Title ウマにおける胎子検査法および抗ミューラー管ホルモンを 用いた性腺異常の診断に関する研究( 内容と審査の要旨 (Summary) ) Author(s) 村瀬, 晴崇 Report No.(Doctoral Degree) 博士(獣医学) 乙第143号 Issue Date 2016-03-14 Type 博士論文 Version none URL http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/54521 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。 (4) 氏名(本(国)籍) 推 薦 教 員 氏 名 学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与年月日 学位授与の要件 研究科及び専攻 研究指導を受けた大学 学 位 論 文 題 目 審 査 委 員 村 瀬 晴 崇(愛知県) 帯広畜産大学 教授 南 保 泰 雄 博士(獣医) 獣医博乙第143号 平成28年3月14日 学位規則第3条第2項該当 連合獣医学研究科 獣医学専攻 帯広畜産大学 ウマにおける胎子検査法および抗ミューラー管ホルモ ンを用いた性腺異常の診断に関する研究 主査 帯広畜産大学 教 授 南 保 泰 雄 副査 帯広畜産大学 教 授 山 田 一 孝 副査 岩 手 大 学 教 授 佐 藤 繁 副査 東京農工大学 教 授 渡 辺 元 副査 岐 阜 大 学 教 授 村 瀬 哲 磨 学位論文の内容の要旨 本研究では,ウマ胎子検査法および抗ミューラー管ホルモン(AMH)を用いた性腺異常の診 断法について検討した。 第1章ではサラブレッド種妊娠馬に対して,コンベックス型超音波探触子を用いた妊娠 全期間の胎子の検査方法について検討した。その結果,胎子頭尾長,眼球径,子宮胎盤厚 (CTUP)や胎子腎臓径の描出および計測が可能であることが示唆された。本研究では妊娠の 進行にともなってそれぞれ異なる推移を示す胎子の各指標を用いることにより,これまで 読影が困難であったウマ胎子の正確な診断の可能性が示唆された。 第2章では,流産の原因として知られている真菌性胎盤炎を自然発症し,妊娠 41 週目に 流産した症例について,臨床症状出現前から流産に至るまで,CTUP,血清アミロイド A(SAA), 血中プロゲスチンといった項目に着目して検索し,早期診断の有用性を検討した。その結 果,画像診断による CTUP 計測,およびホルモン測定によるプロゲステロン,エストラジオ ール濃度は臨床症状(34 週目)に先立って変化を示した。またプロゲステロンにおいては 早期から上昇傾向を認め,29 週目にカットオフ値を逸脱した。エストラジオールは 31 週 目に低下を示し,37 週目にカットオフ値から逸脱した。このことから,早期診断には CTUP と母体血中プロゲステロンの測定が有用であることが示唆された。 第3章では,内分泌学的な診断精度が十分とは言い難いウマ顆粒膜細胞腫(GCT)について, 新たな指標としてヒト用 AMH 測定の有用性について検討した。その結果, GCT 馬における 血中 AMH 濃度は 827.85 ng/ml と極めて高く,類似疾患馬と GCT 馬の AMH 濃度は明瞭に判別 可能であった。以上のことから,ウマ血中 AMH 濃度測定は,発情周期,妊娠の有無に影響 を受けることなく,GCT 診断に有用であることが示唆された。 第4章では,ウマにしばしば発症する片側性潜在精巣馬において,下降している正常側 のみ摘出し,騸馬として誤認される事例(Hemi-castrated unilateral cryptorchidism, HCUC)の問題点を指摘し,より精度の高い鑑別診断法について検討した。その結果,前章 と同様に血中 AMH 測定を利用することにより, HCUC 馬では血中に AMH が検出され,騸馬 で検出されないことを示した。免疫組織化学染色において潜在精巣のセルトリ細胞でも AMH 陽性であることから,潜在精巣でも AMH が分泌されていることを確かめた。以上のこ とから,従来のホルモン検査法と比較して AMH は HCUC 馬の診断として簡便で明瞭なマーカ ーであることが示唆された。 最終章において本論文の総括として,得られた成果によるウマ臨床獣医学への応用につ いて考察した。すなわち,本研究で得られた1)妊娠期の異常を早期に診断するための胎 子超音波検査法の確立,2)胎盤炎自然発症例における超音波検査およびホルモン検査の 有用性,3)国内で入手可能なヒト用 AMH 測定系による GCT の診断,および4)AMH 測定 系による潜在精巣に対する簡便で確実な診断マーカーとしての有用性が,ウマの繁殖障害 の早期発見に大きく寄与するものと考えられた。 以上の結果から, 本研究ではウマにおける胎子検査法および抗ミューラー管ホルモンを 用いた性腺異常の診断方法について検索し,ウマ生産分野において臨床上問題となってい る妊娠期の,より精度の高い診断法および繁殖障害の診断法として有用性の高い技術であ ることを明らかにした。 審 査 結 果 の 要 旨 軽種馬生産は他の産業動物よりも経済的価値が高く,妊娠期の損耗は大きな問題となっ ている。本研究は,軽種馬生産における妊娠期の損耗を防ぐことを目的として,胎子検査 法および抗ミューラー管ホルモンを用いた性腺異常の診断に関する以下の研究を実施した。 Ⅰ.コンベックス型探触子を用いた妊娠馬超音波検査 サラブレッド種妊娠馬に対して,コンベックス型探触子を用いることにより,胎子頭尾 長,眼球径,子宮胎盤厚(CTUP)や胎子腎臓径などの描出方法を示し,妊娠期を通じた計測 が可能であることを示した。本研究では妊娠全期にわたって計測することで,各指標が妊 娠の進行にともなってそれぞれ異なる推移を示すことが明らかとなった。 Ⅱ.真菌性胎盤炎の 1 症例におけるモニタリング指標の推移 感染性胎盤炎は妊娠期の損耗の主要な原因である。本研究では臨床症状よりも先に CTUP およびプロゲステロンの上昇傾向が異常を示しうることを示した。母体血中ホルモンに関 しては個体毎の変化に着目することで,より早期に異常を検知しうることを示した。流産 予防に対する今後の臨床応用が期待される症例検索であった。 Ⅲ.ウマ顆粒膜細胞腫(GCT)の診断マーカーとしての血中抗ミューラー管ホルモンの応用 GCT は卵巣腫瘍で最も多く,交配不能となる。従来診断法は煩雑で,その診断精度も確 実ではない。本研究ではヒト用 AMH 測定系として利用されている ELISA 法が雌馬の血中濃 度測定に有用であることを示した。さらに血中 AMH 濃度が正常馬および類似疾患馬に比較 して GCT 馬において有意に高いことから, GCT 診断マーカーとして有用であることを示し た。 Ⅳ.片側性潜在精巣において下降精巣を摘出された馬の診断マーカーとしての血中抗ミュ ーラー管ホルモンの応用 ウマでは潜在精巣が起こりやすく,片側性潜在精巣馬において下降している正常側のみ 摘出し,騸馬として誤認されることがある(HCUC)。本研究では血中 AMH 濃度が,セン馬で は検出限界以下となり,HCUC 馬で検出されることを示し,併せて精巣内での局在性を免疫 組織化学的手法により明らかにした。血中 AMH 濃度測定は HCUC の診断において,簡便で明 瞭なマーカーとなりうることが示唆された。 以上について,審査委員全員一致で本論文が岐阜大学大学院連合獣医学研究科の学位論 文として十分価値があると認めた。 基礎となる学術論文 1)題 目:Ultrasonographic evaluation of equine fetal growth throughout gestation in normal mares using a convex transducer 著 者 名:Murase,H., Endo,Y., Tsuchiya,T., Kotoyori,Y., Shikichi,M., Ito,K., Sato,F. and Nambo,Y. 学術雑誌名:The Journal of Veterinary Medical Science 巻・号・頁・発行年:76(7):947-953,2014 2)題 目:Anti-Müllerian hormone as an indicator of hemi-castrated unilateral cryptorchid horses 著 者 名:Murase,H., Saito,S., Amaya,T., Sato,F., Ball,B.A. and Nambo,Y. 学術雑誌名:Journal of Equine Science 巻・号・頁・発行年:26(1):15-20,2015 3)題 目:A clinical case of equine fungal placentitis with reference to hormone profiles and ultrasonography 著 者 名:Murase,H., Niwa,H., Katayama,Y., Sato,F., Hada,T. and Nambo,Y. 学術雑誌名:Journal of Equine Science 巻・号・頁・発行年:In Press 既発表学術論文 1)題 目:Three-dimensional ultrasound imaging of the equine fetus 著 者 名:Kotoyori,Y., Yokoo,N., Ito,K., Murase,H., Sato,F., Korosue,K. and Nambo,Y. 学術雑誌名:Theriogenology 巻・号・頁・発行年:77(7):1480-1486,2012 2)題 目:Assessment for predicting parturition in mares based on prepartum temperature changes using a digital rectal thermometer and microchip transponder thermometry device 著 者 名:Korosue,K., Murase,H., Sato,F., Ishimaru,M., Endo,Y. and Nambo,Y. 学術雑誌名:The Journal of Veterinary Medical Science 巻・号・頁・発行年:74(7):845-850,2012 3)題 目:Successful induction of lactation in a barren thoroughbred mare: Growth of a foal raised on induced lactation and the corresponding maternal hormone profiles 著 者 名:Korosue,K., Murase,H., Sato,F., Ishimaru,M., Harada,T., Watanabe,G., Taya,K. and Nambo,Y. 学術雑誌名:The Journal of Veterinary Medical Science 巻・号・頁・発行年:74(8):995-1002,2012 4)題 目:Efficacy of omeprazole paste in the prevention of gastric ulcers in 2 years old Thoroughbreds 著 者 名:Endo,Y., Tsuchiya,T., Sato,F., Murase,H., Omura,T., Korosue,K., Nambo,Y., Ishimaru,M. and Wakui,Y. 学術雑誌名:The Journal of Veterinary Medical Science 巻・号・頁・発行年:74(8):1079-1081,2012 5)題 目:A case of ambiguous external genitalia in a Thoroughbred male horse with the 63, XO/64, XY mosaic karyotype 著 者 名:Sato,F., Hirota,K., Tozaki,T., Ito,K., Dhakal,P., Taya,K., Endo,Y., Murase,H. and Nambo,Y. 学術雑誌名:The Journal of Veterinary Medical Science 巻・号・頁・発行年:74(10):1327-1331,2012 6)題 目:Correlation of serum IgG concentration in foals and refractometry index of dam’s pre- and post-parturient colostrums: An assessment for failure of passive transfer in foals 著 者 名:Korosue,K., Murase,H,, Sato,F., Ishimaru,M., Kotoyori,Y. and Nambo,Y. 学術雑誌名:The Journal of Veterinary Medical Science 巻・号・頁・発行年:74(11):1387-1395,2012 7)題 目:Antibody response in vaccinated pregnant mares to recent G3BP[12] and G14P[12] equine rotaviruses 著 者 名:Nemoto,M., Tsunemitsu,H., Murase,H., Nambo,Y., Sato,S., Orita,Y., Imagawa,H., Bannai,H., Tujimura,K., Yamanaka,T., Matsumura,T. and Kondo,T. 学術雑誌名:Acta Veterinaria Scandinavica 巻・号・頁・発行年:54(1):63,2012 8)題 目:Serum zinc levels and their relationship with diseases in racehorses 著 者 名:Murase,H., Sakai,S., Kusano,K., Hobo,S. and Nambo,Y. 学術雑誌名:The Journal of Veterinary Medical Science 巻・号・頁・発行年:75(1):37-41,2013 9)題 目:Comparison of pH and refractometry index with calcium concentrations in preparturient mammary gland secretions of mares 著 者 名:Korosue,K., Murase,H., Sato,F., Ishimaru,M., Kotoyori,Y., Tsujimura,K. and Nambo,Y. 学術雑誌名:Journal of the American Veterinary Medical Association 巻・号・頁・発行年:242(2):242-248,2013 10)題 目:Changes in serum concentrations of prolactin, progestagens, and estradiol-17β and biochemical parameters during peripartum in an agalactic mare 著 者 名:Korosue,K., Murase,H., Sato,F., Ishimaru,M., Watanabe,G., Harada,T., Taya,K. and Nambo,Y. 学術雑誌名:Journal of Equine Veterinary Science 巻・号・頁・発行年:33(4):279-286,2013 11)題 目:Empirical percentile growth curves with Z-scores considering seasonal compensatory growths for Japanese Thoroughbred horses 著 者 名:Onoda,T., Yamamoto,R., Sawamura,K., Murase,H., Nambo,Y., Inoue,Y., Matsui,A., Miyake,T. and Hirai,N. 学術雑誌名:Journal of Equine Science 巻・号・頁・発行年:24(4):63-69,2013 12)題 目:An approach of estimating individual growth curves for young thoroughbred horses based on their birthdays 著 者 名:Onoda,T., Yamamoto,R., Sawamura,K., Murase,H., Nambo,Y., Inoue,Y., Matsui,A., Miyake,T. and Hirai,N. 学術雑誌名:Journal of Equine Science 巻・号・頁・発行年:25(2):29-35,2014 13)題 目:Rupture of the gastrocnemius muscle in neonatal thoroughbred foals: A report of three cases 著 者 名:Sato,F., Shibata,R., Shikichi,M., Ito,K., Murase,H., Ueno,T., Furuoka,H. and Yamada,K. 学術雑誌名:Journal of Equine Science 巻・号・頁・発行年:25(3):61-64,2014 14)題 目:Empirical growth curve estimation considering multiple seasonal compensatory growths of body weights in Japanese Thoroughbred colts and fillies 著 者 名:Onoda,T., Yamamoto,R., Sawamura,K., Inoue,Y., Murase,H., Nambo,Y., Tozaki,T., Matsui,A., Miyake,T. and Hirai,N. 学術雑誌名:Journal of Animal Science 巻・号・頁・発行年:91(12):5599-5604,2014 15)題 目:The cross-sectional area changes in digital flexor tendons and suspensory ligament in foals by ultrasonographic examination 著 者 名:Korosue,K., Endo,Y., Murase,H., Ishimaru,M., Nambo,Y. and Sato,F. 学術雑誌名:Equine Veterinary Journal 巻・号・頁・発行年:47(5):548-552,2015 16)題 目:Effects of daily astaxanthin and L-carnitine supplementation for exercise-induced muscle damage in training Thoroughbred horses 著 者 名:Sato,F., Omura,T., Ishimaru,M., Endo,Y., Murase,H. and Yamashita,E. 学術雑誌名:Journal of Equine Veterinary Science 巻・号・頁・発行年:35(10):836-842,2015
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