第1章 アンテナ 1.9 ロケット搭載アンテナの放射指向性 1980 年代後半,宇宙開発事業団は H-I 型ロケットに引き続き H-II 型ロケット開発を推進していた (Fig.1-38).これに伴い,事業団・谷岡憲隆氏より要請を受けて客員研究員として,このロケットに搭 載する種々のアンテナの放射パターンや回線設計上の問題を評価する目的で事業団,NEC 技術者とと もに研究を進めた. Fig.1-38 H-II Type Rocket 1段目ロケット周囲が誘電体を用いた断熱材で覆われている Fig.1-39 Experimental Model (1/6) of H-II Rocket 実験に使用した縮尺:1/6 のモデル その一環として,初めに,大型ロケットに搭載したアンテナのロケット込みの放射指向性を縮尺 1/6 (長さ:約 3.5m,周波数:36GHz)模型実験により評価した(Fig.1-39).結果,ロケット導体に装着 されている耐熱材によるロケット機軸方向の指向性の乱れが問題となった.また,使用周波数がミリ波 であるため,モデルの製作精度,細部構造の違いが結果の指向性に大きく影響を与えることが心配さ れ,理論解析が必要と考えられた.そこで,誘電体による放射界に及ぼす影響を評価することを目的と して,簡単化したモデルを用いて解析を行った. この種の解析に使える道具として,幾何光学回折理論 (Uniform Theory of Diffraction: UTD) が知 られていた.また,誘電体皮膜上に生じる表面波をアンテナからの放射界を含めて解析する必要が生じ た.これまで表面波の伝搬特性に関しては,波源を含まない場合の解析は教科書などで説明されている が,アンテナとある距離隔てて存在する誘電体皮膜に対する励振電界(2次波源)について記述された 1 Fig.1-40 Measured Radiation Pattern of Model (1/6) 縮尺:1/6 のモデルの実測パターン Fig.1-41 Calculated Radiation Pattern ロケット後方(右側)の 90 度付近に断熱材料の影響による深いヌルが生じている 文献は知らなかった.そこで第1ステップとして,波長に比して充分大きい導体板上に誘電体皮膜が存 在する場合の表面波効果を含めた解析を試みた.モデルとして,正方形導体板中心にモノポールを設置 して,これからある距離離れた円形穴が開いた誘電体板が導体上に存在する場合について式を構築し た.誘電体端面に入射するモノポールからの電界で励振される内部電界をフレネル透過係数で近似し, 誘電体内部の電・磁界を境界面における境界条件により連立方程式を解いて求めた.このアンテナから の放射界はモノポールアンテナからの放射界と誘電体端部の表面波分布からの放射界の合成で求めた. 実験結果との照合から,ここで導入した解析法が誘電体皮膜を含むアンテナからの放射界解析に有効で 2 あることを確かめた.特に,ロケットアンテナとして問題視されている機軸方向の放射電界強度に関し ては,使用する誘電体の誘電率,厚さが大きく影響を与えることが判明した.また,アンテナと誘電体 皮膜との距離が近いと,その影響が強まることも分かった. 次いで,ロケット胴体を方形で近似したモデルを導入し解析した.解析結果と実測値に差異は認めら れたが,誘電体の効果は,とくにロケット飛翔時に重要な機軸に沿う方向で大きく,レベル変化,ヌル 深さの増加が起こることが判明した(Fig.1-40,41).この論文の特徴は,大型ロケット搭載のアンテ ナ放射特性解析に UTD 数値計算を用いた点と,アンテナの放射界による表面波励振をも含めて解析し た点にある. この計算には,高橋芳浩君(現・日大理工・専任講師)が頑張ってくれた. 参考文献 [1] 長谷部,高橋(芳),谷岡,”誘電体装着有限導体アンテナの放射特性”,信学論,vol.73-B, no.12, pp.910-918, (1989.12). 3
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