6.お土産商品開発に関する一考察 東洋大学国際観光学科 6.1 古屋研究室 はじめに 板倉町は水との関わり,水との戦いの長い歴史があり,埋蔵文化財,水塚,漁法 民具など,水に関わる先人の知恵が生かされた文化遺産が多く残っている.また, 関東の総本山でもある雷電神社,高鳥天満宮,群馬の水郷公園,渡瀬遊水池など数 多くの観光資源があるものの本格的な観光振興に至ってないのが現状である. これら観光資源の見直しをしている中で,板倉の新たな郷土料理,特産品の開発 が必要不可欠と考えられる.特に毎年 10 月に開催されているコスモス畑は,来訪 者も年々増えてきていることから,コスモスの種子油とコスモスの香りをつけたコ スモス石鹸をお土産として開発し,物産の一部として販売することが考えられる. さて,お土産とは何なのだろうか.一般的に考えられるお土産は家族や友人に自 分の旅行してきた場所の思い出をおすそ分けすることである.もちろん,お土産話 も重要だが,物として何か配ることによって相手に好意をあらわすのである.そし て,そのおすそ分けに最も適したものの1つとして石鹸が考えられる.なぜなら, 石鹸は他のお土産にはあまり持っていない香りというものをもっているからである. 聴覚や嗅覚,視覚など五感は旅など記憶を思い出させる.また,行ったことのない 場所ならそのお土産のもつ視覚や嗅覚で想像を張り巡らせることができる.簡単に 香りが記憶と結びついている例として,ディズニーランドのキャラメルポップコー ンの香りを思い出して欲しい.どこか別の場所で同じ香りを嗅いだ瞬間,ミッキー やミニー,夢のディズニーランドがよみがえりはしないだろうか.つまり香りは場 所や思い出,記憶と関連していることがわかる.その香りが石鹸には詰まっていて お風呂で感じる事ができる.さらに,作り方が簡単で香り付けや形も自由にでき他 と差別化もできるので,どんな土地でもその土地らしい石鹸を作ることができる. また,2~3ヶ月で使い切るので邪魔にもならず,十分に楽しむことができる. 現在,観光地のお土産は名前ばかり,形ばかりで五感でいうと目に訴える商品が 多く,ほとんどの物を目で認識している私たちには新鮮味に欠ける.また,○○限 定などとし,実際は他の観光地とほぼ同じ様な物が多くそれでもお土産と認識され ている.そういうお土産も良いが,視覚と嗅覚,形と香りで感じることのできるワ ンランクアップの石鹸に土地性もプラスしたら,よりよいお土産としてポジショニ ングできると考えられる. 127 そこで本研究では,はじめに北海道・沖縄の二大観光地と大学近隣の栃木県・群 馬県のお土産石鹸の調査を行った.調査はインターネットのサーチエンジンを利用 し, 「北海道,石鹸」といったように,地名と石鹸を入力して検索した物をピックア ップしている.抽出された石鹸の特徴を香り,形,大きさ,洗浄力,保湿力,土地 性,価格(100円当),高級感以上8項目で分類し主成分分析を行った.また,生 活で使う石鹸と観光地のお土産としての石鹸を比較分析した. 6.2 おみやげの歴史 (1)旅の発達 お土産とは,いつどのような時代背景で何を目的として生まれたのだろうか.本 節では,お土産がどう発達したのかを述べていく. 「旅のおみやげ」はもちろん,旅の発達につれて習慣化したのである.旅に出た いという願望は,いつの時代にも多くの人々が潜在的にもっている.それは自分の 生活と様相が異なる世界への好奇心からなる,ともいえる.ほとんど本能に近い願 望といえるだろう.もちろん,これは,生活のために旅を余儀なくされている行商 や旅芸による「旅心」を除いてである. それを民俗学的な解析概念を用いて言い換えれば,日常の生活空間からからの一 時的な脱出,ということになる.あるいは,日常の生活空間から非日常の異次元空 間への移動ということもできるだろう. しかし,人々が潜在的に持っている旅心が十分に行動として実行できる,生起で きる時代とそうでない時代とがある.端的な例として,戦争勃発の非常時にはそれ が著しく制限される.経済的に困窮を極めたときも同様である.それに旅が安全に できるための交通や宿泊などの装置系が整えられていないところでは,多くの人々 が旅を楽しむことは不可能である. 旅は,社会的にも経済的にも安定した時代に降盛するのである.ゆえに,美術や 音楽,演劇などと同様の「ゆとり文化」ともいえるのだ. 日本で言えば,その意味での旅が発達したのは江戸時代の中・後期のことである. さらには,昭和後半から平成にかけての現在のことである. (2)日本人のお土産を買う意識 近世の幕藩体制の中では,イエやムラに対しての帰属意識が全体的に強まってい た.いうまでもなく, 「お家大事」は,まず武士の本分とされていた.家督の相続は, 128 長子を旨とし,それがかなわないときは養子縁組を認める.それほどまでにイエ永 続の願いが強かったのだ.むしろ武家社会においてはそれが制度化されていた.そ して,もうひとつのイエは藩であった. 「お家」というのは,一般的にはこの藩を指 す.それに対して,家臣は滅私奉公を,また制度として強いられもした. ここで問題にしたいのは庶民社会でのイエやムラ帰属意識についてである.もち ろん,その場合も,武家社会の制度と思想が有形無形の影響を及ぼしている,と見 るべきであろう. 庶民にとっては「ムラ大事」であった.このムラは,行政単位のムラではない. 田植えや稲刈り,あるいは冠婚葬祭などに相互扶助の組織として機能するものであ る.小規模な地縁組織であり,同族的な地縁組織ということもできる.そこではさ まざまな慣習上の取り決めがあり,それを逸脱することは,ムラの恥とされた.そ して,もっとも重い制裁が村八分であった.これは,不文律の制度というものであ る.もとより,稲作を基盤とした農村社会では,そこに代々が定住するところから, イエとムラの永続を願う気風が強かった.そして,江戸の幕藩は,それをたくみに 作用させた,という見方をしてよいだろう.年貢徴収犯罪防止のための連帯責任の 制度がそのよい例である. 上はお家の恥にならぬよう,下はムラの恥にならぬよう,そう勤めるのが,近世 江戸期の生活率というものであったのだ.そこで文化的なぬくもりが醸成された. 今日でも,私たち日本人における「会社主義」は,何かにつけて取り上げられるこ とである.それは,国際化のなかで管理と生産については高く評価され,外交と通 商については厳しく批判もされる.ゆえに,お家主義・ムラ主義と同質の文化性と いわざるをえないである. 総じて, 「ウチ主義」とすると,ウチの藩,ウチのムラに始まり,ウチの会社,ウ チの学校と,私たちは,ウチに帰属しウチに依存する体質を共有しているそれは, もはや否定できない不断の伝統文化といえる. (3)江戸時代の旅事情,講 かつての旅は,交通手段の未発達はもとより,金銭的な面からも誰しもが容易に 行えるものではなく,そこで庶民は伊勢講,善光寺講といった講を組織し,費用を 積み立て講中の代表者を代参に立てる形式をとった.こうした集団の総意を負った 旅において,代参人は参拝した神仏の御利益・恩恵を持ち帰って講員にわかつ義務 があり,またそれを具現化したものがみやげであったといえる.そのとき,ただの みやげ話ではなく,寺社に参った具体的なしるしが有効であることは,代参という 形式上いうまでもなく明らかである. 129 (4)お土産の歴史・お餞別 さて,旅のデダチ・タムケには,草鞋銭もつきものであった.送る者が,旅のは なむけに何がしかの路銭を用意したのである.別の見方をすると,それがあったか ら旅が可能だった.現在における餞別は,とりもなおさずこのデダチ・タムケの慣 習を伝えたものである. ここに,草鞋銭への返礼としてもミヤゲの必然が生じるのである.たとえ,草鞋 銭をもらわないとしても,デダチの祝宴を催してもらったことへの返礼,つまり, ミヤゲの必然が生じる.手ぶらでは帰れないのである. ムラ社会を代表して講費を遺った「代参」であればもちろん,私的に餞別や祝宴 を受けた場合も手ぶらで帰るわけにはゆかない.くりかえしていうならば,講費と 草鞋銭が旅みあげを義務付けることになったのである. ミヤゲの語源を「宮笥」とすると,神札(神宮の印)と札箱(その笥)こそがそ の原型,ということができる. 参拝をして神札を授かって来るのは,いうまでも当然のことである.イエやムラ を代表して参るのであれば,それがなければ帰ってからの報告に差し障るだろう. とくに,ムラからの代参では戸数分だけの神札が必要になるはずなのである. ところが,寺社詣での人数が増えると,すべて寺社からの,あるいは御師や先達 からの授かりものというわけにはいかなくなる.そこで,宮笥に準じる記念品や, 宮笥にかわる土産品を並べて売る店が門前に発達する.それがミヤゲと呼称され, 「土産」と表記されるようになったわけである.伊勢でいうと,暦・万金丹・和紙・ 木綿・白粉・和紙・門飾り・水引細工・玩具などが持ち運びの便がはかられていて 土産品店で売られた.それらの多くは御師の音物として発達をみたが,御師が衰退 ののちは,いわゆる土産品店で売られるようになったのである. そして土産に第一に必要なのは,代参を行なった先を確実に表すしるしである. つまり,見送ってくれた人たちの誰もが認める地名や寺社名が大事なのである. たとえば,ここでも身近な饅頭を例にとってみる.いまだに私たちは,土産に饅 頭を求めようとするとき,どれだけ相手の著好を吟味しているだろうか.まずは, その数量.次に名物と銘打つところの表示を確かめるのではないだろうか.つまり, 包装の箱なり紙なりの文字が気になるはずである.いや,饅頭そのものに地名や寺 社,温泉などを表す焼印が押してある例も少なくない.それは,世界でも稀なる表 示例,といわなくてはならないのである. 地名や寺社名などは,現代風にいいかえるならば,ブランドということにもなり はしないか.もちろん,昨今のブランド嗜好とは,他人に上げるミヤゲでなく,自 130 分で消費することにある.しかし,その流行の始まりは,明らかに海外旅行でのブ ランド商品のみやげ買いであった.ウイスキー,化粧品,時計など,それもまだ私 たちの記憶に新しいところである.それが,洋行帰りのしるしとなったのだ.そし て,それは洋行帰りのミヤゲとしてふるまわれたり配られたりしていたではないか. 焼印のついた饅頭を買うのとスコッチ,ナポレオン,シャネル,オメガなどのブラ ンド商品を買うのとは,決して無縁ではあるまい.私たち日本人にとっては文化的 な不断の連続,というべきなのである. かくして,日本人は,旅に出ればミヤゲを買い求める習慣を身につけることにな った.それが,ほとんど強迫観念となっている,といってもいいだろう.実際に私 が海外旅行に行った経験上,おみやげを買うことは絶対であり,買って上げたいと いう気持ちが生じる.また,友人はお土産を買ってくることを期待している. 最近,とくに海外旅行に出た日本人がこぞって免税店に殺到することが,しばし ば話題になることがある.そのなりふりかまわぬ狂奔ぶりは,多分にほかの民族の ひんしゅくを買うところである. しかし,日本人の旅の歴史をかえりみると,それはなんともできない強固な習性 である,と開き直るしかないような気もする.私たち日本人のミヤゲとは,必ずし も実利性を問わないものなのである.実利的なみやげ買いは,これは世界の諸民族 に共通する.そこで,「ウチ主義」を充足させる儀礼的な意味がからんでくるのが, いかにも日本的な展開なのである. (5)日本人の贈り物の慣習 贈り物をして好意を示すことは相手への信頼のしるしであり,相手の返礼はこの 信頼が正当であることを認めたしるしである.必要なときにある個人へ贈り物をし たり招待したりすることを拒むのは相手への不信感を意味し,それらを受けるのを 拒むことも同様に相手への不信を意味する.そして単純な社会では,不信は敵意の 等価物となる.贈り物や行為の申し出は,友好的になることへの招待であり,それ に対して返礼をすることは永続的友情の出発点とみなしうる.もし返礼をしなけれ ば義務をきちんと履行しない人間だという悪評が地域社会に広がって信用と信頼が 失われ,ついには今後の交換から除外され,社会的地位の失墜が起こる. 贈り物は友情と社会的絆のしるしであって,物としての価値への関心をあらわす 必要はない.また,贈り物の交換においてあからさまな交渉をすることはタブーで ある.友情のしるしとしての贈り物の意義は物自体の固有な価値とは別である.し たがって社会的交換は徹底的な打算にある. また他者に価値のある贈り物をしたり,サービスを提供する人は,自分に対する 131 義務を彼らに負わせることによって優位の地位を要求する.もし相手が義務を履行 し返礼をすれば,最初の贈与者の優位性への要求は否定される.そしてもし相手の お返しが上回れば,逆におかえしをした人がはじめの贈与者に対して優位に立つこ とになる.このように互酬性が守られないときには,交換関係にある量当事者間に ある種の社会的地位の勾配が生じるのである. また西欧では個人主義にもと基づく贈答が一般的であり,返礼の時期や価値につ いてはそれほど問題にしない.これはおそらく,受けるよりは与えるほうがよいと いうキリスト教的理想に基づくものであり,敬虔な信者はそのような利他的行為に より天国にいける確率がより高くなると考えている.つまり西欧では送り手と受け 取り手という対人関係を超えたところに均衡の概念が存在する.これに対して日本 では,一対一の人間関係における義理のバランスを保つことが重視されており,神 が存在しない.また日本では贈答が高度に仕組まれた儀礼となっており,社会組織 を強化するに大変重要な役割を果たしている.そして,集団や社会の内部に緊張が 存在しても,贈答を繰り返すことによって表面上は人間関係の調和を保つことがで きる,とも考えられる. このような日本人の慣習がお土産を購入する際にも相手に真心を込めた物を買わ なくてはと思わされるのである.また,今日の日本では大量生産から,多品目少量 生産になりお土産を買う相手のニーズを考え購入することが可能である. 6.3 生活用石鹸と観光地の石鹸 (1)石鹸の種類 ①生活石鹸 私たちが普段使う石鹸について検証する.またここでの石鹸は身体,顔を洗う化 粧石鹸に限定する.そして今では液体状のボディーソープが主流だが,固形石鹸の みの検証とする. まず,買い求める場所は大抵がスーパー,ドラッグストア,デパートなどのコス メコーナーである.石鹸は,1つ(約 100g)で1人が使った場合石鹸の硬度にも よるが2~3ヶ月で消費する. ここではターゲットをABCの3つに分類してそれぞれの生活石鹸の目的や背景 を考える. 132 ターゲットA 一般家庭(4人家族,子供2人と想定する)で石鹸を買う時の条件を考える. まず,一般家庭で重視するのは価格である.なぜなら,子供の養育費など自由に使 えるお金が少ないからである.次に洗浄力があるが,いうまでもなく石鹸の目的は 洗うことにある.そして,香り,保湿力など付加的なものが後回しにされる.また, 子供の体質や家族の体質によっては肌に優しいものが選択されるであろう. ターゲットB 次に一人暮らしの場合を考えてみよう.(20 代) まず,20 代主に学生の一人暮らしを考えてみる.この場合も一番に重視するのは価 格と考えられる.しかし,初めての一人暮らし,親元を離れて初めて自分で身の回 りのものを買うという人が多い.そして,20 代という身の回りのことに気をつかい だす時期でもある.そのため,価格重視から,機能重視,つまり香りや保湿など付 加価値に目をつけるのである. ターゲットC 次に子供が自立した後の 50 歳前後の夫婦の場合を考えてみよう. この場合,上記と違う点がお金の心配をしなくてよいというところにある.子供が 自立したことで,家計制約が小さくなると考えられる.また,退職もせまっており, 女性だけではなく男性も若くいたいという願望が生まれる. いずれにしてもスキンケアは重要な項目となってくると考えられる. ②生活石鹸分析 ここでは,生活石鹸をインターネット(主に yahoo!Japan で販売の石鹸)で調べ, 抽出された石鹸の特性をデータ化し,主成分分析を通じて検証する.図3-1に示 すように生活石鹸のプロダクトマップを見てみると4つのエリアに分けることがで きる.下図の水色で示したところは基本的に安価で洗浄力を主と考えていることが わかる.価格の平均は約 144 円で,この石鹸はグループAのニーズに合致している ことが考えられる. また,価格と高級感の間にプロットされたピンクのゾーンの価格は約 1,338 円と 水色の 10 倍の価格となった.この石鹸の特徴は価格が高く高級感もあり,形,保 湿力にも気をつかうバスタイムを楽しむ余裕が感じられる.このような石鹸はグル ープCあるいは,グループBのこだわりのある人に合致する. 133 緑の円に入る石鹸の価格は約 303 円と水色の石鹸の倍近い価格だが,保湿力など なんらかの機能性を感じることができる.そして香りとは真逆の関係であり,楽し むというよりは肌へのいたわりを考えて購入するタイプである.グループBまたは グループAがあてはまる.そして,オレンジの円は香りなどを重視していてバスタ イムを楽しむ余裕を感じられる.ちなみに平均価格は 1,054 円である.それでも価 格は高いがピンクよりは安く,普段の石鹸よりも何か洗浄力以外のエッセンスを加 えた石鹸と考えられる. 主成分得点 5.0 主成分 1 ばら園 高級感 4.0 形 カリカ石 保湿力 3.0 価格 アレッポ 2.0 コラージ シャネル ギリシャ 1.0 竹炭石け 馬油石け 土地 香り 0.0 P&Gアイ フレッシ ニュータ 釜だし一 牛乳石鹸 浴用石鹸 牛乳石鹸 化粧石鹸 完全無添 竹塩石鹸 無添加 -1.0 クリーム 純植物性 -2.0 植物石鹸 洗浄力 -3.0 -3.5 -3.0 -2.5 -2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 主成分 2 図3-1 ③観光地の石鹸 次に観光地における石鹸について検証してみる.前節で述べた通り,おみやげと しての石鹸となるとその観光地のものという土地性が大きな意味をもつ. 下に示すグラフは観光地のお土産石鹸の主成分分析で出た固有ベクトルである. 134 固有ベクトル 表3-1 固有値 固有値 1.93 寄与率(% 27.52 累積(%) 61.11 土地性 香り 形 高級感 保湿力 価格 洗浄力 -0.6 -0.4 -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 主成分 2 固有ベクトル 主成分 2 香り 0.5272 形 0.2983 洗浄力 -0.3611 保湿力 -0.2188 土地性 0.5754 価格 -0.2693 高級感 0.2264 図3-2 このグラフを見ると,土地性は香りや形に関連があることが予測できる. これは,石鹸をおみやげとして他の観光地と香りや形で差別化を図ることができる ということを示唆している.例を挙げれば,沖縄県の黒糖石鹸は黒砂糖の保湿成分 や甘い香りをウリにしている.また月桃石鹸は石垣島産の月桃の煎出液と葉の粉末 を使ったハーバルでリラックスする香りの石鹸である.月桃は沖縄ではとて もポピュラーなハーブで,独特の甘い香りがする. また,右図3-3のようなパッケージも沖縄らしさ, おみやげらしさというものを演出している. また,北海道のクマ笹石鹸は清々しい青竹の香り 竹酢液・竹エキス・泥・くま笹エキス配合でお肌の うるおいを保ちながら,しっかり洗浄できる. 図3-3 黒ずんだ角質,脂もすっきりする.クマ笹は主に 本邦高原地帯,北海道の山野に群生するタケ科の植物で 本州では,標高 1000~2000m の高山に群生している. この図3-4のようなクマ笹石鹸のパッケージも一風 変わっていておもしろいお土産である. 図3-4 ④観光地の石鹸分析 次に,観光地のお土産石鹸のプロダクトマップを見てみよう. 135 主成分 1 主成分得点 5.0 ラベンダ 花の花ソ 4.0 香り 3.0 洗浄力 2.0 パイン炭 北海道石 1.0 黒糖石鹸 保湿力 北海道大 ラベンダ ふらの石 月桃石鹸 湧別町つロイズ 手作り月 キャステ くろっ子 北海道限 なまこ石 ペリカン 土地性 吟撰日本 アトピー 沖縄自然 あかばな 月桃とク 黒い石鹸 唐松石鹸 手作り月 ウミナイ 沖縄黒糖 山村由美 クマ笹 価格 繭石鹸 ソームン 宝川温泉 草津温泉 高級感 北海道黒 0.0 -1.0 -2.0 -3.0 -4.0 形 -3.0 -2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 主成分 2 図3-5 このプロダクトマップ(図3-5)を見ると4つのグループに分けることができ る. まず,ピンクの円に入るグループの特徴としてはあまり,土地性などは感じない が高級感や保湿力などの機能性の高い商品である.また,価格も高い. 次にオレンジの円に入るグループの特徴は土地性が非常に高く形というよりは香 り付けで土地性をアピールしている商品といえる.変わって青の円に入るグループ は土地性を形,パッケージでアピールしている商品である. 136 (2)お土産消費額と石鹸 さて,観光地のお土産として最高な石鹸とはどんな石鹸だろうか. まず,お土産とは前節で述べたように,自分のイエや自分の関わる範囲の人に買 うもので基本的には多く買うことが考えられる.そして,この自分の関わる範囲の 人は状況によってかわる.この場合も前述した3つのターゲットで考えてみる.ま た,この場合自分に買うお土産代は除く. ターゲットA その予算は約 13,000 円.家族旅行ということで,家族内行事は親族にも報告され る.父親系親族にお土産 1,500 円,母親系親族に 1,500 円,近所のつきあいで 1,000 ×4 父親友人 2,000 円,母親友人 2,000 円,子供 2 人×1,000 円 ターゲットB その予算は約 7,500 円.一人暮らしということで親戚には気をつかわなくてよいた め,親に 1,500 円,会社またはサークル(学生)に 2,000 円,友人に 4×1,000 円 ターゲットC その予算は約 11,000 円.比較的自由に使えるお金が多いことより,子供 2 人×2,000 円,孫 3 人×1,000 円,近所づきあい 1,000×4 の他に自分に買うお土産も多いこと が予想される. ちなみに平成 17 年度観光の実態と志向 第 24 回国民の観光に関する動向調査で は平成 16 年度おみやげに使う費用を 13,770 円としている. ここでわかるのは,親戚や,近所づきあいで渡すお土産は家族ごとに渡している ことである.つまり,1家族5人いるとしたら,1,500 円分のお土産を個人1人当 たり 300 円ずつ買うか,1500 円で家族5人が楽しめるお土産例えばクッキーなど を買うか選択がある.一人当たり 300 円でそれなりのお土産は,なかなか観光地で は価格も上がるので難しく,クッキーなどが主に考えられる.もしくはお土産代を 引き上げて個々に買うかである. 石鹸をお土産として買ってもらう為には個人別に買う友達へのお土産が望ましい. 親戚へのお土産も石鹸はお風呂でみんなで使えるので最適だと考えられるが,石鹸 のお土産としての認知度は未だ低く,大きさも小さいので大きいクッキーからする と見劣りがする. つまり,ターゲットABC共に,友人や個々に買うお土産に石鹸を選択してもら 137 うためには,どのような石鹸がよいのかがお土産石鹸が売れる鍵でもある. また,それは図3-5のプロダクトマップから見ると,どんな石鹸がターゲット に合うのかがわかる. まず,ターゲットAは価格をなるべくおさえた緑, または土地性を感じられるオレンジの円に入る石鹸が 合うだろう.例えば,図3-6の北海道のラベンダー石鹸 は,価格が 200 円と安価であり,北海道のラベンダー畑を 行ってもいないのに容易に想像することが出来る.また 香りも楽しむことが出来る. 図3-6 次にターゲットBだが,友人1人当たり 1,000 円の石鹸を購入と 想定した場合左図3-7のあかばな石鹸(ハイビスカス)840 円 などがあうといえる.これは土地性や形の所青の円に入る石鹸で ある.ほかにも,ふらの石鹸や香りを楽しむ石鹸やピンクの円 の中のように保湿力の高い石鹸もあうだろう. 図3-7 ターゲットCはピンク,もしくは青の円にプロットされた石鹸が合致すると考え られる.それは高級感もあり,保湿力など機能性も高いものだからである.また, 青の円は土地性を感じられるからである. しかし,石鹸は高いものが多い.今回調べた石鹸の中で一番高い石鹸は 100g当 たりの計算で 6,333 円の北海道のクマ笹美容石鹸「オレノデ・バン ソープ」であ る. 確かに化粧石鹸はピンキリで高いものは性能良く,より高い商品かもしれないが, 大勢に買っていきたい石鹸はそう高いものは買えない.かといって生活石鹸の価格 が 100~200 円と,石鹸は高くないと先入観のある私たちでは大きさが半分になっ てしまうと,急に陳腐に見えてしまうのだ. スーパーで買えば 100 円で済むものを 1,000 円出して観光石鹸を買うというのは 難しいのかもしれない.しかし,身体を洗うものとして石鹸でなくボディソープが 主流になっている今こそ,普段使わないものを使うということで石鹸をお土産とし ての発達が可能ではなかろうか. 今回調べた観光石鹸の平均価格は 1,336 円と生活石鹸平均価格が 433 円に対して 約3倍の価格である.平均ならまだしも,生活石鹸の最小価格は 100g1つ当たり 138 41 円であり消費者の心は動きにくい状態である. (3)観光石鹸と生活石鹸の比較 下図3-8は観光石鹸,生活石鹸をまとめてプロダクトマップにしたものである. 観光石鹸は北海道(水色)沖縄(ピンク)栃木,群馬(紫),生活石鹸は黄緑でしめ している. 主成分 1 主成分得点 4.0 形 - 高級感 価格 土地性 3.0 草津温泉 p 宝川温泉 ウミナイ 月桃とク 北海道限 2.0 ラベンダ 北海道大 1.0 ふらの石 パイン炭 ばら園 黒糖石鹸 保湿力 山村由美 沖縄黒糖 あかばな ソームン クマ笹 繭石鹸 手作り月 吟撰日本 アトピー 黒い石鹸 唐松石鹸 なまこ石 くろっ子 ペリカン カリカ石 ロイズ 沖縄自然 月桃石鹸 手作り月 キャステ 北海道黒 湧別町つ 0.0 アレッポ シャネル 北海道石 -1.0 竹炭石け 馬油石け ギリシャ コラージ 洗浄力 花の花ソ ラベンダ -2.0 フレッシ 釜だし一 P&Gアイ -3.0 香り 無添加 ニュータ 浴用石鹸 牛乳石鹸 牛乳石鹸 クリーム 竹塩石鹸 完全無添 化粧石鹸 純植物性 植物石鹸 -4.0 -3.0 -2.0 -1.0 0.0 1.0 :北海道 :沖縄 :栃木群馬 :生活 2.0 主成分 2 図3-8 まず,図の上下で生活石鹸と観光石鹸が土地性と高級感,形という面で特に差が あることが良くわかる.また,観光石鹸,生活石鹸も大きく土地性と香りなどが強 いものと,保湿力など付加価値が高いものに分かれる.こうして見ると観光石鹸は 贅沢な石鹸になっていることが感じられる.そして,県別で色を分けたがほぼまば らで,県が違うからという差はないと考えられる. 139 3.0 6.4 石鹸のおみやげとしての優位性 (1)観光地の主なお土産 観光地の主なお土産,それはその地の伝統的な技術産物(日光の木彫りなど)や, 名産品,料理,様々な物がある.しかし,よく注意してみるとクッキーやキャラク ター物のストラップやボールペン,型を変えれば代用がきくものがある.つまり, お土産とは他ではつくれない伝統的なものと型を変えればどこでもつくれるものと 2種類に分けることができる. 事例1 右図4-1のキティちゃんは,栃木 県の日光限定の三猿キティちゃんであ る.日光の東照宮の「見ざる,言わざ る,聞かざる」は東照宮といったら, 日光といったらと言っても過言でない ものである.それを人気のサンリオキ ャラクターでご当地お土産としていた るおみやげ屋さんで販売している. 事例2 図4-1 右図4-2は栃木限定エリーゼであ る.アピ-ルでは栃木の豊かな自然で 作られた甘い香りのいちごと,風味豊 かな那須産ミルクを使用したさわやか でコクのある2つのおいしさを演出し ている.見た目も栃木を感じさせる風 景でこれをみると栃木に行ってきたん だということが一目瞭然に感じること 図4-2 ができる. 140 事例3 図4-3は 130 年の歴史を持つ日光金谷ホテルのベーカリーが焼きあげた伝統の クッキーである.これは上記事例1,2とは違い伝統あるお菓子である. 図4-3 現在では事例1,2のようにおみやげ屋さんに陳列する商品のほとんどが,現地 で作ったお土産ではない.例えば上記の事例は全て日光だが,おみやげ屋に置いて ある商品で日光市で作られたおみやげは日光彫りくらいである. また,日光彫りを求めている人なら職人の比較的小さな専門店に行くだろう.つ まり,おみやげ屋さんに来る人というのは大抵がその観光地名の入った物や珍しい 物などを求めて入ると考えられる. そして大抵の人が観光地名の入った商品や,観光地限定と書いてあることに引か れてお土産として購入する. 「 騙されている」と言っては語弊があるかもしれないが, 観光地限定と書いてあっても実は製造元をみると大阪や福岡その観光地とは関係な い地域で作られている. 図4-4 すなわち,日光市に観光に来た福岡在住の人が福岡産のボールペンやクッキーを 買うことも考えられる.左図4-4のパイン炭石鹸は,沖縄のパイナップルパーク で購入したものであるが,大阪で製造されたものである. しかしながら,おみやげ屋でわざわざ製造元を見て買う人はほとんどいないとい える.ここで提案する観光地におけるお土産石鹸は,その土地でとれる特産物のエ キス配合の石鹸である.石鹸の作り方は簡単で,オイルなど材料で価格・価値が変 わってくる. 141 (2)お土産ルート ここでは,前述したようにお土産を2種類に分類する.まず,代用のきくボール ペンやキャラクター物をお土産 A,その観光地特有の代用のきかないものをお土産 B とする.石鹸はお土産Aに当たるのでここで はお土産 A のできる過程 を述べる . まず,お土産 A は販売元・発売元が観光地とは異なる地にあることが多い.その ため,仲介役としてお土産の卸問屋が発生する.例えば,図4-5のように三重県 の深層水を使った尾鷹深層水石鹸を三重県でお土産として発売しようとした時,三 重県で採れる深層水を他県にある工場(この場合熊本県)に送り,熊本県の工場で 深層水を使った石鹸を作る.その石鹸を卸問屋に送り,卸問屋から問屋の持つ販路 に送り,販売する. 卸問屋をわざわざ介する有益性は,卸問屋の販路の多さにある.個人経営だと販 路も2~3ヶ所だが,卸問屋ならたくさんの情報,コネクションと,他県にまで及 ぶ多くの販売店があるのである. 図4-5 142 (3) お土産比較 お土産に求められるものは何だろうか.やはり,その地に行ったという『しるし』 は重要である.今回は地域性,価格,持続性,珍しさ,重さ,大きさでそれぞれの お土産を評価し,石鹸と他のお土産を比較した.そして石鹸以外のお土産をクッキ ー,ボールペン,はんかち,キーホルダー,特産物,おもちゃ,人形,服,酒と限 定する.そして,ここで考える理想のおみやげ,つまり価格は安く,持続性,地域 性,珍しさがあり,重さは軽く大きさは持ち運びやすい大きさというお土産を理想 の石鹸として,図4-6のようなプロダクトマップを作成した. 主成分 1 主成分得点 3.0 酒 重さ 2.0 人形 地域性 価 格 大きさ 珍しさ 特産物 1.0 クッキー 服 ★ 石鹸 0.0 おもちゃ -1.0 ★理想 キーホル -2.0 -3.0 -3.0 はんかち ボールペ -2.0 -1.0 0.0 持続性 1.0 2.0 主成分 2 3.0 図4-6 こうして比較をしてみると石鹸は,ハンカチやボールペンに比べて価格は高いが, 地域性や珍しさがある.理想ではもう少し価格は低い.しかし,酒や人形など伝統 のあるお土産は石鹸よりも価格が高いものになっている. また,この理想のお土産に距離的に一番近いのは石鹸である.そして,石鹸を理 想のお土産にするには地域性,珍しさをアップさせて価格を下げることにある.持 続性については石鹸の持続性は変えらない.石鹸の硬度を上げることは可能だがず っと使える石鹸も少し清潔感に欠ける. ここで石鹸の持続性は今のままで良いと考えられる.なぜなら,石鹸はとにかく 143 作ろうと思えば何千種類もの以上の石鹸が作れるからである.人はたくさんの種類 の石鹸を試しながら自分にあうよりよい石鹸を求めるとともに,気分を変える為い ろいろな石鹸を使うことも出来る.それは石鹸が消費されるものからである.さら に石鹸には消費期限がある.表記されてないもの大体が3年程度である.だから, なるべく古く買ったものから順にいろいろな石鹸を使うことを提案する. そして石鹸のなによりの強みは香りを石鹸に感じるからではなかろうか.その地 で感じた香りを日常の世界でも繰り広げられる最高のおみやげなのである.香りに ついては次項で述べる. (4)人間の五感-においの記憶 記憶していた「におい」に関連して,ある特定の場所がしばしば思い出されるこ とがある.そうした場所は,重要な出来事と結びついていることが多い.出来事は, 肯定的であったり否定的であったりする. 人々は生涯において,重要性を有する場所や状況について特別のにおい記憶をも っているが,そのにおいに結びついている主たるテーマは個人間でさほど差はない と考えられる.においの記憶はしばしば肉体的ないし,精神的健康状態に関連して いる.どこか旅行に行った場合,その土地その土地のにおい,または旅行中の場面 でかいだ香りが自然に身体に残っており,同じ様なにおいをまた体験した時に旅の 香りが思い出され,人々にとって快適,または不快感と判断されている. 思い出される記憶は花,植物,樹木,森,新鮮な水などの香りである.これらの 香りを自由な呼吸,健康なフィーリング,生き生きした感情,強さ,生まれ変わる ような感じ,自由,アドベンチャー,神などと結び付けていた.都会に住んでいる 人にも田舎に住んでいる人に表現される,植物への本質的愛情を反映している.自 然と自然物を愛することは,人間の非常に古い特性かもしれないといえる. においの記憶を呼び起こす上でしばしば述べられる話題は, 「テリトリー」に関す ることである.愉快なことが語られるとき,自分の部屋や自分の家,自分のベット などのにおいに関することがある.ナポレオンがセントヘレナ島に流罪になってい る間に,自分の島に関して書いたものがあり,目を閉じても私のコルシカ島のにお いを思い出すといっている. 多くの人がにおい感覚と記憶の関係について述べているが,一般にはにおいに関 するエピソードと結びついているのである.たとえばにおいを嗅いで,長く忘れて いた記憶を思い出すなどである.つまり石鹸を使うことによって旅の記憶がよみが えるのだ.嗅覚と記憶の関係において見逃されている点は,過去から呼び起こされ るエピソードは,現代的に脚色されていることである.記憶は必ずしも真実の形で 144 呼び起こされるのではない.また他の感覚に対する刺激も同様に記憶喚起の引き金 になることを忘れてはいけないといえる.重要なことは,いかなる記憶も認識的感 情的帰属をもっており,現在における解釈今の自分の記憶も付加されていることで ある. 人間は五感でものを評価する.大抵の観光地は目で感じ,また日光東照宮の水の せせらぎなど,耳で感じ観光を楽しむ.そして,その時は自分ではあまり実感して いないが,その土地土地の香りが存在する.よく,久しぶりに田舎に帰ると懐かし い気持ちが胸をこみ上げるという話を聞くのはそういうことなのだろう.その香り を閉じこめておけるのが石鹸なのである. 観光地から帰ってきてもお風呂で石鹸を使うことにより香りを感じ取り,その観 光地を思いだすことができる.また,自分だけでなく,その小さな幸せを友人など に分けることができる.そして石鹸は使い続けていると約1~2ヶ月でなくなる. つまり,もらった置物など形あるお土産は気に入ればいいけれど,自分にとって 気に入らなかったり,同じ物があったりしても捨てるわけにもいかない.しかし石 鹸なら使えばその土地を感じることができるし,1~2ヶ月でなくなってしまう. つまり,あげても,もらってもうれしい商品と位置づけできる. (5)石鹸の成功例~泥炭石~ ペリカン石鹸は,昭和 22 年創業と,歴史の長い会社だが 一般にその名が知られるようになったのは最近のことであろう. 長いあいだ,OEM や百貨店ブランドの商品を多く手がけており 自社ブランドにも力を入れてきた. ペリカン石鹸の『泥炭石』は,一般のスーパーやコンビニで 購入することはできない.ショップでは,東急ハンズや LOFT, 図4-7 あるいは一部のデパートなど専門店のみの扱いになっている.現在,ペリカン石鹸 の『泥炭石』を購入できる可能性が最も高いのが,温泉ホテルや旅館のおみやげ物 売り場である. 『泥炭石』という大ヒット商品も,このおみやげ物売り場から生まれ たといって良いといえる. ペリカン石鹸の『泥炭石』は,これまでの石鹸のイメージからはすべてがかけ離 れたものになっている.まず,色(黒)である.漆黒といっていい.汚れを落とす 石鹸のイメージは,白か薄いピンク,あるいはブルーが常識だった.そして,小さ なまな板のような形状.これは,石鹸を作る機械から押し出された,そのままの形 状を切ったものである.通常は,出てきたものを型押しして成形するのが常識にな っている.そして 700 円という高価格である.石鹸は,安いものでは 100 円以下, 145 洗顔石鹸でも 300 円すれば高価な部類に入る.サイズが大きいとはいっても,常識 からすると高価である. 汚れを吸着する薬用粉末炭,同じく汚れを吸着する粘土ベントナイトなど,これ らを配合した石鹸やシャンプーは,これまでにもあったが,両方のいいとこ取りを したのが,この泥炭石である.開発チームは,この製品の品質には大きな自信を持 っていた.だが,実際は「3000 個売れればいいかな」(商品企画室長 本間淳子さ ん)という実験的商品だったそうだ.その理由は,価格である.700 円の石鹸がそ んなに売れるはずがないからである.2000 年の 3 月に自社ブランド製品として発 売を開始したが,一部店舗での売り上げは「意外に健闘」というレベルだった. 『泥炭石』が本格的に売れ始めたのは,旅館やホテルなどのおみやげ物売り場を 主な取引先とする観光物産問屋ルートを通じてだった.旅館やホテルのメリットは, 実際に製品を試用してもらうチャンスがあることである. 『泥炭石』の可能性に着目 した流通業者は,温泉などの大浴場にこの『泥炭石』を置き,実際に試用してもら う作戦を採用した.これが結果的に大当たりしたわけである. 『 泥炭石』の使用感は, さっぱりするのに,しっとりとした仕上がり.これは,多くの人に共通で,しかも 一度使えばすぐにわかる.浴場で使ってみて,いいなと思った商品がおみやげ売り 場にあれば自然に手が伸びる.自分用,それからご近所の分も,と 6 個から 8 個, 人によっては 10 個以上をまとめて持ち帰る人もいるという.この試用作戦が効を 奏し,規模の大きなホテルや旅館では 3000 個/月の売り上げを記録しているという. 最初は,3000 個程度と思っていた商品が,1つの売り場でしかも 1 か月で 3000 個 を売り上げる. 『泥炭石』は,2001 年度で 300 万個の売り上げを記録している.モノが売れな い時代にあって,奇跡ともいえるセールスを記録している. 『泥炭石』の余勢をかって,新商品も好調な滑り出しを示している. 『泥炭石』よ りも 4 倍泡立ちがいい『スーパー泥炭石・ぜいたく洗顔』である.本当に,少し湿 った手で 2~3 回さするだけで,もう泡立ってしまう.こちらは,1 個の価格 2400 円!石鹸としては,まさに破格の価格である.もちろん,価格には理由がある.ま ず,石鹸の本体である石鹸素地(椰子油とパーム油などからなっている)から,泡 立ちの悪い部分,刺激の強い部分を時間をかけて除去している.さらに,ドイツ産 の天然泥ファンゴや薬用炭を練り込み,石鹸に仕上げている.まさに,価格を度外 視し,泡立ちと洗い上がりの肌のもちもち感の 2 つを突き詰めた石鹸である.この 2400 円の石鹸も,すでに『泥炭石』のファンが多いのだろう.発売直後にも関わら ず,神戸 LOFT では 1 か月に 400 個以上が売れたという.月に 40 個売れればまず まずという目論見だったのが,こちらもうれしい誤算である. 146 (http://eco.goo.ne.jp/life/products/deitanseki/gs_02.html から引用) このような石鹸があるおかげで,石鹸はますますの発展がのぞめるお土産といえ る.ここで考えるお土産は,全国で売る石鹸ではなくて北海道なら北海道限定,沖 縄県なら沖縄県限定,栃木県なら栃木県限定の石鹸を作り,さらに温泉や旅館でお 客さんに使ってもらうということである.栃木県や群馬県は全国有数の温泉名地で もある.今後のさらなる発展が期待できるであろう. 6.5 まとめ (1)石鹸のお土産としての可能性 これまでの分析を通じて,石鹸がいかにお土産としての可能性がある商品である かということを述べてきた. まず,お土産とは日本の集団生活でのムラやイエへの連帯意識から生まれたもの であり,お土産など物を贈るという行為は相手と信頼関係を築く大切な文化でもあ る.お土産はもともと,旅行に行けなかった人の為に同じ旅経験をわかつ物体とし て生まれた物であるから,その土地のものということがとても重要な意味をもつ. 石鹸をお土産とする観光地は北海道・沖縄だけでも種類が 30~40 種類あり,内 容も現地の特産物を取り入れた物が多くお土産としての価値が高いように思える. しかし,日本観光協会のホームページ検索で調べても石鹸は検索されない.これは 石鹸がお土産としてメジャーではないからだと考えられる.また,北海道・沖縄な ど,大きな観光都市では1つの県につき 30 種類もの石鹸があるが,栃木県や,群 馬県では 10 種類に満たない.これは今後の石鹸お土産展開としては可能性のある 地域でもあり,また,これらのことから,石鹸のお土産としてのアピール不足が考 えられる. そしてもう1つ石鹸のお土産がメジャーにならない理由として考えられるのが石 鹸1つの値段である.石鹸は1つ 50 円のものから 6,000 円する物まで様々であり 観光地の石鹸は平均 1,300 円と高価格なため,普段の生活石鹸の価格が安いだけに 抵抗感が大きい. つまり,①県によってお土産石鹸が少ない,②石鹸がお土産に適しているという アピール不足,③お土産石鹸の価格が高い,などの課題が考えられる.だが,お土 産をあげるという習慣があることや,お土産には土地性が求められていること,そ して,石鹸は視覚だけでなく嗅覚も刺激する商品であることから石鹸はお土産とし て成功する可能性が高い商品といえる.上記①②③3つの課題を克服できるのであ 147 れば,さらに可能性は高まるであろう. (2)板倉町への適用性について 今までに述べてきたとおり,石鹸はお土産として可能性のある商品であり,石鹸 は水,油,水酸化ナトリウムがあれば作れるもので,油,水,香り,形など少し変 えるだけで他と差別化することが簡単にできるため,どんな地域でもお土産として 成り立つ商品である. つまり,板倉町の観光活性化にも生かすことのできる商品と考えられる.板倉町 ならば,冒頭でも述べた通り,コスモスの種子油を使ったコスモス石鹸,ナマズの 形やスタンプを押し形づけたナマズ石鹸,キュウリのエキスを入れたキュウリ美肌 石鹸など,それぞれのアイディアごとにいろいろな石鹸が作れる.石鹸はどんな地 域でも地域性の出せる最高のお土産になる商品なのである. 参考文献 片平秀貴(1987)『マーケティング・サイエンス』東京大学出版会 神崎宣武(1997)『おみやげ 贈答と旅の日本文化』青弓社 成田善弘(2003)『贈り物の心理学』名古屋大学出版会 前田勇(1996)『現代観光学の展開-観光行動・文化観光・国際観光交流-』学文社 前田京子(1999)『お風呂の愉しみ』飛鳥新社 S.ヴァン・トラー/G.H ドット,訳:印藤元一(1996)『香りの生理心理学』フレグ ランスジャーナル社 『平成17年度観光の実態と志向 第24回国民の観光に関する動向調査』 『世界大百科事典』平凡社 『日本大百科全書』小学館 ○環境 goo 『泥炭石』 http://eco.goo.ne.jp/life/products/deitanseki/index.html 取材・文@H.KATO.T.MURAISHI viewed in 2006.12.17 ○おみやげの民俗学 http://www.toyama-cmt.ac.jp/~kanagawa/travel/omiyage.html viewed in 2006.12.17 148
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