シンポジウム:アジアのグローバル化促進のための 「女性力」の活用 石井クンツ昌子、小倉和夫、小玉亮子、Elli Kim、 Mikyoung Lee、Aileen Park、森山新、土山實男(司会) はじめに 土山實男:アジアのグローバル化のための女性力の活用について、いろいろな角度からご 報告をいただきました。これらを受けまして、第3セッションの総合討論を始めたいと 思います。プログラムに総合討論での論点を前もっていくつか書いておきました。それ らは、①女性力活用について日韓両社会が学ぶことは何か、②女性力は日本社会の活力 を生むか、③女性力強化のために日本の大学教育プログラムをどう改善すべきか、④女 性力を活用するために、社会、官公庁、企業は何をすべきか、そして⑤グローバル化を 促進するために女性力をどう活用すべきか、などです。しかし、本日の報告と議論を伺っ ておりまして、これらの論点を多少入れ替えさせていただいて、次の諸点についてこの 総合討論でご議論いただくようお願いしたいと思います。 1 5つの論点・問題提起 まず、第一は、今日は男性の参加者がだいぶおられますけれども、このシンポジウムを 準備していて心配しましたのは、参加者名簿に男性の名前がほとんどなかったことです。 その時思いましたのは、ジェンダー問題というのは、女性の問題だというふうに考えてい る男性が多いのではないか、あるいは男性の側が女性の力、ここでいう「女性力」の向上 について、一種のゼロサムゲーム的なイメージを持っているのではないか、ということで 本稿は2013年1月26日に青山学院大学で開催された国際シンポジウム「アジアのグローバ ル化促進のための『女性力』の活用」の第3セッションの討議を編集したものである。 石井クンツ昌子 お茶の水女子大学教授、小倉和夫 青山学院大学特別招聘教授、小玉亮 子 お茶の水女子大学教授、Elli Kim 梨花女子大学アジア女性学研究センター研究員、 Mikyoung Lee 梨花女子大学アジア女性学研究センター研究員、Aileen Park 梨花女子 大学アジア女性学研究センター客員研究員、森山新 お茶の水女子大学教授、土山實男 青山学院大学国際交流共同研究センター所長 107 す。つまり、男性が女性に職場なり立場なりを奪われるというふうに受け止めている男性 が多いのではないだろうかということです。また、女性の側も、この問題に取り組むなか で、男性側に対してそのように受け止めているのではないか。小倉先生の講演のなかで、 多文化共生という話に関連して、男性文化と女性文化の共生という話をしていただきまし たけれども、この男性文化、女性文化の共生という意味で、このジェンダー問題を女性だ けの問題としてやゼロサムゲームとしてではなく、男性の問題としても捉えることが大事 なのではないかと思いますが、皆さんはどうお考えになりますか。言い換えれば、ジェン ダー問題を男性問題としても理解するかということが非常に大事ではないでしょうか。 もっとも、実際には、この問題にゼロサム的なところがないわけではありません。いま 手元に防衛大学校の入学のデータがございます。防衛大学校へはご承知のようにもちろん 女子も入学できるわけですけれども、防大の文系の女子の定員は、男性75人に対しわずか 5名です。ですから、昨年の倍率で見ますと、女性が445倍、男性が75倍というふうに非常 な差があります。もちろん445倍で入ってくる女子ですから非常に質が高い。そこで問題 は、その質の高い女子を防衛省なり自衛隊なりがうまく活用しているのかということで す。そうかと言って、男女の割合をなくせば、どっと女子が入るでしょう。そういう問題 があります。 第2番目の問題は、日韓でこの問題をどう理解し、協力するかです。日韓はもっとも深 い関係をもつ社会でもあり、また梨花女子大学は、その創設から青山学院が関った韓国で 最も縁の深い大学でもあり、昨年、金善旭学長が青山学院大にお出でになりましたし、ま た、ここにお越しの羽入佐和子お茶の水女子大学学長が金善旭学長と深い信頼関係にある ことなどがあって、今回、この3大学が協力してシンポジウムを開くことになったわけで す。 日韓でこの問題を考える場合、日韓は非常によく似ているところもありますが、違うと ころもあります。ともに比較的短期間で経済成長した社会であるにもかかわらず、女性力 の活用という面では日本は韓国社会に遅れをとっているようなところもあります。日本の 社会や大学が韓国の社会や大学から何を学ぶべきなのかについてお伺いしたいと思いま す。また、ほかのアジアの社会や欧米社会と比べ、ジェンダー問題について日韓双方が抱 える問題とは何かについてもお話いただきたいと思います。 第3番目の問題は、先ほどのアイリーン・パクさんの報告にもありましたように、日本 でリケジョっていう言葉が最近よく使われますが、女性に理系の分野にもっと進んでもら うためには何が必要でしょうか。韓国が2002年に関係する法律をつくって以来の様々の努 力について報告がありましたが、日本はそういうふうにやっているようには見えません。 しかし、それでは日本の女性がまったく理系の分野で遅れているかというと、必ずしもそ うでもないわけでありまして、理系でも女性の活躍が見られます。例えば環境の問題であ るとか、情報科学の問題であるとか、あるいは都市づくり、社会づくり等々の領域で、女 108 性が活躍されている。最近もルーブル美術館の別館を設計された妹島和世さんのことがい ろいろ報道されておりますけど、彼女は日本女子大のご出身ですが、その妹島さんが設計 されたルーブル別館は女性の感性が出た非常に優しいデザインですね。ヨーロッパから見 ますと、日本的な感じもあるそうですが、そういう建築の分野もございますし、理系と言っ てもいろんなことが考えられますので、この理系に女性の力をもっと向けるにはどうした らいいか。 それから第4番目に、大学はどうすべきかについて会場から質問がいくつか来ておりま す。この理系の分野の教育では理工学部をもつ梨花女子大がこの3大学の中では最も進ん だいろんな努力をされているわけですが、大学としてこの問題にどう取り組むべきか。 それから最後、第5番目に、このシンポジウムはもともとアジアのグローバリゼーショ ンということを念頭において企画したわけですけども、改めてこのグローバル化を韓国や 日本で進めていくうえで、女性の力をどんなところに、どういう形でうまく活かせるかに ついてお伺いしたいと思います。 2 ジェンダー問題は男性と女性の間のゼロサムゲームか そこで、第一番目の問題に話を戻させていただきます。先ほど男性と女性の間にゼロサ ム的な問題があるのではないかという話をいたしましたが、それに関して、どうして大学 では女性の教授が少ないのかという質問が来ておりますので、どなたかこの問題について お答えいただければ有り難いと思います。 それからミャン・リー先生のセクシャル・バイオレンスの話がございました。日本側の 報告にはこの問題についてふれておりませんでしたので、セクシャル・バイオレンス、あ るいはセクシャル・ハラスメントについて日本はどう考えているのかというご質問が来て おります。これもどなたかにお答えいただきたくお願いします。まず第一番目の、ジェン ダー問題を考える場合に、ジェンダー問題は、男性に対してどのように納得してもらうか ということについて、お答えなり、ご意見なりをいただきたいと思います。 石井クンツ昌子:女性力を発揮するということは、女性が孤立した環境の中で女性の力を 発揮するということではなく、やはり男性と共同しながら、その中で女性の力を発揮し ていくということだと思います。そのために男性の意識と行動を変えることは非常に難 しいですけれども、これは必要です。このシンポジウムの打ち合わせなどで、土山先生 といろいろこれまでお話ししてきました。最初、土山先生もジェンダー研究の方と思っ ていたのですが、実は国際政治が専門でジェンダー研究はやっておられないということ をお聞きしましたが、でもそういう方たちにこそもっとこういうことに興味を持ってい ただければ素晴らしいなと思っております。 実際に、社会でのジェンダー問題や家庭内での男女の不平等な分業とかにまったく問 109 題意識を感じていない男性がたくさんいます。そういう人たちの意識は、急には変わり ません。ですから、やはり初等、中等教育の中で、時間をかけてネクストジェネレーショ ンの男子の意識を少しずつ変えていった方がいいかなとも思っています。 また、意識や制度が変わっても、それがすぐには行動に移れないという状況もありま す。例えば、昨今のイクメンブームの中で、育児はしたいだけれども、でも会社が忙し くて実際にはできないというお父さんたちの声もよく聞きます。育休制度が、育休法が 改正されて、かなり男性が取りやすくなったとはいえ、まだまだ育児休業を取る男性は マイノリティです。ということで、意識を変えるのか、制度を変えるのかっていうのは、 卵が先かニワトリが先かっていうような問題ですけれども、やはりどちらも変えていく 必要がありますが、意識の変革に関して、わたしは初等・中等教育に期待したい。 土山:韓国の先生からございませんか。 エリ・キム:韓国も家族主義が非常に強い、つまり家長の権利が非常に強い社会です。ア ジア経済危機の際に IMF の構造調整が行われた時でも、この家の理念というものがあっ たために、同じ職場で夫婦が働いている時には、まず妻のほうから会社を辞めるという ようなことが多くありました。しかし、その後、韓国社会では一生職場を保証するとい うような考え方は次第になくなってきました。男性を支えていた物的な条件も変化して います。また、経済開発計画によって韓国の近代化が進み、今のようなよい暮らしがで きるようになったのは、60年代~70年代の朴正煕政権以降のことで、その後、それらが 例えば兵役の義務を負う男たちに恩恵を与える、特典を与えるというような形で政治と 関係した韓国の男性性というものが作られてきました。 今日では政治経済情勢も変わって、軍隊に行ってきたからといって男性に法律的な特 権があるわけではありません。そういう意味で、現在、韓国の男性は非常に危機感を持っ ています。つまり、女性が社会的に進出してきたことによって、男たちの場所や立場が なくなる、仕事がなくなるという危機感を持っているのです。こういう時、韓国の男性 たちにいいたいのはもっと堂々としていてほしい、柔軟であってほしいということで す。日本でも、女性は母親として妻として柔軟性があると思いますが、韓国でも、経済 や政治を基礎に、女性の立場やアイデンティティを作ろうとしている女性たちがいま す。 現在韓国では、父親たちの集まりが始まっています。家父長的な社会が韓国の男性た ちにたくさんの特権を与えて、男らしさというものを与え、韓国の男性性を作ってきま したが、そうなれないと考えている男性も増えている。家庭に戻って、子どもを育て、 そして父親としての役割や存在を強めていこうということですけれど、それを伝統的な 家父長的な意識を固めるやり方でやるのではなくて、男女平等の意識を持ってやろうと いう運動が始まっています。このような男性たちがもっと出てくれば、社会が変わるの ではないかと思いますし、そういう男性と女性がともに進むことができる条件を一緒に 110 作り出すことが必要です。 ミョン・リー:わたしも多文化共生、すなわち、ここでいう男性と女性の共生がゼロサム ゲームではないということにまったく賛成です。韓国でもそういう認識が強まっており ます。しかし、そのような状況にあるにもかかわらず、韓国社会において、例えば祝祭 日や正月などに、嫁が非常に多くの家事をやらなければいけない状況があるのも事実で す。また、デートの時には、男性が全部デートの費用を負担するというような伝統や風 習も残っています。ですから、女性の方も権利を主張するだけじゃなくて義務を負うべ きだという話をしています。つまり、男性が女性より多く担っている役割を軽減させる べきだと思います。 日本ではセクシャル・バイオレンスよりセクシャル・ハラスメントという言葉がよく 使われるというふうに伺いましたけども、日本の弁護士の方からお聞きしたところで は、性暴力の問題についてまだ日本では関連する法律が十分でないという話でした。韓 国の法制定について、ご質問をいただきましたけれども、日本でも韓国でも性暴力に対 する危機感とか安全への欲求は同じだと思います。まずは法制定が優先されるべきです し、その法律の活用のためのモニタリングや政策提言が必要だと考えます。 韓国の大統領選挙の際、1,000人の女性に対して、何に対して最も不安を感じるのかを 訊きました。第一が経済、そして暴力に対する危機感でした。おそらく世界的にも共通 の認識があると思いますので、まず関連する法律のきちんとした施行と、裁判官、検察 官らの正しい認識が必要だと思います。 最後に大学においての対応策についてですが、梨花女子大学において、女性のエンパ ワーメント・プログラムが実施されています。これはアジアからNGOの活動家らを招待 して、経験を語り合い、ジェンダー問題のさまざまな研究を行うプログラムです。20人 の募集枠に400人の志願者があります。国ごとの特徴ですとか、問題を共有しながら、グ ローバル化する社会においてこういった研究が1つのナビゲーションの役目を果たすと 考えています。特に日本は、経済的に非常に優位な立場にありますから、このようなニー ズもたくさんあると思いますし、日韓共同でプログラムを展開していくことも考えられ るのではないかと思います。 アイリーン・パク:女性のリーダーシップ育成という点において日本が遅れているのかど うか。大学でイニシャアティブを取るという点でも、日本の女性の方が韓国の女性より 遅れているか。そして、科学技術と科学技術以外を分けて考え直す必要があるのかどう かという点についてお話ししたい。まず、最初のなぜ大学で女性の教授が少ないかとい う点についてです。大学で、また、教育の場で、男子のほうが多いとか女子が多いとか、 そういうことはありません。男女間の差っていうのはそんなにありません。問題は、な ぜ男性の方が女性に比べて仕事にありつけるのかということです。女性の就職を邪魔し ているのはたった1つ、原因は1つしかないと思っています。それは、雇用する側のポ 111 リシー、すなわち企業側のポリシー、ここに問題があるのではないかと思います。 それから、日本の方が韓国に比べて遅れているのかという点です。わたしたちが自問 してみなければいけないのは、日本の女性に比べて、韓国の女性は、経済的、社会的、 そして政治的視点から見て、経験が違うからでしょうか。韓国の女性と日本の女性を比 べた時、経済、社会、そして政治の面で、何か違うでしょうか。わたしは、日本の女性 が韓国の女性に比べて遅れているということは、決してないと思いません。ただ、やっ ぱり経験が違うかもしれません。経験が違えば集団として違いが出るかと思います。 3点目の理系と理系以外に分けて考える必要があるのかどうかということです。日本 も韓国も OECD の加盟国で、OECD はナレッジベースの経済といっていますが、現在、 すでに日韓はナレッジベースのグローバルな経済の中にいます。ですから、理系と理系 以外と分けて考えることは、わたしは非常に重要だと思います。なぜなら、ナレッジベー スということは科学技術をベースにしているということにほかなりませんので、女性の 科学技術の分野におけるリーダーシップが非常に重要になります。国際交流基金前理事 長の小倉先生は講演の中で、アジアで成功した女性のリストを見せて下さいました。そ こには政治の分野で成功した女性のお名前がありましたけれども、科学技術の分野で成 功した女性の名前がなかったことにわたしはちょっと疑問を持ちました。今日、お茶の 水女子大学が女性のリーダーシップを育てるためのさまざまな取り組みをなさっている というふうな話を聞いて、大変嬉しく思いました。 わたしから1つ提案をさせていただきたい。日本でも、アファーマティブアクション をやってはどうでしょうか。つまり将来に向けて、どの分野に重点をおくかを示すため に優先順位を付けるのがいいと思います。女子学生のリーダーシップのトレーニングを やるという意味で、何を優先していくかということを決めたらどうでしょうか。 土山:議論の論点が、男性の意識変革から、日韓の比較、そして理系の話へと拡散しまし たので、もう1度女性と男性のあいだの意識の問題に戻りたいと思います。 石井:男性の意識についてですが、これは決して日本だけの問題ではなく、ある意味、世 界のすべての国の問題です。例えば2008年の国連の専門会議で、家庭内における性別役 割分担について話し合われました。その前の年だったか、男性と女性の役割についての 国連のエキスパート会議も開かれています。したがって、男性の意識を変えるために、 日本の国内だけを見ていてもあまり示唆が得られません。これも、グローバルなレベル でいろいろな知識を得るということが必要です。 3 クオータ(割り当て)制・アファーマティブアクション 土山:フロアーから、大学の教授になぜ女性の割合が少ないのか、男性教員の意識を変え るにはどうしたらいいのかという質問が来ています。午前中のセッションで、韓国の議 112 員のクオータ(割り当て)制の話がありましたが、大学でも教員の例えば2割とか3割 を女性にしなければいけないというふうなことをやったほうがいいのか、そういうこと はやらないほうがいいのか。わたしは青山学院大の国際政治学科で30数年近く教えてい ますが、この国際政治学科は初めの約20年間、専任の女性教員がいなかった学科で、よ くマスコミから批判されました。女性を意識的に除外していたわけじゃないのですが、 10年ほど前までは教員公募をやりますと、採用した結果がみな男性だったいうことで す。どうしたら女性教員の割合を増やすことができますか。ある程度意図的に増やすこ とが必要なのか、それともマーケットに任せるのか、どっちがいいでしょうか。 石井:わたしはすでに報告の中でなぜ女性の教員が少ないかということについて説明しま した。その中で強調したかったのは、やはり家庭と仕事の両立が非常に大変だというこ とです。それが最も多く頻繁に挙げられている理由であるということも説明させていた だきました。ですから、やはり女性の雇用や継続就業などに関しては、先ほどパク先生 がおっしゃったような、アファーマティブアクション、ポジティブアクションが必要で すが、ただし、日本の場合はその土壌がまだできていない。例えば理系の場合、そもそ も教員になりたい女性の数が少ない。ですから理系で、例えば2割女性の先生を採用し ようと思っても、それだけのプールがない。ですから、そういったプログラムはもちろ ん必要ですけれども、そこまですぐやれるような土壌がまだできていないのではないか ということが懸念されます。 土山:ということは、この問題は単なる大学の教員採用の問題じゃなくて、やっぱり社会 全体の問題だということですね。日本にせよ、韓国にせよ、女性がそういうところで仕 事ができるような環境を整え、また、家庭と仕事を両立できるような社会環境を整える ということが先決条件だということですね。小玉先生、どうぞ。 小玉:その点に付け加えますと、さきほど、小学校の先生に女性が多いという話を申し上 げましたが、その背景には、やはり学校教員の労働環境は、企業に勤める OL の女性に 比べて、産休、育休等が早くから制度的に整っているということがあります。そのこと が小学校の先生を長く女性が勤められる理由の背景にもなっているのですね。そう考え ると、石井先生がおっしゃるように、家庭と仕事の両立を可能にするような制度が整っ ていけば、やはり女性が働き続けることを後押しできるだろうと考えます。 また、理系と文系の話が出ておりましたけれども、今、理系の中でも目覚しく女性が 増えている分野があります。医学部に進学を希望する女性がとても多くなっていて、か つ医学部に入学する女性の割合が非常に高くなっております。極めて難しい医学部です けれども女性が多い。そのように女性が希望する理系の分野もあります。ただ、医者に なった後どうかといいますと、やはりお医者さんの激務を続けていくには女性には厳し いところがあります。せっかく医学部に進んでお医者さんになられた女医さんたちをサ ポートするような社会システムを作っていくということが、女性のリーダーを支えてい 113 く重要なポイントだというふうに考えます。 また、理系と文系の話が出ておりましたけれども、ちょっと報告ではうまくいえなかっ たのですが、いま理系で目覚しく女性が増えている分野があって、それはお医者さんです。 医学部に進学を希望する女性がとても多くなっていて、かつ医学部に入学する女性の割合 が非常に高くなっております。わたしはお茶の水女子大学に来る前に横浜市立大学におり ました。あそこの医学部は女性が非常に多いんですね。極めて難しい医学部ですけれども 女性が多い。そのように女性が希望する理系の分野もあります。ただ、それじゃ医者に なって、その後どうかといいますと、やはりお医者さんの激務を続けていくには女性には 厳しいところがあります。せっかく医学部に進んでお医者さんになられた女医さんたちを サポートするような社会システムを作っていくということが、女性のリーダーを支えてい く重要なポイントだというふうに考えます。 土山:青山学院はその創設当初からここのセカンダリーは女子のレベルが高かった。とこ ろが、青山学院大学には医学部がありませんので、青山学院中等部や高等部の優秀な女 子の卒業生は、戦前から東京女子医大とか慈恵医大に大勢行きました。青山学院創立100 周年の記念事業として医学部を作る話があったのも、そういう青山学院の背景があった ようです。 石井:男性の意識を変えるということに関してもう一つ。この問題に関して、日本政府は どちらかというと少子化をあまりに気にしすぎて、男性が育休を取りやすい制度を作る など、ちょっとトップダウン的なアプローチでこれまでやってきた。女性に関しても、 例えば女性の教員を何割増やすというようなことは非常にいいと思うのですが、女性が トークン(一種のアリバイづくりのための証明)になってしまっては困るんです。わた しは、アメリカの大学で学び、長く教えてきましたが、色々な委員会で女性を1人入れ なければならないとか、マイノリティを1人入れなければとか、そういったクオータを 満たすのに、わたしのような人間は委員会に誘われることが多いのです。でも、それは わたしの能力と言うよりも、わたしの人種、性別によって委員会に加わるということな ので、実は心外なわけです。ですから、そういった形で女性あるいはマイノリティの代 表として加わることは、問題だとも思っています。 政府もリップサービス的ではなく、もっと積極的に対処すべきです。例えば育休を日 本の男性が取得する割合は、一昨年から去年にかけて倍以上、2.6%ぐらいに上がりまし た。でも実体を見ると、男性の場合はほとんどが1週間以内の育休です。女性の場合は 平均7~8か月です。男性は平均1日か2日です。公務員の男性には非常にプレッ シャーがかかっていて、1日でもいいから取ってくれ、と。1日取れば、1人としてカ ウントされるのですから全体的な数値はアップしますが、これはかたちだけの実績にす ぎず、それを続けても、これからの女性の活躍にはあまりいいことではないのではない 114 かと思います。 パク:だんだん議論が面白くなってきました。先ほど出てきたクオータ・システムですけ れども、クオータという割り当て量というのは、あくまでも数字で示したものになるわ けですけれども、確かにそれだけではいけない。もっと女性力を高めていくためには、 やはり定性的な立場からこのクオータというものも見ていかなければいけない。すなわ ち1つの手段として、クオータというものを使っていく必要があると思います。例えば 就職する時、男性でしたら2つのことだけ考えればいい。つまり、賃金はどれくらいか、 自分にその仕事をこなしていけるのかどうかということだけ考えればいいんです。しか し、女性の場合はそうはいきません。この職場が女性に優しい環境があるのか。ちゃん と福利厚生がしっかりしているのか。また、その職場の文化というものも考えていかな ければいけない。文化というのは定性的なものですから、あらゆる分野に同じ文化が フィットするということはあり得ないわけです。それぞれの職場や学校に合った形を考 えて行く必要がある。それらを整えてから、クオータをやるんです。ですから、このク オータに反対するわけでは決してありませんが、具体的な数字を設定するということ は、それに伴って定性的なイニシャティブというものがあって初めてクオータが機能し ます。 キム:韓国で昨年、国会議員選挙がありました。そこで先ほど紹介したように、クオータ 制が非常に重要な役割を果たしました。特に地域で各政党ごとに推薦するんですけど、 30%推薦しなければいけません。しかし、多くの男性が非常に不満を示しました。一方、 女性たちは準備の整った女性がいませんでした。クオータ制に関する問題提起がいまあ りましたけれども、それにもかかわらず、クオータ制がなかったら、いまの韓国で議員 の16%を女性にすることは非常に難しかったでしょう。ですから、このクオータ制は必 要です。その代わり、皆さんが強調したように、また小倉先生が指摘されたように、割 り当ての数より、その中で実際にどのような役割を果たせるのか。そしてその中で女性 がどのような影響力を持つのかがより重要です。 4 日韓で学びあうべきことは何か 土山:それでは次の問題に移らせていただきます。このジェンダー問題、あるいは女性の 力をうまく社会の中で活用するという問題を考える場合に、男女間のゼロサムゲームの ように社会が受け取らないような問題の進め方が必要だと思いますので、そのために何 をすべきか。何をどう作っていくか、具体的なことについてお伺いします。その際、せっ かく今日は韓国から3人の専門家に来ていただいていますので、韓国から見て日本にこ うしたらいいのではないかということがあれば、お伺いしたい。また、韓国が何もすべ てのモデルであるとは思いませんが、梨花女子大がこの分野でやってこられたことは、 115 やはり韓国社会への大きな貢献であり同大の業績だと思いますので、日本側から韓国側 に質問して下さっても構いません。韓国からでも日本からでも、ご質問、あるいはアド バイスをお願いしたいと思います。 森山:韓国のトップダウンのやり方の背景には、まずボトムアップの運動があったという ことを忘れてはいけません。韓国と日本では、女性運動という草の根運動がどれだけ地 道に、かつ継続的に行われてきたのかという点において、大きな違いがある。それがトッ プダウンが出てきたのか出てこなかったのかという違いとなっているような気がしま す。 その前に、わたしはジェンダー研究の専門家ではないので申し上げませんでしたが、 わたしの場合、多文化共生、多文化主義、日本学研究の限界というものを感じた時に、 そこにいろんな形の幻想といったものが前に進む理解を妨げているというふうに思って います。 例えば、かつてオリエンタリズムというのがあって、日本は日本学研究において、西 洋から興味の眼差しで見られていた。そこには暗黙に西洋の優位があり、東洋を蔑視す るという1つの視線、眼差しといったものがあったんですけれども、そういったものは オリエンタリズムにおいては、幻想というふうにとらえられ、それをいかに克服してい くかが1つの課題になってきました。最近、韓国の姜尚中が、アジアにおいてもオリエ ンタリズムがあって、日本はアジアのほかの諸国に対して、オリエンタリズムの眼差し でもって見つめている、といっています。つまり暗黙に、日本は日本が優位にあるとい う幻想がある、と。言い換えれば、内なるオリエンタリズムとでもいうものがあって、 例えば日本国内において多文化共生社会を迎えていますが、日本なのだから日本人が優 位であって、外から来た人はいわば脇役だとでもいうような眼差しがある、と。いずれ にしても、そこには優位性の幻想があると思います。 男女関係についても、わたしはやはり1つの優位性の幻想といったものがある。社会 にせよ、家庭にせよ、男性が優位にあるという幻想がある。男性優位の社会が続いてき た中で、男性の心の中に、また女性の心の中にも、そういうものが根強く残っていて、 その優位性の幻想を打破していかない限りこの問題は解決しないのではないか。これに は長い歴史があるので、解決に時間はかかるかもしれませんが、それを正していける力 があるとすれば、多文化共生、多文化主義の場合と同様、やはり教育だろうと思います。 先日、小玉先生が主催された教育史学会に参加させていただきましたが、アジアの公 教育は、国民教育、要するに自分の国において自分の国が優位であるという意識を育て る教育であったわけで、これからの教育というのは、その優位性を打破し、優位性の幻 想を超えていく教育によって、いろんなものを変えていくことができるのではないかと 思います。 ジェンダー問題を解決していくにも、やはり教育の役割が大きいと思います。同時に 116 また、先ほど、日本では、女性に対する1つのステレオタイプの見方に男性も女性もと らわれてしまって、日本の女性はまだまだ韓国に比べて発言が消極的ではないかと思い ます。そういうことが、草の根運動が存在するかどうかにも関わっていく。やはり女性 が大きく声を上げていかない限り、男性はこれまでの慣例どおりに優位性を保とうとし て、家庭でも職場でも女性の出る機会が阻まれているので、やはり教育に期待したいと 思います。 そういう意味で、お茶の水女子大学で「出る杭は打たれる」ではなく「出る杭を育て る」といった女性人材育成をしているように、社会に対して主張する女性を増やさない 限り、男性も変わらないだろうと思いますので、女性の発言の意味が非常に大きいし、 それを育ていく教育に期待したいと思います。 パク:森山先生の意見に賛成です。こういった分野での教育の果たす役割は極めて大きい と思います。韓国には女子大がたくさんありますが、日本には、お茶の水女子大の他に 女子大の数はどれくらいありますか。大学だけではなく、例えば「ウィメンズセンター」 といったものが多くあって、女性の救済、女性のリーダーシップ向上、あるいは、草の 根運動を支援しており、そういうところを通して、女性が社会に訴えたり発言したりす る環境ができ上がっています。 わたしが初めて韓国に行きましたのは、フィリピンと韓国のジェンダー問題の比較を する研究のためでした。韓国はフィリピンに比べて経済的には進んでいるにもかかわら ず、フィリピンほど女性のエンパワーメントの活動がそれほど活発ではありませんでし た。なぜフィリピンの方が、経済的には豊かではないのにジェンダー活動が活発なのか にわたしは疑問をもちました。フィリピンと韓国との違いがどこからくるのかを考えた わたしの結論は、やはり家庭にあるのではないかということです。家庭で、男性は女性 の立場や権利にほとんど関心がないということがわかりました。やはりこの問題を解決 するためには、まず家庭から始めなければならないといわざるを得ないでしょう。そし て、家庭で意識を変えていくためには、学校の役割が極めて大きいと思います。 子どもが生まれた時に男の子と女の子とどっちが大事にされるかに関してですけれど も、韓国ではまだまだ息子が生まれる方を喜ぶという現実があります。だから、娘より も息子を塾に通わす傾向が強い。したがって、韓国という国を見る場合、最初わたしは 外から来た部外者だったので、韓国では女性はそんなに声を上げていないと初めは思い ました。しかし、中に入ってみると、女性がちゃんと声を上げているということがわか りました。韓国でも日本でも、やはり男性の意識を変える必要性があると思います。 5 ジェンダー問題へのアプローチの仕方・ロールモデルの意味 土山:ここで、フロアーの西山千恵子先生から小倉先生への質問です。小倉先生は講演の 117 なかで、女性の役割について、日本でも韓国でも、欧米型のロールモデルというものに 支配されているのではないか、その影響を受けすぎるのではないかといわれましたが、 小倉先生がいわれる英米型のロールモデルというのはどういうものでしょうか、また、 日本型のロールモデルというのはどういうものですかというのが質問です。それから、 わたしから皆さんへの質問は、リー先生のご報告にも、先ほどの森山先生のご発言のな かにもあったと思いますが、ジェンダー問題に対処する時、韓国には一つの運動として あるのに、日本にはそういう女性力活用を支援する社会運動といったものがまだ弱いの ではないかという印象を受けますが、実際はどうなのかということをお訊きしたい。 小倉和夫:男性の意識を改革するとかっていっておられる方々が、女性のエンパワーメン トととかっていう言葉を使われること自体が、率直に申し上げると、男性をびっくりさ せるというようなところがありましてね。つまり、エンパワーメントという言葉にから してそうなんですが、女性の方々が、知らず知らずのうちに男性が作った概念そのもの を借用しておられるということを、そもそもわたしは非常に遺憾に思うんです。これは、 アメリカとかそういう国を始めとして、だいたい欧米諸国がそういう概念で支配されて ますから、それをそのまま日本に持ち込んでくるために、そういうことになる。だいた いウーマン・パワーといわれると、男は反発します。女性のパワーといわれると、やっ ぱり男性の方から見るとちょっとぎょっとするわけですね。ですから、わたしは男性の 意識を変える時には、やはり物事の説明の仕方ということをよく考えないといけないの ではないかと思うわけです。だから、わたしは女性力という言葉は私はあんまり好き じゃないんですね。そもそも女性力という言葉を使うこと自体が、男性的な概念を女性 に持ち込んでいると思うんですね。ここにそもそも間違いがある、と。ちょっと極端な ことを申し上げますとね。 そういうことでわたしは若干ほかの方とは違ったことを申し上げたいんですが、それ はどうしてかといいますと、例えばロールモデルという言葉がありますが、 「ロールモデ ル」じゃなくて「ロールモデルズ」だと思うんですね。つまり、ロールモデルというと、 普通 the role model とか、a role model というふうにわれわれは考えるわけですね。とこ ろが、実際はロールモデルズなんであって、女性のロールモデルという言葉はおかしい と思うんですね。つまり、それは1つの何か理想的なモデルがあって、それに向かって みんなが進んでいくべきだというふうに見えたり、聞こえたりするわけですね。これは、 やっぱり女性にとっても男性にとっても不幸なことであると、わたしは思うんです。 なぜわたしがそういうことを申し上げるかというと、私事になって恐縮ですが、わた しには2人の娘がいまして、上の娘はロンドン大学を出て、公認会計士になって、結婚 して子どももあって、外資系の企業に勤めており、いわゆるアメリカ的な意味でのロー ルモデルの1つの典型なんですね。しかし、下の娘はコロンビア大学を出て、初めは大 学に入ろうなんていってましたが、いろいろ勉強やら仕事をやっているうちに、はっと 118 気がついて、彼女はいま日本舞踊と能楽と三味線をやって、師範の資格を取ろうとか、 師匠になろうとかいっているんです。 要するに、わたしが申し上げたいのは、やっぱり女性は、もう少し真実を、特に日本 においてはですよ、やっぱり伝統をもっと直視すべきではないかと思うんですね。伝統 とは何かというと、 「源氏物語」以来、女性というのは素晴らしい感性を持っているわけ ですね。知性も大事ですが、感性もとっても大事なんですね。おそらく男性の感性より は女性の感性のほうが鋭いところがたくさんある。そういう女性の感性を生かした教 育、女性の感性というものを社会にどのように還元するかということについて、もう少 し知的に分析され、かつ活用されてもいいのではないかと思います。 わたしがなぜこんなことを申し上げるかというと、わたしはパリに長くおりました が、パリ大学の医学部の学生が何をするか。エンジニアリングの学生が何をするか。理 学系の人はみんなルーブルに行くんです。ルーブルに行って、絵を勉強する。選択科目 じゃなくて、これは必修科目なんです。大学のカリキュラムの中に入っています。なぜ そうするかというと、人間の体を見る時に、美的にそれを見る見方と医学的に見る見方 とは違いますね。同じ機械を見る時でも、ロボットでも、平田オリザさんのロボット演 劇がありますが、ロボットと人間が同じように舞台に出てきて演劇をやりますが、その 時のロボットと、いわゆる普通のエンジニアリングの中で考えるロボットとはちょっと 違うんですね。すなわち、わたしが申し上げたいのは、理学系にもし女性を入れたいの なら、理学あるいはエンジニアリングの科目の中に、美学とか美術とか、女性の感性を 活かせるようなカリキュラムを同時に並行的に入れることです。この辺が非常に重要な ことだと思います。 話しを初めに戻しますと、なぜロールモデルとかエンパワーメントという言葉にわた しが反発しているかというと、その言葉自体が男性にとって極めてネガティブな印象を 与える場合があるということなんですね。ですから、男性の意識を変えるためにはやは り工夫が必要です、と。学問や知的な意味で分析する時にそういう言葉を使うのはいい んですが、社会的な運動にしようとするのなら、そこのところはよほど考えないといけ ないんじゃないかということをいいたいんです。 次に韓国についてですが、わたしは韓国に3年以上住んでいましたが、わたしの印象 では、韓国のどこの社会、どこの地域のことを考えるかにもよりますが、韓国には依然 として女性に対して非常に強い社会的なタブーがあると思います。例えばお酒を飲むと か、たばこを吸う時に、女性が男性の前で堂々とたばこを吸う、あるいはお酒を飲むと いうことがなかなかできない。もちろん今ではする人もいますが、ほかのアメリカとか ほかの国に比べれば、やっぱり女性が男性の前でお酒を飲んだり、たばこを吸うという ことについては、非常なソーシャルタブーが依然として強い。同じようなソーシャルタ ブーというのが他にもあって、わたしの印象では、いろんな意味で社会に女性に対する 119 ソーシャルタブーがあればあるほど、女性の方にはそれを政治的に克服する、つまり女 性の自由とかを勝ち取るための主張というものが強くなるわけですね。だから、韓国で、 社会運動や政治運動が強くなるんです。 ですから、これはアイロニカルな話ですが、現在の日本でなぜ女性の社会運動、政治 運動がそれほど盛んでないかといえば、ある意味で、日本の女性が自由だからなんです ね。つまり、日本ではソーシャルタブーがほとんどないんですね。そうわたしは思いま す。少なくともほかの国に比べれば。ほかの国といってもどこの国と比べるかにもより ますが、女性だからこういうことをしちゃいけないということは、日本では急激にこの 20年、30年の間に少なくなってきた。 ですから、女性の権利とか政治の問題というのは非常に難しい問題でして、わたしは 必ずしも韓国の方が日本より進んでいるとは思いませんね。もちろん進んでいる面もた くさんありますよ。学ばなくちゃいけない点もたくさんありますが、しかしながら、ソー シャルタブーというところにもう少し目を向けた時にどういうことがいえるかというの も、これはまた別の問題であると思いますが、非常に重要です。そこのところをよく考 えないといけないんです。国際的な比較においても、とかく知的な側面がとかく重視さ れるんですけども、やっぱり感性というのはもっと重視されるべきです。大学の教育に おいても、男性に対しても、女性に対しても、感性の問題、知性に加えて感性の問題と いうのはやはりもう少し考えるべきだと思います。 なぜこういうことをわたしが申し上げるかというと、高等教育といいますが、総合大 学も結構ですけれども、日本ではお茶の学校もあれば、料理の学校もあれば、ダンスの 学校もあれば、三味線の学校もあれば、歌舞伎養成学校もあれば、いろいろあるんです ね。つまり、伝統的な芸能や、そうした学校というのはたくさんあるわけです。最近は 美容大学というのもありますが、そのように栄養大学、美容大学、たくさんありますが、 そういうようないわゆる芸能的なものや感性的なものを育てるような高等教育というの が日本ではかなりあるわけです。わたしのいう伝統とはそういうことです。そういうも のをどのように活かしていくかということは、これはここで議論していることの盲点 で、こういうようなことも、やはり考えていかなくちゃいけないというふうに思ってお ります。 もちろん、いまわたしが申し上げたのはわざと若干極端なことを申し上げているんで すよ。別に100パーセントわたしがそれを信じているわけじゃないんですけれども、そう いうような面を考えないと、ただ単に知性的なもの、アメリカ的な意味でのロールモデ ルというものを設定して、そこに向かって女性がエンパワーするんだと、それをやって いくことが社会に最も望ましいことだと考えるのは、果たしていいことなのかどうか、 女性自身も含めて、よほど考えなくちゃいけない。 こういうことをいいますと、そういう意識を男性が持っているからいけないんだとい 120 うことをいう方が非常に多いんですが、わたしの娘自身が、女性として新しいアイデン ティティというものを一所懸命になって求めている姿というものを目の当たりにしてい るものですから、日本における教育のあり方、あるいは女性のあり方について考えると きに、ちょっと感じることがあったものですから、若干、誇張したお話になったかもし れませんが、それを承知でわざと申し上げたんで、なにとぞご寛容をお願いしたいと思 います。 キム:小倉先生のお話しにわたしは非常に大きな感銘を受けました。多文化共生について も、いろいろ示唆を受けました。この問題で、韓国と日本がどちらに優位にあるかとい うことは、間違った問題の捉え方です。優位性は何か基準を設けるからそういうことが 出てくるのであって、韓国政府でも、文化的に何を学ぶべきか考えて、日本の場合をモ デルとしていることがあります。極端な話をしますと、日本の政策を真似るという表現 ができるぐらい、日本が1つのモデルになってきました。わたしが授業で使うために、 男性がどのようにいま変化をしているのかを、データを収集してきまして、すでに日本 は多文化共生社会において男性の役割についての小さな小グループの集まりがたくさん あることもわかりました。それをまた動画にして、映像化して紹介したりもしています。 日本の男性が直接育児訓練を受けるグループですとか、また男性が女性たちとともに家 事に参加するために何が必要なのかを夫婦で参加する教育プログラムがあることもわか りました。 小倉先生のお話にありましたように、女性が社会進出をするということは、男性と同 等の地位を獲得するという意味ではなく、女性も男性と同じように堂々とした姿を手に したいということです。女性が男性と同じようなことをすることではない。韓国社会に おいて男性が反発するのは、女性が社会進出してきて、男性と同じ役割を獲得すること を求めているというふうに見られているからです。われわれの目指しているのは決して そういう動きではない。われわれが注目しているのは、女性が社会に進出すればするほ ど、男性が感性について考えたり、また夫婦の平等について考えるいろんなモデルを作 ることができるのではないかということです。男性も参加して女性と一緒に家庭や社会 でのそれぞれの役割を作っていく、つまり女性と男性とが互いの違いについて認めなが ら一緒に役割をつくっていくことがカギになると思います。 森山先生からオリエンタリズムの問題について指摘があり、また、わたしの報告の内 容についてもコメントいただきました。男性と女性の関係だけじゃなくて、国の関係に おいてもさまざまな相違を認めあいながら、どのように関係をつくっていくかが大事で す。平等というのは、女性のいう差別と男性のいう差別の意味は同じでないかもしれま せんが、同じようになるということではなく、差別をなくすことです。 また、韓国社会において個人化が進んでいます。韓国の女性運動も、昔と比べて力を 発揮することが難しくなっています。人々が生活に汲々としていますし、個々人のこと 121 に懸命になって、女性のボランティア活動などを行う状況でなくなってきたということ です。わたしが申し上げたいのは、個人化が進む中で個々人が孤立化し、恋愛も結婚も 難しい状況になってきて、社会運動は厳しい環境におかれています。個人化が進む中で どのようにコミュニティを作っていくのか、草の根のレベルの運動をどう進めていくの か問題を抱えています。 リー:簡単に女性運動について申し上げたいと思います。先ほど韓国と日本の女性運動の 比較についてお伺いしましたけれども、わたしは韓国が日本より女性運動が発達してい るとは決して思いません。ただ日本の女性運動が外に見える部分が韓国より少ないので はないのではないかと思います。草の根のレベルで日本が非常にうまくやっているとい うことをわたしはよくわかっています。ですから、先ほどキム先生がおっしゃったよう に、韓国では再び草の根運動、女性運動が戻っているという動きがありますけれども、 もう一方で、女性に首相になったり、大統領になったりするということに非常な批判も あるんです。民主化という新しい流れが、果たして正しいものなのかどうかということ についても、まだまだ話していかなければいけない。そういう意味で、わたしたち韓国 の女性運動はいま非常に悩んでいます。 6 女子学生の関心をどうしたら理系の分野に向けさせられるか 土山:先ほど小倉先生は、 「女性力」という言い方はいけないと言われましたが、これはわ たしが使った言い方なので、申し訳ありませんでしたが、わたしが申し上げたいことは、 女性の「パワー」という言い方が男性を刺激するのであれば、女性の「よさ」でもいい のですが、そのよさをもっと社会に出してもらうというような意味で受け取っていただ ければ有り難く思います。 次に、理系教育についてお伺いします。いま東京の私立大学は皆女子学生をいかにし て新しい分野に持ってくるかということに、非常に努力をしております。例えばいまま での武蔵工業大学、いま東京都市大学になりましたが、ここに都市生活学部というのが あります。都市生活学部に都市生活学科がありまして、実はこれは武蔵工大が女子大を 吸収したものですから、女子学生をそういう中で教育するという面もあるそうですが、 社会づくりを学ぶ学部だというふうに聞いております。それから、工学院大学には日本 で唯一の建築学部がありますが、そこの中にまちづくり学科というのがありまして、マ ジョリティは男子でしょうけれども、女子も結構入ってきているのではないかと思いま す。先ほど建築家の妹島和世さんのことを話しましたが、彼女の持っている女性のセン ス、あるいは日本の感覚といったものが建築に表れるし、また都市づくりや社会づくり に表れる。いままで女子学生のことをあまり考えていなかった理系の分野でも、このよ うに大学教育のあり方に変化がでてきたと思っています。理系教育をどうするかについ 122 てご議論いただきたいのですが、河村哲也副学長は、理系のご出身ですので、お茶の水 女子大で理系の「理系女」教育と申しますか、どのように女子学生をエンカレッジする ようなことをお考えになっているかをお訊きしたいと思います。 河村哲也:お茶の水女子大学では、特に理系・文系ということを意識していなくて、全部、 女性リーダーシップ養成ということで教育を行ってやっています。理系の分野で女子が 少ないといいますが、理系といっても広くて、生命系や化学・薬学系ではかなり女子学 生が多い。ただ、物理、数学、情報などの分野には少ないというだけの話です。皆さん の関心を小中高のころからそういう分野ことに向けていただくということで、特に理系 女子について、高校に話に行ったり、サイエンスフェスティバルを開催したりするなど、 いろいろなプロジェクトを行っています。お茶の水女子大理学部や生活科学部の理系分 野には、もともと理系に関心のある学生が入ってくるので、そういう人たちに対しては、 特に理系教育というよりはことは、むしろ女性のリーダーシップの強化ということで考 えております。 土山:慶應大学の総合政策学部ができてもう20年以上がたちますけれども、あそこの焦点 は三田や日吉とは違い理系、すなわち環境と情報です。しかし、理系とはいわないで、 ああいう形でプログラムを作りますと、相当女子が入ってきます。だから、工学部とい うとなかなか入りにくいかもしれませんが、女性に魅力的なプログラムを作るというの は、これからもっと大学として努力すべきじゃないかと思います。 石井:河村先生のコメントに付け加えさせていただければ、例えばお茶の水女子大学には 3つの学部しかないんですね。その1つに生活科学部という学部があります。この生活 科学部では、例えば食物栄養、これは理系の先生方がほとんどですけれども、あとは環 境・建築とかの先生方もいらっしゃいますので、その名称を、例えば生活科学部にする としますと、生活に密着した、生活を意識した女子学生が来るのではないでしょうか。 すでに食物栄養などはかなり倍率が高い学科です。ですので、そういった工夫をする価 値があるのではないかと思います。 7 グローバル化と女性力 土山:それでは最後の論点、あるいは質問です。アジアのグローバリゼーションという流 れの中で、グローバル化を促進のために、女性の能力やよさをどんなふうに活用したら よいのかについてお訊きしたいと思います。わたしは昨年まで青山学院大学のグローバ ル化を大学の執行部として担当しておりましたが、本学のグローバル化については女子 にわたしは期待をしています。その理由は簡単で、私費留学生(1年から入学してくる 者と大学院生)の約6割、青山学院大学から交換学生で留学する者(約8割)も、留学 して来る者も女子が常に多い。海外の大学でMAやPhDをとってくる者も他大学に比べ 123 て女性の割合が大きい。また、例えば国連などの国際機関に入った国際政治経済学部卒 業生は相当数がおりますが、ほぼ全員が女性です。海外で展開するだけがグローバリ ゼーションではありませんけれども、グローバル化に関して、女性の役割が国内で見て いるのと違って、だいぶ大きいように思います。 韓国の大学はグローバル化を日本の大学より10年早くやっておられて、例えばイン チョン国際空港のそばにできた延世大学の新しいキャンパスでの教育はほとんど英語で 教えているということですし、ソルブリッジ大学では米国防大学の元副学長を学長に抜 擢して、あそこは全部英語で教えていると聞いています。こういうプログラムは韓国の 大学にはたくさんあります。グローバリゼーションは大学だけの問題ではありませんけ れども、グローバリゼーションと女性の能力をどのように結びつけるかについてご意見 をいただきたいと思います。 羽入佐和子:先ほど河村副学長がお茶の水女子大学のグローバリゼーションの取り組みを お話しいたしましたが、グローバリゼーションについて、先ほど紹介の中にもありまし たけれども、やはり日本でしか使わない言葉ではないかということもいわれたりしてお りますけれども、何をもってグローバライゼーションかということを考えた時に、女子 大学として考えるべきことは、やはり少なくとも価値の一元化ではないだろう、という ことを考えるべきだろう。多元的なものが世の中には存在するということを知り、それ を教え、国際的に活躍する人として育てていくというのが、女子大学としての教育の役 割ではないかというふうに思っております。 先ほど小倉先生もおっしゃっていたことと関係するかと思いますが、やはり価値を一 元化しない、多様な価値を認め合うということを身をもって体験するということが、語 学力より何より最も大切なことで、そのためにやはり多様な知識を身につけて、そして 外に出るということを実践的に教育するということを、私どもの大学では試みつつ、特 に小さい大学でございますので、むしろ多くの大学とネットワークを作りながら実際に 実行しております。 女子大学間には、国際的なネットワークで「ウィメンズ・エデュケーション・ワール ドワイド」という女子大学の連盟がございます。そこでお互いにセミナーを開いたりし て、学生が協力し、訓練したり、あるいは教員同士がディスカッションしながら、女性 がグローバルで活躍するとはどういうことか、それからリーダーシップを発揮するのは どういうことか、というようなことを具体的に実践しております。日本ではお茶の水女 子大学が、韓国では梨花女子大がアジアの中心的なメンバーになっています。 小倉:やはりアジア全体を考えた時、それからグローバリゼーションといいますかね。世 界の情勢を考えますと、日本と韓国における女性問題がほかのアジアの国の女性問題 と、あるいはほかの世界ですね。アメリカとかヨーロッパの世界の女性問題とどこが 違っているのか。われわれが日本や韓国の体験というものを、どのような形で世界の 124 方々とシェアできるのかという観点が、やはりあっていいんじゃないかと思うんです。 その時に、私はやはり日本と韓国が最も、世界のほかの国と違って歴史的な体験とし て特徴があるのはスピードだと思うんですね。さっき小玉先生が労働参加率のパターン の時系列的な変化、アメリカと日本との違い、韓国と日本との違いを比較されましたが、 おそらくこの背後にあるのはものすごいスピードでの社会の変化、それから経済成長、 短期間にものすごいスピードで成長したということだと思うんです。 これの体験というものがどのような意味を持っていたか。また、それがどのような意 味を持って、それにどのように対処したかというコンテキストの中で女性問題を考え て、その体験をほかのアジアの国々やほかの国ともシェアしていくということが、1つ のグローバリゼーションの中で、日本と韓国がこの問題について寄与できる点じゃない かというふうに感じております。 石井:もうちょっと具体的なレベルですけれども、例えば先ほど申しました国連のエキス パート会議に私も参加してまいりました。そこで気がついたのは、日本の方っていうの は意外とおとなしく、聞き役の方が多くて、ほかの国の方々は英語が母国語ではなくて も、頻繁にそして積極的にディスカッションに参加するのです。ですから、まず英語力、 外国語能力は当然必要です。けれども、むしろその前に自分の意見を積極的に言えると いうか、そういった教育も必要であると常々思っております。それがないと、やはりグ ローバルなレベルでのディスカッションは当然できません。非常に具体的な例で申し訳 ないのですけれども、そういった語学力と諸問題に取り組む積極的な姿勢、意識が必要 だと思います。 お茶の水女子大学に着任したときは、お茶大の学生はとても静かであるというイメー ジを持っていました。しかし、結構活発に議論できる学生が多くいることがわかりまし た。ただ、やはり、少し後押ししてあげなければならないところはあります。ですから、 そういった女子大生にとっては、男子学生もそうですけれども、やはりグローバルな場 で自分の意見がきちんと言えて、積極的に参加できること、つまり語学力プラスアル ファの部分が非常に大きいかなと思っています。 森山:女性力とグローバル化について一言申し上げます。グローバル力という言葉を最近 お茶の水女子大が使い始めているんですが、グローバル力とは何なのかということを細 かく考え、定義づけていく時に、「越境できる力」といえるのかもしれないですし、「適 応できる力」ということになるのかもしれないし、あるいは「コミュニケーション力」 であるかもしれませんが、いずれの点を考えても、グローバル力という能力があるとす れば、もしかしたら男性よりも女性のほうが優れている部分が多いのではないかと思い ます。 その意味で、近代、現代では男性の力が発揮されやすかったんですけれども、グロー バル力、つまり越境し、その相手のところの中でうまく適応し、そしてともに生きる、 125 そういうものを総称してグローバル力と考えた時に、女性こそがそのグローバル力を十 分に発揮して、リーダーとなっていく可能性があるのではないかと思います。 土山: 「グローバル力」といわれると、また小倉先生から「力はいけません」といわれるか もしれませんが(笑い)、女性のグローバル化は、パク先生のおっしゃられた ”to increase women’s participation in globalization” というような意味に理解しておりますが。韓国 の先生から何か今のこのグローバリゼーションについて、ご意見ございませんか。 パク:韓国におります外国人としまして、わたし、グローバル化という話は耳にはしてい たんですけれども、それがどういう意味かということを学問的に研究したこともなかっ たので、よくは存じませんでした。ただ、韓国に行くということになった時には、うわ あ、韓国は先進国だ、すごいな、どんなところだろうと思ってワクワクして行ったわけ なんですけれども、韓国に行ってみてわかったことは、韓国でいうグローバル化という のは先進国になるということだ、ということです。つまり、ハイテクの国になることだ なという印象を受けたわけです。ですから、グローバルなリーダーを育てるということ は、グローバルリーダーというよりも、むしろグローバルシティズンを育てるという言 い方をしています。 韓国は多文化の国です。特に外国人と結婚するという傾向が高まっていて、ますます 多文化になっていったわけですけれども、多文化の中でということは、いろいろな文化 が入ってくるわけですから、その中で実際に参加していくために何が大切か。そこで、 韓国では教育というのが強調されるわけなんです。中でも言葉、言語が特に強調されま す。 わたしが例えば人材としては、とてもヒューマンキャピタルとしては大切な人材とい うふうに例えば思われたとしましても、そこの国ではそう思われたかもしれないけど も、グローバル化された世界で諸外国に行った時には、やっぱりそこの中でのそのグ ローバルという意味がまた違うかもしれないので、そこに合ったグローバルな人間とし てやっていかなきゃいけない。そのためにはじゃあどうするかというと、やっぱり言葉 がないと表現ができないということで、やっぱり韓国で一番気がつきましたのは、グ ローバルシティズンということを強調しているということ。そのためには教育が大切。 その中でも言葉を習得するということに非常に力を入れているということに気がつきま した。 土山:ありがとうございました。グローバリゼーションについてもいろいろな考え方があ るかと思いますが、普通、グローバル化とはある社会が大きくなるにつれて、その社会 を運営するために他の社会との依存関係が拡大することで、やがてグローバル化なしで はその社会を運営できなくなるとをいうのではないかと思います。日本などは、例えば 石油などエネルギーをほとんど海外に依存しているだけではなく、貿易も金融も技術 も、そして安全保障も他の社会や国がどう考えどう動くかということを知らないでは日 126 本の社会を運営できなくなってきて100年以上になるわけで、その流れはますます強 まっています。そういうグローバリゼーションの流れが強まるなかで、あらためて、女 性の能力、感覚、センス、あるいは女性のよさをどのように活かしていくかということ を、日本の、また韓国の社会はもっと深刻に真剣に考えるべきじゃないかというふうに 思います。 今朝のご挨拶のなかで申しましたように、青山学院大学こそ、こういう女子教育ある いは女性問題についてよく考えていなければならない大学であるにもかかわらず、残念 ながら今までそういうことをやってきておりませんでした。今日、本学でジェンダー問 題などの科目を担当されている講師の西山千恵子先生と小川誠子先生が出席されておら れましたが、青山学院大学には女性の力を強めるためのちゃんとしたプログラムがない のが実情です。今日のシンポジウムをファースト・ステップとして、これがセカンド・ ステップ、サード・ステップと発展していきますように、努力したいと思います。梨花 女子大学からお越しいただいたE , キム、A. パク、M. リーの3人の先生と、お茶の水女 子大学の4人の先生にあらためてお礼申しますとともに、今日は1日熱心にご議論にご 参加いただきましてどうもありがとうございました。心からお礼を申し上げます。 127
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