『34 最後のコンサート チェロ奏者・徳永兼一郎』 5年

『34 最後のコンサート チェロ奏者・徳永兼一郎』
5年
授業日時 :2005
(平成 17)年6月 29日
みつ
せ
児童:佐賀市立三瀬小学校6年
(学級 16名)
授業者:一番ケ瀬 徹
いち
ば
が
せ
とおる
主 題 名:精いっぱい生きる
内容項目:3-(1) 生命尊重
ね ら い:徳永兼一郎が最後まで精いっぱい生きたことを知り,自他の生命を尊重しようとす
る気持ちを育てる。
主題設定の理由
○ねらいとする価値
識が見られ,行動を自他の命と結び付けて考える場
一度失われた命は二度と取り戻すことができな
合は少ない。
い。だからこそ,生きとし生けるものの命は尊重さ
○資料について
れなければならない。しかし,普段の生活の中で自
がんの病に倒れながらも,死の間際までチェロの
他の「命」を強く感じ,さまざまな場面で,生きて
演奏に打ち込んだ徳永兼一郎の姿を描いたものであ
命のあることがいかにすばらしいことかを考えるこ
る。東京でのコンサートを終えた兼一郎は,最後の
とは少ないと言えよう。人は,生きているからこそ,
目標を達成した後,生きる気力を失いかけ,病気も
人間のもつ生きる力の偉大さに触れることができる
進み体力が少なくなっていた。そこに,ホスピスで
のである。限りある命を精いっぱい生きることの尊
のコンサートの話が持ち上がり,本当に最後となる
さに気づかせることで,自他の生命を大切にしよう
コンサートを開く決心をする。既に一人では楽器を
とする気持ちへとつながると考える。
構えることすらできなくなった兼一郎は,最後の力
○児童の実態
を振り絞ってすばらしい演奏を行う。それから2か
これまで,さまざまな学校行事に取り組んできたこ
月もたたないうちに,惜しまれながら 55 歳の生涯
とで,5年生としての自覚が高まってきている。し
を閉じる。人の命には限りがあり,その限りある命
かしながら,精いっぱいがんばることの価値につい
を精いっぱい生きることのすばらしさを感じ取るこ
ては,
「やらないといけないから」という受身の意
とができる資料である。
指導のポイント
資料「最後のコンサート - チェロ奏者・徳永兼一
したうえで,本時に臨むことができる。
郎」を事前に読ませ,ホスピスや徳永兼一郎につい
展開の「深める」過程では,特に中心発問の前に,
ては,
各自が補足説明できるように調べさせておく。
チェロ奏者による実際の演奏を取り入れ,残された
そうすることで,児童と資料とのかかわりを深め,
力を振り絞って最後の演奏に取り組んだ兼一郎の心
本学級の児童が,兼一郎が置かれていた状況を理解
情に迫っていきたい。兼一郎が最後に選んだ「鳥の
歌」という曲を,児童が実際に聴くという活動が,
護者の方に,児童へのメッセージという形で兼一郎
音に込められた兼一郎の思いに触れさせ,生きるこ
の生き方について感想を出してもらう。保護者だか
とへの希望を感じ取らせるのではないかと考えた。
らこそ,我が子の命の過程を振り返りながら,兼一
また,このような試みは,読み物資料を共感的にと
郎の生涯と命の尊さを伝えることができると思われ
らえる力を高めるとともに,主人公の心情を実感で
る。そして,再度,各家庭において本時が話し合い
きる効果も期待できると思っている。
の題材になることを期待している。
書く活動は,中心発問で取り入れ,自分の意見を
終末の「高める」過程では,チェロ奏者の方に徳
明確に示して話し合いに参加できるようにする。兼
永兼一郎の思い出やエピソード等を話してもらい,
一郎は最後の演奏を通して何を伝えたかったのだろ
人として,あるいは音楽家としての兼一郎のすばら
うか。精いっぱいがんばることのすばらしさ,他者
しさに触れさせたい。その後,兼一郎が最後に演奏
の命を大切に思う気持ちの尊さ,生きることの喜び
した「鳥の歌」を再度聴かせることで,人の命が存
について意見を聞き合い,互いに感想を出し合う活
在している意味を考えさせ,感動的な時間をつくっ
動によって,本時のねらいに迫る。
ていきたい。
展開後段の「見つめる」過程では,参観された保
他教科・領域との関連
せるとともに,生きることの尊さについて指導する。
学級活動において,1年間を通して合奏に取り組
み,その活動を通して,自己の命の輝きを見つめさ
学級活動
道徳
4月
学級開き
「明日への扉」の
合奏練習
最後のコンサート
おばあちゃんからもらった命
ーチェロ奏者・徳永兼一郎
(光村図書副読本5年収録)
3-(1)生命尊重
3-(1)生命尊重
徳永兼一郎が最後まで精いっぱ
い生きたことを知り,自他の生
命を尊重しようとする気持ちを
育てる。
自他の命の輝きについて話し合
い,生きているからこそ得られ
る喜びを見つめ直す。
展開例
学習活動と児童の反応
指導上の留意点と評価(◎)
導入 (つかむ)
1 「ホスピス」と「徳永兼一郎」について調べたことを発表する。
①「ホスピス」と「徳永兼一郎」について,どんなことを知っ
●資料を事前に配布しておき,
「ホス
ていますか。
ピス」
「徳永兼一郎」について各自
・病気で助かる見込みのない人が,安らかに過ごせるように
で説明できるように調べさせてお 援助してもらう施設。
く。
・日本を代表するチェロ奏者。
2 資料「最後のコンサート - チェロ奏者・徳永兼一郎」を聞き,
●資料中に出てくる「メンデルスゾー
兼一郎の気持ちについて話し合う。
ン」の曲を流しながら,教師が読み
①兼一郎の気持ちを考えながら,話を聞きましょう。
進める。
②3月2日の東京でのコンサートに向けて,兼一郎は,どんな
●これが最後のコンサートになるとの
気持ちで練習を続けていたのでしょう。
思いから,下半身の自由が奪われて
・力の限り,自分の音を追求したい。
も,懸命に練習を続ける兼一郎の姿
・新しいチェロに命を吹き込みたい。
をとらえさせる。
・多くの人に喜んでもらいたい。
③残された力もわずかになってしまったのに,兼一郎は、どう
してホスピスでのコンサートを決心したのでしょう。
・生きる気力を失いかけていたけど,これで元気が出そうだ。
●兼一郎が,もう一度チェロに向かっ
たのはなぜか,そこには,どのよう
な気持ちがあったのか考えさせる。
・死ぬ前に,もう一度演奏をしたい。
●チェロの演奏にこそ生きているあか
たい。
しがあること,
「命ある限り,チェ
・自分と同じように病気で苦しんでいる人たちに喜んでもら
ロを弾き続けたい」という兼一郎の
いたい。
願いに気づかせる。
展開 (深める)
・お世話になっているホスピスの多くの方々に聴いてもらい
・私が生きることは,チェロを弾くことだ。
3 チェロ演奏「鳥の歌」を聴き,
「鳥の歌」を演奏している時
●実際にチェロ奏者の方に演奏しても
の兼一郎の気持ちについて考える。
らい,兼一郎の心情に迫らせる。
①兼一郎はどんな気持ちで最後の曲「鳥の歌」を演奏したので
●演奏後に兼一郎の気持ちをワーク しょう。実際にチェロ奏者の方に「鳥の歌」を演奏してもら
シートに書かせる。
いますので,聴き終わったら,ワークシートに書きましょう。
◎限りある命を大切にして,精いっぱ
・今までお世話になってきた人たちに,今,自分ができるこ
とで恩返しをして,みんなをもう一度幸せにしてあげたい。
・最後に「鳥の歌」を聴いてもらって,自分のように苦しん
でいる人が,少しでも喜んでくれればいいな。
・この曲が最終の曲になるかもしれないから,今の力をすべ
て使いきって,最高の曲にしてみせるぞ。そして,この演
奏を聴いてくれた人に喜んでもらいたい。
・みんなに今までたくさんお世話になったから,その感謝の
気持ちを込めて,丁寧に演奏したい。自分は病気になって,
い生きたいと思う兼一郎の気持ちを
感じ取ることができたか。<ワーク
シート評価>
●互いの意見を聞き合い,感想を出し
合わせる。
みんなに迷惑をかけたから,最後に残りの力をいっぱ
いに出して,気持ちを伝えたい。
4 保護者の方の感想を聞く。
①参観されていた保護者の方に,徳永兼一郎の生き方について
●保護者の感想を,子どもたちへの
感想を出してもらいましょう。
メッセージという形で伝えてもら
・Aへ
う。
精いっぱい生きる=使命を果たすこと。
「使命」とは「命
を使う」と書きます。自分のためだけでなく,他者のため
●保護者の感想を聞いて思ったことを
児童から出させる。
展開 (見つめる)
に命を使うことが「精いっぱい生きる」ことだと思います。
●授業の中での意見交流が,親子の心
そして,
精いっぱい生きる時に,人は真に生きる意味と
の交流につながると思われる。
喜びを見出すと,徳永さんに教わりました。
・Bへ
Bが生まれてから,お父さん,お母さんもたくさんの喜び
や感動をもらっています。いつも,この喜びや感動を△△
や(弟の)Cに,どう返していこうかなと考えています。
Bの命そのものが,お母さんたちの喜びです。いつもあり
がとう。
・Dへ
病気であとわずかしか生きられない人でも,残された時間
を精いっぱい生きようとしています。Dも一日一日を大切
に過ごしてもらいたいと思います。
終末 (高める)
5 ゲストティーチャーの話を聞き,学びを振り返る。
①チェロ奏者の方の話を聞きましょう。
●演奏家として,兼一郎がなぜ最後に
・チェロ演奏家にとっては,
「鳥の歌」は心のふるさとにな
るような曲で,作曲家カザルスがアメリカのホワイトハウ
スで世界平和を願って演奏した曲です。
②ここで学んだことを思いながら「鳥の歌」を聴きましょう。
「鳥の歌」を演奏することを選んだ
のかについて語ってもらう。