小児細菌感染症1 小児科学 長井健祐 1.髄膜炎(Meningitis) A. 化膿性髄膜炎 (1)臨床症状 発熱、頭痛、嘔吐、易刺激性、哺乳力低下、痙攣、出血斑、意識レベルの低下など (乳幼児では、非特異的症状が多い→“なんとなくおかしい”) (2)診察所見 髄膜刺激症状:項部硬直 Kernig 徴 候 : 膝 を 伸 ば し た ま ま 、 下 肢 を 挙 上 さ せ る と 途 中 で 膝 を 屈 曲 さ せ る Brudzinski徴候:頭部を前屈させると、股関節と膝関節を屈曲する 大泉門膨隆:頭蓋内圧亢進 (3)起炎菌 新生児:B 群レンサ球菌、大腸菌、リステリア菌、ブドウ球菌 1 か月〜1 歳未満:インフルエンザ菌、肺炎球菌 1 歳〜成人:肺炎球菌、インフルエンザ菌、髄膜炎菌 脳室シャントや免疫低下者:ブドウ球菌、Gram 陰性桿菌 (4)髄液検査(表1) 髄液の性状:外観、細胞数、蛋白、糖 正常な髄液:無色透明、細胞数≤5/μl(単核球)、蛋白≤50-70mg/dl、 糖>40mg/dl(または、血糖の 1/2-1/3) 塗沫鏡検:遠心した沈渣をGram染色(塗沫鏡検) Gram 陰性桿菌:インフルエンザ菌、大腸菌、その他の腸内細菌 Gram 陽性球菌:肺炎球菌、B 群レンサ球菌、ブドウ球菌 Gram 陰性球菌:髄膜炎菌 Gram 陽性桿菌:リステリア菌 抗原迅速診断法(ラテックス凝集反応)で以下の菌種を検出することができる。 H. influenzae、S. pneumoniae、N. meningitidis GBS(B 群レンサ球菌:S. agalactiae)、E. coli 培養(血液、髄液) *腰椎穿刺(lumber puncture)Jacoby 線(両側の腸骨稜上縁を結ぶ線)または L3 棘突 起直下で行う。脳圧亢進状態なので、できるだけ細めの腰椎穿刺針(ルンバール針)を 用い、最小限量の髄液を採取する。 (5)治療 抗菌薬(表2) 十分な髄液移行が期待でき、大量・長期投与に耐えうる安全性の高い薬剤を選択する。 殺菌性抗菌薬が望ましく、βラクタム薬が選択される事が多い。 合併症対策:脳浮腫に浸透圧性利尿剤の投与、 SIADH による電解質異常(低ナトリウム血症)の是正、硬膜下膿瘍、脳膿瘍での穿刺排 膿が必要。 (6)合併症 早期合併症 脳浮腫、Septic shock、DIC、低 Na 血症(SIADH*) *SIADH の診断 低浸透圧をともなった低 Na 血症 脱水の徴候はない 尿浸透圧が血漿浸透圧よりも高い 尿中への Na の排出が食塩摂取量をこえて持続 腎機能、副腎機能とも正常。 後期合併症 硬膜下貯留液(水腫、膿瘍)、水頭症、聴力障害、神経学的後遺症 B.結核性髄膜炎 第1期(前駆期)発熱、機嫌不良など特異的神経所見がない 第2期(刺激期)嘔吐、痙攣などの神経刺激症状 第3期(麻痺期)昏睡、麻痺などの神経麻痺症状 診断:家族歴、接触歴、BCG 接種歴、ツ反のチェック 早期診断治療が重要!胸部 X 線写真のチェック(粟粒結核の合併) 第2期以降では、死亡または重篤な後遺症を生じる場合が多い。 治療:イソニアジド(INH)、リファンピシン(RFP)、ピラジナミド(PZA)、ストレプトマイシン (SM)の4薬剤を最初の2ヵ月併用し、それ以降は INH、RFP の2薬剤を 10 ヵ月間投与す る事が勧められている。 C.真菌性髄膜炎 起炎菌として、クリプトコッカス Cryptococcus neoformans var neoformans (ハトの糞に汚 染された土壌から分離される)がもっとも多い。 症状:頭痛、嘔気、嘔吐、痙攣、髄膜刺激症状 眼底所見:うっ血乳頭、網膜白斑診断:髄液沈渣物の墨汁染色(インディアンインク法)、ラ テックス凝集法による血清、髄液中の抗原検索治療:アンフォテリシン B+フルサイトシン (5-FC) D.ウイルス性髄膜炎 病原ウイルスとして、エンテロウイルス(Echo、Coxsackie、Mumps など)が主である。発熱や 頭痛、嘔吐などの髄膜刺激症状は、細菌性髄膜炎と同じだが、細菌性髄膜炎より重篤感に 乏しいのが一般的である。予後は良好な疾患であるが、エンテロウイルス 71 による髄膜炎 は、まれに脳幹脳炎を起こし、その場合は神経学的後遺症を残すことが多く、予後不良であ る。 診断:髄液所見、髄液・血液のウイルス抗体価の上昇、髄液からのウイルス分離 治療:安静、頭痛、嘔吐などに対する対症療法 *鑑別診断 細菌性髄膜炎(ごく初期あるいは不完全治療時)、脳膿瘍、結核性髄膜炎、真菌性髄膜炎 でも同様の髄液所見を示す事があり、診断には注意を要する。 表1. 髄膜炎の髄液所見 疾患 化膿性髄膜炎 結核性髄膜炎 細胞数(/μl) 優位細胞 糖(mg/dl) 蛋白(mg/dl) 500-20,000 多核球 減少 100-700 25-500 単核球 減少 50-100 5-1,000 単核球 正常 <100 <10 単核球 正常 正常 真菌性髄膜炎 無菌性髄膜炎 脳膿瘍 脳症 メニンギスムス 表 2. 化膿性髄膜炎の選択薬剤 起炎菌不明時 新生児 セフォタキシム+アンピシリン(アミカシン) 新生児期以降* セフォタキシム/セフトリアキソン+アンピシリン(バンコマイシン) ブドウ球菌 ペニシリン感性株 ペニシリン G MRSA バンコマイシン B 群レンサ球菌 ペニシリン G/アンピシリン(+アミカシン) 肺炎球菌 ペニシリン感性株 ペニシリン G ペニシリン耐性株 バンコマイシン、カルバペネム(パニペネム・ベタミプロン) リステリア アンピシリン(+アミカシン) 髄膜炎菌 ペニシリン G インフルエンザ菌 セフォタキシム/セフトリアキソン(感性株であればアンピシリン) 大腸菌、 セフォタキシム/セフトリアキソン クレブシエラ、プロテウス セフォタキシム/セフトリアキソン(+アミカシン) 緑膿菌 セフタジジム+アミカシン *本邦では、インフルエンザ菌、肺炎球菌の薬剤耐性が多いため、起炎菌不明時には、カルバペ ネム系薬剤(パニペネム/ベタミプロン)+広域セフェム系薬(セフトリアキソンまたはセフォタキシ ム)の併用で治療を開始する場合が多い。 2.尿路感染症(UTI: Urinary tract infection) 障害を受けた部位により、尿道炎、膀胱炎、腎盂腎炎に大別されるが、病変は尿路 全体に及びやすいため、一括して尿路感染症と称される。 (1)症状 新生児—哺乳力低下、体重増加不良(非特異的な全身症状) 乳幼児—発熱、嘔吐、不機嫌、下痢など。年長児—頻尿、発熱、腰痛など (2)診断基準 尿路感染症を疑わせる臨床症状、尿中白血球が1視野に5個以上ある 場合、清潔採尿で連続2回以上、同一菌が 105以上の陽性の場合。 膀胱穿刺や導尿で採取の場合、102-3/ml以上。 無症候性細菌尿:無症状で、清潔採尿で連続3回以上同一菌が 105/ml 以上の陽性の場合。 (3)起炎菌(表1、2) 腸内細菌が多い Gram 陰性桿菌(腸内細菌)大腸菌、プロテウス、クレブシエラなど、最近 では腸球菌の割合も多い。 尿路の基礎疾患を伴うような複雑性尿路感染症では、腸球菌や緑膿菌 が起炎菌になることが多い。 (4)尿路系の精査 基礎疾患—膀胱尿管逆流(VUR: vesico-ureteral reflex)や先天性の尿 路奇形を認める事がある。初発時より、積極的な画像診断(超音波検 査)を行い、これらの異常の発見につとめる。 急性期の治療が終了後 2〜4 週間後に排尿時膀胱尿道造影(VCG: voiding cystourethrography)を行う。 (4)治療 下部尿路感染症で全身状態が良好な場合、広域経口セフェム薬の投 与。 新生児、乳幼児などで敗血症の合併を考慮する場合、上部尿路感染症 (腎盂腎炎)の場合は、広域セフェム薬やアミノ配糖体の非経口(静脈 内)投与。投与期間は、7から 10 日間。 薬剤感受性試験の結果をもとに、治療抗菌薬を検討する。 予防投薬:再発、反復感染、膀胱尿管逆流現象がある場合の感染予防 に適応となるが、大規模な RCT による明確なエビデンスはなく、経験的 に用いている(ST 合剤など) 表1 基礎疾患のない小児の尿路感染症の原因菌 Ladhani, S and Gransden, W. Arch. Dis. Child. 88: 444 - 445. 2003 より 1996-2000 Organism E. coli Enterococcus spp. Proteus spp. Klebsiella spp. Pseudomonas spp. Non-faecal streptococci Enterobacter spp. その他の Gram 陰性桿菌 Morganella morganii Staphylococcus aureus Other staphylococci S. maltophilia n=2815 1774 542 163 94 59 53 33 29 25 25 18 0 % 63.0 19.3 5.8 3.3 2.1 1.9 1.2 1.0 0.9 0.9 0.6 0.0 表2.基礎疾患のある小児の尿路感染症の原因菌 Ladhani, S and Gransden, W. Arch. Dis. Child. 88: 444 - 445. 2003 より Organism E. coli Enterococcus spp. Pseudomonas spp. Klebsiella spp. Enterobacter spp. Proteus spp. Other staphylococci Staphylococcus aureus Non-faecal streptococci 他の Gram 陰性桿菌 Morganella morganii S. maltophilia 1996-2000 n=1314 530 266 142 100 50 49 48 38 37 28 17 9 % 40.3 20.2 10.8 7.6 3.8 3.7 3.7 2.9 2.8 2.1 1.3 0.7
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