529,1982年 日消外会議 15(3),525∼ 成人 にみ られた乳震性胸腹水症 の 1例 森谷 行 利 湊 宏 司 中村 憲 治 岡山大学第1 外科 三輪 恕 昭 橋本 修 折田 薫 三 守山 岡 稔 哲 秀 A CASE REPORT OF CHYLOTHORAX AND CHYLOUS ASCITESIN ADULT Yukitoshi MORITANI,Hiroaki MIWA,Minoru MORIYAMA,Hiroshi MINATO, Osamu HASHIMOTO,Tetsuhide OKA,KenJl NAKAMURA and Kunzo ORITA The First Department Of Surgery,Okayama University Medical School 索引用語 : 乳震性胸水, 乳 簾性腹水, リンパ管腫 乳廃性腹水症 は比較的稀な疾患 で ,小 児 ではその原因 が不明である場合が多 く,成 人では悪性腫瘍 ,炎 症,外 胸部 X線 検査 (図 1):右 胸部胸水貯溜 し胸腔努刺 で 腹水努刺 と同様の稀赤乳白色の血性乳簾 を認めた.リ ン パ管造影 (図 2),腰 部, 骨盤部 の リンパ管 の 襲状 の著 傷等 に起囚す ることが多い とされている。われわれは小 腸 ,小 腸間膜,後 腹膜脂肪織 の リンパ管腫 ,お よび血管 しい拡張がみ られ特に腰部 では腫大 した リンパ管 に造影 剤 の Niveau形 成を伴 った所見を得 )膵 臓近 くの リンパ 腫 に起因す る乳廃性腹水症に乳廃性胸水症を伴 なった乳 廉性胸腹水症 の 1例 を経験 したので報告す る。 管閉塞を来 たす様 な腫瘤 の存在 を思わせた 。尚,造 影剤 の胸腔へ の流入はない。ガ リウムシンチ グラム,心 寓部 中心にアイ ツ トープの取 り込みが 見 られた 。CT所 見, 一 父い 状突起下6cmを 中心 とし, 辺縁不整 , 不 均 な腫瘤 様陰影を見 たが ,胃 X線 ,ERCPに 異常なか った. は じめに 症 例 患者 .Y.K,33歳 ,男 性 主訴 :全 身俗怠感 既往歴 :8歳 左肋膜炎 ,16歳 肝炎 家族歴 :特 記すべ きことはない。 現病歴 :1977年頃, 全 身俗怠感 ,食 欲不振 あるも放 置 。 1978年頃, 左 下腹部痛で 某病院 1週 間入院 す る。 1980年1月 ,左 下腹部痛,咳 嗽 ,腹 部膨満感あ り,近 医 で力n療した 。同年 8月 頃 よ り全身俗怠感著 しくなったた め某病院内科 に入院 ,諸 精査 の結果,乳 廃性胸腹水症 と 診断 され 当科に紹介 された 。 入院時所見 :体 格中等度 ,栄 養やや不良,顔 色皮膚や や蒼白,チ アノーゼ,黄 疸 ,浮 腫等は認 めず .右 中下肺 野では打診上濁音を呈 し,呼 吸音は聴取不能 .心 音 ,心 電 図は異常ない。腹部 は膨隆 し波動著明で腹水貯溜,肝 陣腎は触知不能であった 。 検査成績 :末 梢血液正常 .血 液生化 学 検 査 で 血清 K 値 ,血 清 アルプ ミン値, A/G比 の 軽度低下を 認 める他 著変はない。 図 1 胸 部X線 検査,右 胸部 に著明な胸水貯留を認 め る。 成人 にみ られた乳廃性陶腹水症 の 1例 74(526) 図 2 リ ンパ管造影 , 腰部, 骨 盤部 の リンパ管 の妻 状拡張, 左 腰部 では N i v e a u 形成 も見 られ る. 日消 外会 誌 1 5 巻 3 号 表 1 胸 水, 腹 水 の性状 度 水 乳 白こ 7.0 比 ■ 1.026 1.027 バ リ ル タ反応 日 性 客 白■ 3.3o/d' 3.59/di 遊 確 魔肪 酸 2 8 0 0 / E q 河 トリグリセライ ド 85Smg/di リ ン臨 質 321mg/di β ‐リポ= 白 6Sm9/di未 満 細 胞 好や球 4%, リ ンパ球94% 好酸球 2% No maい onancy 細 菌 陰 性 エ ーテ ル お 下 不 溝 外 観 PH 胸腹水努刺液 の性状 (表 1):胸 腔第刺 で外観 ,稀 赤 乳白色, 比 重 1.26前後 で ,パ ルタ反応陽性 ,蚕 白量3.3 g/dl,細胞診正常, エ ーテル不溶 で 腹腔努刺液 で もほぼ 同様 であった。 臨床経過及 び治療 (園 3):入 院後 ,胸 腔穿刺 お よび 腹腔努刺 で 乳廃液を 得, 乳 廃性胸腹水症 としてます保 存的治療を試みた ,胸 腔内持続吸引にて 連 日約 1,000∼ 2,000mlの 乳廃液 の排液を行 った 。強心利尿剤等 の投与 で体重 お よび腹囲 の減少を見た 。第27病日目に リンパ管 造影後 に一時体重 お よび腹囲の増加 があ リー時的に病勢 の 悪化を見 る。 第35病日目 よ り MCT療 法 (medium_ 図 3 臨 床過経及 び治療 卜 M,C T Theraoy 90 P ← O ツ︼ ` 0,ゃ ′ 00 腹 田 70(Cm) 胸 60 3000 ― Drainaoe―…――― 器 │ i)十 (│十 腹 1 0 0 0 l 水 m DAYS 1982年3月 75(527) 表 2 乳 簾性腹水 の分類 (西 沢) 図 4 組 級所 見,小 腸粘膜下層,案 膜下層,小 腸問 膜 に著 明な リンパ管 及び血管拡張 を見 る。 字し康 性 様性案寝塊 多 くは生ず 乳震性(脂防性) ( ― 多 くは生 す 約 1.016 乳 脇 ' 仮性 乳康 ) (― ) 稀 約 1.013 約 1.016 約 半 数 的性 約半数陽性 稀 約 3.0% 約 1.5% 呂 白 i 約3.5% 灰 分 約0.6% 約 0.7% 約0.7% 工,レ 勘 不 変 乳色消退 字し色 消退 日微歳所見 障防球はほ壌状に分 脂防球は比較的大 臨防球は存せず存す 小数情防変化または るも少なし 散有形物少し 比 ■ 聴 政壊せ3細胞あり 表 3 乳 簾性 腹水 の発生原因 (Gandin) 1. 乳 康管系統 における破型,外 毎 2, 乳 藤害系統 におけるうっ滞 A う つ滞の直桂的原因 イ.悪 性題お および出間は リンパ肛の題を ならび におおによる圧迫,閉 と 口 胸 管の狭窄 (先天性 または強天性) ハ ,フ ィラリアに続発する乳盛の うっ滞 二 肝 硬空 に統発する乳藤の うっ滞 B.う つ滞の問接的原因 イ.心 疾忠 臼 消 悔症 表 4 乳 簾性胸水 と乳簾 性腹水 の分類及 び原因頻度 例) (Nix)(302症 乳盛胸水 146 0 0 0 4 取開始 よ り腹水貯溜再開 す増悪 した 。腸管嬬動弱 きため 胆汁 うっ滞 し胆襲腫大,遂 には破裂 して死亡 した。解剖 所見 では ,残 存小腸,腸 間膜 に手術時 と類似の リンパ管 123 乳盛胸腹水 5 4 0 小腸粘膜下層,策 膜下層 お よび小腸問膜 の リンパ管,血 管拡張を認 めた 。術後は胸水貯溜 は漸減 したが,経 口摂 計 2 2 0 3 り30cmか ら130cmの 空腸切除 した 。 摘出組織標本 (図4):小 腸 リンパ管腫及び血管腫又 乳藤腹水 4 6 1 6 3 3 その変化 は空腸 に著 しく,毛 細血管 の拡張 も認 めた 。手 術は姑息的な方法 であったが所見 の最 も著 しい TreiZよ II 外 傷 性 A 貫 通性 1 外 科 的 2 非 外科釣 B 非 貫通 性 7 6 1 1 3 2 1 3 で1980年10月28日開腹術 を行 った ,小 腸全体 の漿膜 ,腸 間膜 に リンパ管拡張あ り,一 部は栂指頭大襲状に腫大 , I 特 A B C 発性 外 国性 リンパ 管 閉建 内 困性 リンパ 管 閉塞 上 記分類不 明 4 2 9 2 1 1 chain triglyceridc)併 用 したが症状 の改善傾向 もな く, べ 先 に述 た諸検査に よ り悪性腫瘍,膵 癌 の疑 い もあるの 33 乳廃性腹水症 の分類 :西 沢は表 2の 如 く分類 している °9の.わ れわれ の 症例では顕鏡 で リンパ球が94%あ り, エ ーテル に 不溶 の ことより仮性▼L廃性腹水 と考え られ る。しか し,こ れ らの移行型 ,混 合型 もしくは乳簾性腹 水 の検査時期 に よ リー定 しない こともある。仮性乳廃性 腫 ,拡 張あ り,そ の変化は後腹膜脂肪組織に も及 んでい た。 腹水 は本邦では報告例 は少ない 。 乳廃性腹水, 胸 水 の原因 :Candinつ は 才L廃性腹水を 考 察 乳廃性腹水症は1691年 MOrtOnに よ り世界最初 に報告 されている.本 邦では1891年佐藤 つが33歳女性 の成人例 の報告 し,1905年平尾 つ が10歳男児 の小児例 の報告が最 表 3の 如 く分類 し, ま た,Nixめ は表 4の 如 く乳廃性胸 水,腹 水を 分類 お よび302例 の原因疾患を 列記 してい 初 である。最近 では1976年 Sakaiめが特発性後腹膜線維 症に よる71歳男性 の成人例 の報告がある。 る。本症例にみ られ た字L廃性胸腹水は302例中33例(10.9 %)に 見 られ てい る。その原因疾患 では悪性腫瘍 19例, 良性 リンパ系疾患 4例 , 骨 折 のない 外傷 3例 ,癒 着 2 例,頚 ,鎖 骨下静脈血栓 2例 ,肝 疾患,結 核,骨 折 の伴 76(528) 成人 にみ られた乳媒性胸腹水症 の 1例 った外傷それぞれ 1例 ,で ある。阿部のは字L康胸 の原因 日消 外会議 15巻 3号 を外傷性,非 外傷性 ,特 発性 に分け本邦報告例78例を報 して開胸 ,開 腹 は診 断学的 ,治 療学 的 にすす め るべ きで あ るとしてい る。さらに Jensen2Dは 腸 間膜 リンパ 管腫 告 し,外 傷性38例 ,特 発性 23例,非 外傷性17例を報告 し に 対 して可能 なか ぎ りの完全切除 すべ き としてい る。わ ている. れわれ の症例 の様 に広汎 な病変 の時,そ れ は仲 々困難で Mayo chinicの Kelleylい に よると79症例 ,71例 の成 人例 で リンパ管病変33例,種 々の癌29例,悪 性腫瘍 でな あ る と考 え る 。 い二次性 9例 ,で あ り,ま た 8例 小児 で リンパ管発育不 乳廃性腹水症 は30%以 上 の 死亡率 で あ るとしてい る。 全 4例 ,そ の疑 い 2例 ,肝 硬変 l例 ,脂 肪代謝異常疑 い 1例 ,以 上79症例中19例胸水合併その内 9例 が乳藤性 と Nixけ らに よると乳廃性胸水症 ,44.7%,乳 報告 している。 89.4%,治 症状お よび診断 :乳 簾性腹水 として 特徴所見 は ない が ,腹 部膨満,浮 腫 "腫 張" 下痢, 陰襲腫大 1り,乳 廃 121,等で 尿 字L藤性胸腹水ではそれ らに加えて呼吸困難 , ーゼ ,ま た多量に乳廉 の損失 があると栄養 アノ 咳欧,チ 障害 が顕著 となる。 診断 には 穿刺液 の乳震 の証明にあ る.他 リンパ 管造影が有力 である。 Hashimlり ,Do磁 ld Weinsteinlめ は リンパ管造影で 症状 の悪化症例を報告 し ている。本症例で も腹囲,体 重 の増加 があ り慎重 に検査 す るべ きであろ う。また ラジオアイ ソ トー プ,色 素 の使 用, CT,血 管造影等 の方法 があ る。 治療 :乳 廃性腹水症,乳 廃性胸水症 ともに保存的治療 が有効であった との報告があ り,し か も手術療法が必ず しも有効でないため保存的治療,原 因精査をます試み る べ きであ る。 保存的療法 :食 事療法,長 鎖脂防酸 は小腸膜か らリン パ管 に入 る,中 鎖脂肪酸 は門脈 に入 るため中鎖脂肪酸療 法 (MCT療 法)が 一般的 であ る。この MCT療 法 が有 1ケ1つ .他 ,高 蛋白, 低 脂 効 で あ った との報告者は 多い 1° 肪 ,ビ タ ミン剤投与,腹 水 ,胸 水 の反復穿刺 ,穿 刺液 の経 口もしくは静脈内投与 ,刺 激物 の胸腔内投与,気 腹 等 がある。字L廃胸に対 して胸水持続吸引法 が一般的 であ り,自 験例 も行 い術後約20日 日で乳康胸水の減 少を見て い る。 手術療法 :乳 廃胸 に対 して胸管結繁 ,漏 出部位明確な 1の °1り。 時縫合例 の報告 があ る 最近 では木下 は リンパ管 腫例で漏出部位をアロンアルフ ァで治癒せ しめた と報告 予後 :原 疾患 に よ り異 な るが, V。 1lman2の は小児 の 36.3%,乳 廃性 胸腹水症 ,11.1%,外 癒 と述 べ てい る。 結 簾性 腹水症, 傷性乳廃胸水症 , 篤 成人にみ られ た稀 な小腸 ,小 腸 問膜及 び後腹膜脂肪組 の リンパ管腫 お よび血 管腫 に起 因す る乳廃性胸腹水症 の 1例 を報 告 した 。 種 々の保存的治療 に よ り全身状態 の悪化,及 び悪性腫 瘍 も否定 で きない時 は 手術療法 に よ り診断及 び 治療 に有 効 な手段 とな りうる. (な お,本 論文 の要 旨 は第18回 日本消化器外科学 会総 会 1981広 島 にお いて発表 した), 文 献 1)佐 藤 勤 他 :乳 簾性 腹水 について,東 京医学会 雑誌, 5 :1036--1043, 1981. 2 ) 平 尾房吉 : 乳 簾性 腹水患者 の 供 覧. 児 科雑誌, 61: 370--372, 1905. 3)Sakai,Y.,ct al.: IdicPathic retroperitoneal abros本.Acta,Path.JaP・ ,26:637-6447,1976. 4 ) 西 沢義人他 : 乳 児乳簾性腹水 の 1 症 例. 児 科雑 誌, 396: 931--938, 1932. 5 ) 中 村正故他 : 新 生児 にみ られた先天性乳廃性腹 水症 の 1 例 . 小 児科, 1 1 : 7 5 3 - 7 5 6 , 1 9 7 0 . 6 ) 棟 力博 文他 : 後 腹膜神経芽細胞腫 にみ られた乳 案性 腹永症 の 1 例 . 外 科治療, 4 4 , 2 5 2 - 2 5 6 , 1981. 7)Candh:Ergebn.IIn.Med.u.Kinderheilk., 123218増 26, 1913. 8)Nix,」 .T・ , Ct al.: Chylothorax and chylous ascites A study of 302 selected cases.Amcr.J. Cas廿oent.,28:40-も5,1957. 9 ) 阿 部 直 他 : 特 発性乳簾胸 . 呼 と循 , 2 7 : 6 0 5 - している。乳廃性腹水に対 しては腹水を静脈に還流 させ ル ニア襲 と Peri_ る目的で SaPhenobperitoneal Shunl,ヘ toneal Shunt,Saphenotsubcutaneous Shunt,等 の手術法 1つ があるが効果は決 して満足すべ きものではない ,と く に腸管 リンパ管拡張症 に対 しては ヨルチヨステ Fイ ド, 10)Kelly, M.L.Jr. and Buttr H・ R.: Chylous ascites:An analysis its ctiology. Castroentero‐ logy,39: 161--170, 1960. Gluten hee食事 ,小 腸部分切除は 無益 であった との報 15)。 ま た Perelman2いは 子L廃性胸腹水症 に対 告 がある 1013--1020, 1955. 12)Hashim,s,A.,ct al.: Treament Of chyluria 611, 1979. 11)Whittiesey,R.H.,ct al.: ChyIous ascites in childhood rcPOrt Of flVe cases.Ann.Surg.,142: 77(529) 1982年 3月 1ッ 印Phangiectasia. New Engl. J・ Med,, 2703 761--766,1964. 1 7 ) 奥 口邦控他 : 乳 簾陶水 と M C T 療 法. 代 謝, 7 : 52--59, 1970. 1 3 ) 木 上淳 子 : 乳 児乳廃性 腹水症 の一 治験例. 日 小 会誌, 65:776, 1961. 1 9 ) 木 下 謙 他 : リ ンパ管腫 に よる乳 廉胸 の 1 手 術 普争協特り可. タト手 ヰ, 43195--98, 1981. 20)Pcrelman, ヽ T.I.: Problems and surglcal and chylothOrax with medium chain ttigly‐ ccride.Ncw Engl.J・ Med.,270:756 761, 1964. 13)WVeinStein,L.D.,ct al.: Chylous ascites man‐ agment with mcdiuln‐ chain trlglycerides and cxacerbation by lymphangiography. 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