第1節 経営戦略マネジメント

66 第 2 章 経営戦略
第1節
経営戦略マネジメント
企業の経営戦略マネジメントにおいては,経営戦略手法,マーケティング,ビジネス
戦略と目標・評価,経営管理システムなど,多くの要素が関連してくる。
1.
(Strengths,Weaknesses,Opportunities,Threats)分析
企業において,戦略立案を行う際に用いられる分析手法であり,組織の外部環境に潜
む機会(Opportunities)と脅威(Threats)を分析し,その組織の内部環境がもつ強み
(Strengths)と弱み(Weaknesses)を評価するものである。SWOT 分析において,経
営環境が把握できる。
2.
(Product Portfolio Management,プロダクトポートフォリオマネジメント)
PPM は,市場占有率と市場成長率の二つの観点から事業や製品を分類したものであ
る。
高
市 場 成長 率
問題児
花形製品
負け犬
金のなる木
低
小
①
市場占有率
大
問題児は,市場占有率が小さく,市場成長率が高いために資金投下が必要にな
る事業や製品であり,将来の資金供給者になる可能性がある。
②
花形製品は,市場占有率が大きく資金供給者であり,市場成長率が高いために
将来的にも資金投下が必要な事業や製品である。
③
負け犬は,市場占有率が小さく,市場成長率が低いために資金投下の必要性は
低く,撤退を考える事業や製品である。
④
金のなる木は,市場占有率が大きく資金供給者であるが,市場成長率が低いた
めに新たな資金を投下すべきでない事業や製品である。
第 1 節 経営戦略マネジメント
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プロダクトポートフォリオマトリックス(PPM:Product Portfolio Matrix)の例
を次に示す。
①
市場占有率を横軸(x 軸),市場成長率を縦軸(y 軸)で表す。
②
円の中心の座標(x,y)で,製品 A~D の市場占有率と市場成長率を表す。
③
円の大きさ(面積)で売上高を表す。
製品 C
市 場 成長 率
製品 B
製品 A
製品 D
0
市場占有率
3.プロダクトライフサイクル
製品の販売が開始されてから終了するまでの一連の経過を,次の四つの時期に分けた
ものをいう。
(1)
導入期
製品の認知度が低い。認知度を高めるための広報戦略や“新製品好み”の顧客を取
り込む戦略がとられる。
(2)
成長期
顧客に認知され,急激に売上が上昇すると同時に,ライバル他社の参入により競争
が激化する。製品の改善などで,ライバル他社との差別化を図る。
(3)
成熟期
需要の伸びの上昇が頭打ちになる時期であり,効率化などで利益を確保する。
(4)
衰退期
技術革新などのために,売上と利益が急激に減少し,市場から撤退する。
4.
企業において,“ライバル他社に対して圧倒的に優位である能力”や“ライバル他社に
はまねのできない独自の技術”など,ライバル他社と差別化するための中核(コア)と
なる能力や技術(コンピタンス)である。
68 第 2 章 経営戦略
5.ベンチマーキング
経営目標を設定するとき,ベストプラクティス(経営や業務において最も優れた実践
方法)を探し出すために,最強のライバル他社と自社とのギャップ(差異)を分析して,
製品,サービス,実践方法を定性的・定量的に測定することをいう。
6.外部業者との連携
企業はほかの企業と連携して,お互いの業績向上を図る。
(1)
生産提携,技術提携,販売提携,資本提携など,企業間で結ばれる提携である。
(2)
情報システムなどの開発や運用・保守などに関するすべて又は一部の作業を,外部
の専門業者に委託する形態である。
(3)
自社内には製造部門や工場をもたず,製品の企画後,他社に生産を委託する形態で
ある。
(4)
システムインテグレーション
情報システムに関して,企画,設計,開発,運用・保守などを一括して請け負う形
態である。
(5)
コソーシング
情報システムに関して,発注側(顧客)と受注側(開発側)が対等の責任を担いつ
つ,システムの企画,設計,開発,運用・保守を,顧客と開発側が協力して進める形
態である。
(6)
OEM(Original Equipment Manufacturing)
製品 A を生産している企業 B が,自社製品として製品 A を販売せず,企業 C のブ
ランド(銘柄,商標)として製品 A を供給し,企業 C が販売する形態をいう。
OEM は,企業間の生産提携の一つの形態である。
7.
(Mergers and Acquisitions)
“複数の企業が合体して一つになる合併”と“ほかの企業の株式を購入して子会社化
するなどの買収”を意味する。
第 1 節 経営戦略マネジメント
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8.最高責任者
企業において,経営を管理し,意思決定を行う最高責任者は,次のような名称で呼ば
れている。
(1)
(Chief Information Officer,情報統括役員,最高情報責任者)
情報システムの管理における最高責任者であり,企業の経営戦略と整合性をとりな
がら,情報システムを統括する。情報システムの専門知識や技術だけでなく,自社の
事業や業務,自社をとりまく業界などの幅広い知識が要求される。
一般には,情報システム部門を統括する役員が CIO になる場合が多い。
(2)
CFO(Chief Financial Officer,最高財務責任者)
企業における財務(経理などの財政にかかわる事務)の最高責任者であり,一般に
は,経理部門を統括する役員がなる場合が多い。
(3)
COO(Chief Operating Officer,最高執行責任者)
企業の日常業務における最高責任者であり,社長に相当する。
(4)
(Chief Executive Officer,最高経営責任者)
企業のトップ(経営における最高責任者)であり,日本企業では会長又は社長に相
当する。CEO の下に COO が位置する。
9.ソフトウェアパッケージ
一般の利用者(ユーザ)向けに市販されている既製のソフトウェアをいい,本来は
CD-ROM(Compact Disk - Read Only Memory)や DVD-ROM(Digital Versatile Disk
- Read Only Memory)などの媒体に記録され,マニュアル(使用手引き書)などとと
もにセットで袋づめされている(パッケージ)ものをいうが,最近は,ネットワークを
介してオンラインで提供されるものもある。
ソフトウェアパッケージを,自社の処理(業務)に適合するように変更することをカ
スタマイズという。ソフトウェアパッケージは,一般大衆向け用に作成されているため,
自社の特別な処理を行うためには,手直しが必要となる。
70 第 2 章 経営戦略
10.マーケティング
マーケティングは,市場ニーズ調査,消費者の消費行動,商品の販売・広告戦略,新
商品の価格設定など,市場や消費者について製品やサービスを提供する者の参考となる
知見を追求することである。
マスマーケティング
(1)
大衆(多くの顧客)を一つの集合体としてとらえ,集合体の特性や傾向などの共通
項を分析・把握し,大衆を対象とした取組みを行うマーケティングである。
ワントゥワンマーケティング
(2)
1 人 1 人の顧客の特性や価値観などを分析・把握し,1 人 1 人の顧客の要望を満足
させるような取組みを行うマーケティングである。
リレーションシップマーケティング
(3)
顧客との良好な信頼関係を長期的に維持することによって売上を高めていくマー
ケティングである。
エリアマーケティング
(4)
地域ごとの市場特性を分析・把握し,地域ごとに異なった取組みを行うマーケティ
ングである。
マーケティングミックスにおける売り手側の視点
(5)
マーケティングミックスは,マーケティング戦略において,市場から望ましい反応
を引き出すためにツールを組み合わせる手法である。
ジェローム・マッカーシが提唱した“4P”,Product(製品),Price(価格),Place
(流通),Promotion(プロモーション)があり,これらの四つに分類されるツール
を組み合わせていく。
①
Product(製品)
製品,サービス,デザイン,ブランド,品質などである。
②
Price(価格)
価格,値引,与信限度額,支払条件などである。
③
Place(流通)
輸送,立地条件,品揃え,在庫,引当,流通範囲などである。
④
Promotion(プロモーション)
広告,ダイレクトメール,販売促進などである。
第 1 節 経営戦略マネジメント
(6)
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マーケティングミックスにおける顧客側の視点
ロバート・ラウタボーンは,顧客側の視点を“4C”,Customer solution 又は
Customer Value(顧客ソリューション又は顧客価値),Customer cost(顧客コスト),
Convenience(利便性),Communication(コミュニケーション)に分類し,売り手
側の視点“4P”と次の表にように対応させている。
売り手側の視点“4P”
顧客側の視点“4C”
Customer solution 又 は Customer
Product(製品)
Value
(顧客ソリューション又は顧客価値)
Price(価格)
Customer cost(顧客コスト)
Place(流通)
Convenience(利便性)
Promotion(プロモーション) Communication(コミュニケーション)
(7)
顧客のニーズ(要望)がまだ満たされていない市場,かつ,他社が参入しにくい特
定の市場に焦点を合わせた事業展開を行い,その市場での競争を避け,競争優位を確
保して高利益率を図る戦略である。
(8)
ブランド戦略
企業,製品,サービスに対する顧客の良好なイメージをアップさせ,顧客のロイヤ
リティ(企業に対する顧客の信頼感や忠誠心)を生み出し,ブランド(商標,トレー
ドマーク)を広告宣伝などによって売り込み,ライバル他社との差別化を図り,競争
上有利な立場を築く戦略である。
(9)
プッシュ戦略
営業や販売担当者が,流通業者,卸・小売店,顧客に直接的な販売促進活動を行う
戦略である。
(10)
プル戦略
広告宣伝などによって顧客の購買意欲を喚起し,顧客が自ら商品を購入するように
促す戦略であり,営業や販売担当者は流通業者,卸・小売店,顧客に直接的な販売促
進活動を行わない。
11.
(Balanced Score Card,バランススコアカード)
企業のビジネス戦略を,財務,顧客,業務プロセス,学習と成長の四つの視点で,日
常業務のレベルまで落とし込み,具体的な目標やアクションプランを立て,遂行状況や
達成度の評価を行う業績評価手法である。
72 第 2 章 経営戦略
12.ビジネス戦略と目標・評価
ビジネス戦略においては,ビジネス環境の分析を行い,戦略目標を立て,適切な評価
を行う必要がある。
(Critical Success Factor,重要成功要因)
(1)
ビジネス戦略では,戦略目標を定め,その戦略目標を達成するための手段を策定す
る。この策定される手段の中で,重要なものが CSF である。例えば,商品 X の売上
を 20%アップさせる戦略目標を達成するための主要な手段としてインターネットシ
ョッピングが考えられる場合,インターネットショッピングが CSF に該当する。
(2)
KPI(Key Performance Indicator,重要業績評価指標)
戦略目標を達成するための主要な手段である CSF の遂行度合いを定量的に測定す
る指標が KPI である。例えば,インターネットショッピングについて,アクセス件
数や受注数などが KPI に該当する。
(3)
KGI(Key Goal Indicator,重要目標達成指標)
戦略目標の達成度を定量的に測定する指標が KGI である。
KGI がプロセスの目標(Goal)の達成度を定量的に表すのに対し,KPI はプロセ
スの遂行度合い(Performance)を定量的に表す。
KGI には売上高,利益率,原価率などがあり,KPI には顧客訪問回数,引合件数,
歩留り率などがある。
(4)
ビジネス戦略の手順
ビジネス戦略を策定し実行するための手順は,次のとおりである。
①
ビジョン(将来の構想や展望)の設定
②
ビジネス環境の分析
③
ビジネス戦略の立案,CSF(重要成功要因)の抽出
④
実行計画の策定
13.バリューエンジニアリング
顧客が求める機能やコストに基づいて“製品やサービスの価値”を分析し,機能向上
やコスト削減などによって“製品やサービスの価値”を高める手法である。
第 1 節 経営戦略マネジメント
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14.経営管理システム
企業の経営管理を支援する手法やシステムには,次のようなものがある。
(Customer Relationship Management,顧客関係管理)
(1)
顧客情報とコンタクト履歴を,顧客と関連するすべての部門で共有管理し,顧客か
らの問合せに対して,迅速かつ最適な対応ができるようにするマネジメントである。
(Sales Force Automation)
(2)
企業収益を支える営業活動業務の全般を,コンピュータによって支援する情報シス
テムの基本概念である。SFA の基本機能の一つであるコンタクト管理は,顧客訪問日
や営業結果など,顧客とのコンタクト(接触)履歴を管理し,効果的な営業活動を行
うことを目的としている。SFA は,CRM の一部である。
(Supply Chain Management,サプライチェーンマネジメント)
(3)
部品供給会社から始まり,製造会社,卸売業者,小売業者,顧客までのサプライチ
ェーン全体をネットワークで結び,部品の調達から製品の生産,流通,販売までを最
適化し,期間短縮やコスト削減などを実現しようとするマネジメントである。
(4)
バリューチェーンマネジメント
開発,資材調達,生産,販売,代金回収など,一連の業務の流れを“価値の連鎖”
としてとらえ,業務の効率化を行うマネジメントである。
(5)
EDI(Electronic Data Interchange,電子データ交換)
受発注などの電子商取引に関する情報をディジタル化し,ネットワークを介して企
業間でデータ交換を行う仕組みである。
EDI における当事者間の取決めには,次の四つがある。
(6)
①
情報伝達規約:通信回線を介した接続方法など
②
情報表現規約:データフォーマットなど
③
情報運用規約(業務運用規約):システムの運用時間,障害対策など
④
情報基本規約(取引基本規約):取決めの適用範囲,有効期間,変更手続など
CALS(Commerce At Light Speed,光速の商取引)
設計や資材の調達から,生産や管理までの一連の工程を,コンピュータネットワー
クを利用して,統合管理するシステムのことである。経済産業省では「生産・調達・
運用支援統合情報システム」と定義している。