Research on Cast Iron Dies for Die Casting

鋳 鉄 製 ダイカスト 簡 易 金 型 の 研 究
青 山 俊 三
㈳ 日本ダイカスト協会 研究開発委員会
ダイカスト試作品用に FCD 700 の鋳鉄金型を作製し、ダイカスト実験を行った。目標の 1,000 ショット
鋳造使用が可能であった。課題として鋳鉄鋳肌の凹凸の除去が必要であり、これを低コスト、短納期
で処理する方法の検討を行った。
1.はじめに
1.1 研究の背景
種材料を用いた鋳造による簡易金型製作により、寸法
自動車部品などでダイカストの部品を開発する場
精度や冷却パイプの鋳込みなどが研究されている。そ
合、金型製作のコストが高いおよび納期が長い理由で、
の結果ダイカスト品として使用するには寸法精度がダ
砂型鋳物が用いられる。砂型鋳物はダイカストに比べ
イカスト公差に入らないこと、金型寿命が短いことが
冷却速度が遅く、材料特性が異なり、形状確認はでき
課題として抽出されている。
ても強度面での評価に問題がある。また試作段階でダ
イカスト成形性が確認できず、量産に入ってから品質
1.2 開発目標について
や生産性に問題が生じることがある。これら試作上の
ダイカストの簡易金型に関するニーズを協会会員か
課題は、特にボディ部品やシャーシ等の大型部品で問
らアンケートで調べた結果、①試作に使用、②製作コ
題となり、ダイカスト市場拡大の障害となっている。
ストが量産型の半額以下、③製作納期が量産型の半分以
ダイカスト金型を簡易的に作るニーズは、古くから有
下、④溶接補修が可能というニーズが確認された。型
り、金型製作の低価格化および短納期化を目的に、各
寿命の目標を委員会での討議より 1,000 ショットとした。
2.鋳鉄材料の耐ヒートクラック性試験
2.1 試験目的
鍛造材に比べ鋳鉄材は靭性が小さいために、早期に
表 1 にテストした材料の種類、熱処理条件、硬さ測
定結果を示す。FCD 700、FCD 450、KSD - 800 IS(耐摩
ヒートクラックが成長し、型寿命が短いことが予測さ
耗球状黒鉛鋳鉄)、ノビダク(高靭性球状黒鉛鋳鉄)お
れる。そこで、材料選定の参照として各種鋳鉄材料の
よび SKD 61 鋳造材と SKD 61 鍛造材を試験に供した。
SKD 61 鋳造材の熱処理材、および KSD - 800 IS の熱処
耐ヒートクラック性を調べた。
理 材 の 硬 さ が HRC 35 以 上 と 硬 く、FCD 700、KSD 2.2 試験方法
2
3)
800 IS、SKD 61 鋳放し材の順で硬さが低くなり、ノビ
試験方法は、ダイカスト金型が受ける温度履歴を再
ダク、FCD 450 で硬さが HRC 10 以下となっている。
現するために高温に加熱した加熱子にテストピースを
0、100、200、300、500、1,000 サイクルのヒートサ
高圧加圧して急速加熱し、その後水スプレーで急速冷
イクル熱負荷試験を行い、各サイクルでテストピース
却するヒートサイクルを繰り返しテストピース表面に
試験面のヒートクラック最大 5 本平均長さ測定を行っ
熱負荷を加える方法で耐ヒートクラック性を評価した。
た。SKD 61 鍛造材と SKD 61 鋳造熱処理材について
特集 2008 年日本ダイカスト会議・展示会に見る技術動向
表 1 実験した材料一覧
鋳鉄材
熱処理
ロックウェル硬さ(HRC)
FCD 450
なし
(HRB 75.6) (HRB 75.9)
FCD 700
18.8
19.5
焼入れ焼戻し
なし
14
14
なし
18
20
KSCD - 800 IS
焼入れ
42.9
焼入れ焼戻し
37.8
ノビダク
SKD 61 鋳造品
SKD 61 鍛造品
なし
6
なし
11.1
焼入れ焼戻し
48.2
焼入れ焼戻し
47.8
4
図 1 ヒートクラック 5 本平均長さの推移
表 2 ヒートクラック最大 5 本平均長さの一覧
は、ヒートクラックの進行が
非常に小さかったので、熱負
荷試験をそれぞれ 10,000 サイ
クル、5,000 サイクル行った。
2.3 試験結果
KSCD - 800 IS の熱処理材に
ついては、早期割れが発生し
たので、100 サイクルで試験
を中断した。
図 1 に各材料の熱負荷サイ
クルに対するヒートクラッ
評価サイクル
KSD - 800 IS
SKD 61
鍛造材
FCD 450
0
0
0
0
0
100
0.34
0.83
0.42
2.75
0.12
―
200
0.75
2.13
1.00
4.94
0.16
―
300
2.26
3.43
1.81
6.73
0.21
―
500
5.23
5.18
3.81
8.40
1.96
―
1000
9.59
14.50
10.04
14.50
3.46
0.24
2 mm 成長サイクル
300
200
300
100
500
10,000
3
2
3
1
5
100
3,000
2,000
3,000
1,000
5,000
100,000
0
SKD 61 比(%)
予想寿命
ク最大 5 本平均長さの推移を示す。いずれの材料も熱
ノビダク
SKD 61
鋳造材
FCD 700
0
負荷サイクルの増加に伴って、ヒートクラックが長く
造材にくらべ 1/20 以下となっている。なおこの表で
は、初期割れが発生した KSCD - 800 IS 熱処理材につい
なっている。材料によって、ヒートクラックの成長が
ては割愛している。
異なるが、いずれの材料も SKD 61 鍛造材に比べ、著
しく成長が速い。
2.4 まとめ
表 2 にヒートクラック最大 5 本平均長さの一覧を
いずれの鋳鉄材料も SKD 61 鍛造材に比べてヒート
示 す。 こ の 表 に は ヒ ー ト ク ラ ッ ク 平 均 長 さ が 凡 そ
クラックの成長が著しく早く、平均長さ 2 mm を基準
2 mm になったときの熱負荷サイクル数を示している。
に取った場合の寿命は 5 % 以下であった。今回調査し
SKD 61 鍛造材の場合は 10,000 サイクルで 2 mm となっ
た材料では、FCD 700 の寿命が SKD 61 の約 3 % であり、
ており、これを 100 とした場合の各材料での寿命パー
1,000 ショット程度であれば、ダイカスト鋳造に耐え
セント表示を示した。
うると推定された。
鋳鉄材料の場合、SKD 61 材を除いて、いずれも鍛
3.鋳鉄製ダイカスト簡易金型の作製
3.1 簡易金型の作製方法
両方を作製した。鋳鉄材料は、FCD 700 とした。
今回の研究では 2 回、鋳鉄製ダイカスト簡易金型を
3.1.1 1 回目の実験
作製しダイカスト実験を行った。1 回目の実験では、
鋳鉄の製造法にはセミフルモールド法を用いた。図
キャビティ面を鋳鉄の鋳肌の状態のまま使用すること
面を基に 3 D シェルモデルを作製し、このデータを基
とし、固定型の嵌め込み部のみを作製した。2 回目の
に発砲スチロールを加工して発砲模型を作製する。発
実験では、キャビティ面のプロフィールを機械加工で
砲模型の目の凹凸が鋳物に転写されるのを防ぐために、
仕上げし、固定型の嵌め込み部と可動型の嵌め込み部
キャビティ部に目止め剤を塗布する。その後模型にセ
3
ラミックスラーリをコーティングしセラミックシェル
ており、充分これを満足する。発砲模型の Y 方向の寸
鋳型を作製する。これをバックサンドの中に埋設して、
法値で−1.3 と極端に大きな数値がでているが、これは
FCD 700 溶湯を鋳込み、湯道等を除去して鋳鉄鋳物を
発砲の目の凹部にレーザが当たったものである。簡易
得た。主型に組み付くように、キャビティ面を基準に
金型の形状面を鋳肌で用いる場合、問題となるのは Z
金型あわせ面など 6 面を NC フライスで加工し、おも
軸方向の寸法である。そこで Z 方向(高さ方向)に着
型との型合わせを行った。また冷却穴の設置、鋳込み
目して寸法測定結果を見てみると、模型の Z 方向の精
口ブッシュとの勘合部合わせも機械加工で行った。
度は±0.2 mm 程度であることがわかる.次に、鋳物
3.2.2 2 回目の実験
の寸法精度を見ると、外周部は + 0.5 ∼ + 0.6 mm の値
2 回目はキャビディ面を機械加工するので、金型を
が出ているのに対し、中心部は、ほぼ 3 D データどお
低コストのフルモールド法で作製した。発砲模型を塗
りの寸法が出ている。砂型鋳物の JIS の寸法公差は±
型して、直接バックサンドの中に埋設して溶湯を流し
1.4 mm であり、充分満足している。
込み、鋳鉄鋳物を作製した。模型はキャビティ部には
2 mm の加工代を設けた。材料の伸びを改善すべく、
3.3 組織について
鋳 造 後、840 ℃ × 3 H →(−50 ℃ /H 冷 却 )→ 630 ℃ ×
3 H →(- 50℃ /H 冷却)の調質処理を行った。2 回目
ではセミフルモールド法の、2 回目の実験ではフルモー
はキャビティ面も含め、すべての面を NC フライスで
ルド法の組織となる。
機械加工し、仕上げた。
いずれの方法で作製した金型も、表面から 0.3 mm
金型の表面付近の組織を図 3 に示す。1 回目の実験
までは、フェライトの組織が出ている。また表面層で
3.2 寸法精度の確認
球状化不良を発生しているのが観察された。
発砲模型と鋳物の寸法を非接触式のレーザ測定
機で測定した。図 2 にその結果を示す。X−Y 方
向の鋳物の寸法精度は、−0.3 ∼ + 0.4 mm である。
軽金属砂型鋳物の寸法公差 JIS B 0403 CT 11 級で
は、400 ∼ 630 mm の寸法で公差が±3.5 mm となっ
図 2 模型と鋳鉄鋳物の寸法測定結果
図 3 鋳鉄鋳物表層部のミクロ組織
4.1 回目のダイカスト実験
4
4.1 実験の模様
SKD 61 鋼材金型である。300 kg 溶解保持の丸炉で、
実験は、東芝機械製 DC 350 J - MH を用いて行った。
コールドチャージ方式でインゴットおよびリターン材
作製した駒を主型に組み付けた固定型に冷却配管を
を溶解した。合金は AD 12 で、保持温度は 680℃とし
設置して、マシンに取りつけた。可動型は、通常の
た。鋳造品の外観を写真 1 に示す。基本肉厚は 3 mm で、
特集 2008 年日本ダイカスト会議・展示会に見る技術動向
表 4 肉厚の比較
金型
測定位置
肉厚
A
3
B
3.1
C
3.1
A
3.2
B
3.3
C
3.3
SKD61 金型
鋳鉄製金型
(2)ミクロ組織観察
ミクロ組織を図 4 に示す。鋳鉄(固定型)側の表面、
低速速度
0.2 m/s
高速速度
2.0,3.0,4.0 m/s
ゲート速度
40,60,80 m/s
高速距離
80 mm
鋳造圧力
60 MPa
昇圧時間
40 ms
チップ径
φ 60 mm
鋳込み重量が 1,020 g、製品重量が 600 g であり、チル
ベントで排気する構造となっている。主な鋳造条件を
表 3 に示す。
実験初期に、製品が固定型に残るトラレが発生し連
続鋳造ができなかった。そこで、キャビティ表面をグ
ラインダーで磨いて凹凸を除去した。その結果、トラレ
が発生することなく、連続鋳造ができるようになった。
射出速度 2 m/s で 600 ショット鋳造したが、金型のク
ラックの進展状況に大きな変化が現われなかったので
601 ショットから射出速度を 3.0 m/s、621 ショットか
ら 4.0 m/s と早くして、金型への熱負荷を高くした状
態で残りの鋳造を行い、目標の 1,000 ショットで鋳造
とも SKD 鋼材)で鋳造したダイカストの表面の 3 点に
ついて観察した。典型的な ADC 12 ダイカストの組織
である。どれも α 結晶粒のサイズが 10μm 以下であり、
鋳鉄側(固定型)
表 3 主な鋳造条件
SKD 61 鍛造材(固定、可動) SKD 61 鍛造材側(可動型)
写真 1 鋳造品外観写真
SKD 鋼材(可動型)側の表面、通常の金型(固定、可動
図 4 ミクロ組織の比較
して鋳造テストを終了した。
4.2 ダイカスト品の調査
鋳 鉄 と SKD 鋼 材 の 間 に、 ミ
前節で述べたような条件で鋳造したダイカストで
クロ組織に影響するような冷
は、金型に大きな損傷はなく、砂型鋳物の代替え品と
して使用できるレベルであった。
ヒートクラックの成長は、射出速度を 4 m/s に上げ
てから幾分速くなった。湯道部分(フライス加工面)は、
鋳肌部であるキャビティ部分に比較してヒートクラッ
クの進展が遅かった。
(1)肉厚測定
肉厚測定の結果を表 4 に示す。実験品の肉厚は、
SKD 61 金型で鋳造したものよりも 0.2 mm 程度厚い。
鋳造初期にトラレ対策のためキャビティ表面をグライ
ンダーで研削した影響と考えるが砂型の寸法公差を充
分満足している。
6 ショット
却速度の違いは見られない。
(3)クラックの成長観察
図 5 に位置 D の 6 ショット
目、999 ショット目のクラッ
クの状況、図 6 に位置 E の 26
ショット目、650 ショット目、
999 ショット
999 ショット目のクラックの
状況を示す。
位置Dの大きな型侵食は
鋳造初期から発生し、その後
ショットとともに成長する。
位置 E には侵食とクラック
図 5 位置 D のクラック
進行状況 5
26 ショット
の両方が発生する。位置 E で
侵食が 26 ショット目に発生
を球状化処理する。処理時に球状化剤成分 Si、Mg の
一部が酸化され、MgO - SiO2 系の酸化物(ドロス)が
し、650 ショット目位から亀
発生する。今回観察された膜状の介在物は、この酸化
甲模様のクラックが見え始め
物(ドロス)であることが EDS 分析により確認された。
る。亀甲模様のクラックは侵
鋳鉄溶湯中に残存したドロス中に、溶湯が浸入して
食部分が起点になっている。
凝固した部分は、マトリックス強度が非常に弱く、ダ
イカストの熱衝撃等によって初期に破壊され、窪みと
650 ショット
4.3 ダイカスト実験後の
鋳鉄製金型の状況
999 ショット
なる。
4.3.4 ランナー部(機械加工面)
4.3.1 観察方法
ランナー部は、クラックが深さ方向に進展しており、
1,000 シ ョ ッ ト 鋳 造 後 の 金
一部アルミ溶湯が染み込んでいる。
型を①光学顕微鏡による組
図 9 にランナー部の断面組織を示す。切り出した試
織観察② SEM による組織観
験片は、5、6 本のクラックが走っており、縦方向のク
察③表面からの基地組織の
ラックが確認できた。1,000 ショット後のランナー部に
硬度測定(マイクロビッカー
は、ヒートクラックが亀甲上に形成されている。キャ
ス)により調査した。評価は
ビティ部に発生したものに比べて、クラック幅は狭い。
(1)キャビティ部(鋳肌面)
図 6 位置 E のクラックの
進行状況 ランナーの面
に点在する小さな窪み部(径
0.5 mm 程度)と(2)一箇所の
大きな窪み部(径 2 mm 程度)
縦方向のクラック
(3)ランナー部(機械加工面)について行った。
4.3.2 製品キャビティ部の点在する小さい凹部
直径 0.5 mm 程度の小さな窪み部が、キャビティ部に
図 9 ランナー部の断面組織観察
点在していた。図 7 に小さな窪み部の断面組織観察結
果を示す。断面写真を見ると、窪み部の周りに黒鉛の
図 10 に、ランナー部の断面組織と熱影響を受けて
球状化不良部が確認される。
いないパーティング部の断面組織を示す。両者の組織
球状化不良部
図 3 に示したようにダイカ
には違いが見られず、このことから 1,000 ショットの
スト実験前の鋳肌直下の組織
ダイカスト鋳造による組織変化はないといえる。
で は、 鋳 肌 か ら 0.3 mm ま で
球状化黒鉛が少ない組織に
なっている。こうした部分で
ランナー部
縦クラック
は、部分的に黒鉛の球状化不
図 7 小さい凹部の断面
組織観察結果
良が発生しやすく、強度が弱
くなっておりこれが窪みの発
生の原因になったと考える。
パーティング部
図 10 ランナー部とパーティン部の組織の比較
4.3.3 キャビティ部の大きな窪み部
図 8 に、鋳造初期から大きな窪みが発生し、ショッ
4.3.5 硬さの調査
ト数ともに成長した大きな窪み部の断面組織観察結果
1,000 ショット後の硬さの調査結果を表 5 に示す。マ
を示す。黒鉛が直線状に伸びた球状化不良部が広がっ
表 5 各部位の硬さの比較
た組織が観察された。またこの部位には、膜状の介在
物が観察される。
表面直下
ダクタイル鋳鉄では球状化剤を注湯前に加えて黒鉛
健全部
大きな欠陥
健全部
球状化不良部
ひも状(膜状)の介在物
図 8 大きなクラック部の断面組織観察結果
6
表面より 表面より 表面より
1 mm
5 mm 30 mm
①キャビティ部 (パーライト)224
(鋳肌部)
(フェライト)164
233
235
―
②ランナー部
237
228
236
230
③パーティング部
234
227
227
―
(パーライト)228
(フェライト)161
233
230
231
④鋳造前
(鋳肌部)
特集 2008 年日本ダイカスト会議・展示会に見る技術動向
イクロビッカース硬度計により、基地組織の硬さを測
料とも差は見られない。硬さは強度に比例するため、
定した。参考として、ダイカスト鋳造前の硬さを示す。
各部位における強度も、ほぼ一定であると考えられ、
1,000 ショット後の鋳造品は、部位による違いや深
1,000 ショットのダイカスト鋳造による基地組織の強
さ方向による硬さの違いは見られない。鋳造前の試
度低下は無いといえる。
5.2 回目のダイカスト実験
5.1 実験の状況
の範囲にあり、ダイカスト公差
2 回目は固定型及び可動型両方の簡易型を作製し、
内である。キャビティ面を機械
キャビティ面は機械加工で仕上げた。主型に組み付け
加工仕上げしており、これが鋳
し、冷却をセット後、マシンに取り付けた。主な鋳造
鉄の実力値と判断される。
条件は、1 回目と同じである。射出速度は、2.0 m/s 一
(2)ミクロ組織観察
表 6 肉厚測定結果
測定位置
肉厚
A
3.0
B
3.0
C
3.1
定とした。2 回目は、トラレが発生することなく 1,000
ミクロ組織は 1 回目と同様に ADC 12 薄肉ダイカス
ショットを安定鋳造することができた。
トの典型的な組織であり、通常ダイカスト SKD 61 金
鋳肌部もおおむね良好であった。
型と同じであり、冷却速度に変化がない。
(3)ヒートクラックの成長
5.2 ダイカスト品の調査
(1)肉厚測定
肉厚測定の結果を表 6 に示す。3.00 mm から 3.10 mm
1 回目の実験と同様に 1 ショット目から侵食の見ら
れる箇所が見られたが、その他の部位ではクラックの
発生はほとんど見られなかった。
6.キャビティ面の仕上げ方法調査
6.1 調査目的
条件でショットをかけ、その後表面を滑らかにする条
1 回目のダイカスト実験でキャビティ面を鋳肌とし
件でショットをかけた。その結果を写 真 2 に示す。比較
た場合、製品が固定型に残り、トラレが発生して連続
的平滑な面の表面粗さは Ra=18μm、Rmax=110μm と
鋳造ができなかった。そこで 2 回目のダイカスト実験
なったが、
所々にクレーター状の窪みができた。これは、
では、キャビティ面を機械加工で仕上げして金型を作
表面近傍にある鋳造欠陥がショットによって現れたも
製した。固定で比較すると加工のコストが 15 万円から
のである。ショットブラストは低コストでリードタイ
45 万円と約 3 倍に、加工に要した期間も同様に約 3 倍
ムが短く、コスト、納期目標を達成可能であるが、実
に延びた。この結果、簡易金型の開発目的であるコス
用化には鋳鉄表面層にできる欠陥をなくす必要がある。
ト半減、納期半減の目標が達成できないことになった。
そこで、キャビティ面を機械加工することなく、製
品をスムーズに取り出せる安価で短納期の鋳鉄鋳肌の
仕上げ方法を調査した。
6.2 仕上げ方法の調査方法
キ ャ ビ テ ィ 面 の 仕 上 げ 方 法 を 検 討 す る た め に、
FCD 700 製のテストブロックを作製した。
仕上げ方法として、ショットブラストによる研削、
写 真 2 ショットブラスト後のテストブロック
表面のコーティング処理、レーザによる表面溶融、レー
6.3.2 コーティング処理による表面粗さの改善
ザ研削、ウォータジェット研削について調査した。
酸化クロムをベースにした複合セラミックコーティ
ングであるトーカロ社の CDC - ZAC 処理をテストブ
6.3 キャビティ面の仕上げ方法についての調査結果
ロックに実施した。処理は化学緻密化剤含浸と焼成
6.3.1 ショットブラストを用いた研削
を 10 数回繰り返す必要があり、2 週間程度の納期が必
新東ブレーター社製の MY- 30AP ショットブラスト機
要となる。処理後のブロックを写真 3 に示す。表面粗
を使用し、ショット玉にアルミナを用いた。最初に削る
さは Ra=5μm、Rmax=44μm という結果であり、良
7
写 真 3 コーティング処理後
のテストブロック
図 11 レーザ表面加工後の表面状態
図 12 ウォータジェットの研削加工結果
い結果であった。テストブロックの処理費用は 15,000
円で、仮に 50 kg のサイズの物を処理した場合には、
にならって加工してしまうことや、鋳物の組織にレー
250,000 円ほどになり、機械加工した場合と同程度と
ザを透過しやすい部分が存在し、透過する部分が削れ
なりコストおよび納期の目標は達成できない。また処
ないことなどで使用できないことがわかった。
理できる材料には処理炉の大きさ上の制限があり、□
6.3.5 ウォータジェットによる研削加工の結果
350 mm 以下であることが条件となる。
ウォータジェットは研磨剤の有り無しと、移動速度
6.3.3 レーザによる表面溶融加工の結果
レーザは Laseline 社製 LDF 1000 - 4000 半導体ダイ
を変化させる 6 条件について実施した。処理後の状況
レクトレーザを用い、出力、移動速度、焦点を変化さ
研磨剤を添加しても Rmax=140μm 以上でほとんど効
せて表面状態の変化を観察した。結果を図 11 に示す。
果がないことがわかった。今回の条件でテストブロッ
出力が小さいと最表面が溶融、凝固するだけで表面粗
ク全体を処理しようとすると、2 ∼ 3 時間の処理時間
さの改善がほとんどなく、逆に出力を大きくすると表
が必要なことがわかった。
を図 12 に示す。研磨剤なしでは全く研削効果がなく、
面がしっかり溶融するかわりに、黒鉛がガス化し発泡
し、形状を荒らしてしまう結果となった。レーザによ
6.4 仕上げ方法調査のまとめ
る溶融加工の可能性は非常に低い。
今回、キャビティ面の仕上げ方法として 5 つの方法
6.3.4 レーザによる研削加工の結果
について検討調査した。その結果ショットブラストに
レーザによる研削加工は YVO4 レーザで、ファイ
よる表面仕上げがコストおよび納期上目標を達成でき
バー径がφ 30μm のものを使用した。レーザ自体の焦
る可能性があるが、その場合鋳鉄の表面層に存在する
点距離に数 100μm の幅があり多少の凸凹は元の形状
欠陥をなくすことが課題となる。
7.まとめ
ダイカスト部品の試作に砂型鋳物に替わって使用で
すい。これらの欠陥の存在は、ダイカスト鋳造の初
き、コストおよび納期が従来の半分以下の鋳鉄製の簡
期段階から発生するクラックの原因となる。
易金型を開発する目的で 2 回のダイカスト実験を行っ
(4)キャビティ面を機械加工仕上げして、金型を作製
た。その結果以下のような知見を得ることができた。
した場合、加工コストおよび納期が約 3 倍かかり、
(1)耐ヒートクラック性の評価試験から鋳鉄は、ダイ
目標とする金型製作コストおよび納期を達成するこ
カスト用金型材料(SKD 61 鍛造材)に比べて耐ヒー
とが困難となる。
トクラック性が大幅に落ちる。その中で、FCD 700
(5)キャビティを機械加工以外で研削する方法を検討
であれば、1,000 ショット程度のダイカスト鋳造に
した結果、ショットブラストによる表面仕上げが目
耐えることができる。
標達成の可能性があるが、鋳鉄の表面層部に存在す
(2)キャビティ面を鋳鉄の鋳肌のままにした場合、金
る欠陥をなくす必要がある。
型製造コストおよび製造納期は安く、短くなるが、
表面粗さがあらく、鋳物がスムーズに離型できない。
(3)鋳鉄の鋳肌近傍には、フェライト層が見られ、部
分的に黒鉛の球状化不良部が発生する。さらに鋳鉄
溶湯中に残存したドロスによる線状欠陥も発生しや
8
参考文献
1 )研究調査報告 No. 3,日本綜合鋳物センター(1960)
2 )研究調査報告 No. 299,日本綜合鋳物センター(1983)
3 )新井ら JD 98,67(1998)