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第一章 弓構えを理論的に考え、実践する
第二章 弓構えの内容をさらに深く理解する
第三章 弓構えから、射癖や射型の乱れを改善する
第一章
弓構えを理論的に理解し、実践する
1.1 弓構えのポイント
「弓構え」は矢を番えた後、弓の本弭を左膝頭につけたまま、取り懸け(ゆがけの親指を弦に
かける)、手の内(弓手で弓を持つ)、物見(顔を的の方向に向ける)を行います。三つの一連
の動作をまとめて弓構えと言います。
弓構えやること
・足踏み、胴づくりで行った「姿勢」「重心」をもう一度確認する
・両肘を体の真ん中で円を作るように外側に少し張って、「取り懸け」、「手の内」を整え、物見
を入れる。
胴づくりでやった「両肩を落とす」「背中を伸ばす」ことをここでも崩さずに行います。
・取り懸けポイント
・四つがけの場合は薬指で親指をおさせ、中指、人差し指を添える。三つ?の場合は中指で親
指を押さえて、人差し指を添える。この手の形で?の懸け溝に弦を引っ掛ける
・ゆがけの親指の帽子が矢と当たらないように少し離して取り懸ける。このとき、親指の帽子
が弦と直角になるようにする(これを懸け口十文字という)。四つがけの場合は少し下向きに
して取り懸ける
・ゆがけを弦に懸けたら、自分から見て反時計まわりに少し、拳をひねって人差し指が弦に少
し中るようにする
・このとき、手首、指先に力が入らないようにする
・手の内
・中指、薬指、小指(三指)のつま先を整える
・弓の左側木のところに人差し指と親指の股(虎口)にはまりこむようにする
・天文筋のところに弓の外側の角を当てる
・物見
・手首、肘を柔らかく物を抱くように気持ちで弓矢を保つ
・目線を弓のにぎり革の 30~50 ㎝上→にぎり革 30~50cm 下→真ん中と移す。
・的に狙いを向け、顔向けする。
取り懸けで弓構えの左膝頭に弓を置くときに、膝頭ではなく、膝の内側に置いている人がいま
すが、注意されますので気をつけましょう。
弓構えには「正面の弓構え」と「斜面の弓構え」があります。正面は小笠原流、斜面は日置流
の弓構えであり、いずれの弓構えにも「取り懸け」、「手の内」、「物見」が含まれています。
教本の弓構えの説明
「弓構え」は、いよいよ射の活動に移る直前の準備動作である。したがって「足踏み」「胴づく
り」による基礎体勢を保持しつつ、呼吸を整え気力を充実して動作しなければならぬ。
1.2 取り懸ける位置をほんの数ミリずらすだけで射技が向上する
弓構えの中には親指を弦にひっかける「取り懸け」の動作があります。
多くの人は、取り懸けの動作は 単純に親指をひっかける動作と考えて、細かいことを気にし
ません。 しかし、取り懸けという動作はのちの引き分け、離れの動作で重要になってくる大切
な動作です。
ほんの少し指の置きをかえるだけで、引き分けがしやすくなったり離れの出しやすくなったりし
ます。ここでは、取り懸けの動作で重要になる指の位置を説明していきます。
取り懸ける指の位置を変えると手首がたぐりにくくなる
取り懸けのとき、多くの人が何も考えずに取り懸けて中指の第一関節の節や腹で取り懸けを
している人がいます。
このように取り懸けると、弓は引きにくく、引き分けで手首がまがる「たぐり」の射癖になりやす
いです。
このように指先近くで取り懸けてしまうと、弓の荷重が中指の先に集中します。そうすると指先
に力が入ってしまいます。
指先に力が入ってしまうとその力みが手首に伝わります。すると、肘とか背中まで意識して力
を使うことができなくなります。
指導者に「手首で弓を引いているぞ、肘で引け」と言われた経験がある人は原因は肘への意
識の仕方ではなく原因は取り懸けを指先近くにしている可能性があります。指先に力が入る
ような取り懸けをしていると、肘を意識して引くことはできません。
そこで、解決策としては第二から第三関節辺りで取り懸けます。少し深く取り懸けると、指の
第一関節がフリーになります。こうすることで、手首への力の圧力を軽減することができます。
この指の位置をほんの少しずらすだけで、引き分けのしやすさが変わります。指の置き方一
つ変えるだけで稽古に生かすことで射技の向上につなげることができます
1.3 ほんの少し取り懸ける指の位置を変えると射技が向上する
多くの人は取り懸けの持つ重要性が何かわからず、ただ指をひっかけるだけで弓を引こうとし
ます。しかし、そのひっかけ方をほんの少し変えるだけで、引き分けがしやすくなります。
具体的には「指の腹」で取り懸けるか否かでも引き分けのしやすさが変わります。
こう取り懸けても引けますが、この位置を変えると、さらに引き分けをしやすくなります。具体
的には、中指の腹ではなく、中指の横の腹で取り懸けるのです。
こう取り懸けると親指がより弓と弦の間に入り、打ち起こしが高く上げやすくなります。すると、
弓と体との距離が近くなるため、引き分けがしやすくなります。
さらに指の横腹で取り懸けると腕と弓が直角にそろいます。こうすると、取り懸けで手首がま
がりにくくなり、手先で引く引き分けになるのを防止します。
日置流では腕と弓を直角に揃えることを「懸口十文字」と呼びます。二つの間で角度を作らな
いことで、たぐりを防いだり引き分けを収めたりすることができます。
指の横腹で取り懸けると自然に手の甲が横に向きます。この形のまま引き分けていくと、右
肘を体より後方に引きつけやすくなります。逆に手の甲が上に向いていると、引き分けで右肘
は下に落ちやすくなります。その結果、手首がたぐったり離れがゆるんでしまいます。
取り懸ける指の位置を「指の腹」ではなく「横腹」に変えてみましょう。すると、大きく弓を引き
分けることができます。その結果、矢勢や的中率の向上につながります
1.3 四つがけの使用上の注意点
弓道のゆがけは三つの指を使う三つがけの他に四つの指を使う「四つがけ」が存在します。
四つがけはうまく使えば、三つがけより、弓の引きやすくしたり射形をキレイにしたりできま
す。しかし、取扱いが少し三つがけと変わります。これを理解していないと、せっかく四つがけ
を購入しても、三つがけのときより射形が崩れる可能性があります。
ここでは四つがけを取り扱う上で注意してほしいポイントをまとめていきます。
親指は三つがけのときより少し下に向ける
四つがけは三つがけに比べて最初から親指が下にむいています。なので、最初に取り懸け
つときに、親指を下にむける気持ちで取り懸けるとうまくはまります。
四つがけでも三つがけと同じようにすると、手首を逆に力ませてしまいます。このため、四つ
がけは三つがけより親指が下に向くものととらえてください。
親指を下に向けずらかったら、掛け紐を少しゆるめ気味に取り懸けます。そうすると、手首周
りが楽になり、親指を下に向けやすくなります。
薬指の第一関節の横腹で取り懸ける
四つがけでは薬指の第一関節に取り懸けると落ち着きます。
薬指で取り懸けるとき、ただ、薬指から直接親指に引っ掛けるのではなく、小指を曲げて、一
緒に取り懸けましょう。こうすることで、薬指が曲がりやすくなります。
小指は取り懸けるときに軽く曲げることで、薬指の働きを助けるようになります。薬指だけで取
り懸けるのではなく、小指を曲げる→薬指も自然と曲がる→その曲がった薬指で取り懸ける。
このステップを踏みましょう。
これは三つがけも同様です。三つがけで中指を取り懸けるときに小指、薬指を曲げてから中
指が曲がり、その曲がった中指で取り懸ける。同じ流れで取り懸けると自然になります。
四つがけはあまり手首をひねる必要がない
三つがけでは人差し指が弦に当たるくらい少し手首をひねるようにします。これにより、引き
分け以降、矢こぼれするのを防ぎます。
しかし、四つがけは三つがけのときのようにあまり手首をひねる必要がありません。これは、
四つがけは三つがけに比べて人差し指と弦との距離が近くなるからです。そのため、手首で
捻らなくても、自然と弦に当たりやすくなります。
私は四つがけを使っていますが、平付けのつもりで引いています。しかし、それでも引き分け
に入ったらちゃんと弦にかかります
1.5 手の内を理解するためのポイント3つ
弓手の手の整え方を「手の内」と呼んでいます。弓道の世界ではこの手の内はとても難しい
射技の一つといわれています。
しかし、手の内の整え方は難しくはありません。難しく考えると逆に手の内は悪くなります。シ
ンプルに考えることができれば手の内を理解することは容易と考えます。
手の内が難しいのは指の整え方しか考えられていないから
なぜ、手の内は難しいと感じるのか?それは、手の内を「指の整え方」で理解しているからで
す。手の内の説明を見てみると、9割の弓道本が手の内の整え方は「指の整え方」を重視し
て教えます。
このため、多くの人は手の内=「指の整え方」と考えます。初心者が最初にとっかかりをつか
むのに教えるのは良いでしょう。しかし、人それぞれ指の長さ、大きさから何もかも違うので、
みんなが同じ指の整え方をしていたら合う合わないがでてきます。
例えば、ある流派では左拳を握るとき親指と中指の間は少し隙間を空けたほうが良いと教え
ています。あるいは、小指、薬指、中指の三つの指先はそろえた方が良いと説明します。
しかし、ある人は別に中指と親指の間はくっついてもよいと説明しています。このように指の
形や整え方流派や人によって説明の仕方が変わります。「手の内なんて教えられる法ではな
い」と言い切っている弓術の先生までいます。
整えたときの左手の状態から手の内を理解する
手の内で大切なのは「指の整え方」ではなく、「引き分けのときの左手の状態」です。これで考
えると、手の内の理解ができます。
何十冊と弓道の本を読んできて、手の内はいろんな例え話や例えるものがありました。それ
らの説明をまとめると、手の内で必要な左手の状態は以下のようになります。
指先に力を入っていないこと。
弓と手の接触面積を少ないこと。
真っ直ぐに押されていること。
この三つが引き分けで押しているときに必要な左手の状態です。手の内で指を整えて、押し
ているときに左手がこの状態になっていれば、問題ないです。
指先に力が入っていると離れたときの弓の復元力がじかにひびき、ねらい目に影響します。
弓と手の接触面積が少ないと弓の復元した力を殺すことなく、弓が返り、狙ったところに矢が
飛びます。この接触面積が大きいと弓が適切に返らないため、狙ったところ矢が飛びません。
真っ直ぐに押されていれば、矢は真っ直ぐに飛び、的に的中します。これが、上方向に押され
ていたり下方向におされていたりすると真っ直ぐに飛びません。
手の内の目的は「狙ったところに狙ったとおりにまっすぐ飛ばす」ことが目的です。この三つが
適うように手を整えれば手の内は完成されます。
指先に力が入らないように指先はふんわりにぎる
左手を整えるときはなるべく指先に力を入れないように軽く握る程度にしてください。
もしも、「三指をそろえないといけない」とか、中指と親指の間は空けないといけないとか言葉
に惑わされ、変に指先を曲げたり、力を入れてしまうと、引き分けで握りすぎてしまい、離れで
弓がぶれてしまいます。
軽く握って、5本の指が引き分けで押しているときに「必要以上に力まないこと」を意識してくだ
さい。もし、小指、薬指、中指が完全にそろっていなくても、ある程度指先がそろっていれば問
題ありません。
軽くにぎってなるべく中指、薬指の根元の部分に弓を当てない
次に、軽く握った拳を引き分けで、押し、弓の復元力を最大限に伝え、弓が素直に返るように
するため、弓と拳の接触する場所を決めます。
ポイントは二つあります。それは、人差し指と親指の間の部分はしっかり引き分けで当たるこ
と、もう一つは薬指と中指の根本が弓になるべく触れないようにします。
この部分を弓から離して、押すことができれば、弓返りは冴えた弓返りになり、狙ったところに
矢がしっかり飛ぶようになります。
天文筋に弓の左側木に当てる
自分の拳の手首から中指までとると、ちょうどその間にまっすぐ垂直に落ちた筋があります。
弓道ではこの筋を「天文筋」と呼びます(下図の黒線で囲った部分)。
引き分けのときに弓の左側木がこの天文筋に当たるようにします。この部分に弓の左側を当
てることで、押し方が安定します。
手の内の段階で弓の左側木に当ててもよいし、引き分けで押しているときに押し手が負けて
しまう人は、天文筋より少し小指側に離して弓を当てても構いません。拳が大きい人は天文
筋より少し手首側に寄せて整えても大丈夫です。
なぜ、天文筋に弓の右側木を当てるのか、それは、天文筋は掌の丁度真ん中に当たる部分
です。
引き分けのときに、左側木に拳の中心が当たると、小指の根本から3~5cm 程度離れた部
分が弓を押すときに使われます。この部位を弓道の世界では「掌根(しょうこん)」と呼ばれて
います。
掌根で押すと弓を押す動作で好都合に働きます。掌根に弓が当たると自然と小指が曲がりま
す。小指が曲がると小指側の腕の筋肉が働きます。これを解剖学の世界では「下筋」と呼ば
れます。
「下筋」が働くと、手首が曲がりにくい構造となります。すると、上押しで手首が下に曲がった
り、べた押しで手首が負けたりすることがありません。最も押し手が安定する「中押し」を実現
させることができます。
手の内で押すときはこの「中押し」が理想です。手の内を整え、引き分けで押しているとき、掌
根で押すようにすれば、キレイな手の内は完成されます
1.6 ちょっとしたことで変わる手の内上達のための工夫術
手の内の説明を見ると、「天文筋に弓を当てる」とか「三つの指」をそろえるとか、「指の整え
方」が詳しく書かれています。そのため、多くの人は説明にかかれた一つの指の整え方しか
学びません。
しかし、人の指や掌の大きさは異なります。一つの指の整え方だけ実行して、握りが合ってい
ない人は実力の向上につながりません。そのため、自分である程度指の位置を変える工夫を
する必要があります。
しかし、そんな難しいことはなくちょっと指の位置を変えると左手が押しやすくなります。その
結果、射技の向上につながります。ここでは、手の内を上達するための指の整え方を解説し
ていきます。
拇指と小指の間を近づけると弓返りがしやすくなる
手の内を整えるときに、小指と親指を寄せるように近づけてみましょう。すると、自然と拳が丸
くなります。これによって、弓返りがしやすくなります。手の内で弓返りがしにくい人や狙いが
アチコチ飛んでいる人はこの整え方をすると良い方向に向かいます。
この小指を親指に寄せるとき、注意していただきたいことは寄せすぎて他の指を握ってしまう
ことです。あくまで指先には力を入れないようにして、軽く握るようにしてください。
小指を寄せることを意識しすぎて、薬指、中指が握ってしまっている
人差し指を少し立てると弓を押しやすくなる
人差し指は手の内で弓にほとんど触れない指なのであまり重要視されない指ですが、人差し
指も遣い方次第で手の内をよく働かせることができます。
具体的には、人差し指を軽く曲げて、上に1センチ程度上げるようにしましょう。こうすると弓が
押しやすくなります。
理由は人差し指を上に上げると反動として親指のつけ根が下がります。この親指のつけ根が
下がると、掌の掌根部(小指の根本から3~5センチ下の掌の部位)で弓が押しやすくなりま
す。すると、手首が曲がりにくくなり、真っすぐ押しやすくなります。
人差し指は手の内、引き分け、会のときにピンと伸ばさないことです。一直線にピンとするの
ではなく、丸い球を持ったときのようなイメージでふんわり伸びてなく、曲がっていなく、ふんわ
り伸びているのが良いです。
人差し指が伸びると、弓を持っているとき、拇指の動きが制限されてしまいます。その結果、
親指が内竹の方に入りずらくなります
1.7 3種類の手の内の整え方と長所を理解する
これから手の内を勉強したい、手の内を今より少し変えて稽古をしたいと思っても何から始め
て良いのかわからない人はたくさんいます。
そういう人は代表的な手の内の整え方があるので、まず、そこから初めてみて、自分で合うも
のを探すのも手の内を上達させる一つの方法です。
指の整え方一つ変えるだけで、弓の押し方、弦の返りかたまで変わります。ここでは、流派に
よる代表的な手の内の指の整え方を紹介していきます。
現代弓道で最もよく使われる手の内
現代弓道で最もよく使われ、指導者も初心者に教えるときに、最初に教えられるのがこの手
の内です。やり方は天文筋に弓左側木に当て、三指(小指、薬指、中指)の爪先を揃える手
の内です。
この手の内の特徴は三指を揃えるため、弓の拳の間に少し空間ができます。これにより、初
心者でも比較的早い段階で「弓返り」を起こすことができます。
参段の昇段審査で合格する条件で「弓返り」ができることです。弓返りができているかどうか
は手の内が整っているか、できているかの基準となります。まず、何もわからない人はこの手
の内から初めて見ることをお勧めします。
・日置流の手の内「小指と親指を寄せる」
次に日置流の手の内の指の整え方です。特徴は「小指と親指の間をなるべく寄せる」ことで
す。これは斜面打ち起こし、で弓構えの段階で弓を押す態勢を作るため、有効な手の整え方
と言えます。
この手の内の特徴は小指と親指を寄せることで、拳全体が丸くなって弓と手との接触面積が
小さくなることです。実際にやるとわかりますが、弓と手が当たっているところは小指、親指の
根元だけで、他の部位はほとんど当たりません
そのため、弓返りが勢いよく、冴えた弓返りができます。弓と手の接触面積が減ることで、弓
がかえるときの余計な手との摩擦が少なくなるからです。
・本多流手の内「中指と親指で一つの輪っかを作る」
他に本多流の手の内で、中指と親指で一つの輪っかを作るように指を整える手の内です。三
指の爪揃えをあまり気にせず、中指と親指で輪っかを作るようにします。
この手の内の特徴は中押しを意識しやすいことです。
中指は腕、手首を真っすぐ伸ばすとちょうど腕の真ん中を通っています。腕の真ん中で押すイ
メージで押すと自然と弓にかかる圧力が上下に片寄らず、中押しの形になります。
この腕の真ん中で押すことの延長が中指で押すことになります。中指と親指で作った輪っか
を意識し、それを崩さず、押していけば、自然と中押しの形になります。
どの手の内にも長所、短所がある
いろんな手の内の整え方を紹介しましたが、その手の内にはそれぞれの長所を持っていま
す。ただし、どの手の内も良い部分もあるし、悪い部分があります。
爪先をそろえれば、返って指先に力が入ってしまうし、小指と親指を寄せると、小指の根元に
弓が強く辺りすぎて、たこができてしまったり、中指で輪っかを作って押しても、親指の根っこ
が硬くなりすぎてしまったり……といったように悪い部分はそれぞれ出ます。
私はここで紹介した手の内の全てを稽古で実践しました。そこで言える結論は手の内はその
ときそのときで合うものを選んで納得のいくまで稽古することが大切です。
変に「この手の内が良い」と決めつけてしまっては、その手の内の指の形にとらわれ、射形に
影響してしまうこともあります。自分の射は時間がたてば変わっていくものなので、そのときで
自分が興味を持ったものを試してみれば、良いでしょう
1.8 紅葉重ねの手の内から、押手の技術をさらに向上させる
手の内の説明有名なものが二つあります。一つは小指、薬指、中指の爪先をそろえ、弓の右
側木を天文筋に当てる「十文字の手の内」と日置流の射法にある「紅葉重ね」の手の内があ
ります。
紅葉重ねの手の内を理解すれば、押手の内容の理解がさらに深まり、押手の技術を向上に
つながります。ここでは、あまり弓道本の説明では詳しく説明されていない「紅葉重ねの手の
内」を説明します。
紅葉重ねの手の内は斜面で有効な手の内
紅葉重ねの手の内は「斜面打ち起こし」という、弓構えで左拳を少しななめ前方向に押してい
る形からスタートします。以下に紅葉重ねの手の内の説明です。
点線を持って示した①虎口(とらぐち)の中心を弓の握り部の前竹の右七分、左三分の辺に、
握ろうとする部分よりわずか下に当てます。そして、点線部の皮をめくりこむようにかつ弓に
巻きつけるようにして、しっかり弓に押しつけます。
次に②の天文筋という筋を弓の外竹の左側に当てます。この状態で少しも緩めることなく、小
指、薬指、中指の順になるべく拇指に近づけて握ります。中指が入りにくい場合は親指を上
げずに、薬指との間に押し込むようにします。
この握り終えた形を「紅葉重ね」の手の内と言います。
紅葉重ねの手の内の正面打ち起こしでの応用
しかし、この紅葉重ねの手の内は斜面打ち起こしでの説明なので、正面内打ち起こしに応用
するためには、少し弓を当てる場所を工夫する必要があります。弓と接触する場所を変えるこ
とで、紅葉重ねの手の内がしやすくなります。
具体的には左手の天文筋に弓の左側木に当てるのではなく、小指の付け根に弓の左側木に
当てます。
ここに当てると紅葉重ねの手の内と同じ感触で弓を押すことができます。この小指の付け根
に弓を当てて、打ち起こしします。
そして、大三、引き分けを取るときに、中指以下の三指を動かさず、拇指だけを滑らすように
押していきます。
弓を当てる場所を小指側にすると、弓と親指根の間に少し隙間ができます。これにより、打ち
起こし→大三に移るとき、拇指根を弓の右側木に入れやすくなります。
こうなると大三で弓を押すというより、親指で左手を覆いかぶさるような形になります。これが
紅葉重ねの手の内の正面打ち起こしの応用型です。
このときに、引き分けで押していくときに親指をさらにいれていくと小指が閉まる感じがありま
す。この小指の締まりが拇指根の押しを助長し、押しがより効きます。
以上ポイントをまとめると、弓の左側木を小指の付け根に当て、打ち起こし→引き分けに移る
とき、中指以下の三指を動かさず親指で弓の右側木をおおいかぶさるように押す。これによ
り、紅葉重ねの手の内が完成します。
正面打ち起こしの紅葉重ねの手の内で気をつけたいことは「上押しを効かせすぎない」ことで
す。親指で押しやすい、小指で締めやすい、これらが合わさって、押すときに上押しを効かせ
すぎる手の内になっています。
昔、この手の内は掌が小さい人でも上押し効かすよう矯正するために使われていました。す
でに手の内に問題ない人がこれを行うと、上押しが効きすぎて矢が下に行く可能性がありま
す。そのため、いろいろ模索して、自分にあった手の内を見つける一つの手段としてとらえま
しょう。
このように、紅葉重ねの手の内を理解することで、押手の押し方の理解が深まって射技の向
上につながります。
1.9 円相における「肩」「肘」「拳」の位置を理解し、引き分けにスムーズに
つなげる
身体と両腕と弓で囲まれた空間を「弓懐」といいます。
多くの人の射を見てみると、あまり弓構えを重要視していません。そのため、「弓懐」が崩れて
いたり、適した形ができていなかったりします。弓懐での構えが崩れてしまうと、打ち起こしの
ときに拳や肩が力みやすくなります。その結果、「大三」「引き分け」に悪い影響を与えます。
そのため、弓懐を取るときに、何も考えずに取るのではなく、最低限「肩」「肘」「拳」の位置を
だいたい把握しておく必要があります。これを理解することで、三箇所のずれとそれによる姿
勢の影響を理解することができます。
ここでは、弓懐を取るときの適切な「肩」「肘」「拳」の位置を理解し、その場所からずれること
によって起こる弊害について解説していきます。
弓懐を取るときの肩肘拳の位置
弓懐を取るときの肩肘拳の適切な位置は以下のようになります。
拳:弓に対して45度方向に人差し指と親指の間に入れる。
肘:肘裏側を外に張り出すようにして痩せ型の人は少し近めに太っている人は遠目にする
肩:一直線ではなく、少しななめ前に出すようにして前に出す。
手首が極端に曲がると引き分けで両肩が左右対称につりあわない
身体から腕までは円になっているが、手首だけ極端に曲がっていたりすると、打ち起こし以
降、手首に力が入る射になってしまいます。例えば、下の写真は手の内の形を決めすぎて、
左拳だけが曲がっています。
左手首が曲がって円相が崩れている
この弓懐で打ち起こすと、大三のときの左拳は動かしやすくなりますが、左肘が伸びやすくな
ります。すると、左腕が伸びてしまい、両肩の位置が上下にずれやすくなります。その結果、
押手が引き分けで突っ張りやすくなります。
手の内の形ここで決める必要はどこにもありません。弓構えのときに左拳の人差し指と親指
の間を弓に対して真っ直ぐ入れるのではなく、45度の角度に入れるようにしましょう。すると、
大三で両肩がずれにくく、引き分けをスムーズに行うことができます。
肘が張っていなく、拳が前に出ると上体が屈みやすくなる
下の図は弓懐が丸ではなく、楕円になってしまった構えをしています。
両拳が体の前に来ていて、楕円になっている
この構えで動作を行うと、身体と拳の距離が遠くなり、背中は丸くなりやすくなります。すると、
みぞおちが屈しまい、胴づくりが崩れてしまいます。その結果、引き分け以降、胸を割った大
きな引き分けをすることができなくなります。
「肩」「肘」「拳」どこにも力が凝らないこと
弓懐をとるときに、円を意識しすぎて、手首や腕にやけに力が入りすぎてしまう人がいます。
力が入ると、手首が曲がりすぎてしまったり肘が外側に張れなくなったりします。
この場合は一度胴造りを整えましょう。首の後ろを伸ばして肩を楽に降ろしましょう。すると、
肩の下にある脇周りの筋肉が固くなります。脇周りの筋肉を外側に張るように腕を前に出しま
しょう。
すると、自分で意識しなくても自然と円形になります。弓懐で円の空間を作るときは拳と肘で
はなく、肩と肘を使ってつくるようにしましょう。拳に力を入れなくても自然と円形になり、よけ
いな意識を取り除くことができます。
このように弓懐の適切な位置を理解することで、次の動作で起こる悪い弊害を防ぐことができ
ます。射型の向上につながり、実力を上げることができます。
1.10 射において「物見」を入れる本当の意味
弓構えの動作の中には「物見」が含まれています。形の上では物見は目線を的方向に向ける
動作です。
多くの人は物見を入れる理由は「狙いを定めるため」と考えます。
しかし、物見は射においては解剖学的にも理にかなった重要な意味を持っています。これを
理解することで、押手の働きを強めたり引き分けの収まりをよくできたりします。ここでは、物
見を入れる解剖学的理由について解説していきます。
物見を入れると左腕が伸びやすくなる
物見とは首を向ける動作です。目だけを見れば、目は確かに的の方向に向いていますが、大
切なことは首の筋肉が動くことです。
人間は首を向けた方の腕が伸ばしやすく、逆側の腕が曲げやすくなるという解剖学の理屈が
あります。首を的方向にしっかり向けると、左腕がさらに押しやすくなり、右腕を曲げやすく(=
引きやすくなる)体の構造になります。
この事実により、引き分けのときに、的方向に首を向けると、さらにもう1,2センチ押手が伸
びます。首を的方向にしっかり向けると左拳をさらに前方に押しやすくできるのです。
小笠原流では物見をするとき、アゴが左肩関節のへこみが生ずるところにくるまで向けると
説明します。首をここまで向けると、首を的に向けた方が弓を引く動作に良い効果をもたらし
ます。
私が射を鏡で見ない理由
弓道場に行くと、射位の真正面に鏡がおいてあり、自分の射形がずれているか自分の目で確
認できるようになります。
しかし、私は稽古をしていて自分の射を鏡でチェックをしません。 理由はそこで戻すと左腕が
押しやすくなくなり、弓の反発力に負ける可能性が上がるからです。
実際やってみるとわかりますが、顔を向いていないときと的に向けているときでは、両拳の位
置や射型を整えやすいのは顔を向けていないときです。しかし、そこから顔を向けて引き分け
で押す動作に入ると左肩に詰まりを感じます。
これで、的に顔を向けたまま引き分けの動作を行うと、左腕の押す運動のときに肩に負担を
感じません。さらに、右肘が後方に収まりやすいのを感じます。
もしも、自分の射形が気になるのであれば、周りの人に見てもらえばよいのです。自分で鏡で
射を見ていたら、打ち起こしのときに両腕が自由に動きすぎて、形はキレイな形に修正できて
も、後で崩れてしまう可能性があります。
このように、物見を入れることは両腕の働きに関わる重要な動作です。これを理解し、稽古に
取り入れることで、今よりも押し手や右肘の収まりを良くすることができます。
第二章 弓構えの内容をさらに深く理解する
3.1 取り懸けでの親指の使い方と心構えを理解する
小笠原流射法では取り懸けを「会」と言われています。会は今日では十分矢を引き取ったとこ
ろを指して言いますが、「保(たもち)」と言われています。
乙矢を右手にとり、息をはかって弓構えの動作を移ります。弓を本弭にあて、弦と弦の中間が
ほぼ自分の体の正中に当たるようにし
、会にうつります。
ここで、小笠原流の射法で会は「親指と弦の関係」、「親指にかける指の数」、「親指にかける
指の心」、「全体の心得」の四段階に分けて説明されます。
親指と弦の関係
親指と弦の関係は「深会」と「浅会」があります。「浅会」とは、親指の節より先、すなわち爪の
ある部分の腹を弦に当てることで非常に放れが軽く出せる方法です。
浅会には弊害があり、ちょん弽で遊びに弱弓を射るというような場合のほかには適当ではあ
りません。
「深会」とは、親指の節より元へよせてかけます。このうちでもやや深く、やや浅くと本人の好
みがあります。
親指にかける指の数
親指にかける指の数は小笠原流では人差し指と中指の二本をかけるのを一般としています。
「一指掛」は人差し指だけで親指を添える方法で、離れに凝りがでたときや遊びのときに用い
ます。しかし、初心のときに用いる方法ではありません。
「三指掛」は四つ懸けのことで、強弓を引くときは有利です。弱い弓で四つ弽を使うと離れの
軽妙に害することがあります。
「弦からみ」とは人差し指と中指の間に弦をしかと絡んで引く方法です。これは親指を痛めた
ときの方法です。
「恵休善力」は人差し指を伸ばして中指だけで親指を押さえる方法で、人差し指で矢を押して
箆しないを出すクセの人、弓を伏せて射る場合、矢を落とさぬ用心で用います。
一応記しておきましたが、これらの特別な方法は戦場でやむなきときに用いるものであり、平
生のときはあまり行ってはいけません。
親指をかけた指の心持
「まといがけ」と「おさえがけ」の二つがあります。「まといがけ」は人差し指と中指で親指をしっ
かり押さえる方法で、右手で弦をささえる方法としては堅実で良いですが、離れのときに凝り
が出やすいです。
よって、親指を屈めて弦を支え、その上に二指をまとって親指をおさえるのは一般の形です
が、離れのときに左手に離れの動きが起こっても右手はこれに応ずる何物もないので軽い離
れは出にくいです。
右手が弦をとるときに、ただ弦を支えるということにのみ心を用いて次の離れに対する準備を
欠いていると、軽い離れは出にくいです。
このためには、弽の帽子の中で親指を起こしていくことが大切です。つまり、二指で押さえる
力と、親指のはねる力のつりあいで軽い離れを出すのです。
「おさえ掛け」はさらにこれを軽妙にするものです。これは人差し指と中指を少しも曲げずに親
指の頭を支える方法です。これはとても難しい方法で弽の作りにも工夫を凝らす必要があり
ます。
初心者には難しいので、「二指掛け」の方法が適していて、中指、人差し指が離れ離れになら
ないように取り懸けると良いでしょう。
全体の心得
「会の重」という伝では「おもく学びて功をつみかさねたる儀也」と書かれており、これは、会の
ときの重要な点を説明しています。
会は弦を支えること、離れに当たって軽妙な離れを出すこと。この二点が重要であるので、研
究するときはこの二点を改良する目的にむかって研究するのが大切です。
3.2 物見での適切な「アゴ」「両目」「鼻筋」の位置を理解する
弓構え、取り懸けを終えたら、次に物見の動作に移ります。ここでは、物見では注意すべき三
つの点について解説していきます。
4種類の物見
小笠原流では物見でのアゴの向け方を4パターンに分けて、この向け方を嫌います。胴づくり
と似たような考えです。
「てる」・・・アゴが上に向いていること
「うつむく」・・・アゴが下を向くこと。これは下の物を狙いときに適する。
「のく」・・アゴが的より左に傾いている。
「かかる」・・・アゴが的より右に傾いている。
頚筋のことはまっすぐにするべきで、ようするに、前から見ても横から見ても、首が真っ直ぐに
なっていることが大切で、そのまま左に回せば良いということです。
物見は「おとがい」と「両目」と「鼻筋」を気にする
物見では「おとがい」「両目」「鼻筋」を気にして、行います。おとがいとはアゴのことで、これを
左肩の上に置くようにすることです。
おとがい(アゴ)・・・左肩の上に乗せる
両目・・・・弓に対して左右であること
鼻筋・・・弓と合わせる
引き分けたときに、鼻筋を弓に重ね、両目が弓の左右にあるようにし、アゴが左肩にのってい
るように顔を置きます。この三つがそろえば、物見の位置は適した位置になります。
小笠腹流歩射の中に、「両目の事」という条があります。これは「顔をらくにもって息をそろえ
て、弓をはなすじにあてて、弓の両よりあてものを見る儀也」と書かれております。
古来の射法では、このおとがいを左肩のくぼみの部分の置くようにと説明しています。
物見は人によっていろんなクセがあり、よくあるのが、「アゴが引けていない」、「アゴが的に向
ききっていない」の二つになります。これは、この三つの基準をおろそかにしている証拠です。
他に「のく」癖は、初心のときに弦で顔を払って起きることがあります。
的への目の向け方
目遣いについて注意すべきことは、瞳を定めることです。一度的を見たら、途中で眼をそらさ
ないようにします。
小笠原流の射法書の中にある「目付の事」「二目遣いの事」の項で、「一向初心の時、必ず見
べきところは一つも見ずして余所目を使う物也」「最初、その身の前一間ほど先を見て、」と書
かれています。一度目をつけたら、そこから目をそらさず、その方向にひたすら弓を押し続け
ていきます。
2.3 懸け口十文字を理解する
胴づくりを少しも崩すことなく、取り懸け、手の内、物見の動作を終えて、弓を構え、打ち起こし
の準備が終わった形を弓構えと言います。
日置流では、取り懸けで「懸け口十文字」を重視しています。ここではこの二つの内容を説明
していきます。
懸け口十文字
矢の15センチくらい下の弦に、帽子の腹をあてて帽子をわずかにかがめます。次に、帽子の
頭に中指を掛けて押さえ、人差し指を中指に添えます。
そのまま、弦を摺り上げて矢と帽子の間が箆(の、矢の竹)一本くらいのところで止め、肘先か
ら手首まで帽子の中心の軸として内側へ軽くひねります。
このときひねるときは、手首の関節だけひねるのではなく、小指側の腕の筋肉(これを下筋と
いう)を伸ばすようにすると、うまくいきます。
そうすると、懸け口と弦の間で十文字の形となり、このとき手首が曲がらない形となります。こ
の形を懸け口十文字と言われます。
2.4 生理的に負担の少ない頭持(ずもち)を理解する
的を射る時の顔の向け方を物見といい日置流では「頭持ち」といわれています。この動作が
完了すると弓構えが完了します。狙い目を正確につけるための頭持の仕方について解説して
いきます。
何気なく振りむく向け方が理想である
狙いに非常に関係が深く、物見に関する教歌もありますが、この中に顔の向け方の理想形が
あります。
それは、だれかに呼ばれて何気なく振り向くように頭を向けることです。
これは、呼ばれたときの顔の向け方はいつも同じで、仰向きすぎず伏せすぎず、向け方に過
不足がないからです。
頭持ちは「目頭目尻の準」を理解する
的に正しく向けるとか、アゴが肩に乗るごとくにせよという説がありますが、日置流では的の
方に振り向いたときの基準は「眼」を基準とします。
これを「眼尻眼頭(めじりめがしら)の準」といいます。やり方は右眼は眼頭に、左眼は眼尻に
瞳があるように的を見込むようにします。
これは、だいたい鼻に近い方の目の位置が鎖骨のくぼみ程度に落ち着く位置です。首の筋肉
が張らずに、かつ顔を向けやすいことがわかります。
なぜ、眼に置くかというと、あごが肩に乗せるように顔を向けるのは生理的に難しいからで
す。他に、狙い目、弓手の動きに支障が出るなどの理由があります。
日置流の「四つの弓構え」
古来弓構えには、右段、中段、左段、単の身(ひとえのみ)の四つがありました。
単の身の弓構えは印西先生考案によるものと伝えられ、戦場にいて飛来する矢を防ぐのに
弓を利用した構えです。これらの違いは弓の伏せ方にあります。自分の体より前にあると「右
段」、後ろにあると「左段」、その中間が「中段」、自分の体の前に伏せる感じが「単の身」の弓
構えとなります。
なぜ、日置流では、胴づくりのときに、首を伸ばすとか、心気を丹田に収めるとかそういった話
が少なく、袴の板が腰に当たっていれば良いというだけなのでしょうか?
それは、弓構えが四つあることと通じます。
弓構えが四つあるのは、日置流においては「狙い、的」は固定されていないものと考えていま
す。固定する四つの的ではなくて、変化する相手に対して、弓構えの形を変えるということで
す。
なので、的が変化するということは、胴づくりも変わってしまいます。狙いが変われば、いちい
ちそのときの首の位置や肩の位置、心の起き方を考えていては、また狙いが変わったとき
に、修正しないといけなくなります。
よって、袴腰の準が適応されていることがわかります。
他流のように会のときに無念とか、無想といって、心の統一を説明しますが、日置流では、弓
構えの段階で心を済ませることを完了させます。
なぜなら、多く昔の殺人弓時代にはこの必要性があったからです。日置流の弓構えの教え
で、弓を伏せること、雑念を払うことを教えています。弓構えの段階で心構えはすでに押し引
き、弓を引くことに誠意を尽くします。
2.5 半念半弱、恵休善力より、引き分けでの合理的に肘を収めるには
弓構えをした弓を手前正面に引き取り、番えた矢筈のところを正面にして弽を結び、手の内を
整え、弓懐を作ります。
そして、打ち起こし以後、五分の詰めや自然な離れといったスムーズに射を行なわなければ
いけません。そのため、取り懸けでの右拳、右指の働きを理解する必要があります。
尾州竹林では「受懸」「載筈」「半捻半弱」と「恵休善力」という説明があります。この二つを理
解すると、引き分けでの肘の理にかなった納め方、さらに自然の離れを誘う、どこにもひっか
かりのない離れを理解することができます。
二種類の取り懸け方法
取り懸けには「受懸」と「載筈」の二つの方法があります。
受懸は筈の下七センチ~十センチの辺で拇指の腹を弦に一文字に懸け、帽子の上部に弦が
軽く振れる程度のところまですりあげて弽を結ぶ方法です。イメージは日置流の取り懸けの
「懸け口十文字」の説明と同じものです。
受懸の利点は五重十文字の一つで教えられる「懸と弦との十文字」の法にかなうことです。さ
らに、筈に少しも支障なく矢を素直に発することができることです。
載筈とは人差し指の横腹と弦で筈を押さえる弽の結び方です。これは筈に支障が生じやすく
矢を発した場合、矢色がつくので、この方法は用いません。
取り懸けを行う際、右肘は自然に折り曲げ、肘先が下がらないように、かつ張りすぎないよう
にします。手首も故意に曲げすぎないようにします。
引き分けでは右拳を少し捻り、後半で少しゆるめる「半捻半弱」
取り懸けで弦をひねる教えがあります。
やり方としては取り懸けした拳の力を抜いて、右肘を基幹として二の腕全体を少し内側に捻る
ようにします。拳だけひねるとひねりすぎになってしまい、矢を正直に離すことができません。
このひねりは各人の腕の骨格によって、度合が変わり、受け腕の人は少々ひねりを強くし、曲
陸腕の人はひねり不足が良いとされます。
そして、引き分けで少しひねられた状態で引き分け、引き分けの途中まで(射の現在身)の半
分のところまでは弦をひねり、後半分はそのひねりを弱めるように引いていきます。
このように、弓構えで少しひねった右腕全体が引き分けで少しひねりが戻るのを「半捻半弱
(はんねんはんじゃく)」と言います。
射の前半で少しひねった状態で進める理由は弦をひねる心持によって右肩が抜けにくくなる
ためです。これにより、肘と肩の関係を正常に保ち、正直な五分の詰めを得ることができま
す。
そして、後半でそのひねりを弱める理由は自然的な離れを得るためです。矢を正直に出すた
めに、ひねる意識をすてます。
引き分けで、肘を納めるために「ちょっとひねって」後半では離れのときにそのひねりが邪魔
になるのでその「ひねりをとる」ことを行います。
これにより、肘の納め、どこにもひっかかりのない離れにつなげることができます。
右手の指の働き「恵、休、善、力」
取り懸けをしてから、射の進行における右手の指の働きについて、「恵、休、善、力」という教
えがあります。
この四文字の漢字は指の事を指しています。恵は親指、休は人差し指、善は中指、力は小指
を表します。
そして、それぞれの指の力の働きは
恵(親指)→指に力を入れず、いつでも惜しみなく恵む心で離れる用意をする
休(人差し指)→帽子を押さえないよう、また、故意に伸ばさないように、自然の形で中指に
添える
善(中指)→結んだ弽が弦に引かれても解けない程度の力で支え、拇指の頭を善きほどに
結ぶ心で取り懸ける
力(薬指、小指)→ほどよく力を入れて握るこの二指が適度に握り締まれば、肘も適度に締
まります。
小笠原流の取り懸けの説明では、中指は人差し指に添えることで、親指を握りしめない程度
に抑えると説明しています。
日置流の取り懸けの説明で「小指を締める」という説明があります。これは小指を締めること
により、弓と拳がより締まることを利用した親指根(角見)の押しの助長と上押しを効かせて離
すためです。
尾州竹林でも同じく、親指と中指のように弦にかかる指は軽めに握り、小指、薬指は握ったほ
うが良いと説明しています。
これは、親指、中指を握ることで、自然な離れを出すため、小指、中指を握ることで、肘を生か
し、引き分けでの肘と肩の納まりをよくするためです。
2.6 尾州竹林の5種類の手の内と指の整え方
尾州竹林射法には、5つの手の内が説明されております。それぞれの指の整え方を実践する
ことで、射における手の内の技術は向上します。ここでは、5種類の手の内とその指の整え方
を解説していきます。
5つの手の内の指の整え方
魚住範士の尾州竹林射法によると、手の内の説明には五つの手の内があります。五つの内
容は「鵜の首」、「鸞中」、「三毒剛し(さんどくつよし)」、「骨法陸」、「呼立」です。
ここでは、魚住先生によるそれぞれの手の内の指の締め方、使い方を説明します。
鵜の首
親指を反らせ、人差し指の根を開くとともに、小指、薬指、中指を順次締める手の内です。こう
すると、ちょうど親指の根が鵜が魚を飲んで浮き上がった形となります。小指、薬、指、中指を
締めることで、鵜匠が鵜の咽を締めて魚を吐き出させる形になります。
鵜の首の他に「上下開閉」という口伝があり、これも同じで、拇指と人差し指(上)を開き、小
指、薬指と中指は締めて(下)閉じるようにします。これは陽の手の内とも呼ばれています。
鸞中
左手で卵を握るように柔らかく握る手の内です。この手の内で引き分けて矢を発するときに少
し握って手の内に剛みを加えることによって、剛い矢を射出すことができます。これを陰の手
の内と言います。
三毒剛し
三毒とは、三つの煩悩を指します。貪欲(どんよく)、瞋恚(しんい)、愚痴(ぐち)の三つです
貪欲とはむさぼりとる欲をいい、瞋恚(しんい)とは自分の思いを逆らうものを念怒する心であ
り、愚痴とは効のないことをくどくどということです。
そして三毒剛しは左手小指をむさぼるほどに締める。薬指、中指を怒ってもしめるようにし、
拇指を他念なく、ぐちぐちと剛弱所を強く押しかけよという意味です。
骨法陸
総体に十文字の規矩を背いてはならないが、ことに弓の働きは手の内のいかんによって影響
するところが大であるから、手の内の陸(十文字)であるとの意味です。
呼立
幼児が物にとりついて立つときに無意識にとまるのと同様に、夢想無念に、ただなんとなくき
わめて自然にとる手の内で、強すぎず、弱からず中庸の手の内です。
三毒剛しの手の内はすべての指を締める方向に指を働かせますが、なるべく弓を伏せるよう
にして、行うと、すべての指が締まるように手の内を働かせることができます。呼立に関して
は、多年の修行によって可能になるものと書かれています。
左手の指の作用と手の内の関係
魚住範士の尾州竹林射法の説明より、手の内の指の働きについて一般的に定、恵、善、神、
力の扱い方をまとめます。
定む指ー拇指(動かさない)
恵む指ー人差し指(ほんの少し締める)
善とする指ー中指(ほんの少し締める)
神(たましいとする指)ー薬指
力を入れる指ー小指(意識的にしっかり締める)
となります。そして、上記にある手の内の種類により、指の使い方は変わります。
鵜の首の手の内の場合は小指を定とし、中の二指を恵としめ、拇指と善きほどにしめるように
します。
鸞中の手の内は拇指を定め、中の二指を神とタマシイを入れて卵を握りつぶさぬように程度
にしめ、小指は卵を落とさぬようにしっかり締めます。
尾州竹林の手の内は指の締める説明があります。これは、小指、親指を締めることにより、左
拳全体の骨格が押しに適した形になることがわかります。
弓を押す、「角見を効かせて押す」このことを意識して左拳を押すと、左拳は上押しになりすぎ
たり、前に入りすぎた手の内になりがちです。尾州竹林の手の内の基本、骨格となるものは
「中四角中央の手の内」です。
中四角中央の手の内の大切なことは、人差し指、親指の間が弓の内竹に入っていること、三
指を締めて、隙間をなくすことです。この状態に持っていくためには、人差し指は力を入れず、
拇指は定め、三指を小指を意識的に締めていきます。
尾州竹林の手の内は人差し指、拇指の使い方、三指の締めることで「中四角中央の手の内」
になるように指の使い方が解説されています。
以上のように、5種類の手の内を理解し、手の内の技術を向上させることができます。
2.7 弓構えで左右の力をつりあわせるべき体の部位を理解する
現在の弓道界では「円相」「弓懐」を作ることは当たり前のようにされています。ただ、射法の
中で、弓構えの動作で円相を重んじた流派は尾州竹林です。尾州竹林では重要な教儀とさ
れています。
ここでは、弓構えで左右の力をつりあわせるべきポイントについて解説していきます。
弓構えで左右の力をつりあわせるべきポイント
両肘の形はおおむね円形にする上体を力まないようにして両肩はやや押し下げる気持ちにし
て、丸いものを抱くような恰好にします。尾州竹林の弓構えはこの後、斜面打ち起こしの準備
を整えます。弓を左斜めに送るようにします。
尾州竹林は斜面打ち起こしです。弓を左斜めに送り、「弓懐」を作ります。そして、以下の四箇
所が左右に力がつりあい、安定します。
左拇指根と右肘の力のかかり具合
左腕と右腕の関節の曲がり具合
左肩、右肩
首(物見)
これら4か所が斜面打ち起こしを行ったときに崩れてしまう箇所です。これが崩れてしまうと、
前述の足踏み、胴づくりが弓構えで崩れてしまいます。
そのため、弓懐を作るときに両腕の力が凝らないように力をつりあわせることを心がけます。
最初に弓懐を作り、手の拇指根と右手の肘でつりあわせるようにします。左手の拇指根は中
指に重ねたまま弓のない竹の外角になれつき、ほかの三指も自然に柔らかく締まります。
さらに、右腕、左腕の状態は左腕は彎曲したままで、右拳が左腰の前面に来る程度にしま
す。このとき注意するべきことは左肩が引き退き、右肩が的に向かって後方に向かいやすい
ので、そのような形にならないように注意します。
この両腕、両肩の関係を保ったまま、物見の動作を行います。物見を定めるんは、早からず、
遅からず自然な動作とし、その形は鼻の位置に右の耳を置き換えるのが良いです。
すなわち首筋を正直にして真左を向きます。これは各人の骨格によって、このようにできない
人もいますが、物見の影響はのちの引き分けにも影響されます。
物見の不正と矢乗りを理解する
物見の不正には物見が「向きが不十分」「照る」「顔が弓の中に入る」「仰ぐ」「伏す」の4種類
あります。物見の不正はねらい目のズレと関係してくるので、正直に向ける必要があります。
向きが不十分→矢乗りが的の前になる
照る→矢乗りが的の後ろになる
顔が弓に入る→矢乗りが的の後ろとなる
仰ぐ→矢乗りは上になる
伏す→矢乗りは下になる
その他弓懐においての口伝
鳥兎の梯(うとのかけはし)
左拳を鳥にたとえて(あるいは日にたとえて陽とする)、右拳を兎にたとえて(あるいは月にたと
えて陰とする)、左右両拳の和合を直の梯とみなし、左右の直であることを懸け合いといいま
す。
矢筈上下
矢の番え方は弓と矢が十文字になるように番えるのが最良という伝え。これは五重十文字の
一つに教えられています。
以上により、弓構えで左右に力がつりあい、骨格にずれのない射形を身につけることができ
ます。
2.8 弓構えで適切な「取り懸け」「手の内」「物見」を取るためには
足踏み、胴づくりは弓を射るための体構えであって、弓構えは弓を引くための準備動作です。
ここでは、適切な弓構えを取るために必要な取り懸け、手の内、物見のポイントについてまと
めていきます。
弓構えの規定
その弓構えの規定は二つあります。
1、弓を左の内膝節に縦、左右の拳をそろえ、体の正面にてなすこと
2、打ち起こしの前に顔を的に向けること
1の「左の内膝節」とあるのは、胴づくりのところで説明したとおり、膝頭の辺のことです。「体
の正面にてなすこと」とは取り懸け、手の内の動作があるので、体の正面で二つの拳を相対
してそろえるためです。
取り懸けと手の内
弓構えで弓を正面にして、顔が弓と張り弦の間に相対するようにします。このとき、右手の甲
を上にして、拇指を下にして、三指で、乙矢を少し抜き出します。
次に掌を上に反して、射付け節の辺をつまみ、左手から乙矢をはずして、その板付を袴の左
二番目のひだのところへ支え、筈を床面に立てます。乙矢は射付け節のところを、右手の小
指にはさんで持ってもよく、これを「取り矢」と言います。
取り懸けは矢の筈下のところで、ゆがけの弦枕を弦にあて、十文字(直角)にあて、ゆがけの
拇指頭に薬指の末関節(四つがけ)の辺りをかけて、軽く押さえ、中指、人差し指はそろえて
薬指に添えて、小指は軽く曲げます。
手の内は弓の握皮と矢摺藤(やずりとう)との境目に矢をあて、弓の外竹の内角を左親指、一
指し指の間に当てて、左中指を拇指に重ねるようにして軽く弓を握ります。
小指、薬指は自然の状態で曲げて中指に揃えます。それぞれの指の間に隙間ができないよ
うに弓を握ります。これを「手の内を整える」と言います。
取り懸け、手の内が整ったら、両肩をぐっと落として左右の腕を、屈げず、張らず、緩やかに
すんなりと伸ばして楕円形になるようにします。あたかも丸いものを抱いたようにして、これを
弓懐と言います。
完了したら、物見を行う
取り懸け、手の内、弓懐が整ったら、顔を的方向に向けて物見を定めます。以上全ての動作
が終わり、ゆったりした気持ちでいわゆる澄ましに入ったところが弓構えの完了した形です。
吾味ではこれを「目付」と言います。
この足踏み~弓構えまでの動作を「過去身」と言います。この過去身の間に動きとバランスで
問題や不安定があるとそれが力を均衡を失う原因となるので、この過去身は心して定めない
といけません。
2.9 弓構えを整えるに大切な二つの心得
取り懸け、手の内が完了したら自分の前に両腕で囲まれた丸い空間が形成されます。これを
「弓懐」といいます。
この弓懐を整えるとき、その人の骨格によって、弓懐が変わる場合があります。射の向上を
目指すためには、弓懐を取るときの本質的な意味をとらえる必要があります。
左右の手首、腕、肘は伸ばしすぎず、縮みすぎないようにする
人によって骨格が違うため、弓構えの形が左右の手首、左右の腕臂(うでひじ)、延す、縮ま
ず緩やかに構えるようにします。これは弓構えを取るときに、両腕、胴体に変な力の凝りをな
くすためです。
弓構えの説明で「寝々小法師」と言う教えがあります。これは弓構えの心もちが寝ている赤子
を抱くような気持ちにすることを言います。
赤ちゃんを抱くときに力を入れすぎると、赤ちゃんを締めすぎてしまい、目を覚まし、泣かせて
しまいます。かといって力を抜きすぎると、大切な赤ちゃんを取り落してしまいます。
この間の微妙な均衡を言っていて、弓の懐を寛げ、力の凝りがないようにすることを「寝々小
法師」と呼んでいます。
体格によって、弓懐の形が変わる
弓構えの形は人々の骨格によって、少々差が出てきます。それは人の骨格によって、どのよ
うな肘、拳の位置が腕に対する意識が豊かにのびやかになるか違うからです。
体の中を凝りのない状態にするために、弓構えの弓懐を自分の体格を考慮し、肘や拳の位
置を変える必要があります。
例えば、やせ形で反り身の人はなるべく体に引き寄せて弓を抱え込み、両肘を張るようにしま
す。
なぜなら、反り身の人は常に背骨の筋肉が張った状態になりがちです。この状態で弓懐をも
し、円形にとると、普通の姿勢の人に比べて胸周りの緊張度が高まり、反り身の状態を直す
ことができず、背中の筋肉が張ったまま射を行うことになります。
ここで少し体を寄せ気味にすると、両腕が楽になります。これによって胸周りの自由度がま
し、反った姿勢を少し矯正する役割があります。これにより、腕が楽になって、弓構えの段階
での胴づくりの反りを首を伸ばし、両肩を落としやすくなります。
これと反対に太っていて屈む身になっている人は腕を少し突き出すようにします。つまり、弓と
体の距離を少し離します。
なぜなら、屈んでいる人が弓と体とを近くとると、逆に腕裏側、脇周りの筋肉が縮んでしまい、
胸周りがのびやかにならないからです。
そのため、こういった場合は程度な腕の裏側、脇周りの張りを出すために少し腕を伸ばすよう
にします。太って、屈み気味の人はこの方が張りが出て、打ち起こしが左右ともに前に上がり
ます。
このように、人によって体に合った弓構えの形が違います。肘や拳の位置を変えて、その人
の骨格に応じて弓構えを整えるようにします。
2.10 本多流の手の内の整え方と押し方
弓を握るには人差し指を軽く曲げ、親指と中指環指小指の四本で隙間なく弓の握皮を持ちま
す。その形は前膊から手首まで自然に直立に伸し先ず大指を押したままできるだけ前下方に
下げ、その下に中指、薬指、小指の爪先をそろえて曲げこみたる形になります。
このように弓構えで弓を握り、その他に注意すべき点があります。
弓の内側で握りすぎない、形を決めすぎない
弓の内側で握ると、手首に変な力、ねじれがかかってしまいます。この変なねじれは打ち起こ
しで左肩、左肘が突っ張るなどの問題が起こります。そのため、弓は内側より、側面から軽く
作りかけて、手首は柔らかに曲げて懐を作ったほうが良いです。
本多流では正面打ち起こしのため、打ち起こしから引き分けの動作が二段階に分かれていま
す。
そのため、弓と手の内の接触面が弓構えのときとは変わってきます。したがって弓構えのとき
は「手の内を整える」だけで斜面打ち起こしのときのように「手の内を決める」わけにいきませ
ん。
なので、弓を握るときのも、会に入ったときのように固く握ってはいけません。軽く握って包み
込むようにして弓を持ちます。これで、弓構えのときの弓の握りは完了です。
この弓の握りに関する説明は、本多流を習った射手の説明を見ると、あまり詳しく説明されて
いませんでしたが、この軽く握るということについて考えることはとても大切なことです。
この弓構えの段階で手の内を軽く握っておいた状態にし、それを引き分け、会に至るまで、続
け、最後にもうひと押しすることが大切ということを詳しく話した人はおらず、唯一説明してい
る人は教本第二巻にも登場する高木範士でした。
手の内の押しの働きがちゃんと機能するかはこの軽く握ることから始まることを理解するのが
大切です。
弓を押すときは、親指と中指で中押しを生み出す
弓構えで弓を軽く握って、この形を以て打ち起こしを行います。そして、引き分け、会のときの
弓の押し方でこのような教えがあります。
唯中筋を押し拇指の根へ中指の爪先の着くようにし、拇指は中指にかけ、拇指の根元につい
て弓を押すようにすべし
中力(大三以後)は拇指と人差し指の間で弓の正面を押し、中指と親指とで、できた輪の形を
以て、弓に直角の気持ちで押しかけ、拇指の根本で弓の右内側を押しぬくようにします。これ
を中押しといいます。
私はこの手の内を会以降で意識して行ったところ、中押しになっている理由は中指に接する
場所を押すことは丁度腕の真ん中で弓を押しているからだと考えられます。
手の内は拇指と中指で弓を握りそれに薬指小指を添へ拇指の腹が中指の第三関節の所に
懸け、指の間に隙を生じないようにします。
この時、薬指、小指はあまり意識しません。本多流を習ってきた射手の説明をみると、小指、
薬指の説明はあまりされていませんでした。
以上の内容により、適切な手の内を整えることができます。
2.11 取り懸けのときの心得三つ
矢を番えて、右手、左手と同じように対し、懐ろ広くゆるやかに構えたる恰好(弓懐)を取り、取
り懸けを行います。ここでは、本多流の射法書に載っていた取り懸けの内容を説明していきま
す。
第三関節で取り懸ける
取り懸けるとき、四つがけのときは薬指の第三関節(根元近く)、三つがけでは中指の第三関
節で取り懸けます。
拇指の頭を薬指の第三関節(初心者にして三つがけの場合は中指の第三節)の所に、帽子
の先端が外部より少し見える程度に懸け、人差し指と中指は薬指にそろえるように取り懸け
ます。
第三関節に取り懸ける理由があります。それは、指先を握らないためです。
第三関節で取り懸けると、取り懸けの形は握っているというよりも、寝ている親指が弦に引っ
張られるのを人差し指、中指、薬指で受ける形になります。
これを中指、薬指の節を握ろうとすると親指の根っこの部分がかたくなります。そうすると、引
き分けで、握った力により、引き分けでこもった力が離れで出てしまい、はばたく離れになって
しまいます。
手の裏で説明しましたが、取り懸けはかける前に「なるべく楽に」、余計な力、特に指先に過
度に緊張させないように指の整え方を考えます。
懸け口十文字は手首に角度を作らないこと
右手の拳を矢の方向に構え、弦の中関(真ん中)の下から親指と他の指との間に挟んですり
あげて、堅帽子上部から約5ミリ程度筈と間隔を空けて行います。
このとき、手首は内側にも下向きにも曲げません、手首と弦の間で角度を作りません。これを
懸け口十文字と言います。ここで、手首が下向き、内向きにむいてしまうと、手首にこもったひ
ねりが打ち起こしの成否を分けます。
懸け口十文字は「手首を曲げないこと」と解釈してよいでしょう。本多流を習った射手たちは懸
け口十文字を拇指と弦で垂直に合わせることと説明していますが、三つ?のときは大丈夫です
が、四つ?のときは十文字に合わせると手首を変な方向に曲げてしまいます。
なので、外形的な形ではなく、内面を十文字にする気持ちにします。
2.12 弓構えで手首の力みを最大限抜いて弓を握るには
「弓構え」は弓の上成節が体の中心に、弓の元はずを左膝頭に置き、弽で弦を取り懸ける動
作です。「弓構え」は射の活動に移る準備動作です。
かつての達人たちは弓構えはこう説明しています。
右手の「取り懸け」によってはじめて左右が結びつき、弓と矢と体とがひとつのつながりとなる。
これを竹林派では古来陰陽の和合といい、左右両方からよりあうことを主眼としたのである。
~宇野範士~
「取り懸け」によって結びついた左右両腕の形は、丸い輪形でなければならない。輪は和に
通じ、これが和の初めである。~宇野範士~
「弓構え」はゆるやかな円相を主眼とし、弓矢を持ったという固い感じではなく、自分の体の一
部分で体に付随しているものという感じが良い~千葉範士~
すなわち、弓矢も天地の一部分で、天地人と一体になり、人体も大木と見れば、丁度その大
木に良い枝振りの枝がスゥーとできた感じであって、木に竹をついだような、ギコチない感じ
であってはならない。~千葉範士~
弓構えで「古来陰陽の和合」「輪が和に通じる」「自分の体の一部で体に付随している」「大木
に良い枝振りの枝がスゥーとできた感じ」。と書かれていますが、これらの抽象的な文章には、
弓構えで重要な腕の働きが示唆されます。
ここでは、範士の弓構えの説明から、射の技術を向上させる両腕の力の働かせ方を解説して
いきます。
手で握るのではなく、体で握るという体の使い方
まず、千葉範士さんの弓構えの説明です。
「弓矢を持ったという固い感じではなく、自分の体の一部分で体に付随しているものという感じ
が良い」
というのはどういう弓構えの仕方でしょうかこの文章に出てくる。大木を「自分の体」、「枝を自
分の腕」とします。そうした状態で、首の後ろを伸ばし、両肩を落とします。胴づくりを行うこと
で、自然と上半身の無駄な力みがとれます。
このとき人間の体は全身の緊張が緩んでいる状態になり、腕や手首など一部分に力やこりの
ない、どこも滞りのない構えができあがります。
この状態で弓を握るという動作を行うと、当然掌や手首に必要以上に力を入れて弓を握る必
要がありません。掌を丸くして、小さな空間ができるくらいにして、そこに弓を包み込むようにし
てあげると自然と弓を握った形、弓構えの形になります。
指の末端に力を込めないようにし、左の拇指と人差し指との間(虎口)で受ける気持ちで握る
ようにします。
右手も弽(かけ)の帽子を堅く掴まず、指先に力を込めないで、手心(たなごころ=てのひら)
全体で丸みを持たせて、しっかりと軽く、フンワリと取り懸けるのである。~高木範士~
このように、上半身も手先にも力が入らない姿勢で弓を握れば、それは「手で握った」という表
現になるでしょうか。手で握るのなら手に部分的に力を入れて握らないといけません。上記の
ように上半身をゆったりさせて弓を握る運動は見た目、形は弓構えの形になっていますが。
中の筋肉は「握る」という働きをしていません。
この場合、手はただ弓を通しての媒介物にしかなりません。それより、その手首は肘につなが
って、肘は方や脇、胸鎖関節周りの筋肉が働き、それが「肘」「手首」に伝わっているともいえ
ます。つまり、「弓は手で握られているのではなく、もっと手より体の奥の筋肉の働きによって、
握られていると言えます。
つまり、手で握っているのではなく、体で握っていると表現、解釈することができます。
このように、上半身の無駄な力みをとった姿勢から出た両腕には、握る力が働いていません。
その状態で弓が手の中に包み込まれるように位置されているなら、それは手ではなく体で握
っていることになります。そして、この姿勢を構築しているのは、上半身の骨ではなく、地球上
の重力など自然の力が働いたともいえます。
つまり、弓を握っている腕は腕ではなく自然な上半身から生まれたものと解釈され、またその
上半身は自然の力によって生み出されたとも解釈されます。これを自然ではなく「宇宙」や「自
然の力」と表現することもあります。禅の世界では、このように、姿勢や握り方は地球上の自
然の力が作用して生み出されたものと表現することがあります。
人間は物を握るとき、手で握って部分的な力で物を握ることができますが、力も握る動きがわ
からない赤ちゃんでも物を握ることができます。それは手で握っているのではなく、体の中の
筋肉を働かせ、腕、手首を通じて、物を包み込んでいるだけです。
このような考え方は胴造りで上半身の無駄な力みをとることで実現させることができます。
弓構えの陰陽和合の話
陰陽和合の弓構えは尾州竹林の弓術書から来ているものと考えられ、鳥兎のかけ橋と言わ
れています。
左手は鳥、または自然に例えて陽と表現し、右手は兎、月に例えてこれらが合わさるものと説
明しています。
このときの解釈は弓構えのときの手の形からなるべく変えないことがあります。弓構えのとき
に整えた、手の内、執り懸けのときの手首、指の力加減を知ったうえで、これを最後弓を離す
まで力の状態を変えないように弓を押し開きます。
もしここで、左手の鳥が手首をひねったり、ねじったりすると、両拳、両肘を持って、弓を押し
開いていく運動や弓を軽く握って構える動作を左手のみで弓を押し開くことになり、陰陽和合
の関係が崩れてしまいます。
陰陽和合の弓構えとは、片側の手や肘を持って弓を開くことがないよう。お互いの力を持って
弓を押し開くための準備の動作ともいえます。
このとき、上半身の力みをとるだけではなく、少し両肩を前方に送るようにすれば、なお、弓構
えの形は完成され、理にかなったものになります。
肘のところを後ろ外へ、内からわずかにひねる心持ちでひねり伸ばすようにし、両肩は上が
らぬようにして、肩甲骨を開いて側方下で前方へ押し下げるように締めるのである。~高木
範士~
このように、弓構えでのあいまいな内容をしっかり理解し、両腕の状態を整え、手の形を変え
ないことで、体に負担なくスムーズに弓を押し開くことができます。
2.13 打ち起こし以後の動作を適切に行うための懸け口十文字の理解を
深める
取り懸けたときに、右手首が曲がらず、懸け帽子(親指)と弦とで十文字になることを「懸口十
文字」といいます。懸口十文字が整うと、大三で弦が妻手にうまくからみ、引き分けで右ひじを
真横に動かしやすくなります。その結果、引き分けで矢の方向に力を働かせることができ、離
れがきれいになります。
この言葉は教本第一巻に乗っていましたが、その詳しい内容は書かれていませんでした。こ
こでは、懸け口の詳しい説明を範士の言葉を引用して解説していきます。
弦とかけ溝を十文字にするには
懸け口十文字は斜面打ち起こしが主である日置流の書に多く引用されています。尾州竹林で
は「受け懸け」とも表現されます。懸け口十文字に妻手を整えるには、最初の弓構えの動作を
整える必要があります。 そして、手首と弦の間に角度を作らないようにするために、以下の
ように動作を行います。
取り懸けをするときに、矢筈より数センチ下にかけ溝を当てます。そして、一度取り懸けの形
を作り(懸け結び)、完成したらその形を維持して上に擦り上げます。
三つ弽で取り懸けをする場合、矢筈の下三、四寸(約10センチ)のところで拇指の腹を弦に
十文字(直角)に当て静かに筈のところまで摺り上げ拇指の付根を軽く曲げ~浦上範士~
右手にて矢筈の十センチ下のところで、弦に右手の拇指を一文字(弦と十文字)に懸け、その
拇指の頭を中指の第三関節辺にて軽く押さえ、人差し指は中指にとり添える程度にあるかい、
懸け結びを行う。
・・・・静かに弦を伝って右手を擦り上げ、拇指に矢の触れんとする辺として止め、さらに懸け
結びの状態を整える。~富田範士~
このとき、「右手首は曲がらないこと」「人差し指には力を入れないこと」「矢のつがえる場所は
懸け溝中心付近にする」「はずのつける場所は握り革の上部約 1 センチ程度開ける」ことを心
がけます。
多くの人は弓構えで弓懐を作った後に、取り懸けを行おうとします。すると、右手首を曲げて
取り懸けをします。手首を内側にひねって、弦とかけ溝をからませます。このように、手首をひ
ねると右ひじが上に上がりやすくなります。その結果、打ち起こしが肩が上がりやすくなり、高
く上げることができません。
そのため、取り懸けで手首をひねったり力を入れたりしないようにします。これにより、右ひじ
や肩に変な力が入ることがありません。さらに大三で弦と親指が十字の形のままからみます。
これにより、引き分けで右ひじを後方にひきつけやすくなります。
懸け口十文字を保たなくてはいけない理由
懸け口十文字は引き分けを適切に行うために必要な動作です。あなたが、矢を正確に狙った
方向に放ちたいのであれば、親指と弦の十文字は形を崩さず射を行わなければいけません。
その理由は親指が弦と十文字がずれると矢が動くからです。具体的には親指が下に向きす
ぎると筈がこぼれて失をします。
取り懸けで右拳の構造が壊れてしまい、大三から引き分けに入ると中指と人差し指に必要以
上に力をかけたとします。すると、親指は中指に押さえつけられる力が増大してしまい、親指
が下に向きます。すると、親指が矢筈を押す形になり、筈が溝からこぼれてしまいます。
あるいは、指先で取り懸けたとします。すると、大三で引くときに、つまむように弦をつかんで
しまい、手首が上に向いたとします。すると、親指が上に向く形になります。すると、親指が矢
の箆を下から押し上げる形になり、矢口が開きます。
この他に引き分けで手首を内側にひねりすぎると矢の箆を横方向に力をかける形になります。
すると、矢が湾曲してしまい、「箆押し」になります。
三つ弽でもまた四つ弽でも引き始めから離れに至るまでの、弦の懸口(かけぐち)の十文字
を崩さぬことが肝要で、引き絞っていくうちにこれが崩れると、筈こぼれしたり(拇指を下方に
抑えるため)、矢口が開いたり(拇指が上がるため)。、矢枕が落ちたり(拇指にかける二指又
は三指に力が加わり過ぎるため)して射が失敗に終わることがある。~浦上範士~
このように右手首と弦の間に角度をつくらない教えを「懸口十文字」と呼ばれます。親指と弦
の十文字の関係が崩れると矢にあらゆる悪い影響を与えます。
2.14 弓構えで行う弦調べを正確に行うには
弓構えで取り懸けをする前に、自分の弓の弦と、的に目視する「弦しらべ」を行います。弦調
べの考え方は多岐にわたり、知っておくだけでも射の内容の理解を深めることができます。
ここでは、弦しらべの意義や意味を解説していきます。
弦の元弭と裏弭にまつる神を敬う
古来、弓の元弭と裏弭には「神」が宿ると言われてきました。そのため、矢渡しでは、弓の元
弭と裏弭を目線で確認をとっていました。
現在では、作法の基準が変わり、元弭、裏弭まで目線を映しません。そのため、2015年の
段階では、昔の歴史を理解するだけで問題ないと言えます。とはいっても、何かしらの動きで、
弦しらべの基準が変わることもあります。
「取り懸け」をする前に弦しらべを行うが、信仰方向からいえば、天理の神を礼拝する行いで
ある。上下の鏑藤(かぶらどう)は天地の神を祀ってあり、矢摺藤は自分の守本尊の宿るとこ
ろと考えられている。
第一に天神を拝し、次に地神を敬し、第三に守本尊を念じ、次に箆(の)を見るのは、現在の
自分を省みるのである。そして、「板付け」から的という彼岸の希望に眼を移すのは、すべて
動作や心を疎かにせぬためである。~千葉範士~
上下の鏑藤を確認するときは上を向くときにアゴがあがっていたり、下に向くときに首がうつ
むいたり首が動かないようにしましょう。それにより、見た目姿勢が整ったまま弦しらべを行う
ことができます。
弦調べの方法としては、首をあまり動かさず、眼仕いだけで、矢筈のところから、上の鏑藤、
下の鏑藤、矢筈のところに戻って・・・・~千葉範士~
次に体配にかかわる目の動きです。矢に目線を映すときは、「矢筈」「箆」「矢先」「的」といっ
た具合に「箆」と「矢先」にも目線を配ることが大切です。つまり、しっかり見るべきところを見て
矢を通して的を見るということです。
この理由は、矢筈の確認のときは首が動きます。意識して行わないと動作が早くなりがちで
あり、また呼吸の意識も薄れやすいからです。範士の先生が矢渡しで弦調べを行っている姿
を見れば、矢に目線を映すときに一か所一か所を確認して行っていることがわかります。
しっかり、胴づくりで背中から項まで縦方向に伸ばし、つながった筋肉の状態を作ったのに的
を見るときに「くるっ」と顔を回転させるのではなく、矢の端から端まで確認するように弦調べ
の動作を行いましょう。
矢筈のところから上に移って上の鏑藤に至ってちょっととどめ、(きわめて瞬間)、静かに下に
下りて下の鏑藤でとどめ、更に矢筈のところに戻ってとどめ、箆に沿うて矢先に至ってちょっ
ととどめ、矢先を通して的に眼を移す。~千葉範士~
以上のことを理解すれば、落ち着いて弦調べを行うことができ、姿勢が崩れずに射の動作に
移ることができます。
2.15 取り懸けでの手首の使い方
取り懸けは弦の押される力を受け取るために拳の形を作る動作です。そのため、弓構えでし
っかり形を作ることが大切です。
しかし、ここでわからない場合、取り懸けをただ指と指をそろえるだけで終わってしまいます。
すると、大三から引き分けに入って弦に引かれたときに右拳の構造が壊れてしまいます。そ
の結果、離れが緩んだり拳が前に出てしまったりします。
そこで、取り懸けでの指の整え方をまず範士の先生のやり方からまねることが先決です。そ
れにより、拳の構造が壊れにくくなり、弦の荷重をしっかり受け取ることができます。ここでは、
取り懸けでの弦の押しが安定する右拳の作り方について解説していきます。
小指、薬指を巻き込み、腕と拳が一体になった取り懸けを理解する
弓構えでは、弓懐を取ります。ここで、腕が前方に動きます。ここで少し動かし方を変えると、
取り懸けで変に右手首が曲がりにくい構造を作ることができます。
それは、小指と薬指を巻き込むように動かすのです。弓懐で適度に曲がった肘先を外側に張
り出すように、小指薬指を外側から中を巻き込むように握ります。
もうすこし説明すると、「拝む」動きを想像してください。拝むとき、手を合わせるとき、人差し指、
中指、薬指、小指、と順に流れるように動き、自分の顔の前に手を持ってくるでしょう。
スポーツで例えると「卓球」でボールを返すとき、フォアハンドで返す時に手首を返すでしょう。
あのように、手首を返す動きに似ています。このように、小指を薬指を巻き込むように取り懸
けると、自然と親指の上に乗ります。
このように、ただ、指を乗せるのではなく、小指薬指など別の指を使って巻き込むように手首
を動かします。薬指を握ると自然と中指が曲がり、さらに巻き込まれます。これにより、親指に
引っ掛けるときに指の第二~第三関節付近に取り懸けることができます。
三つ弽又は諸弽(もろがけ)の場合は右拇指のはらに弦を当て、自然に曲げて、その拇指頭
を中指(付根)の第二と第三関節のあたりでささえ、さらに人さし指をそえる。~千葉範士~
四つ弽の場合は右拇指の第一関節(付根の)をおさえて伸ばし、拇指頭をそとに突っ張って
そのつま先に薬指(付根から)の第三関節のところをかける。中指は薬指にそうてかるく拇指
にかける~宇野範士~
そうして、巻き込むように取り懸けたとき、手首の曲がりが矯正されます。巻き込むように取り
懸けると、右手首の外側、腕の外側が一直線に伸びます。これによって、腕と手首が一体に
なった右拳が完成します。この状態で引き分けを行うと、右手首が曲がりにくくなるため、矢束
一杯に正確に引き収めることができます。
もし、手首と腕が一体になっていなければ、手首と腕は別々に動くようになります。すると、引
き分けで手首が動きすぎてしまい、不要な向きに曲がりやすくなります。その結果、たぐりや
離れがゆるむといった癖が生じる可能性が出てきます。
人差し指、中、薬指の3本を組ませて指つなぎをして一枚と見て、指先から丸く曲げて拇指の
上に薬指の第三関節の曲がり場所が乗る場所が乗るように下筋を伸ばし、三指を上げて懸
ける。~神永範士~
腕関節の尺骨側と手の甲とを少し伸ばすようにし、手首を腕関節のところで、ほんの少し拇
指側に曲げ、拇指はゆがけの帽子の下で幾分反る気持ちでフンワリ伸ばす。~高木範士~
このように、取り懸けは指だけをただ動かすのではなく、小指と薬指を巻き込むように取り懸
けてみましょう。手首が曲がりにくくなり、引き分けを正確に行うことができます。
2.16 手の内で形を決めすぎると、かえって射が悪くなってしまう
手の内の内容は、ある程度指の押さえ方が紹介されているので、基本的な内容を理解し、弓
を握ることができます。そして、練習を行うにつれて、弓の押し動作をしっかり行えるようにな
ってきます。
ただ、手の内の弓の握り方にはひとつ注意点があります。もし、理解していなければ、弓の上
達度にかかわることなので、注意が必要です。ここでは手の内の握り方についての注意点を
範士の言葉を引用して解説していきます。
形にこだわりすぎるとかえって押せなくなってしまう
多くの方は手の内を整えるとき、弓構えのときに整えたものを最後まで形を変えないものと考
えています。この解釈は間違っていませんが、ひとつ注意があります。それは、最初の握る位
置です。
握る位置をいつまでも同じ位置にし続けていると、かえって押し動作ができないことがありま
す。その結果、適切に弓が押せなくなり、離れで左拳がぶれてしまいます。
最初、弓を握るとき、そもそも長いものを握って押すという習慣も経験もない人は「三指をそろ
えましょう」「人差し指と親指の皮を巻き込みましょう」といった教えは大切になります。ひとま
ずこういった指の握り方を覚えることで最初の基準が出来上がります。「
しかし、弓を握ることに慣れ、弓を楽に引けるようになると、楽に押せるようになってきます。す
ると、最初やみくもに弾いていたときの打ち起こしの仕方、大三の仕方から少しずつ自分の体
に合ったスムーズな押し動作を行うようになります。
すると、最初のときと比べて押す方向や角度が変わっていきます。それによって、弓と拳の接
触面、圧力のかかり具合が変わっていきます。すると、弓の握り方もそれによって少し修正を
加えるとさらに押せるようになってきます。
もし、上達するにつれ大三や引き分けの押し動作がうまくなっているのに、手の内だけ初心者
のときと同じような握り方や意識で固定すると、かえって押し動作の邪魔になって左拳がぶれ
る原因となります。そのため、弓の握る位置は少し意識を変えることが大切になってきます。
「正面打ち起こし」でも「斜面打ち起こし」でも、初めに握りを固定することは出来ない。古く「笠
の手の内」といい、何時作られたかわからぬように、弓を押し開くに従って自然に出来あがる
のが良い~宇野範士~
指先に力が入るようなら軽く握ることを心がける
笠の手の内の言葉は、弓の抵抗力によって手の内の整え方を変えるひつようがあると解説し
ています。初心者のように、弓を握りすぎている人の場合はやみくもに基礎を徹底して行いま
す。
しかし、ある程度弓に慣れてきて、押し動作が楽に行えるようになってきたら「三指をそろえる」
「人差し指と親指のまたに皮を巻き込む」動作を意識しすぎて指先に力が入ってしまいます。
これらは、打ち起こし以降の押し動作が少しずつ変わってきたことを表します。そうなってきた
ら、少し意識をとることを考えましょう。その中でおススメなのが、軽く握ることを意識すること
です。
もしも、三指をそろえることを意識しすぎて指先に力がはいるようなら、少しそのことを忘れて、
拳を丸くして軽く握るようにします。すると、引き分けで拳がしっかり収まり、押しやすくなりま
す。意識していたことによってとらわれてしまった場合、一度その意識を薄めることが大切で
す。
左の手の内については第一に心得ることは弓を堅く強く握ってはいけないことである。~高
木範士~
ただ、かといって、好き勝手に握り方を変えるというわけにはいきません。その理由は手の内
は抵抗力によって適する形が変わるからです。もしも、押し動作が楽に行えるようになっても、
その押し方をわかっておらず、また押し動作を変えてしまったら、軽く握ったことによって、押し
動作ができなくなってしまいます。
すると、また適切な手の内の形が変わります。もう一度昔の手の内のように意識を変えた方
が弓返りがさえるかもしれません。このように、弓の抵抗力、押し方、押す方向、自身の力に
よって押し動作のしやすい最初の手の内の整え方がかわってきます。そのため、「軽く握る」
ことにとらわれすぎないようにしましょう。
手の内の適する形は弓の抵抗力によって習熟の度合によって変化します。最初の形にこだ
わりすぎず、時に自分の手の内を見直す必要があります。
2.17 弓の反動力を殺さずに、固く握らないようにするには
範士の先生の説明を見ると、いろんな表現を使って手の内を説明しています。そうした内容を
理解することで、手の内を整え、押し動作を行うことができます。
ただ、こうした説明を聞いても握りすぎてしまったり、大三で左手首をひねりすぎたりしてしま
い、うまく押し動作を行うことが行えない場合があります。
そのため、手の内を整えるときに行き詰ってしまった場合、別の考え方として知っておきたい
手の内の整え方を範士の先生の言葉を引用して解説していきます。
左拳に力が入りすぎたら固く握らないことを心がける
手の内の整え方にはあらゆる教えがあります。例えば、「三指をそろえましょう」「人差し指と
親指の間の皮を巻き込むように大三をとる」といったものです。
ただし、これらの教え方は人によって合う合わないがでてきます。なぜなら、手の内は「押す
方向」「右ひじの位置」「弓」といったあらゆる要素があります。そのため、言葉をそのまま受け
取って行うとかえって押し動作ができないことがあります。
例えば、「人差し指と親指の間の皮を巻き込むように大三をとる」の教えを受けたとします。す
ると女性のように筋力が小さい人が行うと、皮がよじられすぎてかえって手のひらに圧力がか
かりすぎてしまいます。その結果、手の内が控えすぎたり、力が入りすぎたりして押してが押
せなくなってしまいます。
そうした場合、一度言葉のとらわれを取り除く必要があります。ここで、手の内の握りをシンプ
ルに考えて、まず「固く握りすぎない」ことを考えましょう。柔らかく包み込むように弓を握るの
です。
理由は言葉にとらわれて、弓と掌の抵抗が大きくなっているからです。言葉で指や手首の説
明が入ってしまうと、どうしても力を入れたくなってしまいます。そうならないように、軽く握って
手の内のやるべきことを終えるようにしましょう。
その状態で手の甲を丸くするようにすれば、軽く包み込むように弓を優しく握ります。このよう
に、軽く握ることで拳の動きや押し動作がスムーズに行えるようになります。
どこに特に力を入れるというでもなく、全体惣がかりで軽くフンワリ握り~松井範士~
薬指と中指の付け根を離す
手の内で左拳を握りすぎたり詰まってしまったりする人の場合、頭の中で、固く握らないように
しようと思ってもなかなかできないことがあります。
この場合、もう少し具体的に考えることで解決に向かいます。固く握らないと考えてできない
場合は弓と掌の接触面積をおさえることを考えます。
弓と掌の接触面を減らすことで、弓の握りを軽くすることができます。頭で軽く握ろうとわから
ない場合は、弓と掌の間をぶかぶかにする気持ちで手の内を整えましょう。
左手の手の内は、弓と掌との接触面をできるだけ小さくし、しかもシッカリと軽く締まって弓の
働きを最大限に活用できるようにするのが主眼~高木範士~
これにより、大三での押し動作で力みがなくなり、強く握りすぎることもありません。弓の反動
力を殺さず、押し開くことができます。
さらに具体的に話すと、「薬指」「中指」」の付根です。この二か所になるべく当たらないように、
小指と親指を寄せて手の甲を丸くしましょう。この動きに合わせて人差し指を上に向けるよう
に軽く曲げると親指がさらに下に向き、手のひらの中に張します。これを別名、神永範士の実
践していた「三角の手の内」とも呼ばれます。
「手の内」の整え方は、私は三角の手の内といっている。左手の拇指と小指とを接近させると、
人差し指との間に三脚の形ができる。~神永範士~
中指以下の三指を指先をそろえて一枚とし、指先から曲げて拇指と組ませる。中指、薬指と
弓との間にやや空間ができるようになる。この空間は弓返りの際、手の内に反動がこないで
冴えるのである。~神永範士~
三指をそろえるときに、掌が少し丸くなり、薬指と中指の根っこの部分が弓と当たらないように
なります。この部分が離れると、弓の圧力がなくなり、軽く握るように手の内の押し動作を行う
ことができます。
人差し指は少し曲げて上に向ける理由は親指の付根の筋肉が下にしまりやすくなるからです。
これにより、手のひらが小さくなって、かつ弓に接触の少ない理想の手の内が完成します。
人差し指は根本の関節を固くせず、強く真っ直ぐに伸ばさず、充分に湾曲させてフンワリとさ
せると、拇指の付根の筋肉が下に締まりやすくなり、人差し指の付婚の骨が柔らかく逃げ、
角見の働きを助長する。~高木範士
慣れてきたら中指と親指しか意識しないようにする
これは、上級者のレベルになりますが、手の内で指を整えるときに、最小限の意識だけで済
ませる方法があります。それは、中指と親指だけ意識することです。
手の内を整えるとき、中指と親指でわっかを作るように意識し、他の二指には何も工作を入れ
ないことです。これは、本多流の射法に乗っている手の内の方法でもあります。
弓を握るにも拇指と中指の二本で軽く握り、他の無名指と小指の二指は、無心に添付した程
度の握り方がよいと握り方を愚考する~鈴木範士~
ただ、拇指と中指で輪を作って軽く握り、他の無名指・小指はただ弓に巻き付けておくだけで
一切の工作をやらないから~祝部範士~
引き分けのときに中指が少しずつ締り、離れのときの弦が返ると同時に中指が的方向に動き
ます。このときに起きる回転運動で弦は返ります。中指が一番弓の位置から動きます。その
ため、中指の動きだけ大事にすることで、離れ強く、弱い弓でも握りのずり落ちることのない
手の内が完成します。
ただ、このやり方は注意が必要です。それは、小指薬指を意識しないことにより、拳の構造が
壊れてしまうからです。意識することが少なくなるため、楽にはなりますが、手の内の構造が
崩れて、的をはずしていることに気がつかないことがあります。
さらに、この手の内は大三、引き分けでしっかり左右対称に胴づくりが整って押せていないと
小指薬指が手のひらで動いてしまいます。そのため、初心者や手の内を改善したい人にはあ
まりお勧めできないものであり、さらに上を目指したい人に試してみるひとつの案としてとらえ
ておくのが大切です。
手の内は言葉や説明にとらわれるとかえって押し動作がしにくくなることがあります。その場
合、手のひらと弓との接触面を小さくし、固く握りすぎないように心がけましょう。
2.18 浦上範士の紅葉重ねの手の内を分析する
手の内の整え方はいろんな名前のついた方法がありますが、有名なもので「紅葉重ね」の手
の内があります。
紅葉重ねの手の内は日置流の手の内の整え方です。打ち起こしの仕方が正面と斜面の2種
類あった時代、斜面打ち起こしを主体としていた日置流でこの紅葉重ねが使われていました。
理解することで、正確に弓を押せるようになり、的中率を向上させることができます。
ここでは、紅葉重ねの手の内の行い方を解説していきます。
紅葉重ねの手の内の手順
紅葉重ねの手の内は有名であり、数々の書籍で指の整え方が紹介されています。ここでは、
その指の整え方を紹介します。
①左の拇指と人差し指の又の中心(虎口)を、弓の内竹の左三分右七分のところに当てる。
②握り革上部より五分(1。5cm)位下に当てる。
③一寸位弓を押し開く
斜面打ち起こしのため、③のように少し弓を押し開いた状態で打ち起こしをします。この押し
動作を行うときに、大切なのは、人差し指と親指の皮を巻き込ませる動作です。以下に③の
押し動作の手順を写真に合わせて解説します。
まず、親指と人差し指の間を軽く、丸くなるように開いてください。そうすると人差し指と親指の
間に皮ができます。
次に人差し指と親指の間を弓の内竹左3分のところに当てます。このとき親指の位置は上部
より1.5cm 位下にあてます。
そして、約三センチくらい弓を押し開いてください。すると、人差し指と親指の股の皮が押し開
いたと同時に内に巻き込まれます。このとき、小指を親指に寄せるようにすると、この巻き込
み動作が行いやすくなります。
このように、親指の第二関節辺りの骨の出っ張っている部分(角)が初めは位置から変化しま
す。股の皮が巻きこまれ、親指の内側も巻き込まれるため、自然にこの骨の出っ張った部分
(角)が立ってきます。その結果、最初の位置よりほんの少し上に上がるような形になります。
このとき、手の内の力が拇指根ではなく、掌の真ん中にくるようになります。このときに、親指
と人差し指の間の皮が上に滑り出たり、親指を滑りこましたりしないようにすることが大切です。
この紅葉重ねの手の内は正面打ち起こしの応用例も紹介されています。それは、打ち起こし
から大三に移動させるときの親指の動かし方です。手の内で拇指を軽く中指の上に当てるよ
うにします。次に、大三に移行するときに、三指は動かさずに拇指だけ滑らすようにします。そ
うして、拇指の付根の皮が内側に巻き込まれるようにします。
拳を少し立てて一寸位弓を押し開く。このとき、二指の股のところの皮を手のひらのうちに巻
き込むようにし、左手の指を一先ずみな小指を拇指に近づけながらその第三関節で外竹の
右角を握りしめ~浦上範士~
紅葉重ねの手の内を正面打ち起こしに応用するには・・・・拇指を軽く中指の上にのせ、「打ち
起こし」から「引き分け」に移る際に、中指以下の三指は動かさずに拇指だけ滑らしながら、拇
指の付根の皮が内に巻き込まれるようにし拇指と小指で弓を締めるのである~浦上範士~
以上の内容を理解することで、紅葉重ねの手の内が完成します。
2.19 物見で心がけることを理解する
取り懸け、手の内が終わったら、次に物見を定めます。物見を定めるとは動作では顔を的方
向に向ける動作です。
物見動作は不正がよく出る動作です。顔が前や後ろに傾きすぎたり、顎が浮きすぎたり、いろ
いろとセーブするのが難しいです。
そのため、射における物見で注意すべき点を整理し、理解しておく必要があります。ここでは、
射を行う上で物見の注意点を解説していきます。
少し顎を引く気持ちでうつむく
まず、物見では、顔が前や後ろに傾きすぎず、顎が浮きすぎず引きすぎずしないようにします。
頭が的の方へ屈まぬよう、反対にアゴを突き出して仰向かないよう、体の前方に傾かないよ
う、後方に反らぬよう、正しくおさまることが肝要である。~高木範士~
頭の位置は正しく左にならえの形でアゴはことさらに引かず照らず~千葉範士~
頭はまっすぐにして付したり仰いだりしないように心がけるべきで、項の毛が二、三本引きつ
けるようにせよといっている~浦上範士~
顎は的方向に浮きすぎたり、うつむきすぎたりしないように、少し引く気持ちでうつむきましょう。
このとき、ただ顎を引くのではなく、首の後ろの筋肉を伸ばしながら、静に引くようにすると上
半身をまっすぐに保ちながら顔を向けることができます。これによって的に対して首が屈みす
ぎたり、反対に反ったりするのを防ぎます。
半眼にする
的を見るときは、なるべく眼に力を入れないような気持ちで眼を半分だけ開けて、的を見ます。
眼を半分だけ開けていると、眼に必要以上の力が入りません。ボンヤリ的を見る気持ちです。
眼に力が入りすぎると顔が動きやすくなります。物見を的を見ることよりもしっかりと首を的方
向に向けることに集中できます。
眼でものを見るという気持ちでなく、顔の向いた方向に眼を置く感じで、的は心眼で見るので
あって、すでに三味の境に入り、無表情となり、その境涯がよくなるのである。~神永範士~
眼づかいは目を開いて睨むように的を見るのではない。的を見ると当て気が出て、おそれ気
になり、無心のねらいにならない。そこで自分の視野に的が入るという感じで眼へ的を移す
気持ちである。~千葉範士~
的を見る手順は目を箆→矢崎→的の順番に眼に通していく。
いきなり的を見ると、首をねじる運動となるので、打ち起こし以降で頭持ち(左方に向けた頭
の向き具合)が変わる危険があります。的を見るときも、箆を見て矢先を見て的を見て早すぎ
ず、ゆったりと顔を向けるようにしましょう。
物見を定める方法は「取り懸け」のところから箆にそうて、眼づかいを矢先に移し、更に的を
見る。~千葉範士~
以上の内容を理解することで、物見動作を適切に行うことができます。
2.20 上半身の姿勢を崩さずに、物見を行うには
物見は、射において細かい不正が出やすい動作です。顔が前後に傾いたり顎がうきすぎずう
つむきすぎないように、顔をまっすぐに向ける必要があります。これにより、ねらい目と胴づく
りが崩れにくくなり、矢は狙った方向に飛ぶようになります。
ここでは、顔を的方向に正確に向ける方法を範士の先生の言葉を引用して説明していきます。
人に呼ばれたときにぱっと後ろに振り向くように顔を向ける
誰かに呼ばれたときにぱっと後ろを振り返るでしょう。そのときの顔の向け方は自然であり、
生理的に負担がありません。このように、自然に自分にとって振り向きやすい位置まで顔を向
けるようにすると、不要に首が曲がりにくくなります。
顔を向けるときに、心の中で誰かに呼ばれて振り向いたときをイメージしながら、すっと顔を向
けるとそれが自然と物見になります。
的を見るときの頭持ちは、古歌に「頭持ちとは やよとて人の呼ぶときに 射ると答えて見向く
姿よ」
とある如く、人に呼ばれて左に振り向いたときの顔の位置が、一番横向きの自然の形である
から、この向き方で的を見定めて射を行えと教えている。~浦上範士~
「鼻」「鼻筋」「左鎖骨のくぼみ」など、体の一部を基準に顔を向ける
顔を向けるときに、自分の中に基準を作るとわかりやすいです。その中で基準としやすい部
位が「鼻」です。
鼻の位置を自分で知って、その位置に右耳が来るように向けましょう。これにより、顔を向け
すぎないようになります。何か基準を自分の中に作ることで、毎回の物見がずれなくなります。
あるいは顔を向けた後の「鼻」を基準にすることもできます。向けた後の鼻筋がちょうど的の
中間の位置に置くようにします。こうすれば、頭持ちが前や後ろに傾きすぎることはありませ
ん。
小笠原流の射法の説明では、「左肩の鎖骨のくぼみ」を基準とします。鎖骨のくぼみに顎が出
る程度に向けと、顔が前後に傾かずに物見を行えます。なお、体格や骨格によって、多少基
準からずれることも考える必要があります。
作意なき自然の物見を尊ぶ。その形は鼻のあった場所へ、右耳を置き換える位置がよい~
富田範士~
だいたいの基準としては鎖骨のくぼみに顎が出る程度にし、鼻筋で的を半分に割る気持ちが
よい。こうすれば、頭持ちが照ったり(後ろに倒れること)伏したりせず、まっすぐになる。~宇
野範士~
日置流の射法説明では、右目を基準とします。右目が的の真ん中に来るように顔を向けます。
これを目尻目頭という教えといわれ、右目を目頭と称し、適切な頭持ちの保持の方法として説
明されます。
的の見る眼は、日置流では目尻・目頭といって左眼の瞳は目尻に、右眼の瞳は目頭にある
のを定めとしている~浦上範士~
以上の内容を理解し、実践することで、顔が前後左右に傾かない物見を行うことができます。
第三章 弓構えから、射癖や射型の乱れを改善する
3.1 取り懸けでの指の位置を間違うと、早気やゆるみ離れになる
多くの人は弓道の射癖はみな、自分の心のもんだいであって、厳しい修行をしないと、直らな
いと考えがちです。しかし、いくら自分が心の中で思っていても、構え方を間違えると、射癖は
出てしまいます。
特に取り懸けの仕方は注意が必要です。たかが指の整え方で射癖が出ることがないと多くの
人は思うでしょう。しかし、実際は指の位置を少しでも間違えると、早気やゆるみ離れになりや
すくなります。
ここでは、取り懸けの指の位置の不正によって生じる早気やゆるみ離れの原因と対策を解説
していきます。
指先近くで取り懸けると早気やゆるみ離れになりやすい
多くの人は「早気」「ゆるみ離れ」が出ると、引き分けや大三の中に原因があると考えます。し
かし、いくら、引き方を変えても取り懸けが変わらなければ、早気やゆるみ離れは直すことが
できなくなります。
取り懸けの仕方を間違えると、弦の力が指先や手首にかかってしまうからです。では、早気や
ゆるみ離れになりやすい取り懸けとはどういうものでしょうか?
それは、第一関節付近で取り懸ける取り懸けです。つまり、指先近くで取り懸けると早気やゆ
るみ離れにつながります。
理由は指の第一関節で取り懸けると指先に負荷がかかりすぎるからです。第一関節で取り懸
けると引き分けで弦の力、荷重が指先に集中します。
そうすると、その力みが手首に伝わり、手首に無駄な力みが出てきます。中指先で親指を抑
え込むようにすると、さらに手首周りも緊張します。この無駄な力みによって、手首は曲がって
たぐりになります。
指先には多くの神経が集まっています。熱い、寒い、そういった感覚を感じ取りやすいのも指
先です。つまり、指先はそれだけ敏感です。ここに負荷をかけると、手首にも力が集中し、肘
や腕の裏側の筋肉を感じることができなくなります。
すると、引き分けが小さくなり、押手も妻手も安定した位置まで引きこむことができません。こ
のため、早気やゆるみ離れになってしまいます。
本当に指先近くで取り懸けると離しやすいのか?
ただ、そうはいっても、取り懸けはなるべく浅くするように指導する人もいます。この理由、第
一関節付近で取り懸けたほうが拳を弦から離しやすいからです。
浅く取り懸けると、懸け帽子と中指の接触面が少なくなります。この接触面がなくなれば、弦
は懸け溝から取れて放すことができます。この接触面が少ないほど、引っ掛かりなく離れを出
すことができます。
極端な例でいうと、指三本を懸け帽子に当てるのと、指一本を懸け帽子に当てるのでは、指
一本の方が懸け帽子との接触面積が小さく、それを離せば弦が飛びます。つまり、三本に比
べて離れは出しやすくなります。
しかし、逆に言うと、接触面積が小さくなるということはそれだけ、接触している部分にかかる
圧力が大きくなるということです。指先と懸け帽子で握ると、接触面積は小さくなりますが、そ
の分当たっている部分で弓の荷重を受けなくてはいけません。
つまり、それだけ力みやすくなるということも理解しなければいけません。引き分けで力みや
すく、離れが出しやすくなるため、より引き分けで早く出したくなります。つまり、会の時間が短
くなってしまうのです。
指先に力がかかり、手首がたぐると引き分けのときに肘が後方に回りずらくなり、引きも小さく
なってしまいます。そして、それが引きの小ささを生み出し、前離れなどの合併癖を及ぼしま
す。
単純に離れを良くしたいと考え、取懸けを浅くする人がたくさんいます。ただ、射法は全体で
考えないといけません。離れをよくしようと浅く取懸けると、指先に負荷がかかりやすくなり、
別の射癖が出やすくなります。
このように、指先近くで浅く取り懸けると力みやすくなり、早気やゆるみ離れにつながります。
浅い方が弦を出しやすいといっても、それだけ指先に圧力が集中することを理解する必要が
あります。
3.2 天文筋に弓を当てると、左の押し手の力を弱めてしまう
みなさんは弓を引いているとき、左手で握りすぎて、左手にマメを作ったことはありません
か?これは、左拳を握りすぎていることを現します。
大三をとるときに異常に「ギリギリギリ・・・」と弓と手がこすれる音が強い人、またそこで動作
が遅くなってしまう人は拳を握りすぎています。すると、左拳の力みが左腕に伝わって、引き
分けで押し手の力がなくなります。
この握りすぎるクセは実は教本の言葉や説明を真に受けてかかってしまうこともあります。こ
こでは、左拳を握りすぎてしまう原因と対策を考えていきます。
天文筋に弓を当てると手の内を握りすぎてしまう。
初心者、経験者ともに手の内を握りすぎてしまうのは意識的な問題ではなく、自分で握りすぎ
ている拳の整え方をしている可能性があります。
その中の一つに「弓構えで天文筋に弓を当てること」です。
実は弓構えの段階で天文筋に弓の左側を当てていると悪く働く場合があります。
「天文筋に弓の左側に当てる」ことは間違っていません。ただ、正確に言うと、引き分けの最
終形で当たっていなければいけません。
正面打ち起こしでは、打ち起こしから引き分けに移るとき、左拳が大きく動きます。つまり、拳
の中に入れた弓は弓構えで整えた位置から動きます。
弓構えで天文筋に弓を当てたとして、打ち起こしでは横の力はかからないため、天文筋に当
てた弓はそのままです。しかし、大三に移ると左手は的方向に動きます。つまり、弓は左手の
中にさらに入るような状態になります。
もし、弓構えで天文筋に弓をそろえていたら、弓がより手の中で食い込んでしまうため、左手
は握ってしまいます。これが、手の内で握りしめてしまう一つの要因です。
確かに、弓を握ったことのない初心者が最初に弓を握るときの基準を作る上では「天文筋に
弓を合わせよう」と教えることは大切です。ただ、弓を引くことになれてくると、打ち起こしの上
げ方、から引き分けまでうまくなっていきます。
すると、中の弓が動いているときの拳の取り扱いも慣れてきます。もしも、ここで天文筋に合
わせることにとらわれていたら、逆に動きが悪くなってしまい、射の構造を壊してしまうもとに
なります。
つまり、弓を引いてある年月がたった人が左拳に力が入りすぎている場合、弓構えで天文筋
に整えていて本当に大丈夫かを検討する必要があります。
このように、天文筋に弓を当てると左拳を握りすぎる可能性があります。そのため、弓構えの
段階で弓と手の整え方を変えないといけません。
3.3 正面紅葉重ねの手の内で左拳の握りすぎる癖を解消する
よく、引き分けに入ったときに、左腕が突っ張ってしまう人はいます。この理由の一つに左拳
を握りすぎていることが挙げられます。
そして、弓構えで弓を天文筋に当てていると、左拳を締めすぎる可能性があります。なぜな
ら、正面打ち起こしは打ち起こしから、大三で拳が大きく移動し、手の中にある弓が動いてし
まうからです。
そのため、左手を握ってしまう人は弓構えでの弓の握り方を変える必要があります。ここで
は、左拳の握りすぎを解消する、正面紅葉重ねの手の内の整え方を例に解説していきます。
正面での紅葉重ねの手の内を理解する
大三、引き分けで左拳を握りすぎる問題を解消する整え方が、「正面打ち起こしでの紅葉重
ねの手の内」です。これは、通常の手の内と弓の左側を当てる位置が少し違っていて、天文
筋ではなく、小指の付け根に弓が当たるように手の内を整えます。
この位置で整えると、弓構えでは弓の左側は小指の付け根当たりにあたっていますが、大三
で弓手を動かすと、左手が移動するうちに弓の左側が自然とスライドし、天文筋に当たりま
す。
これにより、今まで握りすぎていた左拳が大三で弓がすっぽり左手の中に納まる形となるた
め、握りに余裕が出ます。その結果、引き分けでの押しが強くなり、会が安定します。
この手の内は親指根と弓の間が広くなるため、大三でより親指を入れやすくなります。このた
め、押しが人差し指と親指の間で押せていない「控え気味」の手の内になる人の対策にもなり
ます。
全ての人が「正面打ち起こしでの紅葉重ねの手の内」が当てはまるとは限らない
ただ、ここで注意していただきたいことは「正面打ち起こしでの紅葉重ね」はすべての人に当
てはまるわけではありません。
この手の内が合う人は掌が小さい人です。掌が広すぎる人は逆効果になる可能性がありま
す。掌が広すぎる人はこの手の内で引こうとすると、「上押し」になりすぎる可能性がありま
す。
この紅葉重ねの手の内自身、掌や指が小さくて上押しができない人がしやすくするための手
の内の整え方です。拳が大きい人の場合、合わないことが多いです。
掌が大きくて左拳握りすぎている人の場合は、弓構えで弓を普通に天文筋に当てて、小指と
親指をなるたけ寄せるようにします。これにより、弓との接触面積を減らします。
そして、大三はコンパクトに小さくとるようにします。大きくとると弓が天文筋からずれてしまう
ため、小さ目にとるようにします。
そうすると、弓と手がこすれすぎて握りすぎるストレスをなくすことができます。紅葉重ねの手
の内は人によって使える使えないがあるために、使い分ける必要があります。実際に稽古を
してみて、会や押しが安定しているなら、この手の内で稽古を続けると良いでしょう。
大三で左拳を握りすぎると、左腕が突っ張ってしまう可能性があります。そのため、正面紅葉
重ねの手の内より、弓の握る位置を変えて、固く握らないようにすることが大切です。
3.4 手の内での拳の角度がずれると、大三の動作が悪くなる
弓構えでは弓を握り(手の内)弦をひっかけて(取り懸け)自分の体の前面に構えます。そのと
きに、弓と手首の向きによって後の打ち起こしや引き分けに影響を与えることがわかっていま
す。
ここでは、弓構えで起こり得る体の射癖を明らかにし、修正方法を解説していきます。
左手首を外に曲げると大三から押手が弱くなる
円相を取るときに、手首が外に曲がりすぎている人がいます。これは、最初に手首を外に曲
げて伸ばした形にしておいた方が、大三で手の内を入れやすいと思うからです。
この状態で打ち起こすと、手首だけは弓に入りやすくなります。ただ、打ち起こし完了後に左
腕が伸びきった形になりやすいです。すると大三で押し手を動かすと腕全体が突っ張った形
になり、左肩がつまりやすくなります。
そのため、引き分けで左肩が上がりやすくなります。離れで左拳を使って弓を押し切ることが
できず、矢飛びが悪くなります。また、人によっては打ち起こしで腕が前に伸びやすくなり、打
ち起こしは低くなる人もいます。そのため、大三を入れやすくなっても引き分けが小さくなりま
す。
これと逆に、弓構えで手首を内側に向けすぎると大三で拳が入りにくくなります。すると、引き
分けで親指の根本に力がかかりやすくなり、押し手を使って弓を強く押すことができません。
その結果、離れでゆるんでしまい、矢が的からはずれます。
弓構えのときに、手首に角度を作ってしまうと、次の動作がやりやすくなっても、自分の体の
どこかに力みや緊張が出てしまいます。左手首が外に曲がると左肩が力んでしまうため、注
意が必要です。
適切な位置は45度方向に拳を弓に差し込む
そのため、肩や腕に負担の少ない左手首と弓の角度を理解しましょう。このときの理想の位
置は、左腕から左手首を結んだ線が弓と45度に交わる部分です。
人差し指と親指の間に弓を45度の位置に差し込むようにしましょう。なお、弓構えでは左右
対称にとると、打ち起こしで両拳が均等に上がりやすくなるため、右拳も弦と45度の角度に
入るようにします。
人によって多少角度に変動がありますが、だいたい45度付近で取るようにしましょう。する
と、手首に負担が少なくなり、大三で腕も突っ張りにくくなります。
弓構えで手首の向きが外や内に向きすぎていると、次の引き分け動作に悪い影響を及ぼしま
す。手首を弓と弦に対して極端に角度を作らないようにしましょう。
3.5 弓構えで拳の位置を間違えると、胴づくりが崩れる
足踏み、胴造りを完了させると、次に弓構えに移ります。弓構えでは弓を握り(手の内)弦をひ
っかけて(取り懸け)自分の体の前面に構えます。ここで、やり方を間違えると、上半身の姿
勢が崩れたり、体の筋肉が緊張しすぎたりします。
ここでは、弓構えで起こり得る体の射癖を明らかにし、修正方法を解説していきます。
腕が前に出すぎると、屈んだ胴造りになりやすい
円相のとるときに、自分の体より遠いところで円相をとろうとする人がいます。この形で弓構え
をとると姿勢が崩れる可能性があります。
とくに、痩せ型の人は遠く取りすぎると上半身が前に屈みやすくなります。腕が伸ばしすぎる
と、肩や顔も前方に行きすぎるため、上半身がみぞおちから屈みます。
もしも、この状態で打ち起こしをすると、弓と体の距離が多くなりすぎるため、引き分けで弓が
重く感じます。引き分けで大きく胸を割り込むように弓を近付けることができないため、離れが
ゆるみやすくなります。
解決方法としては、円相をとるときに拳は少し自分の体の方に寄せてみましょう。そうすると、
肩周りが少し楽になる感じが出てきます。上半身の上部の負担が軽減されて、背筋が楽にな
ったのを表します。
ただ、太っている人の場合は少し遠くとった方が腕に負担が少ないです。なぜなら、太ってい
る人はお腹周りに脂肪がついているため、もともと姿勢が屈み気味だからです。その場合、自
身の体格に合わせて、最も腕や背中が楽になる弓と体の距離を見つける必要があります。
弓構えにおいて、体と弓との距離が遠すぎると姿勢が前に屈んでしまう恐れがあります。その
場合、弓を少し体に近付けるようにしましょう。腕や背中周りの緊張がほぐれ、体に負担なく
射を行うことができます。
3.6 弓構えで肩の位置が揃うと上半身が力みやすくなる
弓構えでは弓を握り(手の内)弦をひっかけて(取り懸け)自分の体の前面に構えます。そのと
きの両肩の位置が悪いと、次の引き分けに影響を与える可能性があります。
ここでは、弓構えでの両肩の位置によって起こる引き分けへの影響とその解決策を解説して
いきます。
弓構えで肩がそろっていると、引き分けで両肩の位置が崩れる
例えば、両肩の線が上から見て一直線に揃っている人がいます。この姿勢を取っている人は
次の引き分けで失を犯す可能性があります。
それは、引き分けで胸周りが緊張してしまうことです。
引き分けで、両肩が揃っていると、腕の裏側の筋肉の張りがにぶります。そのため、最初の
引き初めで、弓の荷重が胸にかかりやすくなります。すると、右肘が後方に回り込むように引
きこむことができないため、離れが弱くなってしまいます。
両肩は少し斜め前に出すのが理想
弓構えでは肩の位置は「少しななめ前に出ている」位置が理想的です。解剖学的にはこの状
態を「肩甲骨が外方している」と言います。
肩の位置がななめ前の位置に来ていると、肩甲骨が体の前方動くため、脇周りの筋肉が働き
ます。この筋肉を弓構えで働かせおくと、引き分けで主導となって働きやすくなります。する
と、肩が後ろに引けにくくなり、右肘が後ろに回しやすくなります。よって、両肩が引き分けでし
っかり入り、体全体で押し開く形になります。
この引き分けになると、引きが小さくなり、ねらい目もずれやすく、早気、たぐり、あらゆる射癖
にかかる引き方になります。そのため、肩をななめ前方に出すようにします。腕だけでとるの
ではなく、肩周りまで円でつながるように円相をとります。