パラグアイ経済報告(2011年7~8月) 1 概要 (1) 空港の民間委譲法 7月7日,上院本会議において空港の民間委譲法が承認されたが,下院で修正された箇所を含んで いなかったことから,審議のやり直しのため上院憲法調査委員会に改めて送致された。 (2) 国家財政に関する動き 8月30日,ボルダ蔵相が2010/2011年の財政報告を行った。同報告において,安定したマクロ 経済の達成を強調する一方で,歳出増加による2011年の財政赤字の可能性を指摘し,財源確保の 必要性を強調した。 8月31日,政府は2012年予算案を国会に提出した。 (3) 為替・物価 ドル安が続いている対ドル為替相場は,引き続きドル安となり1ドル3,750~3,970グアラニー台 で推移している。 月間インフレ率は,引き続きドル安の影響で輸入消費財の価格が下落したことから6月は▲0.6%, 7月は0.0%と成った。右を受け,第1四半期の累積インフレ率は3.8%となり,過去12ヶ月(2010 年8月~2011年7月)の累積インフレ率は8.7%となった。 (4) 貿易取引額の増加 6月の輸出額は4億8,700万ドル(同18.3%増),輸入額は10億250万ドル(同37.9%増)とな り,貿易収支は▲5億3,800万ドル(前年同期比▲19.6%)であった。 7月の輸出額は5億8,100万ドル(同57.9%増),輸入額は9億6,000万ドル(同27.2%増)と なり,貿易収支額は▲3億7,900万ドル(前年同期比30.7%増)であった。 輸出を牽引したのは採油用の種,食肉,穀物など。一方,輸入を牽引したのは,電子機器類,自動車 など。 2 経済関係の主な動き (1) 財政 ● 大蔵省は,2010年8月15日から2011年7月31日までの予算執行額が17兆8,260億グアラ ニー(予算総額の42%)に達した旨発表した。なお,執行額が低い要因は明らかにされていない。 ● ボルダ蔵相は,財政赤字を埋めるため大豆やとうもろこし等の輸出産品に対する輸出税の導入を 訴えているが,これに対して25日,製造業協会及び生産協会は輸出税の導入に反対を表明した。 一部の経済学者も,農業部門の輸出の障害になるとして導入に反対している。 ● 8月30日,ボルダ蔵相は2010/2011年の財政報告を行った。同報告において,2009年のマ イナス成長から回復を遂げ,安定したマクロ経済が維持されており,税収及び社会支出の割合も 増加している旨明らかにした。一方,個人所得税導入の延期や歳出の拡大に伴い,2011年に財 政赤字になる可能性を示唆し,財源確保の必要性を訴えた。 (2) 2012年予算案 ● 8月31日,政府は2012年予算案を国会に提出した。予算総額は約46兆グアラニー(前年比7. 5%増)であり,中央政府関連予算は約22兆グアラニー(前年比8.0%増),中央政府以外の関 連予算は約24兆グアラニー(前年比7.1%増)である。大統領府予算の大幅な増加等が盛り込 まれ,1.0%(1.1兆グアラニー)の財政赤字が見込まれていることから,公務員(警察,軍隊含 む)の給与を引き上げない旨言及した。また,同予算案においては,経済政策及び社会政策の詳 細が提示された。 (3) 経済指標 ● 5月の月間経済活動指数(IMAEP)は前月比5.2%増,前年同期比5.9%増となった。 ● 6月の IMAEP は前年比▲14.3%,前年同期比5.5%増となった。 ● 8月30日,米格付会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は,マクロ経済の安定及びイタイプ売 電価格の引き上げを背景にパラグアイの長期ソブリン債格付(自国通貨並びに外貨建て)を B+か ら BB-に引き上げた。 ● 統計・国税調査局は2010年世帯調査結果を発表した。失業率は前年比(6.4%)より改善し5. 7%となったが,2011年の第2四半期の失業率は7.1%と悪化した。 (4) 景気予測 ● 7月13日,国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)は,パラグアイの2011年経済成長率 予測を5.7%と発表。主に民間消費の拡大によりプラス成長は維持されるが,15.0%を記録し た前年よりも成長率が大幅に低下すると予測。アルゼンチン,ペルー,ウルグアイ,エクアドル,チ リに続く高成長率の見込み。 ● 8月25日,民間コンサルタント会社プライス・ウォーターハウス・クーパー(PWC)は,パラグアイの 2011年経済成長率を4.8%と予測。7月時点で6.0%と予測していたが,世界経済の後退の影 響により下方修正。2012年の経済成長率はラ・ニーニャ現象に伴う農業部門のマイナス成長予 測(▲0.9%)により,2%と予測。 ● 2011年の経済成長率に関して,中銀は4.5%,BBVA 銀行は5.9%,国際通貨基金(IMF)は6. 7%と予測している。 (5) 海外からの送金・金融政策(金融手形発行) ● 中銀は2011年1-4月期の海外からの送金が494,535百万グアラニー(前年同期比33.3% 増)となった旨発表。ヨーロッパ(スペイン,イタリア等)からの送金は全体の60.5%,米国からの 送金は全体の30%と,欧米諸国からの送金が大部分を占めており,日本からの送金は全体の2. 9%であった。 ● 7月,中銀は公開市場操作の一環として総額2兆2,173億グアラニーの金融手形(IRM)を発行。 1-7月の総計は25兆9,229億グアラニーに達した。 3 国内部門 (1) 空港の民間委譲 ● 7月7日,上院本会議において国内の3空港(Asunción,Chaco,Alto Paraná の空港)の民営化 に関する法案が承認された。しかし,承認された法案は下院で追加された2空港(Pilar 及び Pedro Juan Caballero の空港)を含まないものであったことから,上院本会議による承認が無効と なり,審議のやり直しのため上院憲法調査委員会に改めて送られた。 ● 7月15日,空港の民営化に反対している労働組合は,翌16日からのストライキを実施する旨司法 労働省に通報したが,最終的にストライキを中止した。 (2) 物価 ● 7月の月間インフレ率は0.0%となり,1月から7月の累積インフレ率は3.8%,過去12ヶ月(20 10年8月~2011年7月)の累積インフレ率は8.7%となった。主な物価下落品目は輸入材など。 他方,石油,液化天然ガスなどの燃料価格は上昇傾向となった。また,牛肉,魚など食料品類で 物価上昇が記録されたものの,対ドル為替相場の影響によりオーディオ製品,自動車及び右関連 部品など輸入財価格が下落した。 (3) 農牧畜業 ● 8月2日,パラグアイ畜産国内関連会社 Carpe Diem のコンテナから細菌が検出されたとして,ロ シアは同社の牛肉100トンの輸入を停止した(当館注:1-7月のロシア向け牛肉の輸出は31,3 09トンを記録しており,輸入を停止された100トンは全体の輸出量の0.32%に相当する)。8日, 新たに同関連会社2社(Neuland 社及び Frigochorti 社)のコンテナからサルモネラ菌が検出され たとして,ロシアは同2社の牛肉の輸入を停止した。同日,係る案件に迅速かつ適切に対応しなか ったとして,ルゴ大統領はボバディージャ駐ロシア・パラグアイ大使に帰国を命じた。20日,ロシア 当局は冷凍輸送における牛肉品質管理の強化を要請し,国立家畜品質・衛生事業団 (SENACSA)は品質管理を強化する旨発表。 ● 8月28日,農業専門家は40%の確率で2011/2012年に2008/2009年と同じ規模の干ば つが起きる可能性を指摘し,大豆生産者等に干ばつの対応策を講じるよう求めた。 (4) 商業・投資 ● 7月13日及び14日,台湾企業21社25名から成る企業ミッションがマリアノ・ロケ・アルフォンソ・ エキスポの台湾館を視察し,パラグアイの投資環境を調査した。 ● 8月5日,アルト・パラナ県北部において,カナダの CIC リソースが出資したチタン採掘・加工パイロ ットプラントの開所式が行われた。同開所式には,フランコ副大統領,ボルダ蔵相及びリバス商工 相の他,チタン鉱脈を発見したローウェル CIC リソース社長が出席した。16日,環境庁(SEAM) が環境問題などの観点から採掘の違法性を主張して一時中断させたが,24日には採掘を継続す る方向で合意した。 ● 8月12日,トヨトシ・グループ傘下企業「パラグアイ海運(TFP)」はアスンシオン市タクンブ地区の アグアペ造船所において,同社が120万ドルを投資し建造した川船「タジュ丸(Tajy Maru)(当館 注:Tajy はグアラニー語でラパチョという花の名前を指す)」の進水式を実施した。トヨトシ社長は, 同社が保有する川船3隻のうち,タジュ丸号がパラグアイ国内において全行程が建造された初め ての川船である旨強調し,TFP を通じて今後顧客サービスを一層充実させ,パラグアイの造船業 の発展に貢献したい意向を示した。 (5) エネルギー ● 8月1日,エスコバル石油公社代表は燃料価格の引き下げを発表し,他の小売り業者に対して価 格の引き下げを指示した。右により,レギュラーガソリンは200グアラニー/リットル,ハイオク単 価ガソリンは390グアラニー/リットルそれぞれ引き下げられた。 (6) その他 ● 5月14日に設置されたパラグアイ公共放送局は,8月15日,チャンネル14でアナログ放送を, チャンネル15でデジタル放送を開始した。公共放送局は日本政府から供与されたデジタル放送用 の高品質で最先端技術の設備を有している。これはパラグアイで最初の公共放送となる。 4 対外部門 (1)輸出入 ● 中銀は2011年上半期貿易統計を発表。同期間中の輸出額は27億2,900万ドル(前年同期比1 4.7%増),輸入額は54億ドル(同29.4%増)となった。主要取引相手国はメルコスール諸国で あった。 ● マキラ産業審議会(CNIME)は,2011年8月末日までにおけるマキラ制度を活用した輸出額が1, 130万ドルとなった旨発表した。また,新しい投資案件として総額89万9,000ドルが承認され た。 ● 第1四半期の大豆及び食肉の輸出量は49億3,700万キロ(前年同期比▲11.8%)であった。 (2)対メルコスール関係 ● 2011年上半期の対メルコスール貿易は,輸出12億9,700万ドル(全輸出に占める割合47. 7%),輸入21億6,800万ドル(全輸出に占める割合40.2%)となり,8億7,100万ドルの貿易 赤字となった。取引相手国比率は,輸出はウルグアイ39.7%,亜36.2%,伯24.1%,輸入は 伯64.1%,亜31.8%,ウルグアイ4.1%。 (3)対日関係 ● 8月2日,パラグアイ外務省において平成23年度経済協力政策協議が実施され,渡部大使(当 時),北中 JICA 所長,セシリオ・ペレス・ボルドン公共事業・通信大臣,フアン・エステバン・アギレ 外務副大臣等が出席した。パラグアイ側より社会経済戦略プランの説明がなされた後,日本側よ り,日本の援助基本方針を説明し,双方の間で援助重点分野及び開発課題について協議した。 ● 8月30日,パラグアイ外務省において渡部大使(当時)及びララ・カストロ外相は日本政府による 平成23年度対パラグアイ環境・気候変動対策無償資金協力「コンセプシオン市及びピラール市給 水システム改善計画」にかかる E/N 署名を実施した。
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