に結合されており、p
30
Hが調整維持されるように制御される。この工程中には、pH測定手段が設けられており
、pH測定手段の測定結果に応じてpH調整液が供給される。数値としては、pHが5以
上中性までの間に、さらに好ましくは、pHが6以上中性までの間に調整される。pH測
定部分の測定結果、流量計から算出された必要とされる量のpH調整液体が、pH調整液
供給槽(7)から送液ポンプ(8)により供給され、得られた処理液中に添加される。
アルカリ性域の溶液下では分離膜は物理的に不安定であることから、エタノールを含有
する発酵液のpHは弱酸性域から中性に調整することが望ましい。
pH調整液は、アルカリ溶液であり、苛性ソーダや水酸化カリウム、水酸化アンモニウ
ムなどが用いられる
また、この工程(前記取り出されたエタノール発酵液をエタノール選択的疎水性浸透気
40
化膜分離工程に送る工程)には、活性炭吸着工程に結合されている。
活性炭の種類は、植物系及び石炭・石油系がある。これら活性炭は、比表面積は800か
ら1200m
2
g
− 1
、細孔容積は0.2から2cm
3
g
− 1
、細孔径は1から4nmで
ある。細孔径分布は細孔が多い方が良好な結果が得られる。
また、その充填量、及び発酵液と活性炭との接触時間等により、物質の吸着量が大きく変
動することから、浸透気化分離性能の低下が最小限となるように最も効果的な活性炭の選
別や処理条件を予め検討しておくことは必要である。
また、活性炭と同様の吸着効果が期待できる吸着材も、それらの使用によって発酵工程
や浸透気化分離工程の運転において障害が生じなければ、利用可能である。
この活性炭により吸着されるのは、エタノール発酵液中に含まれる各種の副生成物であ
50
(11)
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り、これを吸着除去することにより、次の工程で用いるエタノール選択的疎水性浸透気化
膜の経時的な性能低下を防止できる。
【0025】
[4 ]前 記 処 理 さ れ た エ タ ノ ー ル 発 酵 液 を エ タ ノ ー ル 選 択 的 疎 水 性 浸 透 気 化 膜 分 離 工 程 に 送
る工程
前記処理されたエタノール発酵液(pH調節及び活性炭添加処理を行ったもの)をエタ
ノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる。この工程に続きエタノール回収工程が接続
されており、エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる工程が大気圧下で、かつ、
エタノール回収工程が減圧に保った状態で、エタノール及び水を気体状の混合物として取
り出すことをようになっている。
10
前記処理されたエタノールを含有する発酵液は、pH調整されて、有機酸を解離状態(
イオン)に維持されており、又活性炭の作用により特定物質の除去が行なわれており、エ
タノール選択的疎水性浸透気化膜の分離を継続的に行なうことができる。
エタノール選択的疎水性浸透気化膜には、公知の疎水性のゼオライト(無機)分離膜を
用 い る こ と が で き る 。 ゼ オ ラ イ ト を シ リ コ ン ゴ ム マ ト リ ッ ク ス 中 に 入 れ た 膜 、 ま た 、 ZMS5や 本 発 明 者 ら が 開 発 し た 疎 水 性 の シ リ カ ラ イ ト 膜 な ど を 挙 げ る こ と が で き る 。 こ の ほ か
、これらの膜の表面をシリコンゴム等の疎水性材質で改質した膜も有効なものである。前
記ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコンゴム膜を用いるもの、ポリジメチルシロキサ
ンやシリコンゴムを用いるもの、シロキサンを含む共重合体、シリル化合物の重合体、置
換ポリアセチレンとポリトリメチルビニルシランの膜などを用いることができる。
20
供給装置である送液ポンプによって浸透気化分離装置(9)に導かれる。浸透気化分離
装置(9)内にエタノール選択的疎水性浸透気化膜が装着されている。このエタノール選
択的疎水性浸透気化膜の透過側は真空ポンプ(12)に接続されており、真空に保たれて
いる。
浸透気化分離装置(9)に供給されるエタノール発酵液の温度は、常温またはエタノー
ル発酵の反応温度(25∼35℃)程度で供給される。この範囲外の温度であっても差し
仕えない。
エタノール発酵液をエタノール選択的疎水性浸透気化膜と大気圧下で接触するように供
給し、膜の反対側が減圧に保たれている状態で、エタノール選択的疎水性浸透気化膜を透
過させる。その際に、エタノール選択的疎水性浸透気化膜の透過側が減圧に保たれている
30
ことによりエタノール及び水は気体状の混合物として取り出される。
エタノール選択的疎水性浸透気化膜の形状は、平板状、又は円筒状である。
一方、何らかの理由で有機酸がエタノール選択的疎水性浸透気化膜に吸着したことによ
り分離性能が低下した分離膜の再生には、中性の緩衝液で膜表面を洗浄する方法が有効で
ある。すなわち、吸着した有機酸分子が解離型となり、分離膜より脱着する。
浸透気化分離装置は、温度制御されることが望ましく、その温度は、室温以上である。
浸透気化分離装置(9)に供給されるエタノール発酵液の温度は、常温またはエタノー
ル発酵の反応温度(25∼35℃)程度で供給される。この範囲外の温度であっても差し
仕えない。
【0026】
40
[5]エタノール回収工程
エ タ ノ ー ル 回 収 工 程 は 、 減 圧 に 保 た れ て い る 。 具 体 的 に は 2 0 Torrか ら 1 Torr程 度 で あ る
。
減圧にするためには、真空にするための手段が採用される。具体的には、真空ポンプな
どが採用される。
次の工程のエタノール回収工程を減圧にする代わりに、不活性ガスで透過側の膜面から
蒸発する蒸気を掃引して冷却器へ導き、透過蒸気のみを液化することも可能である。
エタノール選択的疎水性浸透気化膜を透過した蒸気は、冷却器(10)によって凝縮さ
れ、生成物回収容器(11)から高濃度エタノール液が取り出される。
【0027】
50
(12)
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[6]エタノール発酵液を取り出す工程にアルカリ性溶液からなるpH調整液供給工程が
結合されており、また活性炭吸着手段が取り付けられている工程を用いるシステムは、以
下の通りである。
前記[2]から[5]の一連のシステムにpH調整液供給工程及び活性炭吸着手段が組
み込まれている。これに対して、エタノール発酵液を取り出す工程に、アルカリ性溶液か
らなるpH調整液供給工程が結合されており、pHが調整維持されていると同時に、活性
炭吸着手段が取り付けられている装置とすることにより同様にエタノールの回収を行うこ
とができる。具体的には、エタノール発酵液からエタノールを分離精製するシステムにお
いて、エタノール発酵液を取り出す工程に、アルカリ性溶液からなるpH調整液供給工程
が結合されており、これによりpHが調整維持されていると同時に、エタノール発酵液を
10
取り出す工程に、活性炭吸着手段が取り付けられており、この工程に引き続いてエタノー
ル選択的疎水性浸透気化膜分離工程が、エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる
工程及びこの工程に接続してエタノール回収工程が接続されているエタノール発酵液から
エタノールを分離精製するシステムである。
前記と同様にして、以下のようなシステムを形成することができる。
前記エタノール発酵液を取り出す工程にアルカリ性溶液からなるpH調整液供給工程が結
合されており、pHが5以上中性までの間に調整維持されていることを特徴とする前記の
エタノール発酵液からエタノールを分離精製するシステム、及びエタノール発酵液を取り
出す工程に前記アルカリ性溶液からなるpH調整液供給工程が結合されており、pHが6
以上中性までの間に調整維持されていることを特徴とする前記のエタノール発酵液からエ
20
タノールを分離精製するシステム。
前記エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる工程及びこの工程に接続してエタ
ノール回収工程が接続されており、エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる工程
が大気圧下で、かつ、エタノール回収工程が減圧に保った状態で、エタノール及び水を気
体状の混合物として取り出すことを特徴とする前記いずれか記載のエタノール発酵液から
エタノールを分離精製するシステム。
前記エタノール発酵により得られるエタノールを含有する発酵生成物を取り出す工程の
前に微生物菌体ろ過工程が設けられていることを特徴とする前記記載のいずれかであるエ
タノール発酵液からエタノールを分離精製するシステム。
前記エタノール発酵液を取り出す工程の前にエタノール発酵工程が設けられていること
30
を特徴とする前記記載のいずれかであるエタノール発酵液からエタノールを分離精製する
システム。
前記エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させる工程のエタノール選択的疎水性浸
透気化膜がシリカライト膜であることを特徴とる前記記載のいずれかであるエタノール発
酵液からエタノールを分離精製するシステム。
【0028】
次に実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこの実施例により限定さ
れるものではない。
【実施例1】
【0029】
40
エタノール発酵液の有機酸分析
グルコースを発酵原料とし、15重量%のグルコース水溶液をオートクレーブ滅菌(1
2 1 ℃ 、 2 0 min) し た 後 、 4 0 0 mlを ス テ ン レ ス 容 器 に 注 入 し 、 こ れ に 市 販 の 乾 燥 パ ン
酵 母 ( Saccharomyces cerevisiae、 オ リ エ ン タ ル 酵 母 工 業 製 ) 4 gを 添 加 し た 。 発 酵 は 3
0 ℃ ( 撹 拌 子 の 回 転 数 ; 6 0 0 rpm) で 行 い 、 培 地 中 の グ ル コ ー ス が 全 て 消 費 さ れ る ま で
継続した。
得 ら れ た 発 酵 液 中 の 有 機 酸 組 成 は 、 有 機 酸 分 析 計 ( 日 立 ハ イ テ ク ノ ロ ジ ー ズ 製 、 L-7000
シ リ ー ズ ) を 用 い て 、 ブ ロ ム チ モ ー ル ブ ル ー 法 に よ り 分 析 し た 。 分 離 カ ラ ム は 日 立 ゲ ル C610HS、 検 出 器 に は UV-VIS検 出 器 ( 日 立 ハ イ テ ク ノ ロ ジ ー ズ 製 、 L-7420型 ) を 用 い た 。
その結果を表1に示す。
50
(13)
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有機酸類の組成は、発酵原料の糖濃度、発酵に使用する微生物の種類等によって異なる
。
また、生産されるエタノール濃度を増加させるためには、発酵原料となる糖濃度を増加
することが必要となるが、このような場合には、副生成物である有機酸類の濃度もまた増
加する。
【0030】
【表1】
10
【実施例2】
20
【0031】
シリカライト結晶粒子へのコハク酸の吸着挙動
コロイダルシリカ、水酸化ナトリウム、テトラプロピルアンモニウムブロマイドから水
熱 合 成 し た シ リ カ ラ イ ト の 粉 末 結 晶 0 . 5 gと p H を 1 Mの NaOH溶 液 あ る い は 1 Nの H2 SO4 で
調 整 し た 0 . 3 重 量 % の コ ハ ク 酸 水 溶 液 5 mlを 密 栓 付 L字 型 試 験 管 に 注 入 し た 。 3 0 ℃ で
2 4 時 間 振 と う ( 5 0 rpm) し た 後 の 、 コ ハ ク 酸 濃 度 を 測 定 し 、 そ の 減 少 量 か ら シ リ カ ラ
イト粉末へのコハク酸吸着量を算出した。
その結果を図2に示す。コハク酸水溶液のpHの上昇にともなって、吸着量は急激に低
下し、水溶液のpHを中性に調整するとほとんど吸着されなかった。
【実施例3】
30
【0032】
シリコンゴムコーティングしたシリカライト膜のエタノール分離性能に及ぼすコハク酸
水溶液のpHの影響
エタノール選択性膜としては、ゼオライトの一種である、結晶構造にアルミナを全く含
まない疎水性のシリカライト膜を用いた。この膜は、予め所定濃度に調整されたコロイダ
ルシリカ、アルカリ金属水酸化物から成る水性ゲル混合物と結晶化調整剤の添加により多
2
孔 質 焼 結 ス テ ン レ ス 基 板 上 に 水 熱 合 成 さ れ た も の を 使 用 し た 。 有 効 膜 面 積 は 、 12.6cm で
あ る 。 製 膜 方 法 の 詳 細 は 、 既 知 の 報 告 ( Desalination, Vol. 144, p. 47-52, 2002) に 従
った。
次に、このようにして作成したシリカライト膜をシリコンゴムで膜表面をコーティング
40
した。ここで、シリコンゴムコーティングは以下のようにして行った。
シ リ コ ン ゴ ム ( 信 越 化 学 製 、 低 分 子 量 型 KE1 0 8 ) が 7 重 量 % と な る よ う に ヘ キ サ ン に
均一に溶解した後、シリカライト膜の表面のみをコーティングするためにステンレス基盤
側をセロファンテープで覆い、シリカライト膜を10秒間浸漬した。その後40℃で一晩
乾燥した。さらに、このコーティングしたシリカライト膜に、同様にして7重量%のシリ
コ ン ゴ ム ( 信 越 化 学 製 、 高 分 子 量 型 KE4 5 ) コ ー テ ィ ン グ し た 。
シリカライト膜を介して一方側に、0.3重量%のコハク酸を含有する5重量%エタノ
ール水溶液を供給した(30℃)。なお、この供給液を所定のpHに調整するために1M
の NaOH溶 液 を 用 い た 。
当該膜の反対側を減圧にした。膜を浸透気化した蒸気は液体窒素を用いたコールドトラ
50
(14)
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ップにより凝縮し、濃縮エタノール液として回収した。膜を浸透気化した回収液中のエタ
ノ ー ル 濃 度 の 分 析 は 、 熱 伝 導 度 検 出 器 付 ガ ス ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー ( 島 津 製 作 所 製 、 GC-8A
) 、 Thermon-1000充 填 カ ラ ム ( φ 3mm× 2m) に よ り 行 っ た 。
その結果を図3に示す。ここで、pH7の場合の測定値は、コハク酸を含有しないエタ
ノール/水系での分離性能を示している。
エタノール供給液がpH5以上の場合には、エタノール/水系での膜分離性能(図3中
では、pH7の性能として表示)と比較して、その低下はほとんど認められなかった。p
H4においても、pH7の場合の分離性能と比較して、膜透過エタノール濃度の低下は認
められず、膜透過量もまた70%以上の高い割合を示した。
【実施例4】
10
【0033】
エタノール発酵液の活性炭処理
実 施 例 1 で 調 整 し た エ タ ノ ー ル 発 酵 液 4 0 0 mlに 石 炭 系 活 性 炭 ( 粒 子 径 2 ∼ 3 mm、 比 表
2
面 積 7 6 0 m /g) 2 0 gを 添 加 し 、 3 0 ℃ 恒 温 下 で 1 時 間 振 と う し た ( 1 2 0 rpm) 。 そ の
後 、 精 密 ろ 過 膜 ( 0 . 2 μ m) を 用 い て 発 酵 液 を ろ 過 し 、 分 光 光 度 計 ( 日 立 ハ イ テ ク ノ ロ
ジ ー ズ 製 、 U-2800型 ) を 用 い て 紫 外 線 領 域 の 吸 収 ス ペ ク ト ル を 測 定 し 、 活 性 炭 添 加 前 に 測
定した紫外線吸収スペクトルと比較した。その結果を図4に示す。
そ の 結 果 、 活 性 炭 添 加 前 の 発 酵 液 に 存 在 し て い た 2 6 0 nm付 近 に 吸 収 ス ペ ク ト ル の 極 大
値を有する物質が、活性炭を添加したことによって明らかに吸着除去されたことが示され
た。
20
活性炭処理後のエタノール発酵液中の副産物組成も表1に示す。発酵液への活性炭添加
前後におけるグリセロール及び有機酸含量に、大きな差異は認められないことが明らかで
ある。
【実施例5】
【0034】
活性炭処理したエタノール発酵液を用いた浸透気化分離
実施例3で作成したシリコンゴムコーティングしたシリカライト膜、ならびに実施例
1で調整し、実施例4で処理したエタノール発酵液(pH6に調整)を供給液として用い
て浸透気化分離性能を測定した。その結果を表2に示す。また、比較のために、供給液と
してエタノール水溶液、及び活性炭処理前のエタノール発酵液を用いた測定値も合わせて
30
示す。
活性炭未処理のエタノール発酵液を供給した場合の性能は、エタノール水溶液を用いた
場合と比較して、透過エタノール濃度及び膜透過量ともに大きく低下したが、発酵液を予
め活性炭で処理したことによって、透過エタノール濃度の低下はなく、膜透過量の低下の
程度は小さくなった。
【0035】
【表2】
40
【図面の簡単な説明】
【0036】
50
(15)
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【図1】本発明を実施するためのシステム構成を示す図である。
【図2】シリカライト結晶粒子へのコハク酸の吸着挙動を示す図である。
【図3】シリコンゴムコーティングしたシリカライト膜のエタノール分離性能に及ぼすコ
ハク酸水溶液のpHの影響を示す図である。
【図4】エタノール発酵液の紫外線吸収スペクトルを示す図である。
【図5】各種有機酸のpHに応じて変化する解離状態を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 エタノール発酵槽
2 発酵原料供給槽
10
3 送液ポンプ
4 空気供給装置
5 微生物菌体ろ過装置
6 送液ポンプ
7 pH調整液供給槽
8 送液ポンプ
9 浸透気化分離装置
10 冷却器
11 生成物回収容器
12 真空ポンプ
13 送液ポンプ
14 流路切り替えバルブ
15 排出用バルブ
16 活性炭吸着槽
【図1】
20
(16)
【図2】
【図3】
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(17)
【図4】
【図5】
JP 2006-42673 A 2006.2.16
(18)
JP 2006-42673 A 2006.2.16
フロントページの続き
(51)Int.Cl.
C07C 29/76
C07C 31/08
FI
(2006.01)
(2006.01)
テーマコード(参考)
C07C 29/76
C07C 31/08
Fターム(参考) 4B064 AC03 CA06 CC07 CE09 CE20 DA16
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