平成28年 診療報酬改定: 「第13部病理診断」速報版 東京大学医学部附属病院 地域連携推進・遠隔病理診断センター 佐々木 毅 1.平成 28 年診療報酬改定概要 の減額改定で、8 年ぶりのネットマイナス改定である。これ 平成 28 年診療報酬改定に関して全体の概要から触れ まで薬価改定財源は、1972 年の中医協の「建議」以来、 る。まずは表1に掲載した過去の診療報酬改定との比較 診療報酬本体へ振り替えられてきた経緯がある。過去の を参照されたい。今回の改定は、診療報酬本体で 0.49%、 厚生労働大臣や歴代内閣総理大臣も薬価改定財源を診療 498 億円の増額改定となっている。過去 2 回の改定では、 報酬本体である技術料に振り替えるべきと述べており、例 平成 24 年が 5,500 億円、平成 26 年が 2,600 億円である えば平成 24 年改定では、診療報酬本体+1.379%、薬価 から、かなり厳しい改定であったことが数字上からも理解 等マイナス 1.375%、平成 26 年改定では、診療報酬本体 できよう。薬価等も含めた全体額としては、表 2 に示すよう + 0.1%、消費税対応+1.36%、薬価等マイナス 1.36% で、 に、診療報酬本体で+ 0.49%、薬価および診療材料でマ 実際に技術料等に振り替えられてきた経緯があった。今回 イナス 1.33% であり、医療費全体としては、マイナス 0.84% の改定はこの大原則が大きく後退した改定となった。 表 1 過去の診療報酬改定との比較 平成 24 年 平成 26 年 平成 28 年 学会要望件数 793 805 886 医療技術評価分科会 1 次審査通過提案 564 525 737 最終通過案 278 135 223 最終通過率 35.1% 16.8% 25.2% 改定率 1.38% 0.63% 0.49% 金額 5,500 億円 2,600 億円 498 億円 表 2 平成 28 年 診療報酬改定全体増減額 平成 28 年 診療報酬改定総括 平成 28 年度診療報酬改定等による医療費の伸びの抑制を通じ、国⺠負担(保険料負担、患者負担、税負担)を軽減 ① 診療報酬本体 + 0.49%(498 億円) 各科改定率 医科 + 0.56% 調剤 + 0.17% ③ 診療報酬・薬価等に関する制度改革事項(▼ 609 億円) 歯科 + 0.61% ② 薬価等 ⅰ)薬価 ▼ 1.22%(▼ 1,247 億円) (▼ = マイナス) ※上記のほか、 ・市場拡大再算定による薬価の見直し (▼ 200 億円) ・年間販売額が極めて大きい品目に対する市場拡 大再算定の特例の実施等により ▼ 502 億円(③ に後述) ⅱ)材料価格 ▼ 0.11%(▼ 115 億円) 1 ⅰ)医薬品価格の適正化(▼ 502 億円) ・新規収載された後発医薬品の価格引下げ ・後発医薬品の数量シェア目標の引上げを踏まえた⻑ 期収載品の特例的引下げの基準の見直し ・市場拡大再算定による薬価の⾒直し、年間販売額が極 めて大きい品目に対する市場拡大再算定の特例の実施 ⅱ)大型門前薬局等に対する評価の適正化(▼ 38 億円) ・特定の医療機関からの処方箋割合が⾼い等のいわゆ る大型門前薬局に対する調剤報酬を適正化 ・「経済・財政再生計画 改革工程表」に沿って抜本的・ 構造的な⾒直しを行うとともに、当該⾒直し内容の 「見える化」や効果検証を実施 ⅲ)経腸栄養用製品に係る給付の適正化(▼ 42 億円) ⅳ)その他(湿布薬の1処方当たりの枚数制限等) (▼ 27 億円) 2.日本病理学会からの要望と実現項目 するための条件として、 「委託側の保険医療機関内に常勤 (1) 保険医療機関間の連携による病理診断の施設基準の緩和 の検査技師が勤務し、委託側施設内で病理標本を作製す 今回の診療報酬改定の病理学会からの医療技術再評 ること」が必要であったため、病理部門がない病院あるい 価提案の順位と簡単な内容に関して表 3 に示す。この中 は診療所が「衛生検査所に作製を依頼した病理標本」は で、今回の改定で要望が通ったのが第 1 位と第 2 位の一 連携病理診断の仕組みを活用することができなかった。す 部ということになる。前々回、平成 24 年診療報酬改定で なわち病理診断報告をする場がなかったのである。それ 「保険医療機関間の連携による病理診断(連携病理診断) 」 が、今回の改定により可能になった。すなわち、我々が行 が新規収載され、病理医不在医療機関から病理医勤務 動指針にも示しているように「全ての病理診断を医療機関 医療機関に標本の送付により病理診断を委託できる仕組 で」行うことが事実上、ようやく実現できるようになったの みが整えられた。しかしながら、この連携病理診断を活用 である。その改定文を表 4 に示す(下線部が変更部分) 。 表 3 平成 28 年診療報酬改定 日本病理学会要望 順位 項目 既収載 1 位 保険医療機関間の連携による病 理診断の施設基準の見直し 登録衛生検査所等に作製を委託した病理標本でも保険医療機関間による病理診断を委託できるよう に施設要件を撤廃する。 内容 既収載 2 位 病理診断料算定方法の見直し 月 1 回算定であったものを、毎回算定とする。 既収載 3 位 病理診断管理加算の見直し (病理診断管理加算3の創設) 現在の病理診断管理加算 1、2 に病理診断管理加算 3 を創設する。病理診断管理加算 3 は小規模 保険医療機関と病理診断科保険医療機関の間で連携して病理診断を行う場合に、病理診断技術料を 評価し、その施設基準を明確にするものである。 既収載 4 位 診療情報提供料Ⅰにおける 「病理診断のための診療情報提 供料」の追加 病理診断を行うには、臨床診断の根拠となった診療情報が必須である。さらに内視鏡等生検材料で は内視鏡写真等や所見、手術材料では臨床検査データや画像診断情報等も必要となる。これらの臨 床情報の記載様式を明確にするとともに、診療情報提供料Ⅰに「病理診断のための診療情報提供」を 追加要望する。 既収載 5 位 病理専門医の技術評価として組 織診断料の見直し 既収載 6 位 「病理診断管理加算」の医師要 件および通知の変更 既収載 7 位 病理診断料 全割病理組織標 本診断時の組織診断料加算 定められた疾患について全割標本作製を実施した場合に限り、病理診断料加算(1,000 点)する。 既収載 8 位 術中迅速病理組織標本作製の 増額 術中迅速において複数検体が提出された時は、診断の実情に見合った算定要件・点数(1,990 点から 2,700 点)に増額する。 未収載 1 位 テレパソロジーによる術中迅速 病理組織診断 病理医不在病院において、テレパソロジーによる術中迅速病理診断は既に記載はあるものの、受信 側医療機関には診療報酬が担保されていない。受信側医療機関の診療報酬 1,100 点を要望。 組織診断料を生検と手術に大別し、生検は現行の組織診断料 400 点、手術検体は 1,000 点とする。 病理診断管理加算の施設基準にあった「専ら病理診断を担当した経験を 7 年以上を有するもの」とさ れていたものを、 「病理専門医の資格を有するもの」に見直す。 表 4 第 84 の 3 保険医療機関間の連携による病理診断 1 保険医療機関間の連携による病理診断に関する施設基準 (1)標本の送付側(検体採取が行われる保険医療機関)においては、病理診断業務について5年以上の経験を有し、病 理標本作製を行うことが可能な常勤の検査技師(臨床検査技師又は衛生検査技師)が1名以上配置されていること が望ましい。 (2)標本の受取側(病理診断が行われる保険医療機関)においては、次に掲げる基準を全て満たしていること。 ア 病理診断管理加算又は口腔病理診断管理加算の届出を行っている施設であること。 イ 特定機能病院、臨床研修指定病院、へき地医療拠点病院、へき地中核病院又は、へき地医療支援病院又は病理診 断科を標榜する医療機関であること。 ウ イに掲げる医療機関のうち、特定機能病院、臨床研修指定病院、へき地医療拠点病院、へき地中核病院、へき地 医療支援病院以外の医療機関であって、病理診断科を標榜する医療機関における病理診断に当たっては、同一の 病理組織標本について、病理診断を専ら担当する複数の常勤の医師又は常勤の歯科医師が鏡検し、診断を行う体 制が整備されていること。なお、診断に当たる医師又は歯科医師のうち少なくとも1名以上は、病理診断の経験 を7年以上有していること。 エ 受取側の保険医療機関に送付される病理標本について、別添2の様式 79 の2に定める計算式により算出した数 値が 100 分の 80 以下であること。 2 届出に関する事項 保険医療機関間の連携による病理診断の施設基準に係る届出は、別添2の様式 79 の2を用いること。 2 平成28年 診療報酬改定:「第13部病理診断」速報版 我々病理医はこの制度に移行すべきであるし、どのように 等が得られない中で、50 点(500 円)の増額となったもので 移行させていくかを学会全体として考え、取り組んでいか ある。 「毎回算定」は「病理医の技術」として、次回の診療 なくてはならない。確かにこれらを完全に移行させるには、 報酬改定でも引き続き上位要望項目の一つに挙げられよう。 保険局のマターでは例えば「手術検体の病理診断料の評 価の低さ(米国の 10 分の 1 以下) 」 「月 1 回のみの診断料 の算定」 、医政局のマターでは「保険医療機関として開業す (3) 病理学会からの疑義紹介「管理加算 2」の「複数 の医師の署名」 るための療担規則」など、まだまだ課題は山積しているが、 従来、 「病理診断管理加算 2」の請求には、2 名以上の 平成 30 年の診療報酬改定を見据えて、意見交換を行い、 常勤病理医の署名が要求されていた。しかしながら、医科 着実に移行するための問題点等を議論していく必要があろ 点数表の表記が若干曖昧であり、地方の厚生局によって う。 「病理診断科診療所」として「病理開業」している仲 解釈に温度差が生じていた。このため今回、病理学会か 間がすでにいること、そして将来病理医を目指す若手医師 ら疑義照会を行ったところ、表 5 のような疑義解釈が「事 のためにも、また国民に対して責任ある病理診断を届け 務連絡」に書き込まれた。常勤医 2 名(以上)のダブル るためにも、今後体制整備に関する議論は待ったなしと チェックによる「体制」は必要であるが、通常は 1 名の 7 年 考える。 以上病理診断経験のある常勤の医師の署名があれば、病 理診断管理加算 2 を請求できるという解釈に統一された。 (2) 病理診断料「組織診断料」の増額 点数の増点としては、組織診断料が従来の 400 点から 450 点に増額された。医療技術評価分科会の1次審査では、 (4)セルブロック法 860 点 <細胞診>の項目に、セルブロック法による標本作製が 「病理診断」の「毎回算定」が通過項目に上がっており、中 860 点で保険収載された表 6。この診療報酬改定要望は 医協でも一定の評価が得られていたが、十分な財源の確保 日本臨床細胞学会からのものであり、病理学会は関連学 表 5 病理診断管理加算 2 の「疑義解釈」 【病理診断】 (問 183) 保険医療機関間の連携による病理診断及び病理診断管理加算 2 において、同一の病理組織標本について、病理 診断を専ら担当する複数の常勤の医師が鏡検し、診断を行う体制が整備されていることとあるが、全ての病理 組織診断に関して、複数の常勤の医師の鏡検が行われ、2 名以上の署名が必要あるのか。 (答) 病理診断を専ら担当する複数の常勤の医師が鏡検し、診断を行う体制を求めるものであり、全ての病理組織標 本に関して、複数の常勤の医師の鏡検が行われ、2 名以上の署名を必要とするものではないが、臨床上の鑑別 が困難な症例や頻度が低い症例等、複数医師による鏡検が必要と考えられる場合にあっては、複数の常勤の医 師が鏡検し、それらの医師が署名をする必要がある。 表 6 細胞診 セルブロック法 N004 細胞診(1部位につき) 1 婦人科材料等によるもの 2 穿刺吸引細胞診、体腔洗浄等によるもの 3 セルブロック法によるもの 150 点 190 点 860 点 <通知(セルブロック法のみ抜粋)> (4) 「3」の「セルブロック法によるもの」は、悪性中皮腫を疑う患者に対して、穿刺吸引等により採取した検体を用い てセルブロック法により標本作製した場合に算定する。 (5) 「2」の「穿刺吸引細胞診、 体腔洗浄等によるもの」と「3」の「セルブロック法によるもの」を併せて行った場合は、 主たるもののみ算定する。 3 会として要望書に名前を連ねた。今回の改定では、 「悪性 3.まとめ 中皮腫」の診断に限って保険収載されており、鑑別疾患に 平成 28 年診療報酬改定は、 「第 13 部病理診断」にとっ 「悪性中皮腫」が必要と考えられる。またあくまで細胞診の て、非常に大きな改定年となった。学会としてどのように対 カテゴリーであるために、N000 病理組織標本作製 860 点 応していくか、病理学会の真価が問われる改定であったと に対応する組織診断料 450 点の請求ではなく、N004 細 いえよう。 胞診セルブロック法 860 点に対応する細胞診断料 200 点 なお、今回の改定に当たり、まさに東奔西走した病理学 の請求になるようである。なお免疫染色の算定に関しては、 会社会保険委員会委員長 黒田一氏、社会保険委員会の 環境省のガイドライン等の整合性の点で、今後、疑義紹介 メンバーおよび自ら厚労省のヒアリングおよび内保連合宿に が必要になってくる可能性があると考える。 参加して必要性を訴えた深山正久理事長の活動に心より感 謝の意を表したい。 (5)その他 今回の診療報酬改定で、特掲診療料の施設基準等の 「病理診断管理加算」の項目に若干の変更があったので、 それを表 7 に示す。 表 7 その他の変更点(取り消し線部、下線部) 第 84 の6 病理診断管理加算 1 病理診断管理加算1に関する施設基準 (1) 病理診断科を標榜している保険医療機関であること。 (2)病理診断を専ら担当する常勤の医師(専ら病理診断を担当した経験を7年以上有するものに限る)が1名以上 配置されていること。なお、病理診断を専ら担当する医師とは、勤務時間の大部分において病理標本の作製又 は病理診断に携わっている者をいう。い、他の診療等を行っている場合はこれに該当しない。 (3)病理標本作製及び病理診断の精度管理を行うにつき十分な体制が整備されていること。 (4)年間の剖検数・生検数が十分にあること、剖検室等の設備や必要な機器等を備えていること等を満たしているこ とが望ましい。 2 病理診断管理加算2に関する施設基準 (1) 病理診断科を標榜している保険医療機関であること。 (2)病理診断を専ら担当する常勤の医師(専ら病理診断を担当した経験を7年以上有するものに限る)が1名以上 及び病理診断を専ら担当する常勤の医師(専ら病理診断を担当した経験を 10 年以上有するものに限る。)が1 名以上配置されていること。なお、病理診断を専ら担当する医師とは、勤務時間の大部分において病理標本の 作製又は病理診断に携わっている者をいう。 (3)病理標本作製及び病理診断の精度管理を行うにつき十分な体制が整備されている病院であること。 (4)年間の剖検数・生検数が十分にあること、剖検室等の設備や必要な機器等を備えていること等を満たしていること。 (5)臨 床 医 及 び 病 理 医 が 参 加 し、 個 別 の 剖 検 例 に つ い て 病 理 学 的 見 地 か ら 検 討 を 行 う た め の 会 合(CPC: Clinicopathological Conference)を少なくとも年2回以上行っていること。 (6)同一の病理組織標本について、病理診断を専ら担当する複数の常勤の医師が鏡検し、診断を行う体制が整備さ れていること。なお、診断にあたる医師のうち少なくとも1名以上は専ら病理診断を担当した経験を7年以上有 すること。 3 届出に関する事項 病理診断管理加算の施設基準に係る届出は、別添2の様式 80 の2を用いること。 4
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