邦銀のグローバル化に向けて ∼ガバナンスモデル、現地社員のグローバル活用 円安による輸出産業の業績伸張、それに伴い銀行業の海外支店における業績も 好調な推移を見せている。 少子化により国内需要の大幅な増加が長期的に見込めない中においては、中長 期を見据えた事業会社の海外展開の支援、有力な海外投資先の買収・業務提 携、 また自身のグローバル化が経営プライオリティの中でも重要な位置を占める のは明白である。 また中小企業の海外進出に伴い、各地銀も海外支援業務を拡大させている。今 までに幾度か日本企業の海外進出の波はあったが、中小企業も含めた空前の規 模、待った無しのグローバル化時代に突入したといえる。 白石 善彦 2002年 アクセンチュア(株)入社 金融サービス本部 シニア・マネジャー グローバル化といっても幾つもテーマがあるが、今回はそのうち「ガバナンスモ デル」、 「 現地社員のグローバル活用」について外銀・他業種の例を用いつつ、 邦銀の将来像を考察したい。 買収先含む海外支店の業務戦略ガバ 取るモデル、「直轄事業」は戦略から業 地域別にゼロベースで再考することが求 ナンスモデル 務まで本社統一型で可能な限り共通・標 められる。 ここ数年メガバンクの海外行・海外社買 収、業務提携がアジアを中心に相次ぎ、 準化したガバナンスを利かせるモデル、 の3つである。 ② 欧米金融機関による参考例 弊社が実施した調査では、事業・業務に 地銀も中小企業の海外進出サポートを梃 ① 事業別、業務別、地域別の最適ガバ 子に次々と海外へ進出している。また中 より濃淡はあるが、欧州系の銀行におい ナンス配置 国系銀行による国内銀行の買収という逆 ては欧州大陸に「直轄事業」型のガバナ 全ての事業、業務、地域に対し同一のガ ンスを用い、アメリカ大陸・アジアには バナンスモデルを適応することは現実的 「投資先」または「フランチャイズ」型 では無い。リテールはより現地特有の商 のガバナンスを適応している銀行が多い 習慣・法規制を伴うため「投資先」モデ ことが判明した。また、米国系の銀行は ルを採用し、市場部門はグローバル規制 全世界を対象に「直轄事業」モデルを採 を伴うため「直轄事業」モデルといった 用し、世界における差を最小限にとどめ 事業別の分類が考えられる。企画・業務 るガバナンスモデルを取る銀行が多いよ 遂行支援は機動性確保のため現地、リス うだ。欧米銀行それぞれが、成長戦略や ク管理・規制管理といった全社的に管理 自行の文化との整合性に基づいてガバナ すべきものについては本社で行うといっ ンスモデルを決定し、またそれを周知徹 た業務別の分類の考え方もある。また本 底することにより現場の混乱を抑えてい 社から地理的・文化的に大きく異なる地 る。邦銀においては、それぞれの文化や 域は「投資先」モデル、本社に地理的・ オーナーシップを尊重する欧州系銀行に 文化的に近いところは「直轄事業」モデ 近い形のほうが馴染みやすいとは思う ルで管理するという戦略もある。過去そ が、後述するキャリアモデルと合わせて うしてきたからという現行のモデルにと 考えることにより現地とのシナジーが らわれず、今後のグローバル戦略との整 最大限活かせる組織が構築できると考 合性も踏まえ何が最適かを事業・業務・ える。 転現象も起きている。リーマンショック 前までは外銀による外銀買収が主であっ たが、ようやく邦銀にも本格的なグロー バル化の波が到来したといえるだろう。 海外環境が目まぐるしく動いている中 で、どこまでの意思決定・管理を本社主 導で行い、どこまでの範囲を現地任せに するかというガバナンスモデルを再考す る時期にきている。話を単純化するた め にガバナンスモデルとして、「投資 先」、「フランチャイズ」、「直轄事 業」という 3 分類を使用する(図表 1 )。 「投資先」は現地市場個別最適の考え方 を基本に最低限の本社支援・管理を行う モデル、「フランチャイズ」は一定のガ イドラインやガバナンスを本社から利か せつつ現地マネジメントとのバランスを 3 図表 1 3種類のガバナンスモデル Ⅰ:投資先 / 分散管理 Ⅱ:フランチャイズ/地域集約 地域に移管 ガバナンス形態 グローバル 本部機能 拠点機能 業務・システムの 配置(例) 機能配置方針 業績目標 事業計画 (レビュー) 本部 業績目標 地域本部 機能 KPI レポート グローバル統括 ム志向(例) © 2015 Accenture グローバル統括 地域 地域 地域 地域統括 地域統括 地域統括 責任 拠点 拠点 拠点 拠点 統括 統括 統括 統括 業績目標 事業計画 作業指示 責任 計画 責任 地域 地域 地域統括 地域統括 拠点 拠点 拠点 拠点 統括 統括 統括 統括 拠点 拠点 拠点 統括 統括 統括 業務 業務 業務 業務 業務 業務 業務 IT IT IT IT IT IT IT • 拠点別プラットフォーム 計画 執行 • 本部は、大局的な観点でグローバル連携を 主導、また集約できる領域は地域単位で巻 取り、拠点運営を効率化 • 各地域・拠点は、本部からの一定のガイド ラインの範囲内で、現地市場に適合 KPI レポート 作業報告 グローバル統括 統括 計画 執行 責任 計画 本部 拠点 • 拠点のニーズへの柔軟な対応 ITプラットフォー 責任 計画 KPI レポート 事業計画 (ドラフト) 本部 地域 • 各拠点は、会社として自立し、現地市場 にカスタマイズし、個別最適を追求 メリット 本部に集約 地域統括 • 本部は、ポートフォリオの組み換えやグ ローバル連携の支援 背景・狙い Ⅲ:直轄事業/本部集約 責任 計画 執行 • 海外は営業拠点に徹し、グループで可能な 限り共通化・標準化した仕組みを展開 • カスタマイズを最小限にすることで、グル ープ全体として、機動力を高める • 先進国、新興国 な ど地域単位に分けた施 策展開 • 迅速な意思決定 • 地域別プラットフォーム • シングルプラットフォーム • 全体最適(コスト・リソース)の追求 All rights reserved. ITガバナンス にもグループ全体のITケイパビリティを 集中化、グローバルIT人材の育成という 集中化させることができるため、IT戦略 よ う に 昇 華 さ せ て き た 。 昨年 Everest の全社的な見直し、次世代システムの全 とに関しても迅速な対応が可能となる。 邦 Research が実施した調査では、欧米主 要各行では数千から多いところで1万人 を超えるオフショア IT 要員を抱えてい 銀においては、日本固有の商習慣・要件 る。邦銀においては、近年国際業務拡大 により日本とそれ以外の海外で分けざる の比重に合わせ、オフショア活用を拡大 をえない領域・システムもあるが、「本 するというトレンドがようやく始まって 部集約」によるメリットは明らかである きたばかりである。オフショア活用とい ため、領域・システムごと、地域ごとに う領域では邦銀は後発と言わざるをえな どう集約し、またどのように全社的にIT いが、その分欧米各行の成功例を参考に ケイパビリティを育てるかは急務の課題 しながら自社の文化や戦略にあった最適 と認識している。効率的な IT ガバナン なオフショアモデルを早期に模索し、実 ス・資産を持たない状況においては、足 践していくことが可能だ。邦銀の利益に 下の規制対応など最低限のシステム対応 対するIT支出規模は、欧米各行に比べる ① 本部集約へのトレンド に追われ将来を見据えた IT 投資ができ とほぼ同じかまたは低い状態だ。オフ 前述の業務戦略観点では、欧米各行が一 ず、ますます欧米各行との差が開いてし ショア化を進めIT支出を圧縮することに 定の傾向を持ちながら事業、業務、地域 まうであろう。 より、足下の対応にとどまらず、将来に 業務戦略を迅速に効率よく実行するため には、ITの活用が欠かせなくなった。単 なるコスト削減という目的にとどまら ず、IT投資効果を最大限享受するために も、グローバル全体のIT戦略・ガバナン スは大きなテーマである。主要欧州各行 は買収先も含めたITガバナンスのモデル を過去10年ほどかけ構築してきたが、邦 銀は近年海外における買収が盛んになっ てきているため、今まさにホットな議題 であると認識している。前述と同じ 3 つ のガバナンスモデルを使用し説明する (図表1)。 の特性に合わせ最適なガバナンスモデル を組み合わせていることを述べたが、IT ガバナンスにおいては欧米各行とも「本 部集約」へ過去10年で移行してきている (図表 1 の右側)。「本部集約」の最大の メリットはコスト削減であるが、その他 世界対応、世界的な規制対応といったこ ② オフショア活用 欧 米 主 要 各 行 は 2000 年 初 頭 か ら オ フ 向け た I T 投 資 が 可 能 と な る と 認 識 し ている。 ショア化を開始し、10年の年月をかけて 単なるコスト効率の向上から、システム の標準化・安定化、ITケイパビリティの 4 図表 2 キャリアパスの方向性と育成方針 本社から現地社員主体へ 本社主体 地域主体 、地域活性化 多くの日本企業の現状 • 本社から社長を派遣 グローバル企業が採用しているモデル • 一部の支店・子会社で現地から 社長を起用 • 地域 TOP は本部から派遣 、または 現地 TOP との併用 • 現地社員の地域内での異動 本社 国A 本社 国B 国A 支店/子会社 支店/子会社 • 地域 TOP に現地社員を起用 • グローバル適材適所が基本 、本社 からの人員に優位性を置かない 本社 本社 国B 国A 支店/子会社 グローバル活性化 支店/子会社 地域 A 地域 B 国B 支店/子会社 支店/子会社 国A 地域 A 国B 地域 B 支店/子会社 支店/子会社 キャリアパス • 現地法人社長は本社から派遣さ れる為、キャリアパスがない。 • 現地社員の現地法人社長までの キャリアパスができる 。 • 各地域本部主導 で地域内異動が できる。 • 現地社員の地域本部 TOP 、本社 までのキャリアパスができ 、地 域間異動 ができる 。 マネジメント 層の育成 • 本社主導 、駐在員主導 で現地 社員の教育が行われる 。 • 本社提示の教育方針を基に 各現 地法人主導 で育成が行われる 。 • 本社提示の教育方針を基に各地 域本部主導 で育成が行われる 。 • 本社主導で 本社/現地社員同一基 準でコア人材の育成 が行われる 。 凡例 本社採用 © 2015 Accenture 現地社員 本社から派遣 現地から昇進 異動 All rights reserved. 現地社員のグローバル活用・キャリ ① 既存キャリアパス・育成方針の障壁 ② アクセンチュアにおけるキャリア・育成 アモデル 現在日系企業のほとんどが日本人を中心 制度 とした日本式のキャリア・育成制度、加 手前味噌ながら、弊社では国籍・採用地 えて一部特定子会社、現地社員にのみ現 を問わず優秀な人材をいかに採用・確 地特有のキャリア・育成制度を採用して 保・登用するかということを前提にキャ いる(図表 2 の左側)。一方、グローバル リア・育成制度が構築されている。元は に人材を活用している企業は国・地域を 米国企業であるが、現在の社長はフラン 超え人材を登用し、またグローバル全体 ス採用のフランス人である。極端に言え で整合された育成制度を採用している ばどこで採用されたかということは重要 (図表 2 の右側)。長い歴史を持つ日系企 視されず、優秀か否かのみが判断基準と 業のキャリア・育成制度を変更するには なるし、またその優秀な人材を発掘・育 大きな障壁と障害があると予想される 成するためにも、グローバル全体で整合 が、グローバル人材登用を前提とした人 の取れたキャリアモデル・育成制度を施 材育成・活用制度を取っている企業があ 行している。ここまでの徹底したグロー る限り、人材獲得競争という場において バル育成制度を取っている会社は日本以 現行制度では劣勢と言わざるをえない。 外でも少ないとは思うが、重ねていえば 一部の日系金融機関においては既存の グローバル人材獲得競争という中におい キャリア制度と並行して、グローバル型 ては、このような制度を取る外銀との戦 社員といったような既存の枠組み外の いを強いられているということである。 前述のガバナンスモデルを有機的に機能 させ、また現地社員も含め優秀な人材を 確保・活用するためには、既存のキャリ アパス・マネジメント層育成方針の再考 が求められると考える。グローバル人材 の活用という題目が唱えられ始めて久し いが、優秀な社員を引きつけとどめるた めには、魅力的なキャリアパスと育成方 針が無ければ単なる題目で終わる。話が 多少逸れるがソフトバンクが後継者とし てインド人を指名して話題になった。経 営判断としての成否については将来結果 が明らかになるとは思うが、この人事が ソフトバンクに入社する外国人に与える 影響は計り知れない。優秀なグローバル 人材の採用に頭を悩ます人事担当者の方 も多くいると思うが、企業のブランドや 報酬面だけでなく、キャリアパスや育成 制度が社員満足度に大きく貢献すること は様々な調査で結果が出ているところで ある。 キャリア制度を採用するなど試行錯誤中 であると思うが、魅力的なキャリア・育 成制度を構築できるかは良質な社員の採 用・確保の絶対条件であり、グローバル 成長戦略の大きな位置づけを占める要素 となる。 今後ますますボーダレス化社会は進み、 グローバルを舞台にした競争は熾烈を極 めるであろう。グローバルガバナンス、 オペレーティングモデル、キャリアモデ ル構築は弊社にとって最も実績がある テーマの一つだ。海外他行の事例や弊社 の実績を梃子に、邦銀のグローバル化の 5 お手伝いができればと考えている。
© Copyright 2024 Paperzz