EPA 交渉対象国におけるサービス貿易等 潜在

日本機械輸出組合
平成 20 年度経済連携基盤情報収集対策事業
EPA 交渉対象国におけるサービス貿易等
潜在ニーズの発掘調査
報告書
平成 21 年3月
日本機械輸出組合
この事業は、競輪の補助金を受けて
実施したものです。
http://ringring-keirin.jp
1
目
次
調査の背景と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
1
FTA/EPA の進捗状況とサービス貿易自由化ニーズ・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
1)
日本におけるサービス貿易の位置づけ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
2)
日本、米国、EU における EPA の位置づけ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
3)
日本、米国、EU におけるサービス貿易の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
2
米国政府調達におけるコンピュータ関連サービス・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19
1)
関連市場の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
2)
日系企業の事業活動の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
3)
軍事分野における参入規制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
(1)制度及び特徴
(2)外国企業の受注事例
4)
3
その他関連規制について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37
EU における音響映像サービス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43
1)
関連市場の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
2)
日系企業の事業活動の現状・ニーズ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53
3)
今後の展開方向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63
調査の背景と目的
■背景及び目的
昨今、世界の先進諸国は、積極的な FTA/EPA 戦略を進めている。例
えば、隣国の韓国は大規模な農業対策を実施して米国との FTA に署名し
たほか、EU との交渉を進めている。また、米国や EU も、FTA を活用し
た新規市場の開拓に向けて交渉の軸足を近隣諸国からアジア諸国へと移
しつつある。このような中、我が国の産業界には中進国や大市場国との
EPA/FTA 締結を求める声も多く、これまで発展途上国や東アジア諸国
を重視してきた我が国の EPA/FTA 政策は、今後新段階に突入する可能
性が出てきている。
以上の背景を受け、本調査では、今後我が国と FTA/EPA 交渉の可能
性が見込まれる国(米国、EU)について、当該国における我が国の強み
(サービス分野)に対する潜在的ニーズや参入障壁を調査・分析し、交渉
の準備作業に備えることとする。
■調査実施方針
○ 国内の事業者へのヒアリングを通じて、サービス貿易に対する米・EU
の参入障壁、米・EU の基本的スタンスを明らかにする。
日本の大手 SI ベンダーは電子政府の先進的かつ巨大マーケットである
米国に実際に参入せずともその参入の是非について検討した経緯がある
ものと考えられる。同様に、日本の映画配給会社や出版社は、「クール・
ジャパン」という世界的な日本文化礼賛の風潮のなかで、EU に対して日
本映画・アニメーション等の輸出を検討した経緯があるものと考えられる。
したがって、国内の大手 SI ベンダーや関連サービス会社、映画配給会
社・出版社等に対して、米国・EU 市場への参入是非の検討経緯、参入に
あたっての当初課題と自社戦略、(実際に参入した場合には)事業推進上
で苦労した点、等についてヒアリングを行い、米国・EU の参入障壁、及
びサービス貿易に対する基本的なスタンスを概観する。
-1-
1
FTA/EPA の進捗状況とサービス貿易自由化ニーズ
1)日本におけるサービス貿易の位置づけ
改訂版「新経済成長戦略」
(2008 年)において、
「新経済成長戦略」策
定時(2006 年)からの最大の環境変化は資源高に伴う交易条件の悪化(我
が国の交易損失は約 21 兆円(07 年))との認識のもと、2つの基本戦略
のひとつとして「製品・サービスの高付加価値化に向け、イノベーション
の仕組を強化、グローバル化を徹底し、世界市場を獲得する。」を掲げて
いる。
また、「世界市場獲得と持続的発展のためのグローバル戦略の再構築」
の具体策のひとつとして、大市場国との EPA 推進をあげている。
図表
新経済成長戦略の概要
■「新経済成長戦略」改訂の「2つの基本戦略」
新経済成長戦略」策定時(2006 年)からの最大の環境変化は資源高に伴う交
易条件の悪化(我が国の交易損失は約 21 兆円(07 年))
「2つの基本戦略」
●「資源生産性」の抜本的向上に集中投資し、資源高時代、低炭素社会の勝
者になる。
● 製品・サービスの高付加価値化に向け、イノベーションの仕組を強化、
グローバル化を徹底し、世界市場を獲得する。
■「新経済成長戦略」改訂の「3つの柱」
―「2つの基本戦略」をベースに、以下の3つの柱で、
「新経済成長戦略」を強
化―
「資源生産性競争」時代における経済産業構造の構築
・ 「資源生産性」の抜本向上による経済構造の転換
・ イノベーション強化により世界市場に打って出る
・ 原子力の内外での展開・太陽光等「資源大国」を実現
世界市場獲得と持続的発展のためのグローバル戦略の再構築
・ 資源国、新興国との戦略的な関係の構築、資源外交
・ アジア市場との一体化による成長活力の取り込み
・ 自由で開かれた国際経済体制の構築
地域・中小企業・農林水産業・サービスの未来志向の活性化
-2-
・ 内需依存度の高い中小企業、サービスの国際展開
・ 潮目の変化を活かした農業新展開
・ 地域医療制度の抜本的な改革
出所)経済産業省「新経済成長戦略の改訂」
2)日本、米国、EU における EPA の位置づけ
EPA の位置づけとして、日本はモノの貿易のみでなく、サービス・投
資、人の移動、政府調達、知財、競争、ビジネス環境整備、協力を含む包
括的なEPAを推進することとしている。
「今後の経済連携協定の推進についての基本方針」
(平成16年12月21日経済連携促進関係閣僚会議決定)
■EPA の意義
・WTO を中心とする多角的な自由貿易体制の補完
→我が国の対外経済関係の発展・経済的利益の確保に寄与
・我が国及び相手国の構造改革の推進
政治外交戦略上、我が国にとってより有益な国際環境の形成
(東アジア共同体構築の促進など)
■具体的施策
・現在進行中の東アジア諸国との交渉に全力を傾注
・上記以外の交渉→「基準」(次頁参照)を十分踏まえて検討
・相手国との経済関係の現状等も踏まえて、FTA(自由貿易協定)以外の経
済連携のあり方も検討→投資協定、相互承認協定、投資環境整備など
出所)外務省経済局「日本の経済連携協定(EPA)交渉―現状と課題―」平成 21 年3月
これに対して、米国は米州域内(NAFTA、CAFTA、FTAA)
政治・安全保障上のパートナーとの関係強化(イスラエル、ヨルダン等)、
米国が定める相手国選択の基準に合った国を優先としている。また、EU
は、地域間関係強化の手段として位置づけている。
■米国の動向
ブッシュ政権は、自由貿易の推進を主要政策課題として掲げ、(1)多国
間(WTO)、(2)地域(米州自由貿易地域:FTAA)、(3)二国間の三方
面の自由化促進を並行して追求。2002年に成立させた貿易促進権限法
〈TPA 法〉は2007年7月1日に失効した。オバマ政権はTPA法に反
対しており、新たな自由貿易協定の締結には消極的。交渉が停滞する可能性
-3-
がある。交渉締結時の文言のままでのコロンビア、パナマ、韓国とのFTA
に反対、NAFTAの主要合意部分に環境と労働を含むべきと主張してい
る。
■EU の動向
2006年10月に発出された貿易に関する政策レビューの中で、欧州委
員会は、WTO・DDAを最優先課題としつつも、以下の優先順位での締結
を提案:1.ASEAN、韓国、メルコスール、2.インド、ロシア、GC
C。
出所)外務省経済局「日本の経済連携協定(EPA)交渉―現状と課題―」平成 21 年3月
我が国と比較して、米国および EU は FTA/EPA の締結状況は、以下
の通り、かなり進んでいる。米国は、NAFTA、オーストラリア、シンガ
ポール、韓国、ペルー、チリなど 14 カ国・地域との間で発効・妥結して
おり、米国の貿易総額の 34%を占めている。EU も、メキシコ、チリ、
トルコ、エジプトなど 22 カ国・地域との間で発効・妥結しており、EU
の域内貿易も含めると貿易総額 74%を占めるまでになっている。
FTA/EPA におけるサービス貿易についてみると、米国が締結した
FTA/EPA におけるサービス分野対象は、NAFTA、オーストラリア、
バーレーン、チリ、ジョルダン、モロッコ、オマーン、ペルー、シンガポ
ー
ルでイスラエル以外は全てとなっている。一方、EU でのサービス分野
対象は、EC、チリ、メキシコだけで、他の20カ国程度とは物品貿易の
みとなっている。それに比べ、日本は、これまで締結した EPA 全てでサ
ービス分野が対象となっている。
このことより、米国の FTA/EPA は、関税の引き下げだけなく、サー
ビス分野への参入規制緩和などの分野にも積極的に取り組んでいるとい
える。これは、米国・EU のサービス業が世界的にみて競争力があるため
で、これを FTA/EPA 締結相手国に広く展開したいという意向がある。
また、EU については、ある程度高い経済水準のある国とはサービス分野
に積極的に取り組んでいるといえる。
図表 FTA/EPA の進捗状況
対象国
日本
米国
状態
数
相手国
締結済み/ 10 シンガポール、マレーシア、インドネシア、ブルネイ、ベトナム、タイ、フィリピン、メキ
署名済み
シコ、チリ、スイス
交渉段階
4 オーストラリア、韓国、インド、GCC
発効・妥結 14 イスラエル、NAFTA、ヨルダン、シンガポール、チリ、オーストラリア、モロッコ、バ
-4-
交渉中
検討中
EU
発効・妥結
交渉中
検討中
ーレーン、中米(DR-CAFTA:エルサルバドル、コスタリカ、ドミニカ共和国、
グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグア)
、オマーン、ペルー、コロンビア、パナマ、韓
国
10 FTAA、南部アフリカ関税同盟(SACU:南アフリカ、ボツワナ、
ナミビア、レソト、スワジランド)
、タイ、アラブ首長国連邦(UAE)
、マレ
ーシア
3 ASEA 諸国、中東諸国、環太平洋戦略経済パートナーシップ
22 欧州共同体、海外領土、スイス、リヒテンシュタイン、アイスランド、ノルウェー、
アルジェリア、シリア、アンドラ、トルコ、フェロー諸島、パレスチナ、チュニジア、南ア、
モロッコ、イスラエル、メキシコ、マケドニア、クロアチア、ヨルダン、チリ、レバノン、エジ
プト
8 メルコスール(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ、ベネズエラ)
、GCC、
ACP(79 カ国)、韓国、ASEAN、インド、中米統合機構、ア
ンデス共同体
2 カナダ、アルメニア
出所)外務省経済局「日本の経済連携協定(EPA)交渉―現状と課題―」平成 21 年3月
調査対象主要国におけるサービス貿易の収支を見ると、以下のとおりで
ある。わが国は大幅に輸入超過にあることがわかる。
図表
主要な対象国のサービス貿易収支
単位:100万ドル
1980年
1985年
1990年
1995年
2000年
2005年
2006年
米国
6,580
1,063
29,410
75,943
72,226
68,980
76,030
英国
8,519
8,349
7,685
14,119
20,650
44,851
53,787
スペイン
5,861
8,172
11,883
17,575
19,282
27,534
27,963
スイス
2,003
3,975
7,799
11,144
14,081
19,841
23,194
ルクセンブルグ
n.a.
n.a.
n.a.
3,100
6,720
16,261
20,800
ギリシャ
2,519
1,199
3,560
5,237
7,953
19,172
19,396
オース トリア
3,218
3,308
9,083
4,508
1,689
4,814
13,736
トルコ
142
1,531
4,945
9,582
11,375
15,272
13,361
スウェーデン
471
▲560
▲3332
▲1594
▲3188
7,673
10,600
フランス
11,358
9,666
15,405
17,973
19,798
13,180
10,483
デンマーク
n.a.
693
2,612
1,267
2,659
6,332
6,542
ベルギー
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
4,972
6,444
ポルトガル
481
662
1,091
1,625
1,963
4,729
6,197
オランダ
▲998
▲1152
▲407
1,147
▲2021
6,779
2,733
ハンガリー
n.a.
▲101
484
1,307
1,126
1,312
1,621
チェコ
n.a.
n.a.
n.a.
1,844
1,403
1,531
1,530
ノルウェー
1,619
▲58
407
525
2,726
▲243
1371
ドイツ
▲12292
▲5530 ▲22389 ▲52151 ▲54103 ▲46790 ▲41905
日本
▲12120
▲9604 ▲42897 ▲57352 ▲47625 ▲24046 ▲18258
韓国
▲723
▲459
▲615
▲2979
▲2848 ▲13658 ▲18763
出所)国際貿易投資研究所国際比較統計より作成
○米国の FTA/EPA におけるサービス自由化の方向
米国がこれまで取り組んでいる FTA/EPA の締結状況や交渉の中から、
-5-
韓米 FTA についてサービス貿易分野に対する自由化の方向をみると、法
律サービス・会計サービス等の段階的市場開放があげられている。
図表 米韓 FTA の概要
■ サービス関連市場の開放
・ 韓国は、国内の主要なサービス部門(電子取引等、国境を越えるもの
も含む)について、WTO の公約に対し大幅な改善を実施した。
・ 韓国はアメリカのサービス事業者に対し、韓国国内でのより大きい機
会、保証を提供することとなった。主要な分野としては、配達サービ
ス、法律・会計サービス、ヘルスケア、教育、R&D サービス、鉱業
に関するサービス、機器の維持・修理サービス、環境保全サービス等。
■ 金融サービスの改善
・ アメリカの金融機関に対して以下のような権利を提供した。
¾ 韓国内での金融機関の設立・買収
¾ アメリカの銀行、保険会社、信託会社の支店の設立
¾ 国境を越える投資情報サービス(韓国の投資ファンドのためのポー
トフォリオ管理サービスなど)
■ 音響映像製品のための放送マーケットの開放
・ アメリカの放送・音響映像サービス事業者に対して市場を開放する。
(アメリカの番組提供者の 100%子会社を韓国内に設立することを
許可(3年以内に導入))
・ 韓国の TV 番組(映画、アニメーション)のクウォータの低減ととも
に、海外の一国あたりの許容コンテンツの量の増加。
・ •映画のスクリーンクウォータを含む、韓国において、コンテンツに
対して課せられる規制のレベルを現行法の最低限に固定する。
・ アメリカからの IPTV への投資の許可、コンテンツのクウォータの統
合を含む。
■ 開放的で競争力のある通信市場
・ アメリカの企業が韓国内で 100%出資の通信事業会社を保有するこ
とを 2 年以内に許可する。
■ E-commerce デジタル次代の自由貿易
・ すべてのデジタル商品(ソフトウェア、視聴覚製品等)についての免
税措置を保証する(物品として輸入されたもの、インターネットを介
して取得されたものを問わない)
出所)USTR「Free Trade with Korea Summary of the KORUS FTA」2007 年をもとに
作成
-6-
○EU の FTA/EPA におけるサービス自由化の方向
サービス貿易については、EU 及び個別の EU 加盟国の権限が入れ子構
造になっているため、EU 全体としての(特に先進国・地域に対する)サ
ービス自由化の方向を評価することが難しい。ここでは、EU と韓国の
FTA 交渉にあたってまとめられた報告書*をもとに EU の FTA 方針を参
照することとする。
図表 EU と韓国間の FTA 交渉にみる EU のサービス貿易についての方針
■EU の貿易戦略
2006 年、欧州委員会は、貿易についての方針として、EU域内の企
業が主要な市場に進出し、競争力を保持することを目的として、EU は主
要な経済圏との 2 地域間の FTA 交渉を続けることを表明している。EU
の貿易戦略としては、
「海外との取引において、開放的な市場と公正な競
争環境を形成するための行動と保護主義の排除」とされている。EU の
FTA に対する戦略は、高度なレベルにおける貿易、投資そしてサービス
の自由化を実現することであり、出に伴う税や輸入の数量規制などを取
り除くことを目指している。
■ サービス分野別にみた EU の貿易の競争力
サービス分野別に TSI(貿易特化指数:Trade Specialization Index、
数値が0を超える場合に国際競争力を有すると評価される)及び(顕示
比較優位指数:Revealed Comparative Advantage Index、数値が1
を超える場合に国際競争力を有すると評価される)に基づいた評価をみ
ると、全 10 分野中で韓国が EU に対して比較優位を有するサービス分
野は輸送のみであり、特許等使用料、その他ビジネスサービスについて
同等である他、残りの 7 分野については、EU が韓国に対して比較優位
を有するとされている。
サービス
韓国
EU
比較優位性
TSI
RCA
TSI
RCA
輸送
□
□
○
△
韓国
旅行
△
△
□
○
EU
通信
△
△
□
□
EU
European Commission “A Qualitative Analysis of a Potential Free Trade Agreement
between the European Union and South Korea” 2007
*
-7-
建設
○
△
□
□
EU
保険
△
△
□
□
EU
金融
○
△
○
□
EU
コンピュータ・情報
△
△
□
□
EU
特許等使用料
△
△
○
△
同等
その他ビジネスサービス
△
○
□
○
同等
対個人、文化興行
△
△
○
○
EU
注)□:韓国と EU の平均値よりも大きい
○:韓国と EU の平均値よりも小さい(ただし TSI は0以上、RCA は1以上)I
△:韓国と EU の平均値よりも小さい(ただし TSI は0未満、RCA は1未満)I
■ EU のサービス貿易自由化の方向
EU はサービス貿易において明らかな比較優位を有している、という状
況を踏まえつつ、あくまでも「現存する貿易や投資の障壁を踏まえた現
状のもの」であり、これらの障壁を取り除くことにより、
「関連部門の競
争力に対して、大きな効果をもたらす」とされている。
EU の立場から韓国に対して障壁があるとみなされているサービスと
して、銀行、保険、法律・会計サービス、通信があげられている。
出 所 ) European Commission
Qualitative Analysis of a Potential Free Trade
Agreement between the European Union and South Korea をもとに作成
○今後の FTA/EPA におけるサービス自由化の方向
EU における FTA/EPA の締結時のサービス貿易分野に対する自由化
の方向について、日本とスイスの EPA を事例として考察する。
日本スイス EPA の特徴として、ポジティブリスト(約束表)方式では
なく、ネガティブリスト(留保表)方式をとっていることがあげられる。
特に市場アクセスについて、ネガティブリスト方式で締結したのは、我
が国が締結する EPA では、はじめてである。その成果として、ネガティ
ブリスト方式をとったこともあり、自由化制約条件の明確性を増した他、
GATS以上の約束水準(例:船舶・航空機のレンタルリース)となった
ことが挙げられる。なお、日スイスEPAにおいては、他のEPAとは異
なり、補助金、カボタージュ(内航海運)、政府調達も協定の範囲に含め
た。
日スイス EPA の成果を受け、今後の EPA におけるサービス貿易の自
由化の方向としては、EPA 締結国間で、両国の現状(の各種規制)の範
囲内で規律を精緻化していくことに加え、例えば、エンジニアや建築士資
格をはじめとして、実需に応じた高度人材に係る専門資格の相互承認を行
-8-
う方向や、規格・制度の標準化やハーモナイゼーションを促進するという
方向が考えられる。
図表 日スイス EPA の概要
第六章サービスの貿易
第四十三条適用範囲
1 この章の規定は、サービスの貿易に影響を及ぼす締約国の措置であっ
て、中央、地域又は地方の政府及び機関がとり、並びに非政府機関が中
央、地域又は地方の政府又は機関によって委任された権限を行使するに
当たってとるものについて適用する。この章の規定は、すべてのサービ
ス分野について適用する。
2 この章の規定は、航空運送サービスに関し、運輸権(いかなる方法で与
えられるものであるかを問わない。)に影響を及ぼす措置又は運輸権の
行使に直接関係するサービスに影響を及ぼす措置については、適用しな
い。ただし、次に掲げる事項に影響を及ぼすものを除く。
航空機の修理及び保守のサービス
航空運送サービスの販売及びマーケティング
コンピュータ予約システム(CRS)のサービス
3 第四十五条から第四十七条までの規定は、政府機関が政府用として購入
するサービスの調達(商業的再販売を行うこと又は商業的販売のための
サービスの提供に利用することを目的として購入するものを除く。)を
規律する法令及び要件については、適用しない。
第四十五条最恵国待遇
1 サービス貿易一般協定第七条の規定に従ってとる措置を妨げることな
く、かつ、第五十七条に規定する自国の留保に係る表において別段の留
保を行わない限り、一方の締約国は、サービスの提供に影響を及ぼすす
べての措置に関し、他方の締約国のサービス及びサービス提供者に対
し、第三国の同種のサービス及びサービス提供者に与える待遇よりも不
利でない待遇を即時かつ無条件に与える。
第四十六条市場アクセス
1 一方の締約国は、第四十四条に規定するサービスの提供の態様による市
場アクセスに関し、他方の締約国のサービス及びサービス提供者に対
し、第五十七条に規定する自国の留保に係る表に従って待遇を与える。
第四十七条内国民待遇
1 第五十七条に規定する自国の留保に係る表において別段の留保を行わ
ない限り、一方の締約国は、サービスの提供に影響を及ぼすすべての措
置に関し、他方の締約国のサービス及びサービス提供者に対し、自国の
同種のサービス及びサービス提供者に与える待遇よりも不利でない待
遇を与える。
第四十八条国内規制
-9-
1 各締約国は、一般に適用されるすべての措置であってサービスの貿易に
影響を及ぼすものが合理的、客観的かつ公平な態様で実施されることを
確保する。
第五十二条商慣習
1 両締約国は、サービス提供者の一定の商慣習(前条の規定に該当するも
のを除く。)が競争を抑制し、及びこれによりサービスの貿易を制限す
ることのあることを認める。
2 第十章の規定の適用を妨げることなく、一方の締約国は、他方の締約国
の要請に応じ、1に規定する商慣習を撤廃することを目的として協議す
る。要請を受けた締約国は、当該要請に対して十分かつ好意的な考慮を
払うものとし、問題となっている事項に関連する秘密でない情報で公に
利用可能なものを提供することによって協力する。要請を受けた締約国
は、また、自国の国内法に従い、かつ、要請をした締約国による情報の
秘密の保護に関して適切な協定が締結されることを条件として、利用可
能な他の情報を当該要請をした締約国に提供する。
第五十三条支払及び資金の移転
1 締約国は、次条に規定する場合を除くほか、サービスの貿易に関連する
経常取引及び資本取引のための資金の国際的な移転及び支払に対して
制限を課してはならない。
第五十四条国際収支の擁護のための制限
1 両締約国は、国際収支の擁護のための制限を課することを避けるよう努
める。
2 国際収支及び対外支払に関して重大な困難が生じている場合又は生ず
るおそれのある場合には、締約国は、サービスの貿易に対する制限(取
引のための支払又は資金の移転に対するものを含む。)を課し、又は維
持することができる。
第六十条見直し
1 両締約国間のサービスの貿易の更なる自由化のため、両締約国は、少な
くとも二年に一回、又は合意する場合にはより頻繁に、附属書三に定め
る両締約国の留保に係る表についての見直しを行う。最初の見直しは、
この協定の効力発生の後二年以内に行う。
2 一方の締約国が自国のサービスの分野、小分野又は活動のいずれかをこ
の協定の効力発生の後に自主的に更に自由化する場合には、当該一方の
締約国は、そのような自主的な自由化をこの協定に組み入れるよう求め
る他方の締約国の要請を検討する。
出所)日本国とスイス連邦との間の自由な貿易及び経済上の連携に関する協定
- 10 -
3)日本、米国、EU におけるサービス貿易の現状
サービス貿易の推移をみると、いずれの国・地域においても受取・支払
いともに増加傾向にある。2006年時点で米国は受取 4,188 億ドル、支
払 3,428 億ドル、EU は受取 12,945 億ドル、支払 11,679 億ドルと
いずれも受取が支払を上回っている。それに対して、日本は受取 1,173
億ドル、支払 1,356 億ドルと輸入超過となっている。
図表
日本、米国、EUにおけるサービス貿易収支
単位:100万ドル
年
日本
米国
EU (25)
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
2000
-45,860
69,245
115,105
72,228
295,968
223,740
−
−
−
2001
-42,700
64,463
107,163
61,290
283,056
221,766
−
−
−
2002
-40,525
65,679
106,203
57,735
288,787
231,052
−
−
−
2003
2004
2005
2006
-31,238
-34,255
-23,969
-18,214
77,567
97,559
110,302
117,337
108,805
131,814
134,271
135,552
50,719
54,021
68,983
76,031
301,048
346,239
384,614
418,848
250,329
292,218
315,632
342,818
45,621
86,345
100,488
126,556
908,022 1,094,701 1,190,080 1,294,490
862,401 1,008,356 1,089,592 1,167,934
出所)OECD 統計書
日-EU、日-米間および米- EU 間のサービス貿易の推移をみると、200
1年時点で日本の対米輸出(日本側の受取)が 206 億ドル、米国の対日
輸出(日本側の支払)が 353 億ドルとなっており、貿易収支は日本側の
147 億ドルの赤字となっている。2006 年時点では、日本の対米輸出が
328 億ドル、米国の対日輸出が 420 億ドルと貿易の規模は拡大しており、
貿易収支は日本側の 92 億ドルの赤字と赤字幅が低減しつつある。
EU については、2001年時点で日本の対 EU 輸出(日本側の受取)が
131 億ドル、EU の対日輸出(日本側の支払)が 207 億ドルとなってお
り、貿易収支は日本側の 76 億ドルの赤字となっている。2006 年時点で
は、日本の対 EU 輸出が 283 億ドル、EUの対日輸出が 288 億ドルと
貿易の規模は拡大しており、貿易収支は日本側の 5.3 億ドルの赤字と赤字
幅が大幅に低減しつつある。
米国とEU間においては、取引額が大きく増加し、貿易収支では米国の
黒字が増加している。
- 11 -
図表
日本、米国、EU間のサービス貿易収支
2001年
100万ドル
日本
20,587
13,064
35,296
20,698
日本
92,428
米国
EU
米国
85,022
2001年
収支
受取
支払
収支
受取
支払
米国
-14,709
20,587
35,296
−
−
−
2006年
収支
受取
支払
収支
受取
支払
米国
-9,179
32,836
42,015
−
−
−
EU25
-7,634
13,064
20,698
7,406
92,428
85,022
単位:100万ドル
2006年
100万ドル
日本
32,836
28,317
42,015
28,846
米国
143,290
米国
日本
EU
129,023
A
B
単位:100万ドル
はAに対するBの支払
(AからBへのサービスの輸出)を示す
出所)OECD 統計書
また、サービス分野別にみると日本は、受取について輸送、特許使用料、
その他ビジネスサービスの額が大きいのに対し、米国は旅行、金融、特許
等使用料、その他ビジネスサービスの額が大きく、EUは、輸送、旅行、
その他ビジネスサービスの額が大きくなっている。
その他ビジネスサービスに含まれる業種として、法律・会計サービス、
広告サービス、研究開発、経理・経営コンサルティング、技術サービス(建
築、エンジニアリング)などがあげられる。
日本について、収支でみると、2001 年と 2006 年で比較して、収支
が改善(支払に対して受取が増大)している分野として、金融(10.6 億
ドルから 31.6 億ドル)、特許等使用料(-6.6 億ドルから 46 億ドル)、
その他ビジネスサービス(-75.8 億ドルから 9.3 億ドル)、公的サービス
- 12 -
EU25
-530
28,317
28,846
14,267
143,290
129,023
(-3.8 億ドルから 5.1 億ドル)があげられる。
特に「特許等使用料」については、以下の地域別・サービス分野別の我
が国のサービス貿易の収支(日本銀行)をみても、対米国、対EUにおい
て大幅に改善してきていることがわかる。この主な要因は、(特許使用料
に含まれる著作権関係使用料ではなく)「工業権・鉱業権使用料」の増加
であり、日本企業の海外生産の拡大に伴う海外子会社から親会社へのロイ
ヤリティ支払いの増加とみることができる(*)。
*財団法人国際貿易投資研究所 増田耕太郎研究主幹「自動車の海外生産が
牽引する「特許等使用料」の黒字拡大」の記述より。
- 13 -
図表 日本、米国、EU のサービス貿易収支(サービス分野別)
サービス貿易合計
輸送
旅行
通信
建設
保健
金融
コンピュータ・情報
特許等使用料
その他ビジネスサービス
文化・興行
公的サービス
2001年
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
出所)OECD 統計書
- 14 -
日本
-42,700
64,463
107,163
-7,331
24,002
31,332
-23,178
3,308
26,486
-351
718
1,070
969
4,786
3,816
-2,759
-104
2,655
1,064
2,711
1,647
-1,226
1,410
2,636
-658
10,441
11,100
-7,581
16,227
23,808
-1,273
118
1,391
-377
845
1,222
単位:100万ドル
米国
EU25
61,290
126,556
283,056 1,294,490
221,766 1,167,934
-14,947
9,538
46,368
275,011
61,315
265,473
25,802
11,182
88,778
313,498
62,977
302,316
-611
-1,231
4,590
35,590
5,201
36,821
645
8,515
824
28,162
179
19,647
-13,281
3,132
3,424
30,393
16,706
27,261
8,409
61,694
19,598
119,466
11,189
57,773
2,024
32,917
6,723
68,904
4,699
35,986
24,158
-16,922
40,696
49,335
16,538
66,257
21,306
22,865
46,689
338,561
25,384
315,696
8,679
-2,966
8,971
13,883
292
16,849
-894
-2,120
16,393
21,541
17,287
23,661
サービス貿易合計
輸送
旅行
通信
建設
保健
金融
コンピュータ・情報
特許等使用料
その他ビジネスサービス
文化・興行
公的サービス
20 06 年
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
収支
受取
支払
日本
-18,214
117,337
135,552
-5,187
37,652
42,839
-18,409
8,468
26,877
-297
436
733
2,789
8,991
6,201
-2,993
1,575
4,568
3,163
6,151
2,989
-2,160
966
3,126
4,607
20,104
15,496
927
30,695
29,768
-1,161
140
1,301
505
2,158
1,653
出所)OECD 統計書
- 15 -
単位:100万ドル
米国
EU25
76,031
126,556
418,848 1,294,490
342,818 1,167,934
-24,301
9,538
68,484
275,011
92,785
265,473
29,708
11,182
106,736
313,498
77,028
302,316
1,415
-1,231
6,578
35,590
5,163
36,821
177
8,515
477
28,162
300
19,647
-24,305
3,132
9,276
30,393
33,581
27,261
28,517
61,694
42,814
119,466
14,297
57,773
-996
32,917
10,096
68,904
11,092
35,986
35,946
-16,922
62,378
49,335
26,432
66,257
32,973
22,865
79,636
338,561
46,663
315,696
10,349
-2,966
11,357
13,883
1,008
16,849
-13,453
-2,120
21,016
21,541
34,469
23,661
図表
日本の対米国、対 EU のサービス貿易収支(サービス分野別)
単位:億円
米国
サービス収支全体
輸送
旅行
建設
金融
特許等使用料
その他
2001
2006
2007
2001
2006
2007
2001
2006
2007
2001
2006
2007
2001
2006
2007
2001
2006
2007
2001
2006
2007
-18,019
-10,675
-9,575
794
2,281
2,965
-7,628
-7,944
-7,244
45
25
21
538
1,332
1,348
-3,336
-2,455
-2,127
-8,432
-3,914
-4,538
西欧
-10,741
-2,640
-2,676
-853
-2,085
-3,550
-5,540
-4,300
-4,258
-688
-397
-514
307
1,587
920
-769
653
1,560
-3,199
1,902
3,167
EU
-9,468
-616
31
-371
-1,392
-2,449
-4,773
-3,979
-3,944
-630
-511
-518
280
1,577
906
-548
866
1,650
-3,848
2,823
4,387
フランス
-2,375
-1,212
-1,553
-560
-453
-514
-824
-764
-816
-62
-10
-91
17
58
84
-440
191
261
-505
-235
-477
注 1)EU構成国数は 2001 年は 15、2006 年は 25、2007 年は 27
注 2)西欧の構成国は以下の通り
ドイツ、イギリス、フランス、オランダ、イタリア、ベルギー、ルクセンブル
グ、スイス、スウェーデン、スペイン、アイスランド、ノールウェー、デンマー
ク、アイルランド、モナコ、アンドラ、アゾレス、ポルトガル、ジブラルタル、
マルタ、フィンランド、オーストリア、セルビア及びモンテネグロ、ギリシャ、
サイプラス、トルコ、クロアチア、スロヴェニア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、
マケドニア旧ユーゴスラヴィア共和国、リヒテンシュタイン、サン・マリノ、ヴ
ァチカン、セウタ及びメリリヤ、カナリー諸島
出所)財務省「地域別国際収支状況」(2001 年、2007 年)
以上のように米国、EU はサービス貿易について対外市場進出を積極的
に推進している。このような状況を踏まえて本調査では、サービス貿易の
拡大に向けて、わが国の国内産業として有力であるにも関わらず、グロー
バル展開が充分にできていない分野として、米国の政府に対するコンピュ
- 16 -
ータサービス、EUの音響映像サービス分野のこれまでの取組をモデルと
してとりあげる。これらの2つの分野は、これまでわが国の国内市場が比
較的大きかったため、主に国内需要に対応しながら成長を続けてきた。た
だし、今後、少子高齢化等に伴う国内市場の成熟化、情報通信をはじめと
する経済活動のグローバル化を踏まえ、今後の成長戦略として、海外市場
への展開が必須とされている。政府としても、コンテンツ産業、情報サー
ビス産業については、それぞれグローバル化に向けたビジョンが策定され、
海外市場に目を向けたビジネスの拡大が期待されている。
わが国情報サービス業のグローバル化の方針(産業構造審議会サービス政策部
会)
■グローバル化への対応
インド、中国等の新興市場の拡大や、東南アジア、南米などの国々が情報
サービス市場に新規参入し、従来、国内ユーザ企業を対象に事業を展開し
てきた情報サービス業においても、競争圧力が高まっている。その競争圧力
は、ソフトウェアの開発技術や手法、人材といった投入資源に対しても大き
く影響している。さらに、これらの投入資源等に関する国際標準化の流れの
中で、世界規模での最適な研究、開発、供給体制が確立されつつある。この
ような状況において、我が国情報サービス業も、海外市場を視野に入れた世
界規模での最適な研究、開発、供給体制を確立することが課題となっている。
出所)経済産業省「産業構造審議会新成長政策部会・サービス政策部会
員会
サービス合同小委
中間取りまとめ」平成20年6月
わが国コンテンツ産業のグローバル化の方針(「コンテンツグローバル戦略」)
■グローバル化を目指す背景(3つのリスク)
世界のコンテンツ産業をとりまく環境が急速に変化する中、日本のコンテ
ンツ産業には、以下の3つのリスクが考えられる
● 日本コンテンツ産業の内需の伸び悩み
● 一方的な人材流出等のリスク
● 中期的に産業全体がグローバルな展開に吸収されるリスク
しかしながら、日本の強み、特に「マルチコンテンツの力」を柔軟に組み
合わせつつ、世界中で展開していくことによりこうしたリスクを克服してい
くことが可能。
■目指すべき4つの方向性
日本のコンテンツ産業には、前述のようなリスクが存在。これを克服して
- 17 -
いくために日本のコンテンツ産業が目指すべき4つの方向性は、以下のとお
り。
● コンテンツ産業自体のグローバル化
● 人材、技術、資金などコンテンツビジネス「資源」の「集積」
● ビジネスのハブとなる「マーケットプレイス」としての日本市場の構
築
● 多様なプレーヤーの参入と連携による「バリューチェーン」の再構築
と新ビジネスの展開
出所)コンテンツグローバル戦略研究会「コンテンツグローバル戦略報告書」平成19年9
月
もちろん、これまでにもこれらの分野においては、先進的な企業により
海外拠点の設置や海外の企業との共同事業などの取組が実施されてきて
いる。一方で、海外進出を果たしたものの、日本との商慣行の違いなどに
より、充分な成果があがっていない例もみられる。今後の展開に向けた政
府の取組としては、このような取組を評価し、関係者において課題・対応
方向を共有するとともに、EPAなどの協定を締結することによって、日
系企業の進出・活動を促進していく方向が考えられる。
本調査においては、将来の EPA の締結も視野に入れながら、日系企業
による米国・EUの市場への展開の動向を把握するとともに、今後の展開
に向けて、規制緩和など政府としての対応方向を検討した。
- 18 -
2
米国政府調達におけるコンピュータ関連サービス
アメリカにおけるIT需要は、民間だけにとどまるものではない。連邦
政府においても、ITはきわめて重要な役割を果てしており、ITにつく
予算額も大きい。これは連邦に限らず、州や地方政府においても同様であ
る。米国全体における民間のIT投資はおよそ25〇〇億ドル程度である。
これに対して連邦政府のIT予算は二〇〇九年要求額で七〇七億ドルと
なっている。民間のIT投資全体に比べて、連邦のIT投資は三割近い水
準となっており、IT需要に占める官の比率はきわめて高い。州や地方政
府レベルの投資まで含めれば、この数字はさらに高いものとなる。
しかしながら、この市場において日本企業の進出は必ずしもめざましい
とはいえない。これはハードウェアよりも、システム開発やオペレーショ
ン&メンテナンスなどの分野において顕著であると思われる。本章におい
ては、アメリカにおける政府調達系コンピュータ関連サービスに対する日
本企業進出の可能性を検討する。
1)関連市場の現状
(1)連邦予算の中のIT予算;省別内訳
2009 年要求額ベースで見ると、アメリカの連邦総予算は 3.1 兆ドル
に達している。このうち、各省庁に配分されて裁量的に使える予算は、
9,876 億ドルとなっている。
このうち、IT予算の総額は 707 億ドルであり、裁量的予算の 7.2%
を占める規模となっている。なお、IT 予算にはハードウェアの調達予算と、
システム開発や運営費用となるサービスの予算とが混在しているが、通常
の調達はソリューション単位で行われるので、この両者を区分するのは困
難であるため、ここではまとめて扱う。
省別の配分額を次ページの表に示す。最大の予算額となる 5,154 億ド
ルを持っているのが国防総省(DOD)であり、裁量的予算の半分以上が
DOD予算である。また、規模としてはかなり小さくなるものの、同じく
国防セキュリティ系の省庁である国土安全保障省が、346 億ドルと第三
位の予算規模を持つ。
予算の総額が多いので、その中に占めるIT予算で見ても、DODの占
める比率は突出して多い。連邦政府全体のIT予算 707 億ドルのうち、
- 19 -
半分近い330億ドルがDODのIT予算となっている。ちなみに、省予
算全体に占めるIT予算の比率で見ると、DODは 6.4%と全体の平均よ
り低い。
表 1 連邦予算とIT予算:省別内訳
単位:10億ドル
国防省(DOD)
健康福祉省(HHS)
国土安全保障省(DHS)
財務省
運輸省(DOT)
司法省(DOJ)
退役軍人省
農務省(DOA)
商務省(DOC)
エネルギー省(DOE)
NASA
その他
合計
総予算
2008
2009
479.5
515.4
71.9
70.4
34.9
37.6
12.0
12.5
15.5
11.5
22.7
20.3
39.4
44.8
21.8
20.8
6.9
8.2
23.9
25.0
17.1
17.6
195.8
203.5
941.4
987.6
IT予算
2008
32.1 (6.7%)
5.5 (7.6%)
5.3 (15.2%)
2.9 (24.2%)
2.7 (17.4%)
2.6 (11.5%)
2.2 (5.5%)
2.4 (11.0%)
1.8 (26.2%)
2.0 (8.5%)
1.7 (9.9%)
6.6 (3.3%)
67.7 (7.2%)
2009
33.0 (6.4%)
5.7 (8.1%)
5.3 (14.1%)
3.1 (24.5%)
3.0 (25.9%)
2.8 (13.5%)
2.5 (5.6%)
2.4 (11.6%)
2.3 (27.9%)
2.0 (8.2%)
1.9 (10.6%)
6.7 (3.3%)
70.6 (7.2%)
出所:市川類「米国連邦政府における安全保障目的を中心としたITに係る取り組み」2008
IT予算の占める比率が一貫して高い省庁は、商務省および財務省であ
り、また 2009 年度の予算では運輸省も非常に高く、いずれも予算額の
1/4 以上がITに費やされている。また、絶対額で見ると、民生部門では
健康福祉省のIT予算が 57 億ドルと最も大きい。しかしながら、ベース
となる金額が圧倒的に大きいため、やはりアメリカ連邦政府における最大
のIT需要は国防関連ということになる。
(2)連邦予算の中のIT予算;使途別内訳
次に、アメリカ連邦予算における使途別のIT投資予算を検討する。
各省庁のIT予算は、たとえば教育省であっても純粋に教育目的で使われ
ているわけではなく、教育省の中で人材管理や財務管理などにもつかわれ
ていたりする。こうした用途別にIT投資を分類したのが以下の表である。
- 20 -
表 2
連邦IT投資:使途別内訳
IT投資額
29,678
11,594
5,398
3,128
2,551
1,188
960
860
834
591
591
575
471
936
市民に対するサービス
Defense and National Security
Health
Transportation
Homeland Security
Community and Social Services
General Science and Innovation
Environmental Management
Law Enforcement
Education
Income Security
Disaster Management
Intelligence Operations
その他
市民サービス支援業務
政府資源マネジメント
Information and Technology Management
Supply Chain Management
Financial Management
Human Resource Management
Administrative Management
その他
Management of Processes
Development and Integration
Communication
Asset / Materials Management
その他
合計
単位:百万ドル
開発更新
O&M
12,107
17,571
6,004
5,590
1,404
3,994
1,619
1,509
1,186
1,365
18
1,171
285
675
245
616
356
477
54
538
183
409
280
295
167
305
308
628
2,986
1,204
1,782
33,446
25,894
2,605
2,448
1,590
910
7,666
4,906
1,182
774
387
417
25,780
20,988
1,422
1,674
1,203
493
4,605
2,149
1,506
189
131
630
679
231
133
97
30
188
3,926
1,919
1,373
91
102
442
70,716
21,657
49,060
出所:アメリカE-GOV VUE-IT ウェブページの数字をもとにNRI作成
費目として最大の金額となる 259 億ドルを使っているのは、情報と技
術マネジメントである。その内訳を見ると、新規の開発費用に使われてい
るのではなく、既存システムのO&Mにかけられている費用が 8 割を占め
ている。続いて、国防と安全保障でのIT投資額が多い。こちらはむしろ
開発更新の費用のほうが過半を占める状況となっている。
国防総省のIT投資は、総投資額の半分を占めていたが、内訳で見ると
- 21 -
国防および安全保障関連に使われているIT投資は全体の 16%程度、国
土安全に費やされている分を含めても 20 パーセント程度である。国防省
の中でもIT予算の多くは各種の裏方業務向けシステムに費やされてい
ることがうかがえる。しかしそれでも、連邦予算の中で安全保障に費やさ
れるIT予算は非常に大きい。
(3)連邦政府調達の主要IT企業
連邦政府の IT 納入業者を見ると、ロッキードマーチン、ボーイング、
ノースロップ・グラマンといった軍需系企業が上位を占めていることがわ
かる。これらの企業は、連邦政府調達全体に占める割合もきわめて高い1。
表 3
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
ロッキードマーチン
ボーイング
ノースロップ・グラマン
レイセオン
サイエンス・アプリケーション
ズ・インターナショナル(SAI
C)
ゼネラルダイナミクス
KBR
L3コミュニケーションズ
コンピュータサイエンス
EDS
ブーズ・アレン・ハミルトン
BAEシステムズ
ハリス
ITT
デル
IBM
CACI
ヴェライゾン
ユナイテッド・テクノロジーズ
ジェイコブス・エンジニアリン
グ・グループ
連邦IT調達額上位20社
(アメリカ)
(アメリカ)
(アメリカ)
(アメリカ)
単位:億ドル
連邦政府調達 連邦政府IT調達 (2008)
2007
2008
軍事 民生
336.4
258.7
134.5
102.1
32.4
242.4
184.2
97.1
79.0
18.1
176.6
135.8
79.1
63.0
16.2
18.4
110.0
51.7
47.6
4.1
(アメリカ)
51.9
42.7
49.2
32.2
17.0
(アメリカ)
(アメリカ)
(アメリカ)
(アメリカ)
(アメリカ)
(アメリカ)
(イギリス)
(アメリカ)
(アメリカ)
(アメリカ)
(アメリカ)
(アメリカ)
(アメリカ)
(アメリカ)
145.7
48.7
70.6
39.2
108.5
40.3
54.1
36.5
22.4
101.3
19.6
26.0
11.2
15.2
15.2
19.1
104.0
15.8
25.2
6.7
14.3
10.7
58.6
64.1
49.0
41.3
39.5
36.7
24.6
24.0
20.2
18.6
18.0
17.4
16.0
13.4
13.2
12.8
43.9
41.3
37.0
25.8
19.7
15.4
18.5
16.2
16.5
10.8
4.2
11.1
11.1
11.1
5.1
0.0
2.5
10.9
4.9
8.6
1.7
2.4
1.5
6.6
11.8
2.3
2.1
1.7
12.3
15.3
12.8
6.2
6.6
(アメリカ)
出所:市川類「米国連邦政府における安全保障目的を中心としたITに係る取り組み」2008
1
調達における外国企業の割合ははっきりしない。表中の BAE も、実施には米国子会社による受注であ
り、イギリス本社が直接受注したものではない。受注企業の州別分布はあるものの、資本関係までは不明。
- 22 -
こうした軍事企業は、高価な兵器などを納入しているので、政府調達の
総額が大きくなるのも当然である。IT系の調達実績が大きいのは、一部
にはこうした兵器の付帯システムやサポートシステムがあるためである
と思われる。ただしこれらの企業は、民生系の連邦調達でも上位を占めて
いる。軍事調達で得た営業ノウハウと同時に、世界的に展開する大規模シ
ステムの運営管理ノウハウが民生系のシステム受注でも活用されている
のではないかと考えられる。
また上位企業群の中で、唯一IBMだけは軍事系システムより民生系
システムのほうが受注額が多い。IBMは昔から、その規模の割には政府
系システムでは比較的低い地位に甘んじており、上の表でもわかる通りデ
ルよりも低い調達額となっている。民間企業での圧倒的な存在感とは対称
的である。
これに対し、レイセオン、ゼネラルダイナミクス、L3コミュニケーシ
ョンズ、KBR、BAEシステムズなどはほとんど軍需に特化した企業と
なっている。
また、ここでいうITは、通信も含む。このため電話会社のヴェライゾ
ンが上位に入っている。
本調査の関心からすると、IT調達額 12 位のBAEシステムズ唯一、
トップ 20 位に入っている外国系企業として注目される。ただし、受注し
ているBAEシステムズ社自体はアメリカの子会社となる。BAEについ
ては次節で触れる。
(4)政府調達と応札方法
a. 連邦政府の調達手法と応札方法
連邦の調達は、基本的にはすべて入札で行われる。 連邦レベルでは原
則として各種の調達情報は、Federal Business Opportunities (FBO)
のサイトで公開されており、その分野で事前に業者として登録しておけば
応札は可能となる。当然ながら能力水準や規模に応じて応札資格は設けら
れているが、アメリカ企業か外国企業かによる区別は存在しない。
- 23 -
図 1
連邦調達ページ(FBO)
FBO の業務は、全部で 102 種類に分類されている。このうち IT サービ
ス調達はD分類「 Information technology services, including telecommunications
services」に該当する。
公募の手法は日本の官庁系のプロジェクト入札とほぼ同じであり、ウェ
ブ上で業務仕様書と契約条件が公開され、それに対し応募企業は、提案書
と入札書を提出することとなる。
応札にあたっては、Central Contractor Registration (CCR)への登
録が必要となる。CCR への登録のためには、以下が求められる:
•
•
•
•
•
DUNS番号(事業所番号)
納税者番号(または社会保障番号)
事業所情報(規模、関係会社、所在地証明)
取引銀行口座
外 国 企 業 の 場 合 に は NCAGE (NATO Commercial &
Government Entity) Code
このように、外国企業については一つ要求事項が多い。ただし NCAGE
コードはウェブサイト上で簡単に取得できるものであり、参入障壁と呼べ
るものではない。
また、ある程度標準化された商品やサービスの提供を行う場合には
- 24 -
General Service Administration (GSA) に登録することで政府調達適
合した品質と価格であることが示され、採用の可能性は高まる。一部の IT
系サービスの調達では、8(a) STARS Governmentwide Acquisition
Contract (GWAC) の下で、事前に登録した中小企業が複雑な入札手続
きを経ずに簡便に受注を可能にしている場合もある。その他、マイノリテ
ィ所有、女性所有など、一部のプロジェクトについては事業所の性質に応
じた優遇措置が存在する。しかし企業の国籍や所有に基づく扱いの差は見
られない。
また、調達の中でも特殊なものや応札能力のある者が明らかに限られて
いる事業に関しては指名入札が行われており、そのための vendor list が
設置されている。たとえば全米やグローバルな通信サービス提供において
は、応札は大規模電話会社に限られる。
b. 地方政府の調達手法と応札方法
こうした調達の手法は、州レベルその他でもほぼ同様の状況である。た
とえば NY 州では、以下で調達情報を公開している。
http://www.ogs.state.ny.us/purchase/
図 2
ニューヨーク州調達ウェブページ
基本的にはだれでも応札可能となっている。応札にあたっては、登録申
請を行って pre-qualification を得てベンダーリストに載ることが必要と
- 25 -
なる。これは業者の所在地、業種、規模、従業員数、優遇措置のある企業
か(少数民族所有、女性所有等々)、財務状況などを提出することで得る
ことができる。
また、調達の一部は指名入札制となっている。各機関が分野ごとに
Primary vendor のリストも持っており、指名入札などはかれらだけを対
象に行われる場合も多い。この primary vendor のリストは数年ごとに更
新される。
- 26 -
2)日系企業の事業活動の現状・ニーズ
(1)日系IT企業へのヒアリング
日系IT企業のアメリカにおける活動を把握するとともに、こうした政
府系ITサービスの受注状況を把握するため、ニューヨークに拠点を持つ
日系IT企業に対してヒアリングを実施した。
インタビュー先の選定にあたっては、ニューヨーク情報サービス産業懇
話会2の会員企業を選び、なるべく系統のちがう企業を選定してITサー
ビス企業の全容をカバーできるように配慮した。対象企業は商社系の IT
サービス企業、日本のデータ通信企業子会社である IT 人材派遣企業、お
よびセキュリティ関連のソフトウェアパッケージの販売企業である。
これらで日本企業のアメリカ IT サービス分野における活動パターンは
おおむね網羅できると考えられる。アメリカにおける日系IT企業の多く
は、日本企業(特に製造業)の進出に伴うサービス提供を主な業務として
いる。一方、一部のデータ通信企業はアメリカで積極的な事業展開を図っ
ており、その手段として企業買収を使っている。今回ヒアリングを行った
IT 子会社もそうした子会社の一つであり、買収以前からアメリカの公共系
受注実績を持つ。またセキュリティソフトウェア企業は独立系企業として
活動している。
以下にそれぞれの企業ヒアリングのポイントをまとめる:
S 社、NY
• 親会社の SAP まわりのロールアウトを担当。また中西部では日系製造
業の工場支援が中心
• 全従業員は中西部もあわせて 90 人ほど。
• 現在のところ、アメリカの政府系やアメリカの民間企業に手を出す人材
的な余裕がない。
• アメリカ企業に比べて技術的には特に劣ってはいないが、一方で明確な
強みを持っているわけでもない。したがって競合するにあたっての強
みが出せない。一番の強みは、バイリンガルのスタッフがいて、日本
出身の工場長と、アメリカの現場スタッフとをつなげることとなる。
すると日本企業を相手にするのがいちばん強みを活かせる。
2
http://www.jif.org/
- 27 -
• また公共系は、アクセシビリティの制限(たとえばウェブサイト構築で
は、身障者用の画面読み上げ機能が必須など)などかなり独特な作法
があるため、あまり簡単に手が出せない。
• もし今後進出するならば、買収により政府とのつきあい方やプロジェク
トの特徴を理解した人材を確保するとともに、大きく人数を増やして
対応体勢を整える必要がある。将来的にはやっていきたいが、まだそ
の余力がない。
M 社、NY
• 親会社のアメリカ支社の 100%子会社。南北アメリカにおける親会社
およびその事業投資先関連の情報通信システムのサポート、および在
米日系企業の製造業支援を行っている。
• 全従業員は 35 人ほど。
• 顧客は日系。アメリカで米系企業と直球勝負は困難だと考えている。技
術力的に差はないと思うが、強みは日本的な感覚、所謂 日本らしさ
なので、それが米系SI企業との差別化と考えている。因みにアメリ
カ進出の日本製造業は4000 社ほどで、その約半数が製造業である。
• アメリカの公共系は、ベンダーリストに載るまでが大変と聞いている。
悪い市場ではないと思うが、まじめに取りに行こうとしたことはない。
まずは一般企業を対象としており、将来的に取り組むのであれば、要
員の確保、体制整備が必要と考えており、現状、まだ対応する余力が
ない。また、既にベンダーリストに載っている米系企業との提携等も
必要になってくると思っている。
IT 人材派遣企業、NY
• 日系データ通信企業に買収された IT 系人材派遣会社。顧客は 30 社ほ
ど、このうち 25%は州や市であり、残り 75%は金融系や電機系企業
など。開発、保守などのスペックにあわせた人材派遣。
• 公共民間を問わず、仕事をとるには Primary vendor になる必要があ
る。NY 教育局は、5 年ごとに Primary vendor の見直しを行う。
• ここに入るのは大変。基準は財務状況、保険がかかっているか、過去の
実績や照会状など。Vendex form という書式があってそれに記述す
ればいいが、どの企業や機関でも入り込みたがっている機関はいつも
数十社はいる。やはり上層部とのコネがものを言う部分は大きい。ま
た既存の Primary vendor の下請けとして入り込む、など戦略を考え
- 28 -
るべき。
• 公共調達は確かにウェブで公開されてはいる。ただし本当に仕事をする
のであれば、日頃から営業をかけてニーズをくみ取り、仕事を作り出
すことが必須。待っていて仕事が取れるものではない。
• 日系データ通信企業に買収される以前から NY 市や州の仕事はしてき
たが、買収されたことで変化は特にない。新規の仕事では、日系親会
社の財務体質が強いためにかえって有利になった場合もある。したが
って、日系企業であるから不利、といった面はないのではないか。た
だし、だからといってすぐにだれでも仕事がとれるわけではないのは
当然。
I社
• 世界でセキュリティ系パッケージソフトとソリューションを提供して
いる。
• アメリカで公共の IT 系業務を取るなら、DoD に入らないと意味がない。
規模的にも技術力的にも圧倒的な差がある。
• ただし DoD は発注カテゴリー別にベンダーリストを持っている。これ
にはなかなか入れない。担当エンジニアがアメリカ市民でないといけ
ない等々の規制がある。
• 現状はベンダーリストに載った企業とジョイントで仕事をとりに行っ
ている。これも容易ではない。また孫請けでも仕事をとるには GSA
ナンバーや NSA の認可が必要になる。これはかなりのコストと手間
がかかる。最終的な判断も必ずしも透明ではなく、コネやその他各種
要因が効いてくる世界ではある。
• 軍以外の連邦は、どこも予算があまりなく、仕事としての魅力に欠ける。
• I 社は、先住民自治区自治区、NY州などに実績がある。これらは日系
だからといった制限はまったくなく、ストレートに勝負できる。特に
障壁に類するものは存在しない。
(2)ヒアリングより得られる示唆
以上の結果から、アメリカの政府系 IT 調達における日本企業の状況に
ついては以下のような示唆が得られる。
z 州や市の仕事は日系企業もそれなりにとれている。
まず政府系ITサービスについて指摘できる大きなポイントは、日系企
- 29 -
業でも政府系の業務受注実績は存在するという点である。今回ヒアリング
を実施した IT 人材派遣会社は、日系データ通信企業に買収された現在で
も、ニューヨーク州や市の IT サービス業務を継続的に受注できている。
また I 社も先住民自治州やニューヨーク州のIT業務を受託できている。
z 日本企業に買収されても前後で、特に受注状況の変化はない
IT 人材派遣会社は、日系データ通信企業に買収される以前からニューヨ
ーク州や市の業務を受注しているが、買収されたことで特に受注状況に変
化はないとのことである。むしろ親会社の財務体質改善により、評価が上
がった面もあるという。外国企業を理由にした調達障壁が存在するとは考
えにくい。
z 日系企業があまり受注していないのは、営業努力と注力するドメインの
差が主要因
多くの日本企業は、決して技術的に劣っているわけではない。しかしな
がら、多くのITサービス分野において群を抜いた高い技術やノウハウを
大量に持っているわけでもない。したがってもともと競争の激しい政府系
の仕事を取りたければ、情報収拾や営業などでそれなりに労力やコストを
かけることが必須となる。
多くの日系IT企業は、すでに日本から進出した日本企業に対するサ
ービス提供の面で比較優位を持っており、少人数体制である程度の仕事が
確実に入ってくる状況となっている。そこから政府系受注を目指すために
は、規模や体制の面でかなりの変化を余儀なくされる。多くの日本企業は、
現時点でそこまでやろうとはしていない。
その一方で、買収により急速な体制拡大を実現している日系データ通信
企業は、買収した子会社を通じて政府系の業務を受注している。したがっ
て、体制を整えてノウハウを身につければ政府系ITサービス業務の受注
は可能だと考えられる。なお、買収に伴う問題については、後述のエクソ
ン・フロリオ条項についての記述も参照。
z 公共系のサービス受注には、それなりの営業努力が必要。ベンダーリス
トへの登録努力、日頃の通い営業等は必須。それでもすぐに大きな仕事
がとれるわけではない。
プライマリ・ベンダーがあらかじめ決まっているために参入が制限され
ることは、ある意味では参入障壁にはなっているとはいえる。ただし一方
で、こうした状況は日本のものと大差ない。日本においても、各種の政府
- 30 -
入札案件は公募されてはいるが、完全な競争入札以外にも指名入札や随意
契約なども存在する。大規模で重要なプロジェクトについては、すでに実
績があり信頼できる業者を限定的に選び、その中で競争を図るのは合理的
なことであり、それが行われているから参入障壁があるとはいちがいにい
えない。
またそれ以外にも、どの世界においても提案や応札価格設定などにおい
てはそれなりのノウハウが必要となるし、今後出そうな案件について日頃
から情報収集なども必須となる。また公共系の仕事は接待の扱いなどの点
で国ごとに慣行やプロトコルもちがっているため、民間企業の業務に比べ
て言わば土地勘が重要となってくる。これを試行錯誤で獲得するにしても、
企業買収で獲得するにしても、コストはかなりかかってしまう。
また公共系プロジェクトの選定においては、担当者の経歴や経験がポイ
ントの相当部分を占め、経験がなければいつまでも仕事がない。このため、
すでに経験を持つ他企業と共同企業体として応札するなど、特に初期段階
では赤字営業なども必須となる。これはサービス産業貿易上の問題という
よりも、経験値の低い企業が新規市場に食い込もうとするあらゆる場合に
共通するコストであり、苦労である。
- 31 -
3)軍事分野における参入規制
以上の調査から見ると、民生分野では参入障壁が必ずしも存在するとは
考えにくい。しかしながらすでに見た通り、アメリカにおけるITサービ
スの政府調達は、圧倒的に民生部門より軍関係が多い。
また、民生部門での IT 受注を見ても、その多くはロッキードマーチン
やボーイングなど軍需系企業の民生部門が受注しているのが現状である。
これは、民生系のシステムといえども軍の場合には軍事系のシステムと関
連しあっていること、また米軍の場合には大規模なシステムは世界的に展
開する必要があり、サポートも含めてそれだけの大規模な展開が可能なの
は、軍事部門での受注ですでに各種の拠点を要している軍需系企業などに
限られてしまうという点が指摘されている。軍需系企業以外では、会計シ
ステムを通じて世界的にネットワークを持つアクセンチュアなどでなけ
ればそうした対応は困難である。このため、軍需受注が民生系の受注にも
影響を及ぼしていることは指摘できる。
そして軍関係においては、明確に外国系企業の参入規制が存在している。
本節ではそれらについて検討を行う。
(1)制度及び特徴
国防・安全保障関係の規定として重要なのは、DoD 5220.22-R,
"Industrial Security Regulation," お よ び そ の 詳 細 を 定 め た DoD
5220.22-M National Industrial Security Program Operating
Manual (NISPOM)である。本節では具体的な規制内容について記述され
ている NISPOM について検討する。
外国系企業に関する制約について記述されているのは NISPOM の
Section 3: Foreign Owned, Controlled, or Influence である。外国に
所有されたり、コントロールされたり、その影響を受けたりする企業はこ
の規定の適用を受ける。ただし、あらゆる場合にこれが適用されるわけで
はなく、機密情報へのアクセスが必要な場合だけである。
所有、コントロール、影響というのをどこまで含めるかは明確ではない。
NISPOM のレビューなどでは、外国系企業は majority foreign-owned
contractors と書かれることもあるが、必ずしも株主構成だけで決まる
ものではない。もちろん大株主が外国人であるような企業はこの規定の適
- 32 -
用を受けるが、様々な形態で実質的なコントロールや影響を受けるような
場合すべてが適用対象となる。これについては、最終的な判断はアメリカ
政府に任されており、いつでもその地位を独断で改訂できるものとされて
いる。
こうした企業が機密情報を必要とする業務を行う場合には、外国からの
影響を排除するために、以下の三つのどれかを経なくてはならない;
z
z
z
Voting Trust
Proxy agreements
Special Security Agreement
Agreement (SCA).
(SSA) 、 Security
Control
Voting Trust では、その会社が政府承認を受けたアメリカ市民を中心
に構成される信託理事を選び、現状の外国所有者たちが会社に対する発言
権のほとんどをその信託理事会に委譲する仕組みとなる。
Proxy agreement は、現状の外国所有者たちが投票権をアメリカ人代
理人に預ける仕組みである。
いずれの場合にも、信託理事や代理人はその会社の理事になる必要があ
る。そしてこうした信託理事や代理人は、外国所有者の代弁者ではなく、
完全に独立した存在として意思決定を行う必要がある。
この二つの仕組みは、外国企業所有者が実質的に所有権や会社に対する
発言件をすべて放棄することを求めているに等しく、きわめて厳しいもの
であるといえる。
SSA および SCA は、これほど厳しい規定ではなく、外国系企業の基
本的な形態は維持し、外国人所有者の発言権を保ったまま、その活動につ
いて各種の制約を設けるものとなっている。
SCA は、その企業が外国からの実質的な所有、コントロールは受けて
いなくても、理事会での発言権がある場合に使われるもので、SSA より
弱い。
SSA は、外国人がその企業を実質的に所有、コントロールしている場
合に使われる。これはシニア経営層と一部の社外理事(承認を受けたアメ
リカ市民でなくてはならい)が、セキュリティ関連事項について積極的に
関わることを要求する。また政府セキュリティ委員会(GCA)を設立し
て、これが機密や輸出規制に関わることがらについて監督を行う必要があ
る。
- 33 -
また GCA の委員は、信託理事、代理人、社外理事、および個人セキュ
リティクリアランスを持つ役職員で構成される。つまり、基本的には政府
承認を受けたアメリカ市民でなくてはならい。GCAは、社内で機密情報
を外国から保護するための適切な手段が講じられているか、それが実施さ
れているかについて監督責任を負う。GCAは毎年、セキュリティ担当政
府機関と会合を開いてレビューと認証を得る必要がある。
また外国企業の子会社がSSAを取得した場合、親会社から子会社への
職員訪問接触については制限を設けることとなっている。
この制度の利用状況については新しい数字がないが、1999 年現在では
Voting Trust、Proxy agreements、Special Security Agreement す
べてあわせて 54 社となっており、きわめて限られている。一方で、GAO
の評価では、かなりの SSA が例外規定を設けることで本来のセキュリテ
ィクリアランスを迂回するようなものとなっていること、さらにこうした
訪問規制や社外理事制度が有名無実化しているという点について批判も
行われている。
- 34 -
(2)外国企業の受注事例
BAE
BAE Systems, Inc. は、イギリスの BAE Systems plc の子会社である。
図 3 BAE Systemsの親会社と子会社
すでに見たとおり、同社はアメリカにおいては 12 位のIT受注高を持
ち、民生用の受注はほとんどなく、軍需に特化した企業となっている。
BAE は、アメリカのDoD受注のためSSAを交わしている。組織図
上は、親会社との独立性を明確にうちだし、経営陣はアメリカ人でかため
られている模様である。
また、理事会は軍やCIAなどのOBでかため、アメリカの安全保障的
な見地からまったく文句が出ないような構成となっている。
図 4 BAE Systems 理事会
ただしこうした措置は、単に IT サービス受注のために行われているの
- 35 -
ではないことは留意すべきである。BAE Systems の総受注額は 104 億
ドルであり、そのうち IT サービスは 2 割程度を占めるに過ぎない。
(3)軍事分野での示唆
軍事分野においては、明確な参入規制が設けられていることは明かであ
る。これは主に、外国の影響から機密情報を保護するという狙いのためで
あり、あらゆる国で共通に見られるものである。安全保障上の配慮からす
ればきわめて当然の措置であり、GATT の枠組みでは俎上に載らないも
のである。
外国企業の参入についての規制を定めた NISPOM を見ると、外国系企
業として軍需系の受注を実現するためには、親会社の影響をほとんど遮断
するような形態を取る必要がある。所有者がその権利をすべて委譲/預託
するか、社外理事会を設けてその影響力を大幅に減らす措置が求められて
いる。
アメリカ政府においては、ここまで規制を設けても安全保障の観点から
は必ずしも十分とはいえないという評価を下しているようである。一方で、
こうした規制が日本企業などにとってはきわめて厳しいものであること
もまちがいない。同盟国に対する措置緩和などを通じた、参入障壁の引き
下げなどで検討の余地がないか打診することは可能であろう。
- 36 -
4)その他関連規制について
(1)Buy American Act
アメリカにおける貿易障壁の大きな例として通例問題になるのは、通称
Buy American Act (BAA) である。この法律は、政府調達においてアメ
リカ製品を優先することを定めている。しかしこの法律は財にのみ適用さ
れ、サービスには適用されない。したがってサービス貿易の検討において
は検討する必要がない。また 2006 年より、この条項は情報技術には適
用されないことが定められた。したがって情報サービス貿易の検討におい
ては二重の意味で考慮外である。
United States Code Title 41, Sections 10 (a-d) は通常 Buy
American Act と呼ばれている。その中で 10b 項は、公共事業における
政府調達をアメリカ製品に限定する法律である。10a 項には、もしその
財がアメリカで産出製造されていない場合、あるいはその品質が不十分で
ある場合にはこの条項の適用範囲外であると明記されている。またある最
低調達価額以下の場合にもこの法律は適用されない。したがって、この条
項によりアメリカ産の財以外は一切使えないと言うことではない。しかし
ながら、これが他国によるアメリカの政府調達に対する参入をかなり制限
するものとなっていることはまちがいない。
また本条項は、NAFTA Chapter 10 および WTO の政府調達に関す
る合意の中で、各種自由貿易協定の適用除外として認められている。
しかしながら上の条項を読むとわかるとおり、Buy American Act は
物理的な財に適用されるものであり、サービスには適用されない。これは
アメリカ政府調達へのカナダ事業者の積極的な応札を進めるカナダ政府
なども以下のように明記している。
The Buy American Act applies to all U.S. federal government
agency purchases of goods valued over the micropurchase
threshold, but does not apply to services.3 (強調引用者)
Government of Canada, 2008, “The Buy American and Buy America Acts”
http://www.canadainternational.gc.ca/sell2usgov-vendreaugouvusa/procurement-marc
hes/buyamerica.aspx
3
- 37 -
また、2006 年1月、アメリカ政府は本条項が民生情報技術には適用さ
れないという例外を設けた。機器と情報サービスとは一体化されている場
合が多い。そうした場合でも、Federal Acquisition Regulations の Part
25 Subpart 25.103 Exceptions で、情報技術は機器購入についても
BAA から除外される:
この除外規定は interim rule (暫定規則)であり、今後改変される可能性
はないわけではないものの、全般には今後無期限に続くと見られている。
以上を見ると、情報サービスはそもそもサービスであるため BAA が適
用されるものではないこと、さらにそれに伴う機器まで考慮しても、情報
技術の例外規定によって BAA の適用は受けないことが明記されているこ
とにより、BAA は情報サービスにおける参入障壁とはならない。
(2)Exon Florio 条項
日本企業がアメリカの公共調達に入り込むための手法としては、現地の
企業買収が有効な手段であることはすでに述べた。しかしながら企業の買
収については、アメリカ国防砲の中の通称 Exon Florio 条項が適用される
場合がある。
1988 年 に 最 初 に 施 行 さ れ た こ の 規 制 ( 50 U.S.C. app 2170,
Authority to review certain mergers, acquisitions, and takeovers)
は、アメリカの州間取引に従事する企業を外国企業が買収しようとすると
き、その取引がアメリカの国家安全保障に害を与えるものである場合には
それを審査して停止・禁止する権限を大統領に与えるものである。この権
限を実施するにあたり、大統領は(i) 外国の利害が国家安全保障を脅かす
ような行動を取る可能性があるという、確かな証拠があること、(2) 他の
法律では安全保障を守るに十分な権限が確保できないことを確認しなく
てはならない。
実際の検討は、財務大臣管轄下で複数機関により構成される
Committee on Foreign Investment in the Unite States (CFIUS) が
実施する。審査は、まず CFIUS に当事者による自発的な通知が行われる
ことでレビューが実施されるところからはじまる。ただし、当事者による
- 38 -
もの以外にも、CFIUS 構成機関から指摘があれば、レビューの対象にな
る。CFIUS は通知が行われてから 30 日以内にレビューを終え、審査に
入るかどうかを決める。審査は 45 日以内に完了し、その取引が国家安全
保障に影響するかどうかについての所見をまとめて大統領の判断を仰ぐ
ことになる。大統領は 15 日以内に必要であれば対処を行い、その決定に
ついて議会に報告書を提出する。
実際の運用状況について、CFIUS は報告書を定期的に議会に提出して
いる。2005 年から 2007 年までの実施状況は以下の通りである。
Source: Committee on Foreign Investment in the United States, Annual Report to
Congress Public Version, 2008.12, p.3
通知は 2007 年で 138 件である。このうち、CIUS による審査が行わ
れたのは 6 件であり、そのうち 5 件は取引一件は問題ないと判断され、5
件は審査途中で取り下げられた。
2006 年には 111 件が通知され、そのうち審査に及んだのが 7 件、5
件は審査中に取り下げられ、2 件が最終的に大統領判断にまで至った。こ
れらはいずれも最終的には買収が認められている。大統領が取引差し止め
判断を下した例は、過去に一件しかない。
これは防衛関連の規制であり、何を持って安全保障にとって脅威となる
かは明確に定義されていない(むしろそれを明確に定義できないからこそ、
こうした委員会による検討や大統領判断が必要とされる)。しかしながら、
過去の通知や審査の実績に基づいて、重点セクターは示されている。
- 39 -
Source: Committee on Foreign Investment in the United States, Annual Report to
Congress Public Version, 2008.12, p.27
この表にも示されている通り、情報技術 (Information Technology)
は重要分野としてこの条項の対象となるものである。取引分類でも大セク
ター分類の一つとして挙げられている。
Source: Committee on Foreign Investment in the United States, Annual Report to
Congress Public Version, 2008.12, p.4
表の「Information」は、2005-2007 の三年間で 112 件の通知が行
われている。この中には機器や部品なども含まれるが、各種の情報サービ
スも含まれる。情報サービスには、建築やエンジニアリング的な情報も含
まれているので、純粋な IT のサービスでは通知件数は 2005-2007 の
三年間で 21 件となっている。このうち、審査に至ったものが何件あるか
は情報が公開されていない。
- 40 -
Source: Committee on Foreign Investment in the United States, Annual Report to
Congress Public Version, 2008.12, p.8
実際に審査に至った場合、その内容は、アメリカの安全保障に関わるも
のであり、公開されない。しかしながらそこで問題とされるのは、買収さ
れる企業の持つのが重要な技術かどうかということではない。その買収に、
アメリカの安全保障に対して何らかのコントロールを及ぼそうという意
図があるかどうかが問題となる。重要セクターにおける買収実績と、その
背後に組織的な技術コントロールその他の意図があるかどうかについて
も、CFIUS は分析を行っている。
Source: Committee on Foreign Investment in the United States, Annual Report to
Congress Public Version, 2008.12, p.43
- 41 -
その分析によると、日本は 2005-2007 年において重要セクターで
58 件の買収を行っている。日本は産業政策などを通じて、重要分野での
技術的優位性を確保する戦略は持っているものの、それをアメリカ企業の
買収によって実現しようという組織的な意図はないことが指摘されてい
る。同期間に CFIUS に対する通知が行われた日本企業による買収案件は、
情報分野で 5 件、製造業で 5 件となっている。
審査対象となった場合、時間と手間が余計にかかるという意味では企業
買収にとって障壁となる。時間との勝負になる TOB などでは、こうした
審査で時間がかかること自体が取引阻害要因となる。この意味で、この条
項が存在することにより企業買収に対して二の足を踏むケースがあるこ
とは考えられ、したがって障壁として挙げることは可能である。通知は基
本的にはその企業が自主的に行うものとなるが、その手続き自体が企業に
買収の二の足を踏ませる要因になっている可能性はないわけではない。た
だしこれがどの程度効いているかについては調べようがないため、不明で
ある。
しかし審査が持つ買収抑止効果については情報がある。2007 年には
138 件の通知が行われた。このうち、10 件はレビュー期間中に取り下げ
られた。審査に至ったのは 6 件であり、そのうち 5 件が取り下げられて
いる。しかしそのうち 3 件は同じ買収案件を再通知し、認められている。
2 件は買収断念にいたり、1 件は取引の内容を改めて通知に必要がない形
態にしている。
結局、通知を行った 138 企業のうち、買収断念または条件改訂は 3 件
ある。これは審査対象案件の半分であり、審査にまで至ればそれが買収抑
止阻害要因となっているとはいえなくもない。
しかしながら、実際に審査される案件の数はきわめて少数であり、年間
10 件に満たない。日本企業の買収案件で通知を行ったのは過去 3 年で
10 件であり、その中で実際に審査にいたったものはきわめて少ない。ど
ういう判断が下されるかという点で不透明な部分はあるものの、濫用され
ているわけではない。
通知が必要という時点で買収に二の足を踏む企業がある可能性は否定
できないものの、大規模な障壁となっているとは言いにくい。また通知後
のプロセスやそのための期限なども明確である。我が国でも外為法による
事前届出制度などで外資による企業のコントロールについては規制が存
在しており、アメリカに限ったものとも言い難い。
- 42 -
3
EU における音響映像サービス
EU における音響映像サービスにおいて、関連市場の現状及び、日系企
業の事業活動の現状・ニーズについてとりまとめる。
1)関連市場の現状
(1)フランスをはじめとする EU 主要国における音響映像サービス関連産
業の市場規模
わが国の音響映像サービスが EU において認知を高めて、マーケットを
拡大していくためには、主要なテレビ放送において日本製(または日本が
共同製作に関与する)コンテンツが放映されることが重要である。
EU では域内の文化的価値の保護を目的とした「国境のないテレビ指令」
(89.552.EEC、修正指令 97.36.EC)により、ニュース、スポーツ・
イベント、広告、文字多重放送を除くテレビ放送の 50%以上を EU 製の
番組とするよう加盟国に求めている。
また、この指令にもとづいて、各国において個別に基準が設定されてお
り、フランスは EU 内で特に厳しい基準を持っている(テレビで放映され
る作品の少なくとも 60%は欧州製、うち 40%はフランス語オリジナル
とする)。その結果、EU 以外の国・地域で製作された番組の放映が制限
を受けている。
そのため、EU 全域についてみるとマーケットは大きいものの、国によ
って言語の違い、TV 放送に対する制度の違い(クウォータ制度やレーテ
ィングの国別の運用)があり、EU 内のそれぞれの国の事情に合わせた現
地化が個別に必要となる。
- 43 -
図表
EU 主要国におけるテレビ放送の現状
日本
フランス
イギリス
ドイツ
テレビカラー形式
NTSC
SECAM
PAL
PAL
テレビ所有世帯数
5,004
2,313
4,071
3,670
1,913
470
335
1,935
(万人)
テレビ放送
CATV加入世帯数
(万人)
主な番組規制
―
●クウォータ制度
●クウォータ制度
●クウォータ制度
・EU制作番組60%以上、うち 放送時間の過半数の割合を 放送時間の過半数の割合を
国内オリジナル番組40%以 EU作品の放送枠として留保 EU作品の放送枠として留保
上
●18歳未満の保護
●人間の尊厳の青少年の
●映画の放送の年間最大 ●広告放送の挿入箇所、時 保護
放送本数、時間帯、視聴年 間等の規定
・青少年保護の一環として、
齢制限表示等の規定
映画の放送時間帯の規定
●広告放送の挿入箇所、時
間等の規定
出所)デジタルコンテンツ白書 2008
欧州主要国と比較したフランスのクオータ制度(2002 年)
フランス
国産クオータ %
EUクオータ %
(フランス含む)
地上波無料民放数
ドイツ
英国
イタリア
スペイン
40
none
none
25
25
60
50
51
51
50
2
7
4
3
4
出所)日本貿易振興機構「フランスにおける日本アニメを中心とする コンテン
ツの浸透状況」(2005 年)・(フランス国立映画センター(CNC)
)
映画の興行収入、公開本数については、日本が EU 内の主要国を上回っ
ている。ただし、入場者数においては、各国ともに日本と同程度の規模を
有する。このことより、EU の映画のマーケットは人口規模に比較して比
較的大きいといえる。年間の一人当たりの映画館入場回数をみると、
2005 年時点においてフランス 2.80 回となっており日本(1.26 回)の
2 倍以上の頻度である。
- 44 -
図表
EU 主要国における映像、音楽・ゲームの現状
日本
映画興行収入(億円)
フランス
イギリス
ドイツ
2,029
1,637
1,647
821
589
505
16,459
18,867
15,660
13,670
平均入場料(円)
1,233
868
1,053
871
スクリーン数
3,062
5,364
3,440
4,848
DVD セル(億円)
3,184
2,417
4,788
1,893
DVD レンタル(億円)
2,858
240
735
414
DVD 出荷数(万)
10,390
9,500
24,800
10,700
CD 出荷数(万)
19,750
7,570
16,440
11,440
公開本数
入場人員数(万人)
映像
ゲーム・
音楽
ゲーム機向けソフト
9,009
販売本数(万本)
―
―
1,190
―
2,040
出所)デジタルコンテンツ白書 2008
図表
欧州における映画の観客動員数
フランス
EU25
(単位:百万人)
イタリア
英国
ドイツ
1995
723
97
87
75
81
1996
765
104
89
99
127
1997
826
125
76
87
115
1998
884
148
70
92
91
1999
870
150
88
108
103
2000
897
145
94
103
90
2001
999
172
107
103
83
2002
1,005
163
117
130
84
2003
955
183
107
117
88
2004
1,007
167
121
138
75
2005
892
187
146
86
78
出所)日本貿易振興機構「欧州におけるコンテンツ市場の実態」(2007 年)
2005 年時点で EU における映画の観客動員数は 890 万人、そのうち
フランスが 190 万人と 21%を占める。また、観客動員に占める日本映
- 45 -
画のシェアについても 1.14%と EU 全体(0.29%)を大きく上回ってい
る。その背景として、ハリウッド系の映画以外の映画の上映に際して補助
金がでる制度があることがあげられる。
図表
欧州各国の観客動員に占める日本映画のシェア(%)
EU25
フランス
ドイツ
イタリア
英国・アイル
ランド
1996
0.06
0.43
0.00
0.00
0.01
1997
0.09
0.49
0.00
0.13
0.00
1998
0.06
0.10
0.00
0.02
0.12
1999
0.11
0.46
0.00
0.03
0.01
2000
1.91
2.58
4.66
1.14
2.74
2001
1.35
1.78
3.67
0.67
1.28
2002
0.28
1.16
0.00
0.11
0.03
2003
0.51
1.39
0.01
0.22
0.32
2004
0.34
0.75
0.00
0.14
0.39
2005
0.29
1.14
0.31
0.12
0.29
出所)日本貿易振興機構「欧州におけるコンテンツ市場の実態」(2007 年)
- 46 -
(2)フランスをはじめとする EU 主要国における日本からの音響映像サー
ビスの輸出状況
アニメーションにおいて、日本の番組の競争力は高いが、番組に対する
レーティングやクウォータにより、日本番組の放送時間(総量)は 2002
年をピークとして減少している。
図表
EU における日本番組の放送時間(総量)
国名/年
ベルギー
イタリア
ドイツ
英国
ギリシャ
フランス
ポルトガル
アイルランド
スペイン
スウェーデン
ポーランド
デンマーク
フィンランド
スイス
オーストリア
ノルウェー
オランダ
合計
2002
2003
1167
998
1326
550
255
260
534
179
438
121
513
45
26
32
149
48
2
6648
2004
930
877
868
528
270
233
302
218
203
235
384
38
41
2
140
36
0
5303
1665
991
816
462
308
284
204
196
184
181
145
75
24
21
16
8
0
5581
出所)日本貿易振興機構「欧州におけるコンテンツ市場の実態」(2007 年)
(3)フランスにおける音響映像サービスに関する制度
① ブロードキャストクウォータ
テレビ放送の編成上の規制として、テレビ放送のうちプライムタイムに
放送される番組の 60%を EU 加盟国内で、40%をフランス語オリジナル
として製作された番組とする規定がある。
■フランスのクウォータ制
放送される番組の60%以上がEU製,40%以上がフランス製(カナ
ル+については45%)でなければならないことがクウォータ制の中心に
ある規制項目である。このルールはEUの視聴覚政策の一貫としての『国
- 47 -
境なき放送指令(Television without Frontiers)』に準拠するもので
あるが、この指令自体がフランスの意思を強く反映させたものであり、
フランスほど強硬にさらなる規制強化を主張する国はない※。この割合
は年間を通して、さらに視聴好適時間帯(Heures de Grande écoute:
ゴールデン・タイムに相当するもの、区分ごとの具体的な定義時間は異
なる)とよばれる視聴者の多い時間内でも満たされなければならない。
※ 『国境なき放送指令』は 89 年に定められたが,ここで定められる EU 製番組の割合は
60% ではなく,50%である。さらに条文のなかに「配分が可能ならば(where practicable)」
という条項が加えられたため,強制力のない指令となっており,イギリ
スは「自由に」と解釈している(Collins[1999])。フランスは終始一貫して,この条
文の削除と配分比率の増加を求め続けているが,EU の足並みは揃わない。
出所)内山隆・湧口清隆「経済政策としての映像ソフト振興策」慶應義塾大学
メディア・コミュニケーション研究所紀要(2001 年)
②
TV 局による映画投資義務規制
フランスでは TV に対して、(映画製作に対する)投資義務の規制があ
る。
■映画投資義務規制
放送事業者は、各々の収入や番組予算に基づいて、映画への投資義務
が課せられている。投資の方法は、放映権の前払い(up front buy、
advance pay)、もしくは共同制作(co-production)のいずれかによ
る。テレビ局による映画の支配を避けるため、投資の規模は映画制作予
算の10%以上49.9%以下、かつ直接投資ではなく子会社を通した間接
投資でなければならない。また放送事業者にはシンジケーション権も認
められていない(Jackel[1999])。従って、全額投資や直接投資は
できないが、「映画産業を支援する放送事業者」という位置づけがある。
この規制の主管はCSA(視聴覚最高評議会)であるが、投資対象とし
て認められる映画の選定はCNCに依るため、両者にまたがる規制項目で
ある。放送局、あるいはケーブル等で放送されるチャネルは、その編成
内容や媒体に基づいて区分されたうえで、規制を受ける。各区分ごとに
規制の詳細は異なる。
なおテレビが映画を放送する場合には、原則、初回上映から3年間は
テレビでの放送が禁止されている。ただしテレビ局の映画への投資イン
センティブを刺激するために、共同制作の場合には2年に短縮することが
可能である。また興行成績が望ましくなく、文化省の同意がある場合に
は、18カ月でも放送が可能となる。カナル+は、共同制作ならば12カ
- 48 -
月まで短縮できる。また1週間のなかに映画を放送できない時間が定め
られている。これはニュースや政治トークショウなど、他の番組種類を
優先するためである。
出所)内山隆・湧口清隆「経済政策としての映像ソフト振興策」慶應義塾大学
メディア・コミュニケーション研究所紀要(2001 年)
③
CNC による映画製作援助(自動補助、選択補助)
自動補助( Soutien Automatique もしくは Aides Automatiques)と
選択補助(Soutien Sélectif もしくは Aides Sélectives)に分けられる。
自動補助金は既存の事業者の継続的な活動を誘うための補助制度であり,補
助金が実際に支給されることになる作品は,補助金申請者が次に制作する
(制作,配給,興行に関係する)作品である。
自動補助金は,制作,配給,興行の各段階で課せられる課税額を基準に,算
定式に当てはめて「自動的に」補助金額が定まる形式をとる。一方,選択補
助金は,自動補助金を受けられない新規参入者を主眼とした補助制度である。
選択補助は,実質的な補助金であり,一定の条件を満たす希望者が CNC へ
応募し,CNC 内に設けられる審査委員会が審査をした後に,給付の有無,
その補助金額が決定される
*詳細は参考資料参照
④
フランスにおける TV 番組に対するレーティング
■各年齢別制限の内容
カテゴリーⅠ:全ての視聴者向け(表示なし)
カテゴリーⅡ(-10):10歳以下には勧めない。(10歳以下の子供の精神
を傷つける可能性のある番組。)
カテゴリーⅢ(-12):12歳以下には勧めない、又は12歳以下禁止の映画。
(12歳以下の子供を動揺させる可能性のある番組。
特にシナリオが繰り返し一貫的に、身体的又は精神
的暴力に訴えている場合。)
カテゴリーⅣ(-16):16歳以下には勧めない、又は16歳以下禁止の映画。
(16歳以下の子供の身体的、精神的又は道徳的モラ
ルを傷つける可能性のあるエロチックな性質やひど
い暴力性をもった番組。)
カテゴリーⅤ(-18):18歳以下には勧めない、又は18歳以下禁止の映画。
- 49 -
(18歳以下禁止の映画作品、ポルノグラフィックや
非常にひどい暴力の番組など、事情の分かった大人
向けのもので、18歳以下の未成年の身体的、精神的
又は道徳的モラルを傷つける可能性のある番組。)
■制限カテゴリー別番組プログラムとの条件
カテゴリーⅡ:これらの番組の放映時間は各局の判断に任せる。この放映は
子供向け番組の中に入れることはできない。 番組が30分間
以下の場合、記号は番組開始から最低5分間、画面に表示し
なければならない。番組が30分以上で、宣伝によって何度か
中断される場合は、記号は番組開始から最低5分間、宣伝に
よる中断の後は1分間画面に表示しなければならない。番組
が30分以上で、宣伝による番組中断がない場合、記号は番組
開始から最低5分間と最初の15分間が過ぎた後に2回目の表
示を1分間行う、或いは番組開始から最低12分間表示しなけ
ればならない。
カテゴリーⅢ:映画以外のチャンネルで、これらの番組は22時以前に放映
してはならない。例外的に20時30分後にこのカテゴリーの
番組放映を許される場合もある。但し火曜日、金曜日、土曜
日、祝日の前日、学校のバカンス時期を除く。12歳以下禁止
の映画作品については、これらの例外は1年に4つを超えては
ならず、映画チャンネルについては、これらの番組は水曜日
の20時30分より前に放映してはならない。
記号は、番組放映中は常に画面に表示しなければならない。
「12歳以下禁止」という注記、又は場合によっては、文化省
から与えられた12歳以下禁止の注記は、番組開始から最低1
分間、白字で画面に表示するか、又は番組開始前に最低12
秒間、画面全体に表示しなければならない。
カテゴリーⅣ:事情の分かる視聴者向け。映画以外のチャンネルではこれら
の番組は22時30分、映画チャンネルでは20時30分より前
に放映してはならない。
「16歳以下禁止」という注記、又は場合によっては、文化省
から与えられた16歳以下禁止の注記は、番組開始から最低1
分間、白字で画面に表示するか、又は番組開始前に最低12
秒間、画面全体に表示しなければならない。
記号は、番組放映中は常に画面に表示しなければならない。
カテゴリーⅤ:許可されたチャンネルを除いて、これらの番
- 50 -
組は放映の完全禁止の対象である。カテゴリーⅤの番組放映
を許可されるチャンネルは、映画専門チャンネル、又は映画
専門チャンネルと同レベルの作品契約に署名した特別なチャ
ンネルとなり、これらの番組と予告編の放映は、一般視聴が
可能な時間帯(契約者以外も視聴可能な時間帯)、又そうで
なくとも5時から24時の間に入れてはならない。又いずれに
せよ、未成年保護に関する立法の意向を尊重しなければなら
ず、そのため、これらの番組が個人コードのシステムを持っ
たアクセス端末セットを活用しているテレビ局によってのみ
放映されているということが必要となる。
「18歳以下禁止」という注記、又は場合によっては、文化省
から与えられた18歳以下禁止の注記は、番組開始から最低1
分間、白字で画面に表示するか、又は番組開始前に最低12
秒間、画面全体に表示しなければならない。
記号は、番組放映中は常に画面に表示されていなければなら
ない。
■予告編の番組編成について
番組が区分けされているカテゴリーの記号は、予告編においては常に表示し
なければならない。
カテゴリーⅡ:子供向け番組又はそこに近いところで放映する場合は、特別
に注意を払うことを各局に要求する。
カテゴリーⅢ:子供たちの感性を傷つける恐れのある場面を含んではならな
い。また、子供向け番組に近いところで放映することはでき
ない。
カテゴリーⅣ:子供(及び未成年)たちの感性を傷つける恐れのある場面を
含んではいけない。又、20時30分より前に放映してはなら
ない。
カテゴリーⅤ:番組放映を許可されたチャンネルでしか放映できない、また
どんな場合も、5時から24時の間には放映できない。
■子供向けチャンネル上の記号表示
・幼少児向けチャンネル(TiJi、Playhouse Disney局などを想定)
これらはカテゴリーⅠより上のクラスに分類される可能性のある番組
を一切放映しない。よってこれらのチャンネルは記号表示を免除されて
いる。協定に基づく配置では、各チャンネルに子供心理学の専門家を含
- 51 -
む番組の倫理委員会をしかるべき所に置くことを義務付けている。
・子供向けフィクション番組とアニメ番組しか放映しないチャンネル(Disney
Channel、Toon Disneyなどを想定)
これらのチャンネルは記号表示を免除されている。
・広い視聴者に向けられた子供向けチャンネル(Fox Kids、CanalJ、Télétoon
などを想定)
これらのチャンネルは、児童(9−12歳)向けのいくつかの番組は幼少児に
衝撃を与える恐れがある時はそれを視聴者に知らせなければいけない。子供と
家族向けの番組を提案するTNTの放映の為、CanalJの条項の協議時に次の事
項が決められた:
‐幼少児の感性を傷つける恐れのある児童向け番組は、子供とその両親に向け
て、特有の注意を先に促さなければいけない。
‐「10歳以下禁止」番組は、21時以降しか放映できず、チャンネルはこれら
の番組の予告編に対し特別な注意を払わなければいけない。21時以降、チ
ャンネルはこれらの番組を特別な下準備の元、子供たちのその家族向けに放
映する。
ただし、フランスでは、米国のように「武器はみせない」、「血は見せない」
といった明確な基準があるわけではない。どの番組がどのカテゴリーに分類さ
れるかは、各局の判断である。このため、米国では殺人事件を扱うため、子供
番組として放送できない「名探偵コナン」は通常の子供番組として放映されて
いる。この基準で審査されるのは、あくまでコンテンツ総体の価値であり、そ
の意味で、不透明な部分と、良識的な部分が同居しているといえる。
さらに、これらの年齢制限の基準の運用において、核番組をどのカテゴリー
に入れるかは、放送局の判断に任されている。また、EU指令は各国基準のハ
ーモナイゼーションを求めるものではないものから、加盟国により基準が異な
る可能性がある。
放送基準を管轄しているのはCSAだが、CSAは基準につき「問題がある」
と判断したときのみ介入を行う。
出所)日本貿易振興機構「フランスにおける日本アニメを中心とする コンテン
ツの浸透状況」(2008 年)
- 52 -
2)日系企業の事業活動の現状・ニーズ
インタビューに基づいて、日系音響サービス関連企業のフランス市場の
評価・事業展開の現状・ニーズをとりまとめる。
(1)現状
・ 日本のコンテンツ作品及び文化に対する受容性が高い。
・ アニメを中心とする固定ファン(10 歳代後半∼30 歳代)が存在す
る。
・ TV のクウォータ制度により(日本を含む)外国で製作されたコンテ
ンツに対する放送枠が制限されている。
・ フランス国籍の映像製作に対する手厚い支援制度が存在し、その結果
として、フランス国籍のコンテンツの上映機会が増大するとともに、
その他の国のコンテンツの上映機会が限定されることにつながって
いる。
・ 日本側の問題として、日本におけるコンテンツ作品は、日本国内市場
で収益を上げることを主目的として企画・製作されており、海外展開
は二次的にとらえられる傾向がある。
・ また、日本独特の製作・流通のしくみ(製作委員会方式、作品本編だ
けでなく商品化も含めてビジネスとして成立させる)により、フラン
ス国内で事業を展開する際、日本側の意思決定が遅い、フランス現地
でパートナーとして事業活動を行う企業(現地法人、あるいはフラン
スのコーディネーター会社)に充分な権限が与えられないなどの問題
が指摘されている。
現状について、日系コンテンツ、特にアニメーションは過去 30 年にわ
たって市場に浸透し、(低年齢層だけに限らない)固定的なファンも育っ
てきている。
また、日本映画にとって、海外におけるマーケットとしてはフランスが
最大である。
これらのコンテンツ(マンガ、小説なども含む)を通して、日本文化に
対して関心をもつようになるというファンも多い。例えば、毎年 7 月にフ
ランスで開催されるジャパンエキスポは、当初はマンガとアニメを中心と
しファンのイベントとして開催されてきたが、その後、マンガやアニメに
限らず日本文化全体を対象とするとともに、日本の製作会社も出展者とし
て参加するなど、規模を拡大してきた。2008 年 7 月、10 万人の来場者
を目指して開催された第 9 回目のイベントには、予想を遥かに上回る、
- 53 -
13 万人以上が来場し、過去最高の来場者数を記録した。
ただし、現状では、フランスのマーケット全体の中でもニッチな分野し
か対象にしていないため、今後メインストリームに対して売り込んでいく
必要がある。
【インタビューにおける意見】
・ 国民の美意識が高く、モノの評価においても、安ければ、使えればと
いう視点以外も重視する。
・ ストーリーにおいて、間合いやニュアンスなどが評価されるため、丁
寧に製作された日本作品は魅力的にうつる。
・ ジャパニメーションの専門チャンネルであるアニマックスは、フラン
スでは展開していない。EU ではドイツにあって、チェコ、ギリシア
などに展開している。これは、フランスには以前から日系アニメを扱
う事業者がいたせいではないか。
一方で、TV 放送のクウォータ制度などにより、日系コンテンツの流通
が阻害されている。
また、フランス国籍の作品製作に対しては手厚い支援制度が用意されて
いるものの、日本企業はその制度を充分に活用できていない。支援制度に
より、フランス企業(人)によるフランス産コンテンツの製作、流通が促
進される結果、フランス以外の国のコンテンツの製作・流通が阻害されて
いる。
【インタビューにおける意見】
・ EU における国境なき TV 指令(EU 製の番組を放送時間の 50%以
上と規定)に基づいて、具体的な罰則規定を持っているのはフランス
だけ。実際に規定を守らなかったマンガチャンネルに対して、7 万 4
千ユーロの罰金が科せられている。
・ フランスに限らず欧米のアニメに対するみかたとして、「アニメは子
どもが観るもの」という意識がある。子どもたちがtvを観ながらず
っと笑っているような、楽観的な作品を放映すべきであるという考え
方がある。例えば、
「母を訪ねて三千里」などの悲しい作品もダメ。
「ナ
ルト」がスウェーデンで放映されたとき、暴力的な描写があるせいで、
放映時間帯が 23 時台とされた。
・ 海外で日本のアニメを観ているのは主に大人なので、視聴者はそれな
りに存在するが、子どもの間に認知が進まないのは問題。ますます子
- 54 -
供向けの放映時間帯に番組をかけることが難しくなってきている。
・ 映画製作が優先されており、TV 局に映画・視聴覚作品への投資義務
を課している。その結果として、フランス国内製作によるコンテンツ
が増加し、それを(出資者である)TV 局も積極的に流通させるべく
努力するため、フランス国外で製作されたコンテンツの流通を制限す
るということにつながっている。
・ TV 番組の制作においても同様で、手厚い支援があるために、自国の
TV 番組が制作され、
(制作した TV 局主導で)それらが放映されるこ
ととなる。
・ 自国製作のコンテンツに対する補助金が手厚いため、補助金を受けな
いと上映や TV 放映も難しくなる。
共同製作については、資金調達、フランス市場内での流通においてメリ
ットはあるものの、現場の製作者レベルにおいて充分に評価されていない。
日本におけるコンテンツ製作の体制(製作委員会方式)にも問題があり、
委員のメンバー全員の合意により決定されるため、意思決定が遅れるなど
の問題点が指摘されている。
【インタビューにおける意見】
・ 過去に合作で成立した例は少なく、通例ではヨーロッパの手が加わる
と日本のマーケットでは通用しない、日本の放送でかけてもらえない
という認識がある。
・ 製作会社としては、海外には売りたいが、日本国内での収益の確保が
前提となるだけに、合作には消極的となっている。
・ 日本の映像製作のしくみは、制度として障壁があるわけではないが、
権利の窓口がはっきりしない、製作の進め方などが明文化されていな
い、外国語が通じないなど、独特の慣習が結果として障壁になってい
る。
・ 日本の製作システムである、製作委員会方式は、日本国内向けには便
利かも知れないが、海外向けには不便。
・ フランス側の編集・流通事業者の立場から、取引先である日本の権利
窓口は官僚的にうつる。原作者、委員会の合意を優先させるため、現
地のスケジュール・制度などを踏まえた対応ができない。
・ (フランスの現地企業として)キャラクターグッズの市場について、
EU ではそれほど大きくないものの広げる努力をしている。ただし、
日本側との調整のため、放送・DVD・グッズ販売のスケジュールが
コントロールできないことが多い。
- 55 -
(2)課題
・ TV のクウォータ制度において、日本のコンテンツのための放送枠を
確保する(現実的には難しい)。
・ フランスの製作者との共同製作により、フランス国籍の作品として製
作し、製作・流通にあたって、フランスの支援制度を受ける。
・ アニメ番組においては、日本におけるビジネス展開を踏まえて、キャ
ラクターグッズなど、商品化と合わせた展開を図る。
・ 日仏間の製作・流通の違いを理解したうえで、現実的なコラボレーシ
ョンのあり方を模索する。特に、作品の権利について、日仏の著作権
等の法の違いも踏まえて、契約時に確認を行うことが必要である。
放送のクウォータ制度により、放送枠が限定されている中、TV 局等と
の調整を行い、日本コンテンツのための放送枠を確保することが考えられ
る。ただし、実際のところ、限られたクウォータの大部分がアメリカのド
ラマ・映画などで使われてしまっており、残りの部分を(暴力的などと批
判される恐れもある)日本のアニメなどで充当することに対して、テレビ
局は慎重であるといわれている。
【インタビューにおける意見】
■テレビ番組のレーティング
・ EU 内ではいずれの国においてもレーティングがなされる。ただし、
レーティングの基準、運用は各国に任せられており、それぞれ異なる
上に基準も明確でない。
・ レーティングをつける手順としては、以下の通り。製作者がグレード
を(自己判断で決めて)申請→それを検査機関が審査→審査に基づい
てグレード変更(上がることはあっても下がることはない)
・ レーティング付けにおいても日本とは異なる基準があり、例えば「火
垂の墓」などは心理的なトラウマを植えつけるという理由で厳しいグ
レードが付けられた。
・ アニメについては、基本的には幼稚園児のもので小学生になると卒
業、という認識がされている。
・ フランスに限らず欧米のアニメに対するみかたとして、「アニメは子
どもが観るもの」という意識がある。子どもたちがtvを観ながらず
っと笑っているような、楽観的な作品を放映すべきであるという考え
- 56 -
方がある。例えば、
「母を訪ねて三千里」などの悲しい作品もダメ。
「ナ
ルト」がスウェーデンで放映されたとき、暴力的な描写があるせいで、
放映時間帯が 23 時台とされた。
・ 海外で日本のアニメを観ているのは主に大人なので、視聴者はそれな
りに存在するが、子どもの間に認知が進まないのは問題。ますます子
供向けの放映時間帯に番組をかけることが難しくなってきている。
■放送枠の確保
・ 現在、日本でつくったアニメ作品をフランスに持っていって、放送で
きる枠が減ってきており、商品化も動いていない。国際展開で重要な
のは、現地で放映されること、商品化が動くこと。この中で、製作会
社としてどのように関わっていくかが課題である。
フランスの製作者との共同製作により、フランス国籍の作品として製作
し、製作・流通にあたって、フランスの支援制度を受けることにより、日
本のコンテンツの製作・流通の促進を図ることが考えられる。
フランスの手厚い支援制度を受けるためには、製作する作品がフランス
国籍であることの認定を受ける必要がある。認定にあたって、フランス
人・企業の参加度合いなどを得点で評価し、獲得した得点の合計によって
判断される(参考資料参照)。
フランス国籍の作品として認定されると、製作において支援が受けられ
ることにより、プロジェクトとして成立させることができるだけでなく、
上映や TV 放映の窓を確保しやすい、撮影時の各種許可を受けやすいなど
のメリットを受けることができる。
【インタビューにおける意見】
・ フランスにおいて、映像製作は文化産業として、他の産業とは例外的
に扱うこととされてきた。
・ 映像製作については、公的支援を受けることができるか/できないか
で、プロジェクトの成立そのものにも影響が出てくる。
・ フランスにおける公的な支援を受けるためには、フランス映画として
認定される必要がある。フランス映画認定の審査は得点制となってお
り、プロセスが明示されている。
・ 河瀬直美など、日本の映画作家がフランス政府から支援を受けている
が、多くはフランスにとっての外国映画に対する支援制度によるも
の。しかも文化政策の枠組みで支援を受けている。
- 57 -
日本において、TV のアニメ番組製作は、玩具メーカーと共同で商品化
とあわせて展開されることが一般的となっている。アニメ番組の本編自体
で充分な収益をあげることができない場合でも、商品化の展開と併せてビ
ジネスとして成立させるというしくみになっている。
アニメ番組においては、日本におけるビジネス展開を踏まえて、キャラ
クターグッズなど、商品化と合わせた展開を図ることが重要となる。
【インタビューにおける意見】
・ 日本では、広告代理店が持っている放送枠にスポンサー(バンダイ、
コナミ、タカラトミーなど大抵は玩具製造会社)がついて、それを製
作費の原資として製作委員会方式で製作される。
・ フランスにおいては、まず原資を確保し、プリセールスにより製作費
を調達する方式がとられる。
・ アニメの企画・製作は、スポンサーとなる玩具メーカーによるキャラ
クター商品の開発・販売とセットで展開される。例えば、プリキュア
で、主人公が着ている衣装を商品化して販売するなど。
・ 一方、フランスをはじめ、EU では、放送(番組本編)と一体化した
広告が規制されており、効果的な展開が難しい。2010 年以降の地上
波放送のデジタル化に伴い、チャンネル数が増加し、放送局の番組編
成も総合から専門分化へと変化することが予想される。子ども向け、
ティーン向けなどにチャンネルが分かれることにより、商品化とセッ
トで展開することが難しくなり、日本の番組をそのまま持っていくと
いうことが厳しくなってくると考えられる。
・ 従来、海外展開としては、日本で放映されて人気があった作品を(放
映から)半年後に現地で放映または販売してきた。一時は、1 話あた
り 2∼6 万ドル(通常全 26 話)で取引されていたが、違法アップロ
ード等により現在では 1 話あたり 1 万ドルに達するかどうか、とい
う相場になっている。
・ 日本で作品となるアニメ、マンガのコンテンツは、国内の他の作品と
の激烈な競争を勝ち抜いてきて、やっと作品化されるという経緯を持
っているものが多い。そのため、日本のマンガ、アニメの競争力や作
品の魅力自体は変わっていない。収益の入るスキームが変化しつつあ
る。
- 58 -
日本のアニメ産業の国際競争力
日本のアニメ産業は、TV放映が始まった時点から、「放映の契約料と実
際の制作費の差額赤字分を、二次版権(特に玩具などのマーチャンダイジン
グ権)で埋め合わせる」という構造で成長してきており、ドラマやドキュメ
ンタリー等の他の番組コンテンツとは違って、元請けアニメプロダクション
が番組版権を持つという慣習ができあがっていた。この結果、最大手の東映
アニメは 1970 年代から積極的に海外への番組販売を続けており、これが
現状の「ジャパニメーション」興隆の淵源となっている。
「ポケットモンスター」の成功に代表されるように、またディズニー(配
給会社としてはミラマックスやブエナ・ヴィスタ)が宮崎アニメの世界配給
権をキープしていることからもわかるように、日本のアニメ作品の世界競争
力は極めて高く、映像作品の世界市場では、米国以外の他国を大きく上まわ
る動員・影響力確保に成功している。ただし、メインの輸出商品であるテレ
ビ用の番組ソフトについて言えば、海外市場での販売単価が極めて低いのが
現状であり、産業規模的には決して大きなものとはなっていない(再大手の
東映アニメの海外版権事業収入は、2005 年で、16 億 2,500 万円)。ビジ
ネスの規模で考えるなら、ポケモンのゲーム/セーラームーンの玩具/遊戯
王のカードが海外で爆発的に売れていることからもわかるように、独立の市
場というより、玩具・ゲームその他のマーチャンダイジング商品の一部(プ
ロモーション部門)と見たほうが正しい。
ただし、これは逆の視点でみれば、アニメ単体ではともかく、その関連産
業/「スポンサー」産業であるマーチャンダイジング産業全体としては、十
分な国際競争力を持つ産業に育っているということでもある。
出所)経済産業省「国内外における映像コンテンツ国際共同製作環境調査」
(2005 年)
今後、日本のコンテンツのフランスにおける流通を促進していくために
は、日仏間の製作・流通の違いを理解したうえで、現実的なコラボレーシ
ョンのあり方を模索することが重要である。
クリエイティブの段階での共同製作が難しい(フランスのアニメのテイ
ストが入ると、日本国内で売れなくなる)という状況を踏まえ、例えば、
企画とキャラクターデザインを日本の製作会社が担当し、その次のポスト
プロダクションをフランスの制作会社が担当するなど、製作工程で分担す
るということも考えられる。
- 59 -
【インタビューにおける意見】
・ 日本が企画・製作、キャラクターデザインなどを実施し、フランスで
ポスプロを実施する、という工程で分担するやり方もある。
・ 以前、韓国の KBS と共同でアニメ作品を製作した際、キャラクター
デザイン、ストーリー開発などを日本、ポスプロなどを韓国で実施と
いう役割分担をした経緯がある。
・ 海外のクラシックな原作をもとにアニメ作品をつくっていく、という
ことが考えられる。例えば、日本アニメーションのうっかりペネロペ
(原作はフランス)のような成功例があげられる。
コンテンツ作品の権利について、日仏の企業間で解釈の違いから訴訟に
まで発展したケースがみられる。
ベルヌ条約(著作権に関する基本条約)により、問題の起こった地域に
おける著作権法により対処することとされており、フランス国内における
事案については、フランスの著作権法に基づいて裁定されることとなる。
現状では、日本で製作された作品の権利ついては、必ずしも海外の著作
権法と一致しておらず、場合によって(日本の著作権法に基づいて)対抗
措置をとることが難しいケースがある。
【東映アニメーションのグレンダイザー(フランス語ではゴルドラック)につ
いての経緯】
・ ゴルドラックは 79∼80 年にフランスで放映されたアニメ。視聴率
100%を記録するなど非常に人気があった。
・ フランス側の輸入元は IDDH という会社で、その後、会社が倒産。そ
の後、(日本側が知らないうちに)IDDH 社長の息子が経営する会社
IDP に権利が引き継がれていたことになっていた。
・ また、
その IDP が Declic Image
(http://www.declic-images.com/)
というアニメコンテンツ流通会社に買収され、その権利も Declic
Image に移ったことになっていた。
・ Declic Image がゴルドラックの DVD を販売するにあたって、保有
している(ことになっている)権利をもとに、2004 年に東映アニメ
ーションより日本国内向けに発売されている DVD の映像をつかっ
て、フランス国内むけ DVD を制作・販売しようとした。
・ 東映アニメーションが提訴し、フランスにおける DVD 販売の差し止
めに勝訴(1 審)
・ ただし、フランスにおける作品の権利者としては証明できないとされ
た(2 審)
- 60 -
・ フランスの著作権法においては、監督、企画、演出、音楽の担当者と
それぞれ契約を結んでいることにより、作品の権利者として認定され
る。
・ 日本では、そのような契約がないため、便宜上、関係者間で問題が起
こっていないことにより、契約関係に相当することを主張。5 月にヒ
アリングがあり、その後判決文が作成され、夏∼秋にかけて判決が出
される予定。(差し戻し控訴審)
(3)対応方向
・ 民間においては、製作の企画段階で国際展開について想定しておくこ
とが必要となる。
・ そのためは、現地との合作に向けたルールづくり、国際展開に対する
業界の意識向上が求められる。
・ 政府においては国際共同製作協定の締結に向けた取組を継続させる
とともに、協定を踏まえて、TV 放送において日本コンテンツのため
のクウォータ枠の確保、日本の製作プロジェクトのフランスの支援制
度の活用促進などのフランスからの優遇条項についても検討するこ
とが求められる。
今後の対応方向として、民間においては、製作の企画段階で国際展開に
ついて想定しておくことが必要となる。従来、日本のコンテンツ作品は、
日本国内を第一の市場として想定し、収益の大部分を日本市場から得るこ
とを前提として企画されているため、日本で製作され、TV 放映・映画上
映も終わった後に、海外展開の準備がなされることが多かった。
フランスには、コンテンツの流通において、TV のクウォータ制度、レ
ーティングなど独特のしくみを有しているため、今後、フランスにおける
製作及び流通の促進を図るためには、企画段階から TV 局や流通事業者と
調整していくことが必須といえる。
そのためは、現地との合作に向けたルールづくり、国際展開に対する業
界の意識向上が求められる。
【インタビューにおける意見】
・ TV 局に対して、影響力を持ちつつ、ライセンシーをコーディネート
できるエージェントと組むことが必要。それによって、TV 放映と商
品化を連動させることができる。
- 61 -
・ 今後、TV の地上波の放送枠獲得に向けた競争が激しくなることが予
想され、ディズニーなどと競争していくためには、企画の段階で現地
の TV 局と調整する必要がある。
政府においては、国際共同製作協定の締結に向けた取組を継続させるとと
もに、協定を踏まえて、TV 放送において日本コンテンツのためのクウォ
ータ枠の確保、日本の製作プロジェクトのフランスの支援制度の活用促進
などのフランスからの優遇条項についても検討することが求められる。
【インタビューにおける意見】
日仏の国際共同製作協定に向けた経緯
・ 国際共同製作協定を結ぶことができれば、両国において国内産映画と
して認定され、両国からそれぞれ支援を受けることができる。
・ フランスは、フランス文化の普及と映像作品の海外輸出などの経済的
なメリットを背景に国際共同制作協定の締結には積極的。すでに 40
カ国程度と協定を結んでおり、韓国とは協議中。
・ 日本に対しても以前は積極的であったが、(主に日本側の事情で)協
議が進展しないため、近年はそれほどでもない。日本側の問題として
は、合作協定を結ぶ際の日本側の窓口が明確でないこと、日本映画と
して認定して支援する制度が不十分であること、業界にフランス市場
に進出しようというニーズがないこと、など。
・ (主に東宝製作ではあるが)日本映画の興行成績がよいため、製作者
は海外での共同製作には消極的である。
・ 2005 年に CNC とユニジャパンの間で共同製作の覚書を締結。
2008 年に 3 ヵ年の期限を向かえ、更新されていない。
- 62 -
3)今後の展開方向
・ 国際共同製作のモデル事業などを実施して、日仏双方の業界及び製作
者に対して、国際展開のモデルを示していく。
・ 国際共同製作協定の締結に向けて、フランスに提供する優遇条項とし
て、フランスの事業者(製作者、コンテンツの権利保有者)に対して、
日本国内の TV 放送枠を確保・提供する。
今後の展開方向のイメージとして、民間においては企画段階で国際展開
について想定しておくことが必要で、政府においては国際共同製作協定の
締結に向けた取組を継続させるとともに、モデル事業などを実施して、国
際展開のモデルを示していくことが考えられる。
また、国際共同製作協定を締結する際、相手国となるフランスに対して、
経済的なメリットを提供する意味でも、フランスの製作者・流通事業者に
対して彼らが保有するコンテンツについて、TV の放送枠、映画の上映機
会を提供していくことも有効であると考えられる。
国際共同製作協定の必要性
国際共同製作の推進にあたって、実は、共同製作に参加する各国間で国際
共同製作についての協定が結ばれているかどうかはかなり大きなファクタ
ーとなっている。映画製作の成功の条件は、あくまで、すばらしい企画であ
り、すばらしい人材。とはいえ、そういったクリエイティブ面からの「共同
製作のメリット」と共に、ビジネス面におけるメリットも明確でなければ、
実際には映画製作は動きにくい。
実際にカナダやアメリカの映画プロデューサーの動き方を見ていると、
クリエイティブと同時に、「どことは共同製作協定があるから、ここの国と
パートナーを組もう」というプランニングを確実にしている。これは、「国
産映画とみなされたら、多額のソフトマネーを獲得することができる」とい
う感覚を持っている彼らとしては当然の発想である。
ところが現在の日本では、カナダとの協定はあるものの、その他主要国
との協定締結が全く進んでいない。これでは、共同製作協定の利用・申請、
それを通じたソフトマネーの確保を映画ファイナンスの必須要素と考えて
いる海外のプロデューサーの視点からは、日本は、「共同製作を持ちかけに
くい」国、悪くすると「共同製作ということでは全く頭に思い浮かばない国」
になっている可能性がある。早急な主要国との国際共同製作協定締結が望ま
れる。
- 63 -
ただし、国際共同製作協定といっても、一朝一夕には締結が難しい可能
性がある。国際共同製作協定は、両国間の親善が目的というよりは、互いの
国の「ソフトマネー」を合わせていくことで、より大型の、ビジネス的に成
功しやすい「自国映画作品」を増やすための「国益追求」型の行為となって
いるからだ。
このような状況では、映画産業に対して公的な支援が用意されていない
日本との協定締結について、相手国が及び腰になる危険性が高い。ふんだん
に目的税などを投入している国からみると、「日本との間で互恵的に国内産
待遇」することはかなりバランスの悪いディールとなるためである。
上記の問題点を解決し、円滑に各国との間で共同製作協定を網の目のよ
うに結んでいくためには、日本側においても、何らかの「国内産待遇による
(経済的)メリット」を用意していくことが望ましいと言えるだろう。ヨー
ロッパ各国のような巨額の「芸術・文化支援」費が望みにくい日本において
は、直接的な助成金ということではなく、税制面での優遇、あるいは日本国
内の流通企業/投資元とのマッチングの強化など、国内の民間資金が国際共
同製作に流れやすくする環境を構築していくことが、実際には、実効性のあ
る対応策ということになっていくだろう。
出所)経済産業省「国内外における映像コンテンツ国際共同製作環境調査」
(2005 年)
①国際展開のモデル事業
現状において、日本・フランスの双方において、TV 放映または映画上
映を前提として、製作企画がなされているプロジェクトが少ない中*、企
画段階から双方のマーケットを意識して、全体で収益をあげていくための
しくみづくりが必要となる。そのため、複数国の企業からの資金調達、配
給権の販売、複数国における製作支援スキームの活用などを行うモデルケ
ースとして、政府・業界の協力のもとに、パイロット事業を設定し、成功
事例をつくっていくことが有効であると考えられる。
*限られた例として、「東京ソナタ」があげられる。
実施イメージとして、フランス原作の作品をもとにアニメ作品を製作す
るケースを設定すると、以下の通りとなる。
・ 双方の政府機関、映像製作支援機関の協力をもとに国際共同製作によ
るコンテンツ製作支援のプログラムとして実施する。
・ 企画を募集し、プロデューサー(日本人またはフランス人)を中心と
- 64 -
・
・
・
・
・
した中核的な製作チームを日仏のメンバーにより設置する。設置にあ
たって、双方の国の機関の協力・支援(規制緩和など)のもとに、日
本及び仏において、製作支援を受けることのできる体制を構築する。
製作チームを中心として資金調達、ビジネスの企画、製作企画を実施
し、工程ごとに担当するクリエイターや企業を編成する。この際も、
双方の国の製作支援を受けることができる体制を構築する。
制作の工程は日本側が主体となって担当し、作品にもとづくキャラク
ター開発、ストーリー開発、作画などを実施する。
制作の後工程(編集、複製など)は仏側が主体となって担当し、編集、
音声、音楽(多言語対応)の制作を行う。
PR、流通については、日仏双方の広告代理店、配給会社、TV 局が
自らのネットワークを活用して展開する。また、キャラクターグッズ
など、関連商品の企画・販売についても同時期に展開する(グッズ制
作を一元化するか、地域によって分担するかについては調整)
。
流通(配給・TV 放映など)においては、日本・アジア、フランス・
EU をメインのターゲット市場として展開し、その他の地域について
も、日仏双方の協力の下に(地域のコーディネート機関に委託するな
どにより)展開を図る。
国際共同製作モデル事業の実施イメージ
【日本】
映像製作事業者(製作会社、出版社、配給会社、広告代理店、TV局、玩具・ゲームメーカー等)
支援機関(ユニジャパン、
フォーマット、ビジネス企画等調整
それぞれの地域の支援制度活用
企画
制作準備
プロデューサー
(日本または仏)
を中心とする
製作チーム設置
• 仏の原作を
もとにストー
リー開発
• 制作・編集・
PR・流通等
のメンバー
編成
• キャラクター
商品企画
フォーマット、ビジネス企画等調整
それぞれの地域の支援制度活用
制作をメインで担当
制作
編集
複製
• 脚本制作
• キャラクター
開発
• 撮影または
原画制作
• 編集・複製
編集をメインで担当
【フランス】
映像製作事業者(製作会社、出版社、TV局、編集会社、PR会社等)
支援機関(CNC、MEDIAなど)
- 65 -
日本、アジア展開
を担当
日本・アジア
PR
流通
• PR
• キャラクター
商品企画・
販売
• 配給・放送
• DVD
• WEB配信等
フランス、EU展開
を担当
その他地域
(北中南米、中東等)
フランス・EU
②日本国内の TV 放送枠の確保
フランスの製作者・流通事業者が日本との取引において、最も望んでい
るのは、自分たちの作品を日本でテレビ放映することであるといわれてい
る。フランスの事業者向けに番組枠を用意することは、今後の国際共同製
作を促進することに加え、国際共同製作協定においてフランスに対して優
遇事項を準備することにおいても有効であると考えられる。
日本のテレビ放送は、広告代理店が放送枠を持っていて、バンダイなど
のスポンサーがつくことによって、番組が成立する。EU から作品をもっ
てきても、一般に外国のテイストのアニメ作品は日本国内で人気を博すこ
とが難しいため、おそらくスポンサーを獲得することが難しいと考えられ
る。対応策としては、U 局連合などを形成して、政府や業界が支援して、
枠を確保していく、ということも考えられる。
- 66 -
【現状】
• 日本のコンテンツに
対する受容性は高い
•固定的なファンも確
保できている。
• TV放送のクウォータ
によりコンテンツの放
送に制約がかかる
• 日本企業はフランス
の製作支援制度を活
用できない。また、結
果として、フランス産
コンテンツと比較し
て、TV放送、映画上
映などの機会が少な
い。
• 製作委員会方式など
日本独特の製作体
制に対して、フランス
の事業者からは意思
決定の遅さなどの問
題点が指摘されてい
る。
【課題】
• フランス企業と共同
製作を行うことによ
り、フランス国籍の作
品として、支援制度を
受けて製作する。
• アニメ番組において
は、キャラクターグッ
ズなどの商品化と合
わせた展開を図る。
【民間レベルの対応方向】
• 国際展開(現地化)を
踏まえた製作企画立
案
• 現地との合作に向け
た協働のルールづくり
• 国際展開に対する業
界の意識向上のため
の情報共有
- 67 -
• 共同製作のモデル
事業の実施(製
作・企画、デザイン
を日本、ポストプロ
ダクションが現地
など)
• 広告代理店・放送
【政府レベルの対応方向】
•日仏間で、製作・流
通のしくみのちがい
を理解した上で、関
係者が現実的な対応
方向をみつける。特
に、権利について
は、両国の法律の違
いを踏まえて対処が
必要となる。
【取組イメージ】
•国際共同製作協定
等、合作促進のため
の協定の締結
• 日本コンテンツのため
のクウォータの枠確
保
• フランスの支援制度
の活用促進
局とも連携したフ
ランス製作コンテ
ンツ向けの放送枠
の確保(共同製作
協定のための優
遇条項として準備
する)