交通信号機の廃品を用いた無線式野球カウントボード

交通信号機の廃品を用いた無線式野球カウントボード
THE WIRELESS TYPE BASEBALL COUNT BOARD USING
THE WASTED TRAFFIC LIGHT MACHINE
小田 徹*1・岡崎 昭夫*2・高橋 優介*3・山西 俊二*4
Toru ODA*1, Akio OKAZAKI *2, Yusuke TAKAHASHI *3 and Shunji YAMANISHI *4
*1 電気電子情報工学科講師,*2,*3,*4 電気工学科
In this laboratory, the count board installed in a baseball field from the last year is manufactured. The thing
manufactured last year was the size (90cm wide, 60cm height) by which even the infielders is seen even if it installs in
the side behind backstop. Then, even if it recycled the traffic light machine and installed in the back-stand side of 120
- 130m beyond this time, it could bear, size (180cm wide, 150cm height) manufacture was carried out, and the thing
(100 - 300m) which can operate the wireless type by remote control was realized. Moreover, it has manufactured for
about 200 thousand-yen only with the cost of materials. Although the wireless devices, the relays and a power supply
itself used the commercial thing. The baseball count board of the wireless type was made to realize by uniting its own
switching device with them systematically.
Key words : 交通信号機,無線式,野球カウントボード,リサイクル(再生利用)
traffic light machin,wireless type, baseball count board, recycling
1.はじめに
特注となるため数百万円になる.これまで,交通信号機の
廃品を利用した野球カウントボードの製作の事例として
本研究室では,昨年度(平成 14 年度)より野球場に設
は,全国ではいくつか例がある.しかし,すべて有線式の
置するカウントボードの製作を行っている.その野球カウ
操作であり,交通信号機のレンズおよび点灯ランプだけで
ントボード全体の大きさは,横 90cm×縦 60cm×奥 45cm で
作製したものが多い.この有線式の野球カウントボードの
ある.また,点灯ランプ 1 つの大きさは,直径 10cm のも
場合,長い配線は問題である.配線を地下に埋設すると経
のであった.これをバックネット裏に設置したが,外野手
費が高くなる.また配線をグランド脇に設置してもファー
には,多少見づらい大きさであった.また,指令塔である
ルボールやランニング練習等で無意識に引っかけたり,ス
捕手やベンチ内の監督・コーチ等からも少し見えにくい位
パイクによる配線の破損事故にもつながり危険である.
置でもあった 1).そこで今回は,120∼130m 先のバックス
そこで,本報告では,低価格で,しかも無線式で安全な
タンド側へ設置しても耐えうる大きさのものを製作する
野球カウントボードを実現することにした.最近では青色
こととした.その野球カウントボード全体の大きさは,横
発光ダイオード(LED)の開発に伴い,交通信号機が LED
180cm×縦 150cm×奥 90cm であり,点灯ランプの大きさも
ランプのものに変更されつつある.このことによって,従
直径 25cm である.このようなものを実際に購入すると,
来の交通信号機は廃品になることが推察される.したがっ
て,今回の点灯用のランプには,廃品になった交通信号機
*1 現在:電気電子情報工学科助教授
(3 機)を使用した.また,さらに安価にするため,カウ
*2 現在:九州工業大学大学院生命体工学研究科
ントボードの外枠ボックスには,市販の合板(横 180cm×
*3 現在:大分大学大学院工学研究科
*4 現在:九州工業大学大学院工学研究科
縦 90cm×厚さ 1.2cm)で作成した.また,かなりの重量
になるため,要所に鉄筋アングルで補強を加えた.この野
球カウントボードの特徴としては,無線式で遠隔操作が可
ズは,直径が 25cm と 30cm のものがあったが,今回はレ
能(100∼300m)である.交通信号機自体の防水性を生か
ンズ同士の間隔による見映えを考えて,全て 25cm のもの
しつつ利用しているため,廃品の交通信号機すべてをリサ
を使用した.また,3 機の交通信号機のレンズを入れ替え,
イクル可能である.また,無線機,リレー,パワーサプラ
図-4 のようにした.それらのものを,システマティック
イ自体は市販のものを使用するが,それらと自作のスイッ
に融合させるため,図-5 および図-6 のように無線機,リ
チング装置とをシステマティックに融合させている.なお,
レー,パワーサプライを結線し,無線式とした.
製作経費は,材料費だけで約 20 万円であった.
2.野球カウントボード
2.1
昨年度(平成 14 年度)の装置(有線式)
野球カウントボードの外枠のボックスにおいては,上下
には横 90cm×縦 45cm×厚 2cm のサイズ,左右には,横
60cm×縦 20cm×厚さ 2cm のサイズの木板を使用した.また,
正面には横 90cm×縦 60cm×厚さ 1cm のアクリル版を使用
し,裏ブタには正面と同サイズの木板を使用した.また,
木板を固定し補強するために,カラーアングルを使用した.
点灯ランプ 1 つの大きさは,直径 10cm である.完成した
小型の野球カウントボードを図-1 に示す.当時の要望か
ら米国式のカウント配置(BSO の順)で,有線式とした.
図-2
交通信号機を設置する外枠と補強用鉄筋アングル
図-3
スイッチボックス内の配線図
図-1 昨年度の野球カウントボード(有線式)
2.2
今回(平成 15 年度)の装置(無線式)
野球カウントボードの外枠のボックスには,市販の合板
(横 180cm×縦 90cm×厚さ 1.2cm)のもので作成した.ま
た,かなりの重量になることが予想されるため,要所に鉄
筋アングルで補強を加えている.完成した外枠と補強用の
鉄筋アングルの様子を図-2 に示す.また,無線機・リレ
ー・パワーサプライ自体は,市販のものを使用した.スイ
ッチボックスは,市販のアルミボックスに対して,電動ド
リルで 8 箇所に穴を開けた.そこに,スイッチを取り付け,
S:ストライク・B:ボール・O:アウトの表示が,それぞ
れ点灯するように,コードと各スイッチにハンダづけを行
ない図-3 のように結線した.点灯ランプには,廃品とな
った交通信号機を 3 機使用した.また,交通信号機のレン
図-4 リサイクルされる交通信号機(レンズ入替え済)
図-6
図-5 送信側の回路全体(送信部)
2.3
交通信号機の廃品利用
受信側の回路全体(受信部)
体の大きさは,横 180cm×縦 150cm×奥 90cm である.また,
最近,青色発光ダイオード(LED)の開発に伴い,交通
点灯ランプ 1 つの大きさは,直径 25cm のものであり,無
信号機が LED ランプの物に変更されつつある.このこと
線での操作可能(100∼300m)になっている.したがって,
によって,従来型の交通信号機は廃品になることが予測さ
昨年度との違いは,野球カウントボード全体の大きさがか
れた.そこで今回は,その廃品となった交通信号機をリサ
なり大きくなっている.設置位置もバックネット裏からバ
イクル(再生利用)することにした.今年度,製作した無
ックスタンド側となり,監督・コーチをはじめすべての選
線式野球カウントボードは,120∼130m 先のバックスクリ
手および観客等が,大変見やすくなった点である.また,
ーン側に設置する.また,設置場所から最も離れた本部席
材料費は約 7 万円から約 20 万円になった点もあげられる.
からまでは 150m の距離がある.しかしながら,交通信号
機は,道路交通法施行規則の信号機の構造等の第四条によ
ると,150m 以内の場所から最も識別しやすい色と大きさ
で設計されているとのことである.これは,野球カウント
ボードの利用目的に大変適した条件である.また,交通信
号機自体に防水加工が施されているため,そのまま図-7
のように組み込むことにより,配線等がむき出しになって
破損する心配も少なくなる.したがって,使われなくなっ
た廃品の交通信号機部分の全体(レンズおよびレンズ固定
ボックス)を,完全にリサイクルすることも可能となった.
2.4
昨年度と今回の違い
昨年度製作した野球カウントボード全体の大きさは,横
90cm×縦 60cm×奥 45cm の大きさであった.また,点灯ラ
ンプ1つの大きさは,直径 10cm のものであり,有線式(約
20m)での操作であった.今回の野球カウントボードの全
図-7
交通信号機を配置した野球カウントボード
行った.野球カウントボードの全体図を図-11 に示す.
無線での遠隔操作
2.5
無線での遠隔操作というのは,全国でも例がないようで
ある.これは,数万人を超える観客数がいたり,電波障害
等があれば,無線では誤作動が起こる可能性があることか
4.2
実験結果
野球カウントボードの中に,図-6 の受信部を全て入れ
らであろう.しかしながら,一般の野球場(中高大学等)
た状態でも,図-5 の送信部と受信部の間に障害物がある
および公共施設(市町村等)の野球場では,そこまでの精
状態でも,ランプはリアルタイムに点灯した.実際に使用
度(信頼性)は必要としていないのが現状である.むしろ
する本学の野球場では,操作スイッチング装置自体は本部
有線にした時の方が,さまざまな問題が考えられる.それ
内に設置している.その本部は金網フェンスや窓ガラスサ
は,配線をグラウンド脇の上空に通した場合,ボール等が
ッシ等で密閉されている.また,野球カウントボード自体
当たる可能性がある.また,グラウンド脇に配線しても選
との距離は 150m あった.このような状況下においても,
手等が無意識に踏んだり,引っかける等の事故につながる.
全く問題なくリアルタイムで点灯し動作した.また,点灯
また,有線を埋設すれば,これらの問題は解消されるが,
した状態で,様々な場所からランプを見てみた.1 番遠い
高い埋設工事費がかかることを考えると,今回の安価目的
本部からでも,1 塁および 3 塁のベンチ側からでも,はっ
には適さない.したがって,今回は無線式野球カウントボ
きりと点灯していることが確認できた.午前中の逆光によ
ードにして,安全性と交通信号機の廃品の完全リサイクル
る影響もあまり気にならない程度で点灯していた.実際に
(再生利用)等により低価格化で実現することにした.
試合中に使用しても,図-12 のように点灯していることが
確認できた.選手からも大変見やすくなったという声が多
3.
無線式野球カウントボードの概略
かった.また,指令塔である捕手からは,カウント確認の
ために,後ろを見なくても試合に集中でき,守備位置の指
スイッチボックスと送信機は,バックネット裏の本部に
示が出せるので,精神衛生上も大変助かるとのことである.
設置した.また,受信機の入った野球カウントボードは右
中間のバックスタンド側に置いた.その装置の概略図を図
5.
おわりに
-8 に示す.また,送信機から受信機までは約 150m の距離
がある.また,スイッチボックスは,横 29cm×縦 21cm
完成した野球カウントボードは,野球場のどの位置に居
の大きさである.また,左側のランプが点灯しないと右側
ても,大きさや色の区別がはっきりと識別のできるものと
のランプも点灯しないように工夫されている.スイッチボ
なった.また,多少の障害物を考慮した実験においても,
ックスの外観を図-9,全体の配線の概略図を図-10 に示す.
問題なく動作することが確認できた.また,この大きさで
の野球カウントボードを特注すると,数百万円になる.し
S
B
O
かしながら,従来の交通信号機が,廃品になっていたため
無料で入手できた.したがって,実際には,材料費だけで
約 20 万円という安価で製作することができた.これから
は,青色発光ダイオードの発明の恩恵により,交通信号機
の廃品が全国規模で多く排出される可能性が高い.このこ
とからも,交通信号機の完全リサイクル(再生利用)によ
り,安価に実現できることが予測される.
S
B
O
Power
図-8
4.
4.1
無線式野球カウントボードの概略図
無線式野球カウントボードの評価
性能実験
送信部を置く本部は,金網フェンスや窓ガラスサッシ等
で密閉されているため,このような障害物があってもリア
ルタイムに点灯するのか試験をする必要がある.まずは,
野球カウントボードの中に,図-6 の受信機を入れた状態
で,正確に動作するのか実験を行った.次に,受信機も送
信機も室内に密閉した状態で,約 150m の距離をとり,そ
れでもリアルタイムに点灯するのか実験を行った.それら
の実験を 10 回行った後,実際の野球場に設置して実験を
図-9 スイッチボックスの外観
図-10
図-11
全体の配線の概略図
無線式野球カウントボードの全体図
謝辞
参考文献
本研究は平成 15 年度西日本工業大学特別研究の補助を
1)安部信介,稲垣友輔,角杉太郎,河野靖弘,白井洋行:野球
受け,調査には福岡県行橋警察署の協力を頂いたことを記
場に設置するカウントボード製作および工程,西日本工業大
して,謝意を表する次第です.また,本研究の製作に熱心
に取り組んだ平成 14 年度卒業研究生の岡本清一君,安部
学卒業研究報告,pp.1-34,2003
2)大水芳彦,野見山周次郎,松本慎吾,大石智之,竹内祐記:
真介君,稲垣友輔君,角杉太郎君,河野靖弘君,白井洋行
野球場に設置する無線式カウントボードの製作に関する研
君および,平成 15 年度卒業研究生の大水芳彦君,松本慎
究,西日本工業大学卒業研究報告,pp.1-18,2004
吾君,野見山周次郎君,大石智之君へも謝意を表する次第
です.
(2004. 3. 16 受付)
図-12
試合中の野球カウントボード(西日本工業大学対九州大学戦:実践使用の初模様(平成 16 年 3 月 16 日)
)
本研究室では,昨年度(平成 14 年度)より,野球場に設置する野球カウントボードの製作を行っている.昨年度,
製作したものはバックネット裏に設置した.しかし,外野手,捕手およびベンチ内の監督・コーチ等からは,多少見
づらい位置であった.また,野球カウントボード全体の大きさが,横 90cm,縦 60cm であったため,点灯ランプの直
径は,10cm という大きさの影響もあったと考えられる.そこで今回は,廃品になった交通信号機(点灯ランプの直径
25cm)をリサイクルし,120∼130m 先のバックスタンド側へ設置しても耐えうる大きさ(横 180cm,縦 150cm)の野
球カウントボードを製作した.さらに無線式で遠隔操作可能(100∼300m)とした.また,材料費だけで,約 20 万円
という大変安価に実現できた.無線機・リレー・パワーサプライ自体は市販のものを使用したが,それらと自作のス
イッチング装置とをシステマティックに融合させることで,無線式の野球カウントボードを完成させた.