聴覚障害(Hearing Impairment)

■聴覚障害(Hearing Impairment)
聴 覚 障 害 と は
聴覚障害とは音や話し声が聞こえにくい障害をさします。アメリカでは一般に、全く聞こえない状態
ろう
をDeaf(聾)といい、それより軽度の難聴をHard of Hearingといっています。アメリカの全人口の
約1%弱が両耳に聴覚障害を持っており、ロサンジェルス郡内では、乳幼児期からの難聴児(者)は
35万人強、中でも17才以下の子供で、重い両耳難聴のため、補聴器をつけても人の話しを理解で
きない子供たちは2万6千人強にのぼります。一口に難聴といっても、障害がある部分により、聞こ
え方や聞こえの程度は一人一人異なります。一般に難聴には3種類あり、外耳や中耳に障害がある場
合を伝音性難聴(Conductive hearing loss)、内耳から聴神経を通り、脳にいく部分に障害がある場
合を感音性難聴(Sensorineural hearing loss)といい、両方に障害がある場合は混合性難聴
(Mixed hearing loss)と呼んでいます。伝音性難聴の聞こえは、ちょうどラジオの音を小さくして
聞いている感じで、補聴器による効果が現われやすい種類の難聴です。それに対し感音性難聴の聞こ
えは、音質の悪いラジオを聴いている感じで、非常に小さい音に加えて、音割れがしたり雑音めいて
聞こえ、高い音を含む人間の言葉も聞き取りにくくなります。そのため、補聴器の効果もすぐには現
われませんが、補聴器をつけて訓練を続けることにより、色々な音が聴きとれるようになり、音の意
味なども理解できるようになります。混合性難聴も、感音性難聴と同じような聞こえ方になります
( 参 考 資 料 3 よ り )。 聞 こ え の 程 度 は 、 一 般 に わ か り や す い よ う 、 軽 度 (mild) 難 聴 、 中 等 度
ろう
(moderate) 難聴、高度 (severe) 難聴、聾 (profound) の4段階に別けて表現されます。目安として
は、軽度難聴だと、人の話しを聞き間違えることが多くなり、中等度難聴では普通の会話を聞きとる
ろう
のが困難になります。高度難聴になると、大声で話されれば何とか聞きとれる程度になり、聾になる
と、耳元での大声がかすかに聞こえるか、全く聞こえない状態となります。
原
因
伝音性難聴の原因として主に知られているものは、外耳道につまった耳垢や異物、鼓膜の損傷、滲出
性中耳炎、耳子骨の骨折や接続不全、もしくは先天性外耳・中耳の奇形などです。この種の難聴は、
外科治療も含めて治療可能な場合も多いので、早期に耳科医の診断と治療を受けることが大切です。
一方、感音性難聴の場合、髄膜炎、母親の妊娠中の風疹、頭部外傷、(内耳神経中毒性)薬害、巨細胞
ウイルス、遺伝、又は極度の騒音などが原因となりうるのですが、生まれつきの感音性難聴の場合、
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わが子の障害を学ぶ/聴覚障害
原因を特定できないことも多いものです。混合性難聴の場合、伝音性難聴の部分が治療可能か、医師
にまず相談することが勧められます。
治療法・対処法
聞こえに疑いをもったら、まず、オーディオロジスト(Audiologist)による、聴力検査を受けること
が先決です。現在では新生児でも検査が可能です。次に、耳科医(Otologist)の検査を受け、これら
二つの検査結果をもとに、治療方法、最も適した補聴器、言語評価の必要性、適切な教育的措置など
が話し合われます。
現在、主に使われている補聴器の型は、耳かけ型や耳への挿入型、骨を振動させて音を直接伝える補
聴器(骨導補聴器)などですが、回りの音の環境によってセッティングを変えられるよう補聴器にプ
ログラム機能を組み込むことが可能になったなど、開発が進んでいます。又、学校ではFMシステムが
広く使用されています。これは、FM波を利用して、マイクをつけた人(教師)の声を特に拡大し優先
して聴くもので、講義中や離れている人の会話を聴くときに有効です。アメリカで特に注目すべきは、
人工内耳(Cochlear Implant)の普及があります。現代医学の恩恵により、難聴の原因が蝸牛管にあ
る場合、ここに電極を埋め込む手術により聴力を回復できるようになりました。日本では子供への執
刀例がまだ少ないため、アメリカの医師達の豊富な経験は心強いものがあります。人工内耳の手術後
には、人工内耳の難聴者用の特別な聴能及び発語・言語訓練を一定期間受けることが必要です。その
経験を積んだセラピスト(Speech and Language Therapist)を病院で紹介してもらうとよいでし
ょう。いずれのケースにおいても、年に1〜2回は定期的な聴力検査を受け、聴力に変化がないか、
補聴器が難聴者の現在のニーズにあっているかの確認を怠らないことが大切です。
教育・コミュニケーション
聴覚障害者がとるコミュニケーションの方法は、大きく2つに分けられます。一つはoral(口話・読
話のみ)、もう一つがtotal(口話・読話と手話併用)であり、これが聴覚障害者教育の2つの柱ともな
っています。どちらの方法を選ぶかは難聴者自身とその家族の自由意思によるので、学校区(School
District)を訪ねる前に、自分達の方針をきちんと決めておくことが必要です。学区内に自分達の希望
する方法をとる学校がない場合、学区外から選ぶこともできます。子供が成長するにつれ、どこかの
時点で普通学級へ編入(mainstream)することになりますが、その時には、School Districtとよく
話し合い、1対1の発語・言語訓練の継続、FMシステム、通訳(口語、手話)、DHHサービス、
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notetaker、視聴覚教材のcaptioning、realtime captioningの利用の可能性など、できる限りの十分
な援助を受けられるよう配慮してもらうことが、普通学級で学ぶ上での成功の鍵となります。
現代の医学では、残念ながらすべての難聴を回復させることは困難です。しかし、その難聴が乳幼児
期の子供にあった場合には、その子供の言語の発達に多大な影響を及ぼすことになるので、早期に難
聴を発見し、早期に補聴器の使用に慣れさせ、早期に適切な指導や教育を受けさせることが非常に重
要となります。難聴者の脳や発語器官は、他の障害がなければ正常な機能を備えているわけですが、
同時に、一般の人と同じく、脳の奇跡的な吸収力や口の回りの筋肉の柔軟性は6〜7才をピークに衰
えていくので、難聴がわかったら、即刻訓練を開始するべきでしょう。特に、残存聴力を最大限に使
いこなせるよう訓練する聴能訓練(Auditory training)はすべての基本です。その聴能訓練と発
語・言語訓練(Speech and Language Therapy)、読話(Lipreading)、Social Developmentが
主な訓練ですが、方法さえ学べば家庭でもできる訓練なので、セラピストの継続的な訓練を受けつつ、
その専門指導のもと、家庭でも常に訓練を続けることが望まれます。実際、難聴児が健聴児の言葉に
追いつくためには、これが唯一の方法です。スピーチ・セラピストを選ぶ際には、必ず難聴専門(普
通teacher of the Deaf)で、難聴者が子供なら、なおかつ、子供を多く指導している人を選ぶことが
大切です。
手話を使うことを選んだら、子供と一緒に家族も手話を習うことが必要になります。市のプログラム
や大学、子供の学校などで講習会が開かれています。手話にはASL、SEEサイン、Pidgeonサインな
どの種類の他、各地域でも多少の違いが見られます。アメリカのDeaf社会はかなり確立されているの
で、親は偏見を持たず、その社会に子供と一緒に一歩足を踏み込んでみると、難聴児である子供のア
イデンティティ形成に役立ちます。又、先に挙げた二つのコミュニケーション方法とは別に、言葉で
はなく音を手で表わすCued Speechも学びの道具として注目に値します。聴覚障害に関する情報は、
A. G. Bell Asso., House Ear Instituteをはじめいくつかの団体が提供しており、各地域で開かれてい
るサポートグループに加わって情報入手に努力しましょう。
アメリカの全国平均で、難聴者の読む力は小学校3〜4年生程度という調査結果は、多民族国家であ
るアメリカの各家庭の教育に対する認識・収入・宗教的観点からの考え方の大きな違いを如実に表わ
した結果(高低差が著しいため平均が低くなる)といえますが、実際には、医者・教師・弁護士・エ
ンジニア・コンピュータープログラマー・株のディーラーなど、今や難聴者はつけない仕事はないほ
どに進出し(参考資料4より)、成功をおさめている人達も多いのが現状です。すべては、早期発見と
治療、適切な補聴器とたゆまぬ訓練・教育にかかっているといっても過言ではないでしょう。
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(文:斉藤紀子)
わが子の障害を学ぶ/聴覚障害
主な連絡先一覧
*Alexander Graham Bell Association for the Deaf (A. G. Bell Asso.)
非営利サポート団体
3417 Volta Place, N. W., Washington, D. C. 20007-2778
(202)337-5220 TDD / Voice
*House Ear Institute
耳及び聴力専門の治療、研究、セミナー
2100 West Third Street, Fifth Floor, Los Angeles, California 90057
(213)483-4431 Voice / (213)484-2642 TDD
*GLAD (The Greater Los Angeles Council on Deafness)
擁護団体(Advocacy)
2222 Laverna Avenue, Los Angeles, California 90041
(213)478-8000 TDD / Voice
*John Tracy Clinic
難聴乳幼児とその家族への教育、サポート
806 West Adams Boulevard, Los Angeles, California 90007-2599
(213)748-5481
*NCOD (The National Center on Deafnnes)
大学、サポート
California State University, Northridge
18111 Nordhoff St., Northridge, California 91330-8267
(818)677-2054 TTY / Voice
*Gallaudet University
大学、サポート
800 Florida Avenue, N. E., Washington, D. C. 20002-3695
(202)447-0741 Voice / (202)447-0480 TDD
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難聴者の通信手段サービス
TDD、TTY:
難聴者用の電話。TTYは電話のダイアル部分にキーボードがあり、発信の時は会話
内容をタイプする。受信の時は会話内容が小さなスクリーンに逐次表示される。
リレーサービス(Relay Service):
TTYやコンピューターを使い、健聴者とリレーサービス・オ
ペレーターを介在して電話のやりとりができる。
Captioning:
テレビで見かける字幕のことだが、専門会社のシステムを使い、会議や授業、講習会
の内容を把握できる。(電光掲示板に逐次表示される。)このサービスは個人には高額すぎるので、通
常、団体や学校区などに利用されている。
参考資料:
1. Parent Resource Catalog , House Ear Institute
2. Hearing & Hearing Aids , House Ear Institute
3.「養育の手引き……聴覚障害乳幼児」
4.「アメリカ手話留学記」
横浜市立聾学校
5.「難聴・耳鳴り・めまい」
高村真理子・著
吉江信夫博士・著
6. Advocacy Council for Abused Deaf Children
印刷物
私が学んだこと
誤診を医者から受けたり、扱いに不満が
あった場合、ただ感情的に愚痴を言うのでは
なく、
書面にてその旨明確に詳しく医師に伝え、
して欲しい対応を明記し相手に送ること。
とてもアメリカ的だが、しかし実際やると
なると、苦手な英語のレターを書く大変さも
あって私自身延期してしまっている。(S)
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わが子の障害を学ぶ/てんかん
■てんかん(Epilepsy / Seizure Disorder)
てんかん(Epilepsy)とは何か
痙攣(けいれん)や、短時間の意識の途切れ、変わった行動、といった
す傾向が身体の状態にあるとき、そのような身体の状態を
発作 (seizure)を繰り返
てんかん(epilepsy) あるいは
seizure disorder という。脳は心身をコントロールする中心であり、普段は正常な電気信号により、
脳と体との連絡がうまく行われている。それぞれの細胞どうしは小さなスイッチのようなもので、自
動的にオン、オフの切替えをしている。しかし、時にてんかんを持つ人の脳では、いくつかの脳細胞
が時々、突然必要よりも少し大きすぎる電気信号を出し始め、スイッチの切替えもうまくいかなくな
る。これが、脳の部分または全体に広がり、 発作
を起こさせるのである。人種、国籍に関係なく持
ちうる疾患であり、ここアメリカでは、人口の約1%、2百万人以上の人がこの疾患を持っていると
いわれている。何才からでも発症する可能性があるが、毎年新たに診断される125,000例の内、
1/3は子供である。
発 作 の 種 類
発作には大きく分けて2つの種類があり、先に説明した、脳内の電気信号の乱れが脳全体に及んだ時
の発作をgeneralized seizure(全般性発作)と呼び、一部のみに及んだ時の発作をpartial seizure
(部分発作)と呼ぶ。
■全般性発作
・grand mal(大発作)
意識を失い倒れ、体を硬直させ、次にけいれんや、体の一部をぐいぐいっと動かし続ける動きを始め
る。口の中や舌を切っていたり、口の回りで、唾液がまるで泡のようになっていることがある。呼吸
が一時止まっていたり、時には小・大便をもらしていることもある。通常、発作は1〜2分で自然に
終わるが、意識が戻ったときまだ混乱していたり、眠い状態にあることが多い。
・petit mal(小発作)
突然、数秒間意識が途切れ、次の瞬間、完全に元に戻っている。多くは、子供に見られ、本人は意識
を失ったことに気付いていない。発作中、うつろな目で一点を凝視しており、素早い瞬き、口や腕の
動きがみられることもある。
・全般性発作には他に、myoclonic seizure(無意識で短時間の手足、又は体全体のぐいっという動き。
青年層に多く、朝、起こりやすい。大発作につながることもあったりする)、atonic seizure(又は
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drop attack。突然頭をカクンと落としたり、倒れたりする)、tonic seizure(突然の体の硬直)、
clonic seizure(体をぐいぐいと動かす)、infantile spasm(乳幼児に起こる発作。突然体を二つに
折曲げ、泣く)等のタイプがある。
■部分発作
・complex partial seizure(複雑部分発作)
このタイプの発作では、発作を起こしている人の意識はあるが自覚はない状態で、発作中、本人の意
思によって行動をコントロールすることはできないが、夢遊病者のように歩き回ったり、何か物を探
しているかのような、神がかり的にも見える行動を取る。発作のタイプは個人によって非常に異なる
が、各個人の持つ発作のパターンは普通決まっていて、毎回同じものを起こす。この種の発作では、
叫び声を上げる、ぶつぶつつぶやく、笑う、訳もなく服をまさぐる、急に走り出す等、周囲の人を驚
かすような無意識の行動を取ることもあるが、全体からみれば少ない。発作は1〜2分で終わるが、
完全に意識が戻るまでには、その後いくらかの時間を必要とする。場合によっては、本人が興奮、混
乱していることもある。
・simple partial seizure(単純部分発作)
このタイプの発作では意識を失うことなしに、五感の変化や、体の一部のみがくいっと動いてしまう、
等を経験する。この
いつもと違う感覚
をaura(前兆)といい、大きな発作が来る前には必ず現わ
れる。つまり、この種の発作は、勢いを増して大発作につながる可能性があるので注意が必要である。
子供が発作を起こしたら
一番大事なことは、発作が起きている人を発作が終わるまで安全を確保しつつ見ていてあげること、
である。以下、手助けとなる処置のポイントをいくつか挙げる。
■大発作の場合
・まず、落ち着く。ー発作を見て、驚かないように。
・回りにある、ぶつかったら怪我をするような危ない物をどかす。
・息が楽にできるよう、特に首の回りの物を緩める。
・発作を起こしている人を、その人にとって向きやすい方へ、穏やかに向けてあげる。これによって、
気道が確保される。
・発作中は、指その他、一切のものを、口に挟まないこと。これは危険なため、法律で禁じられてい
る。舌を喉に詰まらせることもない。
・無理に押さえつけたり、動きを止めようとしない。
・一瞬呼吸が止まってしまったり、一時顔色が青白くなっても、慌てない。これも、発作によって自
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わが子の障害を学ぶ/てんかん
然に起こる現象の一部である。
・意識が回復したら、優しく安心させるよう話しかける。
(注)もし、大発作が5分以上続いたり、意識を回復する前に、次の発作がすぐに始まってしまう場合、
即刻主治医に連絡をとるか、すぐ連絡がつかない場合、救急車を呼ぶこと。まれなケースだが、
この場合は救急医療を必要とする。
■複雑部分発作の場合
・行く手の危険な物をどかす。
・もし、危険な場所に近付いた時は、そっと丁寧に導き、そこから離すようにする。
・すぐに危険を冒す恐れがない限りは、無理に押さえようとしないこと。振りほどこうとしてもがき、
怪我をする(させる)かもしれないため。
意識が回復したら、子供の発作中の振る舞いをとがめることなく、子供の不安な気持ちをしっかりと
支えてあげたい。
てんかん発症の原因
全患者の70%以上は発症原因についてはわかっていないが、わかったものからその原因を例に挙げ
るならば、頭部損傷、脳出血、脳腫瘍、結節性硬化症のような遺伝上の問題、鉛の中毒によるもの、
生まれる前の脳の発達上の問題、髄膜炎、脳炎(脳へのウイルス感染症)等がある。てんかんは、感
染する病気ではない。遺伝に関していえば、すべての人は何らかの発作の原因となり得るものを、親
から遺伝的に受け継いでいると、科学者は考えている。しかしながら、実際には、脳に直接のダメー
ジを(例えば小さな傷がつく)などのハプニングが起こらない限り、てんかんを発症することはない
であろう。又、ほどんどの場合、てんかんは家族の病歴に無関係に発症している。
発作そのものの危険性
ほとんどの発作自体は、脳にダメージを与えることはなく、
、知的能力に変化をきたすこともない。しかし
ながら、発作が異常に長く続いたり、発作が切れ目なく連続した起こるような時には、脳にダメージを与
える可能性がある。又、発作自体が死亡の原因になることもほとんどない。場合によって、発作で倒れた
人の呼吸が止まったまま回復しなかったり、心臓発作を起こしていることがあるが、この様な時には、人
口呼吸器の取り付けが必要である。てんかん発作が死につながる場合の最も大きな原因としては、先に挙
げたように大発作が止まらず、かつ、病院での手当を早急に受けられなかった場合が考えられる。
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治療法のいろいろ
てんかんの診療は、神経科医、小児神経科医、小児科医、かかりつけの内科医等によって行われる。
発作のコントロールが困難な場合には、より大きな医療センター、病院、専門医での診療も可能であ
る。てんかんの診断では、患者とその家族・親族の病歴についてや、発作時、発作の直前直後の様子
等についての詳しい問診に最も重点が置かれ、さらに、身体の検査、脳波検査(EEG)、CTスキャン、
MRI、血液検査等が、必要に応じて行われる。てんかんは、薬物療法や手術、特別な食事療法によっ
て治療される。もちろん、この中では薬物療法が最も一般的で、通常最初に試される方法である。
■薬物療法
発作のタイプにより、有効な薬もそれぞれ異なるが、医師は可能な限り、一種類の薬で発作をコント
ロールするように治療していく。規則的に抗てんかん薬を服用することによって、80〜85%もの
多くの人達の発作がコントロールされている。抗てんかん薬は、てんかんを治癒させるものではなく、
薬を規則的に服用し続けることにより、発作の予防、回数や程度の軽減に役立っているのであって、
薬の服用は長期にわたるであろう。それによる弊害・副作用等心配されるが、医師も完全に安全だと
は断言しきれないのが実際である。しかし、てんかん発作が怪我のリスクを伴うことを考えると、現
時点では、薬物療法の効用はやはり大きい。もし、長期にわたって発作を全く起こしていない場合で
も、医師の指導なく勝手に薬の服用をやめるのは非常に危険である。薬の停止・減量が妥当とみられ
る場合は、医師がその判断を下す。
■外科的治療
脳外科手術は、発作の原因が脳腫瘍である場合や、薬物療法で発作をコントロールできない場合のオ
プションである。が、通常、原因となる脳細胞がかなり狭い限定されたエリアにあり、かつ、その場
所が確実に見つけ出せた場合にのみ可能であり、手術による恩恵がリスクを越えると判断された場合
に行われる。
■食事療法ーケトジェニックダイエット(ketogenic diet)
これは、特別な高脂肪の食事を用いて、体内に、ある科学的状態(ケトシス)を起こさせる方法だが、
この ケトシス がてんかんを持つ人(特に子供)の発作の予防に威力を発揮する。ケトジェニックダ
イエットは、通常、薬物療法で十分に効果がなく、発作を止めることができなかった場合に行われる。
他の療法と同じように、医師の診察と処方が必要である。詳しくは『THE EPILEPSY DIET
TREATMENT』
(Demos Vermand発行、本の注文は 11-800-532-8663まで)を参照され
たい。その他のスペシャルダイエット(特別な食事療法)と呼ばれるものの効果は証明されていない。
150
わが子の障害を学ぶ/てんかん
■ビタミン療法
時々、医師はビタミン剤を処方するが、その目的は発作の予防というよりは、むしろ単にビタミンの
補給という意味合いが強いようである。まれなケースとして、ビタミンBやマグネシウムが不足してい
る状態は発作を誘発することがあるが、だからといって、ビタミン剤を使って自己流の治療を試みる
のは危険である。
■バイオフィードバック療法
これはいまだ研究中の療法である。発作の回数が減ったという報告に対し、トレーニングを止めた後
の効果について疑問の声もある。
日常生活に関する疑問に答える
■雇用:てんかんを持つ人の知能は、他の多くの人と変わらない。又、てんかんは、精神の病気とは
非常に異なる。雇用についていえば、発作がコントロールされている人はもちろん、まだ発作がある
人であっても、職場内で職種を変える、設備の便宜を図るなどの配慮により、その人なりの価値の高
い仕事ができるであろう。てんかんを持つ人で、ある仕事をする能力がある人を、雇用する側が
んかんを持っている
て
ことを理由に雇用を拒むことは、ADAにより禁じられている。多くの州も
ADAに準ずるような特別法を通じ、働く能力のある障害者に対する差別を禁止している。
*運転免許の取得:以下の条件を満たしている場合に可能である。
1.発作が確実にコントロールされている。
2.医師の治療を受け、医師と十分にコミュニケーションがとれていること。
EFA(アメリカてんかん財団)について
アメリカてんかん財団(Epilepsy Foundation of America: 4351 Garden City Drive, Landover, MD 20785
Tel 1-800-EFA-1000)とアメリカ全土にある独立地方支部組織は、サポートグループ、様々な情報の提
供を始め、雇用援助、弁護等を通し、てんかんを持つ人々を支援している。EFA本部は医療分野の調
査研究を支援し、行政機関に働きかけ、連邦国立てんかん図書館の運営もしている。EFAのメンバー
になると、American Association of Retired Persons' pharmacy program を利用して処方箋薬・市販薬共
に郵便で注文購入できる他、定期的なニュースレター(最新の調査・研究の報告、法律、出版物、患者
の日常生活に関する情報を網羅)を受け取ることができる。独立地方支部組織(EFA affiliate)はそ
れぞれ独自の情報(地元の専門医療ケアセンターや保険に関すること等)も持っているうえ、会員費
は無料なので、会員になることを勧める。EFAの会員になっても自動的に地方支部の会員にはならな
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いので双方への申込が必要。最寄りの地方支部の連絡先はEFA本部に問い合わせるとよい。ロサンジ
ェルス近辺では、Epilepsy Foundation of Los Angeles and Orange Counties (3600 Wilshire
Blvd., Suite 920, Los Angeles, CA 90010-2613 Tel (213)382-7337 / FAX (213)382-8602) が
ある。てんかんに関しては最大のコレクションを誇る書籍・ビデオ・パンフレット類は、カタログを
通して注文ができる。(注文は、301-577-0100まで)
。
(文:塚田典久、斉藤紀子)
参考資料:
『Epilepsy: You and your child』
(EFA 発行、1994年)
『Your child with Epilepsy』
(CIBA-GEIGY 発行、1985年)
『The Parke-Davis Manual on EPILEPSY』
(The KSF Group 発行、1992年)
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わが子の障害を学ぶ/トゥレット症候群
■トゥレット症候群(Tourette Syndrome)
トゥレット症候群とは何か
トゥレット症候群(以下略してTS)とは、脳神経障害であるチック症(Tic Disorders)の中でも、
大きく分けて2種類のチック(motor ticとvocal tic)が長期にわたって同時に現われる種類をいい、
遺伝性の行動障害(人の行動にその症状が現われる障害)です。主な症状はチック−−過度のまばた
きや、鼻のひくつき、首・肩をくいっと動かす等の様に、体の一部を無意識に動かしたり(motor tic)
、
無意識に、鼻をくんくんさせたり、咳払いをしたり(vocal tic)といった行動を、たいてい素早く、
同じパターンで繰り返すこと−−で、motor ticから現われることが多いようです。発症は21才以前、
特に集団生活が始まる幼少年期や思春期に始まることが多く、その数は、学童男児100人に1人の
割合いとともいわれ、性別全体では女性に対し男性は6倍の発症率といわれています。アメリカでは
近年、TSがメデイアに多く取り上げられるようになったため、より多くのTS患者がきちんとした診断
を受けられるようになってきましたが、正確な患者数はまだわかっていません。The National
Institutes of Healthの概算によれば、アメリカには約10万人のTS患者がいるとしています。医学
誌に最初に掲載されたTSのケースは1825年と古いものですが、その後長い間、まれな病気とされ
ていたため、TS自体がまだ研究段階にあり、患者数・発生率などの数字には幅があります。
診
断
現在のところ、血液検査等の検査では、TSは発見できません。詳しい問診と観察(患者の行動・成育
歴、チックの様子、家族の病歴・成育歴など)が診断の手掛りとなります。以下の症状があてはまる
場合には、チック症の中でも特にTSの診断を受ける必要があります。
1.複数のmotor ticと、1種類以上のvocal ticが両方ある。
2.これらのチックは一日中頻繁に起こり、ほぼ毎日あるいは断続的に、12ヵ月以上続いている。
3.チックの回数・頻度・チックが現われる体の部位・種類は不定期的に変わり、その程度も軽くな
ったりひどくなったりを繰り返す。時には、数週間から数ヵ月症状が全く消えてしまうこともある。
4.発症は21才以前
多くの患者が、数秒から数時間、チックをある程度抑えることは可能なようです。しかし、チック自
体がもともと意図的にやっているものではないので、無意識の抑制が切れたところで蓄積されていた
チックはよりひどくなって現われます。一般に、学校や職場、医者といる時にはチックは軽くなるか、
153
おさまり、家や車の中にいる時に噴き出すように現われます。また、緊張やストレス、反対に、緊張
が完全にほぐれてくつろいでいる時に、よりチックは悪化し、運動している時や、何かに夢中になっ
ている時には軽くなる傾向があります。それゆえ、時折回りの人やTSをよく知らない医者を混乱・誤
解させますが、自分でチックを自在に操っている分けではなく、TSが治ったわけでもありません。症
状の一つのcoprolalia(ひわいな言葉や汚言を口走る)とecholalia(他人の言った言葉を繰り返す)
は患者全員にあるわけではなく、TSの診断には必要ないとされています。又、知的障害のあるなしも
診断には必要ありません。最初は、目・鼻・喉に現われはじめたチックを他の病気(アレルギー等)
と思ったり、心の病気と考え、関係のない医者をわたり歩く(たいてい異常なしで帰されるか、家庭
内のストレスを取り除くよう指導される)ことが多いものです。こういった医療関係者・一般双方の
認識不足から、ここアメリカでも、TSの正しい診断までに5年以上かかったり、訪ね歩いた医者・セ
ラピストの数7人などという例も珍しくありません。
障害の程度と行動
障害の程度は、非常に軽度で本人が患っていることにさえ気がついていない(当然治療も特に必要と
しない)ケースから、後にふれるように、非常に重度で日常生活にかなりの支障がある(職業を維持
できない、社会の基準に従った行動を取れない、奇異な行動のため他人から白い目で見られる、など)
ケースまで、非常に幅があります。よって、典型的なケースを挙げることは難しいのですが、大多数
のケースは軽度に入るといわれています。一方、TSの研究で有名なDr. David E. Comingsによると、
治療の必要を感じて同医師を訪れる患者の中でいえば、約半数が中程度、3割が重度とのことです。
四六時中身体が勝手に動いたり、思わず声を出してしまうTS患者にとっては、チックがあることだけ
でも大変なことですが、時に、彼らが無意識にとる行動のほうにより大きな問題があって、患者を
中・重度障害者にしていることも多いのが現状です。問題行動のいくつかを例に挙げると、椅子に座
っていられない、自分のやっていたことをすぐ忘れてしまう、注意力と集中力を維持できない(自分
の好きなことは別)といったADHDの諸症状をはじめ、対立的な言動を意味もなく続ける、明らかな
嘘を平気でつく、ジキルとハイド的二重人格を見せる、反抗的、すぐにかっとなる、やってはいけな
いと思うほど衝動的にやってしまう(熱いコンロにさわってしまう等)、理屈の通らないことを言い張
る、母親に対しいやがらせをする、弟妹・ペットをいじめる、やる気がでない、我慢ができない、疲
れやすい、環境の変化に適応しにくい等があります。TS患者の場合、これらの行動にあまり計画性は
なく、本能のおもむくままに
強い衝動にかられて
やってしまうのが特徴で、性格の問題ではあり
ません。冷静な時にはやってはいけないこととわかっていても、身体的な障害ゆえ自分で自分を止め
られないのです。又これらは、小さな子供には一般に見られる行動ですが、TS患者のそれは子供に限
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わが子の障害を学ぶ/トゥレット症候群
ったことではなく、その頻度・程度において普通の範囲を完全に越えており、かつ年令と置かれた状
況に全くそぐわないため、学校で必要以上に罰を受けたり、他人から排除されることが多いものです。
その結果、 冷静な部分の自分
は傷つき、自尊心、自信、あるいは友人を失い、二次的な心の傷を負
いがちになります。これらの行動のすべてがTS患者全員に必ずしも現われるものではありませんが、
TSを理解・治療する上で非常に重要な要素となります。
TSは命に関わる病気ではありませんが、現段階では治癒法はなく、症状はなんらかの形で一生続くと
みられています。成長とともに一時悪化の時期を経験することもありますが、多くの場合年令ととも
に(主に十代後半から二十代前半ごろに)ある程度の症状の改善・緩和がみられ、成人期になると患
者の約3分の1はチックの軽減を経験しています。
原
因
原因はまだ確定されていませんが、最近の研究では、ドーパミン、セロトニンなどの神経伝達物質と
呼ばれる脳内の化学物質の代謝異常が原因とする見方が有力となっています。チックは、ストレス・
欲求不満・悪いしつけなど心理的なものが原因との誤解が多いものですが、それらは、チックの発
症・悪化の引き金にはなっても、根本原因ではないことを認識すべきです。
チックの種類
■Motor tics/まばたき・口をひきつらせる・首をくいっと動かす・肩をすくめたり、くいっと動か
す・顔をしかめる・跳びはねる・人や物を(決まったパターンで)触る・口を大きく開ける・上目づ
かい・手や足を振ったり、曲げたり、伸ばしたりする・匂いをかぐ・唇を噛む・なめる・髪をなで
る・まれに、自傷行為(自分の体の一部を噛む、頭を壁にぶつける等)など。
■Vocal tics/咳払い・鼻をくんくんさせる・鼻をならす・うなる・よくわからない言葉や音を発す
る・舌を鳴らす・かん高い声を出す・動物の鳴き声を発する・唾をはく・他人や自分の言った言葉の
特に最後の部分を繰り返す(echolaliaとpalilalia)・わいせつな、又は下品な言葉を口にする
(coprolalia)など。
155
主 な 合 併 症
TS患者全員ではありませんが、多くの人が一つ以上の、同じような脳神経の障害による合併症を持っ
ており、それにより、症状をさらに複雑に、日常の生活や学習をより困難にしています。主なものは
以下のようなものです。
■強迫神経症(Obsessive Compulsive Disorder ー略してOCD)
Obsessionsとは、何か(考え・思い・アイデア・言葉・見たもの・聞いたこと等)に不随意にこだわ
って考えてしまうことで、ばかげていると思ったり、やめようと思ってもやめられない。
Compulsionsとは、まるで儀式か何かのように決まった方法である動作を繰り返すことでobsessions
に関連している(こだわって考えていることを実行に移したり話したりすることで安心を得、
obsessionsから抜けられる)ことが多い。例としては、異常なほどのきれい好き、火の元や戸締まり
を何度も確認する、完璧主義、物事や考えの切り替えがスムーズにできない、右手と左手で同じよう
に物に触らないと気が済まないなどで、その結果不安を感じやすく、色々なことに異常に時間がかか
る。他人のペースで進む学校や仕事にも大きく影響し、ストレスも生みやすい。TSの二大合併症の一
つで、TSを持つ生徒の40〜60%がOCDを併発している(一部80%との報告もあり)
。
■注意欠陥(多動)障害(Attention Deficit Disorder及びAttention Deficit Hyperactivity
Disorder/略してADD及びADHD)
詳しい説明は別項(P**)を参照のこと。TS患者の50〜70%がADD/ADHDを併発していると
いわれており、チック自体よりもADHDがかなり重度のため、患者の日常生活や学業・仕事に支障をも
たらす場合がかなり多い。二大併発症のもう一つであり、TS児の問題行動の大きな要因の一つである。
■学習障害(Learning Disabilities/略してLD)
■衝動抑制力に甚だしく欠ける
結果として、過剰に攻撃的になったり、自己主張の強い態度、他人を不快に思わせる行動をとりがち
である。又、怒りっぽく、反抗的行動をとりやすい。考える前に行動に出てしまうので、誤解を招き
やすい。これもTS児の問題行動の大きな要因の一つである。
■睡眠障害
156
わが子の障害を学ぶ/トゥレット症候群
治療−薬物療法
多くのTS患者は、チックや行動パターンにでる諸症状が軽く、生活・学業・仕事に特に支障がないた
め、特別治療の必要はありません。しかし、チック・ADD/ADHD・OCD・LD・問題行動などがひ
どい場合には、薬の服用により、症状をある程度和らげることができます。TSの症状に処方される主
な薬は、haloperidol (Haldol)、clonidine (Catapres)、pimozide (Orap)、fluphenazine (Prolixin,
Permitil)、clonazepam (Klonopin)などです。 ADHDに処方されるRitalin、Cylert、Dexedrine
といった中枢刺激薬(stimulants)はチックを誘発する可能性があり、その使用は現在でも論争の的
になっています。OCDやそれに似た行動により日常生活に支障が出る場合は、fluoxetine (Prozac)、
clomipramine (Anafranil)、sertraline (Zoloft)、paroxetine (Paxil)などが処方されます。
ここで覚えておきたいことは、1)TSを治す薬はなく、また薬によって症状のすべてを消すこともま
ず不可能であるということ、2)どの薬をとってもいえるように、副作用の可能性があるということ
で、まずTSとその治療に経験が豊富な医者(Pediatric NeurologistやPsychiatristに多い)を捜すこ
とと、使用する薬と期待される効果、考えられる副作用について納得がいくまで質問をし、自分でも
調べること、3)これが最も大事なのですが、薬を使用後の患者の変化(良い・悪い両方とも)を記
録にとり−−薬服用後の様子を逐一観察できるのは親や家族・教師・職場の仲間だけであり、医師で
はないことを忘れずに−−、医師と綿密に連絡を取り合い、より少ない副作用で、最大限の効果を得
られるよう処方を調整していくことです。そのための服用量や薬の種類は各々全く異なるので、継続
した医師の注意深い指導が不可欠となります。薬の過剰服用に注意し、又、特効薬がすぐ見つからな
いことも多いので、試行錯誤の長期戦になってもあせらないことです。副作用としては、疲労・体重
増加・筋肉の硬直・じっとしていられない・疎外感・落ち込み・思考力や認識力の低下などがよく聞
かれますが、服用中の薬を減量するか、他の薬に変える、副作用の症状用の薬をさらに服用する、な
どで軽減できるものもあるので医師に相談すべきでしょう。
その他の療法
TSとADHDをはじめとする合併症が重度の場合には、薬の服用と同時進行でその他の療法を行うのも
効果的です。現在、最も効果的と見られているのがファミリーセラピー(family therapy)と認知療法
(cognitive therapy)です。従来の心理療法(psychotherapy)は、過去や無意識の内面感情や思いを
糸口に、患者の持つ問題を自己洞察させていくことに焦点が当てられていますが、TSやADHDなどを
持つ患者にはあまり効果的とはいえません。心理療法は、これらの患者にとり、考えるべき(取りくむ
157
べき)ことのどこからどう始めるべきか抽象的すぎてわからなかったり、考えている途中で脱線し、
もとの路線に戻るのが難しかったりするからです。これに対し、認知療法(cognitive therapy)は、
置かれた状況をまず見て、考え、より適切な行動をとる、というように、いわば思考プロセスを教育
し直していくもので、心理療法に比べ、効果がずっと早く現われます。TS・ADHD患者特有の
る前に行動に出てしまう
考え
という、突発的衝動性を緩和するのに効果的です。又、患者の持つ様々な
症状に応じて家庭には不満と口論が渦巻き、寛ぎの場どころか深刻な問題を引き起こしやすいので、
こういった場合にはファミリーセラピーが助けになるでしょう。いずれのセラピーを受ける場合も、
TSの治療に豊富な経験があるセラピストを選ぶことが何より大切なのは、いうまでもありません。
TS・合併症とうまくつきあっていくために
1.トゥレット症候群協会本部(TSA, Inc., National)の活用
協会では、TSの原因と治療法解明の研究を支援するとともに、医者の紹介リストから、各種テーマに
わかれた小冊子やビデオの作成、ニュースレターの発行、シンポジウムの開催、一般へのTS啓蒙活動、
支部を通した各地域での講習会・サポートグループの開催などの活動を行っています。メンバーにな
ると年4回のニュースレターにより、最新の発見・治療法・薬などの情報が得られます。医者や治療
に関しては、サポートグループのメンバーからの口コミ情報も貴重です。
2.障害を知る
繰り返してきたように、TSとその合併症の症状は非常に広範囲にわたり、かつ個人差が大きいもので
す。親又は患者本人が、事実と研究に基いた書物や印刷物を積極的に読むことで、個々の具体例に則し
た治療や援助もより受けやすくなります。親として、あるいは 見えない障害 を持つ本人として、何
を努力すべきで何を受け入れるべきなのかより明確になり、生活の基準の設定がしやすくなるはずです。
TSA本部が発行している各種小冊子や、Dr. David Comingsの『TOURETTE SYNDROME AND
HUMAN BEHAVIOR』は、医療関係者・親・患者本人それぞれの立場から評判が高く、又『Teaching
the Tiger』
(Hope Press発行)は、ADD/ADHD、TS、OCD児を指導する上での教育手引き書として、各
方面から絶賛を浴びています。自分の子供の学校に一冊寄付するのも案だと思います。『RYAN』と
『What Makes Ryan Tick?』
(ともにSusan Hughes著 : Hope Press発行)は、TSとADHDを持つ子供の母
親が書いた本ですが、著者の経験に共通点を見い出しつつ、何か実践的なヒントも得られるはずです。
3.障害から逃げない・隠さない・言い訳にしない
一見して障害とは見えないので、隠すことは簡単ですが、学ぶことのできる能力を持っている彼らに
158
わが子の障害を学ぶ/トゥレット症候群
とって真に必要なのは、理解と配慮に基いた「適切な教育・職場・生活環境」です。それを得るため
にも、積極的に家族・祖父母・教師・友人をはじめ関係のある人達に、TSや合併症について話してあ
げましょう。回りの白い目を避けるため外出や社交を控えるあまり、人との関わり方を学ぶ大事な時
期を逸することのないように、親が障害をしっかりと受け止めていれば、その態度は自ずと子供にも
伝わるはずだと思います。
4.我慢をしすぎない
各地域のサポートグループなどで、理解し合える仲間に心の痛みや怒り、フラストレーションを聞い
てもらう機会を持つことはとても大切です。精神的な健康を保つためにも。You are not alone.
現在、TSを持つ人達の中には、有名スポーツ選手、医療従事者、弁護士、エンターテイナー、政治家な
ど、成功を納めている人もたくさんいます。子供の、又は自分の 見えない障害 をしっかりと理解し、
受け止めていくことで、明日からの一歩も前向きなものになるに違いありません。
(文:斉藤
紀子)
参考資料:
1.『Questions and Answers about Tourette Syndrome』 パンフレット by Tourette Syndrome
Association, Inc. : 以下略してISA, Inc.
2.『COPING WITH TOURETTE SYNDROME』 小冊子 by ISA, Inc.
3.『DISCIPLINE AND THE TS CHILD』 小冊子 by ISA, Inc.
4.『PROBLEM BEHAVIORS & TOURETTE SYNDROME』 小冊子 by ISA, Inc.
5.『The Need to Know』by Joli E. Smith 印刷物 by ISA, Inc.
6.『TOURETTE SYNDROME AND HUMAN BEHAVIOR』
by David E. Comings, M. D. ; Hope Press発行
7.『Tourette Syndrome』Dr. Comingsの患者配布用印刷物
8.TS・ADHD・OCDについての学校教師向け講習会用印刷物
by Christopher L. Mulligan, M. S. W.
9.『IT'S NOBODY'S FAULT』by Harold S. Koplewicz, M. D.
10.『Teaching the Tiger』by Marilyn P. Dornbush, Ph. D. and Sheryl K. Pruitt, M. Ed. ; Hope Press 発行
*『健康への指標…病む子供たち6「チック」』1994年5月29日付け読売新聞掲載コラム
*『多動と学習の障害』
財団法人安田生命社会事業団発行
*『Bending the Rules』ビデオテープ by Michael McDonald Productions
159
■主な連絡先
*Tourette Syndrome Association, Inc.
42-40 Bell Boulevard, Bayside, New York 11361-2820
Tel: (718)224-2999
Fax: (718)279-9596
*Hope Press
P. O. Box 188, Duarte, CA 91009-0188
Tel: 1-800-321-4039
Fax: (818)358-3520
私が学んだこと
医者のいうことをそのまま
うのみにするな!(M)
160
わが子の障害を学ぶ/脳性まひ
■脳性まひ(Cerebral Palsy)
脳性まひとは?
脳性まひ(Cerebral Palsy)とは身体の動きを自由にコントロールすることができない慢性的な症状
を表わす総称で、一般に悪化することはありません。Cerebralは左脳と右脳を意味し、Palsyは身体
を動かすことに障害がある症状を表わします。よって原因は筋肉や神経の障害そのものによるのでは
なく、脳の中の運動並びに感覚機能をつかさどる領域の損傷のため、あるいはその領域が正常に発達
しないため、身体の動きや姿勢をコントロールする脳の働きが妨げられている状態です。書く・はさ
みを使うなどの感覚機能の問題、身体のバランスを保ったり、歩くことができないといった運動機能
の障害、自分の意思にかかわりなく手が動いたりよだれが出るといった問題など、人によって症状は
様々です。又、年月とともに症状が変わっていく人もいます。脳性まひの人の中には、てんかんや知
的障害など他の障害を合わせ持つ人もいます。重度の場合は一生かなりの介助を必要とするケースも
ありますが、軽度であれば少し歩き方がおかしいというだけで何の介助もいらず普通に生活ができる
場合もあります。脳性まひは感染するものではなく、遺伝性のものでもありません。現在のところ完
治は望めませんが、治療法の向上と予防法を探すべく研究が続けられています。
脳性まひを持つ人の数
UCPA (The United Cerebral Palsy Associations)によれば、全米には脳性まひの人が50万人以上
いて、原因のいくつかは予防できるようになったにもかかわらず、過去30年間に、脳性まひの子供
と大人の数は横ばいあるいは少し増加しているということです。これは新生児集中治療の技術が向上
し、かなりの未熟児や虚弱な新生児が生存できるようになったことも原因の一部となっています。残
念ながらこういった状態で生まれた新生児の半数くらいに何らかの障害が生じる結果となっています。
原因と初期の徴候
脳性まひの原因は様々です。出生後の病気や怪我などのため脳に損傷を受け、脳性まひになるケース
は全体の10〜20%です。主に、脳膜炎やウイルス性の脳炎、あるいは事故、転倒、幼児虐待によ
る頭部の怪我などがその原因です。その他は原因のわからないケースが多いのですが、明らかにされ
ているのは下記の通りです。
*妊娠中の三日ばしかやその他の感染性の病気−−胎児の神経系統に損傷ができる。
161
*新生児黄疽−−すぐに治療しないと脳に損傷ができる。
*逆子や難産−−赤ちゃんの脳に酸素が十分に送られず脳に損傷ができる。
*胎児や新生児の脳内出血−−特に新生児の呼吸器系統が弱い場合におこる。
多くの場合脳性まひの子供は、寝返りを打つ、座る、ハイハイをする、笑う、歩くといった赤ちゃんに
とっての大きな発達段階に到達するのが遅いといわれています。身体全体がダラッとしていて筋肉が働
いていなかったり、反対に手足や身体が突っぱったりと硬く緊張している場合があります。姿勢がおか
しかったり、身体や首が左右のどちらかにいつも傾いていることもあります。どんな状態であれ心配な
ことがあったらすぐ医師に相談して適切な指示を受けることが大切です。
どう対応するか?
脳性まひを完全に治す方法は残念ながらありませんが、様々な治療によってその子供の持つ能力を向
上させることができます。すべての患者に効果のある標準的セラピーはありませんが、理想的には医
師が他の専門家たちと一体となってそれぞれの子供に固有の治療プランを作ります。治療チームのメ
ンバーは下記の専門家たちです。
■医師:小児科医、小児脳神経外科医、眼科医
■整形外科医:骨と筋肉の問題を治療する
■理学療法士:身体の動きを向上し、身体を強化するためのセラピー・プログラムを作り実行する
■作業療法士:日常生活に必要な技術を身につけるための訓練をする
■言語療法士:発音や咀嚼の訓練
■ソーシャル・ワーカー:本人と家族がどんな援助や教育を地域内で提供してもらえるかを探す手助
けをする
■心理学者:本人とその家族がストレスに対処するための手助けとなる。特に思春期はカウンセリン
グの必要性が増す。
■教育者:子供の教育を担当。障害を持つ子供を教育する場合、特に重要な役割を果たす
脳性まひの本人とその家族や介助にあたる人達も治療チームの大切なメンバーです。長期ゴールを達成す
るためには、家族の支えと本人の意思が最も大切な鍵となるという調査結果がでています。
162
わが子の障害を学ぶ/脳性まひ
具 体 的 治 療 法
A)理学療法(Physical therapy)
第一の目標は、使われる頻度が少ないために生じる筋肉の弱体化や退化を防ぐことです。第二の目標は、
拘縮(contracture)を避けることです。拘縮とは筋肉が硬くなり不自然な位置で固定してしまうこと
です。理学療法や特殊な補装具(注1)を使い、硬くなっている筋肉を伸ばすことで、これを予防しま
す。第三の目標は、子供の運動機能を高めることです。この目標のために行われる一般的な理学療法は、
イギリスのボバース夫妻が始めたボバース法です。このプログラムは脳性まひの子供達の多くが原始反
射(the primitive reflexes)(注2)を持ち続けるため、自発的に身体をコントロールすることを覚
えるのが難しいという考えに基いています。よって姿勢や動きを矯正することで運動機能の向上を目指
しています。詳しくは Handling the Young Cerebral Palsied Child という本を参考にしてくだ
さい。図解入りでわかりやすく、役立つことがたくさんあり、セラピストが教えてくれないようなこと
まで書いてあります。学齢期になると理学療法の役割も少しずつ変化してきます。座る力を高めること。
車椅子で、歩行器で、あるいは一人で歩いて教室内を移動できるようになることが重要な目標になって
きます。
(注1)脳性まひの子供達のほどんどが足の補装具を必要とします。着用時間には個人差があります。補装具を付け
ていない時は、足首の状態がかなり弱い時期でも、少しずつ板や草、その他違う材質のものの上に立たせたり、座っ
て足を砂、豆、小さなパスタなどの中に入れさせたりするのがよいでしょう。補装具をつけた状態はギブスをつけた
状態にほぼ等しく、筋肉が発達するチャンスはないのです。足首を守ることと、足の筋肉をつけることの両方の目的
をバランスよく考える必要があります。はだしで立つことは十分にセラピストと相談してから始めてください。
(注2)原始反射とは生後4〜6ヵ月頃までの赤ちゃんが示す反射で、約12種類あります。ひとつ分かりやすい例
として、赤ちゃんが何かに手を伸ばそうとする時、もう一方の手はこぶしを握り、ひじは曲がり、腕は硬くなると
いった反射があります。脳性まひの人達はこの反射をコントロールすることが難しく、歩くと上体が硬くなる、上
体を動かすと足が硬くなるといった傾向が強くあります。私達もビンの蓋がきつい時に必死で開けようとすると身
体全体に力が入ります。このように原始反射は成長とともにすっかり消えてしまうわけではありませんが、通常は
身体が自然にコントロールすることを覚えるのです。
B)作業療法(Occupational therapy)
子供が一人で食事、着替え、トイレの使用などができるようになるための訓練をします。これらを習
得すれば自立することに大いに役立ちます。字を書く、絵を描く、はさみを使う、ひもを通すなど、
手先の技術の向上も目標とします。
163
C)言語療法(Speech therapy)
一人一人の子供によって内容は様々です。例えば
b
の発音を言えない子供には
b
で始まる言葉
を多く練習させたり、言語装置が必要な子供にはその使い方を教えたりします。
D)行動療法(Behavioral therapy)
別の角度から子供の能力を伸ばす手助けとなります。心理学的理論と技術を用いるので、理学療法、
言語療法、作業療法の中で応用することもできます。例えば歩行訓練をしている時に、子供の好きな
ぬいぐるみを2〜3メートル先に置き、歩きたいという気持ちをおこさせます。 b
の発音を練習す
るために風船(balloon)やしゃぼん玉(bubble)を使って楽しい雰囲気づくりをします。又他の子
供の髪を引っぱったり、噛み付いたりするなどの好ましくない行動をする子には、よいことをしてい
る時には意識的にほめてあげることが必要です。
E)ビジョン・セラピー(Vision therapy)
視力矯正のためのセラピーです。脳性まひの子供達の多くは眼球を支える筋肉が正常に働かないため
に視力障害があります。このセラピーの中で最も一般的なのは追視(vision tracking)です。左右と上
下にゆっくり物を動かし目で追います。追視を目的としたコンピューター用のプログラムもあります。
F)早期発達促進プログラム(Stimulation programs)
学習するためには新しい経験をたくさんし、自分の回りの世界と交わることが必要です。脳性まひの
子供達は、身体的な不自由さ故に、自分が好き勝手に動き回りものをつかんで遊ぶというような探索
の段階にたどりつくまでにかなりの時間がかかります。そのために大人が意識的に刺激を与え、また
それを何度も繰り返してあげることで、少しずつ自分の世界を広げていく手助けをします。0才から
3才までを対象としています。
G)薬による治療(Drug therapy)
脳性まひにともなうてんかんの治療に、医師は一人一人の症状に基いて適切な薬を選びます。短期間、
筋肉の緊張及び拘縮を軽減する薬もありますが、その長期的な効果は明らかにされていません。また
めまいがするなどの副作用がある恐れもあり、発達しつつある神経系統に長期的に及ぼす副作用につ
いては解明されていません。てんかんに関する治療の詳細はP**を参照してください。
H)外科手術(Surgery)
筋肉の拘縮がひどく手足の動きが極度に制限される場合、他と比較して著しく短い筋肉や腱を伸ばすた
めの手術が勧められます。この場合誤って問題のない筋肉や腱を伸ばしてしまえば患者の状態が悪化す
164
わが子の障害を学ぶ/聴覚障害
ることもあるので、医師はどこに問題があるかを正確に見つけ出す必要があります。このため、手術前
には患者の筋肉の動きを示す様々データを集め、それらを分析し問題の部分がどこかを決定します。
I)補助機器(Mechanical aids)
様々な機械や器具が、家庭で、学校で、又職場で脳性まひの人達の不自由さを克服する助けとなってい
ます。コンピューターはその最も代表的な例です。話すことも書くこともできないが、頭を動かせる子
供が、ヘッドバンドを取りつけた特殊な器材を使い、コンピューターと音声シンセサイザーを駆使し会
話ができるという例もあります。他に、従来の車椅子、その最新版として電動の車椅子もあります。
作業療法・理学療法に関して
ボバース法以外の理学・作業療法として3つ紹介します。
1)ドーマン・デラカート(Doman-Delacato)法
理学療法は普通の子供の発達段階にそって行われるべきという考えに基いています。つまり年令に関
わりなく、歩く練習はハイハイや立つなどの初歩的な動きを習得してからはじめます。アメリカの小
児科学会(American Academy of Pediatrics)は医学的に証明されていないとしてパターニングを
きびしく批判しています。しかしドーマン法により成功した例は数多く、ドキュメンタリーとして
NHKで放映されたこともあります。又「親こそ最良の医師」という本をぜひ読んでみてください。グ
レン・ドーマンとカール・デラカートが共同で始めたDoman Instituteはフィラデルフィアに在り、
今も世界中から多くの親たちが子供を連れて訪れています。一方デラカートはドーマンから離れ19
72年に Delacato and Delacato Consultants in Learning を創設しました。デラカートのプロ
グラムの中にもパターニングはありますが、大人を3人集めることができない親には大人2人でやる
パターニングを教えてくれます。デラカート法が提示してくれるプログラムはおそらくドーマン法に
比べてかなり融通性のあるものだと思います。
2)コンダクティブ・エジュケーション(Conductive Education)
この概念と主旨は、40年以上前ハンガリーのペトーによって提言されました。彼はイギリスでボバ
ース法を学び、ピアジェの心理学に強い影響を受け、独自の訓練法を生み出しました。セラピストで
はなくコンダクター(オーケストラの指揮者の意)が中心になって訓練を指導します。コンダクター
は作業療法、理学療法、言語療法、心理学と特殊教育をすべて学んだ人です。子供の問題を断片的に
ではなく、統合的に理解し、よい効果を生み出そうという考えに基いています。自分は動けない、能
165
力がないという感覚に打ち勝ち、独立心を育て、できる限りの自立を目指します。
3)ボイタ式(Voita)
ドイツのボイタが生み出した治療法です。日本では大阪に大手前整肢学園という訓練施設があり、4
週間の母子入園をし、筋肉の動きを正常にしていくための治療法を学びます。詳しくは下記へ直接問
い合わせてください。
大手前整肢学園
〒540
大阪市中央区法円坂1丁目6ー74
電話(06)942ー0897
ひとつのセラピーや訓練法にこだわらず、それぞれのよいところを取り入れてみるのがよいと思いま
す。なかには、共通する訓練もあり、親の直感で「これはいい!!」と感じたものは自信を持って実
践してみましょう。セラピストから受けるセラピーだけでは十分ではありません。家庭で意識的にセ
ラピーの時間を持つことが大切です。しかしこれと平行して暮らしの中に習慣づけていくセラピーが
たくさんあります。例えば、おむつを替えるときにマッサージをしたり、関節の曲げ伸ばしをします。
お風呂に入った時にお湯の中で横座りや正座をさせることでバランス感覚を養います。この時は親が
必ず後ろに座り、子供が蛇口にぶつからないように気をつけてください。なるべく抱き上げることを
減らし寝ている位置から座位、座位から立位への移動、又その逆の移動を子供自身の筋肉が正しく使
われることを意識しながら、子供の身体を支え、ゆっくりと動かしてあげましょう。
最
後
に
親としての愛情をそそぎながら、常に子供の進歩を願いながら毎日を過ごすことはとてつもなく大きな
仕事であり、心身ともに頑強にならざるを得ません。その上数多くの医師たち、セラピストたち、リー
ジョナル・センターなどに次々に生じる疑問や質問をたずねたり、いわば子供のコーディネーターとし
ての仕事も多々あります。落ち込んだり、悲しい気持ちになった日は子供と楽しい時間を持つ努力をし、
セラピー風なことは無理にさせないほうがいいでしょう。親も子も元気な日は少し大変そうなことを試
すチャンスです。障害があっても、普通の子供たちが好きなこと、ブランコ、シーソー、すべり台、三
輪車なども楽しませてあげましょう。シートベルトを付けたり、身体を支えてあげれば障害がある子で
も何にでもチャレンジできるはずです。そして世界が広がり又違うことにも興味を示すようになります。
親にはのん気、根気、元気の三つの気がとても大切です。三つの気は言えば簡単ですが持続するのはな
かなか難しいものです。子供に当たり散らすような自分が少しでも見えたら、要注意です。心身が疲れ
166
わが子の障害を学ぶ/脳性まひ
ているのかもしれません。親は自分自身の健康管理を上手にし、気晴しをすることに心がけましょう。
そして自分の気持ちを発散できる親しい人達を大切にしましょう。大変な暮らしの中でも、親子ともに
生きていることの楽しさを味わえる毎日を送れたら、とても素晴しいことだと思います。
(文:章子ポルティーヨ)
下記は脳性まひに関する情報やサービスを提供してくれる機関です。
NIH Neurological Institute
P. O. BOX 5801, Bethesda, MD 20824
(301)496-5751 / (800)352-9424
脳と神経系統の病気に関する研究をしています。脳性まひに関する診断、治療、研究についての質問
に応じます。
March of Dimes Birth Defects Foundation
1275 Mamaroneck Avenue, White Plains, NY 10605
(914)428-7100
研究医療サービス、教育及び遺伝に関するカウンセリングへの資金援助をします。
National Easter Seal Society
230 W. Monroe, 18th Floor, Chicago, IL 60606
(312)726-6200 / (312)726-4258
全国各地にプログラムがあり、リハビリテーション、放課後の教育プログラム、補助機器、セラピー、
キャンプなど、様々な活動をしています。パンフレット及び二カ月に一度の機関誌を発行しています。
United Cerebral Palsy Associations
The United Cerebral Palsy Research and Educational Foundation
1522 K Street, NW, Suite 1112, Washington, DC 20005
(202) 842-1266
1-800-USA-5UCP (DC以外からの電話)
脳性まひの人達とその家族へのサポート。情報、教育などを提供し、ニュースレターやパンフレット
の発行もしています。
167
参考資料:
Cerebral Palsy, Hope through Research
NIH Neurological Institute発行
私が学んだこと
アセスメントでセラピーが必要と認められ
てから一ヵ月が過ぎても連絡がなければ、
こちらから担当者に電話連絡しましょう。
(P)
168
わが子の障害を学ぶ/未熟児
■未熟児
未 熟 児 と は ?
妊娠期間は通常40週(日本では十月十日といい、アメリカでは九ヵ月といいますが、週ではどちら
も40週として計算されています)を基本とし、37週目から42週目までの出産を満期産(または
正期産)といい、37週より前に生まれるのを早産といいます。この37週以前に生まれ、体重が5.
5ポンド(2500g)以下の赤ちゃんが一般的に未熟児と呼ばれます。一口に未熟児といっても、2
5週しかお母さんのおなかにいなかった未熟児と36週目に生まれた未熟児とでは、その成熟度も体
重も大きく違います。現在の新生児集中治療の発達で、早産で生まれた赤ちゃんでも体重が2000g
以上ある場合、適切な処置を施すことでほとんど問題なく育つ場合が多い様です。問題なのは150
0g以下の超未熟児で、全体の発育がまだ未熟なため、保育器のなかで適切な治療を施しても、中には
生命を落としたり、仮に生き延びても何らかの障害が残ったりする赤ちゃんもいます。
なぜ早産が起こるのか?
早産のなかではっきり理由が分からないケースも多いのが現実です。ただし早産のリスクがあるいく
つかの原因には下記の状態が含まれます。
母親側の原因
胎児側の原因
*過去に早産の経験がある
*双子や三子などの多胎児
*妊娠中期の流産またはそうはの経験
*前置胎盤
*子宮の異常
*胎盤離剥
*弱い頚管(開きやすい)
*妊娠中毒症
*他の疾患(糖尿、高血圧、腎臓病、感染症、尿路感染症など)
*喫煙者、いい加減な食生活、ドラッグ常用者、妊婦の年令が18才以下か40才以上などもリスク
が上昇する原因として指摘されています。
未 熟 児 の 出 生
どうしても早産を未然に防げず赤ちゃんが生まれてしまった場合、その赤ちゃんは:
体重は1. 5ポンド(680g)から5. 5ポンド(2500g)の間で、在胎週期間の短かった赤ちゃんは
169
うぶ毛が身体一面をおおっていて(1〜2ヵ月でうぶ毛は消えます)
、皮膚がまだとても薄いので全体の
色が赤紫色に見えます。耳などの柔らかい骨はまだ十分形成されていない場合もあり、耳がいびつに押
し潰されていたりしますが、後に普通に成長します。超未熟児の場合など外の世界で生き延びるのに必
要な身体がまだ十分できていない場合があり、特に肺の機能が十分ではない場合命取りになるので、酸
素呼吸器につながれ人工的に酸素を供給して肺の成長を助けます。自分で呼吸できる未熟児でも多くの
場合呼吸が不規則で呼吸間に長い停止があったり(無呼吸=apnea)
、脈拍の遅れ(徐脈=bradycardia)
があるので、それらをモニターする器械が接続され、保育器や保温ベッドに横たわる赤ちゃんは注射針
が刺され、管やモニターにつながれ、器械に取り囲まれとても痛々しげに見えます。未熟児には体温の
保温に必要な脂肪が十分ついていないのでまず保温のための保育器や熱ランプが使われたり、黄疽があ
る場合は後遺症につながることもあるので目隠しをして光線の下に寝かされたりします。栄養は消化器
系の発達が十分ではない場合、点滴が使われたり、口からの摂取は負担が大き過ぎる場合鼻から胃に通
されたチューブでミルクが注入されます。これら様々な医療処置が行われる場所は、新生児集中治療室
(Neonatal Intensive Care Unit=NICU)と呼ばれる病院内のセクションで、新生児専門医
(Neonatologists)、専門の看護婦、他の専門家(レスパトリー.セラピスト=呼吸専門セラピストや、
授乳や新生児マッサージの指導を行うOT=作業療法士など)
、ソーシャル・ワーカーなどが様々の必要
器材と保育器に囲まれて新生児とその家族のケアーに当たります。出産した病院にNICUが完備されて
いない場合は、出産後すぐ近くのNICUを持つ病院に緊急医療車で転送されます。
未熟児室での親の役割
さて医療行為は専門家たちにまかせるとして、この時期の親の役割は何でしょうか?注射針を刺され
泣き叫ぶ小さなわが子に胸が張り裂ける思いで、自分の無力さや後悔で親はとても辛い思いをします
が、実は親にしかできない後々大きな効果が表われる重要な役割があるのです。ゴム手袋や針やチュ
ーブの感触、器械の発する無機的な連続音、消毒液の匂い、看護婦や医者の事務的会話、どれも赤ち
ゃんに心地よいものはなく、精神的に辛く不安定な中に赤ちゃんはいます。唯一の救いは、時折訪れ
る親の優しさあふれる言葉かけやスキンシップです。この国の新生児集中治療室は率先して親の関わ
りを歓迎しますし、面会時間も自由なので、会いたい時はいつでも何時間でも保育器の中のわが子を
撫でながら、抱ける状況なら抱きかかえながら、話しかけたり、子守歌を歌ったりしてあげることで
す。病院によってはお母さんが裸の上に病院のエプロンを付け直接赤ちゃんを肌につけて抱く
ガルーケアー
カン
を取り入れている所もあり、積極的に参加すべきでしょう。赤ちゃんが何も分からな
いと思ったら大間違い、普通なら胎教の大切さが強調される脳の発達には重要な時期に赤ちゃんはい
ます。精神面のケアーは医者や看護婦では絶対無理だし、期待すべきではなく、親の肌触り、声、匂
170
わが子の障害を学ぶ/未熟児
いが赤ちゃんの精神安定剤になるよう、精神ケアーは親の責任と自覚して、この時期を赤ちゃんと共
に乗り切ってください。
後
遺
症
さて未熟児に特有のいくつかの後遺症が、これだけ医学が進んで医療が充実していても避けられない
場合があります。医療が進んだからこそ一昔前なら助からなかった超未熟児が助かるようになり、そ
れらの赤ちゃんに何らかの問題が出るケースが多いのも事実です。一般に在胎期間が短かった150
0g以下の赤ちゃんのほうが問題を残す可能性が高いとの結果が出ています。代表的問題には下記のも
のが含まれます。
■BPD (Bronchipulmonary Dysplasia) :
未熟児特有の肺と気管の異常です。多くの場合肺は急
激に成長し、酸素供給量を徐々に減らしていき自呼吸に到達しますが、超未熟な赤ちゃんで、肺が十
分に成長しきれず一生を通して肺機能に問題を残すこともあります。風邪などですぐに気管支炎にな
ったり、肺炎になりやすかったり、喘息のような症状を引きづるケースも報告されています。
■未熟児網膜症(Retinopathy of Prematurity):
発達した未熟児医療のなかでいまだに発生を
防ぐことができないのが、未熟児特有の網膜剥離を起こしてしまう目の病気です。冷凍外科療法
(Cryosurgery)やレーザー療法の発達で、網膜の毛細血管が増殖しはじめた時点で網膜を固定させ
る手術が行われ、多くの赤ちゃんが失明を免れてきてはいますが、手術をしても失明や極端に視力が
落ちるケースも残念ながらあります。
■頭蓋内出血(Intraventricular Hemorrhage=IVH):
一番恐れられている問題で、弱い血管
のためちょっとしたストレスやショックで出血しやすく、1500g以下で生まれた未熟児の40〜4
5%に出血があります。頭蓋内出血は自然に止まるケースが多いのですが、一度傷ついた脳は神経系
問題として後に現われることもあり、脳性まひや言語障害、学習障害、行動障害、知的障害などの後
遺症を残す場合もあります。
■けいれん発作(Seizures):
神経の異常な活動で一瞬の間意識を失う発作は未熟児によくみられ
ますが、薬で簡単に抑えられるケースがほどんどです。時間と共に発作は減っていき、同時に薬の量
も減らしほとんどの場合後遺症としては残りません。
こういう問題は入院中に医者から詳しい報告や説明があり、後遺症に関しても最悪のケースの可能性
が説明されたりしますが、赤ちゃんの成長度は未知数なので、必ずしも医者の説明が絶対的なもので
はなく、医療の専門家も驚くほど良好な成長を遂げる赤ちゃんが多いことも事実です。
171
退 院 後 の 育 児
さてどうにか一命を取り止めて、ミルクも少しずつではあるが自力で飲み始め、一時減った体重も増
え始めた赤ちゃん。体重も1800g〜2500gになり晴れて退院する日も近づき、喜びと不安で両
親の胸は一杯です。退院に際してはモニター付きで帰宅ということになる場合がほとんどで、そのモ
ニターの取り扱い方や、ミルクの調合の仕方、薬の与え方、CPR(人口呼吸)のやり方など必要に応
じて親への訓練があります。今まで医療のプロたちに24時間見守られてきた子を、急にわが子では
あれ自分たちだけで世話することへの不安はこの時期にズッシリと親の心にのしかかってきます。し
かし多くの赤ちゃんが病院にいたときより家でのほうがずっと良好な成長を遂げるとのことです。病
院によっては看護婦が定期的に家庭を訪問して、退院後しばらくは様子を見る場合もあり、色々と医
療的問題がある場合は、定期的に病院内のクリニックで外来患者として、同じ新生児専門医による診
断が続けられることもあります。しかし退院後は小児科医を決めて、予防接種を受けたり、身体検査
をしたりと普通の赤ちゃんとしてのケアーも始まります。とても大きな壁を人生最初にして乗り越え
た赤ちゃん、ちょっと小さめでも、ちょっと遅れていても、多くの未熟児が何時の日か年相応に追い
付いていきます。最初の2年間くらいは生まれた月日からの年令(chronological age)ではなく予
定日からの年令(adjusted age)で発達を観察し、とにかくあせらず育児に取り組むことが大切です。
しかし超未熟児で低体重児の場合、後遺症の心配がなくなった訳ではありません。もしも発達に大き
な遅れがあったり、気になる症状があれば小児科医に相談し対策を考えるべきであるのは言うまでも
ありません。人生最初にして病院という過酷な状況のなかで毎日を過ごした赤ちゃんは、医療面では
仮に問題がなくなったかに見えても、精神的にはとても不安定な状態にいます。音に対して異常に神
経質だったり、人が近付いてきただけで泣き出したり、ミルクを飲まなかったり、触れられるのをい
やがったりと赤ちゃんによってその不安定さの現われ方は様々です。親にできることは、お座りやハ
イハイやおしゃべりの発達の早い・遅いに一喜一憂することなく、赤ちゃんがゆったり休めて、両親
の愛情を十分感じて、少しづつ精神的安定を暖かい家庭の中で取り戻し、ひいてはその精神的安定・
幸福感が赤ちゃんの発達を大きく促していくことを認識し、そういう環境を与えてあげることに努力
すべきです。どうしても母乳で育てられなかったケースも未熟児には多いけれど、起こってしまった
事やできなかった事に長く囚われることなく、その辛かった経験をプラスに変えるために、愛情豊か
な伸び伸び育児を実践されることです。日本と違いこの国は個人主義の国なので、発育やトイレの訓
練や学校など、子供の年令に囚われる必要がなく、1年遅らせて学校に上げることなども抵抗なくで
きる環境なので、小さめで発育の遅れ気味な未熟児でも育てやすい社会なのが幸いです。
(文:洋子ガスコン)
172
わが子の障害を学ぶ/未熟児
参考資料:
ABOUT PREMATURE BIRTH
Frank D. Lanterman Regional Center, Family Support Services
LOW BIRTHWEIGHT
March of Dimes, Public Health Education Information
Caring For Your Baby, In The NICU And At Home
Mead Johnson Nutritionals
新育児百科
主婦と生活社/1988年発行
私が学んだこと
最近では早期療育が盛んで、様々な**療法、**法という
言葉を耳にします。もちろん療育・訓練はとても大切な事
なのですが、ついついあれもこれもと子供を引っ張り回し
がちになります。時々は親と子のゆったりとしたひとときも
必要だなと実感しています。
そして兄弟姉妹の事も忘れないように
心がけています。(N)
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私が学んだこと
私が学んだこと
医者を捜す際、日本語ができる
病院(入院した時)は医療
ことだけを判断の基準にしない
サービスを提供するホテル
こと。特に障害がある場合は巡り
である。客である患者は
合った医者でその後の展望が
どんどんスタッフを
大きく変わります。(S)
こき使うべし!
(M)
私が学んだこと
私が学んだこと
日本語保育の幼稚園は障害児受け入れ
に消極的、それに比べこちらの保育・
幼稚園では障害を理由に断わられる
ことはない。もちろん園長の人格や
先生によっては後に問題が生じてくる
こともあるが、最初から門を
閉ざされることはない。
(M)
174
何をするにも時間がかかりすぎる
のでイライラさせられることが
多いが、どんどん催促して
こちらはそんなに待てない
ことを伝える。
(H)