交通事故患者の事故による心的反応と精神的ケアに関する研究

青 森 保 健 大 雑 誌6(1),33-44,2004
〔
原 著論文 〕
交通事 故患者 の事故 による心 的反応 と精神 的ケ アに関す る研 究
佐藤
Psychological
寧 子1)坂
Responses
Yasuko
and
Sato
江 千 寿 子2)田
Nursing
1)
Chizuko
①
to clarify
Care
崎
Sakae
博 一2)
in Traffic
2'
Hiroichi
Accident
Tasaki
Patients.
2)
Abstract
The
purposes
recovery
of this
of the patient
study
were
injured
by a traffic
IES — R (revised edition Impact
structured
interview
were
the process
accident,
and
of the psychological
② to
explore
of Event Scale) that evaluated
carried
out three
accidents. All patients had fractures.
and
responses
psychological
nursing
the
care. The
the PTSD symptom and a semi —
times with ten patients
hospitalized
The data was analyzed qualitatively. The patients'
due to traffic
experiences,
situation and changes in individual patients were clarified. The way of thinking about the accident, the
trauma reaction and the process of subjective recovery were categorized. Patients' feelings towards the
accident
were [feelings of dread] [feelings of regret]
[patients felt lucky it wasn'
t worse] [patients
accepted the accident]. There were 7 trauma reactions. There was a wide range of IES — R scores, and
the transition
was not constant. In the process of their subjective physical recovery,
physical recovery
seemed
to influence their trauma
there
reaction
were 3
categories.
Their subjective
and their
feelings /
attitudes towards the accident. The results of this study suggest that approaching patients'
subjective recovery based on their daily life is important.
(J.Aomori Univ.Health Welf. 6 (1): 35 —46 , 2004)
Key words:
Traffic
accident,
PTSD,
Psychological
care
Ⅰ
.研 究 の 背 景
有 効 性 が報 告 され てい る が、脆 弱性 や 影響 す る ものが
1995年 の 阪 神 淡 路 大 震 災 、 地 下 鉄 サ リ ン事 件 を契 機 に
多 々存 在 し、 多 くの 精 神 障 害 と同様 に、 全 て の患 者 に対
PTSD(心
的 外 傷 後 ス トレス 障 害)と
い う言 葉 が 注 目
して 有 効 な 治 療 法 が 確 立 して い る わ け で は な い3)。 原 因
さ れ る よ うに な っ た 。 強 い衝 撃 を与 え る体 験 が 記 憶 に 残
が あ る た め に多 くの 訴 訟 に も な っ て い る が 、 障 害 の 認 定
り、 精 神 的 な影 響 を与 え続 け る時 、 精 神 的 変 調 を トラ ウ
と損 害 賠 償 に は 多 くの 問 題 点 が 指 摘 さ れ て い る4)。
マ 反 応 と よ び 、長 期 に わ た る苦 痛 が あ る場 合 はPTSD
心 的 外 傷 体 験 に よ っ て は 、 だ れ し も心 身 の ス トレス 反 応
と診 断 され る1)。PTSDの
診 断 基 準(DSM-IV)は
、
(PTSD症
状 を は じめ とす る 外 傷 体 験 に よ る 心 的 反
再 体 験 、持 続 的 回 避 と反 応 性 の 麻 痺 、覚 醒 充 進 で あ る2)。
応)を
PTSDと
は 、外 傷 的 な 出 来 事 に 暴 露 され た こ とに よ る
で 発 展 す る こ との な い よ う 、 予 防 的 な ケ アが 必 要 と され
呈 す る が 、 そ れ がPTSDな
どの 病 的 な もの に ま
精 神 的 な 様 々 な 影 響 が 、 自然 に軽 快 せ ず 、 固 定 化 して 長
て い る5)。近 年 は 災 害 や 事 故 、事 件 の 被 害 者 に対 して 、
引 き、 日常 生 活 に ま で支 障 を きた す ほ どの 苦 悩 を 伴 っ た
早 期 の 精 神 的 ケ アが 必 要 で あ る と い う認 識 が 一 般 的 に な
もの で 、 精 神 科 的 介 入 が 必 要 な 障 害 で あ る 。 原 因 を は っ
り、 医 療 や 地域 、 学 校 な ど、 多 職 種 に よ る支 援 と連 携 が
き り特 定 した は じめ て の 精 神 障 害 で あ り、 様 々 な 治 療 法
実 際 に行 わ れ て きて い る6)。
が 研 究 さ れ て い る。 最 近 で は薬 物 療 法 や 認 知 行 動 療 法 の
1)日
本看護 協会認 定部
Japanese Nursing Association
2)青 森県 立保健大学 健康科 学部看護 学科
Aomori
University
of Health
and Welfare
−33−
日本 で は 毎 年 交 通 事 故 に よ っ て 、 約100万 人 が 負 傷 し、
約1万
人 が 死 亡 して い る(平 成14年 、死 者8326人 、 負 傷
者116万7855人)。PTSDの
1)交
原 因 とい う視 点 か ら交 通事
2)調
呈 し どの よ う に ケ ア され て い る の で あ ろ うか 。 交 通 事 故
を体 験 した 者 のPTSD研
究 につ い て は 、 疫 学 的研 究 や
発 病 率 か ら予 後 経 過 な ど、 欧 米 に お い て 多 くの 研 究 が あ
る7)。 そ れ ら に よ っ て 、PTSD発
症 の予測 因子が 実証
の 公 立B総 合 病 院 と
院 に 入 院 中 の 言 語 的 コ ミュ ニ ケ ー シ ョンが
可 能 な患 者 。
故 は 最 も身 近 な外 傷 体 験 で あ る とい え よ う。 交 通 事 故 の
被 害 に あ っ て 入 院 した 患 者 は 、 どの よ う な 精 神 的 反 応 を
通 事 故 の 被 害 に あ い 、A県
民 間C病
査 研 究 の 内 容 に つ い て研 究 者 よ り説 明 を行 い 、
対 象 と な る こ とに つ い て 同 意 の 得 られ た患 者 。
3)主
治 医 、 師 長 よ り了 解 を得 ら れ た 患 者 。
2.デ
ー タ収 集 方 法
1)イ
は さ れ な い ま で も、 事 故 前 因 子 、事 故 因 子 、 事 故 後 因子
ン タビュー方法
各 対 象 者 に事 故 後3回
の 半 構 造 化 面 接 と、PTS
な ど に わ け られ 、 明 らか に さ れ て きて い る8)。 交 通 事 故
D症 状 の ス ク リー ニ ング と して 広 く使 用 され て い る
に よ る 心 的 反 応 につ い て の 日本 にお け る 研 究 は 、PTS
IES-R(改
Dの 発 症 の有 無 や 影 響 要 因 を 自記 式 質 問 紙 に よ って 分 析
イ ン タ ビ ュ ー 時 期 は 、A.1週
した研 究 が は じめ ら れ た ばか りで あ る 。 そ れ に よ っ て 、
B.1ヶ
交通事 故後 の精神的後 遺症 に、身体 的後遺症 や仕事 な ど
た。 イ ン タ ビュ ー 内容 は 承 諾 を得 て録 音 さ れ た 。 イ
の社 会 的 要 因 が 影 響 して い る こ とが 明 らか に され て きて
ンタ ビ ュ ー 時 の 患 者 の 様 子 は 、研 究 者 に よ って 観 察 、
い る9)10)。しか し、PTSDの
記 録 され た 。 患 者 が 退 院 す る こ と も考 え合 わ せ 、1
みで は、事 故 に よる心 的
訂 出 来 事 イ ンパ ク ト尺 度)を 行 っ た 。
月 ∼2ヶ
月 、C.3ヶ
間 か ら2、3週
間、
月 か ら4ヶ 月 頃 で あ っ
影 響 を正 し く と ら え られ な い と い う 指 摘 もあ る11)よ う
回 目の イ ン タ ビ ュ ー 時 に、2回
に 、 交 通 事 故 と い う外 傷 体 験 の 後 に 起 っ て く る心 的 反 応
の継 続 の 同 意 と 、電 話 な ど連 絡 方 法 の 確 認 も行 っ た 。
が どの よ うな もの で 、 そ の 反 応 やPTSD症
状 が 、事 故
退 院 後 は 、 外 来 の待 ち時 間 を利 用 す る こ とが 多 く、
後 の 時 間 的 経 過 や事 故 後 の 出 来 事 の 中 で どの よ う に 回 復
自宅 に訪 問 して の イ ン タ ビュ ー もあ っ た。 また 、 記
して い くの か 、 どの よ う な 要 因が 回 復 の 過 程 に影 響 して
録 や看護 師か ら
い る の か な ど に 関 す る基 礎 的 な研 究 は十 分 で あ る と は言
タ、 事 故 の 状 況 と外 傷 、 障 害 の 程 度 、 イ ン タ ビ ュ ー
え な い 。 交 通 事 故 の 受 傷 者 は、 身体 外 傷 の た め に 入 院 す
目以 降 退 院 した 場 合
性 別 、 年 齢 、 職 業 な どの 基 礎 デ ー
時 の セ ル フ ケ ア レベ ル の デ ー タ を収 集 した 。
る患 者 が 多 い 。 看 護 師 が 精 神 的 ケ ア に果 た す 役 割 は 非 常
2)IES-R(改
に大 きい た め 、 ケ ア に あ た る看 護 師 に は 、 事 故 後 の 心 的
TSDの
反 応 の 十 分 な理 解 と適 切 な対 応 が 必 要 と され て い る。 し
れ て お り、 災 害 や 犯 罪 、 事 件 事 故 の 被 害 な ど、 ほ と
か し、 交 通 事 故 後 の 患 者 が 心 理 社 会 的 に どの よ う な状 況
ん どの外 傷 的 出 来 事 に つ い て使 用 可 能 な 心 的 外 傷 性
に お か れ 、 ま た ケ ア され て い る の か 、 心 理 社 会 的 ケ ア に
ス トレス 症 状 尺 度 で あ る12)13)。
看 護 が 関 わ る べ き こ とは 何 か に 関 して の 研 究 は ほ とん ど
3)イ
訂 出 来事 イ ンパ ク ト尺 度)は
症 状(侵
入 、 回 避 、 覚 醒 充 進)か
、P
ら構 成 さ
な され て い な い 。
ンタビューの主 な内容
① 事 故 の体 験 、 ② 事 故 後 の体 験 、③ 現 在 の苦 痛 な
症 状 、 ④ 日常 生 活 上 の 変 化 と障 害 、⑤ 事 故 後 の 気 持
Ⅱ
.研 究 目 的
ち の 変 化 、⑥ 事 故 の社 会 的 な 活 動 へ の 影 響
交 通 事 故 で 入 院 した 患 者 に 対 して 、 看 護 に 求 め られ る
4)デ
精 神 的 ケ ア を検 討 す る た め に 、 事 故 の 主 観 的 体 験 、事 故
ー タ収 集 期 間
に よ っ て 引 き起 こ され た心 的 反 応 とそ の 時 間 的 経 過 、 影
響 す る要 因 を明 らか にす る 。
平 成14年9月
3.分
∼平 成15年5月
析 方法
1)IES-Rデ
ー タ得 点 と時 間 的推 移 を患 者 ご とに
分 析 した 。
Ⅲ
.研 究 方 法
2)録
交 通 事 故 とい う外 傷 体 験 の 後 に 起 っ て くる心 的 反 応 が
どの よ う な もの で 、 そ の 反 応 やPTSD症
状 が 、事 故 後
音 され た イ ン タ ビ ュ ー デ ー タ と、 研 究 者 の 観 察
デ ー タは 、 逐 語 で 記 録 され た。
3)1回
の イ ンタ ビ ュ ー ご と に ス トー リー 、 患 者 の 体
の 時 間 的 経 過 や事 故 後 の 出 来 事 の 中 で どの よ うに 回復 し
験 や お か れ た状 況 を理 解 しなが ら繰 り返 し読 み 、 意
て い くの か 、 どの よ うな 要 因 が 回 復 の 過 程 に影 響 して い
味 を記 述 して い った 。
る の か な どに 関 す る 実 証 的 な研 究 は ほ と ん どな さ れ て い
4)患
者 ひ と りひ と りの イ ン タ ビ ュ ー 内容 と背 景 に注
な い 。 そ こ で 、 今 回 は 、 以 下 の よ う に デ ー タ を収 集 し、
目 しな が ら 、 個 別 に 時 間 的 経 緯 に伴 う心 的 反 応 の 変
質 的 に 分 析 す る こ と を試 み た 。
化 を 明 らか に し た。 事 故 や 事 故 後 の体 験 、 トラ ウマ
1.調
反 応 、 トラ ウマ 反 応 へ の 影 響 の 意 味 を記 述 して い っ
査対象
以 下 の 要 件 の全 て を満 た す もの
た。
−34−
象 患 者10人 分 の 記 述 を全 体 と して と らえ 、「事 故
に あ った と考 え られ る。PTSDの
侵 入、過 覚醒 、回避
の と ら え方 」「トラ ウマ 反 応 」に つ い て整 理 し、類 似
の3症 状 別 の 得 点 と、 時 間 的 経 過 と して は 、 過 覚 醒 症 状
した 内 容 の体 験 や 反 応 を ま とめ て カテ ゴ リー を抽 出
が 比 較 的 持 続 し、増 強 して い るケ ー ス も あ っ た が 、患 者
した 。 こ の 際 、 も う一 度 デ ー タ に も ど っ て 妥 当性 を
が た ど っ たPTSD症
検 討 し、 複 数 の 研 究 者 に よ っ て確 認 した 。
回 は 、 ケ ー ス が 少 な い こ と もあ り、 年 齢 や性 別 に よ る明
6)5)の
プ ロ セ ス の 中 で 見 え て きた 身体 外 傷 か らの
状 の経緯 は さまざまであ った。今
らか な差 異 は認 め られ な か っ た。
主 観 的 回 復 につ い て 、 デ ー タ に も ど っ て 意 味 を確 認
し、 抽 出 され た 記 述 内容 を整 理 し て考 察 した。
4.倫
図1 IES-R総
合 得点 の推移
60
理 的配慮
研 究 の 参 加 は 自 由 意 志 で あ り、 参 加 の 有 無 に よる 不 利
50
益 は な い こ と、 プ ラ イバ シ ー は守 られ る こ と、 話 した く
な い こ とは 話 さ な くて 良 い こ と、 い つ で も研 究 参 加 をや
40
め る こ とが で き る こ と を説 明 し文 書 に よ っ て 同 意 を得
た。
患 者 に 外 傷 体 験 を 聞 くこ とは 、 患 者 の ペ ー ス で 行 う こ
と に留 意 し、 患 者 の 防衛 や 感 情 の 高 ぶ りに注 意 して 、 イ
ン タ ビュ ー 自体 が 心 理 的 な外 傷 体 験 とな らな い よ う 、 イ
ーESR総合得占
IJ
5)対
30
20
ン タ ビュ ー に よ っ て苦 痛 を増 強 させ な い よ う細 心 の注 意
10
0
0
を払 っ た 。 特 に初 回 の イ ン タ ビ ュ ー で は 、 患 者 の 気 が か
20 40 60 80 100 120 140
事故か らの経過 日数
りや 自然 に話 をす る こ とに あ わ せ 、 安 全 で 安 心 で きる 信
頼 関 係 をつ く る こ とに 重 点 を置 い た 。
3.イ
Ⅳ
.結 果
1,対
ンタビュー結果
イ ン タ ビ ュ ー 内 容 の分 析 に よっ て 「患 者 の 事 故 の と ら
象 の概 要
え方 」 「事 故 に よ って 引 き起 こ さ れ た 心 的 反 応 」 「身体 外
対 象 は女 性7名
、 男 性3名
傷 か らの 回復 の と らえ 方 」 を 明 らか に した。 そ れ ぞ れ の
で 、 年 齢 は53.4±21.1歳
で あ っ た 。 全 て の 患 者 が 骨 折 で 、 手 術 を受 け た もの が8
カ テ ゴ リー お よ び サ ブ カ テ ゴ リ ー の 一 覧 を 別 表 に 示 し
名 で あ っ た 。 対 象 者 の 概 要 と イ ン タ ビュ ー 時 期 を 表1に
た。 以 下 に カ テ ゴ リー と実 例 を述 べ る 。(以 下 【 】は カ
示 した。
テ ゴ リ ー 、《 》 はサ ブ カテ ゴ リー で あ る 。)
表1対
case
年代
sex
骨折部位
インタビュー時の受傷後 日数
1回 目 2回 目 3回 目
C
40
F
D
10
F
下肢
上肢
上肢
下肢
E
50
F
頸部
9
33
F
40
M
6
34
G
60
F
下肢
上肢
上肢
下肢
下肢
18
51
A
70
M
B
70
F
H
70
F
60
F
20
M
表2患
象者 の概要
20
75120
入 院期 間
転 院〔
人院中)
9
42
124
19
54
117
7
76
90
120
約3週
約4週
約5週
約8週
者 の事故 の とらえ方
カ テ ゴ リー お よ び サ ブ カ テ ゴ リ ー
怖 れや衝撃 の体験
死 を も考 え た 恐 怖 の 体 験
間
間
間
間
フ ラ ッ シ ュ バ ック に よ っ て
繰 り返 さ れ る恐 怖 体 験
生 活 上 の衝 撃
約12週
間
約2.5週
間
15
51
113
約3週 間
13
65
123
約12週
9
51
後 遺 症 が残 るの で は な い か とい う怖 れ
無 念の思 い
間
約4週 間
自分 に 非 は な か った 無 念 の 思 い
自分 の行 動 につ い て の無 念 の 思 い
事 故 そ の もの が なか っ た ら とい う無 念 さ
2.各
患 者 のIES-R得
そ れ ぞ れ の 患 者 のIES-Rデ
過 を 図1に
不 幸 中 の幸 い
点 とそ の 推 移
示 し た 。IES-Rで
ー タ の 総 計 と時 間 的 経
は 、PTSD症
状の 高
危 険 者 を ス ク リ ー ニ ン グ す る た め に 、24/25の
カ ッ トオ
フ ポ イ ン トを 推 奨 し て い る 。4名
ん 、Eさ
ん 、Gさ
ん 、Iさ
ん)が
の 患 者(Cさ
自分 な り に受 け 入 れ る ・受 け入 れ よ う とす る
た い した こ とで は な い
自業 自得
あ き らめ
、 い ず れ か の 時 期 に危 険 ラ イ ン
−35−
気 持 ちの 整 理 が つ く
表3事
こ の よ うに 自 らは気 をつ け て い た の に とい う悔
故 に よ って 引 き 起 こ さ れ た 心 的 反 応
し さ怒 り とい う 《自 分 に は非 は な か った 無 念 の 思
カ テ ゴ リー 一 覧
い》 が 語 られ た 。
睡 眠の障 害
〔Fさ ん1回
思 い 出 した くな い の に思 い 出 され る
・
フ ラ ッ シ ュ バ ック
・
何 か の きっ か け で 思 い 出 され る
・
痛 み が あ る と思 い 出 して しま う
・
夢 を見 る
我 慢 す れ ば よ か っ た 。 朝 コー ヒ ー 買 っ て。 い つ も
は そ うじゃないのに。
自分 の行 動 を後 悔 す る 思 い や 、 少 しで も時 間が
ず れ て い た ら とい う悔 し さ と い う 《自分 の 行 動 に
つ い て の 無 念 》 が 語 られ た 。
事 故 現 場 や 似 た状 況 に 遭 遇 した と きの 緊張
用 心 深 くな っ た ・敏 感 に な っ た
〔Fさ ん3回
避 け る ・避 け た い
目〕 相 手 が ど うの こ うの で な く、
事 故 さ え な か った らな と思 う。
気 を紛 らわ す
こ の患 者 は願 望 と も思 え る よ う に 《事 故 そ の も
加害者 への怒 り
表4身
目〕 後 悔 して る。 あ の と き トイ レ
の が な か っ た ら》 と語 っ た。
体 外 傷 か ら の 回 復 の と らえ 方
(3)不
幸 中 の幸 い
〔Hさ ん2回
日々 回 復 して い る と実 感 す る
目〕足 と か腰 で な くて 良 か っ た な と
は思 っ て ま した。
回復 の 兆 しが な くな る
〔Iさ ん1回
退 院 後 に 回復 に対 す る考 え 方 が 変 化 す る
目〕 頭 打 っ て な く て よ か っ た ん だ
よ っ て。 み ん な転 ん で頭 打 っ て そ れ で 大 変 な ん だ
1)患 者 の事 故 の と ら え方(主 観 的 体 験 と して の 事 故)
(1)怖
れや衝撃 の体験
〔Fさ ん1回
ば い い よ って 言 っ て くれ た ん で す よ 、 看 護 婦 さ ん
目〕 空 中 、 回 っ た 瞬 間 は、 終 わ っ
た な と思 っ た 。 人 生 終 わ っ た な。 しば ら くぼー っ
が 。 だ か らそ うな れ ば、 だ よ な って 。
〔Gさ ん2回
目〕も うち ょ っ と強 くと ば さ れ て い
た ら、 打 ち所 悪 か っ た ら、 全 然 違 う方 向 だ っ た 。
と して か ら、 生 き て るで ね え か。
この よ う に事 故 を 《死 を も考 え た 恐 怖 の体 験 》
と して と ら え て い た 患 者 が あ っ た 。
さ ん1回
か ら っ て 、 こ れ だ け で す ん だ か らよ か っ た と思 え
と ば され て い た ら骨 折 と か そ うい う問 題 で な か っ
た と思 う。
目〕 思 い 出 す と き、
〔Iあ あ っ て 思 っ
〔Bさ ん1回
目〕(兄 弟 の 事 故 の 経 験 が あ っ て)
た そ の 声 が そ の ま ま出 て く る よ うな 感 じ。 その 場
あ の と き か ら見 れ ば 、 軽 くて 良 か っ た 。 同 じ交 通
面 そ の もの 。轢 か れ て倒 れ て い く と き の。 す ご く
事 故 に して も(大 変 な 人 を)見 て る か ら、 不 幸 中
怖 くな っ て。
の幸 い 。
こ の よ う に 《フ ラ ッ シ ュバ ッ ク に よ って 繰 り返
さ れ る 恐 怖 体 験 》 が 語 られ た 。
〔Eさ ん1回
目〕 相 手 の 人 も 車 は あ れ だ け ど、
け が は 自 分 だ け で。
目〕 ま ず思 っ たの は 、(入 院 中 の 家
族 の と こ ろ へ)行
〔Cさ ん1回
思 っ た よ り も大 き な け が で は な か っ た こ と、 他
の 人 の 経 験 と比 べ て 自分 は ま だ ま しだ っ た と感 じ
けな い、 行 っ て あ げ な い と …
とい う気 持 ち と、 私 が け が を した ら仕 事 を ど う し
る こ とな どか ら事 故 を不 幸 中 の幸 い と と ら え て い
よ う、 困 った な とい う こ とだ っ た。
た 。Iさ
この 患 者 は 、事 故 に伴 う 《生 活 上 の 衝 撃 》を語 っ
た。
とで 気 持 ちが 楽 に な っ た と語 っ た 。 一 方Gさ
んは
もっ と大 きな 怪 我 だ っ た 可 能 性 が 高 か っ た こ と を
〔Jさ ん1回
目〕 ち ゃ ん と ま と も に 歩 け る の か
な、走 ったりで きるかな、 それが不安 だね。
ん の よ うに 相 手 に け
が が なか っ た こ と を不 幸 中 の 幸 い だ っ た と安 堵 し
て い た 患 者 もあ っ た 。
う怖 れ 》 を述 べ た 。
(4)自
念 の思 い
〔Eさ ん1回
振 り返 り、 不 幸 中の 幸 い と表 現 しな が ら も、 事 故
の 恐 怖 を実 感 して い た 。Cさ
多 くの 患 者 が 《後 遺 症 が 残 る の で は な い か とい
(2)無
ん は 、 不 幸 中 の 幸 い で あ っ た と考 え る こ
目〕あ の 道 は す べ る か ら わ か っ て る
人 は み ん な ゆ っ く り だ し、 す ご く気 を つ け て 運 転
し て い た 。 そ れ な の に 、や り き れ な い し、悔 し い 。
−36−
分 な りに 事 故 を受 け入 れ る ・受 け 入 れ よ う と
する
〔Hさ ん2回
目〕今 ま で に この 交 通 事 故 だ け じゃ
な くて 、 様 々 な こ とが あ っ た か ら、 こ ん な こ とで
これ らの 患 者 は 、 こ の2回
考 え な い 。 な る よ うに しか な ら な い と思 っ て い る
か ら。
目の イ ン タ ビ ュ ー時
点 で は 、 回 復 が 順 調 に進 ん で お り、 事 故 や事 故 に
こ の よ う に 、 こ れ まで の も っ と辛 か っ た 出 来 事
よ って の 反 応 、 お か れ た状 況 を受 け 入 れ て い る様
を振 り返 り、 そ の こ と に比 べ れ ば事 故 を 《た い し
子 が 語 られ て い た 。事 故 の体 験 を過 去 の もの と し、
た こ とで は な い 》 と受 け入 れ て い る 様 子 が 見 て 取
事 故 か ら くる現 在 の 苦 痛 や 不 自 由 さ を受 け 入 れ る
れた。
こ とで 、 《気 持 ち の 整 理 が つ く》 こ とが 語 られ た 。
〔Hさ ん3回
目〕自分 も悪 い ん だ し、仕 方 な い ね 。
私 も国 道 の 方 だ けで な く、 こ っ ちの 方 も見 て お け
ば 、 ぶ つ か らな くて も よ か っ た ん だ ろ う け ど。
〔Aさ ん3回
2)事
故 に よ っ て 引 き起 こ さ れ た 心 的 反 応
(1)睡
目〕自分 の 不 注 意 で 起 き た こ と だ か
眠の障害
〔Eさ ん1回
目〕 夜 も痛 くて 眠 れ な い。 眠 れ な
い と き は い らい らす る。 み ん な が寝 て い る の に 電
ら。 自 分 が 悪 い っ て思 う。
非 が あ る 状 況 で は な い な が ら も、 《自業 自得 》
気 をつ け る わ け に もい か な い し、 夜 景 を 見 た り、
と述 べ る患 者 と加 害 的 立 場 か ら 自分 の け が に つ い
行 き た く もな い の に トイ レ行 っ た り。 夜 が 来 るの
て 《自業 自得 》 と述 べ る患 者 もあ っ た 。
が怖 い。 薬 も き か な い し、 し ょっ ち ゅ う思 い 出 し
〔Aさ ん1回
目〕 あ き ら め が 肝 心 。 あ き ら め な
き ゃ い つ ま で た っ て も、 ず っ と解 決 しな い もの 。
〔Fさ ん3回
目〕半 分 あ き ら め て ゆ っ く りや ろ う
と思 っ て。 絶 対 無 理 だ っ て わ か っ た か ら。
て しま う。
〔Gさ ん1回
〔Dさ ん1回
この よ うに 《あ き ら め》 は 、 現 状 を受 け 入 れ て
い る在 り様 と して 語 ら れ て い た 。
目〕 日 中 は痛 くて も ま ぎ れ る の 。
夜 に な る と ラ ジオ か け っぱ な し。
目〕 は じ め は全 然 眠 れ な か っ た。
歩 け る よ う に な るの か な と か思 っ て い た 。
ほ とん どの患 者 が 痛 み に よっ て 眠 れ な い と語 っ
目〕 今 回 は私 の ミ ス だ っ た ん で、
て い た 。 四 肢 の 痛 み を 抱 え た患 者 が 多 く、 退 院 後
気 をつ け て い か ね ば い けな い な っ て。 今 の 気 持 ち
も、寝 返 りに よ っ て患 肢 に何 らか の刺 激 が あ っ た
で す 。ど う して も車 は使 わ な けれ ば な ら な い か ら。
り、 痛 み に よ る不 眠 は 患 者 の想 像 以 上 に長 く続 い
前 向 き の 気 持 ち で い ま す 。 暗 く な っ て い や な気 持
て い た 。 ま た 、 入 院 中 は消 灯 時 間 が 普 段 の生 活 よ
〔Cさ ん3回
ち だ け ど、 も っ と気 をつ け よ う っ て前 向 き。 前 は
り も早 い た め に、 な か なか 寝 付 け な か っ た り、 途
車 に乗 って お で か け しよ う だ っ た け ど、 今 は車 を
中 で 目が 覚 め る な どが あ る と語 っ た 患 者 も多 か っ
自分 が 運 転 して 、 気 をつ け て。 自分 が 運 転 して で
た 。 痛 み とい う 身体 症 状 の 影 響 や 生 活 時 間 の 変 化
か け る っ て い う、 運 転 者 本 人 の 意 識 が 前 向 き で な
で 眠 れ な い の だが 、 目が 覚 め た り寝 付 け な い と き
い と、 車 は運 転 で きな い ん だ な っ て な っ て き ま し
に は、 事 故 の こ とが 思 い起 こ さ れ 苦 痛 だ と述 べ た
た。
患 者 もい た 。単 な る痛 み の た め の 不 眠 だ け で な く、
Cさ ん は最 初 、記 憶 の な い た め もあ っ て現 実 味
が な く、 ど こか 自分 で は な い よ うな ニ ュ ア ンス で
語 っ て い た が 、3回
者 もあ っ た 。
目 に は事 故 の体 験 を 自分 で 受
け 入 れ 、 生 か して い こ う とい う心 構 え を述 べ て お
り、《気 持 ち の 整 理 が つ い》た と笑 顔 を み せ て い た 。
〔Iさ ん2回
心 理 的 過 覚 醒 に よ る不 眠 の 可 能 性 が 考 え られ る患
目〕今 は重 傷 な ん だ っ て笑 っ て言 え
(2)思
い 出 した くな い の に 思 い 出 され る
事 故 を思 い 出 した くな い の に 思 い 出 され て し ま
い 、後 悔 に と らわ れ た り、恐 怖 体 験 を再 現 した り、
る 感 じで す 。 意 外 に ね、 冷 静 に 思 い 出 して ま す よ
そ の と き の 「な ん と も表 現 の し よ うの ない 感 じ」
ね 。冷 静 に対 処 で きる よ うに な っ て き て い る。や っ
が 思 い 出 さ れ た り、 怒 りを 感 じた り、 患 者 は 様 々
ぱ り そ れ だ け 回 復 して い る か らだ と思 い ます 。 気
な辛 さ を語 っ た 。 外 傷 的 出 来 事 の 記 憶 が 心 的 に 影
持 ち の 。体 力 もつ い て き た っ て い う か 。
響 を与 え続 け る こ とが 、PTSDを
〔Fさ ん2回
目〕(友 人 に説 明 す る こ と)最 初 い
外 傷 反 応 の 根 幹 で あ る。 こ の 苦 痛 や 辛 さが 、 様 々
や だ っ た け ど、 あ ま り気 に な ら な くな っ た。 相 手
な形 で 語 られ て い た 。
に も、 た ま た ま加 害 者 に な っ た だ け で 、 い つ逆 の
① フ ラ ッシ ュバ ッ ク
立 場 に な る か わ か ら な い。死 ん だ わ け で も な い し、
は じめ とす る
〔Eさ ん1回
目〕 夜 眠 れ な い と き、 し ょ っ ち ゅ
か た わ に な っ た わ け で も な い し、 苦 に しな い で 一
う思 い 出 す 。 ど う して こ う な ん だ ろ う、 運 が 悪 い
生 懸 命 仕 事 や っ て っ て。 わ も復 帰 す れ ば一 生 懸 命
な と思 う。
や る は ん で っ て。
さん1回
〔I
−37−
目〕 急 に ば っ と思 い 出 す 、 や っ ぱ
りね 。 す 一 っ と思 い 出 して 、 あ あ って 思 っ た その
使 う と痛 み が く る ん だ よ 。 痛 み が ふ つ う と違 うん
声 が さ、 あ あ っ て 出 て くる よ う な 感 じで。 あ の と
だ よ ね 。そ れ で ち ょ っ と思 い 出 す こ と が あ る か な。
き は本 当 に何 が な ん だ か わ か らな く っ て あ あ っ て
最 初 の 方 よ り も辛 い か な。
言 う うち に …
その と きの 場 面 で す 。 そ の も の
です。
〔Iさ ん2回
目〕 何 か の は ず み で 、 ヒ ュ ン と こ
う思 い 出 す こ とが あ る ん で す。 何 の 関 連 も な く、
ぼ や っ と して て も突 然 ひ ゅ っ と。
〔Iさ ん3回
〔Fさ ん3回
無理 で きない。
「痛 み が あ る と思 い 出 す 」と述 べ た 患 者 は 多 か っ
た 。 特 に そ れ は 、 退 院 後 に 語 られ る こ と が 多 か っ
目〕車 に 足 が ひ き こ ま れ て い く とい
うか 、そ うい うの を ち ょっ と思 い 出 す 。こ と が あ っ
た。
④ 夢 を見 る
て。 痛 み で は な くて 、 あ あ っ て 言 い な が らた お れ
て い くと きの を ち ょ っ と思 い 出 して。 ス ロ ー モ ー
〔Gさ ん2回
〔Iさ ん3回
目〕 退 院 し て か らの 方 が 、 外 と ふ
れ る機 会 が多 く な っ た か ら、 病 院 に い た と き よ り
何 も しな い で ひ ゅ っ と。 そ れ が い や でね 。
目〕 た ま に あ る 、 毎 日 あ る じ ゃ、
急 に 浮 か ぶ 。 そ の シ ー ン が 。 や られ て しま っ た っ
て い うか 。 そ の あ と、 後 悔 しち ゅ う。
〔Fさ ん2回
目〕 そ の も の ず ば り は な い ん だ け
ど、 た ま に うな され て た り す る の 。
シ ョ ンみ た い に。 別 に き っ か け っ て な い ん で す 。
〔Fさ ん1回
目〕 病 ん だ り せ ば、 思 い 出 す 。 う
ず く。 忘 れ か け て い る け れ ど、 い ま ち ょ っ と体 が
は、何 か そ うい う こ と(夢 を み る こ と)が 多 くな っ
た気 が す る ん で す 。
気 味 の 悪 い夢 や 事 故 の 夢 を み る こ とで 思 い 出 す
目〕 ぶ つ か っ た 瞬 間 、 横 に な っ て
救 急 車 と か周 りが 騒 い で る と こ ろ 、 そ こ ら辺 が部
と述 べ た患 者 も、 退 院 後 に多 くな っ た と述 べ て い
た。
分 的 に だ ば っ て 、 出 て く る。 最 近 は減 っ て き た。
Iさ ん とFさ ん は 、3回 の イ ン タ ビ ュ ー の す べ
て の 時期 に こ の 反 応 が あ り、 恐 怖 体 験 をそ の た び
(3)事
故 現 場 へ 行 く こ とや 、事 故 と似 た 状 況 に 遭 遇
した と きの 緊 張
に再 現 し、 苦 痛 は 大 変 強 か っ た 。 リハ ビ リが 順 調
〔Dさ ん3回
目〕 ち ょ っ と狭 い と こ ろ 、 車 が ふ
な時 期 は 回数 が 減 っ て い た が 、回復 が 滞 っ た と き、
つ う に走 って くる と す ご い 怖 い。 同 じ場 面 が す ご
思 い 出 す こ とが 増 え て い る と も語 っ て い た。
い怖 い。 礫 か れ て 、 道 路 に 寝 て い た と きの 、 そ の
② な にか の き っか け で 思 い 出 され る
と き と同 じよ うな 感 じに な る。
〔Iさ ん1回
目〕(加 害 者 が)し
ょ っ ち ゅ うお 加
〔Cさ ん3回
目〕そ の 道 を通 る 間 、あ あ こ こ だ っ
減 どうです かっておい でに なるんです。何 回 もお
て、 汗 ば ん で 、 息 苦 しか っ た り、 ど き ど き は あ り
断 り して も。 そ れ が 負 担 な ん で す 。 否 が応 で も思
ます。
い 出 す。
〔Cさ ん2回
退 院 して か ら起 こ っ て くる 反 応 と して 、 事 故 現
目〕大 き い 車 が 横 を とお っ た り す る
と、 な ん か あ の つ ぶ れ た 車 の こ と を思 い 出 して し
場 や 事 故 と似 た 状 況 に 対 して 、 緊 張 して しま う と
い う反 応 が 語 ら れ て い た 。
ま っ た り しま す 。 ち ょ っ と気 持 ち が こ う、 ぎ りっ
て な り ます 。
〔Iさ ん3回
(4)用
目〕 テ レ ビ と か 、 骨 折 っ て い う言
心 深 くな っ た
〔Gさ ん2回
敏感 にな った
目〕 気 をつ け て 、 道 路 歩 くの も か
葉 に 異 常 に 反 応 す る っ て い う か 、 怖 い で す 。(入
な り気 をつ け て い ま す。 信 号 は も ち ろ ん だ け ど。
院 中 よ り も)多 い で す 。 結 局 あ の 、 外 で車 の 音 を
新 聞 や ラ ジ オ、 ボ ラ ン テ ィア 先 の 交 通 事 故 な ど に
聞 く と か、 ニ ュ ー ス で な ん と な く、 見 る機 会 が 多
敏 感 に な っ た。
くな っ た か ら で は な い か と思 い な が ら。
〔Bさ ん2回
入 院 中 は 、 周 りの 人 に事 故 の こ とや 怪 我 の こ と
を 聞 か れ る こ と、 加 害 者 が ふ い に訪 れ る こ と、 事
目〕 話 に は聞 い て い た け ど、 用 心
深 くな る もの だ ね 。 今 ま で は車 を見 て る の 。 今 は
運 転 手 の 顔 を見 る ん だ よ 。
故 に 関す る も の に 触 れ る こ とが あ げ ら れ 、 退 院 後
多 くの 患 者 が 退 院 後 の 外 歩 きや 車 の 運 転 な ど に
は テ レ ビや 新 聞 、 似 た よ う な状 況 な ど か ら思 い 出
大 変 慎 重 に な って い る こ とや 、 車 の音 や 、 新 聞 ・
され る と語 ら れ て い た 。
テ レ ビ な どの 情 報 に も敏 感 に な っ て い る こ と を 自
③ 痛 み が あ る と思 い 出 して し ま う
覚 して い た 。
〔Gさ ん2回
目〕 前 よ り も最 近 思 う か な 。 傷 は
治 っ た ん だ け ど、 手 を使 う よ うに 言 わ れ て い て、
−38−
(5) 避 け る ・避 け た い
〔Cさ ん2回
目〕昨 日 は じ め て そ の 道 へ 行 く用 が
者 の 事 故 後 の 不 誠 実 で 自分 勝 手 な対 応 に対 して の
あ っ た ん で す よ 。 その 道 は絶 対 に 通 りた く な い と
怒 りを語 る患 者 もあ っ た。
思 っ て、遠 回 り して。 今 は ち ょ っ と行 き た く な い。
自信 が な い ん で す よ。
3)身
体 外 傷 か らの 回復 の と らえ 方
ほ とん ど の患 者 が 事 故 現 場 に は ま だ足 を運 ん で
本 研 究 の患 者 は、 身 体 外 傷 か らの 回復 を ど う と ら
い な か った 。 以 前 は よ く通 っ て い た事 故 現 場 も通
え て い る か が 、 こ れ まで 述 べ て きた 「事 故 の と らえ
ら な い よ う に して い る な ど 、 あ え て行 こ う とは し
方 」 や 「事 故 に よる 心 的 反 応 」 に影 響 して い る こ と
な い患 者 が 多 か っ た。 交 通 事 故 が 出 て くる テ レ ビ
が 考 え られ た 。 そ こで こ こ で は 、 そ れ ぞ れ の 面 接 時
や 新 聞 を さ け て い る こ と に気 づ い て い る患 者 もい
に 、 患 者 が 身 体 外 傷 か らの 回 復 を ど う と らえ て い る
た。 ま た、 運 転 そ の もの や 、外 を歩 く こ と も怖 ろ
の か に焦 点 をあ て た 。
しい た め に 避 け た い と述 べ て い た 患 者 もあ っ た 。
(1)日
そ の た め に不 便 さ と と もに 楽 しみ を 失 っ た と話 し
た患 者 もあ っ た 。
々 回 復 して い る と実 感 す る
〔Cさ ん3回
目〕ふ つ うに生 活 で き る し、雪 か き
も で き る し。 日常 生 活 は、 人 に 冗 談 で 、 か え っ て
ふ つ うの 骨 よ り丈 夫 だ な ん て ふ ざ け て あ き れ させ
(6)気
を紛 らわ す
〔Gさ ん2回
た り して る ん で す 。(医 師 は)年 相 応 に 骨 の 作 り は
目〕か な らず 、何 か して な い と きは 、
遅 い っ て。
テ レ ビ を入 れ て み た り、 ち ょ っ と動 く と き は、 ラ
Cさ ん は 、 医 師 の コ メ ン ト以 上 に 主 観 的 に は 身
ジ オ い れ て み た り、 必 ず物 音 させ て い た り、 き い
体 の 回 復 を実 感 して い た 。 避 け た い 思 い や 事 故 現
た り す る よ うに な っ た か な 。 何 も物 音 して な い と
場 で の 緊 張 を 自覚 しな が ら も、 事 故 を起 こ した こ
ね 。 気 持 ち が痛 み の ほ うに は し る よ うな 気 が す る
と を受 け入 れ 、 そ れ をふ ま え て 、 気 持 ち の整 理 が
の。
で きた と述 べ て い た 。
〔Eさ ん2回
目〕何 も考 え て い な い と き に、急 に
〔Dさ ん3回
目〕最初 は す ご い悔 しい とか い ろ い
思 い 出 す 。 テ レ ビ見 た り、 雑 誌 を み た り、 今 は サ
ろ 思 っ て い た け ど、 し ょ うが な い な っ て開 き直 っ
ザ エ さん を借 り て い る の で、 そ れ を み た り して 、
た ら明 る い 感 じに な っ て き た。 学 校 の 球 技 大 会 に
気 を紛 らわ せ て い る。
ち ょ っ とで も参 加 で き て、 そ れ が 終 わ っ て か ら く
〔Iさ ん1回
目〕 全 然 関 係 な い テ レ ビ見 て あ は
らい か な 、 明 る い 気 持 ち に な れ た の は。
は っ て 笑 っ て る と か。 で も、 う ん と落 ち込 ん で る
Dさ ん は 、 あ き らめ て い た 球 技 大 会 に少 しで も
時 は テ レビ って も集 中 で き な い け ど も。 で き る だ
参 加 で きた こ とで 、 身体 の 回 復 を 実 感 して い た。
け そ うい うお笑 い、楽 しい 番 組 見 て 笑 っ て る と か。
この と き事 故 を 受 け入 れ 、 良 い 意 味 で あ き ら め る
(夜 は)タ
オ ル(目
か く しに)や
っ て マ ス クや っ
て、 ラ ジ オ か け な が ら。 一 晩 中 。
〔Jさ ん2回
急 に思 い出す のを避 けるためや 、考 えない よう
にす るため
こ とが で き る よ う に な っ た と述 べ て い た 。
目〕も う ち ょ っ とで 両 足 で 歩 け る ん
だ 。両 足 で松 葉 杖 つ い て で か け る そ っ て 。そ うな っ
目が 覚 め た と き に考 え る こ とが な い
た ら、 リハ ビ リ毎 日、 近 い か らで き る か ら。 毎 日
よ う に とい う た め に 、 い つ も ラ ジ オ をつ け て い た
リハ ビ リ した方 が 、 直 る確 率 早 い ん で す よ。 退 院
り、 雑 誌 や テ レ ビな どで 気 を紛 らわ せ て い る こ と
も予 定 よ り早 か っ た。次 の と き(次 回 イ ン タ ビュ ー
が語 られた。
時)は
、 き っ と片 方 の杖 に な って る か ら。 も う歩
け る く らい か な 。 トン トン拍 子 だ か ら。
(7)加
害者へ の怒 り
〔Eさ ん2回
Jさ ん は 、 や っ と リハ ビ リ を本 格 的 に始 め られ
目〕この 前 急 に相 手 の 人 が き た。 仕
方 が な い か ら、 私 が 外 に 出 て、 会 っ た。…
いっ
た い 何 しに 来 た の か。
る とい う 身体 の 回 復 の 喜 び と 「うず うず す る 」 と
意 気 込 み を語 った 。退 院 して 様 々 な 不 自 由 が あ り、
加 害 者 へ の 怒 り も大 きか っ た が 、 も うす ぐ もっ と
加 害 者 が 事 故 後 に不 意 に訪 れ る こ とが あ っ た と
述 べ た患 者 が 何 名 か あ っ た 。 そ れ が 、 患 者 を心 配
して とい う よ り、 加 害 者 自 身 の 自己 満 足 の た め と
動 け る よ うに な る とい う こ とが、話 題 の 中心 で
あった。
〔Fさ ん2回
目〕・体 楽 に な っ た。 下 着 とか は け
感 じ られ 、事 故 を 思 い 出 して しま う苦 痛 と と も に 、
る よ う に な っ た。 自 分 で トイ レ も で き る よ う に
人 に対 す る不 信 感 と、 そ の よ う に感 じて しま う 自
な っ た。 毎 日今 良 く な っ て い る。・リハ ビ リの 先 生
分 自身 へ の不 甲 斐 な さが 語 られ た。 加 害 者 と関 係
も今 第 二 段 階 だ っ て。90度 曲 が れ ば第 一 段 階 ク リ
−39−
ア。 辛 か っ た よね 。 だ け ど、90度 曲 が れ ば後 は早
は しっ か り して る と か、 大 丈 夫 だ っ て言 うん だ け
い ん だ。 体 が 動 い て い る か ら安 心 して る。 先 生 も
ど。 い ろ い ろ痛 く な る ん で す よ。・な ん か わ か らな
順 調 に回 復 して い る っ て。 年 の 割 に は回 復 力 が あ
い よ うな 痛 み が あ る と き、 何 で い つ ま で も こ ん な
る ら しい。・
今 は入 院 を楽 しん で き て い る。 リハ ビ
ことって。
リ も周 りの 人 と仲 良 く楽 しん でや っ て る。
〔Iさ ん2回
〔Gさ ん2回
目〕・す ご い が ん ば る っ て言 わ れ る
く らい が ん ば っ て い る ん で す 。 が ん ば れ る よ う に
な っ た。 自分 で も良 か っ た と思 っ て 。・
傷 が治 った
目〕先 生 は 割 と順調 だ っ て 。 こ れ で
も。 ら しい ん だ わ。 私 に す れ ば そ うで は な い ん だ
け ど。 痛 い か ら い ろ い ろ 考 え て 。
〔Eさ ん2回
目〕も う退 院 して も良 い と言 わ れ て
ら一 人 で お 風 呂 に 入 る練 習 しな く ち ゃ。 そ れ こ そ
い る 。首 の 骨 も く っ つ きか け て い る様 子 だ そ うだ 。
感 傷 に ひ た っ て い る暇 は な くて。 や らな き ゃ、 や
で も 、 今 は帰 っ た ら洗 濯 を ど う しよ う と か、 い ろ
ら な き ゃ っ て感 じ。 看 護 婦 さ ん も先 生 も努 力 した
い ろ 考 え て しま っ て い る。 看 護 婦 さん と練 習 も し
らみ ん な 自分 に か え っ て くる ん だ か ら っ て、 本 当
て い る け れ ど。 な ん と か で き る の か な。
に そ う思 い ま す 。 だ か ら、 か え っ て い い と思 い ま
こ の よ う に 回 復 の 実 感 が 感 じ ら れ な くな る と
す。今 は 自分 の こ と っ て感 じ で。・リハ ビ リも あ る
き、 情 け な い と感 じた り、 以 前 よ り も事 故 の こ と
程 度 目標 達 成 して い る か な。
を思 い 出 す こ とが 増 え た り して い た 。Fさ
Fさ ん とIさ ん は 、2回
ん は、
目の イ ン タ ビ ュ ー 時 は
松 葉 杖 歩 行 の 頃 か ら、 目 に見 え る 回 復 が な くな っ
ま だ 入 院 中 で あ っ た 。 リハ ビ リで の歩 行 距 離 の 延
た と述 べ た 。「い まだ に手 す りが な い と 階段 が 上 れ
長 や 日常 生 活 動 作 の 拡 大 な ど に よ り身 体 の 回 復 を
な い 」 と、 自分 の た て て い た 目標 か ら大 き く遅 れ
実 感 で きる と き、 回 復 の た め に 自分 で や れ る こ と
を とっ た こ と、「治 っ て い る の に長 引 い て い る 」こ
が あ る とい う こ との 喜 び や 、 が ん ば れ て い る 自分
とへ の情 け な さ を語 っ た 。 そ して 以 前 よ り事 故 を
に 対 して 自尊 心 を 高 め て い る 体 験 が 語 られ た 。I
思 い 出 す こ と が 多 く な っ た と述 べ た 。 医 師 か ら
さ ん は 、「毎 日 目標 を ク リ ア して い る こ とが 、自分
治 っ て い る と言 わ れ て い る の にわ け の わ か らな い
の 努 力 が 報 わ れ る 体 験 で あ り、 が ん ば れ る よ う に
痛 み や 思 う よ う に動 か せ な い こ とで 、 主 観 的 に は
な っ た」 とい う思 い を語 っ て い た 。Fさ
ん も、 リ
医 師 の い う回復 とはか け離 れ て い る こ とを語 っ
階 を ク リア で きた こ と で 自主 トレ
た。 リハ ビ リの た め に動 かせ とい わ れ て も、 痛 く
に 励 み 、 自分 な りの 退 院 や 職 場 復 帰 の ス ケ ジ ュ ー
て辛 い こ とな どか ら、 入 院 中 よ り も良 くな っ た と
ル を逆 算 して い た 。 運 動 に よ っ て 、 睡 眠状 態 が 良
言 わ れ る分 の 辛 さ もあ っ た 。
ハ ビ リで 第1段
と
この 回復 の 兆 しが な くな る体 験 を 述 べ て い た時
目の イ ン タ ビュ ー と比 べ
期 の 患 者 は 、 回復 を実 感 して い た と き よ り も事 故
くな り、 食 欲 もで る とい う効 用 も あ っ た 。2名
も、 初 回 と退 院 後 の3回
る と、こ の2回
目の イ ン タ ビ ュ ー で は 大 変 明 る く、
を思 い 出 す こ とが 増 え て い た 。 事 故 の と ら え方 も
事 故 に よ る 苦 痛 な心 的 反 応 に つ い て も、 対 処 で き
ネ ガ テ ィ ブ に な っ て 、IES-R値
る よ う に な り、 事 故 を 受 け入 る こ とが で き る よ う
た。
も上 昇 して い
に な って い た 。
(3)退
(2)回
復 の 兆 しが な くな る
〔Fさ ん3回
院 後 に 回復 に対 す る 考 え方 が 変 化 す る
〔Hさ ん3回
目 〕 ・事 故 の こ と は よ け い 思 い 出
目〕布 団 の 上 げ 下 ろ し とか 、横 に な
る と き、 苦 しい ん だ わ腕 つ け な い か ら。 ま だ ち ゃ
す 。 そ う で も な い べ か 。体 は 治 っ て き て る ば っ て 、
ん と直 っ て な い ん だ と思 うの 。 かね 抜 い た ん だ か
結 局 長 引 い て る 。 良 く な っ て く れ ば 、 早 く仕 事 復
ら痛 くな い だ ろ う と軽 く考 え て い た ん だ け ど 、痛
帰 した い の も あ る っ き ゃ。 ま だ階 段 も手 す り が な
い ね。 病 院 に い れ ば、 ベ ッ ドだ か らひ ょ い っ と寝
い ば ま い ね し。 歩 け る よ う に な っ て か ら思 う よ う
て れ ば い い け ど ね。
に 、 回 復 の 兆 しが ね く な っ て …
だんだん ち ょっ
と 、良 く な っ た と思 っ て 無 理 す る と 、筋 肉 張 っ て 。
さ ん3回
目 〕 ・ リ ハ ビ リ で 先 生 に 筋 力 つ い て〔I
〔Gさ ん2回
目〕 事 故 で 寝 て る 人 は つ らい け れ
ど 、 自由 に何 で も動 け る だ け に 、 痛 み が 逆 に 辛 い
こ と も あ る 。 入 院 し て い れ ば あ き らめ も入 っ て い
い る か ら も う リハ ビ リ は い い っ て 言 わ れ た ん で す
る ん で す け ど ね。 見 た 目 よ り本 人 は苦 しい で す。
よ 。 な に か あ っ た ら そ の と き っ て 。い い ん で し ょ 、
や っ ぱ り手 悪 くな い の で、 一 応 家 事 こ な さな け れ
き っ と 。 外 を 歩 く こ と が リハ ビ リ だ っ て 。 そ の と
ば だ め だ か ら。 リハ ビ リだ か らや ら な き ゃ な らな
き に よ っ て 、い い 日 と 悪 い 日 が あ っ て 。 ・先 生 は 骨
い。
−40−
〔Fさ ん3回
目〕中 学 校 の 友 達 に あ っ た、た ま た
順 調 な 回 復 が 滞 っ た と き な どの 、 患 者 が 自 身 で 認 識 す
目 に散 歩 して い た と き、「あ た っ た の か」な
る 身体 的 な 回復 が 十 分 で は な い と き、 事 故 を思 い 出 す こ
ん て 言 わ れ て が っ か り した よ な。・家 の 中 で、体 あ
とが 増 え る と語 ら れ て い た。 外 傷 後 の心 的 な 反 応 は 、外
ん ま り き か な くな っ て。 た っ た2段 の 階 段 あ が ら
傷 とな っ た体 験 の 恐 怖 や 無 力 感 か ら起 こ る とい う考 え 方
れ ね え した もの な …
が トラ ウマ 理 論 で は 一 般 的 で あ る。 しか し、 本 研 究 の患
ま2回
椅 子 ず っ と座 って い た ら、
疲 れ て。
さ
〔I
ん3回
者 は 、 事 故 後 の 身体 状 態 とそ の 認 識 に よ っ て 、 トラ ウマ
目〕・退 院 で き る っ て こ とは 完 全 に
反 応 は 大 き く影 響 を 受 け て い た 。 藤 田14)の研 究 で も、 交
治 っ た って い う感 じだ し。 そ れ が 、 歩 くの が こ れ
通事 故 後 の 長 期 的 影 響 に は 、 身 体 の 後 遺 症 の 程 度 、事 故
ほ ど苦 しい と は思 っ て い な か っ た。・入 院 して い
後 の 生 活 、 仕 事 や 家 事 へ の 影 響 が 関 係 して い る と、 本 研
る と、 み ん な も う そ ん な に歩 け るの とか 言 っ て く
究 と 同様 の 結 果 で あ る こ とが 示 され た。 この こ とは 、 事
れ る か ら、 励 み に な り ます よ ね。 入 院 中 は とに か
故 の イ ンパ ク トを の ぞ く こ と は で き な く と も、 事 故 後 の
く早 く動 け る よ う に な ろ う っ て 、 必 死 で や っ て い
ケ ア に よ っ て患 者 の トラ ウマ 反 応 の 苦 痛 を軽 くで き る と
た。 そ れ しか な か っ た の よ ね。・旅 行 の こ と み な が
い う こ と を示 して い る とい え よ う。 以 下 に交 通 事 故 後 の
ら、 い け な い ん だ とか 、 飛 行 機 に 乗 れ るの か な と
患 者 の トラ ウ マ 反 応 の苦 痛 を軽 減 す る看 護 ケ ア に つ い て
か、美 術 館 巡 り とか 。 で も、い け な い ん だ とか ね 。・
考 察 す る。
家 に 帰 っ て か らの 方 が ナ ー バ ス に な っ て い る。 近
所 の 人 に 骨 折 の 話 を した ら 「気 持 ち悪 い」 と言 わ
1)入
院中の看護 、精神 的ケ アについ て
(1)療
れた。
何 人 か の 患 者 が 、 退 院後 の 生 活 が 想 像 以 上 に不
養 環境
事 故 の 直 後 は 、 安 心 で きる 環 境 が 大 変 重 要 で あ
自 由 に な っ て し ま っ た体 験 を語 っ た 。 この く らい
る 。加 害 者 が ふ い に現 れ た りす る こ と の な い よ う、
の こ とが で きな い とい う体 験 に よ る情 け な さや 無
患 者 の 側 に 立 っ た患 者 を保 護 で きる環 境 が 必 要 で
念 の 思 い 、 不 自 由 な 身体 に 対 す る 他 者 の 見 る 目 を
あ る 。 患 者 が 療 養 す る の に 適 した 環 境 を考 え る こ
感 じる体 験 も語 られ た 。 退 院す る こ とに よ っ て 、
とは 重 要 で あ る。
仕 事 や趣 味 に対 して の思 い が 入 院 中 よ りも強 くな
る の だ が 、 ま まな らな い こ との い らだ ち 、 入 院 中
(2)痛
み の コ ン トロ ー ル
本 研 究 で は 、 痛 み に よ る不 眠 、痛 み に よる 事 故
は い ろ い ろ な こ と に あ き らめ て い られ る こ とや 、
の 想 起 が 多 か っ た。 で き る 限 りの ペ イ ン コ ン ト
周 囲 の 励 ま し、 同 じ よ う な状 況 の 人 と一 緒 に が ん
ロ ー ル が 、 トラ ウマ 反 応 の 予 防 の た め に も重 要 で
ば れ る な どの プ ラ ス に は た らい て い た こ とが 、 退
あ る こ とが 示 唆 され た 。
院 して リハ ビ リ も 自分 で や っ て 良 い と い う状 況 に
(3)日
常 生 活 の 支 援 を通 して の 精 神 状 態 の アセ ス メ
ン ト、 ス ク リー ニ ング
な る と な くな っ て い く とい う思 い が 語 られ た 。
患 者 は、 強 い 恐 怖 や 苦 痛 が あ る た め に、 思 い 出
した くな い 、聞 か れ た くな い 時 期 も確 か に あ っ た 。
Ⅴ
.交 通 事 故 患 者 の 精 神 的 ケ ア に つ い て の 考 察
本 研 究 で は 、何 人 か の患 者 に 、 退 院 後 にPTSD症
状
事 故 の 想 起 は患 者 の ペ ー ス で行 う こ とが 原 則1)で
上 昇 が 認 め られ た 。 退 院 して 日常 生
あ る 。 本 研 究 で は 、 ラ ジ オ や雑 誌 を片 時 も離 さ な
活 に戻 る こ とで 、 事 故 を想 起 させ る場 面 や 出 来事 は増 え
い 、 リハ ビ リ に過 剰 に 集 中す る な ど、 必 死 に トラ
て い た 。 身体 の 回 復 が順 調 で あ っ て も、 心 理 的 後 遺 症 に
ウ マ 反 応 に対 処 して い た こ とが 明 らか に され た 。
つ い て 自覚 し 「気 持 ち の 整 理 が で きて い な い 」 と語 っ た
患 者 が 事 故 や 精 神 的 苦 痛 に つ い て 語 ら な い場 合 、
患 者 もあ っ た 。 こ の よ う に 実 際 に事 故 を想 起 させ る よ う
日 々の 看 護 ケ ア を 通 して 、 行 動 や 表 情 、 対 処 の た
な場 面 に遭 遇 す る こ と だ け で な く、 考 え て い た 以 上 に 日
め の 行 動 を ア セ ス メ ン ト して い く こ と必 要 が あ
常 生 活 へ 支 障 が あ った こ と、 痛 み が 続 い て い る こ と、 身
る 。 患 者 が 語 る ニ ー ドが あ る と き に は 、 い つ で も
体機 能 の回復が患 者の思 って いた ように進んで いない こ
対 応 す る準 備 が あ る とい う表 明 を して い る こ と、
と な どが 影 響 要 因 と な っ て い る と思 わ れ た 。IES-R
そ の と き に は安 心 して語 れ る場 を提 供 す る こ と、
値 と イ ン タ ビ ュ ー か ら見 て 取 れ た 患 者 の 苦 痛 や 不 自 由 さ
患 者 の 思 い に まず は耳 を傾 け る こ と、 必 要 な らば
な ど の 関 係 か ら、IES-RはPTSD症
状 をみ るだけ
リ ソー ス を検 討 す る な どが 可 能 で あ ろ う。 患 者 が
で な く、 患 者 の 主 観 的 な 回 復 の 目安 と もな る の で は な い
安 心 し て語 れ る 場 づ く りに は 、 安 全 で あ た た か な
か と示 唆 され た 。 ま た 退 院 とい う こ とが 、 患 者 に と っ て
信 頼 関 係 づ く りを看 護 の 側 か ら意 図 して 関 わ る 必
は ひ とつ の 心 理 的 な危 機 と も考 え られ た 。
要 が あ る こ と は言 う まで もな い 。 また ア セ ス メ ン
(IES-R値)の
−41−
トの 際 、 今 回本 研 究 で使 用 したIES-Rは
TSD症
、P
の 反 応 を理 解 し、 必 要 で あ れ ば 支 援 を 得 る こ とが で
状 は もち ろ ん 、 トラ ウ マ 反 応 の 大 き さ を
き る た め に有 効 で あ ろ う。 交 通 事 故 とい う体 験 の 後
予想す る指標 に もなったので、 ス クリーニ ング と
に、 どん な こ こ ろ の反 応 が 起 こ っ て くる の か 、 安 全
して活 用 で きる も の と考 え る。
な場 で 話 を す る こ とや 相 談 で き る相 手 が い る こ と で
(4)患
者 の も と も と の生 活 の 情 報 を集 め 、 障 害 され
楽 に な る こ と、 相 談 す る場 所 も あ る な どの 知 識 を提
る部 分 を ア セ ス メ ン ト して 、 患 者 と と も に対 処 方
供 す る こ とが 必 要 で あ る。 も ち ろ ん 退 院 の 時 の み で
法 を考 え る こ と。
な く、 入 院 中 か ら も こ の よ う な知 識 が あ る こ と は 、
前 述 した とお り、 入 院 当初 か ら退 院 後 の 生 活 を
患 者 の 助 け に な る と考 え る 。
常 に視 野 に 入 れ て お くこ とは 重 要 で あ る。 医療 側
退 院 後 は 、 わ け の わ か ら ない 痛 み や 日常 生 活 上 の
の 見 立 て と、 患 者 の 願 い や 思 い の 相 違 を常 に 頭 に
不便 について、精 神的 ケアの意 味か ら もこちらか ら
置 き なが ら、 患 者 と と もに生 活 上 の リハ ビ リ を入
か か わ りを もつ こ と、 本 人 の 主 観 的 回復 を常 に念 頭
院 中か ら行 っ て い くこ とが 大 切 で あ る。
に お い て 、 リハ ビ リや 外 来 の ケ ア を行 う こ とが 必 要
で あ る と考 え る 。
2)患
者 に とっ て の 回復 目標 とそ の 達 成 度 を共 有 す る
今 回3回
目の話 が 聞 け な か っ たEさ
ん 、Gさ
ん、
医 師 の判 断 は 「順 調 」 な 回復 で あ っ た が 、患 者 に
Jさ ん が 、 精 神 的 に辛 い 時 期 で あ っ た た め に 、事 故
は そ う は思 え ず 、 回 復 が 目に 見 えず 停 滞 して い た場
が 思 い 出 さ れ る イ ン タ ビ ュ ー を 避 け て い た 可 能性 も
合 に 事 故 が 思 い 出 され て し ま う こ とが 明 らか に な っ
考 え られ た 。 ケ ア に あ た っ て い るわ け で は な い研 究
た 。 お そ ら く 日常 の 診 療 や リハ ビ リの 場 面 で は 医療
者 の 限 界 で あ る と 同 時 に、 援 助 が 本 当 に必 要 な 人 へ
者 が 意 識 し な け れ ば 、 患 者 の 主 観 的 な 回復 へ の 思 い
の ア プ ロ ー チ の 方 法 の 難 し さ も示 唆 して い る と考 え
や 、 患 者 な りの 目標 とそ の 達 成 度 は 理 解 で き な い で
る。
あ ろ う。 医 療 者 が 考 え る 「順 調 」 と患 者 の 認 識 の ず
(受 理 日;平 成16年12月22日)
れ は予 想 以 上 に大 きい の か も しれ な い 。 患 者 の認 識
に耳 を傾 け る の み で な く、 実 際 の 患 者 の 生 活 に も と
つ い た 、 回 復 の 度 合 い を 目 に見 え る形 で提 示 す る こ
Ⅵ
.引 用 文 献
1)厚
生労働省
精 神 ・神 経 疾 患 研 究 委 託 費 外 傷 ス トレ
とが 大 切 な の で は な い か と考 え る。 また 、 退 院 して
ス 関 連 障 害 の 病 態 と治 療 ガ イ ドラ イ ン に 関 す る研 究
は じめ て 、 か らだ が 思 う よ うに は た らか な い こ との
班 編:心
重 大 さ に気 づ くこ と もあ っ た 。 入 院 中 か ら 、患 者 の
2) American
生 活 と予 想 され る状 態 を話 し合 う機 会 を もつ こ と、
statistical
そ れ が あ っ て は じめ て 、 退 院 の 時 期 が 、 患 者 の 社 会
DSM —IV . APA, Washington,D.C.1994.
的 状 況 と合 わ せ て 決 め られ る よ う な体 制 が 望 まれ
大 野 裕,染
る。
Psychiatirc
manual
理 教 育 的 ア プ ロー チ と退 院 後 の ケ ア
4)杉
め
くな っ た こ とが 良 い 意 味 だ け で あ れ ば よ い が 、 実 際
15,15,2003,
に 車 に乗 れ な い 、 過 剰 な 反 応 、生 活 に 関 わ る影 響 も
5)近
ク に よっ て 苦 痛 を体 験 した り、事 故 を 思 い 出 して は
6)日
い や な気 持 ち に な っ て も、 だ れ に も相 談 で きな い 状
況 が 、 時 間 が 経 つ に つ れ 増 え て い くで あ ろ う。 研 究
神疾患 の診断 ・
合 病 院 精 神 医 学,
害 後 の 精 神 看 護 −心 的外 傷 の 回復 過 程
床 看 護25(4),527-532,1999.
本 ト ラ ウ マ テ ィ ッ ク ス ト レ ス 学 会 シ ン ポ ジ ウ ム,
災 害 時 の精 神 保 健 活 動 に お け る多 職 種 間連 携
7)広
常 秀 人,岩
S6,外
者 が イ ン タ ビュ ー す る こ と も、 回 復 を 実 感 して い る
切 昌 宏:交
通 事故
臨床精神 医学講座
傷 後 ス ト レ ス 障 害.185-197,中
山 書 店,
2000.
時 とは う っ て か わ っ て 、 退 院後 や 回復 が 滞 っ て い る
と患 者 が 感 じて い る と き は 、 で き れ ば 避 け た い と の
(高 橋 三 郎,
的 外 傷 後 ス ト レ ス 障 害)を
ぐ る 法 的 諸 問 題,総
澤 範 子:災
and
4th edition,
床 精 神 医 学,29(1),35-p40,2000.
へ の 支 援 − ,臨
見 ら れ た 。 い つ まで も夢 に見 た り、 フ ラ ッ シ ュ バ ッ
: Diagnostic
disorders,
診 断 と治 療 お よび 早 期 介 入
田 雅 彦:PTSD(心
らず 、 心 理 的 後 遺 症 に気 づ くこ と もあ っ た 。 用 心 深
ほ う,2002.
学 書 院,1996.)
鳥 井 望:PTSDの
の 有 効 性,臨
患 者 は 、 退 院 して 初 め て 、 身 体 的 な後 遺 症 の み な
Association
of mental
谷 俊 幸 訳:DSM-IV,精
統 計 マ ニ ュ ア ル,医
3)飛
3)心
的 トラ ウマ の 理 解 とケ ア,じ
8)広
思 い が あ っ た よ うで あ る。
常 秀 人:交
通 事 故 被 害 者 の メ ン タ ル ヘ ル ス,臨
床
精 神 医 学,30(4),389-394,2001.
通 常 起 こ って くる 反 応 や症 状 、対 処 方 法 な ど の情
報 を提 供 す る心 理 教 育 的 ア プ ロ ー チ15)は患 者 が 自 身
−42−
9)藤
田 悟 郎:交
通 事 故 被 害 者 の心 的 反 応 と心 的 ス トレ
ス の 予 測 要 因,上
智 大 学 心 理 学 年 報,25,2001.
10)岩
切 昌 宏,広
常 秀 人 ら:交
通 事 故 とPTSD−
ある
救 命 救 急 セ ン タ ー に 搬 送 され た交 通 事 故 患 者 の 調 査
よ り,大 阪 教 育 大 学 紀 要48(2),375-386,2000.
11)藤
田 悟 郎:交
通 事 故 とPTSD,臨
床精神 医学増刊
号,165-171,2002.
12) Asukai, N., Kato, H., Kawamura, N., Kim, Y.,
Yamamoto, K., Kishimoto, J., Miyake, Y., Nishizono
—Maher , A.: Reliability and validity of the Japanese
—language version of the Impact of Event Scale —
Revised (IES — R — J): Four studies on different
traumatic events. The Journal of Nervous and
Mental Disease 190:175— 182, 2002..
13) Weiss, D.S. & Marmar, C.R.: The Impact of Event
Scale — Revised. In: Wilson, J.P., Keane T.M. eds.,
Assessing psychological trauma and PTSD. The
Guilford Press, New York, 1997,p399 —411.
14)藤
田 悟 郎:交
通 事 故 の 精 神 的 後 遺 症,日
本 トラ ウ マ
テ ィ ッ ク ス ト レ ス 学 会 誌,1(1),39-45,2003.
15)近
澤 範 子:PTSDと
の 回 復 へ の 支 援 −,精
こ こ ろ の ケ ア− 心 的 外 傷 か ら
神 科 看 護58,2-10,1996.
謝辞
本 研 究 をす す め る に あ た り、 対 象 と な っ て くだ さ い ま
した患 者 様 へ 深 く感 謝 申 し上 げ ます 。 本 研 究 へ の 理 解 と
あ た た か い支 援 を い た だ きま した 病 院 の 院 長 、 副 院長 、
医 長 、 主 治 医 の 先 生 方 へ 深 く感 謝 申 し上 げ ます 。 ま た 、
中村 総 看 護 師 長 、 寺 澤 看 護 部 長 、 小 田 原 副 総 看 護 師 長 、
伊 藤 病 棟 師 長 、 斉 藤 病 棟 師 長 、 そ して ス タ ッ フの 皆 様 に
は 、 お 忙 しい 業 務 の 中 、 患 者 様 へ の フ ォ ロ ー と きめ の 細
か い サ ポ ー トを研 究 者 に もい た だ き ま した 。 青 森 県 立 保
健 大 学 健 康 科 学 部 学 部 長 中村 恵 子 教 授 に は 研 究 の フ ィ ー
ル ドの ご紹 介 を は じめ 、 ご 指 導 い た だ き ま し た。 皆 様 本
当 にあ りが と う ご ざい ま した 。
−43−