活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス 97 高吸水性樹脂の応用 松本吉正 当社 SAP 応用分社ユニットチーフ [ 紹介製品のお問い合わせ先 ] 当社 SAP 応用分社 高吸水性樹脂は、1974年に米 建築など、幅広い分野に及んでい 高吸水性樹脂も当初は多くの課 国農務省北部研究所が発表したの る。表1は、その用途例を高吸水 題を抱えていたが、最近になって をきっかけに、1978年に当社が 性樹脂の特性によって分類したも 植物の生育が良好なものが開発さ 世界初の商業生産に成功した。こ のである。本稿では、高吸水性樹 れ、農業・園芸、のり面・屋上緑 の樹脂は吸水性(自重の数百倍の 脂が衛生用品以外の産業分野でど 化および砂漠緑化に利用されてき 水を吸収しゲル化する) 、保水性 のように実用化されているかを紹 ている。 介する。 その他の農業・園芸分野の用途 ❖農業・園芸分野 としては、①高吸水性樹脂を含有 (いったん吸収した水は多少の圧 力を加えても離さない) 、膨潤性 した育苗用シート、②発芽性の向 (すばやく吸水する) 、ゲル化力、 [土壌保水剤] 増粘性などの性能を有し、これら 土壌保水剤は、高吸水性樹脂の 上と発芽日数の短縮を目的に高吸 の特性を利用してさまざまな用途 開発当初から注目されてきた用途 水性樹脂を利用した種子コーティ 開発が進められてきた。 である。 ング材、③肥料、農薬などの表面 その用途は紙おむつや生理用ナ 1960年頃から、ポリビニルア に高吸水性樹脂をバインダーでコ プキンなどの衛生用品分野に加え ルコールなどを架橋させた親水性 ーティングし、土壌中での徐放性 て、農業・園芸、食品・流通、日 架橋高分子が、農業・園芸分野へ を改良した緩効性肥料や農薬、④ 用雑貨・化粧品、ペット関連、メ 応用検討されていたが、植物の生 高吸水性樹脂とバーミキュライト ディカル、電気・電子材料、土木・ 育を阻害することがあった。 を主成分とする育苗・園芸などに 表1●高吸水性樹脂の特性と用途例 吸水・保水性 分野 特性 膨潤性 ゲル化力 増粘性 衛生材 生理用品、紙おむつ 土壌保水剤 育苗用シート 種子コーティング材 農業・園芸 肥料の徐放剤・農薬 流体は種 結露防止シート 食品・流通 ドリップ吸収材 保冷材 鮮度保持材 日用雑貨・化粧品 ゲル芳香剤 使い捨てカイロ 冷却バンダナ 消臭剤 簡易土のう 災害用簡易トイレ 化粧品用増粘剤 廃血液固化剤 歯科廃液用ゲル化剤 湿布材 ペット関連 ペットシート、ネコ砂 メディカル 創傷保護用ドレッシング材 医療用アンダーパット 電気・電子材料 通信ケーブル用止水材 土木・建築 結露防止用建築資材 残土固化材 油中水分除去 ガスケットパッキング 消化水 水損防止廃液ゲル化剤 その他 三洋化成ニュース ❶ 2012 初夏 No.472 のり面への利用。左は施工前、右は施工後 適した植物育成用培土、⑤おがく が可能となったため、高吸水性樹 しかしながら、製造工程でゲル化 ず・米ぬかなどの培地に高吸水性 脂を含んだシートが使用されるよ させる際に温度を上げる必要があ 樹脂を添加して、保水性と通気性 うになった。 る。その点、高吸水性樹脂は室温 を改良した食用キノコ培地などが 2枚の通気性の膜に高吸水性樹 で容易にゲル化できるので、製造 知られている。 脂を挟んだシート、不織布上に高 工程での香料の揮発、劣化の心配 ❖食品・流通分野 吸水性樹脂の微粉末をバインダー がなく、さらに芳香剤・消臭剤の [結露防止シート] でコーティングしたシートなどの 香料の徐放性にも優れる。 農産物の輸送時の結露防止材に、 高吸水性樹脂を含んだシートが使 形態で使用されている。 [保冷材] [使い捨てカイロ] 使い捨てカイロは、中に入れた 用されている。密閉されたコンテ 野菜などの生鮮食料品の輸送容 鉄粉が空気中の酸素で酸化し、酸 ナ内では外気温の変化によって結 器で、凍らせて使用する使い捨て 化鉄になるときに発生する熱を利 露水が発生し、農産物の品質が損 の保冷材(ポリエチレンなどの袋 用したもので、この酸化を促進さ なわれることが多い。これを防ぐ にゲル状の高吸水性樹脂を入れた せる触媒として食塩水が必要であ ために、従来はシリカゲルなどの もの) としても使用されている。 る。高吸水性樹脂は食塩水の保 乾燥剤が使用されてきたが、十分 ❖日用雑貨・化粧品分野 持・徐放剤として使用されている。 な吸湿量が得られなかった。そこ [芳香剤・消臭剤] 従来、食塩水の吸水剤に使用し で高吸水性樹脂のもつ調湿性(湿 高吸水性樹脂は、室内用ゲル芳 ていたバーミキュライトなどの無 度が高い条件では吸湿、逆に湿度 香剤に使用されている。 機多孔質体に比べ、高吸水性樹脂 が低い条件では放湿する)を利用 ゲル芳香剤に使用されるゲル化 を使用したものは食塩水の吸水・ することで長期にわたる結露防止 剤としては多糖類が一般的である。 保水性がよく、酸化促進に必要な 保冷材に 芳香剤に 三洋化成ニュース ❷ 2012 初夏 No.472 活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス 高吸水性樹脂の応用 量だけ水を徐放するため固まり ❖ペット関連分野 にくく、従来のように振ったり、 [ ペットシート] ❖メディカル分野 [廃血液固化剤] ペットシートは犬の室内用ト 医療現場の手術時に発生する イレであり、構成はほぼ紙おむ 廃血液などを固化(ゲル化)させ 災害時に断水などでトイレが つと同じである。粉砕パルプと るために高吸水性樹脂が使用さ 使用できないときの簡易トイレ 高吸水性樹脂の組み合わせから れている。廃血液などは手術時 用尿固化剤として高吸水性樹脂 なる吸収層を中心に、尿を吸収 に専用容器に回収され、専門機 が使用されている。 体層へ導く表面不織布、吸収し 関で処理されるが、輸送や処理 便器にビニル袋をセットし、高 た尿の裏側へのしみ出しを防ぐ 過程で廃血液の漏液による二次 吸水性樹脂を振りかけ尿をゲル 防漏フィルムから構成され、表 感染の危険がある。高吸水性樹 化させる。使い捨てで中身がこ 面不織布を上側にして床に敷き、 脂で固化させることで、これを ぼれることもなく便利である。同 その上で犬に排尿させる。1回 防ぐことができる。 じくレジャーやドライブ用とし 使い捨てや複数回繰り返し使用 そのほか、高吸水性樹脂の保 て便利な携帯用トイレも商品化 できるタイプ、消臭・抗菌効果 水性を利用し湿布薬の材料とし を付与したタイプもある。 ても使用される。湿布材中の含 もんだりする必要がない。 [災害用簡易トイレ] されている。 [化粧品] [ネコ砂] 水量を高くすることで薬物の経 化粧品の分野では、クリーム ネコ砂はネコの室内用トイレ 皮吸収率が向上し冷感が持続す や乳液に保湿性を持たせるため として使われている。粉砕パル る。また、創傷部からの血液や に、高吸水性樹脂が使用されて プや古紙、おがくずを丸めた核 体液などの浸出液を速やかに吸 いる。また、塗布およびはく離 の表面に高吸水性樹脂をコーテ 収して化膿を防止する創傷保護 が容易でしっとり感のあるパッ ィングしたペレット状のものが 用ドレッシング材などにも使用 ク剤などの開発も進められてい 主流で、平らな容器にペレット されている。 る。 を敷き詰め、その上でネコに排 ❖電気・電子材料分野 [その他日用雑貨] 尿させる。排尿した部分だけが [通信ケーブル用止水材] 夏場に首や額に巻いて冷感を 塊になるように設計されている 地中や海底に敷設される電力・ 得る冷却バンダナ、汗などを吸 ので、その部分のみを捨てれば 通信ケーブルや光ファイバーケ 収する靴の中敷き、ヘルメット よく、処理が簡単である。また、 ーブルの表面被覆材として高吸 の内側に装着する汗取りバンド、 従来の原材料であるベントナイ 水性樹脂が使用されている[図1] 。 簡易土のうなどにも高吸水性樹 ト等に比べ、軽量化できること 高吸水性樹脂含有(不織布に塗 脂が使用されている。 も特長である。 布)テープをケーブルの芯と外壁 ペットシートや ネコ砂に 三洋化成ニュース ❸ 2012 初夏 No.472 活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス 高吸水性樹脂の応用 がある。表2に高吸水性樹脂の特 性と、分野ごとに分類した主な当 外壁被覆材 社製品を示す。 高吸水性樹脂含有テープ 高吸水性樹脂は、当社品も含め 被覆材 ポリアクリル酸塩架橋体が主流で あり、一般的な製造法として水溶 液重合法と逆相懸濁重合法がある。 水溶液重合法で得られる『サン 芯線 フレッシュ』シリーズは、分子量 が高いため、吸水・保水性、ゲル 図1●光ファイバーケーブルの構造 化力に優れ、長時間の使用におい 被覆材との間に挿入することによ み・運搬等が困難である。高吸水 ても、この特性を保持できること って、万一被覆が破損しても高吸 性樹脂をこれに混錬することで余 が特長である。これらの特性を生 水性樹脂が水を素早く吸収するこ 剰の水分を吸収させて流動性をな かす日用雑貨・化粧品、土木・建 とにより、水の進入を最小限度に くすことができる。さらに無機系 築等に好適である。 食い止めることができる。 固化材に比べ、処理後の土のpH 一方、逆相懸濁重合法で得られ ほかにも高吸水性樹脂の吸収・ 上昇がないことも特長である。 る『アクアパール』シリーズは、パ 膨張性や吸湿性を利用した漏水検 ❖その他の分野 ール状に近い形状を有する粒子か 出器、湿度感知センサーなども研 生鮮食料品からしみ出した液汁 らなる。その形状と表面積を制御 (ドリップ)を吸収し、鮮度劣化を することにより、膨潤性を高めら 究されている。 ❖土木・建築分野 [結露防止用建築資材] 防ぐ鮮度保持材、薬物の放出性と れることが特長である。このため、 使用感が良好な外用軟こう剤、出 メディカル、電気・電子材料分野 現在、建物の気密性が著しく向 血や分泌物を吸収して呼吸を楽に などに好適である。 上したため、冷暖房による壁面や する鼻腔用タンポン、含水油中の 今後は国内市場だけでなく、新 屋根裏の結露の発生が問題となっ 水分を吸収・除去する水分分離フ 興国を中心とした海外展開も視野 ている。そこで壁面や屋根裏に敷 ィルターへの利用、消火水に高吸 に入れ、ユーザーニーズに対応し くシートに高吸水性樹脂を入れ、 水性樹脂を添加してゲル状とする た高吸水性樹脂の開発および新規 その呼吸性を利用し余分な湿気を ことにより消火効率を上げる方法 用途開拓に注力していく。 吸収させて結露を防止している。 など、幅広い用途開発が行われて [残土固化材] いる。 水分を多く含み、流動性のある ❖当社高吸水性樹脂の特長 建設残土を固化するために高吸水 当社には2種類の形状の異なる 性樹脂が使用されている。 高吸水性樹脂『サンフレッシュ』シ 流動性のある建設残土は山積 リーズと『アクアパール』シリーズ 表2●高吸水性樹脂の特性と主な当社製品 吸水・保水性 分野 特性 参考文献 1)増田房義『高吸水性ポリマー』高分子 学会編、共立出版 (1987) 2)長田義仁『ゲルハンドブック』エヌ・ ティー・エス (1997) 膨潤性 ゲル化力 農業・園芸 サンフレッシュ GT–1 食品・流通 サンフレッシュ ST – 500D* サンフレッシュ ST – 500D* 日用雑貨・化粧品 サンフレッシュ ST – 573 増粘性 サンフレッシュ ST – 500D* サンフレッシュ ST – 500MPSA ペット関連 サンフレッシュ ST – 250* アクアパール E – 200 メディカル 電気・電子材料 アクアパール E – 200 土木・建築 サンフレッシュ ST – 500D* アクアパール E – 200 サンフレッシュ ST – 250* 三洋化成ニュース ❹ 2012 初夏 No.472
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