CIGRE パリ大会に出席して Attending Paris Conference of CIGRE 2002 西田 英司(E. Nishida) (技術開発グループ) 8 月 26 日から 30 日まで、CIGRE 2002 パリ大会に出席しましたので、CIGRE 会議と初めてのパリで感じ たことを述べます。 1.CIGRE 会議について 昨年の 2 月に当社研究所で、今回 CIGRE で発表した圧縮接続管の電気的劣化関係の研究で、中部電力殿 の御立会が行われた際に、当時電力技術研究所で研究主査をしておられた吉田篤哉様から「CIGRE 2002 パ リ大会の論文に応募して、パリへ行きましょう」といわれました。私にとっては、世界中から論文が集ま る CIGRE に論文が当選するのはかなり至難の業と思われました。 しかし、吉田様から「CIGRE も設備保守の方に目が向いており、今回は大いにチャンスだ」といわれま した。そこで今回 CIGRE で発表をされた研究副主査の野末明秀様や、当時直接この研究を担当されていた 中澤剛様と「パリに行けるよう頑張りましょう」ということになりました。 論文は、中澤様を中心にまとめて下さり、結果的に大変中身の濃い論文(本書の 11∼18 頁に掲載)に 仕上げて頂きました。その間、論文に盛り込む内容でかなりやりとりがありました。特に、圧縮接続管を 模擬した電気回路モデルの抵抗計算では、「ここは、おかしいのでは?」とご指摘され、そこを検討する のにかなりの労力を使ったのを覚えています。それまでは劣化現象の考察が中心だったのですが、結果的 にここでの検討が、圧縮接続管の劣化予測への研究に前進する大きなきっかけとなったと思います。従っ て CIGRE の論文に当選することが研究の大きな励みとなった次第です。三人の皆様には改めて感謝する気 持ちで一杯です。この紙面をお借りしまして、改めてお礼を申し上げます。 昨年の 12 月に最終論文が決定されましたが、 まさか私自身パリに行けるとは思ってもみませんでした。 というのも私自身が直接 CIGRE に応募したわけでもなかったからです。しかし上司の薦めや、社長始め上 層部の励ましもあり、今回 CIGRE に参加することができました。CIGRE については不勉強で疎かったので すが、何よりも昔から憧れていたパリ(フランス)へ行けることが大変楽しみでした。一社員として、この ような配慮がその後の仕事の上で如何に励みになることか、社長始め皆様に感謝する次第です。 今回私が参加したのは、Gr22(Overhead Lines)です。 CIGRE でも電気学会のような形式で発表するのかと思っていましたが、そうではありませんでした。大 会前に来ていた Special Report(座長の論文に対する質問)に対する回答を、採用論文の発表者が持ち時 間 4∼5 分で発表し、それに対して質疑応答するという形でした。これは個々の論文について、「出席者 は事前に WG で十分討議・理解し、その訴えどころや議論の観点を鮮明にする」ということだと思います。 出席者の真剣さを感じたと同時に、自分の不勉強さを反省した次第です。 Gr22 の会議では、まず Gr 長がそれまでの WG の討議内容について説明し、 次に採用論文の著者が Special Report に対する回答の発表に移りました。 私達の論文に対して CIGRE の見解(Discussion Meeting Summary)としては、「クロム酸亜鉛(ジンクロ メート)が充填された接続管は劣化の重大な危険性があり、抵抗急増の閾値も妥当であると支持した。た だし、その閾値はもっと低い値ではないかという指摘もあった」でありました。野末副主査の発表に対し て、アメリカの研究者が感想を述べていましたが、上記のような内容であったようです。 AEW 第 31 号 - 31 - 今回の Gr22 の討議について記すと、以下の観点が関心事となっていました。 ・供給信頼度が、架空送電線路の性能を測る最も重要な客観的評価になりつつある。 ・規制緩和市場の下では、価格競争力をつけることが必要不可欠。 ・架空送電線路の環境に与える影響やそれを軽減する方法、およびライフサイクル評価が重要。 このような観点に対して、今回 3 つの優先課題が設定されました。 ① 予期せずに過大な損傷を受けた線路の信頼性回復(採用論文 6 件) ② 規制緩和市場下における架空送電設備の信頼性評価(採用論文 8 件) ③ 架空送電線路の環境影響評価とライフサイクル評価(採用論文 4 件) いずれも CIGRE 委員として架空送電設備の世界情勢をみつめていなければ、さらに私のような不勉強のも のにとってはなかなか理解は難しいと思います。もちろん語学の壁もありますが。 中部電力殿との共同論文は、 「②の規制緩和市場の下では価格競争が不可欠。その一つの手法としては、「保守費用の低減」があげ られる。そのためには信頼性が高く簡易な診断技術が要求されている。そこで圧縮接続管の加速劣化試 験にて諸現象を解明した結果、設備の健全性を正確に判定しうる合理的な判断基準の基礎資料を見出し た。」として、採用されたものと思われます。 今回の大会では、①は主に送電線構造や送電系統に関するもので私の知識としてあまりないもの、②は 送電設備についての各論でやや分かるところ、③は大体①の範疇?というところでした。 Gr22 に採用された日本からの論文は 3 件で、②の「各論」に集中していました。トータル的な観点からの 考察は、日本人は不得意なのかという印象を、自分のことを棚に上げて感じました。 興味深かったのは、イタリアから出ていた逆三角形配列のコンパクト送電線鉄塔に関する論文で、架空 線の相間距離を縮めるため、塔体頂部の枠内に支持点を配置するという発想でした。1 回線が対象、径間 をあまり長く取れないだろうなど、色々問題があるのでしょうが、発想の豊かさを一番感じました。イラ ンからも景観面の観点から同じような検討が出されていましたが、私には頭でっかちでむしろ異様な感じ を受けました。 CIGRE パリ大会では自分の不勉強さを恥じるとともに、各国の研究者の真剣さをヒシヒシと感じました。 2.初めてのパリ 一方、憧れていたパリは思っていた以上にすばらしかった。 ルーブル美術館を出発点として、セーヌ川沿いにコンコルド広場、シャンゼリゼ通り、凱旋門、そして エッフェル塔と一気に歩きました。いままで映画やテレビでしか見たことがないものに直に触れて、大き な感動を得ました。特にルーブル美術館あたりからオペラ座方向をみたとき、荘厳な建物が高さを揃えて ズラッと並んでいるのは圧巻でした。ルネッサンス様式、ゴシック様式、ロマネスク・ビザンチン様式な ど事前に勉強して行かねばとても分からないのですが、ヨーロッパの伝統・文化は歩いてゆくだけで、十 分に感じます。天気にも恵まれ、パリに来たんだという実感を味わいながら、何の勉強もしていないのに 歴史の検証を一つしたという思い上がりに浸りました。シャンゼリゼ通りから入った路地には人々がびっ ちり座っているパリ名物のオープンカフェが並び、まことにいい雰囲気を味わいました。 凱旋門の屋上からは、パリの街中が全てみえます。凱旋門から道路が放射状に延びているのは教科書で 知っていましたが、建物の高さを揃えることといい、私のつまらない感覚ですが、なんと不合理な(実に 美しいのですが...)配置をナポレオンの時代からかたくなに守っているフランス人の頑固さをまざまざ と感じました。 そしてエッフェル塔に行き、自分の間違いが決定的であることに気がつきました。今でこそ、東京タワ ーより高いタワーは色々あるようですが、子供の頃からパリのエッフェル塔を抜いて世界一高いタワーと 単に高さだけの比較をして、日本の技術力が上だと思っていました。しかし、その基部のアーチ状の鉄骨 にはゴシック様式が取り入れられ、とても鉄骨の組み合わせとはみられないほど美しく、芸術性豊かでし AEW 第 31 号 - 32 - た。改めてフランス人の感性の豊かさをエッフェル塔にみた思いでした。この感性を大事にする国民性は ルーブル美術館に行ったときにも感じました。ルーブル美術館は、つぶさにみたら 40 ㎞?は歩くという 信じられない規模(実際大きかった)で、また美術館を特徴づけているのは、ヨーロッパの近代名画の数々 でしょうが、驚くことに絵の前に簡単なロープがあるだけで、触れるほど間近で見ることができることで す。ミロのビーナスも直に触れることができるほどでした。フランス人が大事にしているものが分かった ように思えました。 かと思えば、パリの街を走っている車にピカピカなものはほとんどみられませんでした。また 5 ナンバ ークラスの小型車がほとんどです。そして街路には車の間隔が 20 ㎝?あるかないかで、皆車を停めてい ます。よくみるとナンバープレートがふにゃふにゃです。きっと出るときは、前後の車を押し出して出て いくのでしょう。この感覚は我々とはまったく違うものですね。車の機能だけを要求していることがよく 分かります。 地下鉄の駅は薄暗く、お金をかけていない様子です。しかし、2、3 分間隔ですぐ来ます。パリを巡るに は、地下鉄が安く(均一料金 120 円くらい)て実に便利です。街の中でもそうでしたが、地下鉄でも自動販 売機が見当たりません。女性の駅員にいって切符を買います。 タバコを切らして買おうとしましたが自動販売機が見当たりません。聞くとタバコ屋があるというので、 言葉の不安がつきまといながら恐る恐る中に入ってみました。タバコ屋といっても日本でいうとコンビニ くらいの大きさで、色々な種類のタバコや葉巻を置いていました。でも日本のタバコはありません(街の スーパーマーケットに入っても日本の食料品・生活用品などはみかけませんでした)。中では 10 人くらい の客が列をなしてタバコを買っていました。その先に大きな腹を突き出した店員(店の主人?)が、ペコペ コもせず、愛想笑いもせずに胸を張ってタバコを売りさばいていました。 たかがタバコ(失礼)なのに、その方は自信をもって威厳をもってタバコを売っているのです。店を出た あと考えたのですが、どうも自分の職業に誇りをもって、かつ自分の職業を守ろうという意志が、タバコ 屋や駅の切符販売に感じます。フランスの技術力をもってすれば、自動販売機ぐらいどうってことはない だろうと思います。しかし安易にそれを選択すれば、いずれ自分たちの職業はなくなるだろうという思い ではないかと思いました。彼らは愛想良く顧客に媚びを売ってるわけではなく、どうしてもその職業が必 要なんだというよりは、自分たちの職業・生活を守るということを安易な便利さより優先することで、フ ランス人はお互いに了解していることを強く感じました。今の日本のコスト競争、それが故の空洞化につ いて少し考えさせられた思いです。 写真1 AEW 第 31 号 - 33 - パリの街角
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