第9回 政策の創造的エミュレーション

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Text:土屋大洋
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スタイリストが見た東京カルチャーと
日常風景
この原稿がウェブに載る頃には「IT新改革戦略」が発表されているは
ずだ。これは、政府が1994年に高度情報通信社会推進本部を内閣に設置
して以来、積み重ねてきた情報通信政策の最新版になる。1990年代後半
の日本の情報通信はひどく遅れていると内外から批判されていた。米国
政府からも日本の構造改革にはインターネットの導入と通信市場の改革
が必要だと注文がつけられていた。
‘事件’から‘ビジネス’までITの行
方を確実に捉える
混乱する経済論戦シーンを明解
に読み解く
最近、どこで本買
う?
ところが、2000年7月にIT戦略会議が設置され、IT基本戦略が決定さ
れると、急速に日本の情報通信市場は動き出した。同年11月には高度情
報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)が成立し、翌年1月に施
行された。同時にIT戦略本部が設置され、e-Japan戦略が決定される。
この頃からADSL(非対称デジタル加入者線)によるブロードバンドが普
及し始め、回線速度はどんどん速くなっていく。「5年以内に超高速アク
セス(目安として30∼100Mbps)が可能な世界最高水準のインター
ネット網の整備を促進し、必要とするすべての国民が低廉な料金で利用
できるようにする。(少なくとも3000万世帯が高速インターネット網
に、また1000万世帯が超高速インターネット網に常時接続可能な環境の
整備を目指す。)」という目標は、とうてい不可能に見えたが、そうし
たネットワークに加入可能というレベルでは前倒しで達成された。2003
年にはe-Japan戦略IIが決定された。
Web2.0的信頼の構
その後、総務省は、政府全体の政策ではないが、2004年にu-Japan戦
略を打ち出し、ユビキタスな情報環境の構築を目指してきた。こうした
政策の積み重ねの延長に「IT新改革戦略」がある。
フランスの「iTMS公開法
案」、支持する?
無論、まだまだ不満もあるだろう。e-Japan戦略IIで取り上げられた七
つの分野(医療、食、生活、中小企業金融、知、就労・労働、行政サー
ビス)におけるIT利活用の充実が、分野によっては思ったほど進んでい
ない。しかし、政府が最初にインフラの整備に取り組んだ点は評価して
いいはずだ。
Vol.33
築(後編)
YES:
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7322
2006年3月31日(金)
06.11.21 4:57 PM
なぜ政府の政策はうまくいったのだろうか。
この質問を、なぜブロードバンドは普及したのか、という点に置き換
えれば、さまざまな理由が考えられる。NTTが加入者線を安く開放した
ことが大きいし、それに呼応してソフトバンクのYahoo! BBなどが価格
競争を仕掛けたことで業界の秩序が変わった。光ファイバのFTTHはNTT
の独壇場になると思ったら、USENや電力会社が通信に参入してきた。日
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米接続料交渉を通じた米国からの圧力もあったし、米国のニュー・エコ
ノミー好況が日本の構造改革を後押しした(その後、米国のITバブルは
はじけてしまうが)。
「家族の携帯を監視するソフ
ト」に警告
バイオテロへの備えは万全? ペ
ンサイズの血液浄化器
アップル商標裁判:「iTMSは
データ転送」と米アップル
スティーブ・ジョブズ名言集
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世界の処方薬売り上げトップ10
と今後期待の新薬
注射針を不要にする新技術(下)
イラン政府、ブログへの締め付
けを強化(下)
オーディオファイ
ル形式ガイド (第2回)
人間かロボット
か、それが問題だ (第4
回)
作成環境は複合機+デジカメ+年賀
状ソフト?
しかし、これをもう一層上の政策のレイヤで見てみれば、政府が慎重
に各国の政策をエミュレートしたからではないだろうか。
辞書でエミュレートとは「模倣、競争、対抗、張り合い」といった意
味とされている。これは単なる複製としてのコピーではない。薬師寺泰
蔵は『テクノヘゲモニー』(中公新書、1989年)の中でヨーロッパの国
々や米国、それに日本は技術のエミュレーションによって台頭してきた
としている。ここでエミュレーションは「模倣+α」だとされている。α
とは、競争と他の技術との連結である。つまり、優れた先行する技術を
競争的に模倣し、自分の環境や新しい情勢に対応する形で別の技術と連
結したり、新しい要素を上乗せしたりすることで創造的な発展が進むと
いう。
薬師寺の議論は「技術」のエミュレーションだが、私は「政策」のエ
ミュレーションも重要ではないかと思う。つまり、各国は情報通信のよ
うな新しい領域の政策は、これまでの歴史的な流れの延長では作れな
い。むしろ、先行している国の政策を研究・分析し、それを自国に合わ
せた形で取り入れていく。技術のエミュレーションは特許や著作権とい
う形で保護されているが、政策は保護されていない。政策の文言をその
ままコピーするような事態は滅多に起きないだろうが、それぞれの国の
実情に合わせてエミュレートされることは頻繁に起きているだろう。
例えば、日本に先行してADSLが韓国で普及したとき、「韓国ででき
ることがなぜできないのか」という声が政府やNTTを動かす世論になっ
た。そして、韓国や日本でブロードバンドが普及すると今度は米国で、
「アジアにブロードバンドで負けてしまっている。米国の競争力を取り
戻さなくてはならない」と米国で論じられるようになった。
土屋大洋の「ネット・ポリティックス」 Back Number
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こうしたアジアからの刺激を受けたのが米国上院議員だったアル・ゴ
アだった。彼はHPCC(High Performance Computing and
Communication)構想を打ち出し、ハイテク・セネター(上院議員)と
あだ名された。そのゴアが副大統領候補として1992年の大統領選挙に
撃って出たときの政策が「情報スーパーハイウェー構想」だった。大統
領候補のビル・クリントンとゴアのコンビが大統領選挙に勝利すると、
情報スーパーハイウェー構想は「国家情報基盤(NII:National
Information Infrastructure)構想へと衣替えする。政府主導の構想は民
間主導へと置き換わるものの、インターネット革命、情報革命の主役と
なったのは米国だった。
この米国の政策に驚いた各国は次々とその政策をエミュレートしてい
く。韓国のKII(Korean Information Infrastructure)構想やヨーロッ
パのバンゲマン・レポート、後のe-Europeなどである。そして、日本の
IT基本戦略、e-Japan戦略へとつながっていく。
技術としてのITはエミュレーションが非常に簡単である。無論、そこ
には特許や著作権などで保護された知的財産があるが、ソフトウェアは
コピーし、改変していくことで進化が進んでいる。オープンソースはそ
れをラディカルに追求して成り立っている。しかし、それと同時に政策
もまた競争的に模倣され、拡散し、発展していっているのではないだろ
うか。
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ブロードバンドにつながる政策を振り返ってみると、まず1990年、政
府の政策ではないが、NTTがVI&P(Visual, Intelligent & Personal)構
想を発表した。インターネットがまだ一般にはほとんど普及していな
かった頃である。1991年にはシンガポールのリ・クワン・ユー首相が
「IT2000:インテリジェント・アイランド」構想を発表し、情報通信技
術への投資がシンガポールの発展に不可欠であることを示した。
日本の情報通信政策が成功したのは、慎重に各国の政策をウォッチ
し、都合の良いところだけうまく取り込み、発展させたからだろう。例
えば、当初の世論が強かったのに取り入れなかった例は周波数のオーク
ションである。最初に米国でPCS(Personal Communication
System)の周波数割り当てに用いられて成功した。この時点ではオーク
ションは好評価だったが、第三世代携帯電話の割り当てに欧州で使われ
てテレコム・メルトダウンにつながる失敗をした。そこで総務省はオー
クションにきわめて慎重な立場をとるようになっている。
しかし、政策でできる選択肢はそれほど多くない。政策は市場を歪め
るものだ。正常に機能している市場を歪める政策は難しい。逆に、市場
が正常に機能した結果、ネットワーク産業が独占に進んだ場合、政府は
あえて市場に介入して市場を歪めようとするかもしれない。政府はその
ために非対称規制を設定したり、補助金を出したり、目標を設定したり
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することができるだろう。ところが、インターネットがこれだけ普及す
ると、政策に関する情報を持っているのは政府当局だけではない。事業
者の側にも、在野の研究者にもさまざまな政策情報が蓄積されている。
そうした中で政府が大胆な政策をとるのは難しい。各国の政策を相互に
参照しながら、理論武装し、妥当性を主張しながら政策を展開していく
ことになる。
日本にとって難しいのは、モデルとなる政策事例が少なくなってきた
ことだ。1990年代後半まで、日本の情報通信政策は、米国のAT&T分割
というテンプレートをいかに日本市場に適用するかで議論されてきた。
しかし、NTTの分割問題は一応の解決を示すとともに、インターネット
という黒船もやってきた。政策をリセットしなくてはならなくなった。
ますます他国の政策を創造的にエミュレートする必要に迫られてきてい
る。日本の情報通信政策は先端から先導へ変わってきているとe-Japan
の評価専門調査会報告書は指摘している。「IT新改革戦略」は、ITを使っ
た構造改革を促すテンプレートとして、各国に参照されるものになるの
だろうか。
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