タイの軍事クーデターについて

Strategy Report
Mitsubishi UFJ Asset Management
タイの軍事クーデターについて
2014年5月23日
グローバル・マーケット・ストラテジー・チーム
チーフストラテジスト
石金 淳
 22日、戒厳令下のタイで、プラユット陸軍総司令官が陸軍、海軍、空軍、警察で組織された
「国家平和維持評議会」がタイの全権を掌握すると宣言し、タイ国軍(以下、軍部)による軍
事クーデターが発生したことを示しました。
 タイでは、インラック首相失職後も反政府勢力のデモ活動激化などから混乱が続き、20日に
軍部が戒厳令を敷いたものの、タクシン派と反タクシン派が鋭く対立し、事態収拾の目処が
つかなくなっていたことが、軍事クーデターに繋がった模様です。
 クーデター発生後の治安は維持されており、また今後軍部主導の暫定政権発足により、政
情が安定する可能性はありますが、タクシン派と反タクシン派の対立が解消されたわけでは
なく、なお先行き不透明感が残るとみています。
 クーデター発生に伴う内需低迷や海外からの投資の手控えなどを受けてタイ景気は当面低
迷を余儀なくされ、同国の株価や通貨の上値は重いとみていますが、今後政治的な先行き
不安が後退するならば、景気回復の兆しとともに、株価や通貨は底堅い展開に移行すると
考えています。
戒厳令を経て、タイで軍事クーデター発生
22日、戒厳令下のタイで、プラユット陸軍総司令官が陸軍、海軍、空軍、警察で組織され
た「国家平和維持評議会」がタイの全権を掌握すると宣言し、軍部による軍事クーデターが発
生したことを示しました(これにより、二ワットタムロン首相代行率いる暫定政権は崩壊)。
タイでは、20日の戒厳令発令後、政府のほか、タクシン派(タクシン元首相の支持派、7日に
失職したインラック前首相はその妹)と反タクシン派の代表者などが首都バンコクに集まり、調
停協議を行いましたが、タクシン派の与党政権が総辞職を拒否するなど調停は不調に終わ
り、出席者は選挙管理委員会関係者等を除いて軍部に拘束されたと伝えられています。な
お、その中にはタクシン派政権代表のチャイカセーム法相、反政府デモ指導者のステープ元
副首相、最大野党である民主党党首のアピシット元首相が含まれている模様です。
プラユット陸軍総司令官は、タイ国民の生命や国内平和の維持のため国権を掌握したと述
べ、国民に平静を保ちながら平常通りの生活をするように呼びかけました。もっとも、クーデ
ター発生後は、夜間外出禁止令(午後10時から午前5時まで)、政治抗議活動の禁止、王
室関連条項等を除く憲法の停止、軍関係以外のテレビ・ラジオの放送禁止などが発令されま
したが、上院や司法機関等は存続し、またタイ国内の空港や証券取引所は通常通りとなるな
ど市民生活に目立った混乱は起きていないようです。
当資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、投資勧誘を目的としたものではありません。投資の最終決定
はお客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。当資料に示されたコメント等は、当資料作成日現在の見解であり、事前
の連絡なしに変更されることがあります。投資信託は株式、公社債等値動きのある証券に投資しますので、基準価額は変動し
ます。したがって、金融機関の預金とは異なり元本が保証されているものではありません。投資信託は、預金保険の対象とは
なりません。金融商品取引業者以外でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象ではありません。本資料は当
社が信頼できると判断したデータにより作成しましたが、その正確性、完全性等について保証・約束するものではありません。
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クーデター発生の背景と今後の見込み
タイでは、昨年11月、タクシン元首相の帰国につながる恩赦法を巡って与野党間、もしくは
政府支持勢力と反政府勢力の間での対立が深刻化し、それ以降、大規模な反政府デモの
発生などによって政情混乱が続いていました。
そうしたなか、今月7日にインラック首相が職権乱用の違憲判決で失職しましたが、二ワット
タムロン副首相兼商業相が首相代行となり、依然としてタクシン派による政治運営が続いてい
ました。そして、その影響力排除を目論む反政府勢力のデモ活動が激化し、混乱収拾の目
処がつかなくなったことが、20日の戒厳令発令を経てこの度の軍事クーデターに繋がった背
景にあるとみています。ただ、軍部自体が官僚や企業経営者、王党派等と同じく既得権益擁
護色が強い反タクシン派に属しているとみられ、最近の政治的混乱はタクシン派を政治権力
から排除する好機であるととらえ、クーデターを起こしたと一部で報道されています。
クーデター発生後の治安は維持されており、また今後軍部が任命した首相の下で暫定政権
が発足することにより、政情は安定する可能性があります。ただ、タクシン派と反タクシン派の
根深い対立が解消されたわけではなく、また、政権を追われたタクシン派は北部の農村地域
などに中低所得者層を中心とする強固な支持基盤を持っており、選挙では優位に立つとみら
れ、先行き不透明感はなお残存すると考えています。
(タイバーツ)
26
(ポイント)
2,000
タイの株式市況とタイバーツ
タイバーツ(対米ドル)〔左軸〕
27
1,800
タイSET指数〔右軸〕
28
1,600
29
1,400
30
1,200
31
1,000
32
800
タイバーツ高
33
34
10/5/23
11/5/23
12/5/23
(出所)Bloombergのデータを基に三菱UFJ投信作成、土日祝祭日は前営業日のデータを使用
600
13/5/23
400
14/5/23
(年/月/日)
タイSET指数の2014年5月23日は現地14時現在、対米ドルレートは縦軸反転でNY市場終値(2014年5月23日のみ東京市場16時現在)
クーデター発生は当面経済の重石ながら、景気サポート要因にも注目
経済面に目を移すと、19日に発表されたタイの1-3月期の実質GDP(国内総生産)は、市
場予想を下回る前年同期比0.6%のマイナス成長となり、大洪水の被害で前年割れとなった
2011年10-12月期以来の低調な動きとなりました。これは大洪水復旧に対応した景気対策
効果の剥落とともに、昨年秋以降の大規模デモによる政情混乱によって、個人消費や投資
が大きく減速したことがあるとみています。
当資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、投資勧誘を目的としたものではありません。投資の最終決定
はお客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。当資料に示されたコメント等は、当資料作成日現在の見解であり、事前
の連絡なしに変更されることがあります。投資信託は株式、公社債等値動きのある証券に投資しますので、基準価額は変動し
ます。したがって、金融機関の預金とは異なり元本が保証されているものではありません。投資信託は、預金保険の対象とは
なりません。金融商品取引業者以外でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象ではありません。本資料は当
社が信頼できると判断したデータにより作成しましたが、その正確性、完全性等について保証・約束するものではありません。
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そして、先述のようにタイ国内の政治的対立は未解決であることなどから、海外の企業経営
者等の懸念が払拭されるには時間がかかると思われます。このため、直接投資や貿易などへ
のマイナス面は残ると見込まれ、加えてタイの内需低迷もあり、タイ景気の足取りは当面重い
とみています。
ただ、軍部主導とはいえ暫定政権が発足し、政治的な安定が得られる場合は、政府支出の
ほか、個人消費や観光業などの持ち直しといったプラス面が徐々に現れる可能性があると考
えます。また、米国を中心に海外景気が堅調であること、およびタイの金融政策が緩和の方
向にあることなどは、タイの景気には一定のサポート要因になると考えられます。そして、タイの
政治的安定が続き、先行き不安が後退するならば、海外からの直接投資の持ち直しなども現
れ、タイ景気は回復に向かうと考えています。
なお、タイの株式市況は、23日、前日のクーデター発生を受けて下落し、現地時間14時現
在、前日比1.50%の下落となっています。一方、同じ時間の通貨タイバーツは前日終値(NY
市場)とほぼ同水準で推移しています。今後は、しばらくタイの政治や景気への警戒感が残存
することから株価、通貨ともに上値が重いとみていますが、その後政治の安定度が増し、景気
回復の兆しが出てきた場合は、双方とも次第に底堅い展開に移行するとみています。
当資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、投資勧誘を目的としたものではありません。投資の最終決定
はお客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。当資料に示されたコメント等は、当資料作成日現在の見解であり、事前
の連絡なしに変更されることがあります。投資信託は株式、公社債等値動きのある証券に投資しますので、基準価額は変動し
ます。したがって、金融機関の預金とは異なり元本が保証されているものではありません。投資信託は、預金保険の対象とは
なりません。金融商品取引業者以外でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象ではありません。本資料は当
社が信頼できると判断したデータにより作成しましたが、その正確性、完全性等について保証・約束するものではありません。