畜産振興事業事後評価票 事 業 牛DNA解析技術を活用した家畜育種等推進事業(肉用牛DNA育種 検証事業) 名 事業実施主体 社団法人畜産技術協会 事業実施期間 平成 20 年度 ~ 平成 23 年度 【事業の概要】 DNA解析研究の成果により肉用牛の脂肪交雑や増体量等の経済形質に係わる遺 伝子がいくつか同定され、世界的に研究開発の競争が激化している中、我が国の肉用 牛生産の維持・発展を図るためには、DNA解析研究の成果達成を加速化する必要が あった。 本事業は、脂肪交雑や枝肉重量に係わる遺伝子の同定を加速化するとともに、これ までに同定された遺伝子の特性解明及び複数の経済形質遺伝子の相互作用を検証し、 DNA解析技術の育種の早期導入を図り、これにより、我が国の代表的な肉用牛であ る黒毛和種を利用した種雄牛や繁殖雌牛のより正確な選抜を可能にし、実施されるこ となどを目的とする事業である。 【視点別評価】 〔必要性〕 4:高い 3:やや高い 2:やや低い 1:低い ・必要性・緊急性 飼料用穀物の高騰と農畜産物の国際競争が激化する中で、我が国の肉用牛生産を安 定的に持続するため、生産コストの低減を図りつつ高品質な牛肉の安定供給が求めら れ、肉質や増体等の経済形質の向上を図る育種の加速化が重要課題であった。 一方、ゲノム選抜法の出現や牛の体高に係わる遺伝子が特定されるなど、この研究領 域での世界的な競争が激化し、優れた肉質を特色とする我が国の肉用牛生産の国際競 争力を維持強化する上で、本事業の研究成果を活かしたDNA解析技術を活用した育種 の早期実現を図る必要があった。これらのことから、本事業の必要性・緊急性は非常に高 かった。 ・国の施策との関連 平成17年に策定された「家畜改良増殖目標」においては、肉用牛の優良種牛の効率 的な生産・利用を図るためDNA解析を活用した育種手法の導入に努めることとされ、平 成22年度に策定された同目標においては、DNA解析技術を用いた遺伝的不良形質の 排除及び優良種畜選抜への活用を推進することとされており、本事業は、国の施策に一 致している。 また、国は、遺伝性疾病に係わる遺伝子解析や和牛の美味しさ等に関する遺伝子解析 に対して助成を行っており、本事業において肉用牛の脂肪交雑、枝肉重量に係わる遺伝 子の探索と同定を行うことは、国の畜産振興施策を補完する重要な効果があった。 ・新規性・先導性 CW-2 は海外品種においても同じ領域にマップされていたが、黒毛和種と褐毛和種の 品種間マッピングにより他国に先がけて責任変異を特定し、特許化及び論文発表を行っ た。CW-3 については、新型シークエンサーを用いたターゲットリシークエンスを行うことに より、11 Mb という広い QTL 領域にもかかわらず、有力な責任変異候補を特定できた。ま た、Marbling-3 は遺伝子と脂肪交雑との関連を機能的に示した。これらの知見及び用い た手法の新規性、先導性は非常に高かった。 〔効率性〕 4:高い 3:やや高い 2:やや低い 1:低い ・投入した資源の妥当性 事業実施主体は、附属動物遺伝研究所にPCR、シーケンサ等種々なDNA解析機器 も備え、本事業で導入したバイオアナライザー、高密度SNPチップと読み取りスキャナ ー、共焦点レーザー顕微鏡等と併せて有効に活用した。 また、事業実施主体は道県と牛DNA共同研究を継続実施して、共同研究県担当者を 集め全国DNA育種推進会議を主催するなど、牛DNA研究の全国的な体制を構築して いる。さらに、毎年、海外において開催される植物動物ゲノム会議に研究員を派遣し て、情報収集と発表を行っているほか、2年毎に開催される国際ゲノム会議にも研 究者を派遣し、海外情勢の把握に努めている。国内においても研究員が理事を務め る動物遺伝育種学会を始め、分子生物学会や日本畜産学会等種々な研究会・学会に 研究員を参加させ、研究情報の収集と発表に当たらせ、研究員の資質向上や、他機 関との情報交換に積極的に努めている。 本事業では、保有又は導入した研究機器、研究員が構築したネットワーク等を最大限 に活用し、ほぼ計画通りにクリアしており、この事業に投入した資源(事業費、機関・人)は 妥当なものであった。 ・事業計画・実施体制の妥当性 事業実施主体本部が規格・管理を担当し、附属動物遺伝研究所が研究を行う体制 は、連携もよく円滑に進行し、妥当であった。 また、DNAサンプル収集費用の予算化を行い、芝浦市場、南港市場の協力も得て、本 事業を実施する間に 18,300 頭(累計 51,752 頭)を収集することができ、これが関連解析や 効果検証を行うための基盤となった。また、道県との共同研究体制の下、県独自のDNA サンプルについても速やかな提供が得られ、解析に必要な材料を迅速に収集することが できた。よって、事業計画、実施体制は妥当であった。 〔有効性〕 4:高い 3:やや高い 2:やや低い 1:低い ・事業の達成度 黒毛和種一般集団においては、3つの効果の大きい枝肉重量 QTL (CW-1, 2, 3) が存 在することを示し、それぞれの責任変異を特定した。その結果、これらはヒトの身長関連遺 伝子と一致し、ウシにおいても体の大きさに関連していることが明らかになった。脂肪交雑 については、一般集団で大きな効果をもつ QTL は検出されなかったが、特定地域集団で 比較的大きな効果が見られる脂肪交雑 QTL(Marbling-3)について責任変異を特定し、脂 肪交雑との関連を機能的にも示した。複数の枝肉重量遺伝子保有効果の検証について は、CW-1, 2, 3 の間に相互作用は検出されず、それぞれが独立に相加的に働くと考えら れた。 以上により、期待通りの非常に高い成果を達成できたと考える。 ・事業成果の普及性・波及性 本事業で開発した CW-1, 2, 3 及び Marbling-3 マーカーは、既に選抜に活用されてい るものもあるが、今後さらに広範な活用が期待される。また、半きょうだい家系解析及び関 連解析から責任遺伝子(変異)の同定に至る手法は、他の有用形質のゲノム解析・マーカ ー開発に広く応用が期待できる。 【総 合 評 価】 A:当初目標を達成し、高い成果をあげた B:当初目標をほぼ達成し、成果をあげた C:当初目標の達成は不十分であり、成果をあげたとは言い難い 当初計画の脂肪交雑遺伝子2個、枝肉重量遺伝子1個の同定が、前者1個、後者2個 の到達となったが、黒毛和種一般集団において大きな効果をもつ QTL(CW-1, 2, 3)の責 任変異をすべて特定できたことから、当初計画は十分達成されたと判断する。 《外部専門家等の意見》 本事業を遂行していく上で設置した肉用牛DNA育種検証事業育種検討委員会の 専門委員からは、成果等について次の意見があった。 脂肪交雑、枝肉重量等に関与する遺伝子領域を明らかにするなど中間成果指標・直 接指標を達成するとともに、和牛の特色をより鮮明にし、今後の和牛生産の進むべき道を 考慮する上でも重要な事業成果が得られた。 次世代型シーケンサ等最新の解析機器を自ら解析システムを構築しつつ活用し、わず か4年で改良効果が期待される確実な遺伝子を明らかにしたことは大いに評価できる。 本事業で明らかとなった遺伝子、特に CW-2については既に複数県の牛群において改 良への効果が確認されており、検査の簡易化等により今後の生産現場での活用が期待さ れる。 今後は、改良増殖目標の上で重要性が増している繁殖性、飼料の利用性等の追求に 取り組むとともに生産現場での実践・実証に取り組んで欲しい。また、最近3年間を見ても 家畜のゲノム研究は急速に進展しており、国際的に孤立しないように留意して欲しい。 脂肪交雑に関する Marbling-2 のように今回の事業でも解明できていないものもあり、こ のような困難な課題に挑戦してもらいたい。例えばヒトでは日本人のゲノム参照配列ができ ている。和牛のブリーディング集団のバイオバンクを構築し、和牛の遺伝的なバックグラウ ンドの調査等を行ってはどうか。 《評価委員会の意見》 肉用牛生産において、消費者が求める高品質な牛肉の安定供給を図るため、脂肪交 雑及び枝肉重量に関与する責任遺伝子を同定し、これら遺伝子型情報を活用した家畜 改良手法の開発が求められている。 本事業では、道県等と連携した全国的な研究体制の下で、黒毛和種一般集団を対象 とした遺伝子解析により枝肉重量を増加させる3つの責任遺伝子(CW-1, 2, 3)を同 定し、それらが独立して働くことを明らかにした。かつその一つは選抜育種への応用 効果が高いことを確認した。 また、重要視されている脂肪交雑については、一般集団では検出されなかったが、 特定集団で比較的大きな効果のある責任遺伝子(Marbling-3)が見出された。 これらDNA解析の成果は、黒毛和種の遺伝子型情報を利用した種雄牛や繁殖雌牛 の効率的な選抜を可能にするものであり、高く評価できる。 さらに責任変異を特定した遺伝子について国内特許出願3件、国際特許出願2件を 行うなど、研究成果の知的財産化が進められている。 今後は、解析技術の一層の簡易化及び応用普及体制を強化し、生産現場での活用を 図るとともに、他の重要な経済形質についても、本事業で整備された最新のDNA解 析技術を活用した取組みが進展することを期待する。
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