スキージャンプにおける動画像共有による指導支援システムの提案

スキージャンプにおける動画像共有による指導支援システムの提案
Proposal of a coaching support system by sharing movies in ski jump
データベースシステム学講座 0312012026 梅木紀之
指導教員:佐藤永欣 村田嘉利 鈴木彰真
1. はじめに
夏用ジャンプ台を利用したスキージャンプの練習おいて
① コーチが踏切地点の横で選手のジャンプをビデオカメ
ラで撮影を開始.
② 選手がジャンプを行い着地する.
は,コーチが踏み切り付近で動画を撮影し,選手に指導を
③ コーチが撮影を終了する.
行う.しかし,選手が着地の後停止する地点は踏切地点か
④ 自動的に撮影した動画をビデオカメラから動画共有サ
ら 100m 以上離れており,コーチがすぐに指導することが難
ーバにアップロードし,その後動画共有サーバから 2
しい.現在はトランシーバーを使用し通話のみで指導を行
台のタブレットに転送する.
っており効率的な指導ができていない.撮影した動画は練
習後に見るだけとなってしまい効果的に練習に活かせてい
ない.また,自費による遠征が多く装備も高額で,新規に
動画を撮影するために高額の設備投資をすることは難しい.
⑤ コーチはビデオカメラの録画を停止した後そのままタ
ブレットに持ち替える.
⑥ 選手は着地した後,スキー板を外し停止地点付近に置
いてあるタブレットを手に取る.
そこで本研究では,トランシーバーを用いた通話の指導
⑦ 踏切地点にいるコーチと停止地点にいる選手が通話を
に加え,市販のビデオカメラを用いてスキージャンプを撮
行い,直前に飛んだ動画や過去の動画,他選手の動画
影し,選手が着地地点で即座に自分のジャンプ動画を見な
を同じタイミングで見ながら指導を受ける.
がらコーチの指導を受けられるようにすることで,練習効
率を向上させる.具体的には遠隔地でも同一の動画を見な
がら指導を可能とするため動画の再生状態を共有するアプ
リケーションを開発し,撮影した動画を過去の動画や別の
選手の動画と比較することで問題点をすばやく発見できる
ようにした.
2. 関連研究
及川ら¹⁾は地磁気センサを用いてスキージャンプ時の姿
勢を計測したが,上級者になるまでは転倒することがある
ため,センサを身に着けて飛ぶことは危険が伴う.よって
図1 システム利用の流れ
誰もが利用することはできない.また,計測の準備等に大
きく時間をとられる.
3.2. システム構成
岡本ら²⁾は水泳の授業にビデオカメラと Wi-Fi 内臓 SD カ
本研究では低コストでシステムを実現するため市販で手
ードの Eye-Fi カードを活用し生徒のフォームの確認を行っ
に入るSDカード対応ビデオカメラ,無線LAN機能付きSDカ
た.フォームの確認にはデスクトップ型のパソコンが用い
ードである FlashAir,操作共有アプリケーションをインス
られた.本研究では屋外環境であることを考慮し,タブレ
トールした Android タブレット,動画の蓄積をするための
ット PC を用いることとした.
サーバ,Wi-Fi アクセスポイントを用いてシステム構築を
3. 指導支援システム
行った.
3.1. システム概要
ンストールした.ネットワークは 2 つに分割し各機器には
本システムは図 1 のような場面を想定しており,以下の
流れで利用する.
サーバは FreeBSD 10.1 を使用し,Apache 2.4,PHP 5.4 をイ
固定 IP アドレスを割り当てた.
動画の素早い共有を行うため無線 LAN 機能付き SD カード
の FlashAir をビデオカメラに装着した状態でビデオの撮影
を行う.SD カードにデータが書き込まれるとカード内の
LUAscript でかかれたバッチ処理を実行する LUA_SD_EVENT を
利用し,最も直近に撮影された動画ファイル1つを動画共
有サーバ上の PHP スクリプトに POST するものとした.
4. 転送実験
実際の利用の状況を鑑みた場合,コーチが録画を終了し
てから,選手がスキー板を外し,タブレットのある地点ま
その後,保存された動画ファイルをタブレットのIPアド
で移動する時間は20秒程度であるため,録画終了から転送
レスに PHP スクリプトとして送信する.操作共有アプリケ
完了まで20秒以内で完了することが求められる.そこで以
ーションはソケットを開き動画ファイルの転送を待機する.
上の要件が満足されるか検討した.転送実験は実際にジャ
サーバからの動画の転送が行われるとタブレット内に動画
ンプ台に設置する機器を用いて実験室内で行った.動画を
ファイルを保存する.
撮影する時間はスキージャンプで実際に撮影している動画
の長さと同じ約20秒程度とし,その際のファイルサイズは
3.3. 操作共有アプリケーション
11~13MB であった.計測の結果を表 1 に示す.
動画の操作を共有する Android アプリケーションはコー
チ用と選手用の区別をせず,両者とも同じものを使えるよ
うにした.アプリケーションは主に,動画の再生部,通信
表 1 転送実験結果
1 回目
34 秒
2 回目
22 秒
3 回目
37 秒
4 回目
28 秒
5 回目
46 秒
部,UI 部で構成されており,画面構成は図 2 のように再生
画面,動画操作ボタン,画面遷移ボタンで構成されている.
コーチ,選手ともに相手に見せたいコマを提示できるよ
表 1 に示す結果では平均値は 33.4 秒であり,実験では要
求される時間内での転送を達成することができなかった.
うにする.動画はバックグラウンドでサーバからタブレッ
そこで各部分の転送,または処理時間をそれぞれ計測し
トPCに転送され,どちらか一方のタブレットで動画選択画
たところ,FlashAir からサーバへの転送に大きく時間がか
面から動画を選択することで再生を開始する.
かっていることが分かった. FlashAir から録画ファイルの
ジャンプの指導では,踏切の短い瞬間が非常に重要であ
転送を行う CGI を GET メソッドで呼び出し,直接動画デー
るため,コマ単位で動画を送れるよう設計した.具体的に
タを取得した場合にはばらつきや転送時間の増加は発生し
は再生を開始してから33msスリープを行いその後一時停止
ないため,以下の 3 つの問題が予想される.
することとした.
① FlashAir 内の LUAscript の実行タイミングが遅い
② ビデオカメラの SD カードへの書き込みが遅い
③ FlashAir 内のプログラムに問題がある
以上の検証を行い改良することで転送時間短縮を目指す.
5. おわりに
本稿ではスキージャンプの指導支援を行うにあたり,指
導の効率化,円滑化を目指し素早く自動的な動画の共有と,
コマ単位で動画の操作共有を実現する Android アプリケー
ションによるシステムを構築した.今後は転送にかかる時
間を短縮,安定化していく.その後,実際に本システムを
スキージャンプの練習に用いて,有用性,改善点,追加す
図 2 動画操作の共有
べき機能があるかを検証していく.
また,タブレット間でコマのずれを発生させず,操作を
相互に共有するため,mediaplayer から再生時間を取得しサ
参考文献
ーバを経由して相手のタブレットに送信することとした.
1) 及川 正基,佐藤 永欣,高山 毅,村田 嘉利,
「地磁気・
送信は,動画の操作が行われるごとに 1 度行う.一時停止
加速度センサによるスキージャンプ選手のモーション
を行った場合,一時停止された時間を取得し一時停止した
モニタリングシステムの設計」
,マルチメディア通信と
ことを示す文字列と時間を送信する.これを受け取ったタ
分散処理ワークショップ論文集,pp.73-78,2009.
ブレットは操作が一時停止であることを判断し,動画描写
2) 閥本 敦,小田 佳子,林 享,
「学校体育における水泳授
を正確に行うために指定の時間の 1 フレーム前にあたる
業への防水型ビデオカメラと Eye-Fi カード活用の提
33ms 前から再生を開始し 33ms 後に一時停止を行う.
案」
,東海学園大学研究紀要:自然科学研究編18号,2013,
http://hdl.handle.net/11334/375.