2006 年のヨーロッパモビリティウィーク&カーフリーデーの状況報告 視察期間:2006.9.14 9.26 今年の日本からの参加は一昨年と同様、横浜、名古屋、松本の 3 市でした。わが国でも以前に比べる と格段にカーフリーデーの存在は知られるようになりましたが、街づくり、環境面では世界の進み具 合とスピードの点で大きく隔たりがあるようです。今年も正式参加がないため、ヨーロッパ各地の交 通行政、モビリティウィークの取り組みについて視察を例年通り訪れてきましたが、こちらがとどま っている間にさらに引き離されていくことを例年以上に実感してきました。 ●イタリア・ボローニャ 天然ガスのバス 車両 最初は、イタリアの優等生ボローニャを訪れまし た。「BO2 ※1 」をキャッチフレーズに積極的な都 市交通政策を展開しており、2006 年のヨーロッ パモビリティウィークの賞の候補地でもありまし た。世界遺産の歴史的地区の環境保全に特に留意 するため、昨年から SIRIO という名称のカメラ システムで街中への自動車の流入規制を進めてお り、また、都市交通計画の更新も住民とのフォー ラムを行いながら進めているときでした。モビリ ティウィークの催しは自転車、天然ガス自動車等 の普及など充実したものでしたが、フォーラムの 立ち上げもその一つでもありました。 ●ベルギー・ブリュッセル 自動車の流入規制 を監視するカメラ 17 日の日曜日は、街全体をカーフリーゾーンと しているブリュッセルを再度体験しました。昨年 から紹介しているとおり、地下鉄 2 路線がそっく り入る市全域(32km2)で、9 月 22 日ではなくモ ビリティウィーク期間中の日曜日を全く自動車を 使わない街とするすごさは、日本の人々もぜひ体 験してもらいたいものです。今年 5 年目の実施と 通常の中心部の様子 のことですので、人々はもう慣れ親しんだ恒例の イベントというイメージでしょうか、郊外の人は 街のフリンジ部分の駐車場に自動車を置いて自転 車に乗り換え街に繰り出し、大小の自転車で一緒 に走る家族の風景はいたるところで見かけました。 仲間でユニフォームをそろえて走るグループや自 転車愛好会など、さながら自転車の日のようでも あります。公共交通は無料となり、中心部ではロ 街全体をカーフリー ゾーンとした日曜日 の中心部の様子 ーラーやスケートボードなども目につきます。日 BO2※1 ‥Bolonga の「B」 、Bio の「B」 、CO2 の「O2」で命名されたボローニャの都市交通計画 C CarFreeDay JAPAN ○ 曜日は店舗がしまっているので、純粋に都市空間 を楽しむために多くの人が街に集まり、行きかっ ています。 ●フランス・ナント フランスでは、パリ、ナント、ボルドー、ラ・ロ ッシェル、クレモン・フェラン、リヨンとヒアリ ングをこなしながら駆け足で見てきました。ナン トの目玉は 11 月開業の BUSWAY で、基幹とな る公共交通の第 4 路線として整備中の計画のお モビリティウィーク の展示ブース(メイ ンは BUSWAY 紹介) 披露目でした。第 3 路線まではトラムでしたが、 紆余曲折の末、高品質サービスを提供するバスシ ステム(BHNS)としました。日本では BRT と 名づけそうなシステムですが、フランスの考える 公共交通の基幹となる TCSP(公共交通専用空間) の交通手段の一つです。ルーアンの第 2 路線タ イヤトラムの TEOR よりも沿道空間はよりトラ 着々と工事が進めら れる BUSWAY(バス 専用路線) ムを意識した整備が進められていました。 ●ラ・ロッシェルのカーフリーデー 今年の最大の目的は、「車のない日」を最初に訪 れてから丁度 10 年目のラ・ロッシェルでした。 フランスではもうカーフリーデーは一応の役割は 終えたと考えているのか、カーフリーゾーンを市 民に訴える必要は既になくなったということでし カーフリーデー前日 の中心部の様子 ょうか、正式参加はほとんどなくなりました。し かし、ラ・ロッシェルは老舗の街として本格的な カーフリーデーをフランスで実施している数少な い都市のひとつです。日本のコーディネーターが 来たというので 10 周年を迎える市のイベントに 招待され、市長らと新しく整備された道路の開通 式や、障害者・介護団体等とのこれから 10 年間 カーフリーデー当日 の中心部の様子 で街のバリアフリー化の整備を進める調印式等に 参列させてもらいました。その間、市長や地方議 員等リーダーたちと市民の近さを実感し、地方分 権の街づくりの姿を垣間見た気がしました。その 日は、運のいいことに早朝の雷雨がやみ絶好のカ ーフリーデー日和で、すっかり定着した自動車の ない街を、人々は何らかしら都市交通や環境、都 車いすの人々のグル ープ C CarFreeDay JAPAN ○ 市文化とのかかわりの中で一日様々に楽しんでい ました。1997 年と同様、韓国のテレビ局が取材 に来ており、アジアの中でも日本はもう近隣諸国 をリードする立場でなくなりつつあるのかと考え させられました。フランスのモビリティウィーク をリードするエコロジー・持続的発展省(日本の 環境省に相当)からは、今年のフランスの方針と 市長等による新道路 の開通テープカット 変化を伺ってきました。自治体中心から交通局や 地域等これまで実施主体でなかった組織にも拡大 し、新しい事業、施策展開を行う契機となる打ち 上げのイベントをする参加主体も許容することに して、今年は正式参加は少なくなる一方で、参加 数は大幅に増加させていました。 ●フランスの交通政策 福祉・交通弱者団体 等との調印式の様子 また、フランス各地で力を入れているのは、押し なべて自転車交通でした。トラム導入に象徴され る公共交通優先の都市整備や、自動車の空間を削 って歩行者や、公共交通、自転車の利用に転換す ることなど、数年前は抵抗があったことも、今で は当たり前になり、成果を上げて市民も納得して きたのではないかと観察されます。この数年の変 化は大きなものがあります。空間的な問題はなく なりつつあるということでしょうか、昨年から、 フランス「Bougez Autrement」 パンフレット ヨーロッパのモビリティウィークの用語と違う、 「Bougez Autrement 今までとは違う交通行動を」 としたのも、今度は、個人個人の交通行動に呼び かけるようになり、今年は自転車利用の促進にい っせいに目が向いたのではないかと思います。 ▼リヨンのレンタサイクル▼ パリの「バスの廊下」 (バス・二輪・タク シーの専用路線) リヨンの街なかレンタサイクル「Velo’V」の成 功は最近のフランスの都市交通の一番の話題です。 はじめの 30 分は無料で、そのあとは時間精算す るというものですが、スタートして 1 年、現在は 2500 台、220 箇所のデポがあり、来年は 4000 台 350 箇所にするというものでした。運営主体は JC-Decaux(民間企業)ですが、広告の売り上げ リヨンの自転車道ネ ットワーク で、バスシェルターを設置、メンテナンスをする C CarFreeDay JAPAN ○ という方法を生み出し、一時期ヨーロッパ中に提 供していた会 社ですが、発祥の地リヨンで今度は、自転車を提 供し始めました。 既に数都市に拡大する勢いです。 リヨンでは、4-5 年ほど前から、自転車の走行空 間の整備に力を入れはじめ、その環境が整った上 でのシステムの成功とも思いますが、昨年から街 JC-Decaux に よ る レ ンタサイクル 「Velo’V」 のいたるところで赤い自転車が走り回っています。 システムの成功にとどまらず、その効果として、 自分の自転車を使うことが多くなってきたことが 重要と皆が説明していることも印象的でした。 様々な人が様々な目 的で利用 ●総括 1997 年にラ・ロッシェルで「車のない日」に出会い、なかなか実現できないトラムや自転車を乗り やすい環境を実現するためには、車最優先の街づくり、交通政策の考え方を市民一人一人が考え直さ なくては始まらないと考え、カーフリーデーはその有力な手立てになると一目で魅せられてしまいま した。それから、10 年車のない日、カーフリーデーを追いかけて毎年ヨーロッパの変化を見続けて きました。短い間ですが、その間、フランスの国のイベントとなったあと、カーフリーデーとしてヨ ーロッパのイベントとなり、モビリティウィークと発展し、世界に広がる環境、交通、文化イベント とますます進化しています。2004 年から、日本担当のナショナルコーディネーターに指名されてか らは、EU の下部組織ともいえるヨーロッパモビリティウィーク運営委員会の内部からも観察するこ とが出来るようになり、日本の現状と比較するとなかなか考えさせられることがあります。その多く は大したことではないけれど、今の日本では一つ一つができないというのはどうすればいいのでしょ うか。 2007 年に向かって、既に各地で準備が始まっております。来年こそ、さらに普及することを期待し てがんばって行きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。 ヨーロッパモビリティウィーク日本担当ナショナルコーディネーター 望月真一 (カーフリーデージャパン) C CarFreeDay JAPAN ○
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